遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep64「訪れるモノ」

 

 

 

 

もうすぐ夏が本格的になるであろう、猛暑が続くとある日のこと。

 

いつもと同じ日、同じ日常が流れるはずの決闘市の雰囲気が、この日だけはどこか落ち着かない様子を見せていた。

 

それは、最近めっきりと音沙汰の無くなった『失踪事件』に関すること…ではなく、つい先日発表されたばかりの、特別な『2つのニュース』に関係することに先ず間違いないだろう。

 

何せその決闘市の住人全てが驚いたであろうニュースは、この長い長い決闘市の歴史においても初めての出来事。

 

ソレが発表された時の衝撃は、住人達の声となって決闘市が冗談ではなく本当の意味で震撼し…

 

誰もが経験したの事のない事例だからこそ、誰もがソレに対してどう振舞っていいのかわからずに、明らかに戸惑いを隠せてはいなかった。

 

 

そう、その決闘市始まって以来の衝撃的なニュース…

 

 

 

―今年度の【決闘祭】が、『中止』と報じられたのだ。

 

 

 

これまで何があっても開催されてきた【決闘祭】の歴史から見れば、今回の『中止』はあまりにも異常な事態。

 

かつて起きた大災害や戦争時にも、その日、その時だけは絶対に開催されたあの歴史ある祭典が、『セントラル・スタジアムの修復』などという小さな綻びだけで中止となってしまうなんて誰もが信じようとはしなかったことだろう。

 

そんな去り行く歳末の一大イベントが開催されないそのショックは、住人達の心に大きな風穴を開けたことは言うまでもなく…

 

 

…しかし、今の街の雰囲気は、決して落ち目を見せているわけではなかった。

 

 

寧ろ、決闘市にとってはマイナスとなるはずのそのニュースを皆知っているはずだというのに、【決闘祭】が開催されないショックを覆い隠すような興奮、ソレを超える更に大きなモノが、今の決闘市内には溢れていて。

 

まるで、【決闘祭】の時のような盛り上がり…いや、それを実際に超えた盛り上がりが、今の決闘市から湧き出ているのだ。それは、【決闘祭】の中止と同時に発表された、『もう一つ』のニュースのことであり…

 

…そう、【決闘祭】の中止という衝撃的なニュースと同時に発表された、ソレを超える更なる衝撃。

 

史上初、決闘学園デュエリア校との合同開催となる祭典…

 

 

 

―【決島】が、この秋にデュエリア領で開催されるというのだから。

 

 

 

世界有数のデュエル大都市、『決闘市』と『デュエリア』。

 

昔からその何かと衝突の多かったことでも有名なこの2つの都市ではあるものの、まさかその2つの都市の決闘学園が『合同』で祭典を開催するだなんて、誰もが己の耳を疑ったことに違いなく…

 

そして、学生達が夏休みを間近に控えた本日、今日、この夏の日に、ノース、イースト、サウス、ウエスト4校が同時に【決島】の出場者を発表するというのだから、決闘市内にはもうその祭典への期待でごった返していた。

 

 

―学生達の実力の層が最も厚い、『ウエスト校』への注目

 

―シンクロ王者【白竜】を排出した、『サウス校』への新たなるスターの待望

 

―紫魔学園と呼ばれる、『ノース校』の復権を望む声

 

 

そんな様々な思いが交錯している決闘市内ではあるものの…

 

その中でも特に、元シンクロ王者【白鯨】率いる『イースト校』への期待が最も大きいということは先ず間違いないことだろう。

 

何せ、波乱が多く起こった昨年度の【決闘祭】を最後に、『鋼鉄』のデュエリストと称された元ウエスト校の十文字 哲を始め…

 

『黄金世代』と称されていた、昨年度の名のある【決闘祭】の出場者達は皆、軒並み学園を卒業して今年度からプロとなっているのが今年度の決闘学園。

 

しかし、他のどの校とも違い、昨年度の【決闘祭】の優勝者と準優勝者がそのまま在校しているイースト校は、まさに他のどの校よりも幸運と言えるだろう。

 

