ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
「えーと、キャラメルフラペチーノを一つと、カフェラテ、それから本日のコーヒー。あとは冬限定のベイクドショコラケーキください」
「ご注文ありがとうございます。少々お待ちください」
「はーい」
注文を取り終えた店員が去った後、アセムは楽しそうに言う。
「ここのケーキ美味しいんだよねー」
漸は呆れたように言う。
「さっきチーズ食ってただろうに。まだ食うのか」
「ふふん♪ 甘いものは別腹なのさ」
紅と漸に名乗った後、アセムは二人を連れて駒王町から少し離れた町にあるファミリーレストランに移動していた。
紅がため息を吐く。
「なんだか、さっきまでの警戒が無駄に思えてきますよ」
「そりゃそうだよ。そもそも僕にその気なんてないさ。それにあそこでドンパチやって、不味いのは君達でしょ」
アセムの名前を聞いた後、紅と漸は戦闘体勢に入ろうとしていた。
だが、あの場でやり合えば、駒王町を拠点にする者達が駆けつけてくるだろう。
そうアセムに諭され、二人は大人しくここまで着いてきたのだった。
もっとも今のアセムを見て、戦う気は失せたようだが。
アセムは言う。
「それで紅君と漸君だっけ。二人ともお母さん似で美形だよね~。あちこちでモテてそうだよね~」
紅が一誠と朱乃、そして、漸が一誠とゼノヴィアとの子供になるのだろう。
二人が持つオーラは各々、両親のものと一致していた。
紅が言う。
「母親似だとは良く言われます。けど、どうして僕達が父………兵藤一誠の息子だって分かったんですか? この時代の父はまだ――――」
「いやいや、見ればなんとなく分かるって。二人とも未来から来たんでしょ?」
「なんとなく………ですか。噂には聞いていましたが、とことん規格外ですね」
「母さん達から聞いてた通りだな」
漸も紅同様にため息を吐いた。
二人ともアセムのことは親達から聞いていたようだ。
「二人が僕のこと、どんな風に聞いているのか気になるけど、それはさておき本題に移ろうか。改めて君達の自己紹介と目的を聞いても良いかな?」
興味津々といった表情で問うアセム。
二人は顔を見合わせると頷き、先に紅が口を開いた。
「それでは改めまして。僕は姫島紅。兵藤一誠と姫島朱乃の息子です」
漸も紅に続く。
「俺は漸・クァルタ。親父が兵藤一誠で、お袋がゼノヴィア・クァルタだ。俺達は三十年後の未来からやって来たんだ」
三十年後の未来からやって来た。
アセムの予想道理の回答だった。
時間を超え、過去に戻る技術は現段階では存在しない。
しかし、今から技術が発展した未来であるなら、その技術が確立されていてもおかしくはない。
紅が言う。
「タイムパラドックスを起こしたくないので、詳しくは教えられませんが………それでも構いませんか?」
「別に構わないよ。まぁ、話しても問題ないと思うけどね。こうして僕に着いてきたということは、
「………それを伝えてしまって良いのですか?」
「どっちでも良いさ。別にそれを聞いたからと言って、僕のやることは変わらないし」
何を言われたところでアセムの行動原理が変わることはない。
たとえ、それが自身の未来の話であったとしても。
(ぶっちゃけ、僕との邂逅が既に歴史を変え始めているかもしれないけど。それをここで言っても仕方ないよねー)
注文していたドリンクが届き、アセムはカップに口を付ける。
紅と漸も一度、喉を潤し、本題に入った。
「今から三十年後、『邪神戦争』と呼ばれる大きな戦が起こります。《エヴィー・エトウルデ》という異世界からこの世界は侵攻を受けたんです。先程の生物はその異世界の邪神が作り出した兵隊で、僕達は『UL』と呼称しています」
