遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep33「決闘祭、決勝・前編ー約束の場所へ」

 

 

 

―その日、決闘市は異様な空気に包まれていた。

 

 

 

それは【決闘祭】が始まった時とは、まるで正反対の雰囲気。

 

 

雲ひとつ無い、どこまでも透き通るような空へ…冷たい大気が抜けていき、およそ崩れることのなさそうな天気は、『この日』の天気としては例年通りのモノ。

 

そんな決闘市中から充満してくる空気は、4つある決闘学園から、一体どんな選手が選りすぐられて、一体どんな戦いを見せてくれるのか分からなかった開幕当初と比べれば…

 

その雰囲気はどこか洗練されていて、最後の戦いへの期待を、より一層鋭く研磨している様子。

 

 

 

 

 

―そう、いよいよ決まるのだ。

 

 

 

 

 

この広い決闘市における、20万人を超える学生達の中から…

 

激しい戦いを繰り広げ、鎬を削りあってきた者たちの中から…

 

 

決闘学園の学生達が、決闘市中の人々が、この街でデュエリストを自負する者達が全員見守る中で…

 

 

 

 

 

―【決闘祭】、決勝戦

 

 

 

 

決闘市最強の、たった一人の学生を決める戦いに…ついに終止符が打たれるのだ。

 

 

 

例年を見ても、決勝戦のデュエルは絶対に簡単には終わらない。

 

ここまで上り詰めた学生達が織り成す戦いと、その実力が生半可なモノでないことは、決闘市に住む誰もが理解していることであって。

 

 

 

―【決闘祭】は、結果が全て。

 

 

 

ここまで上り詰めたのが、二人とも1年生だという事も…それが王者【黒翼】の孫と、あの『Ex適正の無い』学生だという事は、『良い意味』でも『悪い意味』でも、誰の興味も惹かれないわけが無いだろう。

 

 

とは言え、確かに昨日の準決勝で、優勝候補であった竜胆 大蛇のプレイングには…誰の目から見ても、懐疑を感じずにはいられないモノに違いは無い。

 

果たして、ソレが意味する物がなんなのか。そして大蛇に、『結果的に』勝利した天城 遊良の力が本物なのかどうか…

 

 

 

―今夜に決する勝敗を、今か今かと待ちわびるこの決闘市の異様な雰囲気を…

 

 

ここに居る、誰もが感じていた。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

まだ人もまばらだという、午前中も早い時間。

 

決闘市内のとある大きな病院の…およそ、一般人では利用も出来ないような上階の、整えられた病室の一室の前に遊良は居た。

 

 

―緊張の面持ちをして、どこか落ち着かない様子を見せて。

 

 

清潔と潔癖に包まれている、この独特の匂いがそれをさらに誘発しているのだろうか。外の明るさよりも、なお明るい病院の廊下は…健康な人間をことごとく、この建物内から除外したがっている雰囲気を感じさせるのであって。

 

目の前の閉まっている扉と、その横に書かれている入院患者の名前を見てしまっては…遊良の心臓は、より一層その鼓動を大きくしている様子。

 

 

「…よし。」

 

 

やがて、小さくドアを叩くというその覚悟を決めたのか。意を決したようにその手を持ち上げ始め…遊良はその中に居る人物の顔を思い浮かべると同時に…

 

 

…一回…二回…三回

 

 

白く硬い病室のドアから…小さく、小さく、小さく響いたノック音に連動し、自分の心臓も小さく跳ねるのを感じている遊良。

 

その奥から聞こえくるであろう声を想像して、入室を躊躇う気持ちが彼の足をリノリウムの床へと押し付けているのだろう。

 

 

 

「…どうぞ。」

「…ッ、し、失礼します…」

 

 

 

やがて、そのノックの音のすぐ後に聞こえてきた想像通りの声に促されて個室の扉を開けると…遊良はその歩を進めて…

 

 

 

「やぁ、天城君。わざわざありがとう。」

「い、泉先輩…本当に、目が覚めたんですね。」

「うん、ごめんね、心配かけたみたいで。」

 

 

 

そして遊良の目は、中に入ってすぐにその声の主の顔を視界に入れて、緊張と共にどこか安堵したような表情を見せ始めた。

 

 

その声の主、ベッドに入って、体だけを起こしている人物…イースト校3年、泉 蒼人。

 

 

秋頃に行われた、イースト校における【決闘祭】の代表選抜戦にて…その様子を突如変貌させて、悪意を持って遊良に襲い掛かってきた学生だ。

 

整った顔立ちと爽やかな雰囲気は、世の女性達が放っておくわけが無いものの…怪我の影響か、どこかやつれている様にも見えるのが、彼の受けたダメージを確かに遊良へと伝えてくる。

 

そんな彼は、そのデュエルの直後に誰かに襲われたのか、血を吐いて気を失っているところを発見され…【決闘祭】が始まる前夜も意識が戻らずに、今もこうして入院を続けていたのだった。

 

 

「いつ…目が覚めたんです?」

「一昨日の夜になんだ。でも驚いたよ、こんな長い間眠っていたなんて。もう【決闘祭】も始まっていたから。」

「俺も驚きました。まさか泉先輩の方から電話が来るなんて。」

「実は…君の番号は随分前に教えてもらって知っていたんだ。でも直接会ってないのに、電話するのは失礼かと思って。」

 

