ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
謎の生物を捉えてから数日が経った。
あれからは何も起きず、ただただ平穏な時間が過ぎていた。
その間、アセムはというと、自室に籠り謎の生物を調べていた。
「失礼します、父上………って、なんですかこの状況は」
部屋に入るなり、ヴァルスは目元をひくつかせる。
部屋中に散乱する魔法から物理、生物に関する書物と魔導具の数々。
それは床だけでなく、宙にも漂っており、文字通り部屋を埋め尽くすようだ。
部屋の奥ではアセムと、アセムの魔法により拘束された例の生物がいて、
「ヴァルスじゃん。やっほー」
「やっほーではありませんよ。なんですか、この散らかり具合は」
ジト目で問うヴァルスにアセムは、謎の生物を指差しながら言う。
「これ調べるのに苦労してるんだよねー。あ、ビーム撃つから気をつけてね」
アセムがそう言った瞬間、謎の生物は目から赤い光線を放ってきた。
ヴァルスは抜剣してかき消すが………、
「ちょっ!? 拘束は!?」
「してるじゃん」
「いや、ビーム撃ってきましたけど!?」
「そりゃあ、体の固定だけだからね。ビームくらい撃ってくるよ」
「馬鹿なの!? この人、馬鹿なの!?」
謎の生物は魔法によって、その場に固定はされているが、活動は続けている。
よって、今のように光線でアセムを攻撃していたのだが、アセムは適当にあしらっていたらしい。
つまり、攻撃を捌きながら、生物の調査を行っていたということ。
「だって、止めちゃうと手に入る情報が減るじゃん。こういうのはね、生け捕りにしてこそなんだよ?」
「仰ることは理解できますが………いえ、もう良いです」
最もらしいことを言うアセムに、ヴァルスは深く息を吐く。
「それで正体は分かったのですか?」
ヴァルスの問いにアセムは首を横に振る。
「ぜーんぜん、さっぱりさ。少なくともこの世界でも、アスト・アーデの生物でもないね。文献も漁り倒したけど、これに繋がるような情報はなし。いやー、まいったまいった」
アハハ、と楽しげに笑うアセム。
軽い反応をするアセムとは対照的に、ヴァルスは眉を潜めた。
アセムの持つ規格外の強さ。
その根本は彼の持つ膨大な知識と技術によるものだ。 あらゆるものを解析し、その原理、構造、起源を解き明かしてきた。
それ故にアセムは次元の渦をも理解し、二つの世界を自由に行き来できる術をも得ているのだ。
そのアセムですら知らない、分からない存在。
未知であり―――――脅威だ。
しかも、敵意を持つとなれば尚更のこと。
アセムは未だ光線を放つ謎の生物を小突く。
「これが現れる直前、次元の狭間に不自然な歪みが生じていた。もしかすると、何者かが送り込んできた先遣隊だったりして」
「それは………面倒なことになりそうですね。リゼヴィム殿にこのことは?」
「知らせるわけないじゃん。リゼ爺ってば、隙あらば僕を出し抜こうとするし」
アセムはウィンクする。
「今回の件、僕が対処する。こんな面白そうなこと、誰にも譲るつもりはないよ」
それこそ兵藤一誠達、チーム『D×D』にも――――
ところで、
「いつまでビーム出してるのさ。いい加減にしないと、バラバラにしちゃうよ?」
アセムは謎の生物にチョップして、部屋の床にめり込ませた。
▽
謎の生物を一通り解析してみたが、正体はおろか、体を構成している物質すらも不明のまま終わった。
そこで、アセムは次の手を打つことにした。
それは―――――
「『吊るしておけば、仲間が助けに来るんじゃない? 作戦』開始~! ドンドンパフパフ~!」
アセムは謎の生物と遭遇した場所、駒王町の小高い山に一人で来ていた。
アセムの視線の先にはあの謎の生物が、縄で括られた状態で木に吊るされている。
