遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

64 / 119
ep63「【白竜】と呼ばれし決闘者」

―『天才』

 

 

人は、彼の事をそう称える。

 

学生時代から築き上げてきた数々の伝説。その比類なき功績の山は、羨んだ所で真似出来る代物でもなければ、誰もが妬む事を忘れて称えることしか出来ぬ代物であり…

 

彼が紛れも無き『天才』だということを世界中に知らしめるほどに優れたその伝説は、この世界の歴史に既に刻まれていることだろう。

 

そう、彼の築いたその伝説…

 

 

―決闘市における学生最大の祭典、【決闘祭】を『ノーダメージ』で2連覇するというその偉業。

 

他の追随を許さぬ圧倒的な存在感で、同じ年代で比べられる学生など存在すらしなかったその力で…まさに同じ年代の学生達に格の違いを見せ付けるかのごとく、彼はその時代を自分一色に染めてしまった。

 

また、当時は学生の身でありながら、4年に一度開かれるプロデュエリスト達の祭典ー

 

世界中のプロデュエリスト達の中でも、世界に名立たる上位ランカーのみが出場することの出来る、【王者】への挑戦権を賭けた『チャンピオンズ・リーグ』に、学生の身でありながらも特別推薦され…

 

世界トップレベルの名立たる『異名』を持った上位ランカー達を相手に、学生という身分で並み居るプロの上位陣を次々と打ち破っていき。そのまま、世界で初めて学生がチャンピオンズ・リーグの『優勝』を飾ったというその快挙。

 

世界中が沸き立ったその衝撃は、年々学生のデュエルレベルが下がっていると不評を受けていた決闘市への、数多くのバッシングを全て吹き飛ばす程の代物となりて…改めて、決闘市が世界でも有数のデュエル大都市だったということを、その戦いで世界中に思い知らせたのだ。

 

そのまま彼は決闘学園サウス校を卒業し、当然の如く『プロ試験免除』にてプロの世界に身を投じると…

 

決闘界のスターダムを最短距離で駆け上るかの如く、出場した全ての大会や組まれる試合に全勝していき、『通常』であればその『頂』に至るまでに十数年から数十年はかかると言われている場所に、彼はプロ入り1年と言う歴代でも最年少でその手をかけた。

 

 

それは、あまりに早すぎる頂点への挑戦。

 

それは、あまりに無謀すぎる新鋭の気鋭。

 

 

通常であればその『権利』を得ても、実際に『実行』に移すまでには相当の年月と鍛錬を要すると言われているソレを、彼は歴代最年少で実行に移すという一見無謀とも思われる行動を取ったのだ。

 

 

―そう、世界中の人々の目に焼きついている『特別』な一戦…

 

 

―当時、歴代最強とまで謳われていたシンクロ王者【白鯨】に、怖い物知らずの若き『天才』が挑戦するという、あの世紀の一戦を。

 

 

あの政権交代の一戦が行われた夜の事は、今もなお語り継がれる歴史の一節となって世の人々の脳裏に刻まれていて…

 

当時、謎の不調と言われていた王者【白鯨】ではあったものの、その歴戦の経験から終始に渡り挑戦者を圧倒していた不動の王者。必死に食らいつく『天才』を、迸る激流の如く怒涛の攻めで圧倒し…攻めあぐねる若き天才に、格の違いを思い知らせるかの如く最後まで優位は覆らないと思われた。

 

しかし、そのまま決着が着くと誰もが思ったその最後…

 

【白鯨】の不調とその一瞬の隙を見逃さなかった若き天才は、なんとその土壇場で新たな切り札を『創造』し、窮地からの大逆転を魅せたのだ。

 

【白鯨】に何があったのかも知らず、若き天才の底力を見誤っていた観客達からすれば、その瞬間の事は、世界中の誰もが目を疑ったことだろう。

 

そして、その戦いの後…彼は、新たな【王者】と呼ばれるようになった。

 

世紀の一戦で新たに創造したカードを『名』に、決闘界の最短距離を駆け抜けた勢いをそのままに。特殊な血筋の人間でもなければ、特別な指導を受けてきたわけでもなく、己の生まれ持った『才能』一つで…

 

 

―そう、『決闘』一つで、彼はここまでのし上がってきた。

 

 

それはまるで、この時代に不意に現れた特異点の如く。

 

成るべくして【王者】となったその才覚は、軽すぎる言葉と若すぎる年月が故に未だ風格を伴ってはいないものの…そのデュエルが魅せる『想像を絶する気迫』は、他のどの歴戦のプロデュエリスト達も醸しだす事が出来ない、まさに【王者】に相応しい代物になっていることは言うまでもないことであって。

 

 

 

…故に、彼はこう呼ばれる。

 

 

 

 

―世紀の天才シンクロ王者、世界に認められた『大天才』

 

 

 

 

 

 

 

―【白竜】、新堂(しんどう) 琥珀(こはく)

 

 

 

 

 

 

現在は【王者】として世界中を飛び回り、若き【王者】を狙ってひっきりなしに現れる挑戦者との戦いに明け暮れたり、デュエル以外にも【王者】としての激務に追われる日々を送っていたりと、およほ世の中の誰よりも多忙を極めているであろう、世界中のシンクロ使い達の頂点に立っている決闘者。

 

 

 

「新堂君…どうして君がここに?」

 

 

 

そんな彼が、何の用か唐突にこの決闘学園イースト校に現れたのだ。それは例え、イースト校理事長である元シンクロ王者、【白鯨】砺波 浜臣でなかったとしても同じ事を彼に問いただしただろう。

 

何せ、ここに現れるはずのない人物。サウス校出身の彼からすれば、イースト校は母校でもなければ知り合いがいるわけでもなく…【王者】を呼び出せる人物も居なければ、何か特別な用があるとも思えない。まるで、そう言わんばかりに怪訝な顔をしている砺波へと向かって…

 

琥珀は、両隣で固まっている2人の学生の肩を組んだまま、あまりにも軽い口調で言葉を返した。

 

 

 

「おっす!【白鯨】のジーサンお久しー!つか『どうして』ってドイヒーじゃね?折角俺っちが久々に【白鯨】のジーサンに会いに来てやったつーのにさ、ジーサン『授業』だっつって部屋に居ないんだもん。」

「…私は来てくれなどと頼んではいませんが?」

「ツレねーこと言わねーの。相変わらず堅物なんだからさー。でも何々、ジーサンなーに面白いことやろうとしてんのさ?」

 

 

 

砺波の重い言葉とは対照的な、宙にまで浮いていきそうな軽い声。

 

きっと世界中を捜しても、威厳ある元シンクロ王者【白鯨】にここまで軽い言葉を投げかけられるのは【白竜】である彼だけだろう。

 

その言葉の真意は彼の心のように宙へと浮かび、誰にも捕らえられることなく好き勝手に飛び交っている。

 

…しかし、放つ言葉は軽くとも、その纏う空気はとてつもなく重いのか。

 

何せ、何気なく肩を組まれている遊良とルキが、琥珀の纏う雰囲気に触れて声を出す事も出来ずに固まっているのだ。

 

何が起こったのかを瞬間的に理解出来なかったというのもあるだろうが、それでも遊良とルキが、自分が『何』をしたらいいのかを考える事もできないこの場の空気は、まさに2人の王者クラスの人間が放つモノの所為で異質な雰囲気となっていることに違いなく…

 

 

 

「ちょっと用事で近くまで来たもんだからさー。ついでに【白鯨】のジーサン元気かなーって。」

「…そんな理由で【王者】がわざわざ来るはずも無いでしょう?少しは自分の立場を自覚してください。もし他の学生達がここに居たらパニックに…」

「へいへいすんませーん。まっ、ジーサンにも用があったんだけどさ。」

「…と言うと?」

 

 

 

そして、砺波の説教染みた声を遮り、自らの声のトーンを一つ落とした琥珀。

 

いつも軽すぎる言葉しか発さない彼にしては珍しい、どこか重みを含ませた息使い。そのまま琥珀は何気なく組んでいた遊良とルキの肩を離すと、一歩前へと砺波に近づき…

 

怪訝な顔を崩さないままの砺波へと向かって、琥珀は構わずその口を開いた。

 

 

 

「聞いたぜジーサン。俺っちと戦った時…【白鯨】、使えなくなってたんだって?」

「………どうしてソレを?」

 

 

 

その琥珀が放った言葉によって、砺波の眉間の皺がより一層深く刻まれて。

 

…それは、砺波が公表していないはずの事実。あの『世紀の一戦』で、王者【白鯨】が自らの象徴である【白鯨】を召喚しなかった、世界最大の謎の真実。

 

思い出したくも無いだろうソレを今改めて聞かされ、砺波のその怪訝な表情が更に険しくなっていき…益々琥珀への警戒心を増していく様子を砺波は見せながら、纏う空気だけが重くなる。

 

…しかし、どうしてソレを琥珀が知りえたのだろうか。

 

自らにとって『恥』とさえ思っていたソレを、砺波は自分から言いふらすことなどしはしないし…

 

【白鯨】を失っていたと言うその事実は、先の『異変』の中心部で自分と戦った遊良や、何故かソコに居た【黒翼】天宮寺 鷹峰にしか聞かせていないはずだというのに。

 

 

…いや、一度だけ。

 

 

たったの一度だけ、ソレを他人に漏らした時のことを砺波は瞬間的に思い出したのか。

 

そして、砺波がソレを思い出したその瞬間に…琥珀もまた、ソレを口に出し始めて…

 

 

 

「シシシッ、この前さ、綿貫のジッちゃんからちょろっとねん。」

「…やはり綿貫さんですか。あの方は本当に君に甘い。」

 

 

 

そう、砺波がプロを引退する時に、事情を問い詰めてきた【決闘世界】最高幹部、『妖怪』と呼ばれる翁、 綿貫(わたぬき) 景虎(かげとら)に根負けし、砺波は自らの事情を話したことがあったのだ。

 

砺波自身も、幼少の頃から世話になっている綿貫 景虎の心配を無下にするわけにはいかず。もう数十年前にもなる初めての出会いの時から、少しも容姿が変わっていないあの老人があまりの心配を呈してきた為に、彼にだけは自分からソレを伝えていたことを思い出しつつ…

 

あの『妖怪』と呼ばれる【決闘世界】の重鎮は、何かと若手に甘いことでも有名であり、他言無用と言ったはずのソレもどうせ孫の様に可愛がっている琥珀にせがまれて、そして根負けして教えてしまったのだろう。

 

 

 

「でもさー、俺っちの方もよーやくスッキリしたんだぜ?あん時のジーサン強ぇーのになーんか様子おかしかったし、【白鯨】出させてもねーのに世間は【白鯨】のジーサンの事堕ちたの何だの言ってっし、俺っちはそのまま【白竜】なんて呼ばれるようになっしさぁ…」

「…あの試合で負けたのは私です。世間がどう言おうと、君が新たな【王者】となったことには変わりありません。」

「あ、いーのいーのそう言うお堅いのは。まっ、俺っちもこのままじゃさ、ジーサンに勝ったとか言われてるのが正直気持ち悪いのね。こっちからしてみれば、『本気』のジーサン倒してねーってのにさ。」

 

 

 

あの世紀の一戦と呼ばれている下克上の裏の、交錯していたそれぞれの思い。

 

【白鯨】の方には、【化物】の少女に敗れたショックと『名』を無くしていた喪失感。不調と騒ぎ立てるメディアからの執拗な粘着と、好き勝手に囃し立てる一般人からの好奇の目。

 

『天才』の方には、大きな目標であった【白鯨】の様子のおかしさと、自身が納得していないにも関わらず盛り上がる周囲との不協和音。

 

新たな王の誕生と言われても、自分の中では未だ【白鯨】の影が大きくちらついているというのに…頂点に立ったと言われ続けるこの年月を、果たして琥珀はどのような思いで過ごして来たのだろうか。

 

 

 

「つまり俺っちは、まだジーサンに勝ったなんて思えてないってわけ。だからさ…」

 

 

 

そして…何やら言葉を潜めながら、言葉を溜め始めた新堂 琥珀。

 

自ら重くしたこの状況で、彼は一体何を言おうというのか。更に怪訝に琥珀の真意を勘繰ろうとしている砺波を他所に…

 

そのまま琥珀は一呼吸置くと、すぐさま砺波へと言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

「プロに戻って来なよ【白鯨】のジーサン。んでさ、今度こそガチで【王者】賭けて戦ろうぜ?」

 

 

 

 

 

手を差し出して、言葉を発して。

 

…己の真意を琥珀は向けて。

 

一見すると、自らが降した元王者【白鯨】を煽っているとも取れるであろうその言葉ではあったものの…その言葉に嘘偽りが紛れていないことは、言葉を差し出された砺波が一番よく分かっていたことだろう。

