Fate/Grand order 人理の火、火継の薪 作:haruhime
決戦前の移動とブリーフィングです。
「じゃ、私先行してるから。」
「はぁ、絶対に先走らないでちょうだい。私たちの合流を待つこと、いいわね?」
「はいはい、了解よ。」
ジャンヌはそう言い残して、竜とワイバーンを引き連れて先行していく。
「大丈夫かしら。」
「ダメな気配がします。」
所長が心配しているが、おそらく無意味だ。
多分、なんかやる。絶対やる。
ワイバーン素材で完全強化されたゴールデンハインド号。
鱗を砕いた敷材を使って塗り上げられた船体は、太陽の光を浴びて輝いていた。
『うん、なかなかの神秘を宿しているのが見えるね。これならサーヴァントの攻撃を受けてもそれなりに持つと思うよ。』
ダヴィンチちゃんのお墨付きである。
上位のワイバーンのウロコや皮を張り付けた装甲は、艦載砲による攻撃にもある程度耐えることが、試験によってわかった。
これなら、対サーヴァント戦でも活躍できるだろう。
「さて、お前ら!」
「船の修理が完了したよ!これから出港して元凶を潰す!」
「とっとと終わらせて略奪航と洒落込むよ!気合い入れていこうじゃないか!」
「「「「イエスマム!!!!!!」」」」
ドレイクの号令と共に、ゴールデンハインド号が海面を滑りだす。
メインマストに風を受け、一気に加速していく。
「入り江を出るぞ!」
「見張り!気合を入れな!」
「「応!!」」
滑らかな動きで、ゴールデンハインド号は入り江を抜け出し、大洋へと進み出る。
船内各所にある見張り台に、数多くの船員たちが昇り、水平線をにらんでいた。
彼らは海賊船のみならず、接近するワイバーンなどの敵性飛行体の監視もしなくてはならない。
彼らが見つけられなければ、一方的な攻撃を受けかねないために、その表情は必死なものだ。
何か手伝えることはないだろうか。
【待つのだ、主よ。】
甲板をうろうろしていると、火継の薪に声をかけられる。
今の彼は、まさに海賊といういで立ちだった。
【見張りは彼らに任せ、我らは戦闘で真価を発揮するべきだ。今は休め。】
「それもそうか。」
彼の言う通りか。
ここは本職に任せ、体力気力の温存に努めよう。
甲板からキャビンの自室で待機する。
ただ、これが意外と難しい。
自分一人では移動もできないという旅が、これほど精神に負担をかけるモノだったとは。
「先輩。」
甲板の木箱に腰掛け、海を眺めているとマシュがきた。
彼女が腰掛けると、土台になっている木箱がきしむ。
「ジャンヌさんはどうしているんでしょうか。」
「あれだけの戦力を伴っているからね。むしろ戦闘おっぱじめてないか心配だ。」
グレートドラゴンに大量のワイバーン、小国の一つなら正面切って相手取れる戦力を従えているからな。
遭遇戦で一回蹴散らすと、調子に乗って深追いしそう。
「流石にそれは、……ありそうですね。」
「だろ?」
正直、ちゃんと待っててくれるだろうか。九大英雄たるヘクトールを従えるだけの存在が相手方にいることを考えると、その辺の計略についても警戒して損はない気がする。
そういえば、なぜこの船はあれだけの損傷を負っていたのだろうか。
「それは、サーヴァントの宝具としての海賊船と交戦したからよ。うぷ。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないけどしゃべってれば気がまぎれるから聞きなさい。」
木箱を並べて急造されたベットの上で真っ青な顔の所長が語り始める。
曰く、ドレイクと出会い、女神様とアステリオスがいた迷宮を攻略後に、黒ひげの海賊船に襲われたらしい。
ただ、その船は不思議なくらいに爆発の跡があり損傷していたとか。
それ、ジャンヌがやった海賊船じゃない?
