遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep10「閑話ー砺波 浜臣 後編」

町外れにある、使われていないデュエルスタジアム。老朽化から封鎖されていて、今では試合も行われないことから、特に誰も近づかない場所となっている。その建物の外に、砺波は居た。

 

今では封鎖されているが、若い頃はここでよく試合をしたものだ。全ての入り口の場所もわかるし、一部のスタッフしか知らないような裏通路も教えて貰った。しかし、鷹峰もここを指定したのはいいが、封鎖されているのに一体どうやって中に入れというのだろうか。

 

そんなことを考えながら、とりあえず砺波はスタジアムの正面入り口の扉に手をかけた。すると…

 

 

「…開いている?」

 

 

なぜか、入り口の鍵が開いていてそこから中に入ることが出来た。しかし、封鎖されているはずの鍵が開いていたということは、もしかしたらもう相手は中で待っているということか。鍵も壊さずにどうやって中に入ったかは謎だが、まぁ開いているのならば入らないわけにはいかない。

 

流石に中は真っ暗だったが、砺波はディスクで照らした微かな明かりを頼りに、メインスタジアムの客席の扉を開ける。

 

開けると同時に中から光が漏れ出してきて、その中にはメインスタジアムだけを照らすようにして照明が付いており、その中心に一人の少女の姿。

 

 

「お待ちしておりました。【白鯨】、砺波 浜臣さん。」

 

 

砺波の姿を見つけると、電話越しよりもよく通る声で、意気揚々と声をかけてくる少女。しかし、その少女の姿をみて砺波は驚いた。

 

そう、砺波の思っていた以上にその少女は「若く」…いや、「幼く」と表現した方が適格だろう、まだ中等部にすら入っていないのではないかとの印象すら受けたからだ。客席から伸びているスタッフ用の階段を降りて、メインスタジアムに上がって、さらに近くで少女を見ると余計にその印象が強くなる。

 

浅黒い褐色の肌に、それすら飲み込むほどの黒髪を長く伸ばし、微笑んでいる口元とは裏腹に、砺波を突き刺す鋭い目つきが少女への警戒心を上げていた。

 

 

「…あなたが…釈迦堂…」

「釈迦堂 ランと申します。以後、お見知りおきを。」

 

 

そう言って、臆した様子もなくそう言うランに、思わず身震いすら覚える砺波。こんな少女が纏う雰囲気にしては、いささか持っている物が大きすぎると感じた為だ。それは、自分が長年かけて積み上げてきたモノに近いのではないかとすら感じる程に。一体何をすればこんな少女がこうなるのだろうか。

 

 

「では早速始めましょう。なにぶん貴方も王者としてお忙しい身でしょうから。それに私もゆっくりはしていられませんし。」

「…ええ。」

 

 

そう言って、そそくさとランはスタジアムの端まで移動するとデュエルディスクを展開した。砺波も、ランの反対側の位置まで移動するが、しかし、実際に会ってもまだこの釈迦堂という少女が王者二人に勝ったことが、砺波にはまだ信じられていない。

 

確かに印象としてはとてつもないモノを持っている少女だったが、醸し出す圧力なら天宮寺 鷹峰の方がまだ荒々しいし、底知れぬ恐怖は紫魔 憐造の方がまだ深い。

 

長年同じ土俵で競い合ってきた砺波だからこそ感じられた印象だったが、ともかく今はこの少女が何者なのか、デュエルをしてみなければわからないことだろう。そんな思いを胸に、砺波もデュエルディスクを展開する。

 

そうして、観客の誰もいないスタジアムで、それは始まった。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

―先攻は【白鯨】、砺波 浜臣。

 

 

「先攻は私です。私は【深海のディーヴァ】を召喚。そして召喚時に効果発動!デッキから【海皇子 ネプトアビス】を特殊召喚する!いでよ、【海皇子 ネプトアビス】!」

 

 

【深海のディーヴァ】レベル2

ATK/200 DEF/400

 

 

【海皇子 ネプトアビス】レベル1

ATK/800 DEF/0

 

 

まず最初に、砺波の場に半人半魚の歌姫が現れた。通常召喚時に、その歌声でデッキから更なる海の者を呼び出すこのモンスターは、砺波のデッキにおいて重要な役目を果たすカードに位置している。そしてその歌声に応じて現れるのは、深海を統べる「海皇軍」の皇子。皇子とはいえその秘めたポテンシャルはすさまじく、砺波が好んで使うモンスターの1体。

 

 

「ほう、流石は【白鯨】、海の者たちを扱わせたら天下一ということですか。」

「…随分と余裕ですね。」

「はい。まだデュエルは始まったばかりですから。せっかくの王者とのデュエル、楽しませて貰わなければもったいない。…なにか?」

「…いえ、ですがあなたが相手をしているのは、シンクロ使いの頂点ということをお忘れなく。」

 

 

どこまでも飄々としている少女だ。まるで自分の方が遥か上から見下ろしているのだとアピールしているかのようにすら感じる。いや、【黒翼】と【紫魔】に勝ったという自負が【白鯨】の自分に対しても同じ態度を取らせているのだろうか。

