遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
未だ、ざわめきが収まらぬセントラル・スタジアム。
先ほど行われた、誰が見ても意味のわからぬ結果に終わってしまった第一試合を終えて…
昨年の【決闘祭】の準優勝者、ウエスト校3年の竜胆 大蛇が、あとは攻撃をするだけで勝てたと言う、そんな状況で自ら敗北を選んでしまったことに対しての疑問符を、誰もが胸の内に抱いていた。
確かに大蛇はデュエルの最初から、観客達の誰もが予想できないプレイングを魅せてきてはいたものの…だからと言って、勝利が確実だった試合において高笑いを響かせながら自ら敗北を見せ付けてくることなど、一体誰が予想できようか。
更に言えば、挙句の果てにそれで決勝戦に進んだのが、『あの』イースト校1年の天城 遊良と来たのだから、見ていた誰もが驚きとともに異議を感じても仕方ないだろう。
そう、彼らも思い返せば、あの『Ex適性の無い』天城 遊良が【決闘祭】に出場してきたことと、最初に行われた一回戦はともかく…
これでは、二回戦の試合で昨年4位のサウス校3年、獅子原 エリに打ち勝ったことにも、天城 遊良のこの快進撃に何か『裏』があるのではないかと勘ぐる人間がいても不思議ではない
確かに『Exデッキが使えない』というのに目を見張るようなデュエルを魅せてきていたことには変わり無いものの、それでも大蛇のあんな『不自然』な敗北を目の当たりにしてしまっては。
―今までの遊良の戦いが、『本物』なのか『偽物』なのか。
これから第二試合が始まると言うのに、その不審感を抱きながらも…彼らは次なる試合を、ただ待つしかなかった。
―…
「む…遊良の奴、どこへ行ったのだ。」
遊良の控え室へと足を運んだ鷹矢が、開口一番にそう呟いた。
先ほどまで行われていた第一試合を、自身の控え室のモニターで見ていた鷹矢であったのだが、試合終了に伴って一足先に決勝へと駒を進めた遊良へと、わざわざ声をかけに来たと言うのに…
いざ遊良の元へ来てみれば、そこは荒れ放題の部屋となっていて…壊れた椅子、倒れた机がそこに転がって、細かな雑貨が散乱しているだけで、そこに自分の片割れは居らず。
まぁ、あんな結果となってしまったのだから、無論この鷹矢とて遊良の今の気持ちは理解できるのだろう。それゆえに、遊良が控え室内で暴れたのだとしても、ソレに対して『みっともない』と思うわけでもないのか。
「…ふん、確かにあの馬鹿者が自滅しなければ負けていたが…結果は結果だろうに。」
そう、デュエルの中身だけを見れば、遊良が敗北していたであろう事実に変わりは無い。しかし、最終的に導き出された結果は…遊良が決勝へと進み、竜胆 大蛇が敗退した。
…だた、それだけのこと。
確かに状況を見れば、竜胆 大蛇の謎の自爆には多大なる謎が残っていると言うものの…
彼に如何なる理由や、その時の感情があったのだとしても、それで紡ぎだされた『結果』が、今の全てに違いないのだ。
【決闘祭】準決勝・第一試合は、遊良が『勝った』…それが、今の全て。
「まぁいい。あいつが決勝に言ったのなら、俺が行けないはずが無い。」
その天宮寺式・高等計算術により導き出された『解』を携えて、鷹矢もまたこの後の試合に臨む決意を固めて。
無論彼とて、昨年優勝者であるウエスト校3年の十文字 哲を舐めているわけがないとは言え、それでも溢れてくる自信はゆるぎないモノなのか。
決闘市随一の才能を受け継いでいる鷹矢にとって、十文字 哲の2回戦のデュエルを一目見て、その実力が『この段階』には居ないことを理解してもなお、彼はただ不敵に振舞うのみ。
「ふん、精々今はイジけていろ。明日には嫌でも俺と戦わなければいけないのだからな…あいつにだけは絶対に負けん。」
戦う意思を更に強め、勝ちたい意思を一層深める。
―誰よりも、何よりも負けず嫌いなその性格は…彼の嫌悪する『祖父』譲りのモノ。
そう、生まれたときから一緒にいる『相棒』を、最大の好敵手と思っているからこそ…自分の片割れには、絶対に負けたくない彼の意思が導く、その決意が表に出ているのであって。
「遊良ヨ…待ッテいロ…。」
靄など漏らさず、悪意に塗れず。
完全にソレを支配下に置いて従えたまま…強い意思を携えて、鷹矢は遊良の控え室を出て行った。
…
「あ!天宮寺選手がいたぞ!」
「む!?しまった…見つかったか…」
「もうすぐ入場だ!逃がすな!捕まえろ!」
「ぐぅ…俺の好きにさせろ!堅苦しくて息が詰まるのだ!」
「ダメだ!これ以上行程を狂わされてたまるか!絶対に自由行動させるな!」
とは言え、控え室から出た途端に…
自身の控え室に居なかった鷹矢を探し回っていた大勢のスタッフによって、入場待機場所まで連行されて、逃げ出さぬよう囲まれてしまったことは置いておいて。
―…
「そうか、じゃあ試合が終わったら向かうとしよう。」
自身の控え室でのこと…ウエスト校3年の十文字 哲はディスクで誰かと電話をしながら、もうすぐ始まる自分の出番を待っていた。
先ほどの試合は、もちろん哲も見ていたけれど…その勝敗には彼とて確かに思うところがあるだろう。しかし、あの大蛇が何も無しに『あんな事』をするわけが無いことを彼は理解しているからこそ…
実力的にも精神的にも、大蛇がイースト校の1年生を上回っていたことは明らかであって、とすれば哲には、あのような行動をとった原因の心当たりが何かあるのだろうか。
余計な言葉は発せず、無駄足に終わる詮索はせず。
きっと今大蛇に会いに行った所で、『捕まえられず』に逃げられてしまうことは必至。2回戦終了時にアレだけの啖呵を切っておいて、『結果的に』敗北をしてしまっては、大蛇とて哲と話したがらないだろうから。
「…あぁ、わかっている。それより、あの天城って奴の方はどうするんだ?……そうか、ならばいい。任せる。」
今この電話で『天城』という名前を出してはいるものの…別に、大蛇の相手をしていたあの天城と言う1年生に対して、哲は知っているわけでもなければ、気にしているわけでもない。
しかし、ここまで勝ち上がってきて…『決着』がどうあれ、大蛇を差し置いて決勝へと進んだ『結果』を出したことに関して、哲とて文句も無ければ異議もないのか。
…『Ex適性が無い』という事で何やら騒がれているらしいが、『Exデッキが使えない』程度で『決闘者』の価値が決まるわけではないということを…彼はとある『過去』からよく知っているから。
「…あぁ、じゃあ後でな。」
電話を切って、気を入れなおして。
友が茨の道へと進むことを、自分の手で止めてやりたかったのは確かなコトでも、大蛇の自らの敗退…その裏には、何か隠されている理由がきっとあるからと、そう思って。
ならば自分が今すべきことは、次の試合に集中するだけなのだ、と。
相手は王者【黒翼】の孫。まぁ、今更その肩書きに慄く十文字 哲では無いが、1回戦、2回戦のデュエルは、【黒翼】譲りの才能の片鱗を感じさせるには十分なモノだったのか。
まだまだ荒削りで不完全。しかし、もう少し鍛錬を積めば、絶対に近い将来に『ここ』まで上ってくるであろう才能。
そんな迫り来る下の世代の躍進は、哲にとっても心躍るのだろう。鎬を削る相手が増えれば増えるほど、今後に訪れる楽しみが増えていくのだから。
彼の一番の理解者である男の言葉を借りるならば、『楽しいデュエルを』…と言ったところか。
「では、行くか。」
もうすぐ始まる戦いに、この男もまた心躍らせていた。
―…
