遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep105「現れたモノ」

決闘市の東地区、街の外れにある『霊園』でのこと。

 

突如として警察から謎の『指名手配』を受けてしまい、決闘市から今まさに逃げ出そうとしていた遊良達は…

 

 

 

「え…?」

「ぬぅ…」

「な、なんだ…今の…」

 

 

 

たった今目の前で起こった、あまりに『ありえない光景』を目の当たりにしてしまったことで…

 

言葉を失い、思わずその場に立ち尽くしてしまっていた。

 

―そう、遊良達が目撃したのは他でもない。

 

近隣住民や記者や警察…遊良達を追いかけてきていた者達が、遊良達の目の前で―

 

 

 

 

―うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 

―助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!

 

―痛いぃ!痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!

 

―ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!

 

 

 

書いて字の如く、粒子となって『消えて』しまったのだ―

 

 

…一体、誰が信じられるか。

 

 

突然、決闘市内全域から『赤い重光』が立ち昇ったその瞬間に…人が、溶けて消えてしまうだなんて。

 

…重光が立ち昇ったのは、時間にて10秒にも満たない時間だった。

 

しかし、あまりに長く感じたその10秒あまりの中で、人間が光の粒子となりて霧散していくのを見てしまったなんて、たとえその光景を見ていたとしても一体誰が信じられると言うのだろうか。

 

ありえない…人間が、光の粒子となって霧散してしまうだなんて。

 

そんな、あまりにありえない光景を目の当たりにして…遊良も、鷹矢も、ルキも、そしてこの場で最も年長者であるはずの砺波でさえも。

 

ただ呆然と口を開いたままで、その場に呆然と立ち尽くしてしまっており…

 

 

 

…そして、ゆっくりと。

 

 

 

決闘市全域から立ち昇っていた、決闘市全土を取り囲んでいた赤い重光が完全に消えたその後に。

 

イースト校理事長、かつては【白鯨】と呼ばれていた砺波 浜臣が…徐に、その口を開き始めた。

 

 

 

「…消えた…決闘市から、人の気配が全て…」

「と、砺波先生、き、消えたって…」

 

 

 

重々しくその口を開いた砺波から飛び出してきたのは、にわかには信じられないような言葉であった。

 

きっと、砺波もまだ混乱しているのだろう。迷いの見える、少々震えているようにも聞こえるその口調は…彼もまた、今の非現実な光景をまだ完璧に飲み込めてないというのが誰にだって分かるほどに…

 

そう、人間を超え、【化物】の領域に足を踏み入れている【白鯨】を持ってしても。たった今起こった、『人が消えてしまった光景』はあまりに衝撃的な光景となりて…この場にいる4人の目に、確かにハッキリと映りこんでしまったのだから。

 

 

 

「言った通りです…君たちも感じるでしょう?遠目からでもわかった人のざわめきが…決闘市の中から、全て消えてしまっていると…」

「…」

 

 

 

しかし、それでもなお真っ先に口を開いた砺波は、大人の責務としてこの場にいる誰よりも現状をいち早く飲み込もうとしているのか。

 

現状に混乱しているだけの子ども達とは違って、いち早く現状を把握しようとしている鯨の目は決闘市全域へと向けて遠目に放たれており…

 

…そして、遠目で街を眺めている砺波に倣って。

 

遊良達もまた、よくよく目を凝らして…そして耳を澄ませば、たった今砺波が言ったことを、嫌でも少年達は理解してしまう。

 

 

 

「え、な、なに、これ…」

「なんか…気持ちわるいくらいに…」

「…静かだ…静かすぎるぞ…」

 

 

 

そう、遊良達もまた、理解してしまったのだ。

 

…それは先ほどとはまるで違う街の気配。そこに街はあるのに、そこから感じられるはずの人の気配や生活のリズムが…

 

人が醸しだす鼓動、『音』という『音』の全てが決闘市内から全て消えてしまった、という事を―

 

…ありえない。あれほど騒がしかった街の『音』が、日常を感じる生活の音が、人が鳴らす微かな気配の何もかもが全て消えてしまうだなんて―

 

一体、何が起こったのか。いや、原因など、説明されずとも遊良立ちにはわかりきっている。そう、たった今目の前で立ち昇った『赤い重光』が、追いかけてきていた記者や警察のみならず…

 

決闘市の中にいた『全て』の人を消してしまったのだ…と。

 

何せ、それ以外に原因がない。追いかけてきた住民が、攻め懸けてきた記者が、迫り来た警察官が『赤い重光』に溶かされ、光の粒子となって霧散し消えてしまったのと同じ。

 

決闘市内にいた全ての老人が、大人が、子どもが、赤ん坊に至るまでが―

 

 

 

全員、光の粒子となって消されてしまった―

 

 

 

「…駄目です。誰も電話に出ません。おそらく、決闘市の全ての人間が消えてしまった…いや、消されてしまった…」

「…え?そ、それじゃ私のお父さんとお母さんも!?」

「俺の親父やお袋もか!?」

「おそらくは………私の家族も、消されているでしょう…」

「そんな…」

「ぬぅ…」

 

 

 

そして…

 

何やら各所に電話をかけつつも、苦々しくそう言葉を漏らした砺波の言葉を聞いて。

 

鷹矢とルキが、驚いているような声を零したと共に…特にルキが、見る見るうちにその表情を悲痛なモノへと変えていく。

 

そう、人の気配の消えた決闘市の様子と、そして今の砺波の言葉を聞いて。鷹矢とルキもまた、『最悪』の想像をしてしまったのだろう。決闘市内の人間が消えてしまったと言う事は、それすなわちこの場にいる者の『家族』…

 

