遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep2「当たり前の日常から」

「あれ…トレード・イン一枚どこやったっけ…」

 

決闘学園イースト校。その内一つの教室で、遊良はボソリと呟いた。時間にして午後の最後の授業がもうすぐ終わるという頃だというのに、教室内に遊良以外の生徒は誰一人としていない。

 

なぜ遊良一人しか教室にいないのかと問われれば、授業がもうとっくに終わっていて遊良が居残っているとか、そう言うわけでは断じて無い。

 

今の時間は移動教室の時間で、それぞれ召喚別に分かれての授業が行われている真っ最中なのだから。

 

遊良達の通うこのイースト校では、普通授業やデュエル実技、デュエル理論や基本戦略授業のほかに、各Ex適正ごとの特別授業があり、自分の召喚法にあった戦術や、苦手な相手の対処法などを鍛えるとても重要な授業である。

 

たまに、講師として現役のプロデュエリストも来ているらしく、授業内容がとたんに豪華になるのも魅力だ。

 

無論、鷹矢やルキもその例に漏れず他教室で授業を受けている。鷹矢など、入学して直ぐの召喚別授業で3年生のトップ生徒を倒しているために、まだ一年生だというのに時には教える側に回っているというのだから、本当にデュエルに関しては侮れない。

 

しかし、そんな幼馴染と違い、遊良は自分の教室に残ったままだ。それは、EX適正が無い遊良にはどの授業を受けることも許されていなかったために。

 

別に、EXデッキからの特殊召喚を行えないからといって、シンクロなどの戦術を学ぶこと自体は遊良にとって全くの無意味ではない。相手の対策や、戦術の見破りに大いに使えるのだから、寧ろ遊良は全ての召喚別の講義に出たいくらいなのだ。

 

しかし、どの教師も遊良が自分の授業を受けることを認めてはくれない。皆口を揃えて「君にとっては意味がないことだろう。」と関わろうとしなかった。

 

筆記などの学業成績において優秀な成績を取り、デュエル実技の戦績もかなり良い部類に入っている遊良だというのに、教師からの印象も低く見られているのは事実だ。

 

幼馴染たちは別として、そもそも教師含めて他の誰一人として遊良がプロデュエリストになれるとは思っていない。それなのに未だデュエルを続けている遊良を、哀れな目で見ている教師さえいる。EX適正、EXデッキを扱うというのはこの世界に住む者にとっては、最も当たり前なことなのだから。

 

まぁ、初等部の頃からそうなのだから流石にそういう風潮にも慣れた。そういった教師に対しても半ば諦めてもいるが。

 

 

「…お、あったあった。よかったぜ、最近ドローソースが高くなってきてるからなぁ。でもトレード・イン3枚は多いか?いや、レベル8多くしてるから逆に無いと事故率があがるなぁ…」

 

ブツブツと自分のデッキを見直しながら調整をする遊良。遊良が今使っているデッキは「冥界の宝札」を軸にしたレベル8の最上級モンスターを主力にしたデッキだ。

度々調整を繰り返してはいるが、デッキの中のモンスターがほとんど大型のデッキだけあって扱うのが難しい。

 

しかし、その爆発力は凄まじく、今朝行ったデュエルのように一方的に相手を倒すことも出来る。そうするために常にデッキのバランスを考え、調整を怠らない。

 

昔、このデッキを鷹矢相手に試したら、「どうして回せるのか不明だ。」とボヤいていたくらいだ。遊良も回すために集中力を切らせないが、最上級モンスターのポテンシャルは決してEXデッキのモンスターにも劣らないと考えている。

 

 

―『自分に出来る戦いを考えろ、常に思考を切らすな。考えることを止めた時がお前の最後だ。』

 

 

遊良にデュエルの基礎を叩き込んでくれた人物も、そう教えてくれた。厳しい人だったが、今頃どこにいるのやら。

 

そして、もう日も落ちてきて授業が終わる鐘が鳴る。しかし、鐘がなったことに気がつかずにまだ自分のデッキをいじっている遊良。

 

―ザワザワ…

 