 

しかし、いくら二人の王者に勝ったと自負しているとは言え、その態度を簡単に許してやるほど自分は老いてはいない。

 

 

「…あまり本気になるのも大人げないと思いましたが…、しかしそんな態度を取られては黙っておれませんね。私はデッキから【海皇の竜騎隊】を墓地へ送って、ネプトアビスの効果発動!デッキから【海皇の狙撃兵】を手札に加える!そしてコストとして墓地へ送られた【海皇の竜騎隊】の効果で、デッキから【氷霊神ムーラングレイス】を手札に!」

 

 

先攻1ターン目だというのに、いきなり手札が初期枚数5枚を超える砺波。コストとして扱われることでその効果を発動できる海皇は、まさに海皇軍の為に身を削る兵士の如く。そして、シンクロ使いの頂点は、さらなる展開を魅せるために動き始める。

 

 

「…では行きます。レベル1の【海皇子 ネプトアビス】にレベル2の【深海のディーヴァ】をチューニング!シンクロ召喚、現れろレベル3、シンクロチューナー【たつのこ】!」

 

 

【たつのこ】レベル3 シンクロチューナー

ATK/1700 DEF/500

 

 

「まだです、【たつのこ】のモンスター効果!手札のモンスター1体とシンクロ召喚を行うことができる!私は手札のレベル3【海皇の狙撃兵】にレベル3の【たつのこ】をチューニング!白き者よ、大いなる海原を遊び巡れ!シンクロ召喚!レベル6、【白闘気海豚(ホワイトオーラ・ドルフィン)】!」

 

 

白闘気海豚(ホワイトオーラ・ドルフィン)】レベル6 シンクロ

ATK/2400 DEF1000/

 

 

連続的なシンクロ召喚によって砺波の場が目まぐるしく入れ替わり、そうして場に現れた白きシンクロモンスター。白き闘気を身にまとったソレは、目の前の少女を澄んだ瞳で睨んでいた。しかし、砺波の狙いはこのモンスターを召喚することだけではない。

 

 

「…ほう、流石は王者の一人。【紫魔】と違って、見た目で侮ってはいただけないようだ。…しかし、こうも容易く墓地に水属性モンスターを5体揃えるとは。」

 

 

その狙いにランも気づいたのか、先ほどと比べやや声のトーンが低くなる。どうやら砺波が、幼い自分を侮っているのかどうかを図っていたようだったが、しかし砺波も最初から手加減をするつもりなど無い。海で狩りをする者の如く、相手の身を削って削って消耗させる算段だ。

 

 

「さて、では有利に立たせてもらいますよ。私の墓地の水属性モンスターが5体のみの場合にのみ、このカードは手札から特殊召喚できる。」

 

 

そして砺波は今から召喚しようとする1枚のカードを手に取った。先ほど手札に加えていた、特異な召喚条件から呼び出されるモンスター。しかしひとたび場に出れば、相手を圧倒できる力を持つが故に、一重に神とも比喩されることもあるモンスターの一体。

 

その召喚条件の難しさ故に、扱う者などほとんど居ないが、しかしそれすら容易く行えなければ、王者と呼べるはずもなく。

 

 

「いでよ、レベル8【氷霊神ムーラングレイス】!」

 

 

―!

 

 

砺波の場に、荘厳なりし氷の霊神が降臨した。

 

 

【氷霊神ムーラングレイス】レベル8

ATK/2800 DEF/2200

 

 

「ムーラングレイスの効果発動!特殊召喚成功時、相手の手札をランダムに2枚を捨てる。」

「…いきなり手札が少なくされてしまうとは。…なるほど、私を好きにさせる気はないみたいですね。」

「もちろん。好きに動けるのは私だけでいいのです。」

 

 

そうして、いきなり手札アドバンテージを奪いにかかる砺波。これまでも数々の挑戦者をこれで縛ってきた。相手にとっても、初回から手札アドバンテージが制限されることはこのまま一気に引き離されてしまうことを意味し、それに気が付いた時には取り返しのつかない差となる。

 

もしここで、後攻のデュエリストが先攻の動きに抵抗するには、手札誘発できるカードを備えるしかない。しかし、砺波の放ったムーラングレイスの効果に抵抗する姿を見せないランは、ディスクが自動的に選んだ2枚を手札から捨て始めた。

 

(何もしてこない?鷹峰や憐造だったら、こんな効果は絶対に通すはずがないというのに。)

 

 

王者を破った少女と息巻くくらいなのだから、これくらいは簡単に逃れてくるはず。そう考えて打つ手を変えていこうと画策していたというのに、こうも簡単に決まってしまっては。

 

しかし、そんな砺波の考えを嘲笑うかのように、少女は鋭い視線を突き刺して、嬉々として砺波を見ていった。

 

 

「…不用意ですね?…【白鯨】。」

 

 

―!

