遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep110「閑話―劉玄斎、中編」

最愛の女性が消えてから、1~2年ほど経ってもなお劉玄斎は荒れていた。

 

 

 

「若頭ぁ!ぼ、『暴双龍』のカチコミです!」

「オヤジを逃がせ!あのオカマの用心棒はどうした!?」

「ハコはノされました!」

「くそっ!使えねぇ用心棒だな!ッ!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

「若ぁ!」

 

 

『ファーザー!『暴双龍』が現れました!』

「撃ち殺せぇ!オレのファミリーに舐めた真似した馬鹿をさっさと撃ち殺さねぇか!」

『だ、ダメです!『逆鱗』の奴、いくら撃っても死にませ………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』

「お、おい!どうした!返事をしねぇか!」

『…』

 

 

 

ヤクザやマフィア相手に暴力で暴れ回り、銃で撃たれようとも刀で切られようとも微塵も怯まず。

 

…それはまるで『死にたがり』の所業。

 

徹底的という表現が生ぬるいとさえ感じるほどに、行き場のない鬱憤を暴力という仕方でしか発散できぬ劉玄斎は、弟分である木蓮を連れて毎日のように裏社会にて非合法な人間達を暴力で叩きのめし続けていたのだ。

 

しかし、自ら死へと向かっているような彼のその蛮行も、その強靭な肉体が邪魔をして一行に彼の命の灯を消すことはなかった。

 

そう、自ら傷付きに向かう癖に、裏社会の誰も『暴力』では狂乱した龍を仕留めることはできなかった。

 

 

 

 

また…

 

 

 

「劉の兄貴…まだ飲むのか?そろそろ体壊しちまうぜ?」

「…あぁ?うるせぇよ…俺の事ぁほっとけ…」

 

 

 

夜は夜で、最愛の女性を失った酷い喪失感から目を背ける為に。

 

大量かつ高純度の酒を、意識がなくなるまで呷り続けむりやり眠るという所業を繰り返し…

 

なまじ体躯が強靭かつ大柄な為に、常人には取り込めない濃度のアルコールを毎日のように飲み続ける彼の体は、悲鳴を通り越した悲痛な姿となっているのにも関わらず。本人はソレを、全く止める気配を見せなかったのだ。

 

 

 

更に…

 

 

 

「バトルだぁ!ブラスター!テンペスト!タイダル!レドックス!ダイレクトアタック!」

「ひっ、ひぃぃぃぃい!?」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

対戦相手 LP:2000→0

 

 

 

 

試合でも、相手との対話を望むのではなく…

 

自らの鬱憤を晴らすかのような暴力的なデュエルにて、勝敗が決していると言うのに追い討ちをかけるかのごとく完膚なきまでに相手を叩きのめすデュエルをしたかと思えば。

 

 

 

―『どうしたどうした!デッキに振り回されてるぜ小龍!【バハムート・シャーク】でダイレクトアタックだオラぁ!』

 

 

―『劉玄斎…かつての面影がまるで無いな。【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】で、【トライホーン・ドラゴン】に攻撃!』

 

 

―『今の君はまるで怖くない。【超電導戦機インぺリオン・マグナム】でダイレクトアタック。』

 

 

 

その『征竜』の力を持て余す事も最近は増え、そのポテンシャルを上手く引き出すコトが出来ずにデッキに振り回され、自滅を繰り返す日々を劉玄斎は送り続けていた。

 

…それは格下を甚振っているようにも見えるデュエル。同等もしくは格上には歯が立たないようにも見えるデュエル。

 

まさに典型的な『小物』に成り果ててしまった今の劉玄斎のプロとしての戦績は、一言で表せば『酷い』の一言であり…

 

そんな今の彼の姿は、少し前まで次期【王者】筆頭と呼ばれルーキーたちの誰よりも早い覚醒を見せていたとは到底思えぬ、劉玄斎に期待を寄せていた多くのファン達からすればあまりの有様と成り果ててしまっていて。

 

そう、その当時の彼は、調子に波はあれどかつてエクシーズ王者【黒猫】にすら土をつけたほどのデュエルとは打って変わって…

 

