遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep59「閑話ー天城 遊良、前編」

その日、少年にとって世界の全てが敵となった。

 

たった一言告げられた医師の言葉。将来を明るいモノだと信じていた少年にはどうしてもソレが信じられなかったものの、『誰もが出来る事』をいくら試しても、何も起こらないという現実が少年へと無慈悲にも襲い掛かるだけで…

 

また、少年の『事実』を知った周囲の人間達は、それまでの少年のことなど簡単に忘れてしまったかのように突如としてその態度を変貌させ、瞬く間にその少年へと襲い掛かったのだ。

 

…才能の全てを無価値と決め付けた。

 

将来はプロ確実と勝手に盛り上がって、ただ勝手にもてはやしていた癖に…ソレが発覚した瞬間に、少年のことなどもう価値が無いものだと決め付けて離れていったこと。

 

…近づくことすら毛嫌いした。

 

荒唐無稽な噂話が一人歩きし、少年がまるで病原体かの如く人々は少年のことを避け始め…年齢の割に大人びていた、子ども達の中心に居た少年の周りから人々は離れていったこと。

 

―それが、どれだけ残酷なことなのか。

 

それすら考えることをせず、自分達の意思が世間の周知なのだと言わんばかりに寄って集って幼い少年を攻撃し、当たり前のことが『出来ない』という奇異の少年を、『自分達と違う』というただそれだけの理由で人々は少年には未来など無いと言う事を決め付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

―全ては、少年にEx適正が無かったという、ただそれだけのことで。

 

 

 

 

 

 

これは、確かにあった過去の話…

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

「おいゆうら!お前!Ex適正無かったんだってな!パパが言ってたそ!」

「うわっ、そんな奴いるのかよ!気持ちわりーな!人間じゃないんじゃねーの?」

「ママがゆうらには触るなって!Ex適正消えちゃうからって!」

「お前、Ex適正無いからパパとママに捨てられたんだってな!」

「ゆうらのざーこ!でっきそっこなーい!」

「生きてる意味無いってみんな言ってるぞ!早く死んじまえー!」

 

 

 

先日までは仲が良かったはずの幼等部生達から、容赦なく浴びせられる侮蔑の言葉。

 

それは大人達の振る舞いを、ただ真似しているだけではあるものの…人を見下すその快感に身を委ね、無自覚な悪意をそのままに、ついこの間まで憧れを向けていたはずの『強かった少年』をただ感情のままに寄って集って見下し蔑むその姿は、子どもとは言え決して許されるようなモノではないだろう。

 

 

それは、言葉を選べぬ子どもらしい振る舞い。しかし、子どもらしからぬ言葉の暴力。

 

 

先日まで皆の中心に居た、天城 遊良という『強かった少年』の事など既に忘れ去っているかのように振る舞うその態度。あまりに醜いその立ち振る舞いは、幼等部生という幼い歳にも関わらず、人の醜悪な部分を嬉々としてさらけ出しているかのよう。

 

その言葉が持つ暴力も理解出来ずに、その言葉の威力を考える事も出来ずに。無知な振る舞いをそのままに、深く傷付いている少年の傷口を、嬉々として更に深く抉ろうとしているだけ。

 

 

 

「ねぇ、あれって天城 遊良じゃない?ほら、ニュースでやってた…」

「確か親にも捨てらたんでしょ?だって自分の子どもにEx適正無かったらそりゃ嫌よね。私も絶対捨てるわ。」

「近づいたらEx適正が消えるって話じゃない…あんなのが決闘市にいるなんて本当に迷惑よね。何でまだ居るのかしら…」

「一人でウロウロして気持ち悪い…早く駆除してもらいたいわ。」

 

 

 

そして、ソレは子ども達だけではない。

 

自分達が『何』を言っているのかを理解出来るはずの大人達でさえ、わざと聞こえるようになのか、それとも意図せず漏れているからなのか。道行く大人達の全てが少年の姿を見ただけで口々に悪意を吐き出し、侮蔑の視線で少年を貫いて。

 

…Ex適正が無かったという宣告が、一体どこから漏れたのか。

 

