翌朝、まだ空が暗い早朝に一夏は束と共に格納庫に居た。
そして、一夏と束の前方にあるのは跪き待機状態の一夏のISギャラハット。
「いっ君。約束通りに戦力は揃ったよ。この戦局に対抗できるだけの力はある」
そう呟く束の眼は心なしか少しばかり赤い。
「ありがとう、束。これでこの争いを終わらせれる」
前方の待機状態であるギャラハットに触れる一夏。
一夏がふれた瞬間、一夏の目の前にギャラハットの今の状態が映像と成って映し出され一夏はギャラハットを身に纏っていた。
そんな一夏の顔を見ながら束は言う
「いっ君。やっぱり束さんは、いっ君の事が好き」
一夏と視線を合わせ勇気を振り絞って告白する束。
昨日の千冬とのやり取りで一夏の思いを知っていながらの発言だ。
「……俺は」
「ちーちゃんが好きでしょう?一人の異性として」
「!」
面白そうに、しかも性質の悪い事に見透かしたような目で呟く束に一夏は驚きのあまり眼を大きく見開いた。
そして、拳を強く握りしめる。
「知っていて、知ったうえでそれを俺に言ったのか?」
「うん」
「束さん。あなたは卑怯だ!」
「卑怯なのは、いっ君もでしょ?」
「……」
束の指摘に一夏は黙る。
否、黙るしかなかった。
昨日の行動。それは、千冬以外の女性人に対しての一夏の言葉には出さない意思表示。自分は織斑千冬が好きだと言う意思表示。
俺にどうしろと言うんだ!?
皆と再会出来た事は嬉しい。
銃口を向ける必要も無くなり敵として出会う事も無くなった。
皆の命を奪わなくて良い状況に成ったのは心から喜ぶべき事だ。
シャル、セシリア、ラウラ、鈴、箒、簪、楯無、虚、本音、束、春花、千冬姉。
誰一人欠けては成らない大切な人達。
俺は皆が好きだ。
でも、千冬姉が一番好きだ。
だからこそ、皆に知って欲しかった。俺の気持ちを。
傷付くなら早い方が良い。
早めに諦めて欲しいから。
そう思っての行動なのに、目の前のこの人はそれを知ってなお……
苦難に悩む一夏に束は更に口を開く。
「いっ君、束さんは別に一番じゃなくても良いんだよ。いっ君が愛してくれるなら番号なんて関係ないんだよ」
「……」
黙って返答に悩む一夏を見て束は、
「返事はこの戦争が終わってから聞かせてね」
と言って可愛らしくウィンクし、格納庫をでた。
「俺は、俺は……」
ただ一人、格納庫で一夏はギャラハットを纏っていると言う事も忘れて苦難に悩まされる。
そして、モヤモヤする気持ちを拳に乗せて傍にあったコンテナに向かってぶつける。
「落ちてくる全ての実を拾うことはできない……か」
ぼそりと呟き、ただ格納庫の天井を見上げる。
だが、突如視界が揺らいだ。
気が付けば一夏は格納庫の隅にISを纏った状態で殴り飛ばされていた。
そして、左頬に殴られた時の痛みが今頃になって一夏を襲う。
一夏が殴った元凶に視線を向けると……
「このバカ弟子が‼腑抜けおって!」
師匠であるスネークが何故か居た。
「!スネーク、あんた何で!?」
「はん。バカ弟子の後始末だ!馬鹿者め」
「答えになってないんだが」
「おい、一夏。俺は、守る為の力を教えたはずだぞ?」
一歩、また一歩と一夏に近づきながら拳を鳴らすスネーク。
その覇気に纏った姿に一夏はただ固唾を飲んでとスネークを見る。
「なのに、くだらん革命ごっこに参加しおって!このバカちんがっ!!!」
再度一夏に向かって拳をふるうスネーク。
だが、今回は先程と違って拳骨だ。
ドゴォ―――――ン!!
