遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep86「【決島】本選―ギャンブラーvs.進撃の咆哮」

激しい闘いの余韻から、一夜明けた快晴の日。

 

昨日、あんなにも熱狂していた世界だと言うのに…

 

今日というこの日に、この快晴の暑さよりもなおアツい熱気を放ち、更なる盛り上がりを見せながら世界中の誰もが『その時』を待っていた。

 

…これ程までに世界中が熱気に包まれる、その原因はたった一つしかない。

 

そう、昨日開催が宣言された、世界でも例の無い規模で行われる…決闘市とデュエリアの決闘学園の合同による、世界最大級の学生達の『祭典』の開催。

 

その誰も見たことがない、世界最強の学生を決めると言っても過言ではない『祭典』の予選が、とうとう昨日に行われたのだ。

 

…学生達の祭典が、ここまで世界中に注目されることは本当に稀な事。

 

そう、【決闘祭】も【デュエルフェスタ】も、知名度で言えば確かに世界にその祭典の名だけは知られてはいる。

 

しかし所詮は学生の祭典として見られていることも事実であり、ここまで学生達の戦いに世界中が注目することなど…近年で言えば現シンクロ王者【白竜】、新堂 琥珀がサウス校の学生であった頃の、半ば伝説となっている当時の【決闘祭】だけと言っても過言では無いだろう。

 

…まぁ、たった一人の選手の注目度だけであそこまで世界中が注目したという事は、それだけ新堂 琥珀の力が当時から抜きん出て世界から知られていた…と言うことでもあるのだが。

 

 

ともかく…

 

 

昨日の世界の盛り上がりは言うに及ばず。

 

決闘市とデュエリアという、世界が誇る2大デュエル大都市。その各決闘学園から選りすぐられた200名の学生による混戦と言う、これまで誰も見たことがない学生達の戦いの様子が全世界へと向けて発信されていた昨日は…

 

まさに【王者】と【王者】の戦いの中継にも匹敵するレベルの注目度となって、世界中が祭典の予選に釘付けとなっていたのだ。

 

そう…【決島】の、その予選という名の大規模なサバイバル・デュエルは、まさに全世界を熱狂の渦に包み込んでいた。

 

 

…ノース、サウス、イースト、ウエスト。決闘市の決闘学園4校の、計20万人を超える学生達の中から選ばれた実力者『100人』。

 

…デュエリアの中央に聳える巨大な決闘学園デュエリア校の、20万人を超える生徒達から選ばれたデュエルランキング上位『100人』。

 

 

いくら彼等が高等部の学生だとは言え、プロでも無い者達が織り成した昨日の混戦、激戦、熱戦には、世界中の誰もが夢中になって戦いに釘付けになっていたに違いなく…

 

プロの世界でも既に十二分に通用するのではないかという逸材たちが、更にこの島で鎬を削って戦うその光景はまさに近年稀にみるレベルの高い学生達の祭典となりて世界中の人々の目に映っていたことだろう。

 

 

 

 

けれども…

 

 

 

そんな昨日の熱狂が、まるで涼しかったモノだと勘違いするほどに。

 

今日というこの日に世界中で燃え上がっているこの熱気は、昨日以上のアツさとなりてこの星全土を包み込んでいて…

 

 

…そう、遂に決まるのだ。

 

 

昨日の大混戦を最後まで戦い抜き、最後まで『全勝』を貫いてきた強者達による最後の決戦。

 

40万人の中から選ばれた200人。その中から、最後まで勝ち抜いた『4人』による…

 

 

 

―【決島】の決勝が、ついに始まるのだ

 

 

 

それは正真正銘、世界最強の学生を決める戦いと言っても過言ではなく。

 

…【王者】の集う町『決闘市』と、決闘発祥の地『デュエリア』。

 

世界有数の都市の中でも、特にデュエリストのレベルが高いデュエル大都市に数えられる2つの都市。それは必然的に、双方の決闘学園の学生達のレベルも世界有数のモノであると言う事であり…

 

未来の【白竜】に世界中が盛り上がった、当時の【決闘祭】の注目度にも匹敵するのが今回のこの【決島】なのだ。

 

その世界中が注目している、世界有数のレベルである決闘学園の…更に勝ち残った、上位の4人。

 

それはそのまま、彼等の実力が世界中の決闘学園の中でも最もレベルの高い学生であると言う事の証明とも言えるだろうか。

 

…確かに世界には、未だ見ぬ強豪と呼べる学生が多々居はするだろう。

 

しかし【決島】という祭典に出場できる『運』…そう、決闘市およびデュエリアの決闘学園に所属していて、なおかつソレに出場できる年代であったと言う、全てが重なった時に『ここ』に居たという『運』を兼ね備えたのが、ここに立っている4人なのだ。

 

…『才能』と『実力』など、持っていて当たり前。

 

必要なのは実力以上の『何か』。高い『実力』と『才能』を兼ね備え、なおかつソレに溺れぬ『心』と、そして【決島】に出場できる『運』を持ち…

 

その『先』に到達できる、決闘者としての『器』を持った学生しか、この『決勝』の舞台に立つことは許されないことであって。

 

 

だからこそ…

 

 

きっと『この場』にいる者達は、学生という枠を超えた『先』でもきっと戦っていく事が出来るだろう。それこそ、魔境と呼ばれる『プロ』の世界…

 

―魔物犇めく弱肉強食、魔窟のような優勝劣敗

 

そんな自然界にも似た、弱きが淘汰され強き者だけが生き残れる世界でも、十二分に生き残って戦っていけると思える程に。

 

そんな、学生の中でも最上位のモノを持っている『4人』へと向けて。

 

この島には学生達と各校の理事長・学長達以外に、他の観客達など居ないはずだというのに…

 

確かに『聞こえる』歓声にも似たソレが、これより戦いを始める『4人』を包む音となりて…

 

 

 

 

今ここに、響き渡る―

 

 

 

 

 

『選手入場!』

 

 

 

 

 

今、【決島】全土へと向けて…否、全世界へと向けて叫ばれたのは、天高く反響した実況の声。

 

その実況の声に応じて、この場には居ないはずの見えない観客達の歓声が、確かに聞こえる『音』となりてこの島全土を覆い始め…

 

 

…そして今堂々と現れるは、学生らしからぬ力を雰囲気を纏った『4人』の者達。

 

 

 

予選1位―決闘学園イースト校2年、天宮寺 鷹矢

 

予選2位―決闘学園デュエリア校3年、リョウ・サエグサ

 

予選3位―決闘学園イースト校2年、天城 遊良

 

予選4位―決闘学園デュエリア校3年、鍛冶上 刀利

 

 

 

それは奇しくも、決闘市とデュエリアから2名ずつの決勝進出。

 

昨日の予選の順位と共に、その力強く恐れもなく、およそ学生とは思えぬ空気を纏いながらゆっくりと歩いてくる彼等の姿は…

 

学生とはいえ、彼等の実力がプロと比べても何ら遜色無い代物だという事を全世界へと向けて、これ以上ないくらいに証明していたことだろう。

 

…昨日の予選で、200名もの大混戦を最後まで勝ち抜いた彼等4人。

 

 

 

―全員が、『全勝』

 

 

―『全勝』は、彼等4人のみ

 

 

 

天宮寺 鷹矢…76戦全勝

 

リョウ・サエグサ…72戦全勝

 

天城 遊良…64戦全勝

 

鍛冶上 刀利…30戦全勝

 

 

 

約1名の戦績のみ、他の3人の戦績と比べても少ないことはさて置き。

 

何より注目すべきは決闘市の決勝進出者2名が『イースト校』の者達であり、それが昨年度の【決闘祭】の優勝者と準優勝者であるのだから…

 

その光景を見るだけで、昨年度の【決闘祭】の結果が誰にもケチのつけようのない紛れも無いホンモノであったと言うことと、イースト校理事長である元シンクロ王者【白鯨】、砺波 浜臣の手腕が優れていると言うことを世界中へと証明していたに違いない事だろう。

 

 

 

『これより決勝の舞台は!島の中心であるこの場所、天空に聳え立つ『塔』の最上階で行われます!』

 

 

 

見えない観客を煽る実況の声と、選手達が入場してきた事によりさらなる加熱を続ける世界。

 

その実況の声に連なって、中継映像が選手達のいる『どこかの場所』から『島の中』の映像へと切り替わったかと思うと…

 

 

なんと島の中心、深い森の中に、昨日までは無かったはずの巨大な『塔』が出現しているではないか。

 

…昨日の予選時には無かったはずのこの『塔』。

 

しかしソレもそのはずで、この『塔』は今日の決勝の為に地下に埋められており…この戦いの為だけに、日が昇ると同時に地下から天へと向かって伸び上がったのだ。

 

 

…天を貫かんと高く聳える、巨大なりし白亜の『塔』。

 

 

再び中継が選手達の居る場所に切り替わると、彼等の居る『そこ』が『塔』の中であった事が一目瞭然であるかのように…『塔』の天辺、最上階、屋上、その空に一番近い場所に、彼等4人が立っていて。

 

 

そう、今彼等が居るのは、【決島】の中心―

 

 

邪魔者達から隔離されるかのように、【決島】の中央に建造された『塔』の…その、最上である、屋上に特別に作られたステージ。

 

 

 

―天空闘技場

 

 

 

『この場所』に満ちている異様な空気は、まさに本物の強者しか立ち入れない場所となっていることだろう。

 

それは天高く聳え立っている『塔』の、その一番高い場所でこれより行われる戦いの舞台に相応しい雰囲気となりて…まさに祭典の決着に相応しい天空の舞台と言えるだろうか。

 

 

―雲に、空に、天に、文字通り手が届きそうなほどに高く聳え立つ天空の塔

 

 

それは世界最大規模で行われる【決島】の、その『頂点』を決める戦いに相応しい『高さ』となりて少年達を天へと持ち上げていて…

 

 

…すると、この厳格なりし重みを放つ、清廉なる天空闘技場で一体何を思ったのだろう。

 

 

昨日の予選を、トップの成績で駆け抜けたイースト校2年…

 

世界に名を馳せるエクシーズ王者【黒翼】の孫である、天宮寺 鷹矢がその口を開き始めた。

 

 

 

「…寒い。」

「当たり前だろ、この高さなんだから。」

「それに腹が減った。遊良、何か食う物を…」

「あるわけねーだろ。お前…決勝なんだから少しは緊張感持てよな。」

「…朝早く叩き起こされたかと思えば控え室にカンヅメ。おまけにこの高さに寒さに加え、ルキも目を覚まさぬままなのだ。緊張なんぞする暇が無いに決まっているだろうが。」

「何が『決まっている』だ。初めから緊張なんてしない癖に…つーか、お前が去年【決闘祭】に遅刻しやがったからこんなに警戒されてるんだろ。少しは反省しろ、この寝坊常習犯。」

「全く、いらぬ心配の所為でとんだ迷惑を…」

「でも起こされなかったらまだ寝てただろ?」

「うむ。」

「はぁ…」

 

 

 

全世界に見られていると言うのにも関わらず、コレが世界中の決闘学園の頂点のデュエリストを決める舞台であるにも関わらず。

 

形容でなはく本当の意味で『空気が重い』この天空闘技場の、その真ん中に立っていてもなおもいつもの通りの鷹矢の態度。

 

…それは戦いの舞台が、【決闘祭】から【決島】へと変わったとしても何も変わらないのか。

 

どこまでもどこまでも不遜なるその立ち振る舞いは、ある意味で最も鷹矢らしい、彼が彼であることの証明であるとも思え…

 

…まぁ、これまでずっとソレにつき合わされている遊良からすれば、見られている規模が決闘市中から世界中へと変わった事のだから、全く変わらない鷹矢の立ち振舞いには一抹の不安を覚えそうではあるのだが。

 

それに加えて鷹矢の言った通り、まだルキも目を覚まさぬままであるのだから…

 

当の遊良も、緊張よりも様々なことへの気がかりの方が大きいといえば大きいのだが。

 

 

 

ともかく…

 

 

 

「…気を抜くんじゃねーぞ。誰が最初の相手かわからないんだ。特にお前は、昔っから肝心なとこで要らないミスするんだから。」

「お前こそ、余計な事に気を取られすぎて転ぶんじゃないぞ。お前は昔から余計な事を考え過ぎて行き詰まる。」

「何だよ、余計な事って。」

「…気付いてないのならば良い。ともかくだ。遊良の癖に、俺と戦う前に負けたら許さんからな。」

「それはこっちの台詞だっての、鷹矢の癖に。」

 

 

 

お互いが、お互いにやるべき事だけは見失って居ないという事を確認するかのように。

 

遊良も鷹矢も、これより始まる文字通り『天上の決闘』に向けて…

 

片割れに向けている余計な気を、自分自身へと向け直そうとしていて。

 

 

 

「HAHAHAHAHA!まさかこんな舞台を用意してたとはねぇ。劉玄斎学長もニクい演出してくれるじゃねぇか。なぁ、トーリ?」

「…そうだね。」

「そういえばアオトとテツには会ったのか?来てるんだろ?アイツら。」

「…うん。昨日会って話したよ。多分、どこかで見てると思う。」

「OK、ならアイツらが度肝を抜くデュエルを見せてやろーぜ?それによ…ここはHeavenに近いだろ?だから…『アイツ』も見てるかもしれねーしな。」

「…………うん。」

 

 

 

そして決闘市勢と共に並び立っていた、デュエリア勢のリョウ・サエグサと鍛冶上 刀利もこの天上の戦いに何やら思いがあるのか。

 

彼等もまた、自らの戦意を入れなおした様子を見せたかと思うと…

 

纏う雰囲気を紛れもない強者のモノへと変えていくリョウ・サエグサと、その雰囲気を天に溶け込ますように更に気配を薄くしていく鍛冶上 刀利。

 

…ここにいる4人は紛れも無く、自他共に認める本物の強者。

 

誰もが皆、いよいよ始まる天上の決戦へと向けて。己の戦意を、ただただ静かに磨いている。

 

 

 

 

 

 

 

そうして…

 

 

 

 

 

 

 

『では!対戦カードの発表です!』

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ発表されるソレに、一斉にざわめく世界中。

 

昨日のレベルの高い混戦を生き抜いた者達による、選別に選別を重ねた純粋なる強者同士による正面衝突…ソレに対する期待が世界中に充満する中、今世界中が固唾を飲んでソレを見守っていて…

 

 

 

…そして一瞬の後。

 

 

 

天空闘技場に設置された、超巨大モニターに。今高らかに、戦う者の名が映し出され―

 

 

 

―対戦カードは…

 

 

 

 

 

 

 

第一試合

『天城 遊良 vs. リョウ・サエグサ』

 

 