彼だけに許されたはずの『征竜』を扱いきれずに自滅していくその姿に、多くのファンは試合の度に落胆と溜息を吐き続ける日々を余儀なくされていたのだ。

 

…かつてはルーキーながら【王者】の一人に土をつけた、若手筆頭だったはずの男のこの落ちぶれよう。

 

まだギリギリで世界ランクの上位にしがみ付いているとは言え、この調子では後1年もすれば世界ランキングも一気に下位へと下げてしまうことだろう…と、この時のファン達やその他のプロ達の中には、謎の不調に喘ぐ大きな龍を見限る者も出始める始末で…

 

 

 

「無様だなぁトカゲ野郎。」

「あぁ?砺波…テメェ、死にてぇんなら他所行きなぁ…今は…手加減できそうにねぇんだからよぉ…」

「うるせぇよ、元から手加減なんて器用な真似できねぇ癖に。…お前がここで潰れちまっても、俺は構わず置いてくぜ。俺はやる………次こそ【白夜】のジジイに引導渡して、シンクロ王者の座を無理矢理奪ってやんだ。お前はそこで一生ウジウジしてやがれ。俺は構わず先に行く。」

「…」

 

 

 

だからこそ、悪友からの言葉も今の劉玄斎には届かない。

 

突発的な力によって目覚めた自分と違い、順当に覚醒しメキメキと力を上げついには【王者】に届きえる力を得始めた他の仲間達を他所に…劉玄斎はその堕落を止められることなく、失意と喪失の狭間にて最愛の女性を想い続けるも叶わぬ日々に、その若い時間をただただ無駄に過ごし続けるだけ。

 

龍は落ちた…

 

いずれ天上に昇りうるとされた小さき龍が、世間から多大なる期待を寄せられていたのとは裏腹に。その身を地に失墜させてしまった今の大きな龍の有様は、とてもじゃないが人間としても堕落しきったそれはそれは無様な有様であったに違いないことだろう。

 

…このまま、『逆鱗』と呼ばれたデュエリストは歴史に名を残すことなく消えていく。

 

その当時は、誰もがそう感じていた。いや、劉玄斎自身だってそう思っていただろう。

 

何しろ、たった一人の女性を失ったという、ただソレだけの理由で…どうしてプロになったのかという、その根源たる理由すらも忘れただただ苦しみ続ける日々を送る今の彼はあまりに無様であまりに愚か。

 

…天宮寺 鷹峰がよく女性トラブルを起こすのも無理はない。女と言うのは、それほどまでに男を狂わせる。

 

まぁ、劉玄斎の場合は、最愛の女性を失ったショックが大きすぎた所為か、その他の女に向かう気持ちすら失ってしまっているのだから、その鬱憤を晴らすために暴力を仕掛けられるヤクザやマフィア達からすれば堪ったものではないのだが…

 

 

…もう、龍が飛ぶ事は無いのか。

 

 

何にも成れず、何も成せず…

 

他のルーキー達が輝かしい成績を残し続ける一方で、一度失墜してしまった龍は再び飛ぶ事など叶わないと…

 

このまま、歴史の影に埋もれていく有象無象のように…誰の記憶にも残らないような、微々たる存在と成り果ててしまうのだろうかと…

 

その当時の人々は、誰もがそう感じてしまっていて―

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

そんな劉玄斎に転機が訪れたのは、一体いつだったのか。

 

 

 

 

「シャハハハハ、こりゃまた酷ぇ有様だなぁ。どうしちまったてんだ?なぁ小龍よぉ。」

「大和の爺さん…」

 

 

 

とある日。

 

荒れ果てた劉玄斎の自室へと訪れた一人の男が、酒に塗れて自分を見失っている劉玄斎へとそう声をかけていた。

 

…ソレはおよそ、こんな荒れた汚い部屋に訪れてもいいような人物では断じてない。

 

そう、散らかった劉玄斎の部屋現れたのは他でもなく…

 

纏う雰囲気からして強者の面持ち、しかして年老いた猫のように鋭くも乾いた笑いを響かせた一人の老人。

 

