遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep116「チャンピオンズ・リーグ」

 

 

 

チャンピオンズ・リーグ…

 

それは世界最大のイベントと言っても過言ではない、『4年に一度』のデュエルの祭典。

 

世界中のプロデュエリストの中でも、『トップランカー』と呼ばれる者しか出場することを許されない…世界最強のデュエリストである、【王者】への挑戦権を賭けた紛れもなく世界最高峰の戦いの呼び名である。

 

…学生達の『祭典』とはワケが違う。

 

その規模も、そのレベルも、世界からの注目度も盛り上がりも何もかもが学生の『祭典』とは桁が違う。

 

2大デュエル大都市として名高い決闘市の【決闘祭】、デュエリアの【デュエル・フェスタ】や…その他の大都市で行われている、【デュラーズ・ニーク】や【フェスティ・ドゥエーロ】や【龍節戦】と言った、数々の学生達の祭典のどれとも比べても文字通り『桁が違う』のが『チャンピオンズ・リーグ』と呼ばれる世界最大の祭典であるのだ。

 

何しろ、プロのトップランカーたちの直接のぶつかり合い。

 

世界に轟くトップランカーたちによって全てのデュエルが組まれるという、そのあまりの豪華さも勿論のことながら…

 

それ以上に世界が盛り上がりを見せるのは、その戦いの後に『更に』大きな戦いが待っているからとも言えるだろうか。

 

 

そう…

 

 

『チャンピオンズ・リーグ』が特別な祭典といわれる由縁はもう1つある。

 

 

 

―【王者】を引き摺り下ろす挑戦者…

 

 

『チャンピオンズ・リーグ』の優勝者は、世間からこう呼ばれることになる。

 

それすなわち、『チャンピオンズ・リーグ』の優勝者には【王者】と戦う権利を与えられると言う事。

 

ただ【王者】と戦うだけならば、それなりにプロを長く続けて上位へと上がればさほど難しい話ではない。長い年月をかけプロのトップクラスに定着し、地道な努力によって実力と知名度と人気を上げ続け…

 

【王者】と戦うに相応しいと、【決闘世界】と世間とから認められるようになれば、プロである内に『いつか』は3人の【王者】の内の『誰か』とは戦うことが出来るようになる可能性は確かにプロの誰にでも存在はしている。

 

しかし、こと『チャンピオンズ・リーグ』の優勝者においては―

 

その定説は、全くと言っていい程当てはまらなくなると言えることだろう。

 

そう、『チャンピオンズ・リーグ』の優勝者と【王者】との戦いは、普段の試合とはまるで意味合いが異なってくるのだ。

 

 

…『チャンピオンズ・リーグ』の優勝者に与えられるのは、【王者】への直接の『指名挑戦権』。

 

 

『チャンピオンズ・リーグ』に優勝した者は、期限のない【王者】への『指名挑戦権』を『1つ』だけ得る事ができる。また【王者】はソレが行使された場合、無条件でその戦いを受けなければならないと決闘法に明記されており…

 

つまりは、4年に一度の『チャンピオンズ・リーグ』で優勝する事ができれば、一度に限りいつだって【王者】に挑むことが出来るようになるのだ。

 

【王者】ではなく、チャレンジャーの好きなタイミングで。自らが選んだ【王者】の一人に、一方的に戦いを挑む。

 

それは自らが【王者】を超えたと自信をつけてからでも良い。獲得した勢いそのままに、すぐに【王者】に挑戦してもいい。【王者】が不調をきたしていると言われている、首を取るには絶好の機会を狙い済ましてもいい。

 

まぁ、一昔前は『逆鱗』の劉玄斎が『チャンピオンズ・リーグ』の優勝を6度も連続で取り続けていたせいで、一時期『チャンピオンズ・リーグ』は【王者】への挑戦権を賭けた戦いではなく世界ランク1位の『逆鱗』に挑戦する戦いの代名詞となっていたり…

 

『指名挑戦権』を行使すると宣言してから試合が組まれるには、双方のスケジュールや世界情勢や会場の手配や宣伝期間と言った、諸々の大人の事情を擦り合わせてからになるのが仕方無かったりする事は一先ず置いておいても。

 

それでも、『逆鱗』が引退して久しい今。ようやく『チャンピオンズ・リーグ』は、本来の形を取り戻した。

 

普通に戦うにはあまりに長い順番待ちをしなければならない3人の【王者】に、一方的に宣戦布告する権利を得られると言うのはそれだけでその人物が世界でもトップクラスに上り詰めたことの証明とも言えるはず。

 

何しろ、『チャンピオンズ・リーグ』に出場すると言う事だけでも弱肉強食のプロの世界で地獄を勝ち抜き、生き残り続け、上位へと上り詰めソレをキープし続けた者がようやくソレを許されるれっきとした偉業の1つであるのだから…

 

蹴落とし合い、喰らい合いが日常となっているプロの世界と言う地獄において、4年に一度しか開催されない『チャンピオンズ・リーグ』に出場すると言う事は、生半可な者ではそもそも到達する事さえ出来はしない。そしてそれ以上に、自らが【王者】を名指しで指名し戦いを挑めるという賞金以上の報酬は、全プロデュエリスト達の夢でもあり目標でもあるはずで。

 

 

 

 

 

それ故…

 

 

 

 

 

 

「俺が…『チャンピオンズ・リーグ』に?」

「そうです。【決島】後から談判していた結果が今朝ようやく実を結びました。…しかし長い道のりでした、何しろ【決闘世界】の上層部は頭の固い者があまりに多いですからね。」

「あの、砺波先生…本当に…ほ、本当なんですか?だって、俺まだ学生で…」

「本当のことです。学生の出場は既に『前例』がありますので、学生の君が出場することに関しても特に規定に問題はありません。」

「でも…ほ、本当に…」

 

 

 

たった今、砺波の口から告げられた、『君を、『チャンピオンズ・リーグ』に出場させます。』という言葉を未だ上手く飲み込めていない様子の遊良。

 

 

…当たり前だ。

 

 

遊良だって、自分の耳を疑ったに違いない。

 

『チャンピオンズ・リーグ』に出場すると言う事は、世界のトップランカーたちに混ざって戦うということ。

 

4年に一度しかチャンスのない、【王者】への指名挑戦権を奪い合う世界最高峰の戦いに…学生の身でありながら出場を許されたと言う事など、一体誰がすぐに飲み込めると言うのだろう。

 

誰だって一度は妄想した事がある。プロのトップランカーたちに混ざって、プロの最高の舞台の1つである『チャンピオンズ・リーグ』で活躍する自分の姿を。

 

そう、この世界に生きるデュエリストならば、子どもの頃に誰だって一度はソレを思い浮かべるものなのだ。

 

そんな、夢まぼろしのような現実離れした舞台に、まさか自分が立つだなんて。確かに学生の出場という『前例』があるにはあるとはいえ、今の遊良の心の中はソレを素直に受けいれることが出来ていないに違いなく…

 

 

遊良は思い出す…

 

 

砺波が言ったように、確かにこれまで学生が『チャンピオンズ・リーグ』に出場した例はたった『1例』だけ存在している。

 

そう、それは現シンクロ王者【白竜】、新堂 琥珀。

 

彼が学生時代に立てた偉業の1つである、3回前の『チャンピオンズ・リーグ』に彼が学生の身で出場し、そのまま『優勝』したという伝説・逸話が、確かに『チャンピオンズ・リーグ』の歴史には特異点のように存在してはいる。その前例があるからこそ、今再び学生が『チャンピオンズ・リーグ』に出場出来ると言う事なのだろうが…

 

しかし、ソレが決定事項だと言う事をひしひしと痛感すればするほど、遊良の身にはとてつもないプレッシャーが実体を伴ったかのようにして圧し掛かってきているのだろう。

 

…何しろ、今再び『学生』が『チャンピオンズ・リーグ』に出場を許されたと言うことはすなわち。

 

かつての新堂 琥珀のように、天城 遊良にも『チャンピオンズ・リーグ』の優勝を期待されているということなのだから。

 

 

 

「あの…また何か『条件』とかあるんですか?」

「…『条件』とは?」

「【決闘祭】とか【決島】の時みたいな…」

 

 

 

だからこそ、遊良は砺波に問いかける。

 

確かにコレは遊良にとっても願っても無い幸運、思いもよらなかった僥倖に違いない。

 

けれども、うまい話には必ずと言っていい程『裏』があると言う事を遊良もこれまでの経験で嫌と言うほど身に染みて分かっているからこそ…

 

砺波から告げられたこの話にも、何か『裏』があるのではないかと遊良は勘ぐってしまっているのだろう。

 

…【決闘祭】の時は自身の退学がかかっていた。

 

…【決島】の時は砺波やトウコと言った理事長達のクビがかかっていた。

 

そして今回の話はそれ以上の『祭典』への関わりなのだから、もしや大人達の間ではこれまで以上の『何らか』の思惑が動いているのではないか…と。

 

そう、思ってしまっていて…

 

 

 

けれども…

 

 

 

これまでの経験から、何か『裏』を勘ぐってしまっているそんな遊良の問いかけを。

 

砺波は、鼻で笑うようにして―

 

 

 

 

 

「あぁ…フッ、ありませんよ。君の退学や、私のクビをかけるような時代はもうとっくに終わっている…君は既に、色々な場所で認められているのです。」

 

 

 

…と、何の憂いもなくそう言うのだった。

 

 

 

そして―

 

 

 

「でも…今までは、俺にEx適正がないからって…」

「…ま、君がそう感じてしまうのも無理はありませんね。何しろ今まで『その所為』で不当な扱いを受け続けてきたのですから。しかし【決闘祭】の優勝、【決島】の準優勝…この2年でこれだけの成績を修めているのです。Ex適正が無いことなどはもう反対意見にすらなりません。」

「…そうなんですか?」

「既に色々なところで認められていると言ったでしょう?君は相変わらず自己評価が低いですね。君も少しは天宮寺君の不遜を見習ったほうがいい…まぁ、彼は少々調子に乗りすぎではありますが…ともかく、これは既に決定している事項なのです。君の一存で出場を辞退することなど出来ません。」

「わ、わかりました…」

 

 

 

遊良の卑屈で弱気な心を、言葉で一蹴するイースト校理事長、砺波 浜臣。

 

認められている…砺波は今、遊良へとそう言った。けれども、ソレを素直に受け入れられない遊良の心は、きっと彼の今までの経験が尾を引いているが故なのだろう。

 

…これまで、遊良は全くと言っていいほど認められていなかった。

 

幼少期も、小学生の頃も、中学生の頃も、そして【決闘祭】の時も【決島】の時も。Ex適正が無いからと言って、遊良は色々な場所で様々な不当な扱いを受け続けてきたのだ。

 

しかし、ソレゆえに未だ戸惑いの中にある遊良の心を知っていてもなお―

 

どこまでも力強く、そしてどこまでも遊良を認めている砺波が、何の『裏』もない言葉にて遊良へとそう告げる声を聞いてしまっては。

 

