Fate/Grand order 人理の火、火継の薪 作:haruhime
設定とは異なりますのでご了承を。
皆様、感想ありがとうございます。
なんだかまとまりのない文章になってしまった。
どれだけの間焼かれたのかわからない黒く、火の気配の残る洞窟。
無数の剣が突き立ち、溶け落ちた場所。
なぜここにいるのかわからない。
熱い。
体が内側から火に焙られている。
命が焼かれる。
どうすればいい。
何ができる。
何かが聞こえる。
どこか遠くで、誰かがしゃべっている。
誰だ。
赤い火。
違う、人だ。
燻る灰が人型を取っている。
それがこちらに手を伸ばした。
心が、体が乾くような、すべてを奪おうとする熱を伴って。
「■■■■■■■。」
近づく。
「■間■■■げ■。」
近づく
「■間■を■げよ。」
近づく。
消えた?
「人間性を捧げよ。」
目の前に人型の顔があった。
深く刻まれたしわの一つ一つが言えるほど近くに。
炎で模られている瞳の血走りが見えるほど近くに。
いつの間にそこにいたのか。
それの左手は、俺の胸に潜り込んでいた。
不思議と痛みも、熱も感じない。
ただ、冷たい喪失感を覚えた。
何かがつかまれた。
それは腕を引き抜く。
何かが握られていた。
薄ぼけた黒い霧の塊。
人の中の人の形。
恐ろしいほどの孤独感。
失ってはならないと本能が告げていた。
あれは、
奪わせるのものか。
それは手を胸の前に捧げ持ち、握りつぶそうとする。
心臓が痛む。
魂が痛む。
それがどうした。
奴の胸に両手を突き込む。
驚く顔。
あたたかな小さな火種だ。
どこか懐かしさすら感じるそれを抜き取り、右手に宿す。
奴は取り返そうと手を伸ばす。
右手を焼く火種に命じる。
従え。
奴を貪れ、と。
右手の熱が引き、奴の体がぼやける。
声なき叫喚。
崩れた輪郭が、炎の線となって火種に飲まれる。
飲み込み、勢いを増す火種。
より強く、より強大になった事で、飲み込む勢いも増していく。
瞬く間にその身の半分を吸われたそれは、逃げ出そうとする。
燃える右手でその肩を掴んだ。
あっという間にその身は崩れ去り、恐怖に染まった相貌を見せて、全てが飲まれた。
最後まで残っていた奴の手から、黒い塊が零れ落ちる。
拾い上げたそれを、胸の中に押し込む。
感じていた欠落が埋まった気がした。
苛んでいた寒さが消え、誰かが確かにいると感じた。
世界が崩れる。
いや、崩れているのは俺の意識だ。
暗転する。
落ちていく。
消えていく。
火だ!
土倉の中で先輩を見守る、マシュ・キリエライトです。
イザリスのクラーナさん、ご本人からクラーナでいいと言われました。
彼女が火を先輩の胸に入れると、先輩は気を失い倒れてしまいました。
クラーナさんが抱き留めてくださったおかげで、大事に至らずに済みましたが、一時間たった今でも目を覚ましません。
「ロマニ!バイタルはどうなってるの!?奇妙なくらいに魔力があふれてるわ!」
『体温が異常に上がってる!けれどもほかのパラメータはすべて正常を示してる、何が起きているのかさっぱりだ!』
所長は氷の魔術によって冷却のための氷を生成しては先輩に充てている。
それでも、触れたところから湯気が上がり、見る見るうちに溶け出してしまう。
穏やかな表情で眠っている先輩。近寄らなければ本当に寝ているようにしか見えません。
「ソウルの業を持たない者に、分け火をしたのか!」
【否、したのではなく我が瞳から簒奪したのだ。】
先ほどの焼き直しのように、クラーナさんが火継の薪さんを締め上げています。
「お前なら止められただろう!?」
【主の意思を尊重した。不死は想いだけが縁であるからな。】
半ば悲鳴のような声をあげる自分の師に、火継の薪さんは言葉を示します。
「そう言われてしまうと私には何も言えん!ああくそ、口が達者になったものだ!」
文字を読んだクラーナさんは息をのみ、数瞬の後に手を放しました。
心なしか肩が落ちているようにも見えます。
不思議な感情が伝わってきます。後悔と、不満でしょうか。
何をおっしゃっているのかわかりませんが、お二人が何かを知っていることはわかります。
「そこまでです、お二人とも。先輩の状態について何か知っているのですか?」
「見当はついているが、ここまでの状況を引き起こしたのはこのバカ弟子だ。……触るんじゃない!」
【ある意味では師のいう通りであろう。】
私の問いかけに、お二人はあいまいに答えました。火継の薪さんは肩に触れようとしていた手を払われていましたが。今度は火継の薪さんが肩を落としています。
「貴方が何かやらかしたのね!なんとかしなさいよ!」
