Fate/Grand order 人理の火、火継の薪 作:haruhime
ちょっと他の創作企画に手を出してたら全然書いてないことに気づいたよね。
うまく思いつかなかったので完全に兄貴回です。
正直描写は納得いってない(もっと兄貴はかっこよく描けるはずなんだがなぁ)
豊かな命をはぐくむであろう、太陽の恵みにあふれた生命の森。
しかし、今は全ての生物が息をひそめ、その存在を悟らせないように静まっていた。
普段無数の小動物たちが遊び、虫たちが飛び回っているであろう森に、いくつかの影が走っている。
「もうちょっとまともに走れないのかしら!?」
「ごめん、えうりゅあれ。」
褐色の肌と鬣のような白い蓬髪をもつ牛角の巨人が、一種完成された美を放つ麗しの少女神を抱えて走っている。
無数の枝葉をその体格で押しのけ、女神に触れさせないようにしながら。
「無茶言うのやめとけよ、嬢ちゃんっと!?」
その後ろを追走する青い装束の青年が、背後から飛来する巨木をその手の朱槍で弾き落とす。
数百年の長きに渡り森を見守ってきたであろう巨木が、無残に引きちぎられ女神たちに投げつけられていた。
常人どころか、凡百の英雄では対応できないほどの速度と密度で、巨木の輪切りが飛来する。
「野郎、相変わらずのバカ力か!」
「■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!」
槍使いは後方に跳躍しながら、双手の豪槍でもって自重をはるかに超える巨木を薙ぎ払い、打ち落とし、受け流す。
無双の使い手に許された、窮極の絶技。
立木の間、自らと巨人を守るように危険な飛来物だけを見極め、無数の追撃を決して抜かせないように立ち回る。
かの英雄の赤き瞳には、木々の向こう、すっかり見通しが良くなってしまった先から駆け寄る褐色の巨人が写っていた。
巨人が、その手に握る岩の斧剣でもって木々を伐採し、左手と両足でもって槍使いに向かって打ち出す。
その前進の速度を落とすことなく、歩みに無理が出ないままに、暴虐の嵐が吹き荒れた。
「クソが!」
十メートルはくだらない巨木の群れが、雨のように槍使いと牛角の巨人を襲う。
その挙動は、直線的に二人を狙うもの、曲射されその進路を狭めるモノ、遥か虚空に打ち出され、直接落下での打撃を狙うものなど、多岐にわたっていた。
ーーー野郎、本当に狂化されてんのかよ!?
横回転で襲ってくる一周一メートルはくだらない巨木。常人であれば受け流すどころか避けることもできないだろう速度のそれを、ルーンによって筋力強化済みとはいえ片手で弾き飛ばす。
まるで矢の雨のように降り注ぐ輪切りの木を、クーフーリンは必死に迎撃する。
ーーー後数百メートルってとこか!?
女神をおとりに、敵の最大戦力であるバーサーカーを分断し、こちらの主力で袋叩きにする。
あの所長が考えたえげつないが最良の手法をなすためには、バーサーカーをアステリオスに追いつかせてはいけないのだ。
そのためには、バーサーカーをほんの数分足止めしなくてはいけない。何せこれだけの攻撃を行いながら、全速力で走るアステリオスよりも素早く森を駆けているのだから。
『クーフーリン!二分だ!二分時間を稼いでくれ!それだけあれば、こちらの準備も整う!』
緑の花束と化した木の先端をルーンで焼き潰していると、カルデアの魔術師が通信で呼びかけてくる。
「随分と無茶を言いやがるじゃねぇか!腰抜け導師!」
ーーー本当に無茶を言いやがる、一対一ならいくらでも時間を稼いでやれるがな。
あの褐色の巨人相手に、だれかを守りながら時間を稼ぐなんざ、相当の問題だ。
『ひどい言われようだネ!けど、超一級の英雄なんだ、やってもらうよ!』
「たりめぇだろがよ!」
そこまで言われちゃ、やるしかねぇだろ!
なぜか向上したマスターからの魔力供給をふんだんに使用し、全身に強化のルーンを張り巡らせていく。
当然、雹弾や炎弾、雷撃をルーンで発現させ、ほんの一瞬の牽制を仕掛けながらだ。
いよいよ、互いの間合い近くまで距離が狭まってきている。
目の前の巨木が、大きく砕かれ、飛んでくる。
その背後で、殺気が膨れ上がった。
ーーーきやがったなイカレ野郎!
