遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
―…
今よりおよそ10年前。
記録的な雨が降り続き一向に止む気配のない雨音が誰の気持ちをも沈めているような、そんなとある日の、とある場所。
薄暗くなった街の中、地に額を擦りつけ、体裁など全て捨て去って…雨にその体を打たれて、無様な格好で必死になって懇願している男が一人、そこには居た。
「景虎さん、頼むよ…どうか…どうかこの子だけは…」
…全てを奪われ、全てを失った。
ソレが油断だったのか、それとも恐怖だったのか…『底知れぬ恐怖』と謳われていた自分が、よもや他人から『恐怖』を与えられるなど、この男も思ってもいなかっただろう。
それでも、起こってしまった事はもう変えられるわけがなく、名を失い、力を失い、金を失い、そして全てを失った男に、どうにか残った『たった一つ』の、何よりも大切なモノを必死になって守ろうとしているその姿は形容しがたいほどに痛々しく…
その、必死になって懇願しているその姿を…
彼の目の前に立っている、傘を差した老人は厳しい目で見つめているだけ。
「憐造…お前は紫魔家のしきたりで、既に【紫魔】ではなくなった男じゃ。…名も無くした貴様とワシには、もう何の関係も無いはずじゃろ?」
「頼む…お、お願いだ…」
「知らん、全ては負けたお前が背負う罪。ソレに対して、ワシが手を貸す理由にはならんよ。」
「ヒ、ヒイラギは違う!ま、負けたのは俺だ…だ、だから娘には何の罪もないんだ…」
雨の冷たさのせいか、または全てを失った故の自棄か…震える声で、最後の最後に頼ることの出来る綿貫に、必死になって懇願し続け娘の安否を願うこの男。
…紫魔 憐造と、呼ばれていた『男』
そう、『呼ばれていた』のだ。
少なくとも、ほんの数日前までは全世界の融合使いの頂点に立っていたはずの男であり…その風貌は世界中に知られている程の有名人で、またそのデュエルに世界中の誰もが憧れたほどの決闘者であるはずなのに…
いや、デュエリスト『だった』と言った方が正しいか。
【紫魔】という、一つの家系の苗字がそのまま【王者】の名になるほどに、世界中でも類を見ないほどに巨大な富と権力を持つ『紫魔家本家』。
そして、外からの介入を許さぬ古のしきたりを『絶対』としている彼ら『紫魔本家』だからこそ、先日起こった当主の『不祥事』に対しても、少しの酌量も無く『罰』を与えるのみ。
そして、【紫魔】として長年紫魔家に貢献してきた憐造が、その座を無理やりに降ろされて追放された理由など…『この時』においては思い浮かぶ理由など一つしかない。
「…はぁ…【王者】ともあろう者が全員、小娘一人に完全敗北とは…何と無様なことじゃ、全く。」
「ち、違う、あれは小娘なんかじゃ…」
『この時』に起こった大事件。
この紫魔家の不祥事の少し後に、【紫魔】と【白鯨】、二人の王者が揃って表舞台から姿を消すこととなるこの世紀の大事件は…後の世まで語られることになる出来事となるも、その真相を知る人間は極少数の限られた者のみ。
―まさか、たった一人の少女に、世界が誇る【王者】達が敗れたなど、一体誰が公表できようか。
そして、それは紫魔本家においてもただ事では済まされず。
…負けた者は、【王者】ではない。
古より続く絶対の決まり。
自らの限界を感じた引退や、不慮による急逝以外に、『召喚法』という区切りがある故に同じ高みに立つ【王者】との戦いはまだしも…『それ以外の者』に負けるということなど、悠久の遥か昔からデュエリスト達の頂点を謳う紫魔本家においては何があっても許されることではないのだ。
…『蟲毒』を生き延びた者が【紫魔】となり…【紫魔】でなくなった者は『孤独』へと送られる。
今こうして憐造が娘を連れて紫魔家から『逃げ出して』きたはいいものの、いくら元王者とは言え巨大なる紫魔家の追跡から一個人が逃れられる術は無く。きっとすぐにでも連れ戻され、有無を言わせず地下深く幽閉されて、二度と日の光の当たる場所へと帰ることは叶わなくなるだろう。
そして、それは【紫魔】の血を引く子であっても同じ。
関係を断った者ならばいざ知らず、憐造に一人残された幼い娘であっても、その血を引いているのならば例外なく父と同じ判決を下されるのが紫魔家の掟なのだ。
弱者はその血から絶やし、次なる『蟲毒』を生き抜いた強者を長として置いておく。そうして弱者を排除し、強者を常に維持しておかなければ紫魔家が封印している【紫魔】を抑えることが出来なくなってしまうからと、紫魔家の開祖である原初の英雄が定めた古の掟で、そう決まっているから。
「な、何でもする、何でもするから…だから頼むよ…景虎さん…」
「何でも…か。随分と意味のなさない『何でも』じゃ。本当に哀れな男に成り下がったものじゃのぅ。野心に満ち、人を人とも思わぬ暴力でここまでのし上がってきた男が…たった一人の娘のために頭を地に擦り付けるなぞ、決して褒められた姿では無いわい。」
「た、頼むよ…お、お願いだから…」
地に頭を擦りつけ、もう何度目かわからぬ懇願を、必死になって頼み込む男の姿は決して【王者】とは呼べない姿。
そんな姿を見てもなお、いくら【妖怪】と言われる綿貫 景虎が数多くのデュエリスト達に慈愛を注ぐ先導者とは言え、目の前で懇願する最早『人』としても扱われないこの哀れな男と関わることが、どれほど『紫魔本家』の怒りを買うかを理解しているのだろう。
―超巨大決闘者育成機関【決闘世界】
その規模は全世界にまで及び、またその組織が持つ権力の大きさだけで比べれば、『紫魔本家』よりも上位に位置していることは事実ではあっても、一つの『家系』が『ここ』に次ぐ権力を持っていることが恐るべき事実。人間一匹消すことなど、紫魔家にとってはささいなことなのか。