真っ黒なトレンチコートがよく似合う、歴戦を感じさせた決闘界における『最強』の一人であり…

 

シンクロ王者【白夜】と並ぶ『老』の決闘者の中でも、最も好戦的な御仁として知られる―

 

 

 

―現エクシーズ王者【黒猫】、皇 大和

 

 

 

かつて、一度はその経歴に土をつけられた男の、その落ちに落ちた姿をわざわざ見に来た【黒猫】の猫のような鋭い眼には。一体、今の劉玄斎の姿はどのようにして映りこんでいるというのだろう。

 

酒に溺れ、暴力で自我を保ち…

 

しかし埋めようの無い喪失感で自分を見失い、果ては自分のデッキすら満足に操るコトが出来なくなってしまった小さき龍。

 

そんな、プロとしての頂きから滑落してしまった今の酷い有様の劉玄斎に対し…

 

エクシーズ王者【黒猫】は、ただただ静かにその口を開くだけで…

 

 

 

「俺の後釜にゃあ、てっきりお前さんか鷹峰のアホが座ると思ってたのになぁ。一体全体どうしちまったってんだ?」

「俺を…叱りに来たのかぁ?」

「シャハハ!誰がンな面倒な事しにくっかよ!生憎、俺ぁお前さんの保護者でもなんでもねぇ。手のかかるガキは、鷹峰の一羽だけで充分だぜ。」

「じゃあ…何しに来たってんだ…」

「ま、ある奴によ、ちと様子を見て来いって頼まれてな。…お前さん、綿貫のジジイをあんま心配させるんじゃねーぜ?今のお前さんが酷ぇ有様だってんのは見りゃ分かんだが………けどよ、マフィア相手に暴れ回るぐれぇ力有り余ってンなら、デュエルに全部ぶつけりゃいいだけじゃねぇのか?」

「けど…俺ぁ…俺と、ダーク・アームドだけじゃあ…征竜を押さえらんなくなっちまって…」

「シャハハ、馬鹿言っちゃあいけねぇよ。マグレでも何でも、この俺に一回土ぃつけた奴が弱くなるなんて事あるわけねぇだろこんちくしょう。若造の癖して憎まれ口叩いてんじゃねぇぞべらぼうめぇ。」

「…」

 

 

 

そんな、遥かな高みからキツめの言葉を打ちおろしてくる【黒猫】の言葉を、劉玄斎はただただ静かに聴いている。

 

…いつもならば、憎まれ口を叩いてくる奴には暴力で返すのが当たり前になっているというのに。

 

目の前の御仁が、確かな歴戦を潜り抜けたエクシーズ王者【黒猫】であることからか…

 

裏社会で恐れられている劉玄斎を持ってしても、今はただただ彼の言葉を静かに受け入れるしか道がない様子ではないか。

 

…そう、おそよ、この世における酸いも甘いも熟知した人物が、今こうしてわざわざ一人のルーキーの為に出向いたのだ。

 

それ故、いくら酒の酔いで体の自由が利かなくとも…それでも、誰からの叱責を受けても聞く耳を持たなかった劉玄斎が。あの誰からの言葉も聞き入れなかった劉玄斎が。王者【黒猫】の言葉には、どうにかその耳を傾け続けるのか。

 

…それが、一度土をつけた人物だとは言え。

 

【王者】との歴戦の差は、勢いだけで埋められるような代物ではない。現に、絶頂期でも劉玄斎は決闘法による【王者】交代の資格を達成できなかったのだから…

 

一度土をつけられてもなお調子を崩さず、今も王座を守り続けている【黒猫】の存在感は巨大なる体躯を持った小さき龍にも全く怯むことなく、ただただ言葉を続けるだけで―

 

 

 

「なぁ小龍よぉ…お前さんは、なんでプロになったんだ?」

「俺が…プロになった理由………わかってる、わかってんだ…けど、それでもよぉ…俺は…俺はぁ…」

「おぅおぅ、こりゃ随分と重症なこった…なら、お前さんがそれでもデュエルを続ける理由ってのは何なんだ?」

「…あ?」

「そんだけ落ちぶれても、それでもみっともなくデュエルを続けてるってこたぁ…大方、テメェのデュエルを『誰か』に見せたいってことなんじゃあねぇのか?」

「…ッ、それは…」

 