 

 

そんな蒼人の目が覚めたのは、【決闘祭】の第2回戦が行われた日の夜。

 

そうして準決勝の試合を見た彼は…目が覚めたばかりだというのに、準決勝で大蛇と遊良の戦いを見て、その勝敗の着き方から遊良を案じて、わざわざ電話をかけてきたのだ。

 

師との修行中だったとは言え、その身を案じていた遊良が蒼人からの連絡を蔑ろに出来るわけがないだろう。すぐに電話に出て、その声を聞いて遊良の心がどこかホッとしたのは言うまでも無い。

 

また、蒼人の声は軽く、その時の怪我も良くなった様子。

 

あの時の歪んだ表情をしていた蒼人とはまるで別人のような、本来の優しい表情をしていることが、より一層遊良の安心へと繋がっているのか。再び遊良がその口を開いた。

 

 

 

「…でも先輩、何だかあまり驚いているようには見えないですけど。」

「ハハ、昔色々あってさ。実はこう言う事にちょっと慣れてて…あ、でも内心は凄い驚いているんだよ?」

 

 

そう言う蒼人であったが、彼の過去を何も知らない遊良からすれば、とてもずっと眠っていて、突然目が覚めたにしては落ち着きすぎであろうと感じていて。

 

しかし、代表戦前はあれだけ『苦手』に思えた蒼人の雰囲気が、今ではソレをあまり感じていない様子にも見える。

 

遊良の、蒼人に対する口調も軽く、とてもアレだけの死闘を行った雰囲気にはとても見えないだろう。

 

 

 

「準決勝も見たよ。竜胆君を相手によく戦っていたね。」

「いえ、あの試合、俺は実際には負けてました。それは言い訳出来ません。」

「…でも、思ったよりも大丈夫みたいだ。てっきり、もっと落ち込んでいるかと思っていたけれど…僕が思っていたよりも、やっぱり君は強いよ。」

「…あ、ありがとうございます。」

「うん、これで安心した。これで君と天宮寺君の決勝戦を心置きなく見られるって。君が落ち込んだまま戦っていたらどうしようかと思ったけど…僕が心配しなくても、君はちゃんと戦いに臨めそうなんだもの。」

 

 

 

蒼人の口から出てくる優しき言葉、それはどれも遊良には優しく届いていて…今ならはっきりと遊良にも理解できる、以前に遊良に会いに来てくれたときの蒼人の言葉が、間違うことの無い彼の本心であったのだと。

 

敵意の無い、優しい言葉に慣れていなかったせいで…今だって、別に慣れているわけでは無いが…蒼人を『苦手』だと思ってしまったことに対して、今更ながら申し訳なさすら出てきてしまっている表情を見せる遊良。

 

誰の目にも明らかになっていた、遊良と大蛇の試合内容と、その後についても…

 

この試合が遊良の心を強く抉り取ったことは変えようの無い事実であり、またそれで遊良が戦う気持ちを無くしかけたことも確かなこと。それは、遊良を何かと気にかけていた蒼人ならば気が付かないはずが無く。

 

それでも、戦いに臨もうとしている遊良を否定するわけでもなく…その言葉は、遊良にとって何よりも嬉しいことに違いない。

 

 

 

「…ありがとうございます…俺は…立ち止まるわけにはいきませんから。…でも、他の人達はそうも行かないみたいですけど。」

「何か…言われた?」

「…まぁ、はい。」

 

 

 

しかし…全員では無いにしろ、昨日の準決勝であんな試合を見せられた者達の中には…大蛇の敗北が遊良の根回しによるモノだと考える人間も居る様子であって。

 

まだ朝が早い時間とは言え、ここに来るまででも、遊良は街にまばらに居た人間達からの嫌疑の視線や心無い言葉を投げられたりしたのだ。

 

 

『天城 遊良は、金を積んで八百長試合をした』とか、『やっぱりEx適正が無いのに勝てたのはインチキだった』とか。

 

 

そんな、根拠も事実も知らない人間達からの、卑下の言葉を。

 

 

そんな敵意ある言葉は聞き流すことが一番であることを、これまでの経験から身に染みて理解している遊良。

 

だからこそ、今更そんな言葉を投げつけられた所で、これまでの過去からそんなモノに怯む彼で無いのだが…

 

それでも、準決勝であんな勝ち方をしてしまった遊良からすれば、決勝戦を前にソレに対して良い気分になるわけが無いことだけは確かだろう。

 

そんな、どこかソレから目を背けようと苦笑いをしている遊良の表情から、彼はそれを感じ取ったのか…蒼人が再びその口を開いた。

 

 

 

「天城君…君は、どうしてデュエルをしているんだい?」

「え?」

「プロになる為とか、ただ好きだからとか。皆デュエルをするのには理由があるんだ…それは、君だって同じでしょ?」

「…はい。」

 

 

 

彼の口から出てくる言葉は、そのどれにも裏など無く…選抜戦で遊良と戦ったような、悪意に塗れた彼などでは断じてない。

 

