遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
「初めまして。雪霜 スノウと申しますわ。天宮寺さん、お噂はかねがね。」
「…」
…
それは遥か過去から多くのプロデュエリストを排出してきた名門、『雪霜家』の令嬢と言うだけではなく…
『薄氷の麗人』の異名よろしく、母親譲りのその見目麗しき容姿で世界的モデルとしても活躍している、デュエル以外でも世界的な知名度を誇る自他共に認める令嬢でもある。
そう、現れたのは凍れる微笑み、水晶のように透き通った雰囲気。初雪のような佇まいと共に、それ以上に美麗なる誰の目にも止まるその整った容姿と姿勢が成せる圧倒的なるプロポーションを自他共に見せつけながら…
ホワイトアウトよりもなお白い、タイトなワンピースにその身を包み。スレンダーな体躯に付随している、その圧倒的な存在感を放つ女性の武器はまさに世の中の人々の理想の女性像そのものとも言えるだろうか。
寒冷地にて流れる滝のように、美しくも真っ直ぐに伸びたその長い髪は彼女の氷のような美しさをより一層彩っている。まさに立てばカトレア、座ればビオラ、歩く姿はローズマリーとも称されるその美しき姿は…およそ他の追随を許さぬほどの注目を、その一身に集めている事は言うに及ばず。
そんな、歴戦のデュエリストに数えられる現世界ランク第3位、『妖精女王』の名を持つクィーン・アネモネこと『雪霜 アネモネ』氏を母に持つこの雪霜 スノウもまた…
昨年の最終成績は過去最高の世界ランク『8位』、そして今シーズン終盤となる現在の成績も世界ランク『11位』という堂々たる実力者。
また、彼女は『ルビーアイ』紅い悪魔のフレア・リリイや、『鮫姫』と呼ばれる朴城 マリンと同じく…現シンクロ王者【白竜】新堂 琥珀と同期にてプロになった、いわゆる『【白竜】世代』とも呼ばれるまだ若い時分。
そうだというのに、その若き年代にて既に【白竜】にも届きうるトップランカーという高みに身を置いている彼女はまさしく…紛れも無い、トッププロの一人であると言えるに違いないのだ。
無論、現段階で世界ランク11位に位置する彼女も、もうすぐ選手の選考が終了する『チャンピオンズ・リーグ』への出場もほぼ確実なモノとなっている。それ故、史上初となるクィーン・アネモネとの親子での『チャンピオンズ・リーグ』同時出場に、世間も注目しているというのは最早言うまでも無い事とも言えるだろう。
そんな自他共に認める『トッププロ』の一人が何の因果か、こうしてプロテストの会場にて受験生と対峙しているというのは一体どうした了見か。
そうした、例年のプロテストでは絶対に見られないこの光景があまりにも不自然なモノとして、例年以上の台数のカメラから世界へと向けてTV中継されており…
「フッ…綿貫のジジイめ、やってくれるではないか。この女、有象無象の試験官どもとはレベルが違う…まさかこんなサプライズを用意してくれていたとはな。」
「あらまぁ…お噂どおり、少々教育が足りていらっしゃらないようですわね。綿貫さんをジジイ呼ばわりはともかく…いくら【黒翼】のお孫様だとは言え、仮にも先輩に当たるプロの皆様を有象無象呼ばわりだなんて。うふふっ、そんな事では、貴方の偉大なるお爺様の名に泥を塗るだけではなくて?」
「ふん、ウチのジジイの事などどうでもいい!それより貴様のようなトッププロが出てくるとは嬉しい誤算、これでこそ期末をサボってわざわざ来た甲斐があったと言うモノだ!貴様ほどの奴ならば、相手にとって不足はない!」
「あら…」
それ故、鷹矢もまたこの場に用意されたこの光景の異常さにはすぐに理解をした様子。
そう、目の前の女性デュエリスト…世界ランク11位だという雪霜 スノウの、その纏う雰囲気が周囲のデュエリスト達とは根本からして別物だと言う事を、世界初の高校生プロとなる天宮寺 鷹矢は誰よりも早く察知してしまった。
…だからこそ、だろう。
先ほどまでの、どこか気の抜けていた、消化試合に向かうかのような抜いた雰囲気から一転。
お互いに既にデュエルへの立ち位置に付いている事もあり、デュエルディスクを構え始めた鷹矢はすぐさまその気持ちを最大限の警戒モードへと引き上げつつ…
同じくデュエルディスクを構え始めた、目の前に用意された極上の相手に対し…その戦意を、沸々と燃やし始めるのみ。
そして…
「…全く、無礼にも程がありますわ。…まぁいいでしょう、それでは始めます。貴方に、プロの厳しさを教えてあげなさいと言われていますので…手加減はしませんわ。どうせ、貴方ももうすぐ『こちら側』に来るのですから。」
「うむ!手加減などいらん、それよりトッププロの実力とやらを、この目でとくと見せてもらうぞ!」
大勢のカメラに写されている事も気に留めず。中継の前で、前線に生きる本物のトッププロと…
来年度から、世界初の高校生プロという鳴り物入りでプロ入りする恐い物知らずの高校生が今向かい合い―
―デュエル!!
それは、始まる。
先攻は受験者…天宮寺 鷹矢。
「俺のターン!【ブリキンギョ】を召喚!その効果で【ゴールド・ガジェット】を特殊召喚し、ゴールドの効果で【シルバー・ガジェット】を!シルバーの効果で【レッド・ガジェット】を特殊召喚する!来い、ガジェット達!」
―!!!!
【ブリキンギョ】レベル4
ATK/ 800 DEF/2000
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【シルバー・ガジェット】レベル4
ATK/1500 DEF/1000
【レッド・ガジェット】レベル4
ATK/1300 DEF/1500
デュエルが始まってすぐ…
ブリキ仕立ての金魚から始まる、連鎖の効果でお得意のガジェットモンスター達を含め実に4体ものモンスターを一挙に場に揃えたイースト校2年、天宮寺 鷹矢。
…それはあまりに不変なる、鷹矢のいつもの迅速なる展開。
そう、誰が相手でも慄かない、彼の立ち振る舞いをそのままに。相手がどのようなデュエリストなのかまだ分からなくとも、手札のほとんどを使うことすら厭わずに…
まるでそれが生き様なのだと言わんばかりに、怒涛の如き激しさを伴いその勢いを増しながら。まだ始まったばかりだというのにも関わらず、鷹矢のデュエルの始まりとなる歯車達が目の前の『薄氷の麗人』へと向かって戦意を燃やす。
「そしてレッドの効果で、デッキから【イエロー・ガジェット】を手札に加える!」
「あらまぁ…噂では聞いていましたけれど、なんとまぁ慌しい…小さな子どものように落ち着きのないデュエルですこと。」
「落ち着きなど知ったことか!俺はゴールドとシルバー、2体のガジェットでオーバーレイ!エクシーズ召喚、来い、ランク4!【ギアギガントX】!更に【ブリキンギョ】と【レッド・ガジェット】でもオーバーレイ!ランク4!【ギアギガントX】!」
―!!
【ギアギガントX】ランク4
ATK/2300 DEF/1500
【ギアギガントX】ランク4
ATK/2300 DEF/1500
そうして、続けざまに。
鷹矢の場へと現れたるは、鷹矢のデュエルの起点を飾る、鋼鉄なりし機械兵。
―唸る豪腕、轟く体躯
いつでも、どんな時も、鷹矢のデュエルはここから始まるのだ。普通、並みの受験者ならば相手がプロデュエリストである事に対し、舞い上がるか慄くかして、いつも通りの実力を発揮できなくなるモノだと言うのに…
しかも、鷹矢の相手は並のプロでは断じてない。世界的に有名なトッププロ、それも誰しもが知る『薄氷の麗人』が相手であるのだから、そんなデュエリストが相手となれば誰であろうと多少なりとも気後れを感じてしまうのは普通のはず。
…けれども、天宮寺 鷹矢は慄かない。
そう、初手の展開に差異はあれど、それでも慣れ親しんだかのように行われる鷹矢のこのいつものデュエルの流れは…まさしく天宮寺 鷹矢の駆る『ガジェット』デッキにおいては、最早定番の初手とも言える安定した定石とも言えるに違いない。
例え誰が相手であろうとも、何時如何なる時も崩れる事のない鷹矢のこの序盤の動き。それはまさに黄金パターンとも呼べるであろう、どこまでも安定した初手と呼べる代物にまで仕上がっていると言っても過言ではなく…
…何しろ、鷹矢は分かっている。相手が誰であろうとも。『ある種の例外』を除いてその場その場の行き当たりばったりの展開しか出来ないようなデッキでは…一定のラインから、その『上』へは決して上ってはいけない、と言う事を。
…問われるのは、『再現性』と『安定性』。
多少の差異はあれど、どんなデュエルでも序盤に安定した動きを見せられる展開を持っているか。何時如何なる時も、最初から再現性のある動きを継続して出来るかどうか。
特定のカテゴリーに属したデッキを扱うのならば、ソレら『安定性』と『再現性』を常に維持できるかどうかがそのままデュエリストの力量に直結していると言ってもいい程に…
…そう、それ故、どこまでも不変に。
そしてあくまでも普通に、【白鯨】からの命令でプロも参加する各地の大会に出ずっぱりだった経験が鷹矢にプロ相手への『慣れ』という名の落ち着きを与えているかの如き安定性を齎しながら。
これまで幾度も共に戦場を駆けてきたその駆動音が、未だ高校生であるはずの鷹矢にそこはかとない歴戦を纏わせているのはきっと気のせいなどでは断じてないはずで―
「【ギアギガントX】2体の効果発動!オーバーレイユニットを1つずつ使い、デッキから2体目のゴールドとシルバーを手札に加える!そして【エクシーズ・ギフト】を発動!【ギアギガントX】2体のオーバーレイユニットを1つずつ使い、デッキから2枚ドローする!【アイアンドロー】も発動!場の機械族が2体のみのため更に2枚ドロー!…うむ!俺はカードを2枚伏せターンエンドだ!」
鷹矢 LP:4000
手札:5→4枚
場:【ギアギガントX】
【ギアギガントX】
伏せ:2枚
そうして…
トッププロである『薄氷の麗人』、雪霜 スノウに最大限の警戒を見せながらも。
それでも、変に崩れることなく自分のデュエルの展開を貫いた鷹矢が今、そのターンを終え―
「
「む?」
「私はフィールド魔法、【六花来々】を発動し…そのまま、貴方の【ギアギガントX】1体をリリースいたします!」
「何!?」
突然…
ターンが移り変わってすぐに、あるカードの効果で唐突に『その宣言』を唱えた『薄氷の麗人』、雪霜 スノウ。
それは普通であればありえない、何もない所から鷹矢のモンスターをリリースするというまさかの宣言。
「俺のモンスターをリリースだと!?まさか『壊獣』か!?」
…だからこそ、だろう。
その突然の、相手モンスターの『リリース』という宣言を聞いて…鷹矢が、突発的に『壊獣』を連想してしまったのは、偏に彼の記憶に同じような宣言にて簡単にモンスターを葬られたという苦い経験があるが故なのか。
そう…鷹矢が、忘れられるわけがない。
布陣を整え、迎え撃つ気満々でターンを渡してソレを簡単に突破されたという…夏休みに修業していた時期に戦った、『あの』、苦いデュエルの記憶を。
―『この私を相手に、何を思ってそれだけでターンを終えたのかは知らないが!その程度で牽制をしたつもりならば随分と甘い!君の場の、『泥睡魔獣バグースカ』をリリース!』
―『天宮寺 鷹矢、君にもう一度だけチャンスをあげよう。自分から喧嘩を売っておいて、この程度で終わることなど君もしたくはあるまい?』
―『せめて少しは抵抗して私の退屈を紛らわせてくれ!君の場の、【ダーク・リベリオン】をリリース!』
…忘れられるわけがない。忘れられるはずがない。
それは夏休みに邂逅し戦った漆黒の『化物』、釈迦堂 ランとのデュエルにて味わった…何もかもが超えられるという、鷹矢にとっての苦々しい記憶。
その時の、どんなモンスターを出しても『リリース』されるという経験が、この状況にて即座に鷹矢に『壊獣』という選択肢を浮かび上がらせたのだろう。それ故、突如としてリリースされていく鋼鉄の機械兵を見て…
鷹矢は、身構えるような素振りを見せ始め…
しかし…
「あら…あんな美しくない獣と一緒にしないでくださるかしら。私は手札の【六花精スノードロップ】の効果を発動!手札から【六花精スノードロップ】と【六花精ヘレボラス】を特殊召喚!」
―!!
【六花精スノードロップ】レベル8
ATK/1200 DEF/2600
【六花精ヘレボラス】レベル8
ATK/2600 DEF/1200
「む…『六花』…だと?」
鷹矢の苦い経験に反して。
鋼鉄の機兵をリリースしながら雪霜 スノウが呼び出したソレは、あの忌々しい『壊獣』などとは到底違った…粉雪のような粒子のエフェクトと共に現れた、2体の美しき花の精であった。
『六花』…
それは雪霜 スノウというトッププロが好んで扱っていることでもよく知られている、植物族をベースにしたエクシーズモンスター達のデッキである。
2輪で1対ともなるその花の妖精達は、雪の中でも揺れ咲く花の如き可憐さと、そして冬の寒さの中でもその美しさを損なわぬ確かなる強さを秘めているとされており…
そう、雪霜 スノウの薄氷的な美しさと相まって、彼女の駆る『六花』というカードは世界的にもかなりの知名度を誇っている。そんな、美しき二輪の花の精たちを即座に呼び出した雪霜 スノウが…
天才と呼ばれ持て囃されている高校生へと向かって、更に動き始める。
「さて…では参りましょう!フィールド魔法【六花来々】の効果発動!場に『六花』が存在するため、私はデッキから【六花絢爛】をセットいたします!そして手札より【六花のしらひめ】を自身の効果で特殊召喚!そして今セットした【六花絢爛】も発動!しらひめをリリースし、デッキから【六花精プリム】と【六花精シクラン】を手札に加えさせていただきますわ!そして今手札に加えたプリムのモンスター効果!しらひめがリリースされた為、プリムを自身の効果で特初召喚し…そのままシクランも通常召喚ですわ!」
「ッ…慌しいのはどっちだ!この展開力、俺とそう変わらんではないか!」
「あら、心外ですこと。貴方のような、幼子の騒がしいデュエルと一緒にしないで頂きたいですわ。流れるように華やかに、優雅に、華麗に、美しく!それが私のプロとしての信条なのですから!私はシクランとプリムでオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク4!【六花聖ストレナエ】!」
―!
【六花聖ストレナエ】ランク4
ATK/2000 DEF/2000
現れたのは可憐なる一片、ひらひらと舞う花の精霊。
鷹矢と同じく、エクシーズのEx適正を持った雪霜 スノウの宣言によって粉雪と共に現れて…
そのまま、スノウに祝福を齎すようにしながら楽しそうに宙を舞い。戦意を駄々漏れにしている少年へと、クスクスと笑みを零していて。
「まだですわ!ストレナエの効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、墓地から【六花絢爛】を手札に戻させていただきましょう。そして永続魔法、【六花の風花】を発動し…レベル8のスノードロップとヘレボラスでオーバーレイ!」
そして、止まらない―
現れては消え、消えては現れる美しき花の精たちが…互いにその手を取り合って、『薄氷の麗人』の宣言によって仲睦まじく舞い続ける。
それはまさに、秘園に咲いた百合の花。いや、寒冷地にて咲き誇る強さを秘めた、互いに咲き合う二輪の花とも例えられるだろう。
そして、そのまま大地に現れた銀河のエフェクトに向かって…
再び2輪の花の精たちが、その身を1つへと重ねその身を投じ始め…
「光り煌く雪のしずくよ!秘めたる想いをその胸に、静寂の中に咲き誇りなさい!」
雪霜 スノウの場に、現れしは―
「エクシーズ召喚!現れなさい、ランク8!【六花聖ティアドロップ】!」
―!
