遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep113「第2章最終話ー祝福の風」

 

 

 

年も明け、冬も終盤に差し掛かり…すっかり寒さが芯まで届くようになった、とある休日。

 

 

 

「…寒い。何故この寒い中実家に帰らねばらなぬのだ。」

「…文句言うな。俺だって寒いんだ。」

 

 

 

遊良と鷹矢は、鷹矢の父である天宮寺 正鷹に呼び出され…雪の積もった鷹矢の実家への道筋を、寒さゆえか重い足取りで歩んでいた。

 

…しかしその道筋は、いつもの遊良達の『家』から向かうルートではない。

 

そう、遊良と鷹矢が歩いている今のルートは、決闘学園イースト校から直接天宮寺家の本家へと向かう道筋。

 

それも学園を出たばかりの、雪が詰まれた大通りを寒さのせいか重い足取りにて向かい始めたばかりの出だしも出だしであり…それは偏に、今日が休日であると言うのにも関わらず、遊良と鷹矢がイースト校に居たということに他ならない。

 

…けれども、今の彼らの服装は学園の制服では断じてなく。

 

休日の学生らしく私服に身を包み、その上から学園指定のモノではない自前のコートを着ている遊良と鷹矢。そんな彼らの姿から、彼らもまた今日が休日であることをわかっているのは明白の理とも言えるはずで。

 

また、イースト校理事長である元シンクロ王者【白鯨】との修業時は制服着用で指導を受けていることから、遊良と鷹矢が私服を着ていると言うことは本日は修業もなく完全なる休日であるはずだと言うのにも関わらず…

 

では、一体どうして遊良と鷹矢はこんな修業も無いであろう休日に、自宅からではなくイースト校から私服で出てきて鷹矢の実家へと向かっているのか。

 

それには、先の決闘市に起こった『騒動』が深く関係してしまっていて―

 

 

 

「そう言えば『家』はまだ直らんのか?そろそろ修復も終わるはずだろう?」

「昨日業者から連絡きてた。来週にはまた住めるようになるってさ。無くなった物とかも全部保障されるって。盗られたカードとかも全部返還されたし…お金はまぁ、盗られた額よりも多い額が支払われたから、当面の生活費は問題なさそうだ。」

「…全く、ハイエナ共の所為で学園に寝泊りする羽目になるとはいい迷惑だ。」

「…そうだな。」

 

 

 

そう、遊良と鷹矢がイースト校から私服で出てきたのには、先の決闘市に起こった『騒動』が深く関係している。

 

 

 

…あの突然の『指名手配』から始まった、決闘市に起こった『騒動』から既に2ヶ月近くが経った。

 

 

 

あの日、何気ない日常を過ごしていた遊良の身に…TVのニュースが、決闘市で頻発している『失踪事件』の容疑者として警察が天城 遊良を『全国指名手配』したと報道した。

 

無論、身に覚えもない遊良からすれば、ソレはあまりに突拍子もない出来事であった為に、遊良と鷹矢とルキは砺波の指示の元、決闘市から一時脱出しようとして行動を起こしたりもしたのだが…

 

…しかし、遊良と鷹矢とルキと砺波が、追われながらも決闘市の範囲から一歩外へと出たその直後。

 

突然、決闘市全域に『赤い重光』が立ち昇ったかと思うと。決闘市に住む全ての人間が、文字通り『消滅』してしまうという事象が起こってしまったのだ。

 

 

 

…そして、邂逅した。

 

 

 

決闘市にて『失踪事件』を起こしていた犯人、決闘市の住民を全て『消滅』させた張本人…

 

そう、天城 遊良と同じ顔、同じ声、同じ姿、同じ気配、同じ雰囲気を持った人物…

 

前の世界から来たという、『アマギ ユーラ』と遊良は邂逅を果たしたのだ。

 

 

…そして、遊良は戦った。

 

 

この世界では既に忘れ去られた太古の召喚法である、『儀式召喚』を扱ってくるアマギ ユーラと、真正面からぶつかって。

 

そして、『邪神』と呼ばれる神のカードまで繰り出してきた荒ぶるアマギ ユーラと、遊良は一歩も引かずに戦い抜いたのだ。

 

そして、その決着は遊良が今こうして普通に歩いている通り…

 

最初のアマギ ユーラとの戦いの後に姿を消した『堕天使』のカードが蘇った事により、遊良は『邪神』の1体を倒すという快挙を成し遂げ、見事アマギ ユーラを正々堂々と打ち破り決闘市を救ってみせた。

 

…そして、アマギ ユーラによって『消滅』してしまった決闘市の人々も、『邪神』を倒した事により無事に復活した。

 

たった数時間にも満たない時間だけの消滅であったことも幸いしたのか、復活した人々には大した混乱もなく、決闘市はすぐに平穏を取り戻した。

 

また、夏ごろからの『失踪事件』の被害者たちもその時に全員が無事帰還し、その後すぐに警察やメディアが天城 遊良への指名手配の『撤回』と深々とした『謝罪』を行った為に…

 

騒動が起こった決闘市も、晴れて平穏を取り戻すことが出来たのであって。

 

 

 

…だが、問題はこの後だった。

 

 

 

あの日…遊良が指名手配されたと報道された、あの日。

 

無理矢理押し入ってきた記者たちが、遊良達の家の中で大暴れしたために…

 

【黒翼】天宮寺 鷹峰の所有する遊良達の家は、およそ半壊と言っていいまでに荒されてしまったのだ。

 

…当然、遊良達の家に不法侵入し、あまつさえ家のあちこちを壊しまくった記者たちは軒並み新体制になった警察に逮捕されたり、決して軽くない『罰』を受けたりしたそうなのだが…

 

それでも、もう一人の自分とも呼べる人物との死闘を終え、満身創痍になった遊良がようやく休めると思い自宅へと帰ってきたときに見た『家』のあまりの有様は、10年程前に『自宅』を同じように心無い者達に壊された経験のある遊良からすれば心の奥底に眠っていたトラウマが再び浮かび上がってくるのには充分だったのだろう。

 

…荒され、壊され、無残な姿に成り果ててしまった家の有様は、遊良を哀しませるには充分過ぎた。

 

下手をすれば、ようやく乗り越えかけていた過去の遊良がまたフラッシュバックしてきてもおかしくはなかった。まぁ、ギリギリでそうならなかったのは、偏に遊良が着実に成長していたのに加え、鷹矢とルキが傍にいてくれたのが大きかったのだが…

 

しかし、見るも無残に壊された家ではゆっくりと寝ることすらままならない。

 

 

そこで、遊良達は師である元シンクロ王者【白鯨】、砺波 浜臣の指示の下…

 

遊良と鷹矢は『家』が完全に修復されるまでの間、『合宿』という態で決闘学園イースト校に寝泊りしつつ授業に出席し、そのまま【白鯨】との修業という生活を送っていたのだった。

 

そして記者たちに荒らされた家も、家具家電盗品盗カード、その他諸々全部含めて全額全部『向こう持ち』で完全に修復が成されるそう。

 

まぁ、ソレも当然だろう。何せ記者たちのあの行動は、ある意味『強盗』のようなモノ。完全に不法侵入に器物破損、それ以外にも罪が重すぎるために、遊良達からしても庇う余地などない程に今回のメディア側の行動は酷いの一言であったのだから。

 

そのため、自分達の家が破壊されてしまった遊良と鷹矢は、混乱が収まるまでという名目で…【白鯨】の下にて、決闘学園イースト校に1ヶ月以上もの間、『合宿』のような生活をしているのであって。

 

まぁ、朝は遅刻の心配がないからと言って、朝に弱い鷹矢が更に朝寝坊をする癖が付いてしまったのは遊良からしても誤算ではあったのだが…

 

そして、『家』の修復や補填も来週には全て終了すると知らせを受けた翌日。

 

この、修業も無い完全なる休日である本日に…

 

遊良と鷹矢は、鷹矢の父、天宮寺 正鷹に呼び出され…寒い中、天宮寺家の本家へと向かっているのであり…

 

 

 

そうして…

 

 

 

遊良と鷹矢は、天宮寺家へと向かって雪の積もった道筋を転ばないようにして歩き続ける。

 

…途中、商店街を抜けるときに鷹矢が『腹が減った』と言って買い食いを始めた所為で、思ったよりも余計に時間を取られたりもしながら。

 

また、騒動が収まってから2ヶ月も経っていないというのにも関わらず、街行く人々の目は遊良を『悪人』だとは全く思っていないモノとなりて、誰も遊良達の邪魔をする者はいなかった。

 

そう、遊良にかけられた指名手配も完全に撤廃され、ソレに加え決闘市の住民全員が遊良に『救われた』という無意識を持っている中では、もはや誰も遊良に余計な事を言う者など決闘市には存在すらしていないのだろう。

 

だからこそ、ようやく『平穏』となった決闘市の、冬の寒さの中を遊良と鷹矢はただひたすらに歩き続け…

 

 

そして、しばらく歩いた後に。

 

 

遊良と鷹矢は、目的の場所へと辿り着いたのだった。

 

 

 

「来たか二人とも。寒かったろ、早く入れ。」

 

 

 

遊良と鷹矢が到着するや否や、鷹矢の父、天宮寺 正鷹が出迎えた。

 

今日と言う休日に、遊良と鷹矢を呼び出した本人。その声は心から2人の息子を待っていた声となりて、寒い道筋を歩いてきた2人を優しく迎え入れるのか。

 

 

 

「親父、何の用だ。」

「何の用だとは何だこの馬鹿息子。お前のプロ入りの件で色々こっちも大変なんだからな。」

「ぬぅ…」

「とりあえず鷹矢は奥の部屋へ行け。色々と書かなきゃいけない書類が山積みになってるぞ。母さんと一緒に書いてこい。」

「何故俺がそんなことを…」

「全部お前の事だろうが。四の五の言わずさっさと行って書いてこい。」

「…うむ。」

 

 

 

また、やさしく出迎えられたと言うのにも関わらず。

 

鷹矢が相変わらずの憎まれ口を叩いたものの、しかし鷹矢の父である正鷹はそれにも慣れた様子で息子を軽くあしらいつつ…

 

鷹矢を奥の部屋へと向かわせると、今度は遊良へと向かい直して再度その口を開き始めて。

 

 

 

「…よし、じゃあ遊良は俺とこっちに来い。お前にも話したい事がある。」

「…え、俺も?」

「当たり前だ。じゃなきゃわざわざお前にも来るよう言わないだろ。」

「てっきりまた鷹矢を連れてくるだけかと思ってた…」

「あぁ、それは感謝してる。あの馬鹿、お前の言う事じゃないと聞きやしないんだからな。誰に似たんだか、全く。…と、それより早く上がれ。立ち話で済ますような話じゃない。」

「でも…いいの?俺が上がっても…その…また、ツボネおばさんが…」

「安心しろ、アイツは今日は出ていて家には居ない。…本当なら、アイツにとやかく言われるような事でもないんだが…すまないな、余計な気を使わせて。」

「…いいよ、慣れてるし。」

 

 

 

厄介な口うるさい叔母が居ないことに遊良もどこかホッとした顔をみせつつ。

 

遊良は鷹矢の父、天宮寺 正鷹に連れられて、いつぶりかになる天宮寺家の本家の家内へと久方ぶりにその足を踏み入れる。

 

最後にこの家の中に上がらせてもらったのはいつ頃だったか…

 

遊良の記憶が確かならば、小学生の高学年のときに師である【黒翼】に連れられて上がったのが最後だったか。まぁ、その時もその時で、鷹矢の叔母である天宮寺 ツボネがキーキーとヒステリー気味な文句で騒ぎ立てたために長居は出来なかったというのを…遊良も、どこか遠い思い出のようにして思い出している様子を見せており…

 

…そのまま、しっかりとした造りの、和風チックな豪邸と呼ぶに相応しい廊下を正鷹に連れられて歩く遊良。

 

しかし、数年振りとなる天宮寺家の本家の中を歩いていると…遊良は、どこかこの家が以前来た時よりも少々狭いというか、何やら以前よりも『大きい』と感じなくなったと言うことに気がついた様子。

 

そう、Ex適正が無いと診断されるよりも前の、何もしがらみが無かった子どもの頃にはとても広く感じた天宮寺家の本家が…今の遊良にはどこか狭くなったかのようにも感じられるのも、きっと遊良の気のせいではないはず。

 

それは遊良が、高等部生になって確実にその体が大人へと成長してきているのが原因だろう。いつまでも子どものままでは居られない、確実に大人へとなりつつある今の遊良には…

 

いや、体の成長以上に、高等部に入ってからとにかく『色々』な事が起こりすぎたために…『体』だけではなく、その『心』もまた大人へと近づいているが故の余裕を遊良は感じているに違いなく。

 

 

 

そうして…

 

 

 

子どもの頃には延々と歩いた記憶のある廊下を、ものの数歩にて目的の場所に到達し。

 

そのまま、遊良は正鷹の自室に通されたのだった。

 

 

 

「さて、じゃあそこに座れ。………いきなりだが、『色々』と大変だったな、今回は。」

「うん。指名手配されるとは思ってもみなかった。」

「だろうな。俺も驚いたんだぞ?TV見てたらいきなりお前が指名手配されたって出て、そのあとによくわからないことになって…そしたら、次の日には急に全て間違いでしたって警察とマスコミの謝罪会見ときた。そしたらお前らには一切連絡つかなくなるし…随分と心配したんだぞ。『家』もあの有様だったしな。」

「…ごめん。砺波先生から、『混乱が落ち着くまでは余計な事をしないように』ってキツく言われててさ。」

「まぁ、それはいいんだ。一応、【白鯨】からお前たちが無事だと言う事は聞いていたし、もうすぐ『家』も元通りになるってんだからな。それに外出の許可も貰えたってことは…もう、大丈夫ってことなんだろう?」

「うん。」

 

 

 

そして鷹矢の父、正鷹の自室に通されてすぐ。

 

座布団の上に座った遊良へと、正鷹はどこか保護者らしい台詞とともに、遊良へと近況の確認を取り始めた。

 

 

…その口ぶりから、正鷹も相当息子たちの事を心配していたと言う事が読み取れる。

 

 

まぁ、ソレも当然か。何しろ、警察の上層部ですら把握していなかったというあの日の突然の遊良の指名手配は、遊良に近しい者達からすれば特に驚愕に値する出来事であったはずなのだから。

 

しかも、遊良の指名手配に混乱しているそのすぐ後に、突如として謎の苦しみに襲われたかと思うと…

 

気がついたら全てが終わっていて、かつ遊良の指名手配もまた撤回されていたという、なんとも奇妙な体験を決闘市の住民達はしてしまったのだから、

 

また、遊良に近しい者達に関してはそれだけでは終わらず。

 

遊良への指名手配が撤回された上で、遊良の安否を気にして遊良や鷹矢に連絡を取ろうとしても…

 

何故か息子たちには一向に連絡が繋がらず、代わりにイースト校理事長である元シンクロ王者【白鯨】からの業務連絡的なモノが返ってきただけで終わってしまったのだから、遊良の安否が気がかりだった鷹矢の父からすれば、詳しい事が分からない現状はとにかく気が気でならなかったはずで。

 

…それ故、鷹矢の父、天宮寺 正鷹は遊良が親友の息子であるということ以上に。

 

もう一人の息子の無事を今日、その目で確認できた事に、確かな安堵を感じたのも当然と言えば当然の事であり…

 

 

 

「それで、話って何?鷹矢のプロ入りの事なら俺より先生に聞いた方が…」

「あぁ…いや、鷹矢の事はいいんだ。今日は…お前の事について話そうと思ってな。」

「…え?」

 

 

 

鷹矢の父、正鷹より零された言葉に思わず固まってしまった遊良。

 

それは遊良からしても、正鷹が発した言葉が思ってもみなかったモノであったが故の思考の停止でもあるのか。

 

…何しろ、今までこうして正鷹と面と向かって話した事は遊良からしても記憶にはない。

 

Ex適正が無いと宣告されてから、とにかく遊良の人生は周囲が敵だらけだった。それ故、小学生の頃は【黒翼】の庇護の下、そして中学の頃は遊良も自分の身を守るために殻に閉じこもることがほとんどだったために、今こうして面と向かって鷹矢の父と話すと言うこと自体が遊良にとっては初めてのことであるのだから、

 

…一体、正鷹は何の思惑があって今こうして面と向かっているのか。

 

正鷹の心の内などわからない遊良からすれば、鷹矢の父からの声かけにもただただ混乱してしまっているだけであり…

 

しかし、そんな遊良の混乱を理解してか。

 

鷹矢の父、天宮寺 正鷹は…再び、遊良へと向かってその口を開くだけで…

 

 

 

「遊良…お前、卒業したらどうするつもりなんだ?」

「え?どうするって…」

「お前、これまで3者面談とか全くやらせてもらえなかっただろう?」

「あー…うん。中学の頃とか、『Ex適正の無い人間に進路なんて必要ないだろ』って言われたりもしたし…」

「あぁ。俺が行くって言っても取り合ってもらえなかったし、お前も乗り気じゃなかったから今まで黙認してたが…けど、今は違う。【決闘祭】の優勝に【決島】の準優勝。これだけの成績を残しているんだ、いくらお前にEx適正がないからと言っても…おそらく、プロの世界から声がかかると思う。だから、お前は今の自分の現状をどう考えてるのかって思ってな。竜一とスミレが居ない今、大人としてお前の進路を俺は把握しておく義務がある。お前…高校卒業したら、具体的にどうしたい?」

「具体的に…?俺は…えっと…どうしたいって急に言われても…」

 

 

 

鷹矢の父から零されるのは、『普通』の高校生ならば極当たり前に家族と話しているような『そんな事』。

 

しかし、『普通』の家庭ならば『普通』にしているはずのそんな会話でさえも…思わず遊良は言葉に詰まってしまい、改めて自分の現状を上手く整理出来ていないかのようなうろたえぶりを見せ始めたではないか。

 

…無論、遊良とて自分の将来について何も考えていないわけではない。

 

幼い頃に鷹矢と『約束』した、プロの頂点の舞台で戦うという誓い。その『約束』の為に【決闘祭】や【決島】を戦い抜いてきたのだし、遊良からしても卒業後の『プロ入り』と言うのはどこか現実的な将来として考えているのもまた事実ではあるのだが…