『皆様ッ!第一試合は驚くべき結果となってしまいましたが、気を取り直して第二試合と参りましょう!この選手達の戦いは、誰もが目を離せないこと間違いないし!』
―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
懐疑の決着となってしまった第一試合を終えて、やや盛り上がりの行き先を失っていた雰囲気も漂っていたセントラル・スタジアムではあったが…
第二試合の開始を告げるこの実況アナウンスが鳴り響いた瞬間に、まるで忘れていたかのように声を挙げ始めた。
【決闘祭】、準決勝・第二試合。
そう、今から戦いを始めるのが、一体誰であったかを思い出したかのように。
ウエスト校3年、十文字 哲
VS
イースト校1年、天宮寺 鷹矢
現在最もプロに近い男と、現在最も勢いのある新進気鋭のデュエル。
他の追随を許さぬ実力で、相手の進撃を許さぬ鉄壁を持つ昨年の優勝者を相手に…この才能豊かな怖いもの知らずが、一体どんな戦いを見せてくれるのだろうか、と。
「天宮寺…か。やはりいい力を持っている。流石は【黒翼】の孫というわけか。」
「どいつもこいつも…その言われ方は好きではないといっているのだが…」
「確かに。王者の孫かどうかなど、お前自身に関係はないか。悪かったな。」
「…む?」
そんな中で不意に哲の口から出たそれは、今まで鷹矢が対峙してきたどの相手からも出なかった言葉。
そう、これまで、幼馴染を除いて、鷹矢を見た誰もが彼を『王者【黒翼】の孫』としか見てこなかったというのに…哲の口から出た言葉は、本心から最初の言葉の謝罪と、鷹矢を『ここ』まで上がってきた一人のデュエリストとして見ている様子を見せていて。
それが昨年の優勝者としての『余裕』なのか、または『ここより上』に立つ者としての自負なのか…それらと全く別のものからくるモノなのかは、哲にしかわからないが。
「始めるか。」
「うむ。」
これ以上、無駄な会話は要らない。それをお互いに理解したのか。
ここに立って対峙している以上、王者の孫という出生も、昨年の優勝者という肩書きも関係なく…ただ、デュエルを行うしかないのだ。
お互いに、展開したデュエルディスクを構えて。2つのディスクがお互いを相手と認識して、デュエルモードへと切り替わると同時に…
『それではっ!【決闘祭】準決勝、第二試合ぃ!かいしぃぃぃぃぃぃぃい!』
―デュエル!
戦いが、始まる。先攻はウエスト校3年、十文字 哲。
「俺のターン。永続魔法【炎舞―天璣】を発動。その効果でデッキから【武神―ヤマト】を手札に加える。そのまま【武神―ヤマト】を通常召喚。」
【武神―ヤマト】レベル4
ATK/1800→1900 DEF/ 200
開始早々から哲の場に現れる武神の一体。
哲のデュエルの中核を担うこのモンスターで、彼は常に鉄壁を作り上げてきた。それは、この準決勝という舞台でも何ら変わらず。
いつだって、どんな時だって。
相手からすれば、必ず現れる哲の【武神―ヤマト】を見て、そしてこの簡易ながらも完成された布陣を目の当たりにして、一体どのような心境となるのだろうか。
このヤマトを軸にして築きあげる、『鋼鉄』の如き絶対防御の始まりを…その場に鎮座させて、哲は早々にターンを終えた。
「俺はカードを1枚伏せて、このエンドフェイズに【武神―ヤマト】の効果を発動。デッキから【武神器―ヘツカ】を手札に加え、そのまま手札から【武神器―ヘツカ】を墓地へ送る。ターンエンドだ。」
哲 LP:4000
手札:5→3枚
場:【武神―ヤマト】
魔法・罠:【炎舞―天璣】・伏せ1枚
「俺のターン、ドロー!俺は【ゴールド・ガジェット】を召喚!その効果で【シルバー・ガジェット】を特殊召喚し、更にシルバーの効果で【レッド・ガジェット】を特殊召喚!レッドの効果で【イエロー・ガジェット】を手札に加える!」
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【シルバー・ガジェット】レベル4
ATK/1500 DEF/1000
【レッド・ガジェット】レベル4
ATK/1300 DEF/1500
そんな、哲の揺らがぬ初ターンを見てもなお、臆することも慄くこともせず…彼にとっても始まりとなる展開を始める鷹矢。
そう、こんなことで、この天宮寺 鷹矢が怯むわけが無いのだ。いつだって変わらないのはこの男も同じ、いくら相手が『上』に居ようとも…いや『上』に立っているからこそ、そこへと向かって突き進むのみ。
ソレを見ている観客達の目には、この十文字 哲の絶対防御に怖いもの知らずのルーキーがいかにして挑んでいくのか、その期待で一杯になっている様子。
その期待の視線を一身に受けてもなお、鷹矢はソレすら意に介さず宣言を行う。
「俺はシルバーとレッド、2体のガジェットでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4、【ギアギガントX】」
【ギアギガントX】ランク4
ATK/2300 DEF/1500
そうして現れるは、彼にとっての始まりを担う機械兵。
相手の場の、神々しく煌く武神に対して…唸る鉄腕を振り回して対峙しているその姿は、哲のヤマトに引けを取らぬ佇まいを醸し出していた。
「【ギアギガントX】の効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから2体目の【ゴールド・ガジェット】を手札に加える!続いて【アイアンコール】発動!【レッド・ガジェット】の効果を無効にして特殊召喚する!そのままゴールドとレッドでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】!」
【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】ランク4
ATK/2200 DEF/2200
しかし、それだけでは終わらない。
間髪いれず、休む間もなく。さらに続けて、重厚なる到着音を響かせる鉄狼列車を、鷹矢は召喚して。
そう、既に哲が2回戦で見せている手であるとは言え…重圧と羨望が飽和しているこの【決闘祭】のステージで突破することは、誰であろうと簡単なコトではないのだ。
いくら鷹矢の召喚したエクシーズモンスターが、哲の武神の攻撃力を超えていようとも…彼の手札にあるかもしれない多種多様な武神器によって鷹矢のモンスターが返り討ちにあってしまうこと。
また、効果による除去を行おうとも、墓地へと送られている武神器により、その効果すら無効にされてしまうことを考慮したためだろう。
柔軟に攻め手を変え、どこからでも勝利を狙う『鷹』…天宮寺一族のその名において、鉄壁の綻びを探し目掛けて狙いを定める。
「そして【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】の効果も発動!オーバーレイユニットを一つ使い、このターン【ギアギガントX】でしか攻撃できない代わりに、直接攻撃出来るようにする!」
「なるほど…ヤマトを避けたか。」
「行くぞ、バトルだ!【ギアギガントX】でダイレクトアタック!」
そうして唸る鉄腕が、ヤマトを避けてその後ろに立つ哲へと襲い掛かった。
戦闘では返り討ち、除去しようにも押さえ込まれる…ならば、いくらヤマトを守る手を揃えて鉄壁を築こうとも、ソレを飛び越えて攻撃すればいい。そこに着眼しての鷹矢の攻めなのだろう。