後方への大跳躍と同時に、足指の動きで刻んだルーンを発動させる。
輝きと共に立ち上がった分厚い土壁が、飛来した巨木を受け止め、見当違いの方向に弾き飛ばす。
直後にぶち破られる土壁。
ぶちまけられた土塊の向こう、赤い残光をその瞳に宿した巨人が、信じられない速度で迫る。
「■■■■■ーーー!!!!!!!」
大地をたたき割る踏み込みと、振り上げられる斧剣。
全身の筋肉が二回りは膨れ上がり、竜種ですら一撃で屠るであろう人類史上でも数少ないであろう重撃が放たれる。
未だ空中に浮く青い騎士を狙う豪速の一撃。
かの戦士は、その足元にいくつものルーンを従えていた。
ーーー”足場””軽身””雷速”
グッと撓めた足の下、青く輝くルーンが、空中に強固な足場としての役割を果たす。
全身の力を束ね、綿毛のように軽い体を、雷速で更なる高空へと放つクーフーリン。
足場のルーンとその空間を、岩の剛撃が削り落とす。
切り潰された大気が、風の刃となって周辺を蹂躙した。
すんでの所で暴風の間合いから逃れたクーフーリンの背に、汗がにじむ。
ーーー野郎、見切ってやがる!?
土壁を抜ける以前から、こちらの動きを見切っていたとしか思えない攻撃手段の選択、そして適切な踏み込みの距離。
無理をして刻んだ雷速のルーンなしなら、確実に片足を持っていかれただろうタイミングだった。
だがそれでも、クーフーリンの口元に笑みが浮かぶ。
かつての戦場では出すことが禁じられていた全力での闘争が、今この瞬間だけは許されているのだから。
無数のルーンが纏わりついた右手の朱槍を、大きく振りかぶる。
朱槍に、膨大な魔力を充填する。流れ込んだ魔力は回転し、朱槍を飾る。
赤い颶風が、大気をかき乱す。周囲の大気を巻き込み、飽和した魔力が赤雷として周囲を刎ねる。
朱槍は震え、世界を穿たんと欲していた。
大神のルーンを纏った、絶死の一投げ。
「ーーー
真っすぐに、バーサーカーの心臓目掛けて飛来する雷速の槍。
「■■■■■!!!!!!!」
バーサーカーは、その一撃をすり抜けることすら許さず、見事に合わせて見せた。
しかし、ゲイ・ボルグは必中にして必殺の槍。
因果逆転の力により、火花を散らしつつもその軌道は異常を描き、確実に心臓を目掛けていく。
斧剣を滑る一瞬の間に、バーサーカーは全身を最速で稼働させ心臓の位置をずらし、しかし間に合うことはなかった。
十二の試練の加護を穿ち、強靭な皮膚と筋肉と骨格を貫き、心筋と大血管を切り裂く朱槍の切っ先。
背中まで貫いた一撃は、明確にバーサーカーの命を奪い取った。
着弾の勢いに押され、吹き飛ぶバーサーカー。
目の輝きが失われ、脱力する巨人から朱槍がひとりでに抜け、クーフーリンの手元に還る。
「まだまだこれからだろう?とっとと起きやがれ!」
油断なく双槍を構えるクーフーリンの目の前で、巨人の亡骸から魔力が吹き荒れる。
周囲の木々をざわめかせるほどの魔力が心臓の傷を癒し、埋め戻していく。
失われた瞳に赤い怒りを灯し、巨人が再び立ち上がる。
傷を癒してなお余った魔力が、巨人の肌に深紅の文様を刻み込んでいく。
神獣魔獣と同化し、獣の力を得るための
狂化の果て、人としての質を下げたバーサーカーであれば、受け入れることも可能な邪法の強化術式。
バーサーカーの呼気に混じる青白い魔力残滓。
その身から放たれる膨大な圧力は、先ほどまでの何倍になるのだろうか。
島を覆いつくしてなお余りあるほどの獣気と覇気。
巨人はただそこにあるだけで、生物を殺しかねないほどの存在感を放っている。
「面白れぇ!」
双槍を握りしめ、ルーンによって強化された身体能力に任せて駆けだす。
風よりも早く、綿毛よりも軽やかに。
振るわれる無双の剛撃。
空間が断ち切られるのではないかと錯覚するほどの、バカげた脅威。
