私の名前はラベンダー   作:エレナマズ

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エピローグ ラベンダーと西住みほ 

「ただいまー! モテまくって大変だったよ。あのモテっぷりはモテクイーンにも匹敵するんじゃないかな?」

「モテモテといっても全員女子ですよね。沙織さん、言ってて虚しくないですか?」

「五十鈴殿、それを言ったら戦争ですよ!」

 

 他校の生徒から質問攻めにあっていた沙織は、場所を変えて交流会を開催していた。

 質問に答えるついでに恋愛相談にも乗ったことで、交流会は大盛況。後半は戦車道よりも恋愛の質問のほうが多かったくらいである。

 交流会を終えた沙織があんこうチームのところへ戻ってきたころには、あたりはもう真っ暗。

 楽しいパーティーの時間もあとわずかだ。

 

「あれ? ラベンダーさんは?」

 

 華の言葉をスルーした沙織は、この場にいたはずのラベンダーの姿がないことに気づいた。

 

「ラベンダーさんは散歩に出かけた。静かな場所で星空を眺めたいと言っていたから、たぶんこの周辺にはいない」

「すごい淑女っぽい……。私もアンニュイな表情で星空を見てたらモテるかな?」

「そんなことを考えているうちは無理だろうな」

「さっすが冷泉様! うまい返しでございますわ」

 

 沙織の目の前には麻子とローズヒップが並んで立っている。

 それを見た沙織の頭にある疑問が浮かんだ。

 ラベンダーは親友の二人のそばをあまり離れない。単独で動くのは、彼女にしてはかなり珍しい行動だった。

 ちなみに、ラベンダーのもう一人の親友であるルクリリは、大洗女子バレー部主催の即興バレーボール大会に駆り出されて不在だ。 

 

「ローズヒップさんはラベンダーさんと一緒に行かなかったの?」

「ラベンダーは一人で考える時間がほしくて散歩に出かけたのでございます。わたくしがいたら邪魔になってしまいますわ」

「そうなの?」

「わたくしとラベンダーはマブダチですわ。ラベンダーが今どんな気持ちなのか、表情を見ればある程度は察することができますの」

 

 ローズヒップはそう豪語する。彼女たちの仲の良さを考えれば、それくらいはできても不思議はないのかもしれない。

 

「ですが、パーティーも終わりに差しかかっています。そろそろ迎えに行ったほうがいいのでは?」

「サンダースのみなさんの催しもすでに始まっていますからね」

 

 華と優花里の言うことはもっともだ。

 パーティの締めはサンダース主催のボーンファイヤー。それが始まったのだから、もう間もなく宴も終わる。

 

「一人で先走るわけにはいきませんわ。迎えに行くときは友達みんなで行くと決めておりますの」

 

 そのローズヒップの言葉に呼応するかのように、三人の人物がこの場に現れた。

 

「悪い、遅れた。試合の決着がなかなかつかなくて……」

「五セットマッチもやるのがおかしいのよ。試合が終わるのを待ってるこっちの身にもなりなさいよね」

「そういうエリカだって、ハンバーグの食べ歩きしてたくせに」

「あれは愛里寿に頼まれて仕方なく……」

「嘘。本当はエリカが私に頼んだ」

「ちょっと! それは言わない約束でしょ!」

 

 ルクリリと逸見エリカ。そして、島田愛里寿。

 ラベンダーの友達が全員この場に集結した。

 

 

 

 パーティー会場から少し離れた平原でみほは星空を眺めていた。

 そんなみほの元へ近づいてくる足音が一つ。みほがその方向へ静かに振り向くと、そこにいたのは二回戦で対戦した継続高校の隊長だった。

 

「こんばんは。こんなところで悩みごとかい?」

「いいえ。星空がきれいだったので、天体観測をしていたんです」

「たしかに今日は雲一つない星空だ。天体観測にはもってこいの日だね」

 

 みほがここへ来たのは感情の整理をするため。天体観測というのはただのジョークだ。

 おそらく、継続高校の隊長もそれには気付いているだろう。今は戦車道の話はしたくなかったので、ジョークに乗ってもらえたのは正直ありがたかった。

 

 聖グロリアーナ女学院はみほのミスで負けた。みほが戦犯というわけではないが、ボコに気を取られたのは落ち度としかいいようがない。

 情けない、悲しい、悔しい。みほの心の中では負の感情が渦を巻いている。

 とはいえ、それを表に出してはいけない。聖グロリアーナのラベンダーは淑女でなければならないのだ。

 だからこそ、みほは一人でこの場所へやってきた。みほには心を落ちつかせる時間が必要だったからだ。

 

