季節は春から夏に移りゆき、いよいよ第六十三回戦車道全国高校生大会が開催されるときがきた。
聖グロリアーナ女学院の一回戦の相手は千葉県の知波単学園。九七式中戦車チハを主力にしている学校で、過去にはベスト4に入ったこともある古豪である。
しかし、得意の突撃戦法に傾倒しすぎたせいで知波単学園は近年いい成績を残せていない。ある意味、聖グロリアーナ女学院と知波単学園は似た者同士の対決であった。この両校は伝統に縛られて結果が出せない学校の筆頭なのだ。
その知波単学園との一回戦当日。みほの姿は試合会場ではなく、聖グロリアーナ女学院の学園艦の中にあった。
一回戦は十輌しか出場できない上に、相手は突撃一辺倒の知波単学園。マチルダⅡの浸透強襲戦術で圧倒できる相手にわざわざクルセイダーを出す意味はなく、今年もクルセイダー隊の一回戦は留守番で終わった。
置いてきぼりをくらったクルセイダー隊であったが、それで腐るような隊員はいない。
聖グロリアーナが優勝するためにはクルセイダー隊の協力が必要不可欠。ダージリンがクルセイダー隊を応援にすら連れていかなかったのは、彼女たちの練度を少しでも向上させるためだ。そのことは隊員全員が理解している。
「今日はコンビネーションの練習をしましょう。継続高校の生徒は運転技術が優れています。私たちが勝つにはそれを上回る連携技で対抗するしかありません」
訓練の指揮を執るみほの言葉に隊員たちは大きくうなずいた。
二回戦の相手は一回戦で青師団高校をくだした石川県の継続高校。知波単学園とは違って簡単には勝てない難敵だ。
「訓練は三輌でチームを組んで行ってください。訓練の最後には三対三の模擬戦もありますので、みなさんがんばりましょう」
「よーし、やってやるじゃーん! ラベンダー様、今日こそ白旗上げさせるからね」
ハイビスカスは元気な声でそう言い放ち、足早に移動を開始した。
「私たちも一年生には負けていられませんよ。最上級生としてのお手本を示しましょう」
「了解ですわ、ダンデライオン様」
「任せてください、ダンデライオン様」
「今日も愛らしくてステキですわ、ダンデライオン様」
ダンデライオンの戦車の乗員はタンポポではなく、本来のニックネームで彼女の名前を呼んだ。キクミにさとされたダンデライオンは、タンポポという呼び名を捨てニックネーム呼びを解禁。もうタンポポという名で彼女を呼ぶ隊員は一人もいない。
「ニックネームを連呼するのはさすがにやめてほしいんですけどっ!」
キンキン声で文句を言うダンデライオン。ニックネームで呼ばれることにはまだ慣れていないようである。
そんな愉快なやり取りを繰りひろげながらダンデライオンは乗員とともにクルセイダーへと向かう。ちなみに、ダンデライオンの搭乗する戦車は部隊長時代と同じクルセイダーMK.Ⅱであった。一年生のときからずっと同じ戦車に乗っていた彼女たちのチームワークの良さは折り紙付き。ダージリンはその長所を活かすことを優先し、クルセイダーMK.Ⅲに乗りかえはさせなかったのだ。
ほかの隊員たちも軽快な足取りで移動し、練習開始の準備は着々と整っていく。
みほはそれを見届けたあと隊長車へと視線を移した。視線の先にあるのはブルーグレーのクルセイダーではなく、深緑のクロムウェル。アールグレイの置き土産であるこの巡航戦車クロムウェルがみほの搭乗する新たな隊長車だ。
クロムウェルをクルセイダー隊の隊長車として使用する。この案を実現させるまでの道のりは長く険しいものだった。
OG会の派閥の一つ、クルセイダー会は比較的話のわかる派閥である。それでも、さすがに隊長車を変えることには難色を示し態度を硬化。ダージリンの粘り強い交渉とアールグレイの口添えのおかげもあり、なんとか許可が下りたのは大会直前。野球で例えるなら滑りこみセーフといったところだ。