この攻撃で哲のLPを0まで削りきれるわけではないが、そもそもLPを削らせぬスタイルをとっている哲に対して、こんな序盤でダメージを与えられるのならば万々歳。
見ている誰もが鷹矢の速攻へと目を見張り、その攻撃が寸前まで迫ったことで息を呑んだ…
―その時だった。
「罠発動、【攻撃の無敵化】。このバトルフェイズ中の戦闘ダメージを0にする。」
攻撃の当たる寸前で、哲が発動した罠により発生した衝撃波で…鷹矢の機械兵が弾かれ、そのまま自軍の場まで吹き飛ばされる。
モンスターの戦闘・効果破壊無効、またはダメージを0に。
その二つから効果を選択できる罠を哲が使用したのだ。
―堅牢なる鉄の扉を、幾重にも重ねて。
そう、不意をつくような鷹矢の奇襲も、堅牢な鉄壁を前にしては小さな傷にもなりはしないのか。それは、単なる言葉にするにはおこがましい程に重く、対峙している鷹矢へと圧し掛かってきていた。
「お前は機械族レベル4を多用してくる。それで直接攻撃してくることを、予想していないわけがない。」
「…むぅ。」
「もう攻撃は出来ない。どうする?」
「…バトルフェイズは終了だ。魔法カード、【エクシーズ・ギフト】発動。【ギアギガントX】と【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】のオーバレイユニットを一つずつ使い、デッキからカードを2枚ドロー…俺は1枚伏せて、ターンエンドだ。」
鷹矢 LP:4000
手札:6→4枚
場:【ギアギガントX】
【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】
伏せ:1枚
「俺のターン、ドロー。では行くぞ、【武神器―サグサ】を召喚。そして2体のモンスターでオーバーレイ。」
奇襲が失敗に終わった鷹矢を意に介さず。ターンが一巡してすぐに、その動きを加速させ始める十文字 哲。
絶対防御を信条としているせいか、最初から2回のエクシーズ召喚を決めた鷹矢と比べれば…いや、【決闘祭】参加選手達の誰とも比べても、哲のデュエルは決してハイスピードに攻め抜くモノではないだろう。
しかし、全力で攻め抜くことだけが『デュエル』の全てではないことを知っているからこそ、彼はこんなにも堂々と佇んで敵の攻撃を受け止めぬくスタイルをとっているのか。
哲の足元に現れた銀河に、二つの光が吸い込まれてくその光景は…自身のエースを呼び出すために。
「天界より出でし戦神、下界の闇を切り伏せろ。エクシーズ召喚、剣現せよ、ランク4、【武神帝―スサノヲ】!」
―!
その神々しさを一気に増して、天より出でしは武の戦神。
先の試合では、最大限に警戒していたミズチの手によってその姿を一瞬だけ見せるだけに留まったものの…この戦いにおいてはそれに阻まれること無く。
煌く武神器を装備に変え、かつての力を取り戻した【武神―ヤマト】の真実の名が、ここに剣現した。
【武神帝―スサノヲ】ランク4
ATK/2400→2500 DEF/1600
「スサノヲの効果発動。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから【武神器―ツムガリ】を墓地へ送る。バトルだ、スサノヲで【ギアギガントX】に攻撃。」
―!
「く…」
鷹矢 LP:4000→3800
そうして鷹矢に守る暇を与えず。
奇襲とはこうやるのだと見せ付けているように、スサノヲの剣の一振りが鷹矢の場の機械兵を両断して。
『絶対防御』を謳っているものの、守りを固めるだけが『防御』ではないということを体現している自身のエースを、易々と携える姿はまさに強者。
そう、『防御』の真髄は『守り』に在らず。相手を圧倒する『攻め』で戦況を支配することもまた『防御』の一手なのだと、そう言わんばかりに。
「スサノヲは相手モンスター全てに攻撃出来る。続けてスサノヲで【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】へ攻撃。そしてこのダメージステップ開始時、墓地の【武神器―ツムガリ】の効果発動。ツムガリを除外し、スサノヲの攻撃力をこのダメージステップの間だけアイアン・ヴォルフの攻撃力分アップする。」
【武神帝―スサノヲ】ランク4
ATK/2400→2500→4700
彼の宣言によって墓地から飛び出した、獣の武神器がその姿を剣へと変えてスサノヲの手に収まった。
神代三剣と呼ばれる神器の一つを自在に操り、自身を決して打ち破れぬ一振りの剣と化して攻撃する姿は、まさに戦神の名に相応しい立ち振る舞いを見せ付けてくるのか。
―!
鷹矢 LP:3800→2550
「ぬぅ…全体攻撃とはな…」
「ただし、お前のダメージは半分となる。」
「…ダメージを稼ぐのならば、ハバキリで無くてよかったのか?」
「あぁ。まだその時じゃない。」
「…む?」
LPが大幅に削られ、その差を見せ付けられているかの如き鷹矢の声は重く。
まだまだ哲は余裕を感じさせているし、圧力で押さえつけるというよりは、どこか戦い方を魅せてくれているかのような雰囲気を彼に感じさせていて。
それでも、怯むことは許されないだろう。次なる手を思考し、それに供えて鷹矢は動く。
「…破壊されたアイアン・ヴォルフの効果発動。相手によって破壊されたため、デッキから【シルバー・ガジェット】を手札に加える。」
「いいだろう。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。」
哲 LP:4000
手札:4→2枚
場:【武神帝―スサノヲ】
魔法・罠:【炎舞―天璣】・伏せ1枚
「俺のターン、ドロー!」
「このスタンバイフェイズに罠カード、【和睦の使者】を発動。このターン、俺はダメージを受けず、スサノヲは戦闘で破壊されない。」
ターンが鷹矢に移ってすぐに、『攻め』から『守り』へとその手を変えた哲。
まだ鷹矢の動きを見てから手を考えてもよかったと思われるものの、それは鷹矢がよく使う魔法カード、【ナイト・ショット】の警戒なのだろうか。
ソレに狙われれば逃げられぬ銃弾の一発を、撃たれる前に行動したのだと、そう捉えられる。
「…ぐっ、だったら武神器を使わせてやるだけだ!【ゴールド・ガジェット】を召喚!その効果で【イエロー・ガジェット】も特殊召喚!イエローの効果で【グリーン・ガジェット】を手札に!」
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【イエロー・ガジェット】レベル4
ATK/1200 DEF/1200
「俺はゴールドとイエロー、2体のガジェットでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【鳥銃士カステル】!」
【鳥銃士カステル】ランク4
ATK/2000 DEF/1500
哲に先に手を打たれてしまっては、鷹矢とてこのターンの攻撃を諦めるしかないだろう。
ダメージを与えられないならばと、多種多様なランク4戦術を駆使して、『鉄壁』を少しでも削って、哲の手を消費させる算段か。
空から狙いを定める銃士へと命じ、その銃口を戦神へと向けさせて、この場から消し去るためにソレを命じた。
「カステルのモンスター効果!オーバーレイユニットを2つ使い、スサノヲをデッキへ戻す!」
「墓地の【武神器―ヘツカ】の効果発動。ヘツカを除外し、カステルの効果を無効に。」
