遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep69「烈火と業火」

「あっついよー…なんでこんなに駅から遠いのー…」

「知るかよ…」

 

 

 

夏休みも中盤を過ぎた頃。

 

決闘市を騒がせていた『失踪事件』もその鳴りを潜め、既に太陽が真上に昇り暑さも本格的に厳しいこの昼の時間に…

 

遊良は、ルキを連れ立って決闘市の南地区、その『とある場所』まで出向いていた。

 

しかし、最寄りの駅から徒歩でそれなりに時間のかかる場所にある為か、炎天下の街の気温は例年を大きく上回って灼熱の一途を辿っており…

 

それに反比例し、遊良とルキのテンションは大きく下降の一途な様子を見せていて。

 

また、いつもならばイースト校で通常通りに、来たるべき【決島】に向けた『修業』の真っ最中であるはずの時間。

 

その一刻の猶予も無いこんな大事な時期に、遊良とルキがイースト校を離れ、この決闘市の『南地区』にまで足を運んだのも理由があって。

 

 

 

―『明日は仕事が立て込んでいましてね。外部の知人に君たちの修業を頼んであるので、明日はそちらに行ってください。』

 

 

 

…そう、それは決闘学園イースト校理事長、【白鯨】と呼ばれた元シンクロ王者である、砺波 浜臣にそう言い付けられていたが故の遠征。

 

遊良が謎の人物に襲われた後から、すっかりとその影を消した『失踪事件』の捜査も行き詰っているとのことから砺波もやや警戒を緩めているのか。

 

砺波クラスの実力者が、わざわざ『外部』の人間に信頼を預け己の教え子たちを託すということは、それだけその『外部』の知人の力が砺波も認める程の実力者であるとも言えるだろう。

 

そう、言い換えれば、あの自尊心の塊のような砺波が認めている人物に、わざわざ特別に教えを請えるという遊良にとってはまたとない経験。

 

そんな、どこか暑さに参っているルキとは裏腹な期待を持っている遊良へと向かって…

 

ルキは、弱々しい声で遊良へと言葉を続けた。

 

 

 

「鷹矢は今頃涼しい会場で大会でしょ?…いいなぁー…」

「そうか?毎日毎日レベルの高い大会に出続けで、この前帰ってきたときもかなりヘロヘロになってたぞ?…あの鷹矢が。」

「…うぅ…やっぱ良くない。…どっちもよくないよぅ、もう…」

 

 

 

外のあまりの気温の高さに、ルキが弱音を吐きつつも。二人は砺波に指示された場所を目指して、この猛暑の中を歩き続ける。

 

【決島】の本番も近づいてきているというのに、少々緊張感に欠けた様子のルキではあるものの…それでも、この暑さの前では多少の弱音は仕方がないのか。

 

…まぁ、一生に一度しか訪れない高等部2年の夏休みを、毎日毎日修業漬けで過ごしているのだから、ルキが弱音を吐いたとしてもそれは当たり前の事ではあるのだが…

 

しかし、来るべき【決島】へと向けた準備の為には、彼らには少しも休んでいる暇は無いのだろう。

 

そう、決闘市とデュエリアという、犬猿の仲とは言え世界が誇る二大デュエル大都市にある決闘学園同士が、その雌雄を決するという歴史上初めての大規模な学生達の祭典。

 

そんな世界中が注目している祭典に、【決闘祭】の優勝者として出場する遊良へのプレッシャーは生半可なモノではなく…

 

今でこそ【決闘祭】での活躍もあって、ようやく決闘市内においては『Ex適正』を持たない遊良への偏見が収まってはきているものの、しかし一度決闘市の外に出ればまだまだ世界は遊良の事を切り捨てたままだと言うこともまた事実。

 

…負ければ終わり。

 

もし遊良が【決島】で不甲斐ない戦いを見せれば、世界中が遊良を笑いモノとして騒ぎ立て…

 

自分を推薦してくれた決闘学園の理事長達の顔に泥を塗ることになり、そんな事になれば世界は幼少の頃以上に自分の存在を頭から否定してくるに違いないのだ。

 

それに加え、『赤き竜神』を持つルキを狙っている『敵』が居るかもしれないという懸念と、あの鷹矢でさえ文句を言いつつも着々と砺波に言いつけられた修業をこなし今この時も確実に強くなっているのだから、そんな鷹矢に負けないためにも、そして自身とルキの事を守るために強くなる為にも。

 

…『修業』のために、この暑さの中を歩き続けるだけ。

 

 

 

そうして…

 

 

 

目的地までの一本道、綺麗に舗装された熱く燃えたアスファルトの道を超え。

 

目的の場所を目指して、遊良とルキは歩き続け…

 

 

 

―目的地であるこの『校門』の前で一度、二人はその足を止めた。

 

 

 

 

 

「…初めて来たけど、イースト校とそんなに造り変わんないんだね。」

「まぁ姉妹校だからなぁ。でも一番実戦派なだけあって、スタジアムの数がイースト校よりも断然多い。」

 

 

 

…そう、遊良達が訪れたのは、この決闘市に4つある決闘学園の内の一つ。

 

効率良く学生達の実力を引き伸ばして、実力の層が最も厚いと言われているウエスト校や、各召喚法の専門授業を行っていて、時折突出した実力者が現れることで有名なイースト校や…

 

融合召喚至上主義を掲げ、別名『紫魔学園』とも呼ばれるノース校とも、そのどれとも違う学園の形で有名な場所。

 

 

―決闘学園サウス校

 

 

『烈火』と呼ばれた元プロデュエリスト、獅子原 トウコを筆頭とした、実技授業の多さが有名な実践主義を掲げる学園。

 

 

―攻めることこそ美学なり。いかなる逆境にも立ち向かう、『攻めてこそ全て』を学風に。

 

 

押し寄せる波の如く攻撃を重視してくるサウス校の学生達の特色は、まさに理事長の思想をそのまま反映していることに違いなく。

 

 

 

「何か他校に入るのってちょっと緊張するかも。」

「…そうだな。」

「このまま入っちゃっていいんだっけ?」

「あぁ、話は通してあるから、特に許可取りに行く必要も無いんだって。」

 

 

 

そして、このサウス校へとわざわざ足を運んだ遊良とルキが、指示されている時間通りにサウス校の敷地内へと足を踏み入れていく。

 

この夏休みのど真ん中で、他に学生も居ないために…余計なことに足を止められることもなく、他校へとやってきた遊良達へ挑発的な物言いを食らわすような学生も居らず。

 

そのまま指定されていたサウス校のスタジアムの中でも、最も大きなメインスタジアムへと正面からその足を踏み入れ。そのまま、指定されているその場所へと二人は向かって。

 

 

 

そして…

 

 

 

遊良とルキが、通路から一歩、メインホールへと入った…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「よく来たねぇ、待ってたよ!」

 

 

 

 

デュエルステージの上から、遊良とルキに向かって届けられた快活な声が、この広いスタジアム全体に響き渡って。

 

…すぐさま遊良とルキがステージの上を見上げれば、そこには赤みがかった茶色い髪を揺らした、スタジアムの上で仁王立ちした壮年の女性の姿が。

 

この広いスタジアムの中でも、よく響きよく通る快活な声で。心に直接響くようなその真っ直ぐな声は、紛れも無く本心と言葉が一致している証拠。

 

それは、あの元シンクロ王者【白鯨】砺波 浜臣が、わざわざその頭を下げてまで教え子の遠征を頼んだ、【王者】も認める確かな『力』を持った豪傑であり…

 

女性らしからぬ荒々しい攻撃と、そのあまりに好戦的なスタイルは、彼女の豪胆な態度と合わせてあまりにも有名。

 

一説には、【黒翼】も【白鯨】も…そして彼女の教え子であった、【白竜】と言ったあの歴戦の【王者】達でさえ彼女には頭が上がらないと言われている、決闘界きっての姉御肌の御仁。

 

 

…燃え盛る女傑。『烈火』と呼ばれた元プロデュエリスト。

 

 

 

―獅子原 トウコ

 

 

 

「獅子原理事長、今日はよろしくお願いしま…」

「ハッ、固っ苦しい挨拶は無しでいいさね!」

「え、いや、そういうわけには…」

「なぁに、浜臣の奴…じゃなかった、砺波理事長が直々に鍛えてるって言うから、ちょっと気になって声かけてやっただけさよ。エリ…ウチの孫娘も、去年の【決闘祭】でアンタに『色々と』世話になったみたいだし、どんなモンなのか気になってたからねぇ。」

「はぁ…」

「だから今日はアタシがみっちり鍛えてやるさ!アンタを【決島】に推薦したアタシの面子もかかってるからねぇハッハッハ!」

 

 

 

ステージに上がり、礼儀と共にそう頭を下げた遊良に対し…どこまでが冗談で、どこまでが冗談ではないのかを掴みにくいその口調で、更に言葉を返す獅子原 トウコ。

 

混じり気の無い快活な声、裏表の無いストレートな感情。

 

決闘界きっての大家族で知られる『獅子原家』の、その筆頭とも呼ぶべき彼女の人徳がなせる技なのか。しゃきしゃきと話すその言葉使いには、この高位に達した人物にありがちな重圧やプレッシャーと言った、他者を圧倒してくるような雰囲気が含まれておらず。

 

 

…しかし、笑いを織り交ぜながら話していながらも、その声の中には確かな威厳と得も言われぬ迫力が存在していることに、遊良は気がついたのか。

 

 

そう、元とは言え、歴史に名を残すほどの『異名』を持つプロデュエリストであった彼女の実力は、王者に次ぐとも言われる世界最高峰に位置するモノ。

 

いくら『烈火』と呼ばれたこの女性の態度に、親しみすら感じさせる優しさがあるとは言え…

 

その立ち振る舞いは、遊良に歴戦の重みを感じさせるには充分過ぎる程なのだから、いくら彼女の声が快活であろうとも遊良が緊張を崩せないのは当然のことだろう。

 

そんな『烈火』は、まだサウス校に着いたばかりで戸惑っている様子の遊良達へと向かって…

 

何やら少々考えたような素振りを見せた後。徐に、その口を開き始めた。

 