 

…けれども、今まで大人達からソレを『全否定』されてきた遊良からすれば。

 

今更、改まって自分の今後を言葉にしろと言われても…ソレを上手く言葉に出来ないという感覚に陥ってしまったとしても、それは当然と言えば当然で。

 

 

 

「…よくわかんないや。一応、プロになりたいって思ったりはしてるけど…でも、現状をどう思ってるのかって聞かれたら…ちょっと、よくわからない。漠然とプロになりたいってだけで、具体的にって聞かれても…今まで、そんなこと考えもしてこなかったし…」

「…そうか。」

 

 

 

それ故、『漠然』とした将来へのビジョンはあれど。

 

それでも正鷹より呈示された、『具体的』な将来像を聞かれても今の遊良にはすぐに答える事ができはしないのか。

 

…今は自分の将来像すら具体的にイメージできない。

 

それは偏に、遊良がこれまで心無い大人達によって自分の『将来』を潰されてきたが故なのだろう。

 

Ex適正が無いというだけで、これまで遊良は聞くにも絶えない不当な扱いを受け続けてきた。それはこれまでの物語にて多々描かれている通り、彼の人生にはこれまでも多くの障害が立ち塞がってきていたのだ。

 

だからこそ、それまでの彼の人生の軌跡は、まだ高等部2年生の遊良に具体的な将来像を描かせることすら困難にさせてしまっているといっても過言ではなく…

 

 

 

「あ、そうだ…おじさんは何でプロにならなかったの?」

「…俺か?」

 

 

 

それ故、遊良はここで1つ、鷹矢の父へと問いかけた。

 

…そう、鷹矢の父は【黒翼】の息子でありながらも、自らの意思でプロ入りしなかったという経歴を持つ、大人として1つの『選択』をした確かな人物。

 

その結論に至るまでに、一体何があって何を感じ何を考えたのだろう。

 

今の将来像がぼやけていて、具体的な未来を想像できない遊良からすれば…正鷹の『選択』の意味は、自分には無いモノを見てきてその結論に至った確かな人生の先達として重要なモノを握っているはず。

 

そんな、今後自分が『選択』をする上で、正鷹の結論はいい参考になるはずだと遊良は判断したからこそ…今まさに、遊良は正鷹へと問いかけた。

 

 

…そして、遊良からそんな事を問いかけられた正鷹は。

 

 

少々考えるような素振りを見せつつも、しかしソレが遊良の為になることなのだと理解した様子で…

 

再度、言葉を発するのみ。

 

 

 

「そうだな…俺は、まぁ親父への反抗心ってのもあったんだが…あの頃、親父の所為でウチは色々と面倒事を多く抱えていてな。その先導を切って指示を出す人間が俺しかいなかったんだ。親父の名声に縋って擦り寄ってくる奴等や、一度は名を捨てたが今更になって天宮寺をまた名乗りたいって奴等がぞろぞろ出てきて…ほら、天宮寺家ってのは…親父よりも『上』の世代で色々あってゴタゴタしてんだよ。お前も知ってるだろ?世界大戦の話。」

「うん。大きな戦争があったんだよね。歴史の授業で習ってるから知ってる。」

「あぁ。だからそんな親戚連中を纏めたり、天宮寺家の家督やら本家やらそういったゴタゴタを引き受ける当主が必要でな。だが親父は『アレ』だし、ツボネなんかにやらせるわけにはいかないってんで俺はプロになれなかった…いや、ならなかった。そういう事だ。ま、当時は周りからも色々言われたけどな。『【黒翼】の息子なのに何故プロにならないんだ!』とか、『偉大な父親の顔に泥を塗る気か!』…とかな。」

「…おじさんも苦労してきたんだね。」

「まぁな。けど今はこれでよかったとも思っている。俺はプロにならない選択をした自分を責めてはいないし、後悔もしていない。自分で選んだ道だ、俺の親父が誰だろうが関係ない、これが俺の選択なんだって今は胸を張って言える。それに親父も『好きにしろ』って言ってたしな。まぁ、あの人の場合は多分『どうでもいい』って意味だったんだろうが。」

「…」

 

 

 

鷹矢の父、正鷹から語られる言葉は、確固たる人生を生きてきた者の言葉となりて、どこか重く遊良の心に確かに響く。

 

…正鷹は、自らの意思を強く持って『プロ』への道を断った。

 

それはエクシーズ王者【黒翼】の息子として、果たしてどれだけ勇気のいる選択だったのだろう。

 

そう、良くも悪くも、『親』と言うのはどれだけ仲違いしていたとしても自分の人生に付きまとってきてしまうモノ。親が犯罪者であったならば、例えその子どもは犯罪を犯していなくとも周囲から『そのような目』で見られるモノだし…親が偉大であればある程、その子どもにも『同じような期待』が否応なしにかけられてしまう。

 

…それはどうしようもない人間の性で、変えようのない世間の理。

 

だからこそ、周囲に何を言われようとも…そして、エクシーズ王者【黒翼】の息子として周囲にどれだけ期待をかけられていようとも。

 

自らの道を自分で決めて進む事を選んだ正鷹の選択は、未だ迷いのある遊良にさえも確かな説得力を感じさせる代物ともなっているはずであり…

 

 

しかし…

 

 

ここで、正鷹が『親』について言及したからか。

 

 

ふと、『将来』の事とは別に…

 

 

そう、遊良の心に、『別』の感情が浮かび上がってきてしまい…

 

 

 

「…俺は…父さんと母さんに…本当に愛されていたのかな?」

 

 

 

ポツリと…

 

遊良は発してしまったその『言葉』は、遊良からしても無意識に零れた言葉であった。

 

意図なんてない、本当にただ心の中で浮かんだ思いが、無意識の内に口から零れでただけ。それ故、そんな言葉を零してしまった遊良自身も、たった今自分が『何』を口走ったのかを全く理解している様子がないではないか。

 

 

…けれども、ソレを聞いてしまった正鷹の方はそうもいかない。

 

 

遊良の心の吐露を聞いて、鷹矢の父は神妙な面持ちをし始める。

 

それは生まれた時から遊良を知っている鷹矢の父からしても、信じられないような驚きの言葉だったのだろう。

 

何しろ、Ex適正が無いせいで想像を絶する地獄を味わってもなお強く生きてきた、これまで弱音という弱音など聴いたことのない、およそ同年代の子ども達と比べても大人びている部類に入るあの遊良が…よもや、『こんな事』を言うだなんて…と。

 

そして…

 

正鷹がそんな顔をしているのを見て、遊良もまたようやく自分が何を口走ったのかを理解してしまった様子。

 

けれども、ハッとした時にはもう遅い。心の中に留まらず、思わず口にしてしまったその言葉は確かに正鷹に聞かれてしまった。

 

…誰にも聞かせるつもりなど無かった、遊良の心の奥底に沈んでいたその思い。

 

それは偏に、【決島】の時に【紫影】に見せられた幻覚が緒を引いているのだろうか。

 

 

 

―『お前に、Ex適正があれば今も幸せに暮らせてたんだ…それなのに…』

―『お前なんて産まなければよかった。本当は産みたくなんてなかった…』

 

 

 

アレは【紫影】が見せたただの幻覚。自分の心を折ろうとして【紫影】が仕掛けた、ありえない幻覚なのだという事は遊良も確かにわかってはいる。

 

それでも、父と母の姿をしたモノの口から、存在の否定と拒絶を聞いてしまったことが―【裏決島】という壮絶な戦いが終わった今もなお、どこか遊良の心に影を落としているのだろう。

 

…だからこそ、不安になる。

 

Ex適正のない自分が、本当に両親に愛されていたのか…もしかしたら【紫影】が語らせた通り、自分の存在は両親にとって『邪魔』であったのではないか…自分にEx適正が無いから、両親は10年前に自分を捨てたのではないか…

 

と、遊良もおぼろげながら考えてしまって。

 

そう、心の隅に沈んでいたその考えを、一度浮かび上がらせてしまってはもう取り消す事はできない。

 

それほどまでに、両親以外の血の繋がりを知らない遊良が『血縁』にかける思いと言うのは…他人が想像するよりも、ずっと重い物なのだから。

 

天涯孤独…

 

他に血の繋がった者の居ない孤独と言うのは、温かい日常を生きる他人には決して理解してもらえない永遠の冬。そんな孤独が確かに遊良の中にあるが故に、例えソレが性根の腐った屑の仕業であろうとも。

 

それでも、その時の『言葉』は、戦いが終わった今もなお遊良の心に影を落としていて…

 

 

 

しかし、そんな遊良へと向かって。

 

 

 

鷹矢の父、天宮寺 正鷹は、神妙な面持ちのすぐ後にどこか『呆れた顔』をしたかと思うと。

 

諭すように…

 

いや、その表情と同じく、心から『呆れ』果てたようにして―

 

 

 

 

 

「お前…何を言ってるんだ?そんなの、『愛されていた』に決まっているだろうが。」

 

 

 

…と、遊良の心の影を一蹴したのだった。

 

そして―

 

 

 

「でも、父さんと母さんにとっては…俺は、生まれない方が良かったんじゃないかって…」

「だから、お前はさっきから何を言っている。大体、お前が生まれた時に竜一とスミレがどれだけ舞い上がってたと思ってるんだ。」

「舞い上がってた?」

「親馬鹿も親馬鹿だったぞあの二人は。見ているこっちが恥ずかしくなるくらいにな。」

「でも、母さんは俺ができたから紫魔本家を追い出されたって…」

「それは違う。スミレが紫魔本家を出たのは結婚するよりも前で、お前には何も関係がない。何よりアイツは自分の意思で家を出た…自分の意思で竜一と一緒になることを選んで、自分の意思でお前を産んだ。それは俺が保障してやる。何しろ、紫魔本家を抜ける抜けないであの家と一悶着あったんだからな。その所為で、俺と竜一とアキラとスミレの4人で【紫魔】とデュエルする羽目にまでなったんだぞ?」

「え、おばさんまで?」

「まっ、4人がかりだったのにあのシス…紫魔 憐造にはボコボコにやられたけどな。後はスミレと【紫魔】の兄妹喧嘩だ。最後は【紫魔】の方も仕方なく折れたって感じだった。」

「じゃあ父さんは?俺が生まれた所為でプロを諦めたってのは…」

「…誰にそんなデタラメを吹き込まれたのかは知らないが、竜一の事もお前には全く関係がない。そもそも、竜一がプロを諦めたのだってお前が生まれるよりもずっと前…スミレとの結婚が理由だ。」

「え?」

「言ったろ?あのへんた…紫魔 憐造と一悶着あったって。高等部を卒業する少し前だったか…結婚を許してやるかわりに、竜一にプロを諦めろって【紫魔】が言ってきたんだ。それが結婚の条件だとな。その後も色々あったんだが、それでも竜一はソレを受け入れた…だから、竜一はプロにならなかった。【決闘祭】を優勝した事もある、プロチームや有名事務所からスカウトも来ていた有望株だったアイツがな。」

「そんなことが…」

 

 

 

食い下がる遊良を一蹴し、どこまでも『真実』を告げてくる鷹矢の父、天宮寺 正鷹。

 

それは確かに『その場』を見てきた者だからこそ発する事が許される、他の何よりも正確無比なる『真実』の記憶。

 

…【紫影】の幻覚など比ではない、『真実』だからこそ納得せざるを得ない説得力がそこにはある。

 

きっと、天宮寺 正鷹ほど遊良の両親を語るにふさわしい人物はいないはず。何しろ鷹矢の父は、幼等部の頃より遊良の父とは無二の親友であり…遊良の母とも高等部で同級生として関わってきた、遊良の両親とは切っても切れない縁で結ばれた人物であるのだから。

 

 

そのまま、正鷹は遊良の不安など簡単に払拭するようにして…

 

更に、『真実』の言葉を続けるだけで…

 

 

 

「全て本当のことだ。『誰』に何を吹き込まれたかは知らんが、一部始終をこの目で見てきたこの俺が言うんだから絶対に間違いない。スミレは自分の意思で紫魔家を抜けた。竜一は自分の意思でプロにならなかった…どれも、お前には全く責任なんて無いことだ。」

「…」

 

 

 

自分の知らない両親の過去。

 

その、遊良自身も知らなかった『真実』の全てを正鷹より聞いて…【紫影】によって植えつけられた不安と怪訝が、遊良の中から消えていく。

 

そう、遊良の父、天城 竜一の幼少の頃からの友として。そして竜一、スミレ、遊良と、天城家のこれまでをずっと共に生きてきた正鷹だからこそ語る事が許される…

 

それは誰にも捏造する事など出来はしない、確かなる『真実』となりて不安が募る遊良へと伝えられるのか。

 

 

 

「じゃあ…なんで父さんと母さんは居なくなったりしたんだろ…」

「すまん、それは俺にもわからない。だが、少なくとも俺はあの二人が居なくなった理由が…お前にEx適正が無かったからだなんて、絶対に思っていない。」

「…え?」

「スミレは強い女だった。お前にEx適正がなかったくらいで、お前を捨てるなんてありえない。寧ろアイツなら、お前にEx適正が無いことすら武器にするよう厳しく育てただろう。お前ならわかるだろ?スミレはそう言う奴だったって。」

「あー…言われてみれば確かに。母さん、かなりマナーに厳しかったし…」

「それに竜一の奴もそうだ。お前は知らないだろうが、竜一のデュエルスタイルはExデッキを殆ど使わない、通常モンスターのドラゴン族デッキ…そうだな、昔の『逆鱗』みたいなスタイルだったんだぞ?知ってるだろ?竜一の奴、昔から『逆鱗』の大ファンだったって。」

「ッ…『逆鱗』の…」

 

 

 

けれども、正鷹がそう告げたそのすぐ後に…

 

遊良は、正鷹の言葉の『裏』に隠された、正鷹自身が『言うつもりの無い』その後の可能性に気が付いてしまった―

 

 

『逆鱗』の、大ファンだった…

 

 

確かに遊良の父の遺品には、『逆鱗』のデュエルに関する資料が数多く残っている。

 

そして、『逆鱗』との関係性の『欠片』を知ってしまっている遊良からすれば―正鷹の言葉の『裏』に隠された、限りない『真実』に近いモノを否応なしに察知してしまうのも仕方のないことなのか。

 

 

…きっと鷹矢の父、天宮寺 正鷹は『知っている』。

 

 

遊良の父、天城 竜一の無二の親友として。彼もまた、大人の事情により遊良の『血縁』に関しての『何か』を隠していると、そう遊良は感じ取ってしまったのだ。

 

…遊良には、正鷹の言葉の『裏』に隠されたモノがどことなく分かってしまう。

 

しかし、全てが明らかになっていない今の状況では…そう、『本人』の口から、ソレを語られていない今の状況では―

 

遊良もまた、『この件』に対しては部外者に入る正鷹から『真実』を聞いてはならないと判断してしまったのだろう。正鷹の言葉からそれを感じ取れはするものの、しかしそれを正鷹の口から聞くべきではないことを理解しているからこそ…

 

遊良も、今は静かに口を噤んでいて。

 

 

 

「それとな………あぁ、これは言葉じゃなく直接見た方が納得しやすいだろう。少し待ってろ。」

 

 

 

そして…

 

正鷹もまた、天宮寺家の『上』に立つ者として、遊良の反応から『何か』を察知したのだろうか。

 

少々話題を変えるかのように、徐に座布団の上から立ち上がったかと思うと…

 

彼は自室の本棚の前に立ち、その中から少々古めの一冊のアルバムを取り出しつつ。

 

いくつか、ページをパラパラと捲り始め…

 

 

 

「あぁ、あった…これだ、懐かしいな…ほら、コレを見ろ。」

 

 

 

ものの数秒で目的のページが見つかったのか。

 

ソレを、ゆっくりと遊良へと差し出し始めたのだった。

 

 

 

「…誰、これ…」

 

 

 

しかし…

 

差し出されたアルバムに挟まれた写真を見てもなお、そこに写っている人物が遊良には一瞬『誰』だか分からなかった。

 

…いや、頭では分かってはいる、

 

しかし、まるで遊良の思考がその人物の事を理解するのを『拒んで』いるかのように―

 

それほどまでに、写真に映っていた『ある人物』のその表情は、遊良の知る『その人物』とはあまりにかけ離れていた姿であったのだ。

 

 

そう…

 

 

正鷹が差し出してきたアルバムの、『そこ』に写っていたのは他でもない―

 

 

 

「これって、もしかして紫魔 れん…いや、でも…」

「…信じられないのも無理はない。だが、そいつは正真正銘『紫魔 憐造』だ。何せその写真を撮ったのは俺だ。そのだらしのない顔で赤ん坊をだっこしている、デレデレして腑抜けた顔をしている男は…間違いなく、紫魔 憐造に違いない。」

「いや…だって紫魔 憐造のこんな笑顔なんて資料でも見たことないし…えっとさ…この抱っこされてる赤ちゃんって、もしかして…」

「お前だ。」

「やっぱり…」

 

 

 

遊良が見せられたアルバム…

 

そこに挟まれた写真に写っていたのは紛れも無く―

 

 

 

『鬼才』とまで呼ばれ恐れられた、歴代最強の【紫魔】と名高き前融合王者【紫魔】、紫魔 憐造の若き日の姿…いや、昨年度の『異変』の時の姿そのままであった。

 

けれども、その写真に写っている彼の表情はこれまで遊良が資料などで見てきたどの顔にも当てはまらないほどに砕けた…

 

それこそ、世に広く知られている冷徹なる『鬼才』と同一人物とは到底思えないような、あまりに人間臭いと言えるだらしなくデレデレとした表情であったのだから…

 

昨年度に実際に前【紫魔】と対峙して恐怖を抱いた遊良からすれば、この写真に写っている彼の表情はおよそ遊良からしても信じられないほどに砕けていたに違いなかったことだろう。

 

 

 

「あの変態…シスコン…いや、紫魔 憐造はな、スミレ曰く、『血の繋がった親類』にはとことん甘いんだそうだ。シスコンだけかと思えば自分の娘にもお前にもデレデレだったし…わかりやすく言えばファミリーコンプレックス…略してファミコンだ、ファミコン。」

