主人公とは何だろうか。特異な才能の持ち主?何らかの欠陥を抱えた者?正義の味方?もちろんそれぞれの
楽器だ。
かつて俺にとっての主人公たちはそう教えてくれた。
***
「お兄ちゃん!はぐみバンドすることにしたから色々教えてっ!」
夕食前自室で暇を持て余していると、突然部屋のドアが開かれ開口一番
「バンド…?どうしたんだ藪からスティックに?」
「スティック…?あっ!ドラムの人が持つやつだよね。ドラムははぐみじゃなくて、かのちゃん先輩だよ。私はベー…」
「待て待て!変なこと言った俺が悪かった。話が全然伝わらない。ゆっくりでいいから最初から詳しく話してくれ…」
早々と話すこいつを俺は遮り、兎にも角にも詳しい話を聞くことにした。
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話を聞いてみた結果、どうやらこいつはガールズバンドを始めることになったらしい。
別にそれ自体は何とも思わないが…
「ベース…なぁ。俺昔はぐみに教えたのってギターだったよな?なんでギターじゃないんだ?」
そう、俺はかつてこいつにギターを教えていたことがある。俺が演奏しているところを見てやってみたくなったそうだ。その時はちょっとした曲ならできるくらいまで技術は上がったが、それ以降続けることはなかった。バンドを始めるならもちろんギターだってあるはずだ。故にベースにしたその理由を俺は知りたかった。
「ギターはかおる君って決まってて、はぐみが話を聞いた時にはベースだけしか残ってなかったんだ〜。ベースってギターより弦の数が少ないから私でも簡単にできる!って思って」
そう笑いながら話す
「お前そんなこと
いつだったかはぐみと同じことを自分があいつらに言った時のことを思い出しながら、俺はベースについて母さんから飯ができたと言われるまで話し続けた。
母さんに呼ばれたため一度話は打ち切り居間へと向かおうとすると、
「そんなに色々あるのー!?」
と、文句を垂れるはぐみ。まぁ簡単だと思っていたものが、こんなに色々あるとわかったら当然の反応だわな。簡単だと思っていたはぐみもはぐみだけど。
「楽器を甘く見るな。ギターを教えた時も言ったと思うが、そう簡単に演奏できると思うなよ」
でも、と俺は一呼吸置き続ける。
「結局のところ演奏する本人が楽しければ俺は何でもいいと思うけどな。今はぐみに言った演奏技術なんてのは、本当に好きなやつが身につけていけばいいと思うし。そう言う意味では誰でもできるってのは間違いじゃない」
バンドなんて楽しんだもの勝ちだと俺は思っている。いくら演奏技術が上がろうが楽しむ気持ちを失ったらそれはバンドではない。はぐみはまだバンドをはじめようとしている段階だ。そんなやつに演奏技術がどうだとかそんなこと言っても仕方がない。とりあえず今は楽しめ、そんな意味をこめて俺ははぐみに話した。まぁ伝わってるとは思わないけど。
そんな俺の言葉にはぐみは、ほえ〜とだらしない顔をしながら声を漏らす。ちょっとかわいい。
「こころんと同じこと言うんだね〜。やっぱ経験者の言うことは違うなぁ」
「そのこころんってのがバンドの発案者なんだろ?一回会ってみたいな。はぐみの友人だから悪いヤツではないと思うが、どんなヤツなのかは知っておきたいし。それにバンドを続けていくなら、はぐみがこれから迷惑をかけるだろうから、先にいっておけば後から文句言われることもそうそうないだろうし」
こいつすぐ何か仕出かすからな…。先に手を打っておいて損はないはず。
バンドを組んでいるのは同級生だけでなく上級生もいると言うのだからなおさらだ。
普段忙しい両親に変わってここは俺が行くべきところだろう。
「はぐみが迷惑かける前提!?まぁいいや。じゃあ明日の作戦会議に来てよ。こころんの家でみんな集まるから」
いいんかいっ!と突っ込みたくなるが、これがはぐみであるからして仕方ない。
明日とは中々に急ではあるが、別に用事があるわけではないし問題ない。
「ほいな。じゃあ明日学校終わったらお前の学校行くから待っててくれ」
「うんっ!わかった!」
そんな約束をはぐみとして、俺たちは晩飯を食べるためにようやく居間へと向かった。
***
翌日はぐみに連れてこられた場所は屋敷…いや宮殿と言っても過言ではないような場所だった。
「黒服さーん。入ーれーてー」
はぐみがそう大きな声で告げると、シュッと俺たちの目の前に黒いスーツを来た男性が現れた。
一体どうやって目の前に現れたんだ…?何が起こったのか全然分からなかったぞ…?忍者なのか…?
「お待ちしておりました、北沢様。そちらは北沢様のお兄様でございますね。お二人ともどうぞこちらへ」
「あ、はい。どうも」
「お兄ちゃん、行くよー?」
北沢様…?お兄様…?
俺がお兄様、つまり俺はさすおにってこと?
訳の分からないことが続いて少し混乱するも、とりあえずはぐみの後を着いていった。
いや、それにしてもはぐみの行動力はすごいな…
昨日の今日だからこの屋敷にも何度も来たわけではないだろうに、すでに自分の家であるかのような落ち着きっぷり。
年上である俺がこんだけ混乱してて、なんだか恥ずかしいよ…
「待ってたわよ、はぐみ。そっちの人がはぐみのお兄さんね。私は弦巻こころ。よろしくねっ」
はぐみに連れてこられた部屋へと入るといきなり、自己紹介をされた。
弦巻…つまりこの屋敷に住んでいる人物ってことだよな。
「どうも、知っての通り俺ははぐみの兄で…」
「あっ!」
俺も自己紹介をはじめようとすると、横から何かにびっくりしたかのような声が聞こえてきた。
何だ?と思った俺は声をした方へと振り向く。
「……花音?」
「先輩っ⁉︎」
するとそこにはかつての後輩が目を見開いて立っていた。