Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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お久しぶりです。

薪さんの活躍はもう一話待って(白目)


封鎖終局四海 -オケアノス- 英雄の雄牛狩り

「もうすこしで、もりを、ぬけるから!」

 

「わかったからとっとと行きなさい!」

 

私は図体だけ大きな子供に抱えられ、死の定めに追われている。

 

背後から聞こえる恐ろしい咆哮と破壊。木々と大地が砕ける音。世界があげる悲鳴。それらを呼び起こしているのは、私たちが生きた時代の最強。

 

ヘラの栄光(ヘラクレス)

 

神々の祝福を受け鍛え抜かれた肉体と、時代における究極まで練り上げられた戦闘術理。その二つを同時に持ち合わせ、極限の域で合一させた男。

 

ステュムパーリデスの鳥(青銅の群怪鳥)ネメアの獅子(人理を否定する獣王)レルネーのヒュドラ(不死の九頭毒竜)

 

一匹一匹が一つの文明圏(小さな世界)を崩壊させうる強大な怪物たちを単身打ち倒し、十二の試練を以て全ギリシャに名を轟かせた神話の大英雄(神話の怪物)

 

私が知る限り、純粋な個人の武力でそれに勝りうる個は、人類史上存在しえないはずだった。

 

そんな存在に、私たちは追われていた。

 

「ぬけたよ!」

 

「まだよ!駆け抜けなさい!」

 

私たちは、森を抜け、小さな広場へと迷い出る。

 

ここが目的の場所。

 

広場の中央に、奇妙な姿の男が立っていた。

 

【急げ!有角の勇者よ!】

 

空間に火の文字を刻み、こちらを急かす男。周囲に青白い光と共に、無数の槍を突き立てた。

 

女神たる私を急かすなんて、何たる不敬なのかしら。

 

その手に握る巨人用の巨大な弓に、騎兵槍を思わせる巨大な矢をつがえ、引き絞る。

 

出てきた森から、私たちを追い越すように青い影が追い越していく。

 

「ぐぅっ!?」

 

さっきまで私たちを護衛していた青い騎士だった。

 

地面に突き立てた赤と緑の槍でその身を支えた荒い息の騎士は、全身に薄い傷跡を残し、血に染まっていない場所を探す方が難しいくらいに、赤黒い姿だ。無様無様、けれども、その身は五体無事。

 

アステリオスをかすめるように放たれた、暴風を纏う巨大な矢。私の髪を大きくかき乱して突き進む。

 

すぐ近くで、鋼鉄の塊を打撃したような音が鳴り響いた。

 

雷光の牡牛(アステリオス)の肩越しに、視線を送る。

 

目の前に、ヘラクレスの顔があった。

 

黄金の瞳を深紅に染めた大英雄が、私に、アステリオスにその斧剣を振り上げていた。

 

「ひぁ。」

 

思わず、喉が鳴った。

 

女神たる私ですら、神核が震えてしまう。

 

狂乱した大英雄に求められるとは、こういうものなのか。

 

アステリオスの、長い髪の毛に触れるかどうかというところまで、ヘラクレスは迫っていた。

 

巨大な矢が連続で撃ち込まれ、斧剣を弾き、私に伸ばした左手を貫き、見開いていた右目を射抜いて脳を完全に撃ち抜いていた。それでもなお前に進もうとするヘラクレスに、更なる槍矢の雨が降り注ぐ。

 

流石のヘラクレスも、脳を始めとした全身を射抜かれて生きることはできなかったらしい。

 

残った左目の赤い輝きは失われ、ぐらりと倒れ込んだその肉体から放たれていた強烈な殺意が霧散していく。

 

どうにか、どうにか火継の薪のわきを抜けることができた。

 

「ここからがほんばん。えうりゅあれはうごかないで。」

 

アステリオスは最初に決められた広場の反対まで行き私を下ろすと、巨大な斧を手に取り前に進む。

 

息をついていた青い騎士のところまで進み、薪を後ろに戦意をたぎらせる。

 

「そうだな、坊主。男ならきっちり守れよ。」

 

「あたりまえだ!」

 

青い騎士が、アステリオスの前に立つ。全身の血はそのままに、傷は癒えていた。優れた戦士のわきに、図体ばかり大きな子供が立っている。

 

ああ、その在り方は、あの子が勇者であると示していた。

 

やめて頂戴。私の前で勇者であることを示さないで。

 

震えた声で、アステリオスを止める。

 

「待ちなさいアステリオス!貴方までヘラクレスに挑むつもり!?」

 

