ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
起爆札の爆発による閃光が周囲を照らすと同時に爆発音が轟く。
起爆札は元オーディリア家、今では兵藤家のメイドであるワルキュリアお手製の魔導具だ。
使用者が任意のタイミングで起動でき、かつシンプルな造りのため量産しやすく、携帯しやすいのが特徴である。
威力も通常の敵であれば十分な効果を期待できる優れものだ。
そう、通常の相手であれば。
「ま、あの程度じゃ倒せんわな」
レオスは小さく息を吐き、土煙の向こうに目を向ける。
刹那、突風が吹き、土煙が吹き飛ばされる。
ガルヴァルダンが翼を羽ばたかせたのだ。
【この程度か?】
ガルヴァルダンの機械の体には土砂と煤がこびりついていた。
だが、明確なダメージは与えられていないようだ。
爆破で生じた深いクレーターに立つガルヴァルダン。
宣言通り、沈めることは出来たが………。
【これで終わりなら期待外れも良いところだぜ。まだ弟の方が手応えがあったくらいだ】
「だろ? やっぱ、うちの弟達は優秀なんだよな。ぶっちゃけ、弟達だけで良いっていうか、俺いらなくね?」
ガルヴァルダンの言葉などまるで気にしてないのか、カラカラと笑うレオス。
目の前の男の反応に、これまで漸や紅との戦闘経験があるガルヴァルダンは違和感を覚えた。
【何の怒りも感じねぇのはどういうことだ? てめぇの弟共は俺を殺る気満々で斬りかかってきたもんだがな。迫力の欠片もねぇな】
「言ったろ、戦うの嫌いだって。しんどいしめんどいし痛いし。俺は動きたい時に動き、食べたい時に食べ、寝たいだけ寝る。『遊・食・眠』の三つを大事にしてんの。そこに戦闘は入ってねーんだわ」
レオスの回答にガルヴァルダンは舌打ちする。
【けっ、つまらねぇ奴だ。だったらよぉ―――――】
ガルヴァルダンの翼が再び広げら、エンジン音が甲高く鳴り響く。
次の瞬間、ガルヴァルダンが土砂を巻き上げ、空高く飛翔した。
【俺が永遠に眠らせてやるぜェェェェェェッ!】
吠えるガルヴァルダン。
バックパックのハッチが開き、またもや大量のミサイルが放出される。
今度は先の比ではない。
しかも、今度のミサイルは空中で変形しクラスターミサイルのように広範囲に広がり、一帯へと堕ちていく。
「うぉぉぉぉっ!?」
ばら蒔かれる無数のミサイルに、レオスは悲鳴をあげながら全力回避する。
流石のレオスもこれだけ広範囲にばら蒔かれると全てを転移させるのは無理だ。
「だぁぁぁ!? めんどくせぇぇぇぇぇ!」
レオスは地を蹴り飛び上がると、ミサイルを回避しながら、ガルヴァルダン目掛けて突貫する。
白い閃光と機械のドラゴンが空中で激しく衝突する――――。
空中を縦横無尽に駆け回るレオスとそれを追うガルヴァルダン。
スピードはレオスの方が上だろう。
しかし、火力と手数はガルヴァルダンが上回っていた。
漸に斬られ、アルフィリアに体の各パーツを破壊されたことで、全身を大幅にアップグレードしていたようだ。
尽きることなく放出される小型ミサイルに、どこまでも負ってくるレーザー。
ガルヴァルダン本体もその巨体からは想像できないほどの攻撃を仕掛けてくる。
レオスはどうにかそれらの攻撃を掻い潜り、手に握る短剣で斬りつける。
………が、体表にバリアーを展開され、刃が届かない。
【へっ! てめぇの弟に斬られたんでなぁ! 対策はしてんだよォォォォォォッ!】
近距離でガルヴァルダンの口が開かれ、ノズルがレオスに向けられる。
そこから噴出された炎がレオスを襲う!
