遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
「君、あの天城という生徒が最近騒がしいようですね。…なにやらそう言った報告が入っていますが。」
「は、はい…その、1学年の間で、なんと言いますか…あ、暴れまわっているとの噂が広まってまして…」
一目見て、目の前の人物が相当高い地位にいることがわかるような、そんな高級感に溢れた静かな部屋の一室のこと。こんなだだっ広い部屋の中心で、そして恐縮したように目の前の人物に頭を垂れながら汗を拭いているのは、決闘学園イースト校、1年生の学年主任だ。彼は湧き出る冷や汗をふき取るのに必死になり、その声も若干震えている。
「ならばさっさと退学にでもしなさい。随分前もそう言ったと思うのですが?」
「そ、それはその…問題のない生徒に…簡単に退学を取り付けるわけにも…。こ、今回も…暴れるといいましても、その…暴力行為ではなくデュエルを多々行っているだけのようでありますので…そのぉ、注意をするわけにもいかず、ですね…」
確かにここ最近、天城 遊良の噂が一年生の間で絶えないことは、職員の間でもかなりの話題になっていた。登校時間から下校時間までの、授業以外の時間に誰彼構わずデュエルを行い、そして驚くことに全てに勝っているというのだ。
始めの内は、Ex適性の無いあの生徒がデュエルで勝ちまくっているという話を、教師の誰もが笑い飛ばして信じていなかったが、その後に何人かの教師がその現場に居合わせている場で、そしてはっきりと見てしまった。
―天城 遊良が、並み居るExモンスターをことごとくなぎ払い、そして有無を言わせないほどの圧勝を他の生徒に突きつけるのを。
見ていた教師も信じられなかったという。しかし、観覧していた周りの生徒達が、「また天城の圧勝だ…」と言ったことで、彼がずっとこんなデュエルを行ってきたのだと理解してしまった。噂通り、天城が「暴れまわって」いるということを。
そんな調子に乗っている天城を、流石に教師陣もその現場で注意しようとしたのだが、しかしいざその瞬間になって教師達は言葉に詰まってしまう。そう、天城を咎める言葉が無いことに気が付いたのだ。
・決闘学園校則「生徒間のいかなる決闘において、第三者が介入することを許さず。」
デュエルを行うことは生徒双方の同意の上。正式なデュエルを行っただけの生徒を咎めることなど出来はしない。明らかな不正や、違法な賭け事などはともかく、デュエルを見ていただけの教師達の目には少なくとも、天城を咎められるような不正を見つけることが出来なかったのだから。
しかし、自分達が召喚別授業で鍛えて、そして育ててきた生徒がまさか天城程度の相手に手も足も出ずに負けていく姿を見ていい気はせず、学年主任にも無茶な相談を持ちかけられていたのだが、その報告を聞いた学年主任も頭を抱えているのが現状だ。
何故デュエルをしているだけの生徒を咎められようか。いくらEx適性の無い天城とは言え、そんな理由で不正な処罰を降せるほど、自分には権限もないし、倫理に反するというのに。
そんな困り果てている学年主任を知ってか知らずか。椅子に腰掛けている人物は、笑い捨てるかのように学年主任に言った。
「はっ、デュエル?あの天城がですか?なぜ天城程度の生徒がデュエルで暴れまわる必要があるというのでしょう。」
「そ、それはその…分かりませんが…」
「まぁ、彼の理由などどうでもいいことです。さっさと取り締まってしまいなさい。彼のようなEx適性の無い人間はデュエリストではないのだから。そこを君も勘違いしないように。デュエリスト以外は決闘学園には不要なのです。」
「いえ、それは…」
「この私が許可を降します。天城を即刻、決闘学園から退学させなさい。」
およそ、教育機関、そして教育者として似つかわしくない台詞を投げかけて、その人物は学年主任に背を向けて窓の外を見た。学園の到るところで今も色んな生徒のデュエルが行われているが、その場のどれにもExモンスターが存在している。その光景を一目視界に入れてから、また学年主任の方へと体を戻した。
「…いいですね。では、下がりなさい。」
「は…はい…し、失礼いたします…」