また、紫魔家の上層部にも【決闘世界】に所属している人間が少数いることから、【決闘世界】の重役である綿貫 景虎であったとしてもおいそれと勝手な判断を下すことは出来かねる様子を見せていて。
娘とはいえ勝手な慈悲をかけることが、紫魔家との間にどれほどのいざこざを生むのかを、綿貫は知っているから。
「なぁ景虎さん…あ、あんたならヒイラギ一人くらい何とか出来るだろ?…俺はもう無理だ…もう追っ手がすぐそこまで来ている……け、けど娘だけは…まだ子供なんだよぉ…」
「…それはのぅ…確かに可哀想じゃとは思うが…はぁ、貴様もまた、人の親…か。」
それでも自分の事よりも娘の安否を第一に考えられるだけ、野心に満ち溢れていたこの男もまた人の親だったのだと、幼き頃より憐造の活躍をずっと見てきた綿貫の心に浮かぶのは、それもまた親心に近いものなのだろうか。
既に【王者】では無いからこそ、恥も外聞も捨て去って、自分に残されたたった一つの大切なモノのためにここまで体裁を投げ捨てられる憐造のその姿と…
「…はぁ…」
雨に打たれながら懇願する男の後ろに、何が起こっているのかを理解出来ていないかの様に…
無気力な顔で絶望だけを露にしている一人の少女の姿を綿貫が見て、その口から重々しい溜息をついた。
しかしその少女からすれば、状況が分かるはずが無いのも当然だろう。
昨日まで広い家に住み、人の愛に包まれ、何一つ不自由なく暮らしていたはずの子どもが、その全てを急に失ったのだから。美しく伸びた髪が雨に打たれ、その表情をより一層暗く見せ…
そんな、希望しか見えていないはずのこの歳の子どもがこんな顔をしていいものかと…憐造を冷たく突き放したとは言え、後進達を育ててきた景虎からしても確かに胸打たれるモノがあるのか。
嫌そうに…それはもう心の底から嫌そうな声で…憐造だった男へと、再び綿貫は声をかける。
「…何でもすると…そう言ったかいのぅ憐造や…」
重々しく、苦々しく。
綿貫もまた、自ら被るであろう面倒と負担、そしてそれ以上に起こるであろういざこざを考えたからこそ、それでも最後の譲歩を与えてやるために。
「…じゃったら、お前の娘を何とかしてやる代わりに、お前はワシに何をくれる?紫魔家に睨まれることになるであろう、このワシに。」
「…な、なんでも!…何でも、差し出すよ…なんなら、い、命だって…」
「命…最早、死人同然と扱われるお前の命に、一体どれほどの価値があるというのじゃ。全く持ってワシには何も残らん。そんな意味の無い差出物では、ワシは動かんよ。」
これまで長い間、ずっと見てきたはずの憐造であっても、突き放すような言葉と厳しい物言いを崩さない綿貫の態度は依然として頑なで。
【妖怪】のその真意は果たして何を思っているのか。
本気で哀れなこの男と関わるのを嫌がっているのか…はたまた、憐造の親としての残滓を問うているのか…その深淵にある翁の意思は、決して本人にしか分からぬ物。
そうして、自身の命すら差し出すに値しないと告げられた憐造がソレを聞いて何を思ったのか。思いつめた顔で、今にも崩れ落ちそうな顔で…
ゆっくりとその懐からあるモノを取り出した憐造が、その手を綿貫へと向けて伸ばして。
…そして、そこにはデッキが、一つ。
「…だ、だったら…こ、これを…何とか持ち出せた俺の、い、命と…同じくらい大切な…このデッキを…」
「…ほぅ、お前以外に使える者の存在しない哀れなカード達か…なるほど、お前自身と違い、相当な文化的価値はあるかいのぅ…ま、それならよかろう。」
己の命で足りぬというなら、命と同列、またはこのデュエルが全ての世界では命よりも優先されることのある、『カード』を差し出すという憐造のこの行為。
それも、ただのカードではない。
世界中の決闘者たちの、頂点に立ち続けてきた男を体現する【王者】のカード。かつて、たった一枚のソレを巡って国家間での最終対立すら起きかけたことはこの世界の歴史においても証明されてることなのだ。
―その、【王者】のカード…ひいては、デッキ一つが持つ価値が如何ほどのモノなのかは言うに及ばず。
それを自ら手放してでも、男は娘を助けることを選んだのだ。
命を差し出すのと同じ…そう、はっきりとした形を持って差し出されたまさに『命』を憐造は手放して…そうして、それを受け取った綿貫。
「…確かに受け取った。このカードに誓って、お前の娘の暮らしを保障してやるわい。」
―契約は、結ばれた。
「…父様…」
そんな見たことの無いような父親の必死な姿と…全てを失ったことだけを理解している少女の口から零れた悲しい呟きだけが…
―雨の音に、掻き消されていった
…
そうして、どれほどの月日が経ったのか。
…娘と引き離され、地下深く幽閉され。
光届かぬ場所で力なく地面に横たわり…見えない『闇』の中で、開いているのか閉じているのか分からない『名も無い男』が、その意識を閉じようとしていた。
…娘は、無事だろうか…
最早男の脳裏に浮かび上がっているのはその思いだけ。幽閉された当初は喚く力もあったものの、時間も知ることの出来ないこんな場所では、すぐにその力すらも暗闇に溶けていって無くなっていて。
それでも、今この時までこうして何とか命を繋げていられたのは、【紫魔】として生きてきた人生の中で常に世話になってきた綿貫という信頼の置ける相手に、娘を預けることが出来たからこそ。
あの人に任せたのだから、きっと娘はこれからの人生を取り戻して生きてくれるだろうと、それを確信できただけで男の心残りは既に無く、あとはここで力尽きるのを待つだけ。
―そうして、そのまま男の意識が安らかに、そして静かに闇の中に消え始めた中で…
―男は、見た。
(…なっ…何なのだ…これは!?)
