遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep62「陰謀と前進」

「『逆鱗』…何故あのような勝手を?」

「…あぁ?」

 

 

 

暗闇に包まれた部屋、その室内に充満する重々しい空気の中で…二人の男が会話を交わしていた。

 

片方は辛うじてその声質から男だと言うのがわかりはするものの、暗闇の中にその姿を完全に隠してしまっていて…気配のみが部屋の中にあるだけであり、どこか威厳を感じさせながらも少々捻れた苛立ちのような声を出している。

 

もう片方は、まるで世紀末に生きているのではないかと錯覚する程巨大な体躯に、数多の傷が窓から差し込む月明かりに照らされている男。

 

決闘学園『デュエリア校』学長。かつては『逆鱗』の決闘者と呼ばれた元プロデュエリスト…

 

 

―劉玄斎、その人。

 

 

その劉玄斎は、かけられた言葉に少々苛立ちを覚えたかのように一つ溜息を吐くと…

 

とてもゆったりとした喋り方で、しかしその言動の一つ一つがとても重く鼓膜に響く声で、姿の見えない相手へと声を返した。

 

 

 

 

「勝手ってのは…一体何の事だ、あぁ?」

「お戯れを…天城 遊良の出場を【決闘世界】に後押ししたではありませんか、えぇ。」

「…それが何か問題だったか?たかが『Ex適正』が無ぇガキ一匹ぐれぇ、増えた所で問題もクソも無ぇだろうがよぉ。」

「大有りです。…いくら『Ex適正』を持っていないとは言え、仮にも【決闘祭】の優勝者。万が一と言う事もありますし、少しでも『不安要素』は減らしておきたいとお話ししたはずですが?」

「クハハハハ、随分と気の小せぇ事を言うじゃねぇか。折角の『祭り』なんだしよぉ、盛り上がるならその方がいいだろうが。」

「しかし…『赤き竜神』の解放の為には少しの失敗も…」

「失敗なんか無ぇ。『祭り』は盛大に、『計画』は微細に…『表』が騒げば騒ぐほど、『裏』が動きやすくなるってもんだぜぇ?」

 

 

 

果たして、彼らが何を話しているのか。

 

その話の内容の全貌を知る者はここに居る彼らだけではあるものの、しかしその話は決して『良い』モノでは無いことは確かだろう。

 

表沙汰に出来ないこと。それがよからぬ事であることを理解しつつ、それを撤回などするつもりも無いという態度のまま…

 

大人達は、暗闇に包まれた部屋で話を続けるのみ。

 

 

 

「…失敗は許されません、えぇ。『赤き竜神』の解放…いくら綿貫様のお気に入りである貴方とは言え、もし失敗したりこの計画が『表』に漏れたりすれば…【決闘世界】諸共全てを敵に回すことになり、待っているのは死…」

「んな事はわかってんだよ。けど【決島】はデュエリアの領内…いや俺の島で開くんだぜぇ?俺の持ち物で起こる事を、この俺が決めて何が悪ぃんだ。」

「…わかりました。ですが目を瞑るのは今回だけです。貴方には、『人質』があるということをくれぐれもお忘れなく…。これ以上の勝手は、私の方で止めさせていただくのでご理解しておいてください、えぇ。」

「…おぅ。」

「では、私はコレで失礼させていただきます。」

 

 

 

そうして…

 

あくまでもお互いの立場をハッキリさせるかのような不穏な言葉を劉玄斎に投げかけつつ、言いたいことを言い終えたのかこの暗闇の中で最後まで姿を見せなかった男は…

 

ドアを開ける音と共にこの部屋から気配を持ち去っていった。

 

 

 

 

「…クハハ。」

 

 

 

そして、気配が完全に消え、この部屋に自分一人になった瞬間…

 

 

 

「『Ex適正』が無ぇ…か。」

 

 

 

静かに…そしてどこか空しい笑い声を漏らした劉玄斎。

 