 

吐き出す言葉は軽いものの、琥珀がサウス校の学生だった時から砺波は琥珀の事を知っている。

 

琥珀がどれだけ【白鯨】であった自分の事を慕ってくれていたのか、ソレをその眼で見てきた砺波もまた、彼が今もなおシンクロ王者【白鯨】を望んでくれていることは砺波自身が誰よりもよく知っているのだから。

 

…そう、誰よりも【白鯨】の引退にショックを受けていたのも、間違いなく琥珀自身。

 

砺波が引退を表明したその当時…勝者の身でありながら、必死に砺波へと『引退の撤回』を懇願してきた琥珀の姿を…

 

砺波は今も、覚えているから。

 

 

 

「…ふむ。」

 

 

 

…そんな気持ちを今もなお持っていてくれる現【王者】にここまで言われて、一体【白鯨】は何を思うのだろう。

 

深海よりも深いこの鯨の闘争心と実力が、未だ現役の【王者】達と比べても全く遜色無いレベルにあるということ、はここに居る誰の目にも明らかであり…

 

闘争心を剥き出しにして迫る【白竜】の気迫に中てられ、言葉を発せられない遊良とルキが息を飲む中…

 

 

 

 

 

 

―砺波は、己の意思をその口から放った。

 

 

 

 

 

 

 

「お断りします。」

「いや何でさ!ここはカッコよくノるとこでしょーが!」

「何と言われようとも私は当に引退した身。プロにも王座にも、もう未練はありません。」

「えー…ジーサンそんなノリ悪かったっけ…」

「私にはここでやるべき事があります。それを放り出して自分の為だけに動くことなど…君には悪いが、するつもりは微塵もない。」

「…つまんねーのー…」

 

 

 

現【王者】の言葉を受けてもなお、鯨の意思はどこまでも深く。そのまま砺波の視線は琥珀を越えて、その先に立っていた遊良へと向けられている。

 

 

―そう、砺波からすれば、【白鯨】を失っていたこと、【王者】を陥落したことなど、当に乗り越えた過去の出来事。

 

 

自らの『名』を取り戻し、今再び【白鯨】の名を名乗ることに誇りを持てたからこそ…その全ての時代の『流れ』を受け入れた砺波の心には、【王者】の座にも琥珀との再戦にも興味が沸かないのだろう。

 

【王者】ではない、『今』の自分に出来ること。

 

ソレが何なのか、そしてソレがどれだけ面白いのか。この時代の流れと、教え子や【白竜】を含めた新しい世代への達観と傍観、そして『力』を持った者の責任と責務を十二分に把握している鯨の眼差しは、きっとどの生物の眼よりも優しかったに違いなく。

 

 

…しかし、ソレを見た琥珀が何を思ったのか。

 

 

琥珀は静かに振り向くと、砺波の視線の先へと自らの視線も向け始めた。

 

 

 

「ふーん、このガキンチョがねー…」

「ッ!?」

 

 

 

言葉と共に、琥珀は不意に遊良の肩に片手を置き…

 

吐き出されたその言葉が、遊良の背筋に謎の悪寒を走らせ…溜息とともに向かったその声が遊良の耳に届いたその瞬間、体を竦みあがらせるような寒気となりて、遊良の全身へと襲い掛かってくるではないか。

 

ソレに触れた瞬間に、一刻も早く『琥珀から離れろ』と言う命令が脳から遊良の全身に発せられたものの…

 

 

―時既に遅く。逃げられない、逃げ出せない、逃げることが出来ない。

 

 

まるで張り付いたように、地面に張りつき動こうとしない遊良の両足。

 

琥珀に軽く肩を掴まれているだけだというのに、まるで圧倒的な腕力で押さえつけられているかのような錯覚を感じる感触の所為で、遊良はその場から動くことすら出来ないのだ。

 

 

 

「遊良!?」

「な、何を…」

「待ちなさい新堂君!天城君に何をするつもりですか!」

「いやジーサンはさ、このボウヤ育てるのに夢中ってわけなんでしょ?じゃあさ…」

 

 

 

そして…

 

砺波の制止を振り切り、琥珀の表面から出現し始めた『想像を絶する気迫』が遊良を飲み込みかけた…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

「やめなさい!」

 

 

 

―!

 

 

 

砺波の放ったその怒号が、遊良を飲み込まんとした『想像を絶する気迫』を打ち消し相殺して。

 

 

―鋭い怒りと、鋭い眼差し。あまりに猛った鯨の咆哮。

 

 

瞬間的に琥珀の肩を掴んだその手は、確かな怒りを纏い琥珀を引き離しにかかっていて…

 

轟きを放つ鯨の眼差しは、果て無き深海よりも更に深いのでは無いかと勘違いするほどの剛毅を纏い、それはそれは重く琥珀へと突き刺されていたことだろう。

 

 

 

「…んだよジーサン、全然弱ってねーじゃん。寧ろ前に戦った時より強くなってね?引退してから強くなるとかちょーウケんだけど。」

「…今、『何』をしようとしていた?」

「おっ!?シシッ、ジーサン超こえー。ってか冗談だよ冗談、別にこのガキンチョ『壊したら』ジーサンが戻ってくるなんて思っても無いってのー。」

「君のしようとしていたことは冗談では済まされない。…これ以上私の学園で勝手なことをするつもりなら…」

「へいへい、わかりましたよー。つーか早く離してくんね?肩痛いんだけど。」

 

 

 

しかし、竦みあがる程の砺波の威嚇を物ともせずに、あっけらかんとそう言放つ琥珀。

 

…しかし肩を離された遊良はと言えば、急に収まった琥珀のプレッシャーと、突如噴出した砺波のプレッシャーとの寒暖差の所為で、その額から冷や汗が滲み出ているではないか。

 

激しく打ち鳴らされる心臓の音が遊良の耳に痛く反響し、激動している心臓に反して体温がみるみる下がっていくのを遊良は感じ…

 

たった今、自分が琥珀に『何』をされかけたのかを今更ながら理解したのか。遊良の脳裏には、不意に師、【黒翼】がかつてふざけ半分で放っていた言葉が急に浮かび上がってきて…

 

 

 

 

―『カッカッカ、俺がこの学園の生徒全員に引導を渡してやる。お前さんみてーに、トラウマになるくらいぶっ潰して、んで全員仲良くデュエルなんて出来ねぇ体にしてやんよ。まぁそんな事になったら、確実にイースト校は大変だぁな。』

 

 

 

…それはかつて、【黒翼】天宮寺 鷹峰がイースト校で学生相手にやろうとしていた事に似た行為。

 

【王者】クラスの決闘者が持つ圧倒的な『圧力』。人を簡単に壊すことの出来るソレ。圧倒的強者の中には、他人を導く道に進む者も居れば…他人を壊すことに何の抵抗も覚えず、嬉々として他人を壊そうとしてくる者も居る。

 

そんな遠慮も手加減も無い『圧力』に、学生程度が『本気』で中てられれば…

 

 

―上手くやっても心が折られ、下手をすれば廃人。

 

 

いくら遊良が【黒翼】を師に持ち、似たようなモノにある程度中てられ慣れているとは言え、手心のある師のモノと容赦の無い琥珀のモノでは、確実に勝手が違ってくるだろう。

 

また完全に蚊帳の外に居た所為で、今何が起ころうとして、今何が起こったのかを理解出来ていないルキを余所目に…まったく抵抗する事も出来なかったことで、改めて遊良は【王者】と呼ばれる人種の危険さを思い知った様子。

 

どうにか砺波のとっさの怒号でソレが掻き消されたからよかったものの、逆に砺波がもしこの場に居なかったら…と、ソレを考えるだけで遊良の背筋に更に寒気が走り、心臓の鼓動が更に大きくなる。

 

…しかし、そんな遊良の冷えていく表情を意に介さず。

 

更に琥珀は、淡々と言葉を続けた

 

 

 

「ま、いっか。ねぇEx適正の無いボウヤ。」

「…え?」

「俺っちとデュエルしよーぜ?」

「…は!?いや、あの…」

 

 

 

突然、唐突、突如、突発。

 

たった今『あんなこと』をしでかそうとしたばかりだというのに、琥珀からの突然すぎるデュエルの誘い。

 

…まさか遊良も、この状況と【白竜】という王者を前にして、こんな言葉をかけられるなんて思ってもなかったことだろう。

 

縛ることなど出来ない唯我独尊である【黒翼】と、引退して決闘学園の理事長を務めている【白鯨】という特例は別として…素行はどうあれ、世界に轟く【王者】が自分から他人をデュエルに誘うということなど、本来ならばあってはならない事。

 

【王者】の責務と地位と実力、その一戦によって数え切れない額の金が動き、数え切れない程の人間が関わってくるのが王者のデュエルなのだ。

 

だからこそ、ソレは一介の学生に対する言葉などでは断じてなく、こんなにも軽んじて行うモノでは絶対にないはずだと言うのに。

 

 

 

「新堂君!勝手は許さないと言ったはずですが!?」

「えー?いいじゃん別に。ちょっと戦るだけだって。」

「…君は【王者】の自覚が足りなさ過ぎる。一体何を企んで…」

「シシッ、企んでるて人聞きわりーね。だからあれは冗談だって。ほらなんてゆーの?胸を貸してあげましょう!的な?」

「…君がたった今天城君にしようとしたことをもう忘れたのですか?仮に君に他意が無いのだとしても…『あんな事』をしかけた君を、天城君を戦わせることなど出来るわけがないでしょう。」

「えー?大丈夫だって。つーかさー、【白鯨】のジーサンだって俺っちが学生ん時、自分から戦ろうつって誘ってきたじゃん。だからジーサンにとやかく言われる筋合いもねーし。」

「…また古い話を…」

 

 

 

また、怪訝な顔を崩さぬ砺波へと、何やら言葉を投げかけた琥珀。

 

 

…それは、まだ砺波が王者【白鯨】であった頃。

 

 

旧友であるサウス校理事長、『烈火』と呼ばれた元プロデュエリスト、獅子原 トウコに用があってサウス校を訪れた時…トウコから、学生の枠に収まらぬ程の才能の持ち主だと紹介されたサウス校の学生であった琥珀に興味を持ち、王者【白鯨】として胸を貸すつもりで一戦交えた、その過去の出来事。

 

しかし、当時は好調の中にあった所為か、それともその時の自分が琥珀と同じオフの時だった為か…

 

その時の自分を少々気が緩んでいたとは砺波も思い返しているものの、今のこの場と過去のあの場は決して同じ状況ではない為に、砺波も簡単に琥珀の言葉を容認することは出来ず。

 

琥珀が何を考えてこの場に現れたのかわからない以上、砺波も琥珀に好き勝手に振舞わせるわけには行かないのだろう。

 

 

 

「いーじゃんいーじゃん。大体、【白鯨】のジーサンも綿貫のジッちゃんも紫魔っちもさー、王者がどうこう煩すぎんだよねー、立場がどうだの自覚がなんだのっつって。天宮寺のジイサンくらいだぜ?面白いことやりたがんのはさ。」

「…あの男は論外です。鷹峰のような奴を参考にすること自体が間違っている。」

「別にいーじゃんか。それにさ、【白竜】とデュエル出来るなんてボウヤにとってもイイけーけんになると思うぜ?」

「しかし、天城君の力では…」

「砺波先生!や、戦らせてください!」

 

 

 

しかし、そんな渋る砺波の声を遮り、遊良は突発的に声を荒げて。

 

自分が先ほど琥珀に何をされかけたのか、それを忘れたわけではないだろうが…それでも真意の読めぬ琥珀を前に、恐怖よりも戦意の方が勝っている様子。

 

そんな、言葉を遮られて視線をこちらへと向けている砺波へと向かって、遊良は更に言葉を続けた。

 

 

 

「は、【白竜】とデュエルできるなんて機会、逃したら次はどれだけ先になるか…」

 

 

 

―そう、これはチャンスだ。

 

 

【王者】とデュエル出来る機会など、常人が普通に生きていたら0にも等しいことなのだ。そもそも【王者】と戦うどころか、プロデュエリストに成れる人間すら才能を持った強者の中から更に選ばれた猛者だけだと言うのに…

 

 

【黒翼】を師に持ったこと自体が奇跡。

 

【白鯨】に鍛えてもらっていること自体が奇跡。

 

その重なり合った奇跡の中で、更なる奇跡が舞い降りたこの幸運。

 

 

こんな自分の前に、あろうことか現役の王者である【白竜】が現れ、あろうことかデュエルをしてくれると言うのだ。

 

今先ほど危うく『壊され』かけたと言うのに、その恐怖などすぐさまどこかに行ってしまったかのようにして振舞うその遊良の姿を、傍目から見ている砺波もルキも信じられなかったことだろう。

