遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep30「決闘祭、波乱ー渦巻く決意」

「…よし。」

 

 

まだ選手達の集合時間まで時間に余裕があるという時刻。まだ観客も会場入りできない時間に、自身の控え室で目を瞑っていた遊良がその目を開けて一息ついていた。

 

…その頬に微かに汗を滲ませ、まるで一試合終えたあとのような疲労感を見せて。

 

もうコレで何度目になるだろうか。

 

ウエスト校3年の竜胆 大蛇…彼の一回戦・二回戦の戦いを、何度も何度もその脳裏に反芻して…そして、ソレに対して自分が取るべき対策や戦法を思い浮かべ、そのイメージトレーニングを重ねていたのだろう。

 

師の教えである、常に『考える』ことを、決して怠らぬように。

 

 

―【決闘祭】3日目、準決勝当日。

 

 

試合は午後から始まるとはいえ…まだ集合時間にも早いというだけあって、自分の試合までも相当の時間があると言うのに。

 

…既に臨戦態勢を整えるかのように、全く集中を切らさぬ遊良の頭の中には、対戦相手である竜胆 大蛇のデュエルへの対策で一杯になっている様子。

 

当然、まだ眠そうだった鷹矢もこの時間から一緒に連れてきていて…会場入りしてすぐにスタッフが『逃げ出さない』ように連行していたから、初日のような心配などなく。

 

 

「…もう一度だ。今度は違うパターンで…」

 

 

再びその頭の中に、これから戦う対戦相手を思い浮かべて。

 

 

「…爆発的な攻撃力、どれも油断できない豊富な融合体、出てくる前に止めるか、攻撃する前に破壊するしかないか。」

 

 

昨年の【決闘祭】準優勝者。その称号は、決して軽いものなどではないだろう。

 

この広い決闘市の、20万人を超える学生達の中で…双璧を成している高い壁。当然、簡単に勝てるような相手では絶対になく、自身の力を全て持ってしても…勝てるかどうかなど、遊良自身にも全く分からないのだ。

 

そう、ソレほどまでに、遊良が対戦相手である竜胆 大蛇から感じた印象は凄まじく…

 

相手の戦意や感情の起伏と言うモノは、デュエルの中において戦況を読み取る重要な要素であるのだが…それが全く感じられないというのは、対戦していても恐怖心しか生み出さないこと。

 

 

本当の姿を見せぬ『演者』、実力の底を悟らせぬ『強者』。

 

 

竜胆 大蛇にとって、その振る舞いの全ては戦況をコントロールするためのツールであり…心の内が表に現れる、このデュエルという戦いにおいて、その本心を隠れさせて出さないということ自体が異常そのもの。

 

 

「とりあえず、防御に徹するのだけはダメだ。【DNA改造手術】…十文字さんクラスならまだしも、いくらこっちが守りを固めてもソレを簡単に抜けてくる。かといって、攻撃力での殴り合いじゃあ絶対に勝てないし…」

 

 

昨年優勝者の十文字 哲が、絶対防御を持つデュエリストだとすれば、竜胆 大蛇が撃ち出す攻撃は…神出鬼没に現れて、そして他に類を見ないほどの巨大な力で、一撃で敵をへし折る威力を持っているモノ。

 

 

―全てをすり抜け、全てを捻じ伏せる、まさに『大蛇』

 

 

この【決闘祭】において、渦巻く決意の大きさや思いが、一体何を巻き起こすのかは誰にも予想できない。当然遊良だって自身のためや師のために、絶対に負けるつもりなどは無く…何が何でも勝ちに行くために、こうやってイメージトレーニングに余念が無い。

 

そんな、今日も自身の前に立ちふさがる高い壁を目の前にし、己の負けられない理由を遊良は胸に刻みこんで…戦う意思、その決意をより一層強くして、戦いの時を待っていた。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

『いよいよ準決勝となりました!皆様、激闘をその目に焼き付ける準備は出来ているでしょうか!?』

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

実況の声に同調し、3日目だというのに衰えを感じさせない観客達の声が、ここセントラル・スタジアムに響き渡って。

 

 

 

―決闘祭3日目、『準決勝』

 

 

 

日を重ねる度に増す戦いの激しさと、ソレに伴って研磨されている選手達の実力の質が、より一層見ている者達の興奮を呼び覚ますのか。いよいよ準決勝まで到達したというだけあって、その声は留まることを知らず。

 

そう、これから呼ばれる選手2名の名へと、その期待値を乗せ続けて。

 

 

 

イースト校1年、天城 遊良

VS

ウエスト校3年、竜胆 大蛇

 

 

 

その2名の選手の名前がスクリーンやモニターに映し出されると同時に、会場内へと入ってくる選手を見て…誰もが一回戦・二回戦以上の地響きを沸きたてていた。

 

 

 

「…よろしくお願いします。」

「おう。」

 

 

その中で、お互いにスタジアムの壇上で向かい合う二人。

 

相変わらず、過去の試合の映像だけでは大蛇の実力は測れず、何を考えてどんな手を取ってくるのかも分からない遊良ではあったものの…始まる寸前までイメージトレーニングを行っていたおかげか、探れぬ相手である大蛇を見ても、遊良の気合は十分で気後れしていない様子にも見える。

 

それに対して、大蛇は金髪を地響きに揺らめかせて、いつもと変わらぬ態度を見せているだけだ。

 

その絶えない笑みを浮かべている口元からは、絶対に本心を覗くことは出来ず…実力を探ろうと遊良が視線をぶつけても、抵抗の無い川の流れのように、いとも簡単に受け流されてしまっている。

 

 

(…ダメだ、全然この人がわからない…こんなことは初めてだ。)

 

 

幼少期から、他人に敵意や悪意をぶつけられ続けてきた遊良にとって、『他人』の印象や、敵意のレベルを感じ取るのには慣れていて…きっと常人以上に、観察眼というモノの錬度は高いだろう。

 

しかし、その遊良をもってしても、まったく測れぬ相手が目の前に立っている。

 

戦ったことのない人種を相手に、いくらイメージトレーニングを重ねて気後れは無いとは言え…寄り添える安心感など生まれるはずは無いというのに。

 

準決勝と言う舞台ゆえに、一回戦・二回戦とは比べ物にならない重圧が圧し掛かってきているものの…大蛇はソレを感じていない振る舞いで飄々と立っているのみ。

 

そんな相手を前にしても、遊良とて今更泣き言など言って入られないことは分かっているだろう。

 

 

そんな中で、これから始まる戦いのゴングが、今…

 

 

『それではぁ!【決闘祭】準決勝第一試合ぃ!かいしぃぃぃいー!』

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

切って、落とされた。先行はウエスト校3年、竜胆 大蛇。

 

 

