ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
今回の主役はアセム君です。
アセム君のシリアスパート その1
リゼヴィム率いるクリフォトとチーム『D×D』の戦いが激化し始めた頃のことだ。
その日、アセムはある気配を感じ取った。
(不思議な気配だ。魔力………ではないね)
この世界には悪魔、天使、堕天使、妖怪、ドラゴンといった様々な異形が存在し、アセムは各種族特有の気配を覚えている。
だが、今感じたそれはどれとも異なるもの。
それから加えて、もう一つ。
「歪みが大きくなっているね。次元の渦に近いけど………妙だ」
次元の狭間に極稀に生じる歪み。
それは異なる世界を繋ぐことができる。
かつて、兵藤一誠はそれに呑み込まれた結果、アスト・アーデに飛ばされてしまった。
永い年月の中で滅多に起きない事象に巻き込まれたことを嘆くべきか、喜ぶべきか。
その答えは今の彼を見ていれば分かることだが。
それはともかく、ここで感じた世界の歪みは次元の渦とは異なるものだ。
長年、次元の渦を研究してきたアセムだからこそ分かる。
「歪みの場所と不思議な気配が現れた場所が近いね。しかも、その場所は………アハッ♪ なるほどなるほど。どうにも彼はまたまた変なのを呼び寄せてしまったらしい。ドラゴンは力を呼ぶらしいけど、ここまでなのは彼くらいかな?」
アセムは立ち上がるとフードを深く被る。
「さてさてさーて、調度良い退屈しのぎにはなってくれるかな♪」
▽
駒王町の小高い山の中、今は使用されていない倉庫がある。
周囲を木々に囲まれており、辺りは暗闇に染まっている。
当然、人の気配などない。
だが――――その場に『それ』はいた。
暗闇の中を蠢く『それ』を月明かりが照らす。
シルエットは人型をしていた。
四肢があり、頭部もあり、人間のように二本の足で立っている。
しかし、月明かりで照された『それ』は銀色の輝きを放っていた。
全身銀一色。
一見、機械のように見えるが、外皮は非常に滑らかな曲線を描いており、生物にも見える。
頭部は後頭部が突き出ており、目は昆虫の複眼を連想させるものが五つもある一方、鼻と口は見当たらない。
『それ』はとある方向に顔を向けた。
何かが近づいてくるのを感じたからだ。
五つの目が向けられる先、木々の間から現れたのはフードを深く被った少年――――アセム。
アセムは興味深そうに『それ』を見る。
「覚えがないはずだ。だって、君みたいなのこっちの世界はおろか、アスト・アーデでも見たことないしね。いや、誰かが作ったとも考えられるかな? だとしたら製作者にぜひとも話を聞きたいところだね~」
そう言うと、アセムはスマホのカメラを『それ』に向けてピロリンピロリンと呑気に撮影を始める。
アセムは首を傾げる。
「ちょっと映りが悪いような………。ヴィーカ、夜中の撮影ってどうすれば良いんだっけ?」
「えっと、ここを押して夜景モードにして………あー、このカメラの性能だとこれが限界ですね」
「ガビーン。アセム君ショーック」
「そんな棒読みで言われましても。だから、あっちの方が良いと言ったじゃありませんか」
「えー、こっちの方がかっこ良くない? バッテリーも交換できるし」
「確かにその場で交換できるのはポイント高いですけど、内部ストレージとか、CPUはあっちの方が良いと――――」
目の前にいる謎の物体を他所にスマホの性能について議論し始める二人にヴァルスはため息を吐く。
「二人ともスマホの話は後にしてください。というか、今はどうでも良いでしょう?」
「「どうでも良くないし。黙ってよ、ジミー」」
「酷い!? 至極全うなことを言ったのに!?」
降ってきた理不尽にツッコミを入れるヴァルス。
普段からありとあらゆるシリアスを壊してきたアセム達だ。
どんな摩訶不思議を前にしても変わらないのは彼ららしいと言うべきだろうか。
