遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep43「渇いた叫びー後編」

「…はぁ、はぁ…くっ!」

 

 

古びたスタジアムの外、正面入り口のすぐ前でのこと。

 

自分へ向かってきた『駒』となった獅子原 エリを倒し、その他の『雑兵』を相手に、決してスタジアムの中へと入れないようにして立ちふさがっていた蒼人が、息も絶え絶えに苦しそうな声を漏らしていた。

 

 

しかし、それもそうだろう。

 

 

遊良がスタジアムの中へと突入していってから、『駒』を倒したとは言え溢れ出る『雑兵』達の足止めを、その身一つで引き受けていたのだから。

 

もう、何戦したのかすら覚えていない蒼人。数人がかりで向かってくる敵を倒し、ソレを倒しても倒しても後に控える意思の無い『雑兵』達が向かってくるのだ。

 

少しずつダメージが蓄積し、その病み上がりの体が徐々に悲鳴を上げてくる。今すぐにでも膝が折れ、倒れこんでしまいそう。

 

それでも…

 

 

 

「ぐっ…こ、ここは…通さないよ…」

 

 

 

デュエルディスクを構え、未だ減る気配がしない『雑兵』達の数をその目に入れても、戦う意思を手放すことを決してせず。

 

つい先ほど古びたスタジアムが地響きと共に揺れ始め、スタジアムの天井を突き破って『闇』が物凄い勢いで噴出し…

 

今すぐにでも中へと突入して遊良の無事を確認したい蒼人ではあったものの、この場を空けることもまた、取り返しのつかない状況になるということを彼とて理解してしまっているからこそ、蒼人はこの場を離れることが出来ないのだ。

 

溢れる敵が、自分を追って中に進入してしまえば…例え遊良が無事であっても、追い詰められて逃げ出すことが出来なくなってしまうから。

 

だからこそ、姿形は見えずとも、蒼人は遊良の無事を信じている。

 

きっと無事でいてくれて、自分の足で戻ってきてくれるはずということを。その彼の逃げ道を守り、彼だけでも無事に逃がしてやるのだと、そう言わんばかりの気概のまま…

 

 

決して、折れずに戦っているのだ。

 

 

 

「アァガァ…」

「ガッ、ガガ…」

「デュ…エル…ウ…」

「はぁ、はぁ…い、行くよ…」

 

 

 

そうして、終わることの無い戦い戦いが再び始まろうとしていた…

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

「邪魔だカスども。」

 

 

 

―!

 

 

 

溢れる敵の遥か後方。

 

蒼人からも見えないような敵達の蠢く壁の向こうから…突然弾き起こった爆音と、それに伴う凄まじい衝撃波が古びたスタジアム内に居たであろう全ての『人間』へと襲いかかって。

 

その衝撃が建物まで届き、反響するようにしてその威力を増して次々に敵を飲み込んでいくではないか。

 

そして、その衝撃の襲撃はスタジアムの正面で立ちふさがっていた蒼人であっても例外ではなく…

 

 

 

「なっ!?い、一体何が…ッ、あぁぁあ!?」

 

 

 

吹き飛ばされ、転がる蒼人、

 

敵と一緒に、この暴風と見間違えるような衝撃に襲われ…そのまま、限界が近かった蒼人の意識は地面に激突した痛みと共に消えかけていく。

 

 

―!

 

 

そんな消えゆく意識の片隅で、確かに聞いた竜の咆哮が…

 

何時までも、蒼人の耳に響いていた…

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「と、砺波…理事長?」

 

 

 

やっと辿りついた、敵の本陣と思われるその場所。

 

謎の発信元から届いたメッセージを頼りに、この『古びたスタジアム』の中心部へと辿りついた遊良は、たった今、目の前のありえない事象の中から平然と歩いてきた人物をその目に入れて、思わず驚きの声を上げていた。

 

まるで止まる素振りのない、間欠泉の如き勢いで噴出している『闇の塔』の中から現れたこの人物…

 

 

―イースト校理事長、砺波 浜臣

 

 

かつて王者【黒翼】と共に、生きる伝説とまで称えられていた歴代最強のシンクロ使いとの呼び声も高い元王者、【白鯨】と呼ばれていた人物。

 

そして現在では、超巨大決闘者育成機関【決闘世界】の一員で、遊良が通う決闘学園イースト校の理事長も勤めている人物である。

 

無論、遊良にとってもつい最近まで一悶着あったことは、彼の記憶にも新しいことだろう。

 

そんな人物が、一体何故敵の本陣であろうこの場、そして『闇の塔』の中から現れたのだろうか…全く違う人物の『黒幕』を想像していた遊良からすれば、それが不思議でたまらないことに違いなく。

 

 

 

「い、一体何故あなたが!」

「…誰だ…貴様は…」

「誰って…あ、天城です、砺波理事長!」

「気安く私の名を呼ぶな!貴様さえ居なければ私は今頃…今頃?ど、どうすればよかったと言うのだ…何故、お前は私に応えない…グッ!」

「な、何を言って…」

 

 

 

しかし、その様子はあまりにもおかしい。

 

支離滅裂な言葉を発し、意識が朦朧としているかのようにふらついていて。

 

虚ろな目をして、自分自身が何を言っているのかを理解出来ていないようでもあるし…まるで、彼が『彼自身ではない』かのように、今の砺波の言葉には纏まりがない。

 

―これではまるで、街に溢れる『闇』に憑かれた者のよう。

 

いや、実際にそうなのではないだろうか。

 

『闇』の中から砺波が現れた時には、まさか彼が『黒幕』なのかとの疑惑が少々遊良にも巻き起こってはきていたものの…今の砺波のこの様子では、おそらく違うことは必至。

 

 

 

「どうしたんですか!どうしてあなたが『闇』の中から!?それに、意識もハッキリしていないようだし…」

「…何だ?なぜ私はこんなところに…黙れ…わ、私は貴様を認めん!私は…『私』…は…?グッ…ワ、ワタシ…ハ…」

 

 

 

 

そんな彼の漏れ出している怒りは、まるで遊良を見ているのに『遊良』に向いていないかのよう。

 

ただ湧き出す感情によって口を開いてはいるものの、苦しみもがくその様子は、自分では無い『何か』と戦っている様子にも見える。

 

また、その言葉にも纏まりなど感じられず、考えていないにもかかわらず、勝手に言葉が口から出ているようにしか思えない程に、今の彼の言葉は安定せず。

 

 

 

「決着ヲ…着けて…ヤル…過去ヲ…清算…スル…」

「ッ!?まさかデュエルを!?」

 

 

 

そう言った砺波の腕には、確かにデュエルディスクが装着され…僅かに彼に纏わりつく闇がその腕を持ち上げて、今にも遊良に襲い掛かりそうなほどにソレは荒ぶっていて。

 

ウエスト校理事である李 木蓮から聞いた話と同じ、自らが襲いかかろうとしているのが、己の学園の生徒であるということにも、今の砺波には気付くこともできず。

 

自動的、そして強制的にデュエルディスクがデュエルモードへと切り替わり、デッキが現れオートシャッフルされて。

 

 

 

「そんな…ぐ…くそっ!」

 

 

 

逃げることを許されぬ、強制的なデュエルが今、始まろうとしていた。

 

 

しかし、並の相手では断じてない。

 

 

今、遊良の目の前にいるこの男が『元』とは言えかつての【王者】で、既に歴史に名を刻むほどの伝説を打ち立てている人間であることに変わりはなく…

 

…『才能』、そんなモノ、初めから持っているのが当たり前。『運』、そんなモノ、嫌でも発揮されるのが前提。『実力』、そんなモノが他の誰よりも高いのは、誰に言われるまでもないのだ。

 

才能と研鑽と思考をこれ以上無いくらいに積み重ね、その中にいる人と人とが本気で喰らいあっても…それでも王者の高みはまだまだ見えてこない。

 

しかしそこへと『辿りついた』、文字通りの【王者】、文字通りの歴戦。

 

言葉で簡単に言い表せるほど、ソレは断じて軽くなく…

 

 

 

「や…やるしか…ないのか…?」

 

 

 

―逃げたい、去りたい、勝てるわけがない。

 

 

砺波から感じる畏怖、果てはその醸しだす圧力が、いくら引退したとは言え彼が元【王者】であるということを、確かに遊良に教えてくれているのだろう。

 

幼い頃から【白鯨】のデュエルを見てきた遊良からしても、その実力が今の自分では想像することすらできない、絶対的に遥かな高みにあることを理解していて。

 

 

かつて砺波と肩を並べていた、【黒翼】を師に持つ遊良だからこそわかること…

 

 

今のこの男が放つ圧力は、師と比べても遜色ない絶対的な畏怖を、確かに孕んでいるのだから。

 

それでも、そんな常人ならば一目散に背中を向けて逃げ出している雰囲気の中で…苦しそうな声を漏らしながらも、遊良は何とかデュエルディスクを構え始めて。

 

 

遊良とて、砺波の様子のおかしさから彼が『闇』に囚われているのはわかっている。

 

 

―デュエリストを『変貌』させてしまう、この『闇』。

 

 

それは意識や思考、そしてプレイスタイルや実力…果ては、デュエリストの命その物である、デッキまでをも『変貌』させてしまうのだ。

 

…それが、良い方に傾くのか悪い方に傾くのかなど、この場で狙われている遊良には分かるはずがないとはいえ…

 

 

 

「行く…ゾ…」

「ぐっ…」

 

 

 

決して、逃げられはしない。

 

けれども、投げ出せもしない。

 

 

今遊良の中にあるのは、砺波が『闇』の中から出てきたことから、彼を何とかすれば『闇の塔』も何とか出来るかもしれない希望と…

 

普通に戦りあって何とかできる相手のレベルを、軽々と超えている人物と対峙しなければならない恐怖と…

 

 

その両方が天秤にかかって、そしてその全てが混ざり合って。

 

 

今何とか出来るのは自分しか居ないという重圧が、遊良の肩に圧し掛かってきているのだ。

 

このまま逃げ出せば、街は終わり。けれども立ち向かっても何とか出来るのだろうか…そんな感情がグルグルと遊良の頭を巡っている中で…

 

 

 

―…それは、始まる。

 

 

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

 

 

先攻は、遊良。

 

 

 

 

 

「お、俺の先攻!【堕天使の追放】を発動し、デッキから【堕天使イシュタム】を手札に加える!そのままイシュタムの効果発動、【堕天使マスティマ】とともに捨てて2枚ドロー!魔法発動、【トレード・イン】!【堕天使スペルビア】を捨てて2枚ドロー!【闇の誘惑】を発動!2枚ドローし、【堕天使エデ・アーラエ】を除外!」

 

 

 

なりふり構っていられない。まさにその焦りとともに、最初から全力でデッキを回転させにかかる遊良。

 

そう、街の惨状と砺波の様子を見るに…ここで立ち向かわずに逃げ出すことが、遊良にはどうしても出来なかったのだ。

 

相手は腐っても、元【王者】。

 

目の前に立つこの男がそう呼ばれるに到るまでに、一体どれほどの戦いを経験し…一体、どれほどの死線を潜り抜け、そして自らソコに戻って行ったのだろうか。

 

