IS~舞い降りる黒き自由の翼~   作:zeke

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それぞれの夜

 あれから束に助けられた一夏はアークエンジェルに束に抱きかかえられた状態でカタパルトから格納庫へと連れてこられたのだ。

 一夏の周囲には本音、虚、束が一夏の背後に立ち一夏を取り囲むように箒、シャル、セシリア、ラウラ、鈴、簪、楯無、春花、千冬が立っている。

 

パンッ!!

 

 格納庫にかん高い音が響き渡る。

 音源は一夏の頬。

 そして、一夏の目の前に居るのは……

 

「……千冬姉」

 

 織斑千冬。一夏の姉である。

 

「何故だ!?何故私に相談をしてくれなかった!?」

 

 わなわなと肩を揺らし視線は一夏では無く床に視線を落としている。

 堰をきったかの様に眼から涙が溢れ出た。

 そして、それを一夏には見られまいとして床に視線を落としたのだ。

 だが、千冬が涙を流しているのを一夏は知った。

 千冬自身が床に視線を落とす事で眼から流れた涙は格納庫の床へと落ちていき一夏が知る事と成る。

 

その様子に一夏は罪悪感に襲われた。

 

 千冬姉を泣かせてしまった。

 あの強くも優しかった千冬姉を。

 守りたいと思っていた者を泣かせてしまった。

 守ろうとしたのに自分から泣かせてしまった。

 でも、あの時の選択にあれ以外の方法が思いつかなかった!

 だが、守ろうとした者を自ら泣かせてしまった。

 しかし、他に方法がなかった!

 

 

 自責の念と共に様々な思いが一夏を駆り立てる。

 

 自分の選択に間違いは無かった筈だ。

 だが、それと同時に今の千冬の姿を見て自分の心が痛む。

 

 暫く考えた結果

 

 

―――ああ、俺千冬姉の事が好きなんだ。一人の異性、女性として誰よりも。

 

 一つの結論に頷いた。

 

 自分の姉が好きなんておかしな話だ。

 でも、だからこそ頷ける。

 好きでも無い人の涙を見てもたいして感情は動かされない。

 だが、今の千冬姉を見て心が痛む。

 IS学園を去る時に皆の顔を見て去った時よりも、ずっと心が痛む。

 ふり返ればそう考える要因は幾らかあった。

 千冬姉が戦場に出てきた時、安心と同時にいて欲しくないとも思った。

 この戦場で死なせたくないとも思った。

 生きてて欲しいと。

 

 やっと解った一つの結論。

 

「ごめん。千冬姉――いや、千冬」

 

だからこそ俺は何も言わない。

 

 一夏はそう思い、黙って千冬の正面から抱き寄せる。

 手を千冬の両肩に置き黙って抱き寄せ、静かに瞼を閉じた。

 

 周囲の一夏を思い、慕う女性陣にとってその一夏の言葉と行為は敗北宣言に等しい。

 皆理解したのだ。

 一夏の言った言葉の意味とその行為を。

 何気なく最後に千冬と言いなおし、千冬を抱きしめた意味を一瞬で理解した。

 ただ、ここに居る女性陣の中の束だけはニコニコ顔のままだった。

 

 鈴は堪えきれなくなった涙を拭うため「ごめん。ちょっとトイレ」と言って駆け出し、つられてシャルも鈴を追いかけるかのように飛び出していった。眼に涙をためて。

 

 箒は放心状態に成りながらトボトボと格納庫を後にし、束はその様子を横目で見ると箒の後を追うようにISを収容した束は後を追い格納庫を後にする。

 

 セシリアは黙って踵を返してその場を後にし、格納庫を出た。

 春花はそんなセシリアを追うかのように格納庫を後にする。

 

 簪は居た堪れなくなり踵を返して走ってその場を後にすると楯無も簪を追いかけるかのように格納庫を出て行った。

 

 ラウラもその場の空気を呼んでの行動か解らないが、ただ黙って格納庫から出て行った。

 

 一夏と千冬のやり取りを見ていた虚は、本音を手を引き「行きましょう」と耳打ちしてISをしまうと格納庫から出て行く。

 

★                ☆             ★

 

格納庫から出た鈴は格納庫からトイレに続く廊下の窓際で泣いていた。

 

「うう、ひっぐ」

 

嗚咽と共に溢れ出る涙。

幼い頃の一夏との思い出が脳裏に蘇る。

 

「鈴」

 

 しかし、その思い出は後ろからの声によって鈴を思い出から現実世界へと引き戻した。

 鈴を追って後から来たシャルによって。

 

「シャル、あんた何で?」

 

 急いで服の袖で涙を拭い平然を装う鈴。

 そんな鈴の問いに答えるかのようにシャルは薄く笑い目からあふれた涙を指さしながら言う。

 

「鈴を追って、ね」

 

 その一言で鈴はシャルの前で泣いた。大声で泣いた。

 待っていましたと言わんばかりにシャルは鈴を抱きしめ、自身も涙を流す。

 

「うう、ああああああああああああああああ!!!」

 