「俺のターン、何もせずにターンエンドや!」

「なっ!?」

 

 

大蛇 LP:4000

手札:5→5枚

場:無し

伏せ:無し

 

 

始まってすぐに、そのターンを終えた大蛇。

 

その意味のわからぬプレイングに、期待をこめていた観客達もあっけに取られた様子を見せて…にわかにざわめきを起こすものの、多分それ以上に、驚いているのは対戦している遊良自身に違いない。

 

竜胆 大蛇、確かに何をしてくるのか全く予想がつかない男ではあるが、伏せカードも何も出さずにそのターンを終えることなど誰が想像できようか。

 

ここまでの道筋を、その実力でもぎ取ってきた男が…よもや手札事故など起こすはずが無いという事は、誰の目にも明らかな事実。しかし、ただターンを渡された遊良にしてみれば、不気味としか言い様がない。

 

 

(…な、何を考えている?【速攻のかかし】…それとも【バトルフェーダー】でも持っているのか…)

 

 

確かに、竜胆 大蛇の扱う【サイバー】は後攻に強いと言えるデッキではあるものの…だからと言って、先行をこんな蔑ろにするわけがないだろう。

 

そのプレイング一つとっても、何か裏を感じずにはいられないのか。そんな考えが遊良の頭の中でグルグルと動いては消え、思考の邪魔をしていた。

 

 

「お前のターンやで?」

「…俺のターン、ドロー。」

 

 

そんな遊良を見透かすように、大蛇に促されて自分のターンを向かえる遊良。

 

しかし、その手は重く…ここで一気に行ったほうがいいのか、まだ準備を整えた方がいいのか。そんな迷いすら生じている様子を見せている。

 

大蛇の場はがら空きで、遊良にとってネックな永続罠である、【DNA改造手術】は伏せられておらず。例え攻撃が止められても、次のターンに堕天使たちが融合素材にされるという事はないだろう。

 

それでも、下手に動いては一瞬でやられることには違いない。ソレを理解してか、遊良は自分の取るべき手を考えたのか、やっと動き出す素振りを見せて…

 

 

「魔法カード、【トレード・イン】発動!レベル8の【堕天使ゼラート】を捨てて2枚ドロー!続けて【堕天使の追放】を発動し、デッキから【堕天使イシュタム】を手札に加える!そのままイシュタムの効果発動!手札の【堕天使アムドゥシアス】と共に捨てて2枚ドロー!…【堕天使ユコバック】を通常召喚!その効果で、デッキから【堕天使スペルビア】を墓地へ送る!」

 

 

流れるような動きで、次々にデッキを回転させていく遊良。

 

場に現れているのが、小さく力の弱い堕天使だけとは言え…相手の出方が分からぬ以上一気に展開してトドメを刺しに行くのは危険だと、そう感じ取ったのだろう。

 

 

気を抜かずに、見極めを。

 

 

何もわからぬ状態で、漠然と攻めることだけは避けなければいけないことを理解し…その警戒を怠らぬまま、遊良はバトルフェイズへと入った。

 

 

「バトル!【堕天使ユコバック】でダイレクトアタック!」

「何や、一気に来ぉへんのかいな。」

 

 

―!

 

 

大蛇 LP:4000→3300

 

 

「…何もしないでダメージを受けた?」

「別にライフは残るんやし、一気に来ないんやったら、たった700くらい受けたるわ。」

 

 

大蛇のその口ぶりから、やはり攻撃を防ぐ手を残しているのだと遊良は確信を持って…いや、それもこの男の『演技』かも知れないことを思い出すと、ここでの正解は一気に展開してトドメを刺しにいくことだったのではと、すぐに後悔が押し寄せてくるのか。

 

 

大蛇の考えが、策が、心が…影も形も全く見えてこない。

 

 

それを改めて目の当たりにし、そうして退治している遊良の心情は如何なるモノなのだろうか。そんな気味悪さのみを感じながらも、早々に攻撃を終えた遊良は、自身の場を整え始める。

 

 

「…く、俺は【堕天使の戒壇】を発動。墓地から【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚し、その効果で更に【堕天使イシュタム】も守備表示で特殊召喚。」

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

「ふーん、守りを固めるっちゅーわけやな。」

「【堕天使イシュタム】の効果発動、LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る。俺はデッキから【背徳の堕天使】を手札に加え、その後【堕天使の追放】はデッキへ戻る…俺は2枚伏せて、ターンエンド。」

 

 

 

遊良 LP4000→3000

手札:6→3枚

場:【堕天使ユコバック】

【堕天使スペルビア】

【堕天使イシュタム】

伏せ:2枚

 

 

大蛇への警戒が益々険しくなってきつつも、遊良には考えられる相手の手に対して、取れる手を打つしか、今は出来ることがないだろう。

 

 

すり抜けてこようとも、なんとしてでも止めるために。

 

 

十文字 哲クラスの絶対防御は無理でも、一瞬だけでもそれに近い鉄壁を何としてでも作らなければと、そう言わんばかりの遊良の表情は…大蛇が如何なる手を取ってこようとも、それに対応しきれると言う自負を纏っているのか。

 

しかし、そんな遊良を見ても、大蛇の態度はまるで変わらず、遊良がいくら持てる力で鉄壁を再現しようとも、まるで応えぬ佇まいを見せていて…

 

 

観客の誰にも、対戦している遊良にも…その真意を悟らせぬよう。

 

 

そう…今、彼の頭に浮かんでいる、一つの出来事。

 

…大蛇の脳裏には、試合が始まる直前の、自身の控え室での出来事が浮かび上がってきていた。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「…お前ら…もっぺん言ってみぃ…」

 

 

およそ、『その感情』を全く隠すことなく声をあらわにして、ウエスト校3年の竜胆 大蛇は自身の控え室内へと言葉を放った。

 

もうすぐ試合が始まるであろう時間、セントラル・スタジアムの観客席もざわめきが大きくなってきているのが、控え室にいる大蛇にだって感じ取れているというのに…

 

戦いに向けて気持ちを入れ替えていた彼の元に、突然入ってきた来訪者が言い放った言葉が、彼の神経を逆撫でしたかの様子。

 

そんな大蛇の眼前には、彼が最も嫌いな『名』を持った3人の人間が立っていた。

 

 

「…あら、聞こえなかったのかしら、今言った通りですわ。」

 

 

紫魔 ヒイラギ

 

紫魔 亜蓮

 

紫魔 大治郎

 

 

すでに負け去って、【決闘祭】から弾かれているはずの学生達が…何故か、勝ち残っている選手とスタッフしか入れない場所へと入ってきていることだって彼には疑問だというのに。

 

それ以上に、彼の『敵』として認識されている『紫魔姓』の人間達が、偉そうに上から目線で放ってきた言葉に憤慨を見せている様子。

 

