遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep39「抵抗者達の進撃」

 

「バトルだ!【堕天使スペルビア】で【獣神ヴァルカン】に攻撃!そして【堕天使ユコバック】と【堕天使アスモディウス】でダイレクトアタック!」

 

 

―!!

 

 

 

「アガァァァァアア!」

 

 

大門 ミヤコ(『駒』) LP:4000→3100→0(-600)

 

 

 

蒼人と虹村のデュエルによって鳴った音からほんの数瞬遅れてのこと。

 

敵の『駒』となっていたサウス校3年の大門 ミヤコが、遊良の操る堕天使達の総攻撃によって吹き飛ばされていた。

 

 

 

―ピー…

 

 

 

どうやら、『駒』の一人を相手にしていた遊良も無事にその猛襲を打ち破って、無機質な機械音がそのデュエルの終了を告げたよう。

 

速攻を得意としてくる相手にさらなる速攻で勝利を収めるという暴挙とて、蒼人という心強い増援によって心の冷静さと余裕を得られた今の遊良ならば難なく行えることに違いなく。

 

流石は【決闘祭】の優勝者。

 

以前と戦い方が変貌した敵とは言え、激闘によって心身ともに鍛えられた今の遊良の実力があれば、ソレに惑わされることなく戦うことなど造作も無い様子を見せている。

 

そして遊良と蒼人、二人の速攻が項を成したのか。こちらへと向かってくる『雑兵』達との距離もまだ余裕があり、この様子だと倒れている虹村たちを担いでも逃げられそうなほどに距離があった。

 

 

 

「ア…ガバファァ…」

「ブハッ…アババ…」

 

 

そうして、たった今そのLPをほとんど同時に0にされた敵の『駒』、虹村と大門 ミヤコが苦しそうにその体の内から『闇』を噴出し…

 

敵にデュエルで勝った解放の証となって、ソレが靄となって空に四散して消えていって。

 

 

―負ければ、『闇』に飲まれ…しかし、勝てば『闇』から人々を解放できる。

 

 

敵に操られるままに、ただデュエルを強いられるだけの存在にされていることなど、一体誰が喜ぶというのだろうか。

 

虹村たちの苦しそうな様子から見ても、流石にその意識をすぐには取り戻せそうに無いが、それでも虚ろな目で呻くだけの存在と成り果てていた虹村達の表情は『闇』から解放されたおかげか、多少ではあるもののどこか安らいだようにも見える。

 

そして思いのほか早く方を着けられたことに安心したのだろう、今デュエルを終えたばかりの蒼人は、同じくデュエルディスクを閉じていた遊良を見て口を開いた。

 

 

 

「流石は天城君。よし、じゃあ虹村と大門さんを安全な場所に運ぼう。ここに置いたままじゃ、また敵になってしまうかもしれないからね。」

「はい、だったら俺の家に運びましょう。すぐそこですから。」

「うん、お願いするよ。しかし…本当に酷いね、一体街に何が起こったんだろう。」

「…わかりません、とにかく、今の現状を把握しないことには…」

 

 

 

そう、抵抗するデュエリストを狩るための、厄介な敵の『駒』は確かに倒した。

 

しかし、現状が改善したとは言いがたい事を遊良とて理解していないはずがないだろう。

 

敵の数は時間を追うごとに増えていき、また一度倒して『闇』から解放した敵も、そのままにしておけば何時また『闇』が侵食して動き出すか分からないのだ。

 

何せ、街には溢れるほどに『闇』が渦巻いていて、今こうしている瞬間にも誰かがどこかで襲われているのだから。

 

そんな『闇』のことを少しでも知っている遊良だからこそ、何か行動を起こさなければという気持ちが沸き起こってきていて…

 

そうして『雑兵』達がゆっくりと遊良達に向かって歩いて来ているものの、それに捕まらない内にその場を離れようと、遊良と蒼人がすぐさま倒れた2人を担ごうとした…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

「邪魔だと言っているだろうが!全て吹き飛ばせ、【励騎士 ヴェルズ・ビュート】!」

 

 

 

―!