降臨せしは涙のしずく。美しきブーケを携えし、凍れる白き麗しの姫君。
…氷の結晶で出来た傘を広げ、微笑みながらこの場へと降り立ち。
主であるスノウによく似た微笑みと、まるで全てを慈しむかのような慈愛の眼差しを対戦相手へと向けながら。蒸気を纏う2体の機械兵の前で、ひらひらと軽やかに佇んでおり…
【六花聖ティアドロップ】ランク8
ATK/2800 DEF/2800
「ランク8…」
「うふふ…美しいと思いませんこと?では行きますわよ、【六花聖ティアドロップ】のモンスター効果!オーバーレイユニットを一つ使い、フィールドのモンスター1体をリリースいたします!」
「くっ…また俺のモンスターをリリースするつもりか!」
「あら、早合点する男は頂けませんわね。私がリリースするのは貴方のモンスターではなく私の場の【六花聖ストレナエ】です!」
「何?自分のモンスターをリリースするだと…」
「うふふっ、ご安心を。勿論、それだけでは終わらせません!リリースされたストレナエの効果を発動!Exデッキから【六花聖カンザシ】を特殊召喚し、ストレナエをオーバーレイユニットにいたします!」
「ッ…ランク4がランク6に変化した…」
「まだですわ!モンスターがリリースされたため、ティアドロップの攻撃力はターン終了時まで200ポイントアップいたします!そして『六花』がリリースされたため、永続魔法、【六花の風花】の効果も発動いたしましょう!貴方のモンスターをもう1体リリースいたします!さぁ、最後の【ギアギガントX】もリリースあそばせ?」
「ぬぅ…」
また、それだけでは終わらず。
次々と繰り出される展開の最中で、ついでのように鷹矢のモンスターを『リリース』という破壊ではない方法で除去しながら…トッププロである雪霜 スノウは、自分の花を咲かせ続けつつ鷹矢の場を壊滅的なまでに荒らしてみせたではないか。
『リリース』という除去を行えるカードは、この世界を探してもそう多くはない。それはつまり、『リリース』という破壊でも除外でもない強制除去はそれだけ希少なる効果でもあるということだし…そしてそれ以上に、『リリースされない』という耐性を持っているカードも、この世界にはそう多くはないと言う事もであるのだ。
無論、鷹矢の駆るモンスターがそんな耐性を備えているはずもなく…
いくら強固な耐性を備えていても、そんなものは花の精たちには通用しないのだと言わんばかりに。自分のモンスターが次々と勝手にリリースされていくその様は、心の弱い者ならば一種のトラウマすら植えつけられてしまいそうなほどに無慈悲なる、容赦のないプロの洗礼に違いない。
だからこそ、鷹矢も夏休みに釈迦堂 ランの駆る『壊獣』とのデュエルを経験していなければ。きっとこの無慈悲な光景に怒りを覚えていたに違いなく、だからこそ自分のモンスターが『リリース』されていくこの光景にも鷹矢がある種の落ち着きを見せられているのは、偏に鷹矢のこれまでの戦いの経験がプロにも引けを取らないと言う事でもあるのだろう。
それ故…
「ではバトルです!まずはティアドロップでダイレクト…」
「だがタダではやられん!罠発動、【一色即発】!手札からゴールドとイエロー、2体のガジェットを守備表示で特殊召喚!」
―!
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【イエロー・ガジェット】レベル4
ATK/1200 DEF/1200
そう、鷹矢もただではやられない。
相手は身震いすら覚えたトッププロ。そんな相手に、ただいつも通りの展開だけをしてターンを返すほど今の鷹矢には驕りはなく。
…相手ターンでも、一挙に展開することが出来る防御札。
様子を見るためだけの罠ではない。返しの守りを見据えての万能な札によって、鷹矢の場に一瞬の後に2体のモンスターが同時に現れて。
「そしてイエローの効果で、デッキからグリーンを手札に加える!」
「…でしょうね。史上初の高校生プロ、この程度で簡単にダメージを受けてくれるほど、素直で聞き分けの良いお子様だと思ってはいません。ではそのままティアドロップで【イエロー・ガジェット】へ攻撃!そしてカンザシで【ゴールド・ガジェット】へ攻撃いたします!」
「だが戦闘破壊されたゴールドの効果発動!デッキからシルバー・ガジェットを守備表示で特殊召喚!そしてシルバーの効果でグリーンも特殊召喚!レッドを手札に!」
「ではバトルフェイズを終了し、私は【強欲で貪欲な壷】を発動いたします。デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー。カードを1枚伏せてターンエンドですわ。」
雪霜 スノウ LP:4000
手札:6→2枚
場:【六花聖ティアドロップ】
【六花聖カンザシ】
魔法・罠:【六花の風花】、伏せ1枚
フィールド:【六花来々】
そうして…
鷹矢の抵抗に苛立ちを覚えるわけでもなく、驚きも感じていないことからこの程度の抵抗は最初から織り込み済みだった様子にてそのターンを終えたトッププロ、雪霜 スノウ。
…その落ち着き払った振る舞いは、まさに寒風に揺られてもなお美しさを損なわない根強い冬の花の如し。
淡々と…しかし悠々と。
最後まで美しい所作のまま、優雅にそのターンを終えるその佇まいからは終始余裕が感じ取れるではないか。
…これが、トッププロの立っている立ち位置なのか。
それは血気盛んな、恐い物知らずの若造に最前線の力を見せ付けるかのごとく…
どこまでも、精神的にも優位に立ち続けているかのようであり…
「俺のターン、ドロー!魔法カード、【貪欲な壷】発動!【ギアギガントX】2体、ゴールド、シルバー、レッド・ガジェットを戻して2枚ドロー!そして速攻魔法、【ツインツイスター】発動だ!手札を1枚捨て【六花来々】と伏せカードを破壊する!」
「でしたら破壊される前に罠カード、【六花深々】を発動いたします。【六花来々】の効果で【シルバー・ガジェット】をリリースし、墓地からスノードロップとプリムを守備表示で特殊召喚!」
【六花精スノードロップ】レベル8
ATK/1200 DEF/2600
【六花精プリム】レベル4
ATK/ 800 DEF/1800
「そしてモンスターがリリースされたため、ティアドロップの攻撃力が200ポイントアップいたします。」
「それがどうした!【六花来々】は破壊される!俺は【シルバー・ガジェット】を通常召喚し、その効果でレッドも特殊召喚しイエローを手札に!そのままシルバーとレッド、2体のガジェットでオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク4!【竜巻竜】!」
―!
【竜巻竜】ランク4
ATK/2100 DEF/2000
しかし、再びターンが移り変わってすぐさま。
一瞬で激しい応酬が繰り広げられたかと思うと、余裕すら見せるトッププロ相手に…鷹矢は暴風の化身たる一体の竜を呼び出した。
そう…
終始精神的余裕を見せる、自他共に認めるトッププロ相手に。一介の高校生が一歩も恐れることなく自らの力を証明するかのようにして立ち向かい続けているのだ。
それはこの場にいるスタッフも、受験者たちも、そして下位のプロ達もメディアの人間達も…更にはTVこの中継を見ている者たちの目にすらも、確かなる事実として映りこんでいるはず。
…相手は世界ランク11位のトッププロ、『薄氷の麗人』。そんな雲の上の存在に、一介の高校2年生である学生が真正面から慄く事なくぶつかり合い応酬している。
果たして…
世間を騒がせ続ける【黒翼】の孫に、いまだ懐疑的な意見を述べている者達はトッププロとの応酬を目の当たりにして一体何を思うのだろう。
そんな、自分の力を未だに疑問視している輩へと見せ付けるかのようにして…
鷹矢は、更にそのデュエルを加速し続けるのみ。
「トルネード…サイクロン内蔵のエクシーズモンスターですか。」
「ゆくぞ、【竜巻竜】の効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、【六花の風花】を破壊する!そして罠カード、【戦線復帰】発動だ!墓地から【ゴールド・ガジェット】を守備表示で特殊召喚し、その効果でイエローも特殊召喚!グリーンを手札に!」
「…本当、止まらない子ですこと。まるで生き急いでいるみたい。何をそんなに焦っているのかしら。」
「焦りもする!俺には時間がないのだ…命を賭けて強くなり続けるアイツの隣に立ち続けるために、俺も生き急いででも!何が何でも強くなり続けなければならんのだ!」
「…意味がわかりませんわ。」
「理解などされなくて良い!【強欲で貪欲な壷】を発動!デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー!そしてレベル4のゴールドとグリーン、2体のガジェットでオーバーレイ!」
天宮寺 鷹矢は、止まらない。
最前線で戦うトッププロを相手に、全く慄かずに立ち向かい続ける鷹矢の姿は本当に彼がまだ高校2年生であるのかと疑ってしまうほどに…
それほどまでに、この場に集まった同じ年代の受験生たちの目からしても、この天宮寺 鷹矢という男は規格外として映っているのではないだろうか。
…普通であれば、学生がトッププロと戦うなんてとても正気じゃいられない。
それこそ、どんな学生だってきっとこの場面に置かれれば誰だって緊張と動悸でとてもデュエルどこじゃないはず。
そうだと言うのに、鷹矢は勝負を諦めないどころか更にその意思を加速させながら。一体何を欲しているのか、まるで自らを追い込んでいるかの様に今高らかにその手を天へと掲げ―
「俺の力、俺だけの力、『No.』よ!今この時、この瞬間に…あの女をも超える力となれ!俺は2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」
…オーバーレイネットワークを、構築。
それはこの世界のエクシーズ召喚の為のモノではない、およそこの世界においては彼だけに許されたそのキーワード。
トッププロなんかに怯えている暇など無い。自分の道筋を邪魔する者達を、一人残らず黙らせるほどの圧倒的な『力』を鷹矢はただただひたすらに欲し…
求むは『力』。どれだけの逆境に置かれてもなお、ソレに抗うかのように強くなり続ける相方の様に。
望むは『
他者からの常識的な言葉などに、耳を傾けている暇など無いのだと言わんばかりの猛りを持ってして…今、鷹矢のモンスターが、銀河の渦で弾けて重なる。
『No.』…
それはまさしく、現時点ではイースト校の2年生、【黒翼】の孫である天宮寺 鷹矢しか持ち得ない彼だけに許された特別なカード。
呼び出されるカードは、世間の誰もが全く見た事も聞いた事もないような強力な効果を持ったエクシーズモンスター達ばかり。昨年度の【決闘祭】での『No.80』の創造に始まり、これまで色々な『数字』を持った彼だけのエクシーズモンスター…いや、モンスターエクシーズを、鷹矢は召喚し続けてきた。
…それはこれまでも、そしてこれからもそう。
だからこそ、天宮寺 鷹矢は疑わない。
自らにのみ許された特別なカード。特異な力と数字を持った『No.』こそ、強敵に立ち向かう為に自らの思いに応える自分だけの『力』。
自分自身が従えている、特別な『力』なのだ…と。
しかし…
「…『俺だけの力』…うふふ、本当にそうかしら。」
ぼそりと…
雪霜 スノウがそう呟いた声が、鷹矢に聞こえるはずもなく―
そして―
「来い、『No.103』!」
頼るように、ではない。求むように、でもない。
自分の我が侭を、無理やり押し付けるかのように。Exデッキにて眠りについている、白紙の『No.』に出番が来たのだと叩き起こすかのようにして宣言を行い始めた天宮寺 鷹矢。
…それはトッププロと言う恰好の強敵に対し、出し惜しみなどするつもりも無いのだという逸る轟き。
そのまま、何かに導かれるようにして。
今ここに、鷹矢は高らかにその宣言を天へと奮わせ―
「風花をも葬る薄氷の刃!驕り者よ、己の罪でその身を滅ぼせ!」
自分のやるべき事のために、ただひたすらに求める強さ。
鷹矢の叫びに応え、鷹矢の魂を映しだし、鷹矢の力を具現化し…
―弾ける銀河と共に、この場に現れるは…
「エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!【No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ】!」
―!
【No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ】ランク4
ATK/2400 DEF/1200
現れたのは妖しき凍てつき、儚げな凍気を纏う令嬢。
…それは過去に一度、鷹矢が釈迦堂 ランとの戦いにおいて紅蓮に対抗する為に呼び出したことのある既知なる姿の一体であり…
けれども、呼び出してみるまで何が出てくるか分からない、この『No.』というカードにおいては。その時の鷹矢の叫びに応じた存在が姿形を持つために、こうして一度呼び出したことのある『No.』が再び呼応して現れる事もままあるのだ。
そのあまりに透明感のある立ち振る舞いは、猛る鷹矢とは正反対なモノではあれど…
鷹矢の闘気に呼応して、その凍気を更に強大なモノへと変えていく。
「ッ、う、美しいですわ!こんな『No.』も居ましたの!?」
「む?隙を見せたな!そこを逃さん!【エクシーズ・ギフト】発動!【竜巻竜】と『No.103』のオーバーレイユニットを1つずつ使い2枚ドロー!そして『No.103』の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、攻撃力の変化しているティアドロップを破壊し1枚ドローする!」
また…
現れた『No.103』をみて、何やら感情に起伏を見せた『薄氷の麗人』、雪霜 スノウ。
そう、よほど『美』への拘りがあるのか、その美的センサーに反応した『No.103』に対し。見惚れるような目線と共に、彼女は思わず驚いた様な声を上げたのだ。
だからこそ、その一瞬の感情の起伏を、鷹矢は見逃さなかった。
即座に、かつ迅速に。
巡ってきた機会を逃さんとして、鷹矢は『No.103』へと命令を下し…
「氷の花をも凍てつかせろ、インフィニティ・ブリザー…」
しかし…
「あら、心外ですこと。隙なんてありません!墓地の【六花のしらひめ】のモンスター効果!しらひめをデッキに戻し、プリムをリリースし『No.103』の効果を無効にいたします!」
「何!?」
それでも、『薄氷の麗人』は簡単には崩れず。
『No.103』に見惚れてはいても、さすがはトッププロとして最低限の注意を怠ってはいない様子にて…いや、それとも鷹矢が行動する直前に発動した【エクシーズ・ギフト】のタイムラグにて反応できたのか、彼女の墓地より小さく白い花弁が舞い上がったかと思われたその刹那…
その動きに呼応して、小さき白い姫が微笑みと共に現れたかと思うと。凍てつく吹雪を放とうとした、『No.103』の前に立ち塞がり始めたではないか。
…そして、消えて行く小さな花弁の可憐なる精霊。
残された場には、吹雪を炸裂させられなかった『No.103』が静かに粛々と取り残されてしまっていて。
「ぬぅ…」
「うふふ、『No.103』…美しいカードですこと。気に入りましたわ。なのでティアドロップの攻撃力が200アップした後、そのままティアドロップの効果を発動いたしましょう。オーバーレイユニットを一つ使い『No.103』をリリースいたします。」
「ッ、またリリースか…」
「まだですわ。ティアドロップの攻撃力が更に200アップし、モンスターがリリースされたこの瞬間、私は【六花聖カンザシ】のモンスター効果を発動いたします!オーバーレイユニットを一つ使い、貴方の墓地からその美しい『No.103』を私の場に特殊召喚いたしましょう!」
「なんだと!?」
…また、それだけでは終わらず。
何と、たった今リリースされてしまった鷹矢の『No.103』が…
深緑の蔦を纏いながら、雪霜 スノウの場へと現れてしまって―
【No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ】ランク4
ATK/2400 DEF/1200
「この効果で特殊召喚したモンスターは植物族になります。美しいカードは、美しい私の場でのみ輝きを増すの。そうでしょう?」
「ぐっ…貴様、よく自分のことを美しいなどと自惚れられるものだな…」
「うふふっ、私は自覚ある美女ですの。この美しさは誤魔化せるものではありませんので…貴方もそう思いませんこと?いいえ、お思いあそばせ?」
「…」
屈辱…
モンスターを次々とリリースされるだけでは飽き足らず、あまつさえ自分だけの『力』である『No.』のカードすらも奪い去ってしまわれた鷹矢の心情はこれいかに。
いや、察せずともハッキリしている。そう、スノウの零す戯言はさておき、鷹矢の表情はあくまでもいつもの鉄仮面ではあるものの、しかし微かに眉間に力が入っているその様子と、そして苦虫を噛み潰したかのようなその小さき呻きが鷹矢の感情を表しているのだから。
…きっと、腸が煮えくり返るほどの怒りが沸きあがっているに違いない。
それが容易に想像できてしまうほどに、今の鷹矢の体には怒りによる瞬間的な熱さが漏れ出している。けれどもソレは、それだけ鷹矢が自分の生み出した力に誇りを…『自分だけの力』に、プライドを持っていると言うことでもあるのだろう。
だからこそ…
「さっきからわけのわからんことをゴチャゴチャと…だがソレは俺のカードだ!『No.』は返してもらうぞ!【モンスター・スロット】発動!レベル4のイエローを選択し、墓地の【ブリキンギョ】を除外し1枚ドロー!…うむ!俺がドローしたのはレベル4の【穿孔重機ドリルジャンボ】!そのままドリルジャンボを特殊召喚する!」
「あら、まだ動けましたの…またレベル4のモンスターが2体…」
「俺を舐め腐る貴様にもう容赦はせん!この俺の全力を持って…何がなんでも、貴様を叩く!レベル4のモンスター2体で、オーバーレイ!」
だからこそ、今こそ怒りの思うままに。
今声高らかに、鷹矢はその手を天へと勇ましく掲げ始めるのか。
偶発性の高い魔法を使用してもなお、それでも鷹矢の場に現れるはいつものようにレベル4のモンスター。それはまるで、レベル4のモンスターを揃える事など『どんな事』よりも簡単なのだと言わんばかりに…
そう、叫ばれしその宣言には、少しの迷いも淀みもなく。
今、エクシーズ名家、天宮寺一族…その筆頭である祖父、王者【黒翼】に倣うかのように。
鷹矢は、その手を天に掲げ―
「天音に羽ばたく黒翼よ!神威を貫く牙となれぇ!」
世界に轟くその口上。祖父より受け継ぎしそのカード。
レベル4を多用する、鷹矢のデュエルを飾るまさに『切り札』。
覇道を突き進む己のデュエルの、『砦』となるべく存在をここに呼び出すために…
スタジアムに木霊する鷹矢の叫びが、中継を通じて全世界へと響き渡るその時。ソレは果て無き頂の上から、『薄氷の麗人』の首を狙い今この場へと降り立つのか。
「エクシーズ召喚!来い、ランク4!」
【決闘祭】にて覚醒し、それから数々の戦いにてその牙を研ぎ続けた大いなる存在。
もう既に、天宮寺 鷹矢の象徴とも言える世界の頂点の一角…
今ここに、現れる―
「【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!」
―!
