遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
「さてと…、あとは何を入れるか…」
鷹矢がカードを取りにいったのを見て、遊良はデッキ構築に戻る。早くデッキを完成させなければいけないのだ、なにせデッキがなくなったのだから、明日からデュエル出来ませんでは何のために力を得たというのか。このままでは話しにならない。
―ドタドタドタ!
そんな矢先、勢いよく階段を駆け下りてくる足音が響いた。たった今二階に上がって行ったばかりの鷹矢出ないことは確か。それに鷹矢はこんなに急いで降りてくることはないだろう。
とすれば、遊良の頭に浮かぶ人物の顔は一人しかいない。
ー!
「遊良!ねぇ起きてたの!?体は!?なんとも無いの!?ねぇってば!」
「…おはよう。」
「おはようじゃないよ!…人がどれだけ心配したと思って…」
「悪い悪い。でも、もう大丈夫だ。」
案の定、ルキが眼を覚まして降りてきたところだった。勢いよく音を立ててリビングの扉を開けたと思うと、起きたばかりだと言うのにルキは大声を上げて遊良を問い詰め始める。
そんなルキの心配をよそに、ヒラヒラと手を振りながら遊良は応えたものの、しかしあんな事があった後に急に倒れた遊良の姿が消えていれば驚きもするだろう。
泣くほど心配してくれたというのに、確かに悪いことをしたと感じる遊良。
「心配かけてゴメンな。」
「…もう…あ、遊良、それって…」
そんな時、不意にルキの視線がテーブルの上に並べられたカードに向いた。
それは、たった今デッキ構築に入った【堕天使】のカードであり、遊良がこれから使って行くことを決意した新たな仲間。黒き翼持つ、遊良の覚悟の証でもある。
「あの時使ったカード…だよね…?」
「あぁ。今後はこれをメインに使っていこうかと思ってさ。」
そして遊良は、鷹矢と話して決まった方針を淡々とルキへと告げる。そのためのデッキを今必死になって構築しているのだが、しかし言われたルキの顔はやや暗くなり、顔をうつむかせ始めた。
何か思うところがあるのだろう。胸の内を開ける前の、考えと言葉を整理する時のルキの癖だ。
「…」
「ルキ?」
しかし、これはまさかルキの地雷を踏んだか…そんな予感が遊良の頭をよぎったが、もう時すでに遅しといったところで。
意を決したようにしてルキは顔を上げると、やや涙目になりながらも遊良に向きなおして、そして言う。
「…嫌だ。」
「へ?」
「嫌だって言ったの!遊良こんなカード持ってなかったじゃん!何か変なこと起きるし、何か死にかけるし、遊良は知らないカード使い始めるし!」
そうして、捲くし立てるように反対するルキ。
確かに、説明も無しにいきなり得体の知れないカードを使うといわれれば、それは確かに不思議に思うことだろう。遊良がどんな思いで今までのデッキを組んでいたのかをよく知るルキなのだ、それを捨てて違うカードを使うことに違和感を感じても仕方ない。
そうでなくても「あんな目」にあったものだから、余計なことなど聞かずに、単純に賛成をした鷹矢と違って「はいそうですか」とは行かない。
そしてルキは不安げな声で、最後に呟く。目に溜まってきている涙が、溢れそうになる寸前で。
「…何か…怖いよ…」
「…あー…その、さ…えっと…悪い。」
泣く…とまではいかないが、それでもこれは本気で不安がっているのだと、遊良とて嫌でも感じる。この堕天使のことは、あまり他人には言いたい話ではないが、ルキには隠しておきたいわけでもない。きっと、今後この話も当事者であった二人以外には話さないだろうと遊良とて考えている。
それに、ルキの不安な気持ちも痛いほど理解できるのだ、過去のこともあり、遊良が傷つくことを恐れている節があるルキにだからこそ、その不安を取り除いてやるためにも、誤魔化すことなく話しておかなければ…と。