 

 

少女がそう言ったその瞬間、砺波の全身に震えが走り、無意識にデュエルディスクに力を入れて、腰を落として構え直した。全身の毛が逆立ったような感覚が襲い掛かり、思わず中てられた、殺気のようなモノに飲み込まれまいと抵抗する。

 

 

(ば、馬鹿な…?こんなモノを隠していたのか…一体、何をしようと…)

 

 

砺波は意識を一気に深いところまで沈めて集中をするが…いや、させられたと言った方が正しいか。それほど、少女が発した笑いが、歴戦の王者の戦闘スイッチを入れたのだ。値踏みしていたのは相手も同じということを理解して。

 

そして、ランの場には、たった今捨てたカードが浮かび上がり、その効果を発動させていた。

 

 

「私は効果で捨てられた【暗黒界の狩人 ブラウ】と【暗黒界の術師 スノウ】の効果を発動。ブラウの効果で1枚ドローし、さらに相手の効果で捨てられたためもう1枚ドロー。そしてスノウの効果でデッキから【暗黒界の門】を手札に加え、さらに相手の効果で捨てられたため、あなたの墓地の…なんでもいいですが…じゃあとりあえず攻撃力の高い【海皇の竜騎隊】を貰っておきましょう。」

 

 

そうして、優位に立とうとした砺波の行動を軽々と退け、ランの手札が後攻なのに増えてしまう。次のドローを含めれば7枚。いや、砺波にとって問題はそこではなかった。この少女、明らかにおかしいと砺波の感覚が告げている。

 

 

「暗黒界とは、これはまた珍しいカードを使いますね…しかし、チューナーを奪わなかったのなら、あなたはエクシーズか融合使い。暗黒界の相性から考えると、おそらくエクシーズ…いえ、魔轟神と一緒ならばシンクロも…」

 

 

そういって思考をめぐらす砺波だったが、しかし自分でそう言うものの、歴戦の戦いで培ってきた勘が全く違ったモノを砺波に教えている。そんな砺波を見て、少女は淡々と告げた。

 

―それは、王者を相手に言う言葉にしては…

 

 

「いえ、私はExデッキなんて使いませんよ?」

「…は?い、今なんと…?」

「そんなもの使って勝ったところで、面白くもなんともない。だから私はExを使うのをやめたのですから。」

「な…」

 

 

なんの躊躇もなくそう言った少女に一瞬驚いたものの、それに反して嫌な勘はまるで答え合わせをしたかのように腑に落ちていた。そう、この少女からは他のデュエリストから感じるExデッキの感覚を、全然感じないのだ。まるで最初から、Exデッキにモンスターを入れていないかのように。

 

 

「そ…それは…私を…」

 

 

しかし、いくら勘が腑に落ちたとはいえ、あろうことかこの少女はExデッキを使わずに自分に勝つと宣言をしてきた。つまり、この少女はわざとレベルを落とすためにExデッキを禁じたと言うことになり、一つの召喚法の頂点に立つ王者に対して、自分の方が上だと言い張ったに等しいのだ。

 

それはあまりにも…シンクロ召喚の頂点に立った自分を…あまりに酷く侮辱していると感じ…

 

 

「私を馬鹿にしているのかぁ!!」

 

 

―!

 

 

砺波の怒声が会場内に響き渡り、そのあまりの圧力に会場内の古くなった所が軋み始める。ガラス部分が振動して、今にも割れ散ってしまいそうな程だが、それは荒々しい砺波の怒りが外へと放出されていた証拠だ。その怒りは正面に立つ少女に激しく衝突するが、それは常人ならば卒倒してしまいそうなモノ。

 

しかしそれを喰らったにも関わらず、ランはとてもつまらなさそうに、そう、この瞬間に【白鯨】への興味を失ったかのように、淡々と答えた。

 

 

「…はぁ。あなたも憐造さんと同じ反応をするとは。…つまらない男だ。」

 

 

冷ややかに言ったそれを聞こえたのか聞こえてないのか。砺波は怒りを保ったまま自分のターンを終えようとする。

 

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド!では教えてあげましょう!あなたがやろうとしていることの無謀さと、この私を馬鹿にしたことの罪を!」

 

 

そんな怒りが沸き出ている砺波を意にも介さず、手番が釈迦堂 ランへと移り始めた。

 

 

砺波 LP4000

手札:5→2枚

場:【白闘気海豚】【氷霊神ムーラングレイス】

伏せ:2枚

 

 

「…私のターン、ドロー。」

 

 

より一層力の入った砺波に反し、より一層やる気をなくした様子のラン。まるで始めた時と真逆の光景だが、そんなことになったとしてもデュエルは続く。

 

―これは「決闘」。

 

始めた以上、どちらかの命尽きるまで終わりはしないのだから。ランは手札を見比べ、そして1枚のカードを手に取ると、それを発動した。

 

 

「私はフィールド魔法【暗黒界の門】を発動し、墓地のブラウを除外、手札の【暗黒界の龍神グラファ】を捨てて1枚ドロー。グラファの効果で【氷霊神ムーラングレイス】を破壊する。」

「甘い!私は速攻魔法【禁じられた聖衣】をムーラングレイスに発動!ターン終了時まで、ムーラングレイスは攻撃力が600下がる代わりに、効果対象にならず効果で破壊されなくなる!」

