私の名前はラベンダー   作:エレナマズ

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第二十話 西住家と犬童家

 西住流戦車道家元と書かれた看板が目立つ大きな邸宅。この邸宅が西住みほの実家であり、日本戦車道の最大流派である西住流の総本山であった。

 

 現在、この邸宅の大広間では二人の人物が長机を挟んで向かい合っている。

 一人は西住流の師範であり、来年家元を襲名することがすでに決まっている西住しほ。もう一人は、西住流一門の中でも古株である犬童(いんどう)家で当主を務めている男。

 

 犬童家は西住家をずっと支えてきた忠臣である。

 支えたといっても、戦車に乗ってともに戦ったわけではない。情報収集や財務関係、交渉事などの裏の方面で、犬童家は西住家の力になっていたのだ。西住流が日本で大きな力を持つことができたのも、犬童家のサポートによるところが大きかった。

 

 犬童家の現当主は二人の娘を持つ父親で、しほの夫である常夫とも親しい。高校生の娘がいるとは思えないほど外見は若々しく、スーツをきっちり着こなしたハンサムな男であった。

 しほにとっても良き相談役であり、信頼に値する人物。それが西住家の人々が抱く、犬童家当主の評価だ。

 

「島田流がみほに手を伸ばしている。あなたはそう言いたいのですね」

「はい。島田愛里寿の体験入学に加えて、みほ様が準決勝で見せた島田流の動き、さらにみほ様と島田愛里寿の親密さをうかがわせるこれらの写真。この事実を踏まえると、その可能性は十分にあると思われます」

 

 机の上で列を作る数多くの写真。そのすべてにみほと愛里寿の姿が写っていた。

 写真の中の二人はとても親しそうにしており、二人の仲が良好だということが一目でわかる。

 

「あなたの言うとおり、みほと島田愛里寿は親しい間柄なのでしょう。ですが、みほがそれだけで島田流に傾倒するとは思えません」

「もちろん私もそう思っておりました。しかし、先日行われた聖グロリアーナ祭で風向きが変わってきたのです」

 

 犬童家の当主は懐から別の写真を取りだした。それを見た瞬間、眉間にしわを寄せていたしほの表情がさらに鋭さを増す。

 写真に写っていたのは、聖グロリアーナ祭に向かう愛里寿に手を振る日傘を差した女性。この人物こそ愛里寿の母親であり、島田流の家元でもある島田千代であった。

 

「しほ様、この場に姿を見せたのは島田流家元だけではありません。こちらの写真もご覧ください」

 

 犬童家の当主はもう一枚写真を机の上に置いた。その写真には聖グロリアーナ女学院の校内を歩く、眼鏡をかけたスーツ姿の男が写っている。

 

「この男のことはしほ様もよくご存知のはずです。文部科学省学園艦教育局長、辻廉太。娘が通っているわけでもないのに、聖グロリアーナ祭に姿を現すのはいささか不自然ではありませんか? 現に聖グロリアーナ女学院に通っている私の娘は、辻廉太がみほ様と島田愛里寿の近くにいたのを目撃しております」

「彼が島田流と手を組んでいるということですか?」

「それは私にもわかりませんが、違うとも言いきれません。この男は実にしたたかな人物です。裏で島田流とつながっていたとしても不思議はないかと……」

 

 犬童家の当主の言葉には説得力がある。情報収集は犬童家のもっとも得意としているところであり、彼の助言にはしほも何度も助けられてきたからだ。

 しほが迷うようなそぶりを見せていると、犬童家の当主はたたみかけるように言葉を発していく。 

 

「幼少時のみほ様は、島田流のような奇策を用いる戦い方を好んでおりました。これ以上島田流とみほ様を接触させては、取り返しのつかない事態になりかねません。しほ様、聖グロリアーナ女学院にみほ様を在籍させたままにしておくのは危険です」