次第に、授業が終わって下校の生徒で外が賑わってくる。特別授業があるときは、その授業が終わると皆自分の教室には戻らず自由に帰宅するため、誰も自分の教室には戻ってこない。

 

「…あれ、もう終わってたのかよ。…んじゃ帰るか。」

 

そんなざわつきで、やっと遊良は授業が終わったことを知った。出していたデッキやカードを片付けて、帰り支度を始める。外のざわつきも次第に収まってきて、遊良は教室を後にしようとした。

 

「今日は魚でも焼くかー。昨日鷹矢が肉バカ食いしたからな。肉は当分禁止だ。」

 

 

所帯じみたことを呟いて教室から出ようとする。朝に弱く、料理も出来ない鷹矢の面倒を見るのもこれまた慣れた物だ。今まで一体どれほど迷惑をかけられたことか。

 

もし鷹矢から決闘を取ったら何が残るのだろう、そんなことを思うと将来が若干心配になる。

 

…まぁ、プロにでもなって稼いでいるのだろうなと、そんなことを考えながら遊良は教室の扉に手をかけて出ようとする。

 

まさに、そんな時だった。

 

 

―!

 

 

「あ…な、なんだ…や、やべ…」

 

突然、地面が大きく揺れる感覚が遊良を襲う。立っているのも困難なほどの、まるで大地震だ。

 

ドアの取っ手に捕まり、倒れそうになる体を押さえる。揺れと共に、頭の中をシェイクされたような気持ち悪い感覚が上ってきたが、吐き気を抑えてなんとかその場に踏ん張る。

 

 

―始めようか…

 

 

そんな最中、揺れる頭蓋内に、直接聞こえてくるような声を感じた。

 

 

「…はぁ?…な、なにを…」

 

 

―時が来た…

 

揺れている状態のせいか、思考が回らない。頭の中が真っ白になり、考えることが出来ない。掴まっているとはいえ、もう足に力が入らず倒れてしまいそうだ。

 

「い、意味が…わからな…」

「どうした遊良。そんなとこに捕まって。二日酔いか?」

「あ…?」

 

 

そんな時、不意に聞きなれた声が聞こえた。すると不思議と、スーッと気分も良くなって、揺れも収まった。

 

そして、遊良は聞こえた声に対して返答する。

 

 

「俺は未成年だっての…おい鷹矢、今なんか変な地震が…」

「変な地震?何を言っている。変なのはデッキの中身だけにしておけ。」

 

 

キョトンとしたように、遊良の言葉を否定した鷹矢。憎まれ口や冗談を言うのが好きな奴だが、どうやら本気で今の地震を感じていないようだ。あれほどの大地震だったというのに、まるで遊良しか揺れていなかったかのように。

 

 

「お前人のデッキをなんだと思って…でもそんなバカな、今確かに…」

「寝ぼけたのか?折角一人で寂しいお前を迎えに来てやったんだ。いいからさっさと帰るぞ。腹減った、肉だ肉。」

「んだとこの馬鹿。あ、お前は肉当分の間禁止だからな。」

 

 

夢、ではない。あれほどはっきりと感じたのだ。…そう思うが、しかし鷹矢にこうはっきりと言われてしまっては、これ以上追求するのも面倒だ。

 

それに、もしかしたらストレスや疲れているだけ、そういうことも考えられる。

 

なにせ今朝から面倒な奴を相手にしたのだ、気付かずにストレスが溜まっていたのかもしれない。しかし、幻聴まで聞こえてきたとなれば、病院にでも行った方がいいか…そんなことまで考え始める遊良。

 

 

「なんだと!?だとしたら俺は何を食えばいいのだ!答えろ遊良!」

「魚を食え!DHA舐めんな!文句言うなら飯無しだからな!水でも飲んでろ!」

「…この時期はやはり魚だ。脂の乗りが違うからな、うむ!」

「わかりやすい奴。」

 

 

しかし、そんな考えも鷹矢の相手をしていれば瞬間的に忘れてしまった。他愛ない会話をしながら二人で学校を後にしようとし、そこに同じく遊良を迎えに来たのだろうか、ルキが合流した。

 

 