自らの力でも、どこまで耐えられるかわからない。しかし、決して諦めてはいけない…だからこそ、遊良は持ちうる全ての『力』を持って立ち向かわなければならず…

 

 

 

「【堕天使ユコバック】を通常召喚!その効果で【堕天使ゼラート】を墓地へ送る!魔法カード、【堕天使の戒壇】を発動!【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚し、その効果で【堕天使イシュタム】も特殊召喚する!【堕天使イシュタム】の効果発動!LPを1000払い、墓地にある【堕天使の戒壇】の効果を得る!【堕天使マスティマ】を守備表示で特殊召喚し、その後【堕天使の戒壇】をデッキへ戻す!」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

【堕天使ユコバック】レベル3

ATK/ 700 DEF/1000

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

【堕天使マスティマ】レベル7

ATK/2600 DEF/2600

 

 

遊良 LP:4000→3000

 

 

 

そうして、自らのLPを犠牲にしながらも、遊良は一瞬にして4体の堕天使を場に揃えて。

 

麗しく煌く黒き翼は、圧倒的な圧力を持って遊良を潰しにかかるであろう元【王者】と、勢いを増していく『闇の塔』の蠢きを前にしても怯むことなく羽ばたくのか。

 

妖しくも美しい漆黒の翼で、主の進撃のために今飛び立つ。

 

 

 

「俺はカードを1枚…いや2枚伏せて…タ、ターンエンド!」

 

 

 

遊良 LP:4000→3000

手札:5→1枚

場:【堕天使ユコバック】

【堕天使スペルビア】

【堕天使イシュタム】

【堕天使マスティマ】

伏せ:2枚

 

 

 

「私の…ターン、ドロー…」

 

 

 

遊良のターンが終了して、ゆっくりとカードをドローした砺波。

 

それを見て、『闇』に飲まれた者は皆そのデッキを『本来のデッキ』とは似ても似つかない、全く脈絡の無いデッキへと『変貌』させられていたを遊良は思い出して。

 

 

(い、一体…どんなデッキに変わっているんだ…いや…)

 

 

とは言え、そもそも砺波のデッキが『本来のデッキ』であった所で、立ち向かえるかどうかなど遊良には全く分からず。

 

そう、対策や対応を考えたところで、【王者】と、そして【王者】の名となった『特別なモンスター』の前では、如何なる奇策も駄策と終わってしまうのだ。

 

思わず身構え、その一挙手一投足を見逃さないように最新の注意で、一時の油断もしないようにしている遊良に対し、砺波は虚ろになりかけの眼で手札を見て…

 

ふらつく足と纏わり憑く『闇』で体を支えて手札から1枚のカードを取ると、それを召喚した。

 

 

 

 

 

「私は…【深海のディーヴァ】を召喚!」

「ッ!?」

 

 

 

【深海のディーヴァ】レベル2

ATK/ 200 DEF/ 400

 

 

 

そうして砺波の場に現れた、人魚の歌姫。それを見て、遊良は驚きの声を上げて。

 

別に、レベルが低く攻撃力も低い水属性のチューナーモンスターの内の一体。

 

特別な価値があるようなカードではなく、かといって滅多にお目にかかれないといったような希少なカードでもないというのに…

 

だと言うのに、遊良が漏らした驚きの声は、そんな『一般論』から来るモノでは断じてない。

 

そう、まさか『変貌』しているであろう、何が出てくるか分からない砺波のデッキから…まさか『このモンスター』が飛び出てくるなんてと言ったような、そんな声となってスタジアムに放たれたのだから。

 

 

 

「し、【深海のディーヴァ】!?…か、変わっていない?」

 

 

 

もちろん、遊良にしたって彼のデュエルを幼少の頃から見てきているのだから、砺波のデュエルを形作るこの最も有名なモンスターである歌姫のことを知らないわけがないだろう。

 

 

―王者…『元』王者【白鯨】、砺波 浜臣という決闘者を語るにあたり、絶対に欠かすことの出来ない最重要として、世界中の人間に知られているモンスターの内の一体。

 

 

彼のデュエルを遥かな昔からずっと支え、その歌声で数多の仲間を呼び出し…海のような無限にも思える展開を執り行ってきたことで知られる、この人魚の歌姫…

 

しかし、『闇』によって変貌しているであろう砺波のデッキから、彼を代表するこのモンスターが現れたことはあまりにも妙だ。それに対して、遊良が驚きを隠せないのも無理はなく…

 

 

 

「【深海のディーヴァ】の効果発動!デッキから…」

「え、永続罠、【デモンズ・チェーン】発動!ディーヴァの効果を無効に!」

 

 

 

そんなモンスターの効果を、焦りながらも冷静に食い止める遊良。

 

悪魔の鎖に縛られて、深海の中に響き渡る歌声を無理やりに止められた人魚の歌姫が苦しそうにもがくものの…

 

それでも安心なんてモノが、遊良には決して浮かんでは来ていない。

 

こんな初動の抵抗は、過去に数多の挑戦者が仕掛けて、そして軽々と打ち破られてきたモノ。

 

歴戦を戦い抜いた【王者】からすれば、初動を止められたことなど意に介す必要すらないのだから。

 

 

 

「場に水属性が存在する場合、手札から【サイレント・アングラー】を特殊召喚!そしてレベル4の【サイレント・アングラー】に、レベル2の【深海のディーヴァ】をチューニング!シンクロ召喚、レベル6!シンクロチューナー、【瑚之龍】!」

 

 

 

【瑚之龍】レベル6

ATK/2400 DEF/ 500

 

 

 

「私は【瑚之龍】の効果発動!1ターンに1度、手札を1枚捨てることで相手フィールドのカード1枚を破壊する!伏せカードを破壊!」

「くっ、罠発動【背徳の堕天使】!【堕天使ユコバック】を墓地へ送り、【瑚之龍】を破壊する!」

 

 

 

珊瑚の海龍が咆哮を轟かせたその瞬間、小さき堕天使が素早く飛翔しソレを躱して。

 

そのまま背徳の力をその身へ纏わせ、今襲い掛かってきた海龍を返り討ちにせんとして、煌く光弾を放ち弾き飛ばした。

 

そう、ここで砺波に無駄に攻め入られるわけにはいかず。相手の動きの一つ一つを的確に見極め、気を抜くことなく対応するしか遊良には出来ないのだ。

 

油断などできぬ、畏怖すら与えてくる相手。この程度で防ぎきれたなんて甘い考えを抱くことも、今の遊良には許されてはいない。

 

現に攻め手を躱されているというのに、砺波は全く衰える素振りも止まる様子も見せず…

 

 

 

「破壊された【瑚之龍】の効果で1枚ドロー!…魔法カード、【死者蘇生】を発動!墓地より【超古深海王シーラカンス】を、攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

【超古深海王シーラカンス】レベル7

ATK/2800 DEF/2200

 

 

 

「なっ、シーラカンスだって!?…た、確かそのカードは!」

「私は手札を1枚捨て、シーラカンスの効果発動!デッキより、【フィッシュボーグ‐ランチャー】、【白鱓】、【ビッグ・ジョーズ】、【竜宮の白タウナギ】を特殊召喚!」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

【フィッシュボーグ‐ランチャー】レベル1

ATK/ 200 DEF/ 100

 

【白鱓】レベル2

ATK/ 600 DEF/ 200

 

【ビッグ・ジョーズ】レベル3

ATK/1800 DEF/ 300

 

【竜宮の白タウナギ】レベル4

ATK/1700 DEF/1200

 

 

 

先ほどコストとして墓地へ送った太古の魚王に砺波が命じ、彼の場には一気に4体もの魚族モンスターが姿を現して。

 

階段上にレベルが連なるものの、そのどれもが遊良の場の堕天使に勝てるような攻撃力を持つ魚類ではなく、またどれもが効果を使うことも攻撃も許されてはいないというのに…

 

それでも、チューナーとそれ以外のモンスターをそれぞれ呼び出したのだから、連続的なシンクロ召喚で一気に攻め入る気でいることには違いないだろう。

 

それに、砺波が今効果を使った【超古深海王シーラカンス】に対しても、遊良はどうにも違和感を覚えたのか。

 

 

 

「…や、やっぱり様子がおかしい!それに、シーラカンスって…」

「ガキ…ディーヴァを止めたことは褒めテヤル…だが、それデ『私』の…ワ、ワタ…グッ!?…オ、『オレ』の展開ヲ止めタ気二なってんじゃねーだろうナァ!」

「なっ!?」

 

 

 

遊良がそんなコトを考えたその瞬間に、突然その口調を荒々しいモノへと『変貌』させた砺波。

 

そう、自身の呼称も『私』から『オレ』へと…まるで若返ったのかと錯覚するほどに、それは放たれ…

 

 

 

(…【深海のディーヴァ】を使ってきたから正常なのかと思ったけど…理事長のデッキも、『闇』で変わってしまっているみたいだ…)

 

 

 

また、抗ってはいるようだが、やはり『闇』の侵食が少しずつ進んでいるようにも見えるその様子から、遊良にとある可能性が芽生えたのか。

 

 

―それは、やはり砺波が扱うデッキは『変貌』している可能性があるというコト。

 

 

砺波の長いプロ活動において、晩年でこそ【海皇】というカテゴリーを好んでよく扱う場面が多かった砺波 浜臣。

 

しかし、彼のデッキは【海皇】のみではない。

 

こと『水属性』を扱うことに関しては、まさに召喚法問わず『世界一』の腕前を誇るほどにその才能を駆使してきた彼だからこそ、若年から往年にかけて、扱うデッキやエースも常に変化してきたのだが…

 

 

…若かりし頃の砺波のデュエル映像をも見たことのある遊良は覚えている。

 

 

そう、この【超古深海王シーラカンス】。

 

このモンスターは、『近年の砺波』は扱うことが無かったものの…『若かりし頃の砺波』のデッキの中核を担っていたことは、あまりにも有名なことなのだから。

 

 

 

「身ノ程知ラズガ!『力』ノ差ヲ教エテヤル!『オレ』ハ、レベル2ノ【白鱓】二、レベル1ノ【フィッシュボーグ‐ランチャー】ヲチューニング!シンクロ召喚、レベル3!シンクロチューナ、【たつのこ】!ソシテ、レベル3ノ【ビッグ・ジョーズ】二、レベル4ノ【竜宮の白タウナギ】ヲチューニング!シンクロ召喚、レベル7!【白闘気一角】!」

 

 

 

【たつのこ】レベル3

ATK/1700 DEF/ 500

 

 

【白闘気一角】レベル7

ATK/2500 DEF/1500

 

 

 

「【白闘気一角】ノ効果発動!墓地ノ【サイレント・アングラー】ヲ特殊召喚!レベル4ノ【サイレント・アングラー】二、レベル3ノ【たつのこ】ヲチューニング!」

 

 

 

そうして、まったく手を止める様子を砺波は見せず。

 

荒々しい手で休むことなく、そうして己に浮かぶ『感情』のまま、ただ遊良へと襲いかかるのみ。

 

『闇』による実体化で、本物のモンスターが場に現れることに連動する恐怖が今、砺波のシンクロ召喚しようとしているモンスターから感じる圧力と混ざりあい…

 