しかし、一体劉玄斎というこの男が『何』を思ってその言葉を選んで発したのか。『その言葉』自体は同じでも、先ほど発した時とはどこか声質が違うようにも聞こえたことだろう。

 

この歴戦を駆け抜けてきた巨漢が何を考えているのかなど、劉玄斎自身にしか分からぬモノに違いないものの…起ころうとしている『何か』の全貌が、この部屋の様に暗闇の中に隠れてしまっている限りこれから先に『何』が起こるのかなど誰にも分からないのだ。

 

そうして、劉玄斎もまた己の巨躯を動かし部屋を出て行く。

 

 

 

 

「もう、後にゃ引けねぇんだ…悪ぃな、こんな………でよぉ…」

 

 

 

 

彼もまた、どこか後が無いような感情を、漏らしながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷹矢、【ワン・フォー・ワン】を持ってきてくれ。お前の部屋の押入れの下の引き出しの一番奥の束にあったはずだ。」

「うむ。」

 

 

 

リビングに木霊する慌しい喧騒の中、遊良達3人はデッキ作りに勤しんでいた。

 

再現できなくなった『以前のデッキ』を超える、『今』だからこそ作れる新しいデッキを一から作り上げる為に、お互いに色々なアイデアを出し合いつつ調整を繰り返して。

 

 

 

「あ、ねぇ遊良、これなんかいいんじゃない?前のデッキでも使ってたし。」

「うーん…でも一緒に使ってたアレが消えちゃったしなぁ…」

「そっかー…あ、だったらこれは?これとこれにさ、【地獄の暴走召喚】使ってみるとか。」

「それいいな。使おうと思ってたこれともシナジーあるし…試してみるか。」

「おい遊良、ついでに【成金ゴブリン】も持ってきてやったぞ。使うのだろう?」

「お、サンキュ。」

 

 

 

遊良がこれまで試行錯誤して作り上げた『以前のデッキ』には、確かに戦術的に重要なカードやもう手に入らないようなカードも入ってはいたのだが…

 

砺波の言葉によって、『過去の絶望』を完全に振り切れた遊良には、その事に関しての憂いは既になく。

 

その目に迷いは存在せず、ただひたすらに『先』を見据え、実力の『壁』を超えた今だからこそ作れるであろう『新たなデッキ』をひたすらに考えているのだろう。

 

 

 

「…駄目だ、これじゃあまだ前のデッキに及ばない。」

「ぬぅ…ならば【闇の誘惑】を減らし、【手札断殺】に変えてみるのはどうだ?」

「でもそれじゃあ【大欲な壷】が使いにくくなるんじゃない?遊良のデッキだと、除外ギミックも結構重要なんだし…」

「でもとりあえず試せるだけ試そう。時間も無いし、まだまだ試したい戦法は沢山あるんだ。…もうExデッキを意識しなくていいんだし、やれることは前のデッキよりも多い。」

「む?…そうか。」

 

 

 

浮かんでは消え、詰まっては進みながらデッキ作りは進んでいく。

 

そんな中で、鷹矢は遊良の言葉の一つに少々引っかかりを覚えたような声を漏らしたものの…それは遊良にもわかっていて、あえてソレを言葉にすることによって『以前のデッキ』への未練を綺麗に断ち切ろうとしているのか。

 

…思えば、『以前のデッキ』はいずれExデッキが使える様になるのではないかという、希望的観測という名の『甘え』が混ざっていたように感じている遊良。

 

それは融合、シンクロ、エクシーズ…そのどれが発現してもいいようにという、不明確だった未来ゆえの希望の残滓。

 

そう、いくら『Exデッキに頼らない戦い方』を磨いてきていたとは言え…自分の心の奥底にExデッキへの憧れがあったことは否めないのだろう。

 

しかし【堕天使】を得たあの時、その希望を全て『捨てる選択』をしたことによって、自分はこれから先の未来において『Exデッキ』は絶対に使えない契約をしたのだ。

 

…それは、【堕天使】を無くした今も変わらない。

 

