東方陰陽玉   作:咏夢

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魔理沙ちゃんです。

話が進まない、本気でヤバい。


恋符「マスタースパーク」

 光の破片がいつしか消えて、眩しく淡い光に目を細める、一同が最初に見たのは、一風変わった雰囲気の森の木々だった。

 此所がどこか聞こうとする咏夢を、紫が片手で制す。何か危険なのかと、今度はすぐさま武器を抜こうとする彼女に、思わず笑みを溢すも、実質警戒は怠っていない……藍が。

 紫は小さく息を吸って、森の奥に声を響かせた。

 

「魔理沙~。ちょっと来なさ~い。」

 

 数秒経って、森の奥から可愛らしい声と、太陽色の髪が覗いた。ピョコピョコと跳ねてくるおさげが、木漏れ日を受けている。

 

「何だ~。ん、紫じゃねーか?」

「えぇ、皆のアイドル紫ちゃんよ♪って何させるのよ」

「いやお前が勝手にやったんだろ。マジで何の用だよ。」

 

 近づいてきた女の子は、黒いワンピースに白いエプロン。ふわふわした髪が肩に垂れている。この森に住む唯一の人間、霧雨魔理沙だ。

 紫の奇行(?)に細められていた金色の瞳が、咏夢を捉えて、好奇心に見開かれた。

 

「ん、お前は誰だ?何だまた増えたのかよ、巫女……」

「えーと、咏夢です!宜しくお願いします!」

 

 律儀にお辞儀する咏夢に、なかなか好印象を覚えた魔理沙は、にっと笑うと、紫に向き直った。視線で、何の用だと語る。

 

「まぁそう焦らないで頂戴?それに、簡単な事よ。」

「?」

「貴女、ちょっと紅魔館までこの子連れていって。」

「……は?」

 

 明らかにワントーン低くなった声が、半秒遅れて発された。咏夢はといえば、ほぇーいい天気だなぁ、と持ち前のマイペースを取り戻している。

 魔理沙は、暫し考えた後、右手を森の奥に伸ばして、自宅にある箒を呼び寄せた。紫は、それを肯定と受け取って、満足そうに帰って――

 

「おい何帰ろうとしてんだこら。」

「あの私まだ何も聞いてないんですけど。」

「……じゃ、宜しくね」

「「あぁっ!!!」」

 

 魔法使いと巫女、二人きりになった森に、よく通る怒声がぶちまけられた。隣人が一つため息をついた。

 

―――――――

 

「何か……すみません。魔理沙……さん?」

「ん?タメで良いだろ、面倒だし。それと別に気にするなよ。」

 

 アイツを殴る予定が増えただけ、と嘯く魔理沙に、咏夢は苦笑を浮かべる。眼下に広がっていた森はとうに越えて、遠くに霞む地が見えてきた。

 

「あっ!あれが……」

「おう。霧の湖だ。」

 

 ふと、これは落ちたらどうなるんだろう、と考える咏夢。まだ霊力飛行は練習中なので、恐らく真っ逆さまだろう。

 顔を青ざめさせる同行者も露知らず、魔理沙は一時停止して、前傾姿勢をとった。

 

「それじゃ、着地するからな。しっかり掴まってろよ。」

「はぁい。……あれ?」

「どうした?」

「あれって誰かなぁ」

「あー……」

 

 霧の中で動き回る影に、二人は目を凝らした。魔理沙があっと声を上げて、咏夢に振り返った。

 

「もしかすると、チルノの奴かもな。ここら辺に棲んでる妖精なんだが……まぁ、妖精、なんだよなぁ。」

「あー……」

 

 先程の魔理沙と似たような声を出す咏夢に、苦虫を噛み潰したような顔をする魔理沙。

 暫くして、そっと前進し始めた時、恐れていた事態が起こった。

 ぼすっという音を発てて、真下の霧が晴れた。恐る恐る魔理沙が見ると、水色の髪に青いワンピース、紛れもなく氷の妖精の物である、クリスタルのような羽。

 

「……あー、チルノ?」

「ふっふっふっ。わかってるのよ!あたいをおびえているんでしょ!」

「怖れている、かな……?ていうかチルノちゃんダメだよ~」

「このむとどきもの!せーばいしてくれる!」

「ったく、今度は何を覚えたんだか……。」

「すみません~。」

 

 若葉色をした髪の妖精が、半泣きでペコペコしている。氷の妖精、チルノは悪びれる様子も無い。

 咏夢も、妖精のイタズラ好きな性格はよくよく知っているので、魔理沙が遭いたくなかったのも分かる。

 

「きょうはこっちから!"アイシクルフォール"!」

「~……逃げるぞ!」

「了解っ!」

 

 咏夢がぎゅっと腕を回すやいなや、魔理沙は先程の二倍ものスピードで霧の中へと突っ込んだ。後ろから、氷の礫が飛んできて、うなじを叩く。

 後ろからしつこく追いかけてくる阿呆に、怒鳴ってやりたいのを我慢して、咏夢はより一層魔理沙に体を近づけた。

 

―――――――

 

「ああぁーっ!!!拉致が空かねえよいつまで追っかけて来るんだよっ!!!」

「……。」

 

 箒を飛ばしまくる事、十数分。もう同情の余地は一切無いとみていいだろう。魔理沙は、箒を停めると立ち上がった。この時点で、咏夢の理解の範疇はとうに越えていた(何しろあの細い棒の上に立っているのだ)が、もうどうでもいいや、と口をつぐむばかりだった。

 

 魔理沙は、ポケットを漁った。久しぶりに、苛立ちしか覚えないこの感覚を、今更落ち着けと言う方が無理な話だろう。

 

「どうなっても知らないからな。覚悟しろよ……!」

 

 長年の相棒に優しく魔法を、悪き相手に狙いを定め、放つは――全てを焦がし尽くす、恋の魔砲。

 

「"マスター……スパーク"ッ!!!」

 

 一瞬の溜めが、冷気を撃ち焦がすレーザーを生み出した。隣にいた妖精も巻き添えにはなったが、もう何も言えないだろう。魔理沙は、一つ息を吐くと、ひょいと箒に跨がった。無言で加速を再開する。

 

 美しく、瞼に焼きつく光。これが闘いであり、幻想郷なのだと、咏夢は息を呑んだ。本当の弾幕ごっこを、思ったより早く目にしたな、と。

 

 しかし、彼女達が向かっているのは、今まさに荒ぶる、悪魔の館なのだ。

 こんな生易しいものを、闘いと呼ぶには、少し早すぎるようにも思えた――。

 

 




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