病院の情報管理の甘さと間抜けさを嘆こうにも時既に遅く。孤独に苛まれている少年に対し、汚い大人の間接的な暴力が力の無い少年を食い物にするためだけに面白可笑しく伝えられているというこの現状。

 

真実を伝える事を謳っているメディアにはまるで見当外れで根も葉もない、事実無根で虚偽に溢れた報道を決闘市中に、そして世界中に勝手に発信されてしまっていて…ソレを信じた世間から直接的な暴力を受けてしまっているということは、絶対にあってはならない事だというのにも関わらず、今のこの決闘市においては少年に『不憫』や『可哀想』などと言った感情を持ち合わせているモノなど居はしないのか。

 

 

 

「Ex適正無い癖に生きてんじゃねーよ!」

「死ね!この出来損ない!死ね!死ね!」

「何でお前生きてんだよ!さっさと死んじまえこのクズ!」

「決闘市からさっさと出ていけ!どうせ親にも捨てられたんだろ!」

 

 

 

住み慣れたはずの決闘市は、街を歩いただけで『敵』だらけ。会うモノ、見るモノ、全てのモノが突如として『敵』へと変貌してしまったこの街は、少年にとっては一体どれほどの恐怖となっているのだろう。

 

…日に日に強くなる侮蔑の嵐は、逃げても避けても隠れても抗えぬまさに地獄。

 

自分達とは違うという理由だけで、『ただ一人の異物』をここまで嫌悪し…たった一人の少年をゴミ同然のようにして痛めつけている今の街の姿は、誰の想像をも絶する地獄と化しているというのに、誰もがソレに気付こうとすらしていないのだ。

 

『あの宣告』を受けた後、突然居なくなりそのまま迎えにも来なくなった親を探して、幼いながらも数日もの間たった一人で家を出て必死に両親を探していただけだというのに…

 

絶望のままにふらつく足で、街を彷徨い歩いていただけの少年の事など、まるで汚物か害虫とでも思っているかのようなその視線は、とてもじゃないが深く傷付いている幼い少年へと向ける様なモノでは絶対に無いはず。

 

しかし、守ってくれるはずの両親すら居なくなってしまっては、少年を守る者など居らず。まるで汚らわしいモノを見る目で、同じ人間とは思えないような非道な言葉をたった一人の幼い子どもへとぶつけている今のこの街の現状は、まるで世界に唯一の『Ex適正』を持っていない天城 遊良など自分達と同じ人間としてすら見ていないかの様にしか感じられないことだろう。

 

 

―デュエリストの出来損ない、生きている価値が無い、親に捨てられた惨めな子ども。

 

 

下等で、劣種で、低レベルで底辺。そんなEx適正の無い少年など、自分達と同じ世界に住む資格など無い。まるでそう言わんばかりに侮蔑と侮辱に塗れた言葉の嵐は、誹謗中傷と罵詈雑言の津波となりて少年を簡単に飲み込んでしまっていて…

 

子ども達は皆こうした大人の真似事をし、そして子ども達の見本とならなければいけないはずの大人達がコレでは、遊良への批難の嵐が止むわけがない。

 

 

…それがどれだけ醜悪なことなのかも、大人達は考えることも出来ずに。

 

 

 

「店に入ってくるなこのクソガキが!」

「お前なんかに売る物なんてあるわけないだろ!とっとと消えろ!」

「おい!さっさとこのガキつまみ出せ!客が寄り付かなくなるだろ!」

 

 

 

また、決闘市内にある数多くの店の、そのどこもが遊良を受け入れようとはしれくれなかった。

 

『何』も…そう、生きていく上で必要不可欠な食べる物すら、どの店であっても売ろうとはしてくれなかったのだ。これまで母と訪れた時には友好的だったはずの通いなれた店であっても、店側は今の遊良の姿を見ただけで嫌悪の態度を表に出して…それは、到底モノを売る商売人の取っていいような態度ではなく。

 

 

追い出し、追い返し、摘み出し、弾き出し…

 

 

食事を作ってくれるはずの親が居なくなり、何も食べていない空腹に襲われ、一人孤独に落とされた幼い子どもをまるで病原菌かの如く忌諱して誰もが救いの手を差し伸べようとしようとはしなかったのだ。

 

 

 

―そして、ぶつけられるのは『言葉』だけではない。

 

 

 

 

 

「こっちに来るなよ出来損ない!気持ち悪ぃんだよ!」

「うわっ、こっち見たぞ!うわー、Ex適正消されちまうー!」

「じゃあ俺があのゴミ虫駆除してやるよぉ!おらぁ!」

 

 

―!