【堕天使】が無くなったからと言って、再び『Ex適正』が得られる保障が生まれるわけでも無ければ…【堕天使】を得る前までの状態に、これで戻ったというわけでもなく…

 

 

―あの時の『誓い』は、そんな簡単なモノではない。

 

 

人形のような『謎の男』が襲ってきたあの時の戦いが、自分一人だけの問題だったならば遊良もまだその希望を持てたのだろう。しかしあの時、自分の『希望』の一切を捨てる覚悟をしたからこそ、捕まり命の危機に瀕していた鷹矢とルキを救うことが出来たのだ。

 

 

―今もこうして鷹矢とルキが無事でいる以上、あの時の『誓い』は成されているということ。

 

 

とは言え、別に『Ex適正』を捨てた事に関して、遊良が鷹矢とルキに恨みを感じているわけでもなければ、あの時の選択を後悔しているわけでもないのだ。

 

そう、遊良にとっては『Ex適正』と『幼馴染二人の命』、どちらが大切なのかなど初めから決まっている。

 

だからこそ、今この現状で自分に『Ex適正』があれば…などと言った甘い考えなど遊良には無く…後悔をしていなからこそ、遊良は自分の『甘え』を言葉にして外へと吐き出すことによって『先』へと進もうとしているだけ。

 

 

 

「…そうだ。なぁルキ、【継承の印】って持ってなかったか?」

「えっと…確か家に一枚だけあった気が…取ってこようか?」

「頼む、一枚欲しいんだ。」

「わかった、ちょっと行ってくるね。」

「あぁ。」

 

 

 

そうして…

 

ルキが頼まれたモノを自宅へと取りに、リビングから一旦退出したのと同時に…

 

デッキの構築に唸っている遊良へと向かって、徐に鷹矢が口を開いた。

 

 

 

「遊良よ、そういえば次のデッキは大きく戦略を変えるのか?」

「あぁ、ちょっと迷ってるけど…でも、昔から【冥界の宝札】をずっと使って来たんだ。前のデッキとは中身もかなり変わると思うけど、とりあえず戦術を丸ごと変えるよりは慣れてる【冥界の宝札】をベースに組み立てていこうと思ってる。」

「そうか…しかし、【冥界の宝札】をベースにすると言ってもだぞ?前のデッキの上級モンスターがほとんど消えてしまっていては、以前のように大型を連打する戦術は難しいのではないのか?」

「…そうなんだよな。」

 

 

 

鷹矢が漏らしたその疑問は、遊良の今の『事情』を理解しているからこその言葉。

 

そう、以前の遊良の戦術は、【冥界の宝札】を主軸に最上級モンスターをアドバンス召喚し、『Exモンスター』にも劣らない力を持った大型モンスター達の複数展開で、相手を上から数で吹き飛ばす戦い方が主流であり…

 

その為、『以前のデッキ』にはフィニッシャーである【神獣王バルバロス】の他にも、【ギルフォード・ザ・ライトニング】や【銀河眼の光子竜】と言った、切り札級の最上級モンスターが数多く存在していた。

 

 

―しかし、そう言った『切り札』と呼ばれる超大型クラスのモンスターを、メインデッキに複数投入することはあまり推奨されていないこの現代。

 

それは言いかえれば、『Exデッキ』至上主義かつ、高速化した現在のデュエルではこうした構築法はあまりにデッキが『重く』なりすぎてしまい、まともにデッキが回らなくなるのではないかというのが世間の認識なのだ。

 

そんな『Exデッキ』至上主義の時代の中で、そのセオリー外とも言われている戦術を頼りに…いや、寧ろ時代に逆らうかのように、デッキの殆どが最上級モンスターで占められたようなデッキを用いて遊良はこれまで活路を切り開いてきた。

 

だからこそ、鷹矢を始め周囲のデュエリスト達は皆、遊良の以前のデッキの回転が『理解出来ない』とまで言い放つ始末となっていて…

 

その為、鷹矢の言ったとおり『今の遊良の現状』では、その戦術を取ることすら難しいと言えるだろう。

 

