言峰士郎の聖杯戦争   作:麻婆アーメン

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救う者

「……理科室だな。行くぞ遠坂!」

 

「え、えぇ!」

 

屋上のドアを勢い良く開けはなち、駆け出す。

青空はとうに、ドス黒い赤に完全に呑まれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「こんな…酷い…」

 

「……」

 

廊下に倒れていた数人のうち、顔見知りの少女の息を確かめる。

 

「桜…良かった。遠坂、息はある。まだ間に合うぞ」

 

「ぁ……え、えぇ…。急ぐわよ」

 

桜を仰向けに寝かせて上着をかけ、また走り始める。

しばらくの沈黙の後、遠坂が口を開いた。

 

「ねぇ、言峰君。桜といつ知り合ったの?」

 

「いつって…つい最近だ。こっちに来てからも俺の生傷が絶えなかったのは知ってるよな」

 

「…えぇ」

 

「そんな俺を見かねて、毎日のように保健室に連れて行くんだ。同じクラスでも、部活でもないのに。」

 

「……そう」

 

「とんだお節介だよ、あいつ」

 

目的のドアの前で立ち止まり、自分にも言い聞かせるかのように言い放つ。

 

「絶対助けるぞ、桜…!」

 

開け放ったドアの向こうで待ち構えていたのは…

 

「ようこそ、言峰、そして遠坂」

 

「……誰だっけ?」

 

なんでこいつ俺のこと知っているんだ…

もしかして知り合いだったりするのか…

 

 

ブチッ

 

 

「こん…のッ…」

 

「ハァ…ほんっと締まらないわね。慎二、間桐慎二よ。桜の義理の兄。」

 

「なっ…」

 

「フフ…ハハハハハ!いい度胸じゃないか言峰!いいぜ、やっちまえライダー!皆殺しだ!」

 

「……おい」

 

「ハハハ…なんだよ言峰、今更命乞いかァ?」

 

「お前、桜の兄貴ならどうして桜まで巻き込んだ。それだけ聞かせろ」

 

「ハァ?凡人が何人死のうが知ったことかよ。聖杯戦争を勝ち残るためならなんだってするさ」

 

言った。平然と。

ならばもう、見定めは済んだ。

急速に頭が冷えて行く。

 

「……そうか。凛、あの雑魚を頼む」

 

「は、ハァ!?ちょっと士郎!アンタ…」

 

「ざ、雑魚だと!?言峰!お前口の聞き方に…ッ!?」

 

「もう口を開くな、魔術師ッ!」

 

「ひぃっ!?ら、ライダー!」

 

「…?!」

 

右足で踏み込み、慎二に殴りかかる士郎との間に、ライダーが割って入る。

が、ライダーはその意に反して、自分よりも軽いはずの拳に足を浮かされる。

 

「そんな…嘘…」

 

ライダーもなんとかバランスを立て直し、踏みとどまる。

 

「遠坂、二度は言わない。その雑魚を任せる」

 

「え、えぇ…」

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

逃げ出す慎二を見てハッとし、士郎の方をチラと一瞥すると、意を決してその場を去る。

 

「……!」

 

慎二の元へ向かおうとした瞬間、ライダーの脳裏に明白な死が浮かんだ。

直感スキルを持たないライダーでさえ色濃く感じ取る死の予感。

 

(この男に背を向けるのはまずい…)

 

味方であるはずの遠坂でさえそう思わせるほどの殺気。

これが、言峰士郎の本質である。

 

「懺悔の準備はいいか、サーヴァント」

 

「…フ、いいでしょう。本気で相手をしてあげます。私の、本当のマスターのために!」

 

「ッ!」

 

勢いよく放たれた鎖を、間一髪横に転がりかろうじてかわす。

壁にめり込んだ鎖をライダーが勢いよく引き抜くと、メキメキと音を立て、教室が2倍の広さになった。

これを隠蔽しなくてはならない協会側の監督役…つまりは親父の小さな背中が瞼の裏に浮かび、思わず涙が出るが、今はためらっている場合ではない。

相対するは人をはるかに超えた存在。

生身の人間からすれば、繰り出される攻撃は神速にして一撃必殺。

 

「サーヴァント相手じゃ、出し惜しみしてる余裕もなさそうだ」

 

「ふむ。貴方には多少の感覚の鋭さと武術の心得の他に何かあるようには見えませんが」

 

ライダーは嘲笑うかのようにチャキリと鎖を構え直す。

 

(……あ…鎖が服の端に引っかかって見え…)

 

「っ?!」

 

視線に気が付いたのか、余裕のない一撃を繰り出したライダー。

 

 

(これは好機だ。逃す手は…ない!)

