ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
レオスとヘルムヴィーゲ、そしてアセムが転移魔方陣で移動した先は京都にある山奥だった。
確認された複数の反応うちの一つがこの場所のようだ。
この場にいない一誠の子供達はレオスの言いつけ通り待機し、ロキや他のULの動くのを待っている。
木々が生い茂る山中を進みながら、ヘルムヴィーゲが言う。
「この近くには京都の妖怪達が住む領域『裏京都』に通じる門があります。彼らの狙いは京都の妖怪達。それと未来で赤龍帝の縁者となる者でしょう」
「今のうちに潰しとくってか? 効果的ではあるが、ありきたりな作戦だな」
相変わらず面倒そうな表情でレオスは返す。
京都の妖怪。
赤龍帝の縁者。
となれば、ULのターゲットになる者は想像がつく。
アセムが呟く。
「なんかもうあれだよね。彼と関わった女の子全員がそうなっても驚かないような気がするよ」
「息子の俺から見てもよくもまぁ体がもつなと思うよ。そういや、この時代でも、母さん達の方が積極的だったって聞いたな」
「まぁね。そのあたりは流石の僕でも詳しくないけど、はたから見てたらわかる程度にはね。彼のお嫁さん達は全員パワフルだからねぇ。イケイケドンドン的な?」
「やっぱそうなのか。今………っていうか、この場合では未来か。未来の親父もお袋達の尻に敷かれてるな。今思えば、あれだけ嫁がいてなんだかんだ円満なのは、そこが良いのかもしれんが………。俺には真似できねーよ。つーか、体がもたねぇ。真似するつもりもないけどさ」
「おや? レオス君にはハーレム願望はないのかい?」
「ないない。人並みにスケベなのは認めるが、基本ゆるっとだらっと暮らしたいんだよ、俺は」
どうやら、父親の性欲は受け継がなかったようだ。
しかし、未来の世界において、今以上にその名を轟かせているだろう赤龍帝一族の長男だ。
言い寄って来る女性もいるだろう。
それに上級悪魔ともなれば貴族。
つまりは許嫁であったり、婚姻の話があってもおかしくはないものだ。
アセムがそんな疑問を抱いていると、ヘルムヴィーゲがクスリと笑んだ。
「レオス兄さんはアンリさん一筋ですからね。他の女性には目移りしないんですよ」
「アンリって?」
アセムが問うとヘルムヴィーゲは人差し指を立てて答えた。
「アンリエッタさん。昔、兄さんが通っていた学校の同級生で、悪魔の平民の方です。凄い努力家で、学校では実技も学力も常に上位。とても優しい方で、私達弟妹も良くしていただいています。今では兄さんの『女王』をしているのですよ?」
「へぇ、そりゃ凄いじゃん。レオス君もそんな女の子をゲットするとは隅に置けないねぇ?」
イタズラな笑みでアセムが言うと、レオスは唇を尖らせた。
「余計なこと言わんでいーの」
「兄さんはいつも、そうやって照れ隠しをするんですから」
「そんなんじゃねーし。まぁ、あいつが上手くやってくれてるおかげで、俺もこの時代に来られたんだ。頼りにはしてるさ。………さて、無駄話もここまでだな」
レオスが茂みの向こうに何かを見つけ、足を止める。
山の奥地にある古めかしい鳥居。
あれが裏京都に通じる門だ。
そして、その周辺には銀色の体を持つ兵士ULの群れがおり、不気味な雰囲気を漂わせていた。
群れの中央には一際強いぷれっを放つ機械のドラゴン――――ガルヴァルダンの姿があった。
「アルフィリアちゃんの言った通り、どうやら逃げおおせていたようだね?」
アセムの言葉にレオスが舌打ちする。
「ったく、あのバカちんが………。帰ったらまた説教してやる。今度はスーパーグリグリパトリオットの刑だ」
「兄さん、たまには加減してあげてくださいね?」
「あのシスコンブラコン症候群を治さない限り、無理だな」
「完治不能じゃないですか」
敵を前になんとも緊張感のない兄妹の会話である。
これは二人が呑気なのか、それとも余裕があるのか。
(まぁ後者だろうね)
アセムはそう思いながらレオスの方を見る。
アルフィリアも『天墜の魔女』と呼ばれるに相応しい圧倒的な実力を有していた。
それも、漸達が苦戦していたあのガルヴァルダンを一撃で倒すほどの。
それでは、目の前にいる男はどうだろうか。
確かにだらしなさが目立つ格好ではあるが、よれたシャツの下には鍛え上げられた肉体が垣間見える。
アセムと対面した時も、ああ見えて隙が全くなかったのだ。
彼を一目見た瞬間、アセムは感じた。
――――強い、と。
レオスが茂みを抜け、ULの群れの前に立つと、銀色の兵隊達が一斉にこちらに顔を向けた。
レオスはうんざり気味に言う。
「よくもまぁ、こんなにぞろぞろと集まってるもんだな。なんかのパーティーか?」