「UL?」
「『Under world Life form』の略称です。奴らは機械と生物の融合体と思ってください」
「あー確かにそんな感じだね」
異世界エヴィー・エトウルデ。
異なる世界の観測は前々から行っていたが、その名は今回初めて知った。
「彼らは雑兵なのかい?」
「ええ、雑兵もいいところです」
「そりゃ大変だ」
ULの力はアセムにとって未知だ。
それは当然、この世界にとっても、アスト・アーデにとっても。
仮に今、集団で攻めてこられたら、対応できる者はほとんどいないだろう。
そんなUL達を雑兵と呼ぶには強力すぎる。
「けど、君達を見たところ、対策は取れているようだね」
「ええ。おかげで今のところは善戦できています」
「ってことは彼らがこの時代に来たのは、それが原因かな?」
ケーキを頬張りながら問うアセムの言葉に、紅と漸は厳しい表情を浮かべる。
漸が頷く。
「この時代に、北欧の悪神ロキがULを連れて来ているんだ」
「ロキってあの?」
思わぬ人物の名前につい聞き返してしまうアセム。
ロキといえば、兵藤一誠達に敗れた後、アースガルズの牢獄に繋がれている。
そんなロキが三十年後の世界にいるULを引き連れているとなると、
「もしかして、戦争のどさくさに紛れて脱獄した?」
「その通り。三十年後のロキは脱獄後、エヴィー・エトウルデの勢力に加わり俺達の敵になっている。その途中で、異世界の技術を用いて、時代を超え、この時代に辿り着いたんだ」
「へぇ………」
漸の回答にアセムは眉を潜める。
「ロキの目的は復讐かな?」
「ええ。ロキ達は歴史を改変するつもりのようです。異世界の邪神達は、この世界の歴史を弄り、自分達にとって都合の良いようにしたいのです」
「それで俺達の親父や母さん達の本来あるべき出来事を塗り替えるつもりなんだよ。俺達の世界――――未来の世界では、並行世界、つまり世界線の観測ができる能力者がいるんだけど、その人が言うには、こことは違う世界線では既に異なる歴史になっているらしい」
「具体的にはどういう風に違うんだい?」
アセムの問いに紅が答える。
「例えば父さんが異世界アスト・アーデに召喚されなかった世界線でしょうか。その世界線ではあなたもこちらの世界には来ていません」
「ありゃま。そこから違うんだ?」
兵藤一誠がいなければ、自分もここまで深くこちらの世界に関わっていなかっただろう。
そうなるとアセムの行動は根本的に変わってくる。
それはアセムにとって不快なもので、
「やってくれるじゃん。この僕の歴史さえ変えてくれるなんてさ」
「あなたの怒りはごもっともでしょう。というより、ここまでの話を信じていただけるのですか?」
「なんで? 今のところ、君達の話を疑ってないよ?」
あっけらかんと返すアセムにあっけに取られる二人。
いきなり三十年後の未来だの、異なる世界線だのと言われても信じるのは難しいだろう。
二人もまた信じてもらえるかは半信半疑と言ったところだった。
紅と漸はお互いの顔を見合わせると吹き出していた。
「フフフ、やっぱり聞いていた通りの人ですね」
「ねぇ、君達って僕のことどんな風に聞いてるのさ?」
アセムに問われ、漸がおかしそうに答える。
「最強の悪神、世界の敵、チート神、シリアスぶっ壊し野郎」
「なにさ、その変な称号の数々は。失礼しちゃうよ」
「それから――――」
ぷくっと頬を膨らませるアセムに対して、漸が続けようとした、その時だった。
何かに気づいた紅が懐から小さな機械を取り出した。
その機械が示す表示に紅は真剣な表情となる。
「どうやらゆっくりする時間は終わりのようだ。奴らが現れた」
▽
深夜の上空を移動する一行。