 

 

 

突如として巻き起こった巨大な衝撃波、ソレと同時に聞こえる声。

 

その盛大な衝撃波によって、遊良達へと向かっていた『雑兵』達が全て吹き飛ばされていくその光景は…冷徹無比で遠慮が無く、『敵』とは言え一般人をただ無慈悲に吹き飛ばすだけの代物。

 

そして、その後ろから聞こえてきた声を遊良が聞き間違えるわけが無く、視線をそちらへとやれば、ソコには間違えるはずも無い鷹矢の姿が。

 

 

 

「鷹矢!」

「む、遊良!やはり無事だったか!」

「あぁ、なんとかな。でもお前も無事でよかった。」

「フッ、俺がこんな奴らにやられるわけがないだろう。いらん心配だ、遊良の癖に。」

「んだと!?折角心配してやったってのに、鷹矢の癖に!」

「ま、まぁまぁ二人とも。それより、早く虹村たちを運ばないとまた敵が来るよ?」

「む!?確か貴様はこの前見舞いに行ってやった…それにそこで倒れているのは虹村ではないか。なぜ虹村がここに?」

「はぁ…後で説明してやるよ。」

 

 

 

突然こんな状況に巻き込まれたとは言え、焦った様子もなければ普段通りの振る舞いを当然のように見せる鷹矢の図太さをどうかと思いつつも…

 

それでも、示し合わせたわけではないのにほぼ同時に家に戻ってきたタイミングの良さと、片割れの無事な姿を確認できて、どこか安堵の表情を見せる遊良。

 

駆け寄ってきた鷹矢が、地面に倒れて気を失っている虹村を見て意味が分からないといった雰囲気を遊良に伝え…それでも、すぐさま街の現状を考え何が起こったのかをすぐに察したのか、遊良へと向かい直すとその口を再度開いた。

 

 

 

「…なぁ遊良、お前に相談したいことがあるのだが。」

「あぁ、この『闇』のことだろ?」

「うむ。俺に一つ心当たりがあるのだ。」

「…心当たり?…そうか、わかった。」

 

 

 

鷹矢の言った『心当たり』。

 

それは、一度この『闇』をその体に押しとどめていた鷹矢だからこそ感じたモノに違いない。

 

しかし、突如何の前触れもなく巻き起こったこの『異変』に対して、その背景も何も知らぬ遊良からすれば鷹矢のその『心当たり』とて、『勘』に頼った不確かなモノだというコトが分からないはずがないのだが…

 

それでも、その言葉を単なる馬鹿の戯言と切り捨てない辺りは流石幼馴染か。

 

鷹矢の言葉を否定せず、彼の感じたモノを疑わず。遊良にとって、鷹矢の言葉を素直に信じることなど造作も無いことであって。

 

…普段は気の抜けるようなことばかり言う癖に、ここぞという時には確信をつける感性を鷹矢が持っていることを、遊良は知っているから。

 

 

 

「…それより、今は先輩たち運ぶの手伝え。家に入れて、休ませてあげないと。」

「うむ。」

 

 

 

幸いにも先ほど鷹矢が『雑兵』達を盛大に吹き飛ばしてくれたおかげで、この地区の周囲の敵の数は少なくなった様子。

 

とは言え街に溢れている敵の数を考えると、何時また湧き出てくるかわかったものではないことは確か。

 

鷹矢がすぐさま気を失って倒れている虹村と大門 ミヤコの二人を軽々と担ぐと、遊良と鷹矢、そして蒼人の3人は急いでその場を後にし始めた。

 

鷹矢の趣味である筋トレが大いに役立ちつつ、いつも学園へと通うため歩く並木道を抜け、普段何気なく通る曲がり角を警戒しながら曲がって。

 

その時にも倒れている人間は多少目に入るものの、敵の姿は見えず。3人は目的の場所、遊良と鷹矢が現在住んでいる家へと向かう。

 

 

―例え不確かな『勘』であっても、僅かに光った希望から、少しでも進撃を目指すために。

 

 

 

「よかった、家は無事だったみたいだ。虹村先輩たちを休ませたら、すぐにまた出よう。ルキを探さないと。」

「うむ。」

「僕も手伝うよ、何かあったら大変だ。」

「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

そうして、今やるべきことを常に考えながらも住みなれた家の前に着いた所で、遊良が玄関のドアの鍵を開けた…

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

「遊良!鷹矢!」

 

 

遊良が玄関のドアを開けた、その瞬間のこと。

 

誰も居ないはずの家の中から、不安を弾けさせたような声が響き…そこには、先に家に着いていたのだろうルキがリビングの方から顔を出して、遊良と鷹矢の顔を泣きそうな目で見ていた。

 

今朝会ったときに着ていた晴れ着ではなく、この家に置いてあった普段着に着替えたらしい。

 

そのままルキは遊良と鷹矢の二人に飛びかからんとする勢いで飛び出して二人に抱きつくと、泣きそうな声を漏らして口を開く。

 

 

 

「よかったぁ…二人とも無事で…」

「ルキ…先に避難してたのか…でも、ルキも無事でよかった…」

「うむ。」

 

 

 