 

「竜胆 大蛇…この試合、あなたには是非とも負けてもらわないといけませんの。」

「…ちっ、ふざけんなや…お前ら何様のつもりや?」

「…ホホホ、り、『竜胆』程度が何を吼えているのかしら…大人しく紫魔に、尻尾を振っていれば…」

「あぁ!?調子乗りすぎとちゃうか自分ら!舐めた口聞いとるんやないぞワレ!」

 

 

舌打ちを交えた、いつもの飄々とした彼からは想像もつかない怒気をぶつけて、控え室内に充満しているこの空気は…大蛇の声と同調してビリビリと紫魔達の肌を弾いているのが見て分かるだろう。

 

今大蛇に向かって声を発しているヒイラギだって、その空気に当てられているのだろうか、いつもの彼女の声と比べてもどこか上ずっているかのよう…

 

この控え室内に入ってきた紫魔達3人のうち、亜蓮と大治郎はその空気の中で声を発することすら出来ておらず、ただ立っているだけのウドの大木。

 

しかし、それは当たり前なのか。

 

【決闘祭】に出場している以上、勝つことを放棄している選手など居らず…そして、それ以上に大蛇には勝ちあがりたい理由だってあるというのに。

 

彼が目の敵にしている『紫魔姓』の人間から、無理やりにそれを投げ捨てろと命令されてしまっては。聞くつもりも無ければ、ただで済ます気も大蛇には無いことは必至。

 

 

「そこのビビッとる男二人と一緒に、お嬢さんも今すぐにボッコボコにしてやってもええんやで?3対1で襲われたわけやし、正当防衛や。【決闘祭】で負けてった選手と、勝ち残っとる選手…どっちが大事にされると思てんのや?」

「…ッ、それは怖いですわね…」

 

 

伸ばした金髪から除く大蛇の目は、まるで蛇のように鋭く…やや細身ではあるが、幼少期に地獄を見た事もある経験からか、こういった喧嘩事だって彼は相当に場慣れしているのか。

 

当然、役立たずに突っ立っているだけの男2人など相手になる筈も無く、唯一声を出すことが出来ているヒイラギとて、その華奢な体では最初から戦力には数えられないだろう。

 

 

「…でも、聞いて貰うしかないですわ。私達の目的のために…」

「あぁ!?何ゴチャゴチャ言っとるんやこのアマ!」

 

 

そうだと言うのに、ヒイラギは引く様子を見せず…ソレに対して、大蛇は更に苛立った声を出して。

 

いつも本心を隠し、その考えを他人には出さない彼。

 

しかし、目下の『敵』に対して、その敵意をぶつけて威嚇している今の彼は、きっと偽物ではないはず。全て倒すべき敵である紫魔家の人間に対して威嚇する蛇の如く、その感情を剥き出しに。

 

ヒイラギの後ろに控えている亜蓮と大治郎が、その圧力に耐えかねて一歩後ずさった…

 

 

 

…その時だった。

 

 

 

「…では、こちらもカードを切らせて貰いますわ。」

 

 

 

そう…その時、静かに…控え室の扉が静かに開いて…

 

 

そこには、ヒイラギの声に促され、ゆっくりとその中へ入ってきた一人の姿。

 

 

…それは、虚ろな目をした少女であって。

 

 

 

「…な、何でお前がココに来とんねんミズチ、家で寝とったはずやろ?」

 

 

 

その顔を視界に捉えてしまっては、流石に大蛇と言えど、ソレを静めしまうのは仕方ないのか。紫魔達に躊躇無く当てられていた怒気が一瞬収まり、控え室内の空気もやや戻って。

 

驚いたような声を漏らして、大蛇が再度口を開く。

 

 

「おいミズチ!聞いとんのか!おいっ!」

「…」

「何とか言わんかい!何でお前が紫魔なんかと一緒に居んねん!」

「…」

 

 

いくら兄が問いかけても、それに対して帰ってくる妹の声は無い。

 

思いかえしてみれば…昨日の帰りに控え室に迎えにいったときから、どこか様子のおかしかった彼の妹、竜胆 ミズチ。

 

兄がいくら話しかけても、一言も発せずに無視し、昨晩も何も食べずに早々に寝てしまったものだから…きっと哲に負けたことでふてくされているのだろうと、大蛇はそう思っていたというのに。

 

そんな、兄の声が全く聞こえていないかのようなミズチの振る舞いは、昨日の帰りから全く変わっていないものの…ヒイラギに促されるまま歩いてきて、そのままヒイラギの隣で立ち止まった姿は異常そのものであって。

 

そんな、意味が分からぬようにして妹を見ている大蛇に向かって、まるで形勢逆転したかのようにしてヒイラギは言った。

 

 

「妹を人質にとられては、あなたといえども流石に言う事を聞くしかないのではなくて?」

「…妹に…何をしたんや…」

「ホホ、少々強引な手を使わせて貰いましたわ。おかげで今では私のいう事を聞く人形と言うわけですの…妹を無事に帰して欲しければ…後は言わなくても分かりますわね?」

「…お前らぁ…」

 

 

大蛇の怒気が収まったのをいいことに、後ろに控える男二人もその表情を崩して。ニヤニヤと気色悪く緩めた口元が、大蛇にとっては苛立ちしか感じないモノとなっている。

 

当然、何が起こっているのかなどわからぬ大蛇ではあったが、今密室になっているこの控え室内で、多勢で迫ってきているこの紫魔達を、今すぐにでも殴り倒してやりたい衝動が起こっているのか。

 

拳を握り、肩を震わせ。

 

およそ『演技』とは思えぬ怒りを込めてなお、大蛇は口を開く。

 

 

「…こんな程度で…俺が怯むとでに思とるんか?」

「なっ?お、お前、妹がどうなってもいいってのか…」

「うるさいわ三下がぁ!臭い口開くなボケェ!」

「ひっ!」

「大体なぁ!妹人質に取ったくらいで調子のんなやカス共!誰がお前ら紫魔の命令なんて聞くかっちゅーねん!」

 

 

大蛇の返答に、思わず驚いたように口を開いた紫魔 亜蓮を一蹴し。こんな卑劣な手を使ってくる紫魔の言う事など、誰が聞いてやるものかと、そう言わんばかりの大蛇の雰囲気。

 

…それは彼と妹の掲げる『名』の復興が、例え家族を犠牲にしても成し遂げたい目標が故の猛りなのか。

 

しかし、そんないつキレてもおかしくない大蛇の現状を見てもなお…さらにヒイラギは、言葉を発するのみ。

 

 