遊良とて、否応なしに砺波の言ったソレを無理矢理にでも飲み込むしか道は残されてはいないのだろう。

 

 

…確かに、未だに驚きの中にある遊良。

 

 

それでも、砺波の言葉により自らの口から了承を零したことで。ようやく、ソレを飲み込み始めた様子で…

 

 

 

「精一杯頑張りま…」

「何を言っているのですか?『頑張る』だけではまるで足りません。『チャンピオンズ・リーグ』で、君がもし無様な負けを世界中に見せてしまえば…新堂君が作ってくれた前例を壊した罰として、きっとこの先『チャンピオンズ・リーグ』に学生が出場する機会は0となってしまうでしょう。つまり…」

「わかってます。四の五の言わずに優勝してこい…って事ですよね、砺波先生。」

「よろしい。ちゃんと分かっているじゃないですか。それでこそ【白鯨】の弟子です。」

 

 

 

砺波に倣い、不敵に笑い。

 

プロのトップランカーたちの中に放り込まれることが決まったばかりだと言うのに、『優勝』を自らの口で発した遊良の雰囲気が、先ほどまで漏らしていた弱気な心を討ち取っていく。

 

そんな、驚きに包まれながらも不敵に笑う遊良の雰囲気は…2年生までの彼とはまるで違う心の余裕をどこか思わせる代物となりて、先ほどまでの戸惑いを既に自らの意思で制御しつつある様子。

 

…3年生になって、明らかに雰囲気が増した遊良。

 

そう、砺波からソレを聞かされたときには確かに驚きを感じてはいたものの、しかしこれまでいくつもの修羅場を潜り抜け経験を積んできたが故に、もう遊良は自らの置かれた状況を早くも飲み込みつつあるのか。

 

…どうせ、辞退なんて許されない。それに、辞退するつもりもない。

 

それにこんなチャンス、もう二度と巡ってはこない。ソレを遊良もわかっているからこそ、いくら心が驚いていてもソレに囚われすぎるわけにはいかず。

 

何も『思惑』が無いのならば、何の憂いもなく思い切り戦える。そう、自らの力が認められ、出場を許されたことは今の遊良にとっては…遊良からしても、嬉しいことでもあるのだから。

 

 

 

「では今日から君は特別カリキュラムです。他の3年生とはカリキュラムが異なりますが、出席日数や単位の辺りは何とかしましょう。」

「え、いいんですか?そんな事して…また色々と事務作業とか手続きとかが大変なんじゃ…」

「…そんなモノ、天宮寺君に現在進行形でかけられている面倒に比べれば雲泥の差です。」

「それは…確かに…」

「それに今回の件は私が以前から考えていた事ですので、最初から君に心配される事は何もありません。君は自分の心配だけをしていればいい…プロのトップランカーたち相手に戦うのは君なのだから。」

「は、はい…ありがとうございます…」

「と言うことで早速始めますよ。開催まであと2ヶ月、それまでに君の実力を底上げしなければなりませんからね。…フッ、最近はずっと『七草』の先生達ばかりに修業をつけさせていましたが、今日は久々にこの私自ら君の力を見てあげましょう。さぁ、スタジアムに行きますよ。」

「え…い、今から…ですか?」

「言ったはずです、本番まで時間がありません。私も1時間ほどしか時間がとれないのでサクサク行きますよ。返事は?」

「は、はい、砺波先生。」

 

 

 

そうして…

 

 

 

砺波に連れられて、理事長室から出るとそのままイースト校のメインスタジアムへと向かい始めた遊良。

 

まだ始業前である事から、登校している学生達の中を【白鯨】と共に逆走している為に大勢の学生達から注目を浴びつつ…密かにざわめき始める学生達を他所に、どんどんと歩みを速める砺波に遊良は小走りになってついていくだけ。

 

…きっと、ソレを目にした学生達は自分の目を疑ったことだろう。

 

何しろ、こんな朝早くから【白鯨】が学生の波の中を歩いているのだ。それも遊良を連れ立って、どこかへと向かおうとしている様子なのだから…

 

朝も早いこんな時間帯に、事情を知らない大勢の学生達からすれば。何が起こったのかすら理解できずに、滅多に見られない生の【白鯨】をただただ見送るだけで…

 

 

…そのまま、砺波と遊良は階段を降りると1階へと到達し。

 

 

校舎とは別の建物…

 

通常の授業では使われる事はまず無い、【決闘祭】の代表選抜戦やその他の重要行事で使われるイースト校で最も大きなメインスタジアムへと入ると。慣れた様子で、中央のデュエル場へと上がりつつ距離を取り始めて。

 

 

…他に人が居ないこのメインスタジアムは、2人で使うにはあまりに広い。

 

 

それは『無音』という音が聞こえてくるほどに広く、選抜戦や修業等で何度かここでデュエルした事がある遊良からしても少々の緊張を伴っている様子。

 

 

 

そして…

 

 

 

「では行きますよ。私を落胆させないでください?」

「は、はい、よろしくお願いします。」

 

 

 

慣れた様子で向かい合い、デュエルディスクを装着し。

 

こんな朝も早い時間に、ギャラリーもいない大スタジアムで向かい合った砺波と遊良が―

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

今、闘う。

 

先攻は、遊良。

 

 

 

「俺のターン!魔法カード、【闇の誘惑】発動!2枚ドローして【堕天使アスモディウス】を除外!続けて【堕天使イシュタム】の効果発動!手札の【堕天使ネルガル】と共に捨てて2枚ドロー!【トレード・イン】も発動!レベル8の【堕天使ゼラート】を捨てて2枚ドローし…そのまま【手札抹殺】も発動!手札を全て捨てて4枚ドロー!」

 

 

 

デュエルが始まってすぐ…

 

凄まじき勢いにて、始めから全開全力でデッキをフル回転させ始めた遊良。

 

巻き起こるはドローの嵐。

 

それは一昨年の【決闘祭】、そして昨年の【決島】を経て更に進化した、これまでの遊良のデュエルよりも更に激しき嵐のようなドローの乱舞とも言えるに違いないことだろう。

 

しかし、並の相手ならば、初手から手札全てを入れ替えさせる【手札抹殺】は時として大きな妨害札になりえるモノなのだろうが…

 

強者になればなるほど墓地をリソースとして扱える者が増えることから、使用する相手やタイミングをひとつ間違えれば相手に大きなメリットを与えてしまう諸刃の剣でもある【手札抹殺】を、遊良は何の恐れもなく初手から戸惑うことなく発動して。

 

 

 

「5枚捨て5枚ドロー。…私の手札を恐れることなく【手札抹殺】を使ってきましたか。」

「はい、砺波先生相手にはデメリットの方が多いかもしれないですけど…でも、ここで中途半端に動くよりは思い切って動くほうが重要だと思って…」

「…フッ、そうです。相手にアドバンテージを与えることを恐れていては格上相手に立ち向かえません。そのデメリットを帳消しにするような動きを持って、全力で立ち向かってきなさい。」

「はい!魔法カード、【成金ゴブリン】発動!LPを1000与えて1枚ドロー!…よし、フィールド魔法、【チキンレース】発動だ!その効果で、LPを1000払って1枚ドロー!」

 

 

 

遊良 LP:4000→3000

 

砺波 LP:4000→5000

 

 

 

けれども、そんな事など百も承知で。

 

『堕天使』の力のみならず、自らのLPを減らす事すら、そして相手のLPを増やす事すら厭わないドローにて、更に勢いを増し続ける遊良のデュエル。

 

…昨年の『ある出来事』によって『堕天使』のカードを失っていた時に培った、遊良のデュエルの発展系とも言えるであろう怒涛の回転力にて更に強く動き続け。

 

そして一度失ってもなお、その上で更に力を磨き、そうして再び取り戻した『堕天使』の力と…

 

磨き上げ、研ぎ続けた『自らの力』とを合わせながら繰り出されるそのドローの激しさは、まさに手の着けられないほどに洗練されつつある乱舞となりて、激しく彼のデッキを回転させている。

 

 

 

「【堕天使の追放】を発動し、デッキから【堕天使の戒壇】を手札に加える!そのまま魔法カード、【堕天使の戒壇】発動!墓地からスペルビアを守備表示で特殊召喚し、その効果でイシュタムも守備表示で特殊召喚する!羽ばたけ、2体の堕天使達よ!」

 

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

 

現れるは2体の漆黒。

 

遊良のデュエルの始まりを飾る、異形の堕天使と魅惑の堕天使が天高らかに宙を舞う。

 

 

 

「まだまだ行きます!【アドバンスドロー】を発動し、スペルビアをリリースして2枚ドロー!そして【堕天使ユコバック】を通常召喚!その効果で、デッキから【堕天使アムドゥシアス】を墓地に送る!魔法カード、【死者蘇生】を発動!もう一度スペルビアを攻撃表示で特殊召喚して、その効果でネルガルも攻撃…いや、守備表示で特殊召喚する!更にイシュタムの効果も発動!LPを1000払い、墓地の【堕天使の戒壇】の効果を得る!墓地からアムドゥシアスを守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

【堕天使ユコバック】レベル3

ATK/ 700 DEF/1000

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使ネルガル】レベル8

ATK/2700 DEF/2500

 

【堕天使アムドゥシアス】レベル6

ATK/1800 DEF/2800

 

 

 

遊良 LP:3000→2000

 

 

 

しかし、まだまだ…それだけでは、終わらない。

 

瞬きほどの一瞬で、遊良の場には更に4体の堕天使がその漆黒の羽を広げ場へとその姿を現し始めたではないか。

 

…まだデュエルは始まったばかりだと言うのに、これで遊良の場には堕天使が5体。

 

次の砺波の攻撃を最大限に警戒してか、そのほとんどが守備表示だとは言え…

 

先のドローの乱舞といい、この怒涛の展開といい。まるで初めからフルスロットル、最初からクライマックスなのだと言わんばかりの勢いで、開始からあまりに激しい姿を見せながら遊良は砺波へと立ち向かっているではないか。

 

 

 

「その後、【堕天使の戒壇】はデッキに戻る!よし!俺はカードを2枚伏せてターンエンドです!」

 

 

 

遊良 LP:4000→2000

手札:5→0枚

場:【堕天使イシュタム】

【堕天使ユコバック】

【堕天使スペルビア】

【堕天使ネルガル】

【堕天使アムドゥシアス】

伏せ:2枚

フィールド:【チキンレース】

 

 

 

そうして…

 

先攻1ターン目から、あまりに激しいカード捌きにて怒涛の展開を見せ今そのターンを終えたイースト校3年、天城 遊良。

 

途中、少々の迷いを見せてはいたものの…しかし最初から手札を全て使いきってまで全力で砺波へと向かい合う今の遊良のその姿は、昨年度までの彼とは比べ物にならない程に洗練された、大人になりつつある佇まいと言えるに違いない事だろう。

 

そう、それはその顔つきが子どもから大人へと近づいているのと同様に、デュエルの実力も心の強さも成長してきているからこそ。

 