 

…しかし、そんなことは遊良からすれば些細なことなのか。

 

なにせ琥珀の行動や言動にやや難があるとは言え、そんなモノは師【黒翼】のソレと比べればまだマシなこと。

 

琥珀の『想像を絶する気迫』は、確かに容赦なく自分を壊そうとしてきていたものの、遊良とてこれまでの修業で幾度となく師、【黒翼】の圧力を受けてきているのだ。

 

だからといって、【黒翼】のソレと【白竜】のソレを比べられることなど出来ないものの…ある程度同種のモノに慣れているとも自負できるからこそ、遊良にとってこれは紛れも無いチャンスなのだから。

 

 

 

「君まで何を言いだすのですか…天城君、私は今の君の実力をよく分かっています。正直、今の君では新堂君の相手が務まるとは到底思えない。」

「…それは…」

「シシッ、そんなの当たり前のことじゃん。俺っちだって学生の時、【白鯨】のジーサンにボッコボコにされたんだし。」

「…あの時の君はまた別です。君はあの時点で、既にプロでも充分に通用する実力があった。」

「でもさー、『どっかの誰かさん』みたいにこれで何か掴むかもしれねーんだし、やっといても損にはならなくね?」

「ぬぅ…」

 

 

 

そうして、不意に言葉を止めた【白鯨】の、その思考は何を思っているのだろう。

 

今でも鮮明に思い出せるであろう、過去に手合わせをしたその一戦では、当時は不調どころか絶好調の中にあった王者【白鯨】を相手に、他の学生とは一線を画する才能を持っていた琥珀を持ってしても敵うはずもなかったのだが…

 

それでも、砺波との交戦が琥珀の内に眠る『天才』の実力と感覚を大いに刺激し、琥珀の才覚を完全に目覚めさせたのもまた事実。

 

現に、琥珀が急に頭角を現し始めたのは、【白鯨】との一戦の直後からだと言うことを琥珀自身も砺波自身も分かっているのだ。

 

だからこそ、強者との『一戦』は、普通の『一戦以上』の価値を持っていることを砺波とて理解している。

 

特に伸び盛りのこの年代は、少しのきっかけを与えただけで驚くほどに成長を見せるものであり…

 

 

 

「砺波先生、俺…」

「…私は、君の実力がまだまだ足りないことをよく分かっています。…しかし、君が自分自身の実力を、過信していないことも分かっている。」

「…え?」

 

 

 

故に、叩けば叩くほど磨くこの教え子の、更なる成長の為には今は確かに良いチャンスといえば良いチャンスと言え…

 

 

 

 

「…仕方ありません、打ちのめされてきなさい。」

「ッ!?…は、はい!ありがとうございます!」

 

 

 

至った結論は至極単純。

 

全ては教え子を、強くするため。

 

 

 

「…何かジーサン、ちょっと丸くなった?」

「新堂君、何を企んでいるかは知りませんが、君の行動の何か一つでも危険だと感じたら、私が即刻デュエルを中止させてもらいます。」

「だから大丈夫だっつってんじゃん。別に取って喰うつもりなんてないし。『ごしどーごべんたつ』ってやつ?シシッ。ふつーにデュエルするだけだよん。」

 

 

 

また、真意の知れぬ琥珀への警戒も怠らず。鯨のあまりに鋭い警戒心の網が張り巡らされている内は、いくら琥珀とて遊良に下手なことは出来ないはず。

 

何か起ころうとした瞬間に、先ほどと同じように無理やり止めればいい。そうして何かあればすぐに察知できるように気を張りつつも、デュエルを行うためにスタジアムの両端に歩いていく遊良と琥珀を尻目に…

 

砺波は話に加わることが出来ずに蚊帳の外で傍観していたルキを連れてスタジアムを降りていく。

 

 

 

「あの、理事長先生…」

「はい、なんでしょう。」

「あの人…遊良をどうするつもりでこんな…」

「…わかりません。ですが、どうなるかは天城君次第でしょう。」

「…え?」

「実力の差は歴然。しかし、新堂君が『何』を仕掛けてくるのだとしても…あくまで、天城君が折れるかどうかは彼次第。それに…」

 

 

 

それは現状を把握しきれていないルキの不安を払拭しようとして放った言葉ではなく、あくまで砺波自身の意思と思考。

 

自らがこれまで鍛えてきた中で見てきた、天城 遊良という教え子の実力と精神力を誰よりも理解している砺波だからこそ至れるモノ。

 

ここまで至るまでに紆余曲折はあったものの、『Ex適正』を持たないこの教え子に対し、自分がここまで思えることに何の疑問も感じる事無く…

 

砺波は、更に言葉を発して…

 

 

 

 

 

「この私の教え子が、実力差程度で折れるはずがない。」

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「シシシッ、良かったねボクちゃん。【白竜】とデュエル出来るなんて一生モンの記念になるぜ?」

「…よろしくお願いします。」

「あり?ノリわりーね。もっとこうさー、『きゃー』とか『わー』とか『恐縮です』とか無いわけ?」

「…」

「ってアレか、そういやボクちゃん天宮寺のジイサンの弟子なんだっけ?妙に場慣れしてると思ったけど…シシッ、『次はどれだけ先になるか…』って、記念に一戦なんて微塵も思ってないじゃんね。食って掛かる気満々じゃん。」

 

 

 

遊良の言動や雰囲気が、そこらに居る並みの学生とは違うと言うことは【決闘祭】の決勝を見ていた琥珀にだって分かってはいただろう。

 

しかし、それでもこうして直に対面しているからこそ、先ほど不意に仕掛けたときとデュエルをしようとしている今では、目の前の少年の雰囲気は全く異なるモノだということを改めて琥珀は感じたのだろうか。

 

この年代にありがちなミーハーな感情もなく、あれだけ動揺していた立ち姿がこうしてデュエルのために対峙した瞬間に、歳相応のモノから『決闘者』が纏う戦いの雰囲気へと即座に切り替えられたのだ。

 

果たしてこの天城 遊良という『Ex適正』の無い【決闘祭】の優勝者が、一体どれほどのモノなのか。その些細な変化と、『決闘者』としての重要なモノを持った少年への興味で…

 

琥珀もまた、笑みを浮かべている。

 

 

 

(【白竜】…先生や砺波先生と同じだ、遠すぎて実力の差が全く分からないけど…でも、最初から全力で行かなきゃいけないことに変わりはない。)

 

 

 

また、遊良の方も【白竜】を相手に、意気込んではいるものの大きすぎる壁に対して、気負いすぎてもいない様子。

 

『今』の自分の実力が、現役の王者相手にどこまで通用するのか…

 

いや、通用なんてしないかもしれないが、【堕天使】を失ってから組み上げたこの『新たなデッキ』が、一体どれほどのモノとなっているのか。

 

それを、はっきりさせるために。

 

 

そして…

 

 

デュエルスタジアムの準備が整ったのか、遊良と琥珀のデュエルディスクがそれぞれデュエルモードへと切り替わり、腕に装着するとディスクが展開しデッキが現れる。

 

そのまま二人はデュエルディスクを構え、デッキから手札を引くと…

 

唐突に決まったこのデュエルで、各々の心情の元…

 

 

 

 

 

「まっ、気楽にいこーよ。」

「…はい。」

 

 

 

 

ーそれぞれの想いを胸に…

 

 

 

 

二人は、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

そして、始まる。先攻は、琥珀。

 

 

 

 

 

「俺っちのターン!【魔轟神レイヴン】を通常召喚!」

 

 

 

【魔轟神レイヴン】レベル2

ATK/1300 DEF/1000

 

 

 

デュエルが始まってすぐ、禍々しい光を纏う悪魔を召喚した新堂 琥珀。

 

彼の操る【魔轟神】というカテゴリー、その神にも等しい光の悪魔と言う、相反した混沌を統べる彼のデュエルスタイルは彼の【王者】の名と相まってあまりにも有名であり…

 

その始まりとなるモンスターを呼び出し、すぐさま琥珀は動き始めるつもりなのか。

 

頂点に立った、【王者】となった…

 

 

 

―シンクロ王者の決闘が、今…始まる。

 

 

 

 

 

 

「続いて手札の【魔轟神グリムロ】の効果発動!場に【魔轟神】が居る時、自身を墓地に送ってデッキから【魔轟神】を手札に加えるよ!俺っちは【魔轟神クルス】を手札に加え、続けて【魔轟神レイヴン】の効果発動!手札の【魔轟神クルス】と【魔轟神ルリー】を捨てて、レイヴンのレベルと攻撃力をそれぞれ上げる!その後捨てられたクルスとルリーの効果がそれぞれ発動!クルスの効果で墓地の【魔轟神グリムロ】を!ルリーの効果でルリー自身をそれぞれ守備表示で特殊召喚するぜ!更に手札から【魔轟神獣ガナシア】を捨て、同じく手札からチューナーモンスター、【魔轟神獣チャワ】を特殊召喚!ついでにガナシアも、自身の効果で特殊召喚!」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

【魔轟神レイヴン】レベル2→4

ATK/1300→2100 DEF/1000

 

【魔轟神グリムロ】レベル4

ATK/1700 DEF/1000

 

【魔轟神ルリー】レベル1

ATK/ 200 DEF/400

 

【魔轟神獣チャワ】レベル1

ATK/ 200 DEF/ 100

 

【魔轟神獣ガナシア】レベル3

ATK/1600→1800 DEF/1000

 

 

 

止まることなき展開で、一瞬で琥珀の場に並んだモンスター達。

 

始まったばかりだというのに、5体ものモンスターを場に揃えたこの流れるような展開こそ新堂 琥珀というデュエリストの真骨頂。

 

この掴み所の無い自由な展開は、彼の軽すぎる言葉のように敵のいかなる抵抗もすり抜けてしまうかの如く、他の追随を許さぬ圧倒的物量となって途切れる事無く行われるのだ。

 

相手がいかに喰らい付いてこようとも、追いつくことを決して許さぬように引き離しにかかるその圧倒的速度を持って…

 

―更なる展開を、琥珀は魅せる。

 

 

 

「シシシッ、じゃあ行くぜ?レベル1、【魔轟神ルリー】に、レベル4となった【魔轟神レイヴン】をチューニング!シンクロ召喚、レベル5!【TGハイパー・ライブラリアン】!」

 

 

 

【TGハイパー・ライブラリアン】

ATK/2400 DEF/1800

 

 

 

「続けてレベル4、【魔轟神グリムロ】に、レベル1の【魔轟神獣チャワ】をチューニング!」

 

 

 

一回だけでは飽き足らず、一体だけでは収まらず。琥珀の宣言によって、空に飛び上がる悪魔と魔獣。

 

琥珀の宣言によって、一つの光輪に吸い込まれるように怪しき女神がその輪を潜り…

 

 

 

「混沌渦巻く異界の王よ、轟きと共に姿を現せ!シンクロ召喚!」

 

 

 

女神の祈りと、獣の叫びが宙に消える時、異界の王が姿を現す。

 

 

 

「降臨!レベル5!【魔轟神レイジオン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【魔轟神レイジオン】レベル5

ATK/2300 DEF/1800

 

 

 

禍々しい光を纏い現れるは、轟く神々が住まう異界における、混沌を統べる謀略の王。

 

新堂 琥珀という『天才』が操る、【魔轟神】というカテゴリーが持つその圧倒的な物量と加速し続ける展開は、全ての手札を使い切ったとしても一度その波に乗ってしまえば、世界中の誰にも止める事のできない嵐の如く暴れ続けるのだ。

 

…激しい展開には付き物である手札消費すら、琥珀にとってはあって無いようなモノ。

 

 

―何せ、【王者】

 

 

世界の頂点に立つ決闘者。

 

 

常人ではこの目まぐるしさに、ついていくことすら出来はしないし…あまりの加速と物量は、例え目で追えたとしても気付いた時には手遅れになっていることに違いなく。

 

故に、こんな物では終わらないし、この程度で終わるはずも無い。

 

 

 

「レイジオンとライブラリアンの効果をそれぞれはっつどう!まずはレイジオンの効果で2枚ドローし、その後ライブラリアンの効果で更に1枚ドロー!そして俺っちは手札から、【魔轟神獣ノズチ】の効果を発動だぜ!手札の【魔轟神獣ケルベラル】を捨て、ノズチを特殊召喚!その後、捨てられたケルベラルも自身の効果で特殊召喚されるよ!」

 

 

 

【魔轟神獣ノズチ】レベル2

ATK/1200 DEF/ 800

 

【魔轟神獣ケルベラル】レベル2

ATK/1000 DEF/ 400

 

 

 