 

 

【黒猫】から伝えられる言葉…

 

それは酔った劉玄斎の意識を、再びハッキリさせるには充分過ぎる言葉となりて深く龍の心に突き刺さる。

 

…まるで図星か核心か。

 

劉玄斎にとって、目を背けようとしていたその深層まで全く容赦の無い爪を突き立ててくる【黒猫】の鋭い指摘は…劉玄斎からしても、分かっていたようで分かっていなかった事実を彼へと再度わからせる。

 

 

 

「シャハハ、図星かこの野郎?………ま、そこまで気付けたんなら、後は自分でどうにかするこったぜ。鷹峰のアホに言われて来てみたが…どうもお前さんにゃあ、これ以上俺の助言なんて必要ねぇみてぇだしよ。…ンじゃ、そろそろ俺は帰るとすっぜ。この部屋はいい加減、安酒臭くてたまらねぇってんだ。お前さんも飲むならもっと上等な酒にするこった。キメラ・ダーティの1610年物なんてオススメだぜ?」

「…」

「…あぁそうだ、最後に1つだけ、【王者】からのアドバイスだ。………お前さん、『征竜』が操れなくなってきたって言ってたろ?ンなら、お前さんもそろそろ変わる時期が来たってことなんじゃあねぇか?」

「…変わる…時期?」

「おぅ。今まで、極力Exデッキを縛るスタイルで戦ってきたが…けど、お前さんと『逆鱗』だけじゃあ征竜を抑えらんなくなってきたってこたぁ…お前さんも、そろそろ自分の殻をもっと破らなきゃ…スタイルを、変えなきゃいけねぇって、『征竜』がそう言ってんのかもしれねぇなぁ。」

「征竜が…」

「ま、おあつらえ向きに、お前さんの弟分はカードデザイナーと来たもんだ。だからよ、今一度よくよく考えてみるこったぜ?お前さんのデュエルは…一体ぇ、誰に見せてぇモンなのかってのを…お前さんのソレは、今みてぇな無様なモンでいいのかってことを…よ。」

「大和の爺さん…」

 

 

 

そのまま…

 

ただ一方的に、ただ高圧的に。

 

言いたい事を言い終えたのか、エクシーズ王者【黒猫】は猫のように静かに音も立てずに部屋から出て行って。

 

 

 

「俺のデュエル…俺の姿を………俺を…見せるには…」

 

 

 

そして、一人部屋に残された劉玄斎は…

 

【黒猫】に言われた言葉を反芻するように、酒の酔いでグルグル回る思考の中でも一つの『何か』を確かに考えている様子で―

 

 

 

 

 

 

 

そうして…

 

 

 

 

 

 

…劉玄斎に『転機』が訪れたのは、最愛の女性が消えてから実に3年の月日が経ってからの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

『レベル7のタイダルとレドックスでオーバーレイィ!燃えろ、真紅の玉鋼ぇ!黒き焔よ大地を焦がせぇ!エクシーズ召かぁぁん!来やがれ、ランク7!【真紅眼の鋼炎竜】!』

 

 

 

【真紅眼の鋼炎竜】ランク7

ATK/2800 DEF/2400

 

 

 

『ブラスターとレドックス、2体の征竜でオーバーレイィ!疾れ、機鉄の天竜よぉ!朧の現と空を舞えぇ!エクシーズ召かぁぁん!現れろ、ランク7!【幻獣機ドラゴサック】!』

 

 

 

【幻獣機ドラゴサック】ランク7

ATK/2600 DEF/2200

 

 

 

『タイダルとテンペスト、2体の征竜でオーバーレイィ!駆けろ、黒き龍の騎士ぃ!五つの蹄よ大地を穿てぇ!エクシーズ召かぁぁん!現れろ、ランク7!【黒溶龍騎ヴォルニゲシュ】!』

 

 

 

【黒溶龍騎ヴォルニゲシュ】ランク7

ATK/2500 DEF/2100

 

