遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
―『いやぁ、焦った焦った。まさか堕天使使ってくるなんてさ。ちょっと予想外だったよ。』
―『ケケッ、負けてノコノコ帰ってきやがって。俺様だったら有無を言わさずぶっ殺してたぜ。』
―『ダメよ。それはアタシ達がやることじゃないんだもの。』
―『そうそう。僕たちのやることはひとまずここまで。暫くは彼の物語を楽しむことにしよう。』
―『御意。全ては彼の方の御心のままに。』
―『オメー、固っくるしーんだよ。あっち行け。』
―『…御意。』
―『こらこら。みんな仲良くしなきゃダメじゃないか。フフッ。楽しみだね。彼が今後、どういう風に進むのか。』
―……
「はぁ…はぁ…」
爆風が晴れ、ソリッドヴィジョンが徐々に消えていく。しかし、さっきまでそこに立っていたはずの男の姿もいつの間にか消えていた。
「…どこいきやがったあいつ…鷹矢!ルキ!」
鷹矢とルキを掴んでいた影のような腕も徐々に薄くなり、力なく垂れてくる。そして、拘束が解かれて二人はゆっくり地面に足をつけた。
「遊良!無事か!?」
「…それは俺の台詞だっての…」
「遊良!何で逃げなかったの!あんな危ないことして!」
「…だから…なんでそれをお前らが言う…」
自分達の方が危ない目にあったというのに、いの一番に遊良の心配をするあたり、やはり幼馴染。遊良と考えることが一緒であるようだ。
二人にも怪我はなさそうだ。そう感じ、そこで遊良はホッと一息ついた。
「…よかった…無事で…」
息も絶え絶えに、二人の無事を喜ぶ遊良。今のデュエルはやけに疲れた。二人の生死を賭けた絶対に負けられない決闘。そして謎の声から得た力。今日は一度に色々な事が起こりすぎた。
「…ゆ、遊良?本当に大丈夫?」
「おい、お前顔色が…」
「だい…じょー…ぶ…だって…」
そう強がってはみるものの、不意に遊良の体から力が抜けた。体がフワッと中に浮いていく感じがして気持ちが悪く、意識も遠くなる。
(…あ、これ…やばい…)
そんなことを思った瞬間、遊良の意識はそこで途絶えた。幼馴染達の叫びを、やけに遠くに感じながら。
―…
「なんで捨てた?」
聞こえてくるのは自分の声。ただし怨嗟の篭った、くぐもった声。
「折角、EXデッキがつかえるようになるって分かったのに。お前、あんなに渇望してたのに。」
僅かに残る、EXデッキへの羨望。決心したとはいえ、今の今まで憧れてきたもの全てをすぐに捨てきれるはずもない、という自分の残心。
「出来損ないって言ってきた奴らを、見返すチャンスだったじゃねーか。それなのに、これからはもう絶対にEXデッキが使えなくなるなんて。鷹矢もルキも、自分なんて良いから逃げろって言ってただろ。きっと逃げても二人は恨まなかったのに。…それなのにお前はあの場で勝つためだけに、今まで持ってた希望全部を捨てたんだ。」
聞いていて、段々と苦しくなる。確かにあった、自分のもう一つの心。もしこいつが、あの場で勝っていたら、今頃鷹矢とルキを置いて、一目散に逃げていたことだろう。
「どうしてくれる。お前のせいで、俺は…」
そして、次々と溢れてくる後悔の念。あの時の自分の決心を、一番諦め切れていないのは、きっと自分自身なのだ。しかし、それでも…
「逃げられなかった。あそこで二人を見捨てていたら、きっとこれからデュエルなんて出来やしない。」
きっと今、この時以上の後悔の渦が自分を襲っただろう。それに、たとえ逃げ延びたって自分で命を絶っていたかもしれない。
「後悔はある。それでも、決めたんだ。」
きっと、自分がこれから歩む道は決して楽ではない。皆が持っている当たり前を、持っていない自分に対して手を差し伸べてくれるほど、世界は優しくできていない。
「いつか。きっと。俺にもEXが使えるようになる。そうしたら皆も認めてくれる。…そう願ってきたよな?…俺は、ずっとそうやって我慢してきたよな?なのにお前…」
「もう、認めてもらうのを待つのはやめる…これからは、認めさせてやるんだ。」
それなら、自分から動いてやる。認めてもらうのを待つんじゃない、無理やりにでも認めさせてやる。自分を否定する世界に、自分の力で認めさせてやる。そう、強く誓った。
―…
「…う…」