「あちちちちち!? うぉい!? もうちょっとで丸焼きになるところだったじゃねぇか、この野郎!?」
抗議の声をあげながら、レオスが腕を振るい何かをばら蒔いた。
蒔かれたのは数十枚の起爆札だ。
「爆!」
カッ、と空が光り、連続的な爆発がまき起こる。
あれだけの数なら、相当な威力だ。
これだけの攻撃を受けてしまえば、いかにガルヴァルダンの装甲が強固でも、ひとたまりもなく、
【効かねぇんだよぉォォォォォォ!!!!!】
なんてことはなかった。
無傷のまま、ガルヴァルダンは黒煙の中を突っ切ってきたのだ。
「いや、分かってたけどね!? もうちょいそれっぽいダメージあっても良くね!?」
【死ねやァァァァァァァァッ!】
「ぐっ!?」
振り下ろされた巨腕が遂にレオスを捉えた。
凄まじい衝撃を受け、レオスは山に叩きつけられてしまった。
「ガッ………!」
体を激しい痛みが襲い、空気が口から吐き出される。
落とされる瞬間、咄嗟にバリアーて全身を覆うことでダメージは減らせたものの、それでも体への影響は小さくないだろう。
レオスは痺れる体に鞭を打って、立ち上がると、そこへガルヴァルダンが降りてきた。
【噂の閃神がどれほどのものかと思えば、こんなもんかよ】
「ゴホッ………あー、期待してたみたいだが、さっきから言ってる通り、俺は戦うの好きじゃねーんだわ。だいたい、その小恥ずかしい二つ名は誰かがつけたやつだからね? 俺から名乗ったわけじゃないからね?」
【そうかよ。ま、俺には関係ない話だ。俺にとっちゃあ、テメェをぶっ殺せるならそれで十分だからよォォォォォォッ!】
ガルヴァルダンの右腕が変形し、鋭いドリルのような形状になる。
レオスは避けようとするが、先の衝撃で体が痺れて上手く動かせないでいた。
そして――――鋭い先端がレオスの体を貫いた。
「ゴフッ」
血を吐き出すレオス。
力の入らない手で自身を貫く金属の塊を引き抜こうとする。
しかし、それは敵わない。
ガルヴァルダンが腕を少し前に押すだけで、更に深々と突き刺さっていく。
ガルヴァルダンが嘲笑う。
【弱ぇな。弱すぎだ。閃神だなんだともてはやされていたが、それも親の七光りってやつか】
「くそ………」
ズルリとドリルが引き抜かれ、レオスの体が崩れ落ちる。
血だまりの中に倒れ伏すレオスを見下ろして、ガルヴァルダンは笑う。
【クソはテメェだろ。ざまぁねぇぜ】
それだけ言い残すと、もう興味はないと言わんばかりに、レオスから視線をヘルムヴィーゲとアセムに向ける。
次の狙いは赤龍帝の娘であるヘルムヴィーゲ。
元々、赤龍帝とその縁者となる者を始末しにここまできたのだ。
この場でヘルムヴィーゲを始末しようとするのは当然だろう。
アセムもいるが、未来への影響を考慮してか動く様子もない。
【テメェもすぐに兄貴のところに送ってやるよ】
ガルヴァルダンの冷徹な視線がヘルムヴィーゲに向けられる。
機械の翼が大きく広がり――――
「うん? もう終わった?」
不意に声が聞こえてきた。
呑気な声音だ。
しかし、その声はもう聞こえるはずはないのだ。
なぜなら、その声の主は今、息途絶えたはずで――――
【どうなってやがる………!? なんで、テメェがそこにいる!?】
暗い茂みの向こうから現れた人影に、ガルヴァルダンは戸惑いの声を漏らす。
やる気のない表情で盛大にあくびをする男。
相変わらずだらしのない格好をしているが、傷一つないレオスがそこにいたのだ。
しかし、ガルヴァルダンの足元には先ほど倒したレオスが未だに横たわっている。
つまり、この場にはレオスが二人いるということ。
レオスは後頭部をかきながら言う。
「おまえが今まで今まで、意気揚々と戦ってたのただの分身だ」
【は?】
「分身だよ、分身。おまえが倒したのは偽物ってこと」
新しい装備を使い、この一帯を焦土に返すほどの攻撃をした。
兵隊を失いはしたが、高速で動き回るレオスを捉え、遂には倒した。
そう思っていた。
それらが全て無意味だった。
【馬鹿な………おまえの反応はずっと確認していた。今のが分身なら、おまえはいつ入れ替わったってんだ?】
「おまえとドンパチする直前だな。おまえが捉えられなかったのは、センサーの性能が悪いか調子悪いんじゃね? 交換しとけよ」