第二試合

『鍛冶上 刀利 vs. 天宮寺 鷹矢』

 

 

 

 

 

 

 

 

「Yes!初戦とは幸先いいぜ!さーて、【決闘祭】の優勝者…アイを倒したって奴の実力を見せてもらおうじゃねーか。」

「リョウ・サエグサ…デュエルランキング第1位って奴か。」

 

 

 

天空のスクリーンに映し出された対戦カードを見て、お互いに視線と戦意をぶつけ…

 

戦いの前の威嚇を始める、天城 遊良とリョウ・サエグサ。

 

…ここまでくれば、誰が相手でも強者としか当たらない。

 

決闘学園デュエリア校、デュエルランキング『第1位』…それは20万人を超えるデュエリア校の生徒の中の、正真正銘『トップ』だという事。

 

【決闘祭】の優勝者…それは20万人を超える決闘市の4校の中で、正真正銘『頂点』に立ったということ。

 

ソレ故、遊良もリョウもお互いの相手である紛れも無い『強者』を見据え、既に戦いへと向けて心を燃やしているのか。

 

 

 

「…ふん。」

「…」

 

 

 

しかし、バチバチに戦意をぶつけた遊良とリョウとは違い。

 

第二試合となった鷹矢と刀利は、静かに視線を合わせたかと思うと、すぐにお互いにその視線を外してしまい…

 

 

 

「…なるほどな。」

「何が『なるほど』なんだ?」

「面白い奴が相手だと思っただけだ。…あの鍛冶上という男、雰囲気が…」

「…あぁ、かなり『おかしい』って事か。強いってことはわかるんだけど…」

「あそこまで『匂い』がしない奴は初めてだ。匂わなすぎて逆に怖いくらいだぞ。」

「…確かにな。」

 

 

 

それは刀利の放つ…否、刀利から全く放たれていない、居ないと錯覚するような透明なまでの存在感を鷹矢も遊良も感じ取って…否、二人を持ってしても、感じ取れなかったが故の最大限の警戒なのか。

 

…それはどこか『異質』な強さ。

 

およそこの『決勝』まで進んだデュエリストが、ここまで強さも存在感も気配も感じさせないと言う事は、それはそのまま彼の『強さ』であるという証明とも言えるのだろうが…

 

弱者ではここまで勝ち残れない。そう、本物の強者のみが参加できる【決島】において、参加者の誰とも強さの雰囲気が異なっている鍛冶上 刀利という男の、この『感じ取れない強さ』というどこか異質なるソレに対し…

 

楽観視できるほど、鷹矢も遊良も弱くはなく。

 

そして…

 

 

 

「だがお前の相手の金髪も相当『やる』ぞ?…島で戦った誰よりも匂いが強い…アレは、相当たる強者の匂いだ。」

「…わかってる。」

 

 

 

デュエリアの代表者である2人を見て…

 

遊良と鷹矢は、無意識に滲む冷や汗を感じているのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

同刻―

 

沖合に停泊しているクルーザーの、理事長達の為に特別に用意された特別観覧席…

 

とは部屋を違えた、質素で簡易的な造りをした…波に揺れていないことから、少なくともクルーザーの中ではないであろう、【決島】のどこかの建物の一室。

 

その、ただ大きなTVの置かれただけのコンクリートの密室内に…

 

 

 

「リョウ・サエグサ…デュエリア校のトップか。」

「クハハハハ、早速面白ぇ組み合わせだなぁおい。ウチのトップとテメェのお気に入りの小僧…どっちが勝つんだろうなぁ。」

「…」

 

 

 

決闘学園イースト校理事長、砺波 浜臣と、決闘学園デュエリア校学長、劉玄斎がそこには居た。

 

しかし、それはこれより始まる戦いをただただ楽しく観覧する…

 

といったモノでない事だけは誰の目にも明らかであり、砺波の気を張っている表情からも分かる通り、これは劉玄斎に対する一種の『監視』だという事を砺波も堂々と隠す気もなく。

 

 

…サウス校理事長とウエスト校理事長とは、あえて席を違えたこの密室内。

 

 

それは昨日の通達の通り、『劉玄斎を別室で監視する』という砺波の言葉の通り。

 

このコンクリートの室内にある姿は、砺波と劉玄斎のシルエット2つだけであり…もしも劉玄斎が下手な動きをすれば、即座にデュエルによって抑え込めるようにという、砺波の警戒の現われなのだろう。

 

…まぁ、遊良と約束した、『ルキを護衛する』という事ももちろん砺波は忘れてはいないが。

 

何せこの密室は、未だ眠っている高天ヶ原 ルキの居る、『特別医務室』のすぐ隣。

 

深夜の内に秘密裏に、クルーザーからルキを移動させておいたおかげで…その所在はほかには『妖怪』と呼ばれる綿貫 景虎以外に知らないのだから、内部スパイからのリークでルキの居場所が外に漏れることは決して無い。

 

また、特別医務室の隣だけあって、医務室に何か異常があれば砺波もすぐに気付けるのだし…何より砺波達のいるこの部屋を通らなければ医務室へは行けないのだから、不審者が医務室に近づけば一目瞭然なのだ。

 

―ソレ故

 

いよいよ始まる教え子の戦いに、何気兼ねなく砺波も観覧にまわっていて。

 

 

 

「まだ荒削りとは言え、運だけならば『先』を越えた『極』の頂にも匹敵するかもしれぬ者…学生でそのレベルに到達していると言うのもにわかには信じがたいが…」

「ウチのトップは伊達じゃねぇってことだ。まっ、アイツらにも色々あったからなぁ。実力はホンモノだぜ?」

 

 

 

己の教え子と戦う事になった、デュエリア校のトップ選手の…リョウ・サエグサの、予選での戦いを思い出している砺波の様子は、教え子の実力をよく知っている砺波からしても警戒に値するモノなのか。

 

…そう、学生とプロを分ける実力の『壁』を、更に超えた位置にあるプロのトップランカー達が身を置く『先』の地平。

 

通常、高等部という年代で『先』の地平に至れる者など、よほどの才能と偶然が重なっても十数年に1人…いや、下手をすれば、数十年の1人現れるかどうかだと言うのに…

 

それが決闘市とデュエリアの、双方の都市を合わせてもこの予選の結果を見ただけで10人近くも居るという、その事実事態が現実離れした紛れも無い異常事態。

 

…そしてこのデュエリア校のリョウ・サエグサ。

 

彼の予選のデュエルは…否、昨年度の【デュエルフェスタ】の記録から考えても、そのデュエルが常人の域を遥かに超えたモノであると言う事に砺波は気がついていたのだ。

 

…そう、【決島】の予選でも。昨年度の【デュエルフェスタ】でも。

 

彼のデュエルは常にLPがギリギリとなり、手札もギリギリで進められ…そしてその場その場の窮地から、『常に』たった1枚のドローで逆転を演じるという、心臓がいくつあっても足りないと思える程にスリルに塗れたデュエルを、ずっと彼は魅せていた。

 

…それはまるで賭博師のソレ。彼のデュエリアでの『異名』通り、文字通り生粋の『ギャンブラー』。

 

…普通であればありえない。『全てのデュエル』でギリギリからの逆転を行うことなど。

 

しかもソレが計算された逆転などではなく、自分の『運』に全てを任せた、たった1枚のドローによるモノだなんて。

 

だからこそ…

 

リョウ・サエグサの持つ、常人の『強運』を遥かに超えた『天運』。

 

それはまさしく、『先』の地平で鎬を削る、プロのトップランカー達の持つ『豪運』をも超えた…【王者】やソレに継ぐ『異名』を持った者達―『極』の頂に立っている、頂点の決闘者達にも立ち向かうことを許されたかのような、恐るべきただの強すぎる『運』。

 

よもやこの年代で、この境地にまで至ることの出来る学生が居たという事実は、砺波をもってしても驚嘆の一言であるのだろうか。

 

リョウ・サエグサという生徒が、学生の域には収まらぬ…更に上を目指すことを天に、神に、彼の言うところの『勝利の女神』に許されたという、恐るべき才気を秘めた器ともいえるのであって。

 

 

 

「クハハハハ。楽しみだなぁおい。」

「…あぁ。」

 

 

 

目前まで迫った教え子の戦いを…

 

白き鯨は、ただただ深い瞳で見つめているのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

【決島】内の最北端―その、『決勝』に進めなかった学生達が屯している『医療棟』でのこと。

 

決闘市の多くの学生達、そしてデュエリアの多くの生徒達が自室やロビーや食堂で、TVや自分のデュエルディスクなどで『決勝』の開始を今か今かと待ち望んでいる、この開始前の時間…

 

…そんな、医療棟のとある一室に。

 

 

 

「…天城の相手はあのギャンブル狂いか…」

 

 

 

決闘学園イースト校2年、紫魔 アカリは居た。

 

 

 

「あの変態に天城が負けるのも癪だけど、アタシに勝った変態が天城に負けるってのも何か癪ね。…クソッ。」

 

 

 

予選での遊良とのデュエルを最後に気を失ってしまった為、失格となってしまい決勝に出られなかった紫魔 アカリ。

 

そんな『決勝』を観覧しようとしている彼女の言葉には、その鋭い視線と同じくらい鋭い棘のようなモノが映えており…

 

 

 

「天城…アタシ以外の奴に負けるなんて許さない…アンタは必ずアタシが倒す。」

 

 

 

しかし、それは未だ遊良を憎んでいる故の刺々しい言葉…といった感情とは、断じて違うということだけは確かだろう。

 

何せ【決島】が始まる前とは打って変わって、今のアカリの表情はどこかスッキリとしているのだ。

 

それは、予選でのとある戦いによって彼女の憑き物が一つ落ちたが故なのか…今のアカリの心にあるのは、遊良への復讐心よりも、あの『天空闘技場』に自分が立っていないことへのデュエリスト特有の悔しさだけの様子。

 

そう、天城 遊良との戦いで、彼女が何を知り何を感じたのかなどアカリ自身にしかわからぬ事とは言え。

 

それでもこうして、今の彼女が遊良のデュエルを観覧し…そして無意識とはいえ、遊良の敗北よりも遊良の勝利を望んでいるかの様な自分の言葉は、きっとアカリ自身も気がついてはいないことだろう。

 

…誰もいない部屋で、決意のように呟かれたその言葉。

 

それは、これから先を見据えている、【決島】が始まる前とは全く違う感情を持っている言葉。

 

これより戦う二人の男達を見据えている少女の目には、未だ消えぬ炎が宿っているのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

天空闘技場の、戦いの舞台へと続く道。

 

暗い通路となっているそこは、これより戦いに向かうデュエリストの緊張がそのまま形骸化されたかのような…独特の雰囲気と冷たい空気、そして世界中の注目によって、地上よりも遥かに重い圧が充満していて。

 

その、天空闘技場へと続く道の途中…

 

 

 

(リョウ・サエグサ…デュエルランキング第1位で、【デュエルフェスタ】の準優勝者…)

 

 

 

ゆっくりと舞台へと向かっている遊良の頭の中は、対戦相手であるリョウ・サエグサの事で一杯になっていた。

 

…そう、デュエリア校のデュエルランキング、その『第1位』という功績は伊達ではない。

 

20万人を超えるデュエリア校の生徒達の中の、その正真正銘文字通りの『トップ』。

 

一芸に秀で、個性を突き詰め…そんな曲者揃いであるデュエリア校で、デュエルの実力のみでその頂点まで上り詰めるというその行為がどれだけ難しい事なのかと言うことは…

 

昨日デュエリア勢と激しい戦いを繰り返した遊良も、たった一日とはいえ十二分に身に染みて理解できている。

 

また、いくら彼が【デュエルフェスタ】の準優勝者とはいえ、その決勝で行なったデュエルも、あまりに激しい応酬と拮抗した戦いの末にギリギリで相手が僅かに競り勝っただけという…

 

どちらが勝っていても可笑しくないという、あまりに白熱した戦いだったのだ。

 

…まぁ、その時のリョウの相手は、遊良も昨日戦ったあのアイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーンだったのだから…

 

あのアイナと最初から互角に戦っていたという事実だけで、彼がどれだけの実力を持っているのかと言うことは最早語るまでもないことなのだが。

 

 

ともかく…

 

 

曲者揃いの精鋭達の、たった一人の頂点の猛者。

 

その彼のデュエルが、果たしてどういったモノなのかはもちろん【決島】の前にデュエリア勢の研究した遊良の頭の中にも、強烈なインパクトとなって刻み込まれている。

 

 

―ギャンブルカードを多用する、命知らずのデュエリスト。

 

 

普通の人間では、そんな事は断じて出来ないだろう。

 

強者と言うのは、あくまでも運以外に確立された計算と試算、そして分析と経験によって常に変化する情況を見据えて次の行動を行うモノなのだから。

 

…しかし、リョウ・サエグサにはソレがない。

 

それはどれだけギリギリの場面でも変わらない。絶体絶命、断崖絶壁、それ外せば後が無い、慎重にならざるを得無い場面であっても。

 

最初から最後まで出たとこ勝負。その場その時その瞬間に、引いたカードに文字通り全てを賭けて行動しているだけの…一見すれば到底『上』になど昇れないような、そんな細すぎる綱渡りを延々と続けているというのが彼のデュエルを見た遊良の第一印象。

 

 

…しかし、それでもなお彼は強い。

 

 

そう、実力もある。精神力も強い。そしてそれ以上に、あまりに『運』が良すぎるのだ。

 

…あまりに使いどころが限られるピンポイントなカードを、必要な場面で必ず引く。

 

…発動条件が厳しいカードを引いたときには、まるでソレを引けることが分かっていたかのように準備が整っている。

 

…使いどころが難しいギャンブルカードを、さも当然のようにして使いこなす。

 

デュエリア校のトップに駆け上がれるだけの力と心と、その元々の実力に加えて更に『上』へと昇りつめる『運』という資格を持った、あまりに恐ろしい強い相手。

 

…ギャンブルカードという特性上、何をしてくるかわからず、何が襲ってくるかわからない。

 

 

そんな強敵を前にして…

 

 

遊良の頭の中には、その相手とどう戦うかのシュミレーションが次々と浮かび上がっては潰されており…

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

『さぁ、選手の入場です!まずは予選第3位通過!まさかの『Ex適正』の無い選手が、ここまで上り詰める事など誰が想像していたのか!昨年度の【決闘祭】の優勝者!その実績が嘘でない事を、果たして世界中の目の前で証明できるのか!?』

 

 

 

全世界へと向けて掻き鳴らされるは、耳を劈く実況の音。

 

そしてソレに連動し、この場には居ないはずの世界中の見えない観客達の歓声が聞こえないのに聞こえてくるその感覚は…

 