 

 

「それに…アンタに会わせろって煩いヤツも居たからね。まっ、色々と丁度良かったってだけさよ。」

「…え?」

「ほら炎馬!入ってきな!」

 

 

 

そう言って…トウコが、反対側にある通路の入り口へと声をかけたその瞬間。

 

入り口の影に隠れていたのか、ゆっくりとその入り口の影から、サウス校の制服を着た少年が姿を見せたではないか。

 

…それは、獅子原 トウコや彼女の孫娘である獅子原 エリと同じ赤みがかった茶色い髪を、まるで獣のたてがみのようにして後ろへと流した髪型をした、どこか幼さの残る少年。

 

しかし、今日のこのサウス校への遠征は急に決まったモノだと言うのに、一体何故この少年は遊良が今日この場に来ることを知れて、そしてここに来ることを許されたのだろうか。

 

そのまま『炎馬』と呼ばれたその少年は、ゆっくりと大股でこちらへと向かってくると…

 

目を細め、遊良を睨み、肩で風を切るようにして。ステージへの階段を上がって、そのまま遊良の傍まで近づいてきたではないか。

 

 

 

「ふーん…アンタが天城 遊良か。去年、姉ちゃんに勝った奴…」

「…姉ちゃん?」

「コイツは獅子原 炎馬。ウチの一年で、15人いるアタシの孫の一番の末っ子さね。…エリの弟なんだが、エリが去年の【決闘祭】でアンタに負けたのを根に持ってるんだとさ。」

「別に根に持ってるとかじゃねーけど。…でも、あの姉ちゃんが下級生に負けたっておかしいじゃん。だからどんな奴なのか気になってただけだって。」

「…えっと…」

「…すまないねぇ、末っ子の所為かどうにも小生意気で。洟垂れの癖して、ウチの1年で唯一【決島】の代表にも選ばれちまったもんだから余計に調子に乗っちまって。今日アンタがサウス校に来るって聞いたら、『自分も行く』って言って聞かなくてねぇ。」

 

 

 

初対面であるにも関わらず、あまりに不遜な態度で遊良へと言葉をぶつける獅子原 炎馬と…

 

それに少々困ったような顔をしてはいるものの、末の孫と言うだけあってどこか炎馬への態度が甘い獅子原 トウコ。

 

しかし、歴戦のデュエリストが鍛えてくれるという、この誰もが羨む特別な場所にこの少年が無理を言って現れたのも、『烈火』の孫という立場ならば納得せざるを得ないだろう。

 

また、炎馬の不遜な物言いは、遊良にどこぞの馬鹿を思い出させるには充分であり…また彼のその不遜なる物言いも、ソレを裏付けるほどの経験と自信を持っていると言うことなのか。

 

…とは言え、一体どうしてこの少年は遊良に会いたがっていたのだろうか。

 

確かに昨年度のサウス校3年、今年から新人としてプロデビューを果たした彼の姉である獅子原 エリと遊良は、昨年度の【決闘祭】で戦った間柄とは言え、その勝敗は【決闘祭】における正式なモノであり、もしもその結果が不満だとして彼が憤っているのだとしたら、それは完全にお門違いであると言うのに。

 

そんな炎馬は、未だ戸惑いを感じているであろう遊良へと向かって…

 

どこか喧嘩腰にも聞こえる口調のまま、言葉を続けた。

 

 

 

 

 

「…なぁ、天城 遊良。俺とデュエルしようぜ?」

「…え?」

「一回さぁ、【決闘祭】の優勝者ってのがどんなモンなのか見ておきたかったんだよね。それに、アンタがあの姉ちゃんに勝ったってのもどうにも信用できないしさ。なぁ、ばあちゃんもイイだろ?」

「アタシはまぁ…手っ取り早くこの子の力も見れるから構わないがねぇ。でも天城君、アンタはいいのかい?こんな洟垂れの頼みなんて別に断ってくれてもいいんだよ。元々はアタシが直接アンタを鍛えるつもりだったんだし。」

 

 

 

 

 

唐突に、しかし決闘学園の学生らしい好戦的な物言いで。まるで挨拶代わりだと言わんばかりに、どこか高圧的な言葉使いで遊良へと勝負を挑んできた炎馬。

 

その尊大な態度は、よほど自分の実力に自信があるのか、それとも『烈火』の孫だという後ろ盾に甘んじているのか。もしくは、その両方を遊良に感じさせたことに違いなく…

 

彼にとって、姉の敵とも言える自分が歴戦のデュエリストである祖母の指導を受けることが彼には気に入らなかったのだろうか。

 

つまり少年の言いたい事は、自分に花を持たせろということか、それとも『Ex適正を持たない者』らしく身の程を知れということとも取れるモノ。

 

―歴戦の決闘者である『烈火』に鍛えてもらいたいのならば、それ相応の『空気を読め』…と、遊良には目の前の少年がそう言っているようにも聞こえ…

 

 

 

 

 

しかし、ソレを把握してもなお…

 

 

 

 

遊良は、不敵に笑うのみ。

 

 

 

「…いえ、やらせてください。こっちも、どうせなら本番前に相手の手の内を見ておいた方が得ですし。」

「ハッ、言うじゃないかボウズ、アタシを前にして中々の度胸だ。いいだろ、威勢のいい男は好きさ。好きに戦りな。」

 

 

 

遊良の口から放たれるは、炎馬に花を持たせる気など更々無いと言わんばかりの雰囲気と言葉。

 

そう、あまりに堂々とそう言い放った遊良の言葉からは、例え目の前の少年が歴戦の決闘者の孫であろうとも、微塵も臆した様子を感じさせず。

 

それは、別にこの獅子原 炎馬という少年が誰の孫であったとしても、そしてその少年の祖母が歴戦に名を連ねた伝説の決闘者であったとしても…そして、他人がどれだけ高圧的な態度で向かってこようとも、今更、遊良が『そんな圧力』程度で怖気づくわけが無いと言う事の証明。

 

…何せ、遊良は生まれた時から王者【黒翼】の孫である鷹矢と共に過ごしているのだし、王者【黒翼】と元王者である【白鯨】に直々に鍛えられているのだ。

 

それに加え、まだ自分の力が認められていなかった昨年の決闘市の雰囲気の中で、見事【決闘祭】を最後まで戦いぬいた遊良の精神力は、およそ同じ年代の少年達の胆力と比べても桁違いに鍛えられているのだから。

 

…そして、ソレは無論『烈火』の方も始めから承知していること。

 

故に、デュエルの為にステージの端へ移動していく遊良の背中を見送りつつ…

 

その反対側のデュエリストゾーンに歩いていこうとしている末孫へと向かって。『烈火』は、やや怪訝そうな顔をしながらその口を開いて…

 

 

 

「炎馬…アンタまさか、天城 遊良を見くびったり、わざと負けさせようとしたりしているんじゃないだろうね?【決闘祭】の優勝者ってのは生半可なモンじゃない。もしアンタがそんな馬鹿な事考えてるんだったら…」

「わかってるよばあちゃん。…あの姉ちゃんでも出来なかった、【決闘祭】の優勝を果たした『あの人』がどれだけ凄い人なのかってことくらい…俺にだって…」

「…ほう?」

 

 

 

…しかし、遊良に聞こえないように呟かれた炎馬のソレは、先ほどまで遊良へと向けていた喧嘩腰の態度とは一変。

 

真逆の態度と、正反対の対応。

 

呼び捨てていた遊良の事を『あの人』と言い、疑っていたその功績を素直に認めているかのような言葉が炎馬の口から語られ始めたではないか。

 

 

 

「それに俺が『烈火』の孫だからって、あの人が手を抜いたり勝ちを譲ったりなんかするもんか。じゃなきゃ、アレだけのプレッシャーの中で【決闘祭】に優勝なんか出来っこない。」

 

 

 

先ほどようなの、含みのあるような言葉ではない。どこか敬意すら感じさせる言葉で語られる、これが炎馬の本音だとでも言わんばかりに。

 

その口から語られるのは、少なくとも遊良を陥れたいだとか蔑みたいだとか、そんな低俗で浅はかな未熟者が言うような言葉では断じて無く。

 

その孫の変わり身に、彼の祖母も思わず虚を衝かれたかのような表情を零していて…

 

そんな祖母へと向かって、そのまま炎馬は更に言葉を続けるのみ。

 

 

 

「…だから、俺が一度も勝ててない姉ちゃんに勝ったあの人と…今の俺にどれだけの差があるのか。一度、この目でちゃんと見ておきたいんだ。」

「ハッ、あの甘えん坊が、生意気言うようになったもんさね。ばあちゃんちょっと驚いたよ。」

「…ちゃかすなよ。」

「でもデュエルしたいだけだったら、あんな態度取らずに普通に頼めば良かったんじゃないかい?わざわざ挑発するような事まで言って。」

「…本人見たら緊張して…あぁでも言わなきゃ上手く喋れなかった…」

「…何だい、まだまだ洟垂れじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いいの?本番前に【堕天使】が使えなくなったこと、他の学生にバレちゃっても。」

「あぁ、どうせバレるのが早いか遅いかだろ。それに、【決島】じゃ嫌でも全員にバレるんだしさ。」

「…そういうことじゃないんだけど。」

 

 

 

デュエルステージの端。今まさにデュエルが始まろうとしているそんな矢先に、どこか怪訝そうな声でそう遊良へと声をかけてきたルキ。

 

どこか心配そうに呟かれたソレは、先ほどの『烈火』の孫の高圧的な態度と…

 

遊良が【堕天使】を失った事実を知っているのが極限られた人物のみと言うことからなのだろうか。

 

 

 

「もし遊良が【堕天使】を使えないって事が広まったら、【決島】の前にまた色々言われそうじゃん。」

 

 

 

…そう、ルキの懸念は、遊良にとって【堕天使】というカード達があまりにも重要なモノだということを理解しているからこそ。

 

遊良の【堕天使】達の力は、【決闘祭】でも証明されているものの…逆に言えば、ソレが使えなくなったと周囲に広く知れたら、周囲の心無い人間達がまた何を言い出すかわからないのだ。

 