遊良へと襲いかかる、耐えられそうに無い『凍え』となってこの場に召喚されようとしていて…

 

 

 

「凍テツケ、世界ヨ!飲ミ込メ、全テヲ!シンクロ召喚、レベル7!【氷結界の龍 グングニール】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【氷結界の龍 グングニール】レベル7

ATK/2500 DEF/1700

 

 

 

「【氷結界の龍】!?それも今の理事長が持ってないカードじゃないか!やっぱり間違いない!」

 

 

 

…はっきりしない意識と、定まらない口調。そして扱うモンスター…いやデッキが、間違いなく『変貌』していることへの確信を、この瞬間にはっきりと遊良は得て。

 

そう、凍気を引き裂き現れた、この伝承の三龍の内の『一体』は…砺波が、プロとしての『晩年』に、使用することが許されていたモンスターは…

 

その希少性と伝わる伝承から、世界中のシンクロ使いが望んで、そして手に入れることを許されないカードの内の、所在が分かっている最後の一枚。

 

歴代のシンクロ王者にのみ使うことを許される、神話の槍。

 

他の誰でもない、それは一重に、シンクロ召喚の王者、【白鯨】であった砺波 浜臣だったからこそ、かつて彼に与えられていた特別な一体なのだ。

 

そんな今では【白竜】が持つ封印されしソレが、『若年の頃の砺波』のエースであるシーラカンスと並ぶことは、現役時代の砺波ではありえなかった光景でもあって。

 

 

 

「【サルベージ】ヲ発動シ、【白鱓】ト【サイレント・アングラー】ヲ手札ヘ戻ス!グングニールノ効果発動!手札ヲ2枚捨テ、【堕天使イシュタム】ト【堕天使マスティマ】ヲ破壊!」

「くそっ!【堕天使マスティマ】の効果発動!LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!【堕天使テスカトリポカ】を手札に加え、【堕天使の追放】をデッキへ戻す!テスカトリポカは手札から捨てることで【堕天使】の破壊を防ぐことが出来る!守れ、テスカトリポカ!」

 

 

―!

 

 

遊良 LP:3000→2000

 

 

 

それでも『変貌』しながら襲いかかる砺波の怒涛を、ギリギリのところで何とか防いでいる遊良。

 

悪魔のような堕天使の、革命の業火が氷龍の咆哮を相殺し…悪手だけは引かないように、必死になって思考を動かして。

 

いや、この手が好手だったのか悪手だったのかなど、一つ一つに必死になるしかない遊良には考える余裕すら浮かんでは来ていないだろう。

 

現に、砺波はまだまだ余裕すら醸しだしているのだ。そのまま一呼吸の休みも入れずに、砺波はまたもや口調を『変貌』させながら口を開く。

 

 

 

「…ふむ、中々粘る挑戦者だ!ならば見せてあげましょう、この『私』の力を!」

「ッ!?」

 

 

 

そうして、再び『変貌』するその口調。

 

先ほどの荒々しいモノから、その目は未だ虚ろなままではあるものの…余裕と穏やかさを兼ね備えた今の彼の態度は、今まで彼が嫌悪していたはずの天城 遊良へと向けていた『敵意』を全く孕んではおらず。

 

 

記憶が混在し、意識が朦朧し…

 

 

とは言え『闇』に取り憑かれているはずではあるものの、その雰囲気はどこか歴戦を感じさせる、まさに【王者】と呼ぶに相応しいモノなのだろうか。

 

突如として変わった、『全盛期』の雰囲気…どこまでも広く、またどこまでも深い『海』のような余裕のまま…

 

 

 

「墓地の【フィッシュボーグ‐ランチャー】の効果発動、墓地のモンスターが全て水属性の場合に、このカードは墓地から特殊召喚できる!【フィッシュボーグ‐ランチャー】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【フィッシュボーグ‐ランチャー】レベル1

ATK/ 200 DEF/ 100

 

 

 

いかなる遊良の抵抗も、栄光を歩んできた砺波には何の障害にもなってはいない。

 

 

―砺波の場に、次々に消えては現れる、輪廻を泳ぎし『海』の者達。

 

 

遊良の必至の抵抗も空しく、ソレをまるで流水の如く泳ぎ抜けて展開を行うその様は…まさしく、【王者】のモノに間違いは無く。

 

…そう、高みに上り詰めた者の余裕。

 

先ほどから再び『変貌』した、『今』の砺波の雰囲気は…彼の晩年に魅せていた、神格化されていた【王者】そのもののようであって。

 

 

 

「こ、この展開は…まさか!は、【白鯨】!?ここで!?」

 

 

 

そんな焦りを伴って、遊良が身構えたのも無理は無いだろう。

 

ここまで何とか砺波に抗い、どうにか封印されし氷龍の一体を凌いだというのに…

 

まだまだ【王者】の雰囲気を出している砺波にとっては、如何なる『挑戦者』の足掻きもあってないようなモノということを、その醸しだす雰囲気だけで遊良は理解したのか。

 

 

 

「そんな…て、手も足も…出ないだなんて…」

 

 

 

―もう、防ぐ手立てがない。

 

 

そう、ここで王者の名その物である、白く煌く【白鯨】を呼ばれでもしたら、もう遊良にはどうすることも出来なくなってしまうのだ。

 

そのシンクロ召喚と同時に巻き起こる、全てを洗い流す怒涛の激流によって…臨戦態勢を取っている堕天使が遊良もろとも飲み込まれてしまうことだろう。

 

…そして、それだけではない。

 

【白鯨】の持つ更なる効果、貫通と連撃を受けてしまえば…激流に打たれてダメージを受けた遊良に、追い討ちの如く襲いかかるだろう衝撃は計り知れないモノになってしまうことは必至。

 

 

 

「『私』はレベル7のグングニールに、レベル1のランチャーをチューニング!悠久を生きる白き潮、大いなる海原から輪廻を巡れ!」

「ぐっ…くっそぉ!」

 

 

 

やはり、いくらなりふり構っていられない状況であろうとも、遥かな高みにいる砺波と戦うことなど、所詮は無謀なことだったのだろうか。

 

逃げ出したい気持ちを抑え、震える手足を無理やりに勇ませて立ち向かったというのに…

 

 

―抗えず、飲み込まれる…

 

 

そう、自分の持てる全てで、必至になって立ち向かっているというのに…

 

それは砺波にとっては、食うに値しない小魚と同義。

 

自分の必死の抵抗すら、気に留める必要すらない…例えここで背徳の力で争ったとしても、LPが減ることはそれこそ文字通り、命をただ縮めることと同じなのだから。

 

…全くと言っていいほど障害にすらなっていない。

 

そんな感情が沸き起こっている遊良に、何の躊躇もなく。虚ろな目のまま砺波はそう宣言して。

 

 

呼び出そうとしているのは、彼の歴戦を駆け抜けし、輪廻を巡る巨大なる【白鯨】。

 

 

およそ、【黒翼】と呼ばれし牙竜と並んで、この世界で知らぬ者など存在しない、まさに彼だけに許された唯一無二なるシンクロモンスター。

 

世界で最も有名なその口上と共に、砺波の2体のモンスターが天へと舞い上がりその姿を【白鯨】へと捧げ…

 

それに対して、襲い来るであろう凄まじい衝撃に対して、硬く目を瞑った遊良が身構えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

…しかし、何も起こらず。

 

想像していた透き通るような鯨の咆哮も、召喚と同時に繰り出される全てを飲み込む激流も…

 

 

―高らかに宣言したはずだというのに、何故か【白鯨】はこの場には現れず。

 

 

その有り余るほどに巨大なその姿も、決してこの古びたスタジアムへと現れることは無かった。

 

その身を捧げたはずの水属性モンスター達も、シンクロ召喚へと繋がる輪廻の輪を崩して…その身を、元の位置へと戻していて。

 

 

 

「…グッ…な、何故だ…何故お前は…私を許してくれない…」

「ど、どうしたって言うんだ…砺波理事長だったら…【白鯨】だったら、この場面で必ず【白闘気白鯨】を呼んでいるはずなのに…」

「ガッ…ワ、私ハ…イ、1枚伏セテ…ターン…エ、エンド…」

 

 

 

砺波 LP:4000

手札:6→0枚

場:【超古深海王シーラカンス】

【氷結界の龍 グングニール】

【白闘気一角】

【フィッシュボーグ‐ランチャー】

伏せ:1枚

 

 

 

そうして苦しそうに、そして非常に苦々しそうにしてターンを終えた砺波。

 

 

 

「攻撃もしてこない?変だ…おかしすぎる…けど、こ、これだったらまだ何とかなるかもしれない!」

 

 

 

砺波が【白鯨】を召喚しなかったことに対して引っかかりを覚えるものの、しかし彼の様子が『闇』によっておかしくなっていることは確実なのだから、自分が歯向かえるとしたらこの隙に賭けるしかないことを遊良は即座に理解したのか。

 

 

―『闇』に憑かれたデュエリストを正気に戻すには、デュエルで勝つしか方法が無い。

 

 

蒼人の時と同じ。この場で何とかできる可能性がある自分が、『勝つ』ことで砺波を解放しなければと、そう言わんばかりに遊良はその勢いを加速させ始めて。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

…普通に戦っていれば、勝てる見込みなど0よりも低い相手。

 

そんな相手に、なりふり構っていられない。全ては勝つため…勝って、『闇』から解放するために…圧倒的な差がある相手が見せた、ほんの僅かな隙を目掛けて…

 

 

 

「魔法発動、【アドバンスドロー】!【堕天使イシュタム】をリリースし、デッキからカードを2枚ドロー!続いて魔法カード、【トレード・イン】を発動!【堕天使アスモディウス】を捨て、更にカードを2枚ドロー!…よし、【貪欲な壷】を発動だ!墓地ノ【堕天使イシュタム】、【堕天使ユコバック】、【堕天使アスモディウス】、【堕天使テスカトリポカ】、【堕天使ゼラート】をデッキへ戻して2枚ドロー!行くぞ!スペルビアとマスティマをリリース!」

「ググッ…ア、アド…バンス…召喚…」

 

 

 

次々とデッキを回転させ、自由自在に手札を入れ替え…ターン開始時に2枚だった手札が、倍の4枚にまで増えている遊良のこの所業。

 

畏怖と圧迫が充満しているこの古びたスタジアムにおいて、【決闘祭】を経験する前までの遊良だったならば、きっと立ち向かうことすら出来ずに逃げ出していたはずだ。

 

先ほど砺波が【白鯨】をシンクロ召喚していれば勝敗は既に決してはいたのだが…それでもあの激戦を戦い抜いたからこそ、今の遊良が恐怖に潰れず、何とか砺波と対峙できていることには違いない。

 

 

 

「神に背きし反逆の翼、その姿を今ここに!」

 

 

 

…必要なのは、『心』

 

 

弱いままでは変わらない、強くなければ変えられない。師の教え、それは周囲の評価も、自分自身の『心』もそう。

 

 

―『心』を強く、恐怖に潰れず。

 

 

―遊良の希望が形となりて、姿を現す。

 

 

 

「来い、【堕天使ルシフェル】!」

 

 

 

―!