…1年生の時とは比べ物にならない程に強くなった。2年生の時に更なる激闘を経て強さを増した。

 

そして、3年生になった今。

 

遊良の実力は、遊良の心は。理事長である砺波を前にしても、恐れることなく立ち向かえるまでに大きく強く成長していて―

 

 

 

「ほぅ…堕天使が5体に伏せカードが2枚、オマケに【チキンレース】…今の手札で引き出せる全力で来きましたか。」

「…」

「…フッ、いいでしょう、まずは合格です。ここで余力を残してカードを温存してくるようならば、次のターンに容赦なく木っ端微塵にしていたところでした。」

「やっぱり…」

「では行きましょう。私のターン、ドロー。」

 

 

 

…そんな遊良へと向かって。

 

一言…しかしとてつもなく不穏な笑みと、冗談では断じてない言葉と共に。自らのターンを、砺波は静かに迎え始める。

 

…今の砺波の言葉を聞いて、遊良の背筋が凍ったのは言うまでも無いこと。

 

だってそうだろう。最後の最後で悩んだ末に遊良が取った、手札を全て伏せるという行為が正解であった事に…一体、遊良がどれほど安堵を覚えたことか。

 

砺波の言った、『木っ端微塵』と言う言葉が冗談などでは断じてない事をこれまでの修業にて遊良も嫌と言うほど叩き込まれている。それ故、厳しすぎるとも思える砺波の『指導』と言う名のスパルタを察するのに、遊良は常に神経を張り詰めて挑んでいるのだから。

 

 

 

「私は【深海のディーヴァ】を召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【深海のディーヴァ】レベル2

ATK/ 200 DEF/ 400

 

 

 

砺波の場に現れるは、深海にたゆたうアリアの歌い手。

 

彼のデュエルの始まりを告げる、まさに代名詞とも呼べる歌姫がいつもの様にして静かに呼び出され…

 

 

 

「行きますよ、召喚成功時にディーヴァの効果はつど…」

「永続罠、【デモンズ・チェーン】!ディーヴァの効果を無効に!」

 

 

 

…けれども、ソレに即座に反応した遊良が放った、悪魔の鎖が歌姫を縛り上げる。

 

そう、それは砺波とのデュエルにおいて、まず初めにディーヴァの効果を止める事が最重要課題であると言う事を遊良もわかっているからこその反応。

 

歌姫から始まる無限の展開の、初動を止められなければまず話にはならない。つまりは、砺波とのデュエルにおいてはコレが定石なのだと言わんばかりに遊良はノータイムでディーヴァの歌声をせき止めるだけ。

 

 

 

「まずは定石どおりですね。では次は【チキンレース】の効果を使用します。LPを1000払い1枚ドロー!そして手札の水属性モンスター2体を捨てることで、手札より【水精鱗-メガロアビス】を特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

【水精鱗-メガロアビス】レベル7

ATK/2400 DEF/1900

 

 

 

だからこそ、砺波もまた教え子の動きを最初から分かっていたようにして。

 

縛られた深海の歌姫を意に介さず、何の淀みもなく次なる一手を打ちつつ更に動き続けるだけ。

 

 

 

「さて、この効果で特殊召喚したメガロアビスには更なる効果が発生しますが…どうしますか?【神属の堕天使】で無効にしLPを回復しますか?」

「ぐっ、バレてる…ま、まだしません。」

「よろしい。この後も展開はまだ続くため、咄嗟に、闇雲に、ただ手当たり次第に妨害していては手が足りなくなりますからね。」

「相手のカードからその先を常に考え、止めるべきところを見極める…」

「そうです。何が自分にとっての致命傷になりえるのかを見極めるのです。ではメガロアビスの効果により、デッキより【アビスケイル-クラーケン】を手札に加える。更にたった今手札より捨てられた、【海皇の竜騎隊】と【海皇の重装兵】の効果も発動します。竜騎隊の効果で【海皇子 ネプトアビス】を手札に加え…重装兵の効果で【チキンレース】を破壊する!」

「…ッ?」

 

 

 

そして…

 

砺波のモンスターが放った、海中よりの一撃によって遊良の場の【チキンレース】が破壊されていく。

 

けれども、破壊されたのが【チキンレース】であった事に対し…

 

遊良は何やら、少々意外であったかのような反応を見せ始めたではないか。

 

そう、高い攻撃力と優秀な効果を持った堕天使ではなく、何故に砺波はフィールド魔法の【チキンレース】を破壊したのだろう。砺波ほどの者になれば、展開の途中でついでのように当たり前に【チキンレース】を破壊するのは呼吸するよりも簡単なことのはず。

 

何しろ、砺波はかつて【白鯨】と呼ばれていた、一度はシンクロ召喚の頂点に立っていたほどの世界最高峰の実力者の一人であり…

 

更に最近ではその領域から更に『上』の…いや、『別』の次元へと到達したほどの、規格外の力を持っているのが今の砺波のはずなのだから、そんな者が狙うのならば破壊するのならばいつでも対処出来る置物ではなく、変幻自在に飛びまわる堕天使達をまず対処しようとするのが普通のはず。

 

そうだと言うのに、堕天使達には目もくれずに最初に【チキンレース】を狙ってきたのが、遊良には少々意外であったようで…

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「堕天使じゃなくて【チキンレース】を…」

「考えなさい。相手の行動、ひとつひとつをその目に焼付け…そこから生じる可能性を刹那に熟考するのです。即座に予測し、咄嗟に予想し、絶えず連想し続けなさい。」

「はい、となみせ…」

「まぁ君の予想は当たりませんが。【サンダー・ボルト】発動。」

「…へ?」

 

 

 

―!

 

 

 

瞬間…

 

予想外に、予測不可に。古代魔法に数えられる、砺波の放った雷撃が遊良の予測の範疇の上から猛々しく堕天使達へと襲い掛かる。

 

 

 

「ちょ、そんな突然!?だ、【堕天使イシュタム】の効果発動!LPを1000払って墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!デッキから【堕天使テスカトリポカ】を手札に加えて、そのままテスカトリポカを捨てることで堕天使達を破壊から守る!」

 

 

 

そんな、突然襲い掛かってきた瞬撃の雷霆に驚きを感じつつも…雷撃が完全に落ちてくる前に、どうにか寸前の所で堕天使達を守りにかかった遊良。

 

 

 

遊良 LP:2000→1000

 

 

 

…羽ばたくは、守りの力を持った悪魔のような見た目をした更なる堕天使。

 

その革命の業火を十字に広げ、降り注ぐ無情な雷撃を真正面から受け止め…全てのモンスターを粉砕する古代魔法を受けてもなお、砕かれる事なく仲間を守る。

 

 

 

「ふむ、咄嗟の予想外にも即座に対応してみせますか。まぁ私の教え子ならば、この程度など軽く躱せて当然でしょうが。」

「いや、突然すぎて驚いたんですけど…砺波先生、【サンダー・ボルト】なんて持ってたんですか?」

「当たり前でしょう?私を誰だと思っているんですか。」

「だって一回も使われた事無いし、使ってたとこも見た事ないですし…ビックリした…っていうか何でこのタイミングで?」

 

 

 

…しかし、どうにか堕天使達を守ったとは言え。

 

これまでの砺波との修業では、そしてこれまでの【白鯨】のデュエルでは全くもって見た事もなかったカードを…こんな予期せぬタイミングで使われた遊良の心臓の鼓動は、今の驚愕の所為で波打つほどに強く打ちつけられている様子ではないか。

 

…しかし、それも当然か。

 

確かに砺波ほどのデュエリストになれば、古代魔法と呼ばれる複製不可指定のカードを所持していても可笑しな話ではない。けれども、例えソレを持っていたとしても…

 

ソレを使うかどうかは全く別の話であり、『海』…いや、水属性とソレに関連したカードを使うことを美学としている元シンクロ王者【白鯨】が、あろうことかこれまで一度も使ったところを教え子に見せた事すらない【サンダー・ボルト】をこんな雑に使用してくるだなんて、一体誰が予測出来ていたというのだろう。

 

…遊良の記憶が確かならば、砺波が【サンダー・ボルト】を使用した場面は一度も無いはず。ソレは遊良達との修業の最中も勿論のことだが、それ以前の【王者】であった頃…いや、それ以前から数えても皆無だったはず。

 

…それ故、砺波がその魔法を持っていたことよりも使われたことに大いに驚いている遊良の心には。

 

使われた事以上に、砺波の放ったソレを自分が躱せたと言う事自体に対し、少々の引っかかりを覚えている様子で…

 

そう、普通に戦っても自分を圧倒できるほどの力を持った【白鯨】が、まさか自分の意表を突くためだけにこんな雑なタイミングでこんな強力なカードを無駄撃ちしてきたとは遊良には到底思えない。

 

何しろ【サンダー・ボルト】を使う前に、先ほどメガロアビスの効果で手札に加えていた【アビスケイル-クラーケン】を場に出していれば…今の【サンダー・ボルト】は、確実に遊良の場の堕天使達を木っ端微塵に粉砕しきっていたはずなのだ。

 

だからこそ、あえて『躱してみろ』と言わんばかりに雷撃を放ってきた砺波の今の行動を見て…

 

遊良はふと、先のターンに砺波に言われたことを思い出す。

 

 

 

―『まずは合格です。ここで余力を残してカードを温存してくるようなら、次のターンに容赦なく木っ端微塵にしていたところでした。』

 

 

 

そう、砺波があえて【アビスケイル-クラーケン】を先に使用しなかったのは、おそらくデュエルが始まってすぐの砺波の課題を遊良が正しく察したが故なのだろう。

 

 

もっと、ギリギリまで…追い詰めて、抵抗させる。

 

 

それはある意味で偏った教育的指導にも思えるものの、しかしこのデュエルが勝敗を重要視するデュエルではない『修業』の一環である事を考えると、その行為はまたある意味では当然とも言える措置とも言えるのではないだろうか。

 

意表を突いた雷撃も、抵抗の余地を残した展開も。どれもこれも、ただただ『修業』の一環に過ぎない。

 

それ故、雷撃を躱したものの驚きを禁じえていない教え子に対してもなお。

 

砺波は、手を休めずに動き始めるだけ。

 

 

 

「この程度で驚いている暇なんてありません。装備魔法、【アビスケイル-クラーケン】をメガロアビスに装備。そして【強欲で貪欲な壷】を発動し、デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー。フィールド魔法、【伝説の都 アトランティス】を発動。続けて魔法カード【魚群探知機】も発動しましょう。デッキから【デス・クラーケン】を手札に加え、アトランティスはルール上『海』として扱う。デッキから【幻煌龍 スパイラル】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【幻煌龍 スパイラル】レベル8→7

ATK/2900→3100 DEF/2900→3100

 

 

 

そうして…

 

砺波の場に現れしは、海竜より進化した…いや、海竜より浸渦した、幻の中に生きる一体の龍。

 

…逆巻く海流を統べる王。1つ上の段階へと到った螺旋の海王。

 

また、何よりも特徴的なのは…

 

元シンクロ王者【白鯨】が、効果を持たぬ『通常モンスター』を呼び出したと言う事であって―

 

 

 

「攻撃力3100!?しかも通常モンスター!?」

「まだ終わりません。私の場のディーヴァと君の場の【堕天使アムドゥシアス】を対象に、手札の【デス・クラーケン】のモンスター効果を発動!クラーケンを特殊召喚し、ディーヴァを手札に戻し…同時に、アムドゥシアスを破壊する!」

「くっ、今度は手札で発動するモンスター効果…」

「【神属の堕天使】があるのが分かっているのです。ならばコチラはソレを躱すように動くに決まっているじゃないですか。」

「分かってるって…って言うかそれは砺波先生だからじゃ…」

「四の五の言わない。【強欲なウツボ】発動、手札のディーヴァとネプトアビスをデッキに戻し3枚ドロー。そして装備魔法、【幻煌龍の螺旋絞】をスパイラルに装備し攻撃力を500アップ!ではそのままバトルフェイズです!まずはスパイラルで、【堕天使ユコバック】へと攻撃!」

「ト、罠発動、【神属の堕天使】!ユコバックを墓地に送り、メガロアビスの効果を無効にしてLPを3000回復する!」

「フッ、結局メガロアビスに【神属の堕天使】を使わされてしまいましたね。まぁ結果的にLPを多く回復出来たので及第点でしょう。では攻撃対象を【堕天使ネルガル】へと変更し攻撃続行です!渦天のスパイラル・フラード!」

 

 

 

―!