やめて、あの英雄に挑むのは。

 

「どうやっても殺される!だって貴方は!」

 

貴方は怪物なのだから。怪物殺しの英雄に勝てるはずがない。

 

彼は貴方より何倍も大きく強い怪物たちを殺しつくし、神話にその名を刻んだのだから。

 

神々の定めた怪物殺しの運命の下に、私の妹は殺されたのよ。

 

因果は決して破られず、覆されることはない。私と私を食らったあの子が、英雄を生み出すために殺されたように。

 

「ボクはかいぶつだから、きっとかてない。けど、それでもまもるんだ!」

 

アステリオスは、その身の震えを払うように大声を上げる。私がかつて見送った勇者達のように。

 

ダメよその振る舞いは。

 

その心の震えは、命をつなぐための大切なもの。多くの勇者が、その怯えを無視して死んでいったのだから。

 

それでも、私は止める言葉をかけられなかった。

 

だって、私はそんな勇者を見送り、待ち続ける存在だったから。

 

勇気を示した勇者を止めることができない存在だから。

 

「よく言った!こいつは餞別だ、もってけ!」

 

蒼の騎士が、その手の翠槍で空間に文字を刻み込む。

 

私たちの世界とは異なる、力ある文字。力と富の象徴。雄牛を示す文字だ。

 

中空のそれが風に舞うようにアステリオスに張り付き、浸み込んでいく。

 

「うううううううあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

アステリオスが絶叫する。その身を一回り以上大きくしながら。ギリシアの暖かな気候の中でも見えるほどの、濃密な白い呼気を漏らす雷光の雄牛。その姿は、魔物でしかなかった。それでも、その身から放つ気配は勇者だった。

 

両手に握る大戦斧を壊れそうなほど握りしめ、彼は私の前に立つ。叩き付けられる死の気配を前に、震えながらも立つその姿。見たくなかったのに、目が離せない。

 

彼の視線の先には、全身に突き立った矢が抜け落ち、再び立ち上がろうとしている大英雄の姿があった。

 

その身から立ち上る濃厚な死の気配は、むしろ強まり、濃度を増している。ただでさえ大きな体が、何倍も大きく見えるほどの存在感。死を重ねるほどに、その霊格を高めているとでもいうのだろうか。

 

「イイか坊主、あいつは死ぬたびに死因に対する抵抗を得ていく。すでに刺突と魔力撃で三回は殺しているからな、その二つでは殺せねえと思え。」

 

「わかった、きればしぬし、なぐればしぬんだね。」

 

青い騎士の言葉に、アステリオスが何とも脳みそまで筋肉な単純思考で返す。それはそうだけど、ちょっとそこの野犬に影響されすぎじゃないかしら。

 

「それがわかってればいい、俺と火継の薪が牽制して隙を作ってやるからな。さぁ、来るぞ!」

 

だがそれを、青い騎士は笑って受け入れた。これだから男は野蛮でいやなのよ。私のために命を懸け、失った男たち見ているようで気分が悪い。

 

どうかお願い。私にあなたの死を見せないで。決して叶わぬであろう願いを胸に、私は勇者を見定める。

 

裁定の果て、彼の敗北を見ることになっても、私はその定めを見なくてはならない。目をそらすことは許されない。

 

それだけが勇者を死に誘う、私にできる唯一の事だから。

 

「■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

狂化され、理性を失った大英雄が、咆哮一下勇躍する。

 

大きく間合いのあるうちに、その手に握る極厚の斧剣がうなりを上げて空間を断ち割った。

 

断ち切られた大気が暴風の刃となって、周囲を蹂躙する。森が削り落とされ、二人の戦士の身に風と岩、そして木片が無数の牙を突き立てる。

 

「させない!」

 

「ちぃ!?」

 

青い騎士は可能な限り槍とその身で受け止め再び血をまき散らし、私をかばったアステリオスからも血が零れ落ちる。慌ててみたその傷は、決して深いものではなかった。

 

流石はヘラクレス。理性を失っても、その身に宿した暴力の総量はむしろ増しているとでもいうのかしら。

 

「この野郎!まだ生きが良すぎる!」

 

蒼の騎士が双槍を振り回し、周囲を駆けまわることでヘラクレスをかく乱する。その一刺し一刺しが死の一撃である煌き。しかし、大英雄の肌に触れた鋭鋒は弾かれ、滑り、決してその守りを抜くことができない。

 

「やっぱ穂先が入らん!こっちも強化切れたら話にならねぇか!?」

 