「ファミ…コン…?」

「あぁ、それはそれは信じられないくらいの…」

 

 

 

しかし、驚きの表情をしている遊良を意に介さず。

 

そのまま、鷹矢の父、天宮寺 正鷹はどこか遠い目で…

 

そう、何やら遠い目で、過去に確かにあった思い出してはいけない『何か』を無意識に思い出している様子で―

 

 

 

 

 

―『だこぉ!』

―『む!?ハハハ!貴様ぁ、この紫魔本家当主にして融合王者【紫魔】に抱っこをせがむとは恐れ多くもいい度胸ではないか!全くしつけがなっていない甥だなぁ!これでは親の程度も知れると言うモノだぞ!ほら、たかいたかーい!』

―『きゃっぴゃー!』

―『ハハハハハ!そうか嬉しいのか遊良!全く仕方のない奴だなぁ!本当にかわいい奴だお前は!ハハハハハハ!』

 

 

 

 

 

「…いや、なんでもない。流石にこれ以上は故人と言えど沽券に関わる…まぁ、お前や鷹矢が生まれたばかりの頃、天城家に行けば必ず娘を連れたあのシスコ…へんた…【紫魔】が、あの家に居たくらいだ。そして奴は、紛れもなくお前を可愛がって…いや、スミレや自分の娘と同じくらい溺愛していた。これは本当の話だ…何せ、その場面を何度も見た俺が言うんだから間違いない。」

「…溺…愛…」

 

 

 

にわかには信じられない正鷹の言葉を聞いて、思わず驚きを隠せない遊良。

 

…しかし、それも当然のことか。

 

何しろ、遊良には正鷹の言っているような時期の記憶がない。まぁそれは乳児期特有の健忘による記憶の定着が出来ていない所為でもあるのだろうが、しかしそれを踏まえてもなお昨年度に起こった決闘市の『異変』で実際に前【紫魔】、紫魔 憐造と対峙した経験のある遊良からすれば…

 

そう、紫魔 憐造の、あの冷徹かつ残酷な、あまりに冷たい怨嗟の声を聞いてしまった遊良からすれば―

 

実物とイメージのギャップがあまりにありすぎてしまい、どうしてもこの写真のような紫魔 憐造が想像できなくなってしまっていても、それは当然と言えば当然で。

 

けれども、正鷹が見せてきた写真と、かけてきた言葉をふまえて。遊良が、今一度昨年度の『異変』での紫魔 憐造の言葉を振り返ってみると―

 

 

 

―『なぁ、可愛い可愛い我が甥よ。』

 

 

 

もし彼が『闇』に染まり、邪悪に支配されていたのだとしても…

 

それでも、あの時零したアレがもし、本当に『言葉通り』の意味だったのだとしたら…

 

 

 

…【決闘祭】に出させられたのではなく…出してくれた。

 

…【決闘祭】の準決勝で竜胆 大蛇を負けさせたのではなく…自分を、勝たせた。

 

 

 

『闇』の根源となっていた所為で、怨嗟に塗れていたとしても。それでも、吐露された言葉の中に少なからず真実があったのだとしたら…もしかしたら、『闇』に飲まれた中に、肉親へとかける思いが少なからずあったのかもしれない。

 

何しろ『あの時』、紫魔 憐造は遊良との邂逅を…『これが初対面』だと言った。

 

けれども、この写真が示すとおり―

 

紫魔 憐造と遊良の邂逅は、あの『異変』の時が初めてでは決してない。

 

それ故、悪意にそまり悪意を暴走させ、悪意のままに世界を滅ぼしかけていた紫魔 憐造の中に…ほんの少し…ほんの僅かでも、『肉親』を思う気持ちが残っていたとしても。

 

それは、なんら不思議な事ではないのだから。

 

 

 

(…じゃあ俺がBloo-Dを召喚出来るのも本当にあの人が………まさかな。そんなわけないか。)

 

 

 

…まぁ、その真意は今となってはもう誰もわからない事でもあるのだが。

 

 

ともかく…

 

 

 

「遊良…お前は両親に愛されていた。竜一とスミレをずっと見てきたこの俺が保障するんだ、それだけは間違いない…それだけじゃない、お前と血の繋がった者、血が繋がってない者…鷹矢やルキちゃんはもちろん、俺やアキラや高天ヶ原さん達だってそうだ。ついでに【紫魔】も…お前は1人じゃない。お前を大切に思っている人間だって居る…お前にとっては大人の俺達の思いなんてお節介かもしれないし、何ならいい迷惑かもしれないが…それでも俺達は…少なくとも俺自身は。お前を鷹矢と同じく、自分の子どもと同じくらい大切に…自分の息子のように思っている。それだけは、わかっていてくれ。」

「…うん、ありがとう、おじさん。」

 

 

 

鷹矢の父、天宮寺 正鷹の心の底からの言葉を聞いて。

 

そう、【紫影】のようなハッタリではなく、限りない『真実』を知る正鷹からの言葉を胸に。

 

 

 

「まだ進路はハッキリしないけど、また相談に来るよ。」

「あぁ、待っているぞ。」

 

 

 

ここに来る前よりも、どこかスッキリした表情をした遊良は…

 

血の繋がらない、もう一人の父へと向かって。

 

そう、伝えたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

冬。

 

もうすぐ春休みに入る、年度も替わりかけているこんな時期に…

 

決闘学園イースト校には、『とある変化』が起こっていた。

 

 

 

「…であるからして、14世紀のデュエル学者チェインハートはこう言っている。『逆転のドローはまるで閃光のようだ』と…これは接戦におけるデュエルディスクのカード創造に関連があるとされており………おっと、もう時間か。では今日はここまでにしておこう。各自、来週の授業までに290ページから295ページまでを予習しておくように。次回、授業の始めに小テストを行う。なに、予習しておけばなんら問題ではない。各々、合理的に勉強してきてくれたまえ。」

 

「ほい、そんじゃ全員レポートの提&出よろよろのよろってことでー。『ダメージステップの5つのタイミング』と?『強制効果以外のダメージステップに発動できるカード』と?『5つのタイミングで発動出来る効果の違い』と?あとついでに『【ポールポジション】が無限ループ発生させるコンボ』調べてきてねぃん!ひゃは!最後のはチャン僕の趣味趣味しゅーみだけどもだっけーどぉ、ここもテストに出っかもよ的な的なテキーラってことで!」

 

「ふふ…それじゃ今日の実技はここまで…掲示板に結果出したから、得失点差の大きい人から順に課題取りにきて…」

 

 

 

それは来年度から『正式』に赴任してくるという『3人の特別講師』による特別授業が、卒業を控えた3年生を除く1・2年生達に試験的に施されているところであった。

 

そう、つい先日まで手続きやら何やらの諸事情でデュエリアに居たという、イースト校理事長であり元シンクロ王者でもある【白鯨】が特別に雇ったと噂されるその3人の講師は…

 

何やら他の教諭たちとは一線を画す実践的かつ実用的な知識と実力を用いて、それでいてとてつもなくスパルタな授業を行うとして、突如イースト校の1・2年生達をしごきにしごき始めていて。

 

…死屍累々。

 

きっと、この3人の『特別講師』たちのスパルタ過ぎる特別授業を受けた学生達の、その全員がそのレベルの高さに度肝を抜かれたに違いない。

 

並々ならぬ実力を兼ね備えているのが、少しの授業でひしひしと感じられるくらいの圧倒的なその力量。他の教師たちとは比べモノにならないソレは、下手をすれば一介のプロですら足元にも及ばないとさえ感じる天上の代物であり…

 

それほどまでに、突然やってきたこの3人の特別校師達の試験的な授業を受けた多くの学生達が、日々の授業よりも密度の濃い内容に頭から煙を上げていて。

 

 

…ホトケ・ノーザン特別講師による、合理性を主軸にしたデュエル理論。

 

デッキ構築から始まりドローの確率までを自らの意思で操るかのようなその授業内容は、わかりやすくはあるものの高度すぎる理論であるが為に【決島】に出場した選手ですら着いていくのがやっと。

 

 

…ゴ・ギョウ特別講師による、実戦における妨害戦術。

 

一口に『妨害』と言っても、状況に応じて常に変化する盤面を見据えながら積み上げるその戦術は、一朝一夕では身につかない実戦への『慣れ』が特に必要で。

 

 

…スズシ・ローナ特別講師による、墓地活用術とその有用性について。

 

【決島】に出場するレベルの選手達は別としても、その他多くの学生達…特に1年生たちが『墓地』の真価を理解していなかった為に、それまで自分のデュエルに自信を持っていた学生達が価値観を壊され心が折れかかる事態になってしまった。

 

 

そんな、あまりに突然始まった、この特別講師たちによるレベルの高い授業は―

 

 

それまで学生レベルの生ぬるい授業しか受けてこなかった学生達に、強すぎる『喝』を入れるカンフル剤のようなモノとなりて。

 

多くの学生達に、色々な意味での衝撃を多々与えているのはまず間違いなく。

 

…試験的な授業の内容でこのレベルと言う事は、来年度から本格的に指導が開始されれば一体どれほど過酷なカリキュラムとなるのだろうか。

 

先駆け的に彼ら3人の授業を受けた1・2年生達は、そのあまりにレベルの高い授業と来年度への不安が募ってきている様子でもあり…ソレに加えて、1・2年生の中でもこの授業についていっている、いわゆる『上位』の成績陣たちとの『差』をひしひしと感じ初めていることだろう。

 

しかし…

 

そこは腐っても決闘学園。

 

全員が全員、一度は本気でプロになろうと決意してこの学園にやってきた者ばかりであるのだから…

 

今までは成績が振るわず、『祭典』などの代表やその候補にもなれずに腐ろうとしていた者達の中に、特別講師達の授業を受けてなにやら『きっかけ』をつかみ始めた者もチラホラ見受けられていた。

 

…特に、過去に一度『教鞭』を取ったこともあるというホトケ・ノーザン特別講師の授業。

 

彼の授業は古今東西、様々な学者たちが導き出した理論を解説しつつ展開されるモノであったために、少々哲学的な意味合いも強い授業でもあったのだが…

 

しかし『均一化』されている高等部の授業で『きっかけ』を掴み損ねていた学生達からすれば、多方面に展開するノーザン講師の授業はこれまで見えなかった自分達の光明が一気に開けたと感じる者が多く出始めたのだ。

 

また他の二人は少々『感覚的』にモノを教える風があるものの、しかしそもそもの前提としてその内容自体のレベルがこれまた『高い』ものだから、特にこの伸び盛りの段階である学生達も、今は着いていくのがやっとでも少しずつそのレベルが上がっていくのをその身を持って体験してきているに違いなく。

 

そう…これまでの自分のデュエルがいかに拙いモノであったのかを理解し、しかしこれからどうすれば自分がもっと強くなれるのかを的確に理解し。

 

そうした学生達のレベルの上昇が、このイースト校においては恐るべき密度で起こり始めていたのだ。

 

 

…それは例えるならば、局地的に発生した大ハリケーンの如く。

 

 

また、ソレは今まで『芽』が出なかった学生達ばかりではない。

 

元々素質のあった者達…特に、【決島】に代表として出場していた学生などがその良い例。彼らもまた、【決島】と【裏決島】にて壮絶な体験をした事に加え、一挙にレベルの高い授業を受けたのが功を奏したのか…

 

それまで『あと少し』の所で『壁』に行き詰っていた学生達が、こぞって殻を破ったかのようにしてその頭角をメキメキと現し始めていたのだ。

 

…この調子だと、来年度のイースト校は近年まれに見る『大豊作』時代になるかもしれない。

 

それこそ、誰が【決闘祭】に出場しても可笑しくないレベルの学生が多々現れるかもしれないし…イースト校からプロになる者が、数年に渡り後を経たないかもしれない。一介の教諭たちとは次元の違う天上の力を持った特別講師たちの手ほどきを先んじて受けられたイースト校の学生達は、果たしてどれだけ幸運な者達なのだろう。

 

そんな、もうすぐ春を迎える時期に…

 

様変わりしたイースト校の教育風景が、本日も終わりの鐘とともに終了を迎えた…

 

 

 

 

 

とある日の、放課後―

 

 

 

 

 

「バトル!【サンダー・ユニコーン】で、【ワイトキング】に攻撃だよ!」

「なるほど、攻撃力8000…中々いい攻撃力だ。しかしまだ甘い!罠カード、【反転世界】発動!」

「え!?自分から攻撃力0に!?」

「そうだ、この効果により攻守を逆転する。そしてダメージステップだ、こちらも速攻魔法、【コンセントレイト】発動!【ワイトキング】の攻撃力は現在0だが、そこに入れ替えた守備力10000を加える!」

「攻撃力1万に戻った!?」

「迎撃だ、ワイトキング!ナイトメア・ゴッドフィスト!」

 

 

 

―!

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

ルキ LP:4000→0

 

 

 

「【愚かな埋葬】発動!デッキから【シルバー・ガジェット】を墓地へ送る!続けて魔法カード、アイア…」

「ダメ。【シルバー・ガジェット】が墓地に行った時、墓地の【異界のバンシー】の効果発動。デッキから【アンデット・ワールド】発動。機械族はアンデット族になる。」

「ぬぅ!?これでは【アイアンコール】が…くっ、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー。【ゴブリンゾンビ】召喚して罠カード、【破壊指輪】発動。今召喚した【ゴブリンゾンビ】破壊。お互いに1000のダメージ。」

「なにっ!」

 

 

 

―!

 

 

 

スズシ・ローナ LP:3000→2000

 

鷹矢 LP:1000→0

 

 

 

「アドバンス召喚成功時、【神獣王バルバロス】の効果発動!相手のカードを全て破壊する!」

「はいはいゴクローでゅーす!破壊された4枚の?『アーティファクト』の効果が?そう、ぜーんぶはっつどぅー!」

「くそっ!今度は全部『アーティファクト』か!」

「ブッ放せばいいってモンじゃありますぇーん!カドケウス、モラルタ、ベガルタを順&番に特殊召喚!そんでもって神智の効果でバルバロス破壊しちゃって?カドケウスの効果で2枚ドロドローして?ついでにモラルタで堕天使ディザイアも破&壊withベガルタでセットカードもブッ飛ばSay!」

「くそっ!ターンエンド…」

「ンじゃチャン僕のトゥアーン、ドロー!そのままバトゥー!モラルタで?そう!ダイレクトアタッー!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊良 LP:1800→0

 

 

 

…ピー

 

 

 

 

 

ほぼ同時に。

 

イースト校の実技用スタジアムに、3つの無機質な機械音が鳴り響いていた。

 

…それは紛れもなく、イースト校2年の天城 遊良、天宮寺 鷹矢、高天ヶ原 ルキの3人が、イースト校理事長である【白鯨】、砺波 浜臣からいつものように修業を受けている時間体での事。

 

しかし、いつもの【白鯨】からの修業とは違って…

 

遊良達は、3人の特別講師達によるデュエルの指導を受けており…

 

 

 

「ふむ、やはり『七草』を雇って正解でした。実に良い修業になる。」

 

 

 

また、教え子たちの負けっぷりを見て。

 

スタジアムから一人離れたそこには、決闘学園イースト校理事長…元シンクロ王者【白鯨】と呼ばれた男、砺波 浜臣が、観戦席から一人でそう呟いていた。

 

…満足そうに手で顎を触り、充分そうに頷いて。

 

そう、砺波がわざわざ【裏決島】にて、デュエル傭兵集団『七草』のメンバーを3人も自腹で秘密裏に雇ったのは偏に『このため』だったのだろう。

 

無論、多くの学生達のレベルアップ、イースト校全体の実力の底上げも目論見としては勿論のことなのだが…

 

しかし、それ以上に。その実力が『極』の頂きに到っている者達を、3人も確保できるというのは【白鯨】である砺波 浜臣からしてみてもコレ以上ないくらいに良い『買い物』でもあったはず。

 

何しろ、『極』の頂き…

 

長い長い決闘界の歴史を見ても、『そこ』に到達できる者というのは得てして限りない強者や一握りの選ばれし者達のみ。

 

幾億の凡人と、幾万の実力者と、幾千の天才と、幾百かの怪物の中から選りすぐられた…

 

【王者】にもなることの出来る素質を持った、『極』の頂きに到達できるデュエリストと言うのはいつの時代だってその人数は数えるほどしか出現しないモノなのだ。

 

それ故、そんな人種を一気に3人も手元に置く事が出来る今の砺波の度量は、確実に『ニンゲン』のソレを超えているはずで…

 

だからこそ、【裏決島】にて砺波が『七草』と対峙したときには、彼らがどのように映っていたと言うのだろう。

 

 

 

「学生達のレベルの底上げ、天城君たちの良い修業相手。そして私の暇つぶし…彼らほど適任はいませんね。実にいい拾い物をした。そこだけは【紫影】の屑に唯一感謝してやってもいい。」

 

 

 

ポツリと呟かれた一匹の【化物】の、公務と私情が混ざったそんな言葉を聞いている者はこの場には居らず。

 

【化物】となった己を測る良い実験体、ていの良い暇つぶしの相手…手懐ければ学生達、ひいては直々の教え子の良い修業相手となる…

 

おそらくシンクロ王者【白鯨】と呼ばれていた頃の彼を知る者が、何かの例えでここに同席していたら…きっと、今の砺波の言葉を聞いて自分の耳を疑った違いない。

 

そう、それほどまでに今の砺波の零した言葉は、【王者】の責務を第一に考えていたかつての【白鯨】からは考えられない程に―

 

それほどまでに、全てが彼の掌の上であるかのような、一種の不気味さを漂わせていたのだから。

 

けれども、【王者】を超えた一匹の【化物】が、2階席にて満足そうに不敵な笑みを零していることなど露知らず…

 

講師として、そして弟子達の修業相手として捕まった…もとい、雇われたデュエル傭兵集団『七草』は、雇われた仕事内容に従って。他の学生達とは一線を画す【白鯨】の教え子たちへと、デュエル後の指導を続けるだけで…

 

 

 