「…ふむ。ならば次は…」

 

 

易々と通してやる気などない。そんな気迫が砺波から発せられるが、しかしランは静かに手を進め、さらに手札から1枚のカードを発動させる。何せ、砺波のおかげで手札が充実しているのだから、休める気もないといった様子だ。

 

 

「魔法発動【暗黒界の取引】。お互いに1枚引いて1枚捨てる。そして今捨てた【暗黒界の尖兵ベージ】の効果で場に特殊召喚し、そしてベージを手札に戻すことで墓地のグラファを特殊召喚する。」

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】レベル8

ATK2700→3000 DEF/1800→2100

 

 

そして、ランの場に禍々しい姿の悪魔が姿を現した。まるで、ランが発した混沌とした殺気が形を得たように荒れ狂うそれは、容易すぎる召喚条件から出現するモンスターにしてはいささか凶悪すぎる力を持っているのではないだろうかとも思えるが、さらにランは止まらずに進む。

 

 

「もう一枚の【暗黒界の取引】を発動し、1枚ドローしてスノウを捨てる。スノウの効果発動。デッキから2枚目の【暗黒界の門】を手札に加えて発動。墓地のスノウを除外し、手札の【暗黒界の導師セルリ】を捨てて1枚ドロー。セルリの効果で相手の場に特殊召喚され、そして効果発動。私は手札のブラウを捨てる。この効果は相手の効果によって捨てられたこととなる為、私はデッキから2枚をドロー。魔法カード【アドバンスドロー】を発動し、場のレベル8のグラファをリリースして2枚ドロー。さらに【成金ゴブリン】を発動。相手のライフを1000回復して1枚ドロー。もう一枚発動して1枚ドロー。」

 

 

砺波:LP4000→6000

 

 

止まらないランの展開に、お互いの場が目まぐるしく変わっていく。ランの手札がまるで減らず、さらに次々と手札を交換していくではないか。流石の砺波も、ランの行動の異常性に、怒性から冷静へと着実に引き戻されて行っていることに気が付いた。

 

 

(何だこれは…止まる気配がまるでない…鷹峰を相手にしている気分だ。)

 

 

あの傍若無人な強さを持つ男を思い浮かべ、ふと以前の鷹峰との戦いを思い出す砺波。一向に止まる気が無く、自分の思うがままに動いて驚くべき展開をしてきた。しかし、それは鷹峰の「強さ」があってこそデッキが従ったのだ。それと同じ現象を起こしている少女もまた、まるでデッキ自身が従っているかのよう。

 

 

「…ではそろそろ行きますか。」

(ッ…来るか?)

 

 

より一層警戒心を強めて迎え撃とうとする砺波。アレだけのことをしたのだ、今ランの場にはモンスターは居らず、このままでは攻撃も出来ないが、きっと、もう一度グラファを呼び出してくるか、さらに追加でグラファを呼び出して畳み掛けてくることだろう。

 

しかし、ランはそれを嘲笑うかのようにして1枚のカードを発動した。

 

 

「私は場に2枚のカードを伏せて【手札抹殺】を発動!お互いに手札を捨てる!私は4枚捨てて4枚を新たにドロー!そして今捨てた【暗黒界の尖兵ベージ】、【暗黒界の武神ゴルド】、2枚の【暗黒界の龍神グラファ】の効果をそれぞれ発動する!ベージ、ゴルドを特殊召喚し、グラファの効果であなたの場の伏せカードと【白闘気海豚】を破壊!」

「…クッ!」

 

1枚の魔法カードから、一気に砺波の場が荒らされる。そしてこのままでは2体のグラファが蘇り、そして伏せカードも破壊されては大ダメージは免れないだろう。

 

しかし、そんなことは百も承知だ。過去、あの鷹峰と何度も戦ってきた自分だ、このくらいのことを耐えられないようでは王者ではない。

 

 

「ならば破壊される前に罠カード【ハーフ・アンブレイク】を【氷霊神ムーラングレイス】に発動!このターンの間、ムーラングレイスは戦闘破壊されずに受けるダメージも半分になる!さらに破壊された瞬間、【白闘気海豚】の効果発動!墓地の【海皇の狙撃兵】を除外し、自身をチューナーとして守備表示で特殊召喚!」

「なるほど、破壊されても何度でも蘇るモンスターですか。ターン制限も無いとはね。…まぁいいでしょう、どこまで耐えられるか。私はベージとゴルドを手札に戻して墓地から2体のグラファを特殊召喚。先ほど奪った【海皇の竜騎隊】を攻撃表示に変更してバトル!竜騎隊で守備表示の【暗黒界の導師セルリ】に攻撃!さらに1体目のグラファでムーラングレイスに攻撃!」

 

 

―!