鈍い音が格納庫に響き渡り一夏の頭に大きなたんこぶが出来上がった。
「……ありがとう、スネーク。おかげで眼が覚めたよ」
先程と違う、一夏のキリッと引き締まった顔にスネークはニヤリと笑い呟く。
「フ、先程と違う随分と引き締まった顔に成ったじゃないか。さっきの顔のままだったらもう一発殴っていたところだ」
「勘弁してくれ」
その言葉に思わず苦笑いとなる一夏。
「ばか者。さっきの様な腑抜けた面構えでは戦場に行ってもすぐに死ぬだけだ。2発や3発位殴られて生き残れるんなら安いもんだろう?」
少しの長い沈黙の後に、一夏は口を開き……
「ああ、そうだな」
頷いた。
「だから、もう一発殴られろ」
再び拳を握る師匠のスネークに驚き、待ったをかける。
「待て待て待て!何でそうなる!?」
「一夏、お前はさっき2発や3発位殴られて生き残れるなら安いもんだろう?と言う俺の問いに、ああと肯定した。先程は2発しか殴らなかったからもう1発残っているぞ」
「!何という傍若無人!?」
問答無用と言わんばかりに一夏にただ黙って一夏に全力で拳骨するスネーク。
「のおおおおおおおおおおお!!」
一夏の悲鳴が格納庫だけではなく、アークエンジェルの艦内に響き渡った。
★ ☆ ★
アークエンジェルのブリッジに一夏、ラウラ、シャル、セシリア、簪、楯無、春花、鈴、箒、束、千冬、虚、本音等の専用機持ちが集められ、アークエンジェルを操縦するIS学園の生徒達が複数に、スネーク、マリアンヌなどの一夏関係者、アークエンジェルと並行して空中を移動中のエターナルと回線が繋がり通信中の状態で作戦会議が開かれていた。
皆一つのテーブルを囲い、テーブルの上には現在の戦局の様子が立体映像で映し出されている。
立体映像に映し出されるアークエンジェルと並行するエターナルの約300KM先右前方に浮上要塞アトランティスが映し出され、そのアトランティスを囲うかのようにセイバー、レイダーカラミティー、ネオザク、ヴェルデバスター改が東西南北に別れ、4カ所それぞれに一つずつあるアトランティスの出入り口を守っており、レックスが乗るセイバーに至っては昨日と同じ漆黒の色へと変貌したセイバーを身に纏い虚ろな目をしているのが立体映像でリアルに映し出されている。
幸い重症のロウが戦場に居ない事が一夏達にとって不幸中の幸いともいえる。
そして、そんな浮上要塞アトランティスの進行方向は日本を向いており、進行方向上にいる連合軍と対峙しており、▽の状態で戦局は硬直している。
「……これは、かなり拙い状況だな」
映し出された立体映像を見ながらスネークが頭をかきながら呟く。
外では爆音が20分前から鳴り響き戦闘が開始されている為、実際に早く出なければいけないのだが作戦も立てずに戦闘で勝てる可能性は低く、IS学園の戦力はこの戦局の中で一位か二位を争うぐらいの戦力を持っている。
だが、迂闊に出撃できないのだ。
連合軍とファントム・ハーケンの勢力を同時に相手をし、戦力を均等に削ぎ停戦させ両者の和平を成立させることがIS学園側勢力の勝利条件。どちらかの戦力が多くても少なくても駄目な勝利条件なのだ。この上ない位難しい勝利条件である。
今現在の戦力差は連合軍が押され気味で徐々に日本へと後退しばがら防戦しており、量産型のISだけでなく今は骨董品に成りつつある戦闘機まで出してきて浮上要塞アトランティスへとミサイルを撃っている。
無論、浮上要塞アトランティスに向かって来るミサイルは全てセイバー、レイダーカラミティー、ネオザク、ヴェルデバスター改が撃ち落としたり斬り落としている為実質ファントム・ハーケン側の損害は微々たるものでしかない。
だが、そんな骨董品さえも使用するほど連合軍は戦力が減りつつあるのだ。
そんな連合軍に味方をすれば連合軍は調子づき、ファントム・ハーケン側は負けじと躍起になって士気が上がり戦局がますます混乱を極める。
皆、口を閉ざして一体映像をじっと睨みつけながら見ていると本音がポケットからメモリースティックを取りだして束に渡す。
「はい、これ。出来る限り集めた向こうのデータ」
「フ~ン。待ってて、すぐに情報処理をして立体映像で出すから」
束はそういうとブリッジに設置されているコンピューターにメモリースティックを挿入して情報処理に取り掛かる。