「高天ヶ原女史、君は少々、攻撃すること自体に気持ちが行き過ぎている。ソレが悪いとは言わないが、今のように相手がダメージステップで仕掛けてくる場合も想定し、攻撃力上昇のカードを使う場面を慎重に選びたまえ。折角上げた攻撃力も、攻撃を仕掛けるタイミングを見誤れば取り返しのつかないことになるのだから。」

「あ、はい…わかりました…」

 

 

「単調。」

「…む?」

「天宮寺 鷹矢。あなたのリズム、単調すぎる。出すエクシーズモンスター変えても、レベルチェンジさせても…基盤が『ガジェット』や『機械族』だから、リズムが読みやすい。もっと、メリハリつけるの。そうしないと、いい的。」

「ぐ…返す言葉もない…」

 

 

 

まぁ、それでも彼ら『七草』にとっては、いくら鷹矢やルキが他の学生とは一線を画す【白鯨】の教え子であろうとも、自分よりも弱い相手には違いないのだろう。

 

他の学生達とは確かに違う、【白鯨】が教え子に認めるのも納得のモノを持ってはいる。けれども、他の学生達を教えるのと同じように彼らを冷静に降しつつ的確な指導を行える辺り…

 

それはそっくりそのまま『七草』と呼ばれるモノたちの実力の高さを物語る代物となりて、鷹矢やルキに『極』の頂きへの『遠さ』を実感させてもいるのだが。

 

 

 

また…

 

 

 

「くそっ…やること全部が裏目に出た…」

「ひゃはは、ユラちんってば分かりやすスギィ!確かにかーに?『堕天使』はケッコーケッコーコケコッコーにソレナリのモンだけどもだっけーどぅー?ンでもちーっと素直過ぎーってカーンジィもすんだよねー。」

「…素直すぎ?」

「狙いがミエミエでー?迷いも相手にミエミエーって事よん。あとユラちん、迷ったらとりまバルバロスでブッ飛ばSay!って思ってるっしょ?」

「あ…それは…」

「ひゃは、それじゃーイカンのよー!親父はもっとこー…」

「…え?」

「おっとっと、何でもナッシンーグ!それよりよーり?【やぶ蛇】に引っかかる率メニーメニーなのよチミ!めんどいからバルバロスでゼンブッパー!じゃなーくてさー、もっとこー、狙いを定めてシューティングる事も覚えとけ的な的なテキーラってかー?一&点with集&中!見極めってーの?もっともーっと研ぎ澄まSAY hoooo!」

「は、はい、ギョウ先生…」

 

 

 

遊良の方も、【裏決島】以来となる『極』の頂きに位置している者との戦いに、改めて今の自分の実力との『距離』を強く痛感している様子。

 

圧倒的強者から手玉に取られるこの感覚…【決島】の前に戦ったシンクロ王者【白竜】もそう。夏休みに修業をつけてもらった『烈火』もそう…

 

そして【裏決島】で戦った、性根の腐った捻じれた男、あの屑の中の屑である【紫影】もそうだが、得てして『極』の頂きに到った者達を相手にすると途端に自分の攻撃の何もかもが手玉に取られているかのような感覚を遊良は覚えてしまうのだ。

 

それは偏に、『先』の地平に立っているだけの自分と、『極』の頂きとの距離がそれほどまでに遠いという事。

 

そう、いくら【決島】、【裏決島】を戦い抜き、そして先のアマギ ユーラとの戦いで『邪神』と呼ばれる神のカードを倒した経験が確かに遊良の糧となっているとは言えども…

 

それでも、本物の『極』の頂きに立つ者たちと比べれば…

 

まだまだ、遊良とて未熟さな部分が多いということであって―

 

 

 

「…前から聞きたかったのだが、何故貴様らはプロにならんのだ?」

「ひょ?」

 

 

 

そして、放課後の修業が終わってすぐに。

 

帰り支度をしながら、3人の『七草』へとそう質問を零したのはイースト校2年の天宮寺 鷹矢であった。

 

 

 

「俺には分かる。悔しいが、貴様らの力は今のトップランカー達より優れている…それだけの力があれば、裏社会などで稼がなくともプロで充分稼げるはずだろう?…いや、【王者】だって狙える力があると言うのに、どうして貴様らはプロにならんのだ。」

 

 

 

それは偏に、来年度からプロデュエリストになることが確定している鷹矢だからこそ零す事が出来た質問。

 

そう、夏休みの間にプロに混じって様々な大会に参加し、今も【白鯨】の命によりプロ候補生として時折授業免除で大会に出ている鷹矢だからこそ―

 

肌で感じたプロの世界の空気、そして現役のプロの世界を誰よりも感じた事のある鷹矢は、『七草』の力を同じくその肌で感じたからこそそんな質問をしたのだろう。

 

デュエル傭兵集団『七草』…

 

この3人の特別講師ではないが、同じく『七草』が一葉の一人と【裏決島】にて鷹矢と遊良は対峙している。

 

まぁ、その時はデュエリア校の鍛冶上 刀利がその場を引き受けてくれた為に大事には至らなかったものの…

 

それでも、その時に感じた『七草』の途轍もない実力…底の見えない、天井の見えない、本物の強者が発する『七草』の殺気は、その場にいた鷹矢と遊良に恐怖を与えるには十二分すぎる代物であったのだから。

 

 

…だからこそ、鷹矢は問いかける。

 

 

裏社会などに身を落とさなくとも、表社会の、なんなら正式なプロとして充分日の当たる場所で脚光を浴びれるだけの実力を持ったこの3人の特別講師達が。なぜ、真っ当な道を歩まずに、裏社会などでデュエル傭兵なんてしているのか…と。

 

そして…

 

一介の学生とはいえ史上初の高校生プロになる事が決定している、現エクシーズ王者【黒翼】の孫である天宮寺 鷹矢からの質問に、『七草』のメンバーたちは一体何を思うのだろう。

 

鷹矢から投げられた、『どうしてプロにならないのか』という質問を受けて…

 

『七草』が一葉、ゴ・ギョウとスズシ・ローナ、そしてホトケ・ノーザンは、どこか遠い眼をしながら―

 

 

 

「ひゃはは、そいえばむかーしむかし?『アイツ』が同じよーな事言ってたっけねー。」

「うん、言ってた。…それに、『正しい力は正しい場所で使わなきゃダメだ』ってのも言ってたね。」

「…フッ、懐かしいな。」

 

 

 

裏社会に身を置いている者らしく、その真意は明らかにはしないものの。

 

それでも、鷹矢からの質問を受けた『七草』のメンバーは…何やら、鷹矢からの言葉に各々思うところがあるかのような雰囲気を醸し始めたではないか。

 

…今この物語では語られぬ、『別の誰かの物語』にて出会い、そして『ここ』に至るまでの選択をしてきた彼らデュエル傭兵集団『七草』。

 

きっと、その思いは目の前の学生達には想像もつかないような道筋であったに違いない。それ故、彼らの壮絶なる人生の追憶は、およそ十数年しか生きていない鷹矢たちには想像も出来ない深さを持ちながら、どこまでも未熟な若者達へと発せられるのか。

 

すると、『七草』の中で最も思慮に長けているであろうホトケ・ノーザンが…

 

質問主である鷹矢へと向かって…

 

いや、この場を同じくしている遊良とルキにも同じように向けて。

 

ゆっくりと向かい直すと、その口を開き始めた。

 

 

 

「いいか、天宮寺少年…いや、高天ヶ原女史と天城少年もだ。良く覚えておきたまえ…誰もが皆、正しい場所で正しく力を振るえるモノではないのだと。」

「正しい場所で正しく力を…?まるで意味がわからんのだが…」

「ふっ、今は分からなくとも良い。いずれ分かるさ、いずれな。」

「ぬぅ…」

 

 

 

しかし、ホトケ・ノーザンから授けられた言葉に対し。

 

一人だけ意味のわかっていない雰囲気を醸しつつ、混乱してしまっているのは鷹矢が先んじて1人だけプロになったてしまったが故なのか。

 

…鷹矢には、どうしても腑に落ちない。

 

これほどまでの力を持ちながら、『プロ』という真っ当な道を選ばなかった者達…

 

それはエクシーズ王者【黒翼】を祖父に持つ鷹矢だからこそ理解する事が出来ない、表に生きる者がゆえの見解の相違。そう、真っ当ともいえる『覇道』を歩んでいる鷹矢には、どうしても『裏』の者達の『意味不明』な選択の意味が理解できず…

 

 

 

けれども、同じ言葉をかけられた鷹矢とは違い…

 

 

 

(正しい道は誰でも歩めるわけじゃない…だって、俺も…)

 

(なんか、わかるかも…私だって、『コレ』が無かったらもっと普通に…)

 

 

 

ホトケ・ノーザンの言葉の『真意』を、遊良とルキは理解していた。

 

…そう、才能があり、実力もあるのに。

 

その力を公の場で発揮する事を許されなかったり、認められなかったりする者が…この世界には、確かに存在しているのだと言う事を。

 

 

…『Ex適正』が無く、世間からデュエリストとして認められてこなかった天城 遊良。

 

…『赤き竜神』をその身に宿すが故に、思うようにデュエルが出来なかった高天ヶ原 ルキ。

 

 

一般的な、普通の者達が悩む必要の無い事も、特殊な事情を持つ彼らは『常』にソレに悩まされてきた。

 

それ故、鷹矢が全く理解を示せない特別講師ホトケ・ノーザンの言葉の意味…ソレが、遊良とルキには、痛いほど理解できてしまう。

 

 

 

 

つまりは、彼らも―

 

 

 

 

そして―

 

 

 

「話は終わりましたか?」

「あ、砺波先生…」

「ぬぅ…釈然とせんが、とりあえず今日はこの辺りにしておいてやる。」

「はぁ…なんで鷹矢はいっつも上から目線なのよ、もう。」

 

 

 

観覧席から降りてきたのだろう。通常の修業時間も終了となったことで、砺波がいつものように場を締めにかかって。

 

 

 

「では天城君、天宮寺君、高天ヶ原さん。君達は今日のデュエルに対しそれぞれレポートを書いてくるように。先生達はこれで上がってもらって結構ですよ。今日も一日お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」

「承知した。」

「…ひゃは、了解でゅーす。」

「ゴさん、相変わらず【白鯨】にビビリすぎ。」

「…うぇーい、りじちょーのアレ喰らってない奴に言われたくなうぃーねー…」

 

 

 

そうして、帰り支度をしている学生を他所に…『七草』の3人は、静かにドームを去っていく。

 

その後ろ姿には裏の者らしく一分の隙もないものの、しかし一日の終わりにどこか疲れた雰囲気を感じさせるのは彼らもまた偏に人間である証拠でもあるのだろう。

 

…裏の世界で生きてきた彼らもまた、慣れない教員生活を強いられている為に疲弊していないと言えば嘘になる。

 

そう、それが、いくら【白鯨】からの逃れられぬ圧による脅迫にも似た依頼であったとしても…それでも、文字通り命を賭けて仕事をしてきた裏の人間である彼らにとっては、『今』のこの生ぬるくも経験した事の無い職場は、これまでとは違った難しさを感じているはずなのだから。

 

 

 

「よし!では帰って飯だ飯!今日は肉祭りをすると遊良と約束していたのだ!たらふく食うぞ!」

「…ホントにそんな約束したの?」

「…この前の大会で優勝したらって軽い気持ちで約束したら…」

「あー、凄い勢いで優勝してたね、確かに。」

「せっかく家が綺麗になったのに鷹矢のせいですぐ肉臭くなっちまう。」

「む?それの何がいけないのだ。」

「はいはい、鷹矢は早く帰ってご飯食べたいんだよねー。ホント食いしん坊なんだから、もう。」

「うむ!今日は食うぞ!どうせ俺の賞金で買った肉だからな!遠慮などしなくとも良い!」

「今日『は』じゃなくて今日『も』だろ。大体お前、飯食うのに遠慮なんてした事無いくせに。まぁお前が稼いだ金だから仕方ないけど。」

「うむ!」

 

 

 

また、遊良達の方も。

 

ちょうど帰り支度が済んだのだろう、鷹矢の空腹による夕飯への期待値が上がっていくと共に…ソレを用意する遊良の気持ちが、別の意味で重くなってきていて。

 

…まぁ、ソレも当然か。

 

何しろ学業生活に放課後の修業、毎日の家事に課題にその上鷹矢の食事の用意に加え身の回りの世話までこなさなければならない遊良の大変さは、きっと同じ年代のどの学生よりも大変な部類に入るはず。

 

それに加え、最近では鷹矢が大会やらプロ入り前の研修やらで自分で稼ぐようになってきた所為で少々わがままも増えてきてしまったのだ。食事のリクエストにしたってそうだし、デュエルの研究と銘打ってこれまで以上に鷹矢が夜更かしするようになった所為で…特に最近の鷹矢は朝寝坊も増えてきてしまっているのが現状でもあり…

 

 

…とは言え、これもまた彼らが取り戻した日常には違いなく。

 

 

【決島】が始まる前から起こっていたゴタゴタも先日全てが片付き、【決島】と【裏決島】で起こった壮絶な戦いも終わり…遊良の指名手配騒動も終息し、騒動ばかりが起きた今年度もようやく終わりが見えてきた。

 

それはもうすぐ3年生になる彼らにとって、どれほどの経験値となりてその成長に繋がったのだろう。

 

…今はまだ、彼らも最高学年になるという自覚はない。

 

けれども、ようやく落ち着きを取り戻してきた日常は彼らなくしてはありえなかった平穏であるが故に…ゆっくりと過ぎる毎日の平穏は、きっと彼らにとってもかけがえのないモノに違いないことであって。

 

 

そんな、ようやく取り戻した日常の中で…

 

 

遊良達もまた、本日の修業を終えた満足感の中で帰路につこうとした…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

「…あぁ、天城君、君はもう少し残って下さい。」

「え?」

 

 

 

いきなり…

 

今にもドームを去ろうとしていた遊良達へと向かって、突然静止を促し始めたイースト校理事長、砺波 浜臣。

 

いや、正確には遊良達を止めたのではなく、遊良一人だけを名指しで止めたのだが…

 

しかし、今まさに3人揃って帰ろうとしていたそんな矢先に、突如遊良だけが呼び止められては。

 

その両隣にいた鷹矢とルキも立ち止まってしまうのは極自然の事であり、そのまま声をかけてきた砺波へと向かって…

 

呼び止められた遊良ではなく、何故か鷹矢が先んじてその口を開き始めた。

 

 

 

「理事長よ、それは火急の用事なのだろうな。この俺の腹具合よりも優先するべきほどの。」

「…当たり前でしょう?と言うより、どうして君の腹具合が私の用事よりも優先されるべき事になるのかが疑問なんですが。」

「理事長こそ何を言っているのだ?俺は修業後で腹が減っている、だから遊良の作った飯を迅速に、火急に、一刻も早く食うのは何よりも優先されるべき事に決まっているはずなのだが?」

「…いや、だから何でお前の腹具合が最優先になるんだよ、この馬鹿野郎。」

「はぁ…ホントお馬鹿なんだから、もう。」

 

 

 

そんな鷹矢の零す言葉は、【白鯨】の呆れた声など意に介さず…どこまでも己の腹具合を主張し食い下がり続けるだけの代物となりて、砺波の苛立ちへと変えていく。

 

…一体、どうしてこの男はここまで傲岸不遜に振舞えるのだろう。

 

砺波の脳裏に浮かぶのは、彼の祖父の若い頃そのままであり…まるで若い頃のあの男が今自分の目の前にいるような錯覚を砺波が覚えそうになったのも、きっと気のせいだけはないはずで。

 

…また、遊良の方も。

 

修業終わりに名指しで砺波に呼び止められた事に対し、またレポートの増大と言ったような少々の不安が脳裏をよぎったものの…

 

けれども、砺波にわざわざ呼び止められてソレを無視することも遊良に出来るはずもなく。

 

そのままルキと、少々ふて腐れている鷹矢へと向かって…

 

 

 

「二人は先に帰っててくれ。」

「ぬぅ…仕方がない、だが俺は腹が減っているのだ。早く帰ってきて飯にしてくれ。頼んだぞ?」

「わかったわかった。」

「本当に分かっているのか?俺は物凄く腹が減っているのだぞ?それは言葉では現しきれないくらいの…」

「はいはい、じゃあ行きますよー。鷹矢が居ると邪魔になるだけなんだしさー。」

「ぬ?おい待てルキ、襟を引っ張るな!おい!聞いているのか!ル…」

 

 

 

そうして…

 

ルキに雑に引き摺られ、鷹矢はドームから出て行ったのだった。

 

 

 

「さて、では行きましょうか。」

「え…行くってどこに…」

「…先ほど、私のディスクに連絡が来ました。君に…逢いに来た人物が居ます。」

「俺に会いに…ッ、それって…いや、でも…」

 

 

 

そして、鷹矢とルキがドームから居なくなってすぐに。

 

頃合を見計らって本題を告げてきた砺波の言葉を聞いて、思わず息を飲んでしまった遊良。

 

自分に客…この数ヶ月、『ソレ』で悩みっぱなしだった遊良にとっては、ソレが誰かのかを砺波が告げなくともおおよその見当がつくと共に、言葉にならない期待のようなモノが浮かび上がってきている様子。

 

けれども、ソレと同時に…

 

過度な期待をした分だけ、ソレが見当違いだった場合のショックも大きくなってしまうことを遊良も分かっているために、ぬか喜びをしないように遊良は逸る心をどうにか抑えようともしているのか。

 

 

 

(しかし劉玄斎め…まさかここまでヘタレだったとは。アレからもう2ヶ月も経っているのだぞ?)