 

 

『ブラスターとテンペスト、2体の征竜でオーバーレイィ!飛べ、疾風切り裂く迅雷よぉ!楯突く全てを突き抜けろぉ!エクシーズ召かぁぁん!現れろ、ランク7!【迅雷の騎士ガイアドラグーン】!』

 

 

 

【迅雷の騎士ガイアドラグーン】ランク7

ATK/2600 DEF/2100

 

 

 

 

 

いつぞやの荒れっぷりから一転。

 

それまでの惨敗が嘘のように、再起した劉玄斎はまるで吹っ切ったかのようにしてその戦闘スタイルを今までのモノから『一新』し、再び決闘界にて暴れ始めたのだ。

 

…それはこれまでの、Exデッキを極力縛り自らを鼓舞するモノから大きく反転。

 

これまでも、窮地で『逆鱗』やその他のエクシーズモンスターを多少使う事はあったとは言え。それでも、征竜と、自身のエクシーズのEx適正をフルに活かすスタイルへと…

 

 

 

『いくぜぇ!俺ぁブラスター、タイダル、テンペスト、レドックス!4体の征竜でオーバーレイィ!怒りに震える逆鱗よぉ、歯向かう愚者を消し飛ばせぇ!』

 

 

 

そう、征竜の暴力的なまでの回転を、『逆鱗』以外にも多くのエクシーズモンスターを咬ませることによって再度従えさせ。

 

征竜だけではなく、これまでの敗北を屈服させるかのごとき爆発的な勝率を、『逆鱗』は再び見せ始めたのだ―

 

 

…それは彼の活躍を信じ、再起を願っていたファン達からすれば願ってもないこと。

 

 

そして、それに呼応するようにして…世界は再度、暴れ狂う大災害の活躍に熱狂し始めた。

 

暴れる4つの災害に振り回されることもなく、そのポテンシャルを大きく引き出し。更に自らのエクシーズという力によって、劉玄斎は再び征竜を無理矢理『屈服』させるという荒技を披露し始めて。

 

それはまさに、彼自身が災害をも超えた文字通り『暴れ狂う大災害』の名の元に―

 

更に激しさを増したその凄まじきデュエルは、再び彼を決闘界の『上』のステージへと押し上げるには充分過ぎる力となりて、みるみる内に世界ランキングを駆け上がらせた。

 

…とは言え、それまで自分自身を鼓舞するためにExデッキを縛っていた戦闘スタイルを、かなぐり捨ててまで戦う彼のその姿に対し。

 

周囲の…特に、古くから『逆鱗』のファンだった者達から、色々な憶測や言葉が投げかけられたのもまた事実なのだが…

 

 

―どうして戦闘スタイルを変えたのか。どうして再び奮起したのか。何故今更プロの世界に戻ってきたのか。

 

 

中には、ここには記せないほどに醜くえげつない言葉もあったことだろう。

 

しかし、それでも劉玄斎はその全ての言葉の一切を気に留める事も無く。それまでの『酷い』戦いぶりが嘘のように、彼は誰が相手でも連戦連勝を続けていった。

 

それはかつての比ではない。むしろ征竜とエクシーズ召喚の凄まじき親和性が、更に彼の暴力性を増すばかりの戦いぶりとなり、まさに『逆鱗』のデュエルは竜の怒りそのモノのようにして、激しいの一言となりながら全世界へと再び彼の活躍が映し出され始めたのは言うまでもなく。

 

 

だからこそ、27歳の時にチャンピオンズ・リーグにて初めて『優勝』を飾った時は…

 

 

『暴れ狂う大災害』の再臨だとして、見事再起を果たした『逆鱗』の復活に世界中が大いに沸き立った。

 

まぁ、その翌年に砺波が【白夜】を倒し新たなシンクロ王者となったり、鷹峰が【黒猫】との師弟対決を制し見事エクシーズ王者へと任命されたりと…

 

劉玄斎が調子を崩している間に、他にも多くの『黄金世代』のルーキーたちが『老』の者達を押しのけ、自分達の時代を築き始めていたのだから…

 