先導する紅の後を着いていくようにアセムは飛行していた。
どうやら、先程の機械はULが出現したポイントを知らせる機能があるようで、紅は迷うことなく真っ直ぐ目的の場所を目指していた。
先を行く紅と漸の姿を見て、アセムは呟く。
「ドラゴンの翼。その辺りは父親譲りっぽいね」
そう、二人の背から生えているのは悪魔の翼ではなく、ドラゴンの翼だった。
どうやら父親からはドラゴンの因子を強く受け継いだようだ。
「ところで、君達って僕に会う予定はなかったんだよね?」
アセムの名前を聞いて驚いていた様子を見るに、二人にとっては予定外の邂逅だったのだろう。
紅が答える。
「ええ、まぁ。元々、この時代の人と接触するつもりはありませんでした。もし、接触するならアザゼル初代総督と考えていました。あの方なら、何か起きた時に僕達の助けになってくれると聞いていたので」
「けど、僕と接触してしまったから、それは止めたと」
「タイムパラドックスを抑えるためにも、可能な限り接触人数は抑えたいんです。それでも、あなたが力を貸してくれるなら、これ以上、心強いこともないのでしょう」
「ホント、君達って僕のこと何て聞いてるのさ。一応、君達の両親の敵なんだけど」
「調子狂っちゃうなぁ」と呟くアセムに微笑む二人。
最初に向けられた警戒心はどこへやらだ。
と、ここで紅がある一点を指差した。
そこはある山の奥地。
人が立ち寄らないであろう場所だった。
三人はそこへ降り立つと、複数の蠢く物体を視認できた。
それは十数体にも及ぶUL。
到着した時には既に戦闘が始まっていて、ULが放つ赤い光線と、紅いオーラが衝突している。
紅いオーラを放つのは一人の剣士。
フードを深く被っており、顔は確認できない。
その剣士はその手に握る真紅の長剣を横凪に一閃し、ULを一気に屠ってしまう。
相当な実力者であることは間違いないだろう。
紅いオーラを纏う剣士が言う。
「ようやく会えたな――――ロキ」
剣士の声はまだ幼さの残る少年の声だった。
彼と対峙するのは神々しくも禍々しいオーラを放つ北欧の悪神ロキ。
ロキは忌々しそうに顔を歪める。
「貴様は………! ここまで追ってきたというのかッ!」
剣士がふいにフードを取り払う。
月光に照らされて露になる――――紅髪。
紅が紅髪の少年に声をかける。
「イクス、来ていたのか」
イクスと呼ばれた少年剣士は不敵な笑みを見せていた。
「やぁ、兄さん達。遅いから、俺だけで片付けようとしていたところだよ」
そう告げて、イクスは再びULに斬りかかっていく。
ULは彼に向けていくつもの赤い光線で応じるが、イクスはその全てを避けて、懐に入り込み、瞬く間に切り刻んでしまう。
一瞬で距離を詰めてくるイクスに、ロキは魔方陣を展開し、魔法による攻撃を撃ち込むが、イクスは真紅の長剣で容易く打ち消す。
「我が魔法を斬り払うかッ!」
舌打ちするロキにイクスは言う。
「おまえを斬るために三十年前の世界にまで来たんだ。これくらいで驚くな」
「舐めた口を!」
ロキは手新たな魔方陣を展開すると、そこから刀身を炎に包まれた剣を抜き放つ。
イクスとロキは飛び上がり、空中で魔法と剣戟の応酬を繰り広げ始めた。
アセムは感心したように言う。
「やるね。見た感じ、あの子のお母さんはリアスちゃんかな?」
「はい、彼が僕達の弟であるイクス・グレモリー。グレモリー一族きっての剣士で、各神話体系の連合軍における若きエースです。未来の世界での異名は――――『真紅剣の神滅龍子』」
空中でロキと睨み合うイクスは紅髪をかき上げ、切っ先をロキに向けた。
「ロキ。おまえは確実に斬り滅ぼす。おまえがしたことの報いをくれてやるッ!」
滅びの魔力がイクスの体から立ち登った。