それを聞いた所長は半泣き、いえ、マジ切れしています。
それでも氷の魔術を使用し続けているのですから、やはり所長は一流の魔術師なのですね。
【我が主と目を合わせたあの時、私の瞳を介して主は最初の火と不死の呪いを得たのだ。故に、入り込んだ呪術の火が半ば暴走している。】
【しかし、これもまた試練。この試練を乗り越えた先には、偉大なる火の術師としての道が開かれる。】
【そして、私は主に薪としての素質を見た。原初の地獄をも切り開き、神々を討ち果たし、止まった時を動かす素質を。】
【星見の主よ、未完の騎士よ、そして盲目の賢者よ。】
【我が主を信じよ。我が主の強き意思を信じよ。仲間を信頼することもまた、貴殿らの成長に繋がろう。】
【今の貴殿らには祈り、信じることしか出来ぬ。耐えるのだ試練の時を。】
そういうと、火継の薪さんは、胸に手を当て青白い光とともに、何本かの骨を取り出しました。
先輩の近くにその骨をくみ上げ、焚火の薪のようにしています。
何をするおつもりなのでしょうか。
「何をする気なのよ!」
「落ち着け、オルガマリー。あれは篝火を作ろうとしている。」
「何言ってるのよ!今は!」
「最後まで人の話を聞け、馬鹿者!」
「あれは我々の間で篝火と呼ばれるものだ。」
クラーナさんによれば、不死の骨をくみ上げ、最初の火がともっている篝火は、すべての不死の故郷なのだそうです。
不死の呪いの試練を受けている先輩に帰り道を示すために、篝火が最も有効なのだとか。
「不死とは、火継の輪が瞳に現れた者たちのことだ。不死に呪われたものは死んでも己の故郷に蘇る。……人間性を失ってな。」
「死ねば死ぬほど考えることができなくなり、最後には虫のようにソウルと人間性を求める亡者になり果てる。」
「そんな化け物になるかどうかの、崖っぷちなんだよ、お前さんの先輩はな。」
そんな、それでは
『立夏君は人間ではなくなってしまうのかい?』
【それは是であり、否である。】
Dr.ロマンの問いに、火継の薪さんは再び不明瞭な答えを返します。
【主が私から奪った呪いはほんのわずかなものだ。そして、変質した最初の火をも奪っている。】
【ごくわずかな不死の呪いを焼き尽くすに足るだけの量をな。】
【強い火の力によって、主は不死の呪いを抑えることができるだろう。】
【どうなっているのかは、死んで初めてわかることだが。】
最後に肩をすくめたのはいただけませんが、火継の薪さんでも知らないことはあるのでしょう。
お話を聞けて、不思議とざわめいていた心が落ち着きました。
今の状況で私にできることは限られています。
先輩の無事を祈ること、そして所長のサポートをするくらいです。
「水と布、きれいなものを持ってきなさい!」
汗を流しながら、魔力を振り絞る所長が要求します。所長にも先輩にも必要でしょう。
『わかった、すぐに用意するよ。』
「いや、不要だロマン。マシュ、少し付き合え、これだけの大きな屋敷だ、きれいな水や布があるはずだからな。今は少しでも物資が惜しい。」
「は、はい!」
クラーナさんのいう通りです。補給の当てのないカルデアの物資を減らすわけにはいきません。
【私と賢者がこの場の安全を保障しよう。】
『僕にできるのは観測くらいだけど、敵が近くに来たら伝えるよ!』
Dr.ロマンが索敵し、火継の薪さんが守ってくださるのならば、先輩と所長の安全は確保されたも同然です。
満足に戦えない私にできることを、一つでもしないと。
クラーナさんと土倉を出ます。
広いお屋敷ですが、ガラス戸は割れていませんし、荒らされた形跡もありません。
「カギがかかっている。……土足で上がってはならないようだが、家主もおるまい、今は許せよ。」
知識のバックアップをどこから受けたのでしょうか。そうつぶやくと、青白い光とともに取り出した不思議な剣でカギを溶断しました。クラーナさんは建屋の中に入っていきます。
突然の神秘の塊に呆然としていましたが、慌てて後を追い、家探しを始めました。
脱衣所で藤かごとタオルを見つけました。
台所で水とわずかな保存食を整理していたクラーナさんに合流します。
先ほどの剣が気になって、ちらちらとクラーナさんに視線を飛ばしていたのに気づかれました。
「今の剣が気になるか?」
首を、何度も縦に振ってしまいます。
「これは、バカ弟子がくれたものでな。化け物に代わってしまった家族のソウルから作られたものだ。」
そう言って、先ほどの剣を取り出してくれました。
生物の甲殻ようなその剣には無数の細く硬い棘が生えており、ほのかな熱を発していました。
「混沌に飲まれ蛛と人の化け物となっていた家族を止めてくれたんだ、あいつは。」