まさに今の彼が、世界中の人々から見られているという証明となりて遊良へと襲い掛からんとしているのだろうか。

 

 

…どこか棘のある実教の声も、ある意味では当然の台本。

 

 

そう、いくら【決闘祭】優勝という実績があるとは言え…

 

 

それはあくまでも『決闘市』の中だけの実績であり、この広い世界からすれば、天城 遊良という人間はまだまだ『Ex適正』の無いデュエリストの出来損ないという認識が強いのだ。

 

 

『Ex適正』が無い…それはこの世界においてはどうしようもない『出来損ない』の証

 

 

いくら昨日の【決島】予選で、あれだけ激しく戦い抜き全勝で勝ち進んだとは言えども。

 

それでも数え切れない程の疑いの視線は、世界中から恐るべき鋭さとなりて…今まさに、遊良へと突き刺されていて。

 

 

 

「…よし、行くか。」

 

 

 

…だからこそ、戦う。

 

 

昨年度に、決闘市の全てへと見せ付けたように…

 

 

今、全世界へと向けて。己の存在を、見せ付けるために―

 

 

 

 

 

『決闘学園イースト校2年、天城 遊良選手!』

 

 

 

 

 

 

 

続いて―

 

 

 

 

 

『そしてそれに続くのは、予選第2位通過!昨年度【デュエルフェスタ】の準優勝者にして、堂々のデュエルランキング『第1位』!ドラフト筆頭の彼のギャンブルは、本日も冴え渡るのでしょうか!?勝利の女神に愛された、命知らずのデュエリスト!ここに堂々の入場!』

 

 

 

何処からとも無く聞こえる歓声は、紛れもなく彼に向けて放たれたモノ。

 

この島でも最も太陽に近いこの場所で、その煌く金の髪が風にたゆたい…自らを『太陽の王子』と呼称する彼の佇まいを、どこまで照らし出しているかのようなこの歓声はきっと幻聴などではないはず。

 

絶対にコインが表―『太陽』を示す事から、人は彼のことを『太陽の王子』と呼び称え…

 

勝利の女神に愛されているかのような強運から、人は彼のことを『女神に愛された男』と呼び称え…

 

あまりの女好きから、性別が女であったならば年齢見境なく口説き、あまつさえ肉体関係をも求めることから人は彼のことを『変態』と呼びたた…称え…

 

 

 

 

 

 

そう―

 

 

 

 

 

 

勝利の女神に愛された、命知らずのデュエリスト。

 

決闘学園デュエリア校、デュエルランキング『第1位』…

 

 

 

―『ギャンブラー』

 

 

 

『決闘学園デュエリア校3年、リョウ・サエグサ選手!』

 

 

 

決して聞こえぬ観客の声、しかし確かに響き渡る歓声は、きっとこの『決勝』の舞台へと勝ち上がってきた2人の学生達へと向けられた、世界中の熱狂そのモノ。

 

決闘市とデュエリア、計40万人を超える者達の中から選ばれた200人の…更にその中から、『実力』によって生き残った4人の内の、2人。

 

…どれだけ懸念を向けられようと、どれだけ曲者であろうと。今視線を交わした2人は、お互いがお互いを強者なのだと言われるまでもなく理解していて…

 

猛者であることは言わずもがな。そんな二人は、この騒がしくも静寂な天空闘技場で顔を合わせたかと思うと…

 

 

 

「アイを倒したんだってな?」

「…あぁ。」

「面白ぇじゃねぇか。野郎とヤるのはシュミじゃねぇんだが…アイを倒したって奴なら話は別だ。満足するまでヤりあおうぜ?」

「…」

 

 

 

少々背筋に寒気が走るような、どこか気味の悪いイントネーションで遊良へとそう言葉を投げかけてくるリョウに対し…

 

目の前の強者へと、警戒しながらも静かに戦意を燃やしている様子の遊良。

 

…そう、その言動がどれだけ軽くとも、その振る舞いがどれだけ軽薄であっても。

 

それでも目の前のリョウ・サエグサからは、これまで戦ってきた誰よりも濃い『強者の匂い』が伝わってくるのだから、遊良も油断など微塵もしている場合ではないのだろう。

 

これだけの力を隠す気もなく、それでいて己の力に全く飲まれていない。ソレは正真正銘、彼がホンモノの強者であるという証明なのだから。

 

 

…またリョウの方も、いくら実況が棘のある言葉で遊良の力を疑問視していても。

 

 

それでも、己の眼で見た『天城 遊良』というデュエリストが紛れも無い『本物』なのだという事は、彼とて十二分に理解している様子。

 

…そう、単なる偶然だけでは、あのアイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーンは倒せない。

 

よほど汚い手を使うか、それともイカサマでもするか…しかし目の前の少年が、そんな汚い真似をする男ではない事など遊良の戦意に満ちた眼を見たリョウにはハッキリと分かっている。

 

 

 

ソレ故…

 

 

 

「さて、じゃあヤるか。」

「…あぁ。」

 

 

 

男同士の戦いに、もうこれ以上余計な言葉はいらない。

 

これより始まるのは、世界中に見られているこの場所で、選ばれた者達の中から更に勝ち残った生き残りのうちの2人が、果たしてどちらが強いのかという男の意地の張り合い。

 

二人の猛者が、ゆっくりとデュエルディスクを構え始め…

 

ディスクが、デュエルモードへと切り替わったその瞬間。今、始まりの合図となる、実況の声と同時に…

 

 

 

 

 

 

 

『それではぁぁぁぁあ!決勝戦第一試合、開始ぃぃぃぃぃぃい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

今、始まる。

 

 

 

先攻はデュエリア校3年、リョウ・サエグサ。

 

 

 

「俺のターン!魔法カード、【カップ・オブ・エース】発動!」

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

手札から、一枚の魔法カードを発動したリョウ・サエグサ。

 

それは表…『太陽』のマークが出れば、自分が2枚もドロー出来るという破格の効果を持ってはいても…

 

裏…『月』のマークが出れば、相手に2枚もドローさせてしまうと言う恐れがあると言う、運が良ければ自分がドロー、悪ければ相手がドローと言う、純粋かつ分かりやすい運試しとも言えるようなカードであり…

 

運否天賦に全てを任せた、この世界では扱う者の方が珍しい、ギャンブル性が高いリスキーなドローカードなのだが…

 

 

 

「やっぱり来たか…」

「さぁ、運試しといくか!天に舞え、運命のコイン!」

 

 

 

しかしそれは、リョウにとってはいつもの如く、当たり前に使用するべきカードの1枚。

 

そう、このギャンブルカードを扱う事など、彼にとっては日常茶飯事なのだと思わせるほどに…宣言を行うリョウから放たれるその溢れる自信は、彼から何の恐れも感じさせず。

 

…そのまま、彼の持つデュエリアの『ギャンブラー』の通り名のままに。

 

まるでリスクなど感じさせない、心の底から明るい声がリョウから放られたかと思うと。天に浮かぶ金の杯から飛び出した、一枚の巨大なコインが宙を舞い始め…

 

 

 

 

 

 

―出た、マークは…

 

 

 

 

 

 

「Yes、Lucky!マークは太陽!コインは表!俺はデッキから2枚ドロー!」

「…」

 

 

 

輝かしい陽の光に反射し示されるは、『表』を表す太陽のマーク。

 

この島の中で最も太陽に一番近い、この天空闘技場で太陽に照らされながらこの輝く太陽のマークは…まさにリョウ・サエグサという男の『運』が本日も快晴であるという証明とも言えるのか。

 

…聖なる杯の導きが、リョウに更なる手札を与える。

 

そして―

 

 

 

「まだまだ行くぜ!【手札抹殺】を発動し、手札を全て捨てて5枚ドローだ!」

「…5枚捨てて5枚ドロー!」

「よし、魔法カード、【死者蘇生】発動だぜ!俺が墓地から蘇らせるのはコイツだ!Come on!レベル7、【ゴッドオーガス】!」

 

 

 

【ゴッドオーガス】レベル7

ATK/2500 DEF/2450

 

 

 

現れしは巨大なる大剣を振り上げた、命知らずの蛮勇戦士。

 

まるで違うゲームから飛び出してきたかのようなその雰囲気は、今にも力のままに遊良へと襲い掛からんとしているようではあるものの…

 

 

 

「さぁて、続けていくぜ!【ゴッドオーガス】の効果発動!ダイスを3つロールする!さぁ…天に舞え、運命のダイス!」

 

 

 

そして間髪入れず。

 

一つのギャンブルを終えた直後に、更なるギャンブルへと身を投じ始めるリョウ・サエグサ。

 

天に現れた3つのダイス。その3つの黒のダイスの目を囲む星の絵柄は、どこか相手へのプレッシャーを煽るような…得体の知れぬ圧力を放ちながら、今高々と天に舞い始めたではないか。

 

…回転を増す黒のダイス。

 

何が起こるかわからないその緊張感は、デュエルとはまた一味違った焦燥を遊良へと与えていて。

 

 

 

 

 

―出た、数字は…

 

 

 

 

 

 

「Yes!今日は飛び切りツイてるぜ!3つのダイスは…全て『6』だ!」

「なっ!?」

「YA-HA-!相手ターン終了時まで、【ゴッドオーガス】の攻撃力を1800ポイントアップする!そして3つのダイスがゾロ目だったことで…【ゴッドオーガス】の3つの効果が、全て発動するZE!」

 

 

 

【ゴッドオーガス】レベル7

ATK/2500→4300 DEF/2450→4250

 

 

 

最大値を示したダイスの光が、眩き力を【ゴッドオーガス】へと与えていく。

 

…3つのダイスが、全て『最高の目』を出す確率など、よほどツイていたとしても到達できる代物ではないと言うのに。

 

運否天賦に任せた行動では、結果が予想に伴わない事は多々あれど。それでも、よもやこれ程までに『天運』が彼の為に働こうとしているこの光景は、実際にその目で見たとしても到底信じられるモノではない事だろう。

 

しかし、それをこんなデュエルが始まってすぐに。まるで当然のようにして見せつけてくるなど、遊良からしても想定以上であったに違いなく…

 

 

 

「【ゴッドオーガス】は相手ターン終了時まで、戦闘、効果では破壊されねぇ!俺は更に2枚ドローし、【ゴッドオーガス】はダイレクトアタックが出来るように…なるんだが、まっ、それは先攻じゃあ使えねぇな。俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ。」

 

 

 

リョウ・サエグサ LP:4000

手札:5→3

場:【ゴッドオーガス】

伏せ:3枚

 

 

そうして…

 

初動から『ギャンブラー』の名に恥じぬ振る舞いを繰り広げ。

 

デュエリアの『ギャンブラー』は今、満足してそのターンを終えた。

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 

そして、自分のターンを迎えて。

 

 

 

(予想はしてたけど想像以上だ…まさかダイスが3つとも『6』を出すなんて…)

 

 

 

…一枚のカードを引いた遊良は、一瞬だけその手を止めて思考を巡らせる。

 

そう、デュエリアの『ギャンブラー』…その彼の持つ『運』が、とんでもない強運であると言う事は彼の以前にデュエルを研究した遊良もある程度は想定はしていた。

 

…けれども、その運がまさかここまで強いだなんて。

 

偶々かもしれない、偶然かもしれない。けれどもたった2回のギャンブルとは言え、ソレを今目の前で体感した感覚は、遊良の危険を知らせるセンサーの針を最大以上に振り切らせたのだ。

 

…昨年度の【デュエルフェスタ】の映像を見ても、彼の運はここまで強いモノではなかったはず。昨年は、確かにギャンブルカードを悉く成功させはしても、ここまで理想的で最大の効果を発揮することはほぼ無く…

 

『運』の鍛え方など知らない遊良からすれば、まだデュエルが始まったばかりとは言え昨年以上のオーラを感じさせるリョウ・サエグサに対し、じわじわと鳥肌と寒気に襲われかかっていて。

 

…次のターンにも、『同じ様な事』が起こるかもしれない。

 

ソレを容易に想像させるほどに、自分には到底出来ないであろう底の見えない果てしない『運』の違いを、遊良も今まざまざと見せ付けられたに等しく…

 

 

 

「【成金ゴブリン】発動!LPを1000与えて1枚ドロー!続けて【トレード・イン】を発動!【クラッキング・ドラゴン】を捨てて2枚ドロー!フィールド魔法、【チキンレース】発動!LPを1000払い、【チキンレース】の効果で更に1枚ドロー!まだだ!【闇の誘惑】を発動!2枚ドローして【闇の侯爵ベリアル】を除外!」

 

 

 

だからこそ、そんな不安を吹っ切るように。

 

始めから全開で飛ばし始める遊良のドローが、嵐となりて加速する。

 

ドローして、ドローして、ドローする…それは先ほどのリョウが見せた、ギャンブルの波に対抗するかのような怒涛のドロー。

 

 

 

「魔法発動、【手札抹殺】!5枚捨てて5枚ドロー!」

「…Greatだぜ。ソレがお前の武器ってわけか。俺は3枚捨てて3枚ドローだ。」

「よし!魔法カード、【ワン・フォー・ワン】発動!手札のモンスターを1体捨て、デッキから【サクリボー】を特殊召喚する!そして特殊召喚成功時に速攻魔法…【地獄の暴走召喚】発動!」

「What!?」

「墓地から、【サクリボー】2体を特殊召喚する!集え、【サクリボー】達!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

小さき毛玉の悪魔達が、巨剣の蛮勇と対峙する。

 

…一見すれば、全く相手にならないようなモンスター同士のにらみ合い。

 

けれども遊良のデュエルを良く知る者達からすれば、これで準備が整ったのだとすぐに理解できる場が、今ここに揃えられた。

 

…様子見出来る相手じゃない。ソレを、重々承知している遊良だからこそ。始めから、全力で飛ばすように加速を続けるのか。

 

それは、リョウ・サエグサというデュエリアの猛者が、とんでもない実力の持ち主であるという遊良の嗅覚。そう、いきなり攻撃力4300の、戦闘でも効果でも破壊されないモンスターを場に呼び出したリョウの『運』は、ターンが変わった今でもなお常人では想像もつかぬ実際の重さを放っており…

 

 

 

「…俺のデッキに【ゴッドオーガス】は1枚しか入ってねぇ。だが戦闘でも効果でも破壊されねぇ【ゴッドオーガス】相手に何を出す気だ?」

「破壊できないなら、破壊しなければいいだけだ!俺は3体の【サクリボー】をリリース!」

 

 

 

襲いくるリョウの重いオーラと、真正面からぶつかるようにして。

 

高らかに天に掲げられしその手には、一片の迷いも淀みもなく…天高く聳える天空の塔の、その最も高い場所で今高らかに、遊良の叫びが空を裂く。

 