3人が3人とも無事であったことをようやく確認でき、彼らのその声のトーンが安心からか一つ落ちたのが誰の耳にも明らかであったものの…

 

いつ敵が襲ってくるか分からぬ状況で大切な幼馴染が無事な姿を見せたのだ。彼女が張り詰めていた気持ちが思わず緩んでしまったとしても、それは仕方のないことだろう。

 

それにルキがここに居るということは、この地獄のような街の様子を当然彼女も見ているはず。それがどんなに悲惨な状況なのかは、彼女も理解していることであって。

 

 

 

「初詣に行こうとしてたら、急にこんなことになって…」

「…おじさんとおばさんは?」

「…逃げるときにはぐれちゃったよ…。私はこの家のすぐ近くに居たからすぐに逃げてこられたけど…お父さん達にも連絡が取れないし、もう何が何だか…」

「そうか…とりあえず、話は家の中に入ってからだ。虹村先輩たちも休ませたいし。」

「え、虹村先輩って…あ、泉先輩もいる。」

「やぁ、無事で何より、高天ヶ原さん。」

 

 

 

そこで初めて蒼人の存在に気付いたのだろう、抱きついていたその手を遊良と鷹矢から離すルキ。

 

そこに何故蒼人が居るのかを彼女には想像ができず、また鷹矢が軽々と抱えていた他の二人の存在にも同時に驚きつつも…彼女もこの家に来るまでに見た状況を思い出すと、遊良が教えるまでもなくその理由は理解できているのだろう。

 

そして何時までも外には居られず。

 

…4人はそのまま家の中へと入ると、遊良が客間に布団を用意し…

 

そこに気を失っている虹村と大門 ミヤコを寝かせると、そのまま彼らはリビングへと集まった。

 

テーブルを囲い、各々が見てきたモノを話し合うために。

 

 

 

「一体急に何が起こったと言うのだ…ここに来るまでに街の様子を見てきたのだが、建物が壊され人は襲われ…とにかく物凄く酷かったぞ。」

「襲われてる中にも、襲ってる中にも小さい子がいたよ…」

「…俺は煙が上がった時、街の外から見てたけど…でも突然すぎて何が起こったのか…」

「ねぇ遊良、先生は?先生ってこれに関して何か仕事してるんでしょ?」

「先生は…海外で仕事だって言って行ってしまった…騒ぎが起きたのも、先生達が出発して暫くしてだから急には戻って来れないだろうし…連絡なんて取れないし、そもそも簡単に連絡なんて取れる人じゃない。」

「むぅ、こんな時に使えんジジイだ。」

 

 

 

そんな少年達の表情は暗く、今起こっている事への不安と焦燥が表立って溢れてきていて。

 

それもそのはず、新年が明けたばかりであんなに平和だった街が、急に混乱の渦へと放り込まれたのだ。

 

その渦中に取り残されてしまった少年達はまだ若く…いや、まだ幼く、またソレに関して特別な情報を知りえているわけでもない。

 

彼らの師がこの現象に関わっていることを知ってはいても、ソレに対しても何かを伝えられているわけでもないのだから、下手に動くことも出来ず。

 

外の敵に見つからないようにカーテンを閉めて、電気系統の一部ががやられてしまったのか停電になっているためにこの部屋も暗く…

 

まるで今落ち目にある気分が、部屋の暗さに相まってさらに重くなりそうなほどに、今の彼らに容赦なく圧し掛かってきていた。

 

 

 

「どうやら被害は街の中心部にかけて酷くなっているようだ。決闘市の中心に行けば行くほど、操られた人の数が増えていくらしい。」

「…え?」

 

 

 

そんな時、急に蒼人が口を開いて。

 

その口調はまるで、この状況においても萎縮などしておらず、情報を冷静に飲み込んで何かを考えているようにも見える。

 

適当な事を言っているわけでもなさそうで、彼は自身の端末の画面を見て、何かを確認しながら言葉を述べているよう。

 

 

 

「逆に街の外へ向かうほど襲ってくる人の数は少なくなるようだけど…その分、手強い相手に襲われる場合が多いらしい…街の外に逃げようとした人も、その所為で街から出られないみたいだ。…まるで意図的に配置を調整しているようにも見えるね。」

「…泉先輩、何でそんなことが?って言うか、その情報はどこから…」

「…この状況下でも、何とかしようと動いている人達もいるってことさ。僕の場合は、十文字 哲と連絡を取り合ってて。混乱が起きても、一応連絡が取れるようにしているんだ。」

「む、十文字だと…何故貴様があの男と?」

「昔ちょっと…でも、そうやって動いている人達も一体いつまで持つか…何せ敵の数が多すぎるし、この調子だと持って3日…いや2日も掛からずに決闘市は壊滅してしまうかもしれない。」