そうして、厄介ごとの処理を一手に押し付けられた学年主任は、トボトボと部屋から去っていった。なぜいつの時代も、どんな世界も、中間管理職というのは面倒ごとを押し付けられてしまうのだろうか。痛くなる頭を抱えながら部屋のドアを閉める。その姿を横目に、白い髭を長く蓄えた人物は、苦々しげに言った。
「…困るんですよ。彼のようなデュエリストは。」
椅子に深く持たれかかって、ポツリと呟いたそれを、聞いている者は誰もいなかった。
―…
「あ、おい、天城が来たぞ。」
朝、登校中の生徒が決闘学園イースト校へと歩を進めている最中のこと。そこには、今までとは違った光景があった。
いつもなら、遊良が顔を見せた瞬間に陰口の嵐と、侮蔑の視線が突き刺さるはずなのに、今では遊良の顔を見たら真っ先に逃げる生徒達。
遊良が行動を起こしてから約1ヶ月。流石に、派手に暴れ周り過ぎたせいか、蔑みの対象であったはずの遊良は、今では誰かれ構わず襲いかかってデュエルを行うモンスターのような扱いになっていた。
しかも、完膚なきまでに相手に何もさせず圧勝するものだから、心を折られて学園に来れなくなっている生徒までいる。なまじ中途半端に実力があり、かつ遊良を見下していた生徒が特にそうだ。
「…完っ璧に悪役だ。」
ポツリと呟いただけで、近くの生徒に緊張が走ったのがわかった。多分遊良の呟きを聞き取れてはいないが、影口を言っていたと思われたくないのだろう、その生徒達はそそくさと駆け出していく。
「うわっ、お、俺先に行くからな!」
「ちょっ、置いてくな!」
「俺、まだ天城と戦ってないんだ、今捕まったら確実にやられる!」
「…やられるって、酷くね?」
扱いはまるで通り魔か指名手配犯だ。確かにこの1ヶ月間で陰口を言った生徒や侮辱した人間は、もれなく全員完膚なきまでに倒してきたが、何もしてこない人間まで標的にはしないというのに。
しかし、この1ヶ月のデュエルによって、とりあえずは1年生で遊良に好戦的に向かってくる生徒はほぼ居なくなった。結果はどうあれど、遊良の目的の一つは達したと言えるだろう。
「いやいや、遊良が蒔いた種じゃん。自業自得だと思うけど。」
「ルキだって賛成したじゃん。」
「賛成してません。止めたのに突っ走ったのは遊良です。」
そんな折、隣で歩いていたルキが涼しげな顔で、苦々しい言葉を浴びせる。毎度のことながら、鷹矢は起きられないために問答無用で置いてきてきた。
…まぁ、悪役と言っても、こうやってルキと歩いていても向かってくる奴が居なくなっただけましだろう。先週までは何人かまだルキと一緒に居る遊良にかかってくる生徒もいたが、今週に入ってからはまだ0人だ。
彼らからしたら、今までは高天ヶ原 ルキという高嶺の花に付きまとっている落ち零れのクズを、我先に倒してルキに気に入られようと画策していただろうが、もうそれが出来ないと理解したのだろう。遠めから恨めしそうに遊良を見ていても、即座に完膚なきまでに叩きのめされるからか、誰も近づいて来れない様子だ。
「まぁ、鬱陶しくなくていいけど。それにルキがイライラしなくて済むし。」
「それは遊良が今まで言い返す気無かったからでしょ。でも言い返すんじゃなくてデュエルで叩きのめすってのもなんか乱暴じゃない?」
「いやいや、言い返したってどうせ誰も態度を改めないさ。だったらこうやって力の差を見せ付けてやるのが一番なんだって。それに今じゃかかってくる奴のほうが少ないし。」
「そうかなぁ…。寧ろ敵増やしてる気が。」
確かに、1年生の中で遊良に聞こえるような陰口を投げたり、好戦的に向かってくる生徒は減ったが、そのルキの懸念も最もだ。召喚別の授業でも遊良の噂は広まっていて、その噂は既に上級生や教師にまで届いている。彼らがいつ動き出してもおかしくは無いのだろう。
「何かね、シンクロクラスの先輩も遊良のこと聞きまわってるって。近いうちに挑まれるかもね。」
「ふーん。まぁ上級生でも挑まれればデュエルするけど。その先輩って強いの?」
「んー……強いと思うよ。クラスでもトップレベルだし。」
「じゃあ早く戦りたいかもな。早く挑んでくれればいいけど。」
召喚別の授業に出ているルキや鷹矢と違って、こういう事でもしなければ遊良は上級生とデュエルできる機会はそうそうない。そんな実力者が挑んで来てくれるのなら、寧ろ万々歳と言ったところか。しかし、ルキはそんな遊良をみて不安そうな顔をして言う。