「…せ、精々考えることですわね。あなたにとって、『名』と『家族』…どちらの方が大切なのかを…」

「あぁ!?…ってどこいくねん!まだ話は終わってへんで!」

「…ホホ、もう私達の話は終わりましたので…後は、あなた次第ですわ、妹がどうなるかは…」

 

 

そうして…

 

最後まで役に立たなかった男たちと、虚ろな目をしたままのミズチを連れて…ヒイラギが最後にそう呟くと、紫魔たちは引き下がろうと部屋を後にしていった。

 

…そんな中で、果たして一人残された大蛇の心情はいかなるモノなのだろうか。

 

たった一人の妹を人質に取られたとは言え、憎き紫魔の言う事を聞くような真似だけは出来ない彼。

 

きっと妹とて、兄が紫魔に従うくらいなら喜んで犠牲になるだろうが…ヒイラギが最後に残していった言葉が、どこかその心に引っかかっていて…

 

 

―『名』か、『家族』か。

 

 

世界最大の犯罪者の所為で、地に落ちてしまったかつての名家の『名』か…共に地獄を生き抜いた、たった一人の『妹』か。

 

残酷にも、彼に考える暇を与えないように…刻一刻と、準決勝の開始時刻が近づいてきていた。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドや!」

 

 

大蛇 LP:3300

手札:6→3枚

場:なし

伏せ:3枚

 

 

自分のターンに入った途端、またもやそのターンをすぐに終えてしまった大蛇。

 

確かに伏せカードは3枚あるが、それでも遊良の場の3体のモンスターに対して、そのフィールドの静けさは遊良と比べても圧倒的に差があるだろう。

 

型にはまらぬデュエルで、何をしてくるかわからないのが竜胆 大蛇のデュエルの醍醐味と観客達も知っているとは言え…【決闘祭】の準決勝という場で起こすそのあまりの静けさには、誰の目にも不審に見えるのか。

 

さらに不可思議なざわめきを大きくしていく会場内ではあったものの…それ以上に、目の前に立つ遊良自身が、ソレを感じている様子にも見える。

 

 

「…一体、何を考えて…」

「ほらほら、チャンスやでー。とっとと攻めてきぃ。」

「ぐ…」

 

 

簡単にそう言ってくる大蛇に対して、思考の警戒レベルが益々上がっていくのを遊良も感じていた。

 

あえて隙だらけに魅せてくることで、遊良が自身の思考の渦に挟まって、攻めあぐねることを読んだのだろうか。

 

…だとすれば遊良の目の前に立つこの男は、相当な精神力の持ち主ということになるだろう。

 

何せこの【決闘祭】において、相手の思考やテンポすらその手中で転がすような真似をすることは、自分のスタイルを貫き通す以上に難しいことなのだ。

 

揺らめく金髪の奥に隠れたその視線は、果たして遊良の攻撃を誘っているのか…または遊良が手を拱くことを見越したブラフなのか…

 

 

「…壁モンスターは居ない、だったら攻めてやるさ!【闇の誘惑】発動!2枚ドローし、【堕天使アスモディウス】を除外!そして【堕天使ユコバック】をリリース!レベル10、【堕天使ディザイア】をアドバンス召喚!」

 

 

【堕天使ディザイア】レベル10

ATK/3000 DEF/2800

 

 

 

それでも、遊良とて手を拱いているだけでは、決して大蛇には勝つことなど出来ないだろう。

 

煌く鎧を纏った堕天使を呼び出し、その攻め手を増やして。得体の知れぬ相手ではあっても、意を決したようにして攻撃を宣言した。

 

 

 

「そして【堕天使スペルビア】と【堕天使イシュタム】を攻撃表示に変更し、そのままバトル!先ずは【堕天使スペルビア】でダイレクトアタック!」

「おっと、ダメージ計算時に罠カード、【パワー・ウォール】を発動!俺は6枚のカードを墓地へ送って、その戦闘ダメージを0にするで!」

 

 

そんな、まさに堕天使が放った光弾の当たる寸前で…大蛇の前に出現した聖なる力の壁がそれを防ぎ、主への手傷を無に帰して。

 

相手の攻撃力依存とはいえ、防御と同時に墓地肥やしを行えるこのカードを上手く利用して…高い攻撃力を持ったスペルビアの攻撃によって彼の墓地が潤沢に越えていく様子は、遊良にとっては不気味そのものだろう。

 

そんな気持ちを払拭するように…さらに遊良は攻撃の手を休めずに仕掛けるのだが…

 

 

「くっ、だったら【堕天使イシュタム】でダイレクトアタック!」

「もういっちょ罠発動!【ガード・ブロック】!ダメージを0にして、デッキから1枚ドロー!」

「まだだ!【堕天使ディザイア】でダイレクトアタック!」

「おっとぉ!直接攻撃宣言時、手札から【速攻のかかし】を捨ててその攻撃を無効に!そのままバトルフェイズは終了や!」

「くそっ…やっぱり持っていたのか…」

 

 

十文字 哲の『絶対防御』とは、また違った毛色を見せてはいるものの…遊良の連続攻撃を、いとも簡単に止めてみせた大蛇の防御の振る舞い。

 

遊良の連続的な猛攻すらすり抜け、涼しい顔で立っていた。

 

そう、彼が最後に使った【速攻のかかし】とて…大蛇が引き抜いた手札から見ても、おそらく最初からその手札にあったモノ。

 

もしも遊良が大蛇の伏せカードを破壊してから攻撃をしていたとしても、結果的には墓地肥やしとドローを防いだだけに留まって、結局はLPを削りきることは出来なかっただろう今の攻防は…

 

ただ単に、大蛇の『底』が見えないプレイングを、まじまじと見せ付けられただけの攻防になってしまって…遊良が歯痒さを覚えていても、苦々しい顔でそのターンを終えるしかないのか。

 

 

(残ったあの1枚…あれが【DNA改造手術】なのか?…いや、ここで【背徳の堕天使】を無駄撃ちするわけにはいかない…)

 

 

「…俺は1枚伏せて、ターンエンド。」

 

 

遊良 LP:3000

手札:4→2枚

場:【堕天使ディザイア】

【堕天使スペルビア】

【堕天使イシュタム】

伏せ:3枚

 

 

 

「俺のターンや、ドロー!」

 

 

そんな遊良を意に介さず、堂々とカードを引いた大蛇。

 

ボードアドバンテージ的には遊良が上で、猛攻を防いだとは言え、ここまでそのターンをすぐに終えている大蛇が、次に何をしてくるのかなど誰にも想像がつかないだろう。

 

懐疑と期待の篭った視線と声援を大蛇に乗せてくるものの、彼の表情はあくまで飄々としている。

 

 

…1年と3年

 

 

勝ちたい気持ちの大きさも、勝たなければいけない理由の重さも…きっと遊良と大蛇に大差は無いはず。

 