レオスの姿を確認し、ガルヴァルダンは目を怪しく輝かせる。
【よぉ、おまえとこうして会うのは初めてだったか? 『閃神』レオス・オーディリア】
「そうだっけか? あ、オーディリアの名前使うのはアスト・アーデだけな。こっちの世界じゃレオス・ヒョウドウだ。ややこしいけど使い分けてんだよ。って、そんなこと今はどうでも良いか」
首に手を当てて、ぐりぐりと回すレオス。
「で? レッズォ・ロアドの四将様がなーんでこんな山奥にいるんだよ? あれですか? うちの妹にやられて傷心旅行ですか? それなら、そっとしたまま帰ってやるよ」
【チッ、クソが。あの魔女のせいでかなり損傷しちまったよ。体の大部分を交換する羽目になったぜ】
ガルヴァルダンは忌々しそうに自身の手足を見た。
確かに、先日と比べると形状が異なっている。
腕も、脚も、翼も、頭部以外の部位はほぼ別物と言って良いだろう。
ガルヴァルダンは言う。
【ここには、あっち側にいる四将――――アッドーザから送られた追加の武器を取りに来たんだよ。てめぇらの妨害のせいで、転送ポイントが随分ズレちまったからな。そのついでに京都の妖怪共をぶっ潰しに来たってところか】
ガルヴァルダンの体に装着された新しい武器が、レッズォ・ロアドに仕える最後の四将から送られてきた強化パーツなのだろう。
いや、体の大半を交換したとのことなので、他の地点でもパーツを受け取っていたとも考えられる。
その時はヘルムヴィーゲの探知外にいたのだろうか。
レオスは「へー?」とあまり興味なさそうに耳を小指でほじりながら、周囲を見渡す。
レオスの視線は森を抜け、更に遠くの場所に向けられていて、
「おまえらの他にはひぃ、ふぅ、みぃ………全部で五つってところか。調度、裏京都に通じる場所にいるってことは………京都の妖怪達を殲滅する気かよ?」
【ハッ! それも悪くねぇな! ひとまずの目当ては狐だが―――――】
ガルヴァルダンが腕を地面につけ、四つん這いで屈むと、背中にある金属の翼が大きく広げられる。
翼の節々には小型のロケットエンジンが複数搭載されており、それらが一度に点火。
勢い良く炎を吹き出した!
【その前にてめぇらを潰すとするぜぇッ! 魔女から受けた傷の借り、倍にして返してやるよぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!】
咆哮と共に突撃してくるガルヴァルダン。
同時に周囲にいた兵隊達もレオス達目掛けて動き始めた。
「うるせぇ奴だな。これだから血の気の多い奴は嫌なんだ。あいつら血ないけど」
そんなことをぼやきながら、レオスは迫るガルヴァルダンに目を細める。
すると、彼の周囲に白い稲妻が走り始める。
彼から放たれるプレッシャーが徐々に膨らんでいき――――
「面倒だからとっとと終わらせるぜ?」
彼の髪が白く変化した。
▽
京都の森の奥深く。
誰も立ち寄らないであろう、普段ならその場所は高い木々に覆われているため陽の光は入らず昼間でも暗い。
真夜中であれば尚更、そこは完全な闇の世界と化す。
しかし、今現在。
白い閃光がやみの中を駆け抜け、撒き散らされる炎が一帯を照らしていた。
【くたばれやぁぁぁぁぁぁぁッ!】
ガルヴァルダンが吐き出した炎が森を焼き、瞬く間に灰に変えていく。
その機械の腕を振るうだけで、土が大きく抉れ、木々が吹き飛ばされてしまう。
先日、漸と戦った時は転移の影響もありパワーダウンしていたガルヴァルダンも、今では本来の力を取り戻しており、あの時の比ではない力を振るってくる。
飛んできた大木を軽く避けながらレオスは言う。
「おいおい、どんだけ暴れんだよ? 後始末するこっちの身にもなってくんねぇ?」
【あぁっ? もう勝った気でいやがんのかよ!】
「どうだろうな? 俺ってば戦うの嫌いだし? でも、ラッキーパンチで沈んでくれたら良いなー的な?」
軽口を叩きながら、レオスは周囲の状況を横目で確認する。
執拗に攻め立てて来るガルヴァルダンは良いとして、残りの兵隊は幾つかに別れて行動している。
一つはガルヴァルダンと共にレオスに攻撃を仕掛けてくるグループ。
こちらは例の光線を次々に放っており、複雑な軌道を描きながらレオスの行く手を阻んでくる。
二つはヘルムヴィーゲとアセムを狙うグループ。
こちらは特に心配不要だろう。
「この程度では私は倒せませんよ」
ヘルムヴィーゲは前方に幾つもの魔方陣を展開させて、数えきれないほどの槍を出現させる。
それらは各属性の魔法が付与された槍であり、複数のULを貫いた瞬間に燃やし、あるいは氷漬けにしたりと、次々にULを屠っていた。
アセムもヘルムヴィーゲとレオスの観察をしながら、片手であしらっていた。
(噂には聞いていたが、ホントにヤバイな、あの神様は。