縦ぶりに振るわれた一撃を、歩法を以て僅かに数ミリの間隔で躱す。
大地を打ち砕く重撃を鼻先で躱し、その剣の背に飛び乗り踏み切ろうとする。
「■■■■■■■!!!!!!!!」
巨人はクーフーリンの踏み込みの瞬間を狙い、剣を下に沈める。
踏切の勢いを殺すためだ。
踏み込みのタイミングを外され、一瞬のスキをさらすクーフーリン。
自ら作り出したすきを逃すことなく、巨岩のごとき拳が放たれる。
神速。
かつて何人もの勇士を打ち破り、数多の魔獣たちを打ち殺した巌のごとき大英雄の拳が、クーフーリンを打ち据えた。
とっさに合わせた双槍が体にめり込み、腕の動きでわずかに勢いを殺すことができたものの、そのほとんどの威力がクーフーリンを襲う。
「ごっ!?」
錐もみするように回転しながら、木々をへし折り、数十メートル吹き飛んでいく。
どうにか体勢を立て直し、巨木の幹に両足で着地すると、クーフーリンは目の前に迫ったバーサーカーを目にすることになる。
「テメェ!」
地面に向けて伏せるように跳躍。
巨木を横なぎに両断する一撃をかわす。
振り下ろされる柱のような足。
踏まれればどうあがいても即死だろう。
転がるように躱す。大地が砕け、数多くの土塊がクーフーリンの身を叩いた。
そのタイミングで朱槍で切り付けるが、傷が浅い。
何かに阻まれるように刃が通らなかった。
『妙な魔力が見えた!朱槍は牽制にしか使えないぞ!』
「わかってらぁ!」
小癪な魔術師の声に怒声を返す。
そんなことはかつての戦いでいやって程わかっている。
だが、こいつの加護は、あくまでも魔力によってなされているモノ。
刺突耐性が上がっている?
魔力撃なら通るだろ!
接近し、双槍を振るう。
斧剣や拳、肘、膝の連撃をさばき続ける。
右、左上、下、正面、右上、左下上右下左正面上右左正面上上下左――――――!!!!!
加速する応酬。
無数の火花に彩られ、互いの皮膚から薄皮とわずかな血が流れ、高速の挙動で宙に散っていく。
連続する打音は、一繋がりの音へと変化していく。
―――これが、これこそが闘争!
そこにルーンの輝きが追加される。
爆炎が視界を潰し、雹弾が攻撃の軌道を僅かに変え、雷光が音と気配をかき消す。
それらの連携、連動を以て討ち取らんとするクーフーリン。
その小細工を正面から力業でもって叩き潰さんとするバーサーカー。
二人の争いは、わずかに、だが時がたつにつれて明確にクーフーリンへと天秤が傾いていった。
膨大な魔力が消費され、永遠に続くと思われた応酬に、終わりが近づく。
「舞い踊れ、月光の煌きよ!―――
クーフーリンは左手にある緑の輝きを放つ魔槍を開放する。
爆光と共に、無数の光の槍が切っ先から放たれた。
超至近距離から放たれた高速の連撃。
しかし、バーサーカーは理性と武技を失ったとは思えぬ体捌きと剣捌きでもって、その大半を撃ち落とす。
規格外の堅牢さと神秘を含有する斧剣で魔力撃を防いでいく。
しかし、バーサーカーにとって不幸だったことは、この魔力の矢は曲がるということ、そして、魔力が切れない限り放たれ続けるということだった。
先の朱槍のように、因果逆転を原因とする理不尽な軌道ではないモノの、常識の外側の挙動で迫る無数の光の矢をバーサーカーは防ぎきることができなかった。
僅か一発の被弾。宝具の守りを無視するそれが確かな挙動の遅れを生み出し、その累積が次の被弾となって帰ってくる。
そのうち、何本もの光の矢がバーサーカーの肉体を穿ち、関節を破壊し、腱を切り裂き、神経を断ち切っていく。
いかなる英雄であっても、人間の形をし、その形が力を生んでいる以上、重要な部分が破壊されれば身じろぎすることすらできなくなるのは道理だった。
長い闘争の末、バーサーカーはその身を再び大地に崩れ落ちることになる。