それは、体だけでなく、心まで傷付き、絶望の淵に立たされているかのような少女の目。
下層の者達からの鬱憤なのか、肌理細やかだった柔肌に殴られた跡が痛々しく体中に残って…受け止めきれない年齢にも関わらず汚い大人たちの慰み者として扱われ、恥辱にのたうち苦しむその姿…
(何故だ、何故だ…何故だ!)
―そう、傷つけられ、痛めつけられ、嬲られ、辱められている、自分の娘の姿を。
それは走馬灯などでは断じてなく、消えていく意識が見せた幻などでもないことを名もなき男はどうしても理解してしまっていて。
もし無意識が見せている深層心理であったならば、もっと娘は幸福に過ごしているはず。それに、これほどはっきりと娘の苦しむ姿が見えているというのに、それは眼で見ている景色ではなく、『何か』に見せられているのだと感覚から男は理解してしまっていたのだ。
最早先に逝ってしまった体を動かすことなど叶わず。声を荒げたくとも何も響かず。
(何故ヒイラギがあんな目に!?景虎さんは!景虎さんとの約束は!?)
これが単なる幻だったならば、男にとってどれほど良かったことなのだろう。
夢幻に散り行く間際に、地下深い『孤独』が見せる最期の絶望…そんな時分の虚言と妄想の果てであったならば。
―しかし、どうしても男には分かってしまっている。
この光景が、天に召され行く魂が見ている『本物』の…今、現在、この時に、確かに起こっている光景なのだと。
それがどうして見えているのか。そんな事にまで意識を割くことなど男には出来ず。しかし、『何か』によって見せられていることだけを理解させられているからこそ、その身得ている光景に対して、さらに絶望を募らせるのみ。
(何故…ヒイラギがこんな目に遭わなくてはならない…)
恥辱、屈辱、汚辱、困辱。
まだ年端もいかない我が子が受ける、これほどまでの辱めに対して昇ってくる男の感情は果てしなく重く。
そして、安全を与えられたはずの娘が傷付いているという、それに対するどうにも出来ない歯がゆさと怒り…綿貫 景虎に、己の命よりも価値があると言わせしめたデッキを渡し、そうして彼が約束したはずの娘の暮らしが、全くなされていないという事実に対して感じる、どうしようもない怒りと悲しみ…最早、召されかけている男はその感情しか感じられず。
―シマ レンゾウ…『何』ヲ望ム?
その時、どこかからか聞こえてきた謎の声。
人の声のようでもあり機械の声のようでもあり…心の深層へと直接響いているような、そんな不可思議なモノではあったものの、それに対して違和感を感じるような命は、最早男の中にはなかったのだが。
驚きはしない、そんな『些細』な超常現象などどうでもいいくらいに、今の男の中には怒りしかないのだから。
閉じる口も、既に持ち合わせていない男の意識は…己に浮かび上がっている、『ただ一つの感情』だけを思い浮かべて、声に応えるのみ。
(…復讐を…娘をこんな目に遭わせる物全てに…復讐を…)
一体この声が何なのか。そんなことなど、既に事切れている男にとっては無用の疑問。
ただ単純に、ただ純粋に。
望むのは、ただそれだけ。
――ヨカロウ…望ムモノヲ…与エテヤル…シカシ…ソノ『代償』ニ…
そうして、『声』が最後の審判を下して…
―オマエ自身ヲ…頂ク…
光届かぬ地下深くのこの場所に、さらに湧き上がるはっきりとした深淵の闇。
光がなければ影は出来ぬと言うけれど、そんなことは人の常識。光など無くとも影は出来る。そう、この場の暗闇よりも、更に深い暗闇さえあれば…『孤独』と呼ばれる地下深い場所にある『闇』よりも、なお暗き『闇』がそこに生まれれば…そこには、確かに影が出来上がり…
その中に命尽きていた男が飲み込まれていき、消えていくだけだった魂と朽ちかけていた体を『闇』が繋げて隙間を埋めていく。
…そうして、そのまま、男は姿を消した。それは丁度、男の死が世間に公表された時期と重なっていて。
…
そうして、再びどれほどの時間が経ったのか、そのまま長い年月をかけて、命消えた体に再び魂が宿った。
それが果たして『人』なのか。それとも『別の存在』なのか、それはこの時には誰にもわからないことであり…
前の命の時とは比べ物にならない程の力と怒り。今にも弾け飛びそうなほどに煮えたぎった復讐心と、内に蠢く『闇』だけが彼を動かすのだろうか。
その目に映るは、腐った世界。
世界全てへと向ける怒りと、たった一つの大切なモノだけが彼を再び立てるように仕向けたのだ。それは丁度、彼の娘と同じ名を冠した花が散り始める時期であり…
『復讐を…娘を傷つけた世界に…復讐を…』
湧き上がる、『ただそれだけの感情』と共に…『闇』は、その場から姿を消した。
―…
「大体俺ぁテメェの、他人ばっか顎で使うその態度が昔っから気に入らねぇんだ!【超銀河眼の光子龍】と【超銀河眼の光波龍】で攻撃ぃ!」
絶えることの無い爆発音と、『何か』と『何か』がぶつかり合う激突音が響いているスタジアムの中。
『人』の形をした、【化物】達が叫びあう音が木霊して反響し…そのあまりの激しさと、実体化した本物の攻撃と爆炎が周囲に飛び交っているためか、2匹の【化物】は決して一箇所に留まることなく、常に動き続けて激闘を繰り広げていた。
『自分の事しか考えない貴様に言われる筋合いは無いよ、カウンター罠、【攻撃の無力化】!』
「ちっ、だったら2体のレベル10モンスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク10!【超弩級砲塔列車グスタフマックス】!」
『その特殊召喚成功時、墓地の罠カード、【迷い風】を再びセットする!』
「それがどうしたぁ!グスタフマックスの効果発動!吹っ飛べ、れんぞぉぉぉぉお!」