1分も掛からない内に立体映像に情報が映し出され、浮上要塞アトランティス内部の解る限りの構造と侵入経路が現れる。
「この1階と2階は、解らんのか?」
千冬の言葉に虚と一夏以外の全員の視線が本音にあてられる。
「残念ながら一部の人にしか行けない様に成っているからそこに何があるのか解らないんだよ。千冬姉」
一夏の答えを聞き、全員が再び立体映像に視線を戻す。
「フム。状況は変わらんがこの会議は有意義だったぞ。浮上要塞アトランティスの内部構造が解ったのだから攻略もやりやすくなる」
スネークが顎に手を置きながら呟く。
「……多分だけれども、2階と1階のどちらかは、あの要塞を動かす動力源や機材が積まれていると思う」
簪が立体映像に映し出される浮上要塞アトランティスを指さしながら言う。
5階は司令頭。
4階には東西南北にそれぞれ出入りするカタパルト。
3階には生活する場と成っている。
2階と1階のデータは?と成っており詳細は不明。
一夏は「う~ん」と唸り記憶を甦らせながら呟いた。
「確かに、3階4階5階には動力源の機材は見て無いな」
「それなら、2階と1階のどっちかに動力源があると思っても良いみたいね」
楯無は扇子を広げたり閉じたりしながら発言する。
「それなら、全員のISにこの要塞のデータを送っとくね~」
その言葉を聞き束はピアノを弾くようにコンピューターをものすごい速さで操作する。
30秒もしない内の全員のISに浮上要塞のアトランティスの内部構造のデータが送られ、千冬はそれを確認すると束に尋ねた。
「束、あの要塞の内部構造のデータを調べる事は出来ないのか?」
「う~ん、さっきからハッキングしたりして調べてるんだけどね~。どうも引っかからないんだよね~。ほら」
束の言葉と共に立体映像機器の画面が変わり、長い英文が現れ、赤く大きい【error】の文字が表示される。
「ほらね~。データを消されても大概はその破片的なものが残るから束さんお手製のこの検索機ソフトで日本政府の機密情報やらペンタゴンの極秘資料とかも引っかかるんだけれども、さっきから検索してるのに該当なし。こりゃあ、もうお手上げだね~。まあ、考えられるパターンとしては衛星に映らない場所で古典的に紙に設計図を書いて作ったか、何だけれども」
両手をあげ降参のポーズを取る束を見ながら千冬は頷いた。
「そうか。取りあえずあの要塞の内部構造は解った。我々の今後の目標は連合軍とファントム・ハーケンの部隊の両方を相手にしながらファントム・ハーケンの浮上要塞アトランティスの2階か1階にあると思われる動力機材の破壊、連合軍とファントム・ハーケンの両方の戦力が同じに成る様に両軍の戦力を削ぐ事。オルコットはアークエンジェルとエターナルの護衛、可能な限り援護射撃を。デュノアとボーデリッヒ、篠ノ乃、鈴は連合軍を、束、織斑、織斑妹、布仏姉妹、更識姉妹と私はあの要塞を相手にする。以上だ。これより30分後に作戦を開始する」
「あ、全員のISは昨日の内に天才篠ノ乃 束さんが直しといたよ~」
束 はそういうと同時に一夏の傍により、一夏を抱きしめる。
「ほらほら~、いっ君。頑張った束さんにご褒美、ご褒美~」
一夏を正面から抱きしめた為、一夏の顔に束の胸が当たり一夏は束の胸に顔が埋まってしまう。
「ちょっ!束さん!?」
「やだ~!束って呼んでくれなきゃ~」
「た、束!そろそろ離して」
「フッフ~♪どうしよっかな~」
楽しそうに一夏を抱きしめる束だが、突如後頭部を千冬に殴られた。
巨大なたんこぶを後頭部に作る羽目に成り、痛そうに束が頭を抱えてその場に蹲る。
「うう、痛いよ!ちーちゃん!!」
涙目で千冬に抗議する束に千冬は、
「一夏は、やらん!!馬鹿者めが!」
フンと鼻を鳴らす。
当の本人である一夏は束が千冬に殴られた時に束から解放されて今現在、束の傍により
「頭、平気か?」とその場にうずくまる束の頭を撫でている。
「フフ、ちーちゃん。残念だったね~。束さん、いっ君に頭を撫でて貰ってるよ」
束が満面の笑みで呟き、その言葉に千冬が反応する。
「なに!?」
「最早、ちーちゃんの御かげで束さんにとってご褒美だよ~。ありがとうねちーちゃん♥」
「束、表に出るか?」
「フッフ~。ちーちゃん、束さんに勝てると思ってるの?自意識過剰過ぎない?」
「成程、今すぐに骸に成りたいらしいな!」
まさに一触即発。世界で一位、二位を争う実力者が一夏と言う一人の男を掛けて戦おうと膠着状態。