 

 

「【堕天使】が全部消えたから、前のデッキから使ってた『スペルビア』も『ゼラート』も、『アスモディウス』も今はもう無いし…その他の大型も厳選して選んだモンスターばっかりだったから、予備なんて持ってないし替えも利かない。」

「うむ…流石に、今手元にあるバルバロスの一体だけではこの先戦っていくのはキツイだろうな。」

「…まぁな、他にも手を考えないと。」

「何か良い大型があったか…少し部屋のカードを見てきてやる。」

「サンキュ…あ、でもさ…実は一つだけ考えてた事があるんだ。」

「む?」

 

 

 

とは言え、その事に関しては遊良にも何か考えがあるのか。

 

遊良は胸ポケットに手を入れると、予め部屋から持ってきていたのかその中から一枚のカードを取り出し…

 

それを、鷹矢へと見せて…

 

 

 

「…『これ』を、使おうと思う。」

「む!?…なんだソレは!?そんなモンスターは見たことがない…お前、ソレを一体どこで…」

「【決闘祭】が終わってすぐにさ、ちょっと色々とあって…人から預ってるカードだけど、この状況だからこそ今の俺にはコレが必要だと思う。それに…戦術も少しずつ思い浮かんできた。前みたいに、色んなフィニッシャーを連打するのは無理だけど…『壁』を超えた今だからこそ、出来る戦い方もあると思うんだ。」

「…全く想像がつかん。」

 

 

 

遊良の見せたそのカードに、衝撃を受けたような声でそう返した鷹矢。

 

鷹矢も見知らぬそのカードと、遊良の言った『壁』を超えた今だからこそ出来る戦い方…昔から遊良とずっと共に居た鷹矢でさえ、『今』の遊良が一から作り上げるデッキの底が全く持って見えてこないのだと言わんばかりに言葉を漏らし…

 

鷹矢も、遊良が己の『壁』を超える瞬間を見て…いやその瞬間に『対峙』していたからこそ理解している。『今』の遊良と『昔』の遊良、その実力も心も、比べ物にならないくらいに強くなっているということを。

 

だからこそ、己を超え続ける遊良へと向かって、鷹矢は一つ問いかける。

 

 

 

「…お前、次のデッキで一体どこまで『行く』つもりだ?」

 

 

 

それは別に、不安や焦りと言った感情から来た言葉では無い。

 

遊良が先へと進むのなら、自分も当然のように進むだけ。自分が先へと進んだならば、遊良も隣に立つのが当たり前だと鷹矢は思っているのだから、過去を振り切った『今』の遊良が目指そうとしている高みは鷹矢にとっても当然の如く目指す目標であることに違いないのだが…

 

 

鷹矢が疑問に思ったのは、遊良の目指す場所の、その『先』。

 

遊良が今やろうとしていることは、何も【決島】だけに照準を合わせたモノでは無い。例え【堕天使】が無くなったとしても立ち直り、新たなデッキを『本気』で作っているからこそ、その気持ちがどこにあるのかが鷹矢は気になったのだ。

 

 

しかし、鷹矢にそんな言葉を投げかれられても…

 

 

 

遊良は、不敵に笑うのみ。

 

 

 

「決まってるだろ?お前よりも『上』にだよ。」

「…フッ、ウジウジしていた奴が偉そうに言うではないか。遊良の癖に生意気な。」

「んだと?鷹矢の癖に、勝手に出て行って餓死しかけたのは誰だよ。そう言う台詞は自分の面倒を自分で見られるようになってから言えよな。」

「ぬ!俺の飯はお前が作る!それは当たり前の事だろうが!」

「何が当たり前だこの野郎!砺波先生の課題で俺も大変だってのに、少しは俺に感謝しろこの大飯喰らい!」

「なんだと!?」

「なんだよ!」

「ちょっと!何でこの短時間で喧嘩出来るのよ!もう!」

「あれルキ?もう戻って来たのか?」

「忘れ物したから一回帰ってきたの!それより!私が居なくなった途端に喧嘩するのやめてよ!次喧嘩してたら本気で怒るからね!?遊良も鷹矢も!次喧嘩してたら本気でぶっ飛ばすからね!」