「本当に大丈夫?…って言うかその先輩、むしろ戦った後が大変そうだよ?」
「え、何か面倒なことでもあるのか?」
「先輩、結構人気あってファンクラブまであってさ。その先輩倒しちゃったら、多分ファンの女の子達からのブーイングが凄いと思うよ。」
「…それは…面倒くさいな。」
デュエルで片を付けられる問題ならばいいが、そういう痴情が入ってくる問題は面倒だ。デュエルに勝てばうるさく言われ、負ければ我先にと調子に乗って蔑んでくることだろう。確かにこれでは逃げ場が無い。
「…よし、その先輩とは関わらないようにしよう。」
「それがいいね。」
そんな他愛無い話をしながら、二人は学園へと向かっていった。そんな彼らを遠目から見ている視線がいくつかあるのを気にも留めずに。
―…
「ねぇルキ、また天城君と一緒だったの?」
「え?うん。そうだよ。」
不意に、そう言ってルキに話しかけてきたのは、高等部で一緒になった女生徒達の数人だった。全員クラスは違うが、この中の一人とはシンクロクラスの授業で何度か話したことがある。しかし、教室前の廊下で、まだ中に入ってすら居ないというのに、どうやらルキが来るのを待っていた様子だった。
「大丈夫?何だか最近の天城って危ないって聞くし…」
「あー…あーそれねー…えーっと…」
「今までも付きまとわれてたんでしょ?もうきっぱり振った方が良いって。」
「え?…いやだから、それは…」
どうやら、遊良と朝一緒に登校していることを、遊良のストーキングだと勘違いしているらしい。確かに、周囲に遊良や鷹矢との関係は話していないが、遊良自身が「お前らにとっても面倒なことになるから極力話すな」と念を押してきていたため、ルキも自分から言う事は無く、それがまた話の増長を呼んでいる。
また、一緒に登校していると言っても遊良は朝早く家を出てしまうため、泊まった日を除いて、追いつくのも一苦労なのだ。それに何とか追いついて一緒に歩いているのはルキが自ら行っていることであって、どちらかと言うと付きまとってるのは自分の方かもしれないなとルキは思った。
別に、ルキ自身は周囲に遊良との関係を知られた所で平気だというのに、そういう所で一線を引いてしまう遊良がもどかしい。
しかし、そういった勘違いから同性の友人達が今までも勘違い甚だしい行動を起こそうとしていたことが多々あり、それを落ち着かせるのに一苦労して来たものだ。特にやましいことも無いのだし、それだったらいっその事全部暴露してしまった方が早いというのに。
「特に最近気が狂って暴れてるって話だし…皆で守ってあげるからさ、なんだったらもう追い出しちゃおうよ。」
「…え?な、なに?追い出すって?」
「だってルキが心配じゃない。それにExデッキも使えないのに学園に来てるし。なんだか嫌じゃんそういうの。」
「そうそう、どうせプロにだってなれないんだしさ、それだったらさっさとやめて欲しいじゃん。」
「ちょ、ちょっと待って!何でそんな酷いこと…」
聞き捨てならない話だったが、それなのに話が目の前で次々に進んでいってしまう。これは流石にやりすぎだ、そんなことを許すわけには行かない。しかし、当事者であるルキを放って、女生徒達の話は盛り上がっていってしまう。まるで、初めからルキの話を聞く気はなく、そうすることを決定していたように。きっと彼女らは、ルキも自分たちと同じ気持ちでいると思いこんでいるのだろう。
「どうしようか、デッキ全部捨てちゃう?」
「いいねー、どうせExデッキも持ってないんだし、それだったらデッキなんて要らないでしょ。」
「だ、ダメだよそんなこと!」
「えー?何で?だって天城だよ?あいつEx使えないんだよ?」
「…ッ」
そんな彼女らを必死に静止させようとしたルキだったが、「Exが使えない」、その一言がルキの胸に突き刺さった。
そんなにExデッキが使えないことがダメなのだろうか。何故、Exデッキが使えないだけで認めてもらえないのだろうか。そんなこと、遥か昔から思っていたことのはずなのに、何故か今まで以上に深く抉られたように感じる。
それはきっと、【堕天使】を得てしまった遊良が、もう二度とExを発現させることが出来無くなったからだろう。自分と鷹矢を守るためだったとはいえ、いくら遊良自身が決めたこととはいえ、今までの微かな期待を全て失ったことを含めても、これではあまりにも理不尽ではないか。