 

「だったら何も気にする必要は無いよ。誰に何を言われたって、君がデュエルをしたいんだったら…」

 

 

ソレは、ただ純粋に先に立つ者として、後に続く者へと教える言葉であって…

 

 

 

 

 

「他の誰のためでも無い。君は…君のために、デュエルをしていいんだ。」

「…ッ!」

 

 

 

 

 

蒼人の口から伝わる言葉。

 

それは、およそ幼馴染達以外の、誰からも出てこないような言葉。

 

 

これまで、幼馴染以外の誰からも認められていなかった遊良からすれば、赤の他人であるこの泉 蒼人から、まさかこんな答えが聞こえてくるなど、想像もしていなければ期待もしていなかったというのに。

 

蔑むわけでなく、陥れるわけでもなく。

 

 

―自分の存在を、『肯定』してくれている。

 

 

その、本心から遊良を案じてくれているのが彼の言葉から伝わってくるのは…誰であろうと否定しようの無い事実であって。

 

 

存在を『否定』され続けてきた過去…いや、今だって同じだ。

 

 

『Exデッキが使えない』という理由で、その人生すら否定された幼少期。

 

デュエルすること自体が間違いだと、嘲笑され蔑まれ続けてきた過去。

 

『Ex適正』を持たないことが『悪』だと決め付けられ、在学すら危ぶまれている今。

 

 

全てが彼の敵であり、全てが彼を認めていないというのに。

 

他人からソレを聞いた遊良の心が何を思うか、それは彼にしかわからない事ではあるが…それでもその『肯定』の言葉は、遊良が何よりも欲していたモノであるという事は、何にも変えがたい事実なのだ。

 

たった一人からとは言え、他人から『肯定』されたことに…遊良が何も感じないわけが無く…

 

 

 

「…俺、先輩から【決闘祭】の代表を奪ったって言われているのに…泉先輩は…それでいいんですか?」

「その時のことは…ごめん、全然覚えていないけれど…でも、デュエルして勝ったのは君なんだから。だったら僕には何の文句もないよ。」

「…でも、もし先輩がいつも通りだったら…俺、勝てていたか…」

「そんなことは関係ない。やってみないとわからないことを、今あれこれ考えて悩んだって仕方が無いでしょ?」

「…は、はい…」

 

 

 

 

引っかかっていた雑念を、悩んでいた勝敗を…そのどれにも『答え』をくれる蒼人の言葉は、確かに遊良に深く届いていて。

 

 

【決闘祭】の前夜まで、遊良が気にしていた事を…

 

 

学生生活最後の【決闘祭】を、まさか病室で過ごす羽目になっているというのに、その当事者かもしれない疑いがある遊良に、何の文句も無く…それだけで、この泉 蒼人という人間がどれだけの『強さ』を持っているのか、わからない遊良ではないだろう。

 

 

 

「…なんだか、随分楽になった気がします。」

「うん?そっか。それならよかったよ。」

 

 

 

遊良が楽になったと感じたのは、何も蒼人から『励まされた』からだけではない。

 

代表選抜戦の時の、『ありえたかもしれない勝敗』の可能性に関しても、蒼人の答えを聞いたことから。

 

 

―あれだけ悩んでいた勝敗に関しても、『今の結果』が全てだということを…遊良は今この時を持って…『肯定』をくれた人物の言葉で、心からソレを理解したのだ。

 

 

―本来の蒼人に、負けていたかもしれない…けれども、『結果』は遊良が代表になったこと。

 

―竜胆 大蛇に、勝負で負けていた…けれども、『結果』は遊良が決勝へ進んだこと。

 

 

それに至る過程は紆余曲折あれど…そこへ辿りついたことに対しては、何を悔やむ必要があるというのだろうか。

 

 

―その全てが折り重なって、今の『結果』へと結びついているのだ、と。

 

 

…それは誰のためでもない。遊良自身が、自分のために進んできた過程の軌跡。

 

 

それを恥じる必要をなど無いことを…蒼人は確かに教えてくれた。そんな蒼人を、今の遊良が『苦手』だなとど感じているはずも無く…

 

 

 

「泉先輩、俺、やっぱり先輩が【決闘祭】に出るべきだったんじゃないかって、今改めて思いました。」

「ははっ、でも今日がその決勝だからなぁ。」

「それに、本気の先輩と、もう一度ちゃんと、デュエルしたいって。」

「うん…じゃあ、僕が退院したら、その時にもう一回デュエルをしよう。僕の【ナチュル】達も、君と戦いたいはずだから。」

「はい、絶対に。」

 

 

 

心は軽く、迷いを振り切り。

 

 

―【決闘祭】、決勝戦

 

 

その当日に、本来の戦うべき理由を思い出した遊良に…既に迷いなどない。

 

 

「決勝戦、頑張ってね。」

「はい。」

 

 

 

―ここに来て良かった。

 

 

そう感じながら、遊良は静かに病室を出てその場を後にした。

 

まだ午前中で、夜、月明かりに照らされて始まる決勝戦に向けて…まだまだやることは山積みだとは言え…

 

それでも、昨日から圧し掛かってきていたモノは全て消えている。

 

