言峰士郎の聖杯戦争   作:麻婆アーメン

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夢想

痺れを切らして士郎と桜の携帯に電話をかけて見るも、全く繋がらない。

 

ソファに体を預けたまま溜息をこぼし、頭の中を整理しながらその名を呼んだ。

素直に呼びかけに応じて姿を現したところを見ると、今日の英雄王様は案外機嫌がいいと見える。

 

「ねぇギルガメッシュ〜」

 

「なんだ雑種。凡庸な用事で我のレースを邪魔したのなら容赦はせぬぞ」

 

「ゲームなんていくらでも出来るでしょ、それよりあの時のこと、もう1度確認させて」

 

「あの時とは?」

 

「とぼけないで。イリヤに提示した条件のことよ」

 

「フハハ、これがそこまで気になるか雑種」

 

そう言うと王の財宝(ゲートオブバビロン)から金色の器を取り出し見せびらかすように右手に取る

 

「それ、聖杯なのよね?どうしてアンタが持ってるのよ」

 

「言ったはずだが?我の蔵にこの世全ての財宝が収められているとな。」

 

「ならアンタは聖杯戦争に参加する理由なんて…ううん、もう私達が戦う理由すらなくなるじゃない」

 

「残念だが雑種、これは未完成だ。杯が空になったのなら次の1杯を求めるのが常であろう。その程度察せよ。」

 

「いや察せよじゃないわ先に教えよ……そういえばアンタ前回の聖杯戦争にも参加していたのよね?」

 

「あぁ。だが前にも言った通り記憶はない。せいぜい記録があると言ったところか」

 

「そう。じゃあ最後に一つ。最古の英雄王様に質問があるんだけど」

 

「ようやく我の扱いを心得てきたと見える。良いぞ、その無礼を許す」

 

「…もしかして…

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「駄犬、気を付けなさい。彼らは生半可ではありません」

 

「心配してくれてるのか、待ってろ。今すぐ救けてやる」

 

事前にセイバーとイリヤから聞いた情報を交えて整理しよう。

 

一つ、切嗣は彼のサーヴァントであるエミヤをイリヤスフィールに預けている。

口約束だけならまだしも、令呪のうち二つを『イリヤスフィールの基本方針に従うこと』という命令に使用した。

 

二つ、エミヤはイリヤスフィールがアインツベルンの別荘に待機するように指示。

もし令呪の最後の一つで切嗣が呼んだとしても、基本方針の決定権はイリヤにある。

つまり今回エミヤは相手の戦力にはならない。

 

三つ、これはかつて親父に聞いた話だが、衛宮切嗣にはセイバーにも見せていない奥の手がある。

 

衛宮切嗣の屠った相手のデータを見たが、調べのついたものの全てが魔術回路暴走の痕跡が見られたらしい。

恐らくは魔術回路にかなりの負荷を与える魔術もしくは礼装。

故に、その切り札を切られる前に無力化する必要がある。

説得はその後だ。

しかし悔しいが、体術が魔術強化に依存している今の俺が相手するには相性が最悪だ。

故に、俺とジャンヌはキャスターを狙う。

ジャンヌには対魔力があり、しかもそのランクは規格外のex。

ジャンヌはその宝具の性質も相まって相手の攻撃を防ぐことに一日の長がある。

故に、ジャンヌに守ってもらい懐に入り込み、俺が仕留める。

これが今俺たちに出来るベストの戦略。

…あれだけ啖呵を切っておいて衛宮切嗣をくじいてやれないのは悔しくないわけじゃないが。

 

「士郎!」

 

イリヤを結界から守って遅れてきたセイバーが呼びかけてくる。

…何故だろうか、一度切られかけた相手なのに名前を呼ばれることにどこか心地良いなどとと感じてしまうのは。

 

「打ち合わせ通りにいく。頼むぞ、セイバー、ランサー!」

 

「はい、士郎もご武運を」

 

「あら、その可愛らしい子が私の相手をしてくれるのかしら。うふふ、楽しみだわ」

 

「悪いが俺が相手だ!」

 

「っ…!」

 

黒鍵をキャスターに向かって投函し、魔術によるガードを張った隙に懐へ潜り込もうと走り出す。

が、その拳が届くことは叶わない。

何が起こったのかも分からないままに地面に伏せる士郎。

 

「侮ったな言峰!」

 

「なッに…!?」

 

地面が目の前に迫って初めて後頭部に痛みを覚え、咄嗟に手を付き、全力で転がってその攻撃の出処を探す。

なんだ今のは、キャスターの魔術?詠唱どころか指一つ動かさずに発動できるような高等魔術を自身が虚を突かれた中で発動した?