「ちゃんと話すよ。」
そして、鷹矢にした説明と同じことを、再び説明し始めた遊良。
その話を、ルキはしっかりと黙って聞いていたのだが、その顔は疑ってはいても、しかしその目で見て、その体で体験した事でもあるのだから、信じていないわけではなさそうだ。
なにせ、本気で握り潰されそうになった時の感触は、ルキも覚えているのだから。
「…ってことでさ。まぁ信じられる話じゃないだろうけど。」
「…それって、私を誤魔化すためについてる嘘…じゃないね。それくらいわかるよ。」
「あぁ。本当だ。」
「あんな目に遭わなかったら、ちょっとすぐには信じられなかったかも。…それに信じないと飲み込めないし。でも…」
さすが付き合いが長いだけあって、こんな話でも冗談だと切り捨てずに聞いてくれる。しかし、ルキの反応にはイマイチ引っかかりがあるようにも見えた。当然ながら、鷹矢とルキは考え方も違う。
きっとルキにはルキの…鷹矢とは思うところも違うのだろう。
「どうした?」
「…えっと…」
「いいよ。言いたいことがあるなら言えばいい。」
「遊良……状況が状況でもさ…何で迷い無くEx適正捨てちゃったの?…だってあんなに…」
そして心苦しい様子でルキが言った。いくら自分達を救うためとはいえ、過去にあれほど絶望した遊良を近くで見てきたルキに今回のことは罪悪感が残るのだろう。
しかし、それでも遊良にとって終わった話だ。後悔はまだ残っても、今更取り消しも出来ないし、取り消す気もさらさら無い。
文字通り、身を削って得た代償…それに反することは、今新たに得た堕天使達にも背くことに違いない。
「気にするなって。自分で決めたことだから。ルキが気に病む必要はないさ。」
「…でも」
「いいんだ。」
強めの口調で、はっきりと言い張る遊良。ここではっきり言っておかないと、ルキは際限なく気にするだろう。遊良自身が誰のせいとも思っていなのに、ルキが罪悪感にかられるのもいい気はしない。
それに、幼馴染の2人を助けるために決めたことが、悪いわけないのだから。
「大体鷹矢の奴は気にも留めなかったんだぜ?大体俺が倒れたってのに、心配すらしないってあの野郎。」
「え?そんなことないよ?遊良が倒れたときに鷹矢…」
―ガチャッ!
「おい、持ってきてやったぞ。む?ルキ、起きたのか。」
そんな時、ガチャッと、わざわざ大きく音を立て話の腰を折るかのようにリビングに戻ってきた鷹矢。まるで外で話を聞いていて、タイミングを見計らったかのようだったが…なるほど、そこは深く触れられたくないのだろうか。
あまりに都合よく入ってきた鷹矢のことは自然に流し、そのまま遊良は会話を続けた。
「サンキュ鷹矢。あー、ルキがさ…俺がEx適正捨てたこと気にしちゃってさ。」
「うむ、遊良が自分で決めたことだ。俺たちが口を出すことではない。」
「でも、私達のせいでもあるんだよ?」
「関係ない。俺たちは逃げろと言ったのに、留まったのは遊良だ。」
「…俺が逃げてたらお前たち死んでたらしいけどな。」
「む!?そうだったのか!?よく留まった!偉いぞ遊良!」
「いやお前も聞いてただろ。」
「…はぁ、ほんとおバカだよね鷹矢。」
しかし下手な励まし方だ。昔からこいつは空気を読んでいるのかいないのかよくわからない。そう感じるものの、ただ今はそれが功をなしたのか徐々にルキの声のトーンもいつもの物に戻っていく。やはりルキは明るくなくては調子が狂う、だから今はこれで良いのだろうと、怪我のなさそうな幼馴染2人を見て、そう遊良は思った。
―…
話しが一段落し、カードを一旦閉まう遊良。そして再び腹が減ったといい始めた鷹矢は再び新しいカップラーメンを食べ始め、遊良とルキはコーヒーを飲んで歓談し始めた。
やっと一息つけて、彼らも少しは心が落ち着いた様子で。