しかし、そんな戦う理由に加えて、妹を人質に取られているという『枷』がある大蛇の佇まいの方が遊良よりも堂々としていて…経験や年齢が2年違うだけで、ここまでの差を見せ付けてくる大蛇のほうが、圧倒的な余裕を『演じて』いた。

 

 

(若いなぁ天城ぃ…迷っとるのがバレバレや…ちゅーても、俺もどないなもんか…)

 

 

1枚増えた手札を見て、先ほどの罠で墓地へ送られたカードを思い出して。

 

その内容からこれからの展開を思い浮かべると、どうしても彼の思考の中に刻まれる確かな事実があった。

 

 

―そう、『名』か『妹』か。

 

 

その、どちらも譲れぬ選択を迫られている大蛇にとっても、考えざるを得ないようなモノが。

 

 

 

(あかんなぁ…これやったらどうあがいても…)

 

 

 

遊良が取るであろう妨害を考え、自分が取れるだろう策を考え…そうして浮かび上がってくるモノ。

 

『名』か『妹』か…

 

その、どちらも守りたくとも自分では選べない、しかしどちらを取るべきなのかを彼の『デッキ』自身が導いてくれているようであって…

 

 

 

「…俺が勝ってまうやんか。」

「…え?」

「行くで!永続罠、【DNA改造手術】を発動!俺が宣言するのは『機械族』や!」

「…ッ!?やっぱり来たか、けどそれを許すわけにはいかない!罠カード、【背徳の堕天使】を発動!場の【堕天使スペルビア】を墓地へ送って、【DNA改造手術】を破壊する!」

 

 

発動際に『何か』大蛇が呟いた気がしたものの、それを遊良が聞き取れるはずもなく。遊良にしても、ずっと対策していたカードを破壊して、まずは一つの脅威を取り去ったといえるだろう。

 

しかし、昨日勝負を決めたカードを無残に破壊されたというのに、大蛇の表情は全くそれを気にしていないように…遊良からすれば、ソレすら『演技』に見えてしまっている。

 

絶対に気は抜かない。まだ残る大蛇の手札から、捻じ伏せに来るだろう攻撃へと備えて…遊良はその集中を再度入れ直した。

 

 

「【オーバーロード・フュージョン】発動や!墓地から【サイバー・ドラゴン・コア】と【サイバー・ドラゴン・ドライ】を除外融合!」

 

 

そうして、始めの静寂が嘘のように大蛇が動き出した。

 

自身の名前その物の、まさに『大蛇』の異名で呼ばれる彼が繰り出す多種多様な融合モンスター達を呼び出すために発動した【融合】で、『何』が呼び出されるのか期待を乗せる観客の声援を割くように…

 

猛る機械音を掻き鳴らして、ソレは吼える。

 

 

 

「暴竜、轟け!融合召喚!レベル5、【キメラテック・ランページ・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

【キメラテック・ランページ・ドラゴン】レベル5

ATK/2100 DEF/1600

 

 

 

神秘の渦で混ざり合い、特異な核から猛り狂うようにして顔と尾を出し暴れるは轟く機竜。

 

レベル5と低めのレベルを持つものの…おそらくその単体だけでもゲームエンドまで持っていける性能を持つであろうコトは、昨年の【決闘祭】を覚えている者ならば否応にも知っている。

 

もちろんその情報は、遊良だって折込済みであって…

 

 

「【キメラテック・ランページ・ドラゴン】は融合召喚時、素材の数だけ相手の魔法・罠カードを破壊できる!つまり、お前の残っている伏せカード2枚のことや!」

「知っている!永続罠発動、【デモンズ・チェーン】!【キメラテック・ランページ・ドラゴン】の効果を無効に!」

「ほう、中々やるやんけ!ほな手札から速攻魔法、【サイクロン】発動!【デモンズ・チェーン】を破壊するで!」

「くっ…」

 

 

遊良の放った悪魔の鎖から、即座に大蛇の機竜が抜け出して、その咆哮を再び轟かせた。

 

遊良の防御をいとも簡単に抜け出す様子は、まさに彼の『異名』そのものであって…涼しい顔を崩さずに立つその姿は、彼がこのターンの始めに言った『ソレ』を確実のモノとしているかの様。

 

まだまだ攻撃力の高い遊良の堕天使達を前にしても、慄いた様子もなく宣言するのみ。

 

 

 

「これで【キメラテック・ランページ・ドラゴン】の効果は邪魔されんと使えるから、残りの伏せカードもコレで破壊や!」

「…キメラテック・ランページのもう一つの効果は確か…3回攻撃!?…ッ、【リミッター解除】か!?それだけはダメだ、その破壊の前に罠カード、【迷い風】発動!特殊召喚されたモンスターの効果を無効にし、元々の攻撃力を半分にする!」

 

 

 

【キメラテック・ランページ・ドラゴン】レベル5

ATK/2100→1050

 

 

 

何としてでも喰らいついて、決勝戦へ進むために。激しい攻防を積み重ね、何とか大蛇の狙いを思考し続けて。

 

一瞬たりとも気を抜かない遊良の防御で、何度もその効果を止められる機竜が儚く吼えるものの…それは遊良にとっては成功の証。

 

残る大蛇の手札は2枚。ここで遊良の読み通り【リミッター解除】を使われても、その攻撃力は元の数値へと戻るだけで、決して堕天使達には勝てるわけが無いだろう。

 

 

そう、無いだろうと言うのに…

 

 

 

(…あぁもう、押しているのは俺のはずなのに、なんでこんなに不安が残って…)

 

 

それでも、どうしても上ってくるソレが、否応にも遊良に圧し掛かってきているのか。

 

警戒心を解かぬ様子は、流石は準決勝にまで残ったデュエリストではあるのだが、優位に立っているはずの彼が感じているその『不安』は…大蛇の底が見えないとか、本心を隠しているからとか、遊良が大蛇に最初から感じていた印象から来るものでは断じて無い。

 

 

…この、たった今遊良が心に感じているソレは、彼にとってもその出所が確かな、原因の明らかなモノ。

 

 

 

(…くそっ、やっぱこの人、物凄い強いってことじゃねーか。)

 

 

 

 

 

―単純な、実力差

 

 

 

 

 

同じ学生で、その年齢は2つしか違わないとは言えども…自分よりもレベルが一つ高い事実を、直に戦ったゆえに遊良は感じ取ってしまったのだろう。

 

遊良が2回戦で戦った、サウス校3年の獅子原 エリとて…彼女に謎の『焦り』があったとは言え、ここまでのレベルにはまだギリギリ達していなかった印象があった。

 

だからこそ遊良も喰らいついて、その『焦り』から来る隙を見逃さなかったからこそ掴めた勝利ではあるのだが…

 