『甘いな、速攻魔法【痛魂の呪術】発動!吹き飛ぶのは貴様だ【黒翼】!』
…いや、これを『激闘』と言ってもいいのだろうか。
互いが互いの手を限りなく潰しあい、互いが互いを全力で喰らい尽くしにかかって。
全く脈絡の無いように見えるカード達が全て繋がり、およそシナジーを見つけることすら困難であるだろうカテゴリーの組み合わせをいとも簡単に行い、ひとつ間違えれば悪手に終わるような妨害手を、確実にピンポイントなタイミングで揃えて対応する。
そしてそのターンすらも、今がどちらのターンを行っているのかを見失うほどの速度で決闘と【化物】達が動いているのだ。
一体、このデュエルが始まってからどれほどのターンが経過し、またどれほどの鬩ぎ合いを繰り広げたのか…それを理解出来ている者が、果たしてこの場にいるのかどうか。
およそ常人では理解できるはずも無い。そう、この狂った鬩ぎ合いは、決して常人が真似など出来る代物などではなく。
…きっと、同じ場所にいる【化物】でしか分かり合えることはないモノなのだろう。
『全ては『娘』の受けた苦しみを、全ての人間に返すだけだ!この腐った世界の全ての人間に!【E・HERO ブレイズマン】を召喚し【融合】を手札に加えてソレを発動!場のバブルマン、ブレイズマン、ディアボリックガイの3体のHEROでユウゴウショウカン!出でよ、【V・HERO トリニティー】!』
「知るかってんだ!罠発動、【奈落の落とし穴】ぁ!」
『ならば【ミラクル・フュージョン】を発動!墓地のソリッドマンとバブルマンを除外融合!出でよ、【E・HERO アブソルートZero】!更に速攻魔法【マスク・チェンジ】発動!アブソルートZeroを素材に変身召喚!【M・HERO アシッド】!』
「だったら罠カード、【エクシーズ・リボーン】を発動だぜ!墓地から【真紅眼の鋼炎竜】を特殊召喚!」
爆ぜては収まり、収まっては爆ぜるカード達の応酬。
その終わらぬ攻防と、潰されても防がれても、決して止まることのない猛襲の折り重ねが場の状況を常に混沌と化しており…
この、いとも容易く行われるえげつない行為の数々と、狂った【化物】たちが織り成す互いへの饗宴は、ここで見ているしか出来ないその他の『人間』からすれば文字通り『次元が違う』と言う他ないことは必至。
目で追えない程に目まぐるしく場が入れ替わり、手札にもデッキにも墓地にも場にも、いつの間に『そう』なったのか分からなくなるほどに戦況が簡単に変化して。
常に動いているために、攻撃の直撃はないものの、それでも発生するダメージによって、LPの増減は確かに起こっている。
…そんな目まぐるしく入れ替わるターンが、今の戦況をより理解しがたいモノと変貌させていることはまず間違いないだろう。
倒されては呼び出され、次々に繰り出されるモンスター達。矢継ぎ早に続けられる、全身全霊の打ち合い。
およそ常人程度では回すことも出来ないようなデッキをさも簡単に扱い、その全ての行動が確実に相手を屠るために繰り出され…殺気の塊と殺意の鈍器をお互いに遠慮も無くぶつけ合って、お互いがお互いを葬り去ることしか考えていないかのよう。
「この俺様を顎で使った代金は高付くぜ、ただで済むと思ってんじゃねぇぞゴラァ!!【RUM-デス・ダブル・フォース】発動ぉ!墓地から【RR-レヴォリューション・ファルコン】を呼び出し、コイツ一体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い、ランク12!【RR-ファイナル・フォートレス・ファルコン】!さらに【RUM-ラプターズ・フォース】を発動だ!墓地から【RR-アーセナル・ファルコン】を呼び出し、コイツ一体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!来やがれ、ランク8!【RR-サテライト・キャノン・ファルコン】!テメェの魔法・罠を全部破壊してやんぜ!」
そうして戦況を何とか理解しようとして目を凝らしている内に、ターンが終わってターンが始まって、またターンが終わってターンが始まって…
鷹峰が次々にエクシーズモンスターを繰り出し、決して弱めることなく行われる憐造への猛襲は…そこら辺に多々いる『最上位レベル』の決闘者とて、一瞬で消え去りそうな代物だというのに、その猛襲すら涼しい顔で憐造は捌き切っているだけ。
『貴様もさっさと神の『闇』に沈むがいい!罠発動、【D‐フュージョン】!【D-HERO デッドリーガイ】と【D-HERO ディアボリックガイ】を融合!ユウゴウショウカン!出でよ、レベル10、【D-HERO ダスクユートピアガイ】!そして効果で連続融合!手札の【D-HERO ディバインガイ】と【D-HERO ドリームガイ】でユウゴウショウカン!出でよ、レベル8、【D-HERO ディストピアガイ】!LPを800払い、装備魔法【再融合】発動!蘇れ、【D-HERO デッドリーガイ】!』
また、その逆も然り。
そして繰り返す応酬の果てに、さらに始まる憐造のターンでまた途切れることなくモンスターを繰り出し、鷹峰へと向かって『闇』を向かわせ爪を立てて。
その『歴戦』を潜り抜けてきた強者すら、嘲笑いながら葬り去らんとする猛攻に次ぐ猛襲を、いとも簡単に捌き切る鷹峰もまた【化物】に違いなく。
「…一体、な、何がどうなっているんだ…」
そんな中、それを漠然と眺めていた遊良からすれば、全く持って理解出来ない戦いを繰り広げている2匹の【化物】達へと感じるのは絶望や恐怖ではなかった。
恐怖をも通り越した、与えられた絶望すら霞んでしまっているような…
―ただ、意味がわからないだけ。