乗っている仲間の能力に合わせて強化される海賊船という宝具に苦しめられつつ、呪術や竜狩りの矢などの大火力射撃により砲撃戦に勝利し、白兵戦に移行。
既にこの時点でお互いかなりの損害を負っていた上に、最後の最後、黒ひげを裏切ったヘクトールにより黒ひげが死亡。
ヘクトール本人は小舟で逃げ出し、謎の援護射撃と合わせて火継の薪の追撃を防ぎ切る活躍を見せ、古い形状の船に回収されて嵐の海に消えていったらしい。
大嵐を前に船の各所を損傷していたゴールデンハインドでの追撃を断念し、あの島に素材を求めて移動してきたということだ。
黒ひげの死で消滅した海賊船から投げ出されたところを救出されたのが、アンとメアリーだったらしい。
その二人は、ほかの船員たちと一緒に監視任務に就いているが。
「ちなみに女神さまとアステリオスは?」
「舳先の方にいるわ。」
『映像を回してあげよう。』
映像では、角を持つ巨人が麗しき少女と戯れていた。正確には、女神さまのおもちゃにされているわけだが。
傍らに立てかけてある二振りの戦斧がでかい。
「前方に島影、船影無し!」
「兄貴、お願いします!」
船はいよいよ大洋へと漕ぎ出した。雲一つない快晴の下、前途には海だけが広がっている。
メインマストの上にいる見張りが叫び、副長がクーフーリンに声をかけた。
「任せとけよっと!」
クーフーリンが、メインマストに刻み込んだルーンを発動させる。
緑に輝くルーンが風を生み出し、主帆に向かって吹き付けると、船がぐんと加速した。
「はは!風を操れるなんて、船乗りにとっちゃ最高の技能だね!」
大きく風を受け、海面を駆ける船にドレイクがはしゃぎ、後甲板におりてきたクーフーリンの背中を平手でたたく。
結構いい音してるぞ。
「矢除けの補助にも使える使い勝手のいいルーンでな。残念だがアンタの配下に使えそうなやつはいねぇ。」
「そいつは残念だね。まぁ、この航海で風に困るこたぁなさそうだ!」
「流石に嵐のど真ん中とかは操り切れねぇからな!先言っとくぞ!」
少し残念そうな声を出したが、呵々大笑しながら背中をたたき始めるドレイク。
クーフーリンは、苦笑しつつも、釘を刺すのを忘れない。
仲いいね、二人とも。
「お二人は道中で色々ありましたから。」
「そうなんだ。」
マシュ曰く色々あったらしい。まぁ、気が合いそうな感じだよね。
二人とも豪快で、細かいことをそこまで気にしなさそうだし。
「目指すは群島方面だ!嵐を突っ切る方向で行くよ!」
「イエスマム!」
ドレイクが大きく舵を切った。
船体がきしむ音がする。
徐々に船が旋回を始めた。
所長たちの交戦記録と、俺たちの移動方向から、ソロモンの聖杯は群島方面にあるはずだ。
そこに、今回の特異点の黒幕がいる。
本来であれば、そのまま南下すればいいだけな気もするが、この海ではそうもいかないらしい。
ドレイクによると、群島と竜の島の間には完全に風のないエリアがあるらしい。
代わりに、群島から竜の島に向かう巨大な海流があるという。
黒ひげたちはその海流を使っていたわけだな。
しかし、群島に向かう帆船である以上、その海域は使えない。
俺たちにはクーフーリンのルーンがあるが、それなり以上の距離があるそのエリアを抜けるまで、常にルーンを発動させ続けるのも無理がある。
そこで、船としてはかなりの強度まで強化されたこの船で、嵐の海域を抜けることになった。
強化前でも抜けられたから大丈夫、と言っていたが、普通にハリケーンに飛び込むのと同じじゃないか?
既に海のかなたに見えている黒い積乱雲の塊。
雷光があらゆる方向に放たれ、目に見える速度で雲が渦巻いている。
あれはヤバい。
『こちらからの観測データだと、中心付近で風速75m/s、気圧927hPa。SSHWSではカテゴリー5のハリケーンだけど、影響圏は半径150kmくらいでそれほどでもないみたいだ。』
十分巨大だと思うけど!?