―いくら【決闘祭】の優勝者とは言え、その優勝の要となった【堕天使】がなければ…所詮、天城 遊良は『Ex適正』の無いデュエリストのなりそこないじゃないか…と。

 

 

 

「大丈夫だって。…『前』と、やることは何も変わらないんだし。」

「…え?」

 

 

 

しかし、そんなルキへと静かに届けられた、確かな力強さが込められた遊良の言葉。

 

それは、先日に失ってしまった【堕天使】と言う力に、微塵も未練を持っていない証拠なのだろうか。いや、やはり昨年度にずっと一緒に戦ってきた【堕天使】達を失った事は、遊良にだって辛いことではあるものの…

 

失ってしまったモノを今更嘆いても仕方が無いのだし、そもそもそんな気持ちなどとっくに振り切れている遊良だからこそ。今の自分にしか作れないデッキを胸にデュエルへと挑むしかないと切り替えている証拠に違いないだろう。

 

弱いままでは変わらない。強くなければ変えられない。

 

幼い頃に師、鷹峰から教えられたその言葉の通りに…

 

 

 

「【決闘祭】の前と一緒だ。…邪魔する奴は全員倒す。疑う奴も全員倒す。…無理矢理にでも、認めさせてやるんだ。」

「…あの時とは事情が逆じゃん、もう。」

「いや一緒だよ。見せ付けるだけだ、例え【堕天使】が無くても…俺の、『力』を。」

 

 

 

―見せ付けるだけ。嘘では無い事を、周囲に。

 

 

例え、どんなカードを使おうとも…自分自身の『力』が、偽物では無いのだということを、疑う者全てに。

 

 

そうして…

 

 

 

獅子原 トウコとルキがそれぞれスタジアムの端に寄り、遊良と炎馬、それぞれが対面で向かい合うと、お互いにデュエルディスクを装着して。

 

唐突に始まるこのデュエル。それぞれの思惑は交差をせずに相手へと向いている。そのままディスクがデュエルモードへと切り替わると、デッキが現れLPが表示され…

 

 

 

「天城 遊良!言っとくけど、こっちだって手加減はしねーからな!」

「…」

 

 

 

 

 

どこか、自らを鼓舞するかのように叫ばれた少年の声を合図に…

 

 

 

―2人は、叫ぶ。

 

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

そうして、始まる。

 

 

先攻はサウス校1年、獅子原 炎馬。

 

 

 

「俺のターン!俺は永続魔法、【炎舞-天璣】を発動!デッキから【速炎星-タイヒョウ】を手札に加える!そのまま、【速炎星-タイヒョウ】を通常召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【速炎星-タイヒョウ】レベル3

ATK/ 0→100 DEF/ 200

 

 

 

たてがみの少年が早々に呼び出したのは、天速の定めをその身に刻んだ炎豹の化身。

 

 

―【炎星】

 

 

それは獣の魂を宿した古の時代の武人の集団。

 

その切り札には、シンクロモンスターとエクシーズモンスターが存在するものの…そのどちらを扱うかによってデッキの内容もガラリと変わる、『Ex適正』によってそのスタイルが異なるというプロでも使用する者の多いテクニカルなカテゴリ。

 

またその一番の特徴は、【炎舞】と呼ばれる武人達の兵法を使い分け、その戦を更に激しいモノへと変えることにあるのだ。

 

 

 

「【速炎星-タイヒョウ】の効果発動!タイヒョウをリリースし、俺はデッキから【炎舞-天枢】をフィールドにセット!そしてそのまま【炎舞-天枢】を発動し、獣戦士族の召喚権を一回増やす!俺は手札からチューナーモンスター、【炎星師-チョウテン】を通常召喚!その効果で墓地から、【速炎星-タイヒョウ】を守備表示で特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

【速炎星-タイヒョウ】レベル3

ATK/ 0→200 DEF/ 200

 

【炎星師-チョウテン】レベル3

ATK/ 500 DEF/ 200

 

 

 

現れては消え、消えては現れ、正に陽炎の如き炎の武人。

 

【炎星】の切り札にはエクシーズモンスターとシンクロモンスターが存在するとは言え…歴戦のシンクロ使い、『烈火』と呼ばれた獅子原 トウコの孫らしく、彼もまたその血に違わぬ存在をこの戦場に呼び出しにかかるのか。

 

 

 

「いくぜ…レベル3のタイヒョウに、レベル3のチョウテンをチューニング!」

 

 

 

轟炎の導師が3つの天輪へとその身を捧げ、導かれる様に昇りしは、炎豹の定めを刻まれし天速星。

 

天輪が燃え、炎が弾け、空から落ちる光の柱と共に爆音が轟き…

 

 

 

「燃え盛る業火よ!戦場を駆ける紫炎を纏い、仇なす敵を焼き尽くせ!シンクロ召喚!来い…レベル6!【炎星侯-ホウシン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【炎星侯-ホウシン】レベル6

ATK/2200→2400 DEF/2200

 

 

 

現れしは、紫炎の猛馬を駆りし武人の王。

 

轟々と燃える炎圧を背負い、武人達の先頭に立ってその威光を激しく燃やす。

 

 

 

「【炎星侯-ホウシン】の効果発動!シンクロ召喚に成功したため、俺はデッキからレベル3の、【立炎星-トウケイ】を特殊召喚する!来い、【立炎星-トウケイ】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【立炎星-トウケイ】レベル3

ATK/1500→1700 DEF/ 100

 

 

 

また、武人の王に呼び出されるように、立て続けに現れる新たな武人。

 

目まぐるしく、休む間もなく。

 

サウス校の信条の通り、そして『烈火』の孫らしく。最初から激しい展開を魅せる炎馬の場には、どんどんとカードが増えていくではないか。

 

 

 

「まだだ!【立炎星-トウケイ】の効果発動!【炎星】モンスターの効果によって特殊召喚に成功したため、デッキから2体目の【炎星師-チョウテン】を手札に加える!そしてトウケイのもう一つの効果!場の【炎舞-天璣】を墓地に送り、デッキから永続罠、【炎舞-天璇】をフィールドにセット!俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

 

炎馬 LP:4000

手札:5→3枚

場:【炎星侯-ホウシン】

【立炎星-トウケイ】

魔法・罠:【炎舞-天枢】、伏せ2枚

 

 

 

そうして…

 

まだデュエルも始まったばかりだと言うのに、サウス校の学生らしく激しい先攻のターンを終えた炎馬。

 

…あれだけの展開を行ったにも関わらず、まるで息切れもせず。

 

サウス校の一年生で、唯一【決島】の代表に選ばれたと言うのも頷けるほどの錬度。

 

『烈火』の孫という肩書きに溺れず、高等部に進級したばかりとは言え彼のこれだけのデッキの回転を見れば、この獅子原 炎馬という少年がかなりの実力を持っていると言うことは遊良の目にだって明らかなことだろう。

 

 

 

それでも…

 

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 

 

炎馬の場に、圧倒されることも無く。遊良は意気揚々と己のターンを迎えるのみ。

 

…そう、相手が誰であろうとも、どんな思惑があろうとも。

 

自分のやるべき事は変わらない。【堕天使】を失ってしまってからこれまで、【白鯨】の元で磨き上げてきた自分のデッキを、今ここに爆発させるだけ。

 

そんな遊良は、一枚増えた手札を見て、そしてここから何をするべきなのかを即座に頭の中に思い浮かべながら…

 

 

 

 

 

―進撃を、始める。

 

 

 

 

 

「俺は魔法カード、【トレード・イン】を発動!レベル8の【クラッキング・ドラゴン】を捨てて2枚ドロー!更にフィールド魔法、【チキンレース】発動!LPを1000払って1枚ドロー!【闇の誘惑】も発動!2枚ドローして【サクリボー】を除外!2枚目の【トレード・イン】を発動し、レベル8の【モザイク・マンティコア】を捨てて2枚ドロー!…よし、【成金ゴブリン】を発動だ!LPを1000与え、更にデッキから1枚ドロー!」

「え、だ、【堕天使】じゃない!?」

 

 

 

ターンを向かえて早々に、巻き起こりしはドローの乱舞。

 

【堕天使】の影も形も無いそのドローの嵐に、驚いた様子の少年の声を無視して…まるで止まることのないそのデッキの回転は、遊良に【堕天使】を失っているという事実を微塵も感じさせないほどに激しいモノ。

 

…そう、例え【堕天使】を失ったのだとしても、自分のやることは何も変わらない。今まで信じてきた戦い方、今まで培ってきた戦い方、今まで磨き上げてきた戦い方を。

 

【堕天使】を得る前と、得た後。幼少の頃よりずっと貫き通してきた、遊良『本来』のスタイルと、【堕天使】と共に戦ってきた昨年度の経験が生み出した、遊良の『新たなデッキ』における更なる戦い方を、今ここに爆発させて。

 

 

 

炎馬 LP:4000→5000

 

 

 

「まだだ! 2枚目の【チキンレース】を発動し、LPを1000払って更に1枚ドロー!永続魔法、【冥界の宝札】を発動し、更に【手札抹殺】発動!俺は4枚捨てて新たに4枚ドロー!」

「…でも映像で見た通りだ…一体どれだけドローするんだよ…3枚捨てて3枚ドローだ!」

「…よし!手札を1枚捨て、装備魔法、【D・D・R】発動!除外されている【サクリボー】を特殊召喚し、その特殊召喚成功時に速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動!墓地とデッキから、2体の【サクリボー】を特殊召喚する!来い、サクリボー達!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

そうして遊良の場へと呼び出されしは、小さき毛玉の悪魔の使い。

 

必要なカードなら引けばいい。直接サーチが出来ないのなら、デッキの中から無理やり引っ張り出せばいい。

 

怒涛の勢いで減っていくデッキと、ソレに比例し増えていく場と墓地がそのスタイルを証明していて。

 

LPを減らしても出来ることを全力で行い、出来る手、取れる手、考えうる自分に出来る全ての手を持って。始めから怒涛の展開を魅せる遊良のデュエルの激しさは、先のターンの炎馬の激しさにも劣らぬ怒涛の勢い。

 

 

 