見慣れた天井が視界に入り、遊良は目を覚ました。どうやら自宅の部屋らしい。気を失った自分を鷹矢が運んだのだろう。
部屋の中に電気が付いているが、窓の外の暗さから、もういい時間なのが見てわかった。
ベットの横では待っている間に力尽きたのだろう、ルキがベットに突っ伏して寝息を立てていた。薄っすらと涙の痕が付いている。
(そっか、俺あの後気を失って…)
ルキを起こさないようにベットから出て、背中にタオルケットを被せてやる。こうやって自分を心配してくれたのは嬉しいが、季節はまだ春の初め、これで風邪でも引かれたら寝覚めが悪い。
それに、元々泊まっていく予定だったのだからこのまま寝かせておいてやろう、と、静かに遊良はそのまま部屋から出て階段を降りていく。
そして、降りて直ぐにあるリビングの扉を開けた。
「あ。」
「む?」
するとそこでは、鷹矢がちょうどカップラーメンを啜っているところだった。あまりにいつも通りの鷹矢の姿に、思わず拍子抜けした遊良だったが、そんな鷹矢を見て半ば呆れた声で言う。
「こんな時間にカップメンか?太るぞ。」
「食ったものは全て筋肉に変わるから問題ない。」
冗談交じりに、いつもと変わらない言葉を交わす遊良と鷹矢。
『あんなこと』があったばかりだと言うのに、よく飯が食えるものだと思ってしまう遊良だが、三代欲求の一つ、食欲を相手にした鷹矢にはそんな事など関係なかったのだろう。彼は何の悪びれもなく言い放った。
「流石に腹が減った。お前は倒れるし、ルキはお前の傍から離れなかったからな。誰が俺の飯を作ってくれるというのだ。」
「…お前は相変わらずだよ。そういえばルキが泣いてたみたいだけど、あいつは随分心配してくれたみたいだな。」
「あの後は酷かったぞ。特にルキがお前にしがみついて泣きじゃくっていた。『死んじゃいやー』って具合でな。正直煩かった。」
「おい、お前は心配しなかったのか?…薄情なやつだな。」
「遊良、もう起きて大丈夫なのか?」
「おせーよ!本当に薄情だお前は!」
そういうものの、遊良には鷹矢のそれが冗談だという事は分かっている。言葉だけ聞くと薄情にも思えるものの、付き合いが長いからこそ、微妙なニュアンスすら理解できるのだから。
あまり感情を出さないものだから誤解されることもある鷹矢だが、そのあたりの理解は流石幼馴染だ。伊達じゃない。
「んで鷹矢、お前は何ともないのか?」
「ああ。問題ない。」
「そういえば、お前のデッキ勝手に使われてたぞ。ちゃんと戻ってきたか?」
「やはりか。あの男のモンスターが妙に見慣れた奴らと思ったら。…まぁ問題ない。あの男の立っていた所に奴のディスクも落ちていたがデッキも無事だった。」
鷹矢とルキもあんな目にあった後なのだ。怪我の一つもあってもおかしくなかったのだが、本人が問題ないというのならば一安心だろう。デッキもしっかり戻ってきたというのなら、とりあえずはこちらに被害もない。
そしてもう一啜り、鷹矢がカップラーメンを食べた所で、本題に入ったように鷹矢が口を開いた。
「しかし遊良よ、お前、いつの間にあんな【堕天使】なんてカード手に入れたんだ?凄いカードだったが。」
「…あぁ、そのことなんだけどさ。俺のデッキは?」
「そこの棚に置いてある。全部閉まってきたはずだ。」
そういって、鷹矢の指差した先にある棚の上から、遊良は自分のデュエルディスクを取る。そして、簡単なボタン操作をしてデッキホルダーから自らのデッキを取り出すと、一枚一枚を確認するかのようにして机の上に並べ始めた。
もちろん、鷹矢のカップラーメンが飛ばないように少し離れてだが。
「何故デッキを並べているんだ?」
「……俺もこのデッキの中身がどうなってのか、全然わからないからだよ。」
「…どういうことだ。まるで意味がわからん。」
頭にハテナマークが2つほど浮かんでいる鷹矢だが、その問いはもっともな質問だ。
基本的に、デュエリストは自分で作ったデッキの中身は常に把握している。そんなことは当たり前で、デュエルディスクがExのモンスターを創造するのと違い、メインデッキの中身がわからない状態でデュエルをすることなど通常ありえない。
それにデッキごとに戦略も違うし、そもそもデッキを把握しなければ戦略もへったくれもない。自分が知らないデッキを使うことなど、ほとんどのデュエリストはしないだろう。先ほど戦ったあの男は例外だ。
「それがさ…」