 

 

 

清廉なる天の光、それを遮る黒き姿。

 

世に名立たる王者の前でも、引けを取らぬその佇まいはまるで謀反か背反か。

 

儚くも果敢なるその姿は、まるで今の遊良の姿のようでもあって。

 

 

 

【堕天使ルシフェル】レベル11

ATK/3000 DEF/3000

 

 

 

砺波の様子がおかしいのも、何故か勝てた場面で彼が手を止めたことも…今この戦いではどうでもいいこと。

 

『闇』に囚われた者を倒す、ただ、その為だけに…

 

 

―遊良は、叫ぶ。

 

 

 

「相手の場には効果モンスターが4体!【堕天使ルシフェル】のモンスター効果!アドバンス召喚成功時、デッキから【堕天使】を呼び出す!集え、【堕天使アムドゥシアス】、【堕天使ゼラート】、【堕天使テスカトリポカ】、【堕天使イシュタム】!」

 

 

 

―!!!!

 

 

【堕天使アムドゥシアス】レベル6

ATK/1800 DEF/2800

 

 

【堕天使ゼラート】レベル8

ATK/2800 DEF/2300

 

 

【堕天使テスカトリポカ】レベル9

ATK/2800 DEF/2100

 

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

 

「【堕天使ルシフェル】の更なる効果発動!俺はデッキからカードを5枚墓地へ送る!墓地へ送られた【堕天使】カードは3枚、よってLPを1500回復!」

 

 

遊良 LP:2000→3500

 

 

 

先ほど砺波が深海の王の力で一斉に場を埋めたように、堕天の王に命じてこの状況を一変させた遊良。

 

仕える主の希望の元に、集った堕天使達の煌きは…堕天したとは思えぬほどに神々しく、また漆黒の翼が妖しくも麗しく羽ばたきを見せていて。

 

 

 

「貴様の所為で…私ハ…貴様さえ…居ナケレバ…」

「【白闘気一角】は何度でも蘇るモンスター…でも、蘇るんだとしてもダメージは受ける!バトルだ!【堕天使アムドゥシアス】で【フィッシュボーグ‐ランチャー】を!【堕天使ゼラート】で【氷結界の龍 グングニール】を!【堕天使ルシフェル】で【超古深海王シーラカンス】をそれぞれ攻撃!」

 

 

―!!!

 

 

 

「グッ…」

 

 

 

砺波 LP:4000→3700→3500

 

 

 

「まだだ!【堕天使テスカトリポカ】で、【白闘気一角】に攻撃!革命の業火、バニッシュ・グリード!」

 

 

―!

 

 

砺波 LP:3500→3200

 

 

堕天使達の猛攻によって、次々と一層されていく砺波のモンスター達。

 

僅かながらのダメージであっても、遥かな先に位置する元【王者】にダメージを与えたというコト自体が遊良にとっては奇跡に近いのか。

 

…例えそれが、砺波の様子の『異常さ』からくる奇跡なのだとしても、この状況にまで到った結果もまたこのデュエルの軌跡。

 

そして墓地に水属性がある限り何度でも蘇るはずの白き者も、『何故か』砺波の場には蘇っては来ず…ただ虚ろな目をしたまま、砺波は呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

「【白闘気一角】の効果を使わない!?さっきからどうしたって言うんだ…【白鯨】も召喚してこないし、今だって…」

「グッ…こ、ここは…?私は…い、一体何をして…」

「ッ!?砺波理事長!意識が戻って…」

「…あ、天城?…グッ、天城ィ…ワ、私ハ認メヌゾォ!釈迦堂ト同ジ、Exヲ使ワヌ決闘ナドォ!…釈迦堂、ソウダ、釈迦堂!私ハ絶対二許サヌ!『貴様』ヲ!釈迦堂ォォオ!」

「と、砺波理事長!」

 

 

 

実際に起こったダメージからだろうか、一瞬だけその意識が戻ったかに見えたものの、再び『闇』の悪意によって砺波が『変貌』し、その口調が益々荒々しさを増していく砺波。

 

その叫ぶ言葉から、一瞬だけ遊良の姿を確認したというのに…

 

ランへの有り余る程の恨みからか、遊良の姿をランと混同させているかのようではないか。

 

…今の彼は、理事長となっている『現在』の砺波その物。

 

ランに負け、自暴自棄になり、ランへの恨みを曲解して、Exデッキを『使わない』ことへの怒りが彼を飲み込んでいるようであって。

 

 

 

「くそっ、早く決着を着けないと!【堕天使イシュタム】でダイレクトアタック!」

 

 

 

そうして遊良の命令を受けた魅惑の堕天使が、天へと向かって羽ばたいた。

 

このダメージで一瞬意識を取り戻したのならば、更に大きいダメージを与えれば再び意識が戻るのではないだろうか。そう確信した遊良の意思を受け、魅惑の堕天使が天から砺波へと狙いを定め始めて。

 

 

―狙うは、彼を包む『闇』。

 

 

天誅の力を光に変えて、黒き翼に闇の刃を纏わせる【堕天使イシュタム】。

 

そのまま、荒ぶる砺波目掛けて…

 

 

 

「魅惑の麗刃、バニッシュ・ラストォォオ!」

 

 

 

今まさに、『闇』を断ち切らんとして羽ばたいた…

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「私を舐めるな釈迦堂ぉ!罠発動、【波紋のバリア‐ウェーブ・フォース‐】!」

「なっ!?し、しまっ…」

 

 

 

 

 

―時すでに遅し。

 

 

 

 

 

遊良が後悔の言葉を発する間もなく、魅惑の堕天使が放った麗刃が砺波を守るようにして広がった波紋によって防がれ…

 

振動が水を伝わるように、人の目にも留まらぬ速さで遊良の場の臨戦態勢の堕天使達の全てを飲み込んでいく。

 

 

…早計だった。

 

 

まだ自分のLPには余裕があり、墓地には伏せカードも破壊できる【背徳の堕天使】があったというのに…砺波へのダメージを優先するあまり、ソレを怠って攻撃を仕掛けてしまうだなんて。

 

―今、遊良の心にはその後悔が渦巻いて止まらない。

 

会心の一撃を狙った故の、大きすぎる痛恨のミス。

 

微塵も油断を許されない相手に対して、こうもあっさりと大きすぎるミスを犯してしまうだなんて、と。

 

 

 

「デッキへ戻れ!釈迦堂のモンスター共よ!」

「くっそぉぉぉお!デッキへ戻る前に【堕天使イシュタム】の効果発動ぉ!LPを1000払い、さっき墓地へ送られた【堕天使の追放】の効果を得る!【堕天使アスモディウス】を手札に加え、【堕天使の追放】をデッキへ戻す!」

 

 

 

遊良 LP:3500→2500

 

 

 

波紋の広がりが【堕天使】達を飲み込む寸前で、先ほど堕天の王が与えた遊良への恩恵を、どうにかギリギリの所で発揮した遊良ではあったものの…

 

たった一枚の罠によって、遊良の場に溢れていた麗しき漆黒の翼が一翼の羽ばたきも残さずに消えてしまったではないか。

 

一刻の猶予も無いこの状況で、いくら気持ちが逸ったからとはいえ、こんなことは、決して犯してはいけないミスに違いなく。

 

しかし、そんな遊良を意に介さず…いや、決して遊良に向けているモノでは無い、別方向への怒りを露にしながら、砺波はその口を開いた。

 

 

 

「許さん…決して…釈迦堂、お前だけは!」

「砺波理事長、しっかりしてください!俺はランさんじゃない!そ、それにどうしてあなたがこんなデュエルを!?王者だった…【白鯨】だったあなたが!」

「黙れ!わ、私を…私を【白鯨】と呼ぶなぁ!あの日から…『貴様に敗れた』あの日から!私は、私の名は!私を【王者】と認めてはくれん!」

「…え?」

 

 

 

そんな堕天使達が消えていく中で、突然に放たれた砺波のその言葉が、対峙する遊良へと突き刺さって。

 

苛立ちと怒り、その全ての憤怒の感情を『ラン』へと…正確には、今対峙している遊良へと向けて、それを解き放つ砺波。

 

 

―それは、遊良からすれば到底信じられたモノではなく。

 

 

【王者】の『名』その物となった、世界にたった一枚の特別なモンスターが…まさか、それを駆った【王者】が扱えないだなんて、そんな馬鹿な話があるのだろうか、と。

 

 

 

「敗れた日からって…それってまさかランさんとの!?じゃあ、【白竜】との一戦で【白鯨】を召喚しなかったのって…」

 

 

それと同時に、遊良は思い出す。

 

絶望に包まれていた『あの頃』には気がつかなかったが、数年経ってから師の元で【白鯨】のデュエル映像を見ていて気がついた、その違和感を。

 

当時、天才を謳われていたもののまだまだ若く、果敢ではあるものの我武者羅な挑戦者であった新堂 琥珀との、あの運命を分けた一戦で…

 

 

―ただの一度も【白鯨】を召喚しなかった砺波 浜臣の、その違和感。

 

 

不調と言われて落ち目にかかっていた【白鯨】であっても、その歴戦の勘から琥珀にリードを許すことなくデュエルは終始砺波が押していたというのに…

 

最後の最後、【白鯨】を出せれば勝利という場面で『何故か』そのまま【白鯨】を召喚せず…

 

最後はその隙を琥珀が、新たに創造した『名』となったモンスターで制し…伝説の中に居た王者【白鯨】が、新たに【白竜】と呼ばれるようになった挑戦者に敗北を喫した、引退に追い込まれたあのデュエル。

 

それがまさかメディアの言う『不調』でも何でもなく、砺波自身が『名』を召喚出来なくなっていたことによるだなんて。

 

 

 

「貴様が奪った『あの時』から…あの夜から私の『誇り』は傷つけられたのだ!…だからこそ許さん…ゼッタイニ許サン!貴様ダケハッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

憤怒と遺恨に飲み込まれ、雰囲気が再び変わった砺波。

 

漏れだす『闇』の純度も深くなり、一層この場の恐怖と圧が増していく。

 

 

 

「ぐっ…や、【闇の誘惑】を発動!2枚ドローし、【堕天使アスモディウス】を除外する…【堕天使の戒壇】を発動、【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚し、ルシフェルの効果で墓地へ送られた【堕天使ユコバック】も守備表示で特殊召喚…デッキから【堕天使ゼラート】を墓地へ。カードを2枚伏せて…タ、ターンエンド…」

 

 

 

遊良 LP:2000→2500

手札:2→1枚

場:【堕天使ユコバック】

【堕天使スペルビア】

魔法・罠:伏せ2枚、【デモンズ・チェーン(効果なし)】

 

 

 

「私のターン、ドロー!【貪欲な壷】発動!【たつのこ】、【瑚之龍】、【氷結界の龍グングニール】、【サイレント・アングラー】、【深海のディーヴァ】をデッキへ戻して2枚ドロー!【強欲で貪欲な壷】を発動し、デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー!【グレイドル・スライムJr.】を通常召喚!その効果で墓地から【グレイドル・アリゲーター】を、手札から【グレイドル・コブラ】を特殊召喚!」

 

 

―!!!

