遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep75「デュエリアの猛者達」

激闘が続く【決島】。

 

開始から何時間たったのだろう。

 

今もなお、止む事のない戦いの音が島中に鳴り響き…まだまだ世界中の興奮がヒートアップし続けていることに比例し、太陽は島の真上で燦々と燃え上がっていて。

 

…しかし、開始直後と全くの同じと言うわけではない。

 

開始時に200人も居た選手達は、リアル・ダメージルールによって現在では決闘市側『85名』、デュエリア側『79名』となっており…

 

既に36名もの失格者が出てしまっているこの現状は、それだけ学生達の戦いが激しいモノなのだと言う事をTVの前の者達に証明している事だろう。

 

…ワンショットを喰らって気を失った者も居れば、激戦を繰り返した事によるダメージの蓄積で倒れてしまう者も居る。

 

一応、気を失い失格となった者は速やかに救護班に回収され、全員が救護テントに運ばれて手厚い看護を受けている為に命に別状は無いのだが…しかし、それでもなお選手達の勢いは留まる事を知らずに、更に戦いへの熱意を増大し続けている事に違いなく。

 

そんな、人数が減ってもなお激しい戦いが繰り広げられている【決島】の…

 

各学園の理事長・学長のために用意された、超巨大モニターが設置された『特別観覧席』に…

 

 

 

―この世の誰よりも重々しい、重厚な声が響き渡った。

 

 

 

「おいおいぃ、ウチのガキ共の方が減ってんじゃあねぇかよ。」

「ハッ、鍛え方が足りないんじゃないのかい?」

「…チッ、自分の孫が調子いいからって偉そうによぉ…」

「何か言ったかい小龍?」

 

 

 

少々苦々しげに声を漏らしたのは、デュエリア校学長…かつては、【王者】と同格とまで謳われた『逆鱗』、劉玄斎。

 

そして、それを愉快そうにからかい半分で声をかけたのはサウス校理事長…『烈火』と呼ばれた元プロデュエリスト、獅子原 トウコ。

 

各校の責任者ではあるのだが、若かりし頃からの顔なじみである分、他に見ている者が居ないこの空間では彼らもどこか昔のような雰囲気で会話をしてしまうだろう。

 

その言葉の掛け合いを見ているイースト校理事長とウエスト校理事長、そして決闘世界最高幹部の『妖怪』、綿貫 景虎もまた彼らの会話にどこか懐かしさのようなモノを感じている様子であもあり…

 

…しかし、親しき仲にも確かなる対立の雰囲気が漂うこの一室においては、彼らもただ単に昔話に花を咲かせるつもりなど無いのか。

 

そう、『何故か』この場に居ないノース校理事長の事はおいておいても、各校の理事長・学長の声は絶対に選手達からは外れてはおらず…

 

 

 

「…とは言え、勝率自体はデュエリア校の方が上ですか…今の所『全勝』を保っているのは決闘市10名、デュエリア13名。順当に各校の上位陣が成績を伸ばしていますが…」

 

 

 

そう呟いたイースト校理事長、元シンクロ王者【白鯨】と呼ばれた砺波 浜臣の視線は、中盤に差し掛かった【決島】においてもいまだに『全勝』をキープしている者達の映像を追っていて。

 

 

…各校でも、上位の実力を持つ者達。

 

各校を代表する実力者だけあって、その顔ぶれは双頭たるモノ達ばかり。その中にある学生の例を出せば、プロデュエリストを兄に持つウエスト校3年の竜胆 ミズチや、『烈火』の末孫であるサウス校1年、獅子原 炎馬…

 

そして、【白鯨】率いるイースト校2年の天宮寺 鷹矢、天城 遊良、高天ヶ原 ルキなどの姿があり…

 

また、例に挙げた者達の他にも、猛者ばかりの【決島】で未だ勝率を伸ばし続けている者達が居るという現状は、年々レベルが下がってきていると言われている決闘市の学生達の実力が、昨年度までとは比べモノにならない程に上がってきているという事を世界中に思い知らせているに違いないことだろう。

 

 

 

「ノース校は全勝者がおらんのか…また恋介の機嫌が悪くなりそうだわい。」

「ハッ、【紫魔】も難儀なモンだねぇ。ノース校の成績が落ちると、そのしわ寄せが全部【紫魔】に行くだなんて。…まっ、憐造が生きてた頃の方がノース校も強かったんだがねぇ。」

「そう言わんであげとくれトウコちゃん。恋介の奴も【紫魔】として頑張っとるんじゃからのう…ただ、憐造が異常な程に『出来』が良かったんじゃて。」

「おいおいぃ、今更死んじまった憐造の事なんてどうでもいいじゃねぇかよぉ。つーか、全勝って言やぁ、砺波んトコの、『Ex適正』がねぇっつーガキも全勝か…おい、よかったなぁ砺波ぃ、お気に入りのガキが勝ち続けてるみてぇでよぉ。」

「えぇ…まぁ、この私の教え子なのですからこの程度は当然ですが。」

 

 

 

これだけ激しい戦いの中で、未だ『全勝』をキープしている学生達が居ることは、そのまま明日の決勝へと進める4名への厳選の結果が次第に明確になってきている証拠。

 

…『全勝者』が13人も残っているデュエリア側の力もまさしく本物。

 

【決島】もまだまだ中盤も中盤。油断を許さぬ拮抗したこの状況。明日の『決勝』へと進める4人は、全員が決闘市側かもしれないし、全員がデュエリア側かもしれない。

 

別に、学園同士の戦いでは無いとは言え…この場に居る決闘市の理事長達の誰もが、自分の学園の学生に『先』へ進んで欲しいと願っている事に先ず間違いは無く。

 

明日の『決勝』へと進む4人は、決闘市側で唯一『全勝』をキープしている者達の中から現れるであろうと言う希望的観測の元、決闘市側の理事長達の誰もが皆、自分の学園の学生に各校の威信を賭けており…

 

…そんな、【決島】も中盤に差し掛かった中。

 

じっと超巨大モニターを眺めていた、デュエリア校学長の劉玄斎は決闘市側の『全勝者』を一人一人その重々しい瞳に映した後…

 

 

 

「鷹峰んトコの孫も全勝かぁ…クハハハハ、アレだけ大見得切っただけはあるなぁおい。こりゃあ、楽しくなってきたぜぇ?」

「…やけに余裕じゃないさね小龍。いくらデュエリアの方が勝率良くたって、アンタん所の生徒の方が残り少ないってのにさ。…この調子だと、本当に鷹峰の孫が優勝しちまうんじゃないかい?」

「そいつぁどうだろうなぁ。数は多ければ良いってモンじゃあねぇ。頭数が多くたって、同士討ちだってあるんだからよぉ。それに…」

 

 

 

誰よりも重々しい笑いを漏らしながら、まるで楽しくなってきたとい言わんばかりに。

 

そのまま、劉玄斎は決闘市側の全勝者達のモニターを見つめつつ。重く響く、笑いと共に…

 

 

 

 

 

「…真打は後から目立つモンだ。特に…ウチのガキ共の上位陣は半端ねぇからなぁ…ほぉら、そろそろ、『全勝』同士のガキ共がぶつかる頃だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「…見つけたヨ。」

「む?」

 

 

 

森と隣接した、潮風が吹き荒ぶ海岸線。

 

倒れているデュエリアの生徒3人を背に、今まさに一仕事終えたかのような雰囲気を醸し出していた鷹矢へと…その背後から、一人の女子生徒が声をかけていた。

 

あまりに艶やかなるその体を、これ見よがしに見せ付けているかのような、高校生離れした妖艶なる雰囲気…

 

その高校生離れした美しき体を彩る、見るからに学園の制服では無い体にピッタリと張り付いた特徴的な赤いドレスを着た女生徒…

 

 

 

―決闘学園デュエリア校3年、(ワン) ミレイ

 

 

 

「開会式で偉そな事ゆてた【黒翼】の孫アルか…かなりハデに暴れたみたいネ…途中経過確認したけド、ウチの生徒大半失格させてくれてたネ。」

「…その言われ方は好きではないのだが…まぁいい、匂うぞ…貴様…強いな?」

「女の子に匂うなんて言たら駄目ヨ?…でも強いのは否定しないネ。王 ミレイ。デュエリア校の3年生アル。戦りたがてたリョウには悪いケド…【黒翼】の孫…ここで、私が狩らせて貰うヨ。フフ…さ、お姉さんが遊んであげるネ…」