すでに三度の死をもたらした鋭き槍は、もはや槍であるという一点を以て無効化されるに至っていた。

 

それでも青き騎士はあきらめることなく槍を振るう。刃が通らずとも、着弾の衝撃は通るし、脳や神経がやられないこともない。なぜならそれはこれまでに与えられた死因ではないのだから。

 

今、かの騎士に求められる役割は、ひたすらなる足止めとアステリオスの援護のみ。隙を作り、アステリオスの隙をカバーすること。神速の突きはその衝撃を確かにヘラクレスに伝え、その動きの向きを僅かに変える。たったそれだけかもしれないが、ヘラクレスは確かにいらだっていた。

 

『この連撃を以てしても、芯を捕えられぬとは。』

 

あの哀れな燃え差しも、その巨大な弓で斧剣を撃ち落とし、四肢を弾いて行動を阻害する。既に一つ命を奪ったそれは、刺さりはしていないモノの、着弾の衝撃は騎士の槍のそれをしのぎ、振り下ろしの一撃を大きく逸らすほどのものだった。

 

二人の技量は、まさに神技に至るというべきもの。かの大英雄に、満足な戦いをさせていないのだから。斧剣が生み出す風の刃や土塊の砲弾を躱し、叩き落とし、烈刃の舞をすり抜けるようにヘラクレスの肉体を穿っていく。

 

だが、短くとも長い剣戟を介して、アステリオスは大きく損耗していた。

 

決して武の鍛錬を積んだわけではないアステリオスが、二人の援護を受けて必死にその斧を振るう。魔の者としてもつ怪力が、大英雄と競り合うことを許している。だがもし、ヘラクレスに生前の技量が残っていれば、瞬く間に切り伏せられていただろう。

 

天の助けと、恵まれた仲間の存在によって、アステリオスの刃は確実にヘラクレスを捉えている。

 

今この瞬間だけは、狂化されていることに感謝しなくてはならない。

 

それでもなお、女神の胸の内にはあきらめが浮かんでいた。

 

無数の英雄たちを見てきたからこそわかる。

 

たとえ狂化されていたとしても、正気と理性と技術を失っていたとしても。

 

英雄とはその逆境すら跳ね返すがゆえに英雄であり、大英雄とは英雄を以てしてなお打ち倒しえぬからこそ大英雄なのだと。

 

クーフーリンを狙い、斧剣が大きく振るわれる。騎士はその一撃をそらすように立ち回り、大きな隙を生み出した。

 

「ああああああ!!!!!!!!」

 

その隙を逃すことなく、まるで火に誘われた羽虫のようにアステリオスが斧を振るう。ヘラクレスは顔をゆがめ、笑みを浮かべた。青い騎士が叫ぶ。

 

「野郎!誘いか!」

 

アステリオスの振るった斧が、好機を逃すまいと強く振りぬかれすぎた。力んだ彼の身が勢いを殺しきれずに、前に踏み込む。

 

「■■■■■!!!!!!!!!!!!!」

 

あらゆる技術を失ったはずのヘラクレス。しかし、野生の感と戦闘術理から、アステリオスを誘い込んだ。

 

アステリオスの双戦斧が、ヘラクレスの腹部に打ち込まれる。刃のほとんどがめり込み、内臓のほとんどがめちゃくちゃになっているだろう。だが、神話の怪物はそれでも動いていた。

 

「野郎!」

 

腹に突き立った斧を握りしめ、逃げられないように行動を制限する。ヘラクレスは、咄嗟にかばおうと飛び込んできた騎士を片手で殴り飛ばした。騎士は槍で殴打を防いだが、空中で殴り飛ばされ、大きく距離をとらされる。

 

『間に合わんか!?』

 

筋肉が引きちぎれ、内臓が切り出され、血が噴出し、それでもなお純粋化された戦意が余分な思考を挟まぬ神速の一撃を生み出す。

 

その身に食い込んだ致命傷を無視した、神速の切り替えし。巨大な斧剣に、内臓に届くほどに打ち込まれた斧、直前に差し込まれた文字の盾と巨大な槍矢、すべてまとめて切り潰される。

 

舞い散る赤い血華と白髪、折れ飛ぶ片角。

 

崩れ落ちるアステリオス。

 

遠いどこかで誰かの悲鳴が上がった。

 

 




多分後で改定したい。(忙しすぎて多分無理)

年度末に向け、更新ペースはさらに不定期になります。

できるだけ書きますが、期待はしないでくだせぇ。
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