シンデレラアイドル☆ルーラちゃん   作:いんゆめくん

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お久し振りです

これで導入部が終わりになります
丁度一万越えたところみたいでキリも良いですね、なんて


第三話『在りし日の夢』

 私は今、間違いなく人生の中でも最大級の事態になっている。

 一真の家、マンションの一室でシャワーを浴びるまでは良かったのだけれど、そこで鏡を見た瞬間私がどんな事になっているかに気付かされた。

 

「…………嘘でしょ?」

 

 その鏡に写ったのは、まだあどけなさを残した顔立ちに淡い水色の髪……端的に言えば『ルーラ』がそこにいた。

 

 その状況を呑み込めず、思考が止まる。

 それと同時にシャワーヘッドが手から滑り落ちてしまう。

 

「さ、早苗ちゃん? 大丈夫?」

 

「え、ええ……だ、大丈夫よ」

 

 その直後に聞こえてきた一真の言葉で我に返った。

 いくら動揺していたからとは言え、人の家のものなんだからもっと気を付けないといけないわね……なんて(かぶり)を振りながら気を落ち着かせる。

 

「怪我とか無いよな?」

 

「ちょっと手が滑っただけよ、心配掛けてごめんなさいね」

 

「いやそれなら良い、それなら良いんだ」

 

 気が少し落ち着いたところで、一真の優しさに気付き微笑を溢す。

 心底ホッとした様な声質で、そう言う彼の言葉に心がジンと来る。

 私を心配してくれる、そう思っただけで孤独な心に何かピースがはまる様に、暖かい気持ちになった。

 

「……ルーラ、か」

 

 一真がいなくなったのを風呂場のドア越しに見て一つ、そう呟く。

 

 魔法少女、私の憧れだった。

 強くて可愛くて、活躍すれば誰からもその功績を称えられて……それはまるで私からは何よりも遠くて。

 だから私は自分が嫌いだった、多分これは今も、そしてこれから何をどうしようとも変わらない。

 

 でも。

 

「……少しは、嫌いなのも克服出来るかもね」

 

 自分の憧れだった『ルーラ』が今の『私』なら、何かしら変われる機会があるのかも知れない、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

「よっ、あがったか」

 

「ありがと、久々にゆっくり浴びられたわ」

 

「そりゃ良かった」

 

 魔法少女になる前もなってからも、心にゆとりなんて無かった。

 ずっとイライラしっぱなしで、気付けば愚痴を漏らし続けていて。

 だから心身共にゆっくりとシャワーを浴びられたのはもういつまで遡るのかさえも分からないくらい久々で、嫌な気持ちがすっきりと洗い流される様な気分になった。

 

「取り敢えず私は、髪が乾くまでのんびりしてるわね」

 

「分かった。適当にテレビとか見てても良いからな」

 

 一真が風呂場に入るのを見て、フッと一息付く。

 体感的に私が死んでからまだ一日も経ってないはずなのに、あの事が随分と昔の様に感じられる。

 

 なんて考えていたが、そろそろ手持無沙汰になるかしら……なんて思ったけどそう言えばテレビを見ていて良いと言われたのを思い出した。

 

 おもむろにテレビのスイッチを入れる。

 

『~♪』

 

 映ったのは、私がこの世界に来て最初に存在を知ったアイドル『興水幸子』と『島村卯月』。

 二人が組んだ新ユニット『幸月』の特集ページを最初に開いて、それでこの二人に興味を持った。

 

 自信ありげだけど調子に乗りやすい、でもそれがしっかり魅力に繋がっている興水幸子は、私もこれくらい愛嬌があって自分に自信を持った方が良いのかな、なんて思ったり。

 島村卯月は、兎に角輝いていて。

 私の手に届かないくらい輝いていて、夢を持って、実現させて。

 悔しい程に羨ましかった。

 恨めしい程に、私に無いものを持っていた。

 そして何より、その二つのマイナスな感情が吹っ飛ぶくらいにアイドルだった。

 

「……頑張らなくちゃね。漸くやりたい事が出来る、そんなチャンスが手に入ったんだから」

 

 目指すはあの二人の様に純粋に輝けるアイドルになる事。

 勿論一真の言葉の様に、最初はテレビどころか地方のショッピングモールの屋上イベントの出演や場繋ぎ目的での出番なんて言う小さい仕事ばかりかも知れない。

 それでも、好きな事なら、好きなアイドルになって頂点を目指せるチャンスがあるのなら。

 

 私はどんな仕事でも楽しめる。

 

 まあ理不尽な扱い受けてたブラック会社に比べたら天と地の差以上の差があるってのもあるけど。

 

「おーすあがったぞ……おっ幸月じゃん、今このユニットかなりヒットしてんだよな。珍しく『和』をコンセプトに置いた上に敢えて小早川紗枝を置かずに346の『和』に固定観念を与えずイメージを一新させる……正に思惑通りって訳だ、流石は武内先輩と金城先輩だよ」

 