 

 

「…ぅ…」

 

 

 

夜の街を、力無くふらつきながら歩いていた遊良へと、無常にも投げつけられる石のつぶて。

 

それは夜の街に屯していたらしき素行の悪い若者達による、面白半分の直接的な暴力であり…次々にぶつけられる石の雨は、遊良の限界が近い体を容赦なく傷付け、それに呼応し若者達の下品な笑い声が更に大きくなっていって。

 

辛うじて小さな手で頭を庇っているとは言え、鈍い音が遊良の体中のあちこちから奏でられるとその箇所から痛みが傷となり、そこから血が出て更に痛みが増していく。

 

…別に、決闘市に居る全ての人間が暴力を振るうわけではない。

 

しかし、こういった素行の悪いモノも少なからず居るということが、決して許されるはずの無い直接的な暴力を黙認してしまっているのもまた事実なのだ。

 

そして…素行の悪い若者達は薄ら寒い笑みと共に遊良へと近づき始めると、狭い路地に遊良を追い詰めていき…下品に歪んだ笑いを収める事無く、怯えている遊良へと向かって口を開いた。

 

 

 

「へへっ、こりゃ良いサンドバックになるぜ。」

「あ…」

「いひひ…逃げんじゃねーぞ害虫野郎…おらぁ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「…あぐ…ぁ…」

「おらおらぁ!駆除だ駆除!」

「この害虫が!目障りなんだよこのゴミが!ゴミ野郎が!」

 

 

―!

 

 

直接的な暴力、子ども相手にいい年をした若者が寄って集って甚振るその下劣な光景。

 

 

 

「ふぐっ…や、やめ…げふっ…」

「うるせぇ!勝手に喋ってんじゃねーよ!おらおらおらぁ!」

 

 

 

顔を殴られ、腹を蹴られ…されるがままに抵抗も出来ず、幼い遊良は倒れた体を上から踏みつけられ続けて。

 

嘔吐と嗚咽が遊良の小さな口から漏れだすも、素行の悪い若者達はまるで遊良を痛めつけることをやめようとはせず。更に嬉々として暴行を続けるだけで…それは自分達の日々のストレス発散か、自分達よりも不幸な者を見つけた歓喜の狂喜なのか。

 

 

意味も無く、意味など持たず、意味など考えず。

 

 

ただ単に、それこそ無意味に暴力をぶつけているだけのようにも見えるソレは、まるでゲームでもしているかのように、憂さ晴らしをしている姿にも見えるだろう。

 

…また、理由も無く暴力を振るわれている遊良を、周囲を歩く他の大人達は誰も助けようとはしなかった。

 

狭い路地で行われる、あまりに非道なコレを見ても誰もが見てみぬ振りで無感情で…時には嘲笑混じりで見下しながら、鼻で笑って立ち去っていく。

 

それはまるで、この少年は暴力を振るわれて『当然』なのだと言わんばかりの醜悪な態度。Ex適正を持っていない方が悪いのだと、そう言いたげな醜い表情で、誰も遊良を助けようとはせずに立ち去っていくだけ。

 

 

 

「はっ、いい気味だぜ。Ex適正が無いとか生きてる意味ねーだろ。」

「テメェみてぇな害虫は目障りなんだよ、この出来損ない。」

「ペッ、さっさと死んじまえクズが。」

 

 

 

そして…

 

好き勝手に甚振ったことで、遊良が倒れて動かなくなったことに飽きたのか満足したのか。傷だらけになって蹲り、苦痛と恐怖と絶望に震えている遊良に対し…素行の悪い若者達は、倒れている遊良に唾を吐くと、下品な笑い声と共にその場を立ち去っていった。