僅かな戦闘ではあるが、アセムの底の無さを感じていると、ガルヴァルダンが吠えてくる。
【余所見するとは余裕だなッ!】
「うぉっと」
振り下ろされた巨大な腕を、レオスはバックステップでかわす。
銀色の拳が地面に触れた瞬間、レオスがいた場所は爆散して、巨大なクレーターが出来上がった。
「危ねぇな。もうちょっとで煎餅になっちまうところだっただろうが」
【心配すんな、欠片も残さずぶっ潰してやるからよぉッ!】
「遠慮しとくわ」
そして、最後のグループ。
こちらは裏京都に入ろうとしている。
今はヘルムヴィーゲが展開した結界に阻まれているが、破られるのは時間の問題だろう。
他の地点にいるULも裏京都への進攻を始めているはずだ。
状況を確認したレオスは一度、ガルヴァルダンとの距離を取る。
ガルヴァルダンが挑発するように言う。
【さっきから逃げてばかりじゃねぇかよ。得意なのは逃げ足だけか?】
「あらバレた? こう見えて逃げ足には自信があるんだよ。これでよくうちの『女王』から逃げてるからな」
えっへんと胸を張るレオスに、兵隊を殲滅しながらヘルムヴィーゲが言う。
「いえ、最終的には確保されていますよ。何度、アンリさんの手で簀巻きにされていたことか」
「ヘルムヴィーゲはしばらく兄ちゃんへのツッコミ禁止ね」
「嫌です」
そんなやり取りはさておき。
兵隊達による、レオスを捕らえる網のような無数の追撃。
ガルヴァルダンの素早く、一撃が凄まじく重たい攻撃の数々。
レオスはこれら全てを紙一重で回避しきっており、掠り傷一つついていない。
当たらないことに痺れを切らしたのか、ガルヴァルダンが次の手に出る。
巨体が前屈みになったと思うと、背面にあったバックパックが見えた。
バックパックの上面には何かのハッチが幾つもあり、それら全てが一斉に開いた。
「げっ!?」
レオスが目を見開く。
ハッチの内側には――――ミサイル。
それも十や二十という数ではない。
あんなものが解き放たれてしまえば、確実にこの山が丸ごと吹き飛ぶ。
【吹っ飛べやァァァァァァァァッ!!】
ガルヴァルダンのミサイルが射出され、レオス目掛けて向かってくる。
(さて、どうでる?)
アセムが目を細めた。
その時、
「めんどいこと、するんじゃねぇ」
白い閃光が宙を駆け抜け――――迫っていたミサイルがその場から消えた。
今の今まで、爆音が鳴り響いていた一帯が静寂に包まれる。
【は………?】
ガルヴァルダンは射出したはずのミサイルが全て消失したこの現象に、声を漏らす。
【なにしやがった?】
ガルヴァルダンの問いにレオスは言う。
「次元の狭間に跳ばしたんだよ。あそこなら何がどうしようと関係ないからな?」
レオスは掌をひらひらと振って、ガルヴァルダンに見せる。
ガルヴァルダンはそれが何か気づいたようだ。
【噂に聞く、閃神の瞬間転移術式か】
「んなたいそうなもんじゃないが、そういうこと」
瞬間転移術式。
アセムも初めて耳にする術式だ。
ヘルムヴィーゲが言う。
「あれは一般的な転移術式を兄さんが突き詰めた末に編み出したオリジナルです。触れたものを瞬間に、しかも強制的に転移させます。人も、物も、魔法でさえも」
「転移先にも予めマーキングが必要だけどな。今回は次元の狭間にマーキングしておいたんで、そこに跳ばしただけだ。つーか、オリジナルじゃねぇよ。木場のおっちゃんが創る聖魔剣の能力をパクっただけだぞ?」
「その木場さんが別物だと言っていましたよ?」
一般的な転移術式は魔方陣を展開が必要であり、発動までに少し時間を要するものだ。
しかし、レオスの瞬間転移術式はそれがない。
魔方陣の展開も不要、触れた瞬間に転移が発動できる。
しかも、これまでの戦闘で分かるように、レオス自身のスピードも閃神の名に恥じないものだ。
あの閃光に触れられた瞬間に転移させられる。
それは脅威であり、
「相手からすれば無理ゲーだよね」
アセムが盛大にため息を吐く程だ。
加えて、
「ついでに兵隊達も倒してるみたいだしね?」
アセムが兵隊に視線を向ける。
銀色の兵隊達はその場に立ち尽くしているが、よく見ると、身体に薄く線が入っている。
強い風が吹き、兵隊の体を揺らすと――――ごとり。
上半身が地面に堕ち、活動を完全に停止させてしまった。
いつの間にかレオスの手には短剣が握られていて、
【今の一瞬で全て斬ったってのか!】
「この場にいる連中はな。それともう一つ」
レオスがある場所を指差した。
それはガルヴァルダンの脚。
ガルヴァルダンも気づかなかったのか、そこには何枚かの札が貼ってあった。
「ワルキュリアからの貰い物。起爆札ってやつだ。とりあえず沈んどけ――――『爆』」
レオスが唱えた瞬間、貼られていた札が大爆発を起こした。