 

 

「…クッ…」

 

砺波 LP:6000→5600

 

 

「破壊されなくともダメージは通る。まだだ、私は2体目のグラファでムーラングレイスへ攻撃!」

 

 

砺波 LP:5600→5200

 

 

 

「私はこれでターンエンド。」

 

 

ラン LP:4000

手札:7→6枚

場:【暗黒界の龍神グラファ】【暗黒界の龍神グラファ】【海皇の竜騎隊】

伏せ:2枚

 

 

「…私のターン、ドロー!」

 

 

圧倒的な回転をし、そして全く息切れすらしていないランの姿に、先ほどまでの怒りはいつの間にか消え去っていた。今まで自分や鷹峰が培ってきた歴戦の「モノ」を、この少女は当たり前のようにその幼い体に宿している。それは到底こんな年齢の子どもが抑えきれるはずがないのに。

 

…今あったのは、目の前の少女への畏怖。それは、得体の知れない者への畏怖に他ならないのだから。

 

 

「私は魔法カード【貪欲な壷】を発動!【たつのこ】、【海皇子ネプトアビス】、【深海のディーヴァ】、【水精鱗―メガロアビス】、【竜宮の白タウナギ】をデッキに戻して2枚ドロー!」

 

 

それでもデュエルを投げ出さないのは、彼が王者であるからだろう。畏怖を感じた程度で逃げ出すのは、もはや恥でしかない。それに、王者とは勝ってこその称号、いくら【黒翼】と【紫魔】に勝ったとは言え、そう易々と負けてやる気は無い。

 

 

「速攻魔法【ツインツイスター】を発動!手札1枚をコストにあなたの2枚の伏せカードを破壊!」

「ほう、確実に効果を通す気ですか。」

 

 

しかし、そんな砺波を気にも留めずに飄々と言うラン。確かに、相手の布陣は強力だ。攻撃力3000が2体、これを正面突破することは確かに難しいことではあるが…

 

 

「では、参りましょう!」

 

 

何も、戦闘で正面突破することだけが手ではない。ランがグラファの破壊効果で一気に片付けようとしたように、砺波もそれができ、それを今召喚するために動いているのだから。

 

 

「私は先ほど墓地へ送った【フィッシュボーグ‐プランター】の効果発動!1ターンに1度、このカードが墓地に存在する時に1度だけ、私はデッキの1番上のカードを墓地へ送り、それが水属性だった場合に墓地からこのカードを特殊召喚することができる!」

 

 

そうして、デッキトップを迷うことなく墓地へ送る砺波。それは、水属性モンスターを上手く墓地へ送ることができれば、毎ターンのように復活が出来る効果。しかし、水属性モンスター以外のカードが墓地へ行ってしまえば、二度と復活は出来ない諸刃の剣。

 

これは自身のデッキとの確率の戦いでもあるが、歴戦のデュエリストにはデッキが従うかのように応えてくれる。それは、砺波とて例外ではない。

 

―墓地へ送ったデッキトップのソレは、当然のように水属性モンスターだった。

 

 

「墓地へ送られたのは水属性の【フィッシュボーグ‐ランチャー】!私は【フィッシュボーグ‐プランター】を墓地より特殊召喚し、レベル2の【フィッシュボーグ‐プランター】に、チューナーとなっているレベル6の【白闘気海豚】をチューニング!」

 

 

大海を遊ぶ白き姿が6つの光輪に変わり、その中を2つの光球が駆け抜けていく。シンクロ召喚特有のエフェクトにより、砺波の背後に光が弾け…

 

―呼び出すは、自身が【白鯨】と呼ばれるようになったルーツ。

 

 

「悠久を生きる白き潮、大いなる海原から輪廻を巡れ!シンクロ召喚!現れよレベル8、【白闘気白鯨(ホワイトオーラ・ホエール)】!」

 

 

―!

 

 

そうして、圧倒的巨体を持つ白き鯨が砺波の場に現れた。それは、長き時を共に戦い抜いてきた姿で、見る者全てを圧倒することだろう。そしてその効果は、シンクロ召喚成功時にこそ真価を発揮する。

 

 

白闘気白鯨(ホワイトオーラ・ホエール)】レベル8

ATK/2800 DEF/2000

 

 

「【白闘気白鯨】の効果発動!シンクロ召喚成功時、相手の表側モンスターを…全て破壊する!」

 

 

―!

 

 

そして激流を起こして白き巨体が荒々しく吼え、それに飲み込まれたランのモンスター達は成す術なく砕け散っていった。強力なリセット効果をもつこの白鯨は、まさに切り札と呼ぶに相応しく、その激流はランを守る者が場に存在できないほど。

 

 

「これが噂に聞く【白鯨】そのもの…なるほど、確かに美しいモンスターだ。」

「まだだ!私は【強欲で貪欲な壷】を発動し、デッキから10枚を裏側で除外して2枚ドロー!【死者蘇生】を発動して墓地から【白闘気海豚】を蘇生する!これで終わりです!バトル、【白闘気白鯨】でダイレクトアタック!」

 

 

そして、ランに襲い掛かろうとする白き巨体のモンスター。この後に自分の控えているモンスター達の攻撃が通ればそのまま自分の勝ち。Exデッキを禁じたことがなんなのだ、そんな者は王者を相手にする資格は無い。砺波はそう確信していた。

 

しかしそんな砺波をランは…

 

 

「…だから不注意だと言ったでしょう?手札の【バトルフェーダー】の効果発動。攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる。」