アセムがヴァルス達に問いかける。
「だいたい、僕一人で良いって言ったよね? なんでついてきてるのさ」
「面白いことになるかと思いまして。父上が悪そうな顔してる時は大体、面白いことになりますからね」
「悪そうな顔ってなにさー。こーんなに可愛いのに♪」
人差し指で自分の頬を指し、ウインクまで決めてくるアセム。
その幼い顔立ちをフル活用してぶりっ子を演じる彼にヴァルス達は――――
(((なんか超腹立つ。超殴りたい)))
彼らの想いは一つになった。
もういっそ本当に殴ってやろうかと三人が思っていると、
「ん、ベルもう眠たい」
瞼を擦りながら、そう呟いたベルは掌を銀色の物体に向けて―――――盛大に魔法を撃ち込んだ。
チュドォォォォォォォォォンッッ
生じた爆風が木々を薙ぎ倒し、巻き起こる炎が夜の山を明るく照らす。
アセム達は呆然としながら、炎の輝きを見つめていて、
「「「「いやいやいやいやいや、何やってんの!?」」」」
滝汗と共にツッコミを入れた。
それはアセムもツッコミ側に回るという珍事で、
「ちょいちょいちょい!? ベルちゃん、なんで!?」
「ん。眠たい、から?」
「僕、お持ち帰りしようと思ってたんだけど!?」
「そう、なん……ん……」
「そんなに眠いなら家で寝ときなよ!? ホント、なんでついてきちゃったかな!?」
目を殆ど閉じかけている状態で、カクンカクンと首を前後に揺らすベル。
ラズルが言う。
「眠たい状態で撃つ魔法じゃねーよ、これ。完全に殺る気満々じゃねーか」
末っ子のデタラメさにやれやれと首を振りつつ、ヴァルスが周囲に結界を貼る。
「ここは勇者殿達がいる駒王町。一応、認識阻害の結界は貼りましたが、今ので感づかれたやもしれません。粉々になっているかもしれませんが、残骸だけでも回収して―――――ッ!?」
途中まで言いかけて、言葉を詰まらせるヴァルス。
見開いた彼の目は炎の中へと向けられている。
炎の中からは先程の銀色の物体が立っていたのだ。
それも無傷の状態で。
これにはラズル、ヴィーカも驚愕していた。
「マジか」
「何かで防いだのかしら?」
アセムは感心したように銀色の物体を見る。
彼も知らない不思議な気配に加え、軽く撃っただけとはいえベルの魔法にも耐えうる防御力。
一瞬だったが何かバリアーを展開するのが見えた。
恐らくはそれで防いだのだろう。
ただの興味から解析するべき対象として切り替わるには十分すぎる理由だ。
「これは思っていた以上に面白くなりそうだ。――――来るよ」
次の瞬間、銀色の物体の目が輝き―――――光線を放つ!
五つの目から放たれる赤い光線は、それぞれが意思を持つかのように宙で縦横無尽かつ自在に軌跡を高速で描きながらアセム達に接近する。
アセムとベルを除いた三人は、既に戦闘態勢に入っており、各々、赤い光線への対処に移っていた。
ラズルは拳に、ヴィーカは剣にオーラを籠めて撃墜を狙う。
そして、ヴァルスは魔法陣で防ごうとした。
赤い光線が展開された魔法陣に触れた瞬間、
「ッ!? 退がりなさい、ラズル!」
そう叫ぶヴァルスは咄嗟に身を引いて、剣で光線を斬り裂いた。
ラズルも彼の指示通り、大きく横に飛んで、光線を避けた。
慌てた様子の彼にラズルが問う。
「どうした? おまえの防御魔法陣でも防ぎきれない代物だったのか?」
その問いにヴァルスは暫し考え込む。
「防ぎきれない………と言うと、少し違うようです。あの光線は私の魔法陣をすり抜けようとしていました」
ヴァルスの能力は二つ。
相手の心を読み、一瞬先の未来を視るというもの。
今の攻防で、ヴァルスは赤い光線が自分の魔法陣をすり抜ける未来が見えた。
それ故に剣での迎撃に切り替えたのだ。
「魔法では防げない? ラズルの拳でも弾ききれないと?」
アセムの問いにヴァルスは答える。
「現時点で断定は出来ません。が、ラズルの腕が焼かれる未来が見えました」