「まだだ!【死者蘇生】発動!墓地から【シルバー・ガジェット】を特殊召喚し、その効果で手札から【グリーン・ガジェット】を特殊召喚!グリーンの効果で【レッド・ガジェット】を手札に加え、2体のモンスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【恐牙狼 ダイヤウルフ】!」
【恐牙狼 ダイヤウルフ】ランク4
ATK/2000 DEF/1200
銃士の一発が塵となって消えても、手を止めることなく次なる手を呼び出して。
初めから防がれることなど、鷹矢もわかっていた。だからこそ、この後に確実に邪魔となる武神器のほうに狙いを変えて、あえてソレを使わせにかかっているのだ。
金剛の体持つ銀狼が吼え、その威力でスサノヲへと襲いかからせんとした。
「ダイヤウルフの効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、ダイヤウルフとスサノヲを破壊!」
「墓地の【武神器―サグサ】の効果発動。サグサを除外し、スサノヲの破壊を無効に。」
「これで墓地の武神器は使いきらせたが…くっ、ダメージは与えられん、1枚伏せてターンエンド。」
鷹矢 LP:2550
手札:6→3枚
場:【鳥銃士カステル】
伏せ:2枚
一応、哲が墓地に溜めていた武神器をこれで全て消費させたものの…それ以上の手を打てないと判断しターンを終えた鷹矢。
彼の場に残ったカステルは守備表示で留まり、いつもの柔軟な『攻め』を見せている鷹矢にしては、その防戦の光景は珍しいだろう。
しかし、それも当たり前なのか。
相手は昨年の優勝者。その肩書きは、きっと鷹矢が思っている以上に重く…またそれを背負う十文字 哲というデュエリストの力も、彼が想像していた以上に高いのだから。
「俺のターン、ドロー。まずは【武神帝―スサノヲ】の効果発動。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから【武神器―ムラクモ】を墓地へ送る。そして【強欲で貪欲な壷】を発動。デッキから10枚裏側で除外し2枚ドロー。」
「…来るか。」
「あぁ。墓地の【武神器―ムラクモ】のモンスター効果、ムラクモを除外して、【鳥銃士カステル】を破壊する。」
神代三剣の一振りが、鷹矢の銃士を切り裂いて。
鷹矢がいくら哲の手を消費させても、すぐにそれに対応して圧倒してくる進撃は流石としか言い様がなく…ターンが進むごとに手を揃えて、確実に鷹矢との差を広げていくその光景はまさに圧巻の一言。
「【死者蘇生】発動。【武神―ヤマト】を攻撃表示で特殊召喚。」
【武神―ヤマト】レベル4
ATK/1800→1900 DEF/ 200
続けて再びヤマトを場に呼び出し、その本来の姿を肩を並べて佇む姿は異常な光景なれど、それに違和感や不快感を覚える人間はここにはいないだろう。
一蓮托生、大同小異
姿形は違えども、同一の魂を持った二人の武神を従えて。
すでに決したのではないかという決着を、見ている誰もに感じさせながら…哲は攻撃を得宣言した。
「バトル、まずはスサノヲでダイレクトアタック。」
「くっ!攻撃宣言時に罠発動、【戦線復帰】!墓地から【ゴールド・ガジェット】を守備表示で特殊召喚!そして、そのままゴールドの効果で、手札から【レッド・ガジェット】も守備表示で特殊召喚し、レッドの効果でイエローを手札に加える!」
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【レッド・ガジェット】レベル4
ATK/ 1300 DEF/1500
だからと言って、簡単に諦めるような鷹矢では無いことも確か。
自身が操る歯車たちを戦線に復帰させ、守りを固めて攻撃を防いで、虎視眈々と鉄壁の綻びを探しているものの…それが見つからぬ内はこうして守りに徹するしか他無いだろう。
しかし、鷹矢のこの行動も見透かしていたかのように、哲は怯むことなく攻撃を続けた。
「ならば全て破壊するだけだ。スサノヲで【ゴールド・ガジェット】を攻撃。更に【レッド・ガジェット】にも続けて攻撃。」
―!
息もつかせぬスサノヲの連続攻撃が炸裂し、いくら鷹矢が守備モンスターで守ろうとも、場に残ることを否定されているかの如く全て切り伏せられていくこの光景は…
まるで迫り来る壁に、徐々に押しつぶされていくような錯覚を覚えさせることだろう。
相手の攻撃を受けきり、相手の場を削りきる。そうして相手の次なる攻め手を無くすこともまた、彼の防御の一手を多大に表現していて。
LPを一気に削りきるような真似を、十文字 哲はあまり行わない。
それは、少しの隙を突くような、『相手の綻び』に頼るような戦い方などしなくても…鉄壁のスタイルを貫くことで、相手との格の違いが明らかになるからだ。
…生半可で、中途半端な戦術では、到底この十文字 哲に傷一つ付けられはしない。
「ダメか…モンスターを並べても一層されてしまう。」
「その程度で耐え切ることなど出来ない、ヤマトでダイレクトアタック。」
―!
「ぐ…」
どこか悔しそうに、それでいてどこか苦しそうに…鷹矢とて、今更ながら再確認している様子。
確かにこの十文字 哲のデュエルは、他の出場選手と比べても、その実力以上に『何か』が違うと感じさせてくる戦いを見せていて…
鷹矢 LP:2550→650
そう、十文字 哲が立つ、『ここよりも一つ上』のレベルというモノが…よもやここまでの落差を生み出していることを、戦いの中で初めて理解していたのだ。
今まではその才能に着いてこられる学生など居らず、少し本気を出せば全て吹き飛んでいたというのに…祖父以外に、初めて対峙した『上』の段階に立つ者との『差』を、今ようやく飲み込んだのか。
普段表情を崩さぬ鷹矢が、本当に珍しく…近くで見なければ分からぬほどではあったものの、苦々しい顔をしていた。
「柔軟な戦法、状況に合ったエクシーズ召喚…それも立派な戦術だ。しかし、そこに確固たる信念も無く、ただ漫然とデュエルをするだけでは、決して脅威には成りえん」
「むぅ…」
「…天宮寺 鷹矢…今のお前はどこを見て、誰とデュエルをしている?」
「…む?」
「何のために…デュエルをしている。」
「何の…ため…だと?」
そんな鷹矢に対して、哲が問いかけるようにそう聞いてきた。
―ソレは、鷹矢とのデュエルを通して哲が感じたモノであって。
確かに鷹矢のデュエルは合理的で、目的のために一つ一つを遂行し、そうしてどこからでも勝利を狙うというスタイル。
そして、それを行うために確かな実力が必要であり、その才能と実力に着いてくる気概が無い者は、絶対に鷹矢には勝てないに違いない…いや、実際に今までそういった心の弱い者が鷹矢に勝った試しは無いのだ。
けれども、今鷹矢が対峙しているのは…精神的にも実力的にも、学生レベルを軽く超えている『強者』。その言葉は、どこまでも重い。
「俺は…」
そんな相手からの言葉は、意図せずして…そう、ソレを聞いた鷹矢自身すら意図せずして、鷹矢の心の奥にまで届いてしまったのか。
きっと鷹矢も、今までこんなことを考えたことは無かっただろう。
今まで彼が戦ってきた理由など、聞かれなくても決まっている。
「何のため…だと?」
…もちろん、遊良との『約束』のためだ。ただ戦うだけならば、家でいくらでも行える。しかし、彼らが『かつて』誓ったソレは、もっと重く、もっと想いの篭ったモノ。
大舞台で、大歓声で、大観衆の中で戦いたい。幼い頃に交わした約束を、実現させるために。
「決まっているだろう…」
…今、この時。
再度その意味を深く考えさせられた鷹矢に浮かぶ…
その『解』は…
「…お前に…勝つためだ!」
―!