有り得ない。いやしかしそれは並の魔術師の話…サーヴァントならあるいは…

 

「上です!マスター!」

 

…っ!

 

ジャンヌの声に頼り、膝立ちの状態から死にものぐるいの前転をかます。

直後、背後から地面め砕く鈍い音が響いた。

そうしてようやくこの視界に、その罪人を捉えた。

 

「……葛木先生、アンタ体育教師の方が向いてんじゃないか?」

 

「……フゥ」

 

この堅物教師め。少しくらい可愛い生徒の軽口に付き合ってくれてもいいだろう。

この調子じゃ心理戦に持ち込むことはおろか、後に控える説得も困難を極めそうだ。

切嗣を無力化すればそれで終わりだと思っていたが、どうやら甘かったらしい。

 

「マスター!来ます!」

 

「がぁっ!?」

 

瞬間移動したのではないかと疑うほどの高速移動から、その速度と体重を乗せた拳。

気がつけば頬をかすめていた。

息をつく暇もなく繰り返される左拳。

最早それは連発、というより連射という言葉の方がしっくり来るほどだ。

それをすんでのところでかわし続ける内に、気付いた。

これはかわせているんじゃない…かわさせられている(・・・・・・・・・)

じわじわと追い詰めて締め上げ、逃げ場をなくして命を刈り取る蛇の如く。

そして来るは命を刈り取る一撃。

 

「フッ!」

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテル)

 

葛木の握った拳をハンマーのように叩き付けたそれから放たれたはずの衝撃は、聖女の祈りが打ち消した。

一瞬何が起こったのかわからず少年の体に触れたまま隙を晒した葛木はその腕を掴まれて初めて危機感を覚えた。

しかしもう遅い。

 

射影(オーバーライト)、マグダラの聖骸布」

 

葛木の服に、男性専用の拘束具…もとい、シスター御用達SMグッズの性質を上書きする。

こうしてしまえば外部から力が加わらない限り男にはこの拘束を破る事など叶わない。

そしてその拘束を破る時、それは葛木が裸体になる時でもある。

それ即ち社会的な死。詰みだ。

俺はかつてこの方法で数々の手練を拘束してきた。その拘束力の強さを身をもって知っているからこそ絶対の信頼を置いている。

 

「キャスター。マスターを失えばお前も終わる。殺すつもりはない。話を聞いてくれないか」

 

「……分かったわ。私達の負けよ。拘束でも何でもしなさい。」

 

そう言って敵意が無いことを示すためにフード付きのマントを脱ぎ、両手を差し出す。

 

「いやいいよ。まずは話を聞いてくれ。納得してくれないならしょうがない、とことんやろう」

 

キャスターが女性である以上…いやまあ例外がいない訳ではないのだが、マグダラの聖骸布を使う訳にもいかない。

半分はハッタリだが、キャスターも人質がいる以上下手に手出しは出来ないだろう。

 

ふぅ、と一息つくと念話で2人を解放するように指示する。

コクリと頷くと、ジャンヌが2人が拘束されている柱の元へと走っていった。

 

さて…

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

銃身から射出されるおびただしい数の弾丸をかわし、時には斬り落として距離を詰めようと走るセイバー。

対して切嗣はとにかく手数で攻める。

ワルサーWA2000、コンプトンコンテンダー、キャリコM950、手榴弾…

距離を詰められれば固有時制御を使用し、すぐさま距離をとる。

しかし誰の目にも、セイバーの有利は明らかだった。

 

「切嗣、何故です!どうして貴方はいつも私に何も教えずに突っ走るのですか!」

 