「ぬぅ…それは…勘弁して欲しいぞ…」

「わかった…わかったから落ち着け?な?」

 

 

 

完全に『過去』を乗り越え、『いつも通り』の3人に戻ったからこそ、常に起こる彼らの喧騒が止むわけも無く。

 

何度も試行錯誤を重ね、何度も何度も失敗し…その度に遊良と鷹矢は衝突を繰り返し、ソレを少々うんざりしたように止めるルキ。

 

 

―そうして、デッキ作りは進んでいく。

 

 

まだまだ戦術も固まっていなければ、デッキの基礎も不安定であり改善点も多い。しかし、自分を取り戻した遊良だからこそ、鷹矢とルキの助けもあって少しずつデッキが汲みあがっていって…

 

その刻一刻と過ぎる時間の中で、何度も汲みなおしてはデュエルを行い、デュエルを繰り返しては調整し、そうして過ぎていく日々。

 

砺波に言い渡された一週間という期限の中で、自分に出来ることは『何』なのか、自分の力量はどうなのか、自分には何が出来るのかをとにかく考え…与えられた課題もこなしつつ、とにかく休む暇も無く遊良達は動き続けた。

 

褒められたことでは無いが、時には授業を欠席し、決闘市の中を走り必要なカードを探したりもして…

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

―新たなデッキを作り始めてから、一週間の時が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、では見せて貰いましょうか。君の出した答えを。」

「はい。」

 

 

 

約束の期限、一週間ぶりの『召喚別授業』のその時間。

 

授業では使われない決闘学園イースト校のメインスタジアム、その中心に立った遊良へと、砺波が威厳のある声でそう告げてきた。

 

与えられた一週間と言う期限の中で、遊良が一から作り上げてきた新たなデッキ。

 

【堕天使】という、遊良にとっての力の『一つ』を無くしたとは言え…【決闘祭】や先の『異変』を経験し、実力の『壁』を一つ超えた遊良の力は、一年前とは比べ物にならない程に強くなっていることは先ず間違いなく。

 

そんな『今』の遊良だからこそ作り上げられるデッキが、どんな代物になっているのか…

 

それを、その目で確認するために。

 

 

 

「あの、砺波先生…その前に一ついいですか?」

「はい、なんでしょうか。」

 

 

 

しかし、そんな折に遊良は砺波へと一つ問いかけて。

 

それを解決しておかなければ、授業に集中しきれないのだと言わんばかりの雰囲気で声を発し…それに対し、砺波もソレを理解しているからこそ遊良の疑問をすんなりと聞き入れたのか。

 

そう、このまま砺波との授業を始める前に、遊良にはどうしても確認しておきたいことがあったのだ。

 

それは、遊良の『隣』に立っている人物の事で…

 

 

 

 

 

「どうして…今日はルキも一緒に?」

 

 

 

 

 

そう、遊良が感じたその疑問。遊良が立つその隣には、シンクロクラスの授業に出ているはずのルキの姿があったのだ。

 

無論、ルキをここに連れてきたのは遊良なのだが…

 

今日の召喚別授業の前に、遊良のデュエルディスクに届いた一本のメッセージ。紛うことなき砺波からのソレは、この前の召喚別授業の時に鷹矢を連れてきたのと同じ、本日の召喚別授業に、高天ヶ原 ルキを連れてくることという文面が書かれていたのだ。

 

しかし、【決島】に出場することが決まっていた鷹矢ならばまだしも、どうして今度はルキなのか。

 

【決闘祭】の時もそう。彼女が『本気』でデュエルをすることが出来ない『事情』を遊良も理解しているからこそ、ルキがあえてソレに選ばれないよう戦績を調整していることを遊良は知っている。故に、ここに鷹矢ではなくルキが呼ばれたことに、遊良は疑問の意を示していて。