「か、壊滅って!」

「そんな…酷い…」

 

 

 

この混乱の中でも、冷静に対応して行動している人間がいるというコトに若干の驚きを見せつつも…それでも蒼人から冷静に導き出された最悪の結果に対して、益々不安の気持ちが大きく膨れる遊良達。

 

こんな非現実的な現象と被害、そして人が突然変貌して襲ってくるという恐怖が相まって、とてもじゃないが改善の策など少年達に思い浮かぶわけが無いだろう。

 

何せ、今起こっているこの混乱も、真相を知らぬ少年達からすれば超常現象の類。その原因も分からないのだから、なにを持って解決するのかなど分かるはずもないのだから。

 

そんな不安と焦燥に駆られている遊良達を見て、再度蒼人が口を開く。

 

 

 

「落ち着いて、ここで取り乱したって何も解決しない。だからこそ、無事な僕らが何かを考えないといけないんだ。慌てふためく元気があるなら、なおさらそれを思考に回すようにしないと」

 

 

 

こんな突然の混乱に放り込まれたのは蒼人とて同じ。しかし、彼がここまで冷静にしているのも、彼自身の過去の経験があってこそ。

 

蒼人の過去など何も知らぬ遊良達からすれば、信じられない程に場慣れしている蒼人にただ驚くしかないものの…

 

それでも、こういった状況で一人でも冷静な人間が居てくれるだけで、不安に駆られていた心に落ち着きと安堵が生まれたとしても不思議では無い。

 

 

 

「情報が少なくてもいい。でも、とにかく今の僕達で何が出来るのかを考えよう。」

「考える…考える、か。」

「うむ。」

 

 

 

その安堵の程度も、ソレが年上の人間であればなおさらのこと。

 

たった2歳の差とは言え、この年代の少年達からすればその『2年』とは驚くほどに『子供と大人』の境界線を分け隔ててくるモノなのだ。

 

蒼人の態度がより冷静でいてくれることが、どれほど遊良達の安堵に繋がっているのかは…切羽詰っていた先ほどの少年達の表情と比べて、今のこの表情を見れば一目瞭然であって。

 

 

 

「…幸い、僕達はこの『闇』について無知じゃない。僕は一度この『闇』に飲まれたことがあるし、天城君と天宮寺君は『闇』と数回戦ったことがある。」

「うむ。それに俺は『闇』を狩っていたからな。誰よりもコレのことを知っているぞ。」

「いやいや、鷹矢のそれ自慢じゃないから。大体私達にも内緒にしてて。」

「あぁ、本当に心配ばっかりかけやがって。」

「ぬ…」

 

 

 

そして、まだその言葉に少々の不安を孕んではいても、それでも少年達には多少の冗談を言える位にまで心に落ち着きが出てきたのだろうか。

 

しかし、今この状況ではその少しの余裕が大切。心に余裕も持てず、ただ不安に押し潰されたまま街を逃げ回っていれば、いずれ早い内に敵の前に倒れていたことも考えられるだろう。

 

だから寧ろ、ここで多少の軽口を叩けるくらいが丁度よく…その方が頭を回転させやすいことを蒼人は知っているからこそ、こんな状況下でも穏やかに後輩たちを見ていて。

 

現状を考えれば、まだまだ街は悪化の一途。

 

下手に希望を持たせたわけではないが、それでも今街に溢れている『闇』に対し、その良し悪しは別にしてもソレに関わったことのある人間がここに集まれていることを活かさなければと、そう言わんばかりに。

 

 

 

「よし、じゃあ状況を整理しよう。さっきの哲からの情報が本当だとすると…」

「人を街から出さないように…でも街の中心には近づけさせないようにしている…ってことですか?」

「うん。もしそうなら、これは突発的に起こった災害じゃなく…何か目的があって、人為的に引き起こされた可能性が高い…もし誰かが『闇』を操っているのだとしたら、きっとその中心にいるのが…」

「ふむ、黒幕と言うわけだな。」

 

 

 

先ほどの悲観的な考えしか出てこなかった少年達とは打って変わって、多少生まれた冷静さのおかげか言葉が紡ぎやすくなっている様子。

 

蒼人から提示された情報で、考えられる状況を頭に思い浮かべ…現状の把握をすることで、目的が明確にわかるのだ。

 

まぁ、だからと言って状況が改善しているわけでは無いのだが。実際に街中には未だ敵が溢れていて、敵の中枢と考えられる『部分』に目安が着いたからとは言っても、それも単なる状況から見た憶測に過ぎず…

 