…大切な人までもが、例外なく『消えて』しまったと言うこと。

 

そんな、誰もが自分の『家族』が消えてしまったという事実に対し…

 

鷹矢も、ルキも、そして砺波までもが悲痛な表情や切羽詰った雰囲気、そして痛々しい程の沈黙を醸し出してしまっている中で―

 

 

 

「砺波先生、『消された』っていうことは…今のって、もしかして誰かが意図的にやったってことですか?」

 

 

 

唯一、『家族』のいない遊良だけが。

 

他の3人とは異なり、どこか冷静に言葉を発した。

 

 

 

「…多分、そうでしょうね。」

「でも、一体どうやって…だって犯人は…俺を襲った奴だったら、消すのは一人ずつだったっていうのに。」

「…それは…わかりません。」

 

 

 

絶望に掴まれている他の3人とは違い、微かな冷静さを残している様子の遊良。

 

…別に、遊良とて人が『消えた』今の現象に驚いていないわけではない。

 

無論、知っている人達が消えてしまったという可能性…いや、限りない事実は、いくら血の繋がった家族の居ない遊良とて驚きを感じるとともに悲しさを感じてはいる。

 

そう、鷹矢の両親やルキの両親は勿論のこと、少しずつ良い方へと変わってきていた決闘市内には多少なりとも交流を持った知人が確かに生きて存在していたのだから。

 

…だからこそ、遊良もまた知っている人間が消えてしまったことに対し、物悲しさを確かに感じてはいる。

 

しかし、それでもなお実際に『家族』が消えてしまった鷹矢やルキと比べれば…感じているであろう絶望に、どこか差が生まれてしまっているのはある意味仕方のない事とも言えるのか。

 

まぁ、それはどこか少年らしからぬ割り切り方とも言えばそうなのだが…

 

それでも、誰もが絶望に塗れて動けなくなってしまうよりは幾分マシとも言えるのもまた事実で。それ故、そんな遊良の言葉を聞いて…

 

砺波もまた、少しだけ冷静さを取り戻したように―

 

 

 

「誰がどうやって、何の目的でこんな事をしたのか………まるで検討がつきませんが、今の感じと似た感覚を…たった今、思い出しました。」

「え、似た…感覚?」

 

 

 

そんな砺波の言葉は、一体何を感じて放たれた言葉なのだろう。

 

普通、変哲の無い日常を生きていればあんな非現実的なモノに対して、覚えなど思い浮かぶはずがないと言うのに…

 

未だ混乱の中にあっても、何やら思うところがあるかのように。遊良へと向かって、そんな言葉を漏らしたイースト校理事長、砺波 浜臣。

 

…それは的外れでいい加減な大人の虚言では断じてない。

 

あくまでも冷静を努めようとしている砺波の眼は、一切のごまかしも憚りもなく。その記憶の中を手探りし、こんな非現実的な現象に何やら思い当たる節のある顔をし始めるのか。

 

そう…砺波には覚えがある…

 

それは今の人が消滅したという現象に対してではなく…もっと根源的なモノ、もっと根本的なモノ…

 

そして、ソレは砺波だけではなく―

 

 

 

「えぇ。君も覚えがあるはずです…昨年に君もソレを間近で見ているはず…人知を超えた、」

「ッ…も、もしかして…」

 

 

 

だからこそ、砺波に促されるようにして―

 

砺波と『同じモノ』を見たことがある遊良にも、瞬間的にある記憶が蘇るのか。

 

…なにしろ、ソレは遊良にとっても忘れたくても忘れられないであろう記憶。

 

人の枠を超えた存在となった砺波のように、根源的なモノを肌で感じ取るような真似は出来なくとも…

 

それでも、過去に一度その見たことのある理解を超えた出来事と、そしてその場で感じた説明しようのない潜在的な『怖れ』にも似たモノを、確かに遊良は直面したことがあるのだから。

 

遊良の思い出したソレ…

 

それは紛れもなく、昨年度に対峙した決闘市に生じた『異変』における…

 

 

 

 

―『何故世界はこうも醜い!敗北した私ならばともかく、何の罪も無い我が娘が、何故私の娘と言うだけで虐げられなければならないのだ!』

 

―『だから私は蘇った!失意のうちに今にも消え行く命だった私の魂と、ばらばらになった私の体を【神】が繋ぎ合わせ…私に、娘の『復讐』を実行できるだけの力をくれた!だから私は世界を飲み込む!釈迦堂も、『奴』も!全ての人間を私は許さん!娘を絶望させた人間など全て消し去り、娘一人のために世界を造り変えてやるのだ!』

 

―『増大した『闇』で『この国』を飲み込む…そして最後には、『世界』の全てを飲み込む!そうすれば、全ての人間はこの世から消え去るのだ!』

 

 

 

 

…そう、遊良が思い出したのは他でもない。

 

人の理を超え蘇った『鬼才』が、神にも等しい力を持ってして世界の人々を消滅させようとしていたという…

 

昨年度における決闘市の『異変』、死より蘇った前【紫魔】、紫魔 憐造が巻き起こした、決闘市が大混乱を巻き起こしたあの『異変』での出来事。

 

 

…前【紫魔】は言っていた。娘一人の為に、全世界の人間を『消し去る』、と。

 

 

人々の中で増大した悪意…『闇』を持ってして、世界の全てを消滅させるということを、あの時の紫魔 憐造は本気で行おうとしていたのだ。

 

あの時は、憐造の闇が爆発する寸前で【黒翼】が止めたから何事もなかったものの…しかし、もしも昨年のあの時に紫魔 憐造の暴走を止められていなかったとしたら。もしかしたら今の光景と同じくらいの惨劇が、去年の決闘市にも起こっていた可能性がある。

