遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep106「もう一人の天城 遊良」

「そこにいる…ソイツ自身だよ。」

 

 

 

ゆっくりと…

 

そう告げてきたフードの男の言葉を、遊良と鷹矢とルキは理解出来なかった。

 

 

そう、誰が信じられるものか―

 

 

余りに信じられない目の前の光景と、ソレを聞いた遊良達3人が言葉を失い固まってしまったのも当然と言える程の衝撃が、今遊良達の目の前に現れたのだから。

 

…それは絶対にありえない光景。それは絶対に信じられない発言。

 

たった今フードの男から零されたのは、彼らにとってはあまりに『ありえない』名前で…

 

 

 

 

…フードの男は今、確かに自分の事をこう名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

―『アマギ ユーラだ』…と。

 

 

 

 

 

 

「な………ふ、ふざけるな!そ、そんなはずないだろ!天城 遊良は俺だ!お前は一体誰なんだよ!」

 

 

 

だからこそ、一瞬の後に。

 

自分と同じ名前を名乗ったフードの男に対し、弾けるようにしてそう口を開いた遊良の声がどこか震えていたのは仕方が無いことなのか。

 

…動揺を隠せていない、驚愕と不信に駆られた奮える声。

 

そう、以前自分を襲ってきたフードの男が、どうして自分と同じ顔と名前をしているのか。その理由も真相も何もかもわからぬ遊良からすれば、突然現れた因縁の相手が自分と同じ顔と名前をしていたことに対し、その驚きを隠せるわけもなく…

 

…衝撃で心が揺さぶられる。驚愕に動揺を隠せない。

 

そんな、激しく動揺している遊良へと向かって。

 

フードを取った、自らを『アマギ ユーラ』と名乗った男は…

 

更に続けて、その口を開く。

 

 

 

「言った通りだ。オレはアマギ ユーラ…Ex適正の無い…正真正銘、このクソみたいな両親が産んだな!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

淡々と、そう言い捨てて―

 

苛立ちを隠さぬままに、遊良の両親の墓を思い切り『蹴飛ばした』フードを取った方のアマギ ユーラ。

 

…それは明らかに苛立ちを隠せていない、感情に任せた突発的な行動。

 

遊良と同じ顔をした者が、遊良の両親の墓を苛立ちのままに蹴り飛ばすというその光景は遊良をよく知る者であればきっと違和感を生じさせる光景であるはずだと言うのに。

 

 

 

「お前…父さんと母さんの墓に…」

「うるさい!何が墓だ…どうせここにコイツ等は居ないんだ!オレを置いて、どこかに逃げたクソみたいな両親の!誰も居ない、空っぽの墓を蹴り飛ばして何が悪い!」

「ッ、なんで墓が空っぽだって知って…」

「まだ理解出来ないのかクズ野郎!理解力も無い、判断力も無い、Ex適正も無いオマエの存在が世界にとってどれだけのゴミなのか!オマエは何もわかってない!」

「…」

 

 

 

けれども、アマギ ユーラの怒りは更にそのボルテージを上げていく。

 

…遊良と同じ顔をしていても、全く別の感情にて動くその様は明らかに異質。両親の墓を蹴り飛ばすのも、決闘市の人々を消し去るという残酷なまでの所業をしでかしたのも、普段の遊良は絶対にしようとも思いつこうともしないモノに違いないはず。

 

 

…それでは、一体このアマギ ユーラは『何』なのか。

 

 

…いくらフードの男が自分と同じ顔をしていても、それが『自分』ではないと言う事など遊良本人は勿論わかっている。

 

だって、『天城 遊良』は今ここにいるのだから。

 

だとすれば考えられるのは変装か、整形か…自分自身が紛れも無く『自分』であるという意思がある遊良には、目の前の自分そっくりな男がどうしても『そう』としか考えられず…

 

 

 

「なぁ、鷹矢、ルキ…オマエらならわかるだろ?オレが、誰なのか…」

「ぬぅ…全く理解できん…だが、例え遊良と同じ顔をした貴様が遊良を名乗ろうとも!この世に遊良はただ一人!俺の隣にいる遊良が、紛れもなく本物の遊良だ!」

「そ、そうだよ!遊良が2人いるわけないじゃん!」

「…あ?あぁ、そうか、そうだよな…『今』のオマエらからしたら、確かにソイツが本物と言えば本物か…けど…」

 

 

 

そして、自らをアマギ ユーラと名乗った男は。続けて、驚きのあまり言葉を無くしていた鷹矢とルキへと向かって…声のトーンを変えて、語りかけ始める。

 

しかし、それは遊良へと向けられていた苛立ちと怒りの視線とは、根底からして違う異なる声質。

 

そう、遊良へと向かって向けられていたモノから一転。鷹矢とルキへと向けられるユーラのソレは、まるで遊良がいつも鷹矢とルキへと向けるモノそっくりとなりて二人の耳へと届けられるのか。

 

そのまま、遊良と同じ名前を名乗った同じ顔をしたアマギ ユーラは…更に静かに、言葉を零し始めるのみ。

 

 

 

 

「オレは確かにアマギ ユーラだが…正確に言えば、『ひとつ前』のアマギ ユーラでもある。」

「え?ひ、ひとつ…前?」

「どういうことだ!一体何を言っている!」

「そのままさ。それに、鷹矢、ルキ…オマエらならわかるはずだ。オレが…いや、オレも、『本物』だって…」

「む…」

「…え?」

 

 

 

…一転。

 

そう、遊良へと向けていた苛立ちの視線から即座に。

 

『ひとつ前』という不可解な言葉と共に、鷹矢とルキへと向けられたアマギ ユーラのその視線は遊良へと向けられていた『敵意』を孕んだモノとは全くもって別物の…

 

慈愛すら感じられる、驚くほどに柔らかな代物となりて鷹矢とルキへと向けられる。

 

果たして…そんな視線を向けられた鷹矢とルキは何を感じるのだろうか。

 

声の質も、視線の感触も…そう、アマギ ユーラから、その声と視線を向けられれば。鷹矢とルキもまた、きっと感じるモノは同じはずで…

 

…そのまま、鷹矢とルキは。

 

自分の感覚すら信じられない動揺の中で、目の前の光景に対しそれでも言葉を零すしかなく。

 

 

 

「ね、ねぇ鷹矢…」

「ぬぅ…遊良だ…俺が言うのだから間違いない…アレは…遊良だ…」

 

 

 

…それは他の誰も理解出来ないモノであっても、鷹矢とルキにはどうしてもわかってしまう微細なる感覚。

 

何せ、二人はこれまでの人生の大半を遊良と共に生きてきたのだ―

 

遊良が2人居るこの光景が信じられなくとも、アマギ ユーラから感じるモノが遊良そのモノであるという『確信』が…どうしても、鷹矢とルキの中には浮かび上がってきてしまうのだろう。

 

 

特に、鷹矢…

 

 

生まれた日は一日違いなれど、たった数時間の差により生まれた瞬間から共に過ごしてきた遊良と鷹矢。そんな、お互いがお互いの事を理屈ではなく感覚で理解し合っている自負が鷹矢にはあるからこそ…どうしても、鷹矢は理解してしまう。

 

 

纏う雰囲気、小さな身じろぎ…

 

 

声のトーンから感じられる微かな感情の上下や、呼吸の深さや瞬きの仕方に加え、風に揺れる髪の毛一本の揺らぎ方ひとつとっても…

 

 

 

フードを取り正体を現した『アマギ ユーラ』は…

 

 

 

間違いなく、『遊良』である…と、言う事を。

 

 

 

アマギ ユーラの、その『目』を見てしまった鷹矢がそう感じてしまったのだからそれは仕方の無いこと。

 

それは自分達の横に、正真正銘本物の遊良が居るとしても。それでも、『そう』としか思えない程に瓜二つな目の前のアマギ ユーラを見て…無意識の内に鷹矢とルキそう感じてしまったのならば…特に、生まれた時から共にいる鷹矢さえもがそう感じてしまうのならば…

 

この光景がいくらありえないモノなのだとしても、それは例え鷹矢とルキの隣に遊良が居るとしても。

 

それでも、目の目のアマギ ユーラを『本物の遊良』と感じてしまうのであって―

 

 

 

「鷹矢!お前何言ってんだ!」

「む…し、しかし………い、いや、そんなはずは無い、遊良はここにいる遊良のみ、し、しかし、奴も…」

「何だよそれ!ルキ、お前もアイツが本物だって思うのか?」

「だ、だって…だってぇ…」

「流石だな、オマエらなら分かってくれると思ってた…流石は、オレの幼馴染だな。」

「ッ、お前ぇ!鷹矢とルキに何をした!それに『ひとつ前』ってどう言う意味だよ!お前は何者なんだ!一体何処から来たんだよ!」

「だから言っただろ、『ひとつ前』だ。それ以上でも以下でもない…いや、以上は無いか、だって『ここ』が『今』だってアイツも言ってたしな…」

「だから意味がわからないんだよ!パラレルワールドとか、別の世界線とか、そういうのから来たって言うのか!?」

「プッ…ハハッ!パラレルワールド?別の世界線?…あぁ、そりゃそうだよな。『世界』の事を何も知らないオマエからしたら、そんな単純で幼稚なことしか思いつかないよな。」

「だったらお前は本当に何なんだよ!俺と同じ顔したお前は、どうしてここに現れたんだ!一体何の目的があって『こんな事』をしたって言うんだ!」

 

 

 

悲痛とも思える遊良の叫びが、夕暮れの霊園に木霊する。

 

…何せ、誰よりも自分の味方であるはずの鷹矢とルキさえもが目の前の自分そっくりな男を紛れも無く『天城 遊良』だと認めてしまっているのだ。

 

認めたくない…認められるはずが無い。

 

『天城 遊良』はただ一人、ここに居る自分だけ。それは自分自身を紛れも無く『天城 遊良』だと分かっている遊良本人であれば尚更強く理解出来ていることだと言うのに…

 

それでも、誰よりも信じて居る鷹矢とルキがここまで惑わされていること自体が遊良にとっては屈辱でもあり、そして耐え難い苦痛でもあるのだろう。

 

目の前の偽物は、鷹矢とルキに何をしたのか。意味のわからない事ばかり述べて勝手な怒りを露わにし続ける目の前のアマギ ユーラに対し、つられる様にして遊良もまた沸きあがる怒りを感じているのか。

 

 

…だからこそ、叫ぶ。

 

 

自分と同じ見た目をした、まったくの別人に―

 

 

 

遊良が、更にその声を荒げようとした…

 

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

 

「なんで街の人達を消し…」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「…ッ!?」

「うるさい…うるさいうるさいうるさい!前にも言ったはずだ、オマエに知る権利なんてないって!オレの癖に喚くな…オマエが、オマエみたいな奴がオレだと思うと虫唾が走るんだよ!オマエの存在がオレをずっとイライラさせる…今のオマエの存在が、どうしようもなく不愉快なんだよ!どうして今のオマエだけが良い目に遭ってる!どうしてオマエだけがぁ!」

「な、何言って…」

「うるせぇぇぇぇえ!オマエに知る権利なんてない…何も知らず、何も知ることのないまま!オレの前から消え失せろぉぉぉぉぉお!」

 

 

 

揺れる…振るえ、上がる―

 

突発的に放たれた、大気を震わすその叫びは紛れもなくキレた遊良の叫びそのモノ。

 

ビリビリと空気が弾け、音の振動が直に肌にぶつかるその叫び…それはおよそ常人には轟かせることなど出来はしないであろう、あまりに人間離れした咆哮となりて遊良達へと向けられて。

 

 

そして、切り替わる―

 

 

鷹矢とルキに向けられていた、慈愛を感じる柔らかなモノから切り替わり。遊良へと向けられるユーラの視線には、確かな苛立ちと怒りを内包していく。

 

 

そんな静寂と爆発が即座に切り替わる、怒り狂うアマギ ユーラが一体『何』を言っているのかが…

 

 

 

遊良には、分からない―

 

 

 

「もう時間がないんだ…だから構えろ!デュエルだ、今度こそお前を消し去ってやる!」

「ッ…」

 

 

 

怒りのままに、苛立ちのままに。

 

もう我慢ならないのだと言わんばかりに、デュエルディスクを構えるアマギ ユーラの雰囲気はまさに一触即発の爆発物そのモノ。

 

…しかも、遊良にとっては一度負けている相手。

 

その時はいくら『堕天使』を使えなくてまともなデュエルが出来はしなかったとは言え、あの時に向けられた敵意と殺意は紛れも無い本物であり、負けた代償の『消滅』の苦しみは尋常では無い程の苦痛を与えてきた。

 

しかも、このデュエルは前回と同じで確実に『実体化』したデュエルとなる。

 

…そんな、苦い思い出しかない相手との再戦は一体どれだけのプレッシャーを遊良へと与えていると言うのだろう。

 

更に言えば、目の前のアマギ ユーラは昨年度の『異変』での紫魔 憐造と同じような力を持っているかもしれない…

 

そんな、規格外かもしれない相手にもしまた負ければ…

 

 

 

 

 

待っているのは、確実なる死―

 

 

 

 

 

「やめろ遊良!本当に奴と戦うと言うのか!?」

「そ、そうだよ、逃げよ!?理事長先生に来てもらった方が…」

 

 

 

だからこそ、目の前のアマギ ユーラが遊良本人だと言うことを理解してもなお。

 

それでも、遊良を止めにかかる鷹矢とルキの感情は紛れもなく今ここで戦いを起こす事がどれだけ危険なのかを、遊良と同じように理解しているからこそなのだろう。

 

…鷹矢もルキもわかっている。いくら目の前のアマギ ユーラもまた『本物の遊良』であるのだとしても、それでも自分達にとっての『あまぎ ゆうら』はこれまで共に過ごしてきたこの遊良であるのだと。

 

だからこそ、止める…得体の知れないユーラと、ソレに一度負けている遊良が戦うことがどれだけ危険なことなのかを。

 

いや、ソレは単純に、遊良同士の悲しい戦いなど見たくはないからなのかもしれないのだが…

 