 

 

 

砺波がそんなコトを考えていることも露知らず。

 

すでに夕方も終わりかけで、誰もいなくなっている校内を…砺波に連れられ、遊良は静かに歩きはじめて。

 

その間二人に会話はない。ただただ静かに、どこか重い空気の中で…遊良は砺波に連れられて、静かな校内を歩き続けるだけで…

 

 

…そのルートから、向かっているのはおそらく理事長室に違いない。

 

 

まだ、ぬか喜びはしない。予想と違った場合に、どうせ傷付く事になるのだから。しかし、それでもなお理事長室へと向かっている遊良の心臓は押さえようとしてもなお…理事長室に向かう階段を上がるたびに、更にその激しさを増していくのみ。

 

…そして、最上階へと辿り着いたとき。

 

ここまで会話を挟まなかった遊良は、厳かな理事長室の扉の前で…

 

ようやく、砺波へと向かって口を開いた。

 

 

 

「あ、あの…俺に会いにきた人ってもしかして…」

「えぇ、そのまさかです。人物が人物なだけに下手な部屋を用意するわけにもいかなかったもので………では、入りなさい。」

「し、失礼します…」

 

 

 

…厳かな扉の前、そこでゆっくりと砺波は扉を開き始める。

 

そんな重々しい扉の向こうからは、まるでこことは異なる空間があるのではないかと思える程に重々しい空気が部屋の中からもれ出てきており…

 

…糸をピンと張り詰めたかのような空気感、逸る心臓が飛び出るほどに強く打ちつける。

 

ドアを開け、先んじて入った砺波はそのまま遊良の為に重い扉を押さえており…

 

そして、続いて理事長室へと入った遊良の目に…

 

 

飛び込んで、来たのは―

 

 

 

「あ…」

 

 

 

遊良の目に飛び込んできたのは、砺波以外にこの部屋に元からいた『2人』の人の姿。

 

一人はしわがれた小柄な人物、長く伸びた白髪と白髭によって、顔だけでなく体までも隠した異様な雰囲気をした老人であり…

 

それは超巨大決闘者育成機関【決闘世界】最高幹部にして、多くのプロデュエリスト達から『妖怪』と呼ばれし翁…

 

―綿貫 景虎。

 

 

 

そして―

 

 

 

それ以上に遊良の網膜に強く映りこんだのは他でもない。

 

…それは遊良が待ち望んでいた人物。それは遊良がずっと待ち焦がれていた人物。

 

まるで世紀末を生きているのではないかと思える程に鍛えあげられた肉体と、丸太のような腕…その鋼鉄のような筋肉は、およそこの世の誰よりも鍛え上げられている代物と思えるくらいの隆起となりて、この理事長室の中で最も重々しい存在感と共に一際異なった存在感を放っていて。

 

 

そう…

 

 

そんな重々しい雰囲気と、人間離れした肉体を持った人物など、この世界においてはたった一人しか存在しない。

 

それは【王者】と『同格』と称えられし男。世界最強の一人に数えられる伝説のデュエリスト。

 

 

 

王座を踏みつける戦闘狂、暴れ狂う大災害…

 

 

 

 

 

『逆鱗』…

 

 

 

 

―劉玄斎、その人。

 

 

 

 

そんな待ち焦がれた、しかしどこか邂逅を諦めてしまっていた人物とようやく再開を果たしたと言うのに…

 

何の前触れもなく現れた劉玄斎を前にして、遊良はただただ固まってしまっているだけではないか。

 

…しかし、それも仕方がないといえば仕方の無いこと。

 

何しろ、【決島】が終わってから既に4か月以上も経っているのだ。年も明けてしまったし、【決島】が終わってからも遊良の身には『色々』な事が起こっていた。

 

それ故、それまでずっと悩み、苦しみ、時には体調を崩すまで思い詰めていた遊良からすれば…

 

近いうちの邂逅を諦めつつあったために、今こうして予期せぬタイミングで前触れもなく現れた劉玄斎に対し、何を言っていいのかわからなくなっている様子でもあり…

 

 

…また、劉玄斎の方も。

 

 

理事長室に入ってきた遊良に対し何を言うでもなく、その太い腕を組みただただ俯いて座っているだけではないか。

 

…沈黙が重い。

 

遊良が理事長室に入ってから、まだほんの数秒しか経っていないと言うのにも関わらず。まるで永遠にさえ感じられるその重い沈黙の部屋の空気は、形容し難い気まずさとなりてこの部屋の4人に重く圧し掛かり続けるだけ。

 

 

 

「…フム、では儂らは退散といこうかの。儂らが居ると話せないこともあるじゃろうしな。」

「そうですね。」

 

 

 

だからこそ、この部屋の沈黙に耐えかねたのか…はたまた、自分達の仕事はもう終わったと判断したのか。

 

【白鯨】砺波 浜臣と、『妖怪』綿貫 景虎は、固まっている遊良と劉玄斎を他所に…

 

理事長室から外へと出ると、静かに理事長室の扉を閉めこの場を離れ始めるだけであり…

 

 

 

 

 

「…ようやく心の準備が整ったようですね、あのヘタレは。」

「いんや、今日もまだウジウジ言っとったから、儂もいい加減キレて無理矢理連れて来たんじゃ。デカい図体して…本当に肝っ玉の小さい奴じゃわい、小龍の奴。」

「…そういえば昔、イノリさんも告白まで随分待たされたと言っていた記憶があります。」

「天城 竜一やあの子の『心』の強さは絶対にイノリの血じゃな。小龍に似なんで本当によかったわぃのう。」

「えぇ、本当に。」

 

 

 

 

 

ゆっくりとこの場を後にする彼らから零されるはそんな会話。

 

その出所は違えど、『逆鱗』の事情を知る【白鯨】と『妖怪』は遊良と劉玄斎の二人を理事長室へと置いたままに…

 

そのまま、校内へとその姿を消していくのだった。

 

 

 

そして…

 

 

 

理事長室に置き去りにされた、遊良と劉玄斎の方はと言えば。

 

遊良がこの部屋へと足を踏み入れた時の恰好そのままに、二人ともにただただその場に固まったまま動きを見せていないではないか。

 

…何と言っていいのかわからない。何と切り出していいのかわからない。

 

あまりに唐突の邂逅に、遊良の思考は完全にストップしてしまっているかのよう。そして劉玄斎の方もまた、腕組みをし俯いたまま…ただただ、重苦しい沈黙が続いているだけ。

 

 

 

そのまま…

 

 

 

二人して固まったままで、どれだけの時間が経っただろう。

 

…時間にして一瞬だったかもしれない。

 

…けれども永遠に近い静寂だったかもしれない。

 

そんな、異様な緊張感が張り詰めているイースト校の理事長室の中で…

 

 

ゆっくりと…

 

 

その口を開いたのは、『逆鱗』と呼ばれし劉玄斎からであった。

 

 

 

「ユーラの奴ぁ…逝っちまったか?」

「ッ…」

 

 

 

しかし…

 

開口一番、ようやく口を開いた劉玄斎から飛び出してきたのは、遊良が予想もしていなかった言葉と名前ではないか。

 

…目を合わせず、体勢を崩さず。

 

遊良に視線も合わせずにそう零した劉玄斎は、一体何を思って『その名』を遊良へと向かって零したというのだろう。

 

 

 

「それって…俺と同じ顔をした、『前の世界』から来たっていうアイツの事…ですか?」

「…あぁ。お前と戦った…もう一人の、アイツの事だ。」

「ど、どうして貴方がアイツの事を…それに、何で俺と戦ったってことも…」

 

 

 

そう、劉玄斎からの言葉を『期待』していた遊良からすれば、劉玄斎がまず初めにその人物の名前を出してきたのはどう感じられたのだろうか。

 

…意外だったかもしれない、拍子抜けだったかもしれない。

 

それとも、思っていたのとは違う言葉に落胆すら感じたかもしれない。

 

けれども、劉玄斎は『ソレ』もまた必要な事なのだと言わんばかりの雰囲気をどこまでも崩さぬまま…

 

遊良へと向かって、更に言葉を続けるだけで―

 

 

 

「…それも話さなきゃなぁ…」

 

 

 

ゆっくりと…

 

それまで組んでいた腕を解き、ようやく今度は確かに遊良へと向かい直しつつ立ち上がり始めた男、劉玄斎。

 

それはようやく『決心』がついたのか、それともこれ以上情けない自らを少年へと見せたくないが故の決意なのか…

 

…重い足取りで、入り口にて固まったままの遊良へと静かに近づき。

 

 

震えている様にも見えるその手で、遊良へと触れようとしてやはり止め…

 

 

その場に跪いて、ゆっくりと息を吐き、遊良と、視線を合わせたのだった。

 

 

 

 

「目が…イノリの目にそっくりだ。」

「…天城 イノリは祖母の名です。俺が生まれてすぐに病気で亡くなったって…」

「あぁ…情けねぇことに、俺はその時まで知らなかったんだ…俺に息子が居ることも………『孫』が居ることも…なぁ…」

「ッ…」

 

 

 

劉玄斎から零れる言葉は、明言しなくともソレが真実であるのだと言うことを遊良へと伝えてくれる。

 

しかし、その言葉を漏らす劉玄斎の方からはどこかまだ遊良への遠慮と言うか懺悔というか、何やら煮え切らない『葛藤』の様なモノが入り混じったままにポツリポツリと零されるだけであり…

 

 

 

「聞いてくれるか?…昔の…話だ。」

 

 

 

そして…

 

劉玄斎は、語りだす―

 

己の人生に起こった軌跡、これまで何を体験しどんな経験をし、そして何を思いどんな行動をしてきたのか…を。

 

 

…それは一人の男の濃い半生。

 

 

―激動と情熱に満ちた若かりし頃の運命の出会い。

 

―失意のうちに荒廃してしまった絶望。

 

―立ち直り再び戦いの日々に舞い戻る選択をしたその意味。

 

―全てを捨てるほどの喪失感に心を壊してしまった晩年。

 

そして、幼い孫が地獄を味わっている日々に何も出来なかった無力な日々に加え…

 

アマギ ユーラとの、短い日々―

 

 

 

 

 

…その1つ1つを、遊良は黙って聞いていた。

 

 

 

 

 

記録には刻まれていない、伝説に残るほどの偉業を残した男の隠された秘密。

 

その感情も、その選択も…

 

その行動の何もかもがリアルに語られるソレは、世間一般に知られている『逆鱗』の勇姿とはかけ離れたモノに違いなかったものの…

 

けれども、遊良はただただ静かに聞いているだけ。自分が知りたかった、自分が知らなかった『逆鱗』の…その、この世の誰も知らない真実を、遊良は静かに聞いているだけ。

 

 

 

「これで、全部だ…これが俺の…情けねぇ、人生だ…」

「そんな…事が…」

「情けねぇ話だぁ…若ぇ頃の女を忘れられず、捨てられたと勘違いして荒れて…けど、どっかで見ててくれると思って、必死になって前線に立ち続けて…何も…俺ぁ、大切なモノを何一つこの手で守る事が出来なかった…」

 

 

 

それは『後悔』…

 

もう取り返しのつかない過去へと向けた、全てが後手後手に回ってしまっている自分の人生を劉玄斎は悔やみ続けている。

 

…戻りたくても戻れない、取り戻したくてももう遅い。

 

きっと、劉玄斎はこれまでずっと自分を責め続けてきたのだろう。イノリという最愛の女性を守れなかった弱かった自分を責め、最愛の女性と自分の息子に『何』もしてやれなかった自分を責め…

 

そしてそれ以上に、孫をこれまで待たせてしまった自分をずっと、ずっと責め続けているに違いなく。

 

だから―

 

 

 

 

 

「俺には…資格が無ぇんだ…胸張ってお前の………じいちゃんだって言える…資格が…」

 

 

 

 

 

だから、こそ。

 

遊良がずっと知りたがっていた、その『答え』を言った時であっても―

 

 

 

 

「俺ぁユーラの奴を救えなかった…それだけじゃねぇ、お前の事も、もっと早く何とかしてやることだって出来たはずなのに…今更になってお前をにもホントの事を言う勇気も出なかった…俺ぁ、怖かったんだ…イノリにも、息子にも、孫にも、何も出来ないこんな自分が不甲斐なくてよぉ…俺ぁ、こんなどうしようもねぇ…ダメな、男なんだ…」

 

 

 

劉玄斎の言葉にはどこまでも懺悔が付きまとっており、それ以上の『後悔』の念が今もなお彼を雁字搦めにしたままずっと彼を苦しめ続けているのだろう。

 

…きっと、その思いは消える事はなく劉玄斎の心に巣食い続ける。

 

懺悔の思も、後悔の念も。ずっと大切なモノを守れなかった劉玄斎にとって、自分を責め続ける事だけが唯一自分に出来る贖罪なのだと…

 

そう、思い込んでしまっている様子で―

 

 

 

 

けど…

 

 

 

それでも―

 

 

 

「それ、でもっ…」

 

 

 

 

再び俯いてしまった劉玄斎へと、搾り出すようにして零されるは嗚咽が混じった遊良の言葉。

 

 

 

「俺は…ッ、嬉しかった!俺に、ち、血の繋がった、か、家族がいるかもしれないって…ひ、一人じゃないって思って、嬉しかったんだ!」

 

 

 

搾り出されるようにして零された遊良の言葉は、まさしく遊良の心からの吐露そのモノ。

 

…考えて放ったのではない。

 

自分を責め続け、懺悔と後悔の念に押し潰されている劉玄斎へと向かって…それでも遊良は、どうしても言葉を発せずには居られなかったのだ。

 

そう、例え劉玄斎のこれまでがどうであろうとも、劉玄斎がどれだけ己の事を責め続けていても…

 

 

 

「だから…貴方が、祖母や父の事で、ッ…どれだけ、責任を感じていても…でも…それでも!」

 

 

 

それでも、遊良もまた…

 

これまで溜め込んできた、己の心の内を曝け出すように―

 

 

 

 

 

「それでも、あ、貴方のことを…か…家族だって!…お、思っても………い、いいです、か…?」

「ッ…」

 

 

 

 

 

だからこそ…

 

 

 

劉玄斎のその行動は極自然なモノだった。

 

 

 

そう、遊良の…『孫』の悲痛な叫びを聞いて、突発的に立ち上がった劉玄斎が取った行動を、一体誰が攻める事が出来ようか。

 

 

 

「すまねぇ…本当にすまなかったぁ!ゴメンなぁ遊良ぁ!」

「ッ…ぅ…ぁ…」

 

 

 

立ち上がり、遊良を抱きしめ…言葉と共に涙を零し、感情を押さえる事が出来ない劉玄斎。

 

力強くも慈しむように、優しく孫を抱きしめるその姿は、彼もまた心から孫を思っているからこそ反射的に動いた心からの行動。その行為は、確かに彼らが『血の繋がった者』であるからこそ止める事が出来なかった、肉親ゆえの反射的な代物であったに違いなく。

 

そう…劉玄斎がどれだけ過去の事で己の事を責めていようとも、それでも『今』ここにいる遊良にとっては確実な『血の繋がり』を受け入れられないはずがないのだ。

 

 

天涯孤独…

 

 

その孤独は、およそ常人には計り知れないほどに深い寂しさに違いない。

 

それ故、それまで血の繋がった者のいない孤独に苛まれ続けていた遊良の感情は、今、確かに彼の口から『血の繋がり』を認める言葉を貰ったことによって…

 

その、力強くも優しい祖父の腕の中で…

 

流れ出る涙と共に、もう、止めることなど出来はしないのだった―

 

 

 

―…

 

 

 

「…なぁ…良ければなんだけどよぉ…ユーラの奴の…墓ぁ、作ってやりてぇんだ。」

「え?」

「アイツはこことは違う世界から来たつってたが…でも、アイツも竜一とスミレさんから生まれたっつーからよぉ…だから…お前にゃ迷惑な話かもしれねぇが、その隣に墓ぁ、作ってやりてぇんだ。俺にとっちゃぁ…アイツも、孫に違いねぇんだ…」

「…」

 

 

 

しばらくして。

 

涙の後に、お互いが言いたかったおよそ全ての事を伝え終えた遊良と劉玄斎が、イースト校の屋上にて夕日に包まれていると…

 

唐突に、遊良へと向かって劉玄斎がそんな事を言ってきた。

 

…それは『前の世界』から来たと言っていたアマギ ユーラも、少しの間生活を共にした劉玄斎にとっては限りない『身内』に違いないと思っての言葉なのか。

 

そう、アマギ ユーラの方からは、『繋がりなんてない』と言われていたにも関わらず…それでも彼の為に何か行動してやりたいと願う劉玄斎の心は、確かにあのアマギ ユーラもまた見て見ぬ振りなどできない存在であったに違いないことであり…

 

 

 

「わかりました。俺も…アイツを、父さんと母さんの隣で、眠らせてやりたい。」

「遊良…ありがとうな…」

 

 

 

また、遊良の方も。

 

きっぱりと存在の相違を宣言したとは言え、それでも確かに『あまぎ ゆうら』として生きていたあのアマギ ユーラの事を無碍には出来ず…

 

それも偏に、いくら敵であったとは言えども自分と同じ孤独を味わい、自分よりも酷い喪失を味わい、そして他の誰にも関わる事なく『天涯孤独』のままに消えていったアマギ ユーラに対し…遊良もまた、思うところがあるが故なのだろう。

 

…劉玄斎からの申し出に対し、それを拒否することもなく受け入れ。

 

同情などでは断じてない。『この世界』においては他の誰にも感知されていないあの男の事を…

 

消滅する最後の時まで『孤独』のままであったあの男を、少しでも弔ってやりたいという気持ちは、確かに遊良の中にだってあるのだから。

 

 

 

そして―

 

 

 

「そうだ…なぁ、遊良…俺の名前なんだけどよぉ…劉玄斎っつーのは…まぁ、なんつーか、芸名みてぇなモンだってのは…知ってっか?」

 

 

 

ほんの少しの間の後。

 

唐突に、劉玄斎が夕日に包まれながらも遊良へと向かってそんな事を聞いてきた。

 

 

 

 

「はい、知ってます。本名を知る者は少ないって…」

「あぁ、俺の『本当の名前』を知ってんのは俺の妹と綿貫のジジイと…あと、イノリぐれぇだった。それだけ、『劉』の一族っつーのは…自分の本名を、隠さなきゃいけねぇ決まりがあんだ。一説には、遥か昔に神に喧嘩を売った所為だって逸話もある…ま、古ぃ話だ。俺の生まれた龍国…龍華中央決闘帝国の、創世記に書かれてるぐれぇの…古い話だぜ。」

「…龍国の創世記…母さんが喜びそうな話ですね。母さんは絵本作家だったんですけど、歴史の研究が趣味だったみたいで。」

「そうかぁ…なら、直接会って話してみたかったなぁ…」

 

