遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
未だ静まらぬ戦いの音があちこちで鳴り響いている【決島】。
早朝から始まったこの終わらぬ戦いも、とうとう折り返しを過ぎたというのにも関わらず。まだまだその勢いは弱まるどころか、気を失わずに生き残っている参加者達の戦意は益々鋭さを増していくだけであり…
少年達の戦いの映像は、文字通り世界中を熱狂の渦に巻き込んでおり、世界中の熱はその学生達の戦いの激しさと相まって、まさにこの島がこの星で最もアツい場所となっていると言っても過言ではないだろう。
学生の数が減るたびに、選手達が倒れていくたびに…まるで選別されていくかの如く更に洗練された闘気が島の中に生まれていく現在の状況は、まさに戦いの戦いによる戦いのために用意されたこの島を、文字通り【決島】と呼ばせるに相応しい代物となりて全世界へと発信されていて。
そんな、海岸でも森でも平地でも渓流でもそこかしらでデュエルが行われている【決島】の。
その島の中でも『唯一』デュエルが行われていない、島の中心にあるたったひとつの『山』…
天に聳える休火山、天を貫く荒れた山。
その高い高い休火山の、中腹に開いた山の胎内へと誘うその『洞窟』の中で…
―それは、呟かれた。
「…この島に、こんな場所があったとはなぁ…」
山の中の洞窟の中に、重々しく反響するはあまりの重量を持った声。
洞窟の岩肌すら震えさせるその声は、本気で叫べばこんな洞窟など一瞬で崩壊させてしまいそうな程の質量を持っているのでは無いかと錯覚させるほどであり…
そのあまりに重々しい質量を持った声を出せる者など、この世界においてはたった一人しか該当しないことだろう。
決闘学園デュエリア校学長、かつては『逆鱗』と呼ばれた元プロデュエリスト…
―劉玄斎、その人
しかし、本来ならばデュエリア校の学長として、各学園の理事長・学長たちのために用意された『特別観覧席』にいなければならないはずの劉玄斎が、一体どうして『特別観覧席』を離れてこんな山の中の洞窟にいるのだろう。
いくらこの山が休火山で、危険性は少ないとはいえ…この洞窟の中に入るだけでも相当の高さを歩いてこなければならず、万能端末であるデュエルディスクの電波もシャットアウトされてしまうようなこんな辺鄙な山の、しかも人の手が加えられていないような獣道を通ってまでデュエリア校の学長が訪れている、その理由とは何なのか。
また、劉玄斎が現在居るこの場所は、『洞窟』とは言え無い程に広い『大空洞』となっており…
デュエルスタジアムほどもある広々とした空間と、到底昇り切れそうもないほどに高い天井。
岩肌に囲まれたこの大空洞の、その天井の中心には巨大な『穴』が開いていて…空の明るさをこの大空洞へと降り注いでいることから、山の胎内であるはずのこの空間は外界となんら変わりない明るさに包まれているという、どこか神秘的な雰囲気すら醸し出しているこの大空洞に、劉玄斎が居るというのも可笑しな話に違いなく。
「本当に何も知らずにこの島を所有していたのですねぇ、宝の持ち腐れとはこのことです、えぇ。…まぁ、この島がどういったモノかも知らずにいたと言うのも、ある意味では幸せではあったのでしょうが。」
「…どういう意味だ?」
…そんな、重々しく響く劉玄斎の呟きが聞こえたのだろう。
どこか呆れたようにしてその口を開いたのは、この『大空洞』に居たもう一人の男…
スーツと言う名の胡散臭さに身を包んだ、『捻じれた』と言う表現があまりに似合う、長身で細身なもう一人の男が徐にその口を開いて。
「言葉の通りですよ。そもそも、デュエリアが『何の街』と呼ばれているのかを考えれば、この島を買う前に少し調べればソレは簡単に分かったと思うのですがねぇ、えぇ。」
「…『決闘発祥の地』、だろうが。この街じゃ、ガキでも知ってることだぜ?」
「いえいえ、そちらではありません。デュエリアのもう一つの異名…」
「『古の神が眠る土地』…か?」
「えぇ、えぇ、その通りでございます。」
どこまでもどこまでも鈍重に響く、ゆったりとした話し方をする劉玄斎とはまるで真逆。捲くし立てるように、煽るように…少々早口で言葉を放る、細身で長身の捻じれた男。