―何故、遊良なのだろう、と。
それを思うと、堪えきれなくなってしまう。
―そんな時だった。
「そうそう。大体あいつって天城の癖に…」
「俺が何だって?」
「キャッ!?…あ…」
不意に降ってきた本人の声に、意気揚々と談笑していた女生徒達の顔が瞬間的に引きつったのがわかった。まさか、クラスも違う当の本人がこんな所にいるとは思わなかったのだろう。登校して、自分のクラスに向かっていくのも確認していたというのに。彼女らの表情は、不味いことを聞かれたかのごとくバツが悪そうだ。
「俺が何なんだよ。言いたいことがあるならはっきりしてくれ。」
「な、何よ…、いきなり話に入ってこないで!」
「天城がどうこう言ってたじゃん。じゃあ俺に関係あるんだろ?Exがどうとかデッキがどうとか。」
「そ、それは…」
敵が目前に居ない時には勇ましいものだが、いざ目の前に現れてはどうしようもないのだろうか、まったく言葉が出ていない女生徒達。
しかし、それもそうだろう。本人の目の前で本人を悪く言っていたのだ、暴力行為に及ばれればEx適性など全く関係無く、腕力でかなうはずもない。そんな女生徒達を他所にして、遊良はルキに向き合った。
「まぁ、慣れてるから別にいいんだけど。…おいルキ。」
「え?な、何?」
思わず溢れそうだった涙を堪えて、遊良の呼びかけに応じたルキ。しかし、今までは極力学園内では関わらないようにしていた遊良自身が、まさか自分から話しかけてくるなんて思わなかったのだろう。そんな驚きがルキの中に起きていた。
「お前、昨日買い物行った時にデッキごと俺のカバンに入れっぱなしにしただろ。授業どうするんだよ。ほら。」
「え?あ…ごめん、そうだった。」
―(遊良ー、これ入れておいてー。)
―(いや、それくらい自分で持ってろよ。)
―(だって今これ邪魔なんだもん。それに今日泊まるんだから今使わないし。遊良のカバンおっきいんだしいいじゃん。)
―(じゃあついでに俺の食いかけのパンも入れてくれ。今腹いっぱいだからな。)
―(汚ぇ!さっさと食っちまえこのアホ!)
そういって、遊良がルキにデッキケースを兼ねている端末機器を手渡す光景を目の当たりにして、わけがわからず固まっている女生徒達。ルキに付きまとっていると思っていた天城 遊良と、当の本人であるルキが、さも当たり前のように話しているのが信じられていないようだ。
「とりあえず、用はそれだけなんだけど。…おいお前。」
「え?あ…な、何よ?」
そして、不意に遊良に話しかけられた女生徒の一人が驚いたように声を漏らした。気の強そうな生徒で、最後に遊良のことを悪く言おうとしていた生徒だったが、話しかけられるとは思っていなかったのか、やや声が震え身構えるようにしている。
「随分言いたい放題言ってくれたよな。俺とデュエルしろよ。」
「…はぁ?な、なんでアタシがあんたなんかと…」
「じゃあ誰でもいいし、何なら全員まとめてでもいいぞ。舐めた口聞きやがって。俺とお前らの力の差を教えてやるからさっさとしろ。」
「…は?」
その瞬間、そう言った遊良に、女生徒達の何人かがカッとなったのが見て分かった。女生徒達も決闘学園のデュエリスト。格下扱いの天城 遊良に見下されたのが許せないのだ。そんな女生徒達に向かって、遊良はさらに畳み掛けるように煽る。
「どうするんだ?全員口先だけの雑魚か?人のこと言うだけ言って、実は自分の方が弱いから戦えませーんってか?それでよくデュエリストなんて名乗れるもんだな。」
「…あ、天城の癖に…アタシが戦ってやるわよ。」
そして、その中で特に気が強そうな生徒が一人、一歩前へ出てくる。多分この中で一番腕に覚えがあるデュエリストなのだろう。遊良の煽りが、もっともプライドを傷つけたようだ。
しかし、今まで倒してきた1年のほとんどは男子生徒だったが、だからと言って別に女生徒が弱いわけではない。ルキだって、下手したら遊良より強いのだ。デュエルに性別は関係ない。煽っておいても、遊良には油断など微塵も無く、ただ単純に…
―自分を認めない敵を全て叩きのめす。それだけだ。
「ゆ、遊良、言い過ぎだって。」
「いいんだよ、これくらい言わないとこいつらかかってこないし。」
そんな遊良に一応静止はかけるものの、思ったよりも遊良が冷静だったことに思わず驚くルキ。