 

そして、その時の同じような恐怖を、遊良は確かに今の現象からも感じた。

 

 

それが導くひとつの答え…

 

それはつまり―

 

 

 

「じゃあ、もしかして今回の犯人も…や、『奴』も…紫魔 憐造みたいな力を持ったやつってことに…」

「…」

 

 

 

最悪の想像が遊良の脳裏をよぎる。

 

もし昨年度の紫魔 憐造のような、人の理を超えた存在が再び決闘市に現れたのだとすれば…それは到底『人間』などには手に負えない災悪を引き起こす、止める手立てなどない敵であると言う事。

 

何せ、去年の『異変』でさえありえない出来事だったのだ。10年以上も前に既に死んでいるはずの人間が蘇って襲ってきて、それに加え既に人の枠組みから外れ【化物】の領域に踏み込んでいた【黒翼】と互角の戦いをしていた紫魔 憐造の規格外な力は…

 

全世界の人間を消し去るという言葉とともに、あまりの人外さをありありと遊良や砺波へと見せ付けてきたのだから。

 

…だとすれば、今回の事態を引き起こした犯人…それが遊良の『思い浮かべている人物』であるならば、その犯人もまた昨年度の紫魔 憐造と同じような力の持ち主だとでも言うのか。人々を消し去ってしまうという、人知を超えた力を携えた、そんなありえない力を。

 

いや、確実にそうなのだろう。何せ、遊良もその人物とのデュエルに敗れ…そして、本当に『消滅』しかけたのだから。

 

それ故…

 

敵の力が、手に負えないほどのモノであるかもしれない可能性を考えてしまった遊良が。更なる絶望に押し潰されそうになったとしても、それはあまりに仕方のない事とも言え…

 

 

 

「…私は一度市内に戻ります。君達はこのまま、当初の目的どおり…」

「嫌!私も家に帰ってみる!だ、だってお父さんとお母さんが…」

「…うむ。俺も自分の目で確かめねば納得できん。」

「高天ヶ原さん、天宮寺君…気持ちはわかりますが、いつ敵が襲ってくるのかも…今みたいな光が、いつまた襲ってくるのかも分からない状況では全員で動くのはあまりに危険すぎます。」

 

 

 

だからこそ、そんな得体の知れない敵が相手ともなれば。いくら人間の枠組みを超えた領域に立っている砺波であっても、警戒せざるを得ないのか。

 

…家族が消えてしまった可能性に逸る鷹矢とルキを宥めつつ、自身も平常心を保つのが精一杯であろう砺波もまた見るからに困った顔を浮かべながら。

 

今度は自分達もあの赤い重光から逃れられないかもしれないという、最悪の想定すら砺波には思い浮かんでいるのだろう。

 

情報が少なすぎる…動こうにも動けないこんな状況では、誰もどう動けばいいのかが全くもって分からないままで―

 

 

 

そうして―

 

 

 

「だが、このままここで何もせずにいるわけにもいかんぞ!」

「そうだよ!それに、もしかしたら街に生き残った人がいるかもしれないし!」

「ですが…」

「…鷹矢、ルキ…一旦考えを纏めよう。砺波先生、もしさっきの光を犯人が出したんだとしたら…元凶を倒さないと、いつかまたどこかで同じような事が起きる可能性もあるってことですよね。」

「えぇ、そうですね。しかし、そんな存在と戦える者などごく僅か…となれば、君たちが叶う相手では…」

 

 

 

家族が消された可能性に逸る鷹矢とルキを、この場にて唯一冷静さを持っているとも言っていいであろう遊良が少々制しつつ。

 

今の状況を、一旦落ち着いて整理しようと砺波へと語りかけた…

 

 

 

その時―

 

 

 

―『…ですから申し…たはず…貴方に扱い…れる力ではないと…それを、こんな…に扱…など…』

―『わかってる!けど、も…時間…なかっ…んだ…でも、ま…かコレで…消え…かったなんて…』

―『…そ…も貴方…しいと…えば…貴方ら…いですが。わか…ました、ですが…方に残…れた時間は…う僅か…でしたら、そ…時間をどうぞ…好きに使…て下さい。…それと、力…行使…きる…は精々あ…1度…努々忘れ…ことな………自…が一体…なのか…』

―『あぁ、今度…そ間違えな……今度…そ…』

 

 

 

 

(ッ…)

 

 

 

 

 

不意に、突発に、意図せず―

 

襲ってきたのは、学園を出る時と同じく鋭い痛みを伴った頭痛―

 

また、見えた…今度は、更にはっきりと。

 

そう、あの鋭い痛みを伴った頭痛の中に、再び遊良の脳裏にはあるイメージが浮かび上がってきたのだ。

 

今見えたのは、先ほどの頭痛の時に見えた見慣れない光景とは違う…何やら見慣れた光景と、先ほどのイメージよりも更にはっきり聞こえた、誰かと誰かが会話をしていたその内容。

 

 

 

…誰の声かまでは分からない。何せ、あまりにノイズが酷かったから。

 

 

 

けれども、どこかで聞いた事のあるような気もしないでもないその声と、どこかで聞いたことのあるような気もする言葉が…

 

どこか悲痛なモノとなりて、遊良の心に哀しみという名の共感を少なからず与えようとしているかのよう。

 

 

そして…

 

 

突然見たその光景と会話を見聞きして、遊良ははっきりと理解してしまう。そう、学園を出る時に見えた光景と違い、たった今見えたモノは紛れもなく…今この時この時間に、『誰か』と『誰か』が決闘市内で話しているモノである、と言う事を。

 

…確証はない。確信もない。

 

あるのは単なる勘…見えたのが紛れも無い『今』の光景であるという、確証も確信もないたなる『理解』だけ。

 