覇気を纏って、闘気を飛ばして。
そう、遊良との『約束』も何も…今、目の前に立ちはだかるこの男に勝たなければ意味が無いモノ。
―ここで勝たなければ、そんなモノなど叶わない。
そんな、今まで漠然と捉えていた『強者』との戦いを、鷹矢はこの時を持って『重く』捉えたのか。
彼が遊良との戦いを望むあまり、どこか【決闘祭】を軽く考えていたことは否めない。しかし才能ゆえか、それでも勝ててしまっていたために今の状況となっていることを再確認した様子。
その受け継いだ才能と、鍛えてきた実力で、状況に合わせてただ漫然と戦いを進めるのではなく…確固たる決意を持って、勝ちをもぎ取りに行くという、そんな意志を固めて。
その雰囲気は、向かってくる相手を打ち払う鷹矢ではなく…改めて、『強者』へと向かっていく姿となっていた。
「俺はカードを3枚伏せて、エンドフェイズにヤマトの効果発動。デッキから【武神器―サグサ】を手札に加えて、そのまま墓地へ送る…ターンエンドだ。」
哲 LP:4000
手札:3→0枚
場:【武神帝―スサノヲ】
【武神―ヤマト】
魔法・罠:【炎舞―天璣】・伏せ3枚
「俺の…タァァァーン!ドローッ!」
強い意思で、カードを引き…確固たる決意で、敵を見据える。
―相手に、勝つために。
そんな、デュエリストであるならばおよそ持っていて『あたりまえ』のモノを、鷹矢はこの時になって初めて手に入れた。
それは幼馴染以外で、今まで彼が少し本気を出してしまえば抵抗も無く簡単に吹き飛んでいた『学生レベル』に…窮屈にも押し込められていた鷹矢が初めて出会えた、全力でぶつかれる相手が目の前に居るからだろう。
相手になるデュエリストを探す方が難しかった彼において、幼馴染以外に初めて心から勝ちたいと思える相手が出来たからか…
「十文字 哲…覚えたぞ、しかとこの頭にな!お前は強い、今の俺よりも圧倒的に。今の俺ではお前には勝てん…『ここ』に居たままでは、絶対に。」
ソレに出会えたことと、それでも心から『勝ちたい』という気概が鷹矢を包み、スタジアムの熱気と相まって、まるで陽炎のように揺らめいているかの如き錯覚を起こさせているその光景は…今まさに殻を破らんとする者の足掻きを見ているかのよう。
―そう、それは、『何か』を決意した者の証。
哲のいる『一つ上』のレベルには、どう足掻いても勝てはしない。それは『運』とか『気迫』とか…そういった不確かな気合云々でどうにかなる事象を遥かに超えているのだ。
それを、たった今…理解したからこそ。
「…しかし、他人に到達できる境地が…この俺に到達できないはずが無い。そこに至らねば勝てないと言うのならば…」
何かを決意し、『何か』を使って。
その体の内で渦巻いている、この謎の『力の塊』を抑えこんでいる強靭なる精神力による『封』を、鷹矢は徐々に緩め始めて。
そう、全ては、勝ちたい相手である十文字 哲が立つ『そこ』に、なりふり構わず向かうため。
その脳裏にまで少しづつ昇ってくる『ソレ』を、確かに感じながら…
―鷹矢は、叫ぶ。
「…無理やりにデモ…昇ッテヤル!」
―!
先ほどよりも強い闘気を放ち、そこに溢れる力を一身に受け止めはじめた鷹矢。
溢れてくるソレが体から出て行くのを防ぎ、内側から侵食してくるのを拒んで。
「ぐ…ぐグ…」
苦しそうに『何か』を咳き込むことを拒んでも…絶えず昇って、悪意を増幅させてくるソレの増超を、鷹矢自身が自ら委ねてしまっては…いくら彼に『押さえているモノ』があるとは言え、その侵食は勢いを増すだろう。
しかし、それでも。
「グォ…オ、オトナシク…」
決して緩めようとはしない鷹矢の振る舞いは…一重に、目の前に立つ十文字 哲を『強者』と認め、何が何でも勝ちたいがために他ならない。
そんな鷹矢なのだ、きっと強くなる為に利用できるモノは何だって利用するのだろう。自身の内で暴れまわっている『何か』すら、鷹矢にとっては自身の力のために利用しているだけのモノ。
『力』を得るために、自ら進んで受け入れたソレを…ただ、利用して…支配して…
「ウォォォオ!言ゥ事ヲ聞ケェ!俺ハ!【シルバー・ガジェット】ヲ召喚!」
「…急に雰囲気が変わった?…ならば罠発動、【威嚇する咆哮】!このターン、お前は攻撃宣言を行えない!」
「構わン!そノ効果デ【イエロー・ガジェット】ヲ特殊召喚!【グリーン・ガジェット】ヲ手札ニ!」
【シルバー・ガジェット】レベル4
ATK/1500 DEF/1000
【イエロー・ガジェット】レベル4
ATK/ 1200 DEF/ 1200
急に、その雰囲気を変貌させた鷹矢。
普段から押さえ込んでいる侵食を、ヒイラギに増超させられても押さえ込んでいたソレを…自らの意思で、ソレを許したのか。
体に巡る力と共に、ソレの意思が流れ込んできていて…これ以上侵食を許せば、すぐにでもその意識を手放してしまいそうであって。
彼の『Exデッキにある何か』が抑えているとはいえ、鷹矢自身の意思で侵食を許してしまっているこの状況では、それも限界があるのだろう。
『ソレ』が体の自由を奪おうと暴れているし、少しとは言え解き放たれたことで調子に乗っているよう。
一向に手を緩めようとはしない哲になりふり構わず、ただ『そこ』へ昇ることだけを考えて展開するのみ。
それは、他の人間には見えぬような薄さの『ソレ』が鷹矢のデッキにまでジワジワと染み込んでいて…宿主以外に、そのデッキまで変貌させてしまうのだろうか。
「2体ノモンスターでオーバーレイィ!エクシーズ召喚!ランク4、【ガガガガンマン】!」
―!