「ノズチの効果は発動しないで、レベル3のガナシアに、レベル2のケルベラルをチューニング!シンクロ召喚、レベル5!【A・O・J カタストル】!ガナシアは除外されっけど、ライブラリアンの効果で1枚ドロー!更に更に更にぃ!魔法カード、【死者蘇生】発動!墓地から【魔轟神獣チャワ】を特殊召喚して、レベル5のカタストルとレベル2のノズチに、レベル1のチャワをチューニング!」

 

 

(止まる気配がまるで無い…一体、どこまで…)

 

 

 

終わらぬ展開、止まらぬ召喚。加速し続けていく琥珀のデュエル。

 

並み居るプロでもついていける者の方が少ない、この【王者】の圧倒的な展開力と回転力。

 

まるで終わりが見えてこないソレを、今ここで見ているしかない遊良の目には…

 

果たして、このゴールの見えない地平の果てに待つモノが一体何なのか。それを想像することすら憚られるに違いないことであって。

 

 

 

「混沌逆巻く異界の神よ!深淵を纏いて姿を現せ!シンクロ召喚!降臨、レベル8!【魔轟神ヴァルキュルス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【魔轟神ヴァルキュルス】レベル8

ATK/2900 DEF/1700

 

 

 

場に現れしは、轟く神々が住まう異界における、混沌を操る策略の神。

 

その禍々しい威厳たるや、これまで遊良が体験したことのない代物であり…その禍々しい見た目と神々しさすら感じる後光には、微塵も油断が出来ない。

 

 

 

「シンクロモンスターが3体も…」

「シシシッ、ライブラリアンの効果で1枚ドロー!【貪欲な壷】を発動して、墓地のグリムロ、クルス、ケルベラル、チャワ、ルリーをデッキに戻して2枚ドロー!…おっ、いいカード引いたじゃん。【魔轟神ヴァルキュルス】のモンスター効果!今引いた【魔轟神クルス】を捨てて、俺っちは更に1枚ドローするよ!そして今捨てられたクルスの効果が発動し、墓地から【魔轟神レイヴン】を守備表示で特殊召喚してその効果発動!手札の【魔轟神獣ガナシア】を捨て、レベルと攻撃力をアップさせる!今捨てられたガナシアも、自身の効果で特殊召喚だぜ!レベル3のガナシアに、レベル3となったレイヴンをチューニング!シンクロ召喚、レベル6!【スターダスト・チャージ・ウォリアー】」

 

 

 

―!

 

 

 

【スターダスト・チャージ・ウォリアー】レベル6

ATK/2000 DEF/1300

 

 

 

「ガナシアは除外され、チャージ・ウォリアーとライブラリアンの効果で2枚ドロー!魔法発動、【ソウルチャージ】。墓地から【魔轟神レイヴン】を守備表示で特殊召喚しとくよ。…うーん、まだまだ行けっけど、まっ、もういっか。とりあえず最初はこんなトコにしといてやんよ。俺っちはこれでターンエンド。」

 

 

 

琥珀 LP:4000→3000

手札:5→3枚

場:【TGハイパーライブラリアン】

【魔轟神レイジオン】

【魔轟神ヴァルキュルス】

【スターダスト・チャージ・ウォリアー】

【魔轟神レイヴン】

伏せ:なし

 

 

 

始まったばかりのデュエル、その最初のターンから怒涛の展開を見せたにも関わらず、まるで息切れをしていない新堂 琥珀。

 

5体ものモンスターが並んだその場から発せられるプレッシャーは、生半可なデュエリストでは戦う気持ちすら折れそうになるくらいに荒々しいモノとなっており…

 

まだ動けたという琥珀の宣言通り、琥珀の場にはチューナーモンスターである【魔轟神レイヴン】が存在し、【TGハイパー・ライブラリアン】のドロー加速を合わせるとまだまだ琥珀は加速し続けられたのだ。

 

しかしソレをしなかったということは、琥珀の言った『最初はこんなトコにしといてやる』という言葉通り、まずは遊良の出方を見るのにこの盤面で充分と言っているのと同義。

 

舐められていると思うにもおこがましい。こんな中途半端に止めた展開でも、この程度をどうにかして来ないようでは期待はずれも良い所だと、そう言われているようなモノなのだから。

 

 

 

「俺のターン、ドロー…」

 

 

 

そんな果て無き琥珀のターンが終わり、どこか気負ったような声で自らのターンを向かえた遊良の心情どのようなモノなのだろう。

 

あまりに有名すぎるシンクロ王者【白竜】のデュエルは、もちろん遊良だって何度もその映像を見ているし、その実力が頂のその上にあることも理解している。

 

琥珀の最初から激しい展開を見てもなお【王者】の果てなど見えては来ないからこそ、砺波の言った通り、今の自分の実力では【王者】と渡り合えるだなんて思ってもいないし、そこまでうぬぼれてもいない。

 

 

 

(新しいデッキで出来ること…『今』の俺に出来る、最善の戦い方…)

 

 

 

やるべき事は唯一つ。

 

【堕天使】を無くした今だからこそ出来る戦い方。琥珀の状況を逐一考え、自分が出来ることを即座に考え、自らが組み上げてきた新たなデッキの力を信じ…

 

そうして、遊良はその手札の中から、一枚のカードを取ると…

 

 

 

「俺は…」

 

 

 

 

 

―進撃を、始める。

 

 

 

 

 

「魔法カード、【成金ゴブリン】を発動!LPを1000与え、俺はデッキから1枚ドロー!続けて【トレード・イン】を発動!レベル8の【鉄鋼装甲虫】を捨てて2枚ドロー!魔法発動、【テラ・フォーミング】!デッキから【チキンレース】を手札に加えそのまま発動!LPを1000払い、俺はデッキから1枚ドロー!更に【闇の誘惑】を発動!2枚ドローし、闇属性の【クラッキング・ドラゴン】を除外する!…よし、2枚目の【成金ゴブリン】を発動だ!LPを1000与えて1枚ドロー!まだだ【手札断殺】を発動!お互いに手札を2枚墓地へ送って、新たに2枚をドロー!」

「シシッ…めっちゃ引くねー。しかも【抹殺】じゃなくて【断殺】かよ。じゃあ俺っちも2枚交換っと。」

 

 

 

それはまるで止まる事のない、琥珀に負けず劣らずのドローの嵐。

 

【堕天使】を失っているというのに、ソレを微塵も感じさせないこの怒涛のドローは…【堕天使】を得る『前』と得た『後』、幼少の頃よりずっと貫き通してきた遊良『本来』の姿、遊良『本来』のスタイル、遊良『本来』の戦い方。

 

 

 

琥珀 LP:3000→4000→5000

 

 

 

それに『本来』のスタイルとは言っても、確実にこれまでのデッキとこの『新たなデッキ』はどことなく『違う』とも言えるだろう。

 

例えば、遊良の以前のデッキでは無闇にLPを減らすことを嫌ってか、LPと引き換えにドロー出来る【チキンレース】など選択肢にも入ってなかったのだが…今のこの最初の動きでは、ソレを全く気にした様子もなく、当然のように引いていた。

 

 

―それは、以前のデッキを失い、その後に【堕天使】を使って来たが故の遊良の成長。

 

 

LPを多量に削る効果を持つ堕天使達を操ってきたからこそ、以前のデッキと【堕天使】、それぞれのデッキから得られた経験がこの新たなデッキと化していて。

 

必要なカードは引けばいい、直接サーチが出来ないのならデッキの中から無理やり引っ張り出せばいい。LPを減らしても出来ることを全力で行い、出来る手、取れる手、考えうる自分に出来る全ての手を持って…

 

遊良は更に、進撃を始める。

 

 

 

「魔法発動、【ワン・フォー・ワン】!手札からモンスター1体を捨て、デッキからレベル1の【サクリボー】を特殊召喚!」

 

 

―!

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/200

 

 

 

そうして遊良の場へと、非力で無力な小さき毛玉が現れて。

 

琥珀の場に並んだモンスター達のどれと比べても見劣りするであろうソレもまた、以前の遊良のデッキには入っていなかったモンスターの一体。

 

しかも、その手足や背に纏う『異形の眼』は、つい先日の『フードの男』が操ってきたモンスターにも似たモノだと言うのに。

 

…しかし、これこそが遊良の新たなデッキのエンジン。

 

突き詰めてきた自分のスタイル、それを更に加速させるであろうソレは、先日の『トラウマ』をも乗り越えるという遊良の気概と共に、このデッキにおいて重要な役割を果たすのだ。

 

 

 

「ふーん、サクリボーねぇ…ってかまだ引く気?」

「まだだ!【サクリボー】1体の特殊召喚に成功したこの瞬間!速攻魔法、【地獄の暴走召喚】を発動!」

「ほ?」

 

 

 

そして、果て無きドローの嵐の後に、遊良の発動した一枚の魔法。

 

その攻撃力1500以下のモンスター一体のみの特殊召喚に成功した時のみ発動できるこの速攻魔法は、敵も味方もお構い無しに、手当たり次第にモンスターを召喚しにかかるまさに暴走の如く光を発し…

 

しかし、相手フィールドにモンスターが居ないと使えず、敵も味方もお構い無しにとは言え、あくまでソレは『メインデッキ』から呼び出せるモンスター限定のモノ。

 

また、そもそも琥珀の場は先ほどの驚異的速度と圧倒的物量によって5つ全て埋まっていているのだ。

 

つまり、今暴走の如く飛び出てくるのは、遊良の場のみであって…

 

 

 

「俺はデッキから、【サクリボー】を2体特殊召喚する!来い、【サクリボー】達!」

 

 

―!!

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/200

 

 

 

場に並んだ3体の【サクリボー】は、いずれも琥珀の場にいるシンクロモンスターを倒すことなど出来ない非力な毛玉。

 

いかに自分達よりも巨大なモンスター達に勇んで睨みつけてはいても、その体格差と威厳の差は到底覆ることはないだろう。

 

…しかし、何も遊良とてそのまま攻撃を仕掛けることなどやりはしない。その毛玉の名の通り、彼らは『生贄』に捧げられた時にこそ真価を発揮するのだ。

 

 

 

「行くぞ!俺は永続魔法【冥界の宝札】を発動!そして3体の【サクリボー】をリリース!」

「冥界の…うっわ、懐かしいカード出すもんだねぇキミ。まだ使ってる奴居たんだソレ。」

 

 

 

迷い無きその手に掲げられしは、迷うことなき遊良の魂。

 

 

…誰に何を言われようとも、例え誰かに笑われようとも。

 

 

―これが、これこそが自分に出来る戦い方。

 

 

 

 

 

震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

それは、現れるのだから。

 

 

 

 

「来い!【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

 

 

「おー!それ【決闘祭】で見た奴じゃーん!マジあがるぅー!」

 

 

 

遊良の叫びをどこまでも軽い表情のまま、軽い言葉を放つ琥珀。

 

しかし、それもどこまでしていられるか。持てる力の全てをぶつけて、その表情を変えてやると言わんばかりに猛る遊良の気迫が獣の王の叫びと相変わりて、獣の王がその槍を猛々しく振り回し始める。

 

例え相手が【王者】であろうと、例え強大なExモンスターが相手であろうと。

 

 

―全てを、吹き飛ばす。

 

 

 

「バルバロスの効果発動!3体リリースでアドバンス召喚した時…相手のカードを、全て破壊する!やれ、バルバロス!」

 

 

 

―!