 

 

 

強烈なりし波動の一撃。螺旋の王の轟きが、髑髏の堕天使を破壊する。

 

その螺旋の渦に、髑髏の堕天使も一度は抵抗を見せたものの…

 

しかし強烈なる螺旋の波動は、堕天使の羽ばたきを持ってしても耐え切る事など出来はしない凄まじさとなりて一撃の下に堕天使を撃って落とすのか。

 

…しかし、それだけでは終わらない。

 

そう、海竜より浸渦した、王の本領はここからなのだから。

 

 

 

「まだだ!スパイラルに装備された【幻煌龍の螺旋絞】の効果発動!デッキから2体目の【幻煌龍 スパイラル】を特殊召喚し、このカードをそのまま2体目に装備!更に君に1000のダメージを与えます!続けて2体目のスパイラルで【堕天使スペルビア】へと攻撃!メガロアビスで【堕天使イシュタム】に攻撃!そしてクラーケンでダイレクトアタック!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

遊良 LP:4000→3000→2300→700

 

 

 

「ぐっ…」

 

 

 

波状の連撃、怒涛の襲撃。

 

海の者たちの容赦なき激浪が、遊良の堕天使達へと襲い掛かる。

 

…もし砺波が手心を加えていなかったら、先ほどの宣言通りこのターンで遊良のLPは木っ端微塵に全て消し飛ばされていた。

 

そう、万全を期して、全力で抵抗するために手札を全て使いきってまで遊良はこのターンに備えたと言うのに…

 

手心を加えながら、いとも簡単にソレを超えてくる砺波の波状攻撃は。およそ遊良の想像を遥かに超える迫力を持ってして、津波のように襲い掛かってきたのだ。

 

 

 

「堕天使の攻撃力を過信せず、私の攻撃を最大限に警戒し守備表示を多めにしたのは正解でしたね。ネルガルかイシュタムまで攻撃表示で呼び出していたらこのターンで終わりでした。【白闘気白鯨】を視野に入れ、テスカトリポカを手札に加える算段も整えていたのは評価してあげてもいいでしょう。まぁ墓地の【巨神封じの矢】が腐ってしまったのはまだまだ甘いですが。」

「は、はい…」

「さて、この辺りがいい塩梅ですかね。手札0、LPも残り700で、【チキンレース】も堕天使の効果に必要なコストも払えない。ではここから返してみなさい。私はカードを1枚伏せてターンエンドです。」

 

 

 

砺波 LP:5000→4000

手札:6→1枚

場:【水精鱗-メガロアビス】

【幻煌龍 スパイラル】

【幻煌龍 スパイラル】

【デス・クラーケン】

伏せ:1枚

フィールド:【伝説の都 アトランティス】

 

 

 

そうして…

 

怒涛のような攻撃を終え、今静かにそのターンを終えたイースト校理事長、砺波 浜臣。

 

遊良の全力を軽く乗り越え、遊良の全霊を簡単に利用し…遥か彼方の高みから、遊良のデュエルをデュエルの最中に批評し、評価し、さらには課題すら与えてくるその圧倒的なる砺波の佇まいはどこまでも余裕綽々で。

 

…その姿は言うなれば、どこまでも不敵なる強者の温情。

 

荒ぶる遊良の全力を、まるで片手で軽く捻るようにして蹴散らしたその余裕溢れる佇まいはまさしく天上の力をも超えた、およそ常人には決して理解することすら出来ない領域に達している事の証明とも言えるに違いないことだろう。

 

そう…遊良をこのターンで倒すことだって簡単に行えたはずだと言うのに、あくまでも『修業』であると言う事からわざと砺波は遊良に課題を与え続けているのだ。

 

それは【サンダー・ボルト】をあえて遊良に耐えさせたのもそうだし、わざとLPが残るように展開も攻撃も調整したこともそう…

 

 

そして、ソレ以上に―

 

 

砺波の限りない手心など、遊良もとっくに気が付いている。

 

何しろ、元シンクロ王者【白鯨】とまで呼ばれた、現在もなおシンクロ使いとしては頂点に位置しているはずの砺波 浜臣が…

 

 

 

まだ、一度だって『シンクロ召喚』を行ってすらいないと言う事を。

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 

だからこそ、そんな砺波に『返してみろ』と指示された遊良もまた、ターンを迎えてすぐに勢いよくカードをドローするのか。

 

手札が0だと言うのに、微塵も恐れを抱いていない様子にてカードを引く遊良の手は…僅かな淀みも感じさせない自信に満ちた動きとなりて、閃光のようにカードをドローしながらも。その目は真っ直ぐと砺波の場を見据えており、ソレは遊良が砺波を前にしても恐れを微塵も感じていないが故なのだろう。

 

そう、実力差に慄くことなど遊良はしない。最初から、砺波との力の差がありすぎている事など遊良も理解しているからこそ。

 

そして、そんな人物が忙しい時間を割いて直々に修業をつけてくれているというこの状況に、深い感謝すら抱きながら…

 

 

 

「よし!【マジック・プランター】発動!【デモンズ・チェーン】を墓地に送って2枚ドロー!【貪欲な壷】も発動!イシュタム、ネルガル、テスカトリポカ、アムドゥシアス、ゼラートをデッキに戻して2枚ドロー!【強欲で貪欲な壷】発動!デッキを10枚裏側除外して2枚ドローし…魔法カード、【成金ゴブリン】も発動!LPを1000与えて1枚ドロー!」

 

 

 

少しの戸惑いも躊躇もなくドローされた遊良のカードが、そのまま勢いよくデュエルディスクへと叩きつけられる。

 

それは手札0からスタートしたと言うのにも関わらず、手札を一気に4枚まで増やす脅威の所業。

 

動けなくなることなど全く持って恐れていない遊良の進撃、先ほどと同じ様にデッキを回転させんと、再び暴れ始めるだけ。

 

 

 

「【堕天使の追放】発動!【堕天使ネルガル】を手札に加え、そのまま【トレード・イン】も発動!レベル8のネルガルを捨てて2枚ドロー!更に手札を1枚捨てて魔法カード、【ワン・フォー・ワン】発動!デッキから【サクリボー】を特殊召喚し…速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動ぉ!」

 

 

 

―!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

そうして…

 

デッキと墓地から連続して現れたるは、その名に犠牲を背負った3体の小さき悪魔達。

 

遊良が堕天使を失っていたときに、己のデュエルの根幹を改めて見つめ直したことにより彼が見つけた…堕天使ならざる悪魔の存在、しかして遊良の武器たるドローを支える、遊良自身の武器の1つ。

 

 

 

「私は【幻煌龍 スパイラル】を選択します。デッキから3体目のスパイラルを特殊召喚。…さて、来ますか。」

「行きます!俺はサクリボー3体をリリース!」

 

 

 

そして…

 

【白鯨】を前に、遊良の叫びが響く時。

 

ソレは無人のスタジアムであろうとも、轟く雄叫びと共に今ここに現れようとしているのか。

 

そう、例え海の眷属達が、海流を統べる螺旋の王が恐るべき重圧と共に鎮座していようとも関係ない。全てを、神をも滅ぼす雄叫びを伴い現れる力は、何が相手であろうとも恐れ慄くことは決してないのだから。

 

 

 

 

 

震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

 

 

それは、現れる―

 

 

 

 

 

「【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

轟く咆哮、弾ける爆風。

 

遊良の叫びに呼応するは、激戦駆け抜けし獣の王。

 

幼少の頃から、遊良を守り…遊良と共に成長し、そして遊良と共に数々の戦いを生き抜いてきた獣の王が、海の者たちへと立ち向かう。

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

「バルバロスのモンスター効果!3体のリリースでアドバンス召喚した時!相手のカードを全て破壊する!」

「ですが【アビスケイル-クラーケン】の強制効果により、バルバロスの効果は無効化されます。その後、【アビスケイル-クラーケン】は墓地へと送られる。」

 

 

 

けれども、獣の王のソレは最初から轟かないことが決まっていたかのように―

 

赤鮫の戦士が纏った鎧が砕け散ると同時に、獣の王の咆哮を掻き消す共鳴波を鳴らしたかと思うと…

 

なんと全てを破壊し尽す衝動の波が、海の高波に押し返され凪のように静まり返ってしまったではないか。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「でもこれで制限は無くなった!サクリボー3体の効果で3枚ドロー! 3枚目の【トレード・イン】発動!【D HERO Bloo-D】を捨てて2枚ドロー!【アドバンスドロー】も発動!バルバロスをリリースして2枚ドロー!…よし!【堕天使の戒壇】を発動します!墓地からスペルビアを特殊召喚し、その効果でネルガルも特殊召喚する!再び羽ばたけ、2体の堕天使達よ!」

 

 

 

遊良はまだまだ止まらない、

 

そう、場にある確定情報から、獣の王の衝動が止められる事は遊良には最初から分かっていたこと。

 

だからこそ、手札0から呼び出した獣の王の轟きをあえて止めさせた上で…更に強く攻め続けるべく、遊良は動き続けるだけなのだから。

 

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使ネルガル】レベル8

ATK/2700 DEF/2500

 

 

 

再度飛び立つ2体の堕天使。獣の王が居なくなってもなお、異形の堕天使と髑髏の堕天使が天高らかに空を舞い海の威圧を軽やかに躱し…

 

 

 

「永続魔法、【冥界の宝札】と通常魔法、【二重召喚】を発動し、そのままスペルビアとネルガルをリリース!」

 

 

 