また、未だその心意が明らかにならぬ彼等の会話なれど、ソレらは少なくとも他人に見られてはならない思惑を孕んでいると言うことだけは確かだろう。
…何せ何気なく話しているようにも思える彼等の会話も、絶対に他人には聞こえないように警戒されたモノとなっているのだし…
―何よりも劉玄斎の肩には、気を失っている『赤い髪』をした少女が担がれていたのだから。
…その意識の無い赤い髪をした少女は紛れも無い、イースト校2年の高天ヶ原 ルキ。
しかし、つい先程【決島】に出場していないはずのイースト校2年のとある褐色の少女とデュエルをして、意表を突かれてその意識を手放してしまったルキが、一体どうして劉玄斎に担がれ運ばれているというのか。
…意識もなく揺られるまま、抵抗もなく眠ったまま。
しかし、そんな意識も無く運ばれているだけのルキの事など意に介さず。劉玄斎の前を歩いていた『捻じれた男』は、劉玄斎へと向かってその捻じれた口を再度開き始めた。
「その『神』の内の一体が眠っていたのが、何を隠そうこの島と言うわけでございますねぇ、えぇ。」
「おいおい、この島はそんな大層な島じゃあねぇぞ?手入れもされてぇねってんで、俺が若ぇ頃に二束三文で買い叩いた…」
「ま、あくまでも神が『眠る』…ではなく、遥か大昔に『眠っていた』というだけの島ですからねぇ。『神』が居なくなって、加護が消えたただの島など人々の伝承にすら残りませんし、それに神話の時代のお話など本当かどうかなど分かりません、えぇ。その『神』もどんな神だったのかは今は分かりませんし、もしかしたら伝承にも残らぬ下の下の神だったのかもしれま…」
「…つまりテメェは何が言いてぇんだ、あぁ?」
「ふふ、そんなに怖い声を出すモノじゃありませんよ。貴方の後ろのお嬢さんが怖がってしまいますからねぇ、えぇ。」
煽るようなイントネーションと雰囲気で話す、『捻じれた』男の声に苛立ちを感じたのか。
少々荒い口調を交え、その声のトーンを一つ落とした劉玄斎。
…身も竦む様な声の振動、人間の本能を揺さぶる音響。
しかし、その常人が中てられれば身震いが止まらなくなるはずの劉玄斎の声を、直接ぶつけられたにも関わらず…
捻じれた男は全く臆した様子もなく、その視線を劉玄斎の後ろへと向けると、劉玄斎の陰に隠れるようにして壁にもたれかかっていた、金髪で小柄な『あまりに幼く見える少女』へと声を伸ばし…
「…アイはこの程度じゃあビビらねぇよ。何せこいつぁ…」
「ふふ…存じておりますとも。彼女もその歳では考えられない修羅場を潜ってきているのですからねぇ。私の部下に欲しいくらいの…」
「…おい【紫影】、テメェ…」
「おっと…そんな殺気を出さなくともいいではありませんか。私の狙いはあくまでも『逆鱗』、貴方が抱えている『その少女』が持つ赤き竜神だけでございますとも。貴方の生徒には…まだ、手を出すつもりはありません。…ふふ、だから貴方はまだ大人しくしていなさい。…ご自分の生徒達が可愛ければね、えぇ。」
「ぐ…」
しかし、そんな【紫影】と呼ばれた捻じれた男の、言葉の間に割ってはいるように殺気を放った劉玄斎に対し。
捻じれた男は更に続けざまに言葉を放つと、それを聞いた劉玄斎は苦々しげに顔を歪めつつ、醸し出していた殺気を鎮めてしまったではないか。
…その今の劉玄斎の姿は、とてもじゃないが暴れ狂う『逆鱗』と呼ばれていた大男とは思えない姿。
そのまま固く握った拳を振るう事も出来ずに、ただただ苛立ちを飲み込んでいる様子で…
「ま、貴方も人質がある身では、今私に歯向かっても無駄だと言う事は分かっていらっしゃるでしょうし。貴方がきちんと働いてさえくれれば、貴方の生徒も決闘市の学生達も皆無事に解放しますとも。それに…貴方が欲しがっている『情報』も、事が上手く済めばちゃんとお教えしますよ、えぇ。」
「その言葉に…嘘はねぇんだろうなぁ【紫影】。屑のテメェの言葉は信用ならねぇんだ。」
「えぇ、えぇ、もちろんですとも。」
…一体、この【紫影】と呼ばれた捻じれた男は、何をどうやって『逆鱗』とまで呼ばれた劉玄斎を抑えこんでいるのだろう。
今の劉玄斎の姿からは、少なくとも彼が自らの意思でこの【紫影】と呼ばれる捻じれた男に付き従っている…と言うわけでは絶対にないと言う事だけは明らかではあるものの、それでもこの細身の捻じれた男が、巨大な体躯を持った劉玄斎に上から目線で従わせていると言うこの現状はあまりに不自然であまりに不可思議な現実。