「みほに聖グロリアーナ女学院を薦めたのは私です。今更それを変えることは……」

「まほ様があのようなことになってしまった今、後継者になれるのはみほ様しかおりません。これは西住流の存亡がかかった非常事態です」

「みほを後継者に?」

「そうです。みほ様が後継者になり黒森峰女学園に戻る。これですべてが丸く収まります。しほ様、島田流につけ入る隙を与えないためにも、どうかご決断を!」

 

 犬童家の当主は畳に額をこすりつけるように頭を下げる。

 長年自分を支えてくれた人物の必死の懇願。それがしほの決断を後押しする大きな決め手となった。

 

 

 

 犬童家の当主は西住邸をあとにすると、近くに停車させていた高級車の後部座席に乗りこんだ。主が帰ってきたことを確認した運転手は、車を発進させ来た道を引き返していく。

 後部座席にはストロベリーブロンドをショートポニーテールにしている少女が乗っており、帰ってきた犬童家の当主に深々と頭を下げた。

 

「お疲れ様です。お父様」

「ただいま芽依子」

 

 芽依子と呼ばれた少女は美少女といっても過言ではないが、声が低く表情も硬い。目つきもかなり鋭く、優れた容姿はまったく活かされていなかった。

 そんな娘の表情をまったく気にせず、犬童家の当主は優しい手つきで芽依子の頭を撫でる。表情は硬いままであったが、芽依子の頬はうっすらと赤く染まっていた。

 

「しほ様との話し合いの結果はどうでしたか?」

「うまくいったよ。しほ様をだますようで心苦しいが、これも西住流のためだ」

「みほ様は納得してくださるでしょうか? 姉さんの話ですと、みほ様は聖グロリアーナでの生活を楽しんでいるようですが……」

「みほ様は心の優しいおかただ。まほ様の現状を知れば必ず納得してくださる」

 

 犬童家の当主は自信ありげにそう答えた。

 西住家を陰で支え続けてきた彼は、みほのことを幼少期から知っている。だからこそ、みほが出す答えをある程度予想ができるのだろう。

 

「問題があるとすれば、みほ様が黒森峰に戻ったあとだな。みほ様の交友関係の件は早めに対処する必要がある」

「みほ様の友達候補はすでに姉さんが目星をつけています。高校からの新隊員で構成されたグループの中に、みほ様と相性が良さそうなグループがあるそうです。これがそのグループの写真と資料になります。橋渡し役は黒森峰に転校する姉さんが担当します」

 

 芽依子は持っていた資料を犬童家の当主に手渡した。

 一枚目の資料の写真に写っていたのは、栗毛の髪をショートカットにしたタレ目の少女。くせ毛の髪が特徴的で、優しそうな印象が写真からも伝わってくる。 

 

「みほ様の護衛は来年入学する芽依子にお任せください。逸見エリカは徹底的に排除します。もうみほ様に手出しはさせません」

「期待しているぞ。中学時代のみほ様につらい思いをさせてしまったのは我々の落ち度だ。今度はみほ様を全力で支えなければならん」

「はい。芽依子と姉さんがみほ様を守ってみせます」

 

 はっきりと断言する芽依子の表情はまるで鋭利なナイフ。少し怒っているようにも見えるその顔は、中学生とは思えないほど威圧感に満ちていた。

 娘の怖そうな表情を前にしても、父親である犬童家の当主は嫌な顔一つしない。たとえ表情が乏しくとも、彼は娘の気持ちがよくわかっているようだ。

 

「お前のような娘を持てて私は幸せだよ。……しほ様もまほ様のお気持ちを正しく理解していれば、このような事態にはならなかったのかもしれんな」

「お父様はまほ様のお気持ちがわかるのですか?」

「私はまほ様とみほ様を幼少期からずっと見守ってきたからな。すべてとは言わんが、ある程度はわかる。まほ様はみほ様に依存しているんだよ。みほ様がいなければ、まほ様が力を発揮できないのも当然だ」

 

 芽依子は難しそうな顔で考えこんでいる。その姿からは、父親の発言の意図をつかみかねている様子がうかがえた。

 