まぁ、どちらにせよ決闘市中の人間を消してしまった力を持つアマギ ユーラと、ここで突発的に戦うことはあまりにも危険だと言うことを、鷹矢とルキも理解しているからこそ。

 

今ここで突発的に戦うよりも、ここはひとまず逃げに走り…何とかしてくれそうな【白鯨】に救援を求めることが、何よりも得策だと言うことを前面に押し出しているに違いなく。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「…で、でも…俺が…俺が戦らなきゃ駄目なんだ。アイツは俺を狙ってこんなことをした…ここで逃げたら…いや、逃げられない…アイツは…俺を、逃がさないから…」

 

 

 

アマギ ユーラに応じるように、遊良もまたデュエルディスクを静かに構え始めるのみ。

 

鷹矢とルキの静止も虚しく…否、鷹矢とルキの思いなど、遊良には痛いほどよく分かっている。

 

けれども、遊良がここで逃げられるわけがないのだ。今ここで、あの自分そっくりな男と戦う運命に自分はあるのだと言うことを、遊良もまた直感的に理解しているが故に。

 

それは理屈ではない本能的な直感、理性などでは止められない血に刻まれた根源的な衝動。ここで、この自分そっくりな男と戦うのは、逃れようの無い自分の運命―

 

何故かは分からないものの、ソレをはっきりと深く理解してしまった遊良は鷹矢とルキの静止を振り切ってでもデュエルディスクを構えるしかなく。得体の知れない謎の存在かつ、決闘市の全ての人間を消し去ってしまった謎の力を持っている相手に、逃げてはいけないということをその魂が感じてしまっていて。

 

 

だからこそ、静かに…そして、ゆっくりと。

 

 

鷹矢とルキの静止を振り切って、鷹矢とルキから一歩踏み出し。遊良もまた、アマギ ユーラへと向かってその歩を進め始める。

 

また、そんな遊良の姿を見て…この戦いは止められないと言う事を、鷹矢とルキも察知してしまったのか。

 

それは遊良をよく知る鷹矢とルキだからこそ嫌でも察知してしまう悲しい理解。自分達の遊良も、現れたユーラも、どちらも『あまぎ ゆうら』だと感じているからこそ…

 

『あまぎ ゆうら』という存在が本気で戦おうとしているその硬い決意と2つの意思には、いくら鷹矢とルキであっても口を挟む事など出来はしないのか。

 

 

 

そして―

 

 

 

静かな風が、霊園の中を吹きぬける。

 

そんな、陽も落ちかけ、暗くなっている霊園…どこか不気味さを感じるような、しかしそれ以上の寂しさを感じさせる夕暮れの中の霊園で…

 

 

 

…そう、両親の名が刻まれた、しかし空っぽであるその墓の前で。

 

 

 

 

何の因果か、何の運命か。同じ名前、同じ声。同じ姿に雰囲気、そして所作までもがそっくり同じな遊良とユーラが…

 

 

互いに戦う運命にあると言う事を理解しながら、とうとうデュエルディスクを構えつつ…

 

 

お互いに、睨み合いながら―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、始まってしまう―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先攻は、アマギ ユーラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレのターン!魔法カード、【儀式の下準備】発動!」

 

 

 

―!

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

ユーラの発動した1枚の魔法カードが、悲しき霊園に鈍い光を上げて輝き始めた。

 

それは現代では見ることすらないであろうモノであり、また一度ソレを見ている遊良とは違って…生まれて初めて実物を見た鷹矢とルキが、思わず無意識の内に声を漏らしてしまって。

 

 

 

「ほ、ホントに儀式!?遊良の言ってた通り…」

「奴め、本当に『儀式召喚』を…」

 

 

 

しかし、鷹矢とルキが思わずそう漏らしてしまったのも仕方がないのか。

 

…それもそのはず。たった今ユーラが発動したそのカードと、それに刻まれた『儀式』という文字は…

 

現代を生きる鷹矢とルキにとってはあまりにも聞きなれぬ、しかしあまりにも見知った…そして、あまりにも意表を突かれたカードであったからに他ならない。

 

 

 

―儀式召喚

 

 

 

この世界には、先史の時代から戦法の一つとして確立されていた『儀式召喚』と言う召喚法が存在している。

 

それは『融合魔法』とは異なる、専用の『儀式魔法』を用いて『特別』なモンスターを異界から降臨させる、Ex適正を必要としない召喚法として伝わっており…

 

 

…しかしそれを専門に扱う者など、既に現代においては存在すらしていない『Exデッキ主義時代』と呼ばれるこの時代。

 

 

そう、様々な戦術が繰り広げられているプロの世界においても、アドバンス召喚よりも太古の召喚法である儀式召喚を扱う選手など決闘界には存在しないほどに…

 

時代の流れに置いて行かれたという意味では、遊良が進んで扱うアドバンス召喚と似たようなモノではあるものの、この『誰もが知る召喚法』である儀式召喚は、今のこの『Exデッキ主義』である現代においては誰もが使え、しかしアドバンス召喚よりも人々の選択肢には浮かび上がらないほどの、それほど太古の召喚法となっているのだ。

 

 

…それは悲しき時代の成れの果て。そして哀しき時代の無情な流れ。

 

 

確かに『儀式』に関連したカードはこの時代にだって存在していて、そして新たな儀式に関連したカードだって僅かながらも製造されてはいる。

 

けれども、この時代においては儀式召喚はプロの世界においても扱う者など一人も居らず。

 

『Exデッキ至上主義』時代と呼ばれる現代においては、世界の人々の関心は『儀式』には向かず…Exデッキから飛び出してくる様々なExモンスターにのみ注目を集めている世界の流れの中では、『儀式』に関連したカードの流通はとても低く、またその存在は実物その物すら見ることがほぼ皆無というのが現状とも言えるのだ。

 

それもまた、この世界が歩んできた歴史の流れと言えるのであり…

 

 

 

「オレが加えるのは【竜姫神サフィラ】と【祝祷の聖歌】!続けて手札の【魔神儀-ペンシルベル】の効果発動!手札の【竜姫神サフィラ】を見せ、手札からペンシルベルを、デッキから【魔神儀-タリスマンドラ】を特殊召喚!さらにタリスマンドラの効果で、デッキから儀式モンスター、【デーモンの降臨】を手札に加える!まだだ!【魔神儀―ブックストーン】の効果も発動!手札の【祝祷の聖歌】を見せ、手札からブックストーンを、デッキから【魔神儀―キャンドール】を特殊召喚!キャンドールの効果でデッキから【奈落との契約】を手札に!」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

【魔神儀―ペンシルベル】レベル3

ATK/ 0 DEF/ 0

 

【魔神儀―タリスマンドラ】レベル6

ATK/ 0 DEF/ 0

 

【魔神儀―ブックストーン】レベル5

ATK/ 0 DEF/ 0

 

【魔神儀―キャンドール】レベル4

ATK/ 0 DEF/ 0

 

 

 

しかし、それでもなおその『儀式』に関連した効果を凄まじい勢いで発動しつつ。一瞬で、4体ものモンスターを展開してしまったアマギ ユーラ。

 

彼の場に現れたのは、魔具に命を吹き込む創造主の手によって生み出された…歪な姿と成り果てた、神に捧げられるための小さき使い魔であり…

 

…羽とペン先、草の根と守護石、本と栞石、蝋燭と燭火。

 

2対で1体のソレが、4体―

 

そう、手札と、場と。目まぐるしく動くその激しいカード捌きは、扱うカードは違えども確かに彼のデュエルの勢いもまた『あまぎ ゆうら』のデュエルなのだと言う事を、鷹矢とルキの目にありありと見せ付けているのか。

 

また、一度フードの男と戦っている遊良からしても…

 

以前のデュエルよりも凄まじい勢いで展開されるユーラのデュエルに対して、驚きこそ無いものの苦い記憶から冷や汗を垂らしつつ身構えていて。

 

 

 

「一瞬で4体のモンスター…」

「『魔神儀』が場に居る限り、オレはExデッキからモンスターを出せない…ま、オレ達には関係のない制約だよな。Ex適正の無いオレには。」

「…」

 

 

 

そして、そのまま激しい展開を終えたユーラは。

 

これで準備が整ったのだと言わんばかりに、一瞬だけ手を止めると…

 

その手から、1枚の魔法カードを天へと掲げ始める―

 

 

 

 

「行くぞ…儀式魔法、【奈落との契約】を発動!【魔神儀-タリスマンドラ】を生贄に!」

 

 

 

灯る…

 

―現れし祭壇に、怪しい灯火が。

 

意味は同じなのに、『リリース』ではなく『生贄』に捧げるという太古の宣言を叫んだアマギ ユーラによって。歪なるマンドラゴラがその魂を奈落へと捧げられてしまった時、青き灯火と共に妖しき魔法陣が一層その光を強め始めたではないか。

 

そう…天に召されるモンスターの魂を糧として、ここに新たなるモンスターを呼び出すこれこそがまさに歴史に忘れ去られた『儀式』の手順。

 

…命の生贄、捧げし犠牲。

 

今、代償を払いしアマギ ユーラの宣言によって。暗き奈落の底より、次元を超えて今ここに降り立つは…

 

 

 

 

 

「レベル6、【デーモンの降臨】を儀式召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【デーモンの降臨】レベル6

ATK/2500 DEF/1200

 

 

 

降臨せしは迅雷を纏いし、狂骨に塗れた歪な悪魔。

 

文字通り奈落の底の向こうから出現したその姿は、見る者全てを震え上がらせるほどの存在感をまざまざと見せ付けており…

 

古の時代から存在する、『召喚』されし悪魔と同等の力を示しつつ。『顕現』でもない、『招来』でもない、『超越』でもない力を誇り今ここに『降臨』するのみ。

 

 

 

「【デーモンの降臨】は場に居る限り【デーモンの召喚】として扱う!まだだ、続けて【祝祷の聖歌】を発動!ペンシルベルとブックストーンを生贄に、レベル6、【竜姫神サフィラ】を儀式召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【竜姫神サフィラ】レベル6

ATK/2500 DEF/2400

 

 

 

しかし、1度だけでは終わらない。

 

続けてユーラの場に降臨したのは、遊良との最初のデュエルにも呼び出された光り輝く竜族の姫であり…

 

一説には融合召喚よりもカードの消費が激しいされる儀式モンスターを、初ターンだと言うのに2体も場に揃えつつ。光と闇という相反するオーラを纏う2体の大型モンスター達が、ユーラの意思に呼応してどこまでも遊良へと立ち塞がって。

 

 

 

「儀式モンスターが2体…」

「何を驚くことがある。このくらい出来なきゃ、デュエルする価値も資格もないだろ…オレ達には。」

「…」

「オレはカードを1枚伏せ、エンドフェイズに【竜姫神サフィラ】の効果発動。2枚ドローして1枚捨てる。」

 

 

 

そうして…

 

奈落の闇と対比している、審美を体現しているかのような竜の姫の効果を惜しみなく発揮し。エンドフェイズに入ったユーラの場には、2体もの儀式モンスターが立ち塞がりつつ、その威圧を未だ丸腰の遊良へと向けている。

 

…迅雷を纏いし歪なる悪魔が、まるで門番のように立ち塞がる。

 

…光り輝く竜の姫が、前回のデュエルと同じく怪しく微笑み遊良へと向かい合う。

 

 

果たして…

 

 

この、見慣れぬはずのユーラのデュエルを見て。そう、遊良と同じ顔、同じ声、同じ雰囲気、同じ佇まいをしたユーラの激しいデュエルを見て…

 

複雑な感情に苛まれているであろう鷹矢とルキは、その心の奥底の最も深い部分で一体何を思い浮かべるのだろう。

 

これまで遊良と共に過ごしてきた幼馴染達。この世の誰よりも遊良のデュエルを間近で見続けてきたはずの鷹矢とルキの目に、『儀式』を使うユーラのデュエルはどのように映るというのか…

 

 

 

「なんだろ…全然違うのに…遊良が儀式使ってるのなんて全然見慣れないのに…」

「うむ…似合わぬはずなのに、あまりに似合っているように見える…まるで、奴のデュエルをずっと見てきたかのように…しっくりきてしまっている…」

 

 

 

…自分達のよく知る遊良のデュエルとは、全く別の形を取るユーラのデュエル。

 

しかし、儀式という時代に忘れられた古き召喚法を駆使して戦ってはいても…

 

ユーラの見せる、まるで『足掻き』にも似た激しいデュエルのその姿は、これまで遊良が見せてきたモノと全くの同種、同類、同然、同様のようにして、鷹矢とルキの目には映っている様子。

 

そう、Exデッキを使う事ができず、大型モンスターをメインデッキからしか呼び出すことが出来ない遊良にとって、強大なモンスターを並べると言うのはこの世界に生きるどの人間よりも難しいことであるのだ。

 

そうだと言うのに、数多のカード効果を組み合わせつつ、無理矢理な効果の連続によって必要なカードを手札に加えるという…

 

自分のデッキを手足のように操って回転させる、効率化を目指してきた歴史の流れに反するようなそのデュエルは、姿形は違えども確かに『あまぎ ゆうら』のデュエルとして彼らの眼には見えてしまうのだろう。

 

…当然のように大型モンスターをメインデッキから呼び出す遊良のデュエルは、今のこの『Exデッキ至上主義』の時代においては異質も異質。

 

そう、高速化した現代のデュエルにおいては、Exデッキのモンスターを切り札にすることが主流。つまり切り札級の大型モンスターをデッキに複数入れる事は推奨されていないのが、現代におけるデュエルの基本・基礎として広く教育されているのだが…

 

しかし、Ex適正を持たないことにより、まるで時代に逆らっているかのような遊良のデュエルはそのスタイルゆえに忌避されつつも活路を見出してきた。

 

…そして、それは後攻の遊良のみならず。

 

先攻を取ったユーラに関してもまさにそう。儀式召喚という自らの生きる道に必死になって縋りつき、まるで足掻くようにしてデュエルを続けるその姿はデュエルの形が違えどもまさに『あまぎ ゆうら』のデュエルそのモノとも言え…

 