散々悪い口調で煽ったのも、陰口を言っていた女生徒を戦わせるためだったのを理解したのか。それにしても言いすぎだろうとルキは思ったが、しかし既に両者は臨戦態勢に入っているため止めることは出来ない。
「すぐに片付けてやるんだから。」
「はいはい、いいからさっさと始めろ。」
―そして、始まる。
「「デュエル!」」
「先攻は俺だ。【トレード・イン】発動。【堕天使スペルビア】を捨てて2枚ドロー。そして【堕天使の追放】を発動し【堕天使イシュタム】を手札に加える。そしてイシュタムの効果発動。手札の【魅惑の堕天使】と共に捨てて2枚ドロー。続いて【堕天使の戒壇】を発動し、墓地からスペルビアを守備表示で特殊召喚して効果発動。墓地からイシュタムも特殊召喚。」
【堕天使スペルビア】レベル8
ATK/2900 DEF/2400
【堕天使イシュタム】レベル10
ATK/2500 DEF/2900
「イシュタムの効果発動。1000LP払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る。俺は【堕天使ゼラート】を手札に加え、その後墓地の【堕天使の追放】はデッキに戻る。」
いきなり上級モンスター2体を場に揃えた遊良の圧倒的な展開の速さに、見ているだけの女生徒達は大いに驚き、そしてつい熱くなって挑発に乗った女生徒の頭も、今行われた眼前のめまぐるしい展開によって焦燥に狩られていた。
「ね、ねぇ…コレなんか不味くない?」
「なんか天城ヤバイって…あんな堕天使とか見たことないし。」
「う、うるさいわね!あんなのがなんなのよ。あれくらいアタシだって…」
そう言うものの、実際に対戦しているこの女生徒も自分が見下していたのが本当に天城だったのか不安になっている。何せ、ここまでやって相手の手札消費が実質0枚なのだ。大型複数体を即座に場に揃え、そして手札も減っていないのは、恐怖以外の何物でもない。
「まだ俺のターンは終わってないぞ。俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ。」
遊良 LP4000→3000
手札:5→2枚
場:【堕天使スペルビア】
【堕天使イシュタム】
伏せ:3枚
そして、ターンが女生徒に移る。しかし、ルキにはこの後の展開が容易に想像できてしまった。この1ヶ月、遊良が行ってきたような、相手の行動を許さない、容赦の無い短期決戦のデュエル。
多分、これで決まってしまうことだろう。その光景が、あまりにもはっきりと目に見えた。
「アタシのターン、ドロー!まずは【E・HERO エアーマン】を召喚し…」
「罠発動【背徳の堕天使】!手札の【堕天使ゼラート】を墓地へ送り、エアーマンを破壊する。」
―!
爆発音と共に、場に出た瞬間に即座に破壊されてしまうエアーマン。モンスターの存在を許さず、また魔法・罠カードも存在することを許さない。それがこの1ヶ月、遊良の行ってきたデュエルだった。短期決戦型の、まるで全力疾走のように。
「…クソッ、でもエアーマンの召喚には成功しているため、私はデッキから【E・HERO クレイマン】を手札に加える!そして手札から【融合】を発動!手札のクレイマン2体を素材に融合召喚!現れよ、レベル6【E・HERO ガイア】!」
【E・HERO ガイア】レベル6
ATK/2200 DEF/2600
2体のクレイマンが神秘の渦で混ざり合い、女生徒の場にさらに大きな巨人が現れた。レベル6と低めだが、融合召喚成功時にその真価は発揮される。
「地紫魔の私に喧嘩を売ったこと、後悔させてやるわ!ガイアの効果発動、ターン終了時まで、【堕天使スペルビア】の攻撃力を半分にし、ガイアの攻撃力に加える!」
【堕天使スペルビア】
ATK/2900→1450
【E・HERO ガイア】
ATK/2200→3650
効果が適応されるモンスター相手ならば、こと戦闘において無敵と呼べる効果をもつモンスターだ。その攻撃力の上昇に、女生徒の顔が勝ち誇ったように変わる。
―しかし折角の効果も、戦闘まで入れなければ意味が無いが。
「イシュタムの効果発動。1000LPを払い、墓地の【背徳の堕天使】の効果を得る。ガイアを破壊。」
遊良 LP:3000→2000
―!
