ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
宙に靡く長く艶やかな黒髪。
頭には魔法使いが被る大きな黒い帽子。
そして、漆黒のローブを纏い、黒い戦闘服を身につけるという黒ずくめの格好だ。
手には龍を型どった魔法杖が握られており、その龍は翡翠色の宝玉を掴んでいる。
歳は二十代前半くらいだろうか。
帽子の下には美しく整った顔立ちが見え、その瞳は静かに眼前の敵を見据えている。
身に纏うオーラはとても静かなものだった。
しかし、探らなくても伝わってくる圧倒的な実力。
魔王が舞い降りたのだと錯覚してもおかしくはなかった。
場が静寂に包まれる中、黒髪の女性が口を開く。
「――――ガルヴァルダン」
刹那、この場にいる全員の背筋が凍った。
【………ッ!?】
名を呼ばれたガルヴァルダンの巨体が後退る。
アセムは理解した。
今のはただ言葉を発したのではないと。
言葉に魔力を乗せたのだ。
それにより生み出された圧がガルヴァルダンの巨体をひるませたのだ。
アセムが視線を紅達に向けると、彼らもまた頬に冷や汗を伝わせていた。
ガルヴァルダンが唸るように言う。
【てめぇ………! なんでここにいやがるッ! てめぇは――――】
「まだこの時代には来れないはずって? 足止めできると思った? たかだか数百のULで?」
【もう全部倒したってのか……ッ! あいつらはてめぇに特化させていたんだぞ!】
「そうなの。でも、目の前の現実が全て。あなた達の頑張りは無駄に終わったわ」
淡々とした口調で返す黒髪の女性。
どうやら、ガルヴァルダン達は女性の足止めとしてULの大群を、しかも対彼女専用の性能にして、差し向けていたらしい。
足止めくらいは出来ると踏んでいたのだろうが、ガルヴァルダンの予想は大きく外れたようだ。
【化け物がッ!】
ガルヴァルダンが口を開き、再び極太の光線を放った。
光線は真っ直ぐ女性へと向かっていく。
女性は左手を正面に向けて―――――光線を受け止めた。
【なんだとッ!?】
彼女の左手の甲には青白く光る魔法陣が浮かんでおり、掌を濃密な力が覆っている。
その力はガルヴァルダンの光線を容易く握り潰した。
「威勢が良い割にはこの程度かしら?」
【クソがァァァァァァァァッ!】
吼えるガルヴァルダンは腰ロケットの火を噴かし、黒髪の女性に接近する。
怒りに身を任せ、その巨腕を横凪に振るい女性を吹き飛ばそうとした。
女性の身長よりも大きな掌が襲う――――しかし。
【ウソだろ………ッ!?】
ガルヴァルダンが驚愕の声を漏らす。
振るわれた巨腕は女性に受け止められていた。
しかも片腕で。
彼女の細腕のどこにそんなパワーがあるのか。
それは彼女が扱う力に秘密があった。
アセムは目を細める。
「なるほど。――――錬環勁氣功か」
紅が頷き、アセムの言葉を肯定する。
「彼女は兵藤・アルフィリア・美咲。僕達はアルフィ姉さんって呼んでます。アセムさんの言う通り、姉さんは錬環勁氣功を会得しています」
錬環勁氣功。
彼らの父、兵藤一誠が異世界アスト・アーデにある神々が住まう『神層階』で会得した操体術。
目の前の彼女―――――アルフィリアは神を降す武を修得しているということか。
アルフィリアが言う。
「私に近距離戦を挑むなんて、身のほど知らずね。ここは私の距離よ」
アルフィリアの拳が握られる。
次の瞬間、寒気がするほどのオーラが拳を包み込む。
青白い光を纏った拳がガルヴァルダンの巨体を殴り付けた。
凄まじい衝撃音と巻き起こる破壊の嵐。
殴られたガルヴァルダンは遥か後方へと吹き飛んでしまっていた。
やがて勢いは止まり、倒れた木々の上に伏せるガルヴァルダン。
アルフィリアは動かないガルヴァルダンに手を翳す。
「捕縛せよ」
彼女がそう言うと、青白い光で構成された鎖がガルヴァルダンの周囲に現れ、巨大な体に巻き付き、動けなくしてしまった。
今の一撃によるダメージが大きいのか、ガルヴァルダンは動く気配がない。
紅達が苦戦していた相手を、ダメージを負っていたとは言え、たったの一撃で沈めてしまったのだ。
彼女が帽子をくいっと上げると、月明かりがその顔を照らす。
傲りも、油断もない。
ただ圧倒的な力で敵を制するその姿は異世界アスト・アーデにおいて最強と称された魔王を彷彿とさせる。
アセムは言う。
「強いなんてものじゃない。あれでも本気じゃないなんてね」
黒茨が言う。
「アルフィ姉さまは最強にゃん」