そして、叫ぶ。

 

3体揃う螺旋の王にも、深海を守る赤鮫の戦士にも。そして死を呼ぶ烏賊にも慄かずに叫ばれるは、天空に響く遊良の叫び。

 

 

 

「来い、レベル11!」

 

 

 

…例え相手が、シンクロ召喚を使ってこない、本気では無い砺波であろうとも。

 

それでも、遥か彼方に位置している師の背中に、少しでも追いつかんとして…

 

そしてそれ以上に、人間の理を超えた師より『期待』されていると言うことが、遊良の魂に火をつけたのか。

 

 

 

「神に背きし反逆の翼、その姿を今ここに!」

 

 

 

今、新たなる決意と共に。

 

想像のつかない上のステージへと、自らの意思で出場することを決めた遊良の心が形となりて。一昨年と、そして昨年までの己を超えた自分自身を、今ここに誇るかのように…

 

【白鯨】を使ってこない【白鯨】の…しかして【白鯨】を超えた異次元の強さを持った【化物】の前であろうとも。

 

そんな師の前でもなお、遊良の呼び声に応えるのはまさしく―

 

 

 

 

 

「【堕天使ルシフェル】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

清廉なる天の光、それを遮る黒き姿。

 

海淵に潜む【化物】を前にしても、決して慄きはしないその佇まいはまるで神か悪魔か天使か人か…

 

儚くも君臨するその姿は、天使と呼ぶにはあまりに深淵。しかして悪魔と呼ぶには、あまりに煌々たる存在が、神をも撃ち破る反旗の翼を広げ今ここに天空より降臨する。

 

 

その姿を、一体誰が見間違えようか…

 

 

それは新たなる段階へと進もうとしている、今の『遊良』の姿そのモノであって―

 

 

 

【堕天使ルシフェル】レベル11

ATK/3000 DEF/3000

 

 

 

「…獣の王を囮に、堕天の王を呼び出しましたか。」

「行きます!【冥界の宝札】の効果で2枚ドロー!そして【堕天使ルシフェル】のモンスター効果!アドバンス召喚成功時、相手の効果モンスターの数だけ堕天使を呼び出す!集え、【堕天使マスティマ】!【堕天使ゼラート】!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【堕天使マスティマ】レベル7

ATK/2600 DEF/2600

 

【堕天使ゼラート】レベル8

ATK/2800 DEF/2100

 

 

 

「まだだ!【堕天使ルシフェル】の更なる効果発動!1ターンに一度、堕天使の数だけデッキからカードを墓地に送る!…墓地に送られた『堕天使』カードは2枚!よって俺はLPを1000回復!」

「ほぅ…私を前にしてLPを1000も回復できるとは。」

「続けて【堕天使マスティマ】の効果発動!LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!デッキから【堕天使エデ・アーラエ】を手札に加え、【堕天使の追放】をデッキに戻す!」

 

 

 

遊良 LP:700→1700→700

 

 

 

そうして…

 

獣の王から繋がり、堕天の王から始まった更なる展開により、遊良の手札とLPが目まぐるしく変化を繰り返す。

 

それは手札が0からスタートしたとは思えない程に洗練された、かつ遊良をよく知らない他人からは想像もつかない卓越したカード捌きと言えるに違いない事だっただろう。

 

 

…そう、遊良は、このターン手札を0枚からスタートさせたのだ。

 

 

 

かつて、誰かが言った…手札とは、すなわち可能性である…と。

 

手札とは、選択肢のようなモノ。ある特殊な効果を持ったカード群を除いては、手札が『無い』と言う事はそれだけ取れる選択肢が無くなってしまうことに等しいといえるのだ。

 

…遊良のデッキが、今ここでどういう動きを見せどう回転するのかなど誰にもわからない。そして、ドローしたカードでどう戦うのかを決められるのも、戦っている遊良だけ。

 

それ故、砺波に対峙している遊良が考え、導き、そして立ち向かっているこの流れこそがこのデュエルの全て。

 

だからこそ、遊良も砺波の軍勢を前に、手札0から遊良が取れる選択肢があまりに少なかったはずだと言うのに…

 

瞬間的に手札を4枚へと増やしたかと思うと、止められるのを前提で『獣の王』を繰り出しつつ。それを超える動きにて堕天使を連続的に召喚し、果ては『堕天の王』とその重臣たちによって一挙に形勢逆転を狙えるところまで場を進めたこの流れもまた、遊良の持てる全力の展開と言えるに違いないことだろう。

 

果たして…

 

今の天城 遊良という少年の実力は、一体どれほどのモノとなっているのだろうか。

 

既に学生の枠には収まらないことは必至。これだけの展開力、これだけのカード捌き、これだけの攻撃能力に加えて、その窮地を窮地とも思わぬ精神力から魅せる危機回避能力と…

 

Ex適正がないからこそ磨かれた、絶対に相手を乗り越えるという覚悟は、それだけ今の遊良の力が果てしなく、そして凄まじく洗練されつつあると言う事と同義でもあるはずで。

 

 

 

「ふむ…」

「よし!そのまま【堕天使ゼラート】の効果も発動だ!手札のエデ・アーラエを捨てて…砺波先生のモンスターを、全て破壊する!」

 

 

 

…だからこそ、再び遊良は全力で叫ぶ。

 

赤衣の堕天使が導いた黒き雷撃が、轟音と共に海の者たちへと襲い掛かるその光景は…

 

まさに、先ほどの【サンダー・ボルト】のお返しなのだと言わんばかりの威力を持ってして。

 

猛々しくも荒々しく、海王の眷属達を破壊せんと広がり始めるのみであり―

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「よし!これで砺波先生の場はがら空きになっ…」

「なるわけないでしょう?墓地から【海竜神の激昂】を除外。水属性をその破壊から守ります。」

「なっ!?」

 

 

 

それでも砺波は崩れない…

 

いや、崩せるわけがない。

 

さも当然のように、さも当たり前のようにして…

 

先の遊良と同じように、全体破壊にも対応する身代わりの効果を使用し。砺波がソレを宣言したと同時に、彼の墓地から浮かび上がった海竜神の幻影が海王の眷属達の全てを守り始めたではないか。

 

 

 

「くっ…【手札抹殺】の時にそんなカードまで…」

 

 

 

遠い…

 

真正面に立って対峙していると言うのに、遊良には砺波の背中があまりに遠すぎてその欠片ほども見えてこない。

 

そして、それは比喩的表現だけでは断じてない。

 

実力的な面でも、思考的な面でも、精神的な面でもそうだが…それ以上に遊良には、砺波の操るカードの部分部分が時折見えなくなる錯覚を覚えていて。

 

それはたった今遊良が、砺波の墓地のカードを見落としてしまっていたのもそう。この世界におけるデュエルにおいてはある意味仕方の無いことのひとつなのだが、圧倒的強者との戦いにおいてはデュエルディスクが相手のカードを上手く認識できなくなることが時たまに起こってしまうモノなのだ。

 

しかし、それを含めてもなお遊良のカードを当然のように利用し、遊良の渾身の一撃を何食わぬ顔で2度も止めてくる辺り…

 

 

 

遊良には、砺波の背中がまだまだ見えず…

 

 

 

「どうしました?この程度で終わりですか?」

「ま、まだです!【貪欲な壷】発動!墓地のスペルビア、ユコバック、ネルガル、エデ・アーラエ、そしてBloo-Dをデッキに戻して2枚ドロー!…ッ、き、来た!このカードは、墓地の闇属性が3体のみの場合に特殊召喚出来る!」

「おや、その召喚条件は…」

 

 

 

けれども、これだけでは終わらせられないと言わんばかりに。

 

今ここに、遊良は高らかに竜の雄叫びを上げ始めるのか。

 

 

…轟かせしは不沈のいななき、溢れんばかりの竜の息吹。

 

 

それは【化物】に気圧されているままであったとしても、内に秘めた『本性』は紛れもなく『巨龍』なのだという事を見せ付けるが如き轟きと響き。

 

…天に掲げるその手が行き着く先は、Exでは決してあらず。

 

そう、確かなる血の『繋がり』から受け継いだ、その轟きの指し示すままに。轟々とした迫力を纏い、類稀なる竜の叫びを体現しつつ…

 

天に掲げたその手と意思は、竜の雄叫びとなりてExデッキではなく手札へと向かっていて―

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

「怒りに震える逆鱗よ!歯向かう愚者を消し飛ばせぇ!」

 

 

 

 

 

轟く咆哮、震える大気。重々しく変わっていく、天城 遊良のそのオーラ。

 

歴戦を超えし【化物】と、その眷属達にも慄かない小さき竜のその姿は彼が本当に『龍』の血を引いている証明となりて声高々に響き渡る。

 

…聞こえてきたのは、かつて『逆鱗』と呼ばれていた歴戦のデュエリストが放っていた、世界に轟いていた『あの口上』と一字一句同じモノ。

 

そう、雰囲気までもが瓜二つの、大気を震わす咆哮に導かれ。Ex適正を持たぬ少年の場へと、歴戦を知る龍の叫びが…

 

 

 

ここに、現れる―

 

 

 

 

 

「来い、レベル7!【ダーク・アームド・ドラゴン】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

…現れたのは黒き暴竜、怒りに震える巨大な体躯。

 

力を纏いし豪き腕を、その身に秘めた怒りによって振り下ろし全てを壊し尽くすという…まさに暴力が化身となった、怒り狂う『力』の象徴として名高き一体の巨大なる竜の姿。

 

 

 

【ダーク・アームド・ドラゴン】レベル7

ATK/2800 DEF/1000

 

 

 

咆哮を轟かせ現れるその姿はまさしく、彼の『血』によって引き出された雄々しき竜の姿に違いなく。

 

…Exモンスターでもないこのモンスターの事を、対峙している砺波もよく知っている。

 

そう、砺波も、この『逆鱗』の名の原型であるモンスターと一体何度戦ってきたと言うのだろう。

 

エクシーズモンスターではないこの姿と、そしてエクシーズモンスターへと進化した【撃滅龍 ダーク・アームド】と…砺波は、長い歴戦の中でずっと戦ってきているのだから。

 

 

 

「…この私を歯向かう『愚者』と称するとは…中々いい度胸ですね。」

「あ、いや、それは…」

「フッ、冗談です。しかし獣の王、堕天の王…そして『逆鱗』。手札0から、切り札を3体も呼び出すとは。さて…」

「…行きます!ダーク・アームドのモンスター効果!墓地のサクリボー3体を除外し…3体の【幻煌龍 スパイラル】を破壊する!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

そうして…

 

砺波に対し、『歯向かう愚者』と言い放ったことを少々気にはしていつつも。

 

それでも、遊良の叫びと共に黒き龍が大きく猛りを見せたと同時に…その刃腕より放たれた衝撃波が、一瞬で3体もの螺旋の海王の首を荒々しく切って落としたではないか。

 

…墓地のコストが必要とは言え、コスト1つで無条件にフィールドのカード1枚を破壊できるその効果はまさに破格の一言。

 