 

そんな遊良と、【白鯨】の厳かな雰囲気に少々萎縮している様子のルキに対し…

 

砺波はその場で半回転し、二人の生徒に背中を向けるとそのまま言葉を続けた。

 

 

 

「正式な発表はまだなのですが…不測の事態と言うことで、当事者である君たちには早めに伝えておいた方が良いと思いまして。」

「不測の…事態?」

「【決島】のイースト校代表選手の一人に…高天ヶ原さん、あなたが選ばれました。」

「え!?」

「砺波先生!ど、どういうことですか!?だって、ルキの成績だと…」

「えぇ、今の高天ヶ原さんの成績では、代表選出にギリギリ届いてはいませんでした。それは私も確認済みです。…しかし、どういうわけか【決闘世界】の選出に高天ヶ原さんの名があった。それも事実です。」

 

 

 

砺波にそう告げられた瞬間に、驚きの声を上げた遊良とルキ。

 

…なぜなら、ルキがこうした学校を代表するような祭典に選ばれることは絶対に無いと、遊良もルキも思っていたために。

 

ルキの身に関係する、デュエルをするにあたってどうしても避けられないその『事情』。彼女の『命』にも関わってくるソレは、幼少期からの鷹峰の修業と、彼女自身の体の成長に伴って昔よりも遥かに制限は無くなってはきているのだが…

 

それでも、未だ『力』を抑えきることが出来ないために、ルキはあえて『上』へといける力を持っているにも関わらず、ソレに選ばれないようにわざと勤めているのだ。

 

故に、いくら各校から二十数名選ばれる【決島】であっても、【決闘祭】の代表候補にすら選ばれなかったルキが他の候補者達を差し置いて選ばれるということは明らかにおかしいと言えるだろう。

 

 

 

「ちなみに、私は高天ヶ原さんの『事情』についても知っています。…君が、『赤き竜神』のカードを持っている、と言うことを。」

「なっ!?ど、どうして砺波先生がそのことを…」

「去年の『異変』の時に、決闘市に『神』の目撃情報が上がりましたからね。伝説上の『神』のカード…いくら混乱の中であっても…いや、あの混乱の中だったからこそ目撃者が出てしまったのでしょう。無論、その情報は【決闘世界】にも上がってきます。」

「…あ、あの…理事長先生…私の事は…」

「えぇ、君の事情が『内密』だと言う事も承知の上ですので、『神』のカードを持っているのが高天ヶ原さんだと言うことは少なくとも私しか知らないはずなのですが…しかし、こうなってしまった以上、【決闘世界】の中に『神』を狙っている者達と『繋がっている者』が居るのはまず間違い無い。」

「そんな…」

 

 

 

砺波の告げるその話に、遊良は焦りの声を漏らし…当人であるルキは、どこまでも不安げな声を漏らしてしまって。

 

そう、いくら先の『異変』が非常事態だったとは言え、これまでどうにか自分の『事情』を隠し通してきたルキからすればソレが他人に知られてしまったことに対して危機感を抱かざるを得ないのか。

 

幼少の頃…その所為で、一度危険な目に遭ったのだ。

 

遊良と鷹矢に助けてもらったとは言え、その時の恐怖を彼女は今でも覚えていて…あの時の遊良と鷹矢、どちらかの助けもあと少し遅かったら命の危険すらあったのだから、ルキも自分が持っているモノの危険性については身に染みて理解している。

 

世界中がその存在、ひいてはこの世界の『神話』を知っているからこそ、『神』のカードと呼ばれる存在は世界中にとっての宝と言っても過言ではなく。

 

いつまでも隠し通せるモノでは無いのかもしれないが、それでも今このタイミングで何者かが『神』を狙っている可能性がある以上…ルキの身が確実に危険だと言うことにも繋がってしまう。

 

 

 

「どうにかしてルキを棄権させることは出来ないんですか?」

「残念ですが、【決闘世界】によって既に決定してしまったことは誰にも撤回出来ません。…寧ろ、高天ヶ原さんの事がバレている以上、向こう側がソレを許してくれるはずもない。」