一概に『逆鱗』の活躍だけに世界が熱狂していた訳ではないのだが、それでも劉玄斎の再起を願っていた根強いファン達からの圧倒的な支持は、新たな【王者】となった砺波 浜臣や天宮寺 鷹峰に負けず劣らずの歓声となっていたのだが。

 

 

 

けれども―

 

 

 

『蹴散らせぇ!ダーク・リベリオン!』

『ぶっ飛ばせぇ!ダーク・アームドォ!』

 

―『殴り合い』…世界最強のエクシーズ使い、エクシーズ王者【黒翼】天宮寺 鷹峰との戦い。

 

 

 

『【白闘気白鯨】の効果発動!全ての敵を洗い流す!』

『喰らうかよぉ!墓地の【復活の福音】を除外してドラゴン達を破壊から守る!そんで【崩界の守護竜】発動だぁ!トライホーンをリリースしてテメェの魚共もぶっ潰す!』

 

―『潰し合い』…誇り高き歴戦の王者、シンクロ王者【白鯨】砺波 浜臣との試合。

 

 

 

「【Dragoob D-END】よ!『逆鱗』を消し飛ばすがいい!」

「それがどうしたぁ!【エクシーズ・リボーン】発動だぜぇ!蘇れ、ダーク・アームドォ!」

 

―『殺し合い』…底知れぬ恐怖、融合王者【紫魔】紫魔 憐造との一戦。

 

 

 

再起を果たした『逆鱗』は、およそこれまでの歴史上でも類を見ないほどの壮絶な戦いを世界中へと披露したのだ。

 

それはお互いにLPを投げ捨てながら、正面衝突で殴りあった…

 

それはお互いに相手の手を潰し合い、常に戦況が一転し張り詰めていた…

 

それはお互いに相手の息の根を止めにかかり、一瞬の油断でLPが湯水の如く消え去っていった…

 

 

【王者】達と行ったその3つの試合は、過去に類を見ないほどの『伝説的』な試合となりて世界が大熱狂を起こした。

 

そう、再起を果たし、世界ランキングを再び恐るべき速度で駆け上がった『逆鱗』は、超新星と呼ばれていた3人の新たな【王者】達に、自ら煽るようにして嬉々として戦いを挑んでいったのだ―

 

それは世界中のオーディエンスが熱狂し、文字通りこの星全土が興奮でヒートアップしていたと言っても過言ではない程に…ソレほどまでに盛り上がったデュエルだったと言うことは、最早言うまでも無いことであり…

 

きっと、誰もが思ったはずだ。その試合は、この後の決闘界の歴史の中でも『最高』の試合に数えられるに違いない試合である…と。

 

何しろ、その戦いはまさに互角。

 

【王者】ではない者が、【王者】と同等の実力を持ち…どちらが勝ってもおかしくない戦いを、【王者】でない一人の男がその身一つで成し遂げたのだ。

 

 

だからこそ…

 

 

最初の【白鯨】との『潰し合い』に見事勝利し、次の【紫魔】との『殺し合い』には敗北を喫したものの、しかし最後の【黒翼】との『殴り合い』に真っ向から殴り勝った『逆鱗』は。

 

世間からの大きな声によって、特例中の特例として『4人目の【王者】』として殿堂入りに認定されるという事態にまで発展した。

 

 

…決闘法によれば、【王者】となるには自身のEx適正の【王者】を含む2名の【王者】に『連勝』することが必要だと明記されている。

 

 

まぁ、『その他』にも当人の引退やら死亡やら掟やら誓約やら、決闘法の明記以外にも【王者】になれる条件はまだ『色々』とあるのだが…

 

しかし、この当時。

 

【王者】との『3連戦』という偉業を成し遂げ、しかも【白鯨】に勝ち、【紫魔】に負け、しかし【黒翼】に勝った『逆鱗』は、紛れも無く【王者】と同等、同種、同格の存在と言っても過言ではなかったはず。

 

もし【紫魔】に勝っていたら、もしくは戦う順番が違っていたら。

 