 

 

…それは世間でも『謎』とされている、劉玄斎という人間の『本名』について。

 

そう、『小龍』という名は幼名の頃の通り名。かつての幼少の頃、他人よりも人一倍小さかった彼を見て『とある老人』がつけたという、あだ名のようなモノであり…

 

また、『劉玄斎』という名もそう。

 

小さき龍が『逆鱗』と呼ばれるようになってから、最早小さき龍ではなくなった彼自身が自らに課した…『龍を従える者』という意味を持ったとある国の言葉からきた芸名のようなモノだと言う事は、彼が引退した今でも広く世間一般に知られている。

 

 

 

「だからよぉ、お前にも知っておいてほしいんだ…家族として…俺の、本当の名を…」

「え…」

 

 

 

だからこそ、ようやく出会えた『家族』として。

 

劉玄斎は、一族の『掟』によって禁じられているはずの自らの名を、何の恐れもなく孫へと伝えようとしているのか。

 

…そう、これは『繋がり』。

 

確かに血の繋がっている、ようやく出会えた孫へと向けた…祖父の、決意表明のようなモノ。

 

…自らの本名を明かすその意味の重さを、劉玄斎は理解している。かつての古の時代に、『神』に喧嘩を売り目をつけられている『劉の一族』が自ら名を明かすと言う事は、それだけ『神』に狙われる事になるのだと言い伝えられているのだから。

 

しかし、それでもなお劉の一族の掟に反してでも―

 

劉玄斎は、どうしてもソレを遊良へと伝えたかったのだろう。

 

そのまま、劉玄斎は静かに1つ息を吐くと…

 

 

ゆっくりと…

 

 

遊良へと、向かって―

 

 

 

 

 

「俺の本当の名前は………良玄………劉 良玄ってぇんだ。んで、多分イノリは、俺の本名を息子に…竜一に、伝えたんだろうなぁ。」

「え…じゃあ…俺の、名前って…」

「あぁ…俺の『良』の字を…つけて、くれたんだろうなぁ…多分だけどよぉ…そんな気がすんだ…」

「…ッ…父さん…」

 

 

 

ゆっくりと伝えられた劉玄斎の真の名と、そして自分自身の名に付けられた『意味』を心の中でゆっくりと感じ。

 

それだけで、どれだけ自分が親から愛されていたのかを遊良は再確認するかのように…

 

そう、遊良の目に浮かぶ涙は、決して哀しみからくるモノではない。それは少し前に悩んでいた、親からの愛情の『真の意味』を今ここで本当の意味で理解したが故に浮かんできてしまう、哀しさではない涙に違いないのだ。

 

…繋がっている…親から受けた愛情と、受け継がれた意思はちゃんと自分にも繋がっている―

 

誰に何を言われなくとも、確かに遊良にはソレが分かる。父の思い、祖母の思い…ソレが偶然などでは断じてないという、確信めいた実感を遊良は今確かに感じた。

 

そんな、今はもう居ない父と、そして記憶には無いが写真で見た事のある祖母の思いを…遊良もまた、夕日の中で確かに感じ―

 

 

 

 

「あ、そういえば…」

 

 

 

 

しかし、それとは別に。

 

夕日が沈み行く屋上で、遊良は滲んだ涙を拭ったかと思うと…

 

ふと思いついたように、劉玄斎へと…祖父へと、1つ言葉を投げかけて。

 

 

 

「おう、どうした?」

「あの…アイツとは、デュエルしたりしてたんですか?」

「あぁ、ユーラのことか………一回だけな。俺が渡した『儀式』関連のカードを試したいって珍しくアイツの方から言ってきて…」

「じゃあ…あの…」

 

 

 

そして、祖父からの返答を聞いて。

 

遊良は何を思ったのだろうか、どこか言い難そうに…

 

しかし、言わずにはいられないようにして…

 

 

 

 

 

「お、俺とも、デュエルしてもらえませんか!?」

「…あ?」

 

 

 

遊良の口から飛び出したその言葉。

 

それは祖父へと向けた、孫の初めての我が侭のようなモノでもあった。

 

…まだその心の距離に距離はあれど。

 

それでも、ようやく血の繋がりを手に入れた遊良からすれば…ここで、ようやく出会えた祖父に対し、どうしてもそう言わずにはいられなかったのだろう。

 

…【王者】と同格と呼ばれた伝説のデュエリスト『逆鱗』。

 

その伝説も、その経歴も、その偉大さも何もかも。『逆鱗』とデュエルすると言う事が、果たして『どういった意味』を持つのかも、遊良とて勿論理解はしている。

 

その存在からして【王者】と同じ。簡単にデュエルする事など許されることではなく…ソレはいくら肉親であろうとも、おいそれと口にしてはいけない事であるコトくらい、遊良だって形として理解してはいるのだ。

 

けれども、それでもなお口にしなければならなかったのだと言わんばかりに…

 

遊良はただ、ようやく出会えた祖父と…家族として、何のしがらみもなく、ただ何気なくデュエルをしたかった。

 

それは例えるならば鷹矢のように…

 

そう、鷹矢のように、相手が【王者】だとか関係なく。ただ『家族』として、当たり前のように祖父とデュエルするという事を、遊良は言わずには居られなかったのだろう。

 

まぁ、遊良が祖父へとそう言った背景には、少なからず『前の世界』から来たアマギ ユーラの存在もあるのだろうが…

 

何しろ、『前の世界』から来たといって、自ら『今の世界』に繋がりなどないと豪語していたアマギ ユーラとは言えども…それでも、自分と同じ顔や声をした存在が、短い期間とは言え自分よりも先に祖父と共に暮らし、そして一度だけとはいえデュエルをしていたという事に、遊良も何か感じるモノがないと言えば嘘になるはず。

 

…だからこそ、遊良は祖父へと向かって。

 

少し震えている声で、勇気で一歩踏み出した言葉を祖父へと投げかけ―

 

 

 

「けど…いいのかぁ?俺ぁ、てっきりお前には恨まれてるもんだと…」

「…恨んでなんかいません。けど…ズルイなって…だって、アイツはあなたとデュエルしたことがあるのに…俺は…」

「あぁ…そうか………クハハハハ、そうだよなぁ、そりゃズリぃよなぁ。よし!デュエルすっか!」

 

 

 

また、劉玄斎の方も孫からの申し出を断ることなどするはずもなく。

 

そう、【王者】と同格の者としての肩書きだとか、伝説に数えられるデュエリストだとか…

 

デュエリア校学長としてのメンツだとか、向こう1年間の決闘禁止を言いつけられているだとか、そんな『縛り』程度で劉玄斎が孫からの申し出を断るわけがないのだ。

 

…劉玄斎からしても、孫との邂逅は望んでいたこと。

 

 

随分と、待たせてしまった―

 

 

それが、己の決心がつかない所為で先延ばしになってしまっていた、情けない理由からくる懺悔だとしても。

 

それでも、折角の孫からの誘いに…

 

祖父として、劉玄斎もまた応えないわけにはいかないのだから。

 

 

 

 

 

…そうして、二人は距離を取る。

 

 

 

 

それは心の距離ではない。デュエリストとして、心をぶつけ合う為に必要な間合いを取るだけ。

 

夕日だけが見ている、他に誰も見ている者など居ない屋上で…二人はデュエルディスクを装着すると、デッキが現れ手札を引いて…

 

 

…今、誰も居なくなったイースト校の屋上で。

 

 

『逆鱗』という肩書きも、Ex適正のないデュエリストだとかいうレッテルも、その何もかもが関係の無い…

 

 

 

 

ただの、孫と祖父のデュエルが―

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

今、始まる。

 

 

 

先攻は、劉玄斎―

 

 

 

 

 

 

「俺のターン!行くぜぇ、俺ぁ手札から【水征竜-ストリーム】の効果発動ぉ!手札のストリームと【エクリプス・ワイバーン】を捨て、デッキから【瀑征竜-タイダル】を特殊召かぁぁん!」

 

 

 

―!

 

 

 

【瀑征竜-タイダル】レベル7

ATK/2600 DEF/2000

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

大気を震わせる劉玄斎の声と共に、天より降り注ぐ豪雨のエフェクト共に空から降りてきたのは…

 

まるで大瀑布がそのまま竜の形と成ったかのように荒れ狂う姿をした、流れの化身たる水害の竜であった。

 

 

―征竜

 

 

それは大自然の暴走が化身となった、荒ぶる災害の竜達の総称。

 

噴火、洪水、竜巻、地割れ…その咆哮は雲を引き裂き、周囲の大気を怯えさせるとまで言われた…まさに『災害』その物でもある、凶悪なる4体のドラゴン達。

 

その力の凶暴さは、この世界においては知らぬ者など居ない程に有名であり…

 

 

 

「凄い…これが本物の…征竜…」

 

 

 

遊良も、映像ではなく『本物』を見るのはこれが初めて。

 

その迫力は遊良が想像していたよりも圧倒的に凄まじいモノであり、その圧力は遊良が予想していた遥か上をいく代物となりて、今まさに遊良の目の前にその姿を現しているのか。

 

何しろ、この世界において【征竜】というカードは、その凶悪さ故か使用・所持を『逆鱗』と謳われた劉玄斎を除いて他の誰にも許されていない。そう、【征竜】というカードの所持も使用も複製も、【征竜】に関わることは劉玄斎以外には絶対に認められていないのだ―

 

それ故、過去の映像ではなく、正真正銘ここに召喚された『生』の征竜たちを見て…

 

遊良は思わず感嘆の声を漏らしていて―

 

 

 

「続けてエクリプスの効果発動ぉ!俺ぁデッキから【真紅眼の黒竜】を除外し、そのまま魔法カード、【七星の宝刀】を発動ぉ!場のタイダルを除外して2枚ドロー!そんで除外されたタイダルの効果で【青氷の白夜龍】を手札に加えるぜぇ!更に【手札抹殺】を発動だぁ!4枚捨てて4枚ドロー!」

「5枚捨てて5枚ドロー!…【手札抹殺】を使ってきたってことは…」

「よぉし!これで準備は整ったってなぁ!たった今【手札抹殺】で墓地に捨てた、【嵐征竜-テンペスト】の効果発動ぉ!墓地のエクリプスとストリームを除外し墓地から自身を特殊召喚!そんでエクリプスの効果で除外されていた、【真紅眼の黒竜】も手札に加え…更に手札から【地征竜-リアクタン】の効果発動ぉ!手札のリアクタンと【真紅眼の黒竜】を捨てぇ!デッキから【巌征竜-レドックス】特殊召かぁぁん!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【嵐征竜-テンペスト】レベル7

ATK/2400 DEF/2200

 

【巌征竜-レドックス】レベル7

ATK/1600 DEF/3000

 

 

 

しかし、それだけでは終わらない。

 

止めどなく現れる災害の竜達。洪水の化身の後に続きしは…旋嵐を呼ぶ竜巻の化身と、大地を引き裂く地割れの化身。

 

一つの災害だけでも、人の手に負えぬであろう力を持っていると言うのに…ソレを同時に二つも従えるなんて、劉玄斎の力は一体どこまで計り知れないと言うのだろうか。

 

そう、遊良も父の遺品の中にあった映像でずっと見ていた…これが、これこそがかつて災害の竜たちをその身一つで支配し、文字通り『逆鱗』を震わせ決闘界で暴れ回った男、劉玄斎のデュエル。

 

たった一人の男の戦いが、世界の法にも刻まれるというその歴戦の重み。それは劉玄斎という男の功績が他に類を見ない程に大きいという事の証明かつ実績となりて、その凄みと共に孫の前で繰り広げられているに違いなく。

 

…決闘界の根幹に関わるほどの、あまりに大きいその力。

 

その、『逆鱗』たる劉玄斎にのみ使用を許された、もう公の場では決して見ることの叶わぬ大災害の竜たちの真価が…

 

 

 

―今ここに、蘇る。

 

 

 

「遠慮は無しだ!行くぜ遊良ぁ!俺ぁレベル7のテンペストとレドックスでオーバーレイィ!」

 

 

 

旋風の化身と震災の化身。その二つの災害が劉玄斎の宣言によって天を舞う。

 

これが自分の…祖父の生き様なのだと言わんばかりに増していくその勢いは、例え孫がEx適正を持たぬデュエリストであったとしても関係なくその宣言を高らかに行うだけなのか。

 

劉玄斎が持つ、エクシーズのEx適正によって導かれし…その2つの災害が、地面に現れし銀河の渦にその身を捧げ始め…

 

 

 

「燃えろ、真紅の玉鋼ぇ!黒き焔よ大地を焦がせぇ!エクシーズ召かぁぁん!来やがれ、ランク7!【真紅眼の鋼炎竜】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【真紅眼の鋼炎竜】ランク7

ATK/2800 DEF/2400

 

 

 

呼び出されたのは燃ゆる黒鋼、真紅の眼を持つ気高き炎竜。

 

火花を散らせ、炎を点し…血の流れよりもなお紅いその眼で、劉の血を引く少年を鋭く見据える。

 

 

 

「まだだぁ!【真紅眼の鋼炎竜】の効果発動ぉ!オーバーレイユニットを一つ使い、墓地から【真紅眼の黒竜】を攻撃表示で特殊召喚!更に魔法カード、【死者蘇生】発動ぉ!墓地からレベル7の【巌征竜-レドックス】を蘇生し、そのままレドックスを除外して手札から【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を特殊召喚だぜ!」

 

 

 

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】レベル10

ATK/2800 DEF/2400

 

 

 

しかし、それだけでは終わらない。

 

【征竜】だけではない。劉玄斎の場には、それぞれが『真紅眼』の名を持った3体もの黒き竜たちが揃い踏みし夕焼けの空へと大きく羽ばたいたではないか。

 

そう、『逆鱗』の劉玄斎…

 

その高名は確かに【征竜】によって一躍広まったとは言えども、劉玄斎と呼ばれしデュエリストの力は何も【征竜】しかないわけでは断じてないのだ。

 

ドラゴン達を従える暴君、彼がまだ小さき龍と呼ばれていた頃から、真紅眼だけに留まらず劉玄斎が従えていたドラゴン達は多岐に渡る。その中には古の【王者】の名も含まれていたりと、とにかく近代における代表的なドラゴン使いと言えばこの劉玄斎の事を指すと言われても過言ではない。

 

そのまま、展開する手を休めることなく。劉玄斎は、更にその激しさを増していくのみ。

 

 

 

「レドックスの効果で【グランドタスク・ドラゴン】を手札に加える!そんでダークネスメタルの効果も発動だぁ!墓地から【パンデミック・ドラゴン】を特殊召喚しぃ、そのままレベル7【パンデミック・ドラゴン】と【真紅眼の黒竜】でオーバーレイィ!」

 

 

 

止まらない―

 

劉玄斎の誇る竜族たちが現れては消え、消えては現れ…目まぐるしくフィールドを駆け巡るその激しい展開は、まさに竜の咆哮にも似た鋭さを持って留まる事をまるで知らず。

 

『逆鱗』の劉玄斎が放つ、あまりに重いプレッシャー。その声は天を震わせ、更に猛々しく空から降り注ぎ…

 

 

 

「疾れ、機鉄の天竜よぉ!朧の現と空を舞えぇ!エクシーズ召かぁぁん!」

 

 

 

どこまで重厚に響く劉玄斎の声に連なり、銀河が弾けその光の中から現れしは…

 

 

 

「現れろぉ、ランク7!【幻獣機ドラゴサック】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【幻獣機ドラゴサック】ランク7

ATK/2600 DEF/2200

 

 

 

鋼の黒竜に続き呼び出されたのは、命を持った機鉄の天竜。

 

音速を超える咆哮を響かせ、猛々しく空を舞う。

 

 

…これが、『逆鱗』と呼ばれし劉玄斎、その現役時代の二枚看板。

 

 

強固な耐性を備える天竜、相手を燃やす炎竜。

 

災害の竜達によって呼び出されるこの2体の竜が並び立つ光景は、現役時代の劉玄斎の映像を穴が開くほど見続けた遊良からしてもどこか見慣れたモノに違いない。

 

それだけではなく、今の劉玄斎の場には2体のエクシーズモンスターに囲まれるように超大型のダークネスメタルドラゴンまでもが陣取っているのだ。

 

そんな、実に3体もの強大なる竜たちを前に…

 

 

 

「ドラゴサックの効果発動ぉ!オーバーレイユニットを一つ使い、2体の【幻獣機トークン】を守備表示で特殊召喚するぜぇ!これで最後だ!速攻魔法、【超再生能力】発動ぉ!このターン、俺が手札から捨てたドラゴンは全部で7体!エンドフェイズに移行し、俺ぁデッキから7枚ドロー!手札制限により、手札を2枚捨ててターンエンドだ!」

 

 

 

劉玄斎 LP:4000

手札:5→6枚

場:【真紅眼の鋼炎竜】

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】

【幻獣機ドラゴサック】

【幻獣機トークン】

【幻獣機トークン】

伏せ:無し

 

 

 

いや、ドラゴン達だけではなく、ドローの無い先攻1ターンのエンドフェイズだと言うのにも関わらず、ターンを終える瞬間にまさかの手札を『増やす』という所業を難なく行いながらターンエンドを宣言した劉玄斎の佇まいは…

 

これまで映像で何度も見てきたデュエルの形だと言うのにも関わらず、実際に対峙するとここまでの圧力を放つのだと言う事を遊良へとひしひしと伝えていて―

 

 

 

「さぁ、かかってこい遊良ぁ!俺の全力で、お前の全力を受け止めてやらぁ!」

「よし!俺のターン、ドロー!」

 

 

 

けれども、劉玄斎から発せられるソレは、過去の対戦相手たちへと向けていたような、押し潰すかのような圧力では断じてなく。

 

凄まじく放たれる強者の圧…しかして慈愛と抱擁に満ちた、天上のデュエリストからの力強いソレは間違いなく遊良の全てを受け止める家族からのメッセージとも言えるのか。

 

そう…これだけ激しい展開を前に、それでもなお遊良の心臓は高揚に満ちて爆発寸前。

 

ようやく出会えた祖父とのデュエル、その一挙手一投足にどこまでも遊良は心の底からの『高揚』を感じながら…

 