その正確な場所がわからなければ、大量の敵の中にただ飛び込んでいくだけ。

 

また、鷹矢も敵の黒幕と簡単に言うが、その正体には影も形も想像がつかないのだから…一か八かで打って出るわけにはいかないだろう。

 

 

 

「…あぁそうだ遊良よ、その黒幕のことなんだがな。」

「…さっきの心当たりか?」

「うむ。」

 

 

 

だからこそ、鷹矢は己に浮かんでいた『心当たり』を遊良へと伝えて。

 

 

 

「…俺が【決闘祭】で戦ったあの紫魔の女…なんと言ったか?」

「紫魔 ヒイラギ先輩だろ?」

「あぁそうだ、その紫魔の女なんだが…俺はあの女が怪しいと思っている。実は今まで黙っていたが、あの試合…その紫魔なんとかと言う女が、試合中に俺に何かをしてきたのだ。」

「…は?な、何かって…」

「うむ。『付いている者を操ることは容易い』とか、『何で言う事を聞かない』とか…とにかく、あの女の声が妙に頭に響いて煩かったのを覚えている。」

「…は?」

 

 

 

それは、たった今遊良達が辿りついた結論が…

 

この混乱が『人為的』に引き起こされている『可能性がある』という程度のものだったのに…

 

その段階を軽々と飛び越えるような鷹矢の言葉が部屋に放たれ、それと同時にここに居る鷹矢以外の人間が、同じイースト校の生徒で【決闘祭】の代表でもあったその名前を耳にして、何と反応していいのか困っている様子を見せていた。

 

誰もが鷹矢の言葉を、ただの『勘』と切って捨てることは容易いけれども…鷹矢が【決闘祭】で実際にヒイラギと戦って、そして実際に『何か』されかけたことは紛れもない事実。

 

 

 

「だからこそ、俺にはあの女がコレに関係が無いとは思えんのだよ。」

「お、お前…」

 

 

 

この男が『闇』にずっと関わってきて、さらにソレに対してヒイラギが『何か』をしてきたという、鷹矢にしか分かるはずもない感覚と経験を得ているからこその、彼のその言葉。

 

いくら何でも、鷹矢のソレだけで彼女を黒幕だと判断するには早計…それでも街に溢れている『闇』が、もし鷹矢の言う通り紫魔 ヒイラギによって操作されているのだとしたら…

 

 

―ただの『勘』と言うにはあまりに的を射ている。

 

 

この緊急を要する事態で、その可能性が怖いほどに真実味を帯びているのだ、解決への光明が現れたというのに、見知らぬフリなど出来ないだろう。

 

 

…だからこそ…

 

 

 

「そんな大事なことはもっと早く言えよこの馬鹿野郎!」

「ぬ!?」

「そうだよ!大体なんでこんな時までそのこと黙ってたの!?それがもっと早く分かってればこんな事態になる前に何とか出来てたかもしれないのに!」

「いや、それはだな…」

 

 

 

遊良もルキも、今更になってこんな重要な事実を言ってきた鷹矢を叱りつけて。

 

いくら鷹矢が遊良と戦う時用にずっと隠していたのだとしても、『闇』の事以上に、ヒイラギの動向の怪しさがもっと早くに発覚していれば、この事態を防げていたかもしれない可能性は大いにあるのだ。

 

当然、鷹矢もこんな大事が起こるだなんて予知していたはずもなく。

 

大体、彼が『闇』を集めていたのだって、【決闘祭】で遊良と戦う時の隠し玉としてしか考えていなかったのだから、その正体も黒幕も知っているわけが無いのだ。

 

だからといって鷹矢が悪いわけでないと言うことは、遊良達にだって分かっているのだが…それでも、この最悪の状況が少しでも無かったかもしれない可能性を考えるとキリがないのか。

 

 

 

「…でもさ、鷹矢の言う通りだったらこれを引き起こしたのは紫魔家ってこと?ってことは、紫魔家の人間を見つけて情報を得たら…」

「…いや、襲われている中には紫魔の人間も大勢いたから…一概に紫魔家の全てがコレに関わっているわけじゃなさそうだね。寧ろ紫魔家の総勢を考えると、ここまで計画的に隠れて動いてきたのなら、敵は少人数の可能性が高いかもしれない。計画を知る人間が増えれば増えるほど、計画が漏出する可能性が高くなるから。」