 

…それは例え、昨年度の【決闘祭】の『優勝者』が、あのEx適正の無い天城 遊良だったのだとしても。

 

 

昨年度の【決闘祭】の決勝は、これまでの天城 遊良という『Ex適正の無い』デュエリストへの認識を変え…決闘市に蔓延っていた一つの常識を根本から覆し、この街に多大なる衝撃を与えた。

 

それほどまでに彼ら街の住人達が受けた衝撃は凄まじいモノであり、これまで自分達が形作っていた『弱者』の定義は最初から間違いだったのだと、彼らも認めざるを得なかったことだろう。

 

故に、エクシーズ王者である【黒翼】の孫への期待と共に、決闘市内の人々の天城 遊良への期待値は全く落ちる気配を見せてはおらず。

 

世界最大規模の祭典、誰も見たことのない【決島】への興奮が膨れ上がる中で、一体学生達がどんな戦いを見せてくれるのかへの期待が高まりを続け…

 

異様な盛り上がりを見せている決闘市内の熱気は、夏の日差しよりも更に熱くなっていく様子を見せていた。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

夏休みがもう目前まで迫った、この夏の日。

 

決闘市内の雰囲気に漏れず逸れず。先日のニュースから決闘学園イースト校もまた【決島】の話題で一杯となっており、来たるべき【決島】への期待と興奮から、本日発表されるという代表選手の噂話で学園内は大いに賑わっていた。

 

午後の発表を待ちきれないかの如く、誰が出場できるのか、誰が活躍しそうなのか、誰がライバルになりそうなのか、そんな話題が途切れる事無くずっと続いていて…

 

誰もが皆、例年の【決闘祭】よりも出場できる選手の多さと、合同開催と言う事もあり『祭典』自体の規模の拡大と、そしてその注目度が『世界』全土にまで及んでいるというスケールの大きさに対し、全員がその巨大なチャンスを逃すまいとして奮えているのだ。

 

 

そう、注目度が大きいということは、そこで活躍できればプロ入りは最早確実と言うこと。

 

 

例年では【決闘祭】の出場選手は各校『3名』という規定もあってか、候補には挙がっても学内の選抜戦において、あと一歩と言う所でそのチャンスを逃してしまった学生達が一体何人居たことだろう。

 

そんな【決闘祭】にギリギリで出場できなかった学生達にとっては、この【決島】はまたとないチャンス。

 

故に、そんな祭典が自分達が学生の内に開かれるという幸運と、巡ってきたこのチャンスを確実にモノにしたいという学生達の士気は、留まることを知らないかの如く上昇し続けていることに違いなく…

 

特に現2年生達は、昨年度の自分達の失態を挽回すべく。現3年生達は、この祭典が最後のチャンスと言う事もあってか、ただ話題に乗って盛り上がっている者が多い新一年生達とは、どこか込めている気迫は別物となっていて。

 

午後に行われるという【決島】の出場選手の発表への期待で、イースト校の全てのクラスが賑わう中…

 

 

そう、その異常な興奮の中で…

 

 

 

唯一つ、遊良のクラスでは、ソレとはまた違った現象が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では釈迦堂さん、挨拶をしてください。」

 

 

 

教室内の学生全てに注目されながら、教壇の前に立つ少女。

 

夏休みを目前に控えたこんな時期に転入してくるというその疑問と、不思議と吸い込まれるようなその立ち姿に教室内の学生の誰もがその少女を誰もが見つめ、誰もが息を飲み…

 

その静寂はまるで、この教室だけが騒がしい学園内から隔絶されているかのような静けさとなり、言葉を発することを許可されていないかのよう。

 

そして、そんな静まり返った教室内で…

 

少女は、その口を静かに開いた。

 

 

 

「…釈迦堂 ユイです。よろしくお願いします。」

 

 

 

―!