まぁ、学園を出る時に見えた荒廃していた謎の場所とは打って変わって、たった今見えたのは遊良も見知った『決闘市内』の駅前の光景であったのだから…何の根拠もなく遊良がそう『理解』してしまったしても、この混乱した状況の中ではソレはある意味仕方のないこととも言えるのだろうが。

 

 

 

ともかく…

 

 

 

「天城君!どうしました!?」

「あ、いえ…一瞬頭痛が…」

 

 

 

再び謎の光景を見て、ふらつき倒れそうになってしまう遊良。

 

急に鋭い頭痛が襲ってきて、そして見知らぬ聞き知らぬ光景と声が突然聞こえて見えたのだからそれも当然と言えば当然ではあるのだが…

 

しかし、今の光景を見て。遊良には、ハッキリと理解できた事がもうひとつあり…

 

 

 

「あの…砺波先生、気配が無いってことは…犯人ももう決闘市から居なくなったってことですか?」

「いえ、そこまではわかりません。ですが、憐造でさえ決闘市を消すために決闘市内に居た事を考えると…おそらく、まだ犯人は市内に潜んでいると考えるのが妥当でしょう。」

「…じゃあ…多分、今みたいな危ない光はすぐには襲ってこないと思います…」

「ほう、それは何故?」

「なんでか分からないけど、でもそんな気がするんです…今度は、もっと確実な手を取ってくるって………確証はないけど、でもそう確信できるんです。」

「…」

 

 

 

遊良の語ったその言葉…ソレはとてもじゃないか、到底信用するには値しない希望的観測にも似た妄言とも取られる代物だったことだろう。

 

何しろ、遊良の言葉を聞いて…鷹矢もルキも、遊良に対し『突然何を言い出したのか』と言わんばかりの視線をまじまじと向けているのだから。

 

それはルキからしても、そして遊良をこの世の誰よりも理解しているであろう鷹矢をもってしても理解しきれなかった突然の発言。

 

しかし、それもそのはず。人間を粒子と化して消してみせたあの赤い重光と、そして決闘市内の全ての人間が消えたかもしれぬ人知を超えたあの光景を見て…

 

一体、誰が遊良の『勘』にも等しいソレを素直に信じられると言うのか。

 

果たして、今の遊良の言葉に一体どれほどの説得力があるのだろうか。何しろ、誰だって今この状況に置かれたらこう思うはず…

 

 

今再び、あの赤い重光がすぐにでも襲ってくるかもしれない…と。

 

 

しかし…

 

 

嘘偽りなくそう告げる遊良の目に、砺波は一体何を感じ何を考えているのか。

 

遊良の言ったことが本当ならば、決闘市の人々や鷹矢やルキの家族…それに砺波の家族が消えてしまったのは遊良の所為とも言えるのだが…

 

しかし、今ソレを感情的になって責め立てるような真似をする者などここは居らず。まぁ、そもそも今の非現実的な現象が本当に遊良を狙ったモノだったのかなど、ここに居る者達には分かり得ることでは断じてないのだから…

 

鷹矢も、ルキも、そして砺波も。遊良を責める言葉など言うはずもないのだが。

 

そして…

 

遊良の言った言葉に対し、砺波は少々考える素振りを見せつつ…今再び、ゆっくりとその口を開き始める。

 

 

 

「…わかりました。おそらくもう記者たちに見つかる心配もしなくても良いでしょう。そして全員で固まりすぎるのも逆効果…なので二手に分かれます。私は一度学園に戻りますので、君たちは無理のない程度に街の状況を調べて下さい。ですが必ず3人で行動すること…もし何かあれば、すぐに私に連絡をしなさい、いいですね?」

「はい、砺波先生。」

 

 

 

人知を超えた現象を目の当たりにして、それでもなお自分の教え子を信じる事を取った砺波の選択は果たして正しいのか間違っているのか。

 

そんなコト、今この場にいる誰も知りえることでは無いとは言え…

 

それでも、砺波の許可によってはっきりしたことは唯一つ。そう、何もわからない現状において、この場で口論している事こそが最も無駄なことなのだという事だけはこの場にいる誰しもが共通の認識として抱いている確かな事。

 

…他に選択肢も無い。ただ混乱して時間を経たせることはこうした状況においては絶対にしてはならない。

 

ソレを、昨年度の『異変』や【決島】と【裏決島】で遊良達もまた身に染みて学んでいるのだろう。学生という年代には似合わぬ、その『非常時』に対する経験則は伊達ではない。そんな遊良達の強さを砺波もまた理解しているからこそ…

 

砺波は少々悩みつつも、お互いに『何か』あった時の為に念のための集合時間と集合場所を決め。渋々ながらも、街に戻る事を遊良たちへと許可し…

 

 

 

そうして―

 

 

 

遊良達は、逃げ出してきたはずの決闘市へと今再びその足を踏み入れる。

 

 

…人の気配の消えた決闘市、霊園の入り口にて遊良達は【白鯨】と別れ。

 

 

すぐに連絡を取れる準備だけは怠らず、別行動にて決闘市内へと今一度その歩を進め始めるのか。

 

 

 

 

 

 

そして…その代わり果てた光景を、すぐに遊良達は理解する事となる。

 

 

 

 

 

 

―気配が無い。

 

 

 

人の気配が、全く無い―

 

 

 

そう…誰も、いない。

 

 

 

道端にも、街角にも…店内にも屋内にも公園にも軒先にも河川敷にも車内にもどこにも人の姿がひとつも無いのだ。

 

 

…また、そこら中に散らばっている、『人の形』をした衣服が証明している。

 

 