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4
ATK/2500 DEF/2000
天に羽ばたく雄雄しき翼と、神をも切り裂く鋭き牙がスタジアムにて輝いて。
その振る舞いは王の風格。全世界に知られた『王者』の名に相応しき咆哮にて、担い手として認めし天宮寺 鷹矢の場でもソレは荒々しくも吼えるのか。
正真正銘『歴戦』の牙竜。天に轟く黒き叫びを、今戦場へと轟かせ…
自他共に認めるトッププロ、世界ランク11位の『薄氷の麗人』を前にしても慄かず。ただただ得物の首を狙い、猛々しく羽ばたき始める。
「【黒翼】…実物をこの目で見るのは初めてですわ。…中々やりますわね、あそこから更に動いて【黒翼】を呼び出すとは。」
「容赦はせん!ゆくぞ、ダーク・リベリオンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、ディアドロップの攻撃力を半分にし…その数値分、ダーク・リベリオンの攻撃力をアップさせる!喰らい尽くせ、紫電吸雷!」
―!
【六花聖ティアドロップ】ランク8
ATK/3400→1700
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4
ATK/2500→4200
そして…
猛々しく吼える【黒翼】が、その黒き両翼を広げ紫電の網雷を迸らせるとき。
この場で最も攻撃力の高いスノウのエース…『六花聖ティアドロップ』がソレに捕まってしまい、緊縛と言うにも生易しいほどに縛り上げられ。無慈悲に、そして生々しく。その花弁が、儚く傷つけられていくではないか。
…そうして、迸る紫電によって成す術なく攻撃力が半減されていく涙のしずく。
それは例えソリッド・ヴィジョンの映像であったとしても、一見すればあまりにも見難い残酷な光景にも見えたことだろう。何しろ漆黒に染まりし牙の竜が、美麗なる雪の女王に対し決して弱くない雷撃を浴びせ続け縛り上げているのだから。
しかし、目の前の相手が決して手加減など出来る相手ではない事を、これまでの攻防にてよく理解した鷹矢はそんな残酷な光景にも全く動じる事も無く。
ただただ逸るかのように、続けて攻撃を命じるのみであり―
「ッ…攻撃力4200…」
「よし、バトルだ!【竜巻竜】で【六花聖ティアドロップ】に!そしてダーク・リベリオンで、『No.103』に攻撃!」
弾ける…
まずは暴風纏いし竜巻の竜が、攻撃力の半減した涙のしずくを容赦なく蹴散らし吹き飛ばす。
それは災害に巻き込まれた小さな花が、抵抗空しく空に飛ばされ圧力にてバラバラに千切られてしまう光景にも似ていたに違いなく…
けれども、それだけでは終わらず。
例えこのデュエルを見ている観客達が、先のディアドロップが破壊される光景に小さい悲鳴や怪訝な声を漏らしたとしても。
それでも、全く動じていない鷹矢は更に続けて己の切り札へと攻撃を命じるだけなのだから。
「腑抜けた『No.』を叩っ斬れ!斬魔黒刃、ニルヴァー…ストライィィィィィィィィクッ!」
―!
「くぅっ…」
雪霜 スノウ LP:4000→3600→1800
そうして…
奪われた『No.』諸共、怒りの刃にて強烈な攻撃を叩き込み。
自他共に認めるトッププロ、世界ランク11位の『薄氷の麗人』…雪霜 スノウに決してもなお、決して少なくないダメージを叩き出しながら。
「うむ!バトルフェイズを終了し、2枚目の【貪欲な壷】を発動。『No.103』、ゴールド、シルバー、グリーン、レッド・ガジェットを戻して2枚ドローする!」
「あら…『No.103』がExデッキに戻されてしまいましたわ。残念…」
「もう取られるわけにはいかんからな。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。」
いや、寧ろ鷹矢が大きな先制ダメージを与えた事に、受験生たちも観客達も、そしてスタッフ達もこのデュエルを見ている一般人達も、その誰もが驚きの声を上げている中で…
今、鷹矢は堂々とそのターンを終えるのだった。
鷹矢 LP:4000
手札:4→3枚
場:【竜巻竜】
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】
伏せ:1枚
「…私のターン、ドロー。私も【貪欲な壷】を発動いたします。ヘレボラス、シクラン、プリム、ストレナエ、そしてティアドロップをデッキに戻して2枚ドロー。さて…どうしたものかしら。」
すると、ターンが移り変わったと言うのに。
先ほどまでの余裕から一転、何やら考え込むようにしてその手を止めてしまった『薄氷の麗人』、雪霜 スノウ。
「止まらない後続に減らない手札…展開力も対応力も、とても高校生のレベルではありませんわね。確かに…お噂に違わないかと。新堂君ほどではないしにしろ、私が高校生だった頃より格段に強いですわ。本当、末恐ろしいこと…ですわね。」
「む?」
その漏れ出す言葉はプロの賛辞。それも最前線で戦っているトッププロが漏らした、およそ一介の高校生にはあまりも勿体無いであろう強者からの賛辞と賛美。
トッププロからの賛辞…もしソレを受けたのが鷹矢以外の高校生であったならば、そのリップサービスにまず間違いなく舞い上がってしまっていることだろう。
しかし、ソレを聞いてもなお鷹矢は怪訝そうな声を漏らすだけ。そう、目の前の美しい対戦相手の容姿に惑わされることもなく。『何を企んでいるのか』が、鷹矢には気になっている様子なのだから…
猫に小判か、豚に真珠か。それともトッププロであろうとも、ソレを全く光栄とも思っていない恐い物知らずが成せる強すぎる我が鷹矢をそうさせているのだろうか。
また、これまでの攻防にて、鷹矢が並の高校生などではないことを『薄氷の麗人』も強く理解したであろうからこそ…
彼女もまた、一体何を考えて言葉を漏らしているのだろうか。プロからの賛辞を全く喜んでもいない、常識知らずかつ常識外れの時期高校生プロに対し…
再び、先ほどよりも1トーン低い、力を込めている強者の声を発しながら。
そのまま、何か手順を確認するかのようにして…
「ですが、少々はしゃぎ過ぎでもあります。綿貫さんからも『灸を据えてやれ』と言われていますし…普通にデュエルするよりも…やはり、どこまでも折れない貴方に灸を据えるには、綿貫さんの言った通り『アレ』を使うしかないのかしら。」
「何を企んでいる…だが、例え何が来ようと関係な…」
「うふふ、果たしてそうかしら。」
「…」
何やら、『あえて』スノウはプロとして鷹矢へと『何か』を行おうとしているようであり―
「では…参りますわ!私は【テラ・フォーミング】を発動し、デッキから【六花来々】を手札に加えそのまま発動いたしますわ!更に魔法カード、【六花絢爛】を発動!」
「くっ、また俺のモンスターをリリースする気か!」
「うふふ、ご名答。私は【竜巻竜】をリリースし、デッキから【六花精プリム】と【六花精のしらひめ】を手札に!」
「ッ…ダーク・リベリオンではなく、竜巻竜をリリースするだと?」
「えぇ、まぁ。別に、どっちでもよかったのですけれど…うふふ、どうせなら、と思いまして。それでは続けて、【ローンファイア・ブロッサム】を召喚しその効果を発動!自身をリリースし、デッキから【イービル・ソーン】を特殊召喚いたします!」
「【イービル・ソーン】…それは確か遊良の奴が使っていた…」
「あら、ご存知でしたの。だったらその効果も当然知っていますわよね?【イービル・ソーン】の効果発動!自身をリリースすることで、デッキから【イービル・ソーン】2体を特殊召喚いたします!その後、貴方に300ポイントのダメージを!」
【イービル・ソーン】レベル1
ATK/ 100 DEF/ 300
【イービル・ソーン】レベル1
ATK/ 100 DEF/ 300
鷹矢 LP:4000→3700
そして燃える蕾から連続特殊召喚の後に現れるは、弾ける小さな黒き蕾。
【決島】の時に遊良も使用していたために、鷹矢も見慣れたそれが数個…雪霜 スノウの場に、満を持して現れる。
そして、弾け飛んできた種子が鷹矢へと小さく傷をつけたものの…
けれども、たった300のダメージ。その程度のダメージで怯むはずも無い鷹矢が、少々強きに言葉を返して。
「ふん、今更この程度のダメージなど痛くも痒くもな…」
「えぇ、ですがこれからですわ!モンスターがリリースされたため、プリムを自身の効果により守備表示で特殊召喚することができます!そして私は【六花精スノードロップ】の効果を発動!【イービル・ソーン】2体とプリムのレベルを、スノードロップと同じ8に変更いたしましょう!」
【イービル・ソーン】レベル1→8
ATK/ 100 DEF/ 300
【イービル・ソーン】レベル1→8
ATK/ 100 DEF/ 300
【六花精プリム】レベル4→8
ATK/ 800 DEF/1800
しかし、雪霜 スノウとてソレで止まるわけもなく。
先ほどの短い熟考にて思い浮かべた手順をなぞる様にして、スノウの場には次々と小さき花たちが現れ始めるのか。
…そうして揃い踏むのは、レベル8となった植物族モンスター達。
一瞬で場を埋めるほどの植物族達がスノウの場に勢揃いするその光景は、植物族という展開にも秀でている種族の恩恵でもあるのだろうが…それ以上に雪霜 スノウという、プロの最前線で戦うデュエリストの地力が高いことの証明でもあるはずであり…
「レベル8のモンスターが4体…」
…だからこそ、スノウの呼び出したモンスターを見て。
鷹矢が小さくそう漏らしたのも、当然と言えば当然と言えるはず。
何しろ、鷹矢もまたスノウと同じく『エクシーズ』のEx適正を持っているからこそのその勘。
同種から感じる展開の予測、同類だからこそ感じ取れる危機の察知。同じレベルのモンスターが揃ったその光景を一目見れば、これより彼女が行おうとしている展開が鷹矢にだって読めているのだろう。
…そして、ソレはスノウにだって分かっている。
目の前の高校生が、これから先の自分の展開を見据え構え直しているのと同時に…しかし先のターンにも似た展開を見せられたために、それに身構えてはいないのだ、と言う事を。
けれども…
「さて…では始めましょうか!コレを見れば、少なくとも貴方は平気ではいられないはず…私はレベル8となったイービル・ソーン2体で…オーバーレイ!」
それでもなお雪霜 スノウは、これより行おうとしている自分の行動に対し。確信にも似た自信を揺るがなきモノとしながら、更にその戦意を上げていくだけ。
それはまるで、この場にいる他の誰も知り得ないことを…彼女だけは全て知っているかのような意地悪な微笑みとなりて、どこまでもどこまでも鷹矢へと向かって悦を感じながら昂ぶるのか。
鷹矢が自分を恐れていないことすら意に介さず。寧ろ、驚くのはこれからなのだと言わんばかりに…
鷹矢に『何か』を与えんとして、雪霜 スノウは今高らかに―
そして―
「現れなさい!『No.23』!」
「なッ!?」
雪霜 スノウから放たれた言葉…
それは誰の耳にも信じられない、衝撃的な宣言であった―
…だってそうだろう。
何しろソレは、今までこの場にて彼女に対峙している時期高校生プロ、【黒翼】の孫である天才、天宮寺 鷹矢からのみ放たれる宣言のはず。
そうだと言うのに、まさかソレが鷹矢ではないデュエリストから放たれるだなんて。一体全体、誰が想像できたと言うのか。
…完全に予想の範囲外、完璧に予測の範疇外。しかし、その現実を今ここに打ち破り…今、この女は『何』と言ったのだろう。
鷹矢の耳が確かならば、『薄氷の麗人』はまず間違いなくこう言ったはずだ。
『No.』…と。
「き…貴様!い、今何と言った!?ナ、『No.』だと!?」
「えぇ、その通りです。さぁ、その目を見開き、しかと見据え、驚きあそばせ!この、エクシーズモンスターを!」
しかし、鷹矢の驚きを全くもって意に介さず。
そしてざわめく観客達の度肝を抜き続けながら、ただただ己の宣言の通りに…
スノウは、当たり前のようにしてその宣言を続けるだけで―
「冥界の扉を守護する騎士よ、精魂尽き果てるその時まで…全ての敵を切り伏せなさい!」
…スノウの足元に生まれし銀河の渦へと吸い込まれていく、レベル8となった2体の小さき黒い種子。
そしてそれ以上に放たれるは、かつて【決島】にて天宮寺 鷹矢が彼女の宣言した…
『No.23』を呼び出す為にこの世界に解き放った、あの叫ばれし召喚口上と全く同じ、同様の代物。
今、光が弾けると共に…
「エクシーズ召喚!さぁ、現れて!」
彼女の場に、呼び出されしは間違いなく―
「ランク8!【No.23冥界の霊騎士ランスロット】!
―!