「ぐっ、トウケイは【地獄の暴走召喚】じゃ効果を発動できない。俺は【炎星侯-ホウシン】を選択する!」

 

 

 

また、デッキから呼び出せ防壁に出来る天立星ではなく、あえて武人の王を選択した炎馬。

 

【地獄の暴走召喚】では特殊召喚出来ないシンクロモンスターをあえて選択したということは、まだ天立星はデッキに残しておきたいということでもあるのだろうが…

 

しかし、今の炎馬の意識はそんな事よりも、遊良の理解出来ない程のデッキの回転へと向けられているではないか。

 

そう、決闘祭で使っていた、あの凄まじい存在感を放つ【堕天使】達ではないと言うのに…

 

まるで寄せ集めのようなバラバラなデッキが、統一感の無い滅茶苦茶なカード達が。普通であれば、到底回ることの無いようにすら思えるカード達の集まりが、あんなにも激しい回転を見せ付けてくるだなんて…と。

 

 

 

「ど、どうなってんだ?【堕天使】を使ってこないなんて…それに、あんな小さいモンスターを並べて何を…」

「行くぞ!俺は3体の【サクリボー】をリリース!」

「え、3体リリース!?ま、まさか!?」

 

 

 

そんなあっけにとられている炎馬を意に介さず。

 

堂々と高らかに、遊良は『その宣言』と共に、その手を天高く掲げ始めて。

 

この『Exデッキ至上主義』の世界では、見向きもされないような召喚法のエフェクト。生贄に捧げられし体が渦を纏い、天へとその魂を捧げながら…

 

 

 

「来い!【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

轟かせしは獣の雄叫び。

 

全てを粉砕するその槍を持って、戦乱に挑む武人へと衝動をぶつけ…目の前に立て付く全ての者を粉砕せんとして、猛々しく吼えるのみ。

 

 

 

「【決闘祭】の決勝で見た奴…くそっ、こんな『序盤』に出てくるなんて!」

「【冥界の宝札】と【サクリボー】3体の効果で、俺はデッキから5枚ドロー!そしてバルバロスのモンスター効果!3体リリースでアドバンス召喚した時、相手の場のカードを…全て破壊する!」

「くそっ、罠カード!【ブレイクスルースキル】発動!バルバロスの効果を無効に!」

 

 

 

しかし、炎馬の方も意表を突かれたとは言え、こんな早々に遊良に好き勝手にさせるわけにはいかないのか。

 

炎馬の放った鈍い光が、獣の王の放った破壊の衝撃波とぶつかり相殺され…

 

…あれだけの攻め気を見せてはいても、自分を守る手立てを忘れていない当たりは流石一年生で【決島】の代表に選ばれていることはあるだろう。

 

焦りを交えつつも、獣の王が今まさに放たんとした槍の衝撃に即座に反応し、守りの一手で武人達の身を守り、幼さの残る表情で遊良を見据える。

 

 

 

「…よし、【堕天使】じゃないのは想定外だったけど、でもバルバロスは止めた!これで…」

「だったら魔法カード、【アドバンスドロー】を発動だ!バルバロスをリリースして2枚ドロー!」

「またドロー!?…でも召喚権も使い切ったって言うのに、わざわざ攻撃力3000のモンスターをリリースしてフィールドをがら空きに?一体何を…」

「こうするんだ!【死者蘇生】発動!墓地から【サクリボー】を特殊召喚し、2枚目の【地獄の暴走召喚】発動!」

「えっ!?」

「俺は墓地から、再び2体の【サクリボー】を特殊召喚!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

驚き続ける炎馬を置き去りに、再び3体の毛玉の悪魔を呼び出した遊良。

 

一撃必殺の効果を持つ獣の王を止められ、もう召喚権も使っていると言うのにも関わらず…

 

先ほどと同じ盤面を作り出した遊良の意図は、まさか3体の毛玉を守備表示で出し、次の炎馬の攻撃に備えようと思っているわけではないだろう。

 

 

 

 

「お、俺は同じく、【炎星侯-ホウシン】を選ぶ…ま、まさか!」

 

 

 

それを炎馬も感じ取ったからこそ。

 

先ほどと同じく武人の王を選択しながら、『先ほどと全く同じ』と言うこの流れに対して、懸念と疑念が収まらない様子を見せていて。

 

そんな炎馬へと、遊良は更に見せ付けるように…

 

 

 

「そのまさかだ!魔法カード、【二重召喚】発動!そして【死者転生】を発動し、手札を1枚捨てて墓地から【神獣王バルバロス】を手札に戻す!行くぞ!再び3体の【サクリボー】をリリース!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…驚いたね。」

 

 

 

ステージの横でデュエルを見ている『烈火』から思わず呟かれたその言葉は、彼女にだって予想外だった光景故に漏れ出してしまったモノ。

 

それは、『Ex適正』が無いとは到底思えぬ…

 

いや、Exデッキを扱えないことなど、本当に些細なことだと思えるほどに。今目の前でデュエルを行っている少年が見せる、この怒涛の展開とその迷い無きデッキ回しは、まさに学生レベルには収まらぬ程の力の証。

 

研ぎすぎて鋭くなり過ぎたかのような綱渡りの連続だと言うのに、微塵も迷いを感じさせないほどに分厚いデュエルの展開。

 

扱うデッキが変わることなどこの業界ではよくある事とは言え、【決闘祭】であれだけ活躍したデッキを封印し…

 

よもや全くの新しいデッキで、【決闘祭】の時よりも更にキレの増した戦いを見せてくる遊良のデュエルは、一体『烈火』と言う歴戦の決闘者の目にはどう映ったのか。

 

 

 

「あの歳であれだけのキレを見せるとは。…鷹峰と浜臣の悪ガキ共、一体あの子にどんな鍛え方したってのさ。」

 

 

 

【決闘祭】で自分の孫娘を倒した、そして今自分の末孫を圧倒する勢いを見せている少年の実力は、疑いようの無い純粋なる本物。

 

獅子原家の15人いる孫の中でも、最も才能に溢れたエリを押さえてあの天城 遊良が【決闘祭】に優勝したと聞いた時点で、そんなことは『烈火』とて十二分に理解していたとは言え…

 

天城 遊良と言う、『Ex適正』の無いデュエリストのデュエルを実際にその目で見たことにより、それが更に納得できたのだと言わんばかりにその口から言葉が漏れ出てしまった様子。

 

そのまま『烈火』はその記憶の中にある、学生時代に同じように凄まじいキレを見せていた、『似たような人物』を今デュエルを行っている遊良へと重ね合わせながら。

 

再び、静かにその口から言葉を漏らして…

 

 

 

「…琥珀のバカを思い出すねぇ全く。」

 

 

 

 

 

 

「行くぞ!再び3体の【サクリボー】をリリース!」

 

 

 

轟かせしは不退の雄叫び。

 

例え一度防がれようとも、決して止められぬ衝動をぶつけんとする強い意思。

 

遊良が掲げしそのカードから、形容しがたい『力』の波動が溢れ…

 

 

 

 

 

―震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

 

 

―それは、現れる

 

 

 

 

 

「来い!【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

激しい咆哮を轟かせ、再び場に現れし獣の王。

 

その豪咆は大気を揺るがし、先ほど止められた鬱憤を晴らすかのごとく…先ほどよりも更に猛りながら、炎の武人達を見据えて激しく吼える。

 

 

 

「【冥界の宝札】とサクリボーの効果で、再びデッキから5枚をドロー!」

「い、一ターンに二回もバルバロスを出すなんて…そ、それに!何て枚数ドローすんだよアンタは!」

「まだだ!今度は邪魔されない!再び【神獣王バルバロス】の効果発動!やれ!バルバロス!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

あまりに激しい爆発音を轟かせながら、炎馬の戦場の全てを破壊の衝撃波が飲み込んでいく。

 

獣の王が地面へと突き刺した槍から発せられる凄まじいその衝撃波は、瞬く間に炎馬の場の武人達と炎舞が粉々になっていくではないか。

 

…また、あまりにデッキからカードを引く遊良のデッキを見て、炎馬は『ある事』に気が付いたのか。

 

そう、1ターン目とは言え、普通であればあれだけドローを繰り返していれば、遊良のデッキは既に底を付いていてもおかしくないはずだと言うのに…

 

当の遊良は、デッキが切れる恐怖など微塵も感じさせず、まだまだその回転を止める素振りも見せないのだ。

 

それは、通常、デッキの枚数はその回転を考慮して、リミットギリギリの40枚にそろえているデュエリストがほとんどだと言うのにも関わらず。

 

 

―そんな定石に歯向かうように、まるで時代に逆行するかのように。

 

 

遊良のデッキは、まだまだ厚さを保っていたのだから。

 

 

 

「な、なんて奴だ、こんな滅茶苦茶なデュエルをしてくるなんて…」

 

 

 

何枚引いたか分からなくなるほどの、相手を圧倒するドローの嵐。一度しか許されていないはずのアドバンス召喚を、無理矢理に増やしてでも貫き通してくるその気概。揃える事も大変なはずの『3体』の生贄を、さも当然のように揃える技量と度胸。

 

デッキの中身が大迷宮であるにも関わらず、多大なるドローを繰り返し…そのデッキの枚数すら常識を大幅に超えた枚数で作り上げ、そしてソレを使いこなしている遊良の姿は、まさに学生レベルには収まらぬモノの証明。

 

 

それは紛れも無く…

 

 

学生の枠組みから飛び出た力、一つ上の段階に至った者の実力。

 

 

―まさに、実力の『壁』を超えた者のソレ。

 

 

 

「よし、バトルだ!【神獣王バルバロス】でダイレクトアタック!」

「くっ!?」

 

 

 

故に、この攻防だけを見て炎馬が戸惑いを感じたのも最もであり…

 

『烈火』の孫という立ち位置から多くのプロデュエリスト達の力を近くで見てきた彼からしても、この歳でソコに届いていてもおかしく無い勢いを持っている遊良の力は、まさに規格外にも等しいことであって。

 

 

 

「天柱の崩壊、ディナイアー・ブレイカー!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 

炎馬 LP:5000→2000

 

 

 

だからこそ、炎馬には到底信じられない。

 