遊良達の視線の先、その衣服が落ちているそこには…今の今のたった今まで、確かに『人』が居たのだと言う事を。

 

…公園では子ども達が遊具で遊んでいたのだろう。道端では主婦が井戸端会議をしていたのだろう。河川敷では学生がデュエルをしていたのだろう。

 

 

今の今まで、誰が何をしていたのかが分かる程に―

 

 

落ちている衣服に触れれば、人のぬくもりがまだ残っているソレは…まるで日常の中から人間だけをそのまま切り取ったかのようなその光景であり、その不気味さは、ただただ遊良達へと不安と気持ち悪さを与えるだけ。

 

人間だけが切り取られたその光景…それはSF映画で観たような終末感。

 

そんな無人と成り果てた決闘市を進めば進むほど、先頭を歩く遊良の心臓はその鼓動を増していくばかりで…

 

…それに伴い市内を進む遊良達に浮かんでくるのは、鷹矢やルキの両親と言った見知った顔である人達も同じく『消えて』しまった可能性。

 

考えたくもない嫌なイメージ。想像したくもない最悪の展開。

 

そんな心の不安感が、ただただ遊良達の中では増していくばかり。そう、これだけ人に会えず、喚く声も泣く声も聞こえないと言う事は…おそらく、砺波の言っていた通り。本当に決闘市の全ての住人が例外も特例もなく全員『消滅』してしまったと言うことにまず間違いなく…

 

 

 

それはつまり、鷹矢やルキの両親も―

 

 

 

―無人となった決闘市の、見慣れているはずの東地区を歩き続ける遊良たち。

 

 

 

街の外れにあった『霊園』から出発し、学園までの道のりを経て…

 

…人の気配が消えたために、もう隠れる心配も無いいつもの当校ルートを逆行し。会話もなく、遊良たちは早足にて帰路を急ぐのか。

 

あちこちに散らばった、衣服やデュエルディスクやその他の所有物などが視界に入りつつも…

 

遊良も、鷹矢も、ルキも。ただただ、その歩を進め続け…

 

 

 

そうして…

 

 

 

東地区の住宅街、その見慣れた街の景色の中で。

 

遊良たちはまず、ルキの家に到着した。

 

 

 

「…ルキ、鍵開けてくれ…」

「うん…」

 

 

 

ゆっくりと…

 

ルキが自宅の鍵を開け、そのまま遊良達は高天ヶ原家へと足を踏み入れる。

 

家の中はあまりに静か。すでに日も暮れ始めている時間帯だと言うのに、家の中には生活の音らしき音が何一つとして感じられない。

 

…いつも出迎えてくれるルキの母親の優しい声も。いつも気さくに話しかけてくれるルキの父親の声も。

 

家の中にはまるで音はなく、ただただ無音の重みがどこまでも遊良達に重く圧し掛かっていくだけではないか。

 

また、この無音のせいなのか…

 

遊良も、鷹矢も、ルキも。3人は下手に声を出せず、無言にて家の中にてルキの両親を探し始めるのは彼らもまた『最悪』を思い浮かべてしまっているが故の仕方の無い行動なのか。

 

…ルキがリビングを。鷹矢が風呂場の方へと。

 

そして遊良が、階段を上がって2階の方へとそれぞれ無言で探し始め…

 

 

 

そして…

 

 

 

二階に上がってすぐに、遊良が見たモノは―

 

 

 

「ッ!?お、おじさん…おばさん…」

 

 

 

…遊良が思わず息を呑んでしまったのも無理は無い。

 

何せ、それは『想定』していたとは言え…2階に上がったばかりのそこにあったのは紛れもなく…

 

階段を上がってすぐの廊下に…

 

直前まで、ルキの父母が身に着けていただと思わしき…

 

 

 

 

『服』が、人の形をして落ちていたのだから。

 

 

 

「どうしたの!?お父さんとお母さんいた!?」

 

 

 

また、息を呑むようにして零された遊良の声が、無音の家内では少々響きやすかったのか。

 

遊良の絶句を耳に入れてしまったルキが、弾けるようにしてリビングを飛び出し…

 

そのまま、駆け足にて階段を駆け上がってきてしまったではないか。

 

 

 

「ッ、来るな、ルキ!」

「なんで!?何で止めるの!?」

 

 

 

そして、遊良の静止も虚しく。

 

 

階段を駆け上がってきたルキが、遊良の手を払いのけて…

 

 

その光景を、見てしまった―

 

 

 

「あ…」

 

 

 

…絶句。

 

目を見開き、言葉を失い…

 

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

 

そう、両親だったであろうモノを、あまりにハッキリとその眼に映してしまったルキは言葉を失い…

 

その場に、崩れ落ちそうになってしまって―

 

 

 

「見るな!」

「っ…だ、だって…い、今のって…」

「まだそうとは決まってない!とにかく一度出よう、家の中には…誰もいないみたいだから…」

 

 

 

茫然自失…

 

あまりにショックな光景を目の当たりにしてしまい、足に力の入らなくなってしまったルキを支えながら。

 

どうにか高天ヶ原家の外へと出た、遊良と鷹矢とルキ達一行。

 

そのまま、遊良がルキを玄関先に座らすと…ルキは力なく玄関前に蹲って、静かに泣き始めてしまい…

 

…当たり前だ。

 

何せ血の繋がった両親が消滅してしまった痕跡を、ルキは確かにその目で見てしまったのだから。

 

赤の他人が消えてしまっているのとは訳が違う。ここまでの道のりで見た決闘市の状況を考えれば、ある程度は予想できていたとは言え…

 

あれほどハッキリと親が消えてしまったであろう光景を見てしまっては、相当の衝撃と絶望感がルキを瞬間的に襲ったに違いないのだから。

 