『逆鱗』の劉玄斎は、確実に次のエクシーズ【王者】を名乗っていたに違いないのだから。

 

だからこそ、再び覚醒した『逆鱗』の活躍に熱狂した多くの世間の声は、【決闘世界】をも動かすことになった。

 

…世界ランク1位、『逆鱗』の劉玄斎。

 

他の追随を許さぬその暴虐性。暴れ狂う大災害とまで呼ばれる、【王者】と同じ実力を持つ彼を、特例として4人目の【王者】として認定するという【決闘世界】の声明は…決して、間違っている判断ではなかったはず。

 

また、その【決闘世界】の声明に対し、世界中のファン達が大賛成を示したからこそ―

 

【王者】と同じだけの歓声を浴びながら連戦連勝を重ねる『逆鱗』が、特例として4人目の【王者】となる事に、世間の誰もが反対の意など示しはしなかったのだが…

 

 

 

しかし…

 

 

 

歴史上初となる、『4人目』の王者が誕生するのではないかと世間が多いに賑わったその時であっても―

 

 

 

 

 

―『俺ぁ【王者】になんざならねぇよ!ンなモンに興味ねぇからなぁ!クハハハハハ!』

 

 

 

 

 

『逆鱗』は、自らに用意された【王者】の座を蹴り飛ばしたのだ―

 

 

 

【王者】と同格と呼ばれし者が、自ら王座の席を蹴り飛ばすというその愚業。

 

…一度任命されれば、決闘界の歴史に未来永劫その名を刻めるというその栄誉を。

 

…一度就任すれば、使いきれない金が手元に次々流れ込んでくるというその誘惑を。

 

…一度その座に座れば、絶対的な権力を手にする事が出来るといわれるその名誉を。

 

その、勝者として約束された未来を―

 

あろうことか、『逆鱗』は嬉々として蹴り飛ばしたのだ。

 

果たして、その時の劉玄斎の愚考を一体どれほどの人間が馬鹿にしたことだろう。何しろ、世界中のデュエリストの頂点の座に、『特例』という他に類を見ない特別待遇にて与えられるという、一般人では到底及びもつかない名誉な所業を成し遂げたと言うのに…

 

 

それを、自ら捨て去るなんて、一体どういう思考回路をしているのだろうか…と。

 

 

けれども、そんな『声』などどこ吹く風で。

 

『逆鱗』の劉玄斎は、その【王者】と同格の実力と同等の人気と同量の声援を、余すことなく世間へと向けて発信し続けた。

 

それは下手をすれば、【王者】の面々たちよりも世に顔を出すことが多かったはず。

 

何しろ、【王者】の試合は『特別』なモノとされていることから、注目度は高くとも【王者】自身は一般的な試合に出る事はほぼ無いと言うのに…

 

片や【王者】と同格の男は、自身が世界ランキング第1位ということから、『出禁』となっている決闘市以外の世界中のありとあらゆる大会…試合、トーナメント、リーグ戦、タイトル戦、果ては野良試合までをも、休むことなく繰り広げ続けたのだ。

 

そんな、休み無く自ら嬉々として最前線へと身を投じ続ける彼の事を…王座を踏みつける戦闘狂と、呆れながらもそう呼ぶ者も居た。

 

しかし、下手をすれば【王者】よりもメディアに露出する機会の多かった彼には、【王者】と同じかそれ以上のファンの声も多く着いて回った。

 

それは【王者】よりも戦っている姿を見る機会が多いと言う事もであり、彼が快進撃を続ければ続けるほど。『逆鱗』の高名は【王者】の名にも引けを取らぬモノとして…

 

…そうして、彼は誰にも真似出来ない数々の伝説が打ち立て続けた。

 

 

 

―4年に一度開催されるチャンピオンズ・リーグの『6連覇』。

 

―ゴールデン・デュエルディスク賞『最多』受賞。

 

―世界ランキング『第1位』保持年数歴代最長。

 

―通算『勝率』全プロデュエリスト中トップ。

 

―獲得賞金額史上最大の『賞金王』。

 

―削値LPのデュネス世界記録保持者。

 

―出身国である龍華中央決闘帝国…龍国における、決闘国宝。

 