【言ってくれるじゃねぇか。それで、テメェは分身に戦わせて何をしていたってんだ?】
ガルヴァルダンの問いに、レオスは山の向こう側に視線をやって言う。
「おまえのところの別動隊がいたろ。あいつら全部潰してきたんだよ。あの連中が裏京都に入ってたら騒ぎが大きくなって、面倒なことになってただろうし」
京都各地にある裏京都へと通ずる門。
ガルヴァルダン配下のUL達は複数に別れ、そこから裏京都に進攻するところだった。
もし、ULが裏京都を攻撃していたら、とてつもない被害が出ていただろう。
更に言えば、歴史が大きく書き換えられる事態になったかもしれない。
それを防ぐため、レオスは分身体をガルヴァルダンに当て、先にULの兵隊を殲滅してきたのだ。
ちなみに、仮にガルヴァルダンを先に倒していれば、各地に出現していた兵隊達は撤退し、別の場所でレオス達の障害になっていた。
レオスは分身体を指差して言う。
「そいつの目的はおまえの足止めだ。おまえはそれに気付かず、ちんたらやってたわけだ。分かったか?」
【ふざけた野郎だ。だが、納得っちゃ納得だな。あんまりにも手応えがないもんだからよ】
「そうかい。そりゃ悪かったな。詫びに教えてやるよ。その分身は雷の魔力と錬環勁氣功の組み合わせで作り出した特別製だ。だから、おまえは偽物だと気づけなかったんだよ。ちなみにそいつを破壊すると――――」
レオスが言いかけたその時。
分身が突如、強い光を発して――――雷鳴と共に弾けた。
白い雷が近くにいたガルヴァルダンを巻き込む。
空気中に稲妻が飛び交うのを眺めながら、レオスはあくびをする。
「あらら………教える前に爆ぜちったか。雷の分身なもんで、倒したら高電圧の雷を撒き散らすんだよ。さっきの起爆札と違って、それなら、おまえにもそこそこのダメージが通るんでねーの?」
白い閃光が消えると、そこは黒焦げになった地面と、感電し硬直するガルヴァルダンの姿。
【ガッ………ガッ………テ、テメェ………ッ。ふざけた攻撃を………ッ!】
「油断してたおまえが悪いだろ。油断大敵ってやつだ」
【ぐっ……舐めてんじゃねぇよ、クソがァァァァァァッ!!!!!!】
これまでにない咆哮と共に、金属の腕がレオスに向けられる。
次の瞬間、その腕が凄まじいスピードで射出された。
これにはレオスも目を見開く。
しかし、彼が動く前に、射出された腕がレオスを捉えた。
【油断したのはテメェの方だったな! 今度こそ、くたばれやァァァァァァッ!!!!!!】
レオスの体を掴む巨大な爪に力が入る。
鋭い爪先が肉体に食い込み、そのまま彼の体を引き裂いてしまう。
だが――――。
レオスの体が光を放ち、雷鳴が再び轟いたのだ。
先程、分身が壊された時のように。
呆気にとられるガルヴァルダンに声がかけられる。
「バーカ。いつそれが本体だって言ったよ」
「そもそも分身が一体だけとは限らねーだろ」
「まぁ、真正面からドンパチすることしか頭にないんだろ」
「こっちからしたら、やりやすくて助かるけどな」
それらの声はガルヴァルダンを囲むように、四方から聞こえてきた。
見渡せば、四人のレオスがガルヴァルダンを包囲していたのだ。
そのうちの一人が言う。
「意外そうだな? 俺がこういう手で来るって思わなかったか?」
続いて他のレオスも口を開く。
「親父やお袋達、ついでに弟妹共も真正面からやり合う脳筋が多いからなぁ。親父達の場合、『王』なのに前線に出るのもどうかと思うが」
「ぶっちゃけ、おまえみたいな奴と真正面からやり合うわけねーだろ? 遭遇する度に装備違うらしいし? 何仕込んでるか分からん奴とドンパチする程の度胸は持ち合わせてねーんだわ」
「血の気の多い奴を相手にするのが、めんどくせー」
四人のレオスの言い分にガルヴァルダンが吐き捨てるように言う。
【ハッ! それがあの赤龍帝のガキが言う言葉かよ?】
「こいつは戦争だぜ? それも、おまえらが攻め込んできた侵略戦争だ。だったら、こっちはどんな手使おうが、勝たなきゃならねぇ」
「つーか、俺は自分が傷ついて勝つみたいな戦い方は嫌いなんだよ。アホかと」