ルキにとっては誰よりも消えて欲しくなかったはずの、血を分けた自分の両親が消えてしまっていたというそのショック。それは果たして、どれほどの絶望となりて今のルキを襲っているというのだろう。

 

 

…ルキのすすり泣く声が、門の外へと離れた遊良達にも聞こえてくる。

 

 

そんな、両親を失ってしまった今のルキの気持ちは…少し離れた遊良も鷹矢も、きっと理解出来ているはず。

 

何しろ、遊良は幼少の頃に両親を失くしているのだし…鷹矢だって、言葉と態度に出していないだけで両親の状況はきっと今のルキと同じなのだから。

 

だからこそ、すすり泣くルキの姿を一応視界に捉えつつも…遊良も鷹矢も、今は少し離れてそっとしてやるのが正解なのだという事を無言にて把握しつつ。

 

ルキには聞こえないように気遣いながら、隣に立つ鷹矢へと…

 

遊良は、ゆっくりと言葉をかけ始めた。

 

 

 

「…鷹矢、次はお前の実家に行ってみるか?」

「無駄だ。街の現状と、ルキの家を見て確信を得た。親父もお袋もツボ…他の親戚や使用人たちも、確実に全員消されている。」

「…そっか。」

「仕方なかろう。理事長の見立てでは、決闘市の全ての人間が消されているのだ。俺の親父たちやルキの家族だけが…そう都合よく、生き残っているはずがない。」

「…それ、ルキにはそんなハッキリ言うなよ?」

「うむ。」

「あと…そんな不安そうな顔、ルキには見せるなよな。お前が不安そうな顔してると、こっちまで不安になっちまう。」

「む…そんな情けない顔などしておらんぞ。」

「してるって。」

「しておらん。」

「してるだろ。」

「しておらん!」

「…そうかよ。なら、そういう事にしておいてやる。」

「…うむ。」

 

 

 

まるで動揺しているようには到底見えない、鷹矢の鉄仮面ぶりを見てもなお鷹矢へとそう言葉をかける遊良。

 

…今の鷹矢の顔が、遊良にはどのようにして見えているのだろう。

 

それはきっと、幼少の頃からこれまでの間…ずっと鷹矢と共に過ごしてきた遊良だからこそ見える、幼馴染特有の特別な見え方に由来するモノに違いなく。

 

…他人には無表情にしか見えない鷹矢へと、そう言葉をかけられるのは全世界探しても遊良一人だけのはず。

 

すると、遊良と鷹矢の会話が途切れた時点で。

 

彼らの後ろから、涙で眼を腫らしたルキが…

 

門の外に居た二人へと、鼻水混じりに声をかけてきて…

 

 

 

「…ごめん、少し落ち着いた。」

「ルキ…大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないけど…でも、泣いてたってお父さんとお母さんは帰ってこないから………ねぇ、これやった犯人捕まえたら…みんな、元に戻るのかな?」

「…わからない。けど可能性はある。だって俺が無事だったんだ…消されなかったのか、一回消されたけど元に戻ったのかはわからないけど…もし俺も一回消されてるんだったら、おじさんたちも元に戻せる可能性はあると思う。」

「一回消されてるとか…怖いこと言わないでよ、もう。」

「…だから可能性の話だって。でも可能性が無いよりマシだろ。」

「…うん。」

 

 

 

明らかにショックを隠しきれていないルキの目は、今にも再び涙が溢れ出しそうなほど。

 

しかし、それでもなお涙を塞き止めて遊良へと声をかけたルキの言葉は少々震えつつも…涙と共に哀しみを少しは外へと吐き出したからか、多少は現状の見通しを考えられるまで気持ちを立ち直らせている様子。

 

…普通の女学生であれば、アレほどショッキングな光景を見てこんな短時間で気持ちを切り替えられるはずがないと言うのに。

 

それでも、すすり泣きの後に自らの足で立ち上がりそう言える彼女は、確かに自らの意思によって立ち上がった。それは彼女の持つモノによって与えられた、人とは異なる運命によって培われた心の強さでもあるのだろうが…

 

けれども、人知を超えた現象に見舞われ、両親が文字通り『消滅』してしまったであろう光景を目の当たりにした今この場においては。果たして、こんな少女に立ち上がれるだけの強さが備わっていることが良いのか悪いのかなど…

 

決して、誰にも分かりはしないのだが。

 

ともかく…

 

 

 

「よし、では理事長に連絡を入れろ。こっちの用事は済んだとな。」

「あぁ。」

 

 

 

もうこれ以上の散策は無駄だと判断したのか、ソレとも自分の家族の惨状を見たくはないからなのか。

 

こちら側の決闘市の散策は終了したのだとして、鷹矢の言葉の後に遊良が砺波へと電話をかけようとした…

 

 

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

 

 

―『…おい、ここがわかるか?』

 

 

 

 

 

 

 

(ッ!?)