いくら【決闘祭】の優勝者と言えど、こんな滅茶苦茶な構成をしたデッキをどうすればあそこまで回転させられるものなのだろうか。

 

少なくとも自分が知るどの有名な学生達も、皆それぞれが自分にあったカテゴリを見つけ、その中で洗練された動きをしているというのに…

 

あんな出鱈目な構成をした、あんな統一感もないバラバラなカード達の集まりで、一体どうすればこんなデュエルが出来るのだろうかと、自分の理解の範疇を超えた凄まじさに彼もまた襲われ続けている様子で…

 

 

 

「一回目のバルバロスを止めてなかったら、【クラッキング・ドラゴン】なんかが蘇生されててワンショット?…あ、あんなデッキで?」

 

 

 

…とは言え、大きく削れるLPの減少音は、遊良と炎馬の『差』そのモノ。

 

ソレをそのまま表しているとでも言わんばかりに鳴り響くその音は、『運』などでは説明の付かないほどの力。まるで自分と天城 遊良の間には、大きな『壁』が存在しているのではないかと思えるほどの『差』。

 

そんな遊良のデュエルのあり方を、どうにも信じられないといった目で見ている炎馬の視線の先には…

 

あまりに重々しい雰囲気を醸し出している獣の王が、主の前に鎮座しているのみ。

 

 

…しかし遊良の方も、以前までの遊良だったら『こんなデッキ』など回すどころか構築することすら思い浮かびはしなかったに違いない事だろう。

 

 

それは、以前砺波に言われた、『自分のデュエルを今一度考え直しなさい』という厳しい言葉を深く深く考え抜いた末の結論。

 

デッキの枚数を減らして回転を重視し、攻撃と防御が中途半端になってしまうのならば…

 

もういっその事、回転を落とす事無く全てを成し遂げるために、デッキの枚数を増やしてやりたいことを全てやるという、矛盾しつつも無理矢理な、しかし遊良にしか出来ない暴挙の結論。

 

 

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 

 

遊良 LP:4000→2000

手札:6→4

場:【神獣王バルバロス】

魔法・罠:伏せ2枚、【冥界の宝札】

フィールド魔法:【チキンレース】

 

 

 

そうして…

 

遊良のターンが終了し、LPが並んで再びターンは炎馬へと移る。

 

…しかし、いくらLPが並んだからと言っても、それは勝負が拮抗しているという意味ではないことを炎馬もまた理解しているのだろう。

 

その証拠に、先程から遊良のデッキの凄まじさに圧倒されっぱなしの彼の額からは冷や汗が垂れており…まだターンが一巡したばかりだと言うのに、既に息が上がりそうな程の疲労感が炎馬へと襲いかかってきている様子ではないか。

 

 

 

「…このまま終われるかよ!俺のターン、ドロー!…よし!先ずは【炎舞-天璣】を発動し、デッキから【速炎星-タイヒョウ】を手札に加える!更にタイヒョウを召喚して、その効果発動!タイヒョウをリリースし、デッキから【炎舞-天枢】をセット!そして…」

 

 

 

それでも、己に芽生えかけた弱気を吹き消すかのように。自らの勢いを加速させんとして、次々と炎を燃やしていく炎馬の叫び。

 

攻めることこそ美学なり。如何なる逆境であっても、攻めなければ変えられないというサウス校の理念に則り。

 

例え【決闘祭】の優勝者が、自分の想像以上にとんでもない力の持ち主であったとしても…先のターンと同じ展開を行っていても、先ほどとは状況が異なっているからこそ。その手に握られた一枚のカードを掲げ、圧倒してくる遊良へと反逆の一手をぶつけるかのように。

 

 

 

「魔法カード、【真炎の爆発】を発動!俺は墓地から、守備力200の【速炎星-タイヒョウ】2体と、【炎星師-チョウテン】2体を、それぞれ特殊召喚だぜ!」

 

 

 

―!!!!

 

 

 

【速炎星-タイヒョウ】レベル3

ATK/ 0→100 DEF/ 200

 

【炎星師-チョウテン】レベル3

ATK/ 500→600 DEF/ 200

 

【速炎星-タイヒョウ】レベル3

ATK/ 0→100 DEF/ 200

 

【炎星師-チョウテン】レベル3

ATK/ 500→600 DEF/ 200

 

 

 

今再び燃え上がりしは、2対の天速星と天導師。

 

がら空きだった場が一瞬で4体のモンスターで埋まるその光景は、劣勢など乗り越えんとする少年の気概が生み出したモノ。

 

この爆発力こそ、自らの持ち味なのだと言わんばかりに。炎馬は、更にその叫びを続けるのみ。

 

 

 

「一気に4体のモンスターを…」

「いくぜ!レベル3のタイヒョウに、レベル3のチョウテンをチューニング!シンクロ召喚!来い、レベル6!【天狼王 ブルー・セイリオス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【天狼王 ブルー・セイリオス】レベル6

ATK/2400 DEF/1500

 

 

 

「まだだ!レベル3のタイヒョウに、レベル3のチョウテンをチューニング!シンクロ召喚!来い、レベル6!【獣神ヴァルカン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【獣神ヴァルカン】レベル6

ATK/2000 DEF/1600

 

 

 

終わらぬ炎馬の展開と、止まらぬ獣の雄叫びの嵐。

 

呼び出されしは、蒼く輝く天狼の星と、火を司る炎虎の化身。そのどれもが炎馬の攻め気に応えるように、雄叫びを上げて遊良を睨む。

 

 

 

「【獣神ヴァルカン】の効果発動!シンクロ召喚成功時に、俺の場の【炎舞-天璣】と…アンタの場の、【神獣王バルバロス】を手札に戻す!」

 

 

 

そうして…

 

燃え猛る炎の獣神が、その重槌を振り下ろしたその刹那。

 

その槌による大地の振動が遊良と炎馬、双方の場に広がっていき、無理矢理に二人のカードが一枚ずつ手札へと吹き飛ばされてしまったではないか。

 

 

 

「よし!ヴァルカンの効果で手札に戻したカードは、このターンの間効果を発動できない!これで【ライバル・アライバル】なんかでバルバロスを出しても、破壊効果は使えないぜ!」

「…へぇ、よく調べてきてるな。」

「まだまだいくぜ!さっきセットした【炎舞-天枢】を発動し、獣戦士族の召喚権を1回増やす!俺は更に【炎星師-チョウテン】を通常召喚し、その効果で墓地から【速炎星-タイヒョウ】を再び特殊召喚!レベル3のタイヒョウに、レベル3のチョウテンをチューニング!燃え盛る業火よ!戦場を駆ける紫炎を纏い、仇なす敵を焼き尽くせ!シンクロ召喚!再び現れろ、レベル6!【炎星侯-ホウシン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【炎星侯-ホウシン】レベル6

ATK/2200→2300 DEF/2200

 

 

 

「シンクロ召喚成功時、【炎星侯-ホウシン】の効果発動!俺はデッキから、【立炎星-トウケイ】を攻撃表示で特殊召喚だ!」

 

 

 

―!

 

 

 

【立炎星-トウケイ】レベル3

ATK/ 1500→1600 DEF/ 100

 

 

 

遊良のLPは残り2000で、炎馬のシンクロモンスターの攻撃力もソレを超え、そしてモンスターの居なくなった遊良のLPなど一度の攻撃で確実に0に出来るというに…

 

それでも展開をやめない炎馬の勢いは、まるで対峙している【決闘祭】の優勝者相手に攻め焦って展開を中途半端にすることがどれだけ危険な事なのかを本能で理解しているかのよう。

 

…そう、それは例え、遊良の使っているデッキが【堕天使】ではなかったとしても、先のたった1ターンの攻防で遊良の持つ鋭さの片鱗を味わった炎馬だからこその勘。

 

例え遊良の場を空けたとしても、微塵も油断してはいけないことをその身に刻んだからこそ。自分の墓地に【ブレイクスルースキル】があるとは言え、ソレに頼りきれないことを先のターンの身に染みて理解したが故に、細心の注意と対策を遊良へとぶつけるのか。

 

それは、先ほど彼が放った言葉からも容易に想像できることであり…

 

 

―『【決闘祭】の決勝で見た奴…くそっ、こんな『序盤』に出てくるなんて!』

 

 

先程、彼は言った。

 

遊良が【神獣王バルバロス】を使ってくるかもしれないということを、最初から予想していたかのようなその台詞を。

 

更には、遊良が【決闘祭】の決勝で使っていた【ライバル・アライバル】と言った、奇襲性の高いカードへの対策や警戒もしている様子。

 

…遊良の事を、よほど研究してきていたのだろうか。このターンの炎馬のデュエルへの態度は、およそ先ほどまで遊良へとぶつけていた挑発的で好戦的な態度からは一転。

 

どこまでも、遊良を確実なる『強者』として見ている様子で…

 

 

 

「アンタのLPは残り2000…一撃が通れば勝ちだけど、でも油断はしない!トウケイのモンスター効果!【炎星】モンスターの効果で特殊召喚されたため、俺はデッキから【暗炎星-ユウシ】を手札に加える!そしてトウケイのもう一つの効果発動!場の【炎舞-天枢】を墓地へ送って、デッキから【炎舞-天璇】をセット!」

「がら空きの場からここまで…」

「まだだ!俺は【チキンレース】の効果を使い、LPを1000払って【チキンレース】を破壊する!更に魔法カード、【貪欲な壷】を発動!【炎星師-チョウテン】3体と【速炎星-タイヒョウ】、【立炎星-トウケイ】をデッキに戻して2枚ドロー!」

 

 

 

怒涛の攻めを信条とする、サウス校の信念をそのままに。『烈火』の孫の名に恥じぬこの攻め気。

 

全てを破壊され、0からのスタートになったこの場から…

 

これだけの怒涛の展開を見せ、さらに相手への対策を抜かる事無く万全を整えたこの少年の力は、紛れも無く学生の中でも高位に位置するモノだということの証明。

 

 

 

「よし、バトルだ!【天狼王 ブルー・セイリオス】でダイレクトアタック!」

 

 

 

満を持して、場を整えて。

 