 

 

 

 

「ぅ…ぁ…とー…さん…かーさん…」

 

 

 

 

悲痛に苛まれ、絶望に蝕まれ…姿を消した両親のことを思い浮かべる遊良の声は、声にもならない悲痛な声。

 

捨てられた、Ex適正が無かったから。そんな赤の他人の無責任な言葉など、遊良とて信じられるわけが無いとは言え…それでも確かに失踪してしまった両親の顔を思い浮かべると、幼さが故の辛い孤独感と酷い痛みが浮かび上がって遊良をどこまでも追い詰める。

 

容赦なく襲いかかる数日間の空腹感は、一人で街を彷徨い歩いていた遊良の体力を無慈悲に放出し…めまいを引き起こし遊良の視界をぼやけさせ、動かなくなった体から漏れ出す涙が決して薄れぬ寂しさとなって体だけではなく心にも深く傷を作って。

 

 

 

「うっ…うぅ…」

 

 

 

仲が良かったはずの子ども達も、自分の事を褒めてくれた大人達も…相棒だと思っていた幼馴染すら助けには来てくれない。

 

それはまるで、一人だけ世界に取り残されてしまったかのような感覚。その孤独感は、一体どれだけの寂しさを遊良へと与えていると言うのか。

 

誰も、助けてはくれない。

 

これほどまでに変貌した人々の態度とぶつけられる様々な暴力の嵐は、ソレを遊良に理解させるにはあまりに充分であり…人々の言う通り、自分は本当に生きる価値の無い人間なのだろうか、決して認めたくはないのに、傷付いた幼い遊良の心がそう思ってしまったとしてもそれは仕方のないことだろう。

 

そのまま…

 

小さく小さく震えながら、遊良はその場から動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が更け、街にはもう人の気配が無くなった頃。

 

狭い路地に倒れていた遊良は、痛めつけられた体がどうにか動かせるまでになったのか…かすかに動かしただけで軋みを上げる体にゆっくりと力を入れ始めると、その場から静かに起き上がり始めた。

 

限界の近い小さな体を、壁伝いに支えてゆっくりと立ち上がり始め…ふらつく足を何とか踏ん張って、敵達に見つからないようゆっくりとその場から歩き始めて。

 

 

既に限界、満身創痍。

 

 

この数日間、ずっと両親を探してこの広大な決闘市を歩き回っていたのだ。それに加えて、素行の悪い若者達から受けた酷い暴力によるダメージによって、最早遊良の体は歩くだけで精一杯の様子。

 

しかし、悲鳴を上げる体を押してでも歩きはじめた遊良の向かう方向は、街の方ではなく『自分の家』へと帰ろうとしている様子であり…

 

もしかしたら両親が家に帰ってきているかもしれないという淡い期待と、これ以上の地獄から逃げ出したいという衝動だけを支えに、どうにか足を前に出し続けるその姿は決して幼い子どもが見せるような姿では断じてないことだろう。

 

それは、敵だらけの世界からの逃避、怖い『外』からの脱出。

 

小さな世界の片隅で、傷付いた体をこれ以上傷付けられないように。生まれ育った自分の家へと、この世界で唯一の安全な場所、唯一残った自分の逃げ場所を目指して遊良は歩き続けて…

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「…ぁ…」

 

 

 

暗い夜道をふらつく足で、ぼやける視界で何とか『家』へとたどり着いたというのに…今まで以上の絶望と悲嘆が、身も心も傷付き果てていた遊良へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

それは、数日間留守にしていた『自分の家』が…

 

 

 

 

 

―原型を忘れたかのように『酷い』有様となっていたから。

 

 

 

誰かによって外側から割られ、家の中に散乱しているガラスの破片。

 

床に倒れ放題になっている、家電製品の数々。

 

意図的に壊されたのだろう、原型を留めていない家具や寝具。

 

引き裂かれたり破かれたり、燃やされたりした様子の衣類だったモノ達。

 

新築に近かったはずだというのに、まるで廃墟と見間違うほどに折られ壊された柱や壁。

 

 

汚され、焦がされ、壊され、崩され…

 