 

 

 

 

 

 

不意に…

 

襲ってきたのは、これまで以上に強い頭痛。

 

それ以上に『視えた』のは、これまで以上にハッキリとした『意思』と『光景』。

 

そう、ノイズがかかっていた今までとは違い、これまで以上にはっきりと聞こえたその声は…

 

まるで、その光景が視えた遊良自身へと語りかけているかの様な代物となりて。遊良の脳裏へと、再び突如襲い掛かってきて…

 

 

 

(こ、これは…)

 

 

 

…否―

 

 

 

語りかけている『かの様な』ではない―

 

ソレが視えた遊良は、無意識にてハッキリと理解してしまった。

 

そう、今の声は…

 

間違いなく、今ここにいる自分自身へと語りかけてきていると―

 

 

 

そして―

 

 

 

―『オレには分かる…オマエ、見てるんだろ?だったら『ここ』に来い…オレと戦え…今度こそ、オマエを消し去ってやる。』

 

 

 

これまで以上の頭痛に思わず頭を抱え、地面に膝を突いてしまった中で。

 

ノイズの無い、あまりにクリアな映像の中に…遊良の目に映ったのは、あまりに『見慣れた』どこかの光景と…

 

そして視えたのは、『そこ』に大胆不敵にも腰掛けた、今までノイズに隠れてたからこそ見えなかった…

 

 

 

しかし、遊良にとっては決して忘れられぬであろう人物の姿が―

 

 

 

 

 

 

そう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは―

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…ぁ…」

「遊良!どうしたのだ!」

「だ、大丈夫!?ねぇ遊良!」

「あ…い、今のは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

視えた…

 

聞こえた―

 

その場所も、声も、姿も―

 

今までノイズに隠れていたモノが、全て視えた遊良の脳裏には。あまりにハッキリとしたモノが、どこまでも確信めいたモノとして視えてしまったのだ。

 

そのまま、ふらつく足で立ち上がり…よろける足取りで少しずつ歩き始めてしまった遊良を、後ろから鷹矢とルキが動揺した声で制止するも…

 

 

 

「行かなくちゃ…俺を、呼んでた…」

「えっ!?急にどうしたの!?ねぇ遊良!なに言ってるの!?」

「一体どこに行くと言うのだ!」

 

 

 

鷹矢とルキの心配する声も、今の遊良には聞こえない。

 

…ふらふらと、よろよろと。

 

歩き出した遊良に浮かび上がってしまったのは、確信めいた嫌な予感と…

 

そして、呼び出されたままにソコへ向かわねばならないと言う、何故か裏切れない強制的な責任感。

 

 

 

「アイツの背に…アレが見えた…」

 

 

 

そう、遊良に視えたのは他でもない―

 

 

 

 

 

「アイツは今、父さんと母さんのところに居る…行かなくちゃ…あそこに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…日が落ちる。

 

夕日が完全に山に隠れ、黄昏も次第に夜を迎えようとしているそんな時間帯。

 

無人と成り果ててしまった決闘市内の散策を終えた鷹矢とルキは、『何か』を感じ取ったとみられる遊良に導かれるままに…

 

 

 

とある場所まで、『戻って』きていた。

 

 

 

 

 

…そう、『戻って』、きたのだ。

 

 

 

 

 

何せ、つい先ほどまで遊良達は確かに『ここ』に居たのだ。

 

それは決闘市の散策を始めた場所、決闘市から逃げ出すために向かっていた場所…

 

鷹矢とルキも、なぜ遊良が再び『ここ』に戻ってきたのかの理由を知らない。遊良が突然謎の頭痛に襲われたかと思うと、説明もなしに『ここ』に戻ると言い始めたのだから…

 

遊良に何が視えたのかを知らぬ鷹矢とルキからすれば、遊良の行動には疑問を感じないわけがなかったことだろう。

 

 

 

そう…

 

 

 

何のつもりか、遊良と鷹矢とルキの3人は…

 

 

 

砺波に指定されている集合場所へと戻らずに、今再びこの場所へと…

 

 

 

 

『霊園』へと、戻ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

風が吹く…

 

 

 

 

 

 

 

侘しさを伴う『霊園』に―

 

それはまるで、無人となってしまった決闘市を憂いているかのような寂しい風。

 

夜を迎える寸前の、孤独という名の渇きを帯びたどこまでも哀愁を感じさせる風が静かに霊園を吹き抜けており…

 

…そんな霊園の中を、遊良を先頭にして歩き進める3人の子ども達。

 

なぜ遊良がふらつく足取りで霊園に戻ってきたのかを鷹矢とルキは知らない。けれども、止めても止まらぬ遊良の足取りを鷹矢たちは止めることが出来ず…

 

それ故、遊良の目的も思考も分からぬ鷹矢とルキは下手に口を開く事が出来ず。ただただ、遊良が向かおうとしている先へと異様な雰囲気のまま着いていくだけしか出来ないのか。

 

…そう、何故か遊良の行動を、鷹矢たちは止める事ができず。

 

それは静止しても止まらず、何かを感じた故に『そこ』に向かわねばらないとして歩き出した遊良の歩みが無意味、無目的なモノではない事を鷹矢とルキにも分かったからこその先導の任せなのか。

 

そう、先の頭痛で、遊良には一体何が視えたのか、そして一体何を感じたのかが鷹矢とルキには分からぬとも、

 

それでも、幼馴染達は何かを感じたのであろう遊良の行動を止めることはせず…

 

何時またあの赤い重光が襲ってくるかも分からぬ切迫感と、未だ姿形も見えぬ敵の影と…そして血の繋がった家族が消されてしまったショックとが纏わり付いている今の鷹矢とルキからすれば、何もわからぬまま決闘市を練り歩くのはただただ負担なだけだと言うのに。

 

現状を打破する事を何も思い浮かべられない鷹矢とルキは、ただ遊良の後を着いていくだけで…

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

不意に立ち止まった遊良達の前に―

 

 

 

 

 

 

 

 

「…来たか。待ってたぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

…と、静かにそんな言葉が放たれた。

 

 

 

「よく逃げなかったな。まぁ逃げたところで逃がすわけないけど。」

 

 

 

それは、ノイズ…

 

フードの奥から漏らされる、ノイズに隠された歪な声。

 

…また、そう告げてきたのは他でもない。

 

辛うじて男だと言うことだけが分かるノイズ混じりの声で、不躾にも遊良の両親の墓に腰掛けた…

 