そんなEx適正が無いというハンデを負っている中で、自らの生きる道を必死になって探し身につけたと言う事があまりに伝わってくるユーラの戦い方。それはまさしく、例え儀式召喚という召喚法を駆使しているとしても、鷹矢とルキにはユーラのデュエルがどうしても遊良のデュエルと『同じようなモノ』として感じられてしまっているに違いなく―

 

 

 

「ねぇ!ほ、本当に貴方が遊良なら、なんで街の人達を消しちゃったの!?どうして…私と鷹矢のお父さんとお母さんまで…」

 

 

 

だからこそ、突発的にそう叫んだルキの言葉を、この場の誰が止められようか―

 

ルキが思わずそう叫んでしまったのも無理はない。突如現れた、決闘市の人々を消してしまった、儀式召喚を操るユーラを目の当たりにしてもなお…

 

それでも、そのユーラもまた遊良なのだと感覚で理解している彼女がそう叫んだのは最早必然といえば必然で。

 

…ルキには、目の前の遊良と同じ顔をした人間に対しどうしても我慢ならなかったのだろう。

 

『ひとつ前』というそれ自体は理解できなくとも、ユーラもまた遊良なのだとしたら。いくら街の人々によくない感情を持っていたとしても、一体どうして決闘市の人々を消し去るという真似をしてしまったのか…

 

どうして、遊良の味方のはずの自分と鷹矢の両親まで消してしまったのか…と。

 

 

しかし…

 

 

 

「その理由なら、オレの前にいるソイツに聞けばいい。」

「ッ!な、何言って…」

「良い子ぶるなよ。オマエだって所詮はオレと同じ『あまぎ ゆうら』だ。オマエだって同じだろ?オマエにとって、鷹矢とルキ以外の人間は正直どうでもいい…鷹矢の両親も、ルキの両親だって…別に、消すことに抵抗なんてない程度の人間だって。」

「え…ゆ、遊良…う、嘘だよね?だ、だってお父さんとお母さん、いつも遊良のこと気にして…」

「ッ…」

 

 

 

淡々と、吐き捨てるようにして投げられたユーラの言葉に…

 

遊良は、即答できなかった。

 

 

 

「…ど、どうでもいいわけないだろ…ルキの両親はいつも俺を気にかけてくれていた。それを、どうでもいいなんて…」

「嘘だな。いつも一言余計なルキの父親にはイラッとしていた。恩着せがましいルキの母親だってウザいって感じていた。鷹矢の両親だって同じだ。正鷹おじさんも、アキラおばさんもほとんど顔合わせない癖に偉そうに保護者面して小言を言う…それがウザくなかったとは言わせない。オマエはオレだ、少しもそう思わなかったなんて言わせない。」

「…そんなわけ…」

 

 

 

そして搾り出すようにして言葉を返すその姿は、まるでユーラの言葉を少なからず肯定してしまっているようにさえ見えてしまう光景となっていることに…遊良自身は、気がついておらず。

 

淡々と、しかし確かな怒りを感じさせながら本質を口にしているかのようなユーラに対し、少なからず反論を躊躇ってしまったのは偏に遊良も心の奥底ではユーラの様な感情を抱いていないと断言できないからなのか。

 

まぁ、それでもユーラの言葉を己の言葉で否定している辺り、少なくとも遊良が抱く鷹矢とルキの両親への印象はユーラのような歪曲した感情などでは断じてない様子なのだが…

 

…そう、いくらユーラの言葉の中に、多少なりとも遊良が理解出来るモノが混ざっているとは言え。

 

それでも、自分を気にかけてくれる大人に対してあんな『残酷な真似』など、自分だったらしたいとも思わないという気持ちが確かに遊良の心の中にはあるからなのか、ユーラの言葉に自分の意思で否定の意を見せる遊良。

 

…そんなわけがない。

 

そう、そんな事、自分だったらするわけがない―

 

ユーラの言葉を聞いた後でも、遊良は強くそう思える自分の心を確かに感じている様子。

 

大体、自分だったら『たったそれだけ』の理由で鷹矢とルキの両親まで消すわけがない…ルキの両親が消えてしまっている場面を目の当たりにしてショックを受けたのも本当だし、鷹矢の両親も同じ目に遭っていることを確信した時にだって同じようなショックを受けたのだから…『自分』だったら、こんな真似など絶対にしない、と。

 

 

 

「そんなわけ…そんなわけないだろ!大体、お前の目的は俺一人なんだろ!?だったら俺だけを狙えばよかったじゃないか!」

 

 

 

だからこそ、叫ぶ。

 

『ひとつ前』の意味も、ユーラがなぜ自分を狙うのかも分からないままではあるものの…

 

アマギ ユーラが、一体どうしてこんな事をしてしまったのかを…遊良は、理解できないから。

 

 

 

「あぁ。それで失敗したから計画を変更しただけだ。まぁ、どうせお前を消した後にこの世界も全部消すつもりだったんだから…順序を逆にしたに過ぎない。」

「ッ…世界を全部消すって…」

「言った通りだ。こんなイラつく世界を残すわけがない…何も知らないで、お前がぬくぬく暮らしてたこんな世界なんて!存在してていいわけがないだろ!」

 

 

 

―!

 

 

 

けれども、遊良の言葉に更に苛立ちを感じた様に。

 

再びその怒りを露わにしつつ、その怒号で大気を揺らし木々を騒がせ続けるアマギ ユーラ。

 

…最初の戦いの時も、今も。どこまでも遊良を否定し続けるユーラの怒りの、その根源は一体何なのだろう。

 

決闘市の人々を全て消しただけでは飽き足らず、この世界をも消してしまうというユーラの発言は危険極まりないあまりに狂った暴走せし怒り。

 

それは昨年度の『異変』の時の紫魔 憐造と同じ…その結論に至るまで狂ってしまった男の叫びは、どこまでも悲痛なモノとなりて人の消えた決闘市へと駆け抜けていくだけ。

 

そしてその怒りの今の矛先は、紛れもなく遊良ただ一人へと向けられているのは最早言うまでもない。自分と同じ顔をしたこの男は、一体どんな生き方をしてきてこの結論に至ったのか…それが、遊良にはわからない。

 

 

 

そうして…

 

 

 

「既に第一段階は終わってる。後はお前をブッ飛ばせばオレの願いは叶う…もう、オレには時間が無いんだ…ターンエンド。」

 

 

 

ユーラ LP:4000

手札:5→2枚

場:【竜姫神サフィラ】

【デーモンの降臨】(デーモンの召喚)

【魔神儀-キャンドール】

伏せ:1枚

 

 

 

今、世界を消滅させるという宣言の元。

 

現代では使い手が居ないとさえされている儀式召喚と、現代では見ることすら皆無とされている儀式モンスターを2体も場に揃えつつ。その絶対的な対象として、必ず遊良を消すと怒り来るっているユーラは怒りのままにそのターンを終えるのみ。

 

…そんな自らのターンを終えたアマギ ユーラの今の姿は、逸る苛立ちをどうにか押さえ込んで遊良のターンを見据えているかのよう。

 

 

また、ターンが移り変わったと言うのにも関わらず…

 

 

対峙している遊良もまた、正体を現したユーラを前に一体何を考えているのか。その手を止め、沈黙を呈しながら…

 

以前のデュエルでも思い出しているのか、静かにユーラとその儀式モンスターを睨んでおり…

 

 

 

(儀式モンスター以外には破壊されない【デーモンの降臨】と、儀式モンスターを破壊から守る【祝祷の聖歌】の布陣…アイツ、明らかにバルバロスの効果を意識しているみたいだ…)

 

 

 

いや…

 

これだけの布陣を前にしてもなお、前回アレだけの惨敗を決していてもなお―

 

遊良の思考は以前の敗北に引っ張られてはおらず。ユーラの怒気に気圧されずに、俯瞰的に今の状況を飲み込もうとしているかのよう。

 

そう、目の前に現れた因縁のフードの男と、その正体であった自分と全く同じ容姿をしたアマギ ユーラに驚きこそすれ…それでも静かに2体の儀式モンスター達を見据えつつ、目の前のアマギ ユーラが怒りつつも自分のことを確かに調べてきていることを遊良は僅かにだが見抜いていている様子を見せるではないか。

 

…ユーラの先攻の動きと完成した場から、ソレが嫌と言うほど伝わってくる。

 

それは扱うデッキは違えども、考え方やデュエルの姿勢などが同じ人間であるが故の深い理解なのか。デッキの動かし方から狙いを読み取り、展開方法から過程を読み解き…

 

相手がどれだけの準備をしているのかが、『同じ事』をしてきた遊良には痛いほどよくわかってしまって。

 

だからこそ―

 

 

 

(…時期的にみて【決島】を観てたのか…じゃあ、多分今のデッキも相当調べてきているはず…でもこっちも…だったら…)

 

 

 

そう、言い換えればソレは遊良とて『同じ事』。

 

元来、遊良は決まっている相手とのデュエルを行う前に、やりすぎとも思えるくらいの下調べをする。昨年度を例に出せば、【決闘祭】のイースト校代表戦の時に『泉 蒼人』や『紫魔 ヒイラギ』を始めとした、代表候補のデュエルを事前に入念に調べていたこともそう…

 

…【決闘祭】の時だって、無論【決島】の時だって。

 

出場選手が決まっている場においては、遊良は戦う可能性がある相手を丸裸にする勢いで調べようとする節がある。

 

…それはある種の切迫障害にも似た、過剰なまでの強迫観念が成せる行き過ぎた対策。

 

Ex適正が無いことが原因で、遊良はこれまで常に拭いきれないデュエルへの不安が付きまとってきたのだから、その過剰なまでの下調べこそがその不安の唯一の解消法でもあるのだろうが…

 

まぁ、それでも【決島】の初戦で戦ったデュエリアの『アナライザー』の分析レベルと比べると、遊良の分析は幾分甘い点は多い。それでも、そもそもからして遊良という人間は根本的な性格からして、過剰なまでに入念な準備を怠らないモノなのだ。

 

つまりそれは、遊良も心のどこかでフードの男に負けたままでは終われないという思いを抱いていたが故なのか。

 

…だからきっと、アマギ ユーラもきっとそう。

 

だからこそ【決島】でのデュエルを警戒しているかのような先攻のユーラの強固な布陣は、十中八九バルバロスでの全体破壊に重きを置いた『凌ぎ』の布陣とも遊良には読み取れる。

 

 

そして、そこまで読み取れているのならば…

 

 

これより、遊良がやるべき事はひとつ。そう、目の前の奴と同じく、自分もこれまで調べてきた『儀式召喚』に関する知識を総動員し…

 

いつもの通り、今の自分のデッキを逆算し…

 

導き出される勝利への道筋を、ただひたすらに突っ走るだけ―

 

 

 

「なんだよ、やっぱりまともなデュエル出来ないのかお前。どうせ、また無様な醜体を晒すだけだろ。」

「ッ…俺のターン、ドロー!」

 

 

 

そして、自分と全く同じ顔をしたユーラの煽りに感化されるようにして。

 

弾けるようにしてカードをドローした遊良が、1枚のカードを天へと掲げる。

 

 

 

「魔法カード、【トレード・イン】発動!レベル8の【デモニック・モーター・Ω】を捨てて2枚ドロー!続けて【テラ・フォーミング】を発動し、デッキから【チキンレース】を手札に加えてすぐに発動!そのまま【チキンレース】の効果も発動だ!LPを1000払って1枚ドロー!よし、【闇の誘惑】を発動!2枚ドローして、闇属性の【イービル・ソーン】を除外!」

 

 

 

自らのターンを向かえてすぐに、巻き起こすはドローの嵐。

 

以前にフードの男と戦った時とはまるで違う、あまりに激しいそのカード捌きは…まさしく【決島】と【裏決島】を経て、このデッキが完全に自らのデッキとなった証でもあるのだろう。

 

―何しろ、これは乗り越える為の戦い。

 

いくら自分と同じ名前を名乗った目の前の男が、決闘市の全ての人間を消し去ってしまう謎の力を持っているとしても。

 

それでも、今こうして再戦を果たした相手にまた負けないように、遊良はただただ立ち向かうしかないのだ。

 

…凄まじき勢いで回るデッキ、恐るべき勢いで入れ替わっていく手札。

 

そのまま、遊良は止まる気配を微塵も見せず…

 

更に激しく、動き続ける。

 

 

 

「【成金ゴブリン】発動!LPを1000与えて1枚ドロー!【手札抹殺】も発動!5枚捨てて5枚ドロー!」

「2枚捨てて2枚ドロー。…醜いデュエルだな。なりふり構わず、馬鹿のひとつ覚えでドローしまくるなんて。」

「うるさい!2枚目の【チキンレース】を発動!その効果により、LPを1000払って1枚ドロー!よし、【死者蘇生】発動だ!墓地から【サクリボー】を特殊召喚し…その特殊召喚成功時に速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動!デッキから【サクリボー】2体を特殊召喚ッ!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

遊良の場に集いしは、3体の小さき悪魔達。

 

その意匠はどこかフードの男が…アマギ ユーラが以前トドメを刺してきた、あの『異形の目の悪魔』の意匠にどこか近いモノを感じさせはするものの…

 

それでも『堕天使』を失ってからこれまで…それこそ、【決島】と【裏決島】においても。

 

このモンスターは遊良のデュエルの要として呼び出されてきた実績を持つ、遊良のデュエルには欠かせない存在となっている小さき悪魔達であって―

 

 

 

「オレはキャンドールを選択する!デッキから【魔神儀-キャンドール】2体を特殊召喚!そしてデッキから特殊召喚したキャンドール1体の効果で、オレはデッキから儀式魔法、【エンド・オブ・ザ・ワールド】を手札に加える!」

「それがどうした!俺は3体の【サクリボー】をリリース!」

 

 

 

そうして響くは先進の雄叫び。

 

寂しき霊園を振るわせる、遊良の叫びが木霊する。

 

それは以前のデュエルにて、フードの男に全く立ち向かうことが出来なかった自分の弱さを…心から払拭したがっている、ユーラへと向けられたはち切れんばかりの雄叫びに違いないだろう。

 

また、その雄叫びに呼応して…

 

3体の小さく悪魔達の、その身に纏うは渦ではなく。

 

 

 

「運命を切り裂く英雄よ!青き誓いをその身に刻み…天を喰らいし覇者となれ!」

「ッ、それは…」

 

 

 

今、寂しき霊園にて呼び出される…王者の威光を持つソレは、天を揺るがす雄叫びと共に黄昏の空より現れるのか。

 

…運命への慟哭。命運への恫喝。

 

かつて世界の頂点にて叫ばれた、冷酷無比なる王の圧力と…かつて世界の頂点にいた、『鬼才』と恐れられた男の切り札の1枚が…

 

そう、運命の英雄の名を持った、世界の頂点を見てきた力が…

 

 

 

 

 

今、羽ばたく―

 

 

 

 

 

「来い、レベル8!【D-HERO Bloo-D】!」

 

 

 

―!