今まさに遊良に襲い掛からんとする蒼き天狼の牙の轟きが、フィールドに一度木霊して遊良へと向かい駆け始める。

 

…一撃が通れば勝ち。

 

例え、遊良がよく使用している【デモンズ・チェーン】と言った類の守りのカードを伏せていたとしても…

 

自分の場にはモンスターが4体も居るのだから、生半可なことでは止められはしないという、その攻め気に溢れた自負を纏いながら堂々と最初の命令を炎馬は下して。

 

守りに入り弱気になるくらいなら、最後の最後まで攻め抜くのみ。そうして勝ちに向かって走ることを幼い頃から祖母に叩き込まれている炎馬の叫びは、まさにサウス校の代表に相応しい程の闘気を纏っていたことだろう。

 

 

そして…

 

 

炎馬の叫びに呼応した、天狼の猛る牙が今まさに遊良へと襲いかからんとした…

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

 

「罠発動、【鏡像のスワンプマン】!闇属性、悪魔族となり、俺の場に守備表示で特殊召喚する!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

【鏡像のスワンプマン】レベル4

ATK/1800 DEF/1000

 

 

 

そんな炎馬の叫びを断ち切り、さも当然のように、遊良が発動した一枚の罠。

 

地面からドロドロと、徐々に人型に形作られていくその様は形容し難い狂気を孕んではいるモノの…その呻きとともに、天狼の前へと立ち塞がって。

 

 

 

 

「罠モンスター!?で、でも守備力は1000だ!そのまま砕け、ブルー・セイリオス!」

「墓地の【サクリボー】のモンスター効果!【鏡像のスワンプマン】の戦闘破壊される場合、代わりに【サクリボー】を除外する!」

「なっ!?くそっ、だったら続けてトウケイで攻撃!」

「再び墓地の【サクリボー】のモンスター効果!スワンプマンを戦闘破壊から守る!」

「1ターンの制限が無い!?くっ、ヴァ、ヴァルカンで攻撃だ!」

「3体目の【サクリボー】の効果で、再びスワンプマンの破壊を防ぐ!」

 

 

 

激しさを増し続ける炎馬の攻撃。それでも、その攻撃は遊良本人に届くことはなく。

 

守備表示で特殊召喚された、たかが守備力1000の罠モンスターが炎馬の怒涛の攻撃を連続して受けていると言うのに…

 

天狼の牙を、天立星の剣を、そして炎虎の魔槌を喰らっても。

 

それでもその人型の『何か』は、毛玉の力を借りてどこまでもその泥の身を固く硬く堅くして主を守りきっているではないか。

 

 

 

「くそっ!ホウシンでスワンプマンを攻撃!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

ようやく遊良の場の『何か』を破壊することに成功した炎馬ではあったものの…

 

どこか悔しげな言葉と共に呟かれたその攻撃の宣言は、確かに遊良の場を空けることには成功したとは言え、それ以上の攻撃の音を轟かせることは叶わず。

 

…まさか炎馬も、4体ものモンスターによる一斉攻撃を、たった一体のモンスターで防ぎきられることなんて思ってもみなかったのか。

 

…攻め手が多いのは自分の方。モンスターの数も、攻撃の回数も。

 

デッキが【堕天使】でないとしても、あの伏せカードはこれまでのデュエルで遊良が好んで使っていた【デモンズ・チェーン】と言った類のカードが伏せてあるのではないかと読んでいたと言うのに。

 

そんな炎馬の思考を軽々と躱すように、天城 遊良はたった一枚の伏せカードから自分の攻撃の全てをいとも簡単に躱したのだ。

 

また、伏せてあるのが【デモンズ・チェーン】ではなかったとしても…

 

自分の場のモンスターの攻撃力の最大値が2400と言うことから、遊良が罠モンスターではなく攻撃力3000の【クラッキング・ドラゴン】などを墓地から攻撃表示で特殊召喚していれば、【ブルー・セイリオス】の効果による弱体化によってこのターンで遊良のLPは尽きていたはず。

 

それをも見越して蒼き天狼から攻撃を仕掛けたというのに、ソレすら見透かされていたのではないかと思えるほどに…

 

 

 

「…あ、あれだけの連続攻撃を、たった一体のモンスターで止めた…伏せカード一枚だけで?」

 

 

 

そう、当然のようにして、遊良は二枚ある伏せカードの内のたった一枚だけで、4度の攻撃を全て受けきったのだ。

 

 

…ソレが意味する、一つの答え。

 

 

それは、自分と天城 遊良の間に、単純なる力の『差』があると言うことに他ならない。

 

状況の把握、先見も明、そして咄嗟の判断に戦況の予測も。遊良にかすり傷一つ負わせることが出来なかった事で、炎馬は嫌でも『ソレ』を理解してしまって。

 

…確かに、炎馬の実力は学生レベルの中ではかなりの高位。それは中等部から進学したばかりの一年生としてみれば、これ以上無い破格の才能に違いないこと。

 

 

しかし、それはあくまでも『学生レベル』での話であり…

 

 

そう、今この一年生が対峙しているのは、その『学生レベル』には収まらぬ程の実力者なのだ。

 

【決闘祭】で猛者達と鎬を削り続け、そしてボロボロになりながらもその実力の『壁』を必死に超えた、紛うことなき強者の姿。

 

その目に見える程の力の『差』と言うモノは、例え学生レベルの頂点の力を持っていたとしても簡単に届くうなモノではなく。

 

そんな炎馬もまた、これだけの怒涛の攻撃が全く届かなかったことで、ソレを理解してしまった様子で…

 

 

 

「くっそ…さっき【手札抹殺】で墓地に送られた、【シャッフル・リボーン】の効果発動。トウケイをデッキに戻して1枚ドロー。…カードを2枚伏せて、このエンドフェイズに【シャッフル・リボーン】の効果で手札の【暗炎星―ユウシ】を除外する。ターンエンドだ…」

 

 

 

炎馬 LP:2000→1000

手札:4→2枚

場:【獣神ヴァルカン】

【天狼王 ブルー・セイリオス】

【炎星侯-ホウシン】

魔法・罠:伏せ3枚

 

 

 

(…たった一枚の伏せカードからあれだけの攻撃を全部防ぐなんて…でも、俺の伏せたカードの一枚は【炎虎梁山爆】。LP残り2000のあの人が、またバルバロスの効果を使ってきたら…このカードでトドメだ。)

 

 

 

…しかし、そんな胸中でも。決して炎馬はデュエルを諦めてはいない様子。

 

密かな画策、逆手の抵抗。

 

普通であれば、己の全力が全く届かないような相手との戦いに陥れば、早々にその闘争心を折ってしまう者が殆どだと言うのに…それでも最後まで負けてやるつもりも無く、僅かな勝ち筋へと手を伸ばすのは彼もまた本物のデュエリストの証。

 

それは、歴戦の決闘者、伝説の女傑である『烈火』の孫の彼だからこそ。自分の理解の範疇を超えた者を相手にしても、最後まで勝利へと続く道を模索し続けるだけなのだから。

 

 

 

「俺のターン、ドロー!【大欲な壷】を発動!【サクリボー】3体をデッキに戻して1枚ドロー!更に【闇の誘惑】も発動し、2枚ドローして闇属性の【イービル・ソーン】を除外!」

「ぐっ、あれだけドローしててまだ引くのか…」

 

 

 

そんな炎馬の思惑を知ってか知らずか。依然として失速する様子など見せず、遊良は更にデッキを回転させていくのみ。

 

…それは、対峙した相手からするとどれだけのプレッシャーなのだろうか。

 

手札も減らず、デッキも減らず。そして幾度も悪夢のような破壊の衝動が襲い掛かってくるソレは、並大抵のデュエリスト達からすれば到底耐え切れもしない、喰らいつけもしない代物。

 

 

 

(で、でもバルバロスへの対策はした!いつバルバロスが襲ってきたって…)

 

 

「速攻魔法、【緊急テレポート】発動!デッキから【サイコ・エース】を特殊召喚!更にその特殊召喚成功時!速攻魔法、【地獄の暴走召喚】を発動だ!」

「またそのカード!?」

「デッキから、【サイコ・エース】2体を特殊召喚する!来い、【サイコ・エース】達!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サイコ・エース】レベル2

ATK/1000 DEF/ 0

 

【サイコ・エース】レベル2

ATK/1000 DEF/ 0

 

【サイコ・エース】レベル2

ATK/1000 DEF/ 0

 

 

 

そして…本当に暴走しているかのような勢いの遊良が呼び出したのは、先程の小さき毛玉の悪魔とは異なった、浮遊する乗り物に乗った戦闘機乗りのようなモンスター。

 

再びドローを加速させるのではなく、ここで新たなモンスターを呼び出したということは…

 

先程の動きとは違う展開を見せるということでもあり、それはすなわち本気で攻めにいくということ。

 

 

 

「俺は【炎星侯-ホウシン】を選択する!…また新しいモンスター?でも、ソイツで一体何を…」

「こうするんだよ!【サイコ・エース】2体をリリースし、レベル8、【闇の侯爵ベリアル】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【闇の侯爵ベリアル】レベル8

ATK/2800 DEF/2400

 

 

 

「バルバロスじゃない!?で、でも今更攻撃力2800のモンスターなんか…」

「【冥界の宝札】の効果で2枚ドローし、リリースされた、【サイコ・エース】2体のモンスター効果!こいつらはリリースされた場合に、フィールドのカードを1枚破壊する!俺はお前の…【炎星侯-ホウシン】と、さっき伏せてた【炎舞-天璇】を破壊!」

「そんな効果が!?くそっ、だったら破壊される前に永続罠、【炎舞-天璇】発動!【獣神 ヴァルカン】を対象に、その攻撃力を700アップ!」

 

 

 

重なる攻防、交差する声と声。

 

この【決闘祭】で行われても不思議ではない対戦カードが、こんな観客も居ないだだっ広いスタジアムで野良試合のように行われているのが悔やまれることではあるものの…

 

遊良の変化した呼吸にも、炎馬は咄嗟に反応し、そうしてカードとカードの効果が幾重にも重なって、その攻防の激しさは更に上昇の一途を辿っていて。

 

 

 

「あんな効果があるなんて…でも、どうして他の伏せカードじゃなくてホウシンを…」

「バトル!【闇の侯爵ベリアル】で、【天狼王 ブルー・セイリオス】に攻撃!」

「え!?」

 

 

 

そうして…

 

先程あれだけドローして、そして頑なに獣の王の破壊の一掃を貫いてきたのにも関わらず。

 

遊良の手札にバルバロスがあることは最早公開情報で、先程と同じくバルバロスによる破壊の一掃が襲い掛かってくると予想していた炎馬の思考の、その斜め上を避けるかのように悪魔の貴族に攻撃を命じた遊良。

 

 

…当然、この攻撃では炎馬のLPを削りきることなど出来ず。

 

このままバトルが終わってしまえば、返しのターンで再び炎馬が怒涛の攻撃を仕掛けてくることなど容易に想像できるはずだと言うのに…

 

 

 

―!