「正直、姉さんには一度も勝てた試しがないね」
漸も苦笑しながらそう続いた。
アルフィリアは振り返り、弟妹達に視線を向けると、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
こうしていても全く隙がない。
先程の戦いぶりといい、彼らが最強と呼ぶのも当然だろう。
アルフィリアは弟妹達の前に立つ。
鋭い目付きで彼らを見渡した―――――次の瞬間。
「紅くん、漸くん、白ちゃん、黒ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッッッッッ!」
アルフィリアは弟妹達に飛び付いた。
そして、そのまま高速の頬ずりを繰り広げ、
「スーハー………スーハー………あぁぁぁ、オトウトニウムとイモウトニウムが補充されて………スーハースーハー………」
「ちょ、姉さん!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ! 死ぬ! 今、そんな力で抱き締められたら死ぬぅ!」
「ね、姉さま!? そこは!」
「くすぐったいにゃん!」
叫ぶ弟妹、抱き付き彼らに顔を埋めて匂いを嗅ぐ姉。
「もうちょっとだけ。もうちょっとだけだから。もうちょっとだけ、お姉ちゃんにクンカクンカさせて!」
「嫌だよ!? というか、姉さんの『もうちょっと』は全然『もうちょっと』じゃないからね!?」
「漸くん、酷い! お姉ちゃん、ここに来るのに結構頑張ったんだよ!? あいつらが数連れて襲ってくるからボコボコにして、アスト・アーデにも出たから、あいつら超ボコボコにして、とにかくボコボコにして………頑張ったお姉ちゃんに癒しをくれたって良いじゃない!?」
「姉さんの凄さは知ってるけど、それはそれ、これはこれ!」
「前は『ねーね』って言って甘えてきたのに! いっつもお姉ちゃんの後ろについてきてたのに! あんなに『ねーね、抱っこ』って言ってきたのにぃぃぃぃぃ!」
「ことあるごとに昔の話するのやめて!?」
目に涙を浮かべて駄々をこねるアルフィリアと顔を真っ赤にして悲鳴をあげる漸。
ガルヴァルダンを吹き飛ばした時の凛とした雰囲気は消し飛んでしまっていた。
姉の魔の手(?)は他の三人にも伸びていて、
「はわぁぁぁぁ………白ちゃん、黒ちゃん、時空飛び越えても可愛すぎて萌える………最&高ッ!」
「姉さま、恥ずかしいです」
「にゃぁぁぁ…」
「紅くんもかっこ良くなっちゃって………昔は一緒にお風呂に入って、アヒルのおもちゃで遊んでいたのに………今では時空超えてもイケメンで………!」
「姉さん!? それいつの話!?」
一人置いてけぼりになるアセム。
ここまで彼が空気と化したことがあっただろうか。
どこか見覚えのある光景にアセムは天を仰いだ。
(なに、このシスコンとブラコンを煮詰めたような娘………)
確かにこの時代にもシスコンブラコン義兄妹はいる。
行きすぎた義兄妹愛は周囲からツッコミを受けるほど、強烈だ。
しかし、目の前の光景はそれすらも超えているようで。
今日、アセムは初めて自分が無知だったことを悟った。
シスコン、ブラコンは遺伝する。
そして、時には混ざり合うこともあるのだと。
親から引き継いだシスコンとブラコンは強力になり、やがて制御が効かなくなる。
「これが『シスコンブラコン終末論』」
アセムがそう呟くと、一陣の風が吹くだけ。
そう、このボケにツッコミを入れられる者は誰一人いなかったのだ――――。
などと考えていると、突如、爆裂音が轟き、土煙が舞った。
空高くまで飛んだ土煙のせいで、視界が完全に遮られてしまう。
そんな中、ジェット機のような甲高い音と共に頭上を一つの大きな影が通りすぎる。
漸が叫ぶ。
「ガルヴァルダン! あいつ、まだ動けたのか!」
腰ロケットを火を噴かし、空に飛んでいくガルヴァルダン。
アルフィリアの拘束を解いたようだ。
「行かせない!」
「逃がすかよ!」
紅と漸が攻撃を繰り出し、撃ち落とそうとする。
すると、ガルヴァルダンの右肩の部分が開き、スピーカーユニットのようなものが露になる。
そして――――。
「「………ッ!」」
突如として襲いかかる耳障りな不協和音。
何かしらの術式が刻まれているのか、紅達は耳を押さえて、苦悶の表情となる。
【まさかこんな形で撤退するとはな! 今回は退いてやるよ! だが、次は殺すぜ、赤龍帝のガキどもッッ!】