まさに、暴れ狂う巨龍が如く。

 

難しい召喚条件だと言うのにも関わらず、この場面で『逆鱗』の血を引く少年を守るようにして現れたソレは、荒々しくも頼りになる姿となりて海の者たちへと襲いかかるだけ。

 

そのまま、無理矢理にでも押し通る進撃を見せ続けた遊良が…

 

今、満を持して砺波に攻撃をしかけんとその意識を前へ前へと進め始め…

 

 

 

 

 

「よし!バト…」

「ほぅ…」

「ッ!?」

 

 

 

否…

 

今まさに、遊良が砺波へと攻撃をしかけんとしたまさにその刹那―

 

ポツリと…

 

そう、あまりに小さく浮かべられた不敵な笑みと、あまりに小さく呟かれた砺波のソレを…遊良は、決して見逃さなかった。

 

だから、止める…

 

攻撃に逸る気持ちも、今まさに進撃を始めようと猛るモンスター達も。そして、早計すぎる己の感情も何もかもを、遊良は無理矢理に引き止める。

 

何しろ、攻撃に移行する刹那に目に入った砺波の姿を見て…

 

遊良の脳裏には、一瞬で『ある光景』が思い出されてしまったのだから。

 

 

 

―『私を舐めるな釈迦堂ぉ!罠発動、【波紋のバリア‐ウェーブ・フォース‐】!』

 

―『【波紋のバリア-ウェーブ・フォース-】を発動!君の場の【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】と【竜巻竜】をデッキへ戻す!』

 

 

 

遊良は思い出す…自分も、鷹矢も、そして大勢居た砺波への挑戦者たちも。過去、砺波が得意としているその罠に引っかかり、何度痛い目に遭わされてきたのだろう…と。

 

幾重にも続いた展開を耐え切り、厳重に聳えたモンスター達を掻い潜り、卓越した戦略を乗り越えようやく攻撃を許された場面で、砺波の最後の罠に消し飛ばされたデュエリストは今も昔も数多い。

 

それ故、攻撃をしかける寸前で…まだバトルフェイズに移行するギリギリで、どうにかソレに思い至った遊良が今一度メインフェイズ続行の意思をディスクへと伝え―

 

 

 

「そうだった…砺波先生にはウェーブ・フォースがあるんだ!メインフェイズ続行、【堕天使イシュタム】の効果を発動します!手札の【魅惑の堕天使】と共に捨てて2枚ドロー!そして再びダーク・アームドのモンスター効果!墓地のイシュタムを除外して…砺波先生の伏せカードを破壊する!」

 

 

 

今一度、黒き暴龍が激しく吼える。

 

それは万全を期した安全策、寸前で思い出した打開策。

 

過去に、実際にソレを食らい痛い目を見た事のある遊良だからこそ…ようやく攻撃を仕掛けられる場面になっても油断せず、あくまでも慎重を期しているのか。

 

そして、黒き龍から放たれた鋭き衝撃波が宣言通りに砺波のカードへとぶつかったかと思うと…

 

 

 

砺波が伏せていた罠カード…

 

 

 

【ポセイドン・ウェーブ】が、破壊されていく―

 

 

 

「【ポセイドン・ウェーブ】!?」

「フッ、少しは成長しているようでなによりです。あのまま攻撃して来ていたら、1600の効果ダメージで終わりでした。」

「ウェーブ・フォース以上に危ないカードが伏せてあったなんて…で、でもこれで攻撃は通るようになった!バトル!マスティマで【デス・クラーケン】に攻撃!」

「【デス・クラーケン】の効果発動、このカードを手札に戻す事でその攻撃を無効にします。」

「だったら次はゼラートで【水精鱗-メガロアビス】に攻撃だ!真紅の断罪、バニッシュ・レヴィアー!」

 

 

 

―!

 

 

 

「…」

 

 

 

砺波 LP:5000→4800

 

 

 

そして…

 

 

 

幾重にも積みあがった攻防を経て。

 

今、赤衣の堕天使の解き放った、迅雷纏いし剣閃が…砺波の場に残った赤鮫の守護者を、一撃の下に切り伏せて。

 

 

 

「あ…と、通った!砺波先生にダメージが!」

 

 

 

そして生じる、200のLPへのダメージ…

 

それはたかが200のダメージ、されど200のダメージ。

 

そう、遊良の【成金ゴブリン】にて、開始時よりも多くなっているとは言え。それでもここへ、来てようやく遊良が砺波へと目に見えるダメージを与えることが出来たのだ。

 

…昨年度の【決島】を経てから、【化物】の領域に到った砺波。

 

そんな、【王者】を引退してもなお更に強さを増している砺波を相手に…わずかでもLPへのダメージを与えるだけで、一体どれほどの苦労が遊良にはあったと言うのだろう。

 

何しろ昨年度までの普段の修業でも、一回のデュエルで砺波にダメージを与えられない事など日常茶飯事であった遊良からすれば…

 

いくらこのデュエルが手心を加えられているとは言え、数々の攻防を経て実際に今200のダメージを与えられたことは心から湧き上がる事象であったに違いないはずで―

 

 

 

しかし…

 

 

 

「よ、よし、続けてダーク・アームドで砺波先生にダイレクトアタックだ!冥龍崩て…」

「ですがソレもそこまでです。墓地より【光の護封霊剣】を除外し効果発動。ダイレクトアタックを封じる。」

「ッ!?」

 

 

 

その勢いも長くは続かず。

 

追撃を完全にシャットアウトされてしまった遊良の前に、遊良もよく使用する守りに長けた守護のカードが煌々と光り輝いたではないか。

 

 

 

「護封霊剣…そ、それも最初の【手札抹殺】で…」

「確かにコレは君もよく使うカードですが、なにも君の専売特許というわけではありません。こうなる事を見越して用意しておいただけです。」

「くっ…エンドフェイズに、【堕天使ゼラート】は自身の効果で破壊されます…俺はカードを2枚伏せてターンエンド…」

 

 

 

遊良 LP:700→700

手札:1→0枚

場:【堕天使マスティマ】

【堕天使ルシフェル】

【ダーク・アームド・ドラゴン】

伏せ:2枚

 

 

 

だからだろう。気落ちを隠せず、意気消沈し。しかしそれ以上取れる手立てが無い以上、静かにそのターンを終えるしかなかった様子の遊良。

 

折角巡ってきた攻撃のチャンスを、たった200のダメージのみで終えるしかなかった遊良の心情は…見て分かるとおり、先ほどとは打って変わって下り坂へと差し掛かってしまったのだろう。

 

まぁ、とは言え全体破壊を優先し全てのモンスターを破壊しきってから攻撃していたら、砺波にダメージを与える事すら出来なかったのだから…

 

これはこれで、今まで戦闘でまともなダメージを与える事すら出来ていなかった遊良からすれば限りない成長の証とも言えるに違いない事なのだろうが。

 

 

 

「…私の場を一層するだけではなく、御封霊剣を使わせる所まで来ましたか。フッ…」

 

 

 

そう…遊良に聞こえないほどに小さく呟かれたソレと、見えないほどに小さく零された笑みは教え子の成長を感じている師だからこそ浮かぶ確かな感情。

 

与えたのは確かに小さな傷だったとは言え、それでも今の自分へと地力で確かなダメージを与えてきた教え子の成長は…砺波も、その身でしっかりと感じている。何しろ弟子にとった1年時よりも、自らが鍛えてきた2年時よりも…今の遊良がどれだけ努力を重ね成長したのかが、師である砺波には目に見える程に、手に取るように分かってしまっているのだから。

 

…確かにその師弟関係に至るまでに、紆余曲折あったとは言え。

 

それでも、限りなく成長し続けている自らの初めての教え子へと…

 

砺波もまた、色々な感情を浮かび上がらせており―

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー。…しかし、手札0からここまでの布陣を作り上げるとは。守りの方はまだまだですが、攻撃は相変わらず光る物がある。順当にレベルアップしているようで安心しました。ところどころ気を抜くところが玉に瑕ですが…まぁ、これならチャンピオンズ・リーグでも、トッププロ相手に攻撃で引けは取らないでしょう。」

「…え?」

 

 

 

無人のスタジアムに、今度は遊良に聞こえるほどの声で零された砺波の言葉…

 

 

それは紛れもなく、遊良の事を『褒める』言葉であった。

 

 

…だからこそ、遊良も己の耳を疑ったに違いない。

 

 

何しろ、弟子入りしてからこれまでの間、普段の修業から砺波にここまで直接的な言葉で褒められたことなど遊良にはまるで覚えがないのだ。

 

呆れられたり、溜息混じりに駄目出しされたりしたことは多々あれど…そう、厳しさと過酷さが度を越している元シンクロ王者【白鯨】から、ここまで直接的な言葉にて褒められた事など、今まで遊良は体験したことがない。

 

そんな、砺波が…

 

あの、他人を認めることなど皆無であろう、不遜が服を着て歩いているようなあの砺波が。

 

しかし確かに『頂点』を知っているからこそ『上』の厳しさを誰よりも知っている、それ故に他人を褒めることなど全くと言っていいほどしないあの【白鯨】、砺波 浜臣が…

 

まさか、直接己の口から弟子を賞賛する言葉を投げかけるだなんて―

 

 

 

それ故…

 

 

 

 

「あ…と、砺波先生…ありがとうございま…」

 

 

 

今の砺波から発せられた、混じり気のない純粋なる『賞賛』の一言を貰った遊良が…

 

デュエルの最中であるにも関わらず、思わず嬉しさから礼を言おうとした…

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だがまだ甘い。【海竜神-リバイアサン】を召喚。」

「…え?」

 

 

 

 

 

【海竜神-リバイアサン】レベル5→4

ATK/2000→2200 DEF/1700→1900

 

 

 

 

 

遊良の感動を遮るように、現れたのは激浪のうねり。

 

それは海嘯を統べる王の一体。荒ぶる波のさざめきを、まるで唄の様にして現れたその姿は…

 

紛れもなく、広い海の1つを統べる王たる威厳を持ち合わせているであろう、強者にしか扱う事を許されない、強靭なりし王の姿に違いなく。

 

 

 

「リバイアサン!?」

「気を抜くなと言っているでしょう?だから守りがまだまだと言ったんです。リバイアサンのモンスター効果、【海】扱いのアトランティスが存在するため、水属性以外は1体しか存在できなくなる。」

「しまっ…」

 

 

 

そして、荒ぶる…

 

嵐の海の波のように、『海』となっている砺波のフィールド魔法が激しく暴れ始めたその刹那。

 

全てが、流される…陸をも飲み込む海嘯に―

 

発動する効果ではなく永続効果のため、出現したタイミングでは遊良も行動することすら許されることなく…そのまま成す術なく、獣の堕天使も、黒き暴龍も、その激しさの前で抗うことなど出来ずに海中へと飲み込まれてしまったではないか―

 

そうして…

 

遊良の場からは堕天の王たる【堕天使ルシフェル】以外のモンスターの全てが波に攫われ消えてしまって…

 

 

 

「そしてこれで終わりです。【死者蘇生】を発動、墓地から【大要塞クジラ】を蘇生。」

「大要塞!あ、そ、それも最初の【手札抹殺】で!?まさかここまでの展開を全部見越してたんですか!?」

「当然です。【大要塞クジラ】の効果発動。フィールドに『海』が存在するため、このターン私の水属性モンスターはダイレクトアタック出来るようになる…これで、【闇次元の解放】と【量子猫】では防ぎきれません。」

「全部バレてる!?」

「ではフィニッシュです。リバイアサンでダイレクトアタック!狂海のラグーン・サブメイション!」

 

 

 

―!