 

 

【グレイドル・スライムJr.】レベル2

ATK/ 0 DEF/2000

 

【グレイドル・アリゲーター】レベル3

ATK/ 500 DEF/1500

 

【グレイドル・コブラ】レベル3

ATK/1000 DEF/1000

 

 

 

遊良がターンを終えてすぐに、砺波が連続的にモンスターを召喚して。

 

寄生する異星の者に飲み込まれた原生の生物達。このモンスター達も、プロ時代の砺波が扱ったことのある水属性モンスター達に違いなく…

 

 

 

「グ、【グレイドル】…それも昔の映像で見た。一体、どれだけのカードを操れるんだ…」

「釈迦堂…奪われる苦しみを…貴様もその身に味わえ!永続魔法、【グレイドル・インパクト】発動!【グレイドル・アリゲーター】と伏せカード1枚を破壊する!」

「なっ!?」

 

 

―!

 

 

悪魔の鎖を道連れに、爆散していく寄生生物の一体。

 

気まぐれな海流と錯覚するほどに、突然『変貌』する戦術にはいくら砺波のデュエルを研究したことのある遊良であったとしても、とてもじゃないが対応出来るモノではないだろう。

 

手が追いつかず、頭がついていかず。

 

普通ならば『水属性』であっても、ここまで多種多様なカテゴリーのカード達をここまで自在に操ることなど出来ないはずだというのに。それをいとも簡単に操っている砺波の力は、およそ他の誰も並ぶことの出来ぬ地平に位置していることは間違いない。

 

 

 

「ククク…【グレイドル・アリゲーター】が魔法効果で破壊されたとき、貴様のモンスター1体のコントロールを奪う!」

「え、コントロールって…ま、まさか!?」

 

 

 

砺波のその言葉と同時に、爆散した異星生物の残骸が遊良の場にいる小さき堕天使の周囲から這い上がってきて。

 

身動きを奪われ、意識を奪われ…

 

遊良の声は、堕天使にはもう届かず。そうして連れて行かれるようにして、小さき堕天使が砺波の場へと移動してしまうではないか。

 

 

 

「貴様の【堕天使ユコバック】を私の元へ!行くぞ!レベル3の【堕天使ユコバック】と【グレイドル・コブラ】に、レベル2の【グレイドル・スライムJr.】をチューニング!」

「し、しまっ…」

 

 

 

 

 

そうして響く、無慈悲なる宣言。

 

 

 

 

 

奪われる…モンスターが、変わる…

 

 

 

 

 

―そう、Exモンスターへと、【堕天使】が。

 

 

 

 

 

「シンクロ召喚!レベル8、【グレイドル・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【グレイドル・ドラゴン】レベル8

ATK/3000 DEF/2000

 

 

 

無慈悲な砺波の宣言が、寄生せし生物達を混ぜ合わせた竜へと『変貌』して。

 

不気味な咆哮と異様な姿は、見る者全てに畏怖を与えることだろう。

 

…しかし、それだけではない。

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐっ…あぁぁぁぁぁぁぁああ!」

 

 

 

足から支える力が抜け、体ごと倒れそうになる遊良の叫び。

 

 

―これは、『罪』

 

 

Exモンスターに関わったという、堕天使達が与える、遊良の『罪』。

 

たとえ自分が召喚したExモンスターでなくとも、【堕天使】がExモンスターに変わってしまうという、決して許されることの無い自分の『罪』に貫かれながら…

 

血を吐き、その身を持って代償を払わされているのだ。

 

まるで自らが決意し、そうして捨ててまで得た『力』とは何なのかを教えているかのように。

 

 

 

「ガハッ…ち、血が…」

「貴様には、何も残してはやらん!【グレイドル・ドラゴン】の効果発動!釈迦堂、貴様の【堕天使スペルビア】を…最後の伏せカードもろとも破壊してやる!」

「ッ!?…え、永続罠、【奇跡の降臨】発動っ…除外されている、【堕天使アスモディウス】を特殊召喚…」

 

 

 

そんな痛みに貫かれながらも、遊良は声を振り絞って最後の手を発動して。

 

先ほど除外されていた高位の堕天使、その高い力ゆえにデッキ・墓地からの特殊召喚を禁じられているからこそ、除外からの帰還という手によって主の前に現れ出でるのか。

 

しかし、グレイドル・ドラゴンの咆哮が高位の堕天使を呼び出した奇跡を、異形の堕天使ごと飲み込んで引き裂いていき…堕天使達はその姿を保っていられず、破壊されてしまう。

 

 

 

「破壊された時、ア、アスモトークンとディウストークンを…ぐふっ…守備表示で…と、特殊召喚…」

 

 

 

【アスモトークン】レベル5

ATK/1800 DEF/1300

(効果で破壊されない)

 

 

【ディウストークン】レベル3

ATK/1200 DEF/1200

(戦闘で破壊されない)

 

 

 

それでもただでは転ばない遊良ではあるものの…

 

ダメージを何とか受けないようにしているというのに、自らの『罪』ですでに遊良は満身創痍。

 

他のどんなダメージよりも、自らの『罪』は重いのだと、そう言わんばかりの痛みに貫かれながら。

 

…このままではデュエルによる敗北の前に、自らの痛みで気を失ってしまう危険があるだろう。

 

そんな遊良の姿が、砺波には『ランを追い詰めている』と見えているのだろうか。憤怒に染まった口調のまま、砺波は荒々しげに叫ぶのみ。

 

 

 

「バトルだ、【グレイドル・ドラゴン】で、【アスモトークン】を攻撃!」

 

 

―!

 

 

 

 

だからこそ、寄生の竜が堕天使の眷属を撃ち抜くことに、なんの感傷も砺波は抱かず。

 

 

 

 

「ターンエンドだ。」

 

 

 

 

砺波 LP:3200

手札:1→0

場:【グレイドル・ドラゴン】

魔法罠:【グレイドル・インパクト】

 

 

 

ランに見える遊良の姿に悦を得ながら、砺波は今悠々とそのターンを終え…

 

 

 

「…いい様だな、釈迦堂。貴様に復讐することだけを考えて今まで過ごしてきたが…その願いが、ついに成就しそうだ。」

「お…俺は…ランさんじゃ…ない…」

「何を寝ぼけたことを。…貴様がこの場所で!私にした事は決して忘れん!『Exを使わない』という、この私を舐めた貴様を!大体、この状況で何故Exを使わない!まだ私を馬鹿にする気か!」

 

 

 

そんなターンを終えた砺波の心に浮かんでいるのは、10年前にこの古びたスタジアムでランに敗北を喫した残映と…

 

彼女への復讐心が歪曲した、大いに間違った偽りの大義。

 

 

…決して許すことの出来ぬ、プライドを圧し折られた鯨の悲痛なる咆哮。

 

 

それを、己の生徒にぶつけているのだ。それにも気付くことが出来ていない今の砺波の姿はきっと、他の誰にも誇れるような姿をしていないことだけは確かではあるのだが…

 

 

 

「…ッ…つ、『使わない』んじゃ、ない!…つ、使いたくったって、どう頑張ったって!俺には『Ex適正』が無いんだ!」

「…は?」

 

 

 

それでも…

 

声を振り絞り、気力を絞り出し。必死になって我武者羅に、遊良は子供のように叫ぶ。

 

…そう。いくら今の砺波が他人に誇れるような姿をしていなくとも、遊良にとってはそんなことは関係ないのだ。

 

その言葉を聞いた砺波が、虚ろな目のまま怪訝な顔に表情を顰めるも…『罪』による痛みと、今の砺波の状態になりふり構っていられない遊良は、その言葉を止めることが出来ず。

 

砺波と同じ、感情のままに漏れ出す言葉を。まるで子供の我儘のように、己の口から発するだけ。

 

 

 

「お、俺だって!…あ、あなたみたいに、シンクロ召喚が使いたかった!なのに、グフッ…そ、それがどうやっても…で、出来ないんだよ!」

「な、き、貴様…何を言って…わ、私を馬鹿にしているのか!…一体、どの口がそんなコトを…あれほど私を称えていた癖に、引退後には掌を返して私を扱き下ろした『奴ら』のように!」

 

 

 

しかし…それを聞いた砺波の怒りは、ラン以外にも向けられていて。

 

挑んでくる若者を派手に降し、圧倒的な力の差を見せ付ける。支えてくれるファンには手厚く接する。そうすることで自分の存在が世界に認められることが、年甲斐もなく、他の何よりも嬉しかったから。

 

だからこその、敗北の後。

 

それでもここまでのし上がったのは、紛れも無い彼自身の功績だというのに…周囲の人間達からすれば、転落した【王者】をまるで笑いものの様にして扱ったことが、どうしても彼には許せなかった。

 

 

…虚栄心の塊と、強すぎる承認欲求ゆえの崩壊。

 

 

ソレがあったことも、ランへの復讐心…ひいては遊良を巻き込んだ、『Exを使わないデュエル』の否定に磨きがかかったと言っても過言ではなく…

 

 

 

「それをExが『使えない』など、まるで天城のような言葉を…そうだ、天城だ…奴を見てると、釈迦堂のデュエルを思い出す…だから奴が目障りでならん!」

「…ッ!」

「何故奴はイースト校に来たのだ、何故奴が躍進を続けるのだ!『Exデッキを使わない』デュエルで、勝ち続けている姿がどうしても我慢ならんのだ!釈迦堂に敗れた私を、嘲笑いに来たとしか思えんのだ!」

 

 

 

強靭な精神力によって押さえ込んでいたその怒りも、今では『闇』によって表に出されてしまっている。いや、砺波の『負』の感情を喰らった『闇』が、表に出てきて感情を露にしているのか。

 

 

―学園でも、悪い意味で有名な天城 遊良。

 

 

別に、身の程をわきまえ大人しくしていれば見逃してやるつもりだったあの生徒の躍進が、どうしても砺波には苛立ちへと変わってしまっていて。

 

心無い、頭ごなしの否定の言葉を、自らの生徒にぶつける砺波。

 

そんな言葉の鈍器を直接ぶつけられた遊良の心は如何なるモノなのだろう。

 

 

 

 

 

「それ…でも…」

 

 

 

 

 

そうだと、言うのに。

 

 

 

 

 

「そ…それでも!」

「…何だ?」

 

 

 

無理やりに立ち上がった遊良が倒れそうになる体に鞭を打ち、震える足で地面を掴む。

 

自らの『罪』に貫かれて、血を吐き昏睡しそうだというのに…ずっと認められず、彼の学園から不必要なモノだと言われて切り捨てられそうになっていたのに。

 

それでも遊良の中に浮かんでいるこの感情は、決してこの場から逃げ出すことを拒んだ時と同じ意思を、確かに彼に思い出させているのだろうか。

 

遊良は、叫ぶ。憤怒の中にいる砺波目掛けて、己の感情も…ぶつけるために。

 

 

 

 

 

 

「…た、退学させられそうになっても…潰されそうになっても……あ、あなたに認めてもらえなくたって!…あなたが…お、俺の憧れた…【白鯨】であることに変わりはないんだ!」

「なっ!?」

 

 

 

 

心を晒し、感情を露に。

 

幼き日、父に連れられて観た初めてのプロの試合。歴戦を巡りし【白鯨】の、威風堂々と戦う彼の姿に…その凛とした佇まいに、幼き遊良が憧れたのは嘘じゃない。

 

 