 

 

「そりゃあ見えないだろうよ、そんな目隠ししてたんじゃ…なッ!」

 

強化をかけた脚力で地面を思い切り蹴り、一気に間合いを詰める。

振り下ろされる短剣を見切り、紙一重でかわす。

牽制のため、数発拳を放つが、難なく鎖で受け止められた。

 

 

これは思った以上に骨が折れそうだ。

 

 

「手始めにこの目障りな結界を消させてもらうぞ、スイカ割り女!」

 

「なっ…!いいでしょう!本当に掴みどころのない人だ、やれるものならやって見なさいッ!」

 

挑発。

それは心理戦の初歩。

全てにおいて万能というわけではないが、敵が戦い慣れていなければいないほどその効果は顕著に現れる。

 

打ち合いの回を増すごとに、ライダーの攻撃は単調になっていく。

効果があるのは明白だ。

 

 

…さぞいじられキャラな英霊だったのだろう。

 

 

「そんなもんか、大したことないな!」

 

「クッ…この…!」

 

かわしながら、士郎は思い出す。

教会の、聖杯戦争についての資料を読み込んだ中で気づいたのだが、召喚される全てのサーヴァントが歴戦の戦士というわけではない。

一見特異、かつ凶悪な能力を有する者ほどその能力に頼りきりになり、実戦の勘が鈍りやすい傾向がある。

 

そして、その剣筋を見て士郎は確信する。

 

(場数だけなら、俺の方が上をいく!)

 

「ッ…なぜ当たらないのです。貴方は本当に人間なのですか?」

 

「さぁな、ただまあこれなら、なんとかなりそう…だッ!」

 

「……!、こ、これは…?」

 

上半身を仰け反らせて回避すると同時に、士郎の右手から投げられた黒鍵がライダーの胸元へと突き刺さる。

 

瞬間。

 

まるでガラスが割れるかのように、結界が崩壊していく。

困惑するライダーに追い討ちの発勁をお見舞いするが、すんでのところで躱され、身を翻して窓際へと逃げられる。

だが、このまま続ければ勝負はすでに見えていた。

 

「さて、もう無限の魔力供給というわけにはいかないな。そろそろお前も出し惜しみはやめたらどうだ、ライダー」

 

黒鍵を引き抜き、床に叩きつけると唇を噛み、苦笑いするライダー。

 

「そう、ですね。どうやら私もこれまでのようです。その前に」

 

「…?」

 

「貴方が生き残ったら、桜を、私のマスターをお願いします」

 

「……あぁ。引き受けた」

 

成程。彼女もまた被害者だった訳か。

彼女がマスターと言った桜の手に令呪は残っていなかった。

 

恐らくは偽臣の書。

その三つ分。ならば、宝具の強制も納得が行く。

 

安心したように微笑んだ瞬間、赤く体がきらめき始めたライダーは顔をひきつらせ、再び唇を噛む。

刹那、彼女の持つ刃を自身の首に突きつけ、貫いた。

 

おそらく最後の…令呪か。

 

「……投影、開始(トレース・オン)

 

傷口から漏れ出した強大なマナがライダーの周辺に集まり、それらは美しい1匹の天馬と成る。

 

騎英の手綱(ベルレ・フォーン)!」

 

ライダーの持てる全ての魔力をかけた逃げ場のない、ゼロ距離からの突進が、1人の非力な少年へと向かっていく。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「どうやら、あっちも決着がついたみたいね?」

 

結界の崩壊と、慎二のもつ本のようなものが燃えたのを確認してそう結論付ける。

 

「ヒッ……くっ、お、おい!魔術師なんだろ!僕を殺してもいいのかよ!」

 

「はぁ?アンタ言ったわよね?凡人が何人死のうが構わないって」

 

「な、だ、だからどうした!何が悪いのかよ!魔術師っていうのはそういう生き物だろ!」

 

「なぁんだ、分かってるんじゃない。ただね、気に入らないのよ。 魔術回路もろくに無い貴方を、どうして言峰くんが魔術師って呼んだか。…その意味が、あなたに理解出来る?」

 

「ハ…?何を…」

 

「悔しいけど、アンタの考えは私達魔術師と大差ないということよ。少なくとも、幾多の魔術師とも敵対してきた彼にはそう見えたのでしょうね」

 

「彼…?言峰のことを言っているのか…?」

 

(全く冗談じゃないっての。幼馴染みが帰ってきたら元代行者の脳筋魔術師になってるなんて…)

 

「さあ?それより、覚悟はいいんでしょうね、慎二?」

 

「ヒッ、うわぁぁぁああぁああ!!」

 

情けなく悲鳴をあげながら逃げ惑う後ろ姿を見送り、ため息をこぼす。

 

「ふん、これで少しは懲りたでしょ」

 

そう言えば、先ほど身震いするほど強大な魔力の渦を感じたのだが、爆発の一つも起こっていない。

 

「ったく、帰ったらお説教なんだから…!」

 

慎二の背中が消えたのを確認し、踵を返して士郎の元へと向かう。

聖杯戦争はまだ始まったばかり。

思惑立ち込める中、空はただ一色、純粋な青に戻っていた。

 

 

 

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