 絶望。

 自身に挟み込める余地なの無いと告げる二人。

 

 だが、薄々気づいていた。女の感というやつだ。

 しかし、認めたくなかった。

 それは、単なる意地の張り合いでしかなかった。

 

 しかし、それも今日で終わった。

 現実は非常だ。でも、それでも心のどこかで良かったと告げている。

 

 夢は覚める。ひと時の夢。

 一夏に思っていた恋心と言う夢も覚める。

 

 だが、この思いだけは忘れたくない。

 一夏を、織斑一夏を好きだったこの自身の心を。

 

 鈴はそう思いながらシャルの胸の中で泣いた。一生分かも知れないと思うぐらい溢れ出る涙を感情に任せて出した。

 シャルロットも鈴を抱きしめながら天井を見上げて涙を流す。

 

「鈴、落ち着いた?」

 

 先に涙を流し終えたシャルが鈴に尋ねた。

 尋ねたシャルの眼は真っ赤と成っており、薄らと涙の後が残っている。

 

「ええ、ごめんね。服汚しちゃったみたいだけれども」

 

 気まずそうに自身の涙で汚したシャルの服を見ながら言う鈴に

 

「大丈夫だよ。それに僕も泣きたかったから」

 

 と優しく声を掛ける。

 長い沈黙の後、シャルが口を開いた。

 

「でも、僕は諦めない。一夏が織斑先生を好きでも諦めないよ」

 

「え、でも!?」

 

 鈴は驚いた。

 眼を見開き、信じられないといった表情でシャルを見る。

 

「叶わないかもしれない。……でも、それでも一夏を好きだって気持ちは誰にも負けないつもりだよ。例えそれが織斑先生……ううん、千冬さんであったとしても」

 

「シャル、あんた」

 

 暫くシャルを見ていた鈴は突然立ち上がった。

 

「鈴、何処へ行くの!?」

 

「……私はあんたみたいに強くないから暫く考えさせて」

 

 鈴はそれだけ言うとその場を後にし自室へと向かった。

 

 

○         ◎              ○

 

「うわあああああああああ」

 

 格納庫から出た簪は自室に行くとベッドの上でうつ伏せで泣いていた。

 一夏に再び会えた安心感。

 そして、敗北を知らせる言葉。

 自身の恋が想いがフラれた事にただ泣き崩れるしかなかった。

 

「簪ちゃん」

 

 ふと顔を上げると部屋の入口に姉の楯無が立っていた。

 だが、普段と全然違う様子。

 何故なら……

 

「お姉ちゃん、泣いてるの?」

 

 僅かに見せる涙。

 それは、簪が今まで見た事の無い姉の顔だった。

 

「うん。お姉ちゃん、フラれちゃった」

 

 てへっと可愛らしく舌を出す楯無。

 だが、その間にも楯無の目から涙は溢れている。

 簪に「隣、座っても良い❓」と言って許可を貰うと楯無は簪のベッドに腰掛ける。

 

「あ~あ、フラれちゃったな~。結構自慢なプロポーションだったんだけどな~」

 

 と愚痴りながらも、織斑先生じゃ仕方ないよね~と呟く。

 だが、「でもね」と言うと

 

「でも、お姉ちゃんは諦めないよ。簪ちゃんはどうする?」

 

 簪の方を向き微笑みかける。

 

「……私はお姉ちゃんみたいに強くないから」

 

 簪は俯き、じっと涙を堪える。

 

「そっか。でもね、簪ちゃん。この戦いは、止められるのはもう私達だけだから止めなきゃいけないの。じゃなきゃ泥沼化する。それだけは解ってね」

 

 楯無はそれだけ言うと腰かけていた簪のベッドから立ち上がり簪の部屋から退出していった。

 そして、暫く廊下を歩き簪の部屋から遠ざかると壁にもたれ掛り、泣いた。

 

■                   □                ■

 

「箒ちゃん!」

 

 格納庫から出た放心状態の箒は、ふと自身の名を背後から呼ばれ振り返った。

 

「ああ、姉さんか」

 

 背後には箒の実の姉、束が居た。

 

「……初恋だったんだ」

 

「そっか」

 

「やっぱり初恋は叶わないな」

 

 フフと放心状態で笑う箒を束は黙って見守る。

 

「いっ君なら箒ちゃんの思いに応えてくれるかもしれないよ?」

 

「良いんだ。もう」

 

 叶わぬ恋だと知っているからと心の中で呟く箒。

 そんな箒に束は一言だけ言う。

 

「そっか、箒ちゃんは負けっぱなしの弱虫なんだ~」

 

 ただ、一言。

 それを言うだけで箒に対しては十分だった。

 

「何だと?」

 

 元々男勝りで負けず嫌いな性格の箒。

 そんな箒にかける言葉はそれだけで十分だったのだ。

 だからこそ、束は心を鬼にして言う。

 

「別に~。束さんとしては箒ちゃんには悪いけど、ライバルが減って助かるから別に結果オーライだから良いけどね~。まあ、箒ちゃんの心に残らない様にね」

 