「『闇』を操れるであろう紫魔の女が、まさかこの混乱で襲われているとも考えられんしな。だったら裏で操っている可能性の方が高い。」

「…じゃあ紫魔先輩が怪しいってのはわかった。泉先輩、何とかして紫魔先輩を見つけ出すのが優先ってことになりますか?」

「…天宮寺君の話が本当ならそうなるだろう。それに、僕もボンヤリではあるんだけど…『闇』に飲まれた瞬間に、2年生の紫魔 右京君が僕に何かしたような覚えがあるような無いような…確か、『お嬢さま』がどうとかって…選抜戦の時に彼がヒイラギさんをそう呼んでいたから、多分間違いない。」

 

 

 

それでも、目指すべきモノが全く分からなかった時点から考えると、驚くほどに点と点が繋がっていく遊良達。

 

その考えが間違っている可能性も大きいとはいえ、それでもここまで納得のいく可能性まで辿り付けた彼らからすれば、ここで足踏みしているわけには行かないだろう。

 

…見つけるべき『人間』に、目星はついた。

 

あとは、その場所。

 

おそらくは、敵が固まっているらしい決闘市の、中心街のどこかなのだろうが…

 

しかし、そこに居るのではないかという『可能性』だけでは、そんなところに飛び込んでいくわけには行かず、ただ闇雲に向かっていくわけには行かない。

 

何か他に考えられることは無いか…彼らが思考をフル回転させようとしていた…

 

 

―その時。

 

 

―!

 

 

急に震えた、メッセージの受信を告げるバイブレーション。テーブルの上に置いていたものだから、硬いテーブルと端末が細かく打ち合って…

 

静かで暗いリビングの中に、振動音が響き渡った。それも一つではない、遊良と鷹矢の端末に、それぞれ同時に。

 

 

 

 

「ビックリした…誰だこれ…知らないアドレスからだ…」

「む?俺の方に届いたのも同じ奴からみたいだぞ。」

「…え?い、一体誰が…」

 

 

予期せず鳴り響いた振動音に若干の驚きを見せる遊良。

 

この混乱の中で、何か特別な連絡網を持っているらしい蒼人は別にしても…回線がパンクしているのだから、到底メッセージの受信など起こるはずが無いと思っていたためか。

 

しかも鷹矢と同時にメッセージが届き、それが同じ相手からと言う…怪しさも危険度も多大に匂ってくるソレに対して、遊良にはどうしても警戒心が勝ってしまうのだろう。

 

何か考えるようにしてそのメッセージを見て、今まさに意を決してソレを開けようとして…

 

 

 

「む!?『敵はセントラル・スタジアム』…たった一言、これだけだ……む!?そうか、敵はセントラル・スタジアムに居るのか!そういえば街の中心部に黒幕がいると言っていたな!そうに違いない!よし、場所が分かった!一刻も早く行くぞ遊良!」

「…罠でしょ、それ。」

「あぁ、罠だろうな。」

「罠の可能性が高いね。」

「ぬ!?」

 

 

 

そんな遊良などお構いなしに、何の警戒心も無しにそのメッセージを鷹矢は読んで。

 

何より出所のわからぬそのメッセージを、何故そこまで鷹矢が素直に信用出来るのかが全員の疑問ではあるものの…それより遊良達が欲しかった情報が、こんなタイミングよく、しかもこんな状況下で届くというコトなど普通はありえないことだ。

 

だからこそ、『罠』の可能性が高すぎるこんなメッセージなど、遊良達が信用できるはずも無く。

 

 

 

「でもこんなモノ、一体誰が何のために…?」

「わからない…でも罠の可能性が高いのに、わざわざ出向くのは危険すぎる。確かに街の中心部に黒幕がいるんじゃないかって考えてはいたし、街のほぼ中心にあるセントラル・スタジアムが怪しくないとは言えないけど…」

「しかし、本当にセントラル・スタジアムにいるのかもしれんのだぞ!?ならば逃げる前に行かねば意味が無いのだ、ここでグズグズしている暇はない!」

「いやどっから来るんだよお前のその自信は…」

 

 

 

全く信用できない謎のメッセージだというのに、どうして鷹矢がここまで確信を持っているのかは、遊良達からすれば不思議で仕方ないことだろう。

 

確かに自他共に認める、鋭い『勘』を持つ鷹矢。彼の直感が時折、それこそ本人すら理解していない物事の本質まで届いていることもあるのだが…それでも、この状況でその『勘』にだけ頼って動くわけにはいかない。

 

多数決を取れば、このメッセージは罠。例え鷹矢が頑なとしてコレを推したとしても、他の3人が許しはしないだろう。

 

そんな訝しげな顔をしている3人へと向かって、鷹矢は再度、自信満々に口を開く。

 

 

 

「俺には分かる。何せ【決闘祭】の最中、会場内のいたるところで『闇』が消えたり現れたりしていたのを俺は感じていたのだ!だからあそこに何かあるのだとしても不思議では無い!」