【No.23冥界の霊騎士ランスロット】ランク8
ATK/2000 DEF/1500
…顕現せしは揺れ動く怨魂、守護の念に駆られた魂の騎士。
それはその腹部に、『No.』の証である数字…『23』の罪を刻みこんだ、儚く佇む霊騎士に瓜二つのエクシーズモンスター。
…その姿は紛れもなく本物。
かつて鷹矢が【決島】にて確かに一度呼び出した、禍々しいまでの雰囲気を醸しだす魂の騎士が今不気味に宙に浮かび…
「なっ!?ば、馬鹿な…こ、これは…この感じは、本物の…?」
そして…
驚きにざわめき、どよめいている観客達を他所に…鷹矢には、『わかって』、しまった。
そう、過去にTV中継の前で堂々と鷹矢が呼び出していた、あの『No.23』と瓜二つの姿にて降臨したソレは間違いなく―
『No.』のオリジナルを持つ鷹矢の目からしても、即座に否定する事が出来ない程に『本物』としか思えない程の存在である…と、言う事を。
鷹矢はしかと覚えている…
かつて自分がこの『No.23』を呼び出したデュエル…【決島】の予選時の最後に行ったあのデュエルを。
忘れられるわけがない。決闘学園ウエスト校の竜胆 ミズチとのあの戦い…自身が『ランク4』以外の『No.』を出すキッカケと踏ん切りと、そして確信を得ると同時にミズチの顔と名前を覚えるに到ったあのデュエルを、鷹矢は決して忘れてはいないのだから。
だからこそ、鷹矢にはわかってしまったのだ。
このデュエルを見ている誰にも理解出来ないこと。鷹矢以外には絶対に理解出来ないこと。
そう、世界ランク11位、『薄氷の麗人』、雪霜 スノウの呼び出したこの【No.23 冥界の霊騎士ランスロット】…
自分が呼び出したモノではないこの冥界を守護する鎧騎士もまた、紛れもなく自分の持っているオリジナルとその存在を『同じく』している、正真正銘の『No.』であると言う事を…
他ならぬ誰でもない、『No.』のオリジナルを持っている鷹矢だからこそ嫌でも理解してしまったのだ。
…それは『No.』のオリジナルを持っている鷹矢だけが感じられるであろう微細な感覚。
きっと、他の誰でも分かるはずが無い。なぜソレが分かるのかと問われても、『何故か分かる』としか言い様のない感覚が確かに鷹矢へと教えてしまう…目の前の冥界の霊騎士が、『本物のNo.23』であると言う事を、鷹矢へとひしひしと伝えてきてしまう。
そう、スノウの召喚したこの【No.23 冥界の霊騎士ランスロット】…
感じられる雰囲気、気配、吐息、圧…
そしてその魂までもが、自身がかつてこの世界にたった1度だけ呼びだした『ソレ』と、全く同じ存在であると言う事を、『No.』のオリジナルを持つ、オリジナルを駆る鷹矢だけはどうしても理解してしまうのだろう。
「なぜ…貴様のような奴が、『No.』を…」
それ故、鷹矢は聞かずにはいられない。
…自分以外の者が『No.』を呼び出したこともそう。
…自分以外の場に、『No.』が現れたこともそう―
一体、どうして自分の敵のフィールドに『No.』が召喚されたのか。鷹矢が心から驚いているからこそ、それが鷹矢には心からショックを感じてしまう出来事なのだ。
そう、鷹矢しか持っていない『No.』のカードを、一体どうして一介のプロデュエリストに過ぎない雪霜 スノウが持っているというのだろうか。
この世で自分だけが持つ特別なカード、自分だけに与えられ勝ち取った誇りある自分自身の特別な力。
その、『自分だけ』のはずの力の一端が目の前に現れたことが、どうしても鷹矢には納得が行かず…
しかし…
「何故…何故ですって?あなたこそ、何時まで調子に乗っているつもりなの!あなたが造った『No.』は、もうあなただけのモノではありませんのよ!?」
「な…なん…だと?」
「貴方が『No.』を初めて創造してから約1年…その間に、随分と色々な『No.』を創造し続けていたようですわね。けれど、一度この世に現れ世間の目に触れたカードが、いつまでも貴方だけの傍にいると本気で思っているのかしら。」
「そ、それはどういう意味だ!俺が聞いているのは、一体どうして貴様が『No.』を持っているのかと言う事だぞ!『No.』のオリジナルは俺が持っている…だと言うのに、俺以外の者がどうして『No.』を…」
「まだ分かりませんの?これまで貴方が創造してきた『No.』は、既に『量産化』され始めているのですわ!」
「なっ!?」
そんな鷹矢を意に介さず。
雪霜 スノウから放たれた言葉は、鷹矢の心臓を大きく跳ね上げさせるほどの衝撃を纏いて鷹矢へと襲いかかってきたではないか―
『量産』…
それは『No.』という、世界に1枚だけの『力』を自負していた鷹矢にとってはどれだけの衝撃であったのだろう。
だってそうだろう…自分自身が生み出した、この世界にて『自分だけ』が持っていると自負していた特別なカードが、まさか自分の知らない場所で勝手に『量産』され見知らぬ他人が使うかもしれないと言う事など、ソレは例え鷹矢でなかったとしても良い思いはしないはず。
けれども、雪霜 スノウはあくまでもソレは当然なのだと言わんばかりの剣幕のまま。
あっけにとられている鷹矢へと向かって、更に言葉を続けるだけで…
「私が召喚したこの『No.23』も、量産化計画の先駆けとして試作されたカードの一枚。プロとして、私がテスターを勤めているだけですわ。」
「りょ、量産…馬鹿な…な、何を勝手にそんな事をしている!俺の許可もなく、何故俺のカードを他人が勝手に…」
「あら、お勉強不足ではありませんこと?これは決闘法にキチンと明記されている事だと言うのに。確かに、デュエルディスクが『創造』したカードの所有権は創造したデュエリストにあります。しかしこの世にない全く新たなカードが初めて創造された場合、ソレは【決闘世界】の審議の元…解析と試作の後に『量産』する権利が【決闘世界】に生まれるのです。でなければ、新カードの独占によりデュエリストのバランスが崩れてしまいますもの。まぁ、流通数は始めは微々たるモノでしょうけれど…うふふ、カードデザイナーの皆様は『No.』に興味深々でしたわ。彼らの手にかかれば、『No.』とて一般流通までそう時間はかからないことでしょう。ご理解なさって?」
「くっ…」
そう、雪霜 スノウの言った通り。
カードデザイナーたちが『作成』した新カードとは違い、デュエルディスクとデュエリストがデュエルの最中にて『創造』したこの世における全く新しいカードと言うモノは、確かに創造を行ったデュエリストのモノであるコトに違いないのだろうが…
けれども、それは別の言い方をすれば。この世界の誰も知らない全く新しいカードと言うモノは、『決闘界』においても貴重なる財産でもあるのだ。
ソレ故、現代では超巨大決闘者育成機関と名乗る組織『決闘世界』は、この世界に『稀』に現れる創造されし新カードについても法を定めて細かく管理・監視を行っている。
その一部はたった今スノウが言った通り。新カードを解析し、ソレが決闘界に『悪影響』を与えないカード…ひいては、大勢のデュエリスト達の為になるモノだと判断された時。創造されし新カードは、『決闘世界』の管理の下で量産され世間に流通し始めると言っても過言ではなく…
…まぁ、世の中には複製不可に認定されているカードや、王家にのみ献上されたカード…その他にも製作コストが高すぎるカードだったり、かの『逆鱗』の持つ『征竜』などの決闘法によって使用者が限られていたりするカードと言った、その他にも色々と特別な事情などで『量産できないカード』も、この世界には多々あるとは言え。
…それでもこの世界には、プロデュエリストと同じくらいの重要度を誇るカードデザイナーと呼ばれる人種が存在している。
それはプロデュエリストとは別ベクトルの天才たちの集団でもあり、そんな別枠の天才たちと企業という後ろ盾の手にかかれば、きっと鷹矢がこれまで呼び出した『No.』の悉くは丸裸にされているはず。
だからこそ、今こうして鷹矢の『No.』を他人である雪霜 スノウが召喚したと言う事は、つまりはカードデザイナーたちの手により量産化までは『秒読み』と言った所か。
…また、雪霜 スノウの言い分から、量産されているのはきっと『No.23』だけでは断じてないはず。
それは【決闘祭】で初めてその存在が確認された、この世に始めて現れた『No.80』もきっとそう。
それだけではない。【決島】の予選で使っていた『No.52』や『No.70』、『No.44』、『No.54』もその例外ではないはずであり、更には鍛冶上 刀利との戦いで見せた『No.10』や『No.38』も当然の事ながら、遊良との決勝戦で使用した『No.61』や『No.60』も、既にカードデザイナーの協力の元で量産化に向けて開発が進められている恐れがある。
…とは言え、過去に鷹矢が一度召喚した事のある『No.103』をスノウが知らなかった辺り、量産化され始めているのはおそらく鷹矢が公の場のデュエル…『公式戦』にて呼び出した『No.』だけなのだろうが…
「うふふ…美しい『No.103』も、量産された暁には私の手に来ることでしょう。いいえ、試作カードのテスターは絶対に私が務めて見せますわ。私の為に、こんなにも美しい『No.』を創造してくださり感謝いたします。」
「ぬぅ…」
そうとは言えども、鷹矢は『No.103』を公の場で呼び出してしまった。
それ故、一縷の例外もなく…『No.103』も、今この瞬間からカードデザイナーや研究者たちによる解析が始まり、時期に量産される手筈となるはずで―
「…あら、余程ショックだったようですわね。ですが…驚くのはまだ早いですわ!続けて私はレベル8のスノードロップとプリムでオーバーレイ!さぁ…現れなさい!『No.38』!」
「ッ!?」
しかし、見るからにショックを受けている鷹矢へと間髪居れず。
続けざまに、そして畳み掛けるように…
『薄氷の麗人』のその麗しく美しき小さな口から、再び『ありえない宣言』が声高らかに飛びだして。
「希望を齎す銀河の竜よ!遥か星雲の彼方から…光纏いて降臨なさい!エクシーズ召喚!お出でなさい、ランク8!【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】」
―!
【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】ランク8
ATK/3000 DEF/2500
現れたのは弾ける銀河、希望の欠片の神々しき宙の竜に瓜二つの…
いや、その存在感から察するに、鷹矢が召喚したソレと全くの同一の存在であるモンスターが、再びスノウの場に現れて。
そう、それは鷹矢だからこそどうしても理解出来てしまうこと。
今この場に現れたこの『No.38』もまた、先に召喚された『No.23』と同じように…
紛れもなく、鷹矢の手を離れた『本物』の『No.』なのであって―
「馬鹿なっ!今度は『No.38』!?『No.』が2体…だと?」
信じられない…
信じられる、わけがない。
自分以外が『No.』を呼び出したことだけでもありえない光景であると言うのに、あろうことかソレが2体…『No.』が2体も、自分の目の前に召喚されることなど。
…きっと、今の鷹矢の心にはそんなコトが浮かび上がっているに違いない。
『No.』の2体同時召喚と言うのが、それだけの衝撃となりて鷹矢へと襲い掛かってしまったのは言うに及ばず。何しろ『No.』の
つまりはその性質上、『No.』の
だからこそ、創造主たる自分ですらも成しえない盤面をいとも簡単に見せてくるこのトッププロ、雪霜 スノウのあまりにも高圧的な雰囲気と相まって…
ソレはどこまでも鷹矢へと精神的、そして肉体的にも決して軽くないダメージを、鷹矢へと与えているに違いなく…
そして¬―
「うふふ、綿貫さんの言った通り…効果覿面、ですわね。よほど他人による『No.』の登場、それも2体同時召喚よほどが応えた様子ですこと。」
「ぬぅ…」
「でも同情なんていたしませんわ!プロならば弱肉強食は当たり前、喰らわれる方が悪いのです!それが、貴方の来ようとしているプロの世界なのですから!ではバトル、オーバーレイユニットを持った『No.23』はダイレクトアタックが出来る!『No.23』でダイレクトアタック!」
雪霜 スノウは容赦しない。
その可憐なる容姿と相反した、しかして最前線を生きる豪き花の誇りを全面へとお品出しながらソレは猛々しくも放たれるのか。
…命ずるは、一撃で相手のLPに致命傷を与える事の出来る霊騎士への直接攻撃。
そのまま、鷹矢も見たことのある動きにて。冥界の霊騎士が、鷹矢の目の前から一瞬で消え失せたかと思うと。
刹那に…鷹矢の背後に、音も無く現れ剣を構え―
「ぐっ、させるか!罠カード、【和睦の使者】はつど…」
「無駄ですわ!ソレを無効に!」
―!
…そして、攻撃に転ずる刹那の半ば。
そう、鷹矢が『No.23』の攻撃に反応したその刹那の丁度真ん中で―
何と鷹矢の発動した【和睦の使者】に連なるようにして、突如構えを変えた冥界の騎士から放たれた霊圧が。無情にも、鷹矢の罠から出現した使者達を軒並み弾き飛ばしその効果までをも掻き消してしまったのだ。
「何!?なぜ【和睦の使者】が無効に!?」
「うふふっ、『No.23』の効果は、あらゆる効果に連動しソレを強制的に無効化する効果!オーバーレイユニットを一つ使い、【和睦の使者】は無効となります!」
「馬鹿なッ!『No.23』がそんな効果を持っていることなど俺は知らないぞ!」
「自分が創造したのに知らない貴方が悪いのですわ!さぁ、攻撃ぞっこ…」
「くそっ!ならば墓地の【超電磁タートル】を除外し効果はつど…」
「無駄だと言ったはずです!手札の【六花のしらひめ】の効果発動!しらひめをデッキに戻し、カンザシをリリースすることで【超電磁タートル】を無効に致します!」
「ッ!?」
「さぁ、これで邪魔するモノはありませんわ!今度こそお喰らいあそばせ!霊騎薄刃、スピニング・ディスカリバー」
―!
「ぐわぁぁぁぁあ!」
鷹矢 LP3700→1700
「まだですわ!『No.23』の更なる効果!『No.23』がダメージを与えたため、貴方の場のダーク・リベリオンを破壊いたします!」
「ッ、な、なんだと!?」
―!