「別の家族を守っていた姉妹を殺してすまないと、跪いて謝っていたよ。」
「この剣を渡して、首を差し出してきてな。」
「殺してくれと、そう言ったんだ。」
なんだか寂しそうな、でも懐かしむような声色でした。
「どうしたのですか?」
「顔をあげろ、立て、そして最大限まで燃やしたこいつで腹を一刺し、それで終わりだ。」
予想していたのと違いました、びっくりです。
「死んでしまいますよ!?」
「死ぬ気だったらしくてな、回復しようとしなかったからエスト瓶をひっくり返して回復してやったんだ。」
エスト瓶、聞いたことのない名前です。どんなものなんでしょうか。
「エスト瓶か、不死が篝火をくみ取ったものでな、飲めば腕がもげてようが、中身が飛びてていようが治る優れものだ。恐らく怪我をしたという事象を焼いてなかったことにしているんだと思っているがな。」
「その時は情けない顔をして、貴方も姫も殺してくれない、なぜだと言ってね。思わず笑ってしまったよ。」
その時声に出して伝えたことを、クラーナさんは教えてくれました。
「家族が死んだことは悲しい、だが、如何することもできなかった、決められなかった私がお前を責めるつもりはない。」
「あまり背負い込むなよ、私にできなかったんだ、ほかの誰にも救えないさ。」
「なにより、お前に死なれては困る。」
「かけた時間が無駄になるからな。成就しろよ、お前の可能性を。」
未熟な私にもわかるほど、情感のこもった声でした。
「そう言って送り出したよ。あいつには使命があったからな。何よりも大事な、世界を照らす使命が。」
「どれだけの時間がたったのかはわからないが、あいつはすべてをやり遂げたんだろう。」
「あの悪夢は終わっていた、そして私は呼ばれたというわけだ。」
クラーナさんは語り終えると、回収した荷物をまとめました。
「さぁ、大方漁った。私たちだけではこれ以上持てまい。戻るぞ。」
「あっ、網かごがありますから、布はそちらに入れましょう。」
先ほど、浴室と思しき場所で見つけた藤の網かごがあります。結構な大きさのものだったので、いろいろ入りそうです。
「そうしようか、私が荷物を持とう。屋敷の中だ、ないとは思うが命は預ける。大丈夫だ、お前にもやれることはある。マシュ、頼んだぞ?」
「はい!」
クラーナさんの両手がふさがっている以上、私の盾でお守りしなくてはいけませんね!
とはいっても、お屋敷の中、それも目的地までの一直線では、大した時間もかかりません。
あっという間に土倉についていました。
「戻ったぞ、オルガマリー。」
「ただいま帰還しました。」
ちょうど、火継の薪さんが赤く焼けねじくれた大剣を骨の薪の真ん中に突き立てているところでした。
ーーー篝火よ、全ての不死の故郷をここに。
しゃべれないはずの火継の薪さんの声が聞こえました。
枯れ果て、燃え尽きた熱のない声。
それとともに、骨と大剣が燃え上がりました。
柔らかく暖かな、けれどもどこか恐ろしさを感じさせる火。
『計器が振り切れる魔力濃度だ、神代じゃないんだぞここは!』
『周囲に向けて放射していないから濃度を保っているし、何が何だかだよもう!』
ドクターが混乱しています。
「よくやったな、オルガマリー。」
「えっ?」
クラーナさんの言葉に、意表を突かれたようです。
「篝火ができれば、マスターの容態も安定する。そこまで持たせたのは、お前だ、オルガマリー、よくやった。」
「そ、そう。」
厳しそうなクラーナさんに褒められて、所長は頬を赤らめ、視線を逸らしています。
かわいらしい一面があったんですね
「だいぶ消耗したはずだ、ゆっくり休め。後は私が変わる。」
「……そうね、お願いするわ。マシュ、いろいろ頂戴。私はそこの椅子で休むから。」
クラーナさんに肩をたたかれた所長は、張り詰めた表情を緩め、私から水とタオルを受け取ると、端に立てかけられていた椅子に座りました。
深く息を吐いています、篝火について聞く気力もないようです。
振り向くと、クラーナさんが篝火のそばで、先輩を膝枕しながら頭をなでていました。
なんだかもやもやしますね。
でも、先輩の容体は明らかによくなっています。
赤味は引いていますし、湯気も出ていません。
「状況は好転した」
「後はマスターの復帰を待つだけだな、今はお前も休んでおけ、マシュ。」
ですが。
「マスターが起きた後はお前が世話をするんだ、体力に余裕があったほうがいい。」
わかりました。
「出番は嫌というほどある、今は専門家に任せておけ。」
はい。
勧めに従い、私も座って休むことにします。
早くお目覚めにならないでしょうか、先輩。