 

 

 

一つ一つの言葉遣いが、男の耳を擽っているかのような色気を放つ王 ミレイ。

 

撫で回す様な潤んだ視線と、小さく開かれた唇から漏れ出す小さな吐息が、はっきりと男の耳に届けられ…

 

男女の経験の浅い男ならば、彼女の有り余る艶やかさに目と心を奪われて、デュエルどころではなくなってしまう事だろう。

 

自身の武器の使い方を熟知しているかのような彼女の立ち振る舞いは、まさに百戦錬磨と言うに相応しい雰囲気となって、ありあり彼女の身体から滲み出ているに違いなく…

 

 

 

―しかし…

 

 

 

そんな、目に見えるほどの色気を前にしても。

 

 

 

「うむ。『サイレンサー』だか『パニッシャー』だか『ボクサー』だか知らんが、丁度デュエリアの奴らに手応えが無くて退屈し始めていた所だ。だが、貴様は他の奴らとは違う匂いがする。…貴様のような奴を待っていたのだ!楽しませて貰うぞ!」

「ヘェ…そんなに女に慣れてる様には見えないけド…まぁいいネ。【黒翼】の孫がどんなモノ持てるか、見せて貰うとするヨ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

島の中に群生する生い茂った木々の中の、その森の中腹でのこと。

 

 

 

「…なんで初等部の学生が居るんだ?おい、ここは高等部のお兄さん達の祭典だぜ…」

「ハァ!?今なんつったこのガキャア!」

 

 

 

獣のたてがみのような髪型をした、サウス校1年、獅子原 炎馬へと向かって放たれた、小鳥の鳴き声のような高い声。

 

それは炎馬の前に立つ、あまりに『幼く見える』女生徒から発せられたモノであり…

 

その声を発したのは、お世辞にも発育が良いとは言えない小さい体を目一杯に伸ばし、下手をすれば初等部の子ども達の中にも居そうなほどに小柄な一人の女生徒。

 

 

 

―アイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーン

 

 

 

「ガキッ…!?お、おい、子どもだからって、口の聞き方には気をつけ…」

「気をつけんのはどっちや!デュエリア校のアイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーン!アンタよりも年上やぞこんアホ垂れ!」

「え!?」

 

 

 

煌く金色の髪と透き通るような白い肌を、差し込む日差しに輝かせ…炎馬の声を遮って、怒りと共にそう言葉を投げつけるアイナ。

 

確かにその真っ直ぐな立ち姿は、美術品の彫刻の様に何とも眩しく美しいとは言え…

 

炎馬から見ても…いや、アイナの『本当』の歳を知らぬ者からすれば、例え誰であってもアイナの姿を見ただけで彼女が自分よりも年上だとは分かるはずが無いだろう。

 

そのままアイナは、あまりに荒い言葉遣いと、小さい体からは想像もできない程の気迫を持って。

 

小鳥のさえずりのような…と言うよりは、怒りを込めた小鳥の喚き声のような甲高い声で、目の前の炎髪の少年へと向かってただただ口を荒げるのみ。

 

 

 

「い、いや、だってどう見たって初等…いや、精々中等部くらいじゃ…」

「何が中等部やねん!お前よりも人生歩んどる先輩やぞコラァ!人を見た目で判断すんなやクソガキ!」

「う…こ、こんなちっこいのに、ね、姉ちゃん並に怖ぇ…つか口悪ぃ…」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

小川のせせらぎが木霊する、戦場とは思えぬ穏やかさと静けさを放つ森の奥深く…

 

 

 

 

「…ウエスト校3年…竜胆 ミズチ。」

「…鍛冶上 刀利…です。」

 

 

 

そこに、この森の空気よりも更に静かな雰囲気を持った2人のデュエリストが対峙していた。

 

そこに居たのは、ウエスト校の筆頭を飾る3年生の竜胆 ミズチと…デュエリア校の、鍛冶上 刀利。

 

お互いに口を開く事が少ない、ある意味静かなる者同士の対峙ではあるものの…しかし、ある一定の強さの『壁』を超えている者同士でもあるためか、彼らの間には何か不思議な空気が漂っていて。

 

 

 

「…貴方…何か、持っているの?…雰囲気が…凄く変。」

「…君、『見える』の?」

「…えぇ。貴方の周り、歪んでるわ。いえ…歪んでいるのは…『貴方』?」

「…」

 

 

 

…そしてそれ以上に、目の前の不可思議な雰囲気を漂わせている気弱そうな男へと向かって、そう言葉を紡ぐ竜胆 ミズチ。

 

それは、彼女の持つ『全てを観ることが出来る眼』に、常人には見えぬ『何か』が映った所為なのか…

 

また、他人が聞いても何を言っているのか分からぬであろう、彼女の意味不明にも聞こえるその言葉に対しても…刀利は全く動じる事もなく、彼もまたミズチの言った言葉を自分でも理解しているのか、ただただミズチの方を見ているだけ。

 

 

 

「…まぁいいわ、戦えば分かることだもの。貴方が、『何』を持っているのか…」

「…うん、僕にも分かるよ…君は強いから…僕も、隠し通すつもりもない。」

 

 

 

あまりに静かな森の静寂と、あまりに静かな二人の決闘者。

 

しかしその間にぶつかる言葉は、彼らの静けさからは想像もつかないほどの激しさを交え、それはそのまま彼ら2人の持つ実力が、他の参加者達とは一戦を画す『高み』にあるということを証明しているかのよう。

 

彼らにしか分からぬ言葉を交わし、彼女らにしか見えぬ『何か』を見据え。

 

【決島】のルールに従って、静寂のデュエリスト達が今静かにデュエルを始めようとしていて…

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

「バトル!【E・HERO ガイア】で【電光千鳥】に攻撃!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐああああああ!」

 

 

 

崖を背にした海岸の砂浜でのこと。

 

岩礁に打ち付ける波の音に混ざって、無機質な機械音と一人の男子生徒の悲鳴が鳴り響いた。

 

…それは紛れも無い、1つの戦いが終わったことを証明しており…

 

そのデュエルの終了に伴い勝利を決めた大地の英雄がゆっくりとその姿を消していくその光景は、まさに、HERO使いの一族として知られている『紫魔家』のデュエリストがここで戦っていた事の証とも言えるだろう。

 

 

 

「はぁ…はぁ……な、何なのよ、デュエリアの奴らって。全員変な戦術する奴らばっかりなの?」

 

 

 

そんな荒波が舞う海岸に立っていたのは、『大地の英雄』を象徴に据える、紫魔姓を持つ一人の少女。

 

 

―イースト校2年、紫魔 アカリ

 

 

 

 

「…くそっ、さっさと天城を見つけなきゃいけないってのに…次から次へと沸くんだからキリが無い…」

 

 

 

倒れているデュエリストを睨みつつ、ゆっくりとデュエルディスクを下ろしつつ。

 

一戦を終え、乱れた息を整えようと深く息を吐いた、地属性の紫魔家を統べる『地紫魔』の、末の娘である彼女。

 

昨年度までは、これ程の実力など持っていなかったはずだと言うのに…地属性の融合召喚しか許されぬ身ではあるものの、『姉』に習いその属性に極めて特化した戦術を磨いてきた彼女の実力は、まさしく【決島】でも未だ15戦15勝という『全勝』をキープし続けられている本物のモノであり…

 

そう、鬼気迫る表情と、張り詰めた糸ような彼女の雰囲気は、まさしく彼女が身につけた『本物』の力に違いなく。

 

 

 

「Boo-D…【紫魔】のカード…いえ、姉様に関係があるカードを何で天城が…もう言い逃れなんてさせない。今度こそ逃がさないわ…」

 

 

 

そんな彼女の口から零れた、【決島】の勝敗よりも重要な彼女の絶対の『目的』の名。

 

…昨年度から相当の修練を積んだのか、それとも『誰か』に相当の執念があるのか。

 

デュエリアの生徒も、決闘市の学生も、前に立ち塞がる者を全て倒してでも。自身の『目的』を早く見つけるため、この島のどこかにいるその最重要かつ絶対の獲物へと狙いを定めている彼女の雰囲気は、穏やかさをまるで知らず…

 

 

そして…

 

 