「なんだと?…そんなものを残しているとは。…私はカードを1枚伏せてターンエンド。」

 

 

砺波 LP:5200

手札:2→1枚

場【白闘気白鯨】【白闘気海豚】【氷霊神ムーラングレイス】

伏せ:1枚

 

 

「いやはや、なんというか。砺波さん、確かにあなたは王者でしたね。憐造さんの方は早々に諦めてしまわれましたので、とてもつまらない決闘でしたが、今回はまぁそれなりに面白い決闘が出来たと言ってあげましょう。」

「…どこまで私を格下に…現に今、この場は私が有利なんですが。」

 

 

確かに、ランのLPは削れなかったものの、砺波の場には倒されても蘇るモンスターが2体。墓地にも蘇生に必要な水属性が残っており、相手の破壊効果を持つグラファも3枚使い切っている。そして自分には伏せカードもあり、先程のような展開をされても、先程と同じように耐えきれ、ムーラングレイスの破壊によるバトルフェイズスキップが入ったとしても次の展開で逆転でき、持久戦に心得のある砺波はその次でも確実に勝てる自信があった。

 

―そんなもの、無きに等しいことに変わりないのだが。

 

そんなランの視線に、砺波は気付いてはいない。いや、その鋭い視線に気付かないようにしている。

 

 

「私のターン、ドロー。【暗黒界の門】の効果発動。墓地のセルリを除外、手札のゴルドを捨てて1枚ドロー。自身の効果でゴルドを特殊召喚。」

 

 

そして、自分のターンが来たランは、早々にそれだけ行うと一度手を止めた。それを不信に感じた砺波が怪訝そうな顔をしてきたが、次の瞬間にランはクスクスと笑い始める。まるでもう我慢できずに堪えきれなくなった子のように。

 

 

「…何がおかしいのです?」

「いえ…まさか王者ともあろうものが、褒めた瞬間に気を抜いたのがまた傑作で。」

「…ではあなたはこれを突破できるとでも?」

「突破?何を言っているんですか。あなたじゃあるまいし、同じ轍を踏むとお思いで?」

「く…」

 

 

もう何度目かもわからない、なんとも上から目線の言い方ではあったが、しかし何故か砺波はもうそのことに関して言い返せていなかった。

 

それは、無意識のうちにランを認めてしまっていることを意味しているのだが…当の砺波はそれに気付いてもいなければ、違和感を感じてすらいない様子で。

 

 

 

「…このターンで終わりにしますとも。【二重召喚】を発動し、私は2体のモンスターをリリース!」

「なっ!?こ、ここでアドバンス召喚だと!?」

 

 

 

2体のモンスターが渦を纏ったことに、驚きを隠せないようすの砺波。

 

何せ、てっきりまたグラファが蘇るのではと思っていたために身構えたというのに…しかし、ランはその応対すら嘲笑うかのようにして手札から1枚のカードを取ると、二つの生贄を喰らわせてそれを出現させんとするのみ。

 

ランの宣言により天に召されて行く二つの悪魔が、煌々と輝き闇を光らせ…

 

 

 

 

「現れろ、レベル8!【The suppression PLUTO】!」

 

 

 

―!

 

 

 

暗黒よりも暗き者、漆黒よりも深き者。

 

途絶えぬ叫びをその身に纏い、光すら飲み込む闇夜の化身。空を超え、天を覆い、宙の深層に佇むまるで『冥の星』。

 

それは虚無なる星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。

 

ランの場に現れたのは、そんな天に浮かぶ星すら飲み込むのではないかという漆黒の悪魔。

 

それはまるで、星そのものの荒ぶりを1体の悪魔に押し固めたような得も言われぬ恐怖を駄々漏れにさせながら降臨し…

 

 

 

【The suppression PLUTO】レベル8

ATK/2600→2900 DEF/2000→2300

 

 

 

「な、何だこのモンスターは!?」

 

 

狼狽える声を砺波は隠せず。

 

しかし、それもそのはず。王者となるまでのこれまで、そして王者となってから今までの長い長いデュエル生活においても、こんな得体の知れぬモンスターなど砺波は見たことが無いのだ。

 

全くの未知なるモンスターを前にして、もはやその姿は王者では無くなっているようにも見え…無意識に体が怯え、漏れ出す恐怖に触れていることがただただ怖い。そう訴えているかのような砺波の表情は、こんな感情など今まで味わったことも無いと言わんばかりに震えていて…

 

しかしランはといえば、目の前の悪魔を見て得意げに微笑んでいるだけではないか。

 

 

 

「フフ…燦然と輝くプラネットの一球、私は【The suppression PLUTO】の効果発動!1ターンに1度、カード名を宣言!それがあなたの手札にある場合、私は2つの効果のうち1つを使える!」

「なっ、見てもいないのに私の手札を当てることなど出来るはずがないだろう!?」

「それはどうでしょう。あなたの手札など、私にとっては自分が見ているかのように見えるのだから!」

「なんだと!?」

 

 

 

そして、信じられない言葉が砺波を襲う。

 