「…は?」
先ほどのエアーマンのときと同じ。出た瞬間に破壊されるモンスター。折角の強力な効果も、それを活かせなければ意味が無い。女生徒の顔は、勝ち誇った顔から一転、あっけに取られていた。
「この効果は相手ターンでも発動できる。そして効果適応後、墓地の【背徳の堕天使】はデッキに戻る。」
「…そ、そんな…」
「どうした、紫魔のHERO使いの癖にその程度か?だったらガッカリなんだが。偉そうなのは名前だけかよ。」
「…くっ、あ、天城の癖に好き勝手言いやがって…アタシはカードを2枚伏せてターンエン…」
「おっと、そのエンドフェイズに罠カード【砂塵の大嵐】を発動!伏せカード2枚を破壊する!」
「はぁあ!?」
カードを残してターンを終えることを許さないという、全く持って容赦をしない遊良。そんな遊良に反して、ギャラリーとなっている他の女生徒達は、遊良をバケモノを見るかのような眼で悲観した顔をし、対戦している女生徒の顔はと言えば、既に絶望感を漂わせて泣き崩れそう。
「う、うそ…嘘よ!アタシが…こんな…天城なんかに…あ、天城の癖に…」
「そうだ、お前は俺なんかに手も足も出なかった。ただそれだけだ。でも容赦はしない!散々好き勝手言ってくれたからな。…俺のターン、ドロー!」
既にガイアによって下げられたスペルビアの攻撃力も元に戻っている。そして女生徒の場にカードはなく、彼女の呆然とした姿を見るに、手札にさえも彼女を守れる物はなにも無い様子だ。
そんな女生徒を気にせず、遊良は叫ぶ。
「行くぞ!俺は2体の堕天使で…」
―直接攻撃!と叫ぶ、まさにその瞬間だった。
「まて天城!いい加減にしなさい!」
今まさに、攻撃の手を振り下ろさんとするところで、その手を後ろから来た誰かに掴まれた遊良。するとそこには、学年主任の教師が憤慨した顔で遊良を睨んでいた。
「こっちへ来なさい天城。」
「ちょ、先生、ま、まだデュエルが…」
「いいから来い!…何がデュエルだ、お前のような奴のせいで…」
なにやらブツブツと呟いて引っ張って歩き始める学年主任。切羽詰まって、まるで追い詰められている風にも見える。そして、その尋常じゃない勢いに遊良はされるがままに連れて行かれてしまった。あまりに突然のことに、ルキはと言えば、ただどうしようもなくその場に立っているだけだ。
「ど、どうしよう…遊良が連れて行かれちゃった…」
何故いきなり学年主任が…これなら、上級生に絡まれたほうがまだマシだったろうに。まさか教師が出張ってくるとは。後ろを振り向けば、遊良と対戦していた女生徒は、ヘタリと腰を抜かして俯いていた。それを取り巻きの二人が立たせて、ルキを一瞥してバツの悪そうに逃げていく。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
遊良を何とかしなければ、鷹矢は下手をすればまだ起きていなく使い物にならないだろうし、学年主任が出てきたところを考えると教師陣は頼れない。いや、何もなくても遊良を庇ってくれそうな教師は初めから居なかったかもしれないことを考えると、誰を頼っていいかすらわからなくなってしまう。
しかしなぜ今このタイミングなのだろう。この前も、教師の数人がこの時と同じような遊良のデュエルを見ていた時があったが、何も咎めることが出来ずに引き下がってくれたというのに。
「…ほ、本当にどうしよう…」
「…あん?何がだ?」
「…え?あっ!」
そんな時、不意に話しかけられて、ルキが声の方へと振り返った。するとそこには、ここに居るはずのない、しかしルキが思い浮かべた中でも一番頼りになる人物が、そこには居た。
眼に浮かべている涙が、まさに零れてしまう寸前のこと。
―…