次なる標的…彼女にとっては【決島】の優勝よりも重い、他の参加者の誰よりも狙うべきたった一人のイースト校の男子生徒を探すべく。

 

1つの戦いを終えたアカリが、整わない呼吸をそのままに自らの『目的』へと向かって、再度その足を進めようと砂浜を踏みしめかけた…

 

 

 

 

 

―その時だった

 

 

 

 

 

「Wow!こいつはLuckyだ!」

「…え?」

 

 

 

彼女の背後から、突如響いた男の声。

 

岩に打ち付ける荒波の音に混ざってもなお甲高く耳に届くその男の声は、まるで声が自ら周囲の雑音を押しのけてアカリの耳に届いているようでもあり…

 

アカリが瞬間的に振り返ったソコには、太陽に煌く金髪を潮風になびかせた一人の男子生徒の姿が。

 

 

 

「むさくるしい野郎ばっかりだったってのに、ここへきてこんな美しいレディに出会えるなんて!」

「…は?」

「これはまさに運命だ!この島に来て、初めて出会ったレディがこんなに美しい人だなんて…嗚呼、これを運命と言わず何と言う?」

「な、何なのこいつ…あれ…でもコイツ確か、開会宣言してた…」

 

 

 

その煌く金髪には、アカリも見覚えがあり…

 

休まらぬ戦場のど真ん中だというのにもかかわらず、規則正しい波音と潮風をBGMにしてアカリへと向かって軟派な言葉を投げかけるこの男子生徒の事は、アカリも開会式のときに見ている。

 

その名も…

 

 

 

「俺はデュエリア校3年のリョウ・サエグサ。皆からは、『太陽の王子』、『女神に愛された男』、『変態』とも呼ばれているぜ。」

「最後のはただの悪口じゃない…」

「なぁレディ、君の素敵な名前を是非とも教えてくれないか?」

「…イースト校2年、紫魔 アカリよ。」

 

 

 

会話が噛み合っているのか噛み合っていないのか。本能のまま、思ったままの言葉をただ口からつむぎ出しているかのように、ただただ言葉を続けるデュエリア校のリョウ・サエグサ。

 

…歯が浮くような言葉を、体が痒くなるような台詞を恥ずかしげも無く。

 

戦いに塗れた島の、全員が敵だというこの状況にも関わらず、アカリに言葉を投げかけ続ける彼の頭の中には、一体どんな感情が溢れていると言うのだろう。

 

そのまま…

 

彼はアカリの名をその耳に入れて、更に言葉を続けるのみ。

 

 

 

「アカリ…美しい名だ。全く、ここが戦いの場所じゃなかったら、今すぐ君とベッドの上で熱く燃え上がりたいところだってのに、どうして戦場で出会ってしまったんだろうな、俺達…」

「え?ちょ、ちょっと…アンタさっきから一人で何言って…」

「きっと俺達、心だけじゃなくて体の相性だって抜群なはずだろ?こうして話しているだけで、君の燃え上がる様な情熱をビシビシ感じてくるんだから。嗚呼、なんて情熱的なレディなんだ…俺もアツくなってくるぜ…」

「…ね、ねぇ、聞いてるの?」

「全く、ここがベッドの上じゃなくて戦場だってことを恨むぜ神様…けど安心してくれ?ベッドの上と同じくらい、君に俺の情熱をぶつけてあげるからSA。」

「…キモッ…」

「HAHAHAHAHA、そんなに褒めないでくれよ、レディ。」

 

 

 

身の毛もよだつ言葉を聞いて、一瞬で警戒心を別の意味でMAXまで引き上げる紫魔 アカリ。

 

しかし、当のリョウ・サエグサはアカリに何を言われ、どんな態度を取られても、まるでソレすら彼にとってはご褒美なのだと言わんばかりに更にその感情を喜びで満たすだけ。

 

…好き放題の言葉を述べる彼の意思は、まるで下半身と口が連動でもしているかの様に欲望に忠実なモノであり…

 

 

 

…しかし、彼もただ欲望の言葉を羅列しているわけではない事だけは確かだろう。

 

 

 

何故なら、アレだけアカリに警戒させる程の言葉を並べてはいても、デュエリストの本能が勝っているのか、彼はデュエルディスクをしっかりと胸元へと構え始めているのだ。

 

軟派な言葉を綴っていても、【決島】に選ばれたデュエリスト同士。この島で出会えば、始まるのは肉体のぶつけ合いではなく純粋なる戦いのみであり…

 

 

 

「アカリ…これは運命だ。今すぐにでも君に出会えたことを神に感謝したい所だが…俺達は男と女の前にデュエリスト同士…どうしても戦うしかないってのが皮肉なモンだ。…さぁレディ、情熱的なデュエルをしよう。」

「…」

 

 

 

…戦いは終わらない、戦わなければ生き残れない。

 

だからこそ、アカリもまた、身震いを感じさせる言葉を投げかけてくるリョウ・サエグサを前にしても、逃げださずにデュエルディスクを構えなおすのか。

 

そう、目の前の男がどんな変態であったとしても、この島の中で出会ったのならば戦うのが学生達の定め。

 

故に…アカリもまた、倒すべき『目的』に辿り着く為に。今はただ、目の前に現れる敵を倒し続けなければならず…

 

波が打ちつける岩礁の、潮風が吹きつける海岸で…

 

少しの、休む暇もなく…

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

それは、始まる。

 

 

 

先攻はデュエリア校3年、リョウ・サエグサ。

 

 

 

 

 

「俺のターン!俺は魔法カード、【カップ・オブ・エース】を発動!」

「え!?」

 

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

手札から、ある一枚の魔法カードを発動したリョウ・サエグサ。

 

…それは運が良ければ自分がドロー、悪ければ相手がドローと言う、純粋かつ分かりやすい、ただの運試しとも言えるようなカードであり…

 

運否天賦に全てを任せた、この世界では扱う者の方が珍しい、ギャンブル性が高いリスキーなドローカード。

 

 

 

「…こ、こんな始めからそんなギャンブルカードを?アンタ、一体何考えて…」

「HAHAHAHAHA、ただの運試しさ!俺とアカリ、どっちに運が向いているのか!最初にハッキリさせておいた方が戦りやすいからNA!さぁ…天に舞え、運命のコイン!」

 

 

 

そして…

 

リョウの宣言によって、天に浮かぶ金の杯から飛び出した一枚の巨大なコインが宙を舞う。

 

表―『太陽』のマークが出れば、自分が2枚もドロー出来るという破格の効果を持ってはいても…

 

裏―『月』のマークが出れば、相手に2枚もドローさせてしまうと言う恐れがあると言うのにもかかわらず、宣言を行うリョウから放たれるその溢れる自信は、彼から何の恐れも感じさせず。

 

それは、このカードを扱う事など、彼にとっては日常茶飯事なのだと思わせるほどに…

 

 

 

 

―出た、マークは…

 

 

 

 

 

 

「Yes、ラッキー!マークは太陽!コインは表!俺はデッキから2枚ドロー!」

「…チッ、運がいい奴ね…」

「続いて魔法カード、【予想GUY】を発動!自分フィールドにモンスターがいない為、俺はデッキから【クィーンズ・ナイト】を特殊召喚する!更に手札から【キングス・ナイト】を通常召喚し、召喚成功時に【キングス・ナイト】の効果発動!場にクィーンがいる時、デッキから【ジャックス・ナイト】を特殊召喚できる!Come on!絵札の三銃士!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【クィーンズ・ナイト】レベル4

ATK/1500 DEF/1600

 

【キングス・ナイト】レベル4

ATK/1600 DEF/1400

 

【ジャックス・ナイト】レベル5

ATK/1900 DEF/1000

 

 

 

…そうして続けさまにリョウが呼び出したのは、絵札の三銃士とも呼ばれる3体の凛々しきナイト達。

 

通常モンスターが2体に、それぞれのステータスもそれほど高くは無いとは言え…

 

3枚の絵札がその身を一つに重ねるときにこそその真価が発揮されるとされているソレらを、今の一瞬で揃えたリョウの素早くも淀みない展開は、まさに洗練されたカード捌きとも言えるだろうか。

 

…そのまま、リョウはこれで終わる気など無いのだと言わんばかりに。

 

絵札の三銃士へと向かって、一枚のカードを掲げ始め…

 

 

 