みほがクロムウェルの近くまでやってくると、すでに乗員が整列して待っていた。急な戦車の乗りかえであったが、不安な顔をしている乗員は誰もいない。
「遅いですわよラベンダー。さあ、早く出発しますわよ。ハリー! ハリーですわ!」
「ローズヒップ様のやる気がみなぎってます。私たちも負けていられませんよー!」
「もちろんですの。姉様が見にきてくださる大会で不甲斐ない結果は残せませんわ」
乗りかえたといっても操縦手、装填手、砲手はクルセイダーに乗っていたときと同じメンバー。変わったのは通信手が一人増えたくらいだ。
クルセイダーよりサイズが大きいクロムウェルは五人の乗員を乗せることが可能。クルセイダーとは違い、乗員が自分の役割に専念できるので効率は格段にアップする。それだけでなく、部隊長のみほが指揮に力を注げるというおまけつき。独立部隊として運用されることが多いクルセイダー隊にとって、クロムウェルはまさにうってつけの隊長車なのだ。
そのクロムウェルで通信手を担当することになったのは、どこのポジションもこなせる万能選手、ニルギリである。
普段はマチルダに乗っているニルギリだが、そのたぐいまれなる器用さはどんな戦車も苦にしない。なので、クロムウェルの通信手というポジションも彼女にはまったく問題にならなかった。
「ニルギリさんも元気出していきましょうね!」
「は、はい。ご迷惑にならないようにがんばりますね」
「そんな小声じゃダメです。もっとこう、うおーって叫ぶくらいの気持ちでお腹から声を出してください」
「えっ? そ、その……お、おおーっ!」
大声で気合を入れるニルギリ。余程恥ずかしかったのか顔は耳まで真っ赤に染まっている。
「そうそう、その感じです。テンションアゲアゲでがんばりましょう!」
アサミとの一件以来、暗い表情を見せることが多かったカモミールも最近はすっかり元気になった。おそらく、一緒の戦車に乗る友達が増えて心に余裕が出てきたのだろう。連携重視のクルセイダー隊は乗員同士のコミュニケーションも重要な要素。どうやら、ダージリンがニルギリをクロムウェルの通信手に起用したのは正解だったようだ。
新たな戦車と乗員を仲間に加え、クルセイダー隊は今日も訓練に励む。
お茶会の時間を短縮し、授業時間のほぼすべてを訓練にあて、彼女たちは戦車を走らせる。すべては二回戦以降の戦いで悔いのない結果を残すため。そんな彼女たちに一回戦突破の朗報がもたらされたのは、この日の夕方のことであった。
聖グロリアーナ女学院が無事に一回戦を突破した数日後。
みほ、ローズヒップ、ルクリリの三人はとある試合の会場へと足を運んでいた。この日は土曜日で学校は休み。学園艦も試合会場近くの港に停泊しているので移動の支障もなしだ。
試合会場には第六十三回戦車道全国高校生大会一回戦、サンダース大学付属高校対大洗女子学園と書かれた大きな旗が掲げられている。この試合は沙織たちのデビュー戦であると同時に、大洗へ転校したまほの初めての公式戦。みほにとっても結果が気になる大事な試合であった。
「武部様と河嶋様はサンダース相手にどう戦うおつもりなのでございますかね? わたくしには想像すらできませんわ」
「十対五は数字的に考えたら圧倒的に不利だからな。それに八九式は正直戦力外だし」
「その戦力外に一泡吹かされたのはどこのどなたでございましたっけ?」
「よし、その喧嘩買ったぞ。こら待てっ! 逃げるな!」
脱兎のごとく逃げだしたローズヒップをルクリリが追いかける。問題児トリオの二人は今日も平常運転のようだ。
とはいえ、屋台が出ている広場で追いかけっこはさすがにまずい。そう思ったみほは二人に注意を促すことにした。
「二人とも、あんまりはしゃいじゃダメだよ。ほかのお客さんの迷惑に……」
「あぁーーっ! あなたたち、なんでこんな所にいるの!?」
「ふえっ!?」