これまで師を相手に、修行と称した一方的な蹂躙を経験はしてきた遊良ではあるものの、それでも【化物】同士の戦い、ソレらの持つ『本気』と言うモノなど、今この時まで全く持って理解していなかったという事実を、まざまざと見せ付けられているのだから。
また、先ほど受けた絶望的な事実すら軽く忘れてしまいそうなほどに禍々しいこの戦いを見て、鳴り響く爆音と、建物が崩れていく音だけが遊良の耳に反響し…そうしている内に、また戦況が変わっては動き出す【化物】達に、目が追いつかずに思考が停止しそうになるのを感じていて。
「…よく見ておきなさい天城君。あの二人の戦いを。」
「…え?」
「…君が鷹峰の相手を務めると言うのならば、君もあのレベルにまで到達しなければならないのですから。それがEx適正を持たない君にとってはどれほどの苦行なのか、今の君ならもう理解しているでしょう?」
「あ、は、はい…」
そんな遊良へと向かって…力なく座り込んではいても、この戦いを『何とか』目で追えているらしい砺波がそう言ってきた。
しかし、あれほど自分の言葉を曲げようとしなかった砺波が、その怒りと復讐の矛先を『正しい相手』へと向けることが出来たとは言え、それでも今までの砺波の攻撃的な雰囲気に慣れてしまっていた遊良からすれば、突然のこの砺波の優しさすら感じる言葉に一瞬たじろいでしまった様子を見せていて。
突然のその言葉に、何と言葉を返していいのかも遊良には分からず…
確かに彼に巣食っていた、拗れた故の『間違った復讐心』は先ほど『闇』と共に放出された。とは言え、それがここまで砺波の態度を変えたことが、どうにも遊良には違和感を感じて止まないのか。
確かに今まで生きてきて、他人から『敵意』を向けられている時間の方が長かったとは言え…どうにも悲しいくらいの遊良の『慣れ』が、すぐにその砺波の態度を受け入れられずにいる様子だ。
「…フッ、今更私がこんなことを言うのもおこがましいですが…私だって理解していたのですよ…Ex適正の有無に関わらず、強者は強者なのだと。…それを、どうしても許すことが出来なかったが…しかし、今なら鷹峰の言っていたことが少しは理解出来るような気がします。」
―『王者の座を降りてでも…そこまでの価値がこの子にあると?』
―『さぁな。そこまでかは俺にもよくわかんねぇ。でもまぁ、切り捨てるには早いだけってんだよ。』
「【決闘祭】を優勝するほどの才を持っていたのだ、Ex適正を持っていないというだけで、確かに『切り捨てるにはまだ早い』のかもしれませんね…」
かつて砺波に、抵抗する間もなく退学させられそうになったあの日…遊良に『価値』があるのかという砺波の問いに、師が飄々と言い放った、『切り捨てるにはまだ早い』という言葉…
今現在、こうして【決闘祭】を優勝することが出来たからこそ、その言葉は『本物』となって世間に見られ始めたのは事実。
そんな今までの砺波からは思いもよらない言葉をかけられた遊良の心境はいかなるモノなのか。何と言って良いのかわからずに言葉に詰まってしまったまま、次に繋げる言葉を遊良が探し始めた…
―その時だった。
「テメェら何ぼさっとしてやがんだ!墓地から罠発動!【RR-レディネス】!ダメージを全て0にする!」
―!
…寸前
まさに、目の前に迫り来た凄まじい衝撃波を纏った『闇』が、崩れかけた壁にもたれかかっていた遊良と砺波を飲み込む寸前だった。
その間に割って入った鷹峰が、また寸前で発動した罠カードによって遊良達の目の前で衝撃波が弾かれ…『闇』が辺りに散らばって、そのまま霧散していって。
『他人まで庇う余裕があったとは驚きだ。…随分と優しくなったものだな【黒翼】。』
「せ、先生…」
「ケッ、俺の行ったところに偶然こいつらが居ただけだっての。勘違いしてんじゃねーぞテメェら。」
「すまない、鷹峰…」
「チッ、謝る元気があんならとっととどっか行きやがれってんだ。ったく、邪魔なんだよ何時までもへばりやがって。」
鷹峰の真意が何なのか、それは鷹峰にしかわからない事ではあるものの…それでも、結果的に砺波と遊良が戦いに巻き込まれずに助かったことには変わらないだろう。
『私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ。』
憐造 LP:10500
手札:6→3
場:【Dragoon D-END】レベル10
【Dragoon D-END】レベル10
【Dragoon D-END】レベル10
伏せ:1枚
そうして、もう何度目かも分からぬターンの応酬の果て、目まぐるしく行われていた『デュエル』らしき行動の果てに、ようやく一時その場に立ち止まって、そのターンを終えた憐造。
生きているのか死んでいるのか分からないほどに不気味に漂うその姿は、もう既に人間技で無いのは誰の目にも明らかであり…
これまで世間が知っていた、『紫魔 憐造』という人間とは最早かけ離れた存在となってしまったことを、この場にいる誰もが理解せざるを得ないことは必至。
そんな、不気味な雰囲気の中で佇むその存在は、未だ体力が戻らず動けない様子の砺波へと向かって声をかけた。
『随分とすっきりした顔をしているじゃないか【白鯨】…フッ、お前のおかげで『闇』はコレほどまでに高まったのだから、それも当然といえば当然か…』
「…先ほど追い出した『闇』か…確かに、『闇』に取り憑かれている間、私の中でどんどん『闇』が大きくなっていくのを感じていたが…」
『そうだ。『闇』に抗えば抗うだけ、それだけその人間の中で『闇』は増える。負の感情が大きければ大きいだけ、精神力が大きければ大きいだけ、その精神を喰らい尽くせるだけの大きさに膨れ上がろうとするのだよ。どうだ?お前を支えていた復讐心が全て食われた気分は。それでもお前は再び立ち上がれそうか?』