意気揚々と、自らのターンを向かえるだけなのだから。

 

 

 

 

 

そんな、二人のデュエルを―

 

 

 

 

 

「良いのですか?確か劉玄斎は向こう一年間の『決闘禁止』を受けたはずでは…」

 

 

 

 

校内にて…

 

屋上がよく見える最上階層の窓から、イースト校理事長である砺波 浜臣が。

 

隣に立つ『妖怪』、綿貫 景虎へと向かって、静かにそんな言葉を漏らしていて―

 

 

 

「確か『決闘禁止』の禁を破った者は如何なる場合でも有罪…綿貫さんしか劉玄斎を止められないから監査官として一緒に来たのでしょう?」

「…はて、儂には何も見えんがのぅ。ここの窓は儂にはちと高すぎるし…年のせいか耳も眼も悪くなってきおったわい。…おや、何か言ったか浜臣や。」

「…いえ、何も言っていません。では私もそろそろ仕事に戻らねば。なにぶん、誰かさんのプロ入りの所為で仕事が山積みでして。」

 

 

 

しかし、どこか惚けたようにしてそう言葉を返す綿貫の目は、本当に屋上の方に視線をやる事もなくただただ静かに廊下を歩いているだけ。

 

だからこそ、砺波もまたそんな綿貫の思いを察知したのだろう。口元にほんの少しの笑みを浮かべながら、砺波もすぐに窓から視線を外し…

 

…そう、決闘世界の幹部として、ここで何かを言う事など『無粋』なのだという、それは綿貫からの粋な計らい。

 

別に、今日くらいいいではないか―

 

まるで、そう言わんばかりに慈愛に満ちた綿貫の雰囲気は、大きな組織の幹部としてはあるまじき言動なのだろう。しかし人の『心』が機械には計れないように、あくまでも『見聞きしていない』デュエルに関して綿貫は…

 

そう、自分の見知らぬ所で、『どんなデュエル』が起こっていようとも。今日くらいは、ここでとやかく何かを言うつもりなど微塵も無いかのように…

 

 

 

「フォッフォッフォ。なら、儂もそろそろ帰るとするかのぅ。」

『…おや?綿貫さん…私に全てを押し付けておいて…自分だけ先に帰るおつもりなんですか?』

「フォ!?な、なんじゃ浜臣…きゅ、急に怖い顔しおってからに…」

 

 

 

…そのまま、静かにその場を去っていく砺波と綿貫。

 

それはこれ以上、無粋な真似をしないかのように。これ以上、接触しないかのように。

 

…折角邂逅を果たした祖父と孫を、これ以上邪魔しないように―

 

ただただ、静かに。

 

この場を、去っていくのだった―

 

 

そして―

 

 

 

 

「さっき【手札抹殺】で墓地に送られた、【ブレイクスルー・スキル】の効果発動!このカードを除外して、【真紅眼の鋼炎竜】の効果を無効にする!」

「クハハ!すぐに対応してくるたぁ、流石は砺波に鍛えられてるだけあるじゃねぇか!しかも方法まで同じたぁ面白ぇ!」

「よし、これでダメージは受けなくなった!【堕天使の追放】発動!デッキから【堕天使イシュタム】を手札に加え、そのままイシュタムの効果発動!手札の【堕天使スペルビア】と共に捨てて2枚ドロー!【成金ゴブリン】も発動!LPを1000与えて1枚ドロー!フィールド魔法、【チキンレース】発動!LPを1000払って1枚ドロー!…よし!【トレード・イン】も発動だ!レベル8の【堕天使ネルガル】を捨てて2枚ドローし、そのまま【闇の誘惑】発動!2枚ドローして【堕天使アスモディウス】を除外ぃ!」

 

 

 

巻き起こるはドローの嵐。先の竜たちの展開にも劣らない、激しく吹き荒れる遊良のドロー。

 

それはアマギ ユーラとの戦いにより戻ってきた、『堕天使』達のドローの回転も去る事ながら…

 

それ以上に、『堕天使』を失っている時にも磨き続けた遊良の力が確かにプラスされた、最早手の着けられないほどに洗練され始めたドローの乱舞となりて激しく己のデッキを回転させるのか。

 

 

 

「【堕天使の戒壇】発動!墓地から【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚し、その効果で【堕天使イシュタム】も攻撃表示で特殊召喚する!羽ばたけ、2体の堕天使達よ!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

 

そうして現れる2体の堕天使。

 

取り戻したことで更にその神々しさを増している、異形の堕天使と魅惑の堕天使が今高らかに遊良の場へと舞い降りて…

 

 

 

「【堕天使イシュタム】のモンスター効果!LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を…」

「おっとぉ!そうはさせねぇぜぇ?手札から【エフェクト・ヴェーラー】を捨てて効果発動ぉ!【堕天使イシュタム】の効果を無効にぃ!」

「くっ!だけど止まるわけにはいかない!魔法カード、【アドバンスドロー】発動!スペルビアを墓地に送って2枚ドロー!そして【死者蘇生】発動!墓地からスペルピアを攻撃表示で特殊召喚し、もう一度その効果で【堕天使ネルガル】も特殊召喚する!再び羽ばたけ、2体の堕天使達よ!」

 

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使ネルガル】レベル8

ATK/2700 DEF/2500

 

 

 

だが、それだけでは止まらない、

 

一度効果を止められてもなお、異形の堕天使に呼び戻され再び遊良の場に髑髏の堕天使と合わせて2体の堕天使が即座に蘇る。

 

…その鋭きデッキ回しは、昨年度までの遊良とは一味違う。

 

そう、昨年度までの『堕天使』を使っていた遊良と、今年度の『堕天使』を失っていた遊良の、その双方の力が今の遊良を形作っているのだ。

 

『堕天使』を得て、殻を破り。『堕天使』に助けられながらも、自分の意思で『壁』を乗り越え…

 

そして『堕天使』を失っても戦う事を諦めず、ついには自分の力だけで『先』の地平へと到達した遊良の下に、再び『堕天使』が集ったことでその力は更に留まる事を知らずに伸び続けている。

 

…おそらく、遊良の力は現段階でも学生レベルには留まらない代物に違いない。

 

1年生にして【決闘祭】に優勝し、2年生にして【決島】に準優勝した事がソレを証明している。それでいて、まだまだ遊良は伸び盛りで…まだ高等部2年生の年齢にして、更に伸び代があると言うのだから、果たしてその先に待っている光景にはどれだけのモノが待っていると言うのか。

 

 

 

「ネルガルの効果発動!LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!」

「ほぉー、自分からLPをギリギリまで削ってまで全力で展開してくるたぁやるじゃねぇか。」

「折角のデュエルなんです、全力でぶつからないと意味がない!デッキから【堕天使マスティマ】を手札に加え、そのまま永続魔法、【冥界の宝札】を2枚発動!そして…3体の堕天使をリリィィィィイスッ!」

 

 

 

だからこそ、遊良は手を抜かない。

 

いや、そもそも初めから手など抜ける相手ではないのだし、折角出会うことが出来た血の繋がった祖父を相手に…

 

そう、自分よりも遥かに高みに位置している、天上の力を持った祖父相手に。ここまで成長した自分の全てをぶつけてみたいと言うのは、デュエリストとして当たり前の本能なのだから。

 

 

 

 

叫ぶ…

 

 

 

 

強大なる竜達を従える、天上の力を持ったデュエリストを相手に。

 

一歩も引かず、地に足を踏みしめ…

 

それはようやく出会えた肉親を前にしても留まらない…いや、ようやく出会えた肉親であるからこそ、全ての力をぶつけるために。夕日に包まれたこの屋上に、今高らかに鳴り響くのか。

 

 

 

 

 

震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

 

 

 

 

それは、現れるのだから―

 

 

 

 

 

「【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

轟かせしは不退の雄叫び。

 

主の叫びに呼応して、猛々しい竜達を前にしてもなお慄かずに現れるは百戦錬磨の獣の王。

 

その咆哮は天を貫き、大気を震わせ大地を揺らし…

 

ようやく出会えた主の血の繋がりを持つ者へと、意気揚々とその槍を向ける。

 

 

 

 

「来やがったか!…あぁ、良いモンスターだぜ、本当に…」

 

 

 

そんな、孫をずっと守ってきた事が一目見て伺えるモンスターの勇ましさを見て…祖父は一体、獣の王にどんな感情を向けるのだろうか。

 

 

 

「バルバロスのモンスター効果!3体リリースでアドバンス召喚した時…相手のカードを、全て破壊する!」

 

 

 

そうして…

 

獣の王がその槍を、今高らかに振り回すと同時に。

 

勢いよく地面へと突き刺すと、地面からあまりに激しい爆発音と共に、凄まじき破壊の衝撃波が3体の強大なる竜達へと向かって放たれ始めたではないか。

 

…獣の王が地面へと突き刺した槍から発せられる凄まじい衝撃波は、およそどんな敵であっても『全て』破壊してしまう恐るべき代物。

 

それは例え神であっても逃れる事はできはしない、天上の者達すら歯牙にかける獣の咆哮にも似たモノとなりて3体の竜と2体のトークンたちへと襲いかかり―

 

 

 

 

 

「いっけぇ!バルバロ…」

「だがそうはさせねぇ!墓地の【復活の福音】の効果ぁ!コイツを除外することでドラゴン達を破壊から守る!そんでドラゴサックも、トークンが居ることで破壊されねぇ!」

「だけど【幻獣機トークン】は破壊する!更に【冥界の宝札】の効果で4枚ドロー! よし、手札の【堕天使ユコバック】と【神属の堕天使】を捨てて、手札から【堕天使マスティマ】を特殊召喚!さらに速攻魔法、【禁じられた聖杯】をマスティマに発動!その攻撃力を400アップ!…バトルだ!バルバロスで【真紅眼の鋼炎竜】に!マスティマで【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】に攻撃だ!憤怒の慟哭、バニッシュ・ラース!」

 

 

 

―!!

 

 

 

劉玄斎 LP:5000→4800→4600

 

 

 

また、それだけでは終わらない。

 

竜達が破壊の衝動を乗り切ったそのすぐ後に、即座に獣の王と獣の堕天使へとすぐさま攻撃を命じた遊良。

 

…その攻撃は素早く鋭く。

 

LPが回復しているとはいえ、天上の力を持った相手にも確かな傷を与えるその連撃の鋭さは…3体もの強大なる竜達を蹴散らしながら進撃を続ける、まさに遊良のデュエルを体現しているに違いないことだろう。

 

 

 

「まさかここまで強くなってるたぁなぁ…【決島】ん時よりもずっと強くなってやがる。」

「まだだ!俺の全力は…まだ終わっていない!このバトルフェイズに速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動!俺はバルバロスとマスティマをリリース!」

「お?バトルフェイズ中にアドバンス召喚するたぁ…クハハ!やるなぁ!面白ぇじゃねぇか!」

 

 

 

けれども…

 

まだまだ、遊良は止まらない―

 

まだ、自分の全力はこんな物ではないのだと言わんばかりのその雄叫びは、全てを話してくれた祖父へと向けた孫からの全力のメッセージなのだろう。

 

…自分は、こんなに強くなった。

 

ソレを、後悔と懺悔の念に囚われている祖父へと伝えるように―

 

ここまで強くなった、ここまで成長した、ここまで生き抜いてきた自分を見せるかのようにして―

 

 

 

「神に背きし反逆の翼!その姿を今ここに!」

 

 

 

叫ぶは心、放つは魂。

 

己の持てる全力を、全身全霊にて竜へとぶつける遊良の叫びが天に響く。

 

…それは遊良のこれまでの軌跡。

 

全てを失い、全てを否定され…それでも希望を捨てずに生き抜いてきた、ソレは遊良の限りない人生の軌跡となりて、今まさに祖父の目へと映し出されるのか。

 

真っ赤に燃える夕日を背に、天を劈く叫びが轟き。

 

今ここに、現れるは―

 

 

 

 

 

「来い、【堕天使ルシフェル】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

清廉なる天の光、それを遮る黒き姿。

 

天上の力を持った伝説のデュエリスト『逆鱗』を前にしても、決して引けを取らぬその佇まいはまるで天使か悪魔か…

 

儚くも猛るその姿は、天使と呼ぶにはあまりに勇ましく。しかして悪魔と呼ぶには、あまりに不屈なる存在が漆黒の翼を広げ、今ここに天空より降臨する。

 

 

その姿を、一体誰が見間違えようか…

 

 

それは巨大なる竜に立ち向かわんとしている、今の遊良の姿そのモノであって―

 

 

 

【堕天使ルシフェル】レベル11

ATK/3000 DEF/3000

 

 

 

「コイツぁ…クハハ、こりゃまた、凄ぇモンスターを従えたモンだぜ…」

「【堕天使ルシフェル】の効果発動!アドバンス召喚成功時、相手フィールドの効果モンスターの数だけ堕天使を特殊召喚出来る!集え、【堕天使テスカトリポカ】!そして【冥界の宝札】の効果で4枚ドロー!そのまま追撃だ!テスカトリポカで、【幻獣機ドラゴサック】を攻撃!革命の業火、バニッシュ・グリード!」

 

 

 

―!

 

 

 

劉玄斎 LP:4600→4400

 

 

 

そして、すかさず―

 

続けざまに攻撃を命じた遊良の声に呼応して、まずは悪魔の様な堕天使が残っていた機鉄の天龍を夕日以上の煌々とした革命の業火によって葬り去る。

 

…これで、劉玄斎の場はがら空き。

 

あれだけ強大な力と堅牢なる強固さを見せ付けていた3体もの巨大なる竜達を全て蹴散らし。まだLPは0に出来ないとは言え、それでも天上の力を持った者を相手にここまでの立ち回りを見せる遊良の勢いはまさに留まる事を知らない突風そのモノ。

 

 

 

「【堕天使ルシフェル】でダイレクトアタック!」

 

 

 

狙うは祖父…

 

ようやくめぐり合えた血の繋がった偉大なる祖父に、今の自分の全力を持ってして攻撃を叩き込むソレこそがデュエリスト同士の思いをぶつけ合うことになるからこそ―

 

そう、【王者】と同格の男、『逆鱗』の劉玄斎に…いや、自分の祖父に、今の自分の全力を見せ付けてやりたい。ここまで成長した、ここまで力をつけた自分の実力で、祖父とこれだけ戦えるのだと言う事を思い切りぶつけるのだとして。

 

 

 

 

「背徳の一閃、バニッシュ・プライドォォォォォオッ!」

 

 

 

今、堕天の王より。

 

凄まじき剣閃が、劉玄斎へと向かって解き放たれ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、なお―

 

 

 

 

 

 

 

「クハハハハ!だが簡単にやらせるわけにはいかねぇなぁ!【アンクリボー】の効果発動ぉ!コイツを捨て、墓地から【青氷の白夜龍】を特殊召かぁぁぁぁん!」

 

 

 

―!

 

 

 

【青氷の白夜龍】レベル8

ATK/3000 DEF/2500

 

 

 

遊良の全力の攻撃を、更なる力を持ってして往なした劉玄斎。

 

堕天の王の攻撃との間に、即座に墓地より攻撃力3000ものドラゴンを蘇らせ…射線上に新たなモンスターが現れた事で、堕天の王の剣閃が歪な方向へと逸れてしまったではないか。

 

…流石は【王者】と同格の男。

 

実力の『壁』を超え、『先』の地平に辿り着き更に力を増し続けている遊良の攻撃にも難なく対処し…激しさを増すばかりであった遊良の攻撃に対し、どこまでも冷静なる対応を見せる姿は紛れもなく彼が天上の実力を持った歴史に名を残すほどのデュエリストである証明となりて遊良の前に佇むのか。

 

 

 

「凄い…流石だ…映像で見るのとは迫力が全然違う…これが、本物の『逆鱗』のデュエル…」

 

 

 

遠い―

 

 

やはり、とてつもなく遠い―

 

映像でしか彼のデュエルを知らない遊良からすれば、本物の『逆鱗』の…祖父のデュエルは、果たしてどれだけの迫力となりて映り込んでいるというのだろう。

 

…最初の【エフェクト・ヴェーラー】の効果だって、スペルビアではなくイシュタムにあわせてきたその判断は並大抵の者は即座に判断なんて出来はしない。何しろ、LPを減らさせるためとは言えその後の展開や相手の手札を達観した経験則と嗅覚で見据えていないと、あの場であの判断を即座に出来るはずはないのだから。

 

それ故、今の自分に出せる全力を難なく受け止め、それでいて息切れ1つせずこうして佇む祖父を見て…【王者】と同格と呼ばれた男、『逆鱗』の劉玄斎の力がまだまだ途轍もなく遠いところに位置していると言うことを、今の攻防にて遊良もハッキリと思い知った様子。

 

 

だからこそ、遊良は誇らしい―

 

 

祖父が、こんなにも凄まじい実力の持ち主であることが、ただただ遊良は誇らしい。それは奇しくも、数ヶ月前に決闘市のBarにて【黒翼】と【白鯨】が言った通りの代物となりて…

 

どこまでも、遊良の目には祖父の姿が誇らしく映っており…

 

 

 

 

 

…そして、遊良の攻撃の手が止まったのを見て。

 

 

 

 

 

 

劉玄斎は…ゆっくりと、その口を開き始め…

 

 

 

 

 

 

「なぁ…こんな時になんなんだけどよぉ…いっこ、いいか?」

「あ、は、はい…」

「遊良…俺と一緒に、デュエリアで暮らすつもりは…ねぇか?」

「…え?」

 

 

 

劉玄斎から飛び出した言葉…

 

それは遊良からしても、あまりに驚きを禁じえない一言であったと共に、一瞬その思考が混乱を及ぼしてしまうほどに衝撃的な言葉であった。

 

…だってそうだろう。

 

これまで、『家族』と暮らすという、極々当たり前の生活を送る事すら許されなかったのがこれまでの遊良の人生の軌跡。それが、何の巡り合わせかこうして血の繋がった『祖父』との邂逅を果たす事が出来たのだ。

 

それだけでも奇跡のようなモノだと言うのに、ソレに加えてまさかその『家族』から一緒に暮らさないかと持ちかけられるなんて…

 