 

 

 

そうして…

 

轟々なる爆裂音を放ち、琥珀のモンスター達が全て凄まじい衝撃波に飲み込まれていく。

 

その壮絶なる断末魔の叫びは、到底堪えきることなどできないモノとなって自らが受けている波動の凄まじさを叫び表していたことだろう。

 

―相手は【王者】、世界の頂点。

 

最初から全力で行くつもりでなければ、相手にすらしてもらえない。琥珀の場を一層したものの、手札を全て使い切ったその遊良の姿は勇む立ち姿と相まって、言葉に出さなくともソレを体現していたに違いなく。

 

…しかし、遊良が作り上げてきた新たなデッキは、何もこの激しい手札消費をそのままにしておくほど柔な代物ではない。

 

そう、普通ならば手札を全て使い切った果ての展開はピンチにもなるのだろうが…

 

 

 

「これで終わりじゃない!【サクリボー】3体と、【冥界の宝札】の効果発動!俺はデッキから…5枚をドロー!」

 

 

 

琥珀の場を一掃し、獣の王を召喚しつつも、手札を5枚まで回復させた遊良。

 

微塵も、欠片も、舞い上がってはおらず。

 

いくら相手が【王者】であろうと、遊良は同じ【王者】やそれと同格の師達に鍛えられてきたのだ。天上の実力を持った相手であろうとも…自らの力の全てを賭け、一点を鋭く狙うのみ。

 

 

 

「お、ちょっとはヤルじゃんね。シシッ、必死すぎてちょー笑えっけど。」

「まだだ!【死者蘇生】発動!墓地の【鉄鋼装甲虫】を攻撃表示で特殊召喚だ!」

 

 

 

【鉄鋼装甲虫】レベル8

ATK/2800 DEF/1500

 

 

 

遊良の墓地から蘇るは、遊良が幼少の頃に使っていた『通常モンスター』。

 

懐かしさすら感じるソレを今ここで呼び出し、出来る限り盤面を固めようとしているのだろうか。

 

ここまでしても手札を補い、次に供えることが出来る遊良の実力は紛れもなく『壁』を超えた者のソレ。遊良が自ら発動したチキンレースの所為で、このターン琥珀のLPを削りきることは出来ないものの…

 

それでも、これで琥珀が何もしなければ獣の王の攻撃によって、遠慮のない大ダメージが琥珀へと襲いかかることだろう。

 

 

そして…

 

 

 

「行くぞ、バトルだ!行け、バルバロス!【白竜】にダイレクトアタック!」

 

 

 

琥珀の隙を貫くように、獣の王が勢いよく【白竜】へと襲い掛かった…

 

 

―その時だった。

 

 

 

「ま、甘々の甘過ぎだけどねん。【バトルフェーダー】の効果はつどー。こいつを場に出してバトルフェイズを終了するよ。」

「…くっ。やっぱり…」

 

 

 

琥珀の手札から飛び出してきた小さな悪魔が、獣の王の槍をその身で受け止め弾き飛ばした。

 

…そう、【王者】がこんな簡単に攻撃を通すはずもなく。

 

あれだけ整えた場を一瞬で崩壊させられようとも、一瞬の隙を鋭く狙っている少年の視線が痛いほど突き刺さってこようとも…

 

至極当然、まるで何事もなかったかのようにして振る舞い、さも当たり前のようにして防ぐだけ。

 

まだまだ甘いという琥珀の言葉どおり、そんな程度では隙を突くことすらままならないと、琥珀の雰囲気がそう言っていて…

 

…しかし遊良からしてもそれは織り込み済みで、結果的に『こうなる』とわかっていても、ソレを乗り越える気概で遊良は強攻策を取ったのだ。

 

確かにあのままバルバロスの効果を使わずに、鋼の甲虫と共に琥珀のモンスター2体へと攻撃を仕掛けた方が琥珀の少なからずLPを削ることは出来ただろう。

 

しかしソレをした所で、強力なシンクロモンスターが並んだ琥珀の場を一時的に綻ばせることは出来るだろうが、だからと言ってそんな小さな傷などこのデュエルにおいてはあってないようなモノ。

 

どうせこのまま何もしなければ、次のターン一気に流れを持っていかれ…

 

いや、流れと言う生易しいモノではない。このデュエルの全てを持っていかれ、何も感じることすら出来ずにただ【王者】に蹂躙されるのを待つしかなかったのだから。

 

だからこそ、最初から全力で。

 

一気に決めきれるとは思ってなかったが、一気に決めきる気持ちがなければそもそも対峙することすら許されない。

 

例え当然のように防がれるのだとしても、琥珀の強固な盤面を一掃しきるのと出来ないのではこれから先の『未来』は雲泥の差。

 

…それはこのデュエルにおいても、これから『先』においても。

 

 

 

「…俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

遊良 LP:4000→3000

手札:6→2枚

場:【神獣王バルバロス】

【鉄鋼装甲虫】

魔法・罠:【冥界の宝札】、伏せ2枚

 

 

 

「俺っちのターン、ドロー!…ねーねーボクちゃん、そういやさー…」

 

 

 

そしてターンが一巡し、不意に手を止めた琥珀は一体何を思ったのか。徐にその口を開いたかと思うと、遊良へと向かって言葉を放り始めた。

 

 

 

「【決闘祭】ん時使ってたアレ、どうしたのよアレ。」

「…アレ?」

「なんだっけー…あの珍しい奴…そうそう!【堕天使】よ【堕天使】!何か【決闘祭】ん時とデッキちげーしさー、何でいきなりデッキ変えたのかなーって。」

「…ちょっと、色々ありまして…」

「ふーん。…まっ、デッキ変えるなんてこの業界じゃよくあることだけどさ。【決闘祭】優勝したのになんか勿体ねーなーって思っただけ。まーいいや、ボウヤの【チキンレース】の効果を使わせて貰うよん。LPを1000払って、更に1枚ドロー!」

 

 

 

琥珀 LP:5000→4000

 

 

 

しかし、それも単なる気まぐれだったのだろう、再びデュエルへと意識をすぐさま二人は戻して。

 

遊良の発動していたフィールド魔法は双方のプレイヤーに効果が及ぶが故に、当然のように琥珀もソレを利用してくることは遊良にはわかっていた。また、それを利用されても構わないと吹っ切れているからこそ、その後のターンへと向けて遊良は更に気を入れ直し…

 

しかし、そんな遊良を意に介さず。

 

琥珀は更に動き始める。

 

 

 

 

「魔法カード、【手札抹殺】を発動!俺っちは3 捨てて3枚ドロー!」

「…俺は2枚捨てて2枚ドロー。」

「オラオラ行くぜぇ?ついて来いよな!今捨てられたクルスとケルベラルの効果発動!クルスの効果で墓地の【魔轟神レイヴン】を、ケルベラルの効果で自身を!それぞれ特殊召喚!」

 

 

 

【魔轟神レイヴン】レベル2

ATK/1300 DEF/1000

 

【魔轟神獣ケルベラル】レベル2

ATK/1000 DEF/ 400

 

 

 

「手札の【魔轟神グリムロ】の効果発動!グリムロを墓地に送って、デッキから【魔轟神クルス】を手札に加える!んで【魔轟神レイヴン】のモンスター効果!手札のクルスとガナシアを捨てて、レイヴンのレベルと攻撃力をそれぞれ上げるぜ!クルスの効果で、墓地から【魔轟神グリムロ】を、ガナシアの効果で自身を!それぞれ特殊召喚!」

 

 

 

【魔轟神レイヴン】レベル2→4

ATK/1300→2100 DEF/1000

 

【魔轟神グリムロ】レベル4

ATK/1700 DEF/1000

 

【魔轟神獣ガナシア】レベル3

ATK/1600→1800 DEF/1000

 

 

 

1ターン目からあれだけ動いたにも関わらず、全くスピードを落とす気配のない琥珀の展開。

 

遊良に場を一掃されたにも関わらず、先ほどのバトルフェーダーと合わせてすぐさま5体のモンスターを場に揃え、落ちるどころか益々加速していくこの【白竜】のデュエルには、『底』というモノが無いのかと言うほどに激しい勢いとなっていて…

 

しかし、並のプロとは比べるのもおこがましい【王者】という存在の実力は、底など存在しないまさに天上のモノとも言えるからこそ、この程度は琥珀にとって造作も無いこととも言えるだろう。

 

 

 

 

「おいおい、じーっと見てるだけかいボクちゃん?」

「…」

「まっ、いいけどねん。何もする気が無いなら好きにやらせてもらうよ!レベル2のケルベラルに、レベル4のグリムロをチューニング!シンクロ召喚、レベル6!【瑚之龍】!」

 

 

 

【瑚之龍】レベル6

ATK/2400 DEF/ 500

 

 

 

そうして琥珀が召喚したのは、竜宮から出でしシンクロチューナーの一体。

 

【白鯨】砺波 浜臣も好んで扱うことでも有名なソレは、遊良にとってもある意味見慣れたモノには違いないものの…砺波が使うのと琥珀が使うのでは、例え同じモンスターであっても異なる存在と役割を持ったモノとなるのか。

 

砺波のモノとはどこか異なった雰囲気で、遊良を睨んで優雅に浮かぶ。

 

 

 

「どんどん行くよ!【瑚之龍】の効果発動!手札を一枚捨てて、【神獣王バルバロス】を破壊する!」

「くそっ、永続罠、【デモンズ・チェーン】発動!【瑚之龍】の効果を無効にする!」

「でもコストで捨てた【魔轟神ルリー】の効果は強制的に発動すっからね!ルリーを墓地から特殊召喚!レベル1の【バトルフェーダー】に、レベル6のシンクロチューナー、【瑚之龍】をチューニング!シンクロ召喚、レベル7!シンクロチューナー、【シューティング・ライザー・ドラゴン】!」

 

 

 

【シューティング・ライザー・ドラゴン】レベル7

ATK/2100 DEF/1700

 

 

 

「【瑚之龍】の効果で1枚ドロー!そして【シューティング・ライザー・ドラゴン】のシンクロ召喚成功時!デッキから【魔轟神獣ノズチ】を墓地に送って、シューティング・ライザーのレベルを2下げる!手札を1枚伏せて、レベル1の【魔轟神ルリー】に、レベル4となった【魔轟神レイヴン】をチューニング!」

 

 

 

止まらない、止まれない、加速し続ける新堂 琥珀。

 

ブレーキが壊れているのでは無いかと錯覚するほどのその勢いは、轟く悪魔達の存在と相まって、益々得体の知れないモノへと自らの雰囲気を変えていくではないか。

 

ー何をされても、どれだけ阻まれようとも、走り出したら止まらない。

 

学生時代から築き上げてきた伝説、プロになってからの破竹の勢い、そして【王者】と呼ばれる様になってからも更にその強さを上げ続けている琥珀の目指す場所は果たして『何』なのだろう。

 

頂点に至った者、その高みに辿りついた者。【王者】となっても飽き足らず、果て無き『そこ』へと嬉々として向かおうとしている琥珀だからこそ、その深淵の淵が今、顔を出し始めて…

 

 

 

「シンクロ召喚!降臨、レベル5!【魔轟神レイジオン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【魔轟神レイジオン】レベル5

ATK/2300 DEF/1800

 

 

 

「レイジオンの効果で2枚ドロー!伏せてた【貪欲な壷】を発動し、墓地のヴァルキュルス、レイジオン、グリムロ、ルリー、ノズチをデッキとExデッキに戻して2枚ドロー!そして今引いた【魔轟神グリムロ】の効果!自身を墓地に送って、デッキから【魔轟神獣キャシー】を手札に!魔法発動、【暗黒界の取引】!お互いに一枚引いて一枚捨てる!そして今捨てられた【魔轟神獣キャシー】のモンスター効果が発動するよ!【チキンレース】は破壊だぜ!」

「なっ!?」

「いっくぜぇ!レベル3の【魔轟神獣ガナシア】に、レベル5となった【シューティング・ライザー・ドラゴン】をチューニング!」

 

 

 

天に昇りし光の柱、その純白の先に待つのは果たして一体何なのか。

 

益々上がって行く琥珀のギアと、その雰囲気が纏う気迫がさらに凄みを増していき…

 

 

 

「深淵に煌く輝きよ、果て無き輪廻の光となれ!シンクロ召喚!光臨、レベル8!【ライトエンド・ドラゴン】!」

 

 

 

【ライトエンド・ドラゴン】レベル8

ATK/2600 DEF/2100

 

 

 

現れしは、【白竜】が統べる数多の『白竜』の内の一体。

 

今でこそ一般のデュエリストにも使い手が多いこの白き光竜だが、その全てはこの新堂 琥珀が幼少の頃から好んで使用し、その存在を一躍世界に知らしめたからこそ琥珀に憧れた全てのシンクロ使いがこぞって真似して扱うようになったと言っても過言では無いのだ。

 

そんな歴史の一つを作ってきた歴戦の竜が、全てを掻き消さんとする光を纏い…

 

無謀にも【王者】に挑もうとしている少年へと向けて一つ、大きな咆哮を放つ。

 

 

 

「ライト…エンド…」

「シシシッ、俺っちの昔からの相棒だぜ。その効果くらい知ってんだろ?」

 

 

 

無論、遊良もこれまでの人生で数度、この白き光竜を相手にしてきたことはあるものの、琥珀を模して扱っているデュエリスト達と【白竜】自身が召喚した光竜の放つプレッシャーは同じモンスターであっても全くの別物。

 

また、最初にドローするために利用し、今こうしてわざわざしっかりと【チキンレース】を破壊してきたと言うことは、このターン確実に遊良にダメージを与えに来たに違いないだろう。

 

それを遊良もはっきりと察したからこそ、身構えるその心をコレまで以上に強く持とうと意識はするものの…

 

琥珀の纏うオーラが、『想像を絶する気迫』となって遊良の肌を刺すように…

 

 

 

 

「待たせたなぁ!行くぜ、バトルだ!【ライトエンド・ドラゴン】で【神獣王バルバロス】に攻撃!攻撃宣言時、ライトエンドの効果発動!ライトエンドの攻守を500下げ、バルバロスの攻守を1500下げる!」

「バルバロスに!?ぼ、墓地の【サクリボー】のモンスター効果!バルバロスが戦闘破壊される場合、代わりにサクリボーを除外する!」

「けどダメージは受けるかんね!喰らいなぁ!光輪のライトニング・パニッシュ!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊良 LP:3000→2400

 

 

 

「ぐっ…」

「まだまだ!レイジオンで【鉄鋼装甲虫】に攻撃!」

「攻撃力が低いレイジ…ッ!?」

「察しがいいねぇ!ダメージステップ開始時、手札の【オネスト】の効果発動!レイジオンの攻撃力を【鉄鋼装甲虫】の攻撃力分、2800ポイントアップさせるよ!」

 

 

―!