「…それだけのために…私を利用したのか…」
『それ以外にお前に価値などあるのか?小さい復讐を拗らせていたお前に程度に。それらも全て餌として食わせてもらったがな。』
「憐造…貴様…」
ここまで回帰できたとは言え、確かにこの10年もの長きにわたって砺波 浜臣と言う人間を支えていたのが『復讐心』には違いなく。
いや、厳密に言えば、砺波の中には今だってランへの復讐心は確かに残っていて。
だからこそ、砺波は折れてはいない。普通の人間であったならば、今まで自分の中にあった『根幹の感情』の喪失と、『闇』によって膨れ上がった『負の感情』がいきなり外へと喪失してしまったその虚無感によって、心が埋まるまで『目を覚ます』ことは困難になるはずだというのに…
それでも砺波に残っている『今』の復讐心は、拗れに拗れた間違った方向へのモノでは断じてない。
負けた自分が許せないからこそ、自分を下した少女に対して『次は勝利を』と言う、リベンジという名の復讐心へと思い直せたからこそ砺波は回帰できたのだ。それに伴って、釈迦堂 ランと言う存在と、全く何も関係の無い少年へとぶつけていた不快感も消えたことは事実。
今もこうして意識を保っていられるだけの精神力によって、己を保っていられるのだから。
それを理解しているからこそ、憐造もまたわかりきったことを話しているに過ぎず…
『まぁ、その感情がまた『闇』の餌でもあったのだから、いい養分となってくれたことだけは褒めてやるよ。…完全に飲み込んだ時、またはそれが放出された時に私に還元される『闇』もまた大きくなる。しかし流石は私と同じ元【王者】、まさか街一つ飲み込むまでに成長させてくれるとはな。』
「…貴様に…貴様達に何があったというのだ。どうして世界を消さなければいけない、ここは…貴様も生きた世界のはずだ。それを、たった一人の娘のために…」
そんな中、砺波には未だに引っかかりを覚えることがあるのか。
かつて紆余曲折な多々あったものの、およそ30数年という長きに渡って共に王座に着いていた【白鯨】と【紫魔】と【黒翼】。年齢的な面では8歳から王座に居た憐造が一番若いとはいえ、年齢と強さがイコールでは無いことは誰しもが理解しており…
いがみあってはいても、人生の半分以上を共に戦ってきた男達にとっては言葉よりも確かな決闘と言う行為で語り合ってきたはず。
だからこそ、砺波には信じられていない。幼い頃から野心に満ち、紫魔家の力を持って世界を治めるなどと豪語していたあの男が…暴力的な力で他人を屠ってきたあの憐造が、たった一人の血縁のために手中に収めようとしていた世界の全てを消し去ろうとしていることが。
『何度も言っている、全ては娘のためだ。それ以外に世界を消す理由など無い。私はこんな世界に未練など無いし、娘だってこんな世界は嫌がっているに決まっている…ならば、この子のために世界を消すことは、れっきとした理由となる!』
「その為に、他の人間達全てを犠牲にするのか!自分の子ども以外の大切な人間達も全て…」
『自分の子ども以外に、大切な者など存在しない!その他は全てが虚像、私を含めて全ての人間が虚像に過ぎない!』
「余所見してんじゃねぇぞゴラァ!俺のターン、ドロー!」
そして更に激しさを増してく戦いは、留まることをまるで知らず。
憐造から発せられる、復讐心に塗れている言葉と…鷹峰から発せられる、苛立ちを隠さない雰囲気と…その両方が混ざり合って、さらに戦いを混沌とさせていくのが目に見えて分かるほどに、この戦いの行方を更に不可思議なモノへと変えていって。
…モンスターの攻撃、魔法の打ち合い、罠の掛け合い。
一時もその場に立ち止まらず、モンスターと共にスタジアムであったこの崩れ壊れた場所を駆け回ってはお互いを本気で潰しにかかっている二人の行方もまた、常人には捕らえられないモノとなっていた。
「…ヒイラギさん!」
そんな中、この戦いの中にあっても父の行く末を見守っているのだろうか、戦いから目を離さないヒイラギへと向かって、呼びかけるようにして叫んだ砺波。
「あれから君に何があったのかは分かりませんが…それでも、君はこれで良いのですか!?苦しくても、君がこれまで生きてきた世界が、全て消えてしまうんですよ!?」
「…ホホ、何を言っているのでしょうか。これこそが虚像、こんな理不尽な世界が、私の生きる世界なわけがないのですもの!父様のおかげで、私はかねてよりの復讐を遂げることが出来るんですの。私を痛めつけた世界を、父様が消してくださいますのよ!」
まるで自分に言い聞かせるかのように、父の思いへと賛同の意を表す言葉を発するヒイラギ。
かつて彼女が味わった、世界に絶望するほどの過去を理解出来る者が、果たしてこの場にどれほどいるのか。世界が急に敵に回る恐怖など、およそ普通に生活している者が理解できるはずが無く…砺波の言葉が届いていないかの様に振舞うヒイラギもまた、その痛みを受けて来たということに他ならないだろう。
「…これほど嬉しいことはありませんの…そう、これほど…」
そうして、爆発音が止まらないこの戦いの中で、始めてヒイラギがその顔を地面へと向けて俯きを見せた…
―その時だった。
「いい加減消し飛びやがれぇ!【黒炎弾】発動!」
戦いの最中、鷹峰の宣言と共に、その後ろから真紅の眼を持つ黒き竜が巨大な黒炎の弾を放ち…
『フッ、どこを狙っているのだ!そんな的外れな所を…』
全く狙いを外れて逸れていく黒炎を、憐造が一瞥もなく気にも留めなかった…その瞬間…
―小さく、少女の『声』が漏れた。
「…え?」
―!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