そうして、遊良はあの時のことを話し始めた。朝から感じていた違和感、得体の知れない男との決闘の最中に起きた謎の声と、真っ暗な空間での出来事。
到底、常識では信じられることなど出来ない話だったが、鷹矢は一言も口を挟まず遊良の話を聞いていた。一言も聞き逃さないようにだろう。そして、デッキを整理しながら並び終えたのと同時に遊良の話も終わり、同時に鷹矢が口を開いた。
「なるほどな。うむ、全くわからん。」
「だろうな。俺もわからん。」
予想通りの反応だ。そもそも遊良自身がよく分かっていないことを、鷹矢に理解しろと言うほうが無理がある。
「けど良かったのか?お前、ずっとExデッキを使いたかったのだろう?」
「へ?」
そんな時、鷹矢の問いかけに変な声を漏らしてしまった遊良。まさか、鷹矢がこんな確信を突いてくるとは思わなかったためだ。
何せここ数年はExデッキへの羨望よりも、いかにExモンスターを倒すかを考えて、そして心の奥底に隠したまま忘れていた感情だったから。あの謎の男との決闘で、思わず溢れ出てきた感情だったとはいえ、遊良でさえ忘れかけてたモノを、鷹矢が自分よりも理解しているとは。
「お前…なんで…」
「む?そんなもの、別に見ていればわかる。」
まるで、当たり前のことを当たり前のように。遥か昔から常に一緒にいたのだから、そんな事分かって当然だと言いたげな表情をした鷹矢は、今更何を言っているのだと、その表情で遊良に伝えている。
それを見る遊良もまた、やはりコイツは長年連れ添った相棒なのだと、心の奥底に感じていた。
無論、2人とも照れくさいのか、そんな事など口が裂けても言わないが。
「…なんかむかつく。鷹矢の癖に。」
「なんだと?遊良の癖に。…フッ。」
「ハハッ…」
思わず笑いがこぼれる2人。やはり、笑いは不安を取り除く一番の薬だ、その声に張り詰めていた気も緩み、遊良も肩の力も抜けた気がした。
そして、安心したような声に変わり、話を続ける遊良。
「まぁ、別にいいよ。…使えなくなったって死ぬわけじゃない。」
「…ふむ。」
遊良の絶望から今に到るまでの全てを知る鷹矢にしても、遊良がExを未来永劫失ったことに関して、無関心ではいられない。
誰よりも近くで遊良の絶望を見てきた鷹矢だ、過去どれほど遊良が渇望していたのかは簡単に思い出せる。自暴自棄になって命すら捨ててしまいかねないこともあったのだから。その時のことを鮮明に、今でも覚えているのだろう。
だが、そんな遊良が本心から「別にいい」と言っているのだ。自分がこれ以上何か言っても、それは遊良の覚悟を否定することになる。ならばもう言葉は必要もないだろう。そう鷹矢は思った。
「まぁ、お前が良いなら良い。しかし、随分デッキの枚数が多くなったな。」
「ああ。元々40枚丁度でデッキを組んだはずなのに、今はリミットギリギリの60枚だ。単純計算でも20枚は増えたことになる。しかも、なくなったカードも何枚かあるみたいだ。」
そう言う遊良の言葉は、新たなカードを得た歓喜の声ではない。むしろ、神妙な面持ちで、苦く残念そうな声が近いかもしれない。
カードが増えただけならまだ良かったが、今ざっと見ただけでも遊良のデッキの中身は、今朝の物とほぼ別物に変わっていた。それは、あの声が与えた力が、Exデッキに作用したのではなく、メインデッキに作用したことによるものだろう。新しくカードが精製され、それに伴って遊良がデッキ調整でよく入れ替えていたデッキパーツなどは消えてしまっていた。
好んで常に使っていたカードがそのままだったのは、せめてもの幸いか。
「…【シャドール】パーツに、【カイザーシースネーク】…うわ、【銀河眼の光子竜】もない。…手に入れるの苦労したのに。」
「探すのに散々つき合わされたというのにな。しかし、【堕天使イシュタム】に【堕天使マスティマ】か。お前が元々持っていた【堕天使】と違い、こんなカードは見たことが無い。」
「俺もだ。」
極稀に、デュエル中にEXデッキに見知らぬカードが精製されることはある。それは既存のカードである場合もあるし、極々稀ではあるが、誰も見たことのない全く新しいカードであることも。
そうでなくても、膨大なカードが溢れているこの世界では、自分が知らないだけと言うカードが多々ある。知識は力とはよく言ったもの、自分の勉強不足で負けました、なんてことはプロでは通用せず、そんな事が無いように決闘学園なんてものがあるくらいなのだから。