―【王者】に幾度も勝利した男。

 

―最も多くの【王者】に勝利した男。

 

―etc…etc…

 

 

 

晩年にまで打ち立て続けた彼の偉業は、最早人間技では断じて無く。

 

およそ人間の領域を超えているまでに打ちたて続けたその偉業は、表社会・裏社会関係なく世界中のどこへ行っても『逆鱗』の劉玄斎の名を轟かせる事となりて…雲の上、天上にまで届き得る存在として、世界中に知れ渡った。

 

…それは伝説の3試合だけではない。

 

それ以外にも、幾度も幾度も【王者】と戦い互角の戦いを繰り広げ…【王者】を相手に、勝ったり負けたりとまさに『同格』の存在感を放ち続ける彼の姿は、およそ【王者】と『同じ』存在だとして知らぬ者など居ないとまで謳われたものだ。

 

…一説によると、大会賞金や報奨金などを合わせるとその収入は【王者】にも引けを取らないとまで言われている。

 

だからこそ、【決闘世界】も面子を保つ為に、『逆鱗』に何度も何度も【王者】就任の要請を…いや、命令を下し続けていたと言うのに。

 

その度に『逆鱗』はソレを笑いながら払いのけ、ついには【決闘世界】という巨大なる『組織』の方が根負けしてしまうという状況にまでなってしまったのだ。

 

 

…【決闘世界】でも御しきれない、規格外の存在。

 

 

一体、何故『逆鱗』の劉玄斎にだけそんな無茶な我儘がまかり通ったのかは今となっては定かではないものの…それでも、数々の偉業を次々と打ちたて続け、膨大な収入を得てもなお彼は戦いを止めなかった。

 

また、彼は何故か一向に所帯を持つような事をせず。女に縛られる事も無く、その身1つで日々戦いに明け暮れ続けていた。

 

そう、『逆鱗』の劉玄斎の、その『正妻』の座を狙う女性も当時は多々存在してはいたのだが…

 

しかし、彼は全くと言っていい程『女性』に興味を示すことなかった。浮かび上がった下賎な噂話や疑念や女性の影を、自ら切って捨てるかの如くその悉くを否定し続け…『独り身』を貫き続けているその覚悟は、ある種の伝説となりて今もなお語り継がれていて。

 

 

…けれども、その真相は誰も知らない。

 

 

彼が、戦いの最中もずっと『最愛の女性』を探し続けていたことを。

 

彼が、自分の姿を少しでも多く『最愛の女性』に届くように戦いに明け暮れていたことを。

 

彼が、頑なに【王者】にならないのは…

 

【王者】になれば試合数が減って、自分の姿を多く『届けられなく』なってしまったり、象徴として扱われる為に、自由に行動できなくなったりするからと言う事を。

 

…それは悪友だった『荒くれ者』が、【白鯨】になった時の変わりようを見ているからこその【王者】への拒絶。

 

まぁ、【黒翼】という悪い例も存在はしていたのだが…

 

それでも、【決闘世界】の打診にしたがい『特例』という立場で4人目の【王者】になってしまったとすれば、【黒翼】のような好き勝手な振る舞いは許されず『首輪』を嵌められることになる。

 

それを、劉玄斎はわかっていたからこそ―

 

彼は、戦い続けた。

 

不自由な【王者】などではなく、常に映り続ける最前線で、『最強』のまま戦い続ければきっと愛する女性が世界のどこかで見てくれている…

 

きっと…愛した女性と再会できると…心から、信じて。

 

 

―ずっと、最前線で。

 

―ずっと、頂点で。

 

 

常に戦いの現場に立ち続ける最前線、世界ランキング『第1位』の座にて、【王者】たち以上にTVで自分の戦いを見せ続けようと…

 

 

―俺はここに居る…ここで、戦って居る…と。

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ―

 

 

 

 

 

そんな、悲痛な叫びにも似た、狂ったように戦い続けた勇猛なる龍が…

 

 

 

 

 

 

決闘界を『引退』したのもまた、突然のことであった―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 







次回、「間話ー劉玄斎、後編」

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