…『逆鱗』とまで呼ばれた、あの触れるモノ皆砕き壊していた若かりし頃の劉玄斎を知っている者が、今の劉玄斎を見ればきっとそのあまりの腑抜け様に落胆を隠せない事は必至。
…しかしそれは子ども達の知らない、大人の都合と陰謀の契約。
一体、【紫影】と呼ばれた捻じれた男が何を持って劉玄斎を従わせているのかは、今は彼等にしか分からぬ秘密裏に交わされた契約ゆえの偽りの主従関係。
その会話は不穏に塗れた、大人同士のモノではあれど…少なくとも、不本意とは言え契約によって従う事を決めた劉玄斎は、今この場ではこれ以上【紫影】の言葉に従うしかないのだろう。
そのまま【紫影】と呼ばれた捻じれた男は、その意識を劉玄斎の後ろを歩いていたアイナ・アイヴィ・アイリーン・アイオーンから、劉玄斎に担がれている高天ヶ原 ルキへと切り替えつつ…
「…しかし、貴方も随分と丸くなりましたねぇ『逆鱗』。昔の貴方とは大違いでございます、自分の生徒のためならばまだしも、まさか天城 遊良のためにここまで…」
「…んなことより、やるならさっさとしねぇか。」
「ふふ、いいでしょう…そろそろ始めましょうか。」
そうして…決して結束などしていないであろう彼等が、それぞれの思惑を胸中に秘めたまま。
【紫影】と呼ばれた『捻じれた男』が、そう呟いたのと同時に…劉玄斎はルキを担いだまま、【紫影】と呼ばれた捻じれた男と共にこの大空洞の中心へと歩き始め…
そこには人が一人寝転がれるだけの、岩を削って装飾された、『祭壇』と呼べるような台座が一つ。
天井の穴から降り注ぐ光に照らされて、形容し難い雰囲気を醸しだしていた。
「かつて、『神』とコンタクトでも取ろうとしていたのでしょう。私の経験上、こうした『神』場所の方が神を解放しやすいですからねぇ。」
「解放…随分とまぁ、物騒な事をしようとしているじゃあねぇか。」
「物騒ですよ?一人の少女を犠牲にしようとしているのですから。何の罪もないこの少女には悪いですが…ま、これも必要な犠牲と言うヤツですねぇ、えぇ。」
「…犠牲…嫌な言葉だぜ。」
「おや?今更引き返したくなりましたか?でもここまで来たら貴方も最早『同罪』。後ろの小さいお嬢さんも含め、私達三人はその一人の『少女』を犠牲にしても叶えたいモノがあると言うのに。それに『逆鱗』、貴方には人質が…」
「…わかってんだよんなこたぁ!今更、引き返す気はねぇ…」
…果たして、彼等は今からここで、一体何を行おうとしていると言うのだろう。
ゆっくりと『祭壇』に運ばれる、気を失ったままのルキ。
そのルキを、口では何やら哀れんでいるような台詞を吐く【紫影】と呼ばれた捻じれた男ではあったものの…その口調には微塵もルキを哀れんでいるようなモノが無く、ただただ淡々と言葉を放るだけ。
そのまま、捻じれた男に従うように。劉玄斎は担いでいたルキを、静かに、ゆっくりと、丁寧に『祭壇』に寝かし始めた…
その時…
「…さっそく邪魔者が嗅ぎつけてきましたか。相変わらず、【白鯨】の奴は仕事が速いですねぇ、えぇ。」
―…
「…砺波先生!」
【決島】の戦いの音があまり聞こえぬ、島の中心に聳える山の中腹でのこと。
砺波に指定された場所へと向かって、全力疾走をしていた遊良は…指定された場所に既に到着していた砺波を見つけるや否や、走ってきた勢いのままに砺波へと向かってそう声を放った。
「す、すみ、ません…遅れ、まし、た…」
よほど全速力でここまで駆け抜けてきたのだろう。
息を切らせ、呼吸を荒くし、掌を膝について肩で息をして…しかし遊良のその疲労も最もであり、何せ朝からずっと緊張の糸を張り詰め、気を抜く事が出来ぬ戦いを繰り返し、それが休む間もなく常に繰り返されていたのだ。
【決島】も中盤を過ぎ、選手達にも疲れが溜まってきた頃合。
その疲れの見え始めた時間に、渓流からこの山の中腹までの獣道をノンストップで全力疾走してきたのだから、いくら遊良が未だ体力の有り余る高等部の学生とは言え、今ここで疲労の姿を見せてしまってもそれは仕方の無い事と言えるのだが…
しかし、それでも遊良は邪魔が入ったとは言え砺波から呼び出しを受けてからここまで来るのに、少々時間を食ってしまった事を悔やんでいる様子を見せていて。