―『とーさんがエクシーズでー、かーさんが融合だからー、俺はシンクロだったら丁度いいなー。』

 

 

いつかの幼き日、ルキと鷹矢だけに吐露した自らの希望の言葉…

 

親の扱うEx適正のどれとも違う、他のどのEx適正よりも『シンクロ』に憧れたのは紛れもない、彼の存在が大きいのだから。

 

 

 

「ゴホッ…ぅ…」

 

 

 

吐血する遊良の体はすでに限界で、吐き出した血の量はすでに立っていることすらままならないであろう程だと言うのに…

 

それでも彼の中にある、彼にしか抱くことを許されぬ感情…自分自身を、『イースト校から退学させたくない』と、必死になって戦い抜いた【決闘祭】の、その真意。

 

 

…誰にも言ったことのない、誰にも言うつもりもなかった遊良の心。

 

 

他の『どこ』でもない。『烈火』の元でも『紫魔家』の中でも、そして『猛者』が集まるウエスト校でもない。

 

 

―自らが憧れた、【白鯨】の治めるイースト校に、何が何でも居たかったのだ。

 

 

それがどんなに下らないと揶揄されても、それがどんなに軽いと呆れられても…

 

これは、この感情だけは…遊良にしか抱くことは許されない、彼だけのモノ。

 

 

 

「…だから…俺は…ッ!…ゴホッ…」

「なっ…貴様は…釈迦堂では…ない?貴様は一体…」

 

 

 

未だ『闇』の中に捕らえられているにも関わらず、己が今体験しているこの『異常』な言葉と空間に、砺波は疑問を抱き始めた様子を見せて。

 

そう、聞こえる言葉と見える景色、その双方が相違して、思いがけない混乱として彼に襲い掛かっているのだ。

 

 

…何が何なのか、何が起こっているのか。それが、今の砺波には分からない。

 

 

そんな虚ろな意識、定まらぬ視界の中で…自分が今何をやっているのかも、靄の中に押し込めれられそうな意識のまま砺波が呆然と立ち尽くしかけた…

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「チッ、見ちゃいらんねーぜ。」

「…え?」

 

 

 

 

 

突然、『居るはずのない』人物の声が聞こえてきて、思わず自分の耳の機能を疑ってしまった遊良。

 

震えるスタジアム、放出する『闇』、ソレらが織り成すこの地鳴りの中であっても。確かに聞こえるこの声は、間違うことの無い存在のモノに違いなく。

 

―だって、この人は遥か遠くに行ったはずだ。こんなにすぐに、戻ってこられるわけがない。

 

そう、思っていたから。そんな痛みが治まることがない遊良が、どうにかその首を後ろにやってその人物の姿を見て…

 

 

 

 

 

「先…生?」

「た、たかみね…?な、何故ここに…」

「あん?何だってんだよ馬鹿どもが。」

 

 

 

 

 

―天宮寺 鷹峰

 

 

 

 

 

眉を潜め、眉間に皺を寄せ、普段の口調とはまた違う、苛立ちを織り交ぜたような雰囲気を醸しだしながら彼は現れて。

 

遊良の師、そして砺波とかつて肩を並べていた彼もまた【王者】の一人。

 

しかし、仕事と称して迎えと共にこの決闘市を離れたはずのこの男が…一体何故、この場に現れ、そして何故口を挟んできたというのだろうか。

 

そんな意味のわからないといった表情をしている遊良を他所に、鷹峰はその口を開く。

 

 

 

「…ったく、無様だなぁ砺波ぃ、んな『闇』に憑かれるなんてよぉ。」

「…突然現れて、一体何を言っているのだ貴様は…」

「ケッ、自尊心の塊みてぇなテメェがこうなるってのはわかっちゃいたが…こんなガキ相手に欲求をぶつけるなんざ、随分落ちぶれたもんだぜ。もう少しマシな奴だと思ってたってのによ。」

「だ、黙れ!貴様に何が分かると言うのだ!釈迦堂に敗れた癖に、一人だけ王座に残っている貴様に!」

「んなもんテメェが勝手に潰れたからだろーが!ガキに負けた腹いせを、違うガキにぶつけるなんざみっともなくてありゃしねぇ!」

「なっ!?」

 

 

 

今の砺波を見る鷹峰の目は、以前イースト校で邂逅したときのような『同等』の者を見る目ではなく…

 

どこかつまらなさそうにして、かつての好敵手を残念に思っているかのよう。

 

…まぁ、それもそうだろう。ウエスト校理事である李 木蓮の犯しかけた罪、『自らの生徒を襲いかけた』という大罪を、今では砺波が遂行してしまっているのだ。

 

いくら彼がランへの復讐心を持っているとは言え…それでも、ギリギリの所で遊良への『譲歩』を出来るくらいには『まとも』だと、そう感じていたと言うのに。

 

 

 

「わ、私が…み、みっともない…だと…グッ、ワ、私ハ…ミ、認メヌ…認メヌゾォ!『貴様ラ』ヲォォォォォオ!『全テ』ヲォォォオ、決シテェ!」

「チッ、この程度じゃ逆効果か。まだ『闇』に捕まってやがる。」

「…せ、先生…どうして…」

「んなこたぁテメェには関係ねぇだろうが!…んなことより、何ちんたらやってやがんだ。呻いてねぇで、とっととケリつけやがれこの馬鹿弟子が。」

「グッ…は、はい…」

 

 

 

鷹峰の言葉を持ってしても、未だ砺波は『闇』に囚われたまま。ここまで感情を露にする、『闇』が造りしもう一人の砺波が吼えて。

 

そんな中でも意識を手放しそうだった遊良にとっては、師の姿と声だけで少しは体に力が戻った様子。厳しい言葉の中にある、確かな鼓舞を感じられないほど今の遊良の意識は混濁してはおらず。

 

 

 

「グヌ…ワ、私ハ認メヌ…」

「…ドロー!…カハッ!?…ッ、だ、【堕天使の追放】を発動!【堕天使ディザイア】を手札に加えて…ぐっ、ディ、【ディウストークン】をリリースッ!レベル10、【堕天使ディザイア】をア、アドバンス召喚!」

 

 

 

【堕天使ディザイア】レベル10

ATK/3000 DEF/2800

 

 

 

『罪』の中とは言え、戦う意思を捨てていない主の元に、確かに堕天使は現れるのか。

 

武器を持ち、漆黒を纏いし、断罪を執行せし鎧の堕天使。

 

寄生の竜に囚われた、小さき堕天使の魂を解放すべく…その力を、天へと掲げて。

 

 

 

「ディザイアの…効果発動!こ、攻撃力を1000下げ…【グレイドル・ドラゴン】を…墓地へ送る!」

 

 

 

―!

 

 

 

破滅を誘う天誅の『黒』が、遊良の宣言と共に【グレイドル・ドラゴン】の足元から這い出て、その身を掴んで引きずり込む。

 

そう、破壊された時に残骸を残す寄生生物たちも、天誅の力によって破壊を介されずに『墓地へ送る』というコトをされてしまえば、その意思を星に残すことは出来ないのだ。

 

足元から捕らえる、『闇』よりもなお暗い場所へとソレは『堕』とされて…小さき堕天使の魂と、そして主の『罪』を清算した鎧の堕天使は優雅に天に佇むのみ。

 

 

 

「くはっ…はぁー…はぁー…よ、よし…【アドバンスドロー】を発動し、ディザイアをリリースして2枚ドロー! 」

 

 

 

そうしてようやく己の『罪』の痛みから解放されて、その呼吸を整えられた遊良。

 

これで、やっとまとも動くことが出来る。残った手札の最後の一枚を使い、『闇』に抗う砺波へと進撃を始めるために…遊良は、動く。

 

 

 

「【堕天使アムドゥシアス】の効果発動、手札の【堕天使イシュタム】と共に捨てて、墓地から【堕天使の戒壇】を手札に加える!そのまま【堕天使の戒壇】を発動!墓地から【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚し、その効果で【堕天使イシュタム】も呼び戻す!羽ばたけ、2体の堕天使よ!」

 

 

―!!

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

 

「バトル!【堕天使イシュタム】でダイレクトアタック!」

 

 

―!

 

 

「グォォォォオッ!?」

 

 

 

先ほど砺波に止められたからか、魅惑の堕天使の一撃が一層激しさを増していたものの…今の砺波には、この大きい衝撃が必要なのだ。体内に直接ダメージを与え、内に潜みし『闇』を無理やりにでも追い出すために。

 

しかし『闇』が体内に潜むとはいえども、そのダメージ自体は本人の体に行くことには変わりなく。

 

体に起こるダメージで、抗っている精神自体がやられてしまえば砺波はそこまで。『闇』に喰われ、『悪意』を撒き散らす化物となるだけだろう。

 

 

…コレは、賭けだ。

 

 

誰もが飲まれる『闇』であっても、ここまで『抗えている』のは彼が彼だからこそ。デッキが突拍子の無いモノではなく、彼の軌跡を再現したモノに『変貌』したことがその証拠。

 

 

―まだ、抗っている。

 

 

深淵の『闇』の中で、意識を喰われて『悪意』となった『もう一人の自分』を内から見つつも…囚われて出てくることが出来ず、『闇』が感情を露にして勝手に暴れているのだ。

 

 

 

砺波 LP:3200→700

 

 

 

「ウ…ゴォ…ァ…」

「理事長!しっかりしてください!」

「ワ…私ハ…認メヌ…ケ、決シテ…」

「理事長!」

「ア…ガガ…ガァ…」

 

 

 

…それでも、足りない。

 

確かにダイレクトアタックで、砺波と『闇』の双方にダメージを与えたまでは良かったのだが…

 

ここまで完全に飲み込まれないように抗ってきた、砺波の強靭すぎる精神力自体も賞賛に値するほどの代物ではあるものの、【決闘祭】の決勝が終わったあの日からずっと飲み込まれないように抗い続けてきた砺波の精神も、既に限界が近いのだろうか。

 

 

これ以上は危険だということを、砺波の様子から遊良は察して。

 

 

 

「くっそ…ターン、エンド…」

 

 

 

遊良 LP:2500

手札:2→0

場:【堕天使イシュタム】

【堕天使スペルビア】

伏せ:無し

 

 

 

「ワ…タシノ…ターン…ドロォ…」

 

 

 

虚ろな目をしていた砺波の視線が、更に深淵に沈んでいき…

 

 

宙をさまよい始めて、本格的に彼が『闇』に喰われて行ったことを証明しているかのよう。

 

 

もう少し早く対峙していれば、もしかすればまだ解放のチャンスは残っていたのかもしれない。

 

そんな後悔など、したところで既に後の祭り。まぁ、その時に砺波と対峙していれば、こんなに遊良が抵抗出来ていたかも怪しくはあるが。

 

 

―これは、結果論。

 

 

この場、この時、この瞬間に、ようやく辿りついた『ここ』で砺波と対峙したということが、全ての結果。

 

精神が喰われ、意識が乗っ取られ…かつての、『海』よりも深い余裕を持っていた砺波 浜臣という決闘者が、『夜』よりも深い『闇』に飲まれて行く。

 

そうして砺波が『闇』に負け、『闇』が造りしもう一人の砺波に挿し変わって行くのも…そうやって彼が飲み込まれていくのも…

 