非公開情報であるはずの相手の手札すら、この少女からすれば公然公開されているにも等しいというその言葉。およそ使ったカードから残りの手札の予想は付いたとしても、デュエルでまだ使用していないカードや裏側で除外されたカード、そしてこの世に存在するカードの選択肢を含めて、砺波の手札にある1枚には途方も無い可能性があるというのに…

 

そんな天文学的な確率をかいくぐって、今まさにこの『冥の星』の恐るべき効果を発動せんとしているランを前にして、もはや砺波の心臓は張り裂けそうに痛くなっているだけ。

 

…一体、自分は何を相手にデュエルをしていたのだ。これは、関わってはいけない存在なのではなかろうか、と。

 

そんな恐怖に囚われている砺波を前に、静かにランは続けるのみ。

 

 

 

「…フッ、流石は王者と呼ばれている者。耐え切れれば逆転へと繋げたのですね。まぁそれもすでに手遅れですが。…私が宣言するのは…」

 

 

 

そして、ランが高らかに宣言する…

 

 

ーその、名は…

 

 

 

 

 

 

「【深海のディーヴァ】!」

「ば、馬鹿な!?そ、そんなことが!?」

 

 

 

砺波は、手札で逆転を虎視眈々と狙っていた1枚のカードに視線を落とし…そして、そのあまりの衝撃に強く心臓を撃たれた。

 

…それは、デュエル開始にも使ったモンスター。

 

確かに砺波の手札にそんするソレは、これまで幾度となく砺波を救い、そして幾度となく砺波を勝利へと導いた歌姫だと言うのに…

 

今ではソレが、勝利への道を閉ざした。これで次のターン、逆転へと繋げることができたというのに…もう砺波の心からは、その勝てるヴィジョンが消えていた。まるで、ランの宣言によって砺波の心が勝つことを放棄してしまったかのように。

 

―自分の手に負えないこの少女は、文字通り次元が違ったのだから。

 

 

 

「PLUTOの効果発動!私は【白闘気白鯨】のコントロールを得る!」

「あ…あぁ…あぁぁ…」

 

 

 

そして、自身の象徴とも呼べるモンスターを奪われ、敵対する自分の「名」そのものが今、自分に牙を向いている光景に、もはや王者からはすでに闘気など消えていた。しかし、それでもランはまだ手を止めずに動き続ける。

 

 

 

「ベージを召喚し手札に戻してグラファを蘇生。3枚目の【暗黒界の取引】発動。お互いに1枚引いて1枚捨てる。ベージを捨てて特殊召喚し、戻して2体目のグラファを蘇生。【死者蘇生】を発動し、あなたの墓地から邪魔な水属性の【フィッシュボーグ‐ランチャー】を貰う。」

「そんな…ばかな…」

「最後に速攻魔法【サイクロン】を発動。あなたの伏せカード、【波紋のバリア―ウェーブフォース】を破壊させて貰います。」

 

 

 

手札のみならず、易々と伏せカードまでを言い当てて破壊するラン。流石にもう抵抗する気も無くなったのか、砺波はされるがままになっている。

 

 

 

「ではバトルと行きましょう。PLUTOで【白闘気海豚】へ攻撃!」

 

 

―!

 

 

砺波 LP:5200→4700

 

 

そして、冥王の天撃が白き姿へと襲い掛かり、為す術なく破壊されてしまった。なんとか砺波は己に残った最後の意識で、もう何度目かも分からぬ【白闘気海豚】の効果を使うものの、その声に覇気などは無く…

 

 

 

「ホ、【白闘気海豚】の効果で墓地の【フィッシュボーグ・プランター】を除外して守備表示で…」

「無駄な足掻きを。あなたから奪った【白闘気白鯨】で、守備表示の【白闘気海豚】へ攻撃!【白闘気白鯨】が攻撃する場合、貫通ダメージを与える!」

 

 

―!

 

 

砺波 LP:4700→2900

 

 

 

続いて、敵に奪われた己の「名」にまで攻撃を受ける砺波。常に信頼を置いていた自身の象徴が、よもや牙を剥く日が来ようなど思っても見なかったのだろう、その一撃が確実に砺波の心を抉っていた。すでに腕はだらしなく垂れ下がり、戦う覇気など微塵もない。

 

 

「グラファでムーラングレイスに攻撃!」

 

砺波 LP:2900→2700

 

 

そしてじわじわとLPが削られていくその光景。

 

王者と呼ばれた歴戦の勇士が、心を折られている姿など第三者は絶対に信じることはしないだろう。しかし、それは今確かに起こっていることであって…

 

 

 

「これで終わりですね。【暗黒界の龍神グラファ】で、ダイレクトアタック」

 

 

―!