「芽依子は幼いころのお二人と一回しか会ったことがないからな。わからないのも無理はない」

「はい。姉さんと一緒に遊び相手を務めさせていただいたときは、とくにそのようなことは感じませんでした」

「幼少期のみほ様がやんちゃで好奇心旺盛なおかただったのは芽依子も知っているだろう? 小さいころのお二人は、みほ様が物事の先頭に立っていたんだ。自己主張が少なく物静かなまほ様は、いつもみほ様に手を引いてもらっていたんだよ。お二人が成長したことで立場は逆転したが、みほ様は今でもまほ様の心のよりどころなんだ」

 

 犬童家の当主はどこか遠い目で窓の外に広がる田んぼを眺めていた。 

 

「しほ様はそのことをお気づきにならなかったのですか?」

「多少はお気づきになっていただろうな。中学生になったみほ様に厳しくするようまほ様を指導したのは、おそらくそれが理由だ。まほ様に西住流の後継者としての自覚をもってほしかったんだと思うが、あれは悪手だった。みほ様を失ったことで、まほ様は瓦解してしまったからな」

「だからお父様はみほ様を後継者に推薦していたんですね」

「ああ、まほ様と違ってみほ様は意思が強いおかただ。しほ様に面と向かって黒森峰に行きたくないと言えるくらいだからな。だが、ほかの連中がこぞってまほ様を後継者に推したせいで、しほ様は判断を誤ってしまった。西住流を陰で支えることは我が一族の誇りだが、あのときばかりは自分の発言力のなさに頭を抱えたよ」

 

 西住流に多大な貢献をしている犬童家だが、ほかの西住流一門からは軽んじられていた。

 犬童家の役割はほとんどが後方支援。戦車で華々しく戦うことに比べると、どうしても地味な役回りになってしまう。さらに犬童家の当主が男性なのも軽視されている理由の一つだ。女性の武芸である戦車道の世界では、男性の意見が通ることはないに等しい。

 

「まほ様には本当に申し訳ないことをした。まほ様が重荷を背負うことになってしまったのは私の失態だ」

「大丈夫ですお父様。みほ様が戻ってきてくだされば、まほ様も立ちなおってくれます」

「……そうだな。後継者となったみほ様をまほ様が支える、これが西住流にとって一番理想の姿だ。お二人が手を携えて歩むことができれば、島田愛里寿に勝つことができる」

「島田愛里寿……西住流最大の障害」

「あれは本物の天才だ。将来西住流にあだなす存在になるのは間違いない。みほ様は気を許しているようだが、我々はそうはいかん。みほ様が島田愛里寿と戦うことになる前に、打てる手はすべて打つ。いいか、島田愛里寿には絶対に負けられんぞ!」

「はい!」

 

 犬童親子の興奮した声が車内に響きわたる。

 島田流の後継者である島田愛里寿。長年西住家の陰にいた犬童家が表に出てきたのは、彼女の存在も大きな理由の一つのようだ。

 

 水面下で起こっていた西住流の後継者問題。

 みほの将来にも大きな影響を与えるこの問題は、犬童家の介入によって新たな局面へと向かっていく。

 

 

◇ 

 

 

 冬休みに入ったことで、聖グロリアーナ女学院の学園艦は母港である横浜港に戻ってきた。

 多くの生徒が正月を家族と一緒に迎えるためにここで退艦する。学園艦に残っている女子生徒はほとんどおらず、女子寮もひっそりと静まりかえっていた。

 

 その女子寮でみほは熊本に帰る準備をしている。昨日は冬休み突入記念と称して三人で遊びまわっていたので、帰る準備をするのをすっかり忘れていたのだ。

 ちなみに、ローズヒップとルクリリの二人はすでに退艦済みであった。二人の実家は横浜市内にあり、軽く準備をするだけでよかったからだ。みほは休み明けに会う約束をして二人と別れ、こうして一人で荷造りに励んでいるのである。

 

「よし、準備完了。この日のためにお金も少し貯めておいたし、これならなんとかなるよね?」

 

 みほが準備を終えて一息ついていると、インターホンが鳴る音が聞こえてきた。

 