「大体鷹矢はさ、遊良が学校で色々言われているのに何とも思わないわけ?」
「む…色々?」
「ほら、俺が雑魚だとか何だとかっていつも誰かが言ってるだろ。」
そうしてルキが言ったそれは、初等部の頃から散々言われてきたことだったが、流石に、初等部、中等部を同じ学校に通っていた同学年で、今現在の遊良を雑魚呼ばわりする者は少ない。
ー突っかかってきた生徒は返り討ちに遭うのを知っているからだ。
しかし年代が変われば必ず遊良を標的にする者がいるのも事実。学年が違えば直ぐに標的にしてくるし、同学年でも面識が無ければ行動に移す。
馬鹿にするのを辞める生徒よりも、馬鹿にし始める生徒の方が多いのだ。それを知ってでも、なお鷹矢は言う。
「あぁ、そのことか。全く思わないな。何を今更。」
「何で?ああいう事言ってる人なんかより絶対遊良のほうが強いじゃん!私はそれが許せないの!」
「言いたい奴には言わせておけ。どうせ、勝負を挑んできたところで遊良には勝てん。それに、これは遊良自身がどうにかする問題だ。」
「でも…」
遊良が自分から行動を起こさない為に、ルキも今まで言われ放題だったのを我慢してきた。しかし、今朝遊良に挑んできた男子生徒に口を挟みそうになっていたところを見ると、流石にもう限界らしい。
自分のかわりにこんなに怒ってくれているのは良いが、そんなルキも流石に可哀想だ。そう思い、遊良はルキに言った。それは、重い腰をやっと挙げたかのように。
「確かにな。これは俺の問題だ。だから、これからは俺からも行動を起こそうと思う。」
「…行動?一体何する気なの?」
「馬鹿にする奴は倒す。負けを認めない奴も倒す。今までは『いつかExデッキが使えるようになる』って期待もあったから放っておいたけど、これからは違う。だったらもう、今の俺のことは否定させない。」
「ちょ、それって…」
唐突に言い放つ遊良のそれは、ある意味ルキが一番聞きたかった言葉でもあった。今まで言われるがままだった遊良が、やっと行動を起こそうというのだ。
しかし、そんな遊良の決意に対してルキの表情は優れないまま。
それに反して、鷹矢は表情を変えずにただカップラーメンを一啜りするだけ。そして、ひとしきり咀嚼を終えると、興味無いといった声色で、鷹矢は言う。
「…そうか。まぁ俺はお前がそのつもりなのだったら止めはせん。好きなようにやればいい。」
「ちょっと、鷹矢はそれでいいの?遊良が不良の喧嘩みたいなことして。それじゃあ何時まで戦えばいいか…」
「大丈夫だ、問題ない。」
「むぅー…」
頬を膨らませて納得していない様子のルキ。鷹矢が簡単に「大丈夫」というのが気に入らないのだろう。
大丈夫だとはっきり断言する鷹矢とは逆に、こういう場合ルキは反対の意を示すことが多い。単純に遊良のことが心配なのだろう。過去の事件のこともあって、ルキは遊良が傷つくことに対して過剰に反応してしまうことがある。
しかし、鷹矢は遊良の行動にほぼ反対はしない。赤ん坊の頃からの付き合いだけあって、下手に会話を挟まなくてもいい。そして今も、遊良がなぜこんな無謀とも取れる行動を起こそうとしているのか、それをなんとなく理解しているのだろう。
鷹矢は、下手な言葉は要らないと言った様子で…
「遊良、とりあえず説明してやれ。何か考えがあってのことなんだろう?」
「あぁ。まぁ、考えっていうかさ…ルキ、とりあえず心配するなって。いつまでもって訳じゃないし、とりあえず目標はあるからさ。」
「目標って?」
「夏休み明けにさ、学年対抗戦やるだろ?」
「え?…あ、うん。年末の「決闘祭」の為の選抜でしょ?」
「俺はそれに出る。」
「…え?」
そうして、遊良が提案した目標。それは、東西南北、4つある決闘学園が合同開催する決闘市における一大イベント、「決闘祭」と呼ばれる祭典。