 

 

 

現れしは鮮血の羽ばたき、降臨せしは飢えの滴り。

 

血霧と共に降臨し、剥き出しの牙を刃へと変え…混沌渦巻く天より出でしは、竜頭を纏いし運命の英雄。

 

纏いし竜の咆哮で、双翼を広げ地に降りることなく空に佇み。下界を見下ろすその瞳は、一体何を映しているのか。

 

 

 

【D-HERO Bloo-D】レベル8

ATK/1900 DEF/ 600

 

 

 

それは時代に忘れら去られた、対峙したことがないであろう儀式モンスターを前にしてもなお怯まぬ正真正銘の英雄の姿。

 

遥か昔、世界が鬼才の戦いに熱狂していた頃…

 

運命を貫く英雄と、運命を引き千切る英雄と共に。3体の【紫魔】の象徴として、世界中が見惚れていたという…

 

世界で最も有名な、『D』の英雄の最たるエース。

 

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

「チィッ、ソイツを出させるわけないだろ!罠発動、【奈落の落とし穴】!Bloo-Dを破壊し除外する!」

 

 

 

―!

 

 

 

あっけなく…

 

 

そう、あまりにあっけなく―

 

 

空に佇む運命の英雄を、突如現れた穴から飛び出した悪魔の手が掴んだかと思うと…そのまま、運命の英雄は何の抵抗も見せぬままに。

 

流れに身を任せるが如く、どこか悲痛な雰囲気を感じさせつつも悪魔の手に引きずり込まれてしまったではないか―

 

…1枚で戦況を変えられるほどの力を持った『切り札』の1体が、こんなにもあっけなく退場してしまうのもまたデュエルの流れといえばそうなのだが…

 

けれども、無抵抗にて奈落へと落ちていった運命の英雄の姿はまるで、2人の甥の戦いを見たくないかのようにして。

 

…そう、前【紫魔】の操った、世界の頂点を見た歴戦のカードが。

 

あまりに早く、あまりにあっけなく…

 

遊良の場から、退場していく―

 

 

 

「何が【紫魔】のカードだ…そんな大層な代物を、オマエ程度がデッキに入れてること自体が間違いなんだよ!身の程を知れ屑野郎!」

「いや、これでいいんだ!これでお前を守る伏せカードはなくなった!サクリボー3体の効果で3枚ドロー!」

「チッ、どこまでもウザい奴だ…【紫魔】のカードを囮に使うなんてな。けど高い代償だ、儀式モンスターを持たないオマエじゃ、もう【デーモンの降臨】は突破できない!」

「だったらソレを超えればいい!速攻魔法、【禁じられた聖杯】発動!【デーモンの降臨】の攻撃力を400アップさせ、その効果を無効にする!そして装備魔法、【継承の印】発動だ!墓地から【サクリボー】を特殊召喚し…特殊召喚成功時に速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動ぉ!」

「ッ、また同じカードか!だけど…」

 

 

 

それでも、切り札の1枚たる運命の英雄を失ったばかりだと言うのにも関わらず。

 

【D-HERO Bloo-D】という、歴戦のカードを『囮』に使ったと堂々と言い放つ遊良の手は、全くもって止まる気配を見せずにただただ激しく動き続ける。

 

その手を止めずに動き続ける遊良の手は、切り札を1体失ったとは思えない程に淀みも迷いも見せてはおらず…

 

まるでBloo-Dがここで退場することが規定事項だったかのようにして、どこまでも怯まず加速するのか。

 

 

…しかし、それはユーラもそう。

 

 

まるで『最初』からBloo-Dに照準を合わせていたかのようにして発動された罠がソレを証明している。それはユーラも遊良も、予め展開が『こうなる事』を分かっていたかのような振る舞いでもあり…

 

 

…この布陣に対し相手が取ってくる手はこのはず、だからソレを見越してアレを用意しておくのが最善手…

 

…と思っているだろうから、次はこう動くために先手を打つ…

 

 

遊良も、ユーラも。お互いに言葉はないのに、そう言っているかのような動きを見せるそんな中で。

 

 

 

 

「オレはキャンドールを選択する!」

「俺は墓地から2体のサクリボーを特殊召喚!永続魔法【冥界の宝札】を発動し、そのまま3体のサクリボーをリリース!」

 

 

 

止まらぬ…留まらぬ…全くもって減速せず。

 

ユーラの狙いを見据えてもなお、更に遊良のデュエルは激しさを増していく。

 

…それは以前の敗北が、よほど遊良には堪えているからこそ。

 

そう、最初から全力、始めから全速力。端からフルスロットルで繰り出され続ける遊良の怒涛は、前回の惨めさを払拭させるほどの激しさとなりてこの霊園に響き続け…

 

 

 

…叫ぶは戦気、轟くは剛毅。

 

 

 

悲しき空気が充満する、厳かな場である霊園の中にあっても。

 

 

 

そう、例え一度負けている相手を前にしてもなお慄かない誇り高き雄叫びを響かせ…

 

 

 

 

 

 

 

 

奮える大気、獣の咆哮とともに…

 

 

 

 

 

 

それは、現れる―

 

 

 

 

 

 

 

 

「【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

轟かせしは獣の雄叫び、敗北を経て立ち上がった不退の叫び。

 

それは以前の敗北の惨めさを、獣の王もまた微塵も忘れてはいないかのように…

 

主と同じ声、同じ姿、同じ雰囲気をした相手を前にしてもなお全く怯む事もなく。

 

苦痛を味わわされた儀式モンスター達に立ち向かい、どこまでも激しく咆哮を響かせる。

 

 

 

「バルバロスの効果発動!3体のリリースでアドバンス召喚した時…相手のカードを全て破壊する!いっけぇ!バルバロスゥ!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

全てを無に帰す破壊の衝動が、螺旋の槍より放たれて―

 

妥協召喚された以前の戦いの時とは、根本的に異なっている獣の王のその力。ソレはまさしく、神をも滅ぼす力を秘めた激しさとなりてどこまでも激しく霊園の大地を抉り飛ばすのか。

 

そのまま、バルバロスの放った破壊の衝動が…

 

ユーラの場の、2体の儀式モンスターと3体のキャンドールへと襲いかかり…

 

 

 

「ケダモノが調子に乗るなぁ!墓地の【祝祷の聖歌】の効果!【祝祷の聖歌】を除外することで、デーモンとサフィラの破壊を防ぐ!」

「だけどキャンドール3体は破壊される!そして、これでお前のモンスターを守る物も全てなくなった!【冥界の宝札】と【サクリボー】3体の効果で5枚ドロー!…よし、バトルだ!バルバロスで【竜姫神サフィラ】に攻撃!天柱の崩壊、ディナイアー・ブレイカー!」

 

 

 

―!

 

 

 

ユーラ LP:5000→4500

 

 

 

「くっ…」

 

 

 

そうして…

 

破壊の衝動が防がれることすらも、初めから想定の範囲内に収めていた遊良が。

 

このデュエルの最初のダメージをユーラへと与えつつ、しかしこれだけでは終わらないのだと言わんばかりに続けてデッキからカードをドローしつつ…

 

 

 

 

 

「まだだ!このバトルフェイズに速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動ぉッ!」

 

 

 

 

 

更に、叫び続ける―

 

 

 

 

 

「バルバロス1体をリリースし、レベル10、【The tyrant NEPTUNE】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

現れしは絶海の荒波、天より降り注ぐ海の煌き。

 

それは深海よりも深きモノ、海嘯よりも豪きモノ。荒ぶる激浪をその身に纏い、四海すら凌駕する海闊の化身。

 

空を映し、天を彩り、宙すら飲み込むまさに『海の星』。

 

それはたゆたう星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。

 

 

 

 

【The tyrant NEPTUNE】レベル10

ATK/ 0→3000 DEF/ 0→1200

 

 

 

遊良が続けて繰り出したソレは、釈迦堂 ランから預ったこの星のモノではないカード。

 

途方もない力と途轍もない圧力、下手をすれば相手の心を完膚なきまでに折ってしまう、間違えれば自分すら折られてしまう危ない代物ではあるものの…

 

しかし、【決島】における狂乱少女とのデュエルにて完全にソレを掌握したからこそ。

 

持てる力を全てつぎ込んででも、全力で立ち向かうだけ。

 

 

 

「チィッ!クズ野郎如きがプラネットを!ソレがどういう存在なのかも知らない癖にぃ!」

「うるさい!NEPTUNEはバルバロスと同名となり同じ攻守を得る!そのまま連撃だ!【The tyrant NEPTUNE】で、【デーモンの降臨】に攻撃ぃ!」

 

 

 

弾ける進撃、轟く叫び。

 

まともにデュエルできなかった前回の戦いとは違い、持てる力を全てつぎ込んで立ち向かう今の遊良のデュエルはまるで留まる事を知らずにその激しさを増すばかり。

 

そう、始めから全力…

 

1ターンの間に、自身の切り札たる『3体』のモンスターを総動員するという暴挙を意図も簡単に達成し。前回の時よりも、正面切って立ち向かえているその勢いを落とさぬように、どこまでも激しく轟く遊良のデュエルは常軌を逸した凄まじさを感じさせているではないか。

 

…そのまま、大海を引き裂く一筋の大鎌が。

 

海洋を切り裂く勢いを帯びて、天に向かって振り上げられる。

 

 

 

 

 

「断海の凶刃、オーラ…トリトォォォン!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

 

 

ユーラ LP:4500→4400

 

 

 

そして…

 

遊良の連撃が、確実にユーラを捕らえた―

 

それはダメージにしてたったの600…【成金ゴブリン】で与えた1000のLPを考えれば、まだ遊良とユーラのLP差は大きく広がっているとも言えるのだが…

 

けれども、前回手も足も出なかった遊良からしたら。自らの力で確実に与えた、間違いの無い先手の一撃の衝撃は決して軽くない威力となりて、確実にアマギ ユーラの体に届いたのだ。

 

また、合計600のダメージを受けたユーラが軽く後ろに吹き飛ばされたことが証明している…

 

そう、このデュエルは、実体化しているのだ…と。

 

そんなことは遊良にとってもユーラにとっても説明不要のこと。更に鷹矢とルキも驚いていない事から、この場にいる全員がこの異様な雰囲気の中で行われているデュエルに対し実体化への疑問は抱いていない様子。

 

…まぁ、ソレを当然の事として受け入れている辺り、彼らの態度はこの歳の子ども達らしからぬ修羅場への慣れでもあるのだろうが…

 

それでも、以前の敗北を経て決して軽くない数々の戦いを経験してきた遊良の刃が。今確かに、ユーラの喉元へと僅かに届いたことには変わりなく。

 

 

 

「ぐ…だけど想定通りだ!【デーモンの降臨】が破壊されたことにより、オレはデッキから【デーモンの召喚】を特殊召喚する!」

「…バトルフェイズを終了して【貪欲な壷】発動。バルバロス、サクリボー3体、デモニック・モーター・Ωをデッキに戻して2枚ドロー…俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 

 

遊良 LP:4000→2000

手札:6→2枚

場:【The tyrant NEPTUNE】(神獣王バルバロス)

魔法・罠:【冥界の宝札】、伏せ2枚

フィールド:【チキンレース】

 

 

 

 

 

戦える…

 

以前の時より、断然立ち向かえているこのデュエル。

 

ユーラの場にモンスターを残してしまったとは言え、2体の儀式モンスターと3体の壁モンスターの悉くを破壊した遊良のデュエルの激しさは…

 

前回の戦いの時の出来とは、確実かつ根本的に意味合いが違っていることだろう。

 

…破壊耐性を持った相手すらも、無理矢理に破壊するというその暴挙。破壊に備えた相手の策を、更に超えて攻め続けたその快挙。

 

以前の時の萎縮などまるで無い。LPを減らす事にも何の抵抗も見せないのは、相手の攻撃を捌ききってみせるという遊良の決意の表れでもあるはず。

 

そんな、動揺とは別に思考を巡らす遊良のデュエルに対する冷静な視線は…以前の敗北からこれまで調べ上げた儀式召喚に対する知識を総動員しつつ、自らの取るべき手を静かに模索しているようでもあり…

 

 

 

「必死になりやがって…そんなに前回とは違うってことを見せつけたいのか。」

「あぁ。おかげで随分と儀式召喚について調べたよ。そっちも…随分と俺のデュエルを調べてきたみたいだな。」

「チッ…考えることは同じってことか…オマエも…」

「あぁ、だから今回は絶対に遅れをとらない。」

「…」

 

 

 

そう、先の攻防の読み合い…思考の探り合いを経て、遊良もユーラもお互いにソレを察知した様子。

 

それはユーラがおそらく遊良の【決島】でのデュエルを警戒しているであろう事と同様に、遊良もまたフードの男との再戦を想定してこれまで合間の時間に『儀式』の事を調べ上げてきたと言うこと。

 

そして遊良が至った結論としては、いくら儀式召喚が歴史に忘れ去られた古い召喚法で、いくら儀式召喚を用いたデュエルの記録が少なすぎるとは言え…

 

それは言い換えれば、儀式への対抗策自体はそれほど過剰にならなくても良いと言うこと。つまりは、言い換えればそれは現代において現存している儀式関連のカードが少ないのだから、それだけ調べる情報自体は少なくて済むと言うことでもあるのだ。