「誰だろう? この女子寮に残ってるのはもう私しかいないのに……」

 

 みほは不思議に思いながら玄関の扉を開ける。そこに立っていたのは、みほがまったく予想していなかった人物であった。 

 

「どもどもー、クラークですぅ。みほ様、お迎えにあがりましたよ」

「ふえっ!?」

 

 みほが驚くのも当然だろう。クラークとは聖グロリアーナ祭で一度会っただけで、自己紹介すらしていないのだ。にもかかわらず、彼女はみほに親しそうに話しかけてきた。それもニックネームではなく本名呼び、しかも様付けだ。

 

「みほ様の準備も万端なご様子ですねぇ。荷物はクラークが持っていきますので、みほ様は外に待たせてあるタクシーにお乗りください」

「えっ? えっ?」

「さあさあ、お急ぎください。めいめいも首を長くして待っていますよ」

 

 みほが困惑しているうちにクラークはどんどん話を進めていく。みほがまとめていた荷物はすでにクラークに持ち運ばれ、玄関も彼女が鍵をかけてしまった。

 突然の出来事に茫然としているみほは、あれよあれよという間にタクシーに押しこめられてしまう。クラークが運転手に指示した目的地は、学園艦に設置されているヘリポートであった。

 

「クラークさん、説明してください! どうしてクラークさんが私を迎えに来るんですか? これから私をどこへ連れていくつもりなんですか?」

「落ちついてくださいみほ様。大丈夫です、これから向かう先はみほ様のご実家ですから。みほ様もまほ様にお会いするために準備していたんですよね? なら好都合じゃないですかぁ」

「……あなたはいったい誰? どうして私のことをそこまで調べてるの?」

 

 目の前でニコニコしているクラークに、みほは得体の知れない恐怖を感じた。みほは聖グロリアーナの生徒であり、黒森峰とはつながりがない。なのに、クラークはいまだにみほのことを調べている。これはどう考えても不自然だ。

 

「クラークの本当の名前は犬童頼子と言います。頼子と気軽にお呼びください」

 

 犬童。その苗字にみほは聞き覚えがある。

 西住流一門の中で、父ともっとも親しくしていた人物。その人物の名前がたしか犬童だったはずだ。

 

「もしかして、お父さんと仲が良かった犬童さんの……」

「はい。常夫さんと親しくしていたのは頼子のお父様です。みほ様はお忘れになっているようですけど、小さいころに頼子たちは一度だけお会いしたことがあるんですよぉ。頼子は今でもそのときのことをよく覚えています」

 

 みほは幼少期のころ、一度だけまほと一緒に同年代の二人の女の子と遊んだことがある。

 四人で無理やり乗りこんだⅡ号戦車。アイスを食べながらみんなで楽しんだ川釣り。全員で泥まみれになりながら行ったカエル捕り。まほしか遊び相手がいなかった幼いみほにとって、まさに夢のような体験であった。

 今思えば、あの体験がみほの友達がほしいという願望のきっかけだったのかもしれない。 

 

 クラークの声を初めて聞いたとき、みほは声に聞き覚えがあったのを思いだした。あれは学校内で声を耳にしたのではなく、幼いころに聞いた声をみほが覚えていたのだ。クラークの声には特徴があると思っていたが、どうやら声だけは幼いころのままらしい。

 

「これから向かう西住邸でみほ様は重要な選択を迫られます。ですが安心してください。みほ様がどんな選択をしようと、頼子はみほ様の味方です」

 

 今までずっと笑顔だったクラークは、一転して真剣な表情に変わる。目はしっかりとみほのことを見据えており、彼女が嘘をついているようにはとても思えない。

 クラークに恐怖心を感じたみほであったが、その気持ちはだんだん薄れていく。幼いころに一緒に遊んだ記憶は、クラークに対する警戒心をみほからあっさり奪ってしまった。

 

 

 

 ヘリポートでは左右のツインローターが特徴的なヘリコプター、フォッケ・アハゲリス Fa 223通称ドラッヘがみほを待っていた。黒森峰女学園が視察などに使用しているヘリコプターで、みほも中学時代に何回か乗ったことがある。