止まらない…
たった一度の攻撃で、実に『3つ』の効果を同時に適応させ…創造主である鷹矢へと、決して少なくない確実なるダメージとアドバンテージを叩き出した雪霜 スノウの『No.23』。
直接攻撃によるLPへの大ダメージと、あらゆる効果を連動的に無効にしてしまう圧伏の霊圧。そしてダメージの余波による、モンスター破壊という無慈悲なる破壊効果。
一体で3つのアドバンテージ…それは平時で言ったら中々お目にかかれないであろう、あまりに恵まれた効果の応酬とも言えるのではないだろうか。
だってそうだろう、一つの攻撃に対し、これ程までに噛み合った効能を発揮するモンスターなどそうは居ない。
そして鷹矢の切り札である『ダーク・リベリオン』すらも破壊してしまったその無慈悲なる効果は、まさしく彼女の召喚した『No.』がこの世のモノではない鷹矢のカードと同一の存在であると言う事を鷹矢へとまざまざと証明しているはず。
…いや、それだけではない。
それは過去に一度、『No.23』を呼び出した事のある鷹矢でさえも驚いているこの状況が証明している。
そう…
それはまさしく―
「馬鹿な…なぜ『No.23』にそんなにも多くの効果が…だ、だが、どうして俺でも知らなかった『No.』の効果を貴様が使える!俺が『No.23』を呼び出したのはデュエルの最後、最後の最後のトドメの瞬間にのみ現れただけで、俺も『No.23』にそんな効果があったとは知らなかったのだぞ!?いや、本当にそんな効果があったのかすら怪しい!創造した俺が把握していない効果を、他人が扱えるなど奇怪しな事ではないか!」
それは新たなカードの創造主としてはあるまじき事態。
…そのカードを創造した本人が、そのカードの『本来の力』を知らないなど、決してあってはならないことのはず。
…普通であればありえない、自分がデュエルの最中に力を欲し生み出した、自分の望みの結晶とも言える新カードの全貌を創造主が理解していない…と言う事など。
何しろ、デュエルの最中にデュエリストの渇望に呼応してデュエルディスクが創造する新たなカードと言うのは、偏にその場その時その瞬間にデュエリストの強い渇望・切望が反映されて生み出されることがほとんどなのだ。
つまりは、コレは鷹矢があの【決島】の時のあのデュエルのあの場面においての望みが顕現した姿と効果であるはず。
…そう、『No.23』が現れたのは鷹矢の【決島】の予選、その最終デュエルでのこと。
忘れもしない、ウエスト校の竜胆 ミズチとのデュエルの時…あの盤面での鷹矢の思いが結晶化した存在が、数字を纏いて現れたのが紛れも無くこの『No.23』というカードであるはずなのだから。
だからこそ…
強力なモンスターを従え向かい合っていた竜胆 ミズチの隙間を縫ってダイレクトアタックを決めるためだけに呼び出された自身初の『ランク8』の『No.23』に、カード効果の無効とモンスター破壊という更なる2つの効果までもが内蔵されていたことを…鷹矢は、どうしても容認できない。
…それだけ多くの効果を持ち合わせ、更なる転用が望める強大な存在がどうしてあんなピンポイントな場面でたった一度だけ現れたのだろう。
それならば、もっと適した場面で『No.23』が現れてもいいはず。それこそ、もっとその別の効果を切望していた他のデュエルの場面で初めて現れてもいいはずではないか…と。
しかし…
そんな、自身が一度呼びだした『No.』の全容をしらないままの鷹矢へと向かって―
更に、雪霜 スノウは呆れながら言葉を続けるだけで…
「…本当に、宝の持ち腐れ、ですわね。先ほど私は言いました。貴方の『No.』は、既に解析されている、と。」
「し、しかし創造した俺ですら知らない効果を持っているなどありえ…」
「ですから言ったはずです!最早『No.』は貴方だけのモノではない、そして宝の持ち腐れとも!」
「ッ…」
「私の言う『解析』とは、そんなに浅いモノではありません。その手のスペシャリストたちが細部まで、それこそ創造主である貴方ですら知らない部分までをも調べ、見透かし、予測し、再現する!それは例え、たった一つしか効果を使用しなかったモンスターであっても例外ではないのです!貴方が公式戦で使用したカード、その結果、記録、あらゆる情報を解析するのがカードアナライザー!その情報を駆使しカードを作成するのがカードデザイナー!それを実戦で使用するのがプロデュエリストと呼ばれる人種なのですわ!なので貴方がこれまで公式戦で使用してきた『No.』は、貴方が気付けなかった効果までも解析されているのです!」
「な…し、しかし…」
「貴方…少々、他人を舐めすぎてはいませんこと?カードの『量産』とはそんなに簡単にいく行為ではありません。そのカードの全てを分析し、一字一句までをも正確に抽出し、効果の詳細からエフェクトの細部に到るまで完全に、完璧に再現しなければデュエルディスクは反応すらしてくれない…なので今こうして、私が実際に召喚できる『No.』が作成されるまでも多くの天才たちの努力があってこその奇跡の結晶。私を含め、『No.』の製作に関わっている人たちの、その全てがその道のプロでありその道のベテランなのです。だから言ったのです、先達たちを、あまり舐めるモノではありませんと!貴方よりも長い人生を生きているスペシャリストを、あまり舐めないことですわ!」
「ぬ、ぬぅ…」
ぶつけられるは先達の教鞭。
…圧倒、叱責、圧伏、叱咤。
自分の世界でのみ生きている、身の程知らずの恐い物知らずへと叩き込む躾けにも似た大人の鬱憤。
大人の世界のルールも知らない天宮寺 鷹矢へとぶつけれる、その苛立ちにも似た大人の女性からの言葉はどこまでも鷹矢の心を抉り取らんとして刃と化して襲い掛かるのか。
そう…これは圧倒的な強者からの教育と言う名の慈悲ではない。
どうして鷹矢が『No.』の効果の詳細を把握出来ていなかったのかなど些細な事。その苛立つ感情のままにぶつけられるソレは、言葉による単なる暴力であり…
しかしてトッププロという戦場の最前線で戦っている人種にとっては、日常茶飯事とも言えるまさしく『心』を折るための容赦ない折檻がどこまでも強く鷹矢を襲う。
…折られる方が悪い。
他者を蹴落とし、弱者を喰らう。プロの最前線と言うのは弱肉強食と言う事を、スノウは鷹矢よりも分かっているからこそ―
プロに甘えは許されない。デュエルを生業にしているプロデュエリストという人種にとっては、知らないカードを前にして狼狽える事など愚の骨頂。自身の勉強不足を露呈するだけの最低の行為と言えるはずであって。
…カードの効果を知らない方が悪い。
ただ、それだけ。
だからこそ、どこまでも遠慮なく。そしてどこまでも無慈悲に、既にプロの世界の関係者である鷹矢の心を、スノウはただただ折りにかかるだけ。
「…まぁ、『ランク0』のアレだけは別みたいですけれど。でも、史上初の高校生プロと言う割りには意外とあっけなかったですわね。」
「ぐっ…馬鹿な…こんな、事が…」
「では…これで終わりですわ!『No.38』でダイレクトアタック!」
そうして…
2体の『No.』によって、鷹矢の心もフィールドにもLPにすら傷を付けることをスノウは微塵も躊躇せず。
そう、攻撃を命じるスノウの宣言には、哀れみも憐憫も戸惑いもない。
ただ、いつもの通りに弱者を喰らい勝ちを得るだけ。それは最前線で戦い生きる者のみが持ち得る心の強さなのか、それとも身の程知らずの若者に対する確かな苛立ちの所為なのかは彼女以外にはわからないとは言え…
…それでも、間髪居れずに。
がら空きとなった鷹矢へと…そう、今、史上初の高校生プロ、天宮寺 鷹矢へと向かって。
世界ランク11位、『薄氷の麗人』、雪霜 スノウが。格の違いを見せ付けるかのごとく、トドメの一撃を『No.38』へと高らかに命じ―
「大人しく散りなさい!銀河天翔、ギャラクシアン・ストリー…」
ソレが、鷹矢へと今まさに襲いかからんとした…
その時だった―
「いつまでも調子に乗るなぁ!直接攻撃宣言時!手札から【SRメンコート】の効果を発動!」
「ッ!?今度は『SR』…」
―!
しかし…
それでも鷹矢は、諦めない。
現れたのは小さき機札。銀河を翔ける天昇の龍の方向をその身で受け止め、鷹矢を守りながらその場へと現れて―
「メンコートを攻撃表示で特殊召喚し、相手モンスター全てを守備表示にする!」
「…まだ抗う気力があったとは驚きですわ。けれどもガジェット、無限起動、統一性のないランク4と『No.』に【黒翼】と来て次はSR…なんとまぁ…」
いや、それだけではない。何とその回転により巻き起こされた風によって、スノウの場に居た2体の『No.』までもが巻き込まれその表示形式を守備表示へと変え始めたのだ。
…噴出し、回転し、弾き飛ばす。
その凄まじき旋風は竜巻を帯びて、スノウの2体の『No.』の全てを跪かせたかと思うと。これ以上の追撃を封じる守護の風が、どうにか鷹矢のLPを寸前の所で守りきった。
けれども、ギリギリ…
そう、本当に、ギリギリのタイミングだった。
もし鷹矢が『No.』の事にもっと気を取られ過ぎていて、攻撃に反応するタイミングがもっと遅かったとしたら。鷹矢のデュエルディスクは鷹矢が勝負を放棄したと断定し、鷹矢は【SRメンコート】の効果を使うタイミングを逃し『No.38』の直接攻撃でそのまま敗北してしまっていたことだろう。
だからこそ、本当にギリギリのタイミングで。何とか反応して攻撃を防いだのは他でもない、これまで確かな戦績を刻んできた鷹矢の咄嗟の場面の反射運動とも言えるはずでもあり…
「本当、節操のないデュエルですこと。…仕方がありません。『No.23』が無効化するのは1ターンに1度…その『SR』の効果は無効にできませんわね。ではバトルフェイズを終了し、私はカードを1枚伏せてターンエンドといたしましょう。」
雪霜 スノウ LP:1800
手札:3→0枚
場:【No.23 冥界の霊騎士ランスロット】
【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】
伏せ:1枚
フィールド:【六花来々】
そんな、完璧にトドメを刺すはずだった攻撃を止められて。
世界ランク11位の『薄氷の麗人』は、一体何を思うのだろうか。
(…苦し紛れに延命したところで私の勝利は揺るぎませんわ。『No.23』には無効効果、『No.38』の効果を彼は知らない…この先の展開で怖いのはダイレクトアタックできるアイアン・ヴォルフとバーンダメージを与えてくる『No.61』ですが…前者は『No.38』の効果で無効化でき、後者は伏せた【安全地帯】で対策は万全。ここで『No.23』を出せたとしても止めるのは容易く…ダメージを与えられないヴェルズ・ビュートではトドメを刺す事は出来ず、今の心境では新たな『No.』も出せるわけもなく。…うふふ、勝負、ありましたわね。)
その心境は落ち着きそのモノ。
渾身の攻撃を止められてターンを終えなければならない悲壮感など微塵も感じさせず、寧ろトッププロらしくバックアップは完璧なのだと言わんばかりの雰囲気にてどこまでも落ち着き払いターンを受け渡し。
まさにコレが最前線で戦うトッププロの姿なのだと言わんばかりの冷静さは、およそ若輩の者が醸し出せるはずもない程の精神性となりてどこまでも鷹矢へと突き刺さるのか。
あまりに激しい展開と、有り余るほどの分厚いデュエル。見目麗しき『薄氷の麗人』と呼ばれてはいても、魅せるそのデュエルは確かな才能と実力がなければ披露出来ない芸術的なデッキ回しに違いなく…
次に迎えるであろう鷹矢のターンを、完全に見据えた布陣にて。今、雪霜 スノウはそのターンを終えたのみ。
そして―
「俺のターン、ドロー…」
何とか『No.』たちの猛攻を防ぎきった鷹矢は、先ほどまでの勢いから一転…
動揺からLPに大ダメージを受けてしまったことも相まって、何やらその手を止め冷や汗を拭うような動作にて自らのターンを沈黙と共に向かえていた。
…しかし、その沈黙も当然のことか。
だってそうだろう、先のスノウのターンに、鷹矢とて予想だにしていなかった『No.』が牙を剥いて襲い掛かってきたのだから。
しかも、ただの謀反ではない。創造主たる鷹矢とて知り得なかった真価を発揮し、創造主であるはずの鷹矢でさえも躊躇なく襲いかかり…
まるで戦いの為に生まれた特別な存在が、その力を振るうためだけに襲い掛かってきたというその衝撃は、鉄の心臓とも呼ばれる鷹矢に決して小さくない動揺を生み出しつつLPと同時に心にまでダメージを与えてきたのだ。
(危なかった…『七草』との修業で守りの手を増やしておいたから助かったものの…まさか、『No.』が敵に回るとは…ぬぅ…)
そう…鷹矢は、『No.』の登場に少なからず動揺してしまっていた。
何しろ、鷹矢は『No.23』の直接攻撃宣言時のあのタイミングでもメンコートの効果を発動する事もできた。
そうすれば少なくとも、ここまでLPを減らされることはなかったはずであり、けれども『No.23』の隠れた効果に動揺してしまった事と、『No38』にも隠れた効果があるのではないかという焦りとが相まって、鷹矢にあの攻撃でのメンコートの使用を一瞬だけ躊躇させてしまった。
だからこそ、鷹矢の迷いからか彼のデュエルディスクはメンコートの発動タイミングを逃してしまった。ソレ故、鷹矢は本来ならば受けなくても済んだ大ダメージを受けてしまったのであり…
…それは若さゆえの焦りと過ち。取り返しのつかない攻防の後悔。
この場、この時、この瞬間に、デュエルをしている彼らのデッキがどう応えどんな動きをして繰り広げられるのかは誰にも分からない。
だからこそ、今こうして繰り広げられているこのデュエルの内容こそが嘘偽り無いリアルな彼らのデュエルの全てでもありつつ…
ソレ故、過ぎてしまったことはもう誰にも取り返せない。鷹矢のLPが元に戻らないように、このデュエルの流れも相手が『No.』を使ってきたという事実もまた消し去りようのない確定した事実とも言えるのだろう。
…だからこそ、鷹矢も余計なダメージを受けたとはいえ。それでもどうにか先の『No.』の攻撃をどうにか凌げたのは、ある意味では幸運であったとも言えるはず。
そう、『七草』の特別講師たちとの修業にて思い至った、鷹矢のデッキに無理なく組み込めるであろう守りに特化した機械族レベル4の守りのカード。カテゴリー的にはシンクロ召喚に特化している『SR』というシリーズに属するモンスターではあるものの、【超電磁タートル】と同じく『いざという時』の意表を突く奥の手の一つとして鷹矢がデッキに忍ばせていた、こうした場面にて輝くまさに九死に一生の守りの手が功を奏し、どうにかあのギリギリの場面で鷹矢のLPを守りきったのだ。
しかし、それは言い換えれば…
鷹矢が、奥の手を2つも消費させられるほど追い詰められてしまっていたとも言えるのではないだろうか。
…そう、流石は世界ランク11位の『薄氷の麗人』。
押している様に見えた鷹矢の心と盤面を、意外なる切り札にていとも容易く荒しに荒し。
今こうして、鷹矢をデュエルでも、そして精神的にも追い詰めようとしている今の彼女の姿は、その身目麗しい佇まいに比例した恐ろしいまでの猛者となりて鷹矢の目には映っているはずで…
ソレ故―
「まだ『No.』が使えるのかしら?新たな『No.』を出した瞬間!その瞬間から、貴方の『No.』は貴方だけの『No.』ではなくなるのだから!それとも今まで呼び出したことのある『No.』をまた呼び出すのかしら。うふふっ、それでしたら現在解析中の『No.』のデータがより鮮明なモノになりますわね。量産化の時期が早まることでしょう!」
「ぬぅ…」
追い討ちをかけるように、駄目押しをするように。
鷹矢の動揺を見透かしているかのように叫ぶスノウの声は、鋭利な針となりて鷹矢の心に突き刺さり続ける。
そう…スノウの言った通り。
鷹矢の心は、もう新たな『No.』は使えないと判断してしまっている。
…もし自分がここでまた『No.』を使い、新たな『No.』がこの世に生み出されてしまえば。その瞬間から、ソレはもう自分だけのモノではなくなってしまう。
それが、鷹矢には許せない。
…自分だけの力…自分だけが扱える、この世界で自分だけに許されたと思っていた特別な『力』。
それを、赤の他人が扱っているのだ。それもこの場限りの事などではなく、時間が経てば目の前の女以外にも更に多くの人間に『No.』が行き渡ってしまう…そんな屈辱と焦りと怒り、形容し難い憤りが鷹矢の中に渦巻き始め、それに応じてターンを迎えた鷹矢の手が止まってしまったのは、ある意味仕方のないこととも言えるはずで。
…いや、誰だってそうだろう。
何しろ、『そういった思い』を抱くのはきっと鷹矢だけでは決してないはず。
そう、世界で、『自分だけ』が持っているカード。『自分だけ』しか使い手が居ない特別なカード…『自分だけ』が手にしている特別な力と言うのは、誰であろうと永遠に『自分だけ』のモノであり続けて欲しいと、人間ならば誰しも感じてしまうに違いないのだ。
けれども、ソレが勝手に他人の手によって突如何の前触れもなくばら撒かれたら…
例え鷹矢でなくとも、誰であろうと動揺と同時にショックを感じてしまうはず。
だからこそ、鷹矢はこれ以上『No.』を使うことを踏み切れない。鷹矢だけの力が、敢え無く有象無象共が群がる一般的なカードに成り下がってしまうと言うのは…これまで『No.』という特別な力に誇りを持っていた鷹矢にとっては、屈辱以外の何物でもないのだから。
…自分だけが持っていると思っていたカードを、他者が勝手に解析し、増産し、量産しようとしているだなんて。
自分の知らないところで勝手に話が進んでいるだなんて、例え鷹矢でなかったとしても憤りを感じるに違いない事。
だからこそ、鷹矢もまた憤りを感じると共に…それ以上に、鷹矢の心にはこれ以上『No.』を使うことへの『迷い』が生じてしまっているのだろう。
これ以上、他人の目に映る場所で『No.』を使い続ければ…その場で『No.』は解析され、しばらくの後にカードデザイナーたちによって量産され、世界にばら撒かれてしまう。
もしそうなってしまえば、最早『No.』は鷹矢だけの力ではなくなってしまう。誰でも『No.』というエクシーズモンスターの中でも『別枠』の力を扱えるようになり、その力は今この時の戦いの様にいつかそのまま鷹矢自身へと牙を剥く危険性さえある。
果たして…
その先兵とも言うべき2体の『No.』が、既に敵対していると言うこの状況。
その、自分以外の者が『No.』を扱っているというこの事実に…刻々とドローフェイズ、スタンバイフェイズが進んでしまうこの沈黙の中で、鷹矢は一体何を思うのだろうか。
(…『No.23』の無効効果…そして効果の分からない『No.38』…)