 

それは、『酷い』と言うにはあまりに過ぎた惨状。不特定多数の者達に『意図的』に荒らされたかのようなその惨状は、心を持っている人間が行ったとは思えないほどに…到底、人が住めるような状況では断じてなかったのだ。

 

まるで、天城 遊良というEx適正の無い存在に、こんな『人間らしい家』など必要ないだろうと、そう言わんばかり壊れ果てたこの家の状態。遊良には、逃げる場所すら与えてはならないのだと、そう告げているかのよう。

 

 

 

「どう…して…」

 

 

 

この飛び込んできた光景に、このあまりに酷い家の有様に…どうにかここまで保っていた意思の糸が切れ、胸を突き刺す鋭い痛みが深く深く遊良の心へと突き刺さって。

 

唯一残っていたはずの自分の『逃げ場所』。ソレが奪われ、この世界にはもうどこにも自分の居場所など無くなってしまったのではないかと言う錯覚が、傷付いた遊良の心を包み始め…

 

将来の展望も、これから先に思い描いていた未来も、守ってくれる両親すら奪われたこの地獄のような世界。

 

 

 

…一体、自分が何をしたと言うのだ。涙に溺れた遊良の瞳は、それ以外の感情を最早一切持つことは出来ず。

 

 

何をした覚えもない。ただ普通に生きていただけ。

 

そうだと言うのに、突然医師から信じられないような宣告をされ、これまで抱いていた未来へのヴィジョンが壊れて崩れ落ち、他者からまるでゴミ同然のように扱われるこの屈辱と仕打ちはあまりに酷いのではないか。遊良の目に浮かぶ大粒の雫がソレを哀しく物語り、溢れる孤独と迫り来る虚無感が、涙となって地面に落ちる。

 

 

怖い、人々の目が、人々の動向が。自分の事を容赦なく汚いモノとして扱ってくるその目も、何もしていないのに汚物の駆除と言って暴力を叩きつけられるその心の無い行動も。

 

大人達から汚らしいモノを見る目で見られた事も、仲の良かった子ども達が全て敵になった事も…Ex適正が無かったと言う、ただそれだけの事でどうして人間はこれほどまでに唐突に、こんなにも醜く変われるのだろう。

 

 

―世界の全てが、自分の敵。

 

 

その、あまりに突然に地獄に叩き落とされたその恐怖は、どこまでも幼い遊良を追い詰めだけで…

 

 

 

「うっ…うぅ…ひぐっ…」

 

 

 

 

しかし、親の親など誰も知らず、他に行く当も無いが故に、酷く壊された家であっても、重い足取りでその中へと入っていくしか遊良には取れる選択肢がないのか。

 

荒らされた家、壊された居場所。

 

あまりに酷い有様となっている室内を見わたすと、この世界のどこにも居場所がなくなってしまったかのような錯覚と孤独感だけが遊良の心に浮かび上がり…

 

小さな部屋の片隅、荒らされた家の隅っこに力なく座り込むと、遊良は小さく小さく縮こまってその幼い体を必死に握り締めて。

 

次第に、脱水から来る眩暈と痛めつけられたダメージによる吐き気が、幼い遊良の意識を朦朧とさせその命を奪い始め…ゆっくりと動く心臓の鼓動が更に遅くなっていくその感覚は、遊良の生きる意志が徐所に消え始めてしまっているかのよう。

 

 

…このまま、生きるのをやめてしまおうか。

 

 

これから先に希望など無いということは、あんな目に遭えばこの歳の子どもであっても嫌でも理解してしまうのか。

 

誰からも必要とされず、このまま生き続けても『出来損ない』と言われ続けるだけの人生。人々から忌み嫌われ、人々から見下され…そして、人々から傷つけられるだけの日々を送るくらいならば、と。

 

それを理解させたのは紛れも無い、無自覚の悪意を大衆の総意と勘違いした心の汚れた大人者達であるということには、当の大人達は誰も気付いていないが。

 

 

 

そして、忍び寄る絶望だけを感じながら…

 

 

幼い遊良の小さな体は…

 

 

―その意識を、静かに手放していった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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