「まだまだ行くぜ?俺は手札から魔法カード、【融合】を発動!フィールドの絵札の三銃士を融合させる!さぁ、その身を束ねろ、騎士達よ!」

 

 

 

彼の背後に現れた神秘の渦に、身を投じ始める3体のナイト達。

 

それはアカリにも見慣れた、『融合』のEx適正を持つ者だけが呼び出せるモンスターとモンスターを重ね合わせることが出来るエフェクトであり…

 

3枚の絵札の力を超える存在を、今ここに降臨させる為。騎士達が剣を束ね、身を重ねてここに現れるは…

 

 

 

 

 

「It’s Showtime!現れろ、レベル9!【アルカナ ナイトジョーカー】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【アルカナ ナイトジョーカー】レベル9

ATK/3800 DEF/2500

 

 

 

天衣無縫の彼方から、剣を引き抜き現れしは天位の称号を持つ究極の融合騎士。

 

…騎士達の束ねられた力を剣に。荘厳なりし魂を盾に。

 

あまりに強大な攻撃力と、他を屈服させる威厳を放つ最高位のナイト。

 

その騎士が放つ有り余る威厳は、3体もの正規素材を必要とする融合モンスターをこれほど容易く呼び出せるリョウ・サエグサというデュエリストの力を、目の前の少女へと知らしめているかのようにも見えたことだろう。

 

…威風堂々と天に佇み、厳しい目線でアカリを睨む。

 

 

 

「…こんな序盤から攻撃力3800のモンスター…」

「HAHAHAHAHA!さぁレディ、君の力を俺に見せてくれ?俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

リョウ・サエグサ LP:4000

手札:5→1枚

場:【アルカナ ナイトジョーカー】

伏せ:2枚

 

 

 

そして…

 

天位の騎士から放たれる、他人を屈服させんとするあまりの存在感に守られるかのようにして。

 

アカリを見据えたリョウ・サエグサは、今静かにそのターンを終え…

 

 

 

「アタシのターン、ドロー!アタシは魔法カード、【HEROアライブ】を発動!デッキから【E・HERO エアーマン】を特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

【E・HERO エアーマン】レベル4

ATK/1800 DEF/ 300

 

 

 

しかし…リョウの場に佇む天位の騎士にも全く怯まず。

 

ターンを迎えて即座に、紫魔家の代名詞とも呼べる『英雄』の名を持つモンスターをデッキから呼び出す紫魔 アカリ。

 

 

アカリ LP:4000→2000

 

 

LPを投げ打つ事に、何の恐れもなく。

 

この程度で怯んで入られないのだと、そう言わんばかりに吼える少女の轟きは、天位の騎士が放つ重圧を全く感じてなどいないかのように、今高々とこの海岸に響き渡って。

 

 

 

「攻撃力3800がどうしたってのよ!エアーマンの効果発動!デッキから【E・HERO エッジマン】を手札に加える!続けて【V・HERO ヴァイオン】を召喚し、ヴァイオンの効果でデッキから【E・HERO シャドー・ミスト】を墓地へ送るわ!墓地に送られたシャドー・ミストの効果も発動!更にデッキから【E・HERO スパークマン】を手札に加え、ヴァイオンの更なる効果!墓地のシャドー・ミストを除外して、デッキから【融合】を手札に加える!」

 

 

 

留まらず、淀みなく。

 

流れるようにカードを捌き、迷いなくデッキを回転させ続けるアカリの力は、疑いようのない『本物』の力。

 

…昨年度に遊良の【堕天使】に手も足も出なかった紫魔家の少女が、まさかここまでの力をつけているだなんて誰が想像出来ていただろうか。

 

ここまでデッキを回転させているにも関わらず、手札が逆に増えているというその暴挙は、彼女の『義姉』の動きにも似たモノでもあり…

 

 

 

「いくわよ…魔法カード、【融合】発動!手札のスパークマンとエッジマンを融合!融合召喚!現れなさい、レベル8!【E・HERO プラズマヴァイスマン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【E・HERO プラズマヴァイスマン】レベル8

ATK/2600 DEF/2300

 

 

 

大地の裂け目を飛び出し現れたのは、黄金の鎧を纏った雷地の英雄。

 

地属性の融合召喚しか許されていない『地紫魔』なれど、だからこそ『地属性』に特化しているのだと言わんばかりに…

 

雷電流れる体を奮わせ、天位の騎士へと猛りをぶつけ。ありあまる力を雷撃へと変え、今ここに大地に立つ。

 

 

 

「いくわよ!プラズマヴァイスマンの効果発動!手札を1枚捨てることで、相手の攻撃表示モンスター1体を破壊する!【アルカナ ナイトジョーカー】を破壊!」

「おぉっと、そうはさせないぜ!【アルカナ ナイトジョーカー】の効果発動!手札の【ブローバック・ドラゴン】を捨てる事で、プラズマヴァイスマンの効果を無効にする!」

 

 

 

しかし…

 

雷地の英雄が、天位の騎士へと向かって雷撃を放たんとしたまさにその瞬間。

 

リョウもまた、アカリの狙いを呼んでいたかのごとく天位の騎士に守りを命じて。

 

…大地を走る雷撃を掻き消し、電流の余波を盾で薙ぎ払い。

 

魔法・罠・モンスター…相手が、その3つの内の『何』の効果で天位の騎士を狙ってくるのかと言う事を読み、そしてソレに備えておく為のコストをしっかりと確保しておかなければならない博打を、彼もまたしっかりと読みきっていたのだろう。

 

 

 

「残念だったなレディ、折角の効果が無駄になって。」

「いいえ、これでアンタの手札は0!そして【アルカナ ナイトジョーカー】はこのターン、もう効果を使えない!これで終わりよ!」

「…へぇ?まるでこのターンで決着を着けるみたいな言い方だな。せっかちなレディだ、また手札を減らしてプラズマヴァイスマンの効果を使うのかい?」

「そんなの必要ないわ!魔法発動、【融合回収】!墓地から【E・HERO エッジマン】と【融合】を手札に戻す!再び魔法カード、【融合】発動!場のエアーマンと手札のエッジマンを融合!」

「ほぅ…」

 

 

 

しかし、アカリもまた雷撃を防がれた事を気にも留めず。

 

まるでリョウが天位の騎士を守る事を、初めから予想していたのだと言わんばかりにアカリは更に動き始めたではないか。

 

…そう、確かに【アルカナ ナイトジョーカー】が、いかに強力な効果と攻撃力を持つモンスターであろうとも。

 

今の自分には、例えどんなモンスターが相手だろうと、まるで障害にすらならないのだとして。

 

かつて傲慢なだけだった少女が、今では戦意の牙をむき出しにしてただただ激しく吼えるのみ。

 

 

…猛る轟き、止まらぬ叫び。

 

 

更なる融合を発動し、英雄をここに交わらせ…地属性の紫魔家を統べる、『地紫魔』の象徴を…

 

 

 

―今、ここに。

 

 

 

 

「融合召喚!現れなさい、レベル6!【E・HERO ガイア】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【E・HERO ガイア】レベル6

ATK/2200 DEF/2600

 

 

 

大地を砕いて姿を現し、岩盤の奥底から目覚めしは、地属性の紫魔を統べる『地紫魔』の象徴とも言える、大地の英雄の正の半身。

 

…磨き上げられた鉱石よりも、なお硬き英雄のその姿。

 

岩盤の塊を抉って現れ、大地の恵みをその腕に集め…

 

天位の騎士を粉砕すべく、その巨大な腕槌を天に向かって高らかに掲げる。

 

 

 

「Wow!こいつぁGrateなモンスターだ!…わかるぜ、こいつがレディのデッキのエースだってな。ビシビシ感じるぜ、君のアツいオーラでイっちまいそうだ…」

「…いちいち気持ち悪い奴ね…【E・HERO ガイア】の効果発動!融合召喚成功時、【アルカナ ナイトジョーカー】の攻撃力を半分にして、ガイアの攻撃力に加える!今度は防げないわよ、行け、ガイア!」

「いいや、まだだ!リバースカードオープン!速攻魔法、【融合解除】!【アルカナ ナイトジョーカー】を分離し、墓地から絵札の三銃士を守備表示で特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

【クィーンズ・ナイト】レベル4

ATK/1500 DEF/1600

 

【キングス・ナイト】レベル4

ATK/1600 DEF/1400

 