 

 

 

先ほどのまでの静寂が嘘のように、少女が声を発したその瞬間、まるで壮絶な試合のクライマックスを見たかのような盛り上がりを見せる学生達。

 

【決島】への興奮などどこへやら。まるでソレを忘れてしまったかのように、学生達の誰もが釈迦堂 ユイという転入生の少女への興味と興奮で声を荒げていて…

 

 

 

「やべぇ!あの子すっげぇ可愛い!」

「背ぇ高けぇ…モデルみたいだ…」

「凄っごいクールな感じ!髪も真っ黒で凄く綺麗!」

「ホントホント!どうやったらあんな良いスタイルになれるんだろう…」

 

 

 

興奮と歓声が教室内に響き渡り、誰もが目の前の転入生の少女へ向かって声を上げている。

 

それはまるで、誰もが今まで見たことのない美麗を目の当たりにしたかのような盛り上がり。男女ともに口を揃えてそう言っている今のクラス内の雰囲気は、他のどのクラスにも無い幸運だと言わんばかりの空気となっていたことに先ず間違いないだろう。

 

 

しかし、誰もが声を抑えきれていない興奮の中で、2人だけ…

 

 

そう、遊良と鷹矢の2人だけが、その盛り上がりに対して他の学生達とは異なった表情を見せていた。

 

いや、厳密に言うと、昨晩夜更かしをしすぎた鷹矢はこのあまりの喧騒の中でも机に突っ伏し、登校直後からずっと我関せずのまま惰眠を貪り爆睡を決め込んでいたのだが…

 

遊良だけは今目の前で歓声を浴びている少女に対し、表情を凍りつかせ鳥肌を立たせ、眼を見開いて心の底から驚愕の表情を見せているのだ。

 

 

何故なら…

 

 

 

(何だコイツ…ラ、ランさんにそっくりだ…いや、そっくりって言うか…)

 

 

 

そう、一度だけ実際に対峙したことがあるが故に、遊良にだけはどうしてもわかってしまった。

 

 

夏の日差しに良く映える、闇に溶けるその褐色の肌。

 

 

どこまでも綺麗に長く伸びた、夜よりもなお深いその漆黒の髪。

 

 

そっくりだとか似ているだとか、他人の空似どころの話ではない。それはランと実際に一度だけ対峙し、会話し、そしてデュエルをしたからこその直感。

 

…忘れられるわけがない。自分の生きる目標となった、その女性との邂逅を。

 

【決闘祭】が終わった直後、師の計らいで始めて顔を合わせた釈迦堂 ランの顔は、今でも鮮明に思い出せるほどに遊良の脳裏に焼きついているのだ。

 

だからこそ、遊良には信じられない。

 

…まるでクローン。今自分の前に立つ少女が、釈迦堂 ランの顔のパーツをそのままに、やや幼くしたような容姿をしているだなんて。

 

遊良とて、目の前の転入生がランと別人だと言うことなど、誰に言われなくともわかっている。そもそも酒の呑める年のランとこの転入生は、年齢からして違うのだから。

 

しかし、どうしても目の前の釈迦堂 ユイと言う少女と自分の知るあの【化物】の女性が、遊良には自分でも不思議なほどに他人とは思えず…

 

別人だということは頭では分かっていても、同一人物とさえ思えてしまうくらいに今教壇に立っている釈迦堂 ユイという転入生は、あまりにも…そう、鏡に映したかの様に、あまりにも釈迦堂 ランという女性と瓜二つだったのだ。

 

そんな少女を前にして、遊良も感情はクラス内の盛り上がりとは益々かけ離れていき…外の高気温と学園の興奮、そしてクラス内の異様な熱気に相反するように、冷や汗をかきそうなほど遊良は寒気すら感じているのか。

 

 

 

「じゃあ釈迦堂さんは一番後ろの席に。」

「…はい。」

 

 

 

そして、誰もが興奮を露出している中を、教師の提示した席へと向かって釈迦堂 ユイが悠然と歩き始め…

 

徐々に近づいてくる釈迦堂 ユイの姿に、遊良の心臓が益々鼓動を逸らせ始めた…

 

 

―その時だった。

 

 

 