「……」

 

「なんとか言いなさい!切嗣!!」

 

…まずいな。正直やりにくい。

サーヴァントには魔力のこもっていない弾丸は効かない。だから弾丸の1発1発に魔力を込めるしかない。

奥の手の起源弾も害が及ぶ可能性がある以上イリヤの魔力供給を受けているセイバーには使えない。

それに加えて接近戦は圧倒的に不利。

中距離でも間合いを詰められれば詰み。

固有時制御(タイムアルター)も単体では決定打になりはしない、と来たか。

イリヤの信頼を得るためとはいえ下らないことに令呪を2画も使ったのは失敗だった。

僕も焼きが回ったな。

唯一の救いは相手に僕を殺すつもりがないこと、それとキャスターに作らせたアレ。

 

「切嗣…」

 

「イリヤ、僕達が戦う必要はないはずだ。セイバーを止めてくれないかい?」

 

「切嗣…!貴方は自分が何をしようとしているかまだ分かっていないのですか!」

 

「…だめ、私は止めないよ。私達の言うことを聞いて、切嗣がお家に帰ってくるまでセイバーを止めない」

 

「……頑固なのは母親譲りか、参ったな」

 

イリヤの瞳を見て、交渉は無理だと判断した。

駒を失うのは惜しいが、仕方ない。

この際セイバーは諦めよう(・・・・)

僕は、何をしてでもイリヤを救う。

 

アレを、使おう。

 

「セイバー、10年前の事は話したはずだ」

 

「ええ、聖杯が正常ではないというのは理解しました。その上で令呪による命令も妥当だと今は納得しています。ですが、ですが私が責めているのはその事ではありません。なぜ一言言ってくれなかったのですか!今も、昔も…!」

 

「必要ないからだ。目的を叶えるためならばその程度のこと仕方ないと判断した。」

 

「アイリスフィールも…舞弥も…イリヤスフィールも、仕方ないで済ませるのですか?」

 

「イリヤは守ると言ったはずだが」

 

「…イリヤにあの雪のような冷たい孤独を与えることが、本当に彼女のためになると思っているのですか?」

 

「生きていればそれで充分だ。幸せになる方法なんていくらでもあるだろう」

 

「では貴方が…貴方がそれを教えてあげれば良いではないですか!英雄王の持つ代理の小聖杯に接続を切り替えれば…2人が、2人とも助かる道があるのに!どうして貴方は!」

 

「確実性の話さ。英雄王の目的が聖杯の泥を生み出すものならどうする?また10年前を繰り返すつもりか?今度はイリヤまで巻き込んで?…それに聖杯を完成させようと思うのなら、僕の中の聖杯から既に脱落した一体の魂を移し変える必要がある。どちらにせよ僕が狙われるのは変わらない。僕が犠牲になってイリヤが救われるのなら、それが最善さ。」

 

「……セイバー。」

 

「はい」

 

「お願い。切嗣を、お家に連れて帰ろう。」

 

「了解しました。マスター」

 

「…セイバー、君にイリヤを任せたのは失敗だった」

 

「もうここで貴方に言うことはない。口を閉じろ」

 

「キャスターの強さは、その根城で発揮されることをもう忘れたのか?」

 

「……ッ!まさか貴方…!」

 

「自害しろ、セイバー。さもなくば僕の意思一つでこの周辺の人間は魔力を食い尽くされて死ぬ。」

 

「きり…つぐ…?」

 

聖杯を協会から奪うと言いだした何も知らないキャスターに協力する振りをする代わりに、彼女に作らせた結界。

それはキャスターが魔力を持たない葛木をマスターとしながらも、視界するための魔力を補うために作り上げた結界。

本来なら少し倦怠感がある程度だが、今切嗣の手に委ねられたそれはまるで違う。

切嗣がある回路に魔術を通せば即周辺の人間の魔力を喰らい尽くす。

魔術師ならばともかく、一般人が無事な筈がない。

 

「…何故だ切嗣…!誰より平和を願っていたはずのあなたが…!」

 

「くどい。セイバー、もう一度だけ言う。自害しろ」

 