大きな声に驚いたみほが顔を向けると、そこには黒森峰女学園の制服を着た少女が立っていた。ベリーショートというボーイッシュな髪型なこの少女は、エリカの指示に従っていた二人のうちの一人だ。
「お前はワニ女の手下の……誰だっけ?」
「なんか雑魚っぽい名前のかただった気がしますの。あっ! 思いだしましたわ。たしか三下様ですわ」
「私の名前は、な、お、し、たっ! 三郷と名前を混ぜないでよ!」
ローズヒップに名前を間違えられた直下は両手をぶんぶん振りまわして怒っている。
「直下さん、また聖グロリアーナにちょっかいをかける気ですか? 今度問題を起こしたらプラウダに短期転校させる、そう深水隊長から言われてますよね?」
「こ、これは違うの。いきなりだったから動揺しちゃっただけなの。許して赤星……じゃなかった副隊長!」
隣に立つくせ毛のショートカットの少女に許しを請う直下。
戦車喫茶で騒ぎを起こしたエリカは副隊長を解任された。そのエリカに代わって新しく副隊長に就任したのが、この赤星小梅という名の生徒だ。
「私の呼び名は赤星のままでいいですよ。私たちは友達じゃないですか」
「でも、副隊長を呼び捨てにしてるって誰かに告げ口されたらプラウダ行きになっちゃうから……」
「深水隊長はそんなことで罰を下すような人じゃありませんよ。それに、いざとなったら副隊長の私が助けますから安心してください」
赤星小梅は人を思いやれる人物なのだろう。直下に優しい言葉をかけている姿を見て、みほは素直にそう思った。
「みなさん、その節はお世話になりました。黒森峰が今年の大会に出場できるのもみなさんの寛大なご処置のおかげです。本当にありがとうございました」
直下が落ち着いたのを見計らい、赤星はみほたちに向かって感謝の言葉を口にした。
あの戦車喫茶での喧嘩は一時かなり大きな問題になったが、すでに騒動は沈静化している。あれは喧嘩ではなく友達同士の悪ふざけ。世間ではあの出来事はこのような認識になっているからだ。
当然のことながら、みほたちがエリカたちと友達というのは真っ赤な嘘。これはある人物が書いたシナリオであり、みほたちはそれに乗っかっているだけにすぎない。
そのシナリオを書いた人物の名は深水トモエ。黒森峰女学園戦車隊隊長であり、エリカを副隊長から解任した張本人である。
トモエはエリカたちを連れて聖グロリアーナの学園艦にやってくると、三人の不始末を正式に謝罪。その後行われた話し合いの結果、この騒動を収めるために先ほどのシナリオをみほたちは演じることになったのだ。
もともと聖グロリアーナ側にことを荒立てる気はない。淑女を目指す少女たちが喧嘩に巻きこまれたというのは、聖グロリアーナにとってもイメージダウンにつながる。この件が大事にならないですむのならそれに越したことはなかった。
あとは騒ぎ立てる外野をどうするかだが、そちらのほうはトモエが全部けりをつけてしまった。
トモエの父親は中央政界に太いパイプを持っている実業家で、三人いる彼女の兄も様々な方面で顔が利くエリートぞろい。トモエはその家の力をフルに活用し、聖グロリアーナと話をつけたあと問題を一気に収拾させたのである。深水家は犬童家とも接点があったようで、裏で犬童家が手を貸していたのも問題解決の要因の一つであった。
去年の深水トモエはすぐにぺこぺこ頭を下げるどこか頼りない印象が強かったが、今年はまるで別人のように堂々としている。隊長になったことで気持ちに変化があったのか、それともなにか別に理由があるのか。詳しいことはみほにはわからないものの、彼女が優勝を目指す聖グロリアーナの大きな壁となるのは間違いないだろう。
「そんなに気にしないでください。深水さんのおかげで私たちも学校に迷惑をかけずにすみましたから」
「ワニ女と友達っていうのはちょっと複雑だけどな。まあ、すべて丸く収まったんだから良しとしよう」
「直下様、さっきは名前を間違えてごめんなさいですわ。わたくしたちは一緒にあんこう踊りを踊った仲間。これからは仲良くするでございますわ」