『でも、これ以上に巨大なハリケーンは歴史上何個もあるし。』
そういう問題かな、これ。
「軟弱そうな魔術師さんよ、船は持ちそうかい?」
『強度的には、中心を突っ切るような真似をしなければ大丈夫。……やっぱり扱いがひどいなぁ。』
「なら余裕さね。」
「嵐の端をかすめるように、暴風に乗って凪の帯を突破するよ!」
「海賊の腕の見せどころさね!気合い入れな!」
彼女の瞳には、この先の進路が見えているのだろう。
既に吹き始めた、あの嵐に吸い込まれていく冷たい風を捕まえて、凪の帯を抜ける道が。
前後左右どころかあらゆる方向に揺さぶられ、かなりの落差を行ったり来たりする貴重な経験を数日間続け、嵐の海域を抜け出すことに成功した。
おかしい、俺たちは嵐をかすめていくんじゃなかったのか。
途中から嵐のど真ん中に突っ込んで言うように感じたんだが。
『ルート的には、嵐の端をかすめていたよ?』
『ただ、彼女のいう嵐の端が、暴風圏だったっていうだけで。』
『すごいよね、船体強度の限界ギリギリまで使って、最速で抜けるルートを見極めて、それを船員たちに実行させたわけだし。並外れた直感とカリスマの持ち主だよ。』
『万能の天才たる私が保証しよう。このルート以上の速度を出す方法はなかったと。』
こちらのトップ二人のお墨付きが出た。
お、おう。マジか。星の開拓者すごい。
俺たちは邪魔にならないように、特別に与えられたキャビン内にいたわけだが、皆厳しそうだった。
現に所長は真っ青な顔で微動だにしないが、看病しているマシュによると息はあるらしい。
他のメンバーも、海賊組以外はどこか体調が悪そうだ。
『ちなみに皆大丈夫かい?正直見ているだけの僕も気持ち悪くなったんだけど。』
「先輩が意外に大丈夫なのが不思議なくらいです。」
ドクターにこたえるマシュも少し顔色が悪い。
「びっくりするくらい大丈夫だよ?」
なんでだろうか、全く酔っていない。
甲板に出る。ずぶぬれに濡れた甲板上を、多くの船員たちが駆けまわっていた。
嵐を抜けて、その先には美しい群島が点在している。
朗らかな陽気と、柔らかくも厳しい日光に照らされ、どこか硬質な緑に輝く島々があった。
「ここが群島か。かなり島の間隔が狭いね。」
『その上島自体の背が高い。見通しが悪いよ。』
ドレイクとドクターの言う通り、群島はかなり間隔が狭く、島自体の背が高い。
それゆえに、島陰に隠れられると船だって隠せてしまう。にもかかわらずその死角が非常に多いのだ。
捜索する側にとって、かなり環境が悪いのは間違いない。
「見張り!気合入れな!」
「イエスマム!」
ドレイクの掛け声に、船員たちが叫ぶ。
先に見つけられなければ、舷側方向以外にまともな火力を持たないこの時代の船にとって極めて不利だからだ。
自分の命がかかっているのもあり、船員たちの士気は高い。
「ジャンヌはあの島にいるみたいね。」
所長の視線の先には、膨大な数のワイバーンが飛び回っている島があった。
あそこにいるのは間違いないだろう。
『映像だけでもかなりわかりやすいネ。ん?この反応は。』
「急速に接近するワイバーン1!」
その島から、一騎のワイバーンが飛んできた。
船員たちは、マスケットや短銃を手に、対空射撃の準備に入る。
このマスケットの弾丸も、ワイバーンの牙や爪を加工した代物であるために、神秘的存在に対してもある程度は有効なものだ。
「銃兵!構え!」
「待ちな!あれは味方だよ!」
副長の指示に、船員たちが射撃体勢に入る。
それを、望遠鏡でワイバーンを見ていたドレイクが止めた。
彼女の望遠鏡を借りてみると、接近してくる黒いワイバーンの背にジャンヌが乗っているのが見えた。
低空からフライパスしたワイバーン。そこから飛び降りたジャンヌが、甲板に着地する。
「ふぅ、やっときましたか。待ちくたびれたわ、マスター。」
「ごめん、お待たせ。」
こぶしを突き出してきたので、こちらも合わせる。
イイ笑顔だった。
「それと、敵っぽいのと一当てしておいたから。」
「何しちゃってるんですかね!」
やっぱりやってたじゃないか!