「くっ…!」

 

苦虫を噛み潰したような顔になるセイバーと、言葉の意味を理解出来ず呆然とするイリヤ。

切嗣はそんな二人を見て何処か悲しげな顔をし、タバコをくわえ火をつけた。

だが、そんなものを、この男が許すはずがない。

 

「正義の味方が聞いて呆れるぞ、それじゃまるっきり悪役じゃないか」

 

「言峰…士郎」

 

右手で左手首を抑えてコキり、と骨を鳴らしつつゆっくりと衛宮切嗣を見据えて歩く。

 

「話は聞いていたんだろう?それとも君が代わりに死にたいのかい?…いや…なるほど」

 

『そういうこと。私達はこちらにつくわ。後味の悪い魔術なら解いたから、安心しなさい、セイバー。』

 

姿を見せないまま、辺りにキャスターの声が響く。

詰みだ。もう衛宮切嗣に手はない。

所詮女王様か、悪役に徹するのは無理があったらしい。

 

「話を聞いてくれ、衛宮切嗣」

 

「……いいだろう」

 

「…!」

 

「と、昔の僕なら答えただろうね。」

 

「そういえば諦めが悪いのが男の中の男だって一成が言ってたな…いいぜ、最後まで相手するよ」

 

「士郎!」

 

「セイバーはイリヤを頼む。流れ弾に注意してくれ。」

 

「しかし…!」

 

「怒りに囚われた今のお前じゃ、イリヤを守りながら戦うなんて無理だ」

 

「……ご武運を」

 

たった一言でセイバーの核心をつき、素直に下がらせてみせた。

どうやら敵の方がよほどセイバーの扱いが上手いらしい。

しかも相手はあの言峰綺礼の息子。

奴のサーヴァントは事前の調査で使い物にならないことは見えている。

その上であの暗殺拳の使い手と魔女を組み伏せたとなると…いや、説得か?

どちらにせよ厄介な相手には違いない。

 

初めから、全開でいこう。

 

「……」

 

もう弾丸に魔力を込める必要は無い。

敵の令呪は3画。アレと同じ戦略は使えない。

ならば魔力を引き出し、起源弾で仕留める。

いつも通りに。

キャリコの連射で牽制。

相手はジグザグにこちらの銃弾を交わしながら徐々に距離を詰めてくる。

早い…!

魔術による強化。しかしこの程度の魔力量では起源弾が致命傷にはならない。

更に引き出す。奴の、全開を。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ…良くやりました、駄犬。褒めてあげましょう。」

 

「はい!お姉さまが無事で何よりです!……しかし…」

 

「坊やのことかしら?主人が待機しろと命じたなら従うのが私達の在り方でしょうに。グチグチ言っても仕方ないでしょう」

 

「それはそうなのですが…私は頼りにされていないのでしょうか…本当ならマスターが命をかける必要なんて…」

 

「そこの雌豚の言う通りですよ、駄犬」

 

「誰が雌豚よっ!」

 

「あの早漏が教会関係者になんと呼ばれていたか教えてあげましょうか。退魔師(エクソシスト)、ですよ」

 

「かっこいいですね…なんだか映画の中みたいです」

 

「そうでもありません。代行者からすれば悪魔憑きは問答無用で殺すのが暗黙の了解でした。当然です。ためらえば自分と仲間がやられるのですから。それを殺すことなく悪魔のみを滅する破綻者。代行者の資質を持ちながら人を殺せない臆病者。そういう意味で与えられたのがその二つ名という訳です。」

 

「でも彼は貴女を助けるために数多くの魔術師や代行者と渡り合ってきたんでしょう?流石に一人も殺さないなんてこと…」

 

「調べたんですか?私達のことを」

 

「そりゃあ私はなんとしても生き残りたかったもの。そのくらいするわ。もうその必要も無くなってしまったのだけれど」

 

「まあ、そうですね。あの馬鹿に免じてその位は許しましょう。それと疑問に答えておきますが、アレは少なくとも私の知っている限りは一人も殺していませんよ。」

 

「一人も…」

 