今、遊良の目の前に立つこの竜胆 大蛇は、『今、遊良達がいるこの段階』よりも一段高い場所に居る。

 

だからこそ状況的に優位に立っていても、遊良には不安しか出てこないのか。

 

頬に伝う冷たい汗が、その真実を強く告げていて…

 

 

 

「…1年の癖に、確かによぉやるわ。ホンマにこれで『Ex適性』が無いんやもんなぁ。大したやっちゃ。」

「ぐっ…」

 

 

 

『こんな状況』に立たされているはずだというのに、大蛇の言葉は…あくまでも軽く。

 

しかし、その真意は果てしなく重く。

 

この準決勝という場においても、妹を人質に取られているという状況に置かれていても、こんなに飄々とした自分を『演じて』いる大蛇。それは、そもそも他の出場者とは、実力的にも精神的にも…文字通り『レベル』が違ったことに由来しているのだろう。

 

 

―昨年の経験、または彼にとっての負けられない『理由』。

 

 

『この段階』にいる遊良にしてみれば、この壁をどうやって乗り越えればいいのか想像もつかないのか。

 

ただ大蛇から感じる、底知れぬ実力の怖さを今、ひしひしと感じていた。

 

 

「…さぁて…どうしても俺のデッキは、俺に勝たせたいみたいやしなぁ…」

 

 

彼の負けられない理由…昨年と同じく、【決闘祭】に出場していた紫魔姓の選手達は全て負け去っていったことは、彼の目的のほとんどを達成したと言えるのだが…まだまだ彼にとって、ここが終わりでないことは明らかなこと。

 

大蛇の目的…そう、『紫魔家』を打ちのめし、現在この国において不当に貶められている他の融合名家の復興を目指す故に。

 

その為に、【決闘祭】に出場してきた紫魔姓の学生達との力の差を決闘市中に見せ付けて…かつ、大蛇自身が【決闘祭】でも相応たる結果を残すため。

 

大蛇の野望…そう、世界最大の犯罪者の所為で、地に落ちたかつての名家、『竜胆家』の復興のために。

 

その為に、負けるわけには絶対にいかない。

 

いずれはプロへと進んで、王者である【紫魔】を打ち破って王者の名を手にするという、財界・政界・デュエル界において、巨大な一大勢力となっている『紫魔家』の全てを敵に回すという…彼のその覚悟と決意。

 

かつて幼少の頃に味わった、世界の大多数が敵に回るという地獄のような恐怖をも乗り越えて。今の力を手にした大蛇にとっては、今ココで一瞬でも立ち止まるわけにはいかないのだ。

 

 

それだというのに、彼に乗せられた一つの『枷』。

 

 

―『竜胆』の名の復興か…妹か…

 

 

 

「どうにも迷ってしゃーないからなぁ…デッキに決めてもらおうとデュエルしてたんやけど…俺のデッキは『勝て』ゆーとるし。」

「…え?」

「まぁきっと、ミズチも許してくれるやろ。紫魔なんかに従ったら、後から絶対に怒るやろうし…」

「な、何言って…」

 

 

 

何かを言い始めた大蛇の言葉の意味が分からずに、疑問符を浮かべる遊良。

 

きっと、ココで戦う大蛇と…暗い通路から誰にも姿を見せないようにしている紫魔達にしか分からぬソレは、今まさに大蛇に課せられている『選択』の時なのだろう。

 

 

竜胆 大蛇…彼にとって、一番大切なモノがなんなのか…

 

 

その『選択』を、今…

 

 

 

「行くでぇ!LPを半分払って、【サイバネティック・フュージョン・サポート】発動!融合素材を墓地からも選んで除外できるようにする!」

「【リミッター解除】じゃない!?…ここで融合サポートってことは…あっ!?」

「せや、いい読みしとるな!【パワー・ボンド】を発動!」

 

 

 

遊良の張り巡らせた策を軽々とすり抜け、遊良が予想していた戦法を易々と欺いてきて。

 

そうして大蛇が発動した最後の手札は…頑なに隠してきた彼の真意と、主に従う彼のデッキの強い意思によるものなのだろうか。

 

 

―攻撃力を上げる『代償』に、ダメージを『要求』する【パワー・ボンド】

 

―融合召喚を援護する『代償』に、半分ものLPを『要求』する【サイバネティック・フュージョン・サポート】

 

 

『目的』のために、付きまとう『代償』…彼の置かれた状況に対する、その真意を表すであろう2枚の魔法カードを大蛇が発動して、彼のデッキが『勝利』を『要求』する。

 

そう、彼の『デッキ』が、彼のために導き出した結論を携えて…降臨するは、大蛇の最大の機竜。

 

 

 

「俺は墓地の【サイバー・ドラゴン】3体を除外融合!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

その時…光が、弾けた。

 

 

一体いつからか、誰がそう呼んだのか。誰も知らぬうちから、ソレは『そう』呼ばれていて…

 

 

―終焉をもたらす、究極の機竜

 

 

 

 

 

「終焉、煌け!融合召喚!レベル10、【サイバー・エンド・ドラゴン】!」

 

 

 

 

 

他の追随を許さぬ、圧倒的な力で敵を消し飛ばすソレに、誰もが…見惚れていた。

 

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】レベル10

ATK/4000→8000 DEF/2800

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

その最強の機竜の登場に、会場内はまさに興奮の坩堝と化している。

 

最後の最後で現れた、竜胆 大蛇『最大』のモンスター。その登場に、誰もが声を上げずには居られないのか。

 

 

 

「こ…攻撃力8000!?」

「どや!コレが俺のデッキの切り札!どんな敵でも一撃で捻じ伏せる、俺の最強の機竜や!」

 

 

 

…圧倒的存在感、絶望的威圧感

 

 

今、遊良に突きつけられているソレらは…遊良がどう足掻いても届かぬモノとなっており…ダメージもデメリットも、その力を倍にまで膨れあがらせて無に帰している姿は、まさに圧巻の一言。

 

決闘市中で叫ばれている地響き以上の『轟音』が、サイバー・エンドにぶつかっては、それを弾き返して反響していた。

 

 

「…でもそのモンスターに耐性はない!イシュタムの効果で、【背徳の堕天使】を使えば…」

「あ、一個ゆーとくわ。【パワー・ウォール】で墓地に落ちたカードの残り1枚なぁ、【ブレイクスルー・スキル】やねん。」

「なっ!?」

「【リミッター解除】を警戒したのは偉いで。でもなぁ、頼みの【迷い風】が墓地から戻っても、セットされたターンには使えへん…勝負あったな。」

「ぐ…くぅ…」

 

 

この、誰の目にも明らかとなった勝敗。

 

『Ex適性』の無い、『あの天城 遊良』が準決勝にまで進んだこと自体が、【決闘祭】を見ている観客達にとっては最早『奇跡』と感じられるモノとなっていて…

 