「…30分ほど前から高天ヶ原さんに付いていたデュエルドローンの映像が急に途切れました。それに伴い、現在彼女がどこにいるのかが運営にも分からなくなっています。」
「…え?」
「また、つい先程更新された公式記録では高天ヶ原さんが『失格』となっていました。運営側は、彼女がデュエルに負けて気を失い、その時に何かしらシステムの不具合が出たのだろうと考えているようですが…」
「…あ…ほ、本当だ、ルキの名前が失格者リストに載ってる…」
…また、ここまでノンストップで駆け抜けてきた己の教え子に対し、労いの言葉を全くかけるでもなく。
ただただ淡々と重々しく、状況説明のためにその口を開いたイースト校理事長、砺波 浜臣。
どこか冷たさすら感じる、あまりに冷静な砺波の口調。しかし砺波のその淡々とした態度は、来るのが遅れた教え子に叱責や小言を言う時間すら惜しいと言う事と同義とも言えるだろうか。
砺波はそのまま、余計な事を言う事も無く…ただただ時間が惜しいのだと言わんばかりに、淡々とその言葉を続けるだけ。
「高天ヶ原さんが今現在、どこに居るのかを運営が把握できていないと言うのは明らかな異常事態。まだそこまで時間も経っていないため、運営もまだ危機感を感じるまでには至っていないようですが…とにかく、運営の情報を待っている時間はありません。彼女の身に『何か』があったと考えて、私達は先んじて動きます。いいですね?」
「は、はい、砺波先生…」
しかし、冷たさすら感じる砺波の淡々とした言葉の羅列は、まるで砺波も自身に『冷静であれ』と自己暗示している様にも感じられるだろうか。
それは砺波も、起こってしまった『万が一』の事態に、ここで自分が焦りや戸惑いや狂乱を教え子に見せていてはならないのだと自らを形づくっているかのようでもあり…
…そう、砺波も焦っているのだ。
『万が一』など起こりえないように、万全の準備を施したにも関わらず起こってしまった、その『万が一』の事態。
島の中と外に敷かれた、あの厳重な警備網を敵はいとも簡単に掻い潜ってルキに接触したのだ。進入できぬはずの島に潜入し、逃れられぬはずの島中のカメラに映らぬ敵。そんな得体の知れぬ敵の存在を感じ取っている砺波に、焦りが生じぬはずもなく…
そして、それは遊良も同じ事。
「でも、ルキは今どこに…」
一応、島の全てがデュエルフィールドとなっている【決島】では、万が一の事故が起こった場合にもすぐに対応できるよう、参加選手達のデュエルディスクには切断することの出来ない位置情報システムが備わってはいる。
また、リアル・ダメージルール用に選手達に渡されているリストバンド型の装置は、ダメージを与えるだけではなく選手達のバイタルも逐一測定し運営へと送信しており…つまり、【決島】の参加選手達の位置情報は、【決島】が始まってからどういうルートで島を歩いたのか、そして現在どこに居るのかも常に運営はリアルタイムで監視しているのだ。
それは島の全土をデュエルフィールドとしていることで伴うであろう、防ぎようのない自然事故に対抗するために運営が施した、安全面をこれ以上無いくらいに考慮した運営側の危機管理。
それ故、【決島】の敷地内で選手達に何かしらの事故が起こったとしても、運営側にはどこで誰に何が起こったのかを把握出来ていなければならないのだ。
…しかし、その二重に監視しているはずの選手のデータと、かつ選手一人一人に付いている放映用のデュエルドローンの映像という、『三重』の監視の全てがほぼ同時に途切れた言う事は明らかな異常事態。
一応、救護班がルキの位置情報が切れた近辺を探していたり、ほかのデュエルドローンの映像にルキが映っていないかをチェックしたりしているらしいのだが…それでも、未だ危機感を覚えていない運営に、ルキの事を砺波が任せておけるはずもなく…
…自然事故による行方不明ならば、ルキの位置情報を運営が捕らえられていないと言うのは明らかにおかしい。
他の選手199人の三重の監視…その計597の監視が生きているこの現状で、『ルキだけ』の監視が効かなくなった事もそう。
また、砺波が雇ったという島を取り囲んでいる大勢の海と空のプロの警備網と、そしてその島の中と周囲に加えて世界中の人間達がTVを通して島中を観ているのだから、『何者』かがルキを島の外へと連れ出そうとしていたとしても、それは根本からして不可能。