「お願いだからあんこう踊りの話だけは勘弁して。あれ踊ったあと、私ガチで三日間引きこもったからね。塹壕を十個掘ったほうがまだましだったよ」
トモエがエリカたちに科した罰は二つ。一つはプラウダ仕込みの戦車壕を十個掘る罰。もう一つはみほたちと一緒にあんこう踊りを披露する罰だ。
ダージリンからあんこう踊りの罰のことを聞いたトモエはエリカたちにも参加を強要。トモエの依頼でダージリンもすぐさま被服部に追加の衣装を発注。二人の隊長の迅速な行動と悪ノリでエリカたちとの合同あんこう踊りが実現し、みほたちは七人という大人数であんこう踊りを披露することになったのである。
「そういえば、今日はワニ女とメガネとネズミは一緒じゃないのか?」
「あの三人も来てるよ。私たちが買い出し班で、残りが場所取り班」
「ということは、観客席でわたくしたちと鉢合わせになる可能性もありますわね。今度は大丈夫でございますか?」
「三郷は根住がそばにいれば心配いらないよ。あの子は根住みたいな強気な子には基本逆らわないしね。逸見のほうはもうそんな気力ないでしょ。最近は牙を抜かれた虎みたいにおとなしいから」
エリカの近況を淡々と話す直下の言葉はみほの胸を苦しくさせる。憔悴しきった顔でみほに謝罪するエリカの姿は見るに堪えないものだった。世間を誤魔化すための形だけの仲直りはすでにすませている。しかし、みほの心はエリカと本当の意味での和解を望んでいた。
「赤星さん、できれば逸見さんと話がしたいんだけど、ダメかな?」
「ごめんなさい。それは許可できないです。今のエリカさんはラベンダーさんと会えるような精神状態じゃありませんから……」
「そうなんだ……」
「ラベンダーさん、エリカさんのことは私たちが支えます。西住隊長がいなくなって困惑していた私たちを導いてくれたのは、深水隊長とエリカさんでした。今度は私たちがエリカさんを助ける番です」
赤星小梅に任せておけば心配いらないだろう。彼女はみほが出しゃばるよりもいい結果をもたらしてくれる。そう頭では理解しているのに、みほの心のモヤモヤは一向に晴れてくれなかった。
赤星たちと別れ観客席に向かっていたみほたちは、その途中で再び声をかけられた。
今度の相手はオレンジペコである。どうやら彼女もこの試合の観戦に訪れていたようだ。
「ようやく見つけました。みなさん、まだなにも問題は起こしていませんよね?」
「こんなところで騒ぎを起こすわけがありませんわ。オレンジペコさんは心配性ですわね」
「黒森峰の生徒が来てたら心配もします。駐機場で黒森峰のヘリを見かけたときは心臓が止まるかと思いましたよ」
「安心しろペコ。いくら私たちが問題児でも短期間で二度も同じ失敗はしないぞ」
ルクリリは腕を組んで得意顔になっているが、それに対するオレンジペコの反応は冷ややかなものであった。
「申し訳ないですけど、その言葉は信用できません。またあんこう踊りを踊るハメになるのはゴメンですから」
オレンジペコの声は少し怒気を含んでおり、ご機嫌斜めなことがうかがえる。あんこう踊りの罰は直下だけでなく、オレンジペコにもかなりの精神的ダメージを与えてしまったようだ。
「とにかく、黒森峰の生徒がいる観客席にみなさんを行かせるわけにはいきません。別の場所に観戦スペースを用意してますので、私に着いてきてください」
そう言うと、オレンジペコは観客席とは違う方向へ歩いていく。みほたちはお互いに顔を見合わせると、黙ってオレンジペコの後に続いた。オレンジペコが怒ったら怖いのを三人はよく知っているのだ。
歩くこと数分。観客席から少し離れた場所でオレンジペコは立ち止まった。
そこに置かれていたのはピンク色に迷彩された一台のランドローバー。ピンクパンサーと呼ばれたこの車は、英国の特殊部隊が砂漠で使用していた戦闘車両だ。本来なら機銃が搭載されていたはずの荷台は改造されており、柔らかそうなシートが取りつけられている。