【ジャックス・ナイト】レベル5

ATK/1900 DEF/1000

 

 

 

 

 

 

それでも(ことごと)く、(すべか)らく、アカリの打つ手を華麗に交わし続けるリョウ・サエグサ。

 

効果と効果が応酬し、入れ替わり立ち代りモンスター達が現れては消えるこのデュエルの勢いは、とても後攻1ターン目とは思えぬ代物となりて世界中へと発信されており…

 

 

 

「残念だったなアカリ!君のHEROもGreatだが、このターンの攻撃じゃあ俺をイかせる事は出来な…」

「まだよ!魔法カード、【ミラクル・フュージョン】発動!さっきコストで捨てたワイルドマンと墓地のエッジマンを除外融合!」

「What!?」

 

 

 

しかし、それでもアカリは止まらない。

 

激しく、激しく…

 

それはまるで、爆発し続ける火山のような激しさ。

 

ソレを止める気配のない彼女の激しい展開は、一種の執念にも似たモノを放っており…

 

それは彼女の実力もまた、学生レベルを超えた…実力の『壁』を一つ超えたところにあるからに他ならない。

 

元々、地属性を統べる『地紫魔』の末娘として、才能も血筋も充分なモノを持っていたとは言え。『義姉』を失った事で、今まで彼女の中にあった甘えや驕りを捨て去り、実力の『壁』を超えるために彼女もまた血反吐を吐く思いをしてきたのだろう。

 

まるで『執念』。その彼女の執念を体現して、今ここに現れしは…

 

 

 

「融合召喚!現れなさい、レベル8!【E・HERO ワイルドジャギーマン】」

 

 

 

―!

 

 

 

【E・HERO ワイルドジャギーマン】レベル8

ATK/2600 DEF/2300

 

 

 

黄金の鎧を身に纏い、蛮族の大剣を背に乗せて…大地の裂け目より飛び上がりしは、野生の力を解放した英雄の姿。

 

その巨大な大剣の一撃は、目の前に立ち塞がる全ての者を切り裂く刃となりて。少女の叫びに応えんと、今ここに大地に立つ。

 

 

 

「Oh…難しい指定融合をこうも簡単に…まさかここまでとは…」

「減らず口もこれで終わりよ!ワイルドジャギーマンは相手モンスター全てに攻撃出来る!これで…」

「そいつはちとマズいな…だったら罠カード、【強欲な瓶】発動!俺はデッキから1枚ドロー!」

「そんなヤケクソのドローで何が出来るってのよ!行くわよ、バトル!ワイルドジャギーマン!絵札の三銃士を蹴散らしなさい!」

 

 

 

 

 

―!!!

 

 

 

 

 

そして…飄々とアカリの攻気を躱し続けていたリョウの場に、ついにソレは届くのか。

 

守りを固める三銃士の真ん中に飛び込んで、野生の英雄がその大剣を荒々しく振り回し…

 

その野蛮なる剣撃はとても洗練された剣技では無いものの、あまりに強大な腕力で振り回される蛮剣は、3体のナイト達の剣技の応酬を受けてもなお止まらぬ勢いとなりて、一瞬で3体の絵札の三銃士を蹴散らし粉砕してしまって。

 

 

 

「これで終わりよ!先ずは【E・HEROガイア】で、アイツにダイレクトアタック!」

 

 

 

絵札の三銃士を蹴散らしたその刹那。

 

間髪いれずに、次は即座に大地の英雄に攻撃を命じた紫魔 アカリ。

 

相手の抵抗を全て押さえつけ、相手の壁を全て粉砕し、相手に反撃の余地を残さぬ今の彼女のその容赦の無い戦い方は…

 

過去、憎き少年に、完膚なきまでに自分が叩き潰された時のモノに似ていた事に、彼女自身は気付いているのだろうか。

 

 

…しかし、今の彼女にはそんな事を考えている暇など無く。

 

 

唸りを上げる地殻の豪腕、地面を揺らす大地の鉄腕。

 

一枚だけの、やけっぱちのドローをした事が一体何になると言うのだ。まるでそう言わんばかりの少女の叫びは、あまりの猛りとなりて大地の英雄へと伝わり…

 

その昂ぶる双腕が、灼熱と化した地熱を纏い、今まさに丸裸となった少年の場へと向けて大地の英雄が駆け出し始めた…

 

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

 

「…いいやアカリ、どうやら女神は、俺に祝福にキスをするようだぜ?…手札から、【煌々たる逆転の女神】の効果発動!」

「なっ!?」

 

 

 

―突如

 

大地の英雄のその眼前に、唐突に現れた一人の女神。

 

それは、絶体絶命の危機にこそ真価を発揮すると言われる女神であり…見目麗しい煌々の美神が、その眼を見開いたと思ったその刹那。

 

 

 

 

「惜しかったな。俺が女神以外のカードを持たない時!女神を手札コストに…アカリのカードを全て破壊する!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

女神の背後から後光が煌き始めたと思うと、目を開けていられない程の光が当たり一面を包み込み…

 

それに連動して、周囲で『何か』が爆発していく音だけがこのデュエルを見ていた者達の耳に確かに届き始めたではないか。

 

 

 

「まだだぜレディ!女神が全てを破壊した後、俺はデッキからモンスターを1体特殊召喚出来る!Come on!俺のマグナム、【リボルバー・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】レベル7

ATK/2600 DEF/2200

 

 

 

それだけでは終わらず。

 

眩んだ目を押し、痛む眼球に涙を浮かべながら、無理矢理に目を抉じ開けたアカリの視界に飛び込んできたのは、砲音を咆哮とする漆黒の銃竜。

 

…鈍く光る3つの銃身、怪しく回る18の弾倉。

 

命を撃ち抜く形をしているソレは、禍々しい狂気を孕みつつ…あまりに洗練された銃器として、一種の美しさすら醸しだしていて。

 

 

 

「【煌々たる逆転の女神】って…あの時の【強欲な瓶】で…?で、でも何で都合よくそんなカード引けるのよ…それにまたギャンブルカード…どうなってるの、コイツのデュエルは…」

「形勢逆転!さぁどうするアカリ、このままじゃ、次のターンを乗り切れないぜ!?」

「ぐ…ま、まだよ!バトルフェイズを終了し、魔法カード、【HEROの遺産】発動!墓地のガイアとプラズマヴァイスマンをExデッキに戻して、デッキから3枚ドロー!…よし、魔法カード、【地砕き】発動!【リボルバー・ドラゴン】を破壊する!」

「What!?」

 

 

 

―!

 

 

 

それでもどうにか勢いを止めず、即座に動きだす紫魔 アカリ。

 

地属性に長けた彼女が引き寄せた、敵を地の底に引きずり落とすそのカードを使用し。すぐにでも、体制を立て直さんとして…

 

 

 

(アイツの手札は0…)

 

 

 

アレだけの展開を全て破壊され、突如現れた漆黒の銃竜を前にしているにもかかわらず、まだまだ戦意を失わず動きを止めない彼女。

 

こうなってしまうなら、雷地の英雄の貫通効果で少しでもダメージを与えておくべきだったのだろうか。

 

今更そんなコトを後悔しても時既に遅く…リョウの理解しがたいデュエルを前にしても、戦況を見てどうにか最後まで希望を繋ぎ…

 

 

 

「更に【死者蘇生】を発動し、墓地から【E・HERO エアーマン】を守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【E・HERO エアーマン】レベル4

ATK/1800 DEF/ 300

 

 

 

「エアーマンの効果で、デッキから2体目のエアーマンを手札に加えるわ!…カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

 

 

 

紫魔 アカリ LP:4000→2000

手札:6→1枚

場:【E・HERO エアーマン】

伏せ:1枚

 

 

 

果たして…このターンで、一体何体のモンスターが現れては消えていったのだろう。

 

とても後攻1ターン目に行われるような攻防とは思えぬ効果と効果の応酬が繰り広げられ、目まぐるしい展開の嵐と激しすぎるカードの連続使用によって、既にリョウの手札は0でアカリの手札は1枚。

 

…しかし、一時は勝利を掴み掛けたアカリの意地が、ここへ来て勝ったのか。

 

そう、手札も、モンスターも、伏せカードも。何も残ってはいないリョウに対し、アカリの場には一体の英雄と一枚の伏せカードが存在し、このデュエルをTVで観ている誰もが既にアカリの勝利は確実なモノと思っているに違いない事だろう。