各学園の代表3名、計12名が争い、その年の頂点となる学園、ひいては4つの決闘学園の中で一番強い決闘者の唯一人を決める戦いでもある。
「まずは学年対抗戦で勝って学年代表になる。んで今度は学校代表になる。最後に「決闘祭」で優勝する。そうすりゃ誰も文句は言えなくなるだろ。」
「…本気?」
「あぁ。」
しかし簡単に「決闘祭」で優勝すると言い放った遊良だったが、確実な優勝があるわけなく、各校も相当の手錬れを送り出してくるだろう。
いや、実力自体は申し分ない。周囲の評価を置いておいても、遊良の単純な実力だけで見れば確かに優勝が非現実的でないことも確かなのだ。それを理解しても、ルキには大手を振って賛成することが出来ない様子を見せる。
ほとんどの場合決闘祭に選ばれるメンバーは3年生が多い。それだけ3年生が出場に必死と言えるが、なぜなら多くのプロデュエリスト、そしてプロ関係者が関わる決闘祭の優勝は、そのままプロ入りの約束を取り付けたのにも等しい。中継も入る為、プロのタイトル戦と同じくらい、この街では一大イベントとなるのだから。
また、下級生が選ばれている場合も多少あるが、それはその選ばれた学生のレベルが高いということになる。なにせ学園代表なのだ、威信を賭けても弱い生徒など送り出さないことだろう。
だが、ルキが引っかかっているところはそこではない。むしろ、もっと根本的な部分。
「…先生達、遊良のこと出してくれるかなぁ?」
「まぁ多分ダメだろうな。今のままじゃ。」
そう、このままでは代表選抜以前に教師陣が遊良の参加を認めない。Ex適正が無いと有名な天城 遊良を出場させることは、決闘祭で笑いものになれと言われているようなものだと考えるからに他ならない。
そもそもいくら代表になれるだけの成績を取ったとしても、教師陣以前に、同じイースト校の生徒が認めないのだ。
ー自分達の代表が、自分達が見下しているあの「天城 遊良」だなんて。
「うむ。だからこそ、歯向かう生徒を全て倒して、無理やりにでも認めさせるということか。」
「あぁ。まずは1年生全員を有無を言わせない位にブッ倒しておきたい。そうすれば、とりあえず1年で文句言う奴は居なくなるだろ。それを教師が見たら、多分1年の代表選抜戦くらいには出してくれるんじゃないか?それに出られればこっちの物だ。学内の代表候補を全員ぶっ飛ばせば、俺を出さないわけにいかないだろ。」
「そんな上手くいくかなぁ…。」
「その一年の中には俺もいるけれどな。」
「鷹矢と当たったときには、その時にはその時だ。手加減しないからな。」
「こっちの台詞だ。」
勝手に盛り上がる男どもをよそに、冷ややかな目になるルキ。こういうとき、どうして男は簡単に考えてしまうのだろう。もっと懸念すべきものは多々あるだろうに。
「…なんか見立てが甘い気がするよ、もう。」
「邪魔する奴は全員倒す。今はそれでいいだろ。」
今までの遊良だったら、こんな現実離れした案は絶対に言わない。しかし、もう後に引く気は無いという遊良の目を見てしまっては、自分が何を言っても無駄なのだろうとルキは悟る。
「やっぱり遊良、鷹矢に似てきた気が…。はぁ…わかったよ。もう止めても無駄なんだね。」
これ以上自分が止めても、どうせ行動は起こすのだろう。本当にこの男どもは無茶ばかりする。昔からそうだ、それに救われたこともあるルキとはいえ、ここまで言って聞かないのだったら、好きにすればいい。そうルキは思った。
「でも、無茶はダメだよ?」
半ば呆れたように溜息をついてから、彼女はそれを渋々ながらも受け入れる。しかし、遊良が目指そうとしている場所は、普通よりも険しい道であることに変わりは無い。だからこそ、今までも、そしてこれからも彼女には心配が絶えないのだから。
「わかってるって。」
それを理解してなお、遊良は不敵に笑った。これから待つ戦いすら、まるで楽しみかのように。
―…