「けどまぁ、そんなことはいい。問題は…」
むしろ、自分しか知らないカードを持っているということは逆に、他のデュエリストの不意をつけるという意味では有利かもしれない。
遊良にデュエルの基礎を叩き込んでくれた人物も、相手の裏をかけと、口うるさく言っていた。それに、不正なカードならばディスク自体が反応しない。決闘の最中にディスクが反応したという事は、この堕天使達は問題ないということで大丈夫だろう。
むしろ、今問題なのはそういうことでは無いのだから。
「うむ。このままではこのデッキは使えないということだな。」
「流石にデッキ枚数も多いし、ごちゃ混ぜすぎて回らないだろうな。あの時は丁度ドローしたときに偶然良いカードが引けたから良かったけど…。」
あの男との決闘でも、あんな土壇場でデッキ枚数が増大したというのに、よくもまぁあんなに回ってくれた物だ。今の感じではざっと見ても、事故率が今までの比ではない。このデッキの内容ではシナジーの無いカードが多すぎて満足に回ってくれないことは確実だ。
「一からデッキを組み直すしかないだろうな。折角手に入れたんだ、このまま【堕天使】で行くのだろう?」
「あぁ。取りあえず効果の把握からだな。あと相性のいいカードを考えないと。鷹矢、お前確か【闇の誘惑】余ってただろ?」
「うむ。」
「俺2枚しか持ってないんだ。1枚くれ。」
「わかった。」
遊良の要望に、鷹矢はリビングを出て自室に向かって階段を上っていった。こういう時に何も聞かずに行動に移してくれるところは流石幼馴染。余計なことを言わなくてもいいのは単純に楽だ。逆もしかりなので特に感謝も感じなくていいところも含め。
そして、遊良も広げていたカードを【堕天使】とそうでないカードに分け、そして一つ一つの効果を確認しようとカードのテキスト欄を見る。
「…あれ?」
しかし、テキストを見た瞬間に何やら違和感を感じた。書いてあるテキストを最後まで読まなくても、全ての効果が頭の中で思い浮かぶ。まるで、今までのデッキのように使い慣れた感覚、カードを見ただけでその効果が瞬時に理解できていた。
「…だからあの時の決闘でもすぐに使いこなせてたのか。普通ありえないよな、初めて見るカードを即使うなんて。」
これもあの謎の声から得た力によるものなのだろうか。まぁ、微かな希望だったExデッキをすっぱり切り捨てたのだから、これくらいのことはあっても良いだろう。それにこれなら手間も省ける。そもそも理解の範疇を超えたことが今日一日で立て続けに起こったものだから、今更こんなことに一々驚きもしなくなるというものだ。
「まぁいいか。じゃあ直ぐにでもデッキを組もう。えっと…」
そして、今まで使っていたデッキの中から、相性のいいカードを取り出して、構築を考える遊良。幸い、今まで使っていたデッキパーツとの相性は意外と悪くなく、ドローを多様していく戦術もあまり変えずに済みそうだ。
「この堕天使イシュタムが結構いいな。【堕天使】専用の【トレード・イン】になるからドローソースが単純に増えた。」
そうして、遊良は自身のデッキを新たに構築していくが、その途中でふと、今まで使っていたモンスター達が目に留まった。
子供の頃から使っている、Exデッキのモンスターではない、ただの効果モンスター達。しかし、遊良にとって絶望していた時期から共に戦ってきた仲間。今までのデッキの中核となっていたモンスターは、謎の力によるデッキ改変の影響を受けずに残っていてくれていた。
そして、その中でも特に思い入れの強い【神獣王バルバロス】を手に取る。多分、ほとんどのデュエルで場に出ていて、フィニッシャーとして活躍してくれた感慨深いモンスター。
最初から今までの、遊良のフェイバリット。
「…ごめんな。今までサンキュ。」
呟く程度ではあったが、自分を支えてくれた仲間に感謝の意を表す。別に、もう使わない、というわけではないが、これからのメインデッキが変わる以上、出番が減ってしまうことに対して、若干の罪悪感が過ぎった。
「…でも、全部捨てたんだ。これからはもう負けられない。絶対に。」
そう強く心に誓った。
―
天城遊良は落ちこぼれだ。しかし、最初からそうであったわけではない。そして、これからも…
―…