 

…後は、自分のやるべきことをするだけだ、と。

 

 

その中で、ディスクを取り出し電話をかけ始める遊良。ディスクに表示されている名は、間違うことの無い、師の名前。

 

 

『用事ってのは済んだのかぃ?』

「はい。先生、決勝までもうしばらくお願いします。」

『…何の用事か知らねぇが…随分とマシな声になったじゃねーか。おぅ、時間がねーぞ、さっさと戻ってこいや。』

「はい、今すぐに。」

 

 

 

まだまだ、『壁』は越えていない。それは遊良も自分で分かっているだろう。

 

しかし、微かな迷いを持ったまま我武者羅に修行していても、全く見えてこなかった『その上』が…

 

今なら何かが掴めそうだと、そう言わんばかりに逸る遊良の表情は明るく澄んでいて。

 

 

 

―夜へと迫った戦いに、不安と焦燥は既に無く。

 

 

 

ただひたすらに、そこへ向かうだけなのだと…遊良はその足を更に速めていった。

 

 

 

 

 

「…天宮寺君が相手か…本当に…頑張るんだよ…天城…君…」

 

 

誰にも聞こえることの無いその言葉を、蒼人もまた、宙に向かって呟いていて…

 

再び彼は、その意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぅ、後はお前さん次第だ。行ってこい。」

「先生、ありがとうございました。」

「カッカッカ。クソガキ共々、俺様を退屈させんじゃねーぞ?」

「はい。」

 

 

日が暮れてきて、決闘市中が夕焼けに染まって。

 

決められた集合時間が迫っていたため、鷹峰の車から降りた遊良は…そこで師と戦いの前の最後の言葉を交わしていた。

 

これよりセントラル・スタジアムに足を踏み入れれば、待っているのは戦いのみ。

 

決闘市内が暗くなり始めてきているというのに、街中のあらゆる場所から決勝戦へと向けられた興奮の声が聞こえていて…それは今年の【決闘祭】の最後の試合を、決して見逃さぬよう、今から中継に食いつくようにして見入っている証拠なのか。

 

20万人を超える決闘学園の学生達の中から、たった12人しか選ばれることを許されぬ祭典の…

 

 

―最後の、2人

 

 

これまで分散されていた注目度も、最後の二人ともなれば…その期待度や重圧が、どれほど大きく、また重く圧し掛かってくるのか想像もつかない。

 

 

そう、戦いが始まってしまっては他に縋るものなど何も無く…己のデッキと、己の実力のみにしか頼る物など在りはしないのだ。

 

 

 

(よし、行くか!)

 

 

 

―それでも、覚悟は決めてきた。

 

 

ウジウジと考え込むのは師によって粉砕され…残っていた迷いも、蒼人によって消し去られ。

 

 

ならば、何の不安も焦りもない。これより始まる鷹矢との戦いを、『約束』の舞台へとするために。

 

この世界で唯一の相棒、何があっても隣にいるあの馬鹿と…

 

 

―最高の戦いを、するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな決意に包まれて、セントラル・スタジアムへと歩いていた遊良だったのだが…

 

 

 

 

 

―不意に、その後ろから大勢の人間が遊良に向かって走ってきて、遊良を取り囲んでしまった

 

 

 

 

 

「天城選手!昨日の竜胆選手とのデュエルで八百長が噂されていますが、その真相はいかかがなんでしょうか!」

「え!?」

「何でも2回戦の獅子原選手とのデュエルでも八百長が行われていたとか!」

「は?な、何言って…」

「一体【決闘祭】をなんだと思っているんですか!一言!一言!」

「いや、えっと…」

「そもそもEx適正が無いのにどうやって代表に選ばれたんでしょうか!真実を教えてください!」

「いや真実も何も…」

「Ex適正が無いっていうのに、ここまでの戦績はおかしいじゃないですか!学園では特別待遇を受けているとお聞きしましたが!」

「はぁ!?」

「真実を!【決闘祭】を見ている全ての人達に真実を!」

「我々には知る権利があるんです!真実をおっしゃってください!」

「天城選手!一言!一言!」

「【決闘祭】を汚したことについて!見ている人達の前で謝罪を!全ての選手達に謝罪を!」

「天城選手!」

「天城選手!」

「天城選手!」

「天城選手!」

「天城選手!」

「天城選手!」

「天城選手!」

 

 

 

 

 

 

スタジアム前で、突如記者たちに囲まれる遊良。

 

質問どころではない、我先にぶつけようとしているその心無い言葉の数々は、これから【決闘祭】の決勝が始まるのだというのに、どこまでも醜いモノとなっていて。

 

 

誹謗中傷、罵詈雑言

 

 

およそ、『あの頃』と同じ。大衆のためという名目に酔いしれ、好奇の目でしか遊良を見ない彼ら報道陣。

 

その心無い報道と、隠す気の無い悪意で…『あの頃』の遊良が、一体どれだけの被害を被ってきたというのか。

 

それを知るつもりも無ければ、知りたいとも思っていない彼らからすれば、この【決闘祭】の疑惑はまさに飯の種と言えるのであって。

 

 

 

(な、なんだよ一体…)

 

 

 

ただ面白く、ただ大衆の興味のために。

 

 

個人を標的に、それがどれだけ醜悪な行為なのかということを…考えることも出来ない彼らにとって、言い返せない遊良はまさに恰好の的、好き勝手に言葉の暴力をぶつけていた…

 

 

 

 

 

―そんな時だった。

 

 

 

 

 

「散れぇこのゴミ共がぁ!」

 

 

 

―!

