紅く妖しく美しい。
その瞳に惹かれ、導かれて、集まった者達。
秘めた本能を燃やし続ける、中国風の妖怪。
人ならぬ手で育てられた、時空のメイド長。
完璧なる才能を持った、日陰の魔法少女。
そして、悪魔の妹として、対にも類にも成りえる、
血の色の瞳を狂わせた幼女――。
――――――
「……お嬢様、本当に……」
「何を今更言うのよ。美鈴は仕事を成し遂げたわ、それでいい。」
ふかふかした肘掛け椅子に座りながら、片目をチラリと開けると、館の主――レミリア・スカーレットはそう言い放った。それに対して、意味ありげな沈黙を取り戻した書斎で、カチャリとティーカップを置くメイドが一人。
. . . . . . . . . .
「……本当に美鈴を魅了しなければならなかったのか。」
耐えかねたように、優美な曲線に指をなぞらせて、レミリアが呟く。その表情には、一切の他言は許されない"強さ"がある。
それでもそのメイド――いや、メイド長は怯む事なく大きく首を縦に振った。必死に言葉を選ぶように視線を泳がせている。
「彼女は……とても、忠誠心に溢れています。お嬢様が命じるだけでも、仕事をこなしたはずです……なのに……ッ!」
「咲夜……!」
抑えたような訴えに、押し出した声が重なる。両手を組み合わせて背中を丸める主の姿に、メイド長――十六夜咲夜は、それ以上何も言わずに部屋を去った。
「……彼女も、私も……人間に、慣れすぎた……」
ごめんなさい。
誰に向けられたのか知られる事もなく、その詞は空しく紅い館の書斎に響いた。
――――――
「!!……ッ」
「動かないで。まだ傷は塞がってないわ。」
「……お前まさか」
「当たり前の事言わないでよ。こあ、紅茶。」
「はいはーい!」
美鈴のスペルカードによって気を失ったはずの魔理沙は、大図書館のソファーで目覚めた。肘を着いて何度か起き上がろうとするが、全身に痺れるような痛みが走る。
諦めて瞼を薄く閉じても尚、浮かんでくるのは無邪気な彼女の姿そのもの。どうしようもない無力感に襲われて、無意識に拳が固くなる。続けて滲みそうになる視界を一度ぎゅっとリセットして、音がしそうな勢いで振り切った。そのまま、怒りと戸惑いのままに独りごちる。
「くそっ……そもそもどうなってるんだよ、これは?」
「……私は何も聞かされてないから、個人的な我儘でしょうね。何で美鈴を出したのかはイマイチ謎だけれどね。」
「見てたのかよ……」
それなら少しは助けろよ、と魔理沙が胸の内で呟くと、頭上のこあが、パチュリー様殺す気ですかと囁く。表情ひとつ変えずに魔導書を読み進める、パチュリーの実力は確かではあるが、親友であるレミリアに敵う訳は無い。
仕方ないといえば、そうなのだろう――が、それ故にどうしようもない悔しさが、後から込み上げてくるのを、魔理沙はひしひしと感じていた。
この後どうすれば、彼女を助けられるのかさえ分からないのだ。戦闘スタイルが明らかに変わって、いや狂っている美鈴に、正直太刀打ちできるとも思えない。
「午前の間なら、レミィは一人で書斎にいるはずね。」
「!!!」
「……それまでは安静にしててよね。また此所に帰ってきても、もう治さないわよ。」
「パチュリー……」
チャンスは必ずあると分かった今、魔理沙はもう一度目を閉じて、初めて笑みを浮かべた。
その友人が、どれだけ苦しんでいるかも知らずに。
―――――――
「ごめんなさい……」
時折絞り出すような掠れた声は常に辛そうで、まるで何かに抗っているよう。それでも響く謝罪の言葉と、数分前に覚めた意識を狩る異常な握力は、明らかに同じ人物の物。咏夢は困惑すると同時に、一種の恐怖を覚えていた。
「どう、して」
「……まだ生きていたんですね。仕方ありません」
これは違う。冷徹で、何かに操られているような取り憑かれているような声。咏夢は、霞む視界に映る壁の紅さを、生涯忘れないだろうと思い目を瞑った。
「"彩雨"。」
その館――"紅魔館"は、夜を迎えることとなる。
「助けて……お姉ちゃん」
「助けて……お姉様……!」
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