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

遊良 LP:700→0

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

無人のスタジアムへと、無情に鳴り響くはデュエルの終了を告げる無機質な機械音。

 

最初から最後まで、何から何まで…

 

砺波の掌の上で転がされた遊良のデュエルは、今ここに終了したのだった―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

デュエル終了後…

 

 

 

「最初の【手札抹殺】で【巨神封じの矢】ではなく、君も【光の護封霊剣】を用意出来ていればまだ耐えられたかもしれませんね。あとはこの前試していた【ロスタイム】もいい凌ぎ方の一つだったのですが…」

「…いや、その時はその時で、絶対に別の方法でトドメさしてくるじゃないですか。」

「勿論。君がどれだけ臨機応変に対応しようしても、私の攻撃を止められるわけありません。」

「ありませんって…砺波先生…」

「それより【決島】の時から言っているはずです。攻撃はともかく、君はもっと守備と言うモノに意識を持たせた方がいい。前よりは幾分成長しているようですが、君の守りへの意識はまだ低い、低すぎます。」

「守備の意識…」

「まぁEx適正が無い分、攻撃に特化する事でこれまで勝ち抜いてきたと言うのはわかりますが…これまではそれで良くとも、これから先の相手に今のままでは立ち向かえません。これから君が挑むのは、世界でも有数の力の持ち主たちなんですから。」

「は、はい、砺波先生…」

 

 

 

一戦を終えた遊良は、砺波からの駄目出し…もとい、今のデュエルに対する批評を受けていた。

 

しかし、格上の相手とアレだけ激しいデュエルを行ったからか…たった一戦しかしていないと言うのに、遊良にはどこか疲労の色が見え隠れしているではないか。

 

…けれども、ソレも当然のこと。

 

言うまでもなく、遊良は全力で立ち向かっていた。あの場、あの時、あの瞬間に出せる全力を引き出し…あの状態で持てる力の全てを使い、遊良は全霊で砺波に立ち向かっていたのだ。

 

そうだと言うのに、砺波の方は余裕綽々。もっと簡単に遊良を蹴散らすことも出来ていた中で、修業のためにあえて遊良に耐えさせつつ…攻防の毎回で遊良を追い込み、考えさせ、驚かせてきていたのだから、そんな濃い一戦を終えて遊良も疲れていないはずがないのだろう。

 

…そんな今の遊良からすれば、最後に『褒められた』事すらも緊張を乱す砺波の策だったのではないかと疑ってしまっている様子。

 

そう、いくら褒められた時は嬉しかったとは言え。デュエル後に、これだけ駄目出しをされ続けてしまっては…その疲れた頭と心が、せっかくの賞賛の言葉も素直に受け取れていないはずで…

 

…とは言え、そんな教え子の表情から砺波もソレを感じ取ったのだろうか。

 

批評の後に、砺波は再び疲労困憊の様子の教え子へと向かって…

 

 

 

「…ですが君の攻撃能力を褒めたのは本心ですよ?『堕天の王』に『逆鱗』…『運命の英雄』に『海の星』、そして『獣の王』。【邪神】に消された『バルバロスUr』はさておき…今回は負荷を与えたのでアレでしたが、これだけの切り札を場面によって連続で使い、絶えず全力で攻めてくる今の君の攻撃を耐え切れる者なんて…世界には、そう何人もいないことでしょう。」

「…え?」

「誇りなさい。それだけ、今の君の力は『上』を狙えるモノとなっていると言うことです。」

「あ、ありがとう…ございます…」

 

 

 

デュエルの最中と同じく、混じり気のない純粋なる賛辞が砺波の口から語られる。それは紛れもなく、心から信頼できる師からの言葉となりて遊良の心へと伝わるのか。

 

果たして…批評から一転、世辞などでは断じてない師からの褒め言葉を貰った遊良はその心の内に一体何を感じるのだろう。

 

一時代を築いたあの伝説のシンクロ王者【白鯨】をして、今の天城 遊良の攻撃能力はプロ相手でも引けを取らないというお墨付きを貰ったのだ。それはこれまで他人に認められてこなかった遊良からすれば、痛いほど心に染み入る言葉であったに違いなく…

 

 

 

「砺波先生…そういえば、あの【サンダー・ボルト】は何だったんですか?」

 

 

 

けれども、砺波のその言葉にただ舞い上がるわけにも遊良はいかず。

 

飛びあがりたい気持ちを抑えながらも、折角の砺波の貴重な時間を使って修業を行っている事を忘れていない遊良が、先のデュエルにて疑問に思った事を砺波へと伝えるのか。

 

…それは先ほどのデュエルにて、唐突に砺波が使った【サンダー・ボルト】という魔法カードについて。

 

古代魔法に分類されるソレは、古来から複製不可のカードに指定されている為に、現代において現存するカードは極めて少ないのだ。まぁ、シンクロ王者【白鯨】と呼ばれていた砺波が希少なカードを持っている事はありえる事なのだとしても…

 

それでも、現役時代から水属性や海といったイメージを持つカードを使用することに定評のあった砺波 浜臣が。そう、過去の映像でも、修業の時でも、砺波がこの【サンダー・ボルト】という雷のカードを使用していた記憶は遊良にはないために、その砺波らしくないカードをいきなり使ってきたことをどうしても疑問に思ってしまうのだろう。

 

…そして、教え子からそんな疑問を投げかけられて。

 

答えるべく、砺波は徐にその口を開き始めた。

 

 

 

「…君は、プロの中での【サンダー・ボルト】の使用率を知っていますか?」

「いえ…」

「複製不可カードの為、現存するカードは世界中でも100から200枚程でしょう。現に私も、使うかどうかは別として1枚持っていましたが、逆に言えば私でさえもこの1枚しか持っていないのです。ですが…プロには、このカードをデッキにフル投入し、ソレ以外にも【ライトニング・ストーム】や【ライトニング・ボルテックス】と言った雷撃の力を惜しげもなく使ってくるプロがいます。」

「…世界ランク2位、『雷獣』の鳴神 久遠プロ…」

「そうです。普段から中々見ることの少ないカードと言うのは、使われた時にそれだけ対応が遅れがちになりますからね。まぁ今日の君を見る限り、対応策もありそうなので一先ずは安心しましたが。」

「じゃあ、アレも修業の一環だったって事…ですよね。」

「勿論です。」

 

 

 

砺波の口から語られるのは、今回のデュエルの真意について。

 

そう、先のデュエルの内容も、実戦を想定した修業であったのだろう。遊良の全力をいなしながらも、本番も想定して日常ではあまり目にすることのない希少なカードに対する教え子の咄嗟の対応を見極めていたと言う…

 

それは誰にでも出来る事ではない、決闘界の頂点を見てきた砺波だからこそ与えられる教え子へのこれ以上ない指導でもあるのか。

 

…確かに同じ古代魔法に数えられる中でも、汎用化に成功している【死者蘇生】と違って。【サンダー・ボルト】や【ブラック・ホール】と言った、シンプルが故に強力すぎる力を持ったカードと言うのはそれだけ世に出回っている絶対数があまりにも少ないモノと言えるだろう。

 

下手をすれば、こういったカードを一度も目にする事無く人生を終える者だっているはず。

 

ソレは古代魔法といった括りのカード群だけではない。この世の中には、『貴族』や『王族』に献上されるためだけに作られたような、一般庶民には決して降りてこないような超がつくレベルの希少なカードだってあるのだから…それほどまでに、強力が故に希少性のあるカードと言うのは特に超巨大決闘者育成機関『決闘世界』によって、流通が厳しく管理・制限されていて。

 

…そして、たった今砺波が言った通り。

 

そうした強力ゆえに希少なカードと言うのは、それだけ相対する機会が少ないと言う事。

 

つまりは、そう言ったカードを不意に使われた時こそがデュエリストの本領が試されると言う事であって―

 

 

 

 

 

「あれ…でも…」

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「今回、『雷獣』は出場しないんじゃ…」

「…」

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

 

 

 

 

「では今日の修業はここまで。レポートは10倍です。」

「じゅっ!?」

「提出は明日の正午です。では私はこれで失礼させていただきますよ。何しろ忙しい身ですからね。それでは。」

「あ、ちょ、砺波先生!明日までって冗談ですよね!?先生!先生!?」

 

 

 

ふと、遊良がそんなコトを思い出したその直後に。

 

一体何を思ったのだろう、弁明するわけでも、何か追加で遊良に伝えるわけでもなく…

 

あまりに理不尽な課題のみを己の教え子へと押し付け。砺波は、そそくさと…

 

その場から、去っていったのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

―帰宅後。

 

 

 

「…で、レポートが終わんないってわけ?」

「いや、だって10倍だぞ10倍…1戦しかしてないのに…しかも明日までって…」

 

 

 

修業を終え、自宅へと帰った遊良は…

 

夕食時だと言うのにも関わらず、砺波から言い渡された理不尽とも思える量のレポートを纏めながら、食事も取らずに必死にぺンを走らせていた。

 

 

 

「でも珍しいよねー。理事長先生がシンクロしないで通常モンスター使ってくるなんて。」

「【決島】の時におじ…えっと、『逆鱗』とデュエルした一度だけしか使ってないみたいだし、俺も完全に予想外だった…あ、デュエル中に使われたから【サンダー・ボルト】についても纏めなきゃ…鳴神プロの映像あったかな…」

「あ、鳴神ってウチのお母さんの旧姓だ。」

「…そうなのか?」

「うん。でもその『雷獣』って人、別に私の親戚ってわけじゃないよ?親戚の集りでも見たことないし、鳴神さんって結構沢山いるっぽいし。知らないけど。」

「ふーん。…あ、そう言えば【魚群探知機】も『リバイアサン』も【大要塞クジラ】も【海】に関連するカードか。『海』になるフィールド魔法は…」

「【デス・クラーケン】もだね。あと『海』になるの、フィールド魔法だけじゃないよ?」

「そうだ…それも調べないと…」

 

 

 

そんな遊良の隣には、既に夕食を食べ終えたルキが…食後のコーヒーを飲みながら、必死になって課題を進めている遊良を眺めつつ、時折手助けしつつホッと一息ついていて。

 

…しかし、流石の遊良をもってしても通常の10倍のレポートと言うのは些か厳しすぎる課題なのだろう。

 