 

 

 

意識の外から、視界の外から。

 

 

不意に放たれたその威嚇と、卒倒する程に圧縮された誰かの圧力が…記者たちを確かに貫いて。

 

 

唐突に、かつ突然に。他人を食い物にして、真実を捻じ曲げることをに何の罪悪感も持たぬ弱き人間達が、次々に意識を手放していくその光景は…

 

 

傍から見たら地獄絵図、傍から見なくても異常な構図。

 

 

そんな輩が、容赦の無いこの圧力に耐え切れるはずが無く…次々にその意識を手放して硬い地面へと激突していく。

 

 

かろうじて人の壁に救われた結果を得た、『極少数』の記者は、一体何が起こったのかを理解できていないまま、呆然とするしかなかったのだが…

 

すぐにその出所を視界に入れたのか、または自分たちの立場を理解したのか。驚愕の声を漏らして口を開いた。

 

 

 

「こ、【黒翼】ぅ!?なんでここに!?」

「王者の入り口って確かあっち…」

「誰が喋れなんて言ったぁ!このゴミ共がぁ、目障りだからとっとと消えうせろってんだ!」

「ひっ、ひぃぃい!」

「たすけてぇ!」

 

 

 

蜘蛛の子を散らすように、『生き残った』数人の記者が一目散に逃げていくその阿鼻叫喚の振る舞いは…まるで『命からがら』という言葉のお手本を見せてくれているよう。

 

彼らも、まさか天城 遊良という、面白おかしく扱っても誰にも『迷惑にならない』ただの『話のネタ』へと攻撃していただけだというのに…まさか『コレ』に対して、王者【黒翼】が何故それを邪魔してきたのかを、理解できるはずがないだろう。

 

 

既に意識が無く、泡を吹いて倒れている記者には何の興味も無さそうにして…鷹峰はソレをいくつか蹴り飛ばすと、遊良へと向かって言った。

 

 

 

「チッ、このゴミ共はいくら払っても出てきやがる。」

「あの…先生、わざわざありがとうございます。」

「手間かけさせんじゃねーよ、ったく。いい顔して見送った俺がバカみてーじゃねーか。」

「…す、すみません。」

「いいか?ゴミが沸くのはテメーが弱ぇーからだ。『力』を見せ付けろ、そうすりゃ嫌でも周りは黙る。」

 

 

 

その、あまりにも横暴ではあるが、確かな『真実』である師の言葉。

 

さすがはソレを体現してきた人の言葉だ。過去、何があっても堂々と、またあまりにも圧倒的な『力』を見せ付けてきて、周囲を黙らせ続けてきた【黒翼】こと天宮寺 鷹峰。

 

彼の人生においても、『敵』が多かったのは言うまでも無く…しかしそれを『力』で捻じ伏せて来た人間の教えは、遊良にとっても到達したい目標となっているだろう。

 

 

―恐れず、怯まず、媚びず、腑抜けず。

 

 

弱いままでは変わらない、強くなければ変えられない。その教えは、姿形からソレを現している鷹峰が、その佇まいだけで教えてくれていて。

 

 

 

「後は自分で何とかしな。精々足掻いて俺様を楽しませろ。…あばよ。」

「はい!」

 

 

 

立ち去る師を見送って、倒れている記者を意に介さず。

 

遊良もまた、師のおかげで静かになったセントラル・スタジアムへの道筋を歩き始めた。

 

暮れ始めた太陽が、刻一刻と開戦の瞬間を彼に感じさせていて…

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「シシシッ、やぁーっと決勝戦かぁー。なーんか懐かしいじゃん。」

「ようやく最後の試合ですか。…なんだか、最後ともなると感慨深さを感じますね。」

 

 

王者のために用意された特別展望席。【白竜】、新堂 琥珀と、【紫魔】、紫魔 恋介がそこに居た。

 

少しずつ観客達が入場してきているのか、にわかに会場内がざわつきを見せてきていて。

 

もうすぐ始まる最後の戦いには、これまでの戦いの全てを見てきた【王者】達と言えども『何か』を感じているのだろうか。

 

口で退屈とは言っていても、【決闘祭】で決勝まで昇ってくる学生は…プロの世界においても、間違うことなき強者として数えられているのだ。まだ新参者の王者だからこそ、若い存在の成長を、怖く感じてもそれは何ら不思議なことではないのだから。

 

 

 

「カッカッカ、待たせたなガキ共。」

「あ、天宮寺のジイサン遅かったねー。どこ行ってたのさ。」

 

 

そんな中で、遅れて特別展望席へと入ってきたのは…【黒翼】天宮寺 鷹峰。

 

 