「…努々忘れることなかれ…」

「ッ!?」

 

 

 

釈迦堂 ユイが隣を通ったその瞬間、あまりに騒がしいこの教室のどこかから、確かに遊良の耳に『何か』が響いて。

 

誰も気付いた様子もない。誰にも聞こえた様子がない。きっと、遊良にだけ聞こえたモノ。

 

咄嗟に、瞬間的に、反射的に。遊良は声のした方向へと首を回し、たった今横を通り過ぎて言った釈迦堂 ユイの後姿へと視線を突き刺し…

 

 

…ソレが何のか、遊良には思い出せない。しかし、確かに耳に残っている、どこかで聞いたことのあるその台詞。

 

 

心がざわつくような、嫌な感じがしたソレが遊良の耳を通り過ぎ…

 

ソレが何だったのかなど遊良にも思い出せぬものの、先ほどから煩いほど警笛を鳴らしている己の警戒心が、更に喧しくなったのを遊良も感じたのか。

 

 

 

「…あまぎ…ゆうら…努々忘れることなかれ…自分が一体何なのか…」

 

 

 

教室の最後尾、自分の席に着いた少女がその後に発した、あまりに煩い教室内に静かに呟かれたソレを…

 

 

―聞いている者は、誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

『それではこれより!【決島】の代表を発表する!』

 

 

 

―!!!!

 

 

 

決闘市内にある全ての決闘学園で、一斉に起こったその歓声。

 

午前だけの本日の授業が終わり、午後になったばかりのこの時刻。超巨大決闘者育成機関【決闘世界】から使わされた役人が、同時刻に各校の代表者25名ずつの名前が書かれたその巨大な掲示板の前に立ち…

 

厳重に封をされたその覆いを今にも切って落とさんとして宣言を掲げ、それに呼応して我先にその発表を見ようと駆け寄っている各校の実力者達が人だかりとなって叫んでいた。

 

無論、それはイースト校も同じであり…

 

特に、昨年度は暴風の如く暴れまわっていたあの天城 遊良を前に、前一年生のほぼ全てが敗れ去ったというそのショックから、全員が代表候補を辞退するという不甲斐なさを見せてしまった現2年生達の今回の祭典への期待は留まることを知らず。

 

…昨年度、天城 遊良は誰にも否定することの出来ない、【決闘祭】の『優勝』という結果を残した。

 

自分達が見下して、蔑んで、侮辱していた、あの『Ex適正の無い』天城 遊良が、だ。

 

それは、遊良の進撃を最も近くで目の当たりにしてきたイースト校の学生達にとってはどれ程の屈辱だっただろう。それは遊良が【決闘祭】に優勝したことよりも、【決闘祭】で優勝するほどの力を持っていた天城 遊良の力を見誤っていた『自分達』の力の無さと不甲斐なさに対して。

 

全学生たちが望んでも到底手に入らないその輝かしい功績と、ソレを達成できる事がどれだけ険しいモノなのか。

 

それを理解していない学生など決闘学園には一人としておらず、誰もが【決闘祭】の頂点の意味を知っているからこそ、イースト校の学生たちが今回の【決島】に賭けている心持ちは他のどの校とも異なるモノ。

 

…きっと、昨年度の【決闘祭】で優勝・準優勝した天城 遊良と天宮寺 鷹矢は当然代表に選ばれているはず。

 

だからこそ、各校から3名しか代表になれない【決闘祭】と違い、各校から25名ずつも選ばれる今回の【決島】は、自分達を見つめなおすことの出来たイースト校の多くの学生達にとってはまたとないチャンス。

 

故に、昨年度の自分達の不甲斐なさを撤回する為に、今回の祭典に賭けるイースト校の学生達の奮起はどの学園よりも凄まじく…

 

 

 

―しかしそれとは裏腹に、教室から階下を見下ろしている遊良のテンションはあまりに低かった。

 

 

 