 

 

 

 

「ぐぅ…」

 

 

遊良 LP:2400→100

 

 

 

光の悪魔の一撃が、身を守っている鋼鉄の虫へと炸裂して。

 

それに伴い、遊良のLPが勢いよく減っていってしまい、どうにか0となるそのギリギリの所で足を止める。

 

どうにか首の皮が一枚繋ったものの、ライトエンドの攻撃先をバルバロスではなく【鉄鋼装甲虫】にされていたら…

 

【オネスト】と合わせてこのターンで勝負がついていた。ソレを思うと、どうしても琥珀の『意図』が遊良に嫌でも伝わってきてしまうのか。

 

 

 

「サ、サクリボーを除外することで…【鉄鋼装甲虫】は破壊されない…」

「うんうん、その必死さに免じてわざわざライフ100残してやったんだし、頑張ってもう1ターン足掻いてきてよねん。最後の【貪欲な壷】を発動。墓地のグリムロ、クルス3体、ライブラリアンをデッキとExデッキに戻して2枚ドロー。俺っちは2枚伏せて、ターンエンド。」

 

 

 

琥珀 LP:5000→4000

手札:2→1枚

場:【ライトエンド・ドラゴン】

【魔轟神レイジオン】

伏せ:2枚

 

 

 

 

 

「お、俺のターン…ドロー…」

 

 

 

…手を抜かれている。

 

LPを意図的に100残されたこともそう。チャンスを与えているといえば聞こえはいいが、その実は掌の上で転がして遊んでいるだけとも思われるその行為。

 

【黒翼】の蹂躙とも、【白鯨】の指導とも違う。こうもあからさまに手を抜かれていることを実感してしまったが故に、いくら相手が【王者】であっても遊良の心にはどこか小さなざわつきが生まれている様子。

 

 

 

「…俺は魔法カード、【アドバンスドロー】発動!バルバロスを墓地に送って2枚ドロー!魔法カード、【死者転生】発動!手札を1枚捨ててバルバロスを手札に戻す!そして今墓地に捨てた【グローアップ・バルブ】の効果発動!デッキの一番上を墓地に送って、自身を特殊召喚!永続罠、【量子猫】を発動だ!地属性獣族となり、守備表示で特殊召喚する!」

 

 

 

【グローアップ・バルブ】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 100

 

【量子猫】レベル4

ATK/ 0 DEF/2200

 

 

 

それでも遊良はあくまでも、ただ全力で動くのか。

 

…手を抜いて、気を抜いて、油断していたいならば油断していればいい。

 

 

 

 

 

「…行くぞ!俺は3体のモンスターをリリース!」

 

 

 

相手は【王者】、世界の頂点。

 

そんな相手と相見えることなど、中々巡ってくるチャンスではない。だからこそ、相手がどんな態度をとってこようと、相手がどんなことを言ってこようと…遊良にとって、この険しすぎる大きな『壁』を必死になって喰らい付くしか強くなる道は無いのだ。

 

 

…何度でも、何度でも、何度だって。

 

 

『今』の自分に出来る戦い方。己の魂のカードを駆使し、相手を全力で吹き飛ばす…

 

 

その為に。

 

 

 

「レベル8、【神獣王バルバロス】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000  DEF/1200

 

 

 

轟く咆哮を響かせて、猛り狂うは獣の王。

 

先ほど攻撃を食らわせてきた、目の前に鎮座する白き光竜を睨みつけ…

 

その全て壊さんと、その槍を鋭く振り回し始める。

 

 

 

「アドバンス召喚成功時、【神獣王バルバロス】の効果発動!」

「またそれかよ。つーか流石に同じ手はイカンでしょーが。破壊の前に罠発動、【貪欲な瓶】。墓地からキャシー、レイヴン、ノズチ、シューティング・ライザー、死者蘇生をデッキに戻して1枚ドロー。」

「くっ、…でも、全て吹き飛ばせ、バルバロス!」

 

 

 

猛り狂った獣の王の槍が地面へと突き刺され、轟音を伴う衝撃波となって琥珀の場へと襲いかかる。

 

また、何やら遊良へと向かって言葉を発していた琥珀ではあったものの、その態度とは裏腹にそれ以上琥珀は動こうとはせず…

 

されるがままに飲み込まれ、光の悪魔も、白き光竜も、残っていた伏せカードもろとも全てが衝撃波に飲み込まれていくではないか。

 

しかし、その光景とは裏腹に…

 

琥珀は一つ、冷たい笑みを浮かべて…

 

 

 

 

「更に【冥界の宝札】の効果で2枚ドロー!」

「ダメだねぇ…全くダメダメ…ダメダメのダメ!伏せてた【やぶ蛇】の効果発動!相手に破壊されたため、俺っちはExデッキからモンスターを特殊召喚するよ!」

「なっ!?」

 

 

 

一瞬の不敵な冷笑の後、いつもの表情に戻った琥珀。

 

止まらぬ加速と、軽やかな声。どこまでも変わらぬその軽口は、まるで格の違いを思い知らせるとでも言うのだろうか。

 

 

 

 

「鋭き翼の煌きよ、輪廻を貫く光となれ!光臨、レベル8!【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】」

 

 

 

―!

 

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】レベル8

ATK/3000 DEF/2500

 

 

 

遊良の効果を逆手にとって、遊良の破壊を引き金にして。

 

現れるは、水晶の翼持つ白き翼竜。

 

シンクロ召喚を『名』に刻み、そのあまりの神々しさを放つ透き通る翼は、まさに形容しがたい美しさを醸し出していることに違いなく。

 

…古の時代、神話の時代。かつて『あった』とされる、『シンクロ召喚』だけが世界の全てだった、『竜の伝承』に現れし神話を紡ぎし竜の一体。

 

新堂 琥珀が学生時代、『チャンピオンズ・リーグ』に学生の身でありながらも優勝を果たした際に…【決闘世界】から特別に与えられた、世界でも有数の特別なカード。【黒翼】の持つ『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』との関係性は依然として不明だが、同じく『召喚法の名』を呈するだけあって、その存在感は計り知れない。

 

 

 

「クリスタルウィング!?…け、けど、ここで引くわけにはいかないんだ!行けバルバロス!バトルだ!」

 

 

 

…しかし、そんな伝承の白き竜を前にしてもなお、遊良は攻める気持ちを折る事無く前へと向かうのみ。

 

 

 

「は?クリスタルウィングの効果知らないわけじゃないっしょ?」

「わかっている!だから、こうするんだ!攻撃宣言時に墓地から罠カード、【ブレイクスルー・スキル】発動!」

「おっ…」

 

 

 

いくら相手が古の神話を持つ竜であろうと、そんなモノに怯む遊良ではない。

 

そう、最初のターン、【手札断殺】を使い予め墓地に送っていたこのカード。その効果により、琥珀の場の白き翼竜がその輝きを落としていくではないか。

 

 

 

「これでクリスタルウィングの効果は無効!まだだ!速攻魔法、【禁じられた聖杯】発動!バルバロスの攻撃力を400アップさせる!行け、バルバロス!クリスタルウィングに攻撃!」

 

 

 

駆ける獣王、轟く咆哮。

 

天へと大きく飛び上がり、その槍の切っ先で狙うは水晶の両翼。

 

舐めているなら舐めていればいい。落胆したければ落胆していればいい。そんなモノなど、相棒と共にこれまで常に吹き飛ばしてきたからこそ、相手がどれだけ強大な伝説を持とうとも恐れも何も抱かずに、獣の王が力の限り吼え…

 

 

 

 

 

「天柱の崩壊、ディナイアー・ブレイカー!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

「…シシッ、ちったぁ足掻くじゃんね。」

 

 

 

琥珀 LP:4000→3600

 

 

 

僅かについた王者への傷。

 

小さな傷だが、それでも油断の隙を逃さずに与えた、確かなダメージ。

 

微々たるモノではあるものの、琥珀の思惑を確かに外して与えることの出来たそのダメージは、ダメージ量とは裏腹に衝撃的には大きかったことだろう。

 

 

 

(…ッ!?い、今一瞬、【白竜】の感じが…)

 

 

 

しかし、ダメージが入ったその瞬間…

 

琥珀の笑みがコレまでとはどこか違った冷たいモノになっていたことを、遊良は見逃さなかった。

 

不意に遊良に、震えが走る。

 

 

 

「カ、カードを一枚伏せ、タ、ターン…エンド…」

 

 

 

遊良 LP:100

手札:4→2枚

場:【神獣王バルバロス】

魔法・罠:【冥界の宝札】、【デモンズ・チェーン】(効果なし)、伏せ1枚

 

 

 

「俺っちのターン、ドロー。」

 

 

 

いつも軽い言葉しか吐かぬ琥珀の口調が、ほんの少し…言われても気付かぬ程の、ほんの少しだけ冷たさを持っていたことはきっと、目の前で対峙している遊良にしかわからなかったことだろう。

 

ドローを行う琥珀の所作の一つ一つが、形容しがたい気迫に塗れていくその一部始終をじっくりと見ている遊良の肌に不意に鳥肌が立ち始め…

 

しかし、そんな遊良を見てか見ずか、琥珀は徐にその口を開いた。

 

 

 

「…最初とおんなじ手を押し通してきた時はさー、正直ガッカリしたけどさー…クリスタルウィング突破して、俺っちに傷つけたことだけは褒めてやんよ。」

「…え?」

「まっ、テキトーに遊んでやるだけのつもりだったけど、ここまで必死になられちゃ俺っちも少しだけアツくなってやっても良いかもってこと。…だからコレはサービスねん!皆には内緒にしとけよ!?ホントだったら!学生相手にコレ使うつもりなんて無かったんだしさ!」

 

 

 

遊良の感じた震えと違和感を嘲笑うかのように、一瞬で今までのどの口調よりも軽やかに宙に舞い始める琥珀の声。

 

軽やかにとは言いつつも、その全身からあふれ出る『想像を絶する気迫』と、琥珀の持った1枚のカードから今にも飛び出しそうな『神々しさ』すら感じるオーラが、容赦なくその勢いを増していく。

 

…しかし一体、何をしようと言うのか。

 

少々落胆を見せた先ほどとも、どこか冷たさを見せた先ほどとも違う。

 

琥珀の声がどこまでも軽く、熱く、そして空へと上昇していき…

 

 

 

「俺っちの墓地の光属性は、ライトエンド、レイジオン、ケルベラル、オネスト、ソルキウスの5体!コイツは墓地の光属性モンスターが5体の場合に、手札から特殊召喚できる!」

「なっ!?そ、その召喚条件は!?」

 

 

 

そんな琥珀の口から飛び出した、その『特異』な召喚条件。

 

その召喚条件によって呼び出されるモンスターなど、遊良の記憶と知識には、この世界に『6体』しか存在しない。

 

 

 

「そうさ!しかと見やがれ!来い!【光霊神フォスオラージュ】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【光霊神フォスオラージュ】レベル8

ATK/2800 DEF/2200

 

 

 

煌き輝く雷光を放ち、古の眠りから目覚めし光。

 

偏に『神』とも呼ばれることのあるソレは、その特異な召喚条件による扱いの難しさと、まるで意思を持っているかの如く並の決闘者に扱われることを嫌い…

 

その事から現代では、【決闘世界】がその所持者を選び、そして扱うことを許されるという、まさに神にも準ずるカード。

 

 

 

「れ、【霊神】…新堂君、まさか君もソレを…」

 

 

 

そう、同じく【霊神】の一体…【氷霊神】の所持を許可されている元シンクロ王者【白鯨】は、【霊神】の所持が許可されることが一体どれだけの責務を持つのかを知っている。

 

一つ扱いを間違えれば、自分の身に何が起こるのか。それは【霊神】自身の効果であったり、現実での自分の体のことであったり。

 

デュエルで【霊神】を扱いきれなければ、圧倒的不利に陥ってしまうことは必至であり…精神で【霊神】を制御できなければ、『神』の力にも似た怒りが自らの身に降りそそぐのだ。

 

だからこそ、誰にでも簡単に扱えるカードでは無いが、簡単に扱うことが出来なければ【王者】にあらず。

 

先ほどの遊良の【手札断殺】をも逆手にとって、まるで5体の光属性モンスターが墓地に揃っていることは琥珀にとっては決定事項だったかのように…

 

今この場を丁度誂えたかのように、琥珀の場に【霊神】が現れたこともまさに必然であって。

 

 

 

「こ、【光霊神】…光の、神…」

「じゃあ行くよ!【光霊神フォスオラージュ】のモンスター効果!特殊召喚成功時に、相手のモンスターを全部破壊する!」

「なっ!?」

「全体破壊はボクちゃんの専売特許じゃないんだぜ?行くぜフォスオラージュ!サンダー…ボルトォォォォオ!」

 

 

 

―!