…それはアドバンス召喚のモノとは違う、特殊召喚のための生贄のエフェクト。

 

遊良の宣言によって、天にその身を捧げる小さき悪魔達の、その身に纏うは渦では無く。

 

 

 

「運命を切り裂く英雄よ!青き誓いをその身に刻み…天を喰らいし覇者となれ!」

「…ッ、その口上は…」

 

 

 

世界に轟くその口上。今、悠久の時を経て。熱狂に湧く全世界へと、ソレは高らかに響くのか。

 

…そう、戦闘でも効果でも『破壊』出来ないのならば、それ以外の手で攻めるのみ。

 

それはこの【決島】に来てから手に入れた、新たな切り札を呼び出すためのエフェクトでもあり…

 

ソレはこの島の最も高い場所で、天を揺るがすその叫びと、天に轟く威光と共に…

 

 

 

 

 

「来い、【D-HERO Bloo-D】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

現れたのは翼の羽ばたき、血を零す飢えの滴り。

 

震える天を切り裂いて、今静かに降り立つは世界中がその存在を知っている【王者】の姿。

 

血霧と共に降臨し、剥き出しの牙を刃へと変え…混沌渦巻く天より出でしは、竜頭を纏いし運命の英雄。

 

纏いし竜の咆哮で、双翼を広げ地に降りることなく空に佇み。下界を見下ろすその瞳は、一体何を映しているのか。

 

 

 

【D-HERO Bloo-D】レベル8

ATK/1900 DEF/ 600

 

 

 

それはリョウの強大なる『運』によって作り出された、巨剣振りかざす蛮勇を前にしても慄かない、正真正銘本物の英雄。

 

遥か昔、世界が鬼才の戦いに熱狂していた頃…

 

運命を貫く英雄と、運命を引き千切る英雄と共に、3体の【紫魔】の象徴として世界中が見惚れていたという…世界で最も有名な、『D』の英雄の最たるエース。

 

 

 

「【サクリボー】3体の効果で3枚ドロー!そしてBloo-Dが場に居る限り、相手モンスターの効果は無効となる!」

「ソイツぁ【紫魔】のカード…さすがにGreatだぜコイツぁ…」

「まだだ!Bloo-Dの更なる効果!1ターンに1度、相手モンスターをBloo-Dに装備できる!【ゴッドオーガス】を喰らい尽くせ、Bloo-D!」

「Shit!」

 

 

 

効果を無効化し、蛮勇の攻撃力を元に戻したとは言っても。既にダイスによって適応されている、【ゴッドオーガス】の破壊耐性は継続している。

 

…ならば、何をしても破壊出来ないのならその存在ごと喰らい尽くしてしまえばいいのだと言わんばかりに。

 

『先』の地平に立っているリョウ・サエグサの、強すぎる『運』が放つ重いオーラに負けぬ…まさに【王者】として戦っていたに相応しい存在感を放ちつつ、運命を切り裂く英雄が天高く舞い上がったかと思うと、その竜頭で獲物を見据えて狙いを定め始めたではないか。

 

…そのまま、空腹訴える竜頭の望むままに。

 

巨大なる蛮勇を、その巨剣ごと英雄が喰らい尽くさんとした…

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

「だが簡単にやらせるわけにはいかねぇなぁ!永続罠、【ヘッド・ジャッジング】発動!」

「なっ!?」

 

 

 

運命の英雄の暴食を、寸前で邪魔するかのように。

 

…叫ばれたリョウの宣言によって、英雄と蛮勇の間に現れたのは一枚の罠カード。

 

そしてその罠カードにぶつかる寸前、運命の英雄はその翼を翻し再び天に飛び立ったものの…発動されたソレを見た遊良の表情は、どこか意表を突かれたかのような驚きを浮かべており…

 

 

 

―別に、遊良が驚いたのはBloo-Dの効果にチェーンされた事に対してではない。

 

 

 

リョウが発動した永続罠。それは確かにこのタイミングで発動すれば、Bloo-Dの効果を止められる…『かもしれない』カード。

 

そう、遊良が意表を突かれたのは、こんな危ない場面においてもリョウが発動したソレが『ギャンブル』カードであったと同時に…

 

コイントスを行うのが、発動した『自分』ではなく『相手』の運に任せるカードだった事に対してだ。

 

 

…いくら彼が、デュエリアの誇る『ギャンブラー』であるとはいえ。

 

 

この大事な場面で発動したのが、運に自信のある『自分自身』ではなく、よもや『相手』の運に流れを任せるカードだなんて。相手プレイヤーにコイントスを行わせ、相手が見事マークを言い当ててしまえば【ヘッド・ジャッジング】はただの無駄と終わるだなんて、とても正気の沙汰では発動出来ないと言うのに。

 

 

 

「さぁ、コインをロールして当ててみな!運が良ければ喰らわないぜ?」

「…俺は裏…『月』のマークを選択する。」

 

 

 

それでも、一度宣言されたカードは止められない。

 

それ故、デュエルディスクが導くままに遊良はコインのマークを選択するしかなく…

 

…もしこれで成功すれば、デュエルの流れは一気に自分に向く。そんなことはリョウ・サエグサだってわかっていることだろうに、それでもなお発動になんら躊躇いがないその態度はどこまでも遊良に得体の知れぬ怖さを与えているだけであり…

 

 

 

 

―出た、マークは…

 

 

 

 

 

「Yes、Lucky!マークは太陽、コインは表!Bloo-Dの効果は無効となり、コントロールは俺のモンだ!」

「くそっ!」

「HAHAHAHAHA、形勢逆転だな!【紫魔】のモンスターをプレゼントしてくれてありがとよ!Bloo-Dが俺の場に居る限り、お前のモンスター効果は無効だぜ!」

 

 

 

ギャンブルに勝って上機嫌に、陽気に声を上げるデュエリア校のリョウ・サエグサ。

 

まるで、コインがリョウの味方をしているのではないかと勘違いするほどに…先ほどから、ことギャンブルにおいて彼の勝利は全くもって揺るがない。

 

これは、彼の運が強いのか…それとも、自分の運が悪いのか。

 

そんなコトは、今この状況においては遊良にはとても判断つかない事とは言え。それでも決定してしまった結果によって、天に佇んでいた運命の英雄が今ゆっくりとリョウの場に移動してし始め…

 

まさかその威光を、リョウにではなく遊良へと向け始めてしまったではないか。

 

 

 

「HAHAHA!【紫魔】のモンスターだろうがどうってことねぇな!そぉら、どうするんだ!?このまま成す術無しか?」

「…ぐっ…」

 

 

 

リョウの場へと移動してしまったその瞬間、運命の英雄より生じたとてつもない威圧感が遊良を襲う。

 

…それはアイナと戦った時に感じた、プラネットが放っていた重力に負けず劣らずの畏怖なる重さ。

 

ソレによって、遊良の全身に立っているのがキツく感じるほどの重さが圧し掛かってきて…

 

Bloo-Dが生じさせる、相手プレイヤーだけに生じる封圧は、遊良が想像していたよりも生易しい代物ではなかったのか。

 

しかし、自分だけは無事で、相手だけ圧迫させるというBloo-Dの、この理不尽なるその効果の強力さは…『鬼才』と呼ばれ称えられた前【紫魔】、紫魔 憐造の戦いぶりが既に世界にこれ以上無いくらいに証明していることであり…

 

そして遊良も、この【決島】で散々頼ってきたその強力な効果を今こうして向かい合う形で向けられて、今はっきりとソレを身体で理解できたのだろう。

 

…そう、リョウが放った言葉の通り。遊良も、【決島】の予選中にBloo-Dに気圧されぬデュエリスト達に何度か言われたことがある。

 

 

 

―『…何がBloo-Dよ!アンタ程度がBloo-Dを使った所で、怖くも何とも無いのよ!』

 

―『また【紫魔】のカード…お前程度が使ぉたとこで無駄や言うたやろ!』

 

 

 

それは、その者達の言葉の通り。

 

【王者】と比べ…歴代最高の【紫魔】と称えられた前【紫魔】、紫魔 憐造と比べても、遊良がまだまだ未熟すぎるということ。

 

…遊良では、まだBloo-Dの真価を発揮しきれていない。

 

それは、こんなにも強力な効果を持っているBloo-Dが、【決島】では悉く止められたり返されたりしているこの現状が証明している。

 

いくら【王者】の扱ったエースであろうとも、ソレを扱うのが未熟な者では宝の持ち腐れ。召喚するタイミングも、効果の使い所も、何もかもが甘い遊良ではその真価を活かしきれてはいないのか。

 

…まぁ、そもそも【王者】のエースなど、他人は召喚すら出来ないのだから…ソレを召喚出来ているという事実だけでも、遊良も大概ではあるのだが。

 

それでも、【王者】の持っていたカードが牙を剥くその怖さは、遊良が考える以上に凄まじい代物。

 

そう、いくら未熟な自分が使っていても…いや、まだまだ【王者】と比べて未熟すぎる自分が扱っているのでは相手は全く畏怖など感じず。

 

遊良も、ただただこの強すぎるカードに振り回されているだけとも言え…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まだだ!【死者蘇生】発動!墓地から【サクリボー】を特殊召喚!そして2枚目の…【地獄の暴走召喚】発動だ!」

「What!?2枚目!?」

「墓地から集え、【サクリボー】達!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

「チィッ!俺は再び【ゴッドオーガス】を選択!だがBloo-Dはコッチに居るってぇのに一体何を…」

「永続魔法、【冥界の宝札】発動!そして3体の【サクリボー】をリリース!」

「ッ、3体リリースだと!?」

 

 

 

 

敵に回った運命の英雄の、容赦ない威圧を押し返すように。

 

天空闘技場の舞台から、世界中へと響き渡るは獣の咆哮。

 

世界を見た運命の英雄に、その轟きを無効にされようとも…猛る力は衰える事無く、今ここにその姿を現すのか。

 

 

 

震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

それは、現れる―

 

 

 

 

「レベル8、【神獣王バルバロス】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/1900→3000 DEF/1200

 

 

 

 

 

 

「ッ!?…へぇ、コイツがBoyの相棒ってわけか。強烈なのがビシビシ伝わってくるぜ…」

「バルバロスの効果は無効になっても、リリースされた【サクリボー】の効果は無効化されない!そして【冥界の宝札】と【サクリボー】3体の効果で5枚ドロー!」

「おいおい、何枚ドローする気なんだよこのBoy…」

「行くぞ、バトルだ!【神獣王バルバロス】で、【D-HERO Bloo-D】を攻撃!天柱の崩壊、ディナイアー・ブレイカー!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

「クッ!」

 

 

 

運命の英雄の威圧の下でも、その力は衰えることなく。

 

…いや、寧ろ英雄の圧伏させる威圧によって、獣の怒りに火が点いたのか。

 

螺旋の槍の勢いが、威圧されているとは思えぬほどの勢いを持ちながら…そのまま、遊良へと牙を剥いていた運命の英雄を一撃の下に葬り去って。

 

 

 

リョウ LP:5000→3900

 

 

 

「Great…切り札を奪われたってぇのに即座に攻撃に転じるたぁやるじゃねぇか。少しワクワクしてきたぜ。」

「…【貪欲な壷】発動。【イービル・ソーン】2体、【クラッキング・ドラゴン】、【鉄鋼装甲虫】、【D-HERO Bloo-D】をデッキに戻して2枚ドロー。…2枚目の【チキンレース】も発動。LPを1000払って1枚ドロー。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 

 

遊良 LP:4000→2000

手札:6→4枚

場:【神獣王バルバロス】

魔法・罠:【冥界の宝札】、伏せ2枚

フィールド:【チキンレース】

 

 

 

そうして…

 

リョウの強すぎる『運』に、不本意ながら翻弄されながらも。

 

万全の力を持った獣の王が、主を守るように佇んで。今、ようやくそのターンを終えた遊良。

 

…正直、流れを掴めた感覚は無い。

 

今の一瞬の攻防で、リョウのLPを削ったとは言え。それはあくまでも【成金ゴブリン】で増やした分を削っただけであり、情況を整理すれば遊良はただ自分のモンスターを自分で破壊しただけなのだ。

 

…ソレと比べ。リョウはLPを100減らしただけで、その場は先のターンを終えた時と同じく万全の状態のまま。

 

幾ら自分が先に攻撃に転じられたとは言えども…まだまだ遊良の警戒心は、デュエリアの『ギャンブラー』を前にして煩すぎるほどに警笛を鳴らし続けたままであり…

 

 

 

「俺のターン、ドロー!【チキンレース】の効果で、LPを1000払いもう1枚ドロー!【思い出のブランコ】を発動し、墓地から【クィーンズ・ナイト】を守備表示で特殊召喚!そして【キングス・ナイト】を通常召喚し…その効果で、デッキから【ジャックス・ナイト】も特殊召喚するぜ!Come on!絵札の三銃士!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【クィーンズ・ナイト】レベル4

ATK/1500 DEF/1600

 

【キングス・ナイト】レベル4

ATK/1600 DEF/1400

 

【ジャックス・ナイト】レベル5

ATK/1900 DEF/1000

 

 

 

しかし、そんな遊良を意に介さず。

 

ターンが移り変わってすぐ、溜め込んでいたモノを勢いよく吐き出すように…

 

即座に、そして激しく。目まぐるしく動き始めた、デュエリアの『ギャンブラー』ことリョウ・サエグサ。

 

…彼の場に揃えられたのは、絵札の三銃士と呼ばれる3体の凛々しきナイト達。

 

通常モンスターが2体に、それぞれのステータスもそれほど高くは無いとは言え…

 

3枚の絵札がその身を一つに重ねる時にこそその真価が発揮されるとされているソレらを、今の一瞬で場に揃えたリョウの素早くも淀みない展開は、まさに洗練されたカード捌きとも言えるだろうか。

 

 

 

「絵札の三銃士…それって確か…」

「いくぜ!魔法カード、【融合】発動!絵札の三銃士を融合し…It’s Showtime!Come on、レベル9!【アルカナ ナイトジョーカー】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【アルカナ ナイトジョーカー】レベル9

ATK/3800 DEF/2500

 

 

 

現れたのは、『天位』の称号を持つ究極の融合騎士。

 

天衣無縫の彼方から、騎士達の束ねられた力を剣に。

 

荘厳なりし魂を盾に構え、その最高位のナイトが放つ有り余る威光は3体もの正規素材を必要とする融合モンスターをこれほど容易く呼び出したリョウ・サエグサというデュエリア校トップの実力の高さを、全世界へと向けて見せ付けていて。

 

 

 