それは今まで『血縁』というモノに憧れすら抱いていた遊良からすれば、一体どれだけ嬉しい申し出であったというのだろうか。

 

 

 

「罪滅ぼしって意味で誘ってるんじゃあねぇ。けど、これまで何もしてやれなかった分…少しでも、お前に何かしてやりてぇと思って………どうだ?」

「…」

 

 

 

だからこそ、遊良は混乱してしまう。

 

…折角の祖父からの申し出。

 

それこそ、今まで『家族』と暮らすという、他の人間達が当たり前のようにしている生活をこれまで送る事が出来なかった遊良にしてみれば…祖父から持ちかけられたソレは、今すぐにでも飛びつきたくなってしまうほどに嬉しい申し出であったに違いなく。

 

けれども、ソレにすぐさま飛びつかないのは偏に―

 

そう、それは偏に、遊良がこの生まれ故郷である決闘市に対し、ある種特別な感情を抱いているからに他ならない。

 

蔑まれた、侮辱された、たくさんたくさん傷つけられてきた決闘市…

 

それでも、そんな街であっても簡単に捨てる事が出来ないのは、遊良もまたこの街で生まれ育ったという誇りがあるから。

 

父が居た、母が居た、そして何より鷹矢とルキという2人の幼馴染達が暮らすこの決闘市が…遊良にとっては、簡単に捨てられるはずも無いくらいの居場所となっているからなのだろう。

 

 

 

だからこそ、そんなすぐにでも飛びつきたい祖父からの申し出に対し…

 

 

 

遊良は、ほんの少しだけ考えた後に―

 

 

 

 

 

「行けません。俺の家は…俺がいる場所は、決闘市なんです。」

 

 

 

 

 

と、そうハッキリと伝えたのだった。

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだよな…あぁ、そう言うと思ってたぜ。」

「…すみません。」

「いや、謝る必要なんかねぇ。それがお前の出した結論だってぇのはよく分かってるし、少しでも『迷って』くれただけでも俺ぁ充分嬉しいんだ。そうだよなぁ…この街は、生まれ育った街ってぇのは…そんだけ、特別なんだ。よく…わかるぜ。」

 

 

遊良からの返答を聞いて、別段落ち込むとかはせず。

 

寧ろ、ハッキリとした遊良からの答えを聞いて、劉玄斎の表情がどこか清清しい顔をしているのは…

 

きっと、彼もまた孫が自らの意思でこの街に残る選択をした事が、孫が自らの故郷に誇りを持っていると言う事が、先程よりも強く理解できたからこそなのだろう。

 

…自らの意思を、自らの思いを。そして自らの誇りを強く抱いて、ハッキリと物を申せるまでに成長した孫が劉玄斎には誇らしい。

 

 

 

「じゃあ…あといっこだけ…もういっこだけ、言わせてくれ………俺ぁ…俺ぁ本当に…」

 

 

 

だからこそ、劉玄斎はこんなにも強く成長した誇らしい孫へと…

 

そう、デュエルの実力も、心の強さも。そして何より、地獄のような日々を味わってでもこれまで生き抜いてくれた、この世の何よりも大切な存在である孫へと向かって…

 

感極まった感情を抑えきれず、その瞳に薄っすらと涙を浮かべながら―

 

 

 

 

「お前が生まれてくれて…お前がいてくれて、本当に良かった。」

「ッ…」

 

 

 

果たして…

 

慈愛に満ちた微笑みと共に届けられる、その祖父からの優しい言葉は…その『逆鱗』からの言葉は、世界から拒絶され続けてきた遊良にどれだけの重さとなって響くのか。

 

 

…幼馴染たちとはまた違う、『血の繋がった者』からの絶対的なる存在の肯定。

 

 

地獄を見た。世間から拒絶される地獄を―

 

地獄を生きた。鷹矢とルキ以外に、心を開けることのない地獄を―

 

 

そんな、全てを否定されながら生きる事しか許されなかった、その存在そのモノが『邪魔』なのだとして生き続けてきた遊良にとって…

 

血の繋がった『祖父』からの、その存在の『全肯定』と言うのは、一体どれほど嬉しい言葉であるというのだろう。

 

 

…きっと、その嬉しさは遊良にしか理解出来ぬはず。

 

 

何しろ、その言葉をかけてくれたのは他でもない、遊良がずっと待ち望んでいた『血の繋がった家族』であったのだ。

 

天涯孤独…そのどうしようもない哀しさと虚しさに押し潰されそうだった遊良からすれば、満面の笑みの下に伝えられた劉玄斎の言葉は、この世の何よりも嬉しい言葉であったに違いない。

 

…劉玄斎の言葉はこれまで聞いた他の誰の言葉よりも確かな家族の『愛』に溢れた重みとなりて遊良の心に強く響く。

 

それ故、祖父と同じく。遊良の目からも、今にも涙が零れそうになってきて―

 

 

 

「ッ…まだまだ行きます!」

「よっしゃあぁぁぁぁあ!来い、遊良ぁ!」

 

 

 

まだ、その心には微かな距離はあれど。

 

 

 

それでも涙を拭い、更に吠えて。感極まった感情を、このどうしようもない嬉しさを。その心の底からの思いを、デュエルでまだまだ伝えたいという思いの下に…

 

 

 

夕焼けが見守る中、微かに吹き始めたもうすぐ春を連れてくる暖かな風が…

 

 

 

血の繋がりを確かめた祖父と孫を…

 

 

 

どこまでも、祝福していたのだった―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

遊良と劉玄斎の織り成すデュエルの、その一つ一つが彼らを祝福する調(しらべ)となりて、暖かな風と共に空に舞う。

 

…もう、一人じゃない。

 

血の繋がりを知って、これまで渦巻いていた孤独感から解放された少年の未来は、きっと今よりもっと明るいモノになるに違いない。

 

そう、遊良は、ついに最も欲しかったモノを自らの手で掴み取ったのだ。

 

 

…掴んだ平穏、辿り着いた真実。

 

 

Ex適正がないという、ただソレだけの理由で生きる事さえ否定された遊良は…その長い地獄の中で、ようやく『血の繋がり』という絶対不変の『繋がり』を自らの力で掴み取った。

 

だからこそ、地獄を味わいながらも生きる事を諦めず、地獄の中でも戦い続けてきた少年がようやく祝福を受けることに、一体誰が横槍を入れられるというのだろう。

 

…まだまだ、長きに渡る人生の途中。

 

けれども、その中でもコレは少年の人生における確かな転換期となりて、これからの彼の人生に大きな導きを示してくれるはず。もう孤独ではないというその思いは、きっと何物にも変えがたい宝物となって彼の中に輝き続けるのだから。

 

これから先、これまで以上の困難が待ち受けていようとも…

 

それでも、ようやく掴んだ孤独からの脱出は、これまでずっと孤独に苛まれ続けた少年に、これまで以上の生きる喜びを与えているはずで―

 

 

 

―季節が、変わる。

 

 

 

長い冬が終わり、新たな芽吹きの季節へと。

 

 

 

―世代も、変わる。

 

 

 

いつまでも子どもではいられない。子どもから大人へ、目まぐるしく変わり続ける成長の中で、彼らもまた次の世代へとその歩みを進めなければならないのだから。

 

 

 

 

…こうして、彼らの物語は続いて行く。

 

 

 

 

 

…これからも、ずっと。

 

 

 

 

 

―まだまだ、ずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯王Wings「神に見放された決闘者」

 

 

 

 

 

 

 

第二章…

 

 

 

 

 

 

 

『完』

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの場所―

 

 

 

「なるほど、『世界の外』の次は『前の世界』にあったのか。」

 

 

 

ソレがどこかはわからない、辺り一帯が異様な雰囲気となっている、どこか『遺跡』にも見えるそのどこかの場所で…

 

静かに、目の前の人物へと向かって手を差し出している、一人の女性の姿があった。

 

それは紛れもなく、この空間よりも異質な雰囲気を醸し出している、上から下まで『黒』に染められている一人の女性であり…

 

…その姿を、一体だれが見間違えようか。

 

そう…

 

夜よりも黒い漆黒の髪、闇によく馴染む褐色の肌。

 

その美しい顔立ちは、彼女の持つ魅惑的な肉体をより一層妖しく見せつけているものの…

 

しかしてその姿を直視出来る者は居ないのではないかとさえ思わせるほどに、ソレほどまでに圧縮された存在感を持った、文字通り【化物】の如くあまりにも高圧的過ぎる存在―

 

 

 

 

 

―釈迦堂 ラン

 

 

 

 

 

「全く、本当に色んなところに逃げる神だ。50年もかかってようやく3枚揃えられるなんて苦労させられる…だが、ようやくこれで全て集ったよ。君のおかげだ。」

 

 

 

そんなランは、遺跡のような場所の中で、目の前に居る一人の少女から何か『カード』の様なモノを受け取ると…

 

その絶世の顔を惜しみなく微笑ませながら、受け取ったカードをどこか嬉しそうにしてクルクルと回し。そのまま、そのカードをはち切れんばかりの胸の中心へと刺し込み仕舞いこんでしまったではないか―

 

そして、カードを受け取ったランは…

 

そのカードを自分へと渡してきた、目の前の『少女』の様な姿をしたモノへと向かって…

 

ゆっくりと、その魅惑的な唇を開いて…

 

 

 

「では、これで契約は終了かな。」

「…確かに約束は果たしましたよ、釈迦堂 ラン。『邪神』はお渡ししました…後は、よろしくお願いいたします。」

「あぁ。」

 

 

 

この直視するだけでも難しい、およそ人間のモノとは思えない存在感を駄々漏れにしてる釈迦堂 ランと話しているのは誰なのか。

 

その事務的な口ぶりから、彼女と親しい人物では決してないはず。だとすれば少女のような見た目でランと話せるモノなど、およそ『人間』らしからぬ存在であるに違いなく…

 

そう…

 

釈迦堂 ランの目の前に居たのは他でもない―

 

 

 

それは釈迦堂 ランと『同じ』く、夜のような漆黒の髪に、暁に溶け込む褐色の肌をしたランそっくりの一人の少女。

 

まるで釈迦堂 ランをそのままやや幼くしたかのようなその姿は、どこからどう見ても釈迦堂 ランとその少女が『同一人物』であるかのような見た目となりて…見る者すべてに違和感と混乱を与える代物となりて、どこまでも妖しく佇んでいるだけ。

 

だからこそ…

 

そんな姿をした少女など、たった一人しか存在しないはず―

 

 

 

―釈迦堂 ユイ

 

 

 

夏頃に、決闘学園イースト校に突如転入してきた謎の少女…

 

しかして『いつの間にか』その姿も痕跡も全て消し去りイースト校から姿を消し、アマギ ユーラと行動を共にしていた…

 

そしてそれ以上の『謎』を持った人物が、今こうして釈迦堂 ランと会話を重ねているのは一体どういった因果だと言うのだろう。

 

 

 

「あぁ、確かに【邪神イレイザー】のカードは受け取った。しかし本当に良いのか?私は本気でこの世界を壊してしまうかもしれないのだよ?」

「…えぇ、そうなるのならば、それもまた今の世界の流れ…次は、もっと…」

「フフッ、それは本当に『次』があればの話だろう?すでに『世界』は限界を迎えている…そうだろう?私の名を借りる小さな少女よ。」

「…釈迦堂 ラン…貴女は、どこまで知って…」

「さて、どこまで知っているのだろうね?フフッ、箱庭の成り立ち、君の正体…邪神は色々な事を私に教えてくれた…私が、『ここ』へ来た理由も、ね。しかもご丁寧に私の名前と同じ『釈迦堂』を名乗るなんて嬉しいことをしてくれる。」

「…別に、なんでも良かったのですが…最も印象に残っていたのが貴女のお名前でしたので、お借りしただけのことです。」

「フフッ、ならば尚のこと光栄なことだ。何故なら私は『世界』にとって、これ以上ない爪痕を残せたと言うことなのだから。」

「…えぇ、ですから感謝はしています。…貴女のおかげで、どうにもならなかった歴史が動いたのですから。例えソレが………私の知らぬ場所からの、来訪者であったとしても。」

「…フッ…」

 

 

 

…一体、彼女らは『何』を話していると言うのか。

 

あまりに混沌としたその会話。いや、果たしてソレが会話と言っていいのかすら分からないほどに淀んだ言葉の中で交わされる彼らの『音』は、およそ人間には聞き及ぶことなど出来はしないモノとなりて彼女らの間で交わされ続けるだけだり…

 

おそらく…いや絶対に。彼女らの会話の全てを理解出来る者など、今この現代には存在しないはず。

 

 

 

そうして…

 

 

 

「…努々忘れる事なかれ…自分が一体何なのか…努々忘れることなかれ…貴女は、『悪災』…漆黒の…化物…」

 

 

 

…人外同士の、『会話』ならざる『会話』が終わったのか。

 

釈迦堂 ユイは、最後にソレだけを風の中に残しながら…

 

音も無く、この場から消え失せたのだった―

 

 

 

「フッ、囚われの癖に、偉そうに『忘れる事なかれ』、か………だが、あいにく忘れてしまったよ。私が『何』なのかなど、遥か昔に『ここ』に来た時からな。」

 

 

 

すると、そのすぐ後に。

 

ランは自分の幼き頃の姿をしていた釈迦堂 ユイから渡された、『あるカード』をその胸の間から取り出すと…

 

 

 

「…【邪神イレイザー】…フフッ、やった!コレでやっと揃った!やっと3枚全部揃ったんだ!」

 

 

 

かつて【邪神アバター】を手に入れたときのように、どこか幼い少女のような振る舞いを一瞬だけ見せたその刹那。

 

すぐさまその雰囲気をいつもの『人外』のモノへと変貌させつつ、その場でゆっくりと振り向き…

 

遺跡のような建物の下、その下階に集ったあまりに多い『雑兵』を一目その視界に入れた後に。

 

自らの後ろに控えていた、4人の『同胞』達へと向かい直して。

 

 

 

「いよいよですね。これで、我々の計画も最終段階へとようやく歩みを進める事ができます。」

「カカッ、やっとかよ。」

「ふふっ…待ち望んでおりました、えぇ。」

「…」

 

 

 

そこに居たのは紛れも無い。

 

エクシーズ王者【黒翼】、天宮寺 鷹峰。

 

裏決闘界の融合帝【紫影】、竜胆 蛇蝎。

 

…そして、何故か現融合王者【紫魔】、紫魔 恋介の姿が、そこにはあった。

 

 

…いや、彼らだけではない。

 

 

そのままランは、3人の【王者】格の男達の後に立っている…

 

まるで『悪魔』のような存在感を駄々漏れにしている、一人の男へとゆっくりと声をかけ始めて。

 

 

 

「しかし、まさか『君』まで私についてくれるとは思わなかったよ。セリ・サエグサ………君には、嫌われていると思っていたから。」

「…あぁ、嫌いだよ、お前なんか…」

 

 

 

それは煌く金髪を夜闇に靡かせる、見るからに聡明そうな一人の男性。

 

しかしてその纏うオーラからして、およそ人間には耐え切れない程の『悪意』を纏った…一目みて『悪魔』と言ってしまいそうなほどに淀んだ存在感を醸し出している、異様な雰囲気をした男がそこには居て。

 

 

…デュエル傭兵集団『七草』のリーダー、セリ・サエグサ。

 

 

一体、どんな繋がりを持ってセリ・サエグサと言う男は【王者】格の男達に混ざって釈迦堂 ランの下に集っているのか。

 

いや、そもそもからして正真正銘の【王者】の内の2人が、こんなどこかも分からない遺跡のような場所にて【化物】と邂逅しているなんて異常な光景であるのだから、ソレに加えて裏社会におけるデュエル傭兵集団『七草』のリーダーが同じ場所に居るという光景もまた異常のうちの1つであると言えばそうなのだが…

 

けれども、そんな裏社会の傭兵の上に立つ金髪の男へと向かって。

 

更に漆黒の【化物】は、続けて言葉を発するだけで…

 

 

 

「フフッ、私に負けてから随分と面白い『力』を身につけたらしい…今すぐに自分の手で確かめられないのが残念だが、それは『事』が済んだらに取っておこう。何しろ、この後はもっと世界が面白くなる予定だからね。」

「…御託はいい。それより、契約はしっかりと守ってもらうぞ。『事』が済んだ後に…俺と戦え。」

「あぁ、勿論わかっているとも。だが、その分しっかりと君達には働いてもらうよ。…鷹峰さん、恋介君、そして【紫影】に『七草』のリーダー。フフッ、私に賛同してくれて嬉しいよ。琥珀君の事は残念だったが、彼の立場を考えると仕方がない。しかし裏決闘界の雑兵がこれだけ集ってくれたのも嬉しい誤算だった。流石は裏決闘界の融合帝と言った所かな、【紫影】。」

「お役に立てて光栄です、えぇ。」

 

 

 

果たして…

 

今の彼女らが話していることは、一体どういった意味を持つのだろうか。

 

けれども、ソレがこの世界にとって『良くない』ことであると言う事だけは、彼女の下に集った面々を見ればすぐに理解出来てしまう。

 

そう…【黒翼】と【紫魔】は別にしても、裏社会におけるデュエル傭兵に、裏決闘界の融合帝とソレが集めた裏の雑兵達…

 

そんな危ない肩書きを持った者たちが、こぞって釈迦堂 ランの下へと集っているのだ。そしてランが言った、『世界が面白くなる』というその言葉…それを聞けば、例え誰であろうともこの後に彼女が行おうとしている事に限りない恐怖を覚えるはずなのだから。

 

 

 

そうして…

 

 

 

何を思ったのか。釈迦堂 ランは、遺跡のような建物の上階部分から身を乗り出しつつ…

 

そのまま、下階にて蠢いている大勢の『雑兵』たちへと向かって―

 

 

 

 

 

「同胞たちよ、もうすぐ時は満ちる。新たな世界を共に造ろう、この世界をすべて壊して。」

 

 

 

 

 

と、叫んだのだった―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―物語は、終わらない

 

 

 

 

 

 

 

第三章へ…

 

 

 

 

 

 

 

最終章へ、続く―

 

 

 

 

 

 

 

 









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