「コロッケは要りませんか〜?今の時間タイムセールでーす」
夕方、俺はいつものように実家である精肉店でコロッケを売っていた。
実家の手伝いだからって理由だけで売っているわけではない。
俺の家は高校生になってからお小遣い制度がなくなり時給制度になったため、お金をもらうためには働くしかないのだ。
働かざる者食うべからず、それを高校一年生のときに俺は初めて身を持って知った。
初の給料で買ったうんまい棒のパサパサ感は今でも忘れない。
「あらケンちゃんじゃない。久しぶりね」
人をさばいていると、お得意さんの田中さんが声をかけて来た。
「お久しぶりです。最近田中さん見てなかったので心配してたんですよ。うちのコロッケに何か悪いところでもあったのかなぁって」
田中さんいつも大量にコロッケを買って行ってくれるのだが、ここ最近は見てなかったのでほんの少しだけ心配していたのだ。田中さんはコロッケを多く捌ける客だからな。久しぶりでも、もちろん営業スマイルは忘れない。この手のおばさんはこちらが笑顔でいれば勝手に気分が良くなり、たくさん買って行ってくれるのだ。ただ田中さんはちょっと異常だけども。
「あら、ごめんなさいね。実は昨日まで入院してたのよ。なんでもコレストロールの取りすぎだって。全く失礼しちゃうわ」
そりゃあ体を見ればそんなこと分かるよ。一体何キロあるんだ。歩いてるだけでも大変そうなのに…
…なんて言えるはずもなく、
「そりゃ毎日のようにコロッケ20個も食べてればそうなりますよ。うちとしてはありがたいですけど、体調管理はしっかりしてくださいね」
事実を言いつつもフォローも忘れない。体調をしっかり気遣うことで田中さんのポイントを稼ぐ。これで買ってもらえる数が減ったとしても、来る回数が減ることはないだろう。長い間買い続けてくれれば家としては安泰だ。
「もちろんよ。じゃあ今日はいつもよりちょっと数を減らして19個くださいな」
「…全然変わってないじゃねーか」
俺のつぶやきは田中さんに聞こえなかったようだ。
俺はコロッケを詰めたパックを袋に入れ田中さんに渡す。
「またのご利用お待ちしています!」
「兄ちゃん!」
田中さんが帰るとすぐに俺に話しかける人物がいた。
「おっ、純じゃねーか。今日もおつかいか?」
「そうだよ!お母さん最近また調子が悪いみたいだから俺がしっかり支えるんだ!」
こいつは山吹純。近所のパン屋のガキだ。
昔から何かと俺に絡んでくるのでしょっちゅう相手をしている。
にしても母さんのために…か。
こんな小さいガキなのにすげえよ。
俺がこんな歳の時はたしてこんな考え、行動を起こせただろうか?
「偉いな。そんなお前にはコロッケをサービスしてやろう。母さんには内緒だぞ」
「やった!兄ちゃん今食べてもいい?」
あーあー。そんなに目を輝かせちゃって…
晩飯食べれなくて怒られても知らないからな。
「あぁ。でも出来たてだから熱いぞ…って言ったそばから食いやがって」
「ふぁ、ふぁふい。ふぇもほいひいよ」
「食いながら喋るんじゃない。でもありがとな。また来てくれよ」
こんな風に俺は今日も道ゆく人へコロッケを売っていた。
こんな日常がある日突然終わるとも知らずに。