だからこそ…この島の中に、絶対にルキは居るはず。
そこまでは遊良にだって考え付く事だとは言え、しかしそのルキを探すにしても、島の中に居るはずなのに島の中にあるどの監視の目にも引っかからないルキは一体今どこに居るというのか。
…ルキ自身の監視の目が途切れてしまっていては島中を探すと言ってもどうすればいいのかなど遊良にはわからない。
そんな、どうにもならない不安に包まれている遊良へと向かって…
砺波はそのまま続けて、その口を開いて…
「彼女が居るのはあの洞窟の中です。」
「え?」
砺波が言葉と共に指差したのは、木々が群生し、空からも隠れた山の中腹…野性の自然に隠されるようにして大きく口を開けていた、人の手が加えられていない野生の洞窟。
その草木に埋もれた、天然の隠し扉の奥に広がる光無き闇の中を指差し…運営ですら掴んでいないルキの居場所を、確かな確証を持って砺波は言葉にして。
「万が一の為、予め君たち3人に渡していた緊急連絡用のデュエルディスクには運営のモノとは別の位置情報システムを搭載しておきました。私個人のシステムのため、私のデュエルディスクにのみ情報が届くモノなのですが…これだけは運営側の情報が途切れても、ギリギリまで私のディスクに彼女の位置を残しています。敵もそれに気付いたのか、もう反応はありませんが…」
「ソレが…この洞窟…?」
「はい。島の他の場所ならば、まだ私の元に高天ヶ原さんの位置情報が届くはず。島の中を歩けば他のカメラに彼女の姿が映るはずですし、島の外に連れ去られたのならば警備網に必ず引っかかるはず。ソレもないと言う事は、十中八九彼女はこの洞窟の中に運ばれたと言う事で間違いないでしょう…ただでさえ電波が途切れやすい山の、しかも洞窟の中にまで連れて行かれては…彼女の位置が捕らえられなくなったとしても不思議ではありません。」
「…ルキが、こんな場所に…」
…洞窟の入り口から吹き出る生暖かい風は、木々に覆われた山森の薄暗さと相まって、形容し難い一種の怖さを遊良へと与えていたことだろう。
山の胎内へと続いていそうな青黒い岩肌、明かりのない洞窟内の暗さ。
闇の中にルキが連れ去られたと思うだけで、こんな場所にルキが連れ去られたと考えただけで…遊良の心にはざわめきが走り、それはまさに幼少の過去、幼等部の頃にルキが連れ去られた時にも感じた逸りと焦りを心に浮かび上がらせてしまうのか。
思い出したくも無い、ルキが誘拐された過去の事件。ルキをあんな危ない目には、遊良とてもう二度と遭わせたくは無かったと言うのに…再びルキが同じような目に遭っているという現状が、遊良には許せない。
そして…
「じ、じゃあすぐにルキを助けに行かないと!」
幼少の過去、ルキが連れ去られた時の出来事と、今の現状を重ねたのか。
居ても立ってもいられない様子の遊良が、今にもルキが連れ去られたであろう洞窟へと向けて駆け出しそうになった…
―その時だった。
「…悪ぃがよぉ、ここを通すわけにゃいかねぇんだ。」
「ッ!?」
突然…
暗い暗い洞窟の中から、突如として遊良達の前に重々しい声が響き渡って。
その声はどこまでも重く響く声となりて、山の森の木々を揺らし…
自然その物すら怖がらせているかのように震えるその声の振動は、その声の主があまりに強大な『力』を持っているのだと、聞いている者全てに理解させる代物となりて洞窟の中から響き渡る。
そして、洞窟の中からその声が近づいてくるのと連動し…
大気を震わす重々しい笑い声を響かせ、ゆっくりと日の下にその姿を晒したのは…
「クハハハハ…砺波ぃ、テメェは昔っから、俺の邪魔をする奴だよなぁおい。」
「その声は…やはり貴様が絡んでいたのか!」
戦場を駆け抜けたかのような傷跡に、まるで世紀末に生きているのではないかと錯覚する程の隆々とした巨大な体躯を持った、重厚なオーラを纏う初老の男。
それはかつて最も【王者】と拮抗した男と知られ、その実力は世界に轟く【王者】達と『同格』とまで謳われた、歴戦に名を刻む伝説の決闘者の一人。
「劉玄斎!」
ルキの身を案じ、すぐにでもルキの元へと向かいたくてたまらない遊良達の目の前に…
―『逆鱗』が、立ち塞がったのだ。
―…
次回、遊戯王Wings
ep79「『逆鱗』vs.【白鯨】」