【ガガガガンマン】ランク4
ATK/1500 DEF/2400
現れるは、砂塵に佇む銃士の一人。その表示形式によって効果を変え、相手をどんな角度からでも狙えるのだが…このターンの攻撃を封じられている鷹矢が取る効果は一つだけに違いない。
守備表示で哲を狙い、その銃口を突きつける。
「【ガガガガンマン】ノ効果発動!オーバーレイユニットを一ツ使イ、相手ニ800のダメージを与えル!」
「次は効果ダメージを狙ってきたか。だが、それも無駄だ!永続罠【デモンズ・チェーン】発動!【ガガガガンマン】の効果を無効にする!」
「チィッ!」
「…そんな中途半端な勢いでは俺には届かん。」
そんな、今まさにその引き金を引こうとした寸前で…哲が放った鎖に縛られて、身動きを封じられてしまったその銃士。
いくら鷹矢がその攻め手を『戦闘ダメージ』から『効果ダメージ』に切り替えてきた所で…所詮付け焼刃のモノでは到底十文字 哲には届きはしないだろう。
柔軟に戦況に合わせ、多種多様な手を繰り出す鷹矢のデュエル。
しかし、それは言い換えれば一つの事に『本気』にならないと言っているのにも等しい。…そんなことは、鷹矢だって理解している。
しているからこそ…
「分かッテいル!…だからこそ、『本気』で行くノダ!【貪欲な壷】発動!」
それでも、何が何でも足掻いて、勝利へと突き進もうとする鷹矢のその姿勢。
攻撃を封じられ、彼に残されている手は効果ダメージに頼るしかないということは、もちろん哲だって想定しているコト。
そんな鷹矢が今、召喚したばかりのこの【ガガガガンマン】が、どこか他のデュエリストたちが扱うモンスターとは異なった雰囲気を醸しだしているものの…それ以上に急に雰囲気の変わった鷹矢を見て、哲は何かを感じている様子ではあって…
「この雰囲気…天宮寺 鷹矢…壁を、越えたのか?」
そう、鷹矢を見る哲とて、すでに鷹矢が『このレベル』の限界に到達していることは、対峙していたときから分かっていたこと。
だからこそ燻っていた鷹矢を鼓舞し、『上』に昇るきっかけを与えたとは言えども…まさか哲も、鷹矢がこんなに簡単に『壁』を乗り越えてくるなど想いもしなかったのか。
いや、正攻法で『上』へと昇るには、この天宮寺 鷹矢にはまだまだ色々なモノが足りないだろう。
だからこそ、鷹矢は『何でも』利用し、無理やりに『壁』を乗り越えて…いや飛び越えたのだ。
―それが、彼の最も嫌悪する祖父、【黒翼】こと天宮寺 鷹峰が【化物】となった行動と、同じコトを行っていることも…鷹矢は、知らずに。
「【ゴールド・ガジェット】、【シルバー・ガジェット】、【恐牙狼 ダイヤウルフ】、【鳥銃士カステル】、【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】をデッキに戻シテ…」
既にデッキの中に侵食を始めているソレが、一体鷹矢に何を引かせるのか。
それは、鷹矢自身にだってわからぬこと。
…鬼が出るか、蛇が出るか。
ここでデッキから何を引いても…いやデッキに『引かされても』、きっと今までの鷹矢からでは想像もつかないモノが出てくることは必至。
それにも臆さず、怯むことなく。
ただ、勝利へと向かって引ききるのみ。
「2枚ドロー!…ム!?…こ、これハ…」
そんな、デッキから引いたカードを見て、一瞬その行動を止めた鷹矢。
何やら『引かされた』カードを見て…驚いていると同時に、悔しがってもいる様子を見せていて…
いや、別にこのドローが失敗に終わったわけでは断じてない。『壁』を一つ越えた、『今いる場所より一段上』のレベルに無理やり昇ってきた者が、こんなことをしくじるはずが無いのだから。
「グ…コ、こんなモノに頼ラなけれバいけナイとは…」
「どうした、お目当てのカードじゃ無かったのか?」
「…仕方あるまイ、行くぞ!」
そうだと言うのに、鷹矢がどこか悔しそうな理由は…
「【RUM-レイド・フォース】発動!」
―!
鷹矢の発動した魔法カードを見て、会場内のざわめきも一層大きくなって。
なぜなら、彼の場で燦然と輝きを放つそのカードは、その使い手がほとんど居ないであろう希少性を持ち、使いこなせるデュエリストはほとんどいないであろうモノと位置づけられているモノに他ならないから。
エクシーズモンスターのランクを上げて、更に上位のエクシーズ召喚を行わせるソレは…およそプロの試合であっても見ることはほとんど叶わないだろう。
―しかし、『この魔法』のことは、誰もが知っている。
そう、王者【黒翼】の…彼が好んで使うデッキの一つに入っているこのカードの事は、デュエリストである者ならば知っていて当然なのだから。
「その【RUM】は…【黒翼】の?」
「【ガガガガンマン】1体でオーバーレイィ!エクシーズ召喚!現レロ、ランク5!【RR-ブレイズ・ファルコン】!」
―!
燃え上がりながら翻るは、天を泳ぎし一羽の隼。
王者【黒翼】が、『好んで使うデッキの一つ』であるこのカテゴリーによく召喚される赤き鳥獣が猛々しく吼え、その存在感を持って哲の『鉄壁』へと狙いを定める。
【RR-ブレイズ・ファルコン】ランク5
ATK/1000 DEF/2000
「ブレイズ・ファルコンの効果発動!オーバーレイユニットを一ツ使ッテ、貴様のスサノヲとヤマトを破壊シ、1000ポイントのダメージを与エル!」
「させん!速攻魔法【禁じられた聖杯】発動!ブレイズ・ファルコンの攻撃力を400上げる代わりに、その効果を無効にする!」
しかし、怯むことなく鷹矢の手を何度でも止める哲とて、目の前に急に現れた【黒翼】も使うモンスターにも恐れを抱かず。
絶対防御を信条とし、相手の全てを受けきってもなお勝利を収めるその姿勢は揺らぐことがなく…鷹矢も、今出せる全力で戦っているというのに、それでもまだ届かないのか。
相手モンスターの攻撃力を上げようとも、既にこのターン【威嚇する咆哮】によって鷹矢の攻撃は禁じられているからこその攻撃力上昇を簡単に許して。
威風堂々と鷹矢を見据えていた。
「…ならバ、それモ超えルだけダ!手札ノ【RUM-ソウル・シェイブ・フォース】ヲ捨テ…ブレイズ・ファルコン1体でオーバーレイィ!」
「…何、まだ動くつもりか?」
それでも、怯まないのは鷹矢も同じ。
無理やりに昇った『ここ』の不安定さに全身を揺られながらも、決して敗北することなど考えていないからこそ。
その特異な召喚条件で現れるエクシーズモンスター達を駆使し、休む暇無く哲を狙うのみ。
「来イ!ランク6!【RR-レヴォリューション・ファルコン・エアレイド】!」
―!
【RR-レヴォリューション・ファルコン・エアレイド】ランク6
ATK/2000 DEF/3000
「エアレイドの効果ヲ発動!エクシーズ召喚成功時、スサノヲを破壊シ、攻撃力分のダメージを相手ニ与エル!」
空高く舞い上がり、その翼から落とす数多くの爆撃をもって、哲に手傷を与えんとする鷹矢。
何度止められようとも、何度防がれようとも。
決して諦めぬよう、強い意志と『本気』をもって、ひたすらにソレを目指す。
「させん!墓地の【武神器―サグサ】を場外し、スサノヲの破壊を無効にする!そのためダメージも発生しない!」
「グゥ…クソッ!」
―それでも、届かない。
鷹矢が多種多様なランク4に拘るのを止め、戦闘ダメージを与える選択肢を捨て…『本気』で効果ダメージを狙いに行っているというのに。
その異名の真意を…この戦いを見ている誰もが再確認したことだろう。この異常とも言える光景を目の当たりにして。
その実力の高みを…この戦いを見ている誰もが思い知ったことだろう。観客席で見ている人間が、中継を見ている人間が…この戦いを見ている誰もが、その興奮を抑えきれずに声を荒げた。
―絶対防御、『鋼鉄』のデュエリスト。
LPが、削れない。
「止まッテたまるカ!罠発動、【エクシーズ・リボーン】!蘇レ、【ギアギガントX】!」
そんな哲への興奮を切り裂くように、力の限り叫ぶ鷹矢の声が木霊して。
そう、哲の実力が高い場所に位置していることくらい、戦っていれば嫌でも身に染みていて。今更ソレを再確認した所で、鷹矢には弱気になっている暇も、立ち止まっている時間も無いのだ。
「そしテ【エクシーズ・ギフト】発動!エアレイドのオーバーレイユニットを二ツ使イ、デッキかラ2枚ドローすル!【ギアギガントX】ノ効果モ発動ダ!オーバーレイユニットヲ一ツ使ッテ、デッキかラ【ブリキンギョ】ヲ手札に加えル!」
終わらぬ攻防、留まらぬ進撃。
同じ『壁』を越えた者として、絶対に引いてなるものかと、そう言わんばかりに鷹矢が吼えて。
決して立ち止まらぬ彼の猛攻を、哲が何度押さえ込んで無に帰そうとも…それを跳ね除けて立ち上がる姿は、最早『執念』に近いだろう。
決して勝利を疑わない姿勢を鷹矢も崩さず…まだまだ行動を止めないのは、可能性を繋げるためなのか。
「手札2枚ヲ捨て、魔法カード、【魔法石の採掘】発動!墓地かラ【RUM-レイド・フォース】ヲ手札へ戻ス!」
そう、目の前の『鋼鉄』を砕かなければ、決してたどり着けぬ頂を…『約束』を、絶対に鷹矢が諦めるはずが無いのだから。
「【RUM-レイド・フォース】発動!【ギアギガントX】1体でオーバーレイィ!エクシーズ召喚、ランク5!【RR-エトランゼ・ファルコン】!」
―!