…今、鷹矢の脳裏には『迷い』が生じてしまっている。
『No.』を使うわけにいかなくなった焦り。『No.』を使ってはならないという自責。
そんな負の感情が、鷹矢の心に『迷い』というこれまで味わった事のない未知の選択を鷹矢へと突きつけているのは誰の目にも明らかで―
「動かないと言う事は試合放棄するのかしら?でしたら、ご自分で宣言された方がまだ恰好がつくというものではなくて?」
「くっ…ロックアンカーを召喚!そしてその効果で…」
「そうはさせません!『No.23』の効果発動!ロックアンカーの効果を無効にいたします!」
「ぐ…ならば魔法カード、【取捨蘇生】を発動!俺は墓地からゴールド、そして2体のシルバーを選択し…」
「それも無駄ですわ!『No.38』のモンスター効果!魔法カードを無効にしそのカードをオーバーレイユニットにいたします!」
「ッ…や、やはりそんな効果が…魔法無効だと…くそっ!」
止められる…
鷹矢の行動が、悉く―
その行動はどれもが苦し紛れの醜い足掻き。そう、今の冷静な判断が出来ない鷹矢にとっては、今の行動は攻め立てられるようにデュエル続行を強いてくるデュエルディスクに咄嗟に従った故の未熟な行動でしかないのだろうか。
そう…もし鷹矢がもう少し冷静に場を把握し、ロックアンカー先行ではなく魔法カードである【取捨蘇生】から動いていれば…
少なくとも【取捨蘇生】を無効にしたのは『No.38』ではなく強制効果を持った『No.23』の方となり、スノウの言い方から次のロックアンカーの効果は無効化されなかった可能性が高かった。
そうすればロックアンカーからの展開でレベル4のモンスターを更に並べる事ができ、そこからのエクシーズ召喚によっては更なる展開だって出来ていたはず。
…それだけ展開できれば、まだ鷹矢にも動く目があった。しかし、鷹矢はソレができなかった。
それは鷹矢が、『No.38』の効果を完全に把握していなかったのも原因の一つではあるのだが…しかし、『No.38』は【決島】の鍛冶上 刀利との戦いの場面にて、効果を使用・確認する暇もなく葬られてしまったのだから、それはある意味仕方のないことでもあるのだろう。
…とは言え、デュエルの最中においてはソレは何の言い訳にもならず。
そう、ことデュエルという行為の最中において、ミスと言うのは得てして『ミスした方』が悪いのだ。
相手モンスターの効果を把握していなかった鷹矢のミスもそう。『No.』の敵対に心を揺さぶられてしまった鷹矢の動揺もそう。自業自得、無知は罪。例えどんなカードであろうとも、そのカードの効果を知らない無知な方がただただ悪く…
…このレベルの相手を前に、これは手痛い痛恨のミス。
一応、鷹矢の場にはレベル4のモンスターが2体いるものの。しかしExデッキの内容から考えれば、この場を突破し勝利を掴むことの出来るモンスターは限られてしまっている事もまた鷹矢は分かってしまっている。
…デュエルと言うのは行動が全て。その流れ、その動き、一つ一つのカードの応酬からデュエリストの思考一つに到るまで、確定してしまったその場面は誰にも取り返しは付かない。
…だからこそ、このシーン、この状況に至るまでの彼らのデュエルの、これまでの流れがこのデュエルにおける全てでもあるはず。
鷹矢が、そして雪霜 スノウが何を考え、どの思考に到りこの状況になったのか。
それが、このデュエルの全てであるからこそ―
「さて、どうするのかしら。ガジェットの回転を重要視する貴方の手札の情報はまるで筒抜け。なので今の貴方の残りの手札は【グリーン・ガジェット】1体のみ…もうこれ以上の展開は出来ず、この状況で貴方が出せるのはランク4かランク8、しかしランク8で出せるのは『No.』のみ!そしてランク4でも8でも新たな『No.』を出せば、それはもう貴方だけの力ではなくなるのです!それでも新たな『No.』を出せますか?うふふ、それとも、また『ランク0』のモンスターを呼び出すのでしょうか!」
「ぐ…」
「もし呼び出されるのならデザイナーの方たちが喜びますわね。あの特別なモンスターのデータが増えることで、ランク0を再現できる可能性が大きくなるんですもの。貴方も時期プロらしく、決闘界に貢献なされてはいかが?」
…スノウの高圧的な煽りに対し、どうしても鷹矢は動けない。
(ヴェルズ・ビュート…駄目だ、破壊したところでダメージを与えられないのならば次のターンへの対処ができん。リリースされるのならば『No.41』も無駄、それに『No.41』も出せば量産される…)
迷い…
(既存の『No.』だと『No.61』で勝てるがドリルジャンボはもうない、残る手段は俺も『No.23』を出すか『アイアン・ヴォルフ』でのダイレクトアタックのみ…だが奴のあの雰囲気…駄目だ、『No.23』もダイレクトアタックも通用せん…)
迷い…
(しかも俺の『No.』は出すまで何が出てくるか全くわからん、既存の『No.』が上手く出てくるかもわからんとは…くそっ…)
迷い、迷い続ける―
…堂々巡り、窮地に陥り。
残りの手札と、デッキと、Exデッキを思い直しても。これ以上の手立てが、鷹矢にはどうしても思い着かない。
それは自身のデッキを深く理解している鷹矢だからこその理解。
自分の限界を決めるのは自分ではなくデッキの方であると分かってはいても、しかし無限の可能性を指し示す『No.』を使えないとデッキに『枷』を嵌めてしまっては…いくら鷹矢を持ってしても、それ以上の選択肢を思い浮かべる事は出来はしないのか。
そう…
自由に姿を変え、状況に応じて形を変える『No.』は、まさしく天宮寺 鷹矢にとって理想とも言うべきジョーカーであったのだ。
しかし、その自分だけのジョーカーはもう自分だけの力ではない。
それが、どうしても鷹矢には容認できない。ソレ故、打つ手立てがないこの状況に対し…
鷹矢の心は、苛立ちにも似たザワザワした気持ちが渦巻き続けているのであり…
「くっ…」
零されるのは苦々しい吐息。
…歯がゆいのだろう、窮屈なのだろう。
自由で奔放なデュエルが信条の天宮寺 鷹矢にとって、動きを制限され行動を誘導され、挙句の果てに『自分だけの力』を愚弄し続けるスノウとのこのデュエルは、一言で表せば『窮屈』なデュエル以外に形容する言葉が見つからないほどに…
それほどまでに、『やりづらい』デュエルに違いない。
…けれども鷹矢には分かっている。このデュエルを『窮屈』にしているのは、他ならぬ自分自身であるのだ…と。
そして、それ以上に鷹矢は理解させられてしまった。
これより自分が喧嘩を売り込みにいくプロの世界…その最前線で戦っているトッププロという人種が、その見た目に反し…
これ程までに容赦のない闘士、洗練された戦士。そしてこれまで戦ってきた学生達や並のプロとは、一線を画すまさに『怪物』である…と言う事を。
…慈悲のあるイースト校理事長の【白鯨】や、特別講師『七草』とはまるで違う、全く容赦のない正真正銘の『強者』の一人。
そんな、これまで戦ってきた者の中でも純粋な『強さ』を魅せる、この世界ランク11位に位置する『薄氷の麗人』を前に…
(俺の…俺のデュエルとはこの程度のモノだったのか?…俺の力とは…俺に、今出来ること…は…)
完全に沈黙してしまった鷹矢の手が、ゆっくりと力なく重力によって降ろされていき…
そして…
「…もういい。」
「あら…」
鷹矢から零された言葉…
それは、あの我が強すぎる天宮寺 鷹矢から発せられたとは思えない程に弱々しく零された、あまりに信じられない言葉の吐露であった。
…だってそうだろう。
あの豪放磊落、天下無双、世界最強のエクシーズ使いと呼ばれしエクシーズ王者【黒翼】の血と才能を受け継いだ孫、誉れある天宮寺家の嫡子が。
あの学生最大の祭典となった【決島】にて優勝を飾り、歴史上初めてとなる高校生プロとなる事を許されたあの規格外の高校生が。
あの、誰にも真似出来ない謎の存在であるエクシーズモンスター、ランク0の『No.0 』を呼び出し世界を震撼させ、これまでのデュエルの常識を覆し新たな歴史を刻んだあの天宮寺 鷹矢が。
そんな、常識という名の『檻』をこれまで悉く壊しながらあくまでも『真っ直ぐ』にその覇道を進み続けてきた鷹矢から、あろうことかそんな弱々しい吐露が零されるだなんて…一体、誰が自分の耳を信じられると言うのだろう。
世界ランク11位の雪霜 スノウを前にしても、あまりに堂に入った戦いぶりを魅せていた前半から一転…
まさかスノウが『No.』を2体同時に呼び出したことで、鷹矢がここまで弱気になってしまうだなんて、一体誰が想像できたというのだろうか。
だからこそ、観客や受験生やスタッフは勿論、中継カメラを構えているメディアまでもが沈黙してしまっている。
…一体、彼はどうしてしまったのだろうか。一体、何を考えているのだろうか…
沈黙の中で、強く何かを考えているかのような鷹矢の雰囲気を目の当たりにして。今まで彼のこんな姿と言葉など見た事も聞いた事もない周囲の人間達からすれば、これまで常識を覆し続け、破天荒であり続けてきた天宮寺 鷹矢のこんなにも弱々しい姿に対し信じられないようなモノを見る目を向け…
誰もが、言葉を無くし彼の『敗北』を静かに悟り始め…
「うふふ、戦意喪失?それとも試合放棄?潔くご自分から降参なさるのかしら?けれどもサレンダーとは少々残念ですわね。随分とあっけない幕引きでし…」
唯一言葉を発せる相手。鷹矢の対戦相手である『薄氷の麗人』、雪霜 スノウが鷹矢へと最後の通達を発したかと思われた…
…その時だった。
「試合放棄?いいや………それは違う!」
「…え?」
瞬間…
鷹矢から飛び出したのは、あまりに力強く空気を震わす覚悟の声であった。
そう、まるで先ほどの脱力は、今ここでこの言葉に力を込めるためにあえて脱力したのだと言わんばかりの迫力を持ってして。
周囲からの敗北ムード一色を、その我の強さだけで鷹矢は一瞬で払拭したのだ。
…そして、完全に意表を突かれ驚いた表情をしている雪霜 スノウを意に介さず。
当の鷹矢は、何やら意を決したように深く…
それはそれは深く、一つ大きく深呼吸をし…
更に続けて、その言葉に力を込めて続けて口を開くのみ。
「ここで…今ここで!貴様に勝てなければ、俺のこれからには何の意味もない!力を発揮できず、自ら負けを認めるなど俺のプライドが絶対に許さん!だから俺はサレンダーも試合放棄もせん…俺は今、勝つ!何をしてでも、何を『犠牲』にしてでも!それが、誰にも譲れぬ俺のデュエルだ!」
「『犠牲』…そうですか、今、この場で勝てれば、全てはどうでも良い事だと?」
「うむ!貴様は言ったな、『No.』は、もう俺だけの力ではないのだと!だがそれも違う!貴様らが、いくら俺の造った『No.』を使おうとも…今!この時!この瞬間に!また新たなカードを俺は生み出す、生み出し続ける!そうして進化し続けるからこそ…やはり『No.』は俺の、俺だけの力となるのだ!俺の後を、コソコソと追い続けたければ好きにするが良い!だが俺は常に先に行く…誰にも追いつけない先へと、ただ突き進むだけだ!」
叫ぶは奮起、響くは活気。
自身のやるべき事の為に、『何』が必要なのかを今再び思い出した鷹矢の叫びが更に激しく響き渡る。
それは見得などでは断じてない、本気の本気で『覚悟』を決めた男の叫び。
ソレが、行動となりて再び鷹矢の戦意を増し続け…
「ゆくぞ!ロックアンカーの効果発動!ロックアンカーとメンコートのレベルを…合成する!」
【無限起動ロックアンカー】レベル4→8
【SRメンコート】レベル4→8
そうして、再び動き出した鷹矢の宣言によって。
2体の『No.』を前に燻っていた鷹矢の2体の機械族たちもまた、その猛りに応えるかのように再びその駆動音に力強さを取り戻し始めたではないか。
レベルが変化する…
それは鷹矢が、『決島』にて確立した彼のデッキの戦術の一つ。レベル4とランク4を多用し強固な安定性を持っている彼のデッキにおける、場を切り崩す為のメリハリの一つ。
そう、ランク4のみで構成されている鷹矢のExデッキにおいて、ランク4以外のモンスターを出す瞬間などたった一つしかない。
そして、ソレを雪霜 スノウも分かっているからこそ…
「レベル8のモンスターが2体…貴方、やはりどれだけプロを舐めているのかしら!貴方もこれからプロになるのでしょう?これからの要所ならばいざ知らず、何の益もない今この瞬間の勝利を掴む為だけに色々なモノを『犠牲』にするなんて、愚の骨頂以外の何物でもありませんわ!貴方もプロになるのならば、自分だけが持つ力に少しは誇りを持ったらどうですの!そんな気持ちで、軽々しくプロの世界に入ってくるつも…」
「うるさい…うるさいうるさいうるさい!これは俺の、俺だけの戦い!もう量産でも増産でも好きにするが良い…だがこの勝負だけは譲らん!ここで貴様に勝てなければ、俺には何の意味もないのだ!」
しかし、スノウの言葉を無理矢理遮ってでも。
それでも鷹矢は叫びを止めず。その咆哮に呼応して、鷹矢の場のレベル8となったモンスター2体が、更に激しく駆動する。
…確かにスノウの言うように、これからの鷹矢の人生は長い。その長い人生で考えれば、これから鷹矢にはプロの人生の中で絶対に負けられない『要所』と言うのが重要な場面で再現なく襲い掛かってくることだろう。
だからこそ、もしこれから鷹矢がまた新たな『No.』を生み出すのならば、ソレは絶対にその『要所』であるべきなのだ。
…そして、スノウの感覚ではソレは絶対に今ではない。
そう、例えその後にその新たな『No.』が量産されるのだとしても、それでもその力はその『要所』でのみ発揮されるべきであると言うのが、スノウが抱いていた極々普通の感覚に違いなく…
…これは、ただのエキシビジョン。
例えここで鷹矢が負けたとしても、それで鷹矢のプロ入りがなくなるわけでもなければ…多少メディアは騒ぐだろうが、それで鷹矢に不利益が生じると言う事も起こるはずもなく…
だからこそ、彼女の感覚ではこれは鷹矢にとっては『負けてもいいデュエル』のはず。
その、『負けてもいいデュエル』と言うのは人生において多々存在していることであり、ソレを的確に見極めるのがプロで上に上っていくには重要でもあり普通の事でもあるのだから。
しかし…
けれども―
それ、でも―
「今この瞬間の、このデュエルこそが俺のデュエルの全て!俺のデュエルの邪魔は誰にもさせん…ソレが例え、俺の『No.』であろともだ!うぉぉぉぉぉぉおっ!」
今、この時、この瞬間において。
鷹矢にとっては、このデュエルは『負けてもいいデュエル』などでは絶対にないのだ。
ヒリつくような強敵との戦い、色々な人間に見られている中でのデュエル…
そんな、恥ずかしい戦いが出来ないこの状況に置かれて、自分から『負け』を認めることなど天宮寺 鷹矢が出来るはずもなく…
…負けてもいいデュエルと、負けてはいけないデュエルの違いなど、誰に言われるまでもなく鷹矢はとうに理解出来ている。
何しろ、『負けてはいけないデュエル』ばかりを強いられてきた片翼を…鷹矢は、常に誰よりも一番近くで見続けてきたのだ。
だからこそ、鷹矢には『負けてもいいデュエル』と、『負けてはいけないデュエル』の違いと言うモノがきっと雪霜 スノウよりも明確にハッキリと、そして誰よりも厳しく定義されている。
…それはこれまで遊良のデュエルを、人生を共に見続け、歩んできたからこその覚悟と自責。
修行や遊びとはまるで違う、『ソレ以外』のデュエル、人生において。
絶対に『負けられない』戦いを常に強いられてきた遊良と並び立つ為には、自分もまた『ソレ以外』のデュエルで簡単に負けを認めるわけには行かないのだとして…
そう…
あらゆるモノを犠牲にしてまで生き抜き続けている遊良の隣に立ち続けるためには、自分もまた『この程度』の『犠牲』を払う事など簡単なのだと言わんばかりに―
「俺の力、俺だけの力、『No.』よ!今この瞬間に…あの女をも超える力となれぇぇぇぇぇえ!レベル8となったモンスター2体で、オーバーレイネットワークを構築!」
今…
常識をぶん殴り、理性を蹴飛ばし。
『No.』を惜しむという弱い心、少しでも浮かぶ自らの弱い心を、その強靭なまでの意思によって今まさに完全に踏み潰し…
後悔なんて投げ飛ばし、改めて覚悟を振り切った鷹矢の宣言が、このスタジアムへと木霊する。
…オーバーレイネットワークを、構築。
まるで、『本物のNo.』を呼び出す為の宣言はこうなのだと言わんばかりに―
「来い、『No.15』!」
「ッ!?」
叫ばれるは未知なる『数字』。
これまでの鷹矢の『No.』にはなかった、全く新しい未知なる数字が、鷹矢の口から宣言される。
…そして、その宣言を行う鷹矢には躊躇も後悔も微塵もなく。
もう鷹矢の心は、新しい『No.』を量産され他人に使われるという恐れなど微塵も感じてはいないのか。それだけの覚悟を感じさせられる強き宣言が、鷹矢のExデッキにて眠りに付いている『白紙』の『No.』に強く呼応し…
そう…例え誰が相手でも。
例え、敵がデュエリストのみならず、デザイナーや研究者たちであったとしても。
「…『No.15』…新たな『No.』ですわね!うふふ、ソレもこの瞬間から貴方の手を離れることにな…」
「それがどうした!そんな事、最早どうでもいい!ただこの瞬間、このデュエルで貴様に勝つ為に…俺も、そして俺の『No.』も全力で!ただ全力で全力を尽くすだけだ!それが俺の全てなのだぁぁぁぁあ!ゆくぞぉっ!」
それでも鷹矢は省みない。
己に与えられた力を、存分に発揮する事を鷹矢は決して厭わない。
…例えこれから先、自分の行動の所為で多くの『No.』が敵に回ることになろうとも。
それでもその全てを蹴散らし、そして他の誰も追いつけない速度にて『No.』を最前線で使い続けるその覚悟、その決意、その決心を今ここで、突発的にも恒久的に確かなる意思を持ってして心に強く決めたからこそ。
自身の力、誇りであるはずの『No.』さえも『犠牲』にしてでもなお…
それ以上に強くなり続ければいいだけだと、今ここで強く思い至ったからこそ…
…今、声高々に。
鷹矢が叫ぶは、紛う事なき―
「来い、『No.15』!妖しく笑うは怪奇の響き!尽きぬ欲望で刃を剥き出し…聳える恐怖で敵を飲み込めぇ!エクシーズ召喚!」
…叫ばれるは定め。
Exデッキで眠る『白紙のNo.』に、新たな定めを数字として刻み込み。
…呼び出すは我が侭。
未知なる姿と力を持ってして、『No.』に対し心の赴くままに我儘に、己の心を投影し今この瞬間の全て詰め込みながら。
この場、この時、この瞬間に―
誰も見たことがない姿にて、満を持してソレは現れ―
「ランク8!【No.15 ギミック・パペット-ジャイアント・キラー】!」
―!