 それだけ言うと踵を返してその場を後にした。

 姉として、女としての助言。

 

「………」

 

 箒はそんな束の後姿を睨みつけるように見るのだった。

★                ☆                    ★

 

 格納庫から出たセシリアは自室に居た。

 格納庫で知った一夏の思い。それは、一夏の口で語ることが無く、ただその雰囲気が物語っていた。

 

「織斑先生では勝ち目はありませんわ」

 

 ズーンとお通夜モード全開でベッドで膝を抱え三角座りで落ち込むセシリア。

 

 セシリアが座るベッドの傍には秘匿で多額のお金を支払って購入した一夏のベストショットの写真が写真立てに飾られており、キリッとした表情で愛機であるギャラハットを纏いビームサーベルを振るう瞬間の一夏が飾られていた。

 

 その写真立てを伏せるセシリア。

 

 突如コンコンと部屋の扉がノックされ一人の女子が部屋に入ってきた。

 

「入っても良いかな?セシリア先輩」

 

「もうすでに入ってますわよ」

 

顔をあげ視線を入ってきた女子生徒に向けて指摘するセシリア。

そんなセシリアを見て苦笑しながらも勝手に部屋の椅子に座る女子生徒。

 

「それで何の用ですの?春花さん」

 

「う~ん、まあ、ぶっちゃけ謝らなきゃいけない事があってね」

 

「謝罪ですの?あなた、何をやらかしたんですの?」

 

「実は……お兄ちゃんが千冬姉が好きだった事に気付いてたんだ~」

 

まあ、何となくだけどね~と言葉を付け足す春花。

 

「そんな事ですの?」

 

「あれ?気付いてたの??」

 

信じられないと言わんばかりに眼を見開き驚く春花。

 

「春花さん。あなた、私を馬鹿にしてますの?そんな事に気付かないのは一夏さんだけですわよ」

 

セシリアは、ハアと溜息を吐き膝に顔を伏せる。

 

「いや、案外千冬姉も気付いていなかったんじゃ無いかなと思うんだけれども……どう?」

 

「織斑先生が、ですの?」

 

「うん。まさか、お兄ちゃんが自分を好きだったなんて思っても見なかったんじゃないかな」

 

「いや、まさか………あり得なくも無いかもしれませんわね。血筋なら」

 

 大分失礼な事を言い始めるセシリア。

 この場に千冬がいたならばチョークが飛んでくるか出席簿が振り落されていただろう。

 

 そして、春花を見据える。

 その眼は、春花さんあなたもじゃないんですの?と言っていた。

 

「あ、私は血が繋がってないから大丈夫だよ」

 

 慌ててそう言う春花に「そうですの」と呟くセシリア。

 最早お通夜モード等何処に行ったと言わんばかりにキャッキャと二人だけで話し始めるセシリアと春花。

 そんな二人の仲に入ってくる者がいた。

 

「セシリア、入っても良いか?」

 

 ラウラだ。

 何時ものシャルの所に行こうとしたが鈴と二人で泣いていたのでセシリアの部屋に来たのだ。

 

「構いませんわよ」

 

 失礼すると言いながら部屋に入ってきたラウラは、涙目だった。

 そして、セシリアの顔を見るとセシリアの豊満な胸に顔を埋めて泣きついた。

 

「うわああああああああ」

 

 わんわんと泣き続けるラウラの背中に手を回し、セシリアは優しく抱きしめ一緒に涙を流すのだった。

 

×                   ×                ×

 

 格納庫から出た虚は妹の本音の手を引いて共に廊下を歩いていた。

 

「やっぱり、おりむーって織斑先生の事が好きなんだね~」

 

 ポケ~と眠そうな瞳で廊下の天井を見ながら歩いて呟く本音。

 そんな本音を横目で見ながら呟く。

 

「そうみたいね」

 

「はあ、負けたかな~。織斑先生に」

 

「あの人が織斑先生を好きだって事、本音。あなた薄々気付いてたんじゃないの?」

 

「まあね~。やっぱりお姉ちゃんでも気付くよね~」

 

「待ちなさい、本音。あなたのその言い草だと私が恋心に気付かない鈍臭い女と言う風に成ってしまうじゃないの!?」

 

 キラリと虚のかけているメガネの淵が光り、虚の鋭い眼差しが本音に向けられる。

 

「……さ~て、私の部屋は何処かな~」

 

 虚の鋭い視線から眼をそらし、繋いだ手を振りほどいて先に進む本音。

 そんな本音を見て虚は

 

「本音、あなたとはこの戦争が終わった後にじっくりと話さなければ成らない様ね」

 

 本屁を追うかのように廊下を歩くスピードを速めるのだった。

 

 いつの間にか気が付けば時刻は夜。

 外の戦争は明日へ持ち越されたのか戦闘音が一切せず、爆撃音もしなかった。

 この夜が終わればまた戦争が始まる。

 最早戦闘と呼べない争い、戦争が始まる。

 

 ただ、アークエンジェルの廊下の窓から入り込む月の光が明るく廊下を照らし出すのだった。

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