もう開戦が迫り、集合時間も過ぎていると言うのに…王者が席に居ない事は論外と言えるだろうけれども、この男を縛り付けられる鎖などこの世界には存在しないのだから、仕方が無いとは言え。

 

やりたいように、振舞いたいように生きる彼は、いつだって自由なのだと、そう言わんばかりにその口を開く。

 

 

 

「俺がどこへ行ってようとお前さんには関係ねーだろうがクソガキ…っと、いけねぇ、つい癖でまた琥珀をガキ扱いしちまうところだったぜ。」

「いやいや、もうしてるって。遅いって。」

「カッカッカ、決勝前に揉める気はねーよ。ちっと野暮用を片付けてきただけだ。…あと、客も連れてきたぜ?」

「客?…客っつったって、こんなとこにくる客なんて…」

「…おい、入ってきていいぜ。」

 

 

そう言って、琥珀の言葉を遮り…特別展望席の入り口へと手招きを行う鷹峰。

 

 

【王者】のためだけに用意された席、【王者】以外に入ることは許されぬ席。それを知らぬ鷹峰ではないと言うのに、それでも他人を連れてくるという行為は、彼にとっては何の躊躇も感じないモノ。

 

そうして促されるままに、入ってくる一人の人物。

 

 

「お邪魔するよ、琥珀君、恋介君。」

「ちょ!?ま、マジ?」

「これは…」

 

 

やや驚いた声を出して、特別展望席へと入ってきた人物へと目をやる若き王者の二人。

 

その目の前には…その鮮やかな浅黒い肌と、夜空の暗さよりもなお深い黒色の長い髪と、放つ空気が周囲にいる人間を容赦なく押しつぶそうとしているのが『見て』わかるくらいに、異質な雰囲気を持っている女性が…

 

 

―釈迦堂 ラン

 

 

他に染まらぬ、他の追随を許さぬ、【化物】。

 

かつての王者、【白鯨】と【紫魔】が、デュエル界から消える原因を作った張本人。彼女の詳細を知る人間は居らず、また彼女の真意を知る人間も居らず。

 

自分の『同類』と、『とあるモノ』を探して世界中を放浪している…まさに神出鬼没の存在と言えるだろう。

 

その、規格外の人物を目の前にして、現代の王者達は一体何を思うか。

 

 

 

「あっれー!ランちゃんじゃーん、おひさー!」

「これは釈迦堂様…お久しぶりでございます。」

「あぁ。ところで恋介君は、一体いつになったら君の娘に私を会わせてくれるんだい?…紫魔始まって以来の【化物】と…」

「…ご勘弁を。娘はまだ2歳…あなたに潰されてはたまりません。」

「ふふ…潰されるのは私かも知れないというのに、謙虚なモノだ。」

 

 

楽しげに笑みを浮かべるランに、とても親しげに話しかけた琥珀に対して…冷や汗をかいて応える恋介。

 

その反応は三者三様であるものの、彼らが親しい間柄であるわけが無く…その雰囲気を例えるならば、『強者』を喰らおうとしている獣のソレに近いだろう。

 

ランにとっては【王者】とて『獲物』、琥珀にとっては【化物】へと至る『道しるべ』、恋介にとっては娘に近づけさせたくない【敵】という、異様な捕らえ方となっている。

 

 

 

「でもいくらランちゃんでもここ来ていいの?」

 

 

そんな中で口を開いた琥珀の疑問ももっともで、かつての【王者】を倒した【化物】と言えど…それは非公式に行われ、決して表舞台には出てこないモノなのだ。

 

要は、一般人にとっては彼女は無名の人間と言えるのであって…

 

そんな女性が、公式に決められたこの席へ入ってくることなど、いくら【黒翼】の一存であっても容認されるには時間がいることであるというのに。

 

その決まりを、自分の一存で好きに出来る人間など、この場には一人しか思い浮かばない。

 

 

 

「フォッフォッフォ、ワシが許そう。なんせ責任者だからのぅ、ワシってば。」

「カッカッカ、責任者って言いてぇだけだろうがジジイ。」

「フフッ、ありがとうございます景虎さん。」

 

 

 

―【妖怪】、綿貫 景虎

 

 

 

そう、【決闘世界】の重鎮、【決闘祭総責任者】である彼ならば、こんな決まりを一声で変えられる。

 

彼と彼女の関係性は、誰が知るモノでもなく。ソレは彼らにしか分からぬが…

 

その人物が『良し』と言うのならば、誰であっても反対意見を述べることなど許されない。また、この場にいる人間…いや人間と【化物】の誰もが、ソレに対しても何か言うという無粋な真似をすることはなく。

 

 

「何やら…この会場には私を付けねらう暴漢が居るみたいで。そんな輩、私のようなか弱い美女にはたまったものではありませんからね。2回戦と準決勝は街で中継を見ていました。」

「いやいや、ランちゃんが『か弱い』って言っちゃダメじゃね?ランちゃんでか弱かったら世界中の女は皆死んでるって…まぁいいや。それより綿貫のジッちゃん、もう敬語って使わねーの?」