「ふーん、小早川って子は知らないけど上手く嵌まってるのは私でも分かるわ」

 

「紗枝ちゃんはここ一年で人気うなぎ登りの今注目のアイドルの一人で結構可愛いんだ、早苗ちゃんもアイドル好きならきっと気に入るぜ」

 

「そ、そうかしら。そこまで言うならしっかり調べておくわ、近々同僚にもなるんだしね」

 

 ……どうしてだろう、何気無くオススメとして教えてくれる一真はとても良い人だし嬉しい。 

 なのに何故か、こう心がモヤッとする。  

 分からない、何で、どうして、どの言葉でモヤッとしたのかまるで掴めないのにその感覚だけが空中に浮いてずっと私の周りでふわふわと漂っていると言う表現しか出来ない。

 

 この気持ちが何なのか、皆目検討も付かない。

 

 でも分からないのであれば分からないで割り切るしか無い。

 切り替えると言う事も大切である以上、考えすぎてオーディションに落ちるなんて失態に繋がり兼ねない事を考慮して無理矢理話題を変える。

 

「それより、オーディションじゃどんな曲を歌えば良いのかしら。鉄板のアイドル曲からロック、J-POP、演歌、ムード歌謡、バラード、民謡、アニソン、聖歌とレパートリーと出来映えには自信あるのだけれど」

 

「いや思った以上に凄いな早苗ちゃん!? て言うか聖歌!? あれかなり難易度高いと思うんだけど!?」

 

 全部宴会の席用に覚えてきた……とは流石に言えない。

 何とかして注目されたかったからその歌手の歌い方から表情、歌詞を見比べて心情を考察しネットでその曲にまつわる歌手の話やファンの話を見て限りなく正確に心情を理解してから歌ってる最中にちゃんと『その人』に入りきれる様に練習して、それで宴会の席でほぼ完璧な状態で何曲も披露していた、なんて事もあったっけか。

 

 結局ジジイ共が酒のツマミに聴いてるくらいの影響しか無かった訳だけど。

 

 こっちの世界の曲は殆んど知らないけど、テレビを見て既に何曲か歌えそうな曲は手に入れたし、聖歌や民謡ならいくら基本文化が同じなら同じ聖歌や民謡もあるはず。

 後は上が何を求めているか、に懸かっている。 

 

「ま、まあ何と言うか、そこは自分の個性が一番出せる曲で良いんじゃないかな」

 

「まあそうなんだけど。取り敢えずはどんなものがどんな受け方をしてるかもう暫く調べたいからパソコン借りても良いかしら」

 

「おう、好きに使ってくれ。ヘッドフォンならパソコンの近くにあるし、それ付けてれば近所迷惑にもならないから伸び伸びやれるぜ」

 

「気が利くのね、ありがと」

 

 取り敢えず、これでこの世界にどんな曲があるか一通り目を通して耳にも通せる。

 いつオーディションかは分からないけど、早めに把握して網羅すれば盤石の布陣になる。

 念には念を押す、それが私のポリシー。

 いくら自信があっても油断も慢心も絶対にあってはいけない、上に立っていた者の常である。

 

「んじゃ俺はオーディション日程と早苗ちゃんが受かった前提として色々とプラン建てておくから」

 

「ん、流石仕事が早いわね」

 

「俺だってこの道入る為に小さい頃から勉強してたからね」

 

 ニッと自慢気に語る一真。その自信は間違いなく確たるものであるとその目が告げていた。

 きっとその努力は、その努力を分かってくれる人間が数多くいた……そうでなければこんなに自分に自信なんて持てる訳がない。

 

 だから私は『羨ましい』とそう思ってしまっていた。

 

 私の努力は何一つ褒められた事なんて無かったのに。

 私の何がいけなかったの?

 

 愛情さえちゃんと有りさえすれば、私は違った様に生きられたのか――

 

(……まあ、後悔しても仕方ない、か)

 

「ん? 何か言った?」

 

「んーん、一真って本当に凄いのねって、そう言っただけよ」

 

「いやいや早苗ちゃんの方がぜってーすげえよ! いくら本格的なアイドル歌手目指しててもそんなに多いレパートリーなんてそうそう出来ないよ」

 

「……ありがと」

 

 何より『今』はこうして会って何時間も経ってない様な、私の実力を見てもいないのに本音で『凄い』とただそんな単純な言葉で褒めてくれる人がいる。

 そんな単純な、いや単純だからこそ私の心に響いた、単純だからこそ私の心の奥底に染み渡った。

 この人の言葉はまるで魔法の様に私の中にすっと入っていった。

 それこそ私達がやっていた魔法少女なんかよりよっぽど綺麗で魔法染みていたくらいに。

 

 私は改めて決断しよう。

 

 

 私こと木王早苗は、自分とこの人――海藤一真に、自分の全力を捧ごう。

 諦めなかった自分へ、そして初めて認めてくれた、そして何より忘れかけていた夢を思い出させてくれたこの人に。

 

 今度こそ『夢』を掴むその為に。

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