 

そしてアマギ ユーラの繰り出した儀式モンスターは、どれもその少ない既存情報に記されている、現代でも『現存』している儀式モンスターばかり。それ故、遊良の考えが正しければおそらくユーラのデッキは想定の範囲内…現代で手に入るカードのみで構築されているはず。

 

それは前回の戦いを経て、そして前回の戦いの悔しさを忘れず反芻してきた遊良にとっては…

 

めぐり巡ってきた今回の戦いにおいて、遅れを取らないという自負を持っていると言う事でもあって―

 

 

 

「けど………所詮、オマエはどこまでいっても天城 遊良だ!オレのターン、ドロー!」

 

 

 

それ故、前回の戦いの時に遊良のデュエルを無様だと言い捨てたユーラの目には。

 

今の遊良のデュエルは、一体どのようにして映り込んでいると言うのだろう。

 

 

 

「必死になりやがって…オマエ程度が…オマエなんかが必死になったって、実力はたかが知れてるんだよ!【チキンレース】の効果発動!LPを1000払い1枚ドロー!そして手札の【魔神儀-ペンシルベル】のモンスター効果!手札の儀式モンスター、【終焉の覇王デミス】を見せて手札からペンシルベルを!デッキからタリスマンドラを特殊召喚!タリスマンドラの効果で【破滅の美神ルイン】を手札に!」

「…ッ、また儀式召喚か…」

「あぁ、また儀式召喚だ!【終焉の覇王デミス】は、手札で【終焉の王デミス】として扱う!儀式魔法、【エンド・オブ・ザ・ワールド】発動!手札のレベル10、【破滅の美神ルイン】を生贄に!レベル10、【終焉の覇王デミス】を儀式召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【終焉の覇王デミス】(終焉の王デミス)レベル10

ATK/3000 DEF/3000

 

 

 

「覇王デミス!儀式モンスターを素材として呼び出したそいつは確か…」

「そうだ!儀式モンスターのみを素材としているとき、デミスの効果に必要なLPを払う必要がなくなる!全体破壊がお前だけだと思うなぁ!デミスの効果発動、相手のカードを全て破壊し…1枚につき、200ポイントのダメージを与える!」

「させるかぁ!罠発動、【迷い風】!デミスの効果を無効にし、その攻撃力を半分にする!」

「それがどうした!【貪欲な壷】発動!サフィラ、キャンドール2体、タリスマンドラ、ブックストーンをデッキに戻し2枚ドロー!続けて【儀式の下準備】を発動!デッキから【祝祷の聖歌】と【竜姫神サフィラ】を手札に加え…【儀式の準備】も発動だ!デッキから【魔神儀-カリスライム】を、墓地から【高等儀式術】を手札に加える!」

「ッ、と、止まらない…」

「当たり前だ!止まってたまるか…オマエだけは、絶対にこの手で消してやるんだからな!儀式魔法、【高等儀式術】発動!デッキから【真紅眼の黒竜】を生贄にぃ!」

 

 

 

轟く叫びは止まることなく、どこまでも厳しく霊園の空を駆け巡る。

 

一説には融合召喚よりも手札消費の激しいとされている儀式召喚を、まるで手足のように操りモンスターを繰り出し続けるユーラのデュエルもまた…

 

遊良に負けず劣らずその激しさを増してくばかりであり、ありとあらゆる儀式モンスターを呼び出せる禁忌の儀式術をも用いてユーラは一体何を降臨させようというのだろうか。

 

同じ顔をした遊良へと向けられる、収まりきらぬ敵意を露わに。

 

今ここに、現れるは―

 

 

 

 

 

「レベル7!【魔神儀-カリスライム】を儀式召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【魔神儀-カリスライム】レベル7

ATK/2500 DEF/1800

 

 

 

降臨せしは異形の軟体、無機から生み出された悪魔の命。

 

しかし、これまでサポートに徹していた、効果モンスターたる他の【魔神儀】とは違い…

 

一際異なる存在感を放つ【魔神儀】の名を持ったこの儀式モンスターは、これまで遊良が調べた中にはなかった遊良も知らぬ儀式モンスターでもあり…

 

 

 

「【魔神儀】の儀式モンスター!?そんなモンスターが居たのか!」

「どうせオマエは知らないだろうな!これまで儀式を使ってこなかったオマエじゃ、この短期間で儀式を研究するって言っても限度がある!行くぞ、カリスライムの効果発動!場のペンシルベルを墓地に送り、NEPTUNEを破壊する!」

「くっ!?」

 

 

 

そして…

 

ユーラが宣言した次の瞬間―

 

軟体が大きく体積を増やし、なんと膨張によって巨大に膨らんだかと思うと。そのまま、命を吹き込まれた悪魔の軟体は恐るべき勢いを伴って、瞬く間に海の星を飲み込んでしまったではないか―

 

…常に相手を押し潰す圧力を放ち続けているプラネットを、真正面から向かいうち破壊してしまうその存在感はあまりに『本物』。

 

そう、遊良が調べ上げた中にも見つけられなかったその【魔神儀】の名を冠した儀式モンスターが放つソレは、まるで本当に忘れ去られた『古の時代』から蘇ったかのような迫力を醸し出しているのだ。

 

それはユーラの一日の長。おそらくずっと儀式召喚を使ってきたであろうユーラと…フードの男に敗北してから儀式を研究し始めた遊良との、埋めることの出来ないそれは『差』。

 

…しかし、それだけでは終わらない。

 

遊良の考えには無かったモンスターを繰り出し、意表を突いたユーラはそのまま…

 

海の星を破壊したその刹那に、次なる宣言を行うのみ―

 

 

 

「まだだ!【祝祷の聖歌】を発動!場のタリスマンドラを生贄に、【竜姫神サフィラ】を儀式召喚!…これで終わりだ!墓地の【ギャラクシー・サイクロン】を除外し、その効果で【チキンレース】を破壊する!」

「なっ!?」

「よし!カリスライムの効果を止められなかったってことは、その伏せカードは攻撃反応系か攻撃を止めるカード…そういえば、【決島】じゃ罠モンスターを使ってたっけ。」

「…」

「図星なんだろ!やっぱりこの程度なんだよオマエは!そのたった1枚の伏せカードで何が出来る!これで終わりだ、一斉攻撃!先ずは【デーモンの召喚】で、アイツにダイレクトアタック!」

 

 

 

先の攻防と同様、遊良の策を見抜きにかかり。

 

そのまま宣言されたユーラの叫びによって、先陣を切った狂骨の悪魔に続いて他3体もの儀式モンスターたちまでもが丸腰の遊良へと襲い掛かり始める。

 

…それは塵すら残さぬ波状攻撃、息をつかせぬ一斉攻撃。

 

たったの一撃で、遊良のLPを確実に0に出来る攻撃を連続で繰り出せようとも…

 

それだけでは終わらせない、出来るだけ多くのダメージと苦しみを与えるのだとして襲い掛かる、ユーラの意思を反映したかのような4体の大型モンスター達の攻撃は微塵も手加減などは感じさせず―

 

…そして、ユーラの読み通り。

 

遊良が伏せたのは、罠モンスターの【量子猫】。つまり先のターンに【サクリボー】を全てデッキに戻してしまった遊良は…

 

【量子猫】1枚だけでは、4体ものモンスターの連続攻撃を止めることはできず―

 

 

 

 

 

「終わりだぁ!死ねぇ、天城 遊良ぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

このままでは、やられ―

 

 

 

 

 

 

 

 

「っかよぉ!墓地から【光の御封霊剣】の効果発動ぉ!」

「なっ!?」

 

 

 

―!

 

 

 

否…

 

 

 

やられは、しない―

 

 

 

遊良の墓地より飛び出した、光の剣が盾となりてユーラの4体のモンスター達を弾き返したのだ―

 

…発動したのは、【手札抹殺】で墓地に送っていた1枚の永続罠。

 

それは場にあるときは、LPを代償に何度だって相手の攻撃を凌ぐ剣となる罠ではあるものの…しかしその真価は、墓地に存在しているときにこそ発揮される絶対無敵の盾となることにあるのだ。

 

…まさに、守護の霊剣。

 

どれだけのプレッシャーを持って相手モンスターが襲いかかろうとも、その全ての攻撃を遮断する光の剣の盾に守られ。

 

攻撃を仕掛けたユーラの4体の大型モンスター達が、衝撃によって後ろへと弾き飛ばされていく。

 

 

 

「このカードを除外することで!このターン、相手はダイレクトアタック出来ない!」

「ぐっ…意地汚く足掻きやがって…」

 

 

 

応酬…

 

余りに激しい、カードの応酬。

 

遊良もユーラも、相手の備えを覆すほどの激しいデュエルを展開しつつ…それでいてギリギリの所で相手の攻撃を凌ぐか耐え切る場を準備し形成している、同じ顔をしているこの2人のこのデュエルはまさに一触即発、微細な均衡。

 

…扱うデッキは違うはずで、繰り出すモンスターだって全く異なると言うのに。

 

それでも、遊良もユーラも得てして大型モンスターを連続して繰り出しながら怒涛の進撃を見せるそのスタイルは…本質的に似通っているとしか思えぬ、まさに同じ人間が戦っているかのような錯覚を起こしているに違いないことだろう。

 

 

そんな、寂しさを伴う黄昏時の霊園にて…

 

 

同じ顔をした遊良とユーラのデュエルを見ている鷹矢とルキは、一体その胸中に何を感じ何を思うのか。

 

 

 

「ぬぅ…」

「なんだろ…何か…怖いよ…どっちが勝っても、どっちが負けても…何か、凄くやだ…」

「…俺には今も遊良が2人居るように思えてならん…儀式を使うアイツなど見慣れぬはずだと言うのに…遊良も、もう一人の遊良も、どちらも俺以外の奴に負けるなどゆるせんと思ってしまうのは俺がおかしいのか?」

 

 

 

複雑な顔をしてこのデュエルを観ている、鷹矢とルキの顔はどこまでも優れず。

 

それはきっと、鷹矢とルキの心は今もなお儀式召喚を扱うユーラもまた確かに遊良なのだと思ってしまっているからなのだろう。

 

自分達の知らぬところで、ユーラがどうやって生きてきたのかを鷹矢とルキは知らない。けれども、ユーラからも確かに遊良を感じてしまうからこそ…これまでずっと辛い思いをしながらもデュエルを続けてきた遊良と同様に、ユーラのデュエルからも彼が背負ってきた悲嘆な重さをどうしても理解してしまっている様子の鷹矢とルキ。

 

遊良には絶対に負けてほしくない。けれどもユーラだって負けてしまうのは悲しい…

 

これまでずっと遊良と共に生きてきたが故に、そんな説明のつかない感情が鷹矢とルキを覆っている。その視線はどこまでも遊良を見るモノと同じと化して、ただこのデュエルの勝敗を考えたくないモノとして複雑な感情に駆られているようで…

 

 

 

「くそっ!エンドフェイズに、サフィラの効果で2枚ドローして1枚捨てる…オレはこれでターンエンドだ!」

 

 

 

ユーラ LP:4400→3400

手札:4→2枚

場:【魔神儀-カリスライム】

【デーモンの召喚】

【終焉の覇王デミス】

【竜姫神サフィラ】

伏せ:なし

 

 

 

また、渾身の連撃を初弾で弾き返されてしまったことにより。

 

そのターンを悔しげに終えたユーラは、どこまでもその苛立ちを隠さずに…苦々しげに遊良を睨んで、怒りと共に言葉を吐き捨てるのか。

 

…しかし、攻撃を止められてしまったとはいえ。

 

それでもユーラの場には3体もの儀式モンスターに加え、通常モンスターながら高い攻撃力を持った大型を1体揃えているのだ。そう、先のターンよりも備えられた布陣を見てしまえば、遊良が安心できるわけもなく。

 

 

 

(さっきよりも強固な布陣…あれだけ儀式召喚したのに…)

 

 

 

一説には融合召喚よりも手札消費が激しいとされている儀式召喚を、あんなにも繰り返しながら大型モンスターにて盤面を作り上げるそのデュエルはまさに遊良も見知った進撃のデュエルと同型、同系。

 

そう、最初の師であるエクシーズ王者【黒翼】により磨かれた、強大なExモンスターにメインデッキのみで立ち向かうための…ソレは遊良がずっと磨き続けてきた、Exモンスターではない大型モンスター達による、時代に逆らう反旗のデッキ捌きと同じ雰囲気を醸し出しているのだ。

 

先のターンと同様に、墓地には儀式モンスターを守る【祝祷の聖歌】を備えつつ…4体もの大型モンスターがプレッシャーを放っているその場は、本当に儀式召喚が歴史に忘れ去られた召喚法なのかと疑ってしまうくらいに凄まじいの一言。

 

…生半可な突撃では崩れもしない。中途半端な展開は撃墜される。

 

ならば…どうする…

 

Bloo-Dは除外された、NEPTUNEも破壊されてしまった。

 

バルバロスも今はデッキに眠ってしまっていて、相手の墓地に先のターンと同じく【祝祷の聖歌】があることを考えるとバルバロスの一撃だけでは相手の場は崩す事は出来ない。

 

遊良の思考の中に浮かび上がるのは、相手の盤面を前にしたそんな焦りであり…

 

…つまりは、追い込まれてしまっている。

 

先のターンの無抵抗の退場を見るに、このデュエルにおいてBloo-Dには期待は出来ないだろう。前【紫魔】のカードだけあって、そんな微細な感情を感じ取れるほどの自我を持っているカードの感情を先の攻防で確かに感じた遊良。

 

ならば力で押し切ろうとも、NEPTUNEだけでは手が足りない。バルバロスの全体破壊を決めようにも、【祝祷の聖歌】を踏み越えてもう一度繰り出さなければならない事を考えると相当に厳しいと言え…

 

 

 

「ハン、やっぱり息切れか!所詮オマエ程度じゃ、【紫魔】のカードもプラネットも過ぎたカードだったってことだ!身の丈に合わないデュエルを望むんじゃない!」

「くっ、俺のターン、ドロー!」

 