嬌声にも似た悲鳴がここに木霊し、それが甲高い苦痛の音となって男達の耳に突き刺さって。
燃え上がる火柱、『モノ』の焼ける匂い…
…そう地面へと衝突した衝撃で、放たれた黒炎が凄まじい火柱を生み出しながら弾け…運悪く…『本当に』、運悪くその場に居た少女を飲み込んで燃え上がったのだ。
『なっ!?…ヒ、ヒイラギ!?ヒイラギーッ!!』
「父様ぁぁぁぁあ!あづいぃ!も、燃えでるッ!燃えでるぅ!」
意識を一瞬離した隙に、何を間違ったのか巻き込まれてしまった自分の娘の状態が、憐造を更に囃し立てる。
…それもそのはず、何せ、自分を異形のモノへと変えてまで守ろうとした『娘』が、今自分の目の前で燃えているのだから。
外部へと向かって放出されている火柱の熱は『本物』で、その中で悲鳴を上げている娘の声が燃え上がる熱と混ざり合って苦痛の一途を辿っていることが、更に憐造の焦りを誘発するのか。
『な、何故消えん!?この炎は何故消えんのだ!『闇』よ!炎の中から娘を連れ出せ!何故だ!何故炎の中まで『闇』が行かない!!』
先ほどの態度を急転換させ、慌てふためきうろたえだした憐造。
己の持つ『異質』な『闇』を持ってしても、何故かその『闇』は命令を聞けず。娘への感情のみでこの『異変』を起こした存在であるが故に、何事よりも優先されるべきモノが娘なのだと、そう言わんばかりのその取り乱しようは既に彼の意識が決闘へと向いていないことを意味していて。
燃え上がる火柱を消す事も、火柱の中で苦しむ娘を救出することも出来ない焦りだけが彼を追い詰め始めていた。
『け、消せ!今すぐこの炎を消すんだ【黒翼】!』
「あぁ!?このガキが勝手に邪魔くせぇ所にいたからだろうが!クソガキが!邪魔した罰だ!」
そして、全く悪びれる様子もなく、そして慌てる様子もなく。戦いを邪魔されたからなのだろうか、ただ怒りの篭った口調と感情のみで言葉を発しているかのような鷹峰。
まさか人一人を燃やしてしまったというにも関わらず、己の戦いが第一なのだと言うその態度は…とてもまともな人間から発せられる言葉とは思えず、この男が改めて【化物】なのだと、その異常性を明らかにしているしか思えないことだろう。
…そんな鷹峰は、さも興冷めだと言わんばかりに、とてもつまらなさそうにして口を開いて。
「…それにこんな燃えてんじゃあ…もう助からねぇよ。」
『なッ!?ふざけたことを言うなぁぁぁぁ!』
その原因を作ったにも関わらず、怯むことなく火柱の前に立った鷹の目が見据えた状況は…残酷にも、燃え盛る火の勢いから感じた感想を、淡々と述べるのみ。
発狂にも似た憐造の叫びを意に介さず。
何よりも優先されるべき娘が、こうもはっきりと助からないと言われてしまえば、その怒りの矛先がどこへ向かうか分からないというのに。そうして、鷹峰は手札から一枚のカードを取ると…ゆっくりとソレをデュエルディスクに向かわせ始めて…
「どうせ、もう助からねぇんだったらよ…」
「なっ、ま、まさか先生!?」
「やめろ!やめるんだ鷹峰!」
弟子と砺波の静止にさえ聞く耳を持たず…
「とっとと…楽にしてやんぜ!【黒炎弾】発動ぉぉぉぉお!」
―!
「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!」
声にならぬ悲鳴、悲鳴にもならぬ掠れ声…
2発分の黒炎の火柱が、その勢いを更に増して燃え上がり行くその中で…『鈍く』、そう、とても鈍く響いた、この『人間の声』。
『何か』が焼ける匂いと、人が消えていく苦しみが織り成すこの断末魔にも似た『音』が甲高く、そしてとても鈍く反響し…
『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!』
それに伴い、憤怒と焦燥を同時に孕んだ異質な声が火柱の轟きと共鳴し、一層このスタジアム内に…既に崩れて原型を留めていない、『スタジアムだった』この場所に響き渡り、悲鳴を掻き消してさらに響いて。
…そうして、天まで燃え上がった火柱が燃えつくして消えたとき…
…その場所には、『人が居たであろう焦げ跡』と、焦げた『黒い宝石』の付いた指輪だけを残して…
…誰も…居なくなっていた。
『あ…あぁ…』
「これで邪魔者は消えたぜ。おら立てよれんぞー。とっとと続きだ。やっと温まってきたところだってのによぉ…」
『あぁ…あ…あ…』
「…おいふざけんなよ?他の奴全部消そうとしてた癖に、自分のガキが消し飛んだからってなんだその態度は…」
『ヒイラギ…ヒイラギ…あ、あぁあ…』
「あん?何ぼさっとしてやがんだ!とっとと立てこのクソ野郎が!ガキ一匹消し飛んだぐれーで止めるなんざ認めねぇぞゴラァ!テメェコラれんぞー!とっとと続きだ!こんな中途半端で終われるかってんだテメェ!ふざけんなってんだよ!」
たった今一人の少女を消し飛ばした鷹峰と、自分の全てであった娘を目の前で消し飛ばされた憐造の態度はまるで真逆で。
娘を失ったショックからか、憐造のその体もどこか透けて散り始めたようにも見え始めたのは錯覚ではないはず。
彼を支えていた、たった一つの感情の根幹が、たった今彼の目の前から消し飛ばされたのだ。それがどういう状況を生むのかは言うに及ばず、最早戦意など消失した様子で、ただ呆然とその場に崩れ落ちているだけ。
また、その状況を作った張本人である鷹峰は、人を一人消し飛ばしたというのに全く焦りもしなければ悪びれもせず。
途中だった戦いが、これほど鬩ぎ合った戦いが、こんな形で中断したことへの怒りしか面に出していないかのようであって。
…そうして、鷹峰がその苛立ちからか、憐造を決闘ではなく己の拳で直接殴りかかろうとした…
―その時だった。
「そこまでじゃ!全員動くな!」