 

 

 

炎馬 LP:1000→600

 

 

 

それでも悪魔の貴族の剣が、止まらずに天狼を切り裂いて。

 

そのまま天狼の断末魔が、最後に悪魔の貴族にその牙を突きたて、ベリアルの攻撃力を大きく下げていくではないか。

 

 

 

 

「な、何を考えてるのか知らないけど、でもこれでアンタのバトルは終わりだ!破壊された【天狼王 ブルー・セイリオス】の効果発動!【闇の侯爵ベリアル】の攻撃力を2400下げる!これで次のターンのバトルで…」

「まだ俺のバトルフェイズは終わってない!手札から速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動!」

「あ、そ、それは!?」

 

 

 

しかし、そんな炎馬の呼吸を乱すかのように。遊良は、一枚のカードを発動して。

 

バトルフェイズに『召喚』を行えるそのカードは、遊良が【決闘祭】の決勝でも使っていた、好んで使用するカードの一枚であり…

 

 

 

「俺は【闇の侯爵ベリアル】と【サイコ・エース】をリリース!」

 

 

 

そして…

 

ソレは炎馬もまた、先程のターンに最大限に警戒していたカードの一枚であって。

 

 

 

「レベル8、【神獣王バルバロス】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

三度轟く、獣の咆哮。

 

何度も、何度も、何度だって現れるソレは、例え全てを破壊する衝動を放たなくとも…圧倒的存在感を持って、炎馬へと向かって天高く吼える。

 

 

 

「こ、今度は2体リリースで?」

「【冥界の宝札】の効果で2枚ドローし、リリースされた【サイコ・エース】のモンスター効果!…【獣神 ヴァルカン】を破壊!」

 

 

 

―!

 

 

 

そうして、最後まで炎馬の場に残った、燃える魔槌の炎獣神までもが成す術なく破壊されてしまう。

 

しかし、バルバロスの攻撃力はヴァルカンをゆうに超えていて、炎馬の場にはまだ伏せカードが2枚残っているにも関わらず…

 

その伏せられたカードには、攻撃反応系の罠の『可能性』もあると言うのに。炎馬の仕掛けた罠が、まるで『見えている』かのようなその攻め方は、炎馬からすれば不可思議の一言。

 

 

 

「ぐっ、伏せカードに目もくれないなんて…」

「これで最後だ!【神獣王バルバロス】で、ダイレクトアタック!」

「ま、まだだ!永続罠、【デモンズ・チェーン】はつど…」

「それにチェーンして手札から速攻魔法、【禁じられた聖槍】発動!バルバロスの攻撃力を800下げ、【デモンズ・チェーン】の効果を受けなくする!」

「そんな!?」

 

 

 

そして…

 

炎馬の最後の抵抗も、遊良は軽々と超えていく。

 

獣の王が、遊良の場から放たれた聖槍を受け取ると…自らへと向かって伸びてきた悪魔の鎖を、自身の螺旋の槍と聖なる槍、その二振りの槍を振るい力ずくで切り裂き始めたではないか。

 

 

…そのまま、襲いかかる鎖を切り裂きながら炎馬へと向かって駆け出す獣の王。

 

 

幾度も修羅場を潜り抜け、幾度も場数を踏んできたこの咆哮は、こんなモノでは止められないと言わんばかりに…

 

自らの前に立ち塞がる全てを、その槍で降す為に…

 

 

 

 

 

「鎖もろとも断ち切れ!断罪の聖槍、ディナイアー・ブレイカー!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぐっ、ぐあぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

炎馬 LP600→0(-1600)

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

「よし!」

「…い、意味が分からないまま終わった…何が、どうなったんだよ…」

 

 

 

無機質な機械音が鳴り響いたと同時に、尻もちをつきながらもその口から戸惑いの言葉を漏らした炎馬。

 

…それは、実際にデュエルを行っていた炎馬でさえ理解しがたい、本当に嵐のような激動が襲い掛かり続けていた証拠。

 

何せ、【決闘祭】で見た【堕天使】達の進撃ではなく、最初から最後まで脈絡の無いカード達が遊良の手で暴れまわるかのように交差し続け…

 

そして何より全ての攻撃の主となった【神獣王バルバロス】の轟きは、今まで炎馬が戦ってきたどのデュエリスト達の切り札よりも凄まじさを見せたこと。

 

また、【決闘祭】の時に見たときと同じ…いや、下手をすればソレ以上の遊良のドローの嵐は、凄まじく炎馬にプレッシャーを与えていたのだ。

 

それは外から見ている以上に、対峙した炎馬には衝撃だったことだろう。

 

『Ex適正』の無い、全くExデッキを使ってこない人間が、こんなにも最上級モンスターを繰り出しつつその手札も全然減らず、自分の場を常に焼け野原にしてくるのだから。

 

 

 

「まさか最後に…あんなカード使ってバルバロスを守るなんて…」

「あぁ、アレは最後の【冥界の宝札】で引いたんだ。あれが無かったら、まだ勝負は着いてなかったけどな。」

「いや引いたって…それにしてもドローしすぎだろ。…あ、でもどうして最後のターンにバルバロスの効果を使わなかったんだ?もし伏せてたのが【炎虎梁山爆】じゃなくて、攻撃反応系の罠とかだったら…」

 

 

 

そして…

 

その心に引っかかった微かな疑問を、炎馬は食い入るように遊良に呈して。

 

そう、遊良は最後のターン、炎馬が仕掛けていたバルバロスの全体破壊効果に対する一撃必殺の罠を、まるで見透かしたかのように躱していた。

 

…それは、先のターンに一貫してバルバロスの効果を貫き通していた遊良にしてみれば、確かに彼らしからぬ突然の戦術の変化。あれだけの迫力で炎馬の場を一掃したにも関わらず、あの突然の攻め方の変化は炎馬の伏せていたカードが分かっていたのでは無いかと思える程に的確なモノだったのだ。

 

…そんな炎馬の疑問に対し、遊良は何を思うのか。

 

…もしもここにギャラリーが居て、このデュエルが一昔前だったらすかさず遊良の変化を『イカサマ』だと喚きたギャラリーも居たことだろう。しかし、真っ直ぐに遊良の方を見てソレを聞いてくるあたり、少なくとも炎馬はイカサマを疑っている…と言うわけでは断じてない様子。

 

 

―ただ、なぜ遊良が自分の仕掛けた罠を見透かし、攻め方を変えられたのか…それを、ただ知りたいだけ。

 

 

そんな、炎馬の疑問に対し…

 

遊良は、炎馬を一瞥した後、やや考えるような素振りの後にその口を開いて…

 

 

 

「…あぁ、あれだけ俺の事を研究してきて、バルバロスの警戒もして来たんだから、バルバロスの効果で吹き飛ばされる攻撃反応系は伏せないんじゃないかって思っただけだよ。…それに、何かあの伏せカードからは『嫌な感じ』がしたから。」

「嫌な…感じ?」

「なんて言うか、こう…破壊しちゃいけないって言うか、変な匂いって言うか…」

 

 

 

それは、他人には伝わらぬ感覚。それは、上手く説明の付かぬ嗅覚。

 

形容し難いことをどうにか口にしている遊良の様子は、元々相手の伏せカードへの警戒心が鋭い遊良ではあったものの、先日の『とある一戦』からそう言った危ないカードへの『嗅覚』が増してきていることに関係しているのか。

 

…そう、確かに【神獣王バルバロス】の効果は強力なモノで、遊良も絶望していた幼少の頃からこれまでずっとデュエルを続けてこられたのは、自分だけの武器とも言えるバルバロスの力があったからこそ。

 

しかし強力な効果だからこそ、ソレを考えも無しにただ『乱発』することがどれだけ危険なのかと言うことを…

 

遊良も、先日の【白竜】とのデュエルで身に染みて学んだのだ。

 

闇雲に突っ込むのでは無く、無闇に乱発するのではなく。

 

危険を嗅ぎ分け、怪しさを感じ、その肌で感じ取った違和感を乗り越えて、そうしてその先へと踏み込めるようにならければ…

 

コレより『先』の段階へと、進むことなど出来はしないのだから。

 

 

…そんな『立っている場所』が違う遊良のことを、炎馬はどう感じるのだろう。

 

自らの疑問への答えに、炎馬はどこか釈然としないような表情をしたまま…

 

遊良へと向かって、徐にその口を開いた。

 

 

 

「よくわかんねーけど…まぁいいや。『Ex適正』が無くたって、アンタはちゃんとスゲー強いんだってのが分かったし…想像通り…いや想像以上に凄い強かった。」

「え?」

「…悪かったよ、姉ちゃんに勝ったのが信じられないとか言って。」

 

 

 

それは、デュエルが始まる前の態度とは一変。

 

ゆっくりと語られる炎馬の言葉は、祖母に見せていた態度と似た、そして遊良に向けていた態度とは異なった…

 

紛れも無い本心から語られる、少年の本音の謝意の証。

 

他人の悪意に敏感な遊良だからこそ、目の前のたてがみの少年の発する言葉が彼の心からの言葉なのだと言うことを心で理解でき…

 

 

 

「だから、その…」

 

 

 

言葉を詰まらせ、視線を泳がせ。

 

釈然としないような表情から、真っ直ぐな表情に変わり、そして炎馬はどこか恥ずかしそうに…

 