「死んだら終わりだ。死ななくとも、戦えなくなったらどうする? 守れるもんも守れやしねぇ」
「楽に、確実に、こっちの被害ゼロで勝つのが理想だろ」
レオスは父親達のような騎士道精神や戦士としての矜持などは持ち合わせていないらしい。
正面から、正々堂々と戦うことを選ばなければ、強者との戦いに心を踊らせることもない。
(しかし、その根底にあるものは変わらないらしいね)
アセムはレオスの横顔に彼の父親と同じものを感じ取った。
大切なものを何がなんでも守り抜くという精神を。
レオスが言う。
「んじゃ、そろそろ締めるとするか」
【あぁ? こんな程度で勝ったつもりかよ? おれはまだ――――】
「動けねぇよ。自分の身体をよーく見てみるこった」
【何を――――ッ!? んだ、こりゃあ………!?】
ガルヴァルダンが驚愕の声を漏らす。
その機械の身体にいつの間にか纏わり付いていた透明なジェル状なもの。
それらは首、肩、肘、膝といった各関節の他、身体の各所にある推進器を塞ぐようにへばりついていた。
ジェルは硬化しており、ガルヴァルダンの動きを完全に封じていた。
「大して効きもしない起爆札をなんで使い続けたと思う?」
【ッ! あの爆発に紛れて仕込んだってのか!?】
レオスがガルヴァルダンに対して効果のない起爆札を使った理由は、このジェルを仕込むためだったのだ。
ジェルは通常、小さいカプセルに入れられているが、起動させることにより、カプセルから漏れ出るようになっている。
そして、空気に触れることで徐々に硬化する仕組みになっていた。
ちなみに、これはレオスが製作したものである。
ガルヴァルダンが叫ぶ。
【おまえには触れられないようバリアーを展開していた! こんなことが………!】
「あの面倒なバリアーな。確かにあれが展開されるとそう簡単には触れられない。けど、展開するまでに多少のタイムラグがあったからな、そこを狙わせてもらった」
【それでも僅かな時間だぞ! ありえねぇだろ………!】
「出来るからこうなってるんだろ」
【………ッ! ざけんな………こんなもので、この俺を………ッ!】
ガルヴァルダンから放出されるオーラが膨らんでいく。
機械の体が軋み、各関節を固めていたジェルにヒビが入っていく。
ヒビは大きくなり、破片を散らしていった。
しかし、そんな光景を前にして、レオスは配膳と言う。
「その程度じゃ、おまえを完全に拘束するのは無理だろうな。………が、そこそこ動きは鈍くなるだろ?」
そう言った瞬間、レオスの身体から白いオーラが立ち上る。
スパークを散らし、紅く染まった瞳でガルヴァルダンを捉えた。
短剣を構え、腰を落とす。
【くっ………! しゃらくせぇぇぇぇぇ!】
レオスが動く前にガルヴァルダンは口から光線を放とうとした。
この近距離だ。
いくらレオスでも避けるのは困難だろう。
しかし、
【あ………?】
光線は放たれることはなかった。
その代わりにゴトリ、と金属の頭が地面に落ちたのだ。
何が起きたのか理解できないガルヴァルダンは周囲を見渡す。
すると、ガルヴァルダンの背後にはレオスがいた。
だが、短剣を構えていたレオスはまだ動いていない。
未だ構えたままのポーズでいる。
ガルヴァルダンの背後にいたレオスが不敵な笑みを見せる。
「あんな『今から行きます!』って雰囲気出して、やるわけねーだろ、俺が。残念ながら、あれも全部分身だ」
そう言ってレオスは指を鳴らす。
すると、魔方陣が展開し、地面に落ちたガルヴァルダンの頭と、完全に停止した体を包み込んだ。
「まぁ、あんな小細工しなくても多分、おまえには勝てたと思うよ。最後は斬られたことにも気づかなかったようだし。さーて」
短剣を鞘に納めると、レオスの髪が白から茶髪へと戻り、分身も全て消えた。
レオスは地面に転がるガルヴァルダンを見下ろして――――
「話をするのも面倒なんで、このまま元の世界にお帰り願うぜ。さっさとな。心配すんな、ちゃーんと体も送ってやるから。スクラップ確定だけど」
レオスの笑みにガルヴァルダンは、
【こんな、奴に………! クソ………クソォォォォォォォッ!】
頭だけになったガルヴァルダンは何もすることが出来ないまま、転移の光に包まれていった。