 

…まさにアカリにとっては正念場で、リョウにとっては崖っぷち。

 

このデュエルを観ている見えない観客達の誰もがアカリの勝利を確信しており…

 

そんな、誰が見ても勝利に近いであろうアカリを見て…

 

 

 

「Beautiful!最後まで勝負を諦めない君は何て美しいんだ!」

「アンタ…さっきからアタシの事バカにしてんの?レディレディって煩いのよ!女だからって見下してるわけ!?」

「そいつはNoだ。最後まで諦めないレディを誰がバカになんてするもんか。…それに、俺は俺より強いレディがこの世に居ることを知っている。だからこそ、俺は一人のデュエリストとして、君を倒したいと心からそう思っているだけ!そしてあわよくば、ベッドの上で夜のデュエルをしたいと思っているだけSA!」

「ぐ、こ、この変態!さっきからいちいちキモいのよ!」

「HAHAHAHAHA!レディからのお小言はご褒美さ!もっと言ってくれても構わないんだぜレディ。」

「…は、話が通じない…」

 

 

 

 

追い込まれているにもかかわらず、何も残っていないにもかかわらず。

 

言葉を改めるわけでもなく、全くもって焦りを見せはしないリョウ・サエグサ。

 

…誰が見ても崖っぷちであろう状況だと言うのに、彼のその余裕は一体どこから出てくるのだろうか。

 

根拠の無い自信と言われても仕方が無いような、誰の目にも明らかな絶体絶命だというのに。

 

どこまでも飄々とした態度と軟派な言葉で、彼はアカリの琴線に素手で触れ続けるだけ。

 

 

 

「俺はどんな時でもレディへの敬意は忘れない。存在自体が美しい、レディと言う全ての女性を愛するのが俺の使命なんだからNA!」

「…なんなのよコイツ…」

「まっ、それでもあくまでデュエルはデュエル。夜のデュエルも好きだが…こうして、アカリみたいな強いレディと本物のデュエルをするのも俺は好きなのさ。俺は今、心から楽しんでいる!君みたいな素敵なレディとのデュエルは、俺にはこれ以上ない至福なのSA!」

「ぐ…け、けどアンタの手札は0でモンスターも0!どう足掻いても、次のドローじゃこの場は突破できな…」

「No problem!行くぜ、俺のターン、ドロー!」

 

 

 

恐れを出さず、迷いを見せず。

 

このドローが全てを決めると言うのに、リョウはまるで恐怖を感じさせる事も無く当然のようにドローをするだけ。

 

…その態度はまるで『異質』。

 

そう、手札は0、モンスターも伏せカードも無いというこの状況は、例えプロデュエリストであったとしても乗り越える事は用意ではない。

 

特に今の彼のような、たった一枚のドローにこのデュエルの全てを賭けなければいけないという重圧は…常に修羅場に身を置くプロであっても、並大抵の精神では乗り越えられないはずだと言うのに。

 

それでも、彼の雰囲気はその重圧を全く感じていないかのよう。

 

…いや、実際に感じてはいないのだろう。リョウのその形容し難い楽観は、どこまでもアカリには理解し難い代物となりて…

 

 

 

 

 

―引いた、カードは…

 

 

 

 

 

「Yes!【カップ・オブ・エース】発動!」

「なっ、ま、またギャンブルカード!?」

 

 

 

ここへ来て、この場において、この状況にもかかわらず。

 

…あろうことか彼の引いたカードは、先のターンの初めにも使ったギャンブルカード。

 

普通であればありえない。常人であれば発動も出来ない。この状況におかれて、ギャンブルに命を預けるなんて。

 

…しかし、彼はソレを発動することになんの恐れも抱いておらず。

 

リョウはただただ高らかに、その発動を宣言するのみ。

 

 

 

「な、何なの…何なの、アンタのそのデッキ!そんなギャンブルが何時までも上手く行くわけないでしょ!」

「心配してくれてありがとよレディ!でも大丈夫!俺はここで終わる男じゃないってのを、今君に証明してみせる!さぁ天に舞え、運命のコイン!」

 

 

 

そうして…

 

アカリの言葉を聞いているのか、それとも全く聞いてないのか。

 

全てが決まる瞬間であっても、何かが狂ったようなリョウ・サエグサの宣言により、金の聖杯から飛び出したコインが天に舞う。

 

普通に考えれば、彼はここまで全ての博打に打ち勝ってきたのだから、『運の流れ』的にはそろそろ『負』の方に傾いてきていてもおかしくはないはず。

 

…そうそう上手くいくわけがない。

 

そんなコトを考えているかのようなアカリの視線は、固唾を飲んでコインを見つめていて…

 

 

 

 

 

 

 

―出た、マークは…

 

 

 

 

 

 

 

「Yes!ラッキー!マークは太陽!コインは表!俺はカードを2枚ドロー!」

「また表!?さ、さっきから全部当たってるじゃない!一体どうなってるのよ!」

「言ったろ?今日の俺には、勝利の女神がついてるってな!【死者蘇生】発動!墓地から【リボルバー・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】レベル7

ATK/2600 DEF/2200

 

 

 

「まだだ!続けて【リボルバー・ドラゴン】の効果発動!【リボルバー・ドラゴン】はコイントスを3回行い、2回以上『表』が出れば相手モンスターを1体破壊できる!さぁ、またまた運命の時だ!天に舞え、3枚の運命のコイン!」

 

 

そして…

 

休む間も無く、気を抜く暇も無く。

 

再び天に、3枚のコインが現れる。

 

ギャンブルに次ぐギャンブルの連続、まったく恐れず博打の継続。

 

ソレらが三砲の銃竜の、それぞれの砲門の上で勢い良く回転を始め…ソレに連動しているかのように、【リボルバー・ドラゴン】の弾倉も唸りを上げて回り始め…

 

 

 

 

 

―出た、マークは…

 

 

 

 

 

「Yes!コインは3枚とも全て『表』だ!」

「なっ!?」

「神よ!俺を愛してくれる勝利の女神よ!アカリという、強くて素敵なレディと戦わせてくれた事に心から感謝するぜ!【リボルバー・ドラゴン】の効果発動!アカリのモンスターを打ち抜け!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

あまりに信じがたいリョウの豪運。あまりに人間離れした狂気の強運。

 

普通であればありえない。これまで彼が出したコインのマークは全て『太陽』。全てがいい方に傾いている『表』を指しているこの現状は、アカリにしてみれば全く持って理解し難い現象であることなど最早言うまでも無く。

 

…デュエルディスクが下す判定は絶対で、実際のコインを使ったギャンブルと違いイカサマなんて入り込む余地など無いにもかかわらず。

 

今目の前で確かに起こっている現象には、アレだけ戦意を尖らせていた流石のアカリもその表情がみるみる引きつらせていくだけ。

 

 

 

「おっと、まだだぜレディ?その伏せカードもきっちり破壊させてもらう!速攻魔法、【サイコロン】発動!」

「ま、またギャンブルカード…なんなのよ、一体何なのよアンタ!普通にデュエルできないわけ!?」

「HAHAHAHAHA!そんなに褒めないでくれよレディ!さぁ、コレが最後のギャンブルだ!天に舞え、運命のダイス!」

 

 

 

そしてリョウの最後の手札から飛び出してきたのは、突風を生み出すことが出来る『可能性』を秘めた一個のダイス。

 

…しかし、この状況で、リョウが発動した【サイコロン】でアカリの伏せカードを破壊するには、2・3・4の数値を出さなければ意味が無い。

 

そう、こんな博打を打たなくても、普通に考えれば【サイコロン】よりも【サイクロン】をデッキに入れたほうが確実であるというのに…

 

…最初の【カップ・オブ・エース】でのコイントス。

 

…【アルカナ ナイトジョーカー】の効果の3種の博打。

 

…【強欲な瓶】による窮地のドローに加え、ここへ来ての連続したコイントスにダイスロールと、まさにリョウ・サエグサのデュエルは常人では理解など全く出来ない、ギャンブルに狂った者のソレ。

 

普通の精神では、とても入れようとは思えないであろうソレらのカードを、彼はさも当たり前のようにデッキに投入しているのだ。

 

常人では戦う事すら難しいであろうソレらを、手足のように操る彼の精神は一体どうなっているのだろうか。

 