「他に見ている者が居らんのじゃ。誰が好き好んでお前に敬語なんか使うかい。」

「ひっでー!ジッちゃんひっでー!さっさと自分の席戻ったら!?」

「フォフォ、あんな堅っ苦しいとこよりもこっちの方が面白そうじゃわい。だからええんじゃ。」

「カカカッ、相変わらず好き放題のジジイだぜ。」

 

 

 

おそらく鷹峰だけは口にしてはいけない言葉を、何の躊躇も無く口にして。

 

これより始まる戦いを、待ち望むのは【王者】とて同じ。それは【化物】であっても【妖怪】であっても。

 

 

次第に大きくなっていく会場のざわめきを感じながら…全員がその時を待っていて…

 

 

 

「何やらまた殺気を感じますが…まぁいいでしょう。そちらにはまるで興味が沸かない。」

「あぁ?何か言ったかラン?」

「いいえ…何でもありませんよ。…何でも、ね。」

 

 

自らをか弱いと冗談を言いつつも、どこからか放たれている、確かに自分へと向けられていても…その目的を探しきれていないモノをはっきりとランは感じ…

 

 

ソレを全く意に介してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「天宮寺選手!対戦相手である天城選手に八百長疑惑が囁かれておりますが!」

「天城選手の行為は【決闘祭】の在り方に反していると思われます!何か裏で取引があったのでしょうか!?」

「天宮寺選手はこの件に関与しているんですか!?一言お願いします!」

「天宮寺選手!コメントを!天宮寺選手!」

「天城選手の八百長に関して何か聞いていませんか!?」

 

 

 

それよりやや遅れて。

 

選手専用口へと繋がる道筋にて、ソコへと向かっていた鷹矢もまた、待ち構えていた記者達に取り囲まれて、言葉をぶつけられていた。

 

 

遊良に面倒を頼まれているルキに連れられ、遅れないように早めに着いたというのに…

 

 

一体どこから沸いて出てきたのか、この少し前に鷹峰に吹き飛ばされた記者たちがまだ倒れているこの状況で…ソレを気にしていない様子の記者たちは、きっと先ほどの鷹峰と記者たちのやり取りを隠れて見ていたに違いない。

 

遊良に向かっていかなかった彼らは、確かに幸運ではあったのだろうが…それでも、どこまでも遊良に対する好奇の感情を隠す気の無い彼らに、付き添いで来ているルキも怪訝な顔をしている。

 

 

 

(な、何この人達…なんで遊良が八百長したって決め付けてるの?)

 

 

 

遊良のこれまでの戦いを見ていたにも関わらず…いや、見ていてもこんな程度の低い見方しか出来ない人間だというのに、『あの頃』と同じように遊良を玩具にしようとしていることが、ルキにとってはに不快なモノでしかないだろう。

 

やがてその怒りが頭に昇ってきたのか、ルキがその口を開いて記者たちへと叫ぼうとした…

 

 

 

―そんな時だった。

 

 

 

「ふん、黙って俺と遊良の戦いを見ていろ!貴様らが知りたい答えはそこに在る!」

 

 

 

記者に何を言われても、一向に口を開こうとしなかった鷹矢が、記者たちを追い払うかのようにしてそう言ったのだ。

 

その佇まいは威厳に溢れ、低俗な表現でしか戦いを見ることの出来ない輩に、その雰囲気だけで全てを見せ付けているよう。

 

 

威風堂々、英姿颯爽

 

 

そう、『言葉』で真実を捻じ曲げるような無能な輩に、『言葉』を持って対抗したところで無駄だという事は…

 

過去、遊良に向かってくる『敵』の全てに牙を剥いていた鷹矢には、嫌と言うほど心に刻まれていることであって。

 

 

何を『言って』も無駄なのなら、真実を『見せ付ける』しかない。

 

 

奇しくも祖父である鷹峰が体現している道を、無意識に辿っている鷹矢のあまりに堂々とした佇まいに…

 

それ以上、誰も声をかけることなど…許されては、いなかった。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

「よう、ちゃんと寝坊しないで来たな。」

「遊良!もう、心配したじゃん!」

「うむ。」

 

 

選手専用口から入ってすぐの所で、まだ控え室には行かずに鷹矢を出迎えた遊良は、堂々と入ってきた鷹矢と、それに付き添ってきたルキに対して声をかけた。

 

これから開戦だというのに、どこかその雰囲気は軽く…

 

それは当たり前か、お互いがお互いを倒すべき『敵』ではなく、コイツにだけは負けたくない『相手』と捕らえているのだから。

 

 

 

「寝坊などありえん。寝ておらんのだから、俺が寝過ごすはずが無い。」

「は!?いや寝て無いって…まさかルキに付き合わせたのか?」

「はいはい、夜通しデュエルしてあげましたよ、もう。おかげで私まで眠くて…私は夕方まで仮眠したけど。」

「フッ、昂ぶりすぎて寝られるはずがない。おかげで飯も10杯しか喉を通らんのだ。」

「おかげでお米空っぽになっちゃったよ…」

「いや食い過ぎじゃねーか。ったく、直前で腹痛起こしても知らねーからな。」

「いらん心配だ、遊良の癖に。」

「んだと、鷹矢の癖に。」

 

 

 

いつも通りの雰囲気、いつも通りの会話。

 