「でも、罠だと分かっていてみすみすルキを出させるなんて…」

「それは私もわかっています。何か出来ることは無いか、私もただ手を拱いているわけではありません。」

 

 

 

未だ背を向けたまま話し続ける砺波の真意は分からぬものの、例えそれが無理なことだとは分かっていても、それでも僅かな可能性を考えるしか遊良に出来ることはないのか。

 

ルキだって、好きで『神のカード』を持っているわけではない。偶然、偶々、神の気まぐれで手にしてしまったその力の所為で、一体彼女がこれまでどれ程の苦労を被ってきたのだろう。

 

好きなデュエルを好きに行えず、常に制限が付きまとうもどかしさに耐え、事情が事情なだけに隠し通すように勤めては来たものの、時には命だって狙われたこともあった。

 

遊良も、ルキが己に付きまとう『神』の事を快く思っていないどころか、邪魔で仕方がないとまで思っていることをコレまで何度も聞いているのだ。そんな要らない力を、何も知らない者達の勝手で狙われ、そして自らにはどうしようも出来ないモノに翻弄される幼馴染の身を案じたとしても、それは仕方ないことに違いなく。

 

 

 

 

 

「…あ、あの、理事長先生…」

「はい、なんでしょうか。」

 

 

 

しかし、そんな遊良を押しのけるかのように、唐突に自らの感情を表に出してそう告げたルキ。

 

一体、彼女自身が何を思ったのか。

 

自分の境遇と、遊良からの心配を痛いほど理解している彼女から発せられたその言葉の心意は彼女自身にしか分からぬモノではあるものの、今、この場で、はっきりと己の意思を砺波へと伝えようとしているルキの声には少しの迷いも存在していないようにも聞こえ…

 

 

 

 

「…あの、わ、私…出ます!私、【決島】に出て戦います!」

「ルキ!?で、でもお前…」

「わかってる!…わかってるんだけど…でも…」

 

 

 

そして、己の意思を今、言葉にしてはっきりと表明してみせたルキ。

 

…危険なことは分かっている、罠である可能性も分かっている。

 

それを理解出来ぬほど彼女とて馬鹿では無いし、それによって浮かび上がる身の危険は既に経験しているからこそ誰よりも理解している。

 

これは自分だけの問題ではない。それならば今まで通り、表立った舞台には決して姿を見せないようにし、遊良と鷹矢の戦いを後ろから応援し続けることが最良である…と。

 

 

 

―そんな事は、わかっている。

 

 

 

―しかし、それでも…

 

 

 

「わ、私だって遊良と鷹矢と…同じ場所で戦いたいの。先に行っちゃう二人を、後ろから見てるだけなのは…もう…」

 

 

 

自分の体のことを分かってはいても、それでも己の感情を表に出してそう訴えるルキの意思。

 

それは、これまでずっと『何か』を我慢してきたが故のモノとも取れるだろう。幼少の頃も、これまでも…遊良と鷹矢が全力で戦った【決闘祭】だって、彼女はずっと見ている側だったのだ。

 

故に、どんどんと先に進み続ける幼馴染達を、彼女とてどこか羨んでいたのだろうか。

 

置いていかれたくない、2人の見ている景色を自分も見てみたい…と。

 

 

 

 

「それに私だって昔よりも強くなってるんだよ?前に鷹矢と一晩デュエルした時だって大丈夫だったし…」

「何度か『危なく』なったって鷹矢から聞いてる…それに、どんな奴が襲ってくるのか分からないんだぞ!?いくらルキの実力があっても、何が起こるのかわからないんだ!」

「でも…」

「駄目だ!」

「やだ!」

「やだってお前…」

 

 

 

…遊良とて、ルキの『実力』があれば下手に逃げ隠れるよりも、現れた敵を返り討ちにした方がある意味では安全かもしれないことは考えてはみた。

 