IS学園の生徒が全員見守る中、一夏が止めに入る。
「やめろよ、束!千冬も!!喧嘩するならこの戦争が終わってからにしよ」
「失礼します」
一夏が千冬と束を止めに入っている最中一人の女性がブリッジに入ってきた。
マリアンヌ・コルベールのメイド、クイーンだ。
クイーンはブリッジに入ると千冬が視線に映る。
「!!!」
突如、頭を抑え込みその場に倒れるクイーン。
眼は大きく見開き、過呼吸と成っている。
「クイーンさん!!」
その様子にいち早く気付いたのは、一夏だった。
片腕を建て何とか立ち上がろうとするクイーンの肩を掴み、近くの壁にもたれ掛るようにして座らせる。
「大きくなったわね一夏、それに千冬」
優しく、母性のある声で一夏と千冬の名を呼ぶクイーン。
突如、一夏と千冬の眼から涙が溢れる。
一夏と千冬は、自身の眼から勝手に涙が流れることに驚きを隠せずにいた。
「なんで、涙が?」
「何故?」
自身の涙を拭うと涙は収まる所か更に溢れ出てくる。
困惑する二人に優しく笑みを浮かべながら二人を見るクイーン。
「クイーン!記憶を取り戻したのか!?」
そんなクイーンに驚きの表情を隠せずに近づくスネーク。
「ええ、兄さん」
「……どういう事だスネーク。教えてくれ!!あんたは、何を知ってるんだ!」
後ろを振り返り、眼からは自然と涙が流れながらジッとスネークを見る一夏の表情は真剣だった。
「ふう」と溜息を一つこぼしながらスネークは驚きの真実を明かす。
「一夏、お前の前に居るお前がクイーンと呼んだ、今まで呼んでた人物は俺の妹で、お前の……母親だ」
「「!!!」」
一夏と千冬は驚いた。
否、一夏と千冬だけでなくブリッジに居る全員が驚いた。
驚いてないのは、クイーンとスネーク、マリアンヌ・コルベール位だ。
「ちょっと、待ってくれスネーク!なら、何で今まで黙ってたんだよ!!それに、俺の両親は失踪したって聞かされたんだぞ!」
涙を流しながら困惑する一夏。
目の前にいる人物が失踪した母親だと急に言われても困惑するだけである。
「先ず一つ目のなぜ黙っていたかだが、クイーンに記憶は無かった。いわゆる記憶喪失と言う奴だ。それに聞かれなかったからな。……というかだな、一夏。普通、どこの馬の骨とも知らん奴を鍛えるなどしないぞ」
苦笑しながら答えるスネークにブリッジに居るほとんどの人が「ご尤も」と思った。
「お前の母親、織斑千夏はお前の父親と共に仕事で海外に行く途中の飛行機事故にあったんだ。俺はその時傭兵をしていてな。千夏の飛行機事故現場近くの国で仕事をしていた。故に1日掛かったが何とか飛行機事故現場までたどり着き、現場で倒れている千夏を発見し連れて帰ったのだ。もう虫の息だったがな」
「それじゃあ、俺の父さんは?」
「解らん。俺が駆け付けた時には火の手が回り始めていてな。早く離れなければ燃料に引火して大爆発を起こしそうだったから詳しく捜索は出来なかったんだ。それに、お前の父親の顔を俺は知らんのだ。唯一知っている事と言えば千夏から送られた来たお前と千冬が映った年賀状を見てお前と千冬の存在を知ったぐらいでな。後、残された手掛かりと言えばクイーン、つまり千夏が俺に救出された時に一枚の写真を持ってたぐらいだ」
一夏からスネークへと視線を移すとクイーン、千夏はスネークに問う。
「兄さん。私が救出された時に持ってた写真って今、ある?」
「ああ、お前が持ってきているはずだ」
「そう」
千夏はそう呟くと壁を使ってよろよろと立ち上がろうとする。
一夏は、いまだに信じられないと言った表情で呆然と立ち尽くし「そんな、そんな」と呟いている。
呆然と立ち尽くす一夏を見て、千夏はフッと微笑むと一夏の頭を優しく撫でる。
「かあ…さ…ん」
振り絞るような声で発する一夏の声を聞き、千夏は一夏を抱きしめた。
「ごめんなさい、一夏。ごめんなさい。辛い思いをさせてごめんなさい」
千夏の眼からも自然と涙が零れ落ちる。
「おいで、千冬」
千冬はかつての幼き日の千夏と過ごした日々の記憶が脳裏に蘇りながら脚が自然と千夏の許へと向かってしまう。
そんな千冬が自身の近くまで寄ると千夏は一夏と共に千冬を抱きしめる。
一夏と千冬は嗚咽しながら子供の様に咽び泣いた。
まるで今までこの日の為にと溜め込んでた涙が溢れ出るかのように勝手に流れる涙に身を任せ泣き続けた。