そうして、赤鋼の翼持つ異形の隼が羽ばたいて。
天宮寺 鷹矢のデッキからは、およそ予想できないようなモンスター達が次々現れては消えていき、その目まぐるしい展開の速さに、一体何人の観客達が追いついてきているのだろうか。
そのあまりのデッキの変化に、誰もが息を呑んで心躍らせ、興奮のボルテージを上げていく。
【RR-エトランゼ・ファルコン】ランク5
ATK/2000 DEF/2000
そう、いくら扱うモンスターが突如変貌しようとも、これらはルール違反などではない。
例えデュエル中であっても、Exデッキから新たなモンスターが創造されることは、この世界に住む誰であっても『稀に』起こりうることであるのだし、そもそもメインデッキが変貌しようとも、デュエルディスク自体がエラーも違反も告げないのであれば…
それは、ルールに則っていると言えるのだ。
―どんな形でも、如何なる勝ち方でも構わない。
その、まるで何が何でも勝利を掴むという意思を具現化し、鷹矢はその砲撃を、驚くほどに硬い『鉄壁』へと向かって放つために、叫ぶ。
「絶対ニ諦めテたまるものカ!エトランゼ・ファルコンのモンスター効果!オーバーレイユニットを一ツ使イ、スサノヲを破壊シ元々ノ攻撃力分ノダメージヲ与えル!」
―そして…
あまりにも大きな炸裂音が、セントラル・スタジアムに弾け…響き渡った。
誰も聞いたことのないような音を発する爆発と、耳を劈くような破壊音。
そう、まるで、幾重にも重ねられて厳牢に形作られて築かれたモノが…
それは、『鉄の扉』が…壊れた音のようで。
哲 LP:4000→1600
―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
絶対防御が、崩れた音。
ソレは、誰も見たことが無い光景。
何せ、昨年の【決闘祭】においても、決して傷つけられることが無かった哲のLPが…
昨年の準優勝者である竜胆 大蛇ですら…ギリギリまで『すり抜けて』哲の喉元まで喰らいついた、あの大蛇にすら1ポイントの傷も許さなかった哲のLPに、鉄壁に、その『鋼鉄』に。
傷を付ける程度ではない。貫いて、こじ開けて、風穴を開けたのだ。
およそ、信じられる光景では無いものの…その確かな証拠に、それを観戦している誰もが信じられないモノを見たような眼で、驚愕の声を鳴らしていた。
「ぐっ!?…天宮寺 鷹矢、ここまでとは…」
よもや、ここまで鷹矢が攻め抜いてくるとは想像以上だったのだろうか。
やや驚いたような声で哲がそう声を漏らすものの、それは決して中途半端に終わるモノではなく、持てる限りの『本気』を持って、全力でダメージを与えにいったからこそのダメージ。
誰がこんなことを予想しただろうか。十文字 哲の『絶対防御』が、まさか1学年という学生に傷つけられようなんて。
しかし、まだまだ声は止まらない。
それだけでも快挙、それだけでも賞賛に値する功績だというのに…鷹矢はこれで終わらせるつもりでは無い様子を見せていて。
「まだダ!まだ諦めン…このターンで…これデ!絶対に貴様ノLPヲ0にすル!これガ最後ノ手札ダ!手札ノ【RUM-デス・ダブル・フォース】ヲ捨テ、エトランゼ・ファルコン1体でオーバーレイィ!エクシーズ召喚!羽ばたケ!ランク6、【RR-レヴォリューション・ファルコン・エアレイド】!」
―!
何度止められようとも、何度防がれようとも。
あふれ出る執念で狙い続けた鷹矢が最後に召喚したのは、先ほどと同じ革命の隼の一羽。
そう、『革命』を。
圧倒的強者と位置づけられているこの十文字 哲を追い詰め、そして勝利を掴もうとする鷹矢の…まさに革命の灯火。
【RR-レヴォリューション・ファルコン・エアレイド】ランク6
ATK/2000 DEF/3000
「…そうか、天宮寺 鷹矢…お前は、ここまで…」
「エアレイドのモンスター効果!エクシーズ召喚ノ成功二よリ!【武神―ヤマト】ヲ破壊シ、攻撃力分のダメージを…貴様ニ与えル!」
この瞬間を、誰もが息を呑んで見守っていた。
何度も、何度も…一度も立ち止まることなく戦いに臨んでいた、この天宮寺 鷹矢の…
―この時を。
「ふっ…見事だ。」
哲 LP:1600→0(-300)
―ピー…
『き…ききき決まったぁぁぁぁぁぁあ!誰が!誰が予想したこの展開!昨年の優勝者、その絶対防御を打ち砕いたのはぁぁぁぁぁぁぁぁあ!まさかのイースト校1年生だぁぁぁぁぁぁあ!』
実況の声が鳴り、静まり返った会場に響き渡ると…息をするのも忘れていたらしい観客達が、思い出したかのようにその声を荒げて盛り上がりを見せていて。
『【決闘祭】準決勝、第二試合!勝者ッ!イースト校1年、天宮寺 鷹矢選手ぅぅぅぅぅぅうーっ!』
―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
まるでこの無機質な機械音の高鳴りが、その興奮をさらに増超させているよう。そう、セントラル・スタジアムと決闘市中の『音』が重なって、地震と間違うかのような蠢きと轟きを、勝者となった天宮寺 鷹矢へと届けているのだから。
イースト校1年、天宮寺 鷹矢
―決勝戦、進出
―…
「…予想以上だったよ。流石は【黒翼】の…いや、流石はイースト校の生徒だ。」
『ふふ、お疲れ様。でもこっちも驚いたよ。まさか君が負けちゃうなんて。』
まだ覚めやらぬ興奮を後にし、輝くスタジアムからこの暗い通路へと戻ってきたウエスト校3年、十文字 哲。彼は自身の端末の形状をデュエルディスクからいつもの形へと戻すと、そのままどこかの誰かへと電話をかけている様子だ。
たった今行われていた中継を見ていたのだろう。その電話の相手も、知り合いである哲が負けたと言うにも関わらず、とても落ち着いた声で哲へと返答をしている。
―それはまるで、会場内や決闘市内の雰囲気や興奮とは正反対。
今、最もプロに近いと言われていた十文字 哲。
過去、【白竜】こと新堂 琥珀が学生時代に打ち立てた伝説、『ノーダメージでの【決闘祭】2連覇』に、今まさに迫ろうとしていた彼の戦績に、まさかダメージを与えただけではなく…その哲を1年生が打ち破って決勝に進んでいくなど、誰にも想像していなかったことだと言うのに。
