言峰士郎の聖杯戦争 作:麻婆アーメン
「……最古の大英雄様がまーたそんなことやってんの?」
「英雄王様、だ。雑種。そこいらの英雄などと一緒にするでない」
凛とギルガメッシュのあれ…
具体的にはスタイリッシュ召喚☆から、丸一日が経つ。
最古の英雄王、その力は半端ではなく、召喚したその瞬間から遠坂凛は此度の聖杯戦争の勝利を確信していた。
…英雄色を好む。そう言うことわざが日本にはあるのだが、英雄王ともなるとその度合いも規格外、ということなのだろう。
「あのねぇ…日がな一日中ゲームやってプラモ作ってるような奴にどこの民が付いて行くってのよ!」
「ウルクだが?」
画面から目を話すことなく応える、そのある意味王に相応しい姿に、凛の何かが切れた。
「そういうことじゃ!……ハァ…わかったわよ、いいわ、そっちがその気ならこっちにも考えがあるわよ。英雄王様?」
「なんだ。発言を許……き、貴様まさか!」
声にただならぬ覚悟を感じ、画面から顔を上げた英雄王。
だが時すでに遅し。
赤くきらめく手の甲を顔の前に、見せびらかすかのように掲げる。
「あら?フフフ…わかっちゃった?令呪をもって命ずる!サーヴァントならマスターには、絶対服従ってもんでしょうがッ!!」
「……クッ…ククッ…ハーッハッハッハ!」
ひきつる顔から一転、英雄王様の顔には笑顔が…というか爆笑がもどる。
「な、なによ!そうね…まずは手始めに夕食でも用意しなさい!」
「クク…つくづく面白い雑種よな!よもや令呪の使い方も知らぬとは!」
「な、……ハッ」
そう、令呪は抽象的な命令にはあまり意味を成さない。
例え凛がマスターとして規格外の能力を有しているとはいえ、彼女のサーヴァントもまた規格外。
たとえ令呪といえども、一画程度ならば彼はそれを退けることができる。
「フッ…よい。その道化に免じて飯くらいなら用意してやろう。"王の財宝"よ!」
開けゴマのアリババもびっくり。
たった一言で出るわ出るわご馳走の山。
「……なんでよ」
遠坂家のリビングは今宵、床まで余すところなく酒池肉林と化すのだった。
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「へっぷしゅっ!」
「…風邪ですか?味覚音痴の上に体まで貧弱とは、本当に価値のない愚弟ですね」
「いや、そのままそっくりカレンに返すぞ…使えないとまでは言わないが」
教会の庭の花に水を撒きながら、レンガに腰掛けるカレンに背中越しで返す。
「……むぅ。それはなんですか、毎朝寝起きの悪いあなたを起こした上に、何度も何度も飽きもせず憑かれ続けるあなたのお祓いをしてやっている私に、この私に、何か文句があると?」
そう、どうやら彼の体には不思議な体質があるらしい。
カレンのそれを被虐霊媒体質と言うのならば、士郎のそれは被虐女難体質。
カレンに言わせると、放っておけばまるで埃を吸い上げ、掃除機のように女性を惹きつけるとのこと。
(そんなワケないと思うんだがなぁ…父さんもカレンも少し過保護すぎやしないか)
「はぁ…はいはい、感謝してるよ。……その女難の霊とかいうのがあるのかは疑わしいけどな」
「……なるほど、知性だけでなく躾も足りないようですね。いいでしょう、帰ってくるまでに覚悟を決めておくことです」
目をギラつかせるカレンをよそに、ホースを片付けてカバンを背負う。
学校指定のカバンは肩掛け型なのだが、例の過保護な父がどうしても両手はあけてあけとうるさいので、仕方なくリュックを背負うことにしている。
そのせいで藤村大河とかいう教師に目をつけられているのだが、何度かこの教会に足を運ぶたびにあの姉に返り討ちに合わされている。
まあ…
「その、士郎」
「ん?」
さっきまでの威勢は何処へやら、モジモジとしだしたカレンは言葉に詰まる。
(なるほど、またか)
カレンとの生活は向こうでのものも合わせ約一年。