【No.15 ギミック・パペット-ジャイアント・キラー】ランク8
ATK/1500 DEF/2500
現れたのは巨大なる人形、不気味に聳える黒の粉砕機。
それはその額当てに、『No.』の証である数字『15』の運命を掘り込まれた…
正真正銘、本家本元。鷹矢の持つ『
「ヒッ!?…なっ、なんですの、この不気味な『No.』は!?ま、全く美しくありませんわ!」
「黙れぇ!美しいだの美しくないだの、『No.』は貴様のカードでは断じてない!これは俺の、俺だけが生み出す事を許される俺だけの力だ!だから俺は迷わん…『No.』を解析し、量産したければ好きにするがいい!だが最前線の、最新鋭の、この瞬間の…この勝負の結末だけは、絶対に俺が手に入れてやる!『No.』だろうが、トッププロだろうが俺の!俺達の…邪魔をするなぁぁぁぁぁあ!『No.15』の効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、相手の場の特殊召喚されたモンスター1体を破壊する!」
「破壊効果ですって!?けど、それだけのはずが…」
「うむ!対象は『No.38』!ソイツを破壊し、破壊したのがエクシーズモンスターであった場合…『No.15』は、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」
「ッ!?」
そして、間髪居れず―
『No.15』の周囲を回る光球の一つが、その体内へとエフェクトと共に吸い込まれたかと思うと。
鷹矢の、デュエル決着まで到達するであろうあまりに強力な効果の宣言と共に…不気味な蠢きにて、運命の糸に操られた巨大なる漆黒の人形がゴゴゴゴと音を立てて動き始め…
そのまま、緩徐にその大きな手を『No.38』へと向けて動かし始め。その身柄を粉砕し砲弾にすべく、無感情にスノウへと迫り始めたではないか―
「む、無駄ですわ!永続罠、【安全地帯】を発動!『No.38』は効果の対象にならず、戦闘・効果では破壊されなくなります!」
「ぐっ…」
けれども…
それでも、スノウも綻びない。
発動されしは万全の守り。その名の通り、その文字通り…あらゆる策略からモンスターを守る【安全地帯】を、『No.38』の周囲に展開させ。
キッチリと、完全に―鷹矢の『No.15』の蠢きから、対象となった『No.38』を守りきったのだ。
「ふふ…うふふ!これで勝負ありましたわ!ぶ、不気味すぎて少々驚きましたが、所詮はその『No.15』もランクの違う『No.61』の模造品!それも効果は劣り攻撃力も低い劣化版だったというわけですわね!」
…そう、この程度の対策は彼女も既に対処済み。
新たな『No.』が出てくる事は彼女にとっても予想外ではあったものの、しかし鷹矢の攻めが当初から想定していた範疇に収まっていただけに、咄嗟の判断であったとしてもスノウは華麗にソレを捌いてみせるのか。
…これで、勝負あった。
この攻防を捌いてみせたスノウの心は、もう勝利を確信して揺るがない。何しろ鷹矢の残りの手札を見抜いているスノウからすれば、鷹矢はもうこれ以上の展開を行う事は出来はしないはずなのだから。
そして新しく呼び出された『No.15』も、その効果が彼女の予測の範疇に収まっていたからこそ…
ソレがいくら苦手としているホラーテイストの人形の見た目をしていたとしても、もう自分の勝利は揺るがない、揺るぐはずがない…
…と、確信を超えた自信にて高らかに喜びを露わにしているのであり…
しかし…
「うふふっ、やはり創造主が幼稚な貴方では、生み出される『No.』も似たり寄ったりの…」
「…かかったな。」
「…え?」
それは、鷹矢も同じ事。
静かに零すは確信の呟き。喜びを露わにしたスノウとは対照的な、あまりに静かな逆転の閃き。
LPを守りきったと安堵するスノウに相反し、鷹矢の落ちることなく言葉を発し…
そのまま、更に再び。
どこまでも、どこまでも猛々しく―
「伏せていたのが全体保護ではなく、対象を取る【安全地帯】で助かったぞ!そのおかげで、俺は『No.15』で勝利する事が出来るのだからな!『No.15』は、1ターンに2度まで効果を使用出来る!」
「1ターンに2度!?ふ、ふざけないで!効果破壊にバーンダメージ、普通、そんな強力なエクシーズモンスターの効果は1ターンに1度でしょう!?何をそんな勝手なことを…」
「誰が!いつ!『No.15』の効果が1ターンに1度だと言った!そんな常識で『No.』を測るな…やはり『No.』の真価は、この俺が使ってこそ輝くのだ!再び『No.15』の効果発動っ!オーバーレイユニットをもう一つ使い…がら空きとなった『No.23』を破壊し、その攻撃力分のダメージを雪女!貴様に与える!」
「ッ!?」
スノウの叫びを意に介さず。
その予測と予想を裏切るかのようにして、鷹矢の宣言を受け残った光球が吸い込まれたかと思われたのと同時に…
再度蠢き始める『No.15』。漆黒で無表情の操り人形が、あまりに不気味に再び立ち上がり起動を開始し始める。
…そして、その動きを見て顔を引きつらせ始めた『薄氷の麗人』、雪霜 スノウ。
当然だ…
何せ、一度止めて安堵していたところに再び恐怖が…
そう、常々から美しいモノしか視界に入れたくないと決めている彼女の目に、あろうことかこの世で彼女が『最も苦手』としているシリアルキラーテイストのホラー人形が、無表情のまま再び蠢きながら迫りつつあるのだから。
果たして…
この世で最も嫌うホラーなキラードールが、自身に襲い掛かろうとしているその光景はソレを最も苦手としている彼女の目にはどのように映るのだろう。
…逃れられないリアルな恐怖、逃げても逃げても追ってくる死の人形。
そんな、理屈では説明できないトラウマとなっている、この世で最も恐怖を感じるホラー人形に文字通りLPという名の命を狙われ…
「ヒッ!?い、いやぁぁぁぁぁあ!」
「うむ!ようやく乱れを見せたな!だが容赦はせん…貴様が言ったのだ!プロならば弱肉強食は当たり前、喰らわれる方が悪いのだと!ゆけぇ、『No.15』!」
けれども、全く慈悲もなく。
先ほどスノウが言った通り、プロデュエリストにおいては蹴落とし合い、潰し合いは当たり前…
単純明快、直截簡明。心の弱い者が得てして悪く、負ける方が『悪い』のだ。
そう…真剣勝負の戦いの場では、折られる方がただただ悪い。
だからこそ、全くの容赦なしに。涙を流し、悲鳴を上げるスノウへと向かって…
全く無慈悲に、全く戸惑う事もなく。彼女の苦手なモノですら、全く手心を加えることなく迫らせる鷹矢の姿勢はまさしく弱肉強食の世界に飛び込むに相応しい、忌々しいまでの強者の風格。
…それは例えるならば、立ち入り禁止の花園ですら土足で踏み入る無法者。
そう、誰もが踏み入るのを躊躇するような特別な空間であろうとも、己の覇道をただただ突き進み続ける鷹矢が…
今更スノウに対し気遣いだとか敬意だとか、『そんな事』を気にするわけがないのだ。
ただ、ひたすらに…ただ、真っ直ぐと。
己の目的のためだけに、立ち塞がるモノは全て粉砕する。その思いの化身と化した『No.15』が、怯えるスノウに対し無感情のまま砲台を向け始めたかと思うと…
恐怖の根源に訴えかける恐ろしき黒の人形が、冥界を守護する魂の騎士を木っ端微塵に削り落とし。
そのまま、彼女の場に残った銀河の竜さえもその波動で吹き飛ばしながら…
『No.15』の名の通り、今まさにジャイアント・キリングを達成せんとして―
「俺達に楯突く敵を…『No.』を………消し去れぇぇぇえ!悪夢壊砲、ナイトメア・テラーカノォォォォォンッ!」
―!
「ッ…キャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!?」
雪霜 スノウ LP:1700→0
放たれる凶弾、慈悲なき砲弾。
見目麗しき『薄氷の麗人』の、その怯えた悲鳴もろとも吹き飛ばす一撃はあまりに凄まじき光景となりて…
ピー…
無機質な機械音と共に、高校生がトッププロに勝利した事を周囲の人間達へと伝えていた―
―…
終了後。
「スノウちゃんや…だ、大丈夫かいのぅ…」
「…」
「わ、悪いのは儂じゃ、儂が全部悪いんじゃ!貧乏くじ引かせてしまって済まなんだ…まさか、お主が負けてしまうとは…」
「…」
「じゃから気落ちするでない!儂が悪いんじゃ…儂が、『No.を使って鷹矢にプロの厳しさを教えてやれ』と頼まんかったら…『No.』はお主のデュエルの邪魔をせず、いつもの様に『六花』本来の力を存分に発揮し決してあのような結果にはならんかったはず…」
「…」
スタジアムから控え室へと繋がる、光源のない暗い通路。
そこには、たった今デュエルを終えたばかりの『薄氷の麗人』を慰めている一人の老人の姿があった。
…長巨大決闘者育成機関『決闘世界』最高幹部、『妖怪』と呼ばれし翁、綿貫 景虎。
その白髪と白髭に隠れた小さな体躯で、廊下に座り込み見るからに落ち込んでいる『薄氷の麗人』へと寄り添いながら。まるで孫か曾孫を慰めるかのように、優しく頭を撫でていて。
そして、頭を撫でられている雪霜 スノウもまた…
いい歳であるが故に、少女のように泣き腫らしてはいないものの。けれどもその表情はどこまでも暗く、今のデュエルの敗北を必要以上に重く受け止めているのだろうか。
そう…トッププロである自分が、まさかまだプロにもなっていない高校生に搦め手を使った挙句に真正面から叩き潰されるだなんて…
…と、トッププロにあるまじき失態を見せてしまった自分を、スノウはどこまでも責めている様子で…
「…綿貫さん…私、今度のチャンピオンズ・リーグは辞退いたしますわ…」
「ぬぉ!?」
だからこそ、鼻を啜りながらもようやく言葉を漏らしたスノウのその発言に、綿貫が驚いてしまったのも無理はない。
「な、何を言うんじゃスノウ!お主の出場は既にほとんど決定しておるんじゃぞ!?」
「でも、まだ確定してはいませんわ。それに、噂では学生を…天城 遊良を出場させるというじゃありませんか…」
「そ、それは…」
「天城 遊良と言えば、さっきの天宮寺 鷹矢と互角の力を持つ子だとか…私、完全に自信をなくしてしまいましたわ。正直、今学生と…天城 遊良と当たったら、きっとこのデュエルを思い出してしまいそう…」
「じゃが、お主の出場は世界中が熱望しておる。アネモネちゃんに何と言ったら良いか…」
「いいえ。母ならきっと、こんな不甲斐ない結果を見せた私に出場を辞退するよう勧めてくるでしょう…むしろ、もう『決闘世界』に提言されていらっしゃる頃かも…お母様なら、やりかねませんわ。」
「む、むぅ…」
「…それに、言い訳できませんわ。彼が『No.103』の効果を発動した時…私が『しらひめ』ではなく『カンザシ』の効果でソレを受けていれば…彼のダーク・リベリオンの効果も『しらひめ』で防ぐ事ができ、結果は変わっていたかもしれませんもの。それに、『No.103』が現れたとき…彼には『隙などありません』と言いましたけれど、実は『No.103』の美しさに心奪われ動揺してしまいましたの。だから『No.103』をリリースし奪ってしまった…あそこでティアドロップの効果を使わなければ、ダーク・リベリオンをリリースできていた。でも、ソレを私はできなかった…それは言い訳の仕様が無い私のミス、プロとしてあるまじき失態です。これもお母様が許してくれるはずありません…確実に叱れることでしょう。」
「スノウちゃんや…」
しかも、ソレが単なる自暴自棄などでは断じてなく…
スノウが自らの失態とミスと、そしてトッププロとしての不甲斐なさを客観的に理解し、把握し、そして受け入れてしまったからこそ―
スノウが、選出がほぼ確定していた『チャンピオンズ・リーグ』への出場を辞退するなどと口走ったことを、綿貫は痛く理解してしまったのだ。
そう、あのデュエルの決着を見たときに、綿貫だって思ってしまった。もしスノウが『No.』に拘らず、『六花』としての動きで終始攻めてきていたら…デッキの動きがチグハグになってしまう『No.』に囚われることなくデッキのポテンシャルを発揮しきれ、鷹矢に遅れを取るなんて姿は決して見せなかったはず。
…それはあらゆる効果に連動して自分のカードまでも無効化してしまう『No.23』との噛み合いの悪さもそう。そのせいで彼女も行動が制限されたり、逆に『No.』を使うことを頭に入れすぎて『植物族』のみしか呼び出せなくなる『六花』の強力な効果との噛み合いがわるくなったりと…
とにかくあのデュエルは、トッププロが高校生相手に見せるようなデュエルではなかったと言う事を客観的にデュエルを見ていた綿貫も、そしてデュエルをしていたスノウもまたわかっているのだろう。
…しかし、その言い訳が通用するのは精々アマチュアまで。
例えプロならば、どんなカードを渡されてもそのポテンシャルを発揮し周囲の望むデュエルを行わなければならない。それがプロとしての努めであり、プロとしての誇りであり…プロであるが故の、逃れられない責任でもあるはずで。
それもスノウはただのプロなどではなく、最前線で戦うトッププロであるのだから…
そんなデュエリストが、鷹矢を陥れる為だけに使った『No.』の所為で逆に負けましたなどと言う事など。例えデュエル終了後の誰もいない廊下であったとしても、口が裂けても言えるはずもないのだから。
だからこそ…
「じゃったら、儂からアネモネちゃんに一言…」
「綿貫さんが…お母様に進言?え、出来るのですか?不機嫌なお母様に…綿貫さんが。」
「あ、いや………む、無理…じゃな………不機嫌な時のアネモネちゃんは誰にも…トウコ以外には誰も…手が、つけられん…」
「でしょう?ですから無理な話ですわ。お母様が尊敬されている『烈火』様のお話ならばともかくとして、例え私が抵抗してもお母様の手で結局は私のチャンピオンズ・リーグ出場は白紙に戻される…でしたら、せめてケジメは自分で取りますわ。私も…一人のプロなんですもの。」
「わかった…お主の決意がそこまで固まったのならばもう儂からは何も言うまい。スノウちゃんや、来期が始まるまで少し戦場を離れて休むが良いぞ。お主、ここの所働き詰めじゃったからのぅ…この機会に、少しくらい羽を伸ばしたところで誰も文句は言えんじゃろうて。」
全てのプロデュエリストの父であり祖父であり曽祖父でもある古老の『妖怪』が、心を傷付けられた可愛い可愛い娘へと…