「攻撃力3800…」

「まだだぜBoy!魔法カード、【サモン・ダイス】発動!」

「ッ、またギャンブルカード!?」

「Yse!LPを1000払って…天に舞え、運命のダイス!」

 

 

 

そして続け様に。

 

リョウが発動したのは、ダイスの出目によって効果が変わる一風変わった魔法カード。

 

LP1000という安くないチップを払い、もし自分の場の条件に合わない効果が出れば、ただただ無駄にコストを払うだけになるリスキーなカードであるというのに…

 

リョウ・サエグサの、全く淀みない宣言によって、彼の頭上で賽が舞う。

 

 

 

 

 

―出た、数字は…

 

 

 

 

 

「Yes、Lucky!出目は『4』!俺は墓地から、モンスターを1体蘇生できる!墓地より蘇れ、俺のマグナム!レベル7、【リボルバー・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】レベル7

ATK/2600 DEF/2200

 

 

 

蘇りしは鈍黒の銃竜。

 

砲音を己の咆哮とする、鈍く光る3つの銃身。

 

怪しく回る18の弾倉、命を撃ち抜く形をしているソレは、禍々しい狂気を孕みつつ…あまりに洗練された銃器として、一種の美しさすら醸しだしていて。

 

 

 

続けて―

 

 

 

「いっくぜぇ!【ゴッドオーガス】のモンスター効果発動!ダイスを3つ、ロールする!」

「くそっ!何度も好きにさせるか!永続罠、【デモンズ・チェーン】はつど…」

「いいや、させないZE!手札から速攻魔法、【サイコロン】発動!」

「なっ!?」

「さぁ天に舞え、運命のダイス!」

 

 

 

リョウの残っていた最後の手札、そのたった1枚だけの手札から発動されるは、当たり前の如くギャンブルカード。

 

しかし、彼の残っていたその最後の1枚…

 

それが『魔法カード』である【サイコロン】であった事を今考え直してみると、もしも先程の【サモン・ダイス】で『1』・『2』・『5』・『6』の目が出ていたら…

 

彼は【サモン・ダイス】の効果を使用できずに、ただ1000ものLPを無駄に支払っただけに終わっていた。

 

それだけではない。ただ魔法・罠を破壊するだけならば、無意味に終わるかLPを1000失うかもしれないリスクのある【サイコロン】を使うよりも、ほぼ同じ役割を持った【サイクロン】を使用した方が安全かつ確実のはず。

 

…けれども、安全牌など最初から取る気などないのだと言わんばかりに。

 

リスクを負っていると言うのに、それでもなおどこまでも迷いなくギャンブルカードを発動し続ける彼の精神状態は、果たして一体どうなっているのか。

 

 

 

 

 

出た、数字は…

 

 

 

 

 

「HAHAHAHAHA!やっぱり今日はLuckyだぜ!出目は『3』!俺は【デモンズ・チェーン】を破壊する!」

「ま、また成功!?」

「これで【ゴッドオーガス】の効果は邪魔されねぇ!さぁ、天に舞え!3つの運命のダイス達ぃ!」

 

 

 

 

間髪入れず。

 

遊良の悪魔の鎖を引きちぎった蛮勇の巨漢が、その大剣を高々と振り回す。

 

その剣の動きに呼応し、黒き3つのダイスが空の彼方で激しく振り動き…

 

…それは遊良には絶望を与える、怪しく回る恐怖のダイス。しかしリョウには希望を与える、幸に狂ったラッキーダイス。

 

今、狂気の沙汰に魅入られたリョウの宣言によって…

 

 

 

 

 

出た、数字は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「YA-HA-!ダイスは3つとも…全て『6』だぁ!」

「ッ!?」

 

 

 

―!

 

 

 

【ゴッドオーガス】レベル7

ATK/2500→4300 DEF/2450→4250

 

 

 

 

壊れている、狂っている…

 

…だって、『出るわけが無い』。

 

これまでコインで全て成功し、直前のダイスも成功し…更には2ターン連続で、3つのダイスが全て『6』という、理想的かつ最大の値を示す事など。

 

…リョウ・サエグサと言う男が、『ギャンブラー』と呼ばれている事から、それなりに他人よりも運が良いと言うことなど遊良にだって調べはついていた。

 

けれども見たことがない、ギャンブルカードで失敗もせず、かつ2ターン連続でダイスが最大の目を示すことなど。聞いた事も無い、あくまでも『運』によって情況が左右されるギャンブルカードで、ここまで自分にとって最高の目を出し続ける者が居る事など。

 

…しかし、そんなありえない『運』の暴走を見た遊良の、息を飲む声など聞こえていないかのようにして。

 

再び【ゴッドオーガス】が黒のダイスより降り注ぐ光に包まれ、その力を先ほどと同じく上昇させていき…

 

そのまま、どこまでも陽気に狂いながらリョウ・サエグサは叫ぶだけであり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「…何をやっているのだ遊良の奴は。」

 

 

 

天空闘技場から下に下りた、選手の為の控え室。

 

その、個別に用意された部屋の一つにイースト校2年、天宮寺 鷹矢はいた。

 

しかし、相方のデュエルを見ている鷹矢の視線はどこか厳しいモノとなっているではないか。

 

 

 

「遊良め…やはり僅かだがキレが悪い。…このままでは本当に負けるぞ。」

 

 

 

それは今の鷹矢の言葉の通り。

 

一見、どこか拮抗しているように見えるこのデュエル。

 

しかしデュエルの流れは完全にデュエリア校のリョウ・サエグサの物であり、遊良のデュエルは足掻いているように見えるだけの、相手の掌で遊ばれているようなモノとなっているのだ。

 

…別に、遊良の調子が悪いというわけではない。

 

しかし、実力の『壁』を超えたその『先』の地平に辿り着いた遊良ならば、もっと拮抗出来てもいいはずだと言うのに…いま一つ力を出し切れていない印象の遊良のデュエルは、昨日の予選の勢いがどこか感じられず。

 

 

…何か、無意識に心に引っかかっているモノがあるのか。

 

 

本当に僅かで微かな違和感。けれども『先』の地平に到達している者同士の戦いにおいては勝敗を分ける決定的な違和感。

 

…それは遊良自身とて気がついていない、ほんの僅かな心の引っかかりなのだろう。気付こうにも気付くとなどできない、感じるか感じないかの瀬戸際にある微かな違和感であり…

 

…きっと、遊良本人も不思議に思っているはずだ。何処となく、いつものようにデュエルが進められない…と。

 

けれども、その違和感の原因がわからない事にはこの強敵には絶対に勝てない。

 

それは、いくらリョウ・サエグサの『運』が『先』を超えた『極』の頂に近づいているとは言え。双方とも『実力』自体は『先』の地平に立っている者同士なのだから、遊良自身も己だけの『武器』を最大限に発揮出来れば拮抗する事は出来るはずであり…

 

それが出来ていないと言うことは、いまひとつ遊良が力を出し切れていないということなのだが…

 

 

とは言え―

 

 

決勝が始まる前に鷹矢が懸念していた通り。遊良自身もわかっていない、調子がどこか尻すぼみしている原因…

 

それが何なのかは、鷹矢にはハッキリとわかっていて。

 

 

 

 

「…仕方ない。全く、手間のかかる奴だ。」

 

 

 

 

そのまま鷹矢は、部屋の中にポツリと言葉を残したかと思うと。

 

出てはならぬとキツく言われている、この選手用の控え室を…

 

静かに、しかし迅速に後にしたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、どうなってんだコイツの運は!」

「まだDA!ダイスが3つともゾロ目だったことで、俺はデッキから2枚ドロー!更に【ゴッドオーガス】は戦闘、効果で破壊されなくなり…さっきは使えなかったがこのターン、【ゴッドオーガス】はダイレクトアタック出来るようになる!」

「くっ!」

「続けて【リボルバー・ドラゴン】の効果も発動!さぁ、またまた天に舞え、3枚の運命のコイン!」

 

 

 

終わらぬギャンブル、止まらぬ賭博。

 

己の運を、精神を、命を。

 

磨り減るだけで回復しないソレらを、これ程までに容易く賭け続けるリョウ・サエグサの勢いは、まるで留まる事を知らないのではないかと錯覚するほどにその勢いを増していく。

 

…これで何枚のコイン、何個のダイスが振られたのだろう。

 

デュエルディスクの下す判決は絶対で、『そこ』にイカサマの入り込む余地が無いと言うことは、この世界においては幼児から老人まで知っていること。

 

だからこそ、ギャンブルをサポートするようなカードを全く使用すらしていないのに、ただただ己の『運』のみでその全てに勝利し続けている彼の今日の運勢は…

 

まさに『強運』を超えた『豪運』をも更に超えた、他の追随を許さぬ圧倒的な『天運』となりてその姿を全世界へと見せ付け続けるのか。

 

 

 

 

 

―出た、マークは…

 

 

 

 

 

「Yes!今日はとことんLuckyだぜ!コインは3枚とも太陽…全て『表』だぁ!」

「なんでだ!何で全部成功するんだよ!」

「HAHAHAHAHA!野郎に褒められても嬉しくねぇなぁ!そぉら、【神獣王バルバロス】を破壊ぃ!」

 

 

 

どうして引ける。どうして決まる。

 

最早『幸運』、『Lucky』などでは片付けられない結果の数々が、どこまでも遊良の心を追い詰めていく。

 

 

 

…ギャンブルカードというモノはその性質上、『決まれば』どんな強敵が相手であろうとも『勝つ』事が出来る。

 

 

 

そう、『決まれば』、だ。

 

誰もが、一度は考えた事があるであろう。運が良ければ、流れが来ていれば、ツイていれば…と。

 

しかし、ソレはあくまでも神頼みであり、縋る思いで必死に祈りを届ける浅ましい人間の欲深い業が生み出した、幻想への逃避とも言える非現実的かつ非効率的な確率の低いただの賭け。

 

ソレ故、高速化と緻密な計算の上に成り立っている現代のデュエルにおいては、こんなリスキーなギャンブルカードを自ら好み進んで使おうとするデュエリストの方が皆無と言えるはずだというのに…

 

 

 

「まだまだぁ!【カップ・オブ・エース】発動!」

「ッ、ま、まだギャンブルするのか!?」

「当たり前だよなぁ!さぁ、天に舞え、運命のコイン!」

 

 

 

…けれども、このリョウ・サエグサは違う。

 

普通の感性を持つデュエリストであったならば、絶対に考えることすらしないはず。自らの『運』に、デュエリストとしての全てを賭けるなど。

 

それでも、彼は運任せであるが故に普通であれば使用するのに一瞬の躊躇が生まれるはずの『ギャンブル』カードを、全く躊躇いもせず発動する。

 

…それは、『確実に決まる』との確信からでは断じてない。

 

 

―そう、本当に、今日は『偶々』全て成功しているだけ。

 

 

何せ、昨年度の【デュエルフェスタ】の時も、昨日の予選の時も。デュエルの結果だけを見れば、リョウのギャンブルとて何度か失敗はしている。

 

けれども、この決勝の舞台…このデュエルにおいては、本当にここまで偶々偶然、驚くべきラッキーの連続でただただ成功しているだけなのだ。

 

だからこそ、遊良もまさかリョウ・サエグサの『運』がここまでのモノだったという事を、今この時になって改めて思い知らされているのだろうか。

 

彼の態度はただただ狂った、『外れてもいい』…いや、寧ろ外れても『面白い』というだけのギャンブル狂のソレ。

 

この男はどこまでもどこまでもギャンブルに狂うだけであり…

 

デュエルの勝敗も何もかも…そう、自らの命をもチップへと変えて。

 

デュエルの勝敗と言うデュエリストの『命』を、全て博打で解決しようとしている彼の狂気の沙汰は、到底他のデュエリストには理解など絶対に出来ないことであって。

 

 

 

 

 

 

出た、マークは―

 

 

 

 

 

 

「Yeah-!コレだからやめらんねぇ、たまんねぇ!マークは太陽、コインは表!俺はカードを2枚ドロー!…さぁて、待たせたなぁ!バトルだ!【ゴッドオーガス】でダイレクトアタック!」

「くそっ!墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果発動!【ネクロ・ガードナー】を除外して、【ゴッドオーガス】の攻撃を無効にする!」

「Oh、【手札抹殺】か。抜け目がねぇなぁ、だが何時まで耐えられる?次は【アルカナ ナイトジョーカー】でダイレクトアタックだZE!」

「永続罠、【鏡像のスワンプマン】発動!闇属性、悪魔族となり、守備表示で特殊召喚!」

「かまわねぇ!Go、ナイトジョーカー!ロイヤルストレートスラーッシュッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「くっ、墓地の【サクリボー】を除外し、スワンプマンを破壊から守る!」

「イイ反応じゃねーか!けど言ったはずだぜ?いつまで耐えられるかってなぁ!速攻魔法、【融合解除】発動!」

「なっ!?」

「墓地から絵札の三銃士を、攻撃表示で特殊召喚するぜ!Come back!絵札の三銃士!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【クィーンズ・ナイト】レベル4

ATK/1500 DEF/1600

 

【キングス・ナイト】レベル4

ATK/1600 DEF/1400

 

【ジャックス・ナイト】レベル5

ATK/1900 DEF/1000

 

 

 

「【キングス・ナイト】でスワンプマンに攻撃!」

「2体目の【サクリボー】の効果!スワンプマンを破壊から守る!」

「まだまだぁ!Go!【クィーンズ・ナイト】!」

「さ、3体目の【サクリボー】の…」

「けどこれで【サクリボー】も打ち止めだぜ!イッちまいなぁ!【ジャックス・ナイト】でスワンプマンを攻撃!ジャックポットスラーッシュ!」

 

 

 

―!