故人に対しあまりに無礼な振る舞いを恥じぬままの、あまりに異質な雰囲気を纏った一人の人間の姿。

 

 

 

そう、そこに居たのは紛れもなく…

 

 

 

全身を覆いつくすほどに長い、黒いフードを纏った…

 

 

 

異様な雰囲気の、謎の男であった―

 

 

 

「…まさかアイツが、遊良を襲ったというフードの男か?」

「きっとそうだよ…だって…凄く、怖い…」

 

 

 

 

 

 

 

また、現れたフードの男を見て。

 

鷹矢とルキが直感的にそう感じたのも無理はなく、それほどまでに彼らの前に現れたフードの男の纏う雰囲気はこれまで彼らが出会ったことの無い程に異質なモノとなって放たれているのだ。

 

…感じるのは、、恐ろしいほどの怒気と圧倒的な怨嗟と…そしてそこに居るのに、まるで『居ない』のではないかと錯覚するほどの気配の無さ。

 

それは遊良から聞いた証言と一致する、あまりに不気味な気配と装用。それ故、異様に遊良を敵視しているかのようなフードの男を一目見ただけで…

 

鷹矢とルキには、目の前のフードの男が紛れもなく遊良の『敵』であるのだと頭で考えるよりも先に理解出来てしまっていて。

 

 

 

そして―

 

 

 

「なんだよ、今度は鷹矢とルキも一緒なのか。…相変わらず、一人じゃ何も出来ない屑だな、オマエ。」

「…お前こそ、何が目的でこんな事を…」

「ハハッ、『目的』?そんなこと………オマエが一番よく知ってるだろ!」

 

 

 

―!

 

 

 

奮える…

 

ノイズの怒号により大気が奮える―

 

…それはまるで怒り狂った獣のソレ。

 

放たれた紛れもない怒り、フードの男が放つ怨嗟の篭った怒号によって…霊園の大気が震えて痺れ、草木が怯えざわめき立ち始めてしまったのだ。

 

…尋常じゃない、常人じゃない。

 

およそ人間を超えたモノでも、ここまでの『怒号』を放てる者などそうは居ないに違いない。

 

それほどまでに、このフードの男が放った怒号は明らかに常人を超えたモノとなりて遊良と鷹矢とルキの3人へと容赦なくぶつけられ―

 

 

 

 

「…ッ!?」

「今度こそオマエを消し去ってやる!骨も残さず、肉片ひとつ残さず!オマエを消す為だけに、オレは今まで耐えてきたんだ!」

「ぐっ、き、貴様は何者だ!何故そんなに遊良を敵視している!」

「あなたは誰なの!?何でみんなを消しちゃったの!?」

 

 

 

それ故、そんな『怒号』をいきなりぶつけられたが故に。鷹矢とルキも、返す刀で反射的に声を上げずにはいられなかったのだろう。

 

 

…大気が震え上がる怒号の中で、反射的にそう言葉を返した鷹矢とルキ。それは熱湯を触ったときの脊髄反射にも似た、人間の持つ反射運動の一種が如き速度と反応。

 

 

しかし、普通であればこんなにも激しい『怒号』を受ければ身が竦み体が奮え…とてもじゃないが声を上げることなど出来はしないはずだと言うのに。

 

そう、常人であれば、こんな凄まじき怒りに中てられれば怖れから動けなくなってしまう事は必至。野生の獣にも似た、空腹の龍にも似た…こんな怒号を中てられれば、例え誰であろうと思考が吹き飛ばされてしまうはずだと言うのにも関わらず…

 

それは鷹矢とルキが常人離れしているだとか、この怒号を跳ね返す精神を持っているとかでは断じてない。

 

咄嗟に、反射的に―

 

ただ、鷹矢とルキは『初めから』この怒号にが『効かない』かの様な反応を示しただけ―

 

 

 

 

「…『誰』…か。オマエらにそんな事を聞かれるなんて…凄く、不思議な気分だな。」

 

 

 

だからこそ、凄まじき怒号のその直後に。

 

鷹矢とルキにそう聞かれたフードの男は、一体何を考えたのだろうか。

 

 

…怒りから、消沈へ。怒号から、静寂へ。

 

 

相反する感情を即座に入れ替えたフードの男は、まるで先の怒号が嘘のように…

 

フードの奥から覗くその見えない視線にて、遊良ではなく鷹矢とルキをあまりに真っ直ぐに見つめながら―

 

 

 

静かに…

 

 

 

腰を降ろしていた遊良の父母の墓から降りたかと思うと。

 

 

 

 

 

 

今…

 

 

 

 

 

ゆっくりと、そのフードを取り―

 

 

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?」

「う、うそ!?」

「ぬぅ!?」

 

 

 

 

 

現れたその顔を見て、遊良達3人は思わず驚愕を呈してしまった―

 

 

…それもそのはず。

 

 

何せ、遊良達の目の前に現れたその顔は…そこには絶対に『居ないはず』の人間の顔だったのだから。

 

 

 

 

 

そう…

 

 

 

 

 

そこに居たのはありえない人物…

 

 

 

そこには、絶対に『居ない』はずの人物―

 

 

 

 

 

そのまま、フードを取った男は…

 

 

 

 

「オレだよ…」

 

 

 

 

 

静かに…

 

 

 

 

 

 

 

あまりに静かに、『その名』を零し―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレはアマギ ユーラだ。そこにいる…ソイツ自身だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、そこに居たのは紛れもなく―

 

 

 

 

鷹矢とルキの間に立っている者と、全く同じ者…

 

顔も、声も、何もかも同じ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一人の天城 遊良が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、居た―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回、遊戯王Wings

ep106『もう一人の天城 遊良』




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