 

 

しかし…それでも遊良とて、今更逃げることなど出来るわけもなく。

 

どこまでも煽りを交え悪態を吐き続ける同じ顔の敵に立ち向かうため、デッキから勢いよくカードをドローした遊良は決してその足を止めぬよう、ただひたすらに動くしかないのか。

 

 

 

「【闇の誘惑】発動!2枚ドローして【闇の侯爵ベリアル】を除外!【成金ゴブリン】も発動!LPを1000与えて1枚ドロー!【量子猫】も発動だ!獣族・地属性となり俺の場に特殊召喚し…魔法カード、【マジック・プランター】を発動!【量子猫】を墓地に送り2枚ドロー!」

 

 

 

そして先のターンと同様に…いや、先のターンよりも更に激しく。

 

剛健なる場を揃えたユーラを見据えつつ、ドローを加速させその激しさを増していく遊良。

 

…Bloo-Dという切り札の1枚が使えないこの流れで、果たして遊良に勝算はあるのだろう。

 

獣の王も、運命の英雄も、そして海の星といった『3体』の切り札を全てぶつけたというのに…それでも、先のターンに与えたのは多少のダメージだけ。

 

それは先制した流れとしては悪くないとは言え、遊良のデッキの爆発力を考えると決して最良とも言えない。

 

だからこそ一瞬も気を抜けない、少しも油断できない…一度負けているが故に、それをデュエルが始まる前から理解しているからこそ。ドローを加速する遊良の手は、微塵も止まる気配をみせずに動き続けるのみ。

 

そうして…

 

 

 

「手札を1枚捨てて魔法カード、【ワン・フォー・ワン】発動!デッキから【サクリボー】を特殊召喚し…速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動ぉ!」

「チッ、性懲りもなく同じカード使いやがって…オレはデミスを選択する!」

「俺はデッキから更に2体の【サクリボー】を特殊召喚!そしてそのままサクリボー3体をリリース!レベル8、【神獣王バルバロス】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

轟く雄叫びを撒き散らし、再び現れる獣の王。

 

2度目の登場にも関わらず、全く持って衰えていないその昂ぶりは今にもユーラへと向かって襲い掛かっていきそうな迫力を醸し出しており…

 

 

 

「3体のリリースでアドバンス召喚したため、相手のカードを全て破壊する!」

 

 

 

そして、放つ…全てを壊す破壊の衝撃波を―

 

螺旋の槍より放たれし、獣の怒りがユーラの場のモンスター達へと襲いかかる。

 

 

 

「何度やっても同じだ!墓地の【祝祷の聖歌】の効果!【祝祷の聖歌】を除外し儀式モンスターの破壊を防ぐ!」

 

 

 

しかし、通らない―

 

通常モンスターである【デーモンの召喚】は破壊出来ても、儀式モンスターまで届かない。

 

遊良のデッキの主軸の攻撃が、遊良が頼る逆転への一撃が…ユーラ相手では、何度やっても通る気が遊良にはしてこない。

 

…それは例えるならば怨念のよう。

 

まるで意図的にバルバロスの全体破壊をシャットアウトしにかかっているかのような、そんなユーラの雰囲気がどうしても遊良にそんな感情を抱かせてしまい…

 

 

 

「くっ…どうしても通らない…」

「当たり前だ!通してたまるか…オマエには少しの希望も与えない!オマエは、希望を持っちゃいけない人間なんだよ!いい加減身の程を知れ!」

「…だ、だったらお前はどうなんだ!お前は自分の事を俺だと言った!じゃあお前が言っている事は全部、お前自身も『そう』だってことじゃ…」

「うるせぇぇぇぇぇえ!何も知らない奴が知ったような事言うんじゃねぇっ!」

「…ッ!?」

「何も知らない癖に…こんな温い世界で生きられたオマエにオレの何が分かる!………オマエはこれで【地獄の暴走召喚】を3枚使いきり、前のターンで切り札を全て使いきった。【貪欲な壷】で戻したって、また無理矢理ドローしてこなきゃいけないなんて無駄が多すぎる。だからオレにはわかる…オマエのデュエルは、もう終わりなんだって。」

「くっ…」

 

 

 

…時間が経つに連れ、ユーラの纏う苛立ちも益々迫力を増していくばかり。

 

先のターンに飛ばしすぎたのもあるだろうが、それでもここまで遊良にバルバロスが『通用しない』と思わせるユーラの雰囲気はどこまでも異質。

 

…それは怨念にも似た、遊良には絶対に勝機を与えないというその覚悟が成せる所業でもあるのだろう。

 

そんなアマギ ユーラという人間が歩んできた、絶望を見たという人生が成せる執念にも似たその所業は、およそユーラに何があったのかを知らぬ遊良からすればあまりに異質に違いなく。

 

…なぜそこまで怒り狂っているのか。なぜそこまで遊良を目の敵にするのか。なぜそんなにも遊良を消そうとしたがるのか。

 

理解できない、理解したくもないユーラの激しい感情に晒されている遊良からすれば、あまりに理不尽に怒り狂い続けるユーラの圧力は受け止めきれないはずで…

 

 

 

しかし…

 

 

 

それでも―

 

 

 

 

 

「まだだぁ!バルバロスの召喚成功時に、俺は【冥界の宝札】と【サクリボー】の効果で5枚ドローするっ!そして【アドバンスドロー】発動!バルバロスを墓地に送って2枚ドロー!2枚目の【トレード・イン】も発動だ!レベル8の【クラッキング・ドラゴン】を捨てて2枚ドロー!…よし!俺は墓地のバルバロスとクラッキング・ドラゴンを除外ぃ!」

「ッ!?」

 

 

 

それでも決してその手を止めず。

 

ユーラの迫力に気圧されぬように、更に宣言を続ける遊良もまたその声を大気に震わせどこまでも天高く叫ぶのか。

 

ドローした中でも、最後に引いた一枚を天へと掲げながら高らかにそう宣言し…その遊良の宣言によって、墓地にて眠る獣の王と機電の黒竜がその身をこの世から消し始め―

 

 

―否

 

 

この世から消え始めたのではない。

 

獣の王が吼える時、機鉄の竜はその身を散開させたかと思うと、2体のモンスターの姿が重なり始める。

 

…それは融合召喚ではない。シンクロ召喚でもない。エクシーズ召喚でもない。

 

それは単なる特殊召喚のエフェクト。しかし更なる力を求めた遊良が手に入れた、獣の王の新たなる力の呼び声でもあって―

 

 

 

「来い、レベル8!【獣神機王バルバロスUr】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【獣神機王バルバロスUr】レベル8

ATK/3800 DEF/1200

 

 

 

現れしは機電の鎧をその身に纏いし、神をも打ち抜く獣の王。

 

『海の星』と同様に、実力の『壁』を超えた『先』の地平へと至るための結論として、遊良が自ら導き出した純粋なりし『力』のカード。

 

しかし、攻撃力が不安定な『海の星』とは存在からして異なるとも言える…そう、召喚権を使わずに現れる、遊良の欲する進撃のための『力』そのモノ。

 

 

 

「馬鹿が!ダメージを与えられないそんなケダモノ1体で何が出来る!所詮ソレがお前の限界なん…」

「いや、まだだ!まだ終わらせない!最後の【闇の誘惑】発動ぉ!2枚ドローして【イービル・ソーン】を除外!そして3枚目の【成金ゴブリン】も発動だ!更にLPを1000与えて1枚ドロー!」

「ッ、まだ引くのか!?もうオマエじゃ何も出来ないだろ!?」

 

 

 

けれども、まだ、終わらない。

 

まだまだこんなモノでは終わらないのだとして、更にその手を緩めずに激しくカードをドローし続ける遊良の姿もまたその迫力を増していくばかり。

 

…遊良のデッキを前もって調べてきているからこそ、【貪欲な壷】や【大欲な壷】を使っておらず切り札を使いきっている遊良のこのドローが、一体どれだけ無駄な行為なのかをユーラは理解していると言うのに。

 

Bloo-Dは初めから戦う気がなく、『海の星』も倒した。『獣の王』の破壊もたった今耐えたばかりだし、今のアイツの残る切り札はダメージを与えられない獣機の王だけのはず。だからどれだけドローしたって逆転への切り札なんてくるはずがない―

 

ユーラの脳裏には、そんな思考が渦巻いている。それは同じ顔をしていても、遊良とはデュエルに対する焦点が違うからなのだろう。

 

 

しかし…

 

 

同じ顔をしていても、扱うデッキが違うことによりデュエルの『どこ』を見ているかによってデュエルに対する姿勢は変わる。

 

つまりそれは、ユーラには無駄に思えるこの激しいドローも、当の本人である遊良には見ているモノが違うと言うことでもあるからこそ。

 

果たして今の遊良の眼には、自分のデッキのこれまでとこれからが如何なる形で見ているのか。遊良はそのまま、繰り返すドローによって次々とデッキからカードを引き続け―

 

 

 

 

 

 

 

「よし、来た!このカードは、俺の墓地の闇属性が3体だけの場合にのみ特殊召喚できる!」

「なっ!?オマエ、そ、その召喚条件は…」

「そうだ!切り札を使いきったなら…新しい切り札で立ち向かえばいい!これが俺の新しい切り札だ!行くぞぉっ!」

 

 

 

 

 

そうして…

 

 

 

 

 

今ここに高らかに、遊良が叫ぶは竜の雄叫び―

 

 

 

 

轟かせしは不沈のいななき、溢れんばかりの竜の息吹。

 

それは真実の血の繋がりを知らぬままでも、内に秘めた『本性』は紛れもなく『巨龍』なのだという事を見せ付けるが如き轟きとなりて霊園へと響き渡るのか。

 

 

…天に掲げるその手が行き着く先は、Exでは決してあらず。

 

 

そう、遊良は知らない事ではあるものの、三代に渡ってソレを従えてきた確かなる血の『繋がり』は決して切れることはなく…

 

轟々とした迫力を纏い、類稀なる竜の叫びを体現しつつ。天に掲げたその手と意思は、竜の雄叫びとなりてExデッキではなく手札へと向かっていて―

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

「怒りに震える逆鱗よ!歯向かう愚者を消し飛ばせぇ!」

 

 

 

轟く咆哮、震える大気。重々しく変わっていく、天城 遊良のそのオーラ。

 

神秘を感じさせる儀式の者達にも慄かない、今は小さき竜のその姿は彼が本当に『龍』の血を引いているのではないかと錯覚するほどの圧力となりて…

 

人々が消え去ってしまったここ決闘市の霊園においても、その存在の証明を確かに故人たちへと高々に見せ付けていて。

 

…聞こえてきたのは、かつて『逆鱗』と呼ばれていた歴戦のデュエリストが放っていた、世界に轟いていた『あの口上』と一字一句同じモノ。

 

そう、雰囲気までもが瓜二つの、大気を震わす咆哮に導かれ。Ex適正を持たぬ少年の新たなる切り札として、歴戦を知る龍の叫びが…

 

 

 

 

 

「来い、レベル7!」

 

 

 

 

 

今、ここに―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ダーク・アームド・ドラゴン】!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時…

 

大地が、震えた―

 

現れたのは黒き暴竜、怒りに震える巨大な体躯。

 

力を纏いし豪き腕を、その身に秘めた怒りによって振り下ろし全てを壊し尽くすという…まさに暴力が化身となった、怒り狂う『力』の象徴として名高き一体の巨大なる竜の姿。

 

…Exモンスターでもないこのモンスターの事は、きっと世界中の誰もが知っている。

 

そう、このモンスターがエクシーズモンスターへと進化した【撃滅龍 ダーク・アームド】は、何を隠そう【王者】と同格と称えられし『逆鱗』の『名』そのモノ。

 

つまりは、この【ダーク・アームド・ドラゴン】こそ…『逆鱗』と呼ばれし劉玄斎の、若かりし頃の切り札として広く知られたモンスター。

 

天を裂き、地を引き裂き、人をも裂き潰すその力はまさに『逆鱗』の名の原型となりえるに相応しい力と言えるのであって―

 

 

 

【ダーク・アームド・ドラゴン】レベル7

ATK/2800 DEF/1000

 

 

 

…遊良は、まだ知らない。

 

古の時代から受け継がれる、『劉』の血に刻まれたその運命と…その血がもたらす、『龍』の力を。

 

―遊良は、知らない。

 

『竜』の名を持つ自分の『父』もまた、かつて『このカード』を切り札にしていたことを―

 

 

そんな遊良自身も知らない血の巡りによって、太古の昔から『劉』の一族に確かに受け継がれてきたこのカードはまさに『この戦い』にこそ最も力を発揮するべきカードなのだという事を、『今の遊良』は決して知りえることはなく。

 

 

 

でも…

 

 

 

それでも―

 

 

 

「それは『逆鱗』のカード!?ま、まさかオマエもアイツから色々貰っていたなんて…」

「ッ…お前もって事は…まさか調べても出てこなかった【魔神儀】の儀式モンスターをお前に渡した人って!?………だ、だけど今はそんなことどうでもいい!行くぞ、ダーク・アームドの効果発動!墓地のサクリボーを除外し…【竜姫神サフィラ】を破壊する!」

「くそっ!墓地の【祝祷の聖歌】を除外して、サフィラを破壊から防ぐ!」

「3枚目!?…あ、さ、さっきのサフィラの効果か!でも止まるもんかぁ!2体目のサクリボーを除外しデミスを破壊!更に3体目も除外してサフィラを破壊だ!」

 

 

 

―!!

 

 

 

闇を纏いし力の竜より、放たれしは神をも殴り倒さんとする腕刃の凄まじき波動の刃。

 

それは例え一度防がれようとも、何度だって襲いくる無限の連撃となりて儀式の者達を切り刻むのか。

 

そう、全体破壊とはまた違う…例え一度止められようとも、標的を断ち切るまで叫ぶのを辞めない刃の雄叫びは決して収まることはなく。

 

今、遊良の新たなる切り札によって。遊良の得た『力の獣』と、【裏決島】終結の折に『逆鱗』より賜った、新たなる切り札の力のおかげで遊良の進撃は更なる激震を見せ続けるだけ。

 

 

 

「くっ!?」

「よし、バトルだ!バルバロスUrでカリスライムに攻撃!天蓋の粉砕、ディナイアー・ブラスター!」

 

 

 

―!