どうせ、どうにかして【決島】を辞退できたとしても、ルキの事が敵にバレているのならば同じ事。

 

師である【黒翼】が街に居ない今、この状況でルキを決闘市に1人残して自分も鷹矢も、そして事情を知っている【白鯨】までもが【決島】の為に居なくなりでもしたら…

 

敵は、寧ろ好都合だと言わんばかりに1人になったルキを狙ってくる事だろう。

 

ならば、危険な罠だと言う事を始めから承知で、向かってくる相手を自分と鷹矢で守りながら、ルキも己の身を戦いによって守ると言うのも一つの手ではある、と。

 

いくら『本気』を出せないルキとは言え、幼少の頃から遊良と鷹矢と共に、【黒翼】である天宮寺 鷹峰に同じように鍛えられてきたのだ。『神』の力に頼らなくとも、彼女自身の持っている『実力』は当に『壁』を超えたところに位置しているのは遊良とて承知の上であり…

 

 

ーしかし、それも遊良からすれば回避したい事に違いなく。

 

 

どんな敵が狙っているのかわからない今、【決島】の間中、ずっとルキを守る事ができるのかという不安もある以上…【決島】では何が起こるのかわからないのだ。

 

また、回数を重ねる毎に、彼女が白熱する度に、その力が拮抗を見せる度に、その体の内から漏れ出す『神』の意思。

 

少女の意思では完全に抑え込むことなど出来ないソレは、いとも簡単にルキの体を文字通り『崩壊』させてしまう。

 

それを、その眼で目の当たりにしたことがある遊良だからこそ…どうしても、ルキに無茶などさせられないと言わんばかりに焦燥を見せていて。

 

 

 

 

 

「【決島】の最中は『危なく』なっても相手は待ってくれないんだ!もし敵を倒したって、お前が抑えきれなくなって『暴走』でもしたら…」

 

 

 

 

 

そして…

 

 

遊良があまりの心配から、ルキを言い聞かせるようにそう言いかけた…

 

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「うんうん、それでそれで?」

「………え?」

「………へ?」

 

 

 

突然現れた第三者の声と、突如組まれた肩に感じた他人の感触。

 

そのいきなり降って湧いた誰かの気配に、思わず気の抜けたような声を漏らしてしまった遊良とルキ。

 

まるで初めからそこにあったかのように自然に、かつ聞きなれないはずなのに聞いたことのあるようなその声は、より一層遊良とルキの意識を硬直させてしまっていて。

 

また、振り返った砺波も、そこに居た『人物』に少々驚いたような顔をしたものの…

 

すぐに怪訝な顔を見せ、突然現れたその人物へと声を返す。

 

 

 

 

「新堂君…どうして君がここに?」

「おっす!【白鯨】のジーサンお久しー!つか『どうして』ってドイヒーじゃね?折角俺っちが久々に【白鯨】のジーサンに会いに来てやったつーのにさ、ジーサン『授業』だっつって部屋に居ないんだもん。でも何々、ジーサンなーに面白いことやろうとしてんのさ?」

 

 

 

その、決してこの場に居るはずの無い人物に…

 

いや、この場に何気なく現れた事すら信じられるはずのない人物の突然の声に、肩を組まれている遊良とルキも思わず言葉を失うしか取れる行動がないのか。

 

何せ、昨年の【決闘祭】の時に一時的にここ決闘市に帰ってきてはいたものの、その他の時間は常にプロとしての戦いに臨んでいると言っても過言ではない程に多忙を極めるこの人物。

 

世界中を飛び回り、頂点に立つ者として戦いに明け暮れているはずの者。

 

発する言葉は軽いものの、その戦いには少しの軽薄さも見られない『想像を絶する気迫』を持つ決闘者。

 

 

 

 

 

―新堂 琥珀

 

 

 

天才の名を欲しいままにしている現シンクロ王者。【白竜】と呼ばれし王者の一人が…

 

 

 

 

 

何故か、今ここに…

 

 

 

 

 

 

―突如、現れたのだ。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

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