シンデレラアイドル☆ルーラちゃん 作:いんゆめくん
第一話『その出逢いは』
私は無惨に死んだはず、だった。
使えないけど見捨てられなかった、そんなちょっとした情が招いた……死なせたくなかった部下、いやここは素直に『仲間』と言えば良いか。
そんな仲間の裏切り、私がアイツ等全員見下していたのが敗因だった。
無能で、バカで、ノロマ。
それは私の方だったのかも知れない。
私の方から心を開いていれば、ほんの少しでもアイツ等の事を理解しようとしていれば死ぬ事も無かった。
だから、アイツ等があの世に来たら、先にいる自分が謝ろう、そう思っていた。
そうなると思ってた。
「い、生きてるの、私……?」
人の喧騒、ふわりと漂うキンモクセイの香り、日の光、春の暖かさ、感じる胸の鼓動……明らかに死後の世界とは言い難い雰囲気の世界……と言うよりは私の生きていた現代日本そのものの中に、気付いたらいた。
死んだはずなのに、だ。
何が起こってるか分からず、兎に角人の少ない場所へと移動して、ゆっくりベンチに座る。
「一体何がどうなってるのよ……」
死んだと思ったら丸っきり違う異世界に転生……なんて小説ですら面白味が分からない、理解できないのにあまつさえ現代日本なんて悪意しか感じない。
『ある意味ホラーの一種よ、これならあの世で意味もなく暮らしてた方がマシだったわ』なんて思わず呟くくらいには気がもう参っていた。
取り敢えず色々とパンクしそうな頭を落ち着かせ、まずはこの世界が私のいた世界と同じなのかどうかについて調べる為に、本屋に行くと言う結論に至った。
「で、来たは良いけど……」
知らない有名人に、知らない番組、果てには知らない地名まであった。
逆に言えば、知っている有名人、知っている番組が何一つ無く、知っている地名もところどころ無かった。
「平行世界……?」
にしても一致しないところが多すぎる。
それでも、余りに世界の構造自体は似ている。
似てない様で似ている世界、これならまだファンタジー溢れる世界の方が幾分かマシだったかも知れない。
さっきも言ったが余りに不気味過ぎる。
「どちらにせよ、お金も無いわ帰る家も無いわ……どうしろってのよ……」
もう日も落ちてきた、今の私は何も出来ない弱い弱い存在。
――怖い。
一人孤独の夜が怖い、怖い、怖い。
本当は孤独が怖くて仕方なくて、でも誰も分かってくれなくて。
だからそんな我が儘な私に着いてきてくれたアイツ等を死なせたくなかった。
ああ、こんなにも後悔するくらいなら
「いっそ死んだ方が――」
「君、どうしたんだ?」
良い、そう言い掛けたところで誰かに話し掛けられた。
ふと見上げれば、そこには爽やかな人……ではなく、見るからに冴えない様な、小太りで顔も大して良くない――でも。何処か、何故か安心できる様な雰囲気の男の人が心配そうに私を見つめていた。
そしてフッと頭の中を何かが過った。
それはまるでテレビの砂嵐の様に、殆んど見えないけれど。
(私は、何故かこの人を知っている様な……?)