どこか情けなさを感じる光景に、アセムは満足そうに言う。
「うんうん、バッチリじゃん。これで君のお仲間が現れてくれたら、生かしておいた甲斐もあったってものだよー。あ、攻撃しようとしても無駄だからね?」
生物の活動は停止していないため、今もアセムに光線を放とうとしている………が、撃つ前にアセムによって無効化されてしまうので、攻撃できないでいた。
この謎の生物が仮に、何者かが送り込んできたものだとして。
アセムに捕まり所在が不明になったものが、再びこの場に現れたら、送り込んできた者はどう思うだろうか。
何かあるとして現場に現れる、もしくは何かしらの行動を起こしても不思議じゃない。
アセムは意識を集中させ、自身を中心に円を描くように探索範囲を広げていく。
町全体は当然、その更に先まで。
羽虫の僅かな気配すら逃すことのないように探索範囲にある気配の一つ一つを認識していった。
(今のところ反応無し。もうちょっと待ってみるかー)
アセムは木の根本に座り込み、そのまま木に背中を預けた。
あれから調査を続けたが、生物の正体は分からずじまい。
分析しても分かったことは構成されている物質すら未知であることだけ。
(少なくとも僕が知る世界には存在しない物質だってこと。これは僕が思ってた通りになりそうだ)
アセムが生まれた世界アスト・アーデ。
一誠達がいるこの世界。
アセムは『コードD』と仮の名前をつけているが、この世には既に二つの異なる世界が存在している。
となれば、それ以外の世界が存在していても不思議ではないだろう。
(まぁ、そこはさして問題じゃあない。問題なのは相手がどういう思惑でこの世界に来たかということ。しかも、現れたのはよりによって
謎の生物が現れたのは三大勢力、しかも兵藤一誠達の拠点である駒王町だ。
(勇者君達の味方って線もなくはないけど………その可能性はほぼなしかな)
アセムは夜の空に浮かぶ月を見上げて笑みを浮かべた。
「さてさて、どうなることやら」
これから起きるであろう出来事を待ちわびるようにそう呟いた。
▽
それから待つことしばらく。
あまりにも何も起きないためか、アセムは枯れ木を集め火を起こしていた。
そして、火の周りには木の棒に刺されたチーズ。
チーズが熱で溶け、芳ばしい香りを漂わせ始めた頃だった。
奇っ怪な音がどこからか聞こえてきた。
《ギガガガガ》
《グゲゲゲゲ》
それは声にも思えた。
茂みの奥からぬっと姿を見せたのは例の銀色の生物。
それが二体。
アセムはチーズの焼き加減を見ながら、銀色の生物に話しかけた。
「やっと現れたね。あまりに出てこないから、ハイジごっこを始めちゃったじゃないか。おかげで良い感じに焼けたよ。あちち」
ふーふーとチーズに息を吹きかけながら言うアセム。
《ギガガガガ、アザゼル、ギガガガガ》
《グゲゲゲゲ、ヒョウドウ・イッセー、リアス・グレモリー、グゲゲゲゲゲ》
「ほほう?」
機械的な声で述べられた名前にアセムは眉を潜めた。
アザゼルと兵藤一誠。
そして、リアス・グレモリー。
銀色の生物の雰囲気はとても友好的ではなかった。
狙いは今の三人ということになる。
銀色の生物は五つの赤い目でアセムを捉えた。
《グゲゲゲゲ、データアリ。アスト・アーデ………アセム》
「おやおや、僕のこともご存じだったのかい。はふはふ」
《ギガガガガ、ソウテイガイノソンザイ。ハイジョシャニツイカ》
生物は言うやいなや、例の光の触手のような攻撃を始める。
アセムは相変わらずチーズにかぶり付きながらも、その場から飛び退き、軽くかわしていく。
「現れて早々に攻撃してくるなんて失礼じゃないか。こっちはチーズが思ってたより熱くて、食べるのに苦戦してるんだよ?」
向けられる攻撃に反撃しようとアセムが動こうとした――――その時。