「今日の晩御飯はお魚?やったね、昨日私の家もお肉だったから。」

「え、何?ルキも食っていくのか?」

「なーにー?言ってあったじゃん。今日親出かけていないからそっち泊まるって!だから朝に鷹矢起こすついでに荷物も置いてきたんだからね!」

「そうだったか?ルキよ、俺は全く全然、何も聞いていないのだが。」

「え?鷹矢には最初っから言ってないよ?言ってもどうせ忘れるもん。」

「あー…そういえばこの前おばさんから電話来てたっけ。朝のデュエルですっかり頭から飛んでた。」

「もー、しっかりしてよ遊良まで。鷹矢と一緒に住んでからボケが移ったんじゃない?」

「…本気で嫌だそれ。」

「おい、ボケとは何だ。俺はボケてなどいないぞ!」

「そんなことより、私のお魚は一番大きいのね!」

「そんなことだと!?ちょ、おい待てルキ!」

「やーだよ!この寝ぼすけ!あははッ!」

 

 

逃げるようにしてキャッキャと駆け出したルキを追う鷹矢。そしてそれをいつものことの様に、どうでも良い顔で眺める遊良。昔から変わらない光景だ。

 

普通に考えて年頃の男2人が住む家に、これまた年頃の女の子が泊まるなど親に許可されないことだろう。

 

しかし幼少期からの付き合いのせいか、はたまた幼少期に起こった「ある事件」のせいか、ルキの親は男所帯のこの家に泊まる事を全く心配していない。いや、むしろ親の目の届かないところでも、遊良が見ていれば安心とさえ思っているという。

 

昔から変わらない空気間、今更変えようなどとも思わない。この3人でいることが当たり前になりすぎていて、年頃にありがちな妙な雰囲気にもならないことが遊良は楽で落ち着いていた。

 

「おい、俺は買い物して帰るから先帰ってろよ。」

「えー、手伝うよー。あ、でもアイス食べたい!スーパーの横のアイスクリーム屋さん、美味しいって評判なんだよ!」

「遊良、俺はアイスよりもタコ焼きがいい。」

「何が手伝うだよ。ったく、それが目的じゃねーか。これから晩飯だって言ってんだろ。」

「じゃあ食ってるから買い物は頼んだ。」

「頼んだよ!」

「手伝う気すら無くなったか。まぁいいけどさ。」

「ごめんってー。」

「うむ。」

「うむ、じゃねーって。」

 

そう言って、笑いあいながら一同は買い物に向かった。

 

 

―・・・

 

 

 

「おじさん!私これとこれのダブルで!」

「ソース多め。」

 

鷹矢とルキは宣言通り、自分の好きな様に食べていた。そんな二人を置いて、遊良はスーパーに入っていく。

 

本当に自由な二人だと、改めて思う。鷹矢はマイペースで所々抜けていて、ルキは明るく自分のしたいことに正直だ。

昔は、むしろ二人が自由だからこそ、自分のような奴とも幼馴染ができるのかとも思ったことがある。

 

…今そんなことを言ったら絶対に二人に殴られるだろう。ルキは泣きながら怒って、鷹矢は真顔で怒るだろう。

 

EX適正が無いと医師に宣告され、今まで仲が良かった友達とは近づくなと警告され、デュエリストには絶対になれないと大人達に通告された。鷹矢達さえ例外なく遊良との付き合いを控えるように忠告されていたという。

 

遊良自身も、そんな摂理に生きる気力さえ無くしたこともあった。

 

しかし、デュエルを続ける希望となった「きっかけ」があったとはいえ、今の遊良が自分を保っていられるのは、あの絶望した幼少期に自分を守ってくれ、傍に居続けてくれて、今では無くてはならない2人の存在があったからだろう。

 

(まぁ、今さら礼なんて言わないけど。)

 

常に感謝の意は持っている。しかしそれを今更口にすることは無い。今までも、これからも、3人で居られたら、そう思って。

 

「よし、こんなもんか。」

 

買い物を済ませ、スーパーから出る遊良。さっさと2人と合流して家に帰ろう。

 

 

いつものように…

 

 

―しかし、その当たり前は、突如崩れ去ることになる。

 

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