ガルヴァルダンのロケットは更に勢いを増し、空の彼方へと消えていく。
もう紅達の攻撃が届く距離ではなく、漸が悔しそうに拳を握りしめた。
「くそっ!」
「落ち着くんだ、漸。さっきのミサイルといい、今の装備といい、初めて見たものだ。おそらく、ガルヴァルダン達も以前戦った時から兵装を変えたんだろう。深追いすれば、想定外のカウンターをくらっていたかもしれない。悔しいが、ここまでだ」
兄の言葉に漸は息を吐いて落ち着きを取り戻そうとしていた。
紅は漸の肩をポンポンと叩くと、アルフィリアの方を振り返る。
「アルフィ姉さんもありがとう。本当に助かったよ」
紅が改めて礼を述べると、アルフィリアは、
「………今、殺すって言った?」
小さくボソりと呟いていた。
「私の弟達を?」
ゆらりと立ち上がるアルフィリア。
その体からはドス黒いオーラが滲み出ていて、
「そういえば、皆をこんなに傷だらけにしたのもあいつなのよね?」
「えっ、ね、姉さん………?」
紅が恐る恐る声をかける。
アルフィリアは紅の呼び掛けには何も答えず、ガルヴァルダンが飛んでいった空を見上げた。
そして、カッと目を見開き―――――
「『我は天に仇なす者。大いなる星焱よ、万象の一切を無に帰せ』」
アルフィリアは魔法杖を上空のガルヴァルダンに向け、詠唱を始める。
聞き覚えのある詠唱に紅はぎょっと目を開いた。
「姉さん!? ちょっ、その魔法は待っ―――――」
「ヤバい、伏せろぉぉぉぉぉぉ!?」
紅が止めに入ろうとした………が、既に遅い。
アルフィリアを中心に紅蓮の魔方陣が展開し終えており、あとは放つのみ。
危機を感じた漸は白雪と黒茨を庇って地面に伏せた、次の瞬間――――
「『
それは真焱の女神の名を冠する魔法。
万物を滅する究極の熱。
超極大の紅蓮に輝く閃光が空を駆け抜けた。
閃光は遥か上空のガルヴァルダンをあっという間に呑み込んでいき―――――
「墜ちろ、金属蜥蜴」
魔王のような笑みをアルフィリアは浮かべたのだった。
▽
それから少しして。
「姉さん、待ってって言ったよね?」
「………うん」
アルフィリアは地面に正座させられていた。
紅の手によって。
滝のような汗を流して、ぷるぷると体を震わせている。
なぜ、こんな事態になっているのか。
その答えは空を見上げれば分かる。
「わーお、空、真っ赤っか」
呑気に言うアセム。
赤く染められた空。
アルフィリアが放った魔法の残滓が上空を漂い、神々しく輝いていたのだ。
今が夕方であれば誤魔化せたかもしれないが、残念ながら今は深夜。
夕焼けというには無理がある。
紅は怒りのマークを額に浮かべてアルフィリアに言う。
「なんのために結界張ってたと思ってるの?」
「………部外者に気づかれないようにするためです」
「姉さん、破壊したよね?」
「そ、それは皆を助けるためだよ!?」
確かにアルフィリアが現れなければ、紅達は決して小さくないダメージを受けていただろう。
(まぁ、僕が止めてたんだけどね)
と、内心で思いながらもアセムは口にしなかった。
紅は言う。
「それは分かってる。実際、僕達も助けられたし。でも、ガルヴァルダンに撃ったアレは完全にアウトだよね? 結界も展開し直してないのに。というか、なんで撃ったの?」
「え、えーと、それはですね? 皆が傷つけられた上に、『殺す』なんていわれたら、お姉ちゃんとしてはやらないわけにはいかないというかですね………」
アルフィリアはウインクして、親指を立てた。
「ムカついたから、やっちゃった☆ テヘッ」
「姉さん」
「すいませんごめんなさい調子に乗りました」
それはもう見事な土下座をするアルフィリア。
そこからも紅からのお説教は続き、アルフィリアはますます涙目になっていた。
ちなみに町の方ではちょっとした騒ぎになっているのだが、そこはアセムが何とか対処すると言って、子供達を安心させていた。
弟に泣きつく彼女の様子に、アセムが言う。
「ホントに面白い姉弟だねぇ。というか、アルフィリアちゃんって、美羽ちゃんの子供だよね? いや、ブラコンなところはそっくりだけどさ。あの勢い任せっぷりはむしろ………」
漸が苦笑しながら言う。
「あー、それはアリス母さんのせいかな。姉さん、アリス母さんに一番懐いてたし。美羽母さんも、姉さんの突っ走るところはアリス母さんそっくりって言ってた」
「うん、納得」
どうやら、未来の世界で恐れられる最強の魔女は色々な化学反応の末に誕生したようだった。
超シスコンブラコン娘、ここに爆誕