「ふむ、その転入生はジジイの言っていた釈迦堂 ランと言う女にそんなに似てるのか。」

「…あぁ。そっくりってレベルじゃない。まるで本物かと思ったくらいに瓜二つだったんだ。」

「むぅ…ならば俺も見てみたかったぞ。どうして起こさなかった。」

「いや、俺もあの転入生の事で頭が一杯だったんだよ…って言うか、むしろ何で午前の授業全部寝てるんだよ。先生も呆れて諦めてたぞ?」

「仕方ないだろう。眠かったんだ。」

「…そうかよ。」

 

 

 

階下の盛り上がりとはまるで真逆。窓から体を乗り出して、その盛り上がりを眺めている遊良と鷹矢。

 

しかし視線は階下の中庭を向いてはいても、その意識は全く別の所に向いていて…

 

それは既に代表入りしていることを知っているが故の余裕か、それとも心配事が違う所にあるが故に気が散っているのか。

 

ともかく、たった今代表が解禁され、そのあまりの爆音の歓声を見下ろしている遊良の意識は、ここ最近立て続けに襲い掛かってくる様々な事象に対し、心休まらずにどこか疲れを見せているかのよう。

 

 

 

 

「…罠だってのにルキは【決島】に出るし、転入生はランさんにそっくりだし…何がなんだか、もうわけがわかんねーよ。」

「ルキならば大丈夫だろう。自分の身くらい自分で守れる。」

「…はぁ…大体なぁ、ルキが狙われてるってのにお前は楽観的過ぎなんだって。」

「そんな奴ら、ルキならば自分でどうにかすると言っているのだ。お前こそルキを見くびり過ぎだぞ。ルキの強さはお前も知っているだろうが。」

「それはわかってるけど…でも心配だろ?もしルキに何かあったら…」

「お前は保護者か恋人か?そんなに心配なら、【決島】の間もずっと付きっきりでルキを守っていることだ。…ふん、お前が上を目指さんのなら、俺も【決島】になど興味が沸かんがな。」

「はぁ…」

 

 

 

そう言い放つ鷹矢の声は、彼をよく知らない者が聞けば薄情なモノとも勘違いしそうなほどに厳しい言葉だったことだろう。

 

しかし鷹矢の心意など、意図せずとも嫌でも理解出来てしまう遊良だからこそ、鷹矢の言葉の意味の先にあるモノを分かっている。

 

鷹矢とて、ルキを心配していないつもりは無いのだ。先の『異変』の時もそう、ルキ自身の実力を、誰よりも信用しているのも間違いなく鷹矢。

 

だからこそ、自ら戦いの舞台に上がろうとしているルキの気持ちを汲み、鷹矢もあえてルキのしたいことを肯定しているのだ、と。

 

…また、ルキへの心配とは別に、鷹矢が固く誓っているある気持ちも遊良は理解している。

 

そう、昨年度の【決闘祭】の決勝での勝敗に対し、自分へのリベンジを鷹矢が固く心に誓っていると言うことを。

 

幼い頃に交わした、大舞台で、全力でぶつかり合うというその『約束』。

 

ルキへの心配もあっていい。しかし、ソレばかりに気を取られていては、【決島】は『約束』の舞台にはならないというその暗示。前回の【決闘祭】では遊良に軍配が上がったとは言え、次の『約束』…

 

そう、今回の【決島】で、再び遊良と頂上で相見えようとしているそのために、遊良が自分との戦いの他に気を取られることなど鷹矢が許すはずも無いのだ。

 

ルキへの心配、鷹矢との『約束』、そして自分の身に起こっている様々な事象。そんな交じり合うモノに挟まれている遊良が、疲れからか一つ大きな溜息を吐き…

 

今日は家庭の事情で休んでいるルキの不在も伴って、鷹矢の呆れるほどのふてぶてしいその態度に対してももどこか遊良の返しはキレが悪く…もうすぐ夏休みだというのに、待ち受ける【決島】への不確定な不安と、ここ最近立て続けに起こった不可解な異変の数々が、遊良の心を落ち着かせてはくれなかった。

 

 

 

…夏が、始まる。

 

 

―戦いの前の、一時の夏が。

 

 

 

 

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