 

 

…全て、『結果』なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っざけてんじゃねぇぞゴラァ!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ッ!?せ、先生!?」

 

 

しかし、そんなもう駄目かと思われた、その時。

 

突如、遊良の後ろで見ていた鷹峰が、激しい荒ぶりとともに雄叫びを上げて周囲に圧をまき散らかし始めた。

 

 

―それは、まるで小さい子供の癇癪のよう。

 

 

普段から気性が荒いことで知られる【黒翼】ではあるが、ここまでの本気の『圧力』を出すことは、普段ならば絶対にありえないこと。

 

そのあまりの急激なる雰囲気の重さは、弟子である遊良でさえすくみ上がりそうになるほど。

 

それでも、そんな弟子の状態など意に介さず。鷹峰は感情のままに、その口から『言葉』を轟かせるのみ。

 

 

 

「テメェゴラ砺波ぃ!何あっさり飲まれてんだ!んな『闇』程度に飲まれるような奴だったのかテメェは!俺の知ってるテメェは!見栄っ張りで喧嘩っ早くて、どの誰よりも負けず嫌いな奴だろうが!」

 

 

 

言葉を荒げ、叫びをぶつけて。

 

他のどんな人間よりも砺波という人間を、『決闘』の中で見てきた鷹峰だからこそ、今の砺波の姿がどうしても我慢ならないのだと、そう言わんばかりに鷹峰はその圧力を更に凄まじくしていく。

 

己の内に浮かぶ砺波への、あらん限りの不満を叫びに乗せて…

 

 

 

「それを上り詰めたからってお堅くとまりやがって!何が【王者】の品格だ!自分こそみっともねぇくれぇ見栄っ張りな癖してんのによぉ!その癖、世界一になるまで張り続けたテメェの見栄は!その程度だってのかぁ!」

 

 

 

かつて自分と肩を並べ、同じ景色を共に見て…相容れない性格とスタイルで、決して仲睦まじい間柄ではなかったものの…

 

決して…それこそ、己の家族にすら見せなかった砺波の『本質』を、より深く理解しているのは紛れもない鷹峰なのか。

 

普段穏やかな体裁を取ってはいるが、砺波の気性が本当は荒いのも…砺波の性格が見栄っ張りだけれども、その見栄を張り続けて【王者】にまで上り詰めた、その誰よりも負けず嫌いな本質も…

 

全て、戦いの中で見て感じてきた鷹峰だからこそ知りえているモノ。

 

 

 

「おい砺波ぃ、テメーにとってデュエルはランへの復讐の道具か!?家族を養うために我慢する仕事か!?操られたから仕方なく戦ることか!?…違げーだろ!昔のテメーは、ただ戦いが好きな馬鹿だっただろうが!俺と…『俺達』と戦う事が楽しかったんだろーが!忘れたとは言わせねぇんだよ!」

 

 

 

だからこそ、鷹峰には許せない。

 

姿形は違えども、自分と同種・同類・同等だったこの男が…

 

歴戦を戦いぬき、多くの才能ある決闘者達を降して散らせてきた自分と、『同格』の位置で戦い合えたこの【白鯨】が…

 

 

―同じ景色を見てきて、同じ場所に来られると思っていたこの砺波 浜臣が、こんな『闇』に負けるような奴だなんて。

 

 

 

鷹峰には…絶対に、許せない。

 

 

 

 

 

―ゆえに、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「俺の『ダチ』なら!この程度ぐれぇとっとと吹っ飛ばさねぇかぁ!」

 

 

 

―!

 

 

 

それは、決して出てこないような言葉。

 

これは、決して聞くことがなかった言葉。

 

まさか孤高を貫く天宮寺 鷹峰の口から、他人を『対等』と認める『その言葉』が飛び出して来るだなんて。

 

 

 

「ワ…私…ガ…貴様ノ…ダ『ダチ』…ダト…」

 

 

 

だからこそ『闇』に喰われかけている砺波にも、そのあまりにも衝撃的な言葉が確かに届いたのだろうか。

 

鷹峰の言葉は、砺波の残る潜在意識に訴えかけ、飲まれかけた自意識を引っ張り出そうとしているようにも聞こえ…

 

いや、豪放磊落の鷹峰からして、ただ単純に砺波が『闇』に敗北を喫することが許容できなかっただけだろう。

 

それでも、深淵の『闇』に沈みかけていた砺波が、自分の言葉を発せられるだけの衝撃はあった様子。

 

 

…それもそうだろう。

 

 

他に誰も聞いていないとは言え、世界中の誰もが想像も想定もしていなかった言葉が天宮寺 鷹峰の口から飛び出してきたのだから。

 

その衝撃は、この場に居た者しか理解できるはずがない。

 

 

 

「ググッ…ド、ドコマデモ…私ヲ…馬鹿ニ…シテ…」

 

 

 

それを聞いた砺波の意思は、果たして『闇』か『彼』なのか…はたまた、その両方か。

 

震える砺波の体からは、今凄まじい速さで雰囲気が入れ替わっては消えていき、今の彼が発する言葉に『悪意』があるのかどうかなど、到底誰にも感じることなど出来ない状況となっていて。

 

そんな中でも決して怯まず。鷹峰はその口から発せられる言葉を止めることなくぶつける。

 

 

 

「あぁそうだ、今のテメェはただの馬鹿だ!ガキをボコして、復讐に取り乱して、そんでランへの怒りを勘違いしてやがるだけだ!テメェを慕うガキをボコすのが、テメェの正義なのかぁ?随分惨めになっちまったなぁ!あぁん!?」

「グッ、ミ…惨メ…ダ…ト…?」

 

 

 

 

 

 

 

―その言葉が、何よりも嫌いだった。

 

 

 

―他人より優れていたい。最初はただその一心で戦っていて…

 

 

 

―高みに上って、ようやく他の誰よりも優れていると自信が持てた。

 

 

 

―そんな『惨めさ』とは無縁を極めたと思っていた矢先に、自分の器を思い知らされるような屈辱を味わい…

 

 

 

―それでも、どうにか『惨めさ』を押さえて後進を育てるという、人を導く立場を自分で選んだというのに…

 

 

 

―それが今はどうだ。こんなに感情をさらけ出し、自分を保つためだけ…ただそれだけのために、こんな子供を傷つけているのだから。

 

 

 

―今の自分が…どうにも『惨め』でたまらない。

 

 

 

―こんな思いをさせているのは誰だ…

 

 

 

―こんな目に合わせているのは誰だ…

 

 

 

 

―絶対に許さない…

 

 

 

 

―自分を『惨め』にさせる者は、決して…

 

 

 

 

 

 

 

「絶対二…許サァァァァァァン!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

砺波が叫んだ雄叫びと共に、彼が纏う『闇』が先ほどとは比べモノにならない程に、その勢いを増して大きくなっていく。

 

 

―肩を震わせ、目を血走らせ、怒りに身を任せて声を荒げて。

 

 

心に巣食った深淵の『闇』が、絶対に砺波には容認できない感情を捕らえ…その憤怒を嬉々として、自らを増幅させているようにも見えるではないか。

 

 

 

「ッ!?と、砺波理事長の『闇』が、あんなに大きく!?」

「チィ、砺波ィ!この馬鹿野郎がぁ!」

 

 

 

 

もう、砺波を救うことはできないのだろうか…

 

 

 

その思いが遊良を貫き、それと同時に砺波が高らかに吼え…

 

 

 

 

 

 

「【ダブルフィン・シャーク】を召喚!【竜宮の白タウナギ】を墓地から蘇生!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【ダブルフィン・シャーク】レベル4

ATK/1000 DEF/1200

 

 

【竜宮の白タウナギ】レベル4

ATK/1700 DEF/1200

 

 

 

しかし、そんな遊良の思いとは裏腹に、砺波の宣言は紛れも無い形となってからの場に現れた。

 

虚ろな目でない、濁った声でもない、厳しさと鋭さを纏った凛とした声で。

 

そう、『闇』などではない、今の砺波は紛れも無い彼自身。

 

『闇』が造りしもう一人の砺波ではない。膨らんだ『闇』は、増幅したモノではなく…彼のうちから追い出されたモノに違いなく。

 

 

 

 

「許しは…しない…私を馬鹿にする者は…誰であっても許しはしない!それが例え、『私自身』であってもだ!レベル4の【ダブルフィン・シャーク】に、レベル4【竜宮の白タウナギ】をチューニング!」

「…え!?」

 

 

 

そうして、その砺波の宣言と共に、天へとその身を捧げる『海』の者達。

 

水属性以外を特殊召喚出来なくなる制約を受けてもなお、この召喚条件でシンクロ召喚出来るモンスターは遊良の知る限りでは世界にたった『一体』しか存在せず。

 

 

しかし、それは今の砺波では召喚など出来ないはずのモンスターのはず。

 

 

何しろ先ほども『闇』に命じられるままに呼び出そうとして、そうして『そのモンスター』に拒まれていたと言うのに…

 

 

 

 

「いつまでも…拗ねているんじゃない!悠久を生きる白き潮、大いなる海原から輪廻を巡れぇ!シンクロ召喚!」

 

 

 

軋むスタジアム、震える室内、唸る『闇の塔』の前であっても、ソレは高らかに吼えるのみ。

 

―かつてこの場で心を折られた、『自分自身』がどうしても許せずに姿を消した。

 

その『自ら』が、再度自分を取り戻して吼えているのだ。それに応えぬというコトは、【王】たる自身すら否定するということ。

 

 

 

―澄んだ咆哮を響かせて…

 

 

―巡りし歴戦は彼の者と共に…

 

 

 

 

…それは、現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「出でよ、【白闘気白鯨】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【白闘気白鯨】レベル8

ATK/2800 DEF/2000

 

 

 

 

 

「は…【白鯨】…子供の頃に見た時と同じ…本物の…す、凄い!」

 

 

 

かつての輝きと同じ、『闇』が蔓延るスタジアムの中においても、一片の穢れもなき純白の海王。

 

遊良が憧れ、誰もが憧れ、世界の頂点に立っていた本物の【王者】の姿が、今ここに蘇ったのだ。長らくその姿を隠していたとは言え、その咆哮は他の追随を許さぬほどの透き通りを響かせていて…

 

 

 

「カカッ…この馬鹿野郎が、やりゃあ出来んじゃねーか。弱ぇ自分が許せねぇんだったら、今の自分よりも強くなりゃいいだけだろ…この程度のことぐれー自分で気付きやがれってんだよ、ったく…どいつもこいつも。」

 

 

 

そして、静かに呟かれた鷹峰のそれは、以前傷心の中に居た弟子にかけた言葉と同じモノ。

 

そう、かつて自身と肩を並べて、『歴戦』を共に戦い抜いて同じ高みに座していた男へと、その言葉を投げかけたのだ、

 

 

…砺波が許せなかったのは、あの時ランに折られた『自分自身』

 

 

それが10年と言う長い時間の中で曲解し、自分を保つために自らへの怒りを周囲に転嫁してしまっていたことはまぎれもない事実。

 

しかし、囚われていた『闇』の中から見てしまった、感情を露にして取り乱す『もう一人の自分』…

 

そのあまりの『惨めさ』が、どうしても『本来』の砺波には許せなかった…

 

 

だから、こそ…

 

 

 

「【白闘気白鯨】の効果発動!シンクロ召喚成功時、『敵』の全てを…洗い流す!…この意味が、分かっているでしょう!『天城君』!」

「…ッ!あ、は、はい!」

 

 

 

もう、『闇』に喰われてはいない。【白鯨】を召喚した今の砺波は、まさしく王者【白鯨】そのモノ。

 

自分自身をその内側から、客観的に見つめなおしたことによる己の回帰。

 

『海』よりも深い彼の自意識が、『夜』よりも深い『闇』よりも…更に『深く』なったのだ。

 

ずっと感じていた天城 遊良への苛立ちも、常に抱いていたExデッキを『使わない』デュエルへの憤慨も…

 

その全てを『超越』した心意から感じる、今の砺波の言葉は確かに遊良へと届いていて。

 

 

 

「【堕天使イシュタム】の効果発動!LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!【堕天使テスカトリポカ】を手札に加え、【堕天使の追放】をデッキへ戻す!再び守れ、テスカトリポカ!」

 

 

 

―!