 

 

 

そうして、ランの宣言により最後の一撃が砺波を今まさに襲わんと迫る。

 

 

暗き波動が闇となり、暗黒の淵へと吹き飛ばす咆哮。

 

 

そんな攻撃に砺波の眼は、迫り来る悪魔の一撃を…

 

 

 

 

 

ーただ虚ろな目で、見ているだけだった。

 

 

 

 

 

 

砺波 LP:2700→0(‐300)

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「…つまらない決闘でした。やはり鷹峰さん、あなただけです。私を満足させてくれたのは。」

 

 

スタジアムの外で待っていたのだろうか。ランが、入口にもたれ掛かって煙草を吸っていた鷹峰に話しかける。鷹峰も、煙草を一吸いして煙を吐き出し終わると同時に言った。

 

 

 

「…砺波は…潰れちまったか?」

「さぁ?もう興味ありません。憐造さんも砺波さんも、期待していた割にはあの程度とは。」

「カカッ、俺もあいつらも同じくれーの強さだったろが。」

 

 

渇いた笑いを響かせて、鷹峰は己と同じ高みにいた二人を思い出す。王者と呼ばれていても、こんな少女に手も足も出ずに負けてしまうのだ。それを他の二人は耐え切れなかったのだろう。

 

…遥か高みに上り詰め、本気にさせてくれる奴など居ないと思っていた所で、こんなに面白い奴が突然現れたというのに。勿体無い奴らだ、そう言いたげな顔をして。

 

 

 

「全然違います。あの人達は所詮あそこまでの決闘者でしたが、鷹峰さんは違う。今ではもう【紫魔】と【白鯨】など足元にも及ばないくらいでしょう?」

「おいおい、買いかぶりすぎだぜ?俺もあいつも、皆ただの老害でぃ。」

「何を言いますやら。今まででもあなただけですよ、本気で潰しにかかった私相手に楽しんで、その場で進化…いえ、ランクアップし始めた癖に。」

「誰が上手いこと言えって言ったんだよ。…まぁ、砺波も人の子ってことだ。バケモンの相手は…勤まんなかったってこった。ったく、つまんねぇもんだ。」

 

 

 

鷹峰とて、確かにこの化物を相手にしたのは事実。

 

しかし【黒翼】には心の折れた様子もなく、ただ飄々としているだけだ。鷹峰がランと行った決闘自体に、砺波との差異などなく、ただあったのは、圧倒的恐怖を与えてくるこの化物に対して、楽しめたか折れたか、それだけのこと。

 

そしてその結果、砺波と憐造は折れた。

 

それを知った鷹峰の心中は何を思うのかを知る者は本人以外に居らず、またランも他の二人に関してはもうどうでもよくなっている様子で…

 

 

 

「ふふ、私がこの町を離れる時までお願いしますよ?何せ、化物の相手は化物しか勤まらないんでしょう?」

「カカッ、若いやつは威勢がいいこった。こんなジジイをお前さんと一緒にすんじゃねぇってんだ。」

「何を言いますか。私に感化されたとは言え、ここまで自力で上がってきた人間が、まさか人のままでいられるとお思いで?」

「ケッ、違いねぇ。」

「では早く行きましょう。不完全燃焼で今にも始めたいところですからね。」

「今度は何でくるんでぃ?俺は何で行こうか。」

「さてね…フフッ、あぁ楽しみだ。」

「あぁ、楽しみなこった、カッカッカッカッカ…」

 

 

 

そう言って、とても楽しそうにしているランと、鷹峰の渇いた笑いが、ただ虚空に吸い込まれて消えていった。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「そんな…馬鹿な…Exデッキも使わずに…あんな…」

 

デュエルスタジアムの一角で、膝を突いてうなだれている砺波。その心は折れ、表情は絶望に染まっていた。

 

完全に舐められていた、王者である自分を。ただ、あの女は自分が楽しむためだけに王者を利用して、Exデッキを使わないという暴挙も自分に課したハンディキャップ。恐怖の根源が立ち去ったが故に、悲しみ以上に、怒りが再燃してきてしまう。

 

しかしそれでも、なお圧倒されてしまったことには変わりないが。

 

 

「認めない…Exデッキを使わないデュエリストなど…私は認めない…」

 

 

認めたくない。その思いだけが、砺波の心をぎりぎり繋ぎとめ、そして間違った怒りだけが、砺波の体を何とか立ち上がらせていた。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

時を同じくして…

 

薄暗い部屋、荒れ放題の空間。そしてそれ以上に、絶望に囚われている少年が一人。

 

 

「ゆうら。行くぞ。」

「…」

「ゆーらぁ…」

「…」

 

唯一無二の友の呼びかけにも、今にも泣きそうな少女の呼びかけにも応じず、虚ろな目で空虚な空間だけを見ている少年。その目は、今にも生きることを諦めてしまいそう。それを意に介さず、友が言う。

 

 

「じじいが話していたのをたまたま聞いた。」

「…」

「Exデッキを使わなくても、とてつもなく強い奴がいると。」

 

 

生きることすら諦めかねない少年に、友が差し出す僅かな期待。すべてを無くした少年に、わずかに舞い込む生への希望。

 

 

「…ぇ」

 

 

搾り出すような声を枯らして、微かなモノにしがみつく。

 

 

「じじいのところへ行くぞ。」

 

 

一人の男の絶望が、一人の子どもの希望となったことを、この時に知る者は、まだ誰も居らず。

 

 

―…

 

 

 

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