 

 

 

終わらぬリョウの攻撃と、あまりに激しいモンスター達の猛襲が、遊良へと次々に襲い掛かる。

 

もし遊良が先のターンに引けた罠モンスターが、スワンプマンではなく守備力の高い【量子猫】や【メタル・リフレクト・スライム】だったならば…

 

きっと絵札の三銃士の攻撃『だけ』は防ぎきる事ができ、全ての【サクリボー】を無駄に除外する事は決して無かった事だろう。

 

…それだけではない。

 

もし先程引けた罠カードが、【デモンズ・チェーン】ではなく【和睦の使者】と言った全体の攻撃を防げる代物であったならば。もしデッキに眠っている罠カードを、もっと手札に加えられていたら。もし墓地に送る事の出来たカードが、【ネクロ・ガードナー】ではなく【光の御封霊剣】などであったならば。

 

…遊良はこのターン、リョウの攻撃を確実に、かつ安全に防ぎきる事が出来たはず。

 

…しかし、『もしも』の話しをすればキリがない。

 

そう、これも『運』―

 

今この時、この瞬間に…どちらの『運』がよかったのかという…ただ、リョウ・サエグサという男の『天運』が、今日この時この瞬間に、途轍もなく強大であったとう、ただそれだけのこと。

 

 

…だから、強い…だからこそ、怖い。

 

 

例え誰が相手でも、恐れもなくギャンブルに身を投じるこの男の…狂気の沙汰とも思えるギャンブルを、心の底から楽しみ尽くしているその態度は常人には決して理解出来ぬ代物。

 

 

それ故―

 

 

自分の運だけではなく、相手の運すらも利用して。嬉々として己の魂を削りながら、賭博に狂って笑う彼の事をこのデュエリアの地はこう呼び称えているのか。

 

 

 

…勝利の女神に愛された、命知らずのデュエリスト。

 

 

 

決闘学園デュエリア校、デュエルランキング『第1位』…

 

 

 

 

 

―『ギャンブラー』

 

 

 

 

 

―リョウ・サエグサ

 

 

 

 

 

 

「くっ…そ…」

「Good Bye、Boy!もうちょい粘ると思ったんだがな!【リボルバー・ドラゴン】で…Boyにダイレクトアタック!鋼鉄の、フルメタル・ジャケットォ!」

 

 

 

がら空きになった遊良の場へと、襲い掛かるは銃竜の砲声。

 

…螺旋に回る鋼鉄の砲弾、命を打ち抜く冷たき銃弾。

 

今、その砲頭から。

 

銃声と共に、遊良へと向かって一発の弾丸が放たれた―

 

 

 

 

 

 

 

 

このままでは、やられ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っかよぉ!手札の【アンクリボー】の効果発動ぉ!墓地から【神獣王バルバロス】を特殊召喚ッ!」

「What!?」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

刹那―

 

アンクを纏いし小さき毛玉が、遊良の叫びと共に場より飛び出して。

 

 

そして、その悪魔が輝いたかと思うと…

 

 

墓地より、獣の王が咆哮を轟かせながら飛び上がったではないか。

 

 

 

「守れ、【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

そのまま、遊良の叫びに呼応するように。

 

獣の王は螺旋の槍を振り回し始め…

 

 

―ギィンッ…

 

 

という、鋼を弾いた音が聞こえた瞬間。

 

なんと獣の王は、銃竜より放たれた鋼鉄の弾丸を弾き返し主の身体守りきったのだ。

 

 

 

 

 

「ッ、あ、危なかった…」

「Amazing…この場面でよくそんなカードを温存していたモンだ。仕方ねぇ、攻撃は中止するぜ。」

 

 

 

…思わず零れた冷や汗を、焦燥と共に袖で拭いながら。

 

刹那の攻防を耐え、ギリギリのところで命を留めたことで…逸った心臓の鼓動を、どうにか抑え始めた遊良。

 

それは昨日の予選が終わった後に、砺波に『勉強になるから』と言われ見せてもらった…【白鯨】と『逆鱗』が秘密裏に行った、デュエルディスクに保存されていた天上のデュエルのリプレイから得た守りのヒント。

 

決して野良試合で行われてはいけないようなデュエルが、【決島】の最中に喧嘩のように行われていたと言うことはさておき…

 

…その時の『逆鱗』のデュエルから、何か遊良はヒントを得たのか。

 

先の【アンクリボー】はこの決勝が始まる前に、デッキを見直して入れておいた…ギリギリの場面を想定していた、この瞬間の遊良にとっての正真正銘最後の手段だったのだ。

 

それは遊良が、リョウを最大限警戒していたおかげで温存という様子見をしない選択をしたが故の…先のターンの最後のドローで、たまたま手札に引き入れられていたギリギリの守りの手でもあるのだが…

 

 

…それも遊良の『運』といえば『運』。

 

 

もし砺波が、『逆鱗』とのデュエルを見せてくれていなかったら。もしその天上のデュエルから、遊良が何もヒントをつかめていなかったら。もし『逆鱗』が使ったカードを、遊良が拒否していたら。

 

…きっと遊良はこのターン、リョウの猛攻を防ぎきる事が出来ずにここで負けていた。

 

また、遊良が先のターンにチキンレースを温存していたら。最後のドローで引いていた【アンクリボー】は手札に居らず、次のドローフェイズに引くカードになっていただろう。

 

ソレを考えると、いくら防ぎきることが出来たとは言え…こんなにもギリギリとなった攻防に、思わずその額に冷や汗をかいてしまう他ないのか。

 

 

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に再び【融合】を発動。絵札の三銃士を融合し、【アルカナ ナイトジョーカー】を融合召喚。そんでエンドフェイズだ。バルバロスは墓地に送ってもらうぜ?」

「…あぁ。」

「俺はこれでターンエンドDA。」

 

 

 

リョウ LP:3900→1900

手札:3→1枚

場:【ゴッドオーガス】

【アルカナ ナイトジョーカー】

【リボルバー・ドラゴン】

魔法・罠:【ヘッド・ジャッジング】、伏せ2枚

 

 

 

万全に揃えられたリョウの場。全く衰えぬリョウの『運』。

 

よもやデュエリア校のトップが、これ程までにとんでもない男だとは遊良とて戦ってみて初めて理解出来た事実であり…

 

…なんとか運良くこのターンは乗り切ったとは言え。

 

リョウ・サエグサの『豪運』を前にしては、遊良とてこんな偶然は何度も続ける事など出来るわけもないだろう。

 

そう、遊良は正真正銘、最後の守りの手段を使いきってしまった。そんな遊良からすれば、確実に次のターンは耐え切れないであろうリョウの『運』の圧が今もなお容赦なく襲いかかり続けていて。

 

 

…心に微かな引っかかりが生じている事など、負けた時の言い訳にもならない。

 

 

例えその引っかかりの原因が分からずとも。それがデュエルには直接関係の無いことでも、。それでも、今この時、何があっても、負けてしまえばそこでおわりだと言うのに。

 

こんな強敵を相手にしては、僅かでも心に原因の分からぬ引っかかりを覚えていることは致命的な命取りとなるのだ。それ故、まったく底が見えないリョウ・サエグサと言う男の『運』には、いくら『先』の地平に至った遊良を持ってしても戦い方に迷いが生じ始めていて…

 

 

 

「Hey!これがお前の最後のドローだ!俺みたいにいいカードが引けるよう、神に祈った方がいいんじゃあないか?」

「…神に…祈る?」

 

 

 

しかし、リョウがそう言葉を放ったその瞬間―

 

…何かリョウの言葉に、強く感じたモノがあったのか。デッキに乗せかけた指を止め、眉をピクリと動かし始めた遊良。

 

それは何気ない男の言葉。彼がいつも言っている、自分を愛してくれる勝利の女神への愛を声高々に叫んでいるだけではあるのだが…

 

それでも、そんな気に留める必要も無いリョウの言葉に、どうしても遊良は何か感じるモノがあったのだろうか。

 

けれども、そんな遊良を意に介さず。リョウは続けて、その明るい口を開くのみ。

 

 

 

「But、でも祈っても無駄かもな。何故なら勝利の女神は、最後にはいつも俺の頬に祝福のKissをするんだ。俺を愛してくれる勝利の女神を、俺もまた愛しているからこそ!俺は『ギャンブラー』なんて異名でデュエリア校のトップに立っているんだからよ!」

「勝利の、女神…」

「さぁて、お前はどんな神に祈るんだ?お前の神は、一体どんなカードを引かせるんだろうなぁ!俺の愛する勝利の女神に、お前の神は正面から張り合ってくれんのかぁ!?」

「…」

 

 

 

別に、怒ったりだとか憤ったりとか、そう言った類の感情ではない。

 

しかし遊良には、リョウ・サエグサが次々と口にする、彼の彼による彼ための『神』への賛辞が悉く気に障っている様子を見せ始め…

 

…怒りを覚えるような言葉ではない。しかしどこか癪に障る。

 

一体、遊良はリョウの言葉の何が気に障るのだろうか。

 

そのまま、リョウが放ち続ける『神』への愛の言葉に。遊良の感情が、『何か』を生み出しかけた…

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

『遊良ぁ!』

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

…突然闘技場に響き渡ったソレは、実況の声では断じてなかった。

 

いや、遊良の耳にはどうにも『聞き慣れた』その声は、今確かにこのデュエルの最中に割って入るかのようにして天空闘技場に…いや、自分達のデュエルが映し出されているはずの、超大型モニターから高々と発せられたのだ。

 

 

そして瞬間的に、反射的に。

 

 

遊良が呼ばれた方…自分達のデュエルしている映像が映っている、天空闘技場の超大型モニターの方へと目をやると…

 

 

 

―そこに、映っていたのは…

 

 

 

 

 

『何をやっているのだ大馬鹿者が!さっさとカタをつけてしまえ!』

 

「ッ、た、鷹矢!?」

 

 

 

 

そう。

 

マイクを片手に、もう片手に『何か』…おそらく『カメラ』だと思われるモノを持った、天宮寺 鷹矢がそこには映っていたのだ。

 

 

 

「なっ、鷹矢!お前何して…ってかどこに居んだよお前!そこって…」

 

 

 

鷹矢の居る場所…そこは、控え室では無い場所。

 

自分の出番が来るまでは、絶対に外に出てはならぬとキツく言いつけられている控え室から、何故か外に出ている鷹矢が控え室とは別の場所にいるというこの現状も然ることながら…

 

…鷹矢が居るのが、白を基調とした清潔感を絵に書いたかのような『医療棟』のような部屋であった事も、遊良の頭を一瞬だけフリーズさせてしまっていたことだろう。

 

また、一体、鷹矢がどうやって世界中に中継されているこのデュエルの映像に横入りし、天空闘技場のモニターを乗っ取っているのかはさておき。

 

鷹矢のとった行動を理解出来る者など、少なくともこの場には…否、この場に居る者でなくとも、鷹矢の取った行動を理解出来る者など世界中探しても誰1人としていないことだろう。

 

 

…しかし、当の本人はそのまま悪びれる気もなく。

 

 

そのまま続けて、言葉を放つ。

 

 

 

『見たらわかるだろう!いつまでも寝ていて俺達の戦いを見逃そうとしているこの馬鹿を起こしておるだけだ!』

 

「いや起こすってお前…ルキはまだ意識が…」

 

『うるさい、黙ってみていろ!おいルキ!いい加減起きんか!』

 

 

 

その、遊良には背景を見ただけで理解できるその場所。鷹矢の居る、【決島】の敷地内にある学生達が集められている医療棟の部屋とは、どこか造りが違うこの白い部屋…

 

 

―そこは何を隠そう、そこは高天ヶ原 ルキが秘密裏に運び込まれた、特別な『医務室』だったのだ。

 

 

しかし、天空に伸びる『塔』の、最上階に近い控え室に居たはずの鷹矢が、一体どうしてこんな短時間でルキのいる特別で秘密裏な医務室に赴いているのか。

 

…確かに昨日深夜、砺波の指示と命令の下にルキをこの特別医務室へと密かに運んだのは他ならぬ遊良と鷹矢だとは言え。

 

場所が分かっていたとしても、控え室を出てからの短時間では、とてもじゃないが天空の『塔』の上方階から外へと向かって走る時間などなかったはず。

 

…そんな、突然中継を遮ってモニターに現れた鷹矢へと向かって。

 

その映像を目の当たりにしてしまったイースト校理事長である砺波 浜臣は、心の底からあっけに取られたような顔をして、どこか搾り出すようにして声を漏らし…

 

 

 

「…な…て、天宮寺君…いつの間に隣の医務室に…」

「クハハハハ!なんだぁこの馬鹿は!ジジイそっくりの大馬鹿野郎じゃねぇかおい!」

 

 

 

そう、鷹矢が、こんな短時間でルキのいる医務室へと到達できたその理由。

 

…それは単純明快。

 

そこは天空闘技場の下階、『塔』の内部…選手と砺波と劉玄斎以外には、誰も居ない決勝の舞台の中だったのだ。

 

『その場所』を知っているという前知識と、鷹矢の鍛えに鍛えられた肉体と…

 

そして何の躊躇もなく踏み入るというその度胸が相まって、これ程までに短時間で最上階近い場所からルキの居るこの地下の特別医務室へと到達出来たのか。

 

…まぁ、いくら見張りが居ないとはいえ、『前例』があったが故に砺波にあれほど厳重に『外に出てはならない』ときつく言われている鷹矢が、外に出たというだけでも鷹矢にどれ程の決意があったのかは彼にしかわからない事とは言え…

 

けれども、それでも鷹矢は砺波に叱られるであろう事を承知で。

 

鷹矢は己の目的の為…遊良の心の『引っかかり』を解消してやる為に…その『原因』へと向けて、声を荒げるのみ。

 

 

 

『さっさと起きろ!お前が起きんと、遊良の奴が心配しすぎてヘマをするのだぞ!』

 

 

 

それはいまだ意識を取り戻さぬルキへと向けた、覚醒を促す鷹矢の叫び。

 

ルキの意識が深い眠りについていると言うことは、まだルキの体力が戻りきっていないということではあるのだが…

 

ソレを、鷹矢もわかってはいても。

 

それでも叫びだけではなく、まだ細かなヒビ割れの残るルキの頬を軽くペチペチと叩く鷹矢の物理的な起床への呼びかけは、どこか幼い子どもを起こす子どもの様な仕草にも見え…

 

すると…

 

 

 

 

 

『う…』

 

 

 

 

 

…そんな騒がしい鷹矢の声に、無意識ながらも苛立ちを覚えたのだろうか。

 

眠ったままのルキは、一瞬だけどこか苦い顔をしたかと思うと…

 

うっすらと、微かに、僅かに。虚ろな意識のまま、その目を開け始め…

 

 

 

『天宮寺君!何をしている!』

『む!?しまった、もう見つかったか!い、いいか遊良!さっさと調子を取り戻せ!さもないと…』

『早く来なさい!』

『ぬぅ!?』

 

 

 

しかし、即座に―

 

飛び込むように部屋へと入ってきた砺波によって。

 

…鷹矢は、そのままズルズルと部屋の外まで引きずられていったのだった。

 

 

 

「なんだったんだ、あのBoy…」

「…」

 

 

 

そして、鷹矢が部屋の外へと引っ張られていった直後。

 

きっと砺波が、鷹矢の持っていたカメラを切ったのだろう。天空闘技場の超大型モニターに映し出されていた先程の映像が途切れたかと思うと、思わず声を漏らしてしまったリョウ・サエグサと…

 

呆れているのか怒っているのか、言葉を失っている遊良の姿だけが天空闘技場に残されていた。

 

 

―幸か不幸か。鷹矢が割り込んでいた間の映像は、世界の中継からは切り離されていた為…

 