 

 

 

まずは先陣を切るように、機鎧を纏った獣の王が恐るべき威力の砲撃を放つ。

 

…攻撃力3800は伊達じゃない。

 

補助も無く、他の効果も何も無く自身の力のみで攻撃力3800を叩き出すその迫力は他の追随を許さぬ圧倒的『力』の象徴となりて、この実体化したデュエルをどこまでも激しく演出するのみ。

 

…それもこれも、遊良が戦う事を諦めずドローを続けたからこその快挙。

 

バルバロスをも糧として、墓地の闇属性の数を調整する役目も持ちながら…そう、それはいくらダメージを与えられないとはいえども、生半可なモンスターでは決して太刀打ち出来ない現実をまざまざと相手へと見せ付けているかのような迫力を醸しだしながら。

 

『海の星』を飲み込んだ異形の軟体を、跡形も無く獣の機王の砲撃が消し去っていく―

 

 

 

そして―

 

 

 

「ダメージを与えられなくてもモンスターは倒せる!これでがら空きだぁ!【ダーク・アームド・ドラゴン】、アイツにダイレクトアタックだ!喰らえぇぇぇぇぇぇ!冥龍崩天撃ぃ!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁあっ!」

 

 

 

 

 

ユーラ LP:5400→2600

 

 

 

 

とうとう…

 

とうとう、想像を絶する大ダメージがユーラを襲った―

 

それは実に2800の大ダメージ。いや、遊良が3枚の【成金ゴブリン】で与えた3000のLPのアドバンテージを考えると、未だユーラのLPが600ほど優勢とは言えるのだが…

 

しかし…けれども…それでも―

 

これまで微細なダメージしか発生しなかったこのデュエルにおいては、初めて発生した初期ライフの半分以上を削る確かなる大ダメージ。

 

それも、自らLPを削ることはあっても全く『ダメージを受けていない遊良』が、微細な『ダメージを受けて続けてきたユーラ』にここで更に尋常じゃないほどのダメージを与えたのだ。

 

…それは明らかに、緩やかに進んでいたデュエルがここで一気に動いたということ。

 

特にこの実体化したデュエルにおいては、初期LP半分以上のダメージを一挙に受けてしまうというのは…想像を絶する痛みを、一瞬で受けてしまうということでもあるはずで。

 

 

 

また…

 

 

 

得体の知れない力に身構えていた、デュエル前の気負った姿から一転。

 

これまでのデュエルの流れと、たった今与えた2800という大ダメージによって…主導権を握りつつある遊良には、ユーラに対して一つ『気付いた』事があった。

 

 

 

 

そう、それは紛れもなく―

 

 

 

 

 

 

 

「弱い…」

「…ッ!?オ、オマエ…い、今…オレに向かって…なんて…」

 

 

 

 

 

 

 

ボソッ…と…

 

ユーラへと向けて、遊良の口から呟かれたのは正真正銘の嘘偽り無い、本心からの遊良の言葉であった。

 

それはこの攻防にて遊良が抱いた、紛う事なき遊良の本心。思わず口を衝いて零された、嘘偽りなき真意の呟き。

 

そう、決闘市の全ての人間を消してしまった、謎多き アマギ ユーラへと…

 

昨年度の決闘市の『異変』の犯人である前【紫魔】紫魔 憐造のような力を持っているのではないかと思われたアマギ ユーラへと、思わず呟かれてしまった本心からの遊良の言葉であったのだ。

 

 

 

…しかし、それもそのはず。

 

 

 

確かに、時間が経つにつれ、ユーラの纏う苛立ちは確かに増していってはいる。

 

けれども、遊良が感じたのはただ『それだけ』なのだ。

 

確かにユーラからは、バルバロスの全体破壊を絶対に通さないという強い意思は感じられる。それはきっと、遊良が最も信頼をおくモンスターが【神獣王バルバロス】であるからなのだろう。

 

遊良が全身の信頼を置く、相棒と呼べる切り札だけは絶対に好きにはさせない。そんな気概をユーラからは感じられるのだが…

 

しかし、それは裏を返せばユーラのデュエルは、あくまでも天城 遊良のこれまでのデュエルを研究してきたに過ぎないという…どことなく、努力と執念によって『辿り着いた』という印象を与えるに過ぎない代物。

 

そう、NEPTUNEはまだなんとか対応できる。Bloo-Dが使えないのは嬉しい誤算だったのだろう。そして獣の王だけは何があっても通さないという気概の元に組み立てられたユーラの今のデュエルへの姿勢は、『逆鱗』の力を新たなる切り札とした遊良からすればどれも足りない、中途半端、やや拍子抜けと感じてしまうような生ぬるさとなりてその目に映ってしまったのだ。

 

 

…一見綿密に組み立てられているようで、【ダーク・アームド・ドラゴン】という新たな切り札が1体出ただけでユーラが大ダメージを喰らったのがその証拠。遊良は『魔神儀】』の儀式モンスターという隠し玉を繰り出されても対処したと言うのに、ユーラはソレが出来ていない。

 

 

…遊良がダメージを受けていないと言うのに、ユーラだけが既に3600ものダメージを受け続けていることが紛れもない証明。遊良は自らのLPを削ってもダメージは受けないのに、ユーラは回復こそすれダメージを微塵も与えられていない。

 

 

あれだけの迫力を持ち、あれだけの執念を見せ、あれだけの激しさを見せ付けてくるのに…付け入る隙が大きすぎる。そこまでの力を感じない。

 

それは、もしユーラが昨年度の紫魔 憐造のような、立ち向かうことすらおこがましい程の圧倒的な力を持っているのではないかという予測を立てていた遊良からすれば…

 

一体、どうしてユーラが決闘市の全ての人を消し去れたのか疑問に思ってしまうレベルに違いなく―

 

 

 

「前に戦ったときは気付けなかったけど、今こうして普通にデュエルしてみて気付いたんだ。お前が…あまり、『強くない』…って…」

「ッ…」

 

 

 

また、遊良のソレは何も『慢心』からくる言葉ではない。

 

遊良には確かなる確信がある。以前にアマギ ユーラに襲われてデュエルした時は、【堕天使】が使えないという突然の衝撃と圧倒的不利に動揺して気付く事ができなかったが…

 

しかしソレを乗り越え、自らのデッキを1から創り直し。【決島】と【裏決島】での激しい戦いを経て成長した遊良は、『決闘市の人々が消えた』ことや『自分と同じ顔の人間が現れた』という非現実的な状況下に置かれても、どこまでもデュエルだけは冷静に行う事が出来ている。

 

そんな、以前よりも成長した遊良だからこそ…ユーラの実力について今ここにハッキリと気付いてしまったのだろう。

 

そう、儀式召喚を駆使するアマギ ユーラ…

 

その実力が、怒りに追いついていないほどに…

 

 

 

 

 

―『弱い』…

 

 

 

 

 

と、言う事を。

 

 

 

普通であればありえない…昨年度の『異変』のように、決闘市の全てを混乱に落とすほどの所業を見せ付けてきたアマギ ユーラにまさか遊良が『弱い』と感じてしまうだなんて。

 

通常であれば絶対にない…押さえられないほどの怒りを持って、衝動的にデッドorアライブのデュエルを仕掛けてくるアマギ ユーラが、まさか復讐の相手よりも『弱い』だなんて。

 

 

けれども、今この場においてはソレが紛れも無い真実でもあるのだ―

 

 

遊良の抱いた感覚に嘘はない。以前にフードの男に敗れ『堕天使』を失ってしまってから立ち直り、【決島】と【裏決島】を経て確かな高みに昇華されつつある今の遊良の嗅覚は生半可なモノでは決してない。

 

この感覚は信頼に値するモノ。何せ【裏決島】の時に『極』の頂きに立っていた最凶の敵【紫影】相手にも正確に発動していたソレは、明らかに【紫影】よりも弱いアマギ ユーラ相手に狂うはずもないのだから。

 

だからこそ、遊良は確信を持つと共に混乱を抱きつつも。それでも見えてしまった確かなる『真実』に、遊良の頭もまた混乱を感じ始めているのか。

 

 

 

「なんでその程度の力で世界を消すなんて言った!なんでその程度の力しかないのに紫魔憐造の様な雰囲気を纏えた!なんでその程度なのに、決闘市の人々を消し去れたんだお前は!」

「ぐ…ぐぐっ…オ、オマエェ…」

 

 

 

 

そして、遊良に『弱い』とまで言われてしまったユーラは…

 

怒りに歪めたその顔の奥…その脳裏に、一体何を思い浮かべるのだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『あの日』、全てを失った。

 

そう、Ex適正がないと宣告された『あの日』、そこから彼の人生は大きく狂い始めてしまった。

 

それまでは儀式召喚の歴史を復活させる天才少年だとか、プロになれる才能の持ち主だとか、大人顔負けの実力だとか言って盛大に持て囃していたくせに…

 

一人の医者の、たった一つの宣告だけで、彼の人生は最悪と言っていい程にマイナスへと狂い初めてしまったのだ。

 

…周囲から人が消え、友が消え、親まで失った。

 

しかし、それでもどうにか彼が生き長らえたのは、偏に彼を見捨てずに命を繋げてくれ守ってくれた2人の幼馴染が居たからこそ。

 

救ってくれた師など居ない。大人が全員敵である世界で、それでも生き長らえることができたのは全てを投げ打ってでも傍に居てくれた2人の幼馴染のおかげ。

 

けれども、それでも彼が『こうなって』しまったのは…

 

『あの日』の宣告以上に、彼の全てを狂わせた『2つ』の出来事であり…

 

 

 

―『うわぁぁぁぁあ!うそだぁぁぁぁ!』

 

 

 

ユーラの脳裏に浮かび上がるのは、全てを燃やし尽くした憎き業火―

 

 

 

―『鷹矢!鷹矢ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』

 

 

 

中等部の時に…鷹矢が、死んだ―

 

 

 

誰かがイタズラで放火したのだろう。天宮寺家のご厚意で置いてもらっていた家に、誰かが火をつけたことが周囲の住宅まで巻き込む大火災が引き起こされたのだ―

 

そして犯人はすぐに捕まったものの、逃げ遅れた彼を庇って…

 

燃え盛る隠れ家に取り残されて、鷹矢は『焼け死んだ』。

 

それだけではない―

 

 

 

―『嫌だ!し、死なないでくれ!ルキィ!』

 

 

 

高等部の時に…ルキが、死んだ―

 

 

 

いや、正確には高等部には進学を許されなかったために、高等部の年代で路頭に迷っていたのだが…

 

自分の人生を棒に振ってまで傍に居続けてくれたルキが、運悪く錯乱した男の凶刃をその胸に受けてしまったのだ―

 

それは彼の目の前での出来事。それは彼を庇っての出来事。名前も知らぬ、精神異常を来たしていた男に…

 

何の因果か、ルキは『刺し殺された』。

 

 

…ユーラの脳裏に浮かぶのは、何よりも大切だったはずの幼馴染を救えなかったという、身を捩られるような苦しい記憶。

 

 

…守れなかった、鷹矢とルキを。

 

 

皆が持っている『当たり前』を持っていない自分に、手を差し伸べてくれるほど世界は優しく出来ていない。そんなEx適正がない自分と一緒に居た所為で、世界に嫌われ命を落とす羽目になった大切な幼馴染の最期の姿が…どうしても、ユーラの脳裏からは消えてはくれない。

 

 

そして、遊良からの『弱い』という最大級に屈辱的な言葉を聞いてしまって……

 

更に、ユーラは思い出してしまう。

 

 

それは断片的ではあるものの、彼があまりの絶望的な人生に自ら幕を下ろそうとしていた時のこと…

 

そう、彼が、自らその命を絶とうとしていた時。

 

この世界は奪うばかりで、弱者に施しを与えてくれるほど上手く出来てはいない。だからこそ奪われ尽くされた自分はこれ以上生きていてはいけないのだと、幼馴染を失った絶望からそう言われている気がして…

 

誰も知らぬ世界の片隅で、彼は…自らその命を絶ったはずだった。

 

 

 

そう、絶った、はずだった―

 

 

 

しかし…

 

 

 

世界に対する怨嗟の中で、消え行く命の灯火をじわじわと感じていた彼の下に…

 

『ある存在』が、唐突に語りかけてきた―

 

 

 

―アマギ ユーラ…『何』ヲ望ム

 

 

 

…と。

 

それは死に行くだけだったユーラの脳裏に、直接語りかけてきたような声であった。

 

心の深層へと直接響いているような、そんな不可思議なモノではあったものの…

 

その時の声は、今にも事切れそうだったユーラに、永遠とも思えるような『この世界の真実』を事細かに見せ付けてきたのだ―

 

そう、理解させられたのは、鷹矢とルキが死ぬという運命は彼が何度人生をやり直したって根本において『決まって』しまっている天城 遊良の運命であると言う事。

 

『正史』…例え何度繰り返したって『そう進む』ことが決められている正しい進みは、これまで繰り返されてきたソレにおいても全てにおいて鷹矢とルキをあそこで殺していたと言うではないか。

 

果たして…ソレを知った彼は、この世界に対しどれほどの憎しみを抱いたのだろう。

 

なんだソレ…そんなコトがあっていいのか―

 

それは誰にも理解できない、想像を絶する怨嗟であったに違いない。『ある存在』に全てを教えられ、全てを奪われ続けてきた少年はこれまでにないほどの絶望を死の間際で再び抱いてしまったのだ。

 

けれども、その時の事をユーラは断片的にしか覚えていない…また、今にも死にゆこうとしていた為に、いきなり見せられた『真理』に対しても違和感を感じるような命は最早ユーラの中には残っていなかった。

 

だからこそ…

 

思い知らされた『世界の真実』、自分達の決められた『運命』、永遠に殺され続ける鷹矢とルキ。そんなモノを死の間際で思い知らされれば、真っ暗な意識の闇の中でユーラが憎しみと共に『ある存在』に返事をしてしまったのも最早必然だったのだろう。