さすがに扱いにも慣れてきた士郎は、カレンの本意を汲み取り促す。
「なんだよ"姉ちゃん"、転校したてで遅刻ってのはさすがにマズイ。時間がないから何か用があるなら早くしてくれると助かる。」
「!……その、気をつけて行ってきなさい」
「あぁ、ありがとう。心配してくれるんだな」
「か、勘違いをするのはやめなさい。ただ私は私の飼い犬が勝手に死ぬのは惜しい散財だと…」
「はは、惜しいと思ってくれるだけでありがたいな。じゃあそろそろ行ってくる」
「……できるだけ早く帰ってきなさい」
おぉ、耳まで真っ赤にしちゃってまあ…
ボソッと呟くカレンに笑顔で手を振り、学校へと向かう。
(ははっ、愉悦)
やはりこの男、言峰である。
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「言峰君、ちょっと。」
「あぁ、はいはい。何か用?遠坂さん」
リュックを机の横に無造作におくや否や、話しかけてくる黒髪のツインテール。
「今から屋上に来てくれる?話があるの」
「構わないぞ。今日は用事もないみたいだからな。」
チラと友達の生徒会長に目配せをすると、右手でわかった、と合図を返してくれた。
(よく出来た親友を持って俺は本当に果報者だな…)
そう思いクスリと笑う。
傍から見れば使われているのは士郎の方だが、ぶっちゃけカレンのそれに比べれば備品の整備くらいなんてことはない。
むしろいろんなものの構造を見、理解することは、彼にとって何より得難い修行の一つとなっていた。
「ちょっと、話聞いてる?さっさと行くわよ」
「聞いてる聞いてる!だから引っ張るなって!遠坂さん!」
強引に引く手をなんとか振り払い、不機嫌そうに凛について行く。
遠坂家はこの地、冬木のセカンドオーナー。
そして由緒正しき魔術使いの家系であることは、少しでもこの道に踏み込んだことのある人間なら誰もが知っていることだ。
この世界では士郎もまたれっきとした魔術士。
またもう一つ。ある理由から、この学校で彼女のことを最も警戒していた。
「ここらでいいか。言峰君、いや」
それでも尚、人気のない屋上への誘いに乗った理由は単純明白。
「言峰士郎、その左手の手袋を取りなさい?さもなくば、ここであなたの人生は終わることになるわ」
「…遠坂。その喋り方、少しでも直しておいた方が良い」
自分の方が強いから。
彼女のようにもわかりやすいように殺気を放つ。
「…っ!言うようになったじゃない!この親の姉弟子に!」
魔術回路、及び魔術自体ならば実力は凛の方が上かもしれない。
だがこと実戦においては、士郎の方が何枚も上手である。
「踏んだ場数が違うんだよ。遠坂。10年前の俺と同じだとは思わない方が良い」
「……そういうこと。突然いなくなって急に帰って来たと思ったら雰囲気が違うんだもん、その……心配したんだから」
頬を赤らめてモジモジし出す凛。
一瞬、赤い聖骸布が全身を覆い尽くす幻覚に背筋が震えるが、顔を振り応える。
「あぁ、悪かった。けど父さんからも聞いたろ。カレンを放っておくわけにはいかなかったんだ」
10年前、遠坂とはよく一緒に遊ぶ仲だった。
さっき彼女が言った…いや少し誇張されていたような気もするが、言峰士郎の父親である言峰綺礼が遠坂凛の兄弟子だった関係からである。
「……あぁもう!調子狂う!話を戻すわ!早く左手の甲を見せなさい!」
「あぁ、いいよ。というかあの頃に見慣れてるはずだろ」
そう愚痴りながら左手の手袋を外してみせる。
10年前のあの日から変わらず焼きついたそれは、その紅さを少しも色褪せさせない。
「……やっぱり消えてないのね。」
「まあそういうこと。まさか遠坂も選ばれるなんてな」
「な、なんでそれを!?」
そう、知っていた。というより気付いていた。
何を隠そう言峰士郎は魔術回路を"見る"ことに長けている。