何か手を打とうとも、ソレすら大蛇には障害になりはしないのか。

 

遊良の目の前で吼える巨大なサイバー・エンドが、ひしひしとソレを告げてきた。

 

 

「くっそぉぉぉぉお!」

 

 

悔しげに吼える遊良の叫びは、『轟音』にかき消されて誰の耳にも届かない。

 

昨年の【決闘祭】準優勝者。その肩書きは、決して軽いモノではなく…彼の『異名』と重なってその実力を確かに照らすのみ。

 

 

―全てをすり抜け、全てを捻じ伏せる、まさに『大蛇』

 

 

彼が持っている『モノ』の大きさを、誰もが再確認したことだろう。いずれは本当に王者【紫魔】へと届くのではないかという、その秘めたポテンシャルは…

 

いつかの未来に、ここセントラル・スタジアムで…彼が王者として立っているかのごとき幻覚を、観客たちに魅せているのか。

 

そう、自分にとって、『どちら』が大切なのかという、最大の『選択』を決めたであろう大蛇が。轟音の中で揺れ動く金髪を、どこまでも余裕を持ってたなびかせて言う。

 

 

 

「俺は決して許さへん…紫魔家を…【紫魔】を…奴を…俺の『大事なモン』を汚そうとする奴らは絶対にや!」

 

 

およそ『演技』ではない彼の言葉がその口から発せられるものの…既に敗北を感じ取っている遊良にはソレは届かず。

 

大蛇の目の前に立つイースト校1年生は、悔しさと不甲斐なさで一杯になっていて…実力の差に崩れ落ちそう。

 

しかし、大蛇とてそんな遊良など既に見てはおらず。彼の頭の中にあるのは、自分の『一番大切なモノ』を汚そうとしている者達への怒りのみ。

 

 

昇る怒り、湧き起こる憤慨。

 

 

 

 

 

そんな感情を目一杯に込めて…

 

 

 

 

 

―大蛇は、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の散り様、よぉ見とけや!ターン…エンドぉぉお!」

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

「ふははははははははははははははははははははははははははははぁっ!」

 

 

 

 

大蛇 LP:1650→0(-2350)

 

 

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

それは…誰にも理解出来なかった。

 

既に決していた勝負、後は攻撃を行うだけと言う場面で…観客達の興奮がMAXまで引き上げられ、圧倒的な攻撃で決着となるのを、誰もが思い浮かべていたところに…

 

 

突然、爆発した大蛇の機竜が…その『代償』を主に与えるなど…誰が想像出来ようか。

 

 

爆発のソリッド・ヴィジョンによる、盛大な『煙幕』がスタジアムを…ひいては観客席にまでも及んで、その姿を正確に確認することは困難になってはいるものの…

 

 

興奮の坩堝から一転、一気に静寂まで引き落とされた中に鳴り響いた無機質な機械音が…その事実のみを皆に伝えていた。

 

 

当然、それは目の前に立っていた遊良だって同じことであって…

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

盛大な大爆発に連動して起こった、ソリッド・ヴィジョンの煙幕が晴れてきた頃には…そこに大蛇の姿は無かった…

 

 

 

 

 

【決闘祭】準決勝・第一試合

 

 

 

 

 

 

勝者

 

 

 

 

 

イースト校1年、天城 遊良

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、『名』よりも『妹』を取りましたか…人間味があって少々安心しましたわ。」

 

 

未だ混乱が収まらぬ会場内を差し置いて、姿を隠すようにして暗い通路まで帰ってきた竜胆 大蛇へと向かって、その通路で見ていた紫魔 ヒイラギはそう声をかけた。

 

そのヒイラギの後ろには、虚ろな目をして立っているミズチと、それを挟むようにして立っている紫魔 亜蓮と紫魔 大治郎が、ニヤニヤと口元を緩くしていている。

 

そんな男たち二人は、たった今敗北を喫して戻ってきた大蛇に対して、どこか油断をしている様子を見せていて…

 

 

「ははっ、調子に乗ってても、所詮『竜胆』程度が俺たちに逆らえるわけないよなぁ。」

「そうそう、これでお前も俺たちのいいなりに…」

 

 

大蛇を見下したような視線でそう言った…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

―!

 

 

「かっ!?……」

 

 

一瞬。

 

 

まさに蛇の狩りの如く、大蛇が瞬間的に男二人との間合いを詰め…油断していた意識の外から、先ずは大治郎を殴り飛ばしたのだ。そのまま顎を綺麗に打ち抜かれて、大治郎がその意識を手放して。

 

 

「なっ!?お、お前妹がいるのに…ぎゃ!?あ…げふっ…がっ!?げばっ…」

 

 

続けてミズチを避けて、亜蓮のわき腹を貫くようにして突き抜いた大蛇。

 

呼吸が一瞬止まってしまい、苦しさで蹲った亜蓮の腹部を蹴り上げるようにして弾き飛ばすと…そのまま彼も後ろに倒れこんで、意識を失ったように声を発さなくなってしまう。

 

 

「お前らぁ…」

 

 

地獄を生き抜いた過去から、こんな喧嘩事に慣れている彼なのだ、

 

その細腕からは予想出来ぬ程の力を乗せて攻撃を加えれば、油断しきっている男2人を鎮めることくらい…大蛇にとっては、至極簡単なことなのだろう。

 

試合前の控え室では、あまりの突然の事であったのと、ミズチの突然の状態に驚いてしまって手を出すことが出来なかったが。しかし今の彼にすれば、油断しきって立っている雑魚にその苛立ちの全てをぶつけることに何の躊躇もないのか。

 

そのまま意識を手放して倒れこんだ男2人を意にも介さず、振り向いたヒイラギの首を掴んで持ち上げる。

 

 

「あ…かっ…り…りんどうおろち…」

「女やからって…ただで帰れると思ってんやないで…ボッコボコにされる覚悟あってこんな事しとるんやろ…」

 

 

ドスの効いた声でヒイラギを睨みつけて、呼吸の出来にくい苦しさを少女に味わわせる大蛇。

 

そう、妹を人質に取られた怒りと、試合での敗北を選択せざるを得なかった苛立ちからか、大蛇はその手を緩めることなく少女に苦しみを与えているのだ。

 

 

地に貶められた『名』の復興…それは、大蛇とミズチにとっては、何よりも重要なコトであり…

 

虚ろな目でそこに佇むだけの、こんな状態になっている妹だって、ソレの為ならば見捨てたとしてもきっと納得してくれるはずの選択だったのだが…

 

 

 

―それでも彼は、『妹』を取った。

 

 

 

無理やりに捻じ曲げた自身の信念と、自分の『デッキの意思』すら捻じ伏せた彼の選択。

 