 その後、二人は終始無言のまま星空を眺め続けた。

 みほは継続高校の隊長、ミカと親しい間柄ではない。けれでも、不思議と居心地は悪くなかった。

 

 しばらくそうしているうちに、みほの心もだいぶ落ちついてきた。

 みほがこんなに早く気持ちを立て直せたのは、聖グロリアーナ女学院でいろんな経験を積んだおかげである。

 もし、みほが西住みほのままだったら、自分のせいで試合に負けたことをいつまでも引きずっていた。最悪の場合、戦車道から逃げ出していたかもしれない。

 友人、教養、精神的強さ。西住みほでは得られなかったものが今のラベンダーの強さを形作っている。

 

「一つ質問をしてもいいかな?」

「どうぞ」

「君は卒業後も聖グロリアーナの戦車道を続けるのかい? 西住みほさん」

 

 ミカはみほをラベンダーではなく、西住みほと呼んだ。どうやら、彼女は西住みほの考えを聞きたいらしい。

 

「私は卒業したら西住流に戻ります。でも、聖グロリアーナで学んだことを忘れるつもりはありません。ラベンダーの名前は返上しますけど、心はラベンダーのままです」

 

 西住流の長所と聖グロリアーナの長所。その両方を合わせたのがみほの目指す戦車道だ。

 自分なりの西住流を極める。幼いころの思いは形を変え、みほの新しい目標となったのである。

 

「それが君の答えなんだね。戦車道はこれから激動の時代を迎えると思うけど、今の君なら大丈夫そうだ。君たち二人が切磋琢磨すれば戦車道はもっと発展する。私はそれに期待するよ」

 

 ミカはそう告げるとみほの元から立ち去った。

 君たち二人。ミカのその言葉が気になったみほだったが、疑問が氷解するのに時間はかからなかった。

 ミカが去ったすぐあとに、みほの友人たちがこの場へやってきたからだ。

 

「ラベンダー、誰と話をしていたの?」

「継続高校の隊長さん。私と愛里寿ちゃんに期待してるんだって」

「私に? いったい何を期待されたんだろう?」

 

 愛里寿は不思議そうな表情で小首をかしげている。

 

「深く考える必要はないわ。継続の隊長はかなりの変人だって話は有名だし」

「お、久しぶりにエリカの嫌味が出たな。黒森峰の隊長は性格最悪って噂されないように気をつけろよ」

「うるさいわね! 余計なお世話よ!」

「お二人は口喧嘩ばかりですわね。少しはわたくしを見習って大人になったらいかがでございますか?」

『ローズヒップにだけは言われたくない!』 

 

 息ぴったりにハモるエリカとルクリリ。

 いまだに口喧嘩が多い二人だが、もしかしたら相性はバッチリなのかもしれない。

 

「じゃれ合いの時間は終わり。ボーンファイヤーはもう始まってるから、早く移動しよう」

 

 愛里寿にそう言われた三人は押し黙ってしまう。

 この中で一番大人なのは愛里寿で間違いないだろう。

 

「キャンプじゃないのにファイヤーしたがるのは、いかにもサンダースらしいですわね」

「盛り上がっていいじゃないか。きっといい思い出になるぞ」

「ほら、ラベンダーも行くわよ」

「ちょっと待って。みんなに聞いてほしいことがあるの」

 

 みほの言葉に友人たちは足を止める。

 それを確認したみほは一呼吸置いてから口を開いた。

 

「あのね、私ってやっぱりどこか抜けてるみたい。今日も大事な試合でポカしちゃったし、これから先もいっぱい失敗すると思う。だからね、私がダメになりそうなときは助けてほしいの。みんながいれば、私は何があっても前に進んでいけるから」

 

 みほが思いのたけをぶちまけると、友人たちはすぐに優しい言葉を返してくれた。 

 

「言われるまでもないですわ。わたくしたちは最後まで一蓮托生ですわよ」

「私たちはラベンダーを支えるって決めたからな。女に二言はないぞ」

「あなた達だけだとすぐに無茶しそうだし、私が三人まとめて面倒見てあげるわ」

「ラベンダーが困ってたら必ず助ける。心配しなくていい」

 

 みほは西住流の後継者。行く手に待ちうける壁は高く、道も険しい。

 それでも、友達という助けがあれば困難を乗りこえてゆける。

 聖グロリアーナで学んだ経験と友人たち。この二つがそろえば、恐れるものなど何もないのだから。




このお話はこれでおしまいになります。
最後まで書き終えることができたのは読者のみなさまのおかげです。
お読みいただきありがとうございました。




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