 

 

 

襲い来る激流を割き、無情に飲み込む激浪を耐え…悪魔のような堕天使の、再び起こす革命の業火が【白鯨】の凄まじい怒涛を蒸発させんとして立ちはだかった。

 

しかし、王者【白鯨】のその波動。

 

その威力はかつての【激流葬】や先ほどのグングニールの破壊とは比べ物にならない程の威力を持っており…悪魔のような堕天使が、最後には耐え切れずに飲み込まれて消え去っていって。

 

 

 

遊良 LP:2500→1500

 

 

 

それでもどうにか飛沫に塗れた遊良と堕天使達を守りきり、その意思を紡ぐ。

 

 

 

「…フッ…そうだ、それで…いい…」

「と、砺波理事長!」

 

 

 

そうして、最後の力を振り絞ったのか…砺波が、その膝を崩して力を抜いた。

 

 

…本当に、凄まじい精神力。

 

 

きっと彼が砺波 浜臣でなかったならば、絶対に『闇』に打ち勝つことは出来ず。自分の『負』の感情を認められず、飲み込まれて喰われているだけだったはずだ。

 

 

…認めるわけにはいかなかった。自分の歩んできた道を、考えを、簡単に変えられるほど適当な人生を過ごしていない。そう、思っていた…

 

それでも、ここで『惨めさ』を巻き散らかして、己の『卑しさ』を正当化し続けられるほど、軽い人生を送ってきてもいないのだ。

 

そんな砺波の意思は確かに、【白鯨】となりてこの場に現れていて…

 

 

砺波の言った、その『敵』と言う言葉の中には…もう、遊良は含まれてはいない。それを感じられないほど、今の遊良も弱くは無く。

 

 

 

「…一つ、貸しておいてあげましょう…グフッ…は、【白鯨】に勝つという、名誉を…ね…」

「ッ!?」

「タ、ターン…エンド…」

 

 

 

砺波 LP:500

手札:1→0

場:【白闘気白鯨】

魔法・罠:【グレイドル・インパクト】

 

 

 

もう、自らを【白鯨】と呼ぶことへの戸惑いは砺波には無い。

 

己を超え、己を見つめ直せたからこそ、今改めて誇り高き『その名』を名乗ったのだろう。

 

だからこそ、攻撃を加えられたこの場面においても、砺波は遊良に攻撃を加えず。エンドフェイズに寄生生物を手札に加えられる効果すら、砺波は発動しなかった。

 

嫌悪『していた』天城 遊良でさえも…『退学』という圧力すら自らの力で打ち破ってみせた『自分の生徒』を…これ以上、傷つけないために。

 

 

 

「グ…ググッ…こ、これ以上…は…」

「お、俺のターン、ドロー!早く、LPを0にしないと…」

「おい遊良、テメェどうやって砺波のLPを0にする気だ?」

「…え?」

 

 

 

そんな場面だからこそ、焦って【白鯨】に立ち向かおうとした弟子へ対して、鷹峰が声を投げかけて。

 

 

 

「どうって…【白鯨】を【背徳の堕天使】で破壊して…ダイレクトアタックを…」

「馬鹿野郎!それじゃあ永遠に蘇るだけだろうが!」

「えっ!?で、でも、今の理事長だったらそれは命じないはず…」

「チッ、いいかよく聞け馬鹿弟子!砺波が命令しなくたってなぁ、【白鯨】の奴ぁ勝手に蘇んだよ!アレはそういうモンスターだってんだ。【王者】の『名』ってのはよぉ、どうしようもねぇほどに、死ぬほど負けんのを拒むんだよ!」

「…そ、そんな…じゃあ、どうすれば…」

 

 

 

師である鷹峰から告げられた、【王】たる由縁の衝撃の事実。

 

それは、到底今の遊良にとっては信じられない話なのだろうが…それでも、同じ高みに居た鷹峰の言葉だからこそ、それが確かな事実なのだと師の言葉からどうしても遊良は理解してしまう。

 

 

…【王者】は、勝ってこその【王者】

 

 

そう、遊良には知る由も無い話ではあるが、かつての釈迦堂 ランとの戦いでも、実際に負けることを【白鯨】は拒んでいた。

 

…砺波 浜臣と同じ…いや、砺波 浜臣自身である【白鯨】だからこそ、負けることを絶対にしたくなかったのだ。

 

あの時、心を折られた【王者】を許せずに…そして負けを拒む【白鯨】自身が、決着の時に『勝者』となった【化物】である少女のフィールドにいた事も、『偶然』などでは断じてない。

 

 

 

「…おい、そんなに痛ぇのが嫌か?」

「…え?」

「さっきみてぇな痛ぇ思いすんのは、もう嫌なのかって聞いてんだ!いいからさっさと答えろクソガキ!」

「…ッ、い、嫌です!」

 

 

 

とは言え、遊良にはこの状況を打開して決着を着けられるヴィジョンが一つ、どうにか浮かんではいる。

 

 

―そう、砺波のLPを0にして、かつ【白鯨】に勝たせるコトの出来る、唯一の方法が。

 

 

しかし、ソレをするには覚悟がいる。

 

いや、覚悟しても、それでも自分が駄目になってしまうかもしれない、その恐怖が遊良にはあるのだ。

 

それを見抜いている師、鷹峰が言葉を荒げながらも遊良に問いかけるが…ストレートに投げかけられたからこそ、遊良も直線的に言葉を返してしまって。

 

 

 

「…だよなぁ、嫌だよなぁ。痛くて、血ぃ吐いて、気ィ失いかけて、苦しいのはよぉ。」

「…ぅ…」

「けどよぉ…テメェが昔味わった『痛み』と比べて、今テメェが受ける『痛み』は一体どっちが痛ぇ?覚悟して受ける『痛み』と、覚悟もなかったガキん時の『痛み』は、一体どっちがテメェには辛ぇってんだ!あぁん!」

「…昔です!昔の方が辛かった!」

「そうだろうが!だったら四の五の言わずに、とっとと片ァつけやがれ!この俺様の弟子なら、ちっと痛ぇくれぇで泣き言いってんじゃねぇぞコラァ!」

「は、はい!」

 

 

 

それでも轟く喧騒が、取るべき道を示してくれる。

 

師の言う通り、地獄のような『あの頃』に受けた痛みと比べれば…今これから喰らうであろう痛みは、決して耐えられないモノではないはず。

 

覚悟し、決意し、忍んで、決断してー

 

 

 

「…やってやる!それしか道が無いのなら!俺は…【堕天使イシュタム】の効果発動!」

 

 

 

それしか道がないのなら、そこへ進むしかないのだと、無理やりに自分を言い聞かせるしか遊良には後は無く…

 

 

 

「LPを1000払い…墓地の…【魅惑の堕天使】の効果を得る!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊良に残された最後の手。その決意の宣言ともに。

 

遊良の場の魅惑の堕天使が、妖艶なる舞いを踊り始める。

 

 

…【堕天使ルシフェル】の効果で墓地へ送られていた、3枚の内の最後の1枚。

 

 

自身の身を代償にする『罠』ではなく、主の命を糧として繰り広げられるその舞踊は…

 

堕天使達の怒りに塗れたモノではなく。おろかな主の決断に、仕方なしではあるものの、呆れながら魅せているようにも見えるだろう。

 

 

神をも見惚れさせる魅惑のダンス。如何なる存在も抗えない、種としての本能に覚醒をもたらす淫靡なる美しき舞いに【王】が包み込まれていって…

 

 

そうして歴戦を巡りし輪廻の【白鯨】が、その場を離れて対峙する少年の場へと、その巨躯を移動させ始めたではないか。

 

 

 

「グッ…また…ゴホッ、く、くっそ…」

 

 

 

抗うことは許されない『罪』に再度貫かれながらも、唇を噛み締めてそれを耐え忍ぶ遊良。

 

 

血が上り、喉を焼き、肺を押し上げ外に出る。

 

 

それでも…

 

 

 

「こ、この一撃で…終わらせるんだ!理事長を縛っている『闇』も、こんな戦いも!バ、バトル!【白闘気白鯨】で!グッ!?と、砺波理事長に…ダイレクトアタック!」

 

 

 

それは奇しくも。

 

 

…いや、必然的に。

 

 

この状況はかつてこの場所で行われた、釈迦堂 ランと【白鯨】の戦いと同じ。

 

己の名が自らに牙を剥き、今こうして敵対している構図で襲い掛かってくるというこの状況は…

 

あの時、【白鯨】が【化物】に完敗を喫して心折られた戦いの最後と、同じ状態であったに違いない事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

…それでもあの時と違うのは、砺波が【白鯨】足り得ているか。

 

 

 

 

 

 

 

「…受け入れよう…この敗北を…『今』は…」

 

 

 

 

 

きっと、彼はもう折れない。

 

 

一度折れて、10年という長い年月をかけて気付いた、より強く昇華した彼の『心』ならば…きっと。

 

 

それを、【白鯨】も知っているからこそ。

 

決して聞くことのない他人の命令を、今この時は甘んじて受けているのだ。

 

 

歴戦を駆け抜けし【白鯨】が吼え、その激流を波動に変えた咆哮によって…

 

長い長い彷徨いから帰ってきた、より昇華した『自分自身』へと向けて…

 

 

 

 

ー今、放つ

 

 

 

 

 

 

 

「怒涛のタイダル…ストリィィィィム!」

 

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砺波 LP:700→0(‐2100)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軋みを沈めぬ古びたスタジアム、轟きを収めぬ『闇の塔』が呻く中で…

 

 

放たれし怒涛、逆巻く激流、その全てを集約させた波動の波濤が…

 

 

砺波を、ひいては砺波を縛って捕らえて飲み込まんとしていた深淵の『闇』を、その根本から全て吹き飛ばしたのか。

 

 

 

 

 

ーピー…

 

 

 

 

 

デュエル終了を告げる無機質な機械音よりも、より一層響き渡るは【白鯨】の咆哮。

 

 

高らかに、鳴り響き…それは間違いなく、深淵の『闇』の中で抗っていた自分自身の…

 

 

王者と呼ばれた砺波の、真なる解放を告げていた。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

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