「本来相手の攻撃を他の物に移し変える魔術…はて、名前は忘れましたがそれを使い致命傷を全て自分に返していた様です。体が死ぬと消滅する悪魔はその危機を察知してその体から本能的に離れる…そこにトドメを刺す…それが退魔師(臆病者)のやり方でした」

 

「そんな…それじゃ先輩が…!」

 

「…よく生き残って来れたわね。破綻者…ある意味核心を突いているかもしれないわ。まあそれを聞いたら坊やを全面的に信頼するのも悪くないかもしれないわね。」

 

「じゃあマスターを救けてあげてくれませんか!このままじゃ…!」

 

「そうはいかないわ。手を出すな、というのが条件の一つでもあるし。なによりここで死ぬようならこれからもアテには出来ないでしょう」

 

「そんな…」

 

「心配いりませんよ、ランサー」

 

「お姉さま…」

 

「アレは、私が許可するまで死にません。そういう生き物ですからね」

 

「…はい。」

 

頭を撫でやっても心配はつきませんか。

まあ…それはそうでしょうね。

私だって心配でないわけではありませんから。

しかし心配は必要ありませんよ。

アレは今まで1度も私の期待を裏切ったことはありませんから。

 

 

それに…危なくなったらアレが出てくるでしょう。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

弾幕をかわし、柱の裏に隠れる。

キャスターによって境内全体に張られている結界のお陰で簡単にものが壊れることはない。

それだけが救いだった。

……参った。

正直勘弁して欲しい。

あれだけぶっぱなしているからいつか弾切れを起こす、そこを狙って1発入れてやろうくらいにしか思っていなかったが全くその素振りがない。

銃の型から予測して動くのも危険だ。恐らくあれはカスタム品。

詳細な解析魔術は触れなければ発動できない。

しかも奥には未だ見せていない切り札を隠し持っているときたか。

 

手元をちらとみて、残存武装を確認する。

黒鍵の本数は15本。

……以上!

うっそだろおい。

こんなことなら銃の一つくらい…ってここ日本だよ?なんでアイツ当然のようにあんなに何個も銃持ってるんだよ。

銃刀法違反って知ってますか…?

あんなにあるなら一つくらい俺に分けてくれても…

考えているうちに1発の銃弾が柱を貫いて頬を掠めた。

もう迷っている時間もないか…

正直かなりの掛けだが……やるしかない

 

「うおぉぉお!!!」

 

「血迷ったか…ッ!」

 

雄叫びをあげながら銃弾の雨の中を突き進んでいく。

現代の魔術において、銃弾を防ぐことはそう難しいことではない。

それは例え魔術回路の決して多くない俺であってもだ。並みのハンドガンくらいなら魔力を身体の表面に覆うことで皮膚を貫くことなく止めるなり、弾くなりすることができる。

……まあうちの師匠は拳と足にだけ強化をかけて銃弾を殴り落としたり蹴り落としたりしていたが……。

もし魔術の秘匿が成されていなければ、世界の軍事力の主戦力の大部分は魔術師で構成されていたことだろう。

銃弾や刃が一を殺す間に魔術は1000を殺す。

人々に利するために生まれてきた魔術には皮肉な話だが、魔術の兵器としての汎用性はかなりのものだ。

しかし魔術と同じように、銃も進化を遂げてきた。

例えば衛宮切嗣の持つトンプソンコンテンダー。

あれはその小さな銃身からあらゆる種類の銃弾を打ち出すことが可能であり、その弾丸によってはトラックをぶち抜くことも可能である。

何より俺自身海外で麻酔弾を打ち込むために使用していたからよく知っていた。

だから、普通に考えれば突っ込むことは悪手。

だが服にさえ触れてしまえば拘束が可能。

この距離なら…いける…!

 

「…!士郎!避けて!」

 

「ぐ…ぁ…?」

 

かわしきって奴に触れた…はずだった。

魔術回路を開こうとするその直前で、衛宮切嗣は突然視界から消え、直後脇腹を掠めた熱。

セイバーの声で咄嗟に体制を変えたために直撃は免れたらしい。

咄嗟に飛びのき距離をとる。

射影を使おうとしたから魔術によるガードが甘くなった部分を狙われたのか…?