 

 

 

轟く雷鳴が遊良の場を襲い、成す術無く破壊されてしまう獣の王。

 

…それは落雷を模した、とある古の魔法カードの効果その物。あまりに激しいその『魔力』を、己の身一つに内蔵しているからこそこの神々しさを放つ存在は『神』とも称して表されるのだ。

 

今の時代、世界中探しても【霊神】を公式的に扱う許可を持っているのは【白鯨】の名を持つ元シンクロ王者、砺波 浜臣しか存在せず…

 

公式記録では、【白竜】が【霊神】を扱った記録などない。故にこの光景は、誰も知らぬ、世も知らぬ。まさに今ここにいる者だけが知りえる光景とも言えるのか、

 

 

 

「くそっ!れ、【霊神】なんて…」

「おいおいおいおいおいおいおいぃ!なーにこの程度で驚いてんのさ!」

「…え?」

「言ったろ?サービスだってさぁ!仮にもこの【白竜】が!オーディエンスをこれっぽっちのサービスで満足させるわけねーだろうが!魔法カード、【ネクロイド・シンクロ】発動!墓地から【魔轟神ソルキウス】と【魔轟神獣ケルベラル】を除外!」

 

 

 

しかし、そんな【霊神】の衝撃すら嘲笑うかのように、さらに気迫を増していく【白竜】、新堂 琥珀。

 

発動した一枚の魔法カードの効果によって、琥珀の墓地から光の悪魔と眷属が天へとその身を捧げ始め…

 

 

 

「瞬く星の煌きよ!輪廻を断ち切る風となれ!」

「な!?そ、それは!」

「そう!これこそが、この俺っちのエースモンスター!さぁ、震えて見やがれ!シンクロ召喚!」

 

 

 

世界に轟くその口上、空を超え、天を超え、まるで宇宙にまでも届きそうなその光の柱は、一体何を連れてこようとしているのだろうか。

 

降り注ぎしは天上の光、星から零れる麗しき煌き。

 

シンクロ王者、新堂 琥珀が誇る白き竜…

 

その煌きが、今ここに…

 

 

 

 

「光臨!レベル8!【スターダスト・ドラゴン】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

現れるは星々の煌き。

 

【白竜】、新堂 琥珀が世界に誇る、輝きを纏う白き星竜。

 

古の時代、古の神話、『竜の伝承』に現れしその姿は、伝承のみで伝わっていたモノなれど…新堂 琥珀という『天才』が、学生時代にその伝承を現代に蘇らせたかの如く創造し、そうして世界に初めてその姿を見せたという、世界に一枚しかない彼だけのカード。

 

 

 

【スターダスト・ドラゴン】レベル8

ATK/2500 DEF/2000

 

 

 

「す、凄い…【白竜】の…」

「シシシッ、俺っちのエースモンスター…効果は無効になってっけど、学生の癖にコイツ引っ張り出せただけでも儲けモンだぜ?…でもボクちゃんも抜け目無いねぇ、その伏せカード、また罠モンスターだろ?速攻魔法、【墓穴の指名者】発動!サクリボーを除外してそのままバトルだ!【光霊神フォスオラージュ】でボクちゃんにダイレクトアタック!」

「くっ!?ト、罠発動!【量子猫】!地属性、獣族となり、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【量子猫】レベル4(罠モンスター)

ATK/ 0 DEF/2200

 

 

 

また、宙に漂う星竜に見惚れかけた遊良を意に介さず。

 

すぐさまその意識をデュエルへと無理やりに引き戻すかの如く、琥珀が遊良の伏せカードを見抜いてバトルをしかけ…

 

不意に、とっさに、反射的に。遊良もまた轟く光の霊神の攻撃を先ほども発動したその罠モンスターで防ごうとするも…

 

 

 

「ほらほらやっぱね!そのままフォスオラージュで攻撃!」

 

 

―!

 

 

 

光り輝く【霊神】の、轟く雷撃が遊良の場に飛散して鳴り響く。

 

その攻撃の激しによって、成す術なく遊良の罠モンスターは破壊されて粒子に消えていくしかないのか。

 

 

 

「これで終わりぃ!【スターダスト・ドラゴン】で、ダイレクトアターック!」

 

 

 

飛翔せしその両翼から、零れ落ちしは星々の光。

 

そのあまりの美しさには、この場に居る誰もがその白き星竜から眼を離すことが出来ず…

 

 

―星々の威光が今、放たれる。

 

 

 

 

 

「喰らいなボウヤ!星嵐の…ステラバーストォォォォォオ!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぐ、うわぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

 

凄まじい勢いで放たれた星光の嵐が、遊良を飲み込み吹き荒ぶ。

 

纏し伝説と紡がれし伝承、そして新堂 琥珀の持つ『想像を絶する気迫』とが混ざり合い、ソリッド・ヴィジョンではあるもののまるで実体化しているのではないかと錯覚しそうなほどの真実味を持ってその光が弾けて…

 

 

 

 

遊良 LP:100→0(-2400)

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

 

透き通る様な白き星竜の咆哮と、無機質な機械音が…

 

 

―スタジアムに、響いていた。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「ほいっ、こんなトコっしょ。」

「あ、ありがとう…ございました…」

「うんうん、ま、そこそこセンスあったと思うぜ?シシシッ。」

「は、はい…」

 

 

 

デュエルを終え、微塵も疲れた様子を見せない琥珀と、どこか疲れた様子の遊良がスタジアムから降りてくる。

 

…手を抜かれていたとは分かっていても、デュエル中ずっと琥珀の気迫に中てられ続けていたのだ。いくら鷹峰や砺波に鍛えられたとは言え、その疲労は実際に対峙した遊良にしか分からないモノだろう。

 

重い足を持ち上げ、少々ふらつきすら感じさせる足取りで下まで降り…階段下で待っていた砺波とルキの前まで行くと、遊良へと向かってルキがその口を開いた。

 

 

 

「遊良…大丈夫?」

「あぁ…。」

「シシッ、中々頑張った方じゃんね。少なくとも学生で最後まで戦れるとは思わなかったぜ。」

「…新堂君、本当にただデュエルをしただけでしたが、一体何を考えて天城君とデュエルを?」

「ん?だから最初っから言ってんじゃん。『ごしどーごべんたつ』って奴だよ。ジーサンと一緒の事しただけだし。」

「…そうですか。」

 

 

 

何かが起きようとしてもすぐに対応できるよう気を張っていた砺波の心配をすり抜けるように、あっけらかんとそう言い放つ琥珀。

 

砺波もまた、琥珀の雰囲気が普段通りすぎることにどこか違和感を感じているような表情を見せているものの…

 

『何』も起こらなかったことと、琥珀の言動が軽すぎるが故の普段の振る舞いを思うと、これ以上の追求も無駄だと理解したのか。

 

腑には落ちない、しかしこれ以上はわからない。

 

ならば、今のところは詮索は無駄だ、と。

 

そうして…

 

デュエルの後の余韻から、不意にスタジアムに静寂が流れかけた…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「あー!やっと見つけたで!」

 

 

 

静かな声のみがあったスタジアム内に、いきなり特徴的なイントネーションの言葉がスタジアムに木霊し…

 

瞬間的にこの場にいた全員が入り口の方へと眼をやって。

 

そこには、天井のライトの光を反射し、眩しいほどに光る金髪を揺らした青年が一人。

 

憤慨と困憊の表情を顕に、大きな荷物を背に遊良達の居るスタジアムへと向かって歩いてきた。

 

 

 

「やっ、おろっち遅かったねー。待ちくたびれたよ。」

「何が『遅かったねー』やねん!どんだけ探したと思っとんのや琥珀さんコラァ!」

「シシッ、付き人の癖に固いこと言いっこ無しだぜおろっち?イライラしてっと禿げんよ?」

「誰の所為や誰の!大体好きで付き人やっとんのや無いで!」

 

 

 

煌く金髪を靡かせて、琥珀への怒号を撒き散らしながらこちらへと歩いてくる青年。

 

少なくとも決闘市に住む人間だったならば、知らない人間など居ないであろうその人物。最近ではTVで見ることも増え、新人ながらも知名度を増している、決闘市が誇るプロデュエリスト、その強者。

 

 

 

竜胆(りんどう) 大蛇(おろち)

 

 

 

昨年まで決闘学園ウエスト校の学生だった彼は、昨年度の【決闘祭】でも遊良と戦ったことのある決闘者の一人であり…

 

その時点ではまだ『壁』を越えていなかった遊良では手も足も出なかったという、今では新人としては破竹の勢いで勝率を上げているプロデュエリストの新人である彼が、何故か琥珀の名を怒りと共に呼びながら現れたのだ。

 

 

 

「え、り、竜胆…さん?」

「おー、久しぶりやなぁ天城ぃ。【決闘祭】以来か?」

「えっと…付き人って…」

「そやねんそやねん、事務所の命令で仕方なくなぁ…でもホンマ疲れる人やでこの人。」

「おいおいおいおい、仕方なくって言われたらいくら俺っちでも傷付くよマジで。大体さー、前の付き人が2週間で逃げちまうからいけねーんじゃんね。俺っち全く悪くない。」

「ソコやで!?琥珀さんそう言うトコ!俺かて琥珀さんが【白竜】やのーたら一発入れてとっとと付き人なんか辞めとるわ!」

「シシシッ、言うねー。でもおろっちのそーゆートコ、俺っちけっこー好きだぜ?」

「嬉しないっちゅーねん!ほら、さっさと行かんと!飛行機出てまうやないか!」

「へいへーい。」

 

 

 

そんな遊良も見知った人物である大蛇が、琥珀の付き人をしているということにも驚きを隠せない遊良ではあったものの…

 

言葉とは裏腹に、新人ながらも琥珀の扱いにどこか手馴れているような大蛇と琥珀の会話もまた、遊良にとっては過去に味わった『つかみどころの無い大蛇の凄さ』を思い出させているとでも言うのだろうか。

 

【王者】に付きっきりで行動を共にし、得られるモノも多いからこそプロ1年目という新人であっても大蛇の勢いがあるのかと思うと、改めてこの竜胆 大蛇の凄さを再認識した様子を見せていて…

 

そんな琥珀と大蛇を見ていた遊良へと向かって、不意に琥珀がその口を開いた。

 

 

 

 

「えっとさー、あまぎくん…だったっけ?忘れなかったら覚えといてやっからさ、とりあえず頑張んなよね。」

「…え?」

 

 

 

その言葉は、先ほど感じた一瞬の冷たさを微塵も感じさせない、軽いながらも確かに届いた【白竜】の賛辞。

 

普通に暮らしていたら絶対にかけられることは無いであろうその言葉は、伝説となって挑戦者が見つからない【黒翼】のモノとも、引退して前線から去っている【白鯨】のモノとも違う。

 

今なお最前線で戦い続ける若き王者【白竜】からの、遊良へ向けた手向けの言葉であって。

 

 

 

「【白鯨】のジーサンが入れ込んでんだし、また戦ろってこと。シシシッ、【白竜】がこんだけ言うなんて大大大大大サービスだぜ?」

「は…はい!」

「シシシッ、じゃあ縁があったらまた会おうね。ジーサンもまたねー。」

「ほな!忙しいんでこの辺で!またな天城!天宮寺にもよろしゅう!」

「…あ、『ルキちゃん』もまたねー。シシッ。」

「…え?」

「ほら行くで琥珀さん!何でまたすぐ油売るねん!」

「へいへいすんませーん。」

 

 

 

しかし、すれ違い様に、ルキにだけ聞こえるような声でささやかれたソレを、遊良も砺波も気がつくことが出来なかった。

 

…それが、遊良との戦いの時に一瞬だけ見せた冷たさを、持っていたことに。

 

またルキの方も、なぜ見知っても教えても、ましてや自分に興味も無かったであろう態度の琥珀が、どうして自分の名を呼んだのか。

 

その意図もその意思も、その言葉の全てが空中に舞い上がり飛散してしまった今では琥珀の真意など…

 

ルキには、わからない。

 

 

―!