「もう令呪を使ったんだな、遠坂。戦闘したようには見えないし、またロクでもないうっかりをしでかしたんじゃないだろうな」
「な、ななななんでそれを!?ってアンタ!どっかから見てたんじゃないでしょうね!?」
慌てふためく姿は10年前から何も変わっていない。
まあ、そこが彼女の短所であり、魅力でもあるのだが。
(……ありだな)
「ハァ…見るわけないだろ。俺の魔術は少し特別でな。それで、話ってのはそれだけか?」
「む……そうね。話ってのは、」
幾分か落ち着きをとりもどしたのか、コホンと咳払いをして話を切り出した。
「同盟を組みましょう、士郎。」
「……まだサーヴァントを召喚すらしてない俺と組んで、お前になんの利益があるんだ?」
「話を聞きなさい。この学校に結界が張られているのは気付いてる?」
「あぁ…こんなのが発動したら今度こそ教会が破産しかねない。出来れば親孝行な俺としては発動前に止めたいが」
「そ、だから協力してやろうって言ってるの。貴方の父親は私の弟分だしね」
「質問の答えになってないぞ」
「……10年前から令呪を持ち続けたアンタとのっけから戦うなんてリスクは犯したくないの。せっかく最強のカードを引いたわけだし。……まあ認めるのはシャクだけど」
(そうか、他から見ればそう写るのか…)
「わかった。それで?遠坂はどんなサーヴァントを引いたんだよ」
「……人類最古の……ニート王…」
「……は?」
『聞き捨てならんな雑種!あろうことか貴様の主人をニートとは、随分と偉くなったものよな!』
突然士郎と凛、2人の脳内に直接声が響く。
「アンタねぇ!こんなくっだらないことに宝具使ってんじゃねーっての!それから主人は私だって言ってんのがわかんないのか!」
『フッ、笑わせるなよ晩年ウッカリ娘!貴様のような雑種が我の主人などと片腹いたいわ!』
「な、なぁにィ!?アンタ今日あたりマジで自害させるわよ!」
『クッハハハ!!!やってみよ!その令呪、全て耐えてみせようではないか!』
「……な、仲良いんだな」
「良くない!!……ったく、わかったでしょ?コレが私のサーヴァントよ。まあ戦力的には問題ないから心配しないで」
もうすっかり熟年といった風の夫婦…もとい主従漫才を拝聴させた後、凛は続ける
「それで、アンタはいつになったらサーヴァント召喚すんのよ」
「俺魔術回路多くないし、出来ればギリギリに召喚したいんだよな。まあ揃い始めてるらしいしそうもいかないか…」
召喚に魔力はそこまで必要ない…とはいえ、視界させる分の魔力は必要になる。
名家の出でない士郎の貧しい魔術回路にとって、それは無視できないものだ。
「そうね。なんならアンタの分の聖遺物もコッチで用意してやらないこともないけど…」
「いや、流石にそこまでさせるわけにはいかない。それに…」
「あぁ、そうね。私がアンタのサーヴァントの真名を推測しやすいってのはフェアじゃないわね。」
「あぁ、まあとりあえず学校の結界につい…て……!」
突然、空気が変わる。
そして確信する。
最悪のタイミングで、それも想像以上のモノが発動してしまった。
「クッ…遅かったか!ギルガメッシュ?ギルガメッシュ!」
「……結界の効果か、俺たちだけでどうにかするしかないらしいな」
念話すら遮断とは…さすがに甘く身過ぎていたか。
「サーヴァントなしでこの結界を張る魔術師相手か…サーヴァントもいるだろうし、キツイわね。最悪令呪で…」
「やめとけ。三画のうちニ画を3日で使い切るつもりか」
「…そうね。まあ杞憂かもしれないし、まずは、アンタのお手並み拝見かしら」
「あぁ。…行くぞ魔術師。」
目を閉じ、研ぎ澄ます。
『投影、開始』
それはトリガー。
神にその身全てを捧げ、執行する。
今…たった27本の魔術回路が
この地、物質、空間の全てを
掌握した。
「見つけたぞ…結界の強度は充分か」
…筆者はルビの振り方がわからない…