ふふんじゃないよ、なにドヤ顔してるんですかジャンヌさん。
「何か問題が?こちらの損害は軽微、敵戦力の調査もしてきたのに。」
「色々考えてくれたのはありがたい、けど所長の指示に反するのはね。」
俺たちのために戦力調査をしてくれたのはわかる。
ただ、カルデアの指揮系統を崩すのはまずい。
ましてや、今回は緊急事態でもない。
「そうね、その辺は考えて無かったわ。」
ジャンヌはどこかばつが悪そうに言う。
しょっちゅうやらかしている自分が言うのも、あれだけどね。
「貴女にも言いたいことができたわね。」
「な、オルガマリー!なんで鞭をっ!?」
彼女の背後に立った所長が、青筋をこめかみに走らせている。
随分とお元気そうですね。
これまたいい笑顔だった。鞭を叩き付けている手のひら痛くないんだろうか。
それにしても、この胸に渦巻く表現しにくい感情こそが、所長の怒りの原動力になるわけだ。
大切に思うがゆえに、あまり愉快なものではないな。
……次から気を付けよう。
いい空気吸ってたジャンヌと、使用者責任ということで一緒に短めのお説教を受け、船を近くの島に停泊させたあたりで、敵襲撃に向けた作戦会議を始めることになった。
なんか途中で考え込んだ所長が、説教を切り上げたがどういうことだろうか。
俺とジャンヌは互いに顔を見合わせ、首をひねると立ち上がる。
立ち上がれなかった。
会場はドレイク船長のキャビン。
後甲板下に誂えた部屋は、意外に広い。
キャビネットにはさまざまな宝飾品や酒瓶が並び、ペルシャ絨毯が敷かれ、明らかに高価な木製のテーブルが置かれている。
その上にはいま、ダヴィンチちゃん特性の謎アイテムが置かれていた。
『見たまえ、万能の天才たる所以を!立夏君持ちたまえ。』
ダヴィンチちゃんも結構いい空気吸ってるよね、いつも。
結構でかい上に重いぞこれ。金色のバスケットボールに、赤い宝石が一つくっついた物。
『これがどこでもスクリーン7号だ!』
まて、1から6号はどこに行った。
ダヴィンチちゃんの掛け声とともに、魔力が吸われていく。
それと同時に、赤い宝石が輝き、テーブルに周辺の地図が投影される。
『これは、今こちらが観測しているデータを二次元表示してくれる魔術式プロジェクターだよ。』
『ま、偵察衛星からのリアルタイム通信だと思ってくれればわかりやすい。』
『次から君がすっ飛んでも、たぶん見つけられるようになると思うよ。』
こうやって見ると、かなり広い海域に、とんでもない数の海賊船が動いているのがわかる。
『今回の標的は、そこの見えないところにいるはずだ。』
群島の中心にほど近いあたりに、大きな欠落が見える。
ドクターによると、膨大な魔力反応があると、観測結果がかなりあいまいになるらしい。
それで、俺たちの現在地も見えにくくなっているわけだ。
『これまでに観測した聖杯の魔力も観測できている、ほぼ間違いないと思うね。』
「だったら殴り込みだねぇ!」
ドレイクの戦意が高すぎる。自分が人間だって忘れてないか。
「最終的には殴り込むけど、その前にジャンヌでスパム攻撃させるわ。発想はできなかったけど、結構有効よね、休ませないって。」
所長が立案したのは、徹底的なスパム攻撃だ。
目標周辺の島にワイバーンを展開。反復攻撃を行い、こちらの位置を欺瞞しておく。
そのさなかに竜とクーフーリンによる襲撃を加え、敵の注意をある島にひきつけ、その上、女神さまの存在をアピールする。
「俺の出番なわけか、やっちまってもいいんだな?」
「引き際だけは見極めて頂戴。」
「簡単には死なねぇよ。」
敵は、どういうわけか女神様を求めているらしいからな。これで敵の思考をかなり制御できるはずだ。
「あら、私をおとりに?いいけれど、何を対価にするのかしら?」
「えうりゅあれ、ぼくが、まもる!」
とんでもなく高くつきそうだが、仕方ない。どうにかしよう。
それに、彼女の安全はアステリオスが守る。むろん、こちらの戦力も張り付けるが。
敵が上陸追撃を選択した場合、配置した火継の薪をはじめとした主戦力で殲滅。
海上にとどまった場合は、空挺降下するサーヴァントと、ワイバーンとゴールデンハインドによるエアシーバトルが展開される。
航空戦力と事前偵察の重要性は、やはりどんな時代でも大きい。
ん?この策に思い至ったから、お説教が短くなったのだろうか。
「あら?ワイバーンで昼夜問わず?いいわよ、やってくるわね。」
今度は所長のお墨付きを受け取り、ルンルン気分で出発するジャンヌ。
きっと全力で襲撃をかけるだろう。
相手の嫌がることを進んでやるイイ子だからな、彼女は。
「先輩、忘れてませんか?」
「なにを?」
「魔力供給です。」
「あ。」
ワイバーンの消耗が激しくなるだろうドクトリンの採用。
当然最終攻勢までに減った戦力を補充、拡張しなきゃいけないわけだが。
これ、干からびるじゃん。
『ということで、魔力供給量の増加、行きますね?』
「あばばっばっばばっばばbsdばhsふぁうdvbをあんvん!?」
問答無用で開始される経路拡張の痛みに、俺は意識を飛ばされた。
これ、俺の回路焼ききれない?大丈夫?