精神をすり減らすことに快感を覚えているかのような、強欲渦巻く深い目の奥で見つめる先にあるダイスから…

 

 

 

出た、数字は…

 

 

 

 

 

「Yes!ダイスは4、伏せカードを1枚破壊できる!」

「そんな!?」

「俺はアカリの伏せカード…【砂塵のバリア―ダスト・フォース―】を破壊するZE!」

「は!?う、嘘よ!なんで伏せカードがダスト・フォースって事まで!?」

「ただのカンさ!でも予想的中のようだな!そら、バリア粉砕!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

天に浮かぶダイスを軸に、突如として巻き起こった竜巻がカードを砕く。

 

…『カン』などとは言っていても、リョウにははっきりとアカリの伏せカードが『何』なのかが見えていたのだろう。

 

でなければ、全くのノーヒントでアカリが伏せていたカードを的中させる事など、イカサマでもしなければ出来はしない。

 

…それは単純に、彼がアカリとは見ている『高さ』が違うから出来る芸当であり…

 

 

 

「…こんな馬鹿なことって」

 

 

 

…言葉選びに難があっても。女癖が悪くとも。

 

持って生まれた類稀なる強すぎる『運』と、それを完全に飼い馴らせる『度胸』。

 

『先』の地平に辿り着いた者からすれば、『壁』を超えた所に居る者は文字通り『レベルが違う』と言う事であり…

 

多少、自分の欲望に正直ではあっても、『運』と『度胸』、その双方を己のカッコたるモノとして昇華させているリョウ・サエグサの『実力』は、疑いようの無いまさしく本物。

 

 

 

故に…

 

 

相手が誰であろうとも。どんなカードが相手でも。

 

己の『運』と『度胸』を持って、如何なる敵にも『勝機』を見出す彼の事を、このデュエリアはこう呼び称えている。

 

 

 

―勝利の女神に愛された、命知らずの決闘者

 

 

 

―決闘学園デュエリア校、デュエルランキング『第1位』

 

 

 

 

 

 

―『ギャンブラー』

 

 

 

 

 

―リョウ・サエグサ

 

 

 

 

 

「Good Bye、レディ。今度はベッドの上でお相手願うぜ?【リボルバー・ドラゴン】で、アカリにダイレクトアタック!鋼鉄の…フルメタル・ジャケット!」

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁあ!?」

 

 

 

 

紫魔 アカリ LP:2000→0(-600)

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

 

渇いた発砲の銃声と、無機質な機械音がこの海岸に鳴り響く。

 

ソレと同時に、撃ち抜かれた少女はまるで本物の銃弾に撃たれたかのように後ろへと吹き飛んでしまいって…

 

そのまま慈悲は無く、リアル・ダメージルールに乗っ取り、容赦の無い電流が砂浜に倒れた少女を襲う。

 

 

 

「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

「許してくれアカリ…これはデュエル…俺は本気で君を傷つけたいわけじゃない。」

「あっ…ぐ…ぅ…」

 

 

 

砂浜がクッションになったのか、弾き飛ばされてもどうにか気を失わずに済んだアカリを見て…

 

慈愛に満ちた視線を向けるリョウの表情は、狼ではなく紳士の顔にも見えるモノ。

 

…しかし、ここで『男』として『女』に手を差し伸べる事は『デュエリスト』の礼儀では無い事を彼も分かっているからこそ。

 

戦いの場であるこの【決島】では、あえてアカリには手を差し伸べず、彼は哀しみを感じさせる背中をアカリに向けて歩き出すだけ。

 

 

そんな、紳士でもあり狼でもあり、なおかつ本物の決闘者でもあるリョウ・サエグサを観て…

 

 

 

「リョウ・サエグサのあの『運』…まさかあの子、学生で『極』の頂に到達してるってのかい?」

「いぃや、学生の間に『極』に辿り着ける奴ぁ、姉御ん所の琥珀ぐれぇだろうぜぇ?…まぁ、琥珀の野郎はバグみてぇな突然変異だったけどよぉ…けど、リョウの『運』も、ソコに近いレベルだって事は否定しねぇ。何せ、アイツは既に『壁』を超えた『先』に到達してるんだからよぉ。」

「…確かにあの年代の子どもらの中には、時々『先』に到達できる小僧どもが現れるけれどもねぇ…」

「…実力の『壁』を超えたその『先』…プロのトップランカーが身を置く段階に、まさか学生で到達している者が居るとは…」

 

 

 

彼の狂ったような『運』を見た『烈火』と【白鯨】が、思わず声を漏らしたのも無理は無い。

 

 

―実力の『壁』を超え、その『先』を更に越えた、『極』の頂…

 

 

それすなわち、世界に轟く【王者】達や、彼らに次ぐ力を持った『異名』を持つ決闘者だけが辿り着ける、常人では足を踏み入れる事すら叶わぬ天上の場所。

 

この長い世界の歴史で見ても、学生の段階でその『極』の頂に至れた者など現シンクロ王者【白竜】である新堂 琥珀しか存在しておらず…

 

まだその『極』の頂には程遠いとは言え、リョウが今居る場所は学生レベルとプロを分ける実力の『壁』を、更に超えたその『先』の段階。

 

実力の『壁』を超えてプロとなった者達が、才能に溺れず鍛錬を積み…

 

果てしなく続く苦行を乗り越え、そこからさらに果てしない戦いを経て、ようやく選ばれた者だけが進むチャンスを与えられるかどうかという、永遠に彷徨える『先』の地平。

 

しかし、まさか選ばれたプロ達ですら到達できる者の少ないその『先』の地平に、学生の身分で到達している者が居るというのは、同じ年代の学生達を預る決闘市側の理事長達からすれば本当に心から驚愕に値する事なのだろう。

 

…恐るべき才能と、恐るべき実力と、恐るべき運に恐るべき精神。

 

それらをありありと見せ付けたリョウ・サエグサというデュエリアの男子生徒に対し、決闘市側の理事長達の視線が一層鋭くなり…

 

 

 

―そんな、決闘市の理事長達を見て。

 

 

 

「…おいテメェら、一応言っとくがよぉ…ウチで『先』に辿り着いてんのは、何もリョウだけじゃあねーんだぜぇ?」

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「ぐっ、ち、ちっこいのに強ぇ…」

「調子乗んなやクソガキが!身の程を知らんかい!【デストーイ・サーベル・タイガー】、【デストーイ・シザー・タイガー】、【デストーイ・チェーン・シープ】で攻撃ぃ!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

「うわぁぁあ!」

 

 

 

炎馬 LP:3800→0

 

 

 

島の中に群生する生い茂った木々の中の、その森の中腹でのこと。

 

昨年度のデュエルフェスタの優勝者の猛攻を、もろに喰らった炎馬のLPが一瞬で溶けてしまって。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「…貴方…どうして、それを…?」

 

 

 

小川のせせらぎが木霊する、戦場とは思えぬ穏やかさと静けさを放つ森の奥深く…

 

言葉を失っているミズチの眼前には…

 

 

 

 

【地霊神グランソイル】レベル8

ATK/2800 DEF/2200

 

 

 

 

 

轟き揺れる地響きを放ち、古の眠りから目覚めし大地。

 

偏に『神』とも呼ばれることのあるソレは、その特異な召喚条件による扱いの難しさと、まるで意思を持っているかの如く並の決闘者に扱われることを嫌い…

 

その事から現代では、【決闘世界】がその所持者を選び、そして扱うことを許されるという、まさに神にも準ずるカード。

 

 

 

「馬鹿な…学生が…【霊神】を操るなど…」

「クハハハハ、どうだぁ砺波ぃ。刀利はウチでも特に特別な奴でよぉ。」

「フォッフォッフォ、よくぞここまで持ち直したモノじゃ。…死にそうな目をしていたあの子がのぅ…」

 

 

 

そう、同じく【霊神】の一体…【氷霊神】の所持を許可されている元シンクロ王者【白鯨】からすれば、【霊神】の所持が許可されることが一体どれだけの責務を持つのかを知っているからこそ…

 

誰にでも扱えるカードでは無いソレを、たかが一介の生徒がこの場に呼び出しているその光景は、あまりに不自然かつ不思議な光景であり…

 

 

 

 

「…バトル。【地霊神グランソイル】と【スクラップ・ドラゴン】で、ダイレクトアタック。」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