だがこの程度何でもない。あっちでは弾丸に頭突きしたこともあるんだ。屁でもないさ。

そんな虚栄で自分を誤魔化しながら傷を確認する。

そして気づいた。

……血が…出てない?

傷が塞がっている?

 

「君はイリヤのお気に入りみたいだからね。冥土の土産に教えてあげるよ」

 

「なにを…がハッ…!?」

 

しかし口から飛び出したのはいつもの軽口ではなく、血の塊だった。

目の前の土が濃い血色に染まっていく。

 

「君が今受けたそれは起源弾。僕の起源…切り放し、嗣なぐ。それを対象に無理矢理引き起こさせる弾丸さ」

 

「……つまり俺の体の血管やらを1度バラバラに切り放してめちゃくちゃにつなぎ直したと、そう言いたいのか?」

 

「いいや、それだけじゃない。そしてそれこそが僕が魔術師殺しと呼ばれる所以でもある。」

 

「…!まさか魔術回路までもそうだというのですか!切嗣!」

 

言われてハッとする。

先ほど飛び退いた時思ったよりも力が入らなかった。

体が不調だというのを除いても、もっと距離は出たはずだ。

つまり…

恐る恐る魔術回路に魔力を流す。

 

「……ぁ…」

 

「君はもう魔術師として生きられない。大人しく引くなら逃がしてあげなくもないよ、士郎」

 

そう言って、タバコに火をつけた。

握る拳に魔力は宿らない。

地に横たわる足は言うことさえ聞かない。

立つことさえ、叶わない。

……

 

「…ら、……した」

 

「ん、何か言ったかい?」

 

魔術が使えないーだからどうした。

吐き気も止まらないーそんなことは大したことでは無い。

諦めれば、命はたすかるーそんなことは…

 

人を見捨てて自分だけ助かるような生き方は、言峰士郎に許されてなんかいない

 

「だから…どうした…!」

 

「…フゥ…状況は分かっているのかい?君は生きていること自体が奇跡なんだ。魔術はもちろん、今すぐ治療しなければ息をすることも出来なくなるだろう。それでも死に急ぐって言うのかい?」

 

「…知ったことか。……カハッ…俺の命の心配をするのは…皆を救ったその最後…って、決めてんだ…よ!」

 

「切嗣…!あなたは!」

 

「手を出すな!セイバー!」

 

「ッ!し、しかし…!」

 

「俺の、戦いだ」

 

拳を握る。

魔力は籠らなくとも。

目線が定まらなくとも。

救けを求めているのなら、言峰士郎は必ず応える。

言うなればそれが俺の…言峰士郎の

 

起源(オリジン)だ!」

 

「…愚かな」

 

走る。

天と地がひっくり返っても気付かないほど朦朧とした意識の中、従うべきは己の矜持のみ。

血の滴る耳の奥で、師の声がした。

 

『士郎、もし万が一、敵がどうしようもなく強くて、貴方の魔力が尽きるほど追い詰められたら』

 

『追い詰められたら?』

 

『気合で近付いて全力でぶん殴りなさい!』

 

「こなくそぉあぁあ!!」

 

「ッ!?どこにそんな力が…!」

 

士郎のフラフラとした足取りから放たれた、強烈な一撃に不意を突かれるも、咄嗟に固有時制御を使うことで回避する。

しかしその体術は先程までの八極拳とは明らかに別物であった。

八極拳の極意は呼吸法にある。

呼吸器官すら潰れかけている今の士郎では、その実力の全てを出せはしない。

故に切り替えた。

憑依ではないために100%模倣することは不可能でも、自らの肉体で体験し理解した師匠の技術。

 

「あれは…」

 

「キックボクシング…?」

 

「うおらぁぁ!!」

 

「ッ!!」

 

捉えた…!

