今回も咏夢(作者)クオリティーの短文でお届けです。申し訳皆無……。
咏夢は、毎日の鍛練を欠かさない。幼い頃からの記憶にない習慣か、彼女の努力を惜しまない姿勢の延長線かは定かでないが、彼女は今日も励んでいた。
「やっ!……やっ!……や、あっ!?」
札を構え、一枚ずつ木に当てる練習。威勢のいいかけ声だが、指から抜けた三枚目はあらぬところへ飛んで、廊下の柱にびたんと音を立てて貼り付いた。それに驚き飛び退いたのは、様子を見にきた橙と藍姉だ。
「ちょっと、どこ投げてんの!?」
「大丈夫?怪我、してない……?」
「う、うん。私は大丈夫。ちょっと指が滑った……。」
「何やってんの……。」
橙は全力で呆れていた。優希と出会い、このところ弾幕ごっこについて色々と研究しているようだが、まずはこの通常攻撃すらまともに通らない状況をなんとかすべきではないのか、と。
「あ!そうだ橙、一回私と戦ってくれない?」
「はっ?……自分を虐める趣味でもできたの?」
「違うよ!実戦練習!」
まだまだ先の段階だと思うが、別段断る理由もない。前回は少し……ほんの少し油断していたが、もう負けてやるわけはないし、この機会に実力の差を見せつけてやるのも、いいかもしれない。そう考えて橙は、下に降り立つとにやりと笑った。
「分かった。じゃ、上でやろう。」
―――――
「スペルカードは?」
「じゃあ二枚!被弾も二回でやろう。」
「ふうん、オッケー。」
ハンデすら申し入れてこなかった咏夢に、橙はいよいよ本気で終わらせてやろうと考えた。引き分けなんて、あり得ない。特に気にしていなかったはずの屈辱が、記憶の底からじわりと滲む。
「そ、それじゃあ、二人とも気を付けてね!よーい、」
藍姉のかけ声で、さらに上空へ飛び上がる。先んじたのは咏夢の方だった。力強い声で、手には札を握りしめている。
「"封魔陣"!」
彼女にとって数少ないスペルカードのひとつは、無事成功をおさめたようだ。前よりも弾幕らしくなっているのは、特訓の成果なのだろうか。
手の一振りで宙にあった札を払い落としても、咏夢は動揺した様子はなかった。さすがに予想の範疇らしい。
「まあ、この程度よね。」
「この程度だね……よし、次は橙の番!」
「はいはい、死なないでよ。」
橙が妖力弾を撃ち込んでいくと、咏夢は肩の上で切り揃えた黒髪を振り乱しながらも、しっかりと正面を見て避けていく。以前のように声を上げることもなく、全身から感じとろうとする気迫のようなものがあった。
対抗心がふつと刺激され、橙はより一層広く弾幕を展開した。咏夢もそれに追随し、時にくるりと身を回して慣れた飛行で回避を続ける。咏夢の口元に一瞬、笑みが過ったのを見て、橙は思う。
「"鳳凰卵"!」
実力の差を思い知らせてやるべきだ、と。
―――――
「橙ちゃん!怪我とか、大丈夫?」
「いや、咏夢に当てられるわけないでしょ。」
着地した橙が呆れ顔でそう言うと、藍姉は少ししゅんとしたように見える。思いがけないその様子に、慌てて続ける。
「ほ、ほら。私じゃなくて、そっちの心配だけしなよ。」
藍姉の細い腕には、瞳を閉じた咏夢が抱かれている。つい真剣になった橙のスペルカードは、あっという間に被弾二回を越えて、意識を飛ばすまでに至ったというわけである。彼女は何度か身体を揺するが、起きる気配はない。
「大丈夫だよ。昔から、こういうのすぐに治るの。」
「え?……あ、うん。そっか……。」
「部屋に寝かせてくるね。」
藍姉は優しく微笑むと、振り返り歩き始めた。その場に残された橙は、しばらく空を仰いでいた。
(これでよかったんだ。調子に乗る前に、私の実力を見せてやらないといけなかったんだから。)
(心配なんてしてない。避けられないのが悪い。)
(でも、あそこまでする必要があった?)
(藍姉が受け止めていなければ、今頃……)
きゅっと唇を噛み締めた橙は、一人現惣村を後にした。
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