 

 

そして、まるで一瞬の喧騒だったかのような琥珀の来訪が終わり、丁度『召喚別授業』の終了を告げるチャイムが鳴り響いて。

 

砺波はふと手元に目線をやると、時間を確認したのか遊良へと向かって声を発した。

 

 

 

「…ふむ、もうこんな時間ですか。まぁこの後は下校するだけなので、少々反省会をしましょう。天城君には言いたいことが沢山ありますので。」

「は、はい…」

「新堂君が必ずと言っていい程呼び出すライトエンドはいいとして…君がクリスタル・ウィング、それにスターダストまで引っ張り出せたのは予想外でした。しかし…」

「はい…それでも、【白竜】までは遠く及ばなかった…」

「そうです、要は手を抜かれと言うにもおこがましい。新堂君の誇る数多の『白竜』の内、『3体』も出させたのは…まぁ、褒めてあげてもいいですが、それでも新堂君の本気、彼の『名』となった【白竜】を見ることもなく、圧倒的に差がありすぎたということです。」

 

 

 

少々厳しめの声でそう言う砺波と、ソレを素直に聞き入れる遊良。

 

そう、遊良もよく理解しているのだ。ライトエンドもクリスタルウィングも、その他に琥珀が操る『白き竜』達のどれも…

 

 

…スターダストも、【白竜】にあらず。

 

 

王者の名を持つ【白竜】は、更にその先の先にあるのだ。今の遊良の実力では、ソレを出させることなどまだまだ出来かったということだろう。

 

 

 

「いいですか?常に頭を回転させていなさい。ただ漠然とデュエルをしてはいけない。努力は嘘を吐かないとよく言いますが、何も考えずにただ漠然と行動するだけでは努力は平気で嘘を吐きます。」

「…」

「今回は特に防御面が浮き彫りになりましたね?ドローと展開に特化しすぎて攻撃的過ぎます。罠モンスターで場を繋いで空けないようにするのも良いですが、それではまだ敵の攻撃を受けきるには甘すぎる。攻撃面に関しても、バルバロスに頼りすぎていてまだまだ甘い。【決島】まで課題は山積みです。」

「は、はい…砺波先生。」

 

 

 

一から作り上げた新たなデッキ、その試運転としては確かによく回転していた方だろう。しかし、砺波の厳しい言葉の通り、このデッキもまだまだ未完成。

 

やることは多く、成す課題も多い。【決島】までまだ少々時間はあれど、常に気を張っていかなければこのまますぐに時間は過ぎ去ってしまうに違いなく…

 

 

 

(フッ、しかし未完成であの『キレ』とは…これだから面白い。)

 

 

 

遊良の焦燥とは裏腹に、砺波の心意はどこか違ったモノとなっていた。

 

 

 

 

「…それと、高天ヶ原さん。」

「え、は、はい!?」

 

 

 

そして、急に名前を呼ばれ、驚いたルキ。

 

琥珀が現れたことで、完全に蚊帳の外に追いやられてしまっていたが故に、今こうして砺波に声をかけられたことが彼女にとっては完全に意識の外だった様子で…

 

しかし、そんなルキをお構い無しに、砺波は更に言葉を続けるのみ。

 

 

 

「新堂君の所為で話が大きくずれてしまっていましたが、今日君を呼んだのは君にも大切な話があったからです。」

「大切な…話…ですか?」

「はい。天宮寺君には既に別の特訓を言い渡してありますが…この際です、来たるべき【決島】へと向けて高天ヶ原さん、君も天城君と同様に、この私が直々に鍛えてあげましょう。」

「…え?…え、えっと…え!?」

 

 

 

それは、ルキには到底信じられないであろう話。

 

遊良に強く反対され、また先ほどは出場したいと駄々をこねたとは言え、自分の事情もありどこか諦めすら感じていたという【決島】に…

 

まさか理事長からこんな言葉を貰えるだなんて、ルキとて思ってもみなかった事だろう。

 

 

 

「砺波先生!ま、待ってください、鍛えるって言ったってルキは…」

「それも分かっていると最初に言ったでしょう?彼女の『事情』も既に織り込み済みです。私も『神』に近いモンスターを従える身。鷹峰の様な雑な教え方よりも、もっと良い力のコントロールを私なら教えられると…そう言っているんですよ。それこそ、『全力』を出せるまでに。」

「そ、それって…私…」

「はい。君も天城君、天宮寺君と一緒に、【決島】に出場していただきます。無論、我が校の代表として恥ずかしくない戦いをしてもらいますよ?…『全力』でね。」

 

 

 

また遊良も、思わず焦りの声を漏らしたものの、あまりに自身たっぷりにそう言い放つ砺波の威厳には遊良とて口を紡ぐしかないのか。

 

そして、心配からか遊良が瞬間的にルキの方へと目をやると…

 

そこには、肩を震わせているルキが…

 

 

 

 

「や…」

「…ルキ?」

「やったぁぁあ!遊良!私も出られるって!私も!遊良と鷹矢と!おんなじ大会出られるって!」

「お、おいルキ…お、重…」

「やったよぉ!はじめて!はじめてだよ大会にでるの!ゆうらと!たかやと!いっしょの!」

「わかった、わかったから落ち着け…重…」

 

 

 

歓喜のあまり、全体重をそのままに遊良へと抱きつき、そのまま倒れそうになってしまう遊良とルキ。

 

どうにかルキを支える形で遊良も踏ん張ってはいるものの、ルキのあまりのはしゃぎようは彼女がこれまで抑えてきた何かが堪えきれなくなったが故のモノなのか。

 

 

…遊良も、ここまではしゃぐルキは久しぶりに見た。

 

 

思えば、ルキは子どもの頃から何かと制限をかけられて過ごして来たのだ。

 

力が足りずに、自らの内に眠る『神』の力が暴走してしまう危険のあった幼少期も…師である【黒翼】に鍛えられたとは言え、突発的にどこかへとフラフラ消えてしまう師、鷹峰のガサツとも言える鍛え方では、今のような『全力を出さない様に気をつける』という対処法しか取れなかった。

 

それを、砺波は確かに言った。『全力』で、戦えるようにする、と。

 

例え『同じ言葉』でも、並の猛者からかけられた言葉だったならば遊良とてソレを信じようとは到底思えなかっただろう。

 

しかし、遊良もこれまで直々に【白鯨】の教えを受けてきたからこそ、厳しさの中にあるその教えの適切さと、激しさの中にあるその指導の正確さが身に染みて分かっている。

 

 

 

「…まぁ、君が出てくれないと私が【決闘世界】に叱られることにもなるんですが。とにかく、これからは天城君や天宮寺君同様、高天ヶ原さん、君にも厳しく指導させてもらいます。覚悟はいいですね?」

「うん!」

「…『うん』?」

「あ、ご、ごめんなさい!よ、よろしくお願いします!理事長先生!」

「…よろしい。」

 

 

 

…きっと【白鯨】がそう断言したのならば大丈夫。

 

紆余曲折あれど、ここまで信頼を置いている砺波がそう断言したのだ。確かに【霊神】の一体を完全に従えている砺波が、その力のコントロールを教えることが出来ればルキのデュエルに関する制限も飛躍的に変わることだろう。

 

遊良も、先ほど直に【霊神】の圧力が、幼少の頃目の当たりにした『神』のソレに近しいモノだったと体験したからこそ、今の砺波の言葉を心から信じられる確信を得られていることに違いなく。

 

色々なことが起こり過ぎている最近の目まぐるしい日常に不安はあれど、どこか高揚も感じられる今の遊良の心情が…

 

これから先に待つ戦いへの期待を、膨らませていた。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んで、天城はどないでした?」

「ん?どうだったって何が?」

 

 

 

決闘学園イースト校の敷地外。

 

他の学生や教師に見つかる事無く学園から出た琥珀と大蛇が、少々小さめの声で会話を交わしていた。

 

しかし、その口調は先ほどスタジアムで遊良達と話していた時のモノとは全くの別物。

 

琥珀は相変わらず軽い口調なれど、大蛇の口調は先ほどとは打って変わって琥珀の行動を咎めてはおらず。

 

 

 

「何がって、琥珀さん、最初っから天城が目的で顔出したんやないんですか?わざわざ相手側に試合延期までさせといて…それに天城に【スターダスト】まで見せとるし、そんなに天城が気に入ったんですかいな?…ってことですわ。」

「えー?俺っちが興味あんの可愛い女の子だけだし…ってか、おろっち最初っから見てたんじゃん。」

「そりゃあんなおもろいコトやっとったら、止める方が無粋ちゅーもんやないですか。」

「シシッ、おろっちのそういうトコ、やっぱ俺っち結構好きだぜ?」

 

 

 

決闘祭のときもそうだったが、彼は自分の本心を他人に悟らせることをせず、その言葉も態度も簡単に演じ分けられる『演者』なのだ。

 

…全てをすり抜け、全てを捻じ伏せる、まさに『大蛇』。

 

故に、先ほど遊良達と交わしていた琥珀への不満も、それが彼の本心かどうかは彼自身にしかわからず…

 

 

 

(…しっかし天城の奴、【決闘祭】で俺と戦った時より『キレ』が増しとった。琥珀さんは難なく躱しとったけど、天城のあの調子やと毎ターン『バルバロス』の効果狙っとる感じやったし…)

 

 

 

その心の内で、先ほどの琥珀と遊良のデュエルを思い返しているのだろうか。

 

【決闘祭】で戦った時とは全くの別物、それはデッキそのモノもそうだが、何より大蛇が気になったのは遊良のデュエルのその『キレ』であり…

 

琥珀の実力が高すぎて目立った印象は無かったとは言え、そもそも遊良の行った行動自体、傍から見たら『異常』そのモノなのだ。

 

 

 

(正直、あんだけ展開する癖に手札も減らさへん奴が毎ターンぶっぱなして来たら…こっちも手が足りんくなるわマジで。アレでEx適正無いんやもんな…【堕天使】を使わへんかったんは何でか知らんけど、もしあのキレに【堕天使】が加わったら…)

 

 

 

遊良の勢いから察するに、毎ターンの大量ドローに加えて毎ターンの全体破壊、それが途切れる事無く襲いかかるその恐怖。

 

それは学生レベルには到底収まるモノでは無く、下手をすればプロの中でも対処しきれる決闘者の方が少ないだろう。

 

それをはっきりと自覚できる大蛇だからこそ、ソレをあっさりと躱して翻弄した琥珀への『遠さ』と、その琥珀にあそこまで言わせた遊良への興味が尽きず…

 

 

 

 

「…ホンマにおもろいやっちゃ。」

「ん?おろっち何か言った?」

「いーえー、なんにも。それより琥珀さん、急がんと本当に飛行機に間に合わへんで?」

「えー、俺っち疲れてるからゆっくり行くわー。車こっち回しといてー。」

「またそない我が侭言って!これだから困るっちゅーねんこの大人子どもは!また綿貫さんに叱られるやないですか!」

「ちょちょ、付き人の癖に俺っちにそんな口の聞き方していいと思ってんの!?マジ怒っからねマジ!」

「勝手に怒っとってください!その間に俺は車手配してきますんで!」

「…おろっちマジで有能過ぎね?仕事出来るし才能あっし、今までの付き人の誰よりも楽。」

「はいはいさいですか!ほな、ここでじっとしとって下さいよ!ホンマやで!?絶対やで!?フリやないで!?」

「へいへーい。」

 

 

 

 

そうして、琥珀にそう言い付けて離れていく大蛇。

 

電話片手に忙しそうに、しかし確かに仕事が出来るからこそ、琥珀もまた無茶を言いながらもどこか楽しげに大蛇を付き人として置いているのか。

 

そんな大蛇を見送りながら、琥珀は一体なにを考えているのだろう…

 

周囲に誰の気配も感じぬソコで…

 

静かに…琥珀はその口を開いた。

 

 

 

「シシッ、とりあえず【決島】の間は劉玄斎のじーさんにまーかせた。ルキちゃんの顔も見れたし、とりま俺っちは高みの見物ってねー。」

 

 

 

誰にも見せぬ、誰も知らぬ、誰も見ることの出来ぬ琥珀のその表情は、一体どのようなモノとなっていたのだろう。

 

先ほどまで発していた声の、どれとも違う。

 

軽い、確かに言葉は軽い。しかし、その軽い言葉に包まれた中身、その真なる琥珀の言葉には、誰も持つことの出来ないであろう重さが確かにあったのだ。

 

そんな琥珀は、いつもと変わらないように見えるその表情の中で…

 

不意に、不穏な笑みを浮かべ…

 

 

 

「最終的に、ルキちゃんも『赤き竜神』も俺っちのモンってね。」

 

 

 

 

吹き抜けた一瞬の突風が、これから起こる事への憂いと共に…

 

 

琥珀の言葉を、空へと舞い上げていった…

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。