しかし、そんな決闘市の雰囲気を意に介さないかの様に哲が言った。
「何を言っているんだ。俺の負けっぷりなんて、お前はもう見飽きているだろ。」
『そんなこと無いって。凄くいい勝負だったよ。でも、中々やるでしょ?『今』の子も。』
「まぁな、これもお前の言っていた、次の世代の奴らってやつか…安心したよ、これで俺も気兼ねなく『ここ』で生きていける。」
『ふふっ、これでアイに合わせる顔が出来たね。』
「あぁ、そうだな…そんなことより、お前も起きたばかりなんだからおとなしく寝ていろ。体に障るぞ。」
『わかったわかった…じゃあ哲、待ってるね。』
「あぁ、すぐに見舞いに行ってやるさ…蒼人。」
そう言って電話を切り、自身の端末を懐へと仕舞い始める十文字 哲。
―これは…決して、『この物語』では語られることの無い、彼と、その相棒の物語。
彼らの過去に何があったのか。
それはまた、別の物語。
「さて…じゃあ行くか。」
負けたことは、哲にとっても悔しいことには変わりない。負けたことに関して、簡単に容認出来るような者はデュエリストとは言えないだろう。
どこか天宮寺 鷹矢が、『今の段階』と『一つ上』の境界ギリギリで燻っているように感じたからこそ、『昇るきっかけ』になればと喝を与えたつもりではあった哲なれど…
『何か』を使ってそれを無理やりに超えて、自分に傷をつけて来るとは想像以上だったのか。
けれども、落ち込みはしない。負けはもちろん悔しくとも、デュエル…いや『決闘』で人が成長したことは、彼にとっても嬉しいことなのだから。
その歩をゆっくりと進め始め、暗い通路の奥へと進んでいって。
―その足元から、『黒い靄』が這い登ってきて…
「…ふん、人を支配する『悪意の塊』か。ヤツの造りそうなモノだ…くだらない。」
その『黒い靄』を素手で剥がし、粉々に握りつぶして塵と消した哲。
周囲に人の気配は無く、何かが隠れている感覚も彼には感じず。
とすれば、先ほど戦った天宮寺 鷹矢がコレを『表に出して勝利』したことで、敗者に取り付こうと自然に漂ったのだろう。天宮寺 鷹矢がコレを支配下に置いていたのだとしても、コレを操っているわけではないことを理解し、またソレを意に介さず。
「こんな物に取り憑かれるなど、蒼人も随分平和ボケしたらしい…見舞いに行ったら説教だ。」
ここでは語られぬ物語を紡いできた彼。今更こんな物に取り憑かれることなどなく…そのまま哲は堂々と、『悪意の塊』に憑かれることなく、暗い通路へと消えて行った。
―…
「グ…グフッ…」
時を同じくして、哲のいる反対側の暗い通路でのこと。
自身の控え室に戻ることも出来ず、鷹矢は壁に寄りかかるようにして、その体が倒れるのを拒んでいた。
咳き込むたびに口から漏れて、表に出て乗っ取ろうと暴れる『黒い靄』を無理やりに飲み込んで…調子乗って飲み込もうとしてくるコレを再び支配下に置こうとしているのだろう。
未だ止まぬ歓声を耳に感じながらも、誰も居ないこの通路。
そんな時、珍しく苦しそうに悶えている鷹矢に対して…
突如別の声が通路に響いた。
「よぉ、随分苦しそうだなぁクソガキ。」
「…ジ、ジジイ…」
「いっそ一思いに楽にしてやろうか?まぁそしたら、明日の決勝にゃあ間に合わねーだろうがな。」
鷹矢の祖父、【黒翼】こと天宮寺 鷹峰。
この『黒い靄』に関して、何らかの依頼を秘密裏に受けている彼が、先の戦いを見て降りてきたのか。
既に本日の試合は全て終了していて、選手達もゲストの【王者】たちも、もうこのセントラル・スタジアムでやることは無く、もうどこへ行って何をしようとも、明日の決勝戦にさえ間に合えばいいとは言えるだろうが…
よもや彼が追っている『黒い靄』が、孫に憑いていたのだ。明日に迫った決勝戦を前にして、『この依頼』に則って孫を始末しに来たといわれても、この男ならば何ら不思議なことでは無いだろう。
そんな鷹峰の声に反するようにして、鷹矢も声を発する。
「…イ、要らン…コの程度…押さエ…押さえ込める…」
「カッカッカ。しかし随分な量を『使っちまった』もんだなぁ。折角夏から遊良との戦いのために『溜めて』おいたってーのによぉ。それにメインデッキが【RR】に変化するたぁ、これも血筋かねぇ…」
「うるさい…グフッ…決勝では【RR】など…使わん…俺自身のデッキで…遊良と戦う…」
そんな、まるで鷹矢にこの『黒い靄』が憑いていたことを、最初から知っていたかのような鷹峰のその口調。
それに鷹矢も驚いたような様子を見せないことから、彼らが初めからコレに対して何かの情報を共有していたことは間違いなく…
自身の『好んで使うデッキの一つ』を扱った孫に対して、何か思うようなことを感じさせはするものの、すぐにソレもどうでも良くなったのか。
苦しむ孫…いや弟子の一人に対して言葉を放つ。
「まぁいいか、お前さんにゃ『あのカード』をくれてやったんだし…どうだ、『壁』を一個越えた気分は。」
「…悪くない…あとはこの感覚を忘れぬうちに、慣れるだけだ。」
「おうおう、若けー奴は威勢がいいこった。馬鹿は怖いもの知らずでいけねーやい。」
それは、この男が一番言ってはいけないセリフだろう。
何に対しても恐れなど抱かず、我が道を突き進みすぎて既に【化物】の領域へと到達しているにも関わらず…ソレを何の躊躇も無く受け入れ、どこまでもこの世界で『生』を謳歌しているという彼は、絶対に。
「それより…遊良だ。もしも明日アイツが使い物にならないなど…絶対に許さん…。」
「カカッ、そりゃ俺様もつまんねーなぁ。まっ、クソガキは自分の事だけ考えてろい。遊良の方は俺様が何とかしておいてやるからよ。」
「う…うむ…」
そう言って立ち去っていく祖父、いや師に対して一瞥も無く、更にコレを押さえようと力を込める鷹矢。
苦しそうに…しかし、徐々にその『侵食』を押さえ込んで、その身を持って縛り付ける。
逃げ出さぬよう、暴れださぬよう。
「やっとだ…俺もたどり着いたぞ遊良。明日が楽しみで仕方ない。」
立ち去る祖父、師である【黒翼】の足音が暗い通路に響いているのと同時に…鷹矢もまた、明日への戦いへ…
ついに到達した『壁』の向こうと、相棒との戦いへと向けて…その胸の内から溢れる期待を感じていた。
―…