そう思った次の瞬間には奴は加速しひらりとかわして銃弾を撃ち込もうとしてくる。

魔力によるガードもままならない今の状態では、ただただ距離を詰めて懐に潜り込み続けるしかない。

だが敵もナイフで応戦してくる回数が増えてきている。

銃弾の残りも少ないらしい。

だが持久戦になって不利なのは間違いなく自分の方だ。

視界が徐々に赤く染まっていく。

もはや足の裏の感覚がない。

だけど、だけど。

目的は、約束は

やるべき事だけは、ハッキリしている。

だったらまだ、まだ戦える。

 

「っ!」

 

「くっ…!」

 

思い切り振り抜いた脚が、加速して回避したはずの切嗣の頬を掠めた。

 

「今の感覚は…」

 

「まさか…馬鹿な」

 

拳を握って目を閉じる。

そうだ、考えてみればそんなことは大したことじゃない。

一度切られても、繋がっているのなら。

無意識のうちに思い出していた。

あの日の火災で確かに俺は全てから断ち切られた。

もちろん憎らしくないと言えば嘘になる。

だけど、だけど。

あれが無ければ親父にも、遠坂にも、桜にも。カレンにだって、会うことは無かったはずだ。

把握しろ、今の自分を。

もともとたった27本しかないんだ。1000ピースのパズルよりよっぽど簡単じゃないか。

 

「貴様…!」

 

ナイフが投射される。

依然目は閉じたままだ。

けれど、だけど。

 

俺にはそれがいつもよりハッキリと見えた。

一度切れ、繋がった魔術回路は魔力の流し方を変えることでなおその役割を果たし得る。

 

「……」

 

「な…に…」

 

奴が銃を構えるより早く。

俺の拳が奴の腹に刺さった。

息の漏れた音が聞こえた。

これは、知らない内に命を危険に晒された人達の分。

 

「?!」

 

魔力で強化した脚で思いっきり脛を蹴る。

これは信じた父親に裏切られたイリヤの分。

 

「いい加減目覚ませよ!正義の味方!」

 

怯んだ間抜けヅラを、思い切り右拳が貫いた。

切嗣の体が宙を舞い、一回転して地面に背をつけた。

これが、なんちゃってsmプレイを強制されたカレンと桜の分だ。

 

 

「何故だ、君はどうしてそこまで出来るんだい。」

 

「俺の魔術はさ、1人じゃ完成しなかった。武具は触ってじっくり見なきゃ射影も投影も出来ないし、技術だって自分である程度受けたり真似したりしなきゃとうてい使い物にならない」

 

「僕の話を聞いているかい?」

 

「聞いてるよ、けど俺だってよくわかんなくてさ。まあ……理由があるとしたら約束かな。困ってる奴全部助けて、その後に絶対に迎えにいくって」

 

「……全てを救うなんて無理だ。必ず犠牲は必要になる」

 

「やる前から諦めてんじゃねえよ。アンタが目指す正義の味方なんてせいぜいプリ〇ュアで良かったんだ。」

 

「真面目な話をしているんだが」

 

「別にふざけてないよ。今までのアンタに足りなかったものがそこにある」

 

「足りなかったもの…?」

 

倒れ込み、紫色の空に浮かぶ月を眺めていた切嗣がようやくこちらに目を向ける。

似たもの同士ってのは引き合うのかもしれない。

セイバーも、切嗣も、イリヤも。

……まあ、考えてみれば俺だってその1人なのかもな。

頭をかきながら右の拳をひらいて差し出し、挑発気味に笑いかける。

 

「察しが悪いな…正義の味方(ヒーロー)ってのは1人じゃ戦えないんだよ」

 

「そう、か。間違っていたんだな…僕は。変だな、少し安心した。」

 

うわ言のように呟いた後、目をつぶった切嗣を見てようやく気が抜ける。

情けないがとっくに足にも腕にも限界が来ていた。

ドス、と腰を下ろすと、横目にこっちに向かって駆け寄るイリヤとセイバーが見えた。

勧誘と説得は仲直りの後でも構わないだろ。

そんな自分への言い訳に甘えて、俺は体を地面に預け、意識を手放したのだった。

さっきまで月にかかっていた雲は、いつの間にかどこかへ流されていた。




切嗣って戦闘中喋らなさそうだから小説だと難しいですね
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