…島の中のあちこちから、響き渡るは猛襲の戦音。

 

それは猛者が集うデュエリア校の、選ばれた100人の中でも更に上位の生徒達による、決して留まらぬ進撃の音。

 

中盤にさしかかった【決島】で、デュエリアの『ギャンブラー』、リョウ・サエグサを筆頭に、実力の『壁』を超え、更にその『先』の地平へと足を踏み入れているデュエリアの生徒達による進撃は留まる事を知らず。

 

また、リョウやアイナ達が戦っていた場所とは別の場所でも、デュエリア校の『全勝者』達による猛襲は巻き起こっている。

 

中にはリョウやアイナ、刀利のように、決闘市側の『全勝者』を倒した者も居り…

 

決闘市側の実力者達が次々とやられていくその猛攻は、デュエリアの上位陣の力を知らしめているかのように激しくも高位のモノ。

 

序盤は勢いを保てていても、長期戦になればなるほど自力の差は明確になってくる。

 

特に中盤にさしかかった現時点では、戦いへの疲れを覚えてしまった者から順に黒星を与えられてしまい…

 

今の一度の戦いで、決闘市側の『全勝者』が10名から一気に3名にまで減ってしまったこの一瞬の出来事は、まさに決闘市にしてみれば悪夢としか言い様の無い出来事と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

―しかし…

 

 

 

 

 

 

 

「…ちぇっ、私だけ貧乏くじ引いたネ…」

「何をブツブツ言っている!俺は2体のガジェットで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 

その中においても一人だけ、高らかに轟く怒涛の咆哮。

 

昨年度のデュエリアで開催された【デュエルフェスタ】の第3位であり、デュエルランキング『第2位』、慈悲なき『マフィア』と呼ばれる王 ミレイを相手にしているにも関わらず…

 

森と隣接した、潮風が吹き荒ぶ海岸線で。

 

デュエリア勢の猛攻の流れに逆らうどころか、一人で押し返すかの如き勢いで叫ぶは、唯我独尊の男の雄叫び。

 

 

 

―オーバーレイネットワークを、構築。

 

 

 

およそ、この世界のエクシーズ召喚のための口上ではないソレを、鷹矢は口にして。

 

…呼び出すは、彼だけが持つ特別なエクシーズモンスター。

 

昨年度の【決闘祭】の決勝戦、その最中に彼自身が創造したソレを…この世界において、彼にだけ許されたその宣言の通りに。

 

 

 

「現れろ、『No.44』!」

 

 

 

世界に轟く王者【黒翼】の、遺伝子を色濃く受け継ぐその立ち振る舞いはまさに唯我独尊。

 

祖父である王者【黒翼】から受け継いだ才能と、元王者【白鯨】による壮絶なる修業…

 

 

―そして何より、夏休みに遭遇した【化物】との一戦の経験により、その力を更なる高みへと上昇させた鷹矢の叫びが…

 

 

 

―今、ここに。

 

 

 

 

「天に広げし純白の翼!今大地を蹴り上げ、大いなる天空を駆け巡れ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!【No.44 白天馬スカイ・ペガサス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【No.44 白天馬スカイ・ペガサス】ランク4

ATK/1800 DEF/1600

 

 

 

現れたのは、混じり気の無い純白の羽を広げた、天に飛び立つ白き天馬。

 

先のターンに召喚されていた、鷹矢の切り札である【ダーク・リベリオン】と並び立ち…

 

 

 

「さっきと違う【No.】…もう無茶苦茶ネ…」

「【No.44】の効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、貴様の場の【XX-セイバー ガトムズ】を破壊する!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

降り注ぐは無数の鋭い白羽。

 

雨の如しソレらによって、ミレイのモンスターが成す術なく切り裂かれ…

 

LPが残り900の王 ミレイにはもう、スカイ・ペガサスの効果を止めることも許されておらず。

 

 

 

「ここまでネ…全く、とんでもない奴ヨ…」

「これで終わりだ!バトル!【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】で、あの女にダイレクトアタック!」

 

 

 

先のターンに、その攻撃力を3750まで上昇させた【黒翼】が天に舞う。

 

…世界に轟く翼を広げ、鋭き牙を煌かせ。

 

自らの前に立ち塞がりし、全ての愚かなる者を一撃の下に粉砕せんと、猛り狂った咆哮が今、【決島】に響き渡り…

 

 

 

「残魔黒刃!ニルヴァー・ストライク!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「くっ、アァァァァア!」

 

 

 

 

王 ミレイ LP:900→0(-2850)

 

 

 

ピー…

 

 

 

艶やかや悲鳴と交わるは、勝敗を決める無機質な機械音。

 

デュエリア校の猛襲など、知る由も無ければ知ったことでもないからこそ。

 

どこまでも唯我独尊に、天上天下に咆哮を轟かせる【黒翼】を従え…

 

自らの進撃は誰にも止めさせるつもりも無い鷹矢の猛りは、勝負を重ねる毎に更に上昇の一途を辿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【決島】の中の大きな森の、そのどこかとある場所。

 

この島の中心に聳える大きな休火山に面した、森と山の境目の場所で…

 

 

 

 

 

 

「…デュエルをしましょう、高天ヶ原さん?」

「え?ど、どうしてあなたが?」

 

 

 

 

 

デュエルの相手を探し森を迷い歩いていたルキは、そこで思いも寄らぬ人物と対面を果たしていた。

 

それは、ルキにとってはあまりにも意外な人物であり…

 

夏の日差しに良く映える、闇に溶けるその褐色の肌。どこまでも綺麗に長く伸びた、夜よりもなお深いその漆黒の髪。

 

それは遊良が生きる指標となった、『とある人物』に瓜二つだという謎の女生徒。

 

 

 

―釈迦堂 ユイ

 

 

 

「…どうして…とは?」

「え?…だ、だって…その…」

 

 

 

一応、『クラスメート』として夏休みの直前に転入してきた彼女の事は、ルキだって知ってはいるものの…

 

しかし、ルキの記憶が正しければ、釈迦堂 ユイがこの場に居ることは絶対にありえないと彼女も分かっているからこそ言葉に詰まってしまっていて…

 

そう、ルキが今驚いているのは、釈迦堂 ユイという転入生が今こうして【決島】の場に『居ること自体』についてであり…

 

それは何故なら…

 

 

 

 

 

 

「釈迦堂さんって確か…その、だ、代表じゃなかったはずじゃ…」

「…そうでしたか?…けれど、よく思い出してみてください高天ヶ原さん。代表者の発表の時、代表者の送別会の時、出発の時…開会式の時を…」

「え…」

 

 

 

しかし…

 

不思議がっているルキを見て、徐にそう言葉を告げる釈迦堂 ユイ。

 

…そして、釈迦堂 ユイが口を開いたその瞬間。

 

突然ルキの頭の中に、耳鳴りにも似た金切り音が頭に響き…まるで、頭蓋内に直接手を入れられたかのような不思議な感覚がルキを襲い始めて。

 

 

 

「…私は最初から…居ましたよ?」

「あ…えっ…と…」

 

 

 

…頭が、痛い。

 

目の前の転入生は、一体何を言っているのだろう。

 

頭がボーっとしてくるような、視線が遠くに持っていかれるような…そんな不思議な感覚がルキの中に現れ始め、それに伴いルキの耳に目の前の釈迦堂 ユイの声だけが嫌に耳の中に酷く反響し始める。

 

…それと同時に、『何か』がルキの記憶の上を覆い始め…

 

 

 

 

 

―そうして…

 

 

 

 

「……………う、うん…そ、そうだったかも…ごめんなさい…」

「では…デュエルをしましょう、高天ヶ原さん。」

「…そうだね、イースト校同士だけど、出会ったら戦わなきゃいけないんだもんね。」

 

 

 

先ほどまで、一体何に対して自分は不思議がっていたのだろう。

 

そんな、何を考えていたのかすら思い出せなくなってしまったルキは、目の前に現れた『次の相手』に対してデュエルディスクを構え始めるしかなく。

 

それに倣い、ルキの前に立つ黒い少女もまた、徐に自らのデュエルディスクを構え始め…

 

 

 

「…フフッ、お手柔らかに。」

「う、うん…よろしくお願いします…」

 

 

 

 

 

―とうとう、不穏が動き始めた。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 




次回

遊戯王Wings

ep76「這い寄るモノ」
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