中継を見ていた世界中の人々、および【決島】の他の参加者たちには、デュエルの途中でただ映像が途切れてしまったとしか思われてはいないのだが…

 

まぁ、今の衝撃的な映像を見ていた遊良もリョウも砺波も、もちろん当の鷹矢もそんなことは知る由はないだろう。

 

あまりに突然の鷹矢の行動に、その映像を見ていた遊良もリョウも砺波もただただ驚かされたのは事実。

 

ともかく…

 

 

 

『あ…っと、映像が回復したようです!』

 

 

 

 

 

再開した中継の前で。再び響いた実況の声の下で。

 

 

 

 

 

「…はぁ…」

 

 

 

 

 

遊良は一つ…

 

とても…とても大きな溜息を吐いたかと思うと…

 

 

 

 

 

「なぁ…さっき言ったな?神に祈った方がいいって…俺の祈る神は、どんな神なのかって…」

「あぁ、ソレがどうした?」

 

 

 

その溜息は己への失望。

 

自分で気付かなければならなかったはずの、勝負を分けるソレを鷹矢に気付かされたという…気恥ずかしくも悔しさの残る、助けられた事への素直じゃない遊良の反骨心。

 

別に、外部からカードを受け取ったとか、この情況に対するアドバイスをもらったとか…そう言った『イカサマ』などでは断じてないのだから、鷹矢の行動に対して遊良が悔しがる理由は無いと言えるのだが…

 

 

…けれども、大きな溜息によって余計な気持ちを全て吐き出し。

 

 

鷹矢の衝撃はどこへやら。先程投げかけられた、リョウからの問いに返すようにして…

 

ゆっくりとその口を開いた遊良の言葉は、どこか先程よりも重みを纏ったようなモノとなりて、目の前のリョウ・サエグサへと届けられるのか。

 

 

…それはどこか、先程までの遊良の言葉とは質量が異なっているかのような声の質。

 

 

先程よりも、微かに重みを増した遊良の声。ソレは何かに気付いたかのような、それでいて何かを吹っ切れたような…纏う雰囲気を一つ変えた代物となりて、静かにその口から発せられ…

 

 

 

「…教えてやるよ…」

 

 

 

そう、その方法はさて置くとして。

 

…本選が始まる前に、鷹矢に言われていた『余計な事に気を取られすぎて転ぶんじゃないぞ』という、遊良も気付いていなかった心の僅かな引っかかり。ソレを、鷹矢にあれほどまでに『分かりやすく』教えられては。

 

遊良とて、己の心の内に巣食っていた僅かで微かな『引っかかり』の正体を、嫌でも気付いてしまうしかなかったのだろう。

 

 

…その、デュエルにほとんど支障がない、ほんの僅かな心の棘。

 

 

『運』を最大限に活かしてデュエルを行うリョウ・サエグサを前に、どこか思い通りにデッキが回りきらない感触を覚えていた遊良の…実力が拮抗した強者同士の戦いでは致命的になってしまう勝敗を分けるソレ。

 

自分で気付かなければ、自分で乗り切らなければならなかったであろうソレを、鷹矢に教えられるなんて遊良からしても不本意ではあったものの…

 

それでも今、その感触の正体を理解し。そして鷹矢の行動の所為…いや、おかげで、ソレを払拭する方法も同時に理解した遊良の…

 

大気を震わす強い意思、静かに、しかしはっきりとした…

 

リョウからの問いに答える、空気を振るわせるほどに重い遊良の声が…

 

 

 

 

 

「俺は…神には祈らない!俺を見放した神なんかに、俺は絶対に祈ったりしないんだよ!俺のターン、ドローッ!」

 

 

 

 

 

―ここに、轟く。

 

 

 

 

 

「俺は!」

 

 

 

 

 

―引いた、カードは…

 

 

 

 

 

「【闇の誘惑】発動!2枚ドローして【イービル・ソーン】を除外!【チキンレース】の効果も発動!LPを1000払って1枚ドロー!続けて【トレード・イン】も発動だ!【鉄鋼装甲虫】を捨てて2枚ドロー!」

 

 

 

ターンを迎えて間髪入れず、場に吹き荒れるはドローの嵐。

 

迷いを完全に振り切ったが故の、先のターンよりもなお淀みない…止まらぬドローとドローの応酬、決して止まぬドローの竜巻。

 

…そう、ルキが無事だという事で、ルキの命に別状が無いと言うことで。ルキを救えたということで、確かに遊良が『決勝』で戦うにあたり心の障害は全て取り払われてはいた。

 

しかしソレはあくまでも最低限の結果であったために、ルキの意識が戻っていない事が無意識のうちに遊良の心の隅には引っかかっていたのか。

 

そう、祭典を楽しみにしていたルキの意識が、未だ戻らない微かな懸念。

 

ルキの分まで最後まで戦わなければならないという、意識の先走りが生み出した…当のルキが眠ったままで、自分の戦いを見ていないという僅かな焦燥によって生じた、ほんの僅かな心の亀裂。

 

…そんな、他人からすれば『そんな事』と思うようなことが。こんな、他人からすれば『何の事』と思うようなことが。遊良の心には、遊良自身でも気付かぬほどに小さな棘となって刺さっていたのだろう。

 

けれども今の鷹矢の行動で、ルキの意識が僅かに戻った事で遊良の中に痞えていたモノが消えた。

 

…例えソレが、鷹矢によって無理矢理に気付かされた事でも。

 

…例えソレが、自分自身で気付かなければならなかった感情であっても。

 

それでも一つの懸念を振り切った、自らのデュエルへの答えを出した…迷いのない遊良の声が、この天空闘技場に木霊し始め…

 

 

 

「ッ!おいおい、いきなりどうしたってんだ!?つかさっきから何枚ドローする気なんだよBoy!」

「まだだ!速攻魔法、【サイクロン】発動!【ヘッド・ジャッジング】を破壊し、3枚目の【トレード・イン】も発動!【モザイク・マンティコア】を捨てて…」

 

 

 

全世界へと見せ付ける、先のターンから全く衰えないドローの嵐。

 

…そう、これが、これこそが。

 

Ex適正に、この世界に…神に、その存在を全否定された少年が、それでも戦う事を諦めないと誓ったが故の、天城 遊良にしか出来ない彼だけの戦い方。

 

キーカードがデッキに眠っているのならば、ドローで無理矢理に引き出せばいい。サーチが出来ないのならば、ドローによってデッキから無理矢理に引っ張ってくればいい。Exデッキが使えないのならば、それに負けないメインデッキのモンスターをドローして立ち向かえばいい。

 

 

それは勝利の女神に愛された男の、類稀なる『天運』を正面から打ち破らんとしている、地を這う獣の足掻きにも似た単なる意地。

 

そう、リョウのように、逆転へと繋がる一枚のキーカードを一回のドローで引き当てるのではない。

 

神が定めたその運命に、反逆してでもカードを引き続ける遊良の姿は…まさに世界の理に真っ向から反逆する、神に反する悪魔の所業の様でもあって。

 

 

 

「2枚…ドローッ!…来た!まずは【冥界の宝札】を発動し、続けて【黙する死者】を発動!墓地から通常モンスター、【鉄鋼装甲虫】を守備表示で特殊召喚!そして速攻魔法、【帝王の烈旋】を発動し…俺は【鉄鋼装甲虫】と…相手の場の、【ゴッドオーガス】をリリース!」

「俺のモンスターを!?」

 

 

 

類稀なる天運を持った、軽やかに飛び回るギャンブラーに歯向かうは。地を這う獣の足掻きにも似た、出来損ないの必死なる叫び。

 

それはこの世界においては、古の時代に当に使い古されたアドバンス召喚のためのエフェクト。

 

いくら相手のモンスターにも渦を纏わせようとも、ソレはこの世界においては扱う者などほとんど居ない、見向きもされない生贄召喚。

 

 

 

 

 

…ただ、それだけ。

 

 

 

 

 

―しかし、それでも。

 

 

 

 

 

「宙の彼方より現れろ、レベル10!【The tyrant NEPTUNE】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

遥かな空より降ってきたのは、流星なりし宙の星。

 

それは深海よりも深きモノ、海嘯よりも豪きモノ。

 

荒ぶる激浪をその身に纏い、四海すら凌駕する海闊の化身。

 

空を映し、天を彩り、宙すら飲み込むまさに『海の星』。

 

それはたゆたう星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。

 

 

 

【The tyrant NEPTUNE】レベル10

ATK/ 0→5200 DEF/ 0→3950

 

 

 

唸る外界の波動をその身に。震える衝動は飢えの証。

 

そう、これが、これこそが―遊良が己を超えたことで従えた、純粋なりし『力』の象徴。

 

実力の『壁』を超え、その『先』の地平へと足を踏み入れた事によって押さえつけた…この星ならざる外の宙の、人知を超えた『力』のカード。

 

 

 

「コイツぁPlanet…なるほどなぁ、マジでアイを倒せるだけの実力を持ってるってわけか。」

「燦然と輝くプラネットの一球、【The tyrant NEPTUNE】のモンスター効果!アドバンス召喚成功時、俺は相手の墓地の【ゴッドオーガス】を選択し…」

「けどやらせねぇよ!罠カード、【無差別崩壊】発動!」

「なっ!?」

 

 

 

けれども、『プラネット』の重圧を全く気にする事もなく。

 

再び高らかにリョウが宣言したのは、相も変わらず『ギャンブル』のカードであり…

 

それは賽の目によって破壊できるモンスターが変動する、出たとこ勝負の破壊のカードなのだが…

 

この情況では、例え『海の星』を破壊できる『目』を出したとしても、自分の場のモンスターすら巻き込まれてしまう危険性があると言うのに。

 

それでもなお、どんな時も、こんな時も…そう、強大なりしプラネットを前にしてもなお。

 

展開札も妨害札も、何もかもをギャンブルに任せるリョウの狂った宣言が、猛る『海の星』の唸り声よりも更に大きく天に叫ばれる。

 

 

 

「そぉら、天に舞え、2つの運命のダイス!」

 

 

 

 

 

出た、数字は…

 

 

 

 

 

「Yeah!出目は2つとも『6』だぁ!」

「また最大値!?」

「おらおらぁ!レベル12までのモンスターを全て破壊するZE!」

 

 

 

―!

 

 

 

炸裂せし爆音が、天空闘技場から中継を通じて全世界へと轟いて。

 

…遊良が全ての手札を使いきって、やっとの思いで呼び出したプラネットの一球である『海の星』を破壊するだけでは飽き足らず。

 

自らの場の天位の騎士も、鈍黒の銃竜も。

 

自分のモンスターをも巻き込んで響き渡る、そのあまりの爆裂音は狂気の沙汰に染まったリョウ・サエグサという男の狂いっぷりを、そのまま体現したかの様な光景となりて全世界へと映し出されるのか。

 

…最初から全てのギャンブルで成功し続けている彼の運は、この佳境であっても落ちる気配がまるでない。

 

ソレは例え、自分のモンスターを全て巻き込んででも。文字通り無差別に全てを崩壊させるその地響きが、どこまでも激しいモノとなりて遊良へと襲いかかり…

 

 

 

 

 

「まだだ、まだ止まるわけにはいかないんだよ!【冥界の宝札】の効果で4枚ドローッ!」

「チッ、そう来るよなぁ!なら【リボルバー・ドラゴン】が破壊されたことにより、俺は手札から【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】を特殊召喚する!」

「まだまだぁ!【貪欲な壷】も発動!【神獣王バルバロス】、【イービル・ソーン】、【モザイク・マンティコア】、【アンクリボー】、【The tyrant NEPTUNE】をデッキに戻し2枚ドロー!更に魔法カード、【強欲で貪欲な壷】も発動ぉ!」

「What!?」

 

 

 

それでもなお遊良は止まらず。

 

凶暴凶悪なプラネットを、何の抵抗も許されずに破壊されても。ソレを乗り越えるかのようにドローを止めない遊良に、思わず驚きを感じてしまったのかのような声を漏らしたリョウ・サエグサ。

 

…情況を見れば、ここで『海の星』を破壊することはリョウにとってもベストな選択だったはず。

 

何せ、そうしなければ【冥界の宝札】によって手札を増やした遊良の更なる手が、リョウの伏せカードを掻い潜ってしまう危険性があり…

 

更には攻撃力を5300にまで上昇させ、【ゴッドオーガス】の効果をコピーした凶暴なりし『海の星』の海嘯が、その一撃によってリョウのLPを刹那の下に奪い去ってしまっていただろうから。

 

だからこそ、リョウは自分の場の天位の騎士と銃器の竜を犠牲にしても『海の星』を破壊するギャンブルを選んだ。

 

更には連鎖的に現れた自分のマグナム、【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】が少年の心臓をその銃口で狙っているのだから、これで万全を期したと、そう確信までしていたのだ。

 

 

 

 

そうだと言うのに…

 

 

 

 

「デッキを10枚裏側除外して2枚ドロー!速攻魔法、【異次元からの埋葬】発動!除外されている【サクリボー】3体を墓地に戻す!そして【シャッフル・リボーン】発動だ!墓地から【サクリボー】を特殊召喚し…速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動!」

「ッ、3枚目だとぉ!?」

「墓地から再び集え、【サクリボー】達ぃ!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

全く外れる気配もなく、目まぐるしく決まりながらも止まる気配の無いリョウ・サエグサの『天運』に、真正面から立ち向かうかのように。

 

ドローにドローとドローを重ねる遊良の、そのドローの嵐もまた留まる事を知らないかのような回転を続けるばかり。

 

【冥界の宝札】だけのドローではない。そのドローに重ねるようにして、更にドローとドローを重ねた遊良の手札が、見る見るうちに増えていく。

 

 

…そうして三度遊良の場に揃いしは、小さき毛玉の悪魔達。

 

 

がら空きになったリョウの場を見据え、その小さき体躯を奮わせていて。

 

 

 

そして―

 

 

 

「マジかよBoy、この展開は…」

「いくぞ!魔法カード、【二重召喚】発動!そしてサクリボー3体をリリィィィス!」

 

 

 

轟かせしは不退の雄叫び。

 

全世界へと見せ付ける、荘厳なりし獣の雄叫び。

 

…例え『ギャンブラー』が自らのモンスターを巻き込んでもなお、それでも微塵も油断はなく。

 

そう、この強敵相手に確実なる勝利を求める為…今この天空闘技場から全世界へと向けて、ソレは高らかに響くのか。

 

 

 

 

 

震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

 

 

それは、現れるのだから―

 

 

 

 

 

「【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

 

 

「チィッ!また現れやがったか!しかも今回は…」

「【神獣王バルバロス】のモンスター効果!3体のリリースでアドバンス召喚した時…相手のカードを全て破壊する!」

「Shit!」

 