そんな強引で絡まり合った葛藤に苛まれている大蛇に対し、苛立つなと言う方が無理な話だろう。

 

 

 

「かはっ…」

 

 

 

そして…

 

 

肺に入る酸素を急に少なくされて、今にもヒイラギがその意識を遠のかせていきそうな嗚咽を漏らし…

 

 

 

「覚悟しいやぁ…このクズ共がぁ…」

 

 

 

なお大蛇がその手に力を込めなおそうとした…

 

 

 

 

 

…そんな時だった。

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「がっ!?…な、なん…や…コレ…あっ!ぐあぁっ!?」

 

 

急に苦しそうな声を出して、ヒイラギを持ち上げていたその手を離した竜胆 大蛇。

 

ヒイラギがその場に蹲り、苦しそうにその呼吸を整えているその眼前には…足元から上る『黒い靄』に締め上げられて、辛そうに宙に浮かべられた大蛇の姿が。

 

 

「かはっ…はぁっ…はぁ…り、竜胆…大蛇……わ、私や…そこの男…2人程度では…げほっ…はぁー…あなたを、従えることなど…で、出来ません…」

 

 

息も絶え絶えで、必死に酸素を取り込みながらそういうヒイラギのソレは…負け惜しみだとか、苦言だとか、そう言った類のモノではない『事実』の言葉。

 

そう、精神的にも実力的にも、大勢の学生レベルよりも『一つ上』に立つ竜胆 大蛇に対しては、ヒイラギやその他の紫魔が『何か』をしようとも、簡単に跳ね除けられて…泉 蒼人の例から、逆に暴走して自分達に被害が及ぶことは必至。

 

そんなヒイラギにとって、何故かそこまで至っていない天宮寺 鷹矢に跳ね除けられたのかは置いておいても、ここで竜胆 大蛇を支配下に置こうとするならば、『それ相応』の準備はしているだろう。

 

分けも分からずに宙に浮かべられている大蛇へと向かって、彼女はまだ苦しそうに言った。

 

 

「…なので…あなたでも…けほっ、『絶対に』敵わない手を…打たせてもらいましたわ…」

「なっ、なにを意味のわからんことを…ぐあぁあっ!?」

 

 

意識の中に直接入り込んでくる『闇』、悪意に塗れた『何か』が自我を支配してこようと頭の中で暴れ、必至に抗ってもそれを上回る力で簡単に押さえつけられるのが分かるのだろう。

 

どんどん薄くなっていく自身の意識の中で

 

宙に浮かべられたまま、大蛇はかろうじて首を回して…

 

自分の背後に立っている人間を見ようとして…

 

 

 

そして…

 

 

 

「なぁっ!?なんでコイツが……ぐぁぁぁあ…ああ…あ…………」

 

 

 

大蛇の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

「…ホホ…これで…けほっ、『プランB』は…達成いたしました…」

「…」

「ご命令どおり…天城 遊良を…決勝へ…これは…お返しいたしますわ…」

 

 

意識を無くして床に倒れている大蛇を見下ろしながら、ゆっくりと立ち上がったヒイラギは…まだ戻らぬ声で、目の前に立っている人物へと、そう声をかけた。

 

大蛇を『支配』した人物へと、借りていたデッキを返して…その人物は何も言わぬまま『闇』を出現させると、その場から一瞬で消えうせる。

 

亜蓮や大治郎が見せたような、『姿を消す』程度ではない。まるで瞬間移動のように、闇の中へと入り込んで、完全にこの空間から消えてしまっていた。

 

 

「ホホホ…後は…決勝が終わるのを…待つだけですわね…『最後のプラン』は…もうすぐ…」

 

 

 

そう言って、すぐさま指にはめていた黒い宝石の指輪を一振りさせると、その場に『靄』を出現させるヒイラギ。

 

既に終了した計画の後始末、ここまで進めた『プランB』ではあるものの…こんな場所に大勢の人間が意識を失って倒れていることを隠すためか。

 

倒れこんでいる紫魔の男2人が意識を失っているのが、彼女にとって幸いなのか、2人の男と竜胆 大蛇、そしてその妹のミズチを包み込むと…彼女もまた、先ほどの人物と同じようにして、その場から姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「くっそぉぉぉお!」

 

 

―!

 

 

「なんなんだよっ!」

 

 

―!

 

 

「意味わかんねーよっ!」

 

 

―!

 

 

苛立ちと不甲斐なさからか、控え室に戻った遊良はその八つ当たりを控え室内の机や椅子、ゴミ箱へとぶちまけていた。

 

 

叫んで、蹴り飛ばして、叫んで、蹴り飛ばす。

 

 

この感情を発散するためには、こうする他無いのは若い証拠ではあるのだが…

 

それ以上に『あんなこと』をされてしまっては、遊良以外の人物でもこの苛立ちを押さえられるはずが無いだろう。

 

 

明らかに勝敗の決していた試合で、突然とった大蛇の行動。

 

力の差を見せ付けられて、完全に負けていた試合で…譲られたかの勝利など、誰が喜べようか。

 

『勝手に負けてくれた、だからラッキー』…そんな無様なことを、遊良が考えられるはずがない。

 

遊良がそんな考えを持てるような人間だったとすれば、そもそもEx適性が無いと宣告された時点から今まで、こんなにも『デュエル』にしがみついていないだろうから。

 

 

「はぁー…はぁー…はぁー…くそっ!」

 

 

最後に地面を蹴って、もう蹴る物もなくなってしまった控え室で…床に倒れこんで、天井を静かに見ている遊良。

 

その表情は、『やるせなさ』と『恥ずかしさ』で一杯になっていて…そのまま悔しさと混乱を抱いたまま、その目を宙に泳がせる。

 

 

 

(完全に負けていた…今の俺じゃあ、竜胆 大蛇に勝てなかった…)

 

 

 

ひしひしと感じた事実、『一つ上』の段階に進んでいた竜胆 大蛇に対して、手も足も出なかったという戦いを思い出して…その胸中には、どうしても不快感が渦巻いているのか。

 

自分の妨害を意にも介さず『すり抜け』られ、完全・完璧に『捻じ伏せ』られた。

 

そんなデュエルが出来る相手が、一体何故あの状況で自ら敗北を選んだのか。あの時の、あの瞬間まで、ステージに立っていた遊良の感じていた大蛇の闘気は、確かに勝利へと向かって襲いかかってきていたというのに。

 

意味のわからぬ大蛇の行動と、事実上の敗北ゆえに胸の内に上ってくる気持ち悪さに耐えながら…遊良は不快感を胸に渦巻かせながらも、静かに立っているだけだった…

 

 

 

次に始まる戦いにすら、気を回せないまま…

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

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