慈しみの心にて、少しばかりの休息を提案した…
その時だった。
「え、休んでもいいんですの!?でしたら是非ともやりたいことが出来ましたの!さっきの『No.103』!あのお美しいカードの開発を今から打診いたしましょう!?ね?ね?お願いしますわ綿貫さん!私、あのカードがどうしても欲しいんです!私がテスターに立候補しますから、決札社の玖我社長にご連絡とっていただけませんこと!?」
「フォ!?」
一転…
先ほどまでの、今にも泣き崩れそうだった表情から即座に一転。
銀幕の女優も顔負けの表情の切り替わりを持ってして、今度は何やら綿貫に対し辛抱堪らんと言わんばかりの剣幕にて攻寄り始めた雪霜 スノウ。
…休んでも良いと言われた途端に、この切り替わりの良さは流石は最前線で戦っているトッププロとしか言いようがないものの…
けれども、既に言質は取ったと言わんばかりのままに。
スノウはそのまま、幼子の時分を再現するかのようにして…全てのプロの祖父でもある老人へと、猫撫で声で甘えるだけ。
「ね?ね?おじいちゃまなら出来るでしょう?ねぇお願いですわぁ!私に『No.103』を一刻も早く下さいまし?」
「お、お主…も、もしかしてチャンピオンズ・リーグに出るより、一刻も早くさっきの『No.103』が欲しくなっただけなんじゃ…」
「あら、心外ですわ。それはそれ、これはこれに決まっているじゃないですか。でも…うふふ、あの美しい『No.103』に関しては、誰にも先は越させませんと決めましたの。だからお願いいたします、決札社が一番仕事が速いんですの、私の為にお願いいたしますわおじいちゃまぁ。」
「お、おじいちゃまは止めんか…お主にそう言われると断れんの知っておるじゃろうに…と言うか、なんで儂から玖我君に話を通すんじゃ?お主なら、マネージャーから一報でも入れさせれば手続きなしで優先的にテスターに…」
「いいえ、いくら婚約者相手でも、正式な依頼は手順をちゃんと踏まないと。向こうも仕事ですし。」
「ブッ!?こ、婚約者ぁ!?雪霜家のお主が、く、玖我家の栄震君とこ、婚約じゃとぉ!?」
「あら、言ってなかったかしら。」
「聞いておらんわ…こ、これも時代かのぅ…玖我と雪霜がくっ付くなぞ、お主らのご先祖たちが聞いたら卒倒するぞい…」
「それより早く玖我社長にご連絡してくださいまし?ねぇ早く早くぅ!」
「わ、わかったわい、引っ張るでないわ………全く、したたかなのは母親譲りじゃのう…」
心機一転。
先ほどまでの落ち込みようはどこへやら。これまで碌に休みも取れていなかったゆえの反動か、綿貫に『休んでも良い』と言われたことに対しスノウは少々過剰な反応を見せながら…
新しく見つけた目標の為に、再びその足で立ち上がったのだった。
―…
その夜…
すっかり日も落ち、これから深夜にかけて益々夜も更けていくであろう時間帯。
「ほれ、着いたぞい。…全く、遠慮なしにバクバク食いおってからに。」
「ジジイが好きなだけ食えと言ったからだ。言質は取ってある。」
プロテストの喧騒も一段落し、トッププロに勝利したご褒美という名の名目でデュエリアにある超高級レストランで綿貫に夕食をご馳走してもらった鷹矢は…
明日の決闘市への帰還に向けて休む為、昨日から宿泊しているホテルに到着していた。
「ま、アレだけ食べればお主も満足じゃろうて。何しろあの店のシェフは若いながらもデュエリアの美食コンクールで何度も優勝しておる。実力は折り紙つきじゃ。」
「うむ、中々良い味だったと思うぞ。だがスープと肉料理の深みは遊良の作った飯の方が上だったな。特に肉料理だ…ワインと肉のマリアージュは無限にあるが、あの牛肉を煮込むのならばもっと南の方の重めの赤で煮込み仕上げるのが正解だった。だがあの店のは少々ソースがフレッシュ過ぎた所為もあって口当たりにほんの少しだが余韻が足りていない。遊良ならば、もう数年熟成させたワインで煮込みつつソースにも手を加え完璧に仕上げていただろう。」
「…何を知ったか振りしとるんじゃこのド阿呆、お主に美食の何がわかるんじゃ。」
「む?事実を言ったまでだが?ジジイこそ遊良の料理の何を知っている。」
「酒も飲めんガキが知ったかぶりをするなと言っておるんじゃ。大体お主、良いワインなんぞ飲んだ事もないじゃろ?」
「だから何を言っているのだと言っている。ウチにはジジイが集めた酒が飲み切れんほど大量にあるのだぞ?あの酒道楽が集めた古今東西、あらゆる種類の酒が専用の地下室に保存されている…それを遊良が料理に使っている、正直に言って、さっきのレストランよりも扱っている酒は上等のモノばかりだ、ウチにある酒は。」
「む…確かに鷹峰の集めた酒ならば…って、そんなコトはどうでも良いんじゃ、それより儂が言いたいのはじゃな、何でお主のようなガキが酒の味を知っておるのかと言う事であって…」
「指摘する点はまだまだあるぞ。見栄えも食事の一つだ、食器の磨き方も丁寧だったが少々甘い部分があり新人の教育が足りていない点とそれから…」
「わかったわかった!…そう言えば【王者】の孫じゃったのお主…どうりで目と舌が肥えておるはずじゃ、赤子の頃から余程美味いモン食って育ってきたんじゃな…じゃから、そんなお主がそれほど絶賛する天城君の料理に儂の方が興味沸いてきたわぃ。」
「わかればいい。だが中途半端に美味い飯を食ったおかげで腹が減ってきたな…遊良の飯を思い出したら、早く家に帰って飯が食いたくなったぞ。」
「…お主…アレだけの料理をアレだけ食っておいてまだ食い足りんじゃと?…仕方ないのぅ、後でルームサービスでも頼むが良い。どうせお主にかかる料金は全て『決闘世界』持ちじゃからな。」
「うむ。」
そして、車を降りつつロビーに入りながら…そんな他愛無い話を続けている、天宮寺 鷹矢と綿貫 景虎。
鷹矢を送り届けるために一緒にロビーを歩く綿貫の姿は、傍から見れば曽祖父と曾孫の微笑ましい一時のようにも見えるものの…
しかし、ソレはあくまでもプロデュエリスト達の父であり祖父であり曽祖父のような存在と呼ばれている綿貫が、彼の本当の祖父ではありえない様な甘すぎる対応にて鷹矢に寄り添っているからこそ繰り広げられているとも言えるのだろう。
「それより鷹矢…お主、春の任命式だけは『絶対』に遅刻するでないぞ?ぜぇっっったい、じゃぞ?」
「む?」
すると、鷹矢を送り届け終わったであろう綿貫が。
高層ホテルゆえに到着まで時間がかかっているエレベーターの前で、鷹矢へと向かって明らかに念を押すようにして…ふと、そんな事を言ってきた。
『任命式』…
綿貫の言ったソレは、新年度の始まりと同時に行われる新人プロの最初の仕事でもある。
感覚としては、新社会人たちが行う入社式に近いモノとも言えるだろうか。厳しいプロテストを合格し晴れてプロデュエリストの資格を得た者達が、全国に散らばる前に一度デュエリアの地にて一同に集い…
プロデュエリストを統括している超巨大決闘者育成機関『決闘世界』により、大勢の来賓たちの前でプロデュエリストとして『任命』されることで初めて新人たちは正式な『プロデュエリスト』と名乗る事が許される、古来より続く正式な式典。
…それが、いわゆる『任命式』と呼ばれるモノ。
そして、綿貫が念を押して鷹矢へとソレを伝えてきたのにも理由がある。
そう、式典と言うだけあって、その場には毎年多くの著名人や各界の有名人なども招待されている。それは現役のトッププロデュエリスト達は勿論のこと、政界の重鎮や財界のドン達、諸外国からの使者だったり時には王族やロイヤルファミリーや貴族だったり…
更には、稀に都合のついた【王者】も招待されていたりと、とにかく決して無碍には出来ない者達が来賓として大勢招待されているモノだから、そんな者達の前で主役である新人プロが『欠席』や『遅刻』と言った失態を犯すわけには断じていかないのだ。
かつて…その場にて、若さに任せた勢いにて『とある来賓』の怒りを買った生意気な新人プロが居たと言う。しかし、その新人プロはいつの間にか文字通り『消えて』しまっていたらしく、様々な容疑者が浮かび上がったもののその全員が簡単には裏を暴けるような立場ではなかったために、その事件はいつの間にか自然と闇に消えてしまったと言う事もあった。
…だからこそ、綿貫は念を押す。
普段から遅刻の常習犯、誰に対しても不遜な態度しかしないこの恐い物知らずは、そんな都市伝説を知っていてもなお態度を改めるはずもない。ソレ故、悪い意味で祖父を超える器を持ったこの若き大馬鹿者にはいくら釘を刺しても刺したりないのだとして…
本気の声にて、冗談では無いのだとして声をかけているのであり…
しかし…
「わかった。出来る限り善処する。」
「ぜんっ!?ば、馬鹿モン、何が善処するじゃ!『出来る限り』じゃ困ると言っとるのがわからんのか!?…全く、本当に鷹峰にそっくりな奴じゃわい…いんや、大和の目が光っとった分、大人しくさせられとった鷹峰の方がまだ幾分マシじゃったわぃのぅ…」
「む…あんなクソジジイと俺を比べるな。しかもクソジジイの方がマシだっただと?ジジイ、笑えぬ冗談は言うものじゃないぞ。」
「そういうところじゃぞ。じゃが本当にどうしたもんかいのぅ…誰かお主を見張り、ちゃんと目を光らせてくれる者がおらんと任命式に本当に遅刻してきそうじゃ。」
それでも、事態を全くもって重く受け止めていない鷹矢に対して。
呆れつつも見捨てられるわけもない綿貫が、どうしたモノかと頭を抱え悩み初めてしまう。
「見張り…遊良ではダメなのか?」
「ダメに決まっとろうが!その頃は新学期が始まっておるんじゃぞ?…それにその頃は天城君もそれ所じゃなくなる頃じゃろうし…」
「む?それ所ではなくなる…それはどう言う事だ?」
「お主には関係ないわい。それより…うぅむ…大和の猫の目のようなモノを持つ者となると…」
その小柄な体躯を更に折り曲げ、頭を抱え本気で悩み始めてしまった『妖怪』綿貫 景虎。
…白い髪と白い髭に覆われたその奥底にある今の彼の表情は、果たして一体どのようなモノとなっているのだろう。
未だかつて、ここまで決闘界の父と呼ばれる『妖怪』を悩ませた者は居たのだろうか。いや、これまで存在していた聞かん坊や暴れん坊、やんちゃ者や無法者であろうとも、きっと綿貫をここまで悩ませた者は居なかったのではないだろうか。
そう思えてしまうほどに悩んでしまっている綿貫の姿は、およそ誰も見たことのない姿となりて夜の静かなホテルのエレベーター前で小さく鎮座してしまっており…
すると…
悩みで頭を抱えている綿貫と、ソレを全く気にも留めていない鷹矢へと向かって。
…不意に、そして静かに。
彼らの後ろから、儚くも小さな声がかけられて―
「…私が付き添うわ。」
「ほ?」
背後から、鷹矢と綿貫へと向かってかけられた声。
それは儚さの中に確かな可憐さを感じさせるような、うら若き乙女の声であった。
…そして、反射的に。
綿貫と鷹矢が、その声のする方へと振り向いた…
そこに、居たのは―
「私も、決闘市から行くから…私なら、彼を一緒に会場まで連れていける。」
決闘学園ウエスト校3年、竜胆 ミズチ。
今日のプロテスト最終試験にてプロに勝利し、堂々の『合格』を勝ち取った白髪で華奢な体躯をした少女が、そこには立っていた。
外で夕食でも取ってきたのだろうか、鷹矢たちの後から現れつつ…
学生らしくウエスト校の制服を身に纏い、話は聞いたと言わんばかりに声をかけてきた今のミズチの表情は…プロテストに合格したという自信も相まって、どこか堂々としている風にも見える。
「竜胆 ミズチ…お前もこのホテルだったのか?」
「…えぇ、アナタと一緒。…一泊して、明日の便で決闘市に帰るの。…今日はお疲れ様。トッププロ相手に良いデュエルだったわ。」
「ぬぅ…俺としてはあまり良いデュエルだったとは思えんのだが…」
「…いいえ、凄かったわ。あの『薄氷の麗人』に勝ったんだもの。本当に良いデュエルだったわ…流石ね。」
「フッ、お前にそう言われると少しは気が紛れる。ならば素直に褒め言葉として受け取っておくぞ。」
「…ふふっ、えぇ。」
…そして、現れたミズチは鷹矢へと向かって、先の『薄氷の麗人』と鷹矢のデュエルの感想を述べたかと思うと。
そのまま、先ほどまで頭を悩ませていた綿貫へと向かって…
その儚くも気怠げな雰囲気を持ってして、続けて口を開くのみ。
「…私が彼の家に迎えに行って、そのままデュエリアまで付き添う…会場は今日のスタジアムだし、泊まるところもこのホテルだから…朝、私が彼を起こせば多分…大丈夫。」
「お主は…ほっほ、大蛇の妹のミズチじゃな?なんじゃなんじゃ、お主ら知り合いじゃったのか。しかしなるほど…確かに、竜胆の『眼』を持つお主ならばある意味適任かもしれん。それに来年度の決闘市出身のプロはお主ら2人だけじゃしのぅ…うむ、お主が引き受けてくれるならば任せられそうじゃ。」
「…それと、明日の帰りも空港まで私が一緒に行くわ。私には視えるの…あなた、明日の朝も寝坊して…飛行機に乗り遅れる。」
「なんだと!?」
「待てい…鷹矢、お主どこまでポンコツなんじゃ。」
「…安心して。ちゃんと私が起こしてあげるから。それに…朝に弱いところも…」
「む?」
しかし、言葉を続けるに連れて。
何やら、鷹矢へと向けていた視線を不意に逸らしつつ…次第に、その言葉を小さくしていきながら俯いてしまったウエスト校3年、竜胆 ミズチ。
俯き加減に隠された、その白髪と同じくらい白い彼女のその頬が…ほんのりと赤みを帯びているようにも見えるその姿は、果たして見間違いなのかどうなのか。
…しかし、当の鷹矢はと言えば。
何やら全く何もかも分かっていなさそうな雰囲気にて、突然声を窄めてしまったミズチに対し…図太くも鈍感に、その頭上に疑問符を浮かべているような素振りを見せているだけではないか。
…それは若さゆえの特権か、はたまた甘酸っぱい1ページか。
夜のホテルのエレベーターの前で、制服を着た高校生の男女二人が妙な雰囲気にて向かい合うその光景は何とも筆舌に尽くし難い、それでいて誰もが一度は目にしたことあるであろう柔らかい雰囲気を纏っているのはきっと気のせいなのでは断じてないはず。
そんな、何やらむず痒くなるような若者特有の空気感を纏う二人を見て…
「フォフォッ、若いのぅ、若いのぅ。」
…と、悠久を生きている『妖怪』は…
何やら微笑ましそうに、しかしどこか嬉しそうにその口を緩めていたのだった―
―…