「来て早々にこいつらと会えるなんてな。さい先が良いのか、悪いのか」
刹那、銀の生物の一体が頭から縦に両断された。
真っ二つにされた生物が崩れ落ち、その後ろからは一人の少年。
少年の手には濃密なオーラを纏わせた聖剣が握られていた。
「下がれ、漸」
聞こえてくる別の男の声。
その声を聞いて、聖剣を持つ少年が横に飛び退く。
次の瞬間、
「――――雷光よ」
声と共に巨大な雷光が銀の生物に落ちる。
瞬く間に光に呑み込まれた生物は、抗うことすら出来ずに消し炭にされてしまう。
銀の生物を容易く葬った二人の少年がアセムの前に立つ。
一人はデュランダルに似た聖剣を持ち、もう一人は黒髪で細身の少年だ。
先ほどの雷光を放ったのは黒髪の少年だろう。
黒髪の少年は聖剣の少年に言う。
「勝手に突っ走るなと言ったろう、漸」
「そうは言ってもさ。あいつら、あの子に襲いかかっていたんだぞ? 俺が斬らなかったらどうなっていたか」
「しかし、この時代の人間に容易に姿を見せるなと、あの人からも――――」
と、アセムをおいて何やら言い合う二人の少年。
なるほど、どうやら二人はアセムが銀の生物に襲われていると思い、助けてくれたらしい。
黒髪の少年は深く息を吐くと、アセムに話しかける。
「大丈夫かい? 怪我はしていないだろうか?」
「いやー助かったよ二人とも。二人がいなかったら、今頃、僕はあの怪物のお腹の中だっただろうねぇ」
カラカラと笑いながらお礼を言うアセム。
実際は無傷で捕らえて実験台にするつもりだったのだが、当然、この状況でそんなことを言うはずもない。
わざとらしい態度のアセムに、『漸』と呼ばれた聖剣の少年が問う。
「それで、君は何者だ? ULの攻撃を軽く避けるなんて、一般人には不可能だ。こんな時間に、こんな場所で何をしていたんだ?」
「えーと、僕はねー………んーと………そうだ!」
何かを思い付いたように手を叩くアセム。
そして、その場でくるっと回り、ビシッとポーズを決めて、高らかに言う。
「星空を見ながら、ハイジごっこを楽しんでいたどこにでもいる子供さ!」
「ハイジごっこってなんだ!?」
「ここはあえてペーターと名乗っておこう!」
「人の話聞けよ!?」
「見てよ、この良い感じに焼けたチーズを。これがハイジごっこを楽しんでいた何よりの証拠さ」
「食べかけのチーズを堂々と見せられても困るんだけど!?」
アセムのボケにツッコミを入れる漸。
何とも身に覚えのあるやり取りだ。
(このツッコミのキレ………まさかまさかの。うーん、これはホントに予想外)
今のやり取り。
見覚えのある顔立ち。
何より、二人の少年から感じ取れる力の性質。
普通に考えればあり得ない話なのだろうが、アセムには確信があった。
黒髪の少年が漸を制して言う。
「真面目に答えてほしい。君は何者なんだ?」
「人に名前を聞く前に、まずは自分から名乗りましょうってお父さんに教わらなかったのかな?」
アセムの返しに少し考える黒髪の少年。
どうやら、正体を明かすのに躊躇いがあるらしい。
しかし、少年は仕方がないと思ったのか、自分の名前を名乗った。
「………いいでしょう。僕は姫島紅といいます。訳あって、UL………先ほど生物を追っているところです」
少年――――紅に続き、漸も名乗る。
「俺は漸・クァルタだ。さぁ、名乗ったぞ。君はいったい何者なんだ?」
再度、問う漸。
二人のアセムを見る目が次第に警戒心で染められているのが分かる。
だが、そんなものはアセムにとってどこ吹く風。
むしろ、彼らの反応を楽しみたくなってきていた。
アセムは二人と向かい合い、口を開いた。
「僕はアセム。異世界アスト・アーデの悪神にして、この世界に混乱をもたらす者。そして、君達の父親、兵藤一誠の敵さ」
「「なっ………!?」」
二人の驚く顔にアセムはイタズラな笑みを浮かべたのだった。