何しろ、提出が明日の正午まで。いくら今日から授業免除の特別カリキュラムとなったとは言え、明日も朝から『七草』の特別講師たちとの修業が控えているそうなのだから、これなら通常の授業を受けていた方が楽だと思える程のプレッシャーが襲い掛かっているといっても過言ではないはずで…

 

 

 

「でもビックリだよねー。遊良がチャンピオンズ・リーグに出るなんてさ。」

「あぁ、俺も驚いた。砺波先生の言い方だと、結構前から話進めてたみたいだけど…あと、俺を『チャンピオンズ・リーグ』に推薦してくれたのは砺波先生だけじゃないんだってさ。【決島】ん時と同じでサウス校の獅子原先生にウエスト校の李理事長…あと…『逆鱗』も。」

「そりゃそうでしょ。理事長先生1人だけじゃ許可貰えるわけないと思うし。でもよかったじゃん、ウエスト校の理事長先生はよく知らないけどさ、獅子原先生だけじゃなくてお爺ちゃんも一緒に推薦してくれて。」

「…お爺ちゃんって…」

「お爺ちゃんでしょ?遊良の。」

「…そうだけど。でも、そんな前から打診してるんだったら、出る出ないに関わらずもっと早めに知りたかった。いきなりすぎてまだ信じられないしさ。」

『…なるほどな。』

 

 

 

すると…

 

遊良のデュエルディスクの向こうから、咀嚼音を追えたらしき一息が聞こえたと思えたと同時に。

 

この家には居ない、遠いデュエリアの地にてプロの任命式に出席している男の声が…遊良のデュエルディスクから、静かに聞こえてきた。

 

 

 

『だから綿貫のジジイ、プロテストの時に遊良が『それ所じゃなくなる』などと…』

「プロテスト?………あぁ、お前が参加させてもらった奴か。」

「鷹矢が期末サボって行った奴だね。」

『うむ。…む?おいルキ、サボったとは何だサボったとは。俺はテストを受けられなくて残念だったと言ったはずだぞ?』

「はいはい。」

 

 

 

それは任命式を終え、明日の帰宅を前に『暇だ』というその理由だけで電話をかけてきた紛れも無い鷹矢の声。

 

デュエルディスク越しに、テレビ電話にて姿を写し。まるで『ここ』にいるかのごとく。本格的に始まるプロの日々の前に、遠い海の向こうのデュエリアの地のホテルにてルームサービスで夕食を食らいつつ、遊良とルキと日常の雰囲気にて会話を続ける。

 

 

 

『ふん、しかし解せんな。そして気に食わん。何故チャンピオンズ・リーグに出るのが俺ではなく遊良なのだ。』

「っていうかさ、そもそもまだ世界ランク『圏外』じゃん鷹矢。どうやってもチャンピオンズ・リーグに出れるわけないじゃん、もう。」

『そんな事は関係ない。遊良が出れるのに俺が出れん。俺はソレが納得いかんのだ。』

「何がだよ。俺の出場に何か文句あんのか?」

『逆に無いと思うのか?百歩譲って【白鯨】に『烈火』に『逆鱗』、あとウエスト校の理事長がお前を推薦したのは別に良い。だがなぜ遊良だけなのだ?戦績だけで言えば、俺も【決闘祭】の準優勝と【決島】の優勝でお前とイーブンのはずだろう?』

 

 

 

そんな鷹矢は、電話越しだと言うのに明らかな不服の声を漏らしつつ…

 

費用は全て超巨大決闘者育成機関【決闘世界】持ちだということを良い事にルームサービスにて特上のステーキを幾つも幾つも頬張りながら。既に決まっている遊良のチャンピオンズ・リーグへの出場へと文句を垂れ流し、まるでストレス発散なのだと言わんばかりにこれ見よがしに更にステーキを食い続けていて。

 

…とは言え、特例とは言えあくまでもプロの新人の一人でしかない鷹矢が今ここで文句を垂れ流したところで、遊良のチャンピオンズ・リーグ出場が覆るわけでも断じてない。

 

何しろ、遊良の出場は【白鯨】と謳われたイースト校理事長の砺波 浜臣に加え…デュエリア校学長たる『逆鱗』の劉玄斎、『烈火』と呼ばれしサウス校理事長の獅子原 トウコ、そして『神のペン』の称号を持つウエスト校理事長の李 木蓮からの推薦という、決闘界において伝説となっているビッグネームがこぞって推薦の手を上げたからなのだ。

 

それ故、元とは言え【王者】による推薦と、【王者】と『同格』の地位にいた男と…【王者】たちすら頭が上がらない決闘界の女傑と、そしてデザイナー業界に多大なる影響力を持つ者が賛成の意を示し、【決闘世界】が出場を決めたことは例え貴族連の要望であっても覆る事はない。

 

しかし、ソレを知ってか知らずか…

 

いや、分かっているからこそ、どこまでも不服な態度を崩さず…

 

鷹矢は、まるで『ずるい』と言わんばかりに。更に、ステーキを一切れ飲み込みつつその口を開くのみ。

 

 

 

『それにチャンピオンズ・リーグには『奴』も出場するのだぞ?俺との決着がまだ着いていないと言うのに、遊良と先に戦うなど容認できるわけがない。』

「『奴』?あれ、ねぇ遊良、今年のチャンピオンズ・リーグって誰が出るんだっけ?」

「えっと…確か…」

 

 

 

すると、流石に鷹矢の拗ねた絡みがうっとおしくなってきたらしいルキが話題を逸らすかのように遊良へとそう問いかける。

 

そして、ルキにそう言われて…遊良は、思い出す。

 

先日正式に発表された、チャンピオンズ・リーグの出場選手を。

 

 

 

世界ランク1位…『孤高』の烏丸 千鳥

 

世界ランク3位…『妖精女王』、クィーン・アネモネ

 

世界ランク4位…『ニンジャマスター』、サイゾー・ハットリ

 

世界ランク5位…苛烈爆熱大爆発、『ダイナマイト』、ダイナマイト近藤

 

世界ランク7位…『道化師』マスカレード・クラウン、フール・ピエール・アルレッキーノ、通称ピエロ

 

世界ランク8位…『宝弓』の蜂須賀 ビィナ

 

世界ランク9位…妖艶、『淫靡』なるシャルア・エロティカ

 

世界ランク10位…『嵐紫魔』、紫魔 亜嵐

 

世界ランク12位…煌めく『ルビーアイ』、紅い悪魔のフレア・リリイ

 

世界ランク13位…『スラッシャー』、ジン・キリサキ

 

世界ランク15位…絶対防御、『鋼鉄』のデュエリスト、十文字 哲

 

 

 

新進気鋭から古豪まで、誰もがその名を世界に知られたプロのトップランカーたち。

 

その順位は常に激しく変動するとは言え、【王者】を除いた世界でも指折りのトップランカーたち全員がそのスタイルに見合った『異名』を持ち合わせ…

 

かつプロの世界という地獄にも似た『魔境』に身を投じ生き抜き続けている怪物たちが【王者】への挑戦権を賭けて出場するのが『チャンピオンズ・リーグ』という名の祭典…いや、饗宴…否、狂宴。

 

無論、他のトップランカー達の中には残念ながらスケジュールがどうしても合わず、出場見送りとなってしまった選手もいる事だろう。しかし、それもでなお自他共に認める強者達が織り成す狂宴に…

 

学生の身でありながら、遊良は立ち向かおうとしているのだ。

 

 

 

「あーわかった、十文字さんが出るから鷹矢は文句ばっかなんだね。」

『うむ。十文字の奴も出場すると言うのに、遊良だけ出場してこの俺が出れんのは納得がいかん。俺は早く奴と決着を着けねばならんのだぞ?』

「知るかよそんな事…」

「はいはい、鷹矢もプロになんなきゃもしかしたら出れたかもしれないのにねー。あー勿体なーい。調子乗るからだよねー。ざまーみろー。」

『く…一生の不覚だ…こんな事ならプロになるのではなかったぞ…』

「これだけ我儘きいてもらっておいて図々しい奴だな。」

『ぬぅ…全く、俺より先にチャンピオンズ・リーグに出場するなど一体どういうつもりなのだ、遊良の癖に。』

「んだよその言い草は。大体、今回の事はお前が勝手にプロになったのもいけないんだろうが。見栄張って先にプロになりやがって、鷹矢の癖に。」

『なんだと!?』

「なんだよ!」

「はいはい、電話越しでも喧嘩しちゃうなんてホント飽きないよねー、遊良も鷹矢も。」

 

 

 

しかし、その魔物達の饗宴に放り込まれる事にまだ実感を覚えないからか。

 

トップランカーたちに戦いを挑むという事実を、どこか現実のモノと受け取れていない様子にて…緊張感もなく、歳相応と言えば相応の、恒例のくだらない言い合いを始めてしまった遊良と鷹矢。

 

これでは先が思いやられる…プロのトップランカーと戦うと言うその意味を、遊良も鷹矢もまだ真の意味で理解してはいない。

 

それ故、出場の決まった今からこんな浮ついた様子、もっと言えば緊張感もなく過ごしている暇など遊良には決してないはずで…

 

今からこんな調子で過ごしていては、苛烈な環境に身を置き続けるプロのトップランカーたちに対峙など出来るはずがないのではないと言うのに。

 

 

…まぁ、とは言え。

 

 

昨年、そして一昨年までの、あまりに現実離れした戦いに身を投じていた遊良達からすれば。何の憂いもない現実の『祭典』に出場することは、喜びこそすれ余計な重荷を覚えることなど無いにも等しいのか。

 

…それは年齢に見合わない異常な落ち着き。他の誰にも誇れない、誇ってはいけない異質な場慣れ。

 

そう、学生の祭典である【決闘祭】や【決島】はさて置き…遊良だって、決闘市を襲った『異変』や裏決闘界の融合帝【紫影】が起こした【裏決島】、果てはもう一人のアマギ ユーラが繰り出した【邪神】との戦いを経験し生き残ってきた紛れも無い『強者』。

 

それに加え、遊良は約10年前に『Ex適正』が無いと宣告され日常が地獄と化してもなお今まで生き抜き…そしてここまでの軌跡を生き抜き続けてきた、誰が何と言おうと紛れも無い『生存者』。

 

その地獄の日々は言うに及ばず。きっと、プロのトップランカーもこれほど壮絶な経験をした者などそうは居まい。

 

それ故、高揚はしても重圧に押し潰されてはいない一種の『日常』のような雰囲気にて。この場に鷹矢が居ないとはいえ、ある種『当たり前』の言い合いを行う遊良と鷹矢はあくまでもいつも通りで変わりなく。

 

 

 

「緊張感ないんだから、もう。」

 

 

 

…そんな、くだらない事でまた喧嘩を始めた男どもを他所に。

 

 

食後のコーヒーで、再びホッと一息つくルキの目は…

 

 

成長しているようで変わらない、幼馴染二人を大人びた視線で眺めているのだった―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修業が、始まる―

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 










次回、遊戯王Wings
ep117「閑話-天才のある一日、その2」



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