「お嬢様、お待ちしておりました。ご観戦の準備はすでに整っております」
「ありがとうございます。先輩たちを招待したいんですが、お願いできますか?」
「ええ、お任せください。すぐに追加のイスをご用意いたしますね」
オレンジペコは運転席に座っていたメイド服姿の女性に指示を出したあと、助手席のシートに腰かけた。
「さあ、みなさんもどうぞ。荷台になりますけど、乗り心地は保証しますよ」
「本当にいいのオレンジペコさん? 私たち邪魔にならないかな?」
「気を使わなくていいので、私を助けると思っておとなしく乗ってください。観客席で黒森峰と喧嘩されたら、こっちに飛び火してくるのは間違いありませんからね」
オレンジペコに促され、みほたちはピンクパンサーの荷台に乗りこんだ。
この間の戦車喫茶の件といい、みほは最近オレンジペコにお世話になってばかりである。これではどちらが教育係なのかわかったものではない。この失態を挽回するには、今まで以上にオレンジペコの面倒を見なければならないだろう。みほがそう心の中で気合を入れていると、オレンジペコが話しかけてきた。
「ラベンダーさん、変な気は起こさないでくださいね。いいですか、絶対ですよ」
ピンクパンサーに揺られて丘を登ると、そこに現れたのは大型ディスプレイを一望できる観戦スペース。イスと屏風が置かれ、地面にはカーペットまで敷かれている聖グロリアーナ仕様である。
もちろん紅茶の準備も万全だ。小さな机の上にはティーセットが用意されており、すでに一人の少女がイスに座って優雅に紅茶を飲んでいた。
「あら、あなたたちも来ていたのね」
紅茶を飲んでいたのはダージリンであった。この観戦スペースを用意したのはオレンジペコのようだが、観戦を望んだのはおそらくダージリンだろう。まほの奮起を期待していたダージリンは、この試合でそれを見極めるつもりなのだ。
「ラベンダー、なにか悩みがあるみたいですわね。まほさんのことかしら?」
みほの顔を見たダージリンは疑問を投げかける。学校では滅多に暗い顔を見せないので、みほが悩んでいるのはすぐにバレてしまった。
「お姉ちゃんのことはなにも心配していません。お姉ちゃんには武部さんたちがいますから」
「そう、なら逸見エリカさんのことで悩んでいるのね」
「な、なんでわかるんですか!?」
「わからないほうが不自然ですわよ。悩んでいるなら話してごらんなさい。偵察で不在のアッサムに代わって、私があなたの相談に乗りますわ」
ダージリンに相談するか否か、みほは一瞬判断に迷った。ダージリンはあんこう踊りを罰に採用するような突拍子もないことをする人物である。エリカとの関係が余計にこじれてしまう可能性もゼロではない。
しかしながら、赤星に任せているだけではみほの心はいつまで経ってもすっきりしないだろう。エリカとの関係修復は発端を作った自分の手で解決しなければならないのだ。そう考えたみほはダージリンに悩みを話すことにした。
「なるほど、ラベンダーは逸見さんと和解したい、けれでもそのきっかけがつかめないわけね。それなら私にいい考えがありますわ。『山は山を必要としない。しかし、人は人を必要とする』。あなたと逸見さんが仲良くなれる突破口を私が作ってあげましょう。この試合が終わったらまずは逸見さんを探すわよ」
スペインのことわざを引用して自信満々にそう告げるダージリン。
「さっすがダージリン様ですわ。相談してよかったですわねラベンダー」
「安心してラベンダー。なにが起きても私たちはあなたのそばにいますわ。気を落とさないようにね」
親友の二人の反応は正反対。オレンジペコは無言であったが、捨て犬を見るような哀れみの眼差しをみほに向けていた。
ダージリンに相談したのが吉と出るか凶と出るか。大洗の試合もそうだが、この選択の行方も非常に気になるみほであった。