「えーと、本当に大丈夫?」
「あ、え、ええ。その、こんな事を全く知らない人に言うのもどうかと思うのだけれど……その、ちょっと路頭に迷ってて」
「ええ……」
誰かに頼りたくなったのは何年振りだろう。
今二十三才で、もう十五年は孤独を彷徨って来たと思う。
なのに、こんな頼りなさそうな、知らない男になんで頼りたくなるのだろう。
分からない、けれどそれがとても心地好かった。
「……良かったら家、上がらせてもらえないかしら。この際貴方からは危険を感じないしお願い出来ないかしら」
「いや不味いでしょ絶対に。構図的に俺死ぬよ? 社会的に監獄ボッシュートだぞ?」
「何よ、私にこのまま外で変な男に襲われるか野垂れ死ぬか選べっての?」
「……お金は?」
「持ってない、一円もね」
そうやって言うと、男は黙って目頭を押さえガックリと項垂れた。
どうやら観念したらしい、と言うか観念したならもっと開き直るくらいはしなさいよ、なんてちょっと思わなくもない。
「分かったよ、その代わり大した物も無いし大したおもてなしも出来ないけどな」
「良いわ、衣食住確保出来るならこんなとこで死ぬより百万倍マシよ」
「ん、それならまあ……良いか。俺も一人暮らし長くてちょっと寂しかったところだし、結果オーライ、かな?」
「ふふっ、何よそれ。おっさんみたいじゃない」
私だってずっと一人になるかも知れないと思ったら、寂しいどころじゃなくて。
だから、つい顔が緩んでしまった。
「……今の顔……」
「な、何よっ!」
「……いや、良い笑顔だと思ってな。今をときめくアイドル達にもひけを取らないレベルだと思ったぞ……なんて」
「……そ、そう? 悪くないわね、そう言われるのは」
もう、褒められた記憶なんて無かったのに。
それこそ生まれてから此の方ずっと無かったはず。
だと言うのに、この男に褒められた途端、何故か懐かしい気持ちになっていた。
記憶は何も思い出せない、気持ちだけが懐かしんでいるだけなのに、憎たらしいくらいにホッとしてしまっていた。
「素直に受け取って貰えて、俺も嬉しいよ……んじゃ、俺の家行く前に、どっか食べに行くか?」
「良いの?」
「ま、一人ちょっと寂しく暮らしててお金なら大分あるしな」
「そ。それならお言葉に甘えるわ」
夜のファミレス。
家族連れが多いこの空気は嫌いだったけど、今は何故だかそこまで気にならずにいられる。
それもこれも、この人のお陰かも知れない。
「で、まあ一応落ち着いた訳だしお互い自己紹介しようぜ」
「そうね、そう言えば名前言ってなかったわ。私は木王早苗よ、宜しく」
「俺は
「……」
やっぱりだ。
初めて聞く名前なのに、聞き覚えがある。
そもそもこの人とは文字通り住んでた世界が違うのに、なんでここまで懐かしい気持ちになるのか、どうして初めて会った人間にここまで安心できるのか。
考えれば考える程分からなくなる。
「おーい?」
「あ、ごめんなさい。海藤さんね、宜しく」
「……うーん、これから何時までとは分からないにせよ、一緒に住むんだし名前の方が良くないか?」
「貴方、まだ会ってそんなに経ってない女の子にそれ聞くとかナンパ?」
「ああいや、流石に一緒に住む人に固い感じなのは疲れないかな、と思って」
「冗談よ、冗談」
「な、なんだービックリした」
それを抜きにしてもそこそこ面白い人だとは思う。
自然と笑えたのも、今夜で何度目だろう。
こんなに自然な笑顔になれたのなんて、人生で初めてかも知れない。
もう少しだけ、この人の事が知りたくなった。
「それで、貴方何のプロデューサーをやってるのかしら。バラエティ? 料理番組?」
「あーっと……まあちょっと言いずらいけど。その、アイドルのプロデューサー、なんだ」
「アイドル? ふーん、まあこのご時世そう珍しくはないんじゃない?」
本屋に立ち寄った時、アイドルの特集コーナーが多かったのを良く覚えてたのがラッキーだったみたい。
と言うかこの世界、アイドル多すぎじゃないかしら。
週刊誌から特集本、テレビ番組までかなりの割合でアイドルが出ていた。
「そうか? まあそれなら良いけど」
「で、誰をプロデュースしてる訳よ?」
「……0人」
「は?」
耳を疑った。
間違いなく、0人と言う言葉は私への回答だと分かったから尚更。
「運が悪い事に、直近で一番最近の応募者は全員落選しちゃったみたいで。誰か一人でも合格すれば俺の最初のアイドルになる予定だったんだけどね……」
「成る程ねえ」
落胆する彼こと一真をじっと見ながら思案する。
何かしらこの人の為になる事をしても良いんじゃないかと、我ながら珍しくそう考えていた。
……そして私は、一つの回答へと辿り着いた。
「ところで、私は貴方の居候になる訳じゃない?」
「まあそうだな、言い方変えればそうとも言える」
「で、私だけ働かないのもおかしな話じゃない?」
「……そうなの?」
「そうなの。それで一つ提案があるのだけど……」
ふっと息を付き、
「私が、貴方の最初のアイドルになっても良いわよ」