 そのドラッヘの近くで、一人の少女が直立不動の姿勢で立っていた。

 

 少女の顔立ちは少しクラークと似ており、髪色と髪型もほぼ同じだ。双子というほど似ているわけではないが、二人に血縁関係があるのは間違いないだろう。

 ちなみに似ているのは外見だけで、スタイルは天と地ほどの差があった。クラークと比べると、少女は良くいえばスレンダー、悪くいえば貧相である。

 

「お待ちしておりました。みほ様が搭乗されるヘリの操縦士を務める犬童芽依子です」

 

 少女は左ひざを地面に着けて右ひざを立てる奇妙な座り方で、みほにあいさつを行った。その姿はまるで主の前にはせ参じた忍者のようだ。

 少女の服装は黒森峰女学園中等部の制服姿。当然下はスカートであり、右ひざを立てていると下着が見えてしまう。みほは慌ててやめさせようとしたが心配は無用であった。すらりと伸びた少女の白い足は、スベスベの黒いスパッツに包まれていたのだ。

 

「めいめい、お迎えご苦労様ですぅ」

「姉さん、そのめいめいという呼び方はやめてください。芽依子はもう子供じゃありません」

「つれないですねぇ。久しぶりのお姉ちゃんとの再会なんですから、もっと甘えてくれてもいいんですよ?」

「嫌です。みほ様の前でそんなみっともないことはできません」

「ガーン! 昔はあんなにお姉ちゃんに懐いてくれてたのに……めいめいはお姉ちゃんのことが嫌いになったんですね」

「なっ! 芽依子が姉さんのことを嫌いになるわけないじゃないですか!」

 

 よよよと泣き崩れたクラークに向かって、芽依子はすぐさま否定の言葉を吐く。クラークはあきらかに嘘泣きなのだが、彼女は本気にしてしまっているようだ。

 

「めいめいは昔と変わらず優しい子ですね。まっすぐに育ってくれてお姉ちゃんはうれしいですぅ」

「……姉さん、もしかして嘘泣きだったんですか? 芽依子をだましたんですね」

「あわわ、めいめい顔が怖いよ。みほ様の前でそんな顔しちゃダメだってば」

「はっ! 申し訳ありませんみほ様! お見苦しいところをお見せしました」   

「私は全然気にしてないから大丈夫だよ。それより、どうして私を迎えに来たのか理由を話してほしいかな?」

 

 みほが実家に帰ることができないのは周知の事実のはずである。西住流一門の犬童家がそれを知らないわけがない。

 それなのに犬童家はみほに迎えをよこした。しかも、みほがまほに会いに行く計画を立てていたのを事前に調査している。みほとしては、なぜ犬童家がこのような行動に出たのか真実を知りたかった。

 

「みほ様に西住流の後継者になっていただくためです。芽依子のお父様もそれを望んでおります」

「私を後継者に? 無理無理! 私にはまったく向いてないよ。それにお母さんが決めた後継者はお姉ちゃんなんだし」

「この話はしほ様も了承済みです。残念ながらまほ様はもう……」

 

 まほの話題になったとたん、芽依子は急に黙りこんだ。ためらうような芽依子の表情は、まほになにかトラブルが起こったことを如実に表している。

 決勝戦で取り乱すまほの様子が脳裏に浮かんだみほは、焦ったような口調で問いかけた。  

 

「教えて! お姉ちゃんになにがあったの!」

「みほ様、その質問には頼子がお答えします。まほ様が全国大会の決勝戦で失態を演じてしまったのはご存知ですよね?」

「う、うん。私もテレビで試合を見てたから……」

「ご実家に呼びだされたまほ様は、しほ様から激しく叱責されました。まほ様はそのあと、ご自分の部屋に閉じこもってしまったんです。世に言う引きこもりってやつですね」

 

 クラークはあっけらかんとした様子で答えるが、その言葉がみほに与えた衝撃は計りしれないものであった。


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