これより戦いが待っているのだとしても…彼らには、これでいい。

 

 

 

 

 

 

―それでも…

 

 

 

 

 

 

「迷いは無くなったようだな、遊良。」

「あぁ。全力でお前を倒すつもりだ。」

「安心したぞ。それでこそ、俺が倒す価値がある。」

「言ってろ、お前には意地でも負けてやるもんか。」

 

 

 

これから戦いが待っているということを、彼らが忘れているはずが無い。

 

…遊良には、師の『引退』と自身の『退学』がかかっているデュエル。

 

…鷹矢には、これまで我慢して溜め込んできた『約束』と、本気の『相棒』と戦える待望のデュエル。

 

 

秘める気持ちは違えども、お互いの戦う理由がどちらかより劣っているという事など、決してあるわけがなく…

 

 

「遊良よ、俺に手加減など期待するんじゃないぞ。」

「いや、してねーよ。」

「俺が勝ってお前が退学したところで、俺も同じく退学するだけだ。ならばお前に遠慮する気など起きん。」

「だからいらねーって。俺もお前に勝って退学なんか突っぱねてやる。」

 

 

 

決意を再確認し、お互いに遠慮はありえないことを心に刻み直し。

 

今にも爆発しそうな興奮を抑えて、普段通りの振る舞いを見せている彼ら3人が…

 

こんな事でお互いを気遣うことなど、例え天地がひっくり返ったって、例え世界が滅ぶ寸前であったって起こるはずが無いということは…

 

幼少の頃から常に3人で居た彼らだからこそ理解できているモノ。

 

もう、これ以上無駄な会話は要らない。後は決着をつけるだけ。その、全力を持って。

 

 

 

「次に顔を見るのはスタジアムか…じゃあな。」

「うむ。」

 

 

 

 

そして遊良がゆっくりと振り返り、その場を離れようとした…

 

 

そんな時だった。

 

 

 

「遊良!」

「ん?何だよルキ。」

 

 

不意にルキに止められ、思わず顔だけで振り返る遊良。

 

戦いに向かう前、最後の最後に…ルキは遊良に向かって言葉をかけようとしているのだ。

 

 

そう、いくら戦いは必ず始まってしまうモノだと理解していても、その戦いに加わることが出来ないルキにとっては、後は二人を見ているしか出来ないのであって…

 

 

 

 

 

「…鷹矢…強いよ?」

 

 

 

 

 

一回戦から見てきて、昨晩から続けてデュエルしてきて。

 

数回、ルキの方が『危なく』なって中断したとは言え…だからこそ、今の鷹矢の実力をより一層理解出来ているのは、何を隠そうルキ自身なのだ。

 

滅多に出さない…いや出せない彼女の『本気』を受け止めたというのに、平気な顔をして立っている鷹矢に驚きすら感じているのは確か。

 

 

そんなルキの雰囲気を察していてもなお…

 

 

 

 

 

「あぁ、知ってるよ。だから戦うんだ。」

 

 

 

―遊良は、不敵に笑うのみ。

 

そうして、それだけ答えた遊良が…その場を後にし、暗い通路に吸い込まれていき…

 

 

その姿が見えなくなってきた頃、鷹矢が再び口を開いた。

 

 

 

「やはり帰ってきたのだな…あの遊良が。」

「ねぇ鷹矢…」

「何だ?」

 

 

 

どこか嬉しそうにそう言った鷹矢に対して、遊良を最後まで見届けたルキが、今度は鷹矢に問いかける。

 

 

…これから始まる戦いに、水を差すわけでは断じてない。

 

 

それは、今の遊良を実際に見て、彼女が確かに感じた印象でもあり…また、これまで遊良というデュエリストを、ずっと見て支えてきたルキだからこそ感じた感情を…

 

 

包み隠さず、鷹矢へと伝えるのみ。

 

 

 

 

 

「遊良…強いよ?」

 

 

 

 

 

感極まっているかのような声を発して、また嬉しそうな表情をして。

 

鷹矢の言った、『帰ってきた』という言葉の意味を、今の遊良の顔を見て理解できたのか。

 

過去、自分の命を救ってくれた少年が…あの『強かった』遊良の片鱗が、彼の言葉から確かに感じられた様子のルキ。

 

それを聞いた鷹矢もまた、どこか嬉しそうにして、ルキへと言葉を返す。

 

 

 

 

 

 

「フッ、そんなこと…誰よりも、この俺が一番知っている。」

 

 

 

 

 

もうすぐそこまで迫った戦いに、遠慮も躊躇も何も無く。

 

お互いが、お互いには絶対に負けたくないのだ。生まれた時から一緒にいて、嬉しさも悔しさも、寂しさも苦しさも常に一緒に感じて育ってきた遊良と鷹矢の…

 

プライドと意地の張り合いか、譲れぬ意思のぶつけあい。

 

 

二人とも男だ、互いの力を比べたい気持ちに…嘘は、つけない。

 

 

天井を突き抜けるような盛り上がりを見せる決闘市内と、ここセントラル・スタジアムの興奮の全てが…

 

 

たった二人の、1年生へと向けられていた…

 

 

 

 

 

―開戦の時は…もう、すぐ。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 





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