突如スタジアム内…いや、既に天井も崩れ、壁も壊れ、スタジアムであった原型をとどめていないこの場所に響いた老人の声。
聞き間違えるはずもない、街の雑踏にすら掻き消されそうな声だというのに、やけにはっきりと聞こえてくるこの歴史すら感じるような声の主。
―綿貫 景虎
些か登場のタイミングが良すぎるとも思われるような【妖怪】の登場に際して、その姿を見た遊良と砺波は驚きを隠しきれない様子を見せているものの、鷹峰はさらに苛立ちを募らせて口を開くのみ。
「あぁ!?ジジイ、何しに来やがった!」
「煩い!貴様が今何をしでかしたのか!ワシにもわかっておるのじゃぞ!貴様もここで取り押さえる!入って来い!」
そして綿貫の命令と共に、それに連なって屈強な男たちが次々と中へと現れ始めて。
【決闘世界】の、実務部隊。
一説には、一国の軍隊ほどの戦力を持つといわれる超巨大決闘者育成機関【決闘世界】の私設部隊。一体どうして一つの育成機関がこんな暴力的な部隊を抱えているのか、それは決して開いてはいけない社会の闇であり、またこの場においてもそんなことは些細な問題であって。
「…綿貫さん…どうしてここへ…」
「浜臣や、失態じゃったの。お主ほどの男がまんまと利用されるとは…」
「…申し訳…ありません…」
「ふん、今はそれ所じゃないわい。…憐造、本当にコレを起こしたのがお前じゃったとは…残念じゃよ。」
『ヒイラギが…あぁぁ…』
「…無駄、か。感情の根幹が無くなった所為で、既に戦意は無い…取り押さえろ!」
綿貫の命令と同時に、男たちが憐造を取り囲み…そして、なにやら『特殊な器具』を持ってして、『闇』となって散り散りになって消えかけていた憐造の存在を、確かにこの場に押し固めて。
一体綿貫がどこから準備していたのか。そんなこと、誰も知ることなど出来るはずも無く…しかし、もしも彼がもっと早くこの場に来てくれていれば、先ほどの少女は消し飛ばされることもなかったのではないかと思えるほどに、その光景の衝撃はこの場にいる最年少である、遊良の心に深く印象付けられていて。
「おいこらまてクソどもが!こっちの勝負はまだ着いてな…」
「黙らんかこの小童が!大体、子供一人消し飛ばしておいてなんじゃその態度は!」
「あぁ!?知るかってんだよそんなこと!俺様の戦いを邪魔しやがって、歯がゆいったらありゃしねぇ!あぁクソ!不完全燃焼だってんだよ!帰るぜこんちくしょうが!」
「む、待て!待たんか鷹峰!」
また、苛立ちを全く隠すことなく。反省の色も見せずに豪語をやめない鷹峰。
あまりの苛立ちからなのだろうか、この場を立ち去り始めようと綿貫に背を向けて、その足を前へと進め始めて。
普通ならばありえない状況で、ありえない態度で立ち去るその姿は、立った今人間を一人、この世から消し飛ばしたとは思えぬような立ち振る舞いであり…
「せ、先生!ま、待ってくださ…」
「うるせぇ!俺様の指図すんじゃねぇよクソガキが!オラ、どけってんだよボケどもがぁ!」
―!
己の弟子の制止すら、全く持って聞く耳を持たず。
また、いかに屈強な男たちが集まっているとは言え、この怒りと苛立ちを纏った一匹の【化物】を取り押さえられるような精神の持ち主など、この場所以外にだって探しても見つかるはずがないのか。
そうして、鷹峰の歩の先に居た数人の男達を、その威圧のみで気絶させた鷹峰は…
―その場から、姿を消していった。
「…先生…どうして…」
見たくはなかった光景を、意図せず見せ付けられた弟子の心に傷跡を残して。
…そして、憐造の戦意が消失…いや、己の『全て』が喪失したことによるのだろうか。
天に向かって噴出していた『闇の塔』がいつの間にか…
その根元から、消えていた。
―…
そうして、街に溢れていた『雑兵』と実体化したモンスター達は、黒幕であった憐造の心が折れたためか人々に取り付いていた『闇』は全て消え去り…実体化したモンスターも、それに伴って姿を消していった。
また、【決闘世界】の実務部隊の介入によって、避難していた人々は全員救助され、怪我をして街で倒れていた住人たちも救出され…
デュエルによって倒されて気を失っていた元『雑兵』達も、【決闘世界】の指示の元に色々な病院へと搬送され、壊れた街の復旧も迅速に対応すると報告がなされていて。
またその調べによると、これだけの被害と混乱があったにも関わらず、この『異変』における怪我人は多数いても、死者までは確認されていないのだという。
それは敵が『兵』を増やすためだったのか、デュエルで負けて大怪我を追っても、その後『闇』が取り付いた瞬間にある程度動けるまではその怪我を『闇』が補修したらしく…
また、『雑兵』が狙ったのはあくまで『逃げる人間』か『戦意のあるデュエリスト』だけだったことが幸いしたのか、気を失っていた怪我人たちは追撃を受けることなく救助されたためと思われる。
決闘市に残した爪あとは大きく、街が完全なる復旧を遂げるにはまだしばらくかかるだろうが…それでも、表向きに『犠牲者』が出なかったという報告は、この街の人々からすれば安堵しかないころだろう。
怪我はいずれ癒える。そして『闇』に飲まれていた人々も、その大元である『黒幕』の悪意と復讐心が途切れてしまった今、眼を覚ますまでにはそう時間はかからないはず。
【決闘世界】が中心となって進められる復旧活動も迅速で、新年度を向かえる頃には普段の生活が送れるようにまで回復する見込みだという。
…そうして、新年早々に起こったこの壮絶なる『異変』は、【決闘世界】と連携した国による、迅速なる救助活動も功を奏し、たったの一日と言う短い期間で終焉を迎えた。
…報告には上がらぬ、『たった一人の犠牲者』を除いて。
―…
次回、「真実の解章」
明日、更新です。