実際に視た未来ではラズルの負った傷は大したものではなかった。
精々、小さな火傷程度といったところだろう。
しかし、兵藤一誠の禁手第二階層『天武』の攻撃すら、余裕で耐える防御力を誇るラズルに傷をつけた。
それが意味することは、
「生半可な者では触れた瞬間に貫かれるでしょう。私達に倒せない相手ではないでしょうが、油断は禁物ということです」
話をしている間も赤い光線はまだまだ放たれ続けている。
今はヴィーカが『武器庫』から射出した武具で光線を全て打ち落としていた。
「とりあえず、ガンガン撃ち落とすでオッケー?」
ヴィーカが創造した聖剣と魔剣は有効らしく、赤い光線を難なく防ぎきっている。
アセムは親指を立てる。
「うんうん。とりあえず、そんな感じでしのいでみて? もう少し様子見したいから。あっ、四人とも極力壊さないようにね。後であれで遊ぶ予定だしー」
「注文の多いことですこと。子供の心配より玩具の心配ですか?」
「アハハ♪ 君達なら余裕でしょ?」
「うふふ、信頼していただいているようでなにより」
ヴィーカは笑みを浮かべると共に飛び出していき、それに続く形でラズルも向かっていった。
ヴァルスは周囲に何重もの結界を張り巡らして、被害の抑制と、駒王町の者がこの場に来ないよう時間稼ぎに務めた。
「まぁ、彼らなら割とすぐに来そうだけどねー」
「ええ。なので、さっさと終わらせてくださいね?」
「んー、出来ればギリギリまで引っ張りたいんだけど?」
「全く、あなたという人は………いえ、父上にこのようなこと今更でしたな」
「わかってるじゃん♪」
アセムはその場に座り込むと、完全に寝てしまったベルを膝に抱いて、ヴィーカ達の戦いを観察し始めた。
銀色の物体が放つ赤い光線は魔法陣をすり抜ける。
ヴァルスの使う防御術式は魔法、物理的の両面に対処が可能だ。
つまりは、あれは物理でも魔法でもない全く異なるものだということ。
更に赤い光線はターゲットを追尾することも可能らしく、ヴィーカとラズルをハチャメチャな軌道で襲いかかっていた。
無論、二人は攻撃を受けることなく、難なく対処しており、ヴィーカは赤い光線を斬り払うと一頃に入り―――――銀色の物体を両断した。
切断された上半身が崩れ、物体は後ろに倒れ込んだ
「もう終わり? 意外と大したことないのかしら?」
あまりに呆気ない様子にヴィーカは拍子抜けと言った様子だった。
両断された物体は体液すら出ておらず、まるで壊れた人形のように静かだ。
それに、
(真っ二つにされてもまだ気配が残ってる。ということは………)
アセムはヴィーカに言う。
「ヴィーカ。まだ終わってないようだよ?」
アセムの言葉に、ヴィーカは銀色の物体へと視線を戻す。
すると、銀色の物体は両断された面から細い触手のようなものを無数に出して、上半身と下半身を繋ぎ合わせようとしていた。
「再生能力持ちなのかしら」
ヴィーカは二刀流の構えで、剣を振るい、物体を細切れにする。
だが、切れ端からは先程と同じように触手が伸び、破片を融合させようとしていった。
欠片になっても再生しようとする物体に唖然とする中、ヴァルスが言う。
「父上。勇者殿一行がこちらに向かってきています」
「ありゃ、タイムリミットだね」
残念とアセムは小さく息を吐く。
「もうちょい見ていたかったけど、ここでドンパチやるわけにもいかないからねー。後は持ち帰ってテキトーにバラしてみようかな」
パチンと指を弾くと銀色の物体が光に包まれ、どこかへと消えてしまう。
「とりあえず、別空間に飛ばしておいたよ。僕が造った固有の空間だから、僕の許可無しでは絶対に出られない。彼らが来る前に撤収するよ」
チーム『D×D』の気配に背を向けるアセム。
突如として現れた謎の物体。
次元の歪み。
アセムですら知らない未知の力。
そして―――――
「これから何が起きるんだろうね?」
深く被ったフードの内側で、楽しげに笑みを浮かべた。