 

 

 

―アマギ ユーラ…『何』ヲ望ム

 

 

 

(…復讐を…オレたちをこんな目に合わせる世界に…運命に…復讐を…)

 

 

 

一体、この時に聞こえてきた声は『何』だったのか。それは後になって分かったことではあったものの、それでも死のうとしていた『この時』のユーラにとってはその声の正体などどうでもいいことだった。

 

…ただ単純に、ただ純粋に。

 

望んだのは、自分達を殺し続けるこの世界に対する復讐…ただそれだけ。

 

 

 

――ヨカロウ…望ムモノヲ…与エテヤル…シカシ…ソノ『代償』ニ…

 

 

そうして、『声』が最後の審判を下しながら…

 

 

―オマエ自身ヲ…頂ク…

 

…と、そう言ったことだけを、ユーラは覚えていて―

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

ユーラは、蘇った。

 

一度自ら命を絶った少年は、絶望の淵で『世界の真実』を知ってしまい、あまりの憎しみから再びその命を燃やし始めてしまったのだ。

 

 

だから、滅ぼした―

 

 

断片的ではあるものの、確かに覚えている『世界の真実』と『正史』に怒りを覚え。自分に力を与えるという『ある存在』の力を用いて、鷹矢とルキを何度も殺してきたこの世界を、自分が今いる世界をユーラは全て消滅させた。

 

けれども、全てを消し去る力を持ってしまったが故に少年は理解してしまった…

 

それは、今の自分が居る場所が決して『最も新しい』ところではないと言う事を。

 

…まだ、鷹矢とルキが死ぬ世界がある。

 

全てを無くした少年に残っていたのは、ただそれだけの思い。この世で最も大切な2人が、永遠に死に続ける運命なんて許せるはずがない―

 

だからこそ、『向こう』から現れた迎えに連れられて…1つ先の、最も新しい『ここ』に来たと言うのに…

 

 

 

 

ユーラは、見てしまった―

 

 

 

正しく決まっているはずの流れに、『次』の奴らは従っていないと―

 

 

 

中等部の時に焼け死ぬはずの鷹矢が、生きて高等部に進学している。

 

刺されて死ぬはずのルキが、無事に生きて高等部に進学している。

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

全てを奪われ、全てを失うはずのアイツが―

 

 

 

 

 

 

 

天城 遊良が、笑っている―

 

 

 

 

 

高等部に進学を許されなった天城 遊良が、普通に高等部に進学している―

 

1年時の【決闘祭】で、あろうことか優勝している―

 

決闘市の人々に、受け入れられている―

 

なぜ…なんで、どうして―

 

 

そんな未来は教えてもらっていない。そんな未来があるわけがない。

 

天城 遊良の人生とは奪われ続けるだけの悲惨な人生。それは気の遠くなるほど繰り返されているこの世界においては絶対に不変であるはず。

 

そう、ありえるわけがない―

 

鷹矢が、焼け死ななくてもいい未来なんて…

 

ルキが、刺し殺されなくて済む未来なんて…

 

 

 

 

 

自分が、上手く行っている未来なんて―

 

 

 

 

 

 

 

許せ…ない…

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「オマエに…オマエに何が分かる!鷹矢とルキが居て、決闘学園に通っていて!【決闘祭】に優勝した?【決島】で準優勝した?おかしいんだよ!なんでオマエがそんなにも上手くいっている!」

 

 

 

遊良に『弱い』と言い捨てられ、ユーラが吐露するは羨望の毒吐き。

 

…小さな子どもの癇癪の喚き。我慢ならない無意味な弾劾。

 

ユーラの見た絶望とは一体何なのか。しかし彼の脳裏に浮かぶ、極めて『断片的』でしかない絶望の記憶からではその全てを理解することは誰にも叶わず…

 

しかし…それでもあまりに見苦しく叫び続けるユーラの喚きは、彼が遊良達の思い浮かべる絶望を超えたモノを見てきたが故のどうしようもない咆哮でもあるのか。

 

 

アマギ ユーラに何があったのか…それを天城 遊良は何もしらない。けれども唯一つ、一つだけ確かなことは…

 

 

今を生きる遊良とは、全く別の人生をアマギ ユーラは歩んできたと言うこと。Ex適正だけではなく、鷹矢とルキまでをも失うという、生きることを諦めそうになるほどの絶望をアマギ ユーラは歩んできたと言うことなのだろう。

 

いや…ユーラの知る『知識』によれば、本来であれば『天城 遊良』という人間はその人生において悉くを奪われるだけの存在であるはずだと言うのに。

 

だからこそ、ユーラには許せなかったのだろう。自分が全てを奪われ続けてきたのに…それが正しい運命だと理解させられたのに…

 

 

 

自分が鷹矢とルキを失ったのに、『次』のコイツは鷹矢とルキを失っていないなんて…と。

 

 

 

「こんな世界は偽物なんだ!全部…全部全部偽物なんだよ!鷹矢とルキが生きていて、オレが上手く生きられている世界なんてあるはずがない!だって、アイツはオレにそう言ってきたんだ…天城 遊良は、どうでもいいゴミなんだって!だからこんな世界なんて偽物なんだ!間違いなんだよ!」

「な、何言って…た、鷹矢とルキが『生きていて』ってどういうことだよ!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!何も知らないくせに…本当なら!正史なら!なにもかも失って、誰からも認められなかったオレが何でこんなに良い目にあってるんだ!」

「正史…ま、またソレ…何なんだよ、【紫魔】も【紫影】も言ってたけど!正史って一体何なんだ!」

「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁい!オレは目の前で鷹矢とルキを殺されたんだぞ!それが正しい運命だって言われたんだぞ!その気持ちがお前にわかるはずないだろ!」

「ッ!?」

 

 

 

それ故、喚き散らすようにしてユーラが放った言葉に。遊良は思わず言葉を失ってしまいながらも、その怨嗟の根本を1つだけ理解してしまった。

 

鷹矢とルキを『失った』…そうか、だからユーラは…

 

『正史』…過去、他の誰かにも言われたことのあるソレが、遊良には何のことかわからない。

 

けれどもそれ以上に強く理解できる唯一つのこと―

 

それは、天城 遊良という人間にとって絶対に失ってはいけない存在が『誰』なのかという今更ながらも強く理解させられる言葉で―

 

 

 

「て、【手札断札】を発動…お互いに2枚捨てて2枚ドロー…【大欲な壷】も発動、バルバロス、サクリボー2体をデッキに戻して1枚ドロー…カ、カードを1枚伏せて…ターンエンドだ…」

 

 

 

遊良 LP:2000

手札:3→2枚

場:【ダーク・アームド・ドラゴン】

【獣神機王バルバロスUr】

魔法・罠:【冥界の宝札】、伏せ1枚

 

 

 

遊良は、ユーラがどんな人生を歩んできたのかを知らない。

 

だからこそ、見苦しくともあまりに必死になって憤慨しているユーラの気概に…強さ以上の『何か』を感じてしまったかのようにして、どこか気圧されるように遊良はそのターンを終えるしかなく。

 

 

…一体、ユーラの見てきた絶望とは何なのか。

 

 

けれども、この男は間違いなく耐え難い絶望を見てきたのだろう。ソレを即座に理解できてしまうのは、遊良自身も『そう』だったからに他ならず。

 

しかし、ここへきて対極的な立場に置かれたことで遊良が理解してしまったのはもっと本質的なこと。そう、ユーラが言った、『鷹矢』と『ルキ』の事で遊良はユーラの言った『正史』の本質的な断片をほんの少しだけ理解してしまったのだ。

 

それは遊良が腐らずに今この時まで生きられたのは、偏に鷹矢とルキという存在が生きて傍に居続けてくれたからこそと言うこと…

 

…だからこそ、嫌でも理解できてしまう。

 

もし自分も、ユーラと同じように鷹矢とルキを失っていたら…きっと、自ら命を絶つかユーラと同じ様になっていただろう…と。

 

 

 

 

「おかしいだろ!鷹矢とルキの運命は不変の運命だって言われたんだぞ!全部オレの所為だって言われたんだぞぉ!なのに…なのにどうして今のオマエはこんなに上手くいっている!ただのゴミのはずが!関心にも値しない不必要なバグが!そんなどうして『オレ』が上手く行っているって言うんだ!どうしてオマエには鷹矢とルキがいるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」

 

 

 

しかし、そんな遊良を意に介さず。どこまでも喚くユーラの叫びは、どうしようもない感情の昂ぶりとなりて更に激しく感情を纏う。

 

それは上手くいっている遊良への怒り。自分が…いや、『あまぎ ゆうら』という存在が背負うべき正しい道筋、『正史』の悉くを無視し今こうして上手くいっている遊良へと対する、ユーラの憤慨はまさに対峙している遊良そのモノへの押さえきれない怒りなのか。

 

…一度この世から魂を切り離したが故に悟ってしまった、『正史』と呼ばれるモノを知っている風のユーラにはどうしても遊良が許せない。

 

そう、どうしてもユーラには許せないのだ。正しい道筋だと言われた理から外れ、自分が欲しかったモノの全てを失っていない遊良の存在そのモノがどうしても。

 

だからこそ、ユーラはどこまでも猛り続ける。

 

遊良の全てを否定し、拒絶し、糾弾し、反論し、非難し、否認し、批判し、反対し、拒否し。

 

遊良から全てを奪って、その存在そのモノを奪って、奪って、奪って、これまで築いてきたであろう遊良の全てを無に帰す事でしか、その怒りは決して収まることはしないのだから。

 

 

 

 

 

歯止めが、利かない―

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!オレのターン、ドロー!手札の【魔神儀の創造主-クリオルター】を見せて効果発動!このカードを捨て、墓地からペンシルベル2体とキャンドールを特殊召喚する!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【魔神儀-ペンシルベル】レベル3

ATK/ 0 DEF/ 0

 

【魔神儀-ペンシルベル】レベル3

ATK/ 0 DEF/ 0

 

【魔神儀-キャンドール】レベル4

ATK/ 0 DEF/ 0

 

 

 

そうして…

 

再びユーラの場に現れしは、これまで幾度となく呼び出してきた儀式をサポートする魔導具たちであった。

 

…しかし、その手の内も実力の底も遊良に知られてしまった今となっては、これ以上の抵抗をどれだけ行おうとも無駄なはず。

 

そう、気概だけでは戦況はひっくり返らない。それは紛いなりにも『あまぎ ゆうら』であるユーラも、この状況は自分が不利だと言う事くらい分かっているはずだと言うのに…

 

 

 

 

 

そう、遊良との力の差は、ユーラとて分かっているはずだと言うのに―

 

 

 

 

 

「ッ、まだ【魔神儀】の儀式モンスターが居たのか!?け、けど3体のモンスターを並べて一体何を…」

「何が【決闘祭】だ…何が【決島】だ!何が【黒翼】と【白鯨】の弟子だぁぁぁあぁあ!オマエなんかが…オレには絶望しかないのに、オマエが恵まれてるなんて全部おかしいんだよぉ!神よ、この命なんてくれてやる!だからオレに………このオレにぃぃぃぃぃい!」

 

 

 

噴出せしは暗黒の轟き、止めどなく溢れる混沌の漂い。

 

その手に掲げし1枚のカードに、己の怒りの、いや命の全てを込めるかのようにしてユーラは更に激しく猛り続け…

 

また、その怒りの根源を再燃させるユーラの怒りに。まるで呼応するかのようにして、掲げられし1枚のカードからは昨年度に遊良達が嫌と言うほど見た『黒い靄』のようなアレが噴出し始めたではないか―

 

 

 

そして―

 

 

 

 

「アイツヲ消ス力ヲヨコセェェェェェェェェェェッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「きゃあっ!?」

「ッ!?な、なんだ!?」

「むっ!?こ、この感じはまさかっ!?」

 

 

 

突然巻き起こった突風に、ルキと遊良が一瞬怯み。

 

しかし、ソレと『一度だけ』対峙したことのある鷹矢が『何か』に気付いた…

 

 

その瞬間―

 

 

 

 

 

 

「ウォォォォォォォォォォォォッ!オレハ3体ノモンスターヲ『生贄』ニィィィィィィィッ!」

 

 

 

 

 

 

 

それは儀式召喚のためのモノでは断じてない。

 

天に捧げる生贄と、その身に纏う天の渦。そう、それはユーラが忌み嫌っていたはずの、遊良が扱う紛れも無い、アドバンス召喚のためのエフェクト。

 

…しかし己の全てを捧げたユーラの、混沌に触れる叫びが霊園へと轟き。

 

無駄な詠唱など必要なく。無駄な口上など存在せず。あまりに純粋な怒りと共に、虚無へと誘う宣言を高々とユーラは叫ぶだけで…

 

 

 

大気が暴れ、大地が揺れ。この霊園…否、星その物が怯えながら。今、あまりに溢れ出る怒りと闇によって…

 

 

 

 

 

 

ここに呼び出されし…

 

 

 

 

 

 

それは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【邪神イレイザー】ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―それは、『何か』の蠢きだった。

 

人間が触れてはならない領域。人間が感じてはいけない存在。

 

存在そのモノがただの『空虚』で、存在そのモノがただの『虚無』。

 

…音を消し、心を消し、命そのモノを消してしまう純粋なる消滅の化身。

 

あまりに虚ろで、あまりに虚空な、あまりに暴悪な泡沫の根源。その神性は直視した者の心を、、直接削り取っていくような絶望を誰しもに抱かせるのか。

 

その蠢きの一波に触れただけで、霊園の木々が次々と消滅していくその光景は…この存在から駄々漏れている、ただ純粋なる『消滅』の余波そのモノであって。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、神に見放されているはずの、『あまぎ ゆうら』の手によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマギ ユーラの手によって、今ここに…この、霊園に―

 

 

 

 

 

【邪神イレイザー】レベル10

ATK/ ?→4000 DEF/ ?→4000

 

 

 

 

 

邪なる神が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『邪神』が、降臨した―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回、遊戯王Wings

ep107、「翼」

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