「…は?」

「『白紙のカード』を通して感じたことだからな、間違いない。少なくとも、試合が終わるたびに会場のどこかに『闇』は出現していた。うむ、あの時のソレが敵だったのだろう!」

「……だからお前は!そういう大事なことはもっと早く言えこの馬鹿!何で昔っから大事なことを言い忘れるんだ!」

「む!?折角真実味を帯びてきたと言うのに何だその言い草は!今言ったからいいだろうが!」

「良いわけあるか馬鹿野郎!」

「なんだと!?遊良の癖に!」

「うるせぇ、鷹矢の癖に!」

「ちょっと二人とも!こんな時になに喧嘩してるの!」

「そ、そうだよ、天城君も天宮寺君も落ち着いて!確かにコレは大きな情報かもしれないんだからさ!」

 

 

 

そのメッセージの出所がどうあれ、何も分からなかった最初の時点から考えれば鷹矢の言う通り、敵の形が見えてきたことは明らかではある。

 

鷹矢がもし『闇』に固執せず全くの無関係であったならば、少年達はここまでの考えに至ることすら出来なかっただろう。敵の正体に目星などつけられず、またメッセージが届いても罠としか思えずに。

 

それでも、このメッセージが罠である可能性の方があまりにも高いことには変わりないのだが…そう、これはあくまで予測の範疇、誰が送信したのか分からないアドレスから、こんなに都合よく敵の居場所が来ていいのか…と。

 

だからこそ…

 

 

 

「…罠かもしれんという事は俺もわかっている。だから俺一人で行く。お前たちはここに居ろ。」

「いや駄目だろ、危険すぎるし、第一本当に敵がセントラル・スタジアムに居たとしても、お前一人で何とかなるはずないって。」

「敵は少人数なのだろう?だったら俺一人でも何とかなるかもしれん。」

「…でも鷹矢の言ってるソレってあくまで想定の話でしょ?それに連絡も取れなくなるし、無事かどうかもわからなくなるんじゃ、危険すぎるよ…。」

「…むぅ」

 

 

 

敵が溢れているらしい中心部、確かに大勢で行くよりは身動きを取りやすい鷹矢一人で向かう方が、合理的ではある。…それに、もし鷹矢がやられたと仮定しても、残っている人間が多い方が建て直しも効くことは確か。

 

それでも、遊良もルキも、鷹矢が自ら進んで危険な場所へと突っ込もうとしていることに対して、大手を振って勧められるわけがないだろう。

 

…いくら馬鹿で勝手なことばかり言う奴だとは言え、遊良とルキにとっては代わりなど居ない唯一無二の存在。

 

とてもじゃないが、無謀に突っ走らせるわけにはいかないのだと…その様子を崩すことなど出来ない姿を見せていて…

 

 

 

「…セントラル・スタジアムには、哲にも行ってもらうよう頼もう。それなら連絡も取れれるし、ああ見えて彼も相当こういったことに慣れているから、何かあっても彼と二人なら確実に逃げられるはずだ。」

「え、泉先輩!?」

 

 

 

それでも、微かに輝いた光明を見逃さない蒼人。

 

無謀な策と不確かな情報…しかし、確実性が無いわけでもなく…もしこれらが一致した時には、それこそ事件の核心にまで近づけることを感じ取ったのだろうか。

 

確信は無い。それでも、賭けるには値すると言わんばかりに。

 

少なくとも、鷹矢の実力ならば街に溢れている『雑兵』達に負けることは無いだろうし、この家まで駆けてきた鷹矢なのだ、身の守り方も分かっていることだろう。

 

そこに蒼人が信頼を置く十文字 哲が合流してくれれば、おそらく最悪の事態にはならないはずだ、と。

 

 

 

「確かに危険には変わりないし、天宮寺君が感じたモノは彼にしか分からないけれど…でも、ソレは無価値じゃない。無闇に突っ込むんじゃなく、ここまでイメージ出来ているなら、行動してみる価値はあると、僕は思う。」

「そうだろう?ならば行くしかあるまい。それに、まだ何かあると決まったわけでは無いのだ。何も無ければ、『セントラル・スタジアムには何も無かった』と言うことが分かる。街の中心部の『どこか』に敵がいると仮定しているのだから、それもある意味収穫だろう?」

「…まぁそうだけどさ。」

「でもさ、どうやってセントラル・スタジアムまで行くの…?敵も多いし、電車だって止まってるんだよ?」

「うむ、それなら考えてある。」

 

 

 

そう言うと鷹矢は立ち上がって、リビングにある戸棚の一つを開けると、その中から鍵を二つ取り出した。

 