 

 

このデュエルが始まって初めて。

 

今度こそ何者にも邪魔されない獣の王の咆哮が、この天空闘技場へと轟き渡る。

 

…相手の場に移ってしまった運命の英雄に阻まれ、リョウ・サエグサのペースに乱され。

 

そうして本来の力を発揮できなかったものの、それでもデュエルを諦めず今この時になってようやく進撃を始めるかのようにして…今ここに、その破壊の槍は天高く唸りを響かせ始める獣の王。

 

今、主の叫びと共に。

 

逆転へと向けた不退の雄叫び、進撃を止めぬ獣の雄叫び。

 

その、一瞬でデュエルの形勢を変えるであろう叫びが、世界中へと轟かけた…

 

 

 

「やれ、バルバロ…」

 

 

 

その時だったー

 

 

 

 

「なら破壊される前に罠カード、【強欲な瓶】発動だZE!」

 

 

 

遊良の叫びを掻き消すように、叫ばれたのは賭博の轟き。

 

そこはデュエリア校のトップデュエリスト。『ギャンブラー』とて簡単にやられるはずもなく…

 

デュエリアの『ギャンブラー』…その名に恥じる事なく、狂気の沙汰に染まったリョウもまた、遊良の進撃に負けずと劣らずのその狂乱を魅せようとしているのか。

 

 

 

「ッ!?ここでそのカード…」

「Yes!俺だってタダじゃあやられねぇ!ここでお前を超えられる運を!俺は引いてみせるだけDA!」

 

 

 

そう。

 

 

それはこのギリギリの場面においても、何を引くかわからない一種のギャンブル。

 

単なる起死回生のドローではつまらないという、どこまでもギャンブルに魅入られたリョウの狂宴。

 

こんな時でも、あくまでもギャンブルに徹するからこそリョウ・サエグサと言う男はデュエリア校でも『ギャンブラー』という異名と共に称えられており…

 

どこまでも己が楽しむため。精神を削り、魂を削り、そうして己を削るからこそ快楽を得るのだと言わんばかりにリョウ・サエグサは叫び続けるのだろう。

 

そうして―

 

 

 

「俺はカードを1枚ドロ…」

 

 

 

その宣言によって、リョウがカードを引こうとした…

 

 

 

 

その時であっても―

 

 

 

 

「だったら【強欲な瓶】にチェーンして速攻魔法、【大欲な壷】を発動だ!そして【冥界の宝札】と【サクリボー】の効果も発動している!」

「What!?」

「まずは【大欲な壺】の効果で、【闇の侯爵ベリアル】、【イービル・ソーン】、【ネクロ・ガードナー】をデッキに戻して1枚ドローッ!」

「ッ!おいおい、まだドローするつもりなのかよBoy…1枚ドロー!」

「まだだ!俺は【冥界の宝札】の効果で4枚ドローし、【サクリボー】3体の効果で3枚ドロー!」

 

 

 

『ギャンブラー』の狂った叫びを、上から覆い隠さんと大声で叫ばれるは遊良の更なる連なるドロー。

 

…【強欲な瓶】の効果に、上から更に割り込むように。遊良は自分だけが更に余計に、多量のドローを行い始めるのか。

 

…それは手札を『0』から、一瞬で『8枚』にまで増やす脅威の所業。

 

そう、いくらリョウの運が『先』の地平を更に超えた、【王者】達にも匹敵する『極』の頂にかなり近づいているとは言えども…

 

それでも運を含めたリョウの実力と、遊良の実力は共に『先』の地平に位置しているのだから、さすれば遊良の底力とてデュエリアの『ギャンブラー』ことリョウ・サエグサと比較しても遅れを取っているわけが無いのだ。

 

―遊良が、リョウの武器である『運』に驚いてきたのならば…

 

遊良の終わらぬ『ドロー』にだって、リョウ・サエグサが驚くのはある意味デュエルの当然の真理。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

「これが最後だ!いっけぇぇぇぇぇえ、バルバロスゥ!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

獣の王が地に突き刺した、全てを壊す螺旋の槍から放たれた崩壊の衝動が、リョウ・サエグサへと襲い掛かる。

 

それによって、リョウの場で彼を守っていたモンスター…【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】が、成す術なく破壊されていき…

 

彼は何故かその効果を使わず。後に残ったのは、丸腰となったリョウ・サエグサのみではないか。

 

 

 

「バトルだ!【神獣王バルバロス】でダイレクトアタック!」

 

 

 

きっとこのデュエルを見ている、決闘市を除く全世界の者達は驚愕の顔をしているのではないか。

 

…まさかEx適正の無い『あの天城 遊良』が。

 

…予選の戦いも運が良かっただけか、決勝に進んだのも何かの間違いかと思われた『あの天城 遊良』が。

 

…いくら【決闘祭】の優勝者とは言え、所詮は『あの天城 遊良』が優勝できたレベルの決闘市の代表が。

 

まさか次代のプロデュエリスト・ドラフト筆頭であるデュエリアの『ギャンブラー』、リョウ・サエグサを相手に勝利の目前まで迫っているなど。

 

それは誰もが信じられない、大物食いの大番狂わせ。誰もが驚きに襲われている、少年達の正面衝突。

 

 

今…闘技場を駆ける獣の王の雄叫びが、天を劈き地を轟かす。

 

 

類稀なるリョウの『天運』に対し、心を折られず最後まで勝負を諦めなかった少年の進撃が、ここへ来てその牙を突きたてようとしているのだ。

 

その、かつて世界から見放された、Ex適正が無い少年のデュエルに世界中が目を奪われ…

 

 

 

 

 

しかし―

 

 

 

 

 

「駄目よ!アイツにはアレが!」

 

 

 

 

 

『医療棟』―

 

モニターの前のアカリの声は、遊良には届かない―

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

「だが何枚ドローしようと無駄だぜ!勝利の女神は、最後には俺にKissをするんだからなぁ!手札から【煌々たる逆転の女神】の効果発動!」

 

 

 

―!

 

 

 

獣の王の進撃の刹那―

 

轟く咆哮を引き裂いて姿を現したのは、後光を纏う美しき女神、逆転を司る勝利の女神であった。

 

…そう。マグナムが破壊された時の効果を使わなかったその理由。リョウが常々言っている、彼を愛してくれる『勝利の女神』こそがこの【煌々たる逆転の女神】なのだ。

 

どんな時も、どんなピンチも、どんな窮地だって彼は彼だけのこの女神と共に、その全てに打ち勝ってきた。

 

最後の最後…激しい攻防の末にこの情況まで辿り着いた、相当たる強者であったとしても最後のこの女神の波動には叶わない。

 

それは正真正銘の逆転の女神。相手の希望を慈悲なく砕く、リョウを愛する天女の微笑みであって。

 

 

 

 

 

それでもー

 

 

 

 

 

 

「場に何も無く、俺の手札が女神だけの時!俺は女神をコストに…お前の場のカードを全て破壊するぜ!そぉら、これで終わ…」

「だったらそれを超えればいい!女神の効果にチェーンして速攻魔法、【禁じられた聖衣】発動!」

「What!?」

 

 

 

 

 

女神の波動が襲いくる、まさに寸前のその刹那。

 

遊良が宣言をしたその瞬間に、遊良の場から禁忌の衣が解き放たれた。

 

…そしてぶつかる勝利の女神の波動と、神の力を宿した禁忌の衣。

 

それは文字通り、鎬を削った正面衝突。少年達の意思がぶつかった、諦めの悪い者同士の意地の張り合いにも見える光景とも言え…

 

 

 

「これでバルバロスは効果で破壊されない!いけ、バルバロス!女神の波動を…切り裂けぇ!」

 

 

 

―!

 

 

 

そのまま…女神の波動を螺旋の槍で、衝撃波と拮抗している禁忌の衣ごと貫き始める獣の王。

 

そして二つに割れた衝撃の余波が、遊良の場へと襲い掛かり。遊良の場にある【冥界の宝札】2枚と、【チキンレース】を粉々に砕き去ってしまったではないか。

 

 

 

「クッ、バルバロスが破壊できねぇか…だが、それ以外のカードは全て破壊するZE!その後、女神の効果で俺はデッキからモンスターを1体特殊召喚する!再びCome on、俺のマグナム!【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】!」

 

 

 

【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】レベル8

ATK/2800 DEF/2200

 

 

 

果たして…痛み分けのような状態で一つの攻防が終わり、一瞬で情況が二転も三転もしているこのデュエルに、着いて来ている者はどれだけ居るのか。

 

…遊良もリョウも、お互いにプロのトップランカーが身を置いている段階…『先』の地平に至った者同士。

 

そんな、世界レベルで見ても強者と言えるような少年達による、この永遠に終わらぬのではないかと思える程の拮抗が今こうして天空闘技場で繰り広げられているその光景は果たしてどれだけ幻想的に映し出されているのだろう。

 

遊良のバルバロスが効果で破壊できない耐性を備えようとも…同時に生じた神の呪いの所為で、その攻撃力は2400となってしまっているこの情況。リョウが呼び出した銃竜の方が、現状では攻撃力は高くとも…

 

 

 

「HAHAHAHAHA!攻撃力はコッチが上だZE!」

「構うもんか!バトル続行!バルバロスで【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】に攻撃ぃ!」

「What!?自爆するつもりかBoy!?」

「自爆なんてしない!ダメージ計算時に速攻魔法、【禁じられた聖典】発動!攻守を元々の数値に戻す!」

「ッ!?」

「いっけぇぇええ!天柱の崩壊、ディナイアー…ブレイカァァァア!」

 

 

 

―!

 

 

 

「クッ…」

 

 

 

リョウ・サエグサ LP:1900→1700

 

 

 

「ッ…YA-HA―!楽しませてくれるじゃねーか!だがこれでお前のバトルは終わ…」

「まだ俺のバトルフェイズは終わっていない!このバトルフェイズに速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動ぉ!」

「ッ、まだ終わらねぇのか!?」

 

 

 

それでも終わらぬ遊良の進撃。

 

拮抗している情況を、無理矢理打破せんと叫ぶは接戦でこそ真価を発揮する魔法の名。

 

 

…確かに『運』だけでの勝負…これがギャンブルであったならば、『ギャンブラー』のリョウ・サエグサに軍配が上がるだろう。

 

 

―けれども、これはデュエル…

 

 

否、『決闘』―

 

 

単なる『運』だけで勝負を行っているわけでは断じてない。リョウが『運』で勝ちへと向かうのならば、遊良だって己の持つ最大の武器で勝負するのが決闘の真理。

 

決闘学園デュエリア校の、デュエルランキング第1位の…『ギャンブラー』にも負けない、遊良の武器。

 

強運を超えた豪運を持った、天運とも思えるリョウの『運』に対抗できる…遊良の、遊良だけの、遊良にしか出来ない拮抗できる武器。

 

それはドローに重ねたドローとドロー…更にドローとドローに連なるドローでドローすることによって生み出される、終わらぬドローによる圧倒的物量、意地でも押し通る進撃の形。

 

あの時の一瞬の攻防で、リョウの『1枚』のドローに対し…遊良のドローは、実に『8枚』。

 

そう、リョウ・サエグサの『運』も大概ならば、遊良の『ドロー』だって大概なのだ。

 

きっと、いつもの【サクリボー】と【冥界の宝札】によるドローの枚数では…リョウの【煌々たる逆転の女神】を超え、そしてその『先』へと到達できる多数のカードを、遊良が全て欠ける事なく揃えることは決して出来なかった事だろう。

 

【禁じられた聖衣】、【禁じられた聖典】、【ライバル・アライバル】…

 

それらは正真正銘、遊良が怒涛の如きのドローで引いた、デッキから無理矢理に手札に引き入れた逆転へのカード達。

 

確かにこのギリギリの情況で、たった一枚のドローで逆転に繋がる【煌々たる逆転の女神】を手札に引き入れたリョウの『運』は確かに恐ろしい代物。

 

けれども、遊良とて僅かな可能性、希望、確率であっても、ソレを『幾重』にも重ねた事によって無理矢理に運命を捻じ曲げ、破り…

 

 

 

「バルバロス1体をリリース!もう一度来い、レベル10!【The tyrant NEPTUNE】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【The tyrant NEPTUNE】レベル10

ATK/ 0→3000 DEF/ 0→1200

 

 

 

 

そうしてリョウの1枚の『質』に、遊良は『量』で挑んだ。

 

…それはこの世界の運命とも呼べる、定められた『理』にどれだけ反した行為なのだろうか。

 

 

―再び宙より飛来せしは、海嶺断ち切る『海の星』。

 

 

唸りを上げる外なる星のその姿は、無理矢理にでも未来を掴まんと足掻き続けた、あまりの必死さに塗れた小さき者の悪あがきにも見える行為。

 

まるで、遊良の人生の軌跡そのモノ。そう、どれだけ無駄だと言われても、どれだけ必死と笑われても、どれだけ見苦しいと言われ続けても…

 

それでも生きる事を、戦う事を…デュエルを、決して諦めなかった遊良が掴んだ自らが生き残る僅かな希望が形となったモノ。

 

 

…例え、必死な足掻きであろうとも。

 

 

ソレを貫き通した遊良の行為は、ここへきて決して無駄にはならず。紛れも無く幼少の頃より磨き上げた、『ドロー』の嵐による止まらぬ進撃は、世界に通用するモノへとまさに成長を遂げたのか。

 

 

 

 

 

 

 

「Oh、ここまでか…」

「トドメだ!【The tyrant NEPTUNE】でダイレクトアタック!」

 

 

 

 

天高く唸る、燦然なりし『海の星』。

 

その手に握られし巨刃なる鎌が、外なる宙をも切り裂く時…

 

それは決して防げぬ海鳴りとなりて、世界中へと轟き渡るのか。

 

 

今…

 

 

かつて世界から見放された1人の少年の叫びが、その存在を見せ付けるかの様に全世界へと向けて…

 

 

 

 

 

 

 

ここに、響く―

 

 

 

 

 

 

「断海の凶刃…オーラ…トリトォォォォォン!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「グッ…グアァァァァァァァア!」

 

 

 

 

 

暴君なりし破滅の鎌より、放たれるは絶対零度の斬撃の波動。

 

それは太陽に愛された『天運』の男を、一刃の元に切り捨てる。

 

そして荒々しく切り捨てられた、リョウのLPが0を刻んだと同時に。巨大なる爆発のエフェクトが、天空闘技場から天に立ち上り…

 

 

 

 

 

リョウ・サエグサ LP:1700→0(-1300)

 

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

 

それに応じて、無機質な機械音が全世界へと響き渡ったのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

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