そのまま、遊良へと向かって…

 

 

 

 

 

「…また、俺とデュエルしてくれないか?…なぁ…………天城先輩。」

「ッ!?」

 

 

 

顔を背け、淡々と言い捨てるような言い草にも関わらず…

 

どこか照れを隠しているかのようなその素っ気無い物言いは、彼もまた素直じゃないということの表れ。

 

 

…また、炎馬がそう言ったその刹那。

 

 

目を見開き、息を飲み。心から驚いたと言わんばかりの顔を遊良はしていて…

 

それは、イースト校の1年生にすら『そう』呼ばれた記憶も無い遊良からすれば…

 

いや、初等部も中等部も、『Ex適正が無い』と宣告されてからこれまでの学生生活において、一度だって『そう』呼ばれたことが無い遊良からすれば、たった今炎馬が放ったその呼び方に、あまりに衝撃を受けたことの証。

 

そう、ソレを初めて言ってくれたのが、同じイースト校の学生では無く他校であるサウス校の学生であるというのもどこか皮肉めいてはいるものの…

 

それでも『その呼び方』は、昨年度のイースト校の先達であり、そして自分を認めてくれた去年の3年生である泉 蒼人の偉大さを見てきた遊良からすれば…

 

 

―どこか、『憧れ』すら抱いていたモノであって。

 

 

 

 

 

「あ…あぁ、俺からも、何度だってお願いするよ。」

「あ、でも【決島】の本選じゃあこうはいかないからな!もっと対策練って、今度はもっといい勝負するからな!」

「…おう。」

 

 

 

しかし、そんな照れをすぐさま乗り超え。食いつくように遊良へと言葉を続ける炎馬の声は、対抗心や闘争心と言うよりは、どこか『懐いている』と言った方が正しいだろうか。

 

負けん気に溢れるたてがみの少年の闘争心と、その真っ直ぐに伝わる言葉は…

 

紛れも無く、心から遊良を認めている証でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ごめんさなさい、電話が来ちゃって…ちょっと席外しても良いですか?」

「あぁ、構わないさね。」

 

 

 

遊良と炎馬のデュエルの後。

 

あれから小一時間ほど、『烈火』の指導の下で代わる代わるデュエルを行っていた遊良と炎馬、そしてルキの三人だったのだが…

 

 

 

「…さて、じゃあそろそろアタシとも戦ろうか天城君。」

「は、はい、お願いします!」

 

 

 

丁度、ルキに電話がかかり席を外したタイミングで、唐突に『烈火』が遊良へと向かってそう言ってきた。

 

そんな反射的に応えた遊良の声は、少々緊張を孕んだ様なモノともなっていて…

 

しかし、それも仕方の無いことなのか。

 

何せ、その誘いは遊良からすれば願っても無いこと。【白鯨】や【黒翼】と言った、歴戦に名を連ねる伝説の【王者】達と共に歴史を紡いできた、『烈火』の名で呼ばれし圧倒的強者と直々にデュエルが出来るのだから。

 

…ステージに上がり、『烈火』の正面に立って対峙し直すと改めて分かるそのオーラ。

 

並大抵の人生を歩んできていない、歴戦に名を残した風格を持つその佇まい。一つ歴史が違えば、彼女もまた【王者】と呼ばれていた程に練磨されたその力は…今の遊良には、想像することすら出来ない程の高みにあるに違いないのだ。

 

 

そして…

 

 

そんな緊張の面持ちでスタジアムへと昇っていく遊良とを尻目に。

 

一人、スタジアムの入り口の影に入ったルキが、ディスクに示されたその見慣れた名前の主へと向かってその電話を取った。

 

 

 

「もしもーし。」

『…俺だ。』

「鷹矢?どうしたの?」

『うむ。さっき試合が終わったのだが、遊良の奴にかけても出なかったからな。』

「あー、今遊良のディスク、ずっとデュエルモードだったから。」

 

 

 

聞きなれた声が回線の向こうから聞こえてきて、ルキもまた慣れた様子でその声に言葉を返して。

 

そう、ルキへと電話をかけてきたのは、この場に居ない鷹矢。

 

一人だけ異なった修業を【白鯨】に言いつけられ、ここ一週間ずっと決闘市の外に出っぱなしだった鷹矢が…ようやく今日帰ってこられるということで、帰る前に電話をかけてきたのだろう。

 

 

 

「今日帰って来るんでしょ?」

『…うむ。夕方の便で帰るから着くのは夜になる。』

「はいはーい、じゃあ遊良に伝えておくね。」

 

 

 

そんな電話の向こうの鷹矢の声は、彼にしては珍しくやや疲れたような声となっていて。

 

それは、彼の修業もまた厳しいモノなのだという証拠。

 

…まぁ、夏休みに入ってからの二週間、殆ど休みも無しでレベルの高い大会に出続けなのだから、あの体力には自信のある鷹矢でさえこれだけ疲弊する修業の厳しさは相当なモノに違いなく。

 

そんな、電話をしているルキの後ろ。『烈火』と遊良がデュエルをしている、そのデュエルステージの上から…

 

 

燃え上がる様な声が、スタジアム全域に響き渡った。

 

 

 

 

 

「烈火!舞い上がりて宙をも焦がす!燃える星々を喰らい尽くせぇ!」

「え、ちょ、これって…」

「シンクロ召喚!レベル11!【星態龍】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

 

まだデュエルが始まったばかりだというのにも関わらず、これが後攻の一ターン目だというのにも関わらず。

 

まだ心の準備が終わっていなかった遊良の目の前に突如として現れた、この広い広いスタジアムの天井を多い尽くしてもなお収まらぬ程に巨大な体躯と…

 

燃え盛る星々に類似したその異質な雰囲気は、遊良が【決闘祭】で見た『ソレ』などとは比べ物にならない程に練磨された、まさに歴戦のオーラそのモノ。

 

…しかも、それだけでは終わらない。

 

 

 

「ボーっとしてんじゃないよ!まだまだ行くさね!シンクロ召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

 

そのまま、遊良が状況を飲み込む間もなく。

 

 

…光が弾け、空気が燃え、次々と轟く『烈火』の咆哮。

 

 

それは彼女が、獅子原 トウコという女が、『烈火』と呼ばれるようになった由縁。

 

彼女がこのカードを己の切り札に選び、そして【星態龍】自身が彼女を主に選んだからこそ…獅子原 トウコは『烈火』の名で呼ばれ、そして【星態龍】というモンスターもまた彼女と共に歴戦の中で『烈火』となったのだ。

 

星を模した、星に擬態した、星を喰らいし宙の龍。燃え盛るその巨体の迫力と、本来の使い手によって召喚された3体の『烈火』の圧力は凄まじく…

 

 

 

「…あーあ、ばあちゃん、まーたあんな馬鹿やって。相変わらず誰かを鍛えるってのが下手なんだよなぁ。だから新堂さんと姉ちゃん以外は着いていけないんだよ。」

 

 

 

まるで遠慮の無い怒涛の展開。サウス校理事長が自ら見せる理念の投影。

 

孫の苦言など聞こえるはずも無く。その積み重なった歴戦の重みは、彼女の孫娘が【決闘祭】の一回戦で遊良相手に召喚した【星態龍】とは、比べ物にならない程の圧力を放っていて…

 

 

 

「アタシは手加減ってヤツがどうにも苦手でねぇ!とりあえず全力で抵抗しな!何かを教えるのはその後さ!」

「いや、その…」

「どんくさいねぇ!男がコレくらいでビビってんじゃないよ!バトル!【星態龍】達、蹴散らしちまいなぁ!星痕のぉ…グランド・ノヴァァァァァア!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

 

「おわぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

世界は広い。

 

【王者】とは呼ばれなかったものの、彼女もまた歴戦に名を残した伝説のデュエリストの一人。頂点に手をかけた、世界でも有数の実力を持った最高峰の決闘者。

 

同じ決闘市内でも、【白鯨】以外にもこんなにも高すぎる壁を見せてくれる歴戦の決闘者がまだまだ沢山居るという事実と…

 

世界の全てに見放されていた、あの頃の自分では想像も出来ないであろう、その幼少の頃から憧れていた人物と今、正面に立ってデュエルが出来ているだなんて。

 

 

 

『…なぁルキよ、今…遊良の悲鳴のようなモノが聞こえたのだが…』

「あー…えっと、今サウス校に来ててね、サウス校の理事長先生と遊良がデュエルしてるんだけど…ちょっと凄いことになってて。」

『…そっちも相変わらず無茶をやっているようだな。』

 

 

 

また遊良のソレは、ルキの電話の向こうに居る鷹矢にも聞こえたのか。

 

その遊良の声を聞いただけで、何が起こったのかを察したのだろう。少々呆れたような声でそう返した鷹矢ではあるものの、電話越しのその声は確実に強くなってきている遊良への期待も篭っているようにも聞こえ…

 

 

…本来ならば、『Ex適正』が無いと言う理由だけでデュエリストとしても認められなかったはずの人生。

 

しかし、今こうして遊良が子供の頃から憧れていた歴戦の決闘者と対面していることは、夢などではない確かな現実。

 

…確かに世界は残酷で、『Ex適正』が無いと言う理由だけで簡単に見捨て、そしてその絶望から立ち直っても中々認めてはくれなかった。

 

しかし、それでも。

 

【白鯨】に『烈火』、幼少の頃に憧れていた歴戦の決闘者たちに鍛えてもらえることが、どれだけ遊良にとって幸せなことなのか。

 

それは、これまで諦めずに、必死に世界に抗ってきた遊良だからこそ、少しずつでも周囲を変えて、そして自らの運命を乗り越えてこられたのだろう。

 

 

 

 

「ほらほら!休んでる暇なんて無いさね!さっさと立ちな、もう一戦行くよ!」

「は、はい!」

 

 

 

 

激しく、厳しく、荒々しい『烈火』の猛攻に飲み込まれながらも…

 

どこか嬉しそうな、その遊良の表情が…

 

 

 

―それを、証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

―戦いの時は、迫る。

 

 

 

 

 

 

 

―もう、すぐそこまで。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

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