何の変哲も無い、どこかの鍵と何かの鍵…およそこの家に置いてあるのだから、この家のどこかの鍵であることは確かなのだが…

 

それを見て、遊良だけは鷹矢が何をしようとしているのかを理解したようで。

 

 

 

「鷹矢、お前まさか…ガレージの車出す気じゃ…」

「いや、バイクだ。ジジイの物だが、この事態でそうも言っていられんだろう?どうせガレージで眠らせているだけなのだ、走らせても問題ない。」

「バイク!?鷹矢って免許持ってたっけ!?」

「何を言っているんだルキよ、俺が持っているわけないだろう。だが操縦の仕方は分かっているから安心しろ。道も覚えているしな。」

「えぇー…そういう問題じゃないと思うけど…」

 

 

 

王者【黒翼】の持ち物だけあって、一般家庭よりも大きな造りとなっているこの家にある、大きなガレージ。

 

そこに鷹峰が趣味で買い集めた車やバイクなどが置いてあることは、無論この家に住んでいる遊良と鷹矢も知っているコト。

 

そんな中、この際『車』でも『バイク』でもどちらでもいいのだが…確かに敵よりも早く動け、かつセントラル・スタジアムまで一気に素早く移動できるモノであることは確か。

 

しかし、無免許運転など普段であれば絶対に許されるわけが無く…こんな状況でも、許されるかどうかは甚だ疑問ではあるが…それでも、手立てが揃ってきてやるべきことも固まってきたのならば、動かないわけには行かないのだと、そういわんばかりの雰囲気をしている鷹矢。

 

そんな鷹矢を見て、遊良とルキは苦い顔をせざるを得ないものの…覚悟を決めたかのようにして、鷹矢は二人を見て…

 

 

 

「俺は行くぞ。」

「…本当に無茶ばっかしやがって、鷹矢の癖に。」

「む?お前には言われたくないぞ、遊良の癖に。」

「危なくなったらすぐに逃げてよ?何かあってからじゃ遅いんだからね?」

「ふん、俺にそんな心配などいらんと言っているだろうが。」

「…天宮寺君、哲にはもう伝えておいた。街からここまで辿りついた君なら問題ないとは思うけど…何かあったらすぐに僕も助けに行くから。」

「うむ。」

 

 

 

覚悟は決めた、『もしも』の場合でも、被害は最小限。それに、捨て駒になるつもりは初めから無く、本気で事態をなんとかしようと鷹矢は考えているからこそ…もう誰も鷹矢を止めることなど出来ない。

 

そうして裏口の方からガレージへと向かおうとしている鷹矢へと、彼らは言葉をかけて…

 

カーテン越しに家の外を確認すると、今のところは幸いにも近くに敵は居ないようで。確かに、打って出るなら今しかないだろう。これ以上時間を置くと、敵の数は更に増えるだろうから。

 

 

 

―!

 

 

 

確かにかかったエンジン音が鷹矢の出発を伝え…

 

運転などしたことが無いはずなのに、一体いつ操作を覚えたのだろうと思いつつも、そういえば前に鷹矢の部屋を掃除した時にバイク雑誌を発見した事を思い出して、妙に納得してしまう遊良。

 

いつの頃だったか、鷹矢が、祖父のバイクが欲しいと言っていたことがあったと、幼少の頃のソレも同時に思い出して。

 

…その一台一台の価値が、実は途方もない金額であり…下手をすれば住宅一軒の値段よりも高い物もあるという事実を、遊良は知らないが。

 

そんな鷹矢の走らせたバイクのエンジン音がみるみる内に遠ざかっていき…やがて遠くなりすぎたのか、その音が聞こえなくなった所でルキが口を開いた。

 

 

 

「…そういえば、遊良の方も同じ人からメッセージ来てたんだよね?内容も同じだったの?」

「まだ見てないな、多分そうだと思うけど…」

「一応見てみたら?」

「…そうだな、えっと…」

 

 

 

そんな中でルキに促され、遊良は自身の端末を取り出すと未開封のメッセージを開くための操作をし始めて。

 

たった一言、『セントラル・スタジアム』という単語を頭に思い浮かべながら、どうせ鷹矢に届いたのと同じモノだろうという思いが彼の頭の片隅に残ってはいるものの…

 

その文字列を目に入れて、その意味を頭が瞬時に彼に理解させ…

 

 

 

…そこには

 

 

 

 

「…え!?…セントラル・スタジアムじゃ…ない…これって…」

 

 

 

そこに